JP2008163136A - ポリ乳酸複合物およびポリ乳酸複合物の製造方法 - Google Patents

ポリ乳酸複合物およびポリ乳酸複合物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ガラス転移温度である60℃以上で著しく低下する形状保持性と強度を向上させ、かつ、工業生産的にも優れたポリ乳酸複合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも結晶性ポリ乳酸と、該結晶性のポリ乳酸の融点未満の温度で軟化あるいは溶融して加熱成形が可能である熱可塑性樹脂と、前記結晶性ポリ乳酸の融点以上の温度で加熱混練する工程と、前記工程で得られた混練物を結晶化させる工程と、ポリ乳酸を結晶化させた混練物を結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で成形する工程と、前記工程で得られた成形物を架橋する工程とを含む製造方法により、結晶状態のポリ乳酸(A)と、非結晶状態のポリ乳酸の架橋物(B)あるいは/及び前記結晶状態のポリ乳酸(A)の融点未満で成形可能な樹脂(C)を含み、前記結晶状態のポリ乳酸(A)以外のポリ乳酸が架橋されていることを特徴とするポリ乳酸複合物を製造している。
【選択図】図1

Description

本発明は、ポリ乳酸複合物およびポリ乳酸複合物の製造方法に関し、詳しくは、フィルム、容器または筐体などの構造体や部品などのプラスチック製品が利用される分野において、特に、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃付近の高温環境下においても耐熱性を備えたポリ乳酸複合物からなる製品または部品として利用されるものである。
現在、多くのフィルムや容器に利用されている石油合成高分子材料は、加熱廃棄処理に伴う熱および排気ガスによる地球温暖化、さらに燃焼ガスおよび燃焼後の残留物中の毒性物質による食物や健康への悪影響、廃棄埋設処理地の確保など、その廃棄処理過程についてだけでも様々な社会問題が懸念されている。
このような石油合成高分子材料の廃棄処理の問題点を解決する材料として、デンプンや脂肪族ポリエステルに代表される生分解性高分子材料が注目されてきている。生分解性高分子材料は石油合成高分子材料に比べて、燃焼に伴う熱量が少なく、かつ自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれる等、生態系を含む地球環境に悪影響を与えない。生分解性高分子材料のなかでも、脂肪族ポリエステル系樹脂は強度や加工性の点で石油合成高分子材料に匹敵する特性を有し、石油合成高分子材料の代替材料として、近年特に注目を浴びている素材である。脂肪族ポリエステル系樹脂のなかでも、特にポリ乳酸は植物から供給されるデンプンから作られ、近年の大量生産によるコストダウンで他の生分解性高分子材料に比べて非常に安価になりつつある点から、現在その応用について多くの検討がなされている。
しかし、ポリ乳酸は、ガラス転移温度である60℃付近以上で成形された形状を維持できなくなる程、軟弱になるという著しい特性の変化を示し、極端に強度が低下するという欠点を有する。
60℃という温度は自然界における気温や水温としては容易に達しない温度ではあるが、例えば、真夏の締め切った自動車の車内や窓材などでは容易に達しうる温度であるため、このような著しい特性変化は、ポリ乳酸の致命的な欠点となり、実用化を最も妨げる要因となっている。
このような60℃付近でのポリ乳酸の著しい特性変化は、ポリ乳酸の結晶構造に由来している。ポリ乳酸は結晶化の速度が極端に遅い。そのため、他の結晶性樹脂の場合ならば溶融成形後の冷却時に容易に起こる結晶化が、通常の工業的生産における溶融成形後の冷却スピードではほとんど起こらず、大部分が非結晶状態となる。そのため、ポリ乳酸は融点が160℃と高く、結晶部分は容易には融けないにもかかわらず、大部分を占める非結晶部分がガラス転移温度の60℃付近で拘束が解けて動き始めるため、60℃付近で極端な強度変化を生じる。すなわち、ガラス転移温度付近での強度低下の原因は、大部分を占める非結晶部分である。
前述したような60℃付近におけるポリ乳酸の極端な強度変化を抑制する方法として、次のような方法が提案されている。
例えば、特開2003−313214号公報(特許文献1)では、ポリ乳酸のような生分解性材料と低濃度のアリル基を有するモノマーとを混練し、放射線などを利用して生分解性材料を架橋する方法を提案している。
また、その他の技術として、ポリ乳酸の非結晶部分を、ガラス転移温度以上融点未満の温度で結晶化して強度を向上させる方法が考えられる。例えば、ポリ乳酸の加熱成形後に金型内でゆっくり冷却することでポリ乳酸を結晶化させることは可能である。しかし、冷却時間を長く必要とするために成形物の金型滞在時間が長くなり、生産性が悪くなるという欠点がある。
そこで、例えば、非特許文献1では、ポリ乳酸に結晶核剤を混合することにより、結晶化を促進する方法が提案されている。
特開2003−313214号公報 月刊マテリアルステージ2006年11月号p.14−17
前記特許文献1のように架橋されたポリ乳酸は、ガラス転移温度の60℃以上において形状を維持することはできるが、大部分が非結晶状態であるため、ガラス転移温度自体は存在する。そのため、ガラス転移温度以上では柔軟になってしまい、ガラス転移温度未満における強度をそのまま維持できるわけではない。
本発明者が検討したところ、ポリ乳酸を架橋させるための架橋性モノマーの添加量や、該架橋性モノマーを活性化させるための放射線の照射量を増加させても、ガラス転移温度未満の強度を維持するには限界があった。具体的には、架橋性モノマーをポリ乳酸の数10%以上も添加すると混合状態を維持できずに架橋性モノマーの析出が起こってしまい、放射線照射量を増加していくと本来放射線崩壊型であるポリ乳酸が徐々に分解し、逆に強度が低下してしまうため、問題の解決を図ることはできなかった。
一方、前記非特許文献1のように、ポリ乳酸の結晶化を促進して耐熱性を向上させる方法は、ガラス転移温度以上での強度低下の原因である非結晶部分を無くすものであるため、確実に効果が得られる方法である。しかし、結晶核剤を用いることによって、いくら非結晶部分の結晶化を速めても、実際上ポリ乳酸の結晶化を完全に行うのは困難である。すなわち、結晶化が100%に近づけば近づくほど、残り数%の非結晶部分の結晶化は進み難くなる。
そのため、製造コストを重視して成形時間を短くし、早い目に金型から取り出せば、非結晶部分が残ってしまい結晶化が不完全となり、逆にほぼ100%結晶化させようとすると多大な成形時間を要し、製造コストがかかるというジレンマに陥る。
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、ガラス転移温度である60℃以上で著しく低下する形状保持性と強度を向上させ、かつ、工業生産的にも優れたポリ乳酸複合物及びその製造方法を提供することを課題としている。
具体的には、ガラス転移温度以上でも耐熱性を有すると共に強度的にも優れたポリ乳酸複合物及びその製造方法を提供することを課題としている。
さらに、前記ポリ乳酸複合物を製造するための中間生成物を提供することを課題としている。
前記課題を解決するため、本発明は、
結晶状態のポリ乳酸(A)と、
非結晶状態のポリ乳酸の架橋物(B)あるいは/及び前記結晶状態のポリ乳酸(A)の融点未満で成形可能な樹脂(C)を含み、
前記結晶状態のポリ乳酸(A)以外のポリ乳酸が架橋されていることを特徴とするポリ乳酸複合物を提供している。
本発明者は、前記問題を改善したポリ乳酸複合物について鋭意検討した結果、結晶状態のポリ乳酸(A)を存在させると共に、架橋されていない非結晶状態のポリ乳酸を含まないようにすることで、形状維持性と強度を兼ね備えることできることを知見した。
このように、結晶状態のポリ乳酸(A)を含むことにより、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃以上において、強度を維持することができる。また、架橋されていない非結晶状態のポリ乳酸を含まないことにより、ガラス転移温度以上で形状を維持することができる。
結晶状態のポリ乳酸(A)を存在させると共に、架橋されていない非結晶状態のポリ乳酸を含まない構成とするため、本発明のポリ乳酸複合物は、前記結晶状態のポリ乳酸(A)のほか、非結晶状態のポリ乳酸の架橋物(B)あるいは/及び前記結晶状態のポリ乳酸(A)の融点未満で成形可能な樹脂(C)を含み、前記結晶状態のポリ乳酸(A)以外のポリ乳酸が架橋されているとしている。
具体的には、下記(1)〜(3)の場合がある。
(1)結晶状態のポリ乳酸(A)及び非結晶状態のポリ乳酸の架橋物(B)を含み、前記結晶状態のポリ乳酸(A)以外のポリ乳酸が架橋されている。
(2)結晶状態のポリ乳酸(A)、非結晶状態のポリ乳酸の架橋物(B)及び前記結晶状態のポリ乳酸(A)の融点未満で成形可能な樹脂(C)を含み、前記結晶状態のポリ乳酸(A)以外のポリ乳酸が架橋されている。
(3)結晶状態のポリ乳酸(A)及び前記結晶状態のポリ乳酸(A)の融点未満で成形可能な樹脂(C)を含み、ポリ乳酸は結晶状態でのみ存在する。
すなわち、前記(1)(2)のように、非結晶状態のポリ乳酸が存在する場合には、該非結晶状態のポリ乳酸は必ず架橋されて架橋物(B)となっていることが必要となる。
一方、前記(3)のように非結晶状態のポリ乳酸が存在しない場合、すなわち、ポリ乳酸が結晶状態でのみ存在する場合には、架橋は必ずしも必要ではない。この場合には、前記(B)を含まず、結晶状態のポリ乳酸(A)と前記ポリ乳酸の融点未満で成形可能な樹脂(C)のみを含むとしている。
なお、前記ポリ乳酸の融点未満で成形可能な樹脂(C)は架橋物とされていても、いなくてもよい。
前記(1)(2)のようにポリ乳酸の結晶状態と非結晶状態が共存し、該非結晶状態のポリ乳酸は架橋されている構造のポリ乳酸複合物が形成可能であるのは、結晶と非結晶とでは、架橋のしやすさに差異があることによる。すなわち、同じポリ乳酸分子であっても、結晶状態となっている部分は架橋が起こりにくく、架橋は専ら非結晶部分で起こる。例えば、ほとんど結晶化していない非結晶状態のポリ乳酸を架橋させた場合には、略100%の架橋を達成することができるが、50%結晶化したポリ乳酸を架橋させた場合には、非結晶部分である残りの50%が架橋できるに留まる。
これは、ポリ乳酸の架橋が、異なる分子鎖のポリ乳酸分子を架橋性モノマーが橋渡しして結合させる様式で進行するのに対し、結晶状態のポリ乳酸は分子が規則正しく密に並んでいるため、分子間に架橋性モノマーの分子が入り込むスペースが殆ど存在しないことに起因する。そのため、結晶状態のポリ乳酸の架橋は、結晶の表面部分でしか架橋性モノマーにより架橋されず、架橋はもっぱら非結晶部分で起こる。
前記結晶状態のポリ乳酸(A)は、全樹脂成分中に10〜90質量%含むことが好ましい。さらに好ましくは、10〜50質量%である。
これは、結晶状態のポリ乳酸(A)が、全樹脂成分中に10質量%未満であると、結晶状態のポリ乳酸の含有率が低くなり、強度が不十分になるおそれがあり、90質量%を超えると、成形が困難となる、あるいは、結晶化に時間を要し、製造が困難となるため、好ましくないからである。
本発明のポリ乳酸としては、結晶状態が形成可能な結晶性ポリ乳酸が含まれることが必須となる。
前記結晶状態を形成可能なポリ乳酸としては、L体、D体、およびこれらの混合物でもよく、結晶状態となるものであれば、結晶としてはL体のみ、D体のみに限られない。L体とD体のステレオコンプレックスも好適に用いることができる。
前記結晶状態を形成する入手可能な市販の結晶性ポリ乳酸としては、例えば、三井化学(株)製「レイシアH−400(商品名)」(融点167℃)、さらに光学純度が高く175〜180℃という高い融点を持つ、トヨタ自動車(株)製「ユーズ(U'z)(商品名)」等を好適に用いることができる。
また、結晶性ポリ乳酸には、結晶核剤を含ませることができる。これにより、結晶化を促進させることができ、ポリ乳酸の結晶状態と非結晶状態を共存させることも可能である。
結晶核剤としては、一般的なタルク等を用いても良いし、日産化学工業(株)製フェニルホスホン酸亜鉛塩「PPA−Zn」等のポリ乳酸用の核剤などが利用できる。
さらに、予め核剤を最適配合させ、結晶化を促進させているポり乳酸であるユニチカ(株)製「テラマック(商品名)」などを好適に利用することができる。
また、前記結晶性ポリ乳酸と共に、非結晶性のポリ乳酸を用いることができる。前記非結晶性のポリ乳酸としては、融点に当たる軟化点が140℃である三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシアH−280(商品名)」を用いることができる。
しかし、前記非結晶状態のポリ乳酸には、結晶性ポリ乳酸のうち結晶化できずに残存して非結晶状態にあるものと、非結晶状態の非結晶性ポリ乳酸のいずれか、あるいは双方が含まれる。
本明細書において、前記ポリ乳酸の融点未満で成形可能な樹脂(C)は、樹脂としての特性上、ポリ乳酸の融点未満に融点あるいは軟化点を有し、ポリ乳酸の融点未満で成形可能であるものをいう。即ち、ポリ乳酸複合物とされたときには架橋構造が形成され、熱可塑性を有していなくても、熱可塑性樹脂に分類されているものであればよい。
前記ポリ乳酸の融点未満で成形可能な樹脂(C)を含有させる場合、全樹脂成分中に10〜90質量%含むことが好ましい。さらに好ましくは、50〜90質量%である。
これは、全樹脂成分中の前記樹脂(C)が10質量%未満であると、樹脂(C)を含有させる効果が十分に得られず、成形が困難となるおそれがあり、90質量%を超えると、結晶状態のポリ乳酸の含有率が低くなり、強度が不十分になるおそれがあるからである。
前記樹脂(C)は、生分解性脂肪族ポリエステルの架橋物を含むことが好ましい。
前記生分解性脂肪族ポリエステルとしては、ε−カプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペートなどに代表される脂肪族ポリエステル、あるいはこれらにテレフタル酸など芳香族を導入したポリブチレンアジペートテレフタレートなどに代表される脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルのコポリマー等が好適に使用できる。
前記生分解性脂肪族ポリエステルとしては、具体的には、以下の(a)〜(d)のような、市販の生分解性樹脂を単独あるいは2種以上混合して用いることが好ましい。
(a)生分解性脂肪族ポリエステルで融点が110〜120℃である昭和高分子(株)製ポリブテレンサクシネート(アジペート)「ビオノーレ#1000(商品名)」シリーズおよび「#3000(商品名)」シリーズ
(b)成分的には(b)に少量の乳酸成分を含む同じく生分解性脂肪族ポリエステルで融点が120℃近辺である三菱化学(株)製「GsPLa(商品名)」
(c)同じく融点120℃(60℃)の生分解性脂肪族ポリエステルであるダイセル化学(株)製ポリカプロラクトン「プラクセルH7(商品名)」
(d)融点が110℃付近の生分解性ポリエステルであるBASF(株)製ポリブチレンアジペートテレフタレート「エコフレックス(商品名)」
さらに、前記樹脂(C)として、石油由来樹脂を単独で、あるいは、前記生分解性樹脂と共に使用することができる。
石油由来樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の汎用の石油由来樹脂を単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
本発明の目的を考えると、生分解性、特に天然由来の熱可塑性樹脂を使用することが好ましいが、ポリ乳酸を石油由来樹脂の代替として樹脂成形品の一部にでも使用することで、石油由来樹脂の使用を少しでも減少させて二酸化炭素の排出量を制限するという観点からは、前記石油由来樹脂をポリ乳酸を配合してもよい。
さらに、前記樹脂(C)のほか、架橋構造を導入できる生分解性樹脂を添加してもよい。このような架橋構造を導入できる生分解性樹脂としては、例えば、セルロースやデンプン、キチン、キトサン、アルギン酸などの天然多糖類およびそれらをアセチル化、エステル化等した誘導体を含む多糖類が挙げられる。
前述したように非結晶状態のポリ乳酸が存在している場合には、架橋されて架橋物(B)とされていることが要件となる。該架橋は、予め架橋性モノマーが配合され、電離性放射線を照射して行われていることが好ましい。さらに、過酸化物等を配合することにより架橋性モノマーを活性化することにより、架橋されていてもよい。なお。本明細書における「架橋」は分子同士の分子橋架けを意味している。
前記架橋性モノマーとしては、電離性放射線の照射等により架橋可能なモノマーであれば特に制限を受けず、例えば、アクリル系もしくはメタクリル系の架橋性モノマーまたはアリル系架橋性モノマーが挙げられる。
アクリル系もしくはメタクリル系の架橋性モノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレ―ト、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
アリル系架橋性モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ビチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチツアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
前記架橋性モノマーは、全樹脂成分100質量部に対して0.5質量部以上15質量部以下の割合で配合されていることが好ましい。さらに、3質量部以上8重量部以下であることがより好ましい。これは、架橋性モノマーの配合量が0.5質量部未満であると、架橋性モノマーによるポリ乳酸複合物の架橋効果が十分に発揮されず、15質量部を超えると、ポリ乳酸複合物に架橋性ポリマー全量を均一に混合するのが困難になり、実質的に架橋効果に顕著な差が出なくなるからである。
さらに、本発明のポリ乳酸複合物には、本発明の目的に反しない限り、前記ポリ乳酸、前記ポリ乳酸の融点未満で加熱成形が可能な樹脂、架橋性モノマー及び結晶核剤以外に、他の成分を配合してもよい。
例えば、衝撃性や柔軟性の改善を目的とした可塑剤、硬化性オリゴマー、各種安定剤、難燃剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、防カビ剤もしくは粘性付与剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカ、クレイ、珪藻土もしくはシリカ等の金属塩や無機・有機充填材、染料もしくは顔料などの着色剤等を加えることもできる。
特に、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカ、クレイ、珪藻土もしくはシリカ等金属塩や無機・有機充填材のマイクロサイズ、ナノサイズの粒子を分散性よく配合することで、本発明に必要な結晶化を促進することが可能である。
また、本発明のポリ乳酸複合物は、示差走査熱量計における熱量解析において、下記(1)(3)の特性を示す一方、下記(2)の特性を示さないことが好ましい。
(1)ポリ乳酸のガラス転移温度に由来する50〜70℃付近における吸熱
(2)ポリ乳酸の再結晶化に由来する100℃付近における発熱
(3)ポリ乳酸の融点に由来する150〜180℃付近における吸熱
本発明のポリ乳酸複合物は、ポリ乳酸を主たる樹脂成分(通常、80質量%以上)とする場合には、示差走査熱量計による熱量解析において特徴的な吸発熱ピークを有する曲線を示す。
すなわち、結晶状態のポリ乳酸を含むため、150〜180℃付近にポリ乳酸の融点由来の吸熱(3)を示し、かつ、非結晶状態のポリ乳酸を含むため、50〜70℃付近にガラス転移温度由来の吸熱(1)を示す。
しかし、非結晶状態のポリ乳酸は架橋されており、分子が拘束されているために再結晶化しないので、100℃付近にポリ乳酸の再結晶化由来の発熱(2)はない。
このように、本発明のポリ乳酸複合物は示差走査熱量計における熱量解析において、上記(1)(3)を示すが、(2)は示さないという極めて特徴的な熱量曲線を示す。
本発明のポリ乳酸複合物は、結晶状態のポリ乳酸(A)を含むので、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃以上において強度を維持することができ、かつ、非架橋の非結晶状態のポリ乳酸を含まず、非結晶状態のポリ乳酸が含まれる場合には架橋されているので、形状を維持することができる。そのため、従来のポリ乳酸製品よりも大幅に強度を改善することができる。
また、従来、前述のような生分解性樹脂や石油由来樹脂をポリ乳酸に混合して使用すると、非結晶状態のポリ乳酸が存在しているためにガラス転移温度以上の温度になると弾性率が10の三乗近い劇的な変化を起こす上に、加水分解を非常に受けやすくなり、ポリ乳酸が製品全体の耐熱性、特に加水分解性などの耐久性を低下させる場合があった。
しかし、本発明のポリ乳酸複合物では、結晶状態のポリ乳酸(A)を含み、かつ、非架橋の非結晶状態のポリ乳酸は含まないので、融点である160〜180℃まで熱的変化を殆ど無くすことができ、加水分解を受けにくくすることができるという利点もある。
また、本発明のポリ乳酸複合物を架橋構造とした場合には、薬剤や薬品などの有用物質を生分解性樹脂に含浸させることが可能である。そのため、ポリ乳酸複合物が分解するにつれて含浸されていた有用物質が除々に放出されることとなる。このように本発明のポリ乳酸複合物は広範囲の分野や技術に利用することができる。
前述した本発明のポリ乳酸複合物の製造方法について、本発明者が鋭意検討した結果、次の(イ)(ロ)の手法が、工業生産的に有効な手法であることを見出した。
(イ)結晶性ポリ乳酸と、該結晶性ポリ乳酸の融点未満で成形可能な熱可塑性樹脂を組合わせて用い、予め結晶性ポリ乳酸を結晶化させて結晶状態とし、該結晶状態を保存しながら成形する。その後、非結晶状態のポリ乳酸が存在する場合には、該非結晶部分を架橋する。
(ロ)ポリ乳酸を短時間で不完全な結晶状態で成形したのちに、結晶化できなかった非結晶部分を架橋させる。
前記(イ)の手法を用いるものとして、
本発明は、少なくとも結晶性ポリ乳酸と、該結晶性のポリ乳酸の融点未満の温度で軟化あるいは溶融して加熱成形が可能である熱可塑性樹脂とを、前記結晶性ポリ乳酸の融点以上の温度で加熱混練する工程と、
前記工程で得られた混練物を、常温まで冷却する過程であるいは再度加熱して前記結晶性ポリ乳酸を部分的あるいは全体に結晶化させる工程と、
前記工程で得られた結晶性ポリ乳酸を結晶化させた混練物を、結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で所要形状に成形する工程と、
前記工程で得られた成形物を架橋する工程と、
を含むことを特徴とするポリ乳酸複合物の製造方法を提供している。
さらに、前記(イ)の手法を用いる、もう一つの発明として、
少なくとも結晶性ポリ乳酸と、該結晶性のポリ乳酸の融点未満の温度で軟化あるいは溶融して加熱成形が可能である熱可塑性樹脂とを、前記結晶性ポリ乳酸の融点以上の温度で加熱混練する工程と、
前記工程で得られた混練物を、常温まで冷却する過程であるいは再度加熱して前記結晶性ポリ乳酸を全体に結晶化させる工程と、
前記工程で得られた結晶性ポリ乳酸を結晶化させた混練物を、結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で所要形状に成形する工程と、
を含むことを特徴とするポリ乳酸複合物の製造方法を提供している。
具体的には、前記(イ)の手法を用いた前記製造方法は、結晶性ポリ乳酸と、他の熱可塑性樹脂とを加熱混合して混練物とした後、成形前にポリ乳酸成分の一部あるいは全部を結晶化させておくものである。結晶化後の成形は、結晶性ポリ乳酸の融点未満で行い、ポリ乳酸の結晶が溶けて非結晶状態に戻らないようにしている。
そのため、前記熱可塑性樹脂は、結晶性ポリ乳酸の融点未満に融点あるいは軟化点を有するものを用いており、結晶性ポリ乳酸を結晶化させた後で、ポリ乳酸の結晶状態を保存しながら、成形加工を行うことを可能としている。
前記結晶性ポリ乳酸としては、結晶性のポリ乳酸を用いることができ、例えば、入手可能な市販品では三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシアH−400(商品名)」(融点167℃)、トヨタ自動車(株)製「ユーズ(U’z)(商品名)」等を用いることができる。
本製造方法を用いる場合、融点が210〜230℃と高いL体とD体のステレオコンプレックスを用いると、結晶性ポリ乳酸の融点と、他の熱可塑性樹脂の融点や軟化点との温度差を広くすることができるので、結晶性ポリ乳酸の結晶が融解して非結晶状態となることを防ぐことができ、好ましい。また、他の熱可塑性樹脂としても、160℃より融点の高いものを使用することができるので、より本発明に合致している。
前記(イ)の製造方法の場合、結晶性ポリ乳酸は、全樹脂成分中に、10〜50質量%配合されることが好ましい。より好ましくは10〜30質量%である。
これは、10質量%未満であると結晶性ポリ乳酸を配合することによる強度の向上効果が得られず、50質量%を超えると結晶性ポリ乳酸以下の温度での成形が困難となるからである。
前記結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で軟化あるいは溶融して加熱成形が可能である熱可塑性樹脂としては、結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で軟化あるいは溶融して加熱成形が可能であれば生分解性樹脂、石油由来樹脂であってもよい。特に、本発明の目的からも生分解性樹脂が好適に用いられ、さらに、前述した非結晶性ポリ乳酸、前記(a)〜(d)の生分解性脂肪族ポリエステルを用いることが好ましい。
本構成とすれば、生分解性樹脂を主たる樹脂成分としたポリ乳酸複合物を製造することができる。
その他、前述した石油由来の熱可塑性樹脂も用いることができる。
前記結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で軟化あるいは溶融して加熱成形が可能である熱可塑性樹脂は、全樹脂成分中に50〜90質量%配合されることが好ましく、70〜90質量%配合されることがさらに好ましい。これは、50質量%未満であると結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度での成形が困難となるからであり、90質量%を超えると結晶性ポリ乳酸を配合することによる強度の向上が得られにくくなるからである。
前記(イ)の手法による結晶性ポリ乳酸の結晶化は、例えば、成形用ペレットの状態となった混練物が軟化・溶融して接着してしまわない温度以下、例えば、90〜150℃の温度で30分以上恒温槽内に滞在させること等により行うことができる。さらに、100〜120℃に加熱して30分〜1時間保持することにより行うことが好ましい。
通常、成形用ペレットの状態となった混練物は、成形前に乾燥等を行うので、その際に同時に加熱して結晶化を行えば、新たな製造工程を追加することないので、製造コストが上がることもない。
その後、ペレット形状となった混練物を所望の形状に成形する。前記結晶化の工程でポリ乳酸を完全に結晶化させており、かつ、成形後に非結晶状態のポリ乳酸を含まない場合には、成形後に後述する架橋工程を行わなくても、前記成形工程後の成形物を本発明のポリ乳酸複合物とすることができる。
前記成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いて行えば良い。例えば、押出成形機、圧縮成形機、真空成形機、ブロー成形機、Tダイ型成形機、射出成形機、インフレーション成形機等の公知成形機が用いられる。
前記(イ)の製造方法によれば、成形前に予めポリ乳酸は結晶化されているため、成形後の結晶化は全く不要である。
次に、前記工程で得られた成形物中に非結晶状態のポリ乳酸が存在する場合は、該非結晶状態のポリ乳酸を架橋する。前記非結晶状態のポリ乳酸と共にその他の架橋可能な樹脂成分を含む場合は、該樹脂成分も同時に架橋されることが好ましい。さらに、ポリ乳酸が結晶状態でのみ存在する場合であって、その他の架橋可能な樹脂成分を含む場合に、該樹脂成分に架橋を施してもよい。
このように架橋を行なう場合、予め混練物に架橋性モノマーを配合しておき、該架橋性モノマーを活性化させて架橋させることにより、本発明のポリ乳酸複合物を得ることができる。該架橋により、結晶化が不完全で結晶化できなかった非結晶部分にも形状維持性を付与し、耐熱性が付与される。また、非結晶状態のポリ乳酸以外の架橋可能な樹脂成分にも架橋構造を形成することができる。
架橋性モノマーとしては、前記列挙したものを使用することができる。
前記成形物の架橋は電離性放射線を照射して行っていることが好ましい。
電離性放射線としてはγ線、エックス線、β線またはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルトー60によるγ線照射や、電子線加速器による電子線照射が好ましい。
電離性放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。電離性放射線の照射によって生成した活性種は空気宙の酸素と結合して失活すると架橋効果が低下するためである。
電離性放射線の照射量は50kGy以上200kGy以下であることが好ましい。
架橋性モノマー量によっては電離性放射線の照射量が1kGy以上10kGy以下であってもポリ乳酸あるいは生分解性樹脂の架橋は認められるが、非結晶状態のポリ乳酸のほぼ100%、あるいは生分解性樹脂の分子を架橋するには電離性放射線の照射量が50kGy以上であることが好ましい。
一方、電離性放射線の照射量が200kGy以下であるのは、ポリ乳酸が樹脂単独では放射線で崩壊する性質を有するため、電離性放射線の照射量が200kGyを超えると架橋とは逆に分解を進行させることになるからである。電離性放射線の照射量の上限値は150kGyであることが好ましく、100kGyであることがより好ましい。
また、本発明においては、ポリ乳酸に架橋性モノマーとともに化学開始剤を予め混合しておき、所望の形状に成形する際に、あるいは成形後に成形体を化学開始剤が熱分解する温度まで加熱することによっても、ポリ乳酸を架橋させることができる。ただし、この場合の加熱は結晶性ポリ乳酸の融点未満で行う。
架橋性モノマーとしては、前記態様と同じ物質を用いることができ、化学開始剤としては、熱分解により過酸化ラジカルを生成する過酸化ジクミル、過酸化プロピオニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジアシル、過酸化ペラルゴニル、過酸化ミリストイル、過安息香酸−t−ブチルもしくは2,2‘−アゾビスイソブチロニトリルなどの過酸化物触媒をはじめとするモノマーの重合を開始する触媒であればいずれでもよい。
架橋させるための温度条件は化学開始剤の種類により適宜選択することができる。架橋は、放射線照射の場合と同様、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。
また、前記(ロ)の手法を用いるものとして、
本発明は、少なくとも結晶性ポリ乳酸と、架橋性モノマーとを前記結晶性ポリ乳酸の融点以上で加熱混練する工程と、
前記工程で得られた混練物を所望の形状に成形する工程と、
前記工程で得られた成形物を常温まで冷却する過程で、あるいは再度加熱することにより結晶性ポリ乳酸を部分的に結晶化させる工程と、
前記工程で得られた成形物を架橋させる工程とを含むことを特徴とするポリ乳酸複合物の製造方法を提供している。
前述したように、通常のプラスチックの溶融成形工程では溶融状態から室温近傍に急冷して形状を固定するが、ポリ乳酸は急冷の際にほとんど結晶化が起こらず、一般的な融点である160℃以下、通常150℃から100℃の温度内で結晶化が起こる。よって、成形時に形状が安定して金型から外せるまで金型内に滞在させて冷却時間を長くすることで結晶成長を促す方法を一般的に採用されている。
即ち、一般的なプラスチック製品の製造においては成形後の金型内滞在時間が通常数秒から数10秒、一般的には30秒以内であるが、ポリ乳酸を結晶化させる場合は、結晶核剤等で結晶化促進を行っていないポリ乳酸の場合は10分以上、結晶核剤を加えて結晶化促進を行った場合でも1分から数分間金型内に滞在させて結晶化を促進し、耐熱性等の効果を生じるようにしている。このように、金型内での滞留時間を極めて長い時間とする必要があるため、生産性の低下、コスト高騰を招く要因となる。
このように、ポリ乳酸を全て結晶化させるには金型内での滞留時間を長くする必要があるため、本発明の(ロ)の製造方法では、冷却により一部のポリ乳酸は結晶化しているが、結晶出来なかった不完全な結晶状態(即ち、非結晶状態のポリ乳酸)が残存しても良い結晶化状態とすることで、冷却時間の短縮化を図り、結晶できなかった非結晶状態のポリ乳酸を、次工程で架橋させて耐熱性を付与している。
即ち、前記成形後の冷却時間は、結晶状態のポリ乳酸と非結晶状態のポリ乳酸が共存する短時間としている。
このように、成形後の冷却において、ポリ乳酸の一部を結晶性ポリ乳酸とすると共に非結晶のポリ乳酸を残しているため、結晶化促進の有無や方法にもよるが、殆ど全てのポリ乳酸を結晶化させるに必要な最低限の時間の半分程度の冷却時間で十分である。具体的には20〜40秒程度となり、通常のプラスチック製造時の急冷に近い条件に相当し、成形後における金型滞留時間を長くすることによる生産性の低下やコスト高を解消することができる。
前記結晶化が不完全で結晶化できなかった非結晶部分は、次工程で、前記(イ)の方法と同様な架橋により、耐熱性を付与するため、ポリ乳酸がより完全に結晶化するまで金型に成形品をとどめておく必要がない。そのため、通常のプラスチックの製造と同様に製造が可能であり、従来のように、コストを重視して短時間で成形を行う場合には結晶化が不十分となり、性能を重視して、ほぼ完全にポリ乳酸を結晶化させようとすると成形時間が長くなるといったジレンマが生じることがない。よって、本発明のポリ乳酸複合物の製造方法は、工業生産的にも優れている。
特に、前記(ロ)の製造方法に用いる結晶性ポリ乳酸として、結晶核剤を配合することにより結晶性ポリ乳酸の結晶化を比較的短時間で促進することができる。
結晶核剤としては、一般的なタルク等を用いても良いし、フェニルホスホン酸亜鉛塩(例えば、日産化学工業(株)製「PPA−Zn(商品名)」)等のポリ乳酸用の核剤などが利用できる。また、より簡便には、予め核剤を最適配合させているユニチカ(株)製「テラマック(商品名)」などを好適に利用することができる。
なお、前記(ロ)の製造方法により得られたポリ乳酸複合物は、全樹脂成分中に結晶状態のポリ乳酸(A)が10〜90質量%含まれることが好ましい。さらに好ましくは、10〜70質量%である。これは、10質量%未満では、結晶状態のポリ乳酸を含ませるための強度の向上効果が得られにくく、90質量%を超えると、結晶化時間が1分を超え、コスト高となるからである。
前記した本発明の(イ)または(ロ)の製造方法で、前記した構成からなるポリ乳酸複合物を製造することが好ましいが、前記ポリ乳酸複合物の製造方法は(イ)(ロ)の製造方法に限定されない。
本発明は、さらに、前記製造方法の工程中で得られた、結晶状態の結晶性ポリ乳酸と、該結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で溶融成形可能な熱可塑性樹脂とを含むことを特徴とするポリ乳酸複合物の中間生成物を提供している。
具体的には、結晶性ポリ乳酸が結晶化された混練物をペレットとした物、該ペレットを金型で所要形状に成形した未架橋状態の物等からなる。
特に、成形用ペレットに成形した中間生成物は、各種成形加工により所望の形状に成形することができる成形材料として有用であり、成形後あるいは成形時に、後述の方法により架橋構造を形成することにより、本発明のポリ乳酸複合物を得ることができる。
なお、結晶性ポリ乳酸が完全に結晶化され、かつ、結晶状態以外のポリ乳酸が存在しない場合には必ずしも架橋を要しないため、結晶状態のポリ乳酸の融点未満の温度で成形するだけで成形品を得ることのできる中間生成物とすることができる。
本発明のポリ乳酸複合物は、結晶状態のポリ乳酸(A)と、非結晶状態のポリ乳酸の架橋物(B)あるいは/及び前記結晶状態のポリ乳酸(A)の融点未満で成形可能な樹脂(C)を含み、前記結晶状態のポリ乳酸(A)以外のポリ乳酸が架橋されているので、ガラス転移温度である60℃以上における耐熱性(形状保持性及び強度)を大幅に改善することができる。そのため、本発明のポリ乳酸複合物は、従来、石油系プラスチックが用いられている様々な用途を代替する材料として極めて有用である。
さらに、本発明のポリ乳酸複合物は、結晶状態のポリ乳酸を含むと共に、架橋されていない非結晶状態のポリ乳酸は含まないので、融点である160℃まで熱的変化をはほとんど生じさせることなく、加水分解を受けにくくすることができる。そのため、他の生分解性樹脂や石油系樹脂と併用した場合においても、耐久性の低下を抑制することができる。
本発明のポリ乳酸複合物は生分解性を有していることから、自然界において生態系に及ぼす影響が極めて少なく、従来のプラスチックが有していた廃棄処理に関わる諸問題を解決できる。また、生体への影響がない点から、生体内外に利用される注射器やカテーテルなどの医療用器具への適用することができる。本発明による成形性の向上は、ポリ乳酸を用いた成形材料の応用をさらに高め、実用化において有用である。
また、本発明のポリ乳酸複合物の製造方法によれば、金型内に成形体を長時間滞在させる必要がなく、前記結晶状態のポリ乳酸を含む複合物を製造できるため、生産性を高めて、コストを低下させることができ、工業生産的に優れている。
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
まず、第一実施形態のポリ乳酸複合物の製造方法について、図1を参照し、各工程におけるポリ乳酸の状態について言及しながら説明する。
第一実施形態では、融点が160〜180℃の結晶性ポリ乳酸と共に、非結晶性ポリ乳酸を用いている。
まず、非結晶状態の前記結晶性ポリ乳酸10〜50質量部と、非結晶性ポリ乳酸50〜90質量部とを配合し、結晶性ポリ乳酸の融点以上の180〜200℃で加熱混合してポリ乳酸混合物を作製している。
さらに、前記ポリ乳酸混合物を加熱混合する際に、アリル系架橋性モノマーであるトリアリルイソシアヌレートをポリ乳酸混合物100質量部に対して5質量部添加して混練している。
前記混練されたものを棒状に押し出した後、水冷し、ペレタイザーにてペレット化し、ペレット状の混練物10を得ている。
該ペレット状の混練物10は、図1(A)に示すように、非結晶状態の結晶状ポリ乳酸1と、非結晶性ポリ乳酸2と、架橋性モノマー(図示せず)が存在している状態である。
次に、前記ペレット状混練物10を100〜120℃の温度で、30分〜1時間加熱処理を施して、非結晶状態の結晶性ポリ乳酸1の結晶化処理を行い、図1(B)に示すように、結晶状態のポリ乳酸3としている。その際、非結晶性ポリ乳酸2は結晶化していないので、結晶状態のポリ乳酸3と、非結晶状態のポリ乳酸2及び架橋性モノマー(図示せず)が共存している混練物11となる。
ここで、図1(B)における非結晶状態のポリ乳酸2には、結晶化されずに残った非結晶状態の結晶性ポリ乳酸1も含まれる。
次に、前記結晶性ポリ乳酸が結晶化された混練物11を、130〜150℃で加熱成形した後に冷却し、図1(C)に示すような、成形体12としている。
ここで、加熱成形の温度は結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度としているので、結晶状態のポリ乳酸3は、溶融せずに保存した状態のままで成形を行っている。
該成形体12は、図1(C)に示すように、結晶状態のポリ乳酸3と、非結晶状態のポリ乳酸2及び架橋性モノマーが共存している。
次に、前記成形体12に対して、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により電子線を50〜200kGy照射し、図1(D)に示すように、非結晶状態のポリ乳酸2を架橋して架橋物4とし、本実施形態のポリ乳酸複合物13を得ている。本実施形態の製造方法で得られたポリ乳酸複合物は、結晶状態のポリ乳酸3を全樹脂成分中に10〜50質量%含んでいる。
第一実施形態のポリ乳酸複合物は、結晶状態のポリ乳酸を含むことに加え、非結晶状態のポリ乳酸は架橋されており、架橋されていない非結晶状態のポリ乳酸が存在しないので、ガラス転移温度である60℃以上においても形状を保持でき、強度を有している。そのため、従来のポリ乳酸製品よりも、高温環境下で使用することができる。
次に、第一実施形態の第一変形例について説明する。
本変形例では、第一実施形態で用いている非結晶性ポリ乳酸に代えて、融点が110〜120℃の生分解性脂肪族ポリエステルを用いている。
該生分解性脂肪族ポリエステルとしては、ポリブテレンサクシネート(アジペート)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートテレフタレートを単独あるいは2種以上混合して用いている。これらも生分解性脂肪族ポリエステルも、放射線照射により一部あるいは全体が架橋され架橋物を形成している。
本構成としても、結晶状態のポリ乳酸を含むと共に、非結晶状態のポリ乳酸が存在する場合には架橋されているので、形態保持性、強度を改善した生分解性複合物を生分解性材料で形成することができる。さらに、前記列挙した生分解性脂肪族ポリエステルも少なくとも一部が架橋物とされているので、耐熱性を高めることができる。
他の構成及び効果は第一実施形態と同様であるため、説明を省略する。
次に、第一実施形態の第二変形例について説明する。
本変形例では、第一実施形態で用いている非結晶性ポリ乳酸に代えて、汎用の石油由来の熱可塑性樹脂である、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルのいずれかを用いている。これらの樹脂は、前記結晶性ポリ乳酸の融点である160℃よりも低い温度に融点あるいは軟化点を有するので、結晶状態のポリ乳酸を保存したまま、溶融成形が可能となる。
また、前記結晶性ポリ乳酸として、融点が210〜230℃と高いL体とD体のステレオコンプレックスを用いることにより、融点が160℃を超えるポリプロピレンのような汎用樹脂も使用可能である。
また、本構成とすれば、耐熱性を低下させることなく、石油由来の熱可塑性樹脂と置換してポリ乳酸を利用することができる。さらに、ポリ乳酸を結晶状態で存在させているので、従来のポリ乳酸を用いた石油由来樹脂との複合材料よりも加水分解を受けにくくすることができる。
他の構成及び効果は第一実施形態と同様であるため、説明を省略する。
次に、第二実施形態のポリ乳酸複合物の製造方法について説明する。
第二実施形態は、架橋性モノマーを配合せず、電子線照射による架橋工程を行なっていない点以外は、第一実施形態の第一変形例及び第二変形例と同様の製造方法としている。
さらに、本実施形態の製造方法においては、結晶化時間を30分以上として、結晶性ポリ乳酸を結晶化処理により完全に結晶化させており、非結晶状態のポリ乳酸は残存させていない。
本実施形態とすれば、架橋工程を行わなくても、生分解性樹脂や石油由来樹脂中にポリ乳酸の結晶が分散している構造を実現することができるので、極めて容易にポリ乳酸複合物を製造することができる。
他の構成及び効果は第一実施形態と同様であるため、説明を省略する。
次に、第三実施形態のポリ乳酸複合物の製造方法について、図2を参照し、各工程におけるポリ乳酸の状態について言及しながら説明する。
第三実施形態は、成形後に結晶化処理を施している点で、第一実施形態と大きく相違している。
第三実施形態では、結晶核剤を含むポリ乳酸を用いるか、あるいは、結晶性ポリ乳酸に結晶核剤を配合したものを樹脂成分として用い、該樹脂成分を180〜200℃で加熱混練しながら、アリル系架橋性モノマーであるトリアリルイソシアヌレートをポリ乳酸混合物100質量部に対して5質量部添加して混練している。
結晶核剤としては、フェニルホスホン酸亜鉛塩あるいはタルクを用いている。
前記混練されたものを棒状に押し出した後、水冷し、ペレタイザーにてペレット化し、ペレット状の混練物15を得ている。
ここで、第三実施形態の混練物15では、図2(A)に示すように、結晶核剤5と、非結晶状態の結晶性ポリ乳酸を含む配合物6と、架橋性モノマー(図示せず)が存在している。
次に、図2(B)に示すように、混練物15を、ポリ乳酸の融点以上の温度である180〜200℃で加熱成形して成形体16としている。ここでも、ポリ乳酸は非結晶状態で存在している。
次に、成形体16を、100〜120℃で20〜60秒間加熱処理を施すことにより、結晶化処理を行い、ポリ乳酸を部分的に結晶化させた成形体17としている。図2(C)に示すように、結晶核剤の周囲に結晶性ポリ乳酸の結晶7が成長し、ポリ乳酸は部分的に結晶化した状態となる。成形体の厚みや形状、熱風乾燥と金型内加熱等の加熱の方法などによっては、成形体の表面と内部で熱伝達に差が出来る場合や、結晶核剤の促進効果の差で結晶化の速度は全く異なるが、例えば、ポリ乳酸として「テラマックTE−4000(商品名)」を使用した0.5mm厚のシートを恒温槽内で加熱した例でいうと、100℃で30秒間の加熱処理で約40%、60秒間の加熱処理で約70%の結晶性ポリ乳酸が結晶化する。前記結晶性ポリ乳酸の結晶7以外のポリ乳酸8は、非結晶状態で存在している。
次に、前記成形体17に対して、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により電子線を50〜200kGy照射し、図2(D)に示すように、非結晶状態のポリ乳酸8を架橋させることにより、本実施形態のポリ乳酸複合物18を得ている。
本実施形態の製造方法によれば、成形体の金型滞在時間を極めて短くすることができるので、従来と同様の方法を用いているにもかかわらず、耐熱性を向上させたポリ乳酸複合物を製造することができる。
次に、図3を参照して、示差走査熱量計による熱量解析において、本発明のポリ乳酸複合物が示す特性を説明する。
樹脂成分としてポリ乳酸のみを用いている本発明の第一実施形態及び第三実施形態のポリ乳酸複合物について熱量解析を行うと、図3(D)のような熱量曲線となる。比較として、ほぼ完全に結晶化させた結晶状態のポリ乳酸の熱量曲線を(A)に、結晶化させていない非結晶状態のポリ乳酸の熱量曲線を(B)に、非結晶状態のポリ乳酸にほぼ100%の架橋を施したものの熱量曲線を(C)に示す。
なお、示差走査熱量計は島津製作所(株)製「DSC−50」を用い、試料量を約10mg、測定範囲30〜200℃、昇温速度10℃/分、雰囲気ガスを窒素として測定している。
図3(A)〜(D)において、50〜70℃付近の吸熱ピーク20はポリ乳酸のガラス転移温度に由来し、100℃付近の発熱ピーク21はポリ乳酸の結晶化に由来し、150〜180℃付近の吸熱ピーク22はポリ乳酸の融点に由来するものである。
詳細には、全てのピークを有する非結晶状態のポリ乳酸の熱量曲線(B)を用いて30℃付近から200℃まで昇温させた場合の変化について説明すると、60℃付近で非結晶状態のポリ乳酸分子は拘束が解かれて動けるようになり、熱を吸収してエネルギーの高い状態になる。このときの熱吸収する温度がガラス転移温度であり、吸熱ピーク20として現れる。
続けて昇温していくと、100℃付近で非結晶状態のポリ乳酸が結晶状態に転換(再結晶化)し、熱を放出して安定な状態になる。このときの熱放出する温度が再結晶化温度であり、発熱ピーク21として現れる。
さらに続けて昇温していくと、150〜180℃付近で結晶状態のポリ乳酸分子が熱を吸収して拘束が解かれて動けるようになり、活動的な状態になる。このときの熱吸収する温度が融点であり、熱吸収ピーク22として現れる。
このように、(B)に示される非結晶状態のポリ乳酸は、非結晶状態であるためガラス転移し、再結晶化を経て結晶状態となり、最後に融点で溶解するという挙動を示すため、全てのピークを持つ。
これに対し、図3(A)に示される結晶状態のポり乳酸は、ほぼ完全に結晶化されているため、ガラス転移温度由来の吸熱ピーク20と、再結晶化由来の発熱ピーク21を持たず、融点由来の吸熱ピーク22のみを有する。
また、(B)の非結晶状態のポり乳酸を架橋した(C)は、ガラス転移温度由来の吸熱ピーク20は示すが、分子が架橋により拘束されているために結晶への転換が起こらず、結晶化由来の発熱ピーク21を持たない。さらに、結晶化しないので、結晶が融解する融点由来の吸熱ピーク22も持たない。
本発明の第一実施形態及び第三実施形態のポリ乳酸複合物は、結晶状態のポリ乳酸を含み、かつ、非結晶状態のポリ乳酸は架橋されているので、(A)と(C)を重ね合わせたような、極めて特徴的な熱量曲線となる。即ち、ガラス転移温度由来の吸熱ピーク20と、融点由来の吸熱ピーク22は持つが、再結晶化由来の発熱ピーク21を持たない。
以下、本発明について実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれ
ら実施例のみ限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1は、前記第一実施形態に示す方法を用いており、原料として結晶性と非結晶性の2種類のポリ乳酸を使用し、成形前に結晶化処理を施したものとした。製造方法の詳細を以下に示す。
結晶性ポリ乳酸(三井化学(株)製「レイシアH−400(商品名)」)30質量部と非結晶性ポリ乳酸(三井化学(株)製「レイシアH−280(商品名)」)70質量部を配合して2種のポリ乳酸の混合物を作製し、該ポリ乳酸混合物を押出機(池貝鉄工(株)製PCM30型)を用いてシリンダ温度180℃で溶融押出する際に押出機のペレット供給部にアリル系架橋性モノマーの1種であるトリアリルイソシアヌレート(日本化成工業(株)製「TAIC(登録商標、商品名)」)をペリスタポンプにて定速滴下して、ポリ乳酸混合物にトリアリルイソシアヌレートを添加した。その際、トリアリルイソシアヌレートの配合量がポリ乳酸混合物100質量部に対して5質量部になるように添加量を調整した。
棒状に押し出したものを水冷ののちにペレタイザーにてペレット化し、2種類のポリ乳酸と架橋性モノマーのペレット状混練物を得た。
前記ペレット状混練物を100℃の恒温槽で1時間処理し、約3割含まれる結晶性ポリ乳酸を結晶化した。その後、ペレットを結晶性ポリ乳酸(三井化学(株)製「レイシアH−400(商品名)」)の公称融点167℃を下回る150℃で熱プレスしたのち急冷し、厚み500μmのシートを得た。
次に、前記シートに対し、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により電子線を90kGy照射したものを実施例1とした。
(比較例1、2)
結晶性ポリ乳酸(三井化学(株)製「レイシアH−400(商品名)」)の公称融点167℃を超える180℃で熱プレスし、結晶状態のポリ乳酸をいったん融解したのち急冷して厚み500μmのシートとしたこと以外は実施例1と同様にして比較例1とした。
また電子線照射を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして比較例2とした。
(実施例2、3)
実施例2、3は、前記第三実施形態に示す製造方法とし、結晶核剤を含むポリ乳酸を樹脂原料として使用し、成形後に結晶化処理を施したものとした。製造方法の詳細を以下に示す。
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製「テラマックTE−4000(商品名)」)を押出機(池貝鉄工(株)製PCM30型)を用いてシリンダ温度180℃で溶融押出する際に押出機のペレット供給部にアリル系架橋性モノマーの1種であるトリアリルイソシアヌレート(日本化成工業(株)製「TAIC(登録商標、商品名)」)をペリスタポンプにて定速滴下して、ポリ乳酸にトリアリルイソシアヌレートを添加した。その際、トリアリルイソシアヌレートの配合量は、ポリ乳酸(TE−4000)100質量部に対して5質量部になるように添加量を調整した。
棒状に押し出したものを水冷ののちにペレタイザーにてペレット化し、ポリ乳酸と架橋性モノマーのペレット状混練物を得た。
次に、ペレット状混練物を180℃で熱プレスしたのち急冷し、厚み500μmのシート状成形物を得た。次いで、該シート状成形物を100℃の恒温槽に30秒入れたのち、室温に戻すことにより結晶化処理を施した。その後、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により電子線を90kGy照射し、実施例2とした。
同様に、100℃の恒温槽に入れた時間(結晶化時間)を60秒としたものを実施例3とした。
(比較例3〜8)
ポリ乳酸(TE−4000)にトリアリルイソシアヌレートを配合しなかったこと以外は実施例2と同様にして比較例3とした。
電子線照射を行わなかったこと以外は実施例2と同様にして比較例4とした。
ポリ乳酸(TE−4000)にトリアリルイソシアヌレートを配合せず、電子線照射も行わなかったこと以外は実施例2と同様にして比較例5とした。
ポリ乳酸(TE−4000)にトリアリルイソシアヌレートを配合せず、電子線照射も行わなかったこと以外は実施例3と同様にして比較例6とした。
100℃の恒温槽での熱処理を行わなかったこと以外は実施例2と同様にして比較例7とした。
ポリ乳酸(TE−4000)にトリアリルイソシアヌレートを配合せず、電子線照射も行わなかったこと以外は実施例2と同様にして比較例8とした。
(実施例4、5および比較例9、10)
実施例4は前記第一実施形態の第一変形例に相当し、実施例5は前記第二実施形態に相当する。
すなわち、実施例1における非結晶性ポリ乳酸「レイシアH−280(商品名)」の代わりに、融点110〜120℃の生分解性ポリエステルの1種であるポリブチレンアジペートテレフタレート(BASF社製「エコフレックス(商品名)」)を使用したこと以外は実施例1と同様にして実施例4とした。
実施例4において、TAICを混合せず、電子線照射を行わなかったものを実施例5とした。
また、100℃における恒温槽処理を行わなかった以外、実施例4と同様にして比較例9とし、実施例5と同様にして比較例10とした。
このようにして得られた実施例1〜3および比較例1〜8のシートの耐熱性を、下記方法で評価した。
(耐熱性評価)
実施例および比較例のシートを幅1cm長さ7cmの短冊状にカットして測定サンプルとし、端から2cmを、図4に示すように固定治具で固定して水平に保った状態で90℃の恒温槽内に10分間放置して、重力により下方への垂れ下がった距離Lを測定した。
実施例4、5と比較例9、10については、下記方法で強度保持率を測定し、耐加水分解性の評価を行なった。
(強度保持率)
80℃熱水に1日浸漬する前後の曲げ強度を測定し、以下の式にて強度保持率を計算した。
(強度保持率)=(80℃熱水中に浸漬したサンプルの曲げ強度)/(80℃熱水に浸漬していないサンプルの曲げ強度)
なお、曲げ強度は、ASTM D−790にしたがって行った。
前記耐熱性の評価、あるいは強度保持率の測定結果を、製造条件の相違点とともに、表1〜3に示す。
Figure 2008163136
Figure 2008163136
Figure 2008163136
(実施例1及び比較例1,2)
熱プレス温度を180℃とし、結晶性ポリ乳酸の公称融点である167℃よりも高い温度で成形した比較例1は、予め結晶化させた結晶性ポリ乳酸の結晶が180℃の成形温度で溶融してしまったため、耐熱性評価において固定水平位置から30mm以上も垂れ下がり、90℃において形状を維持することができなかった。
また、電子線照射を行わなかった比較例2は、ポリ乳酸の結晶成分は存在しているが非結晶成分が架橋されていないため、耐熱性評価において固定水平位置から24mm垂れ下がり、90℃において形状を維持することができなかった。
これに対し、結晶化処理と、電子線照射による架橋を行った実施例1は、耐熱性評価において8mmと、若干曲がる程度となり、90℃において十分な耐熱性を得ることができた。
(実施例2,3及び比較例3〜8)
ポリ乳酸(TE−4000)の結晶化処理と架橋の双方を行った実施例2、3は、垂れ下がりが1mm以下と極めて小さく、極めて良好な耐熱性が得られた。すなわち、架橋を行わずポリ乳酸(TE−4000)を単独で使用した場合、100℃において60秒の熱処理時間で達成しうる耐熱性が30秒以下の熱処理で達成することができた。
一方、成形後に熱処理を行わなわず、結晶化処理を施していない比較例7,8は、それぞれ耐熱性評価において22mm、30mm以上と大きく垂れ下がり、90℃において形状を維持することができなかった。
また、30秒の熱処理を行い、結晶化処理を施した比較例3〜5は、耐熱性評価において3〜4mmの垂れ下がりとなり、60秒の熱処理を行った比較例6では、2mm程度の垂れ下がりを生じた。このように成形後の熱処理時間が長くなるにつれて、耐熱性が向上が見られたものの、実施例2、3の耐熱性よりも劣っていた。
(実施例4、5及び比較例9、10)
また、実施例1の非結晶性ポリ乳酸(H−280)に代えて、ポリブチレンアジペートテレフタレート(エコフレックス)を使用した実施例4は、80℃の熱水中への浸漬による耐加水分解評価において、強度維持率が70%となり、過酷な条件下においても強度を維持することができた。架橋を行っていない実施例5は、成形前にポリ乳酸を完全に結晶化させることにより非結晶状態のポリ乳酸を存在させていないので、強度維持率が75%となり、強度を維持することができた。
一方、結晶化工程を行っていない比較例9、10は、強度維持率が50%以下となり、十分な強度を維持することができなかった。
このように、ポリ乳酸を結晶化させることにより、耐加水分解性を大幅に向上させることができた。
なお、本発明は、前記実施形態及び実施例に限定されず、特許請求の範囲と均等の範囲内の変更が含まれる。
本発明の第一実施形態のポリ乳酸複合物の製造方法におけるポリ乳酸の状態を説明するための模式図であり、(A)は、結晶性ポリ乳酸、非結晶性ポリ乳酸及び架橋性モノマーを該結晶性ポリ乳酸の融点以上に加熱して混合する工程、(B)は、結晶性ポリ乳酸を部分あるいはほぼ全体を結晶化させる工程、(C)は、結晶性ポリ乳酸の融点未満で所望の形状に成形する工程、(D)は、成形体を架橋する工程を示す。 本発明の第三実施形態のポリ乳酸複合物の製造方法におけるポリ乳酸の状態を説明するための模式図であり、(A)は結晶性ポリ乳酸、結晶核剤及び架橋性モノマーを該結晶性ポリ乳酸の融点以上に加熱して混合する工程、(B)は、所望の形状に成形する工程、(C)は、結晶性ポリ乳酸を部分的に結晶化させる工程、(D)は、成形体を架橋する工程を示す。 示差走査熱量計による熱量解析において、本発明のポリ乳酸複合物が示す特性を説明するための図であり、(A)は結晶状態のポリ乳酸、(B)は非結晶状態のポリ乳酸、(C)は非結晶状態のポリ乳酸にほぼ100%の架橋が施されたもの、(D)は本発明の第一実施形態及び第三実施形態のポリ乳酸複合物の熱量曲線を示す。 実施例における耐熱性評価の方法を説明する図である。
符号の説明
1 非結晶状態の結晶性ポリ乳酸
2 非結晶性ポリ乳酸
3 結晶化した結晶性ポリ乳酸
4 架橋された非結晶状態のポリ乳酸
5 結晶核剤
6 非結晶状態の結晶性ポリ乳酸を含む配合物
7 結晶性ポリ乳酸の結晶
8 架橋された非結晶状態のポリ乳酸
10、15 混練物
11 結晶性ポリ乳酸が結晶化された混練物
12、16 成形体
17 ポリ乳酸を部分的に結晶化させた成形体
13、18 ポリ乳酸複合物
20 ポリ乳酸のガラス転移温度由来の吸熱ピーク
21 ポリ乳酸の再結晶化由来の発熱ピーク
22 ポリ乳酸の融点由来の吸熱ピーク

Claims (11)

  1. 結晶状態のポリ乳酸(A)と、
    非結晶状態のポリ乳酸の架橋物(B)あるいは/及び前記結晶状態のポリ乳酸(A)の融点未満で成形可能な樹脂(C)を含み、
    前記結晶状態のポリ乳酸(A)以外のポリ乳酸が架橋されていることを特徴とするポリ乳酸複合物。
  2. 全樹脂成分中に結晶状態のポリ乳酸(A)が、10〜90質量%含まれる請求項1に記載のポリ乳酸複合物。
  3. 前記樹脂(C)は、生分解性脂肪族ポリエステルの架橋物を含む請求項1または請求項2に記載のポリ乳酸複合物。
  4. 結晶核剤を含む請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のポリ乳酸複合物。
  5. 示差走査熱量計での熱量解析において、下記(1)(3)の特性を示す一方、下記(2)の特性を示さない請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のポリ乳酸複合物。
    (1)ポリ乳酸のガラス転移温度に由来する50〜70℃付近の吸熱
    (2)ポリ乳酸の再結晶化に由来する100℃付近における発熱
    (3)ポリ乳酸の融点に由来する150〜180℃付近における吸熱
  6. 少なくとも結晶性ポリ乳酸と、該結晶性のポリ乳酸の融点未満の温度で軟化あるいは溶融して加熱成形が可能である熱可塑性樹脂とを、前記結晶性ポリ乳酸の融点以上の温度で加熱混練する工程と、
    前記工程で得られた混練物を、常温まで冷却する過程であるいは再度加熱して前記結晶性ポリ乳酸を部分的あるいは全体に結晶化させる工程と、
    前記工程で得られた結晶性ポリ乳酸を結晶化させた混練物を、結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で所要形状に成形する工程と、
    前記工程で得られた成形物を架橋する工程と、
    を含むことを特徴とするポリ乳酸複合物の製造方法。
  7. 少なくとも結晶性ポリ乳酸と、該結晶性のポリ乳酸の融点未満の温度で軟化あるいは溶融して加熱成形が可能である熱可塑性樹脂とを、前記結晶性ポリ乳酸の融点以上の温度で加熱混練する工程と、
    前記工程で得られた混練物を、常温まで冷却する過程であるいは再度加熱して前記結晶性ポリ乳酸を全体に結晶化させる工程と、
    前記工程で得られた結晶性ポリ乳酸を結晶化させた混練物を、結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で所要形状に成形する工程と、
    を含むことを特徴とするポリ乳酸複合物の製造方法。
  8. 少なくとも結晶性ポリ乳酸と架橋性モノマーとを前記結晶性ポリ乳酸の融点以上で加熱混練する工程と、
    前記工程で得られた混練物を所望の形状に成形する工程と、
    前記工程で得られた成形物を、常温まで冷却する過程であるいは再度加熱して結晶性ポリ乳酸を部分的に結晶化させる工程と、
    前記工程で得られた成形物を架橋させる工程と、
    を含むことを特徴とするポリ乳酸複合物の製造方法。
  9. 架橋性モノマーを配合し、前記成形物の架橋は電離性放射線を照射して行っている請求項6または請求項8に記載のポリ乳酸複合物の製造方法。
  10. 請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の製造方法で製造された請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のポリ乳酸複合物。
  11. 請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の製造方法の工程中で得られ、
    結晶状態の結晶性ポリ乳酸と、該結晶性ポリ乳酸の融点未満の温度で溶融成形可能な熱可塑性樹脂とを含むことを特徴とするポリ乳酸複合物の中間生成物。
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