本発明は工業化住宅に於ける梁勝ちの軸組躯体構造と、軸組躯体に於ける梁と柱の配置方法に関するものである。
軸組躯体構造を持った工業化住宅は予め設定された性能を有する規格化された梁や柱を含む建築部材を用いて建築される。この工業化住宅では、顧客の要望に適応したプランが設計され、且つこのプランを実現するのに最適な建築部材が選択されると共にこれらの建築部材を組み合わせて設計される。
梁と柱とによって躯体を構成する軸組躯体構造では、直交する二方向に軸組を揃えて設計するのが一般的である。この軸組躯体構造では直交方向に設定された通り芯上に夫々直線的に梁が配置され、個々の梁の両端部に夫々通し柱が配置される。このような軸組躯体構造を持った建物では、柱位置によって間取りや部屋の大きさが限定されるため、プランの自由度が低いという問題がある。
しかし、特に住宅建築では顧客に豊富で且つ自由なプランを提供し得ることが好ましい。このため、プランの自由度を高くすることができる軸組躯体構造が提案されている。
例えば特許文献1に記載された技術は、上部階の柱と下部階の柱を分断するようにして、一本の梁が複数の柱間に跨って通し状に配置されるとともに、柱と梁で囲まれる空間には、要所要所にブレース構造の耐力壁を配置した躯体構造に関するものである。この技術では、一階の柱と二階の柱の位置は相互にズレていてもよく、従って、一階と二階の平面計画(プラン)の自由度が大きくなるという利点がある。
また特許文献2に記載された技術は、予め規格化された複数種の仮想立体を間取り配置すべき室内空間に応じて選択し、それらを並設及び積み重ねることにより仮想室内空間設計を行い、その後、設計された仮想室内空間に対して構造部材の割り付けを行って複数階建物を構成するものである。この技術では、意匠設計上の構造設計による制限を減らして自由度の高い設計を可能にすると共に、構造設計についての専門知識がなくても比較的容易に複数階建物を設計することができるという効果を有する。
特許第3060226号公報
特開2003−343007号公報
特許文献1に記載された技術は、一階と二階の柱の位置を相互にずらすことができるため、夫々の階に於けるプランの自由度を高くすることができる。しかし、二方向に交叉する梁の位置をずらすものではないため、一階から二階にかけての空間(吹き抜けや階段)を形成する際の自由度は充分に高いとはいえない。
また特許文献2に記載された技術は平面上のプラン及び上下階のプランの自由度が極めて高いという利点を有する。しかし、立体的なプランの自由度が向上したのに伴って構造計算が複雑化し、構造的に実現し得るか否かを検証するのに必ずコンピュータを用いて構造計算しなければ構造的安全性が確認できないという問題を有している。
本発明の目的は、プランの自由度を向上させることができる軸組躯体構造と、プランを組み立てながら構造的に略実現可能か否かを短時間で容易に確認することが可能な、またコンピュータを必要とすることなく手軽にプランを提案することが可能な軸組躯体の配置方法とを提供することにある。
本発明に係る軸組躯体の配置方法は、複数階建の工業化住宅に於ける梁勝ちの規格化された柱と梁を有する軸組躯体を構造設計するに際し、直交する二方向のうちの何れか一方向の通りに、該通りに於ける建物の寸法に対応する長さを有し且つ予め設定された断面性能を有する梁と該梁の端部またはその近傍をそれぞれ支持する2本の柱とを有して鉛直荷重を下階または基礎に伝える一次フレームを平行に且つ予め設定された寸法の範囲内で離隔させて平行に少なくとも2組配置し、2組の一次フレーム間の寸法に対応する長さを有してこれら2組の1次フレーム間を接続する直交梁を各階のプランに従って配置すると共に、一次フレームが設置される少なくとも一方の通り上に追加して配置されて梁を支持する1又は複数の追加柱を各階のプランに従って配置するに際し、一次フレームの柱と追加柱との間隔及び追加柱どうしの間隔が、少なくとも階数に基いて規定される鉛直荷重と、各追加柱の断面性能に基いて定められる範囲内とされているか否かを判定することを特徴とするものである。ここで、構造設計とは柱や梁の荷重、外力に対する許容応力度満足する設計をいう。
上記軸組躯体の配置方法に於いて、一次フレーム間の距離に対する隣接する一次フレームの間に配置される直交梁どうしの間隔の最大寸法、及び追加柱どうしの間隔の最大寸法、の関係を、鉛直荷重及び一次フレーム間の距離及び直交梁と追加柱の断面性能をパラメータにしてパターンを複数作成しておき、このパターンを用いて一次フレーム及び直交梁と追加柱を配置することが好ましい。
また上記何れかの軸組躯体の配置方法に於いて、一次フレームの梁及び直交梁によって囲まれた領域外に形成され少なくとも一方向が一次フレームの梁又は直交梁を共用するサブグリッドを構成するに際し、該サブグリッドの寸法は隣接する一次フレームの間隔又は一次フレームに接続された隣接する直交梁間の間隔よりも小さくし、該サブグリッドの出隅部に通し柱を設けて該通し柱と隣接する一次フレームの梁及び、又は直交梁とを梁で接続することが好ましい。
ここで、サブグリッドとは、一次フレームの梁及び直交梁によって囲まれた領域外に形成され少なくとも一方向が一次フレームの梁又は直交梁を共用する梁を有する領域である。
本発明に係る軸組躯体構造(以下、「軸組構造」という)では、建物の平面に設定された直交二方向(x、y方向)のうち何れか一方の通りを選択し、少なくとも二つの通り芯に夫々の通りに於ける建物の寸法と一致した長さを有する梁とこの梁の両端部或いは両端部の近傍に配置された柱とからなり鉛直荷重を下階又は基礎に伝える一次フレームを配置し、これらの一次フレームの梁に対して直交する方向に直交梁と、一次フレームが配置された通り芯に配置される追加柱と、を夫々平面プラン及び上下のプランに従って配置するので、プランの自由度を向上することができる。
即ち、隣接する一次フレームの間の如何なる位置に直交梁を配置することも可能であり、一次フレームによって規定された上下空間内であれば吹き抜けや階段等を所望の位置に配置することもできる。また追加柱は一次フレームが配置された通り芯上であれば如何なる位置に配置することも可能であり、一次フレームを跨ぐ大きな平面空間を構成することもできる。従って、平面プラン及び上下のプランの自由度を向上させることができる。
上記軸組構造に於いて、一次フレームを構成する梁と柱が夫々予め設定された断面性能、即ち工業化住宅で使用を指定された断面性能を有することによって、一次フレーム間の距離に対応した長さを持った直交梁どうしの間隔、一次フレームの梁の通り芯に配置される追加柱どうしの間隔、の最大寸法を、隣接する一次フレーム間の距離に応じて且つ各直交梁及び追加柱の断面性能に応じて、更には作用する鉛直荷重の大きさに対応させて設定しておくことができる。
即ち、予め設定された断面性能を有する一次フレームの梁と柱に対し、一次フレームの間隔、作用する鉛直荷重、並びに各直交梁及び追加柱の断面性能をパラメータにして直交梁間隔最大寸法、追加柱間隔最大寸法を設定しておくことができる。
従って、隣接する一次フレーム間に配置された直交梁と、一次フレームの通り芯に配置された追加柱とが一致した位置に配置されていなくとも、直交梁どうしの間隔が予め設定された直交梁間隔最大寸法よりも小さい寸法であり、一次フレームの通り芯に配置された柱と追加柱との間隔或いは追加柱どうしの間隔が追加柱間隔最大寸法よりも小さい寸法であれば、構造上略安全な躯体を構成することができる。
一次フレームの柱間間隔に対する隣接する一次フレームの間に配置される直交梁どうしの間隔の最大寸法、及び追加柱どうしの間隔の最大寸法、の関係を、鉛直荷重及び一次フレーム間の距離及び直交梁と追加柱の断面性能をパラメータにしてパターンを複数作成しておき、このパターンを用いて一次フレーム及び直交梁と追加柱を配置する配置方法(以下、「配置方法」という)では、構造設計の知識のない営業マンと顧客とが対面してプランを組み立てながら、このプランを実現する軸組躯体を配置してゆくことができる。そして、配置された軸組躯体によって合理的な軸組構造を略実現することができ、プランに沿った間取りを容易にきめていくことができる。
特に、一次フレームの間隔、作用する鉛直荷重、並びに各直交梁及び追加柱の断面性能に応じて、直交梁間隔最大寸法、追加柱間隔最大寸法を設定しておくことができるので、隣接する一次フレームの間に配置される直交梁どうしの間に於ける直交梁最大間隔寸法、一次フレームの通り芯に配置される追加柱どうしの間に於ける追加柱間隔最大寸法のパターンを作成しておき、このパターンを用いて、プランに従って直交梁どうしの間隔を設定して配置すると共に、追加柱どうしの間隔を設定して配置することで、配置された直交梁、追加柱は構造上の合理性を発揮し、構造上略安全な軸組構造を配置することができる。
また一次フレームの梁、直交梁によって囲まれた領域外にサブグリッドを構成する際に、該サブグリッドの寸法を一次フレームの間隔、或いは隣接する直交梁の間隔よりも小さい寸法とし、出隅部に通し柱を設けて、該通し柱と一次フレームの梁、直交梁を接続することで、一次フレームの梁と直交梁とによって区画された領域の外側にサブグリッドを構成して柔軟性のあるプランを実現することができる。
また本発明の設計方法では、上記の如き本発明の配置方法によって軸組躯体を配置設計した後、建物全体の鉛直加重に対する計算を行うことで、軸組躯体の構造計算を行うことができ、構造の安全を保証することができる。
以下、本発明に係る軸組構造と、軸組躯体を構造設計するに際しこの軸組構造を実現する配置方法の最も好ましい実施形態について説明する。本発明の軸組構造はプランの自由度を向上させることを実現したものである。また配置方法は、直交梁、追加柱を自由に容易に配置できプランの自由度を向上させることができ、特に、前述した一次フレームの柱間間隔に対する隣接する一次フレームの間に配置される直交梁どうしの間隔の最大寸法、及び追加柱どうしの間隔の最大寸法、の関係を、鉛直荷重及び一次フレーム間の距離及び直交梁と追加柱の断面性能をパラメータにして作成したパターン、及び隣接する一次フレームの間に配置される直交梁どうしの間に於ける直交梁最大間隔寸法、一次フレームの通り芯に配置される追加柱どうしの間に於ける追加柱間隔最大寸法のパターン、を用いることで、構造設計の専門知識を有することのない営業マンが顧客と対面しながら、構造的に実現し得るプランを提案することを可能としたものである。このため、本発明の軸組構造を基本にふまえて、顧客と対面してプランを提案しながら本発明の配置方法を実施することによって、プランの設計と同時に合理的な且つ構造的に略安全な躯体を構成することが可能である。
本発明は、複数階建の工業化住宅に於ける梁勝ちの軸組構造を対象としている。工業化住宅は予め規格化された建築部材を用いて建築されるものであり、軸組躯体は規格化された梁と柱を組み合わせて構成される。規格化された梁と柱は夫々規格毎に、許容し得る剪断応力や曲げ応力、軸応力、撓み量等を満足する断面形状や寸法及び材質等の断面性能が設定される。
本発明の軸組構造及び配置方法に用いられる梁と柱は、規格化され且つ予め設定された断面性能を有するものであれば利用することが可能であり、断面形状や寸法及び材質を限定するものではない。例えば鋼製のH形鋼を利用した梁や、鋼製の角形鋼を利用した柱があり、いずれも好ましく利用することが可能である。
規格化された梁では、作用する荷重に応じた長さ(梁を支持する柱の間隔、追加柱最大間隔寸法)が設定される。また規格化された柱では、支持し得る荷重の大きさが設定される。
従って、特定の断面性能を持った梁と、この梁の長さ(柱間隔)を設定したとき、前記梁に於ける支持し得る荷重の大きさが設定される。このため、前記梁を配置する部位(例えば居室部分に対応する梁か屋根部分に対応する梁)に応じて配置すべき数が設定され、これに伴って間隔(梁が一次フレームの梁の場合一次フレームの間隔、梁が直交梁の場合直交梁最大間隔寸法)が設定される。
従って、選択された梁に於ける支持し得る荷重の大きさと柱間隔、梁どうしの間隔、の関係を予めパターン化して設定しておくことで、個々の構造計算を行うことなく、安全性を確保した軸組構造を設定することが可能である。
本発明の軸組構造は、上記の如き予め断面性能が設定されて規格化された梁と、この梁の両端部或いは両端近傍に配置された2本の柱と、によって一次フレームを構成し、これを基にして、少なくとも2組の一次フレームを平行に配置し、これらの一次フレームを複数の直交梁によって接続すると共に、一次フレームに追加柱を配置して接続することで構成されている。
また本発明の配置方法は、一次フレームと、隣接する一次フレームの間を接続する直交梁と一次フレームの梁の直下に配置される追加柱と、をプランに従って配置する際に、直交梁どうしの間隔を直交梁最大間隔寸法の範囲内に、一次フレームの柱と追加柱との間隔及び追加柱どうしの間隔を追加柱最大間隔寸法の範囲内に設定することで、上記軸組構造を実現するものである。
一次フレームは目的の建物に設定された直交二方向のうちの何れか一方の通りであって少なくとも二つの通りに配置され、鉛直加重を下階又は基礎(以下「下部構造」という)に伝える機能を有している。このため、目的の建物が複数階で構成されている場合、上階に配置された一次フレームは下階の一次フレームに、下階の一次フレームは基礎の上部に配置される。
隣接する一次フレームの間に配置される直交梁は上部に配置された床面或いは屋根面に作用する荷重を一次フレームの梁に伝える機能を有する。このため、直交梁の上部には鉛直荷重が作用する柱が配置されることはない。しかし、建物に作用する水平荷重に対抗するための耐力壁が配置されることはある。
本発明に於いて、建物に配置する一次フレームの数は限定するものではなく、少なくとも2組の一次フレームが配置されれば良い。しかし、一次フレームの間隔は直交梁の長さと一致することから無制限に大きくし得るものではなく、後述する追加柱に設定される追加柱最大間隔寸法と同じ程度の寸法範囲で配置されることが好ましい。
一次フレームを構成する梁の長さは特に限定されるものではなく、建物の寸法に対応させた長さに設定される。前述したように、梁は予め設定された断面性能と作用する鉛直荷重の大きさに応じた長さが設定されることから、設定された長さの範囲内で支持することが必要となる。
特に、建物の寸法に対応させた一次フレームを構成する梁の長さを長くすることが必要な場合、必要となる長さを満足させる数の鉄骨を長手方向に接続することで、一本の梁を構成すれば良い。
一次フレームを構成する梁の全長が大きくなるのに伴って、作用する鉛直荷重も増大する。このため、一次フレームを構成する2本の柱の間に所要数の追加柱を配置し、一次フレームの柱と追加柱との間隔、或いは追加柱どうしの間隔が予め設定された長さ(追加柱最大間隔寸法)の範囲内になるように配置して梁と接続することで、一次フレームに作用する鉛直荷重を下部構造に伝えることが可能である。
一次フレームに配置される追加柱の位置が直交梁が接続される位置であると、該直交梁から伝えられた荷重を直接支持することが可能となり好ましい。しかし、一次フレームを構成する梁の断面性能から必ずしも直交梁の接続位置に一致させて追加柱を配置する必要はない。
即ち、一次フレームに配置される追加柱は隣接する柱や追加柱との間隔が、予め設定された追加柱最大間隔寸法の範囲内であれば良い。このため、一次フレームの梁に対する追加柱の配置位置は、前記寸法の範囲内での自由度が生じることとなり、一次フレームを跨ぐような空間を構成しようとしたとき、この空間に追加柱が干渉する場合、干渉する追加柱を目的の空間の輪郭線の位置まで移動させることが可能である。即ち、追加柱をプランに従って配置することで、一次フレームを跨いで構成された大きな平面空間を実現することが可能である。
一次フレームを構成する柱は、該一次フレームの梁の両端部或いは両端部の近傍に配置される。即ち、建物に於ける一次フレームの配置位置がキャンティベランダを構成するような場合、下階を構成する柱は梁の端部にあってはならず、該梁の端部の近傍に配置されることとなる。この場合、柱の梁の端部からの離隔寸法は特に限定するものではなく、上階のキャンティ部分の出寸法に対応した位置に配置される。
平行に配置された2組の一次フレームの間に直交梁が配置され、この直交梁の両端を一次フレームの梁に接合することで軸組構造が構成される。直交梁は上部に敷設された床又は屋根に作用する荷重を一次フレームの梁に伝える機能を有するものであり、該直交梁の長さや数は、設定された断面性能と前記した荷重の大きさとに応じて設定される。このようにして設定された直交梁の長さが隣接する一次フレームの間隔となる。
直交梁の上部又は下部には鉛直荷重を支持する柱が配置されることはない。従って、隣接する一次フレームの間の平面に広い空間を実現することが可能となる。また、直交梁を如何なる位置に配置して一次フレームの梁に接続しても躯体の構造に影響を与えることがない。従って、直交梁は、該直交梁の上部に構成される階層のプランに応じて配置することが可能となる。
即ち、プランに例えば階段や吹き抜け等の下階と上階とを連続させる空間が存在する場合、この空間を避けて直交梁を配置することが可能となり、上下方向に連続するプランの自由度を向上させることが可能となる。
一次フレームは、予め断面性能が設定され、即ち工業化住宅で使用を指定された断面性能で規格化された梁と、この梁の両端部或いは両端近傍に配置された2本の柱と、によって構成され、これを基にして、階数の違いを主とした鉛直荷重の目安となる荷重を設定することによって、予め追加柱どうしの最大間隔寸法、直交梁どうしの最大間隔寸法のパターンを設定しておくことが可能である。このパターンは一次フレーム間隔、鉛直荷重の大きさ、直交梁や追加柱の断面性能に応じて複数設定される。
上記パターンは微少な寸法や形式を設定する必要はない。特に、寸法は建物に設定されたモジュール寸法の整数倍の寸法で設定しておくことが好ましい。このような数値として、モジュール寸法を約300mmとしたとき、18(約1800mm)、27(約2700mm)、36(約3600mm)、45(約4500mm)、54(約5400mm)等が、作用する鉛直荷重との関係で選択的に設定される。
先ず、上記の如き機能を持った一次フレーム及び直交梁と追加柱とからなる本発明の軸組構造と配置方法について図を用いて説明する。図1は2階建ての建物に於ける軸組構造を説明する図である。図2は複数階建ての建物に設定された追加柱最大間隔寸法のパターンを説明する図である。
本実施例に係る軸組構造では、図1(a)に示すように、予め目的の建物に設定された直交する二方向の通り(x方向(建物の幅方向、奥行き方向)、y方向(建物の長さ方向、左右方向))のうち、一方向(例えばx方向)に3カ所の通り(X0、X1、X2)を選択し、夫々の通り芯に、該通りに於ける建物の寸法(建物の幅寸法)に一致した寸法を有する梁1、2を直線的に配置する。
本発明の軸組構造では、建物が複数階にわたるような場合であっても、選択された通りX1〜X3は各階に共通しており、梁1、2は同じ通りに配置される。
同図(b)に示すように、梁1、2の両端部又は端部近傍(本実施例では両端部分)に夫々柱3を配置して梁1、2と接続することで、鉛直荷重を支持する一次フレームA、Bを構成する。特に、上階に配置された一次フレームA、Bの柱3は下階に配置された一次フレームAの梁1に接続され、下階に配置された一次フレームAの柱3は図示しない基礎に接続される。一次フレームA、Bをこのように接続することによって、梁1、2に作用する鉛直荷重を下部構造に伝えることが可能である。
x方向に配置された隣接する一次フレームAの梁1に対し、y方向の直交梁5、6を配置して接続する。直交梁5はx方向に配置された隣接する一次フレームAの梁1、2の両端部(Y0、Y5)に夫々配置されて接続される。また、直交梁6は一次フレームA、Bの中間部分(Y1〜Y4)に対し、一次フレームA、A、一次フレームA、B間の面積及びプランに従って配置されて接続される。
特に、直交梁6は下階から上階にわたって連続する空間(例えば階段や吹き抜け、或いはエレベータ等)が存在する場合、この空間を避けた部位に配置される。
一次フレームA、Bに追加柱7を配置するに際し、図2に示すように設定されたパターンが用いられる。この図は、隣接する一次フレームA、Bの間隔を約4500mmに設定したとき、個々の一次フレームA、Bに配置する追加柱7の追加柱最大間隔寸法を設定したものである。
同図(b)は2階建ての建物の1階と2階に配置された一次フレームA、Bに於ける追加柱7の配置パターンを示すものである。図に示すように、追加柱7と一次フレームA、Bを構成する柱3との間に設定された追加柱最大間隔寸法は45であり、この寸法の範囲内であれば如何なる位置にも配置することが可能である。
しかし、一次フレームAの長さが約9000mmであり、追加柱7が一方側の柱3(例えば図の左側の柱3)から約3600mmの位置に配置されているような場合、該追加柱7から他方側の柱3までの寸法が約5400mmになるため、追加柱最大間隔寸法である45を越えることとなり、この間に更に追加柱7を配置することが必要となる。
また同図(a)は3階建ての建物の各階に配置された一次フレームA、Bに於ける追加柱7の配置パターンを示すものである。図に示すように、1、2階に配置された一次フレームAに於ける左側の最大間隔寸法45と記してある部分では、該部分を構成する両側の柱、即ち一次フレームAの柱3と追加柱7が夫々同一箇所に配置されており、従って、夫々の柱3と追加柱7が通し柱になっている。また3階の上記以外に対応する部位では、1階と2階共に追加柱最大間隔寸法は36として設定されており、この場合追加柱7は各階毎に自由な部位に配置されている。更に、3階に配置された一次フレームBでは追加柱最大間隔寸法は45に設定されている。
上記の如く、追加柱7はX方向に配置された一次フレームA、Bの通り芯に対し、プランに従って、且つY方向に配置された直交梁6の一次フレームA、Bの梁1、2に対する接続位置に関わらず、前述した追加柱最大間隔寸法の範囲内にあるように設定される。
上記追加柱最大間隔寸法が、梁(一次フレームの梁1、2)の断面性能に基づいて設定された数値であるため、追加柱7を隣接する柱3或いは追加柱7に対し、前記した寸法の範囲内の間隔を持って配置することによって、軸組の強度を保証することが略可能となる。従って、建物の階層毎に設定された追加柱最大間隔寸法を遵守して追加柱7を配置することによって、強度を満足した軸組構造を構成することが可能である。
上記の如くして各階毎の軸組を設定した後、図1(c)に示すように、1階の軸組の上部に2階の軸組を載置することで、目的の建物の軸組構造が構成される。
上記の如く、予め設定された通り芯(X0〜X2)に配置された一次フレームA、Bの位置を固定することで、隣接する一次フレームA、B間の間隔を設定することが可能である。このように、一次フレームA、Bの梁1、2の位置が固定されることから、該梁1、2に干渉するような上下階を関連付けるプラン(例えば階段や吹き抜け)を設けることはできないものの、隣接する一次フレームA、B間に配置される直交梁6は、プランに従って配置することが可能である。例えば、隣接する一次フレームA、B間にこれらの間隔の寸法範囲内で吹き抜けを構成する場合、この吹き抜けの位置を優先させ、該吹き抜けの縁に沿って直交梁6を配置することで実現することが可能である。
即ち、本発明の軸組構造では、一次フレームA、Bによって鉛直荷重を下部構造に伝えるため、隣接する一次フレームA、Bの間に配置される直交梁5、6は、該直交梁5、6に作用する荷重を梁1、2に伝える機能のみを有する。このため、前記機能を発揮し得る範囲で直交梁6を自由に配置することが可能となり、これにより、一次フレームA、B間の範囲で建物の上下方向のプランの自由度を略制限なく向上させることが可能となる。
また、一次フレームA、Bの通り芯(X0〜X2)に配置される追加柱7は、必ずしも一次フレームA、Bの梁1、2に対する直交梁6の接続位置と一致させる必要はなく、目的の階のプランに従って配置される。即ち、追加柱7は、一次フレームA、Bの通り芯上という制限を有するものの、この制限の範囲内で自由に位置を設定することが可能である。このため、同一平面内で一次フレームA、Bを跨ぐような空間を実現することが可能となり、平面プランの自由度を向上させることが可能となる。
次に上記の如き軸組構造を適用した建物の構成について図を用いて説明する。図3は本実施例の軸組構造を持った建物の構成を説明する図である。図に於いて、(a1)は1階のプランを説明する図であり(a2)は基礎構造を説明する図である。また、(b1)は2階のプランを説明する図であり(b2)は軸組構造を説明する図である。更に、(c1)は3階のプランを説明する図であり(c2)は軸組構造を説明する図である。また(d)は屋根の軸組構造を説明する図であり、(e)は建物の外観斜視図である。
図に示す建物は、X方向にX0〜X4の通りが設定されており、X0〜X2に同じ構造の一次フレームA(一次フレームA0〜A2)が配置され、X4の通りには一次フレームAよりも短い一次フレームBが配置されている。一次フレームA0と一次フレームA1との間隔、及び一次フレームA1と一次フレームA2との間隔は36(約3600mm)に設定され、一次フレームA2と一次フレームBとの間隔は18(約1800mm)に設定されている。
本実施例では、1階、2階共に同じ寸法を持った一次フレームA、Bが配置されると共に、1階の一次フレームA、Bの上部に載置され、夫々上階の一次フレームA、Bは下階の一次フレームA、Bに、下階の一次フレームA、Bは基礎11に接続されて作用する鉛直荷重を下部構造に伝えるように構成されている。
またY方向にY0〜Y5の通りが設定されている。本実施例ではY0〜Y5の間隔は約9000mmに設定されている。またY1〜Y4の間隔は同じ寸法ではなく、一次フレームA0〜A2、Bの間に配置される直交梁6の位置に対応して設定されている。
Y0の通りには一次フレームA0〜一次フレームA2に連続して直交梁5が配置されて夫々の一次フレームA0〜A2の梁1の端部を接続しており、Y2の通りには一次フレームBの梁2の端部に配置された直交梁5が隣接する一次フレームA2の梁1に接続されている。Y5の通りには一次フレームA0〜一次フレームBの間に連続して直交梁5が配置されて夫々の一次フレームA0〜A2及び一次フレームBの梁1、2の端部を接続している。
1階のプランについて説明する。同図(a1)に示すように、一次フレームA0とA1との間の空間は一つの大きな部屋21が構成されている。また一次フレームA1とA2との間には部屋22と階段23、キッチン24が構成されている。更に、一次フレームA2とBとの間には水周り25、廊下26が一次フレームA2に跨って構成されており、且つ玄関27が構成されている。
玄関27の屋外側にはポーチ28が構成され、該ポーチ28の一部にサブグリッド41が配置されている。サブグリッド41は1階から2階にかけて構成され、X方向に沿った側は一次フレームA2の一部を共用し、Y方向に沿った側は一次フレームA2とBを接続する直交梁5を共用している。従って、サブグリッド41はポーチ28によって構成される面積よりも小さく、このポーチ28を構成する面からはみ出すことのない寸法で構成されている。
サブグリッド41の出隅部には1階から2階にかけて貫通する通し柱42が配置されており、この通し柱42と一次フレームA2との間にサブグリッド梁43が配置されて両者を接続すると共に、直交梁5との間にはサブグリッド梁44が配置されて両者を接続している。
次に、2階のプランについて説明する。同図(b1)に示すように、一次フレームA0、A1の間には二つの部屋29と3階への階段23が構成されている。また一次フレームA1、A2の間には階段23に沿って1階との吹き抜け30が構成され、該吹き抜け30の南側に一次フレームA1を跨ぐと共に一次フレームA2を跨いでサブグリッド41側に至るロッジア31が構成され、該ロッジア31に連続して一次フレームA1、A2の間の範囲でキャンティベランダ31aが構成されている。
また一次フレームA2とBとの間にはホール32が構成されている。このホール32はポーチ28の上部に対応する部位がキャンティ状に構成されている。更に、一次フレームA1、A2を跨いでY方向に廊下26が構成されており、一次フレームA2を跨いで一次フレームA1とBとの間に大きな面積を持った部屋33が構成されている。
また同図(c1)に示すように、3階には一つの大きな部屋35が構成されている。また本実施例では、屋根は切り妻屋根36として構成されている。従って、3階部分には一次フレームが配置されることはなく、同図(d)に示すように中心となる棟梁51と、この棟梁51にかけられた複数の勾配梁52が配置されている。
上記の如き各階のプランは、営業マンが顧客と対話しつつ組み立ててゆくことが可能である。
そして、このプランを実現するために、同図(b2)に示すように、1階に配置された一次フレームA0、A1の間には通りY3に一致した位置に直交梁6を配置し、X0の通り芯に於けるY3との交点に追加柱7を配置する。Y0からY3までの寸法は約4500mmに設定され、Y3からY5までの寸法も約4500mmに設定されている。このため、図2の(b)に示す追加柱最大間隔寸法45を満足する。
一次フレームA1、A2の間には、吹き抜け吹き抜け30を実現するために該吹き抜け30に沿って通りY4に直交梁6を配置し、ロッジア31を実現するために該ロッジア31に沿って通りY1にも直交梁6を配置する。またX1の通り芯とY3との交点(階段23の部屋22側の隅部)に追加柱7を配置すると共にY2との交点に追加柱7を配置する。一次フレームA1に配置された追加柱7も追加柱最大間隔寸法45を満足する。
またX2の通り芯とY4との交点(吹き抜け30に沿って配置された直交梁6の位置)及びY2との交点(一次フレームBとを接続する直交梁5の位置)に夫々追加柱7を配置する。Y4からY5までの寸法は約3600mmであり、Y0からY2までの寸法は約2100mm、従ってY2からY4までの寸法は約2400mmとなり、一次フレームA1に配置された追加柱7も追加柱最大間隔寸法45を満足する。従って、1階と2階のプランを満足することになる。
また同図(c2)に示すように、2階に配置された一次フレームA0、A1の間には通りY3に一致した位置に直交梁6を配置し、X0の通り芯に於けるY3との交点に追加柱7を配置する。この場合、1階に配置された一次フレームA0と同じ位置に追加梁7を配置する。
一次フレームA1、A2の間には通りY3に一致した位置に直交梁6を配置し、X1の通り芯に於けるY3との交点に追加柱7を配置する。従って、一次フレームA1に配置された追加柱7は1階から2階にかけて連続した通し柱としての機能を有する。
一次フレームA2、Bの間には通りY4に一致した位置に直交梁6を配置すると共に、ポーチ28の上部には一次フレームBの梁2から延長された梁47と、サブグリッド41のサブグリッド梁43から延長されたキャンティ梁48が配置されている。
X2の通り芯に於けるY4との交点、及びY1との交点に夫々追加柱7を配置する。またX4の通り芯に於けるY4との交点に追加柱7を配置する。Y4からY5までの寸法は約3600mmであり、Y0からY1までの寸法は約1200mm、従ってY1からY4までの寸法は約4200mmとなり、一次フレームA2に配置された追加柱7も追加柱最大間隔寸法45を満足する。
上述の如く、住宅などの建物の間取り設計(意匠設計)の設計作業中や設計作業後、本発明に係る軸組躯体の配置(柱梁の部材の割り付け)方法を用いて構造設計を行えば、建物の軸組を構成する柱、梁の許容応力度設計を行うことが容易になる。
即ち、柱、梁に生じる応力がほぼ確実に許容範囲内になるので、構造設計のやり直しなどの手戻りがほとんど発生しない。例えば、コンピュータを用いた住宅の設計CADシステムを使用して、図3(a1)〜(c1)にような間取り(外壁、間仕切り、開口部、屋根、ベランダなど部位や部屋や意匠部材)を入力し、その部位や部材の領域の座標情報に基いて、同間取りに応じた柱・梁部材、床、壁パネルを配置し(軸組躯体を構成する構造部材の割り付け:図3(a2)〜(c2)、(d))、各構造部材のX、Y方向座標(平面位置情報)やZ方向座標(高さ位置、または設置階情報)のハードウェア(CPUやプログラム)に認識させる。
そして、この軸組み躯体の許容応力度計算のプログラムの実行をすることによって、構造的な安全性を確認するに先だって、本発明に係る配置方法の配置パターンに適合するか否かを判定する判定プログラムを実行し、判定情報により許容応力度計算を行う前にパターン適合性を充たすように柱、梁の再配置を入力するように警告情報を表示にすれば、許容応力度計算過程における手戻りがなくなるため、構造設計が円滑に進めれらるという有利な効果がある。
ここで、判定プログラムによる適合性判定は、配置基準パターン情報を複数記憶するするデータベースを用意しておき、設計された建物の通り間の間隔寸法(スパン)や柱、梁の座標を取り出して座標値を照合し、柱間隔の最大値以下になっているか否かを判定するものである。
処理フローの一例として次の手順が挙げられる。即ち、手順を開始して、手順1)間取りへの設計(部位、部屋、意匠部材の入力手段)、手順2)間取りへの柱、梁の配置(柱、梁等構造部材の配置手段)、手順3)配置基準(パターン)との適合性判定(判定プログラム)、手順4)上記判定情報表示して不適合であることを入力者に警告(表示手段)、手順5)間取りの変更や柱、梁の配置変更(入力手段)、手順6)柱、梁の許容応力度計算PG実行(構造計算プログラム)、手順7)柱、梁の許容応力度が許容範囲内であることを表示(表示手段)、前記手順を経て処理を終了する。
上記の如くして営業マンが顧客と対話しながら各階のプランを組み立てつつ、直交梁と追加柱をパターンを遵守して配置してゆくことで、構造的に略充分な強度を持った軸組構造を実現することが可能である。
そして、営業マンと顧客との間で構成された軸組構造を、正確に設定された鉛直荷重に基づいて計算することで、多少の手直しが必要であるとしても、大幅な設計変更を行うことなく、目的のプランを持った建物を実現することが可能である。
本発明の軸組構造は、一方向の通りを固定するだけで多様なプランを実現することが可能となり、且つ顧客との対話で組み立てたプランに従って直交梁と追加柱を配置してゆく際に、予め設定された直交梁の間隔寸法、追加柱の間隔寸法を遵守することで、そのまま充分な強度を持った軸組構造を実現できるので、構造計算に詳しくない人が利用したときに有利である。
2階建ての建物に於ける軸組構造を説明する図である。
複数階建ての建物に設定された追加柱最大間隔寸法のパターンを説明する図である。
本実施例の軸組構造を持った建物の構成を説明する図である。
符号の説明
A、B 一次フレーム
1、2 梁
3 柱
5、6 直交梁
7 追加柱
11 基礎
21、22、29、33、35
部屋
23 階段
24 キッチン
25 水周り
26 廊下
27 玄関
28 ポーチ
30 吹き抜け
31 ロッジア
31a キャンティベランダ
32 ホール
36 切り妻屋根
41 サブグリッド
42 通し柱
43、44 サブグリッド
51 棟梁
52 勾配梁