図1は、本発明に係る荷電粒子ビーム装置の一例としての電子ビーム照射装置10を模式的に示す。電子ビーム照射装置10は、本実施例では、電界放出型(電界放射型)電子銃(FEG:Field−Emission Electron Gun)で構成された電子ビーム源1と、第1のコンデンサレンズ2と、第2のコンデンサレンズ3と、対物レンズ4とを備える。この第1のコンデンサレンズ2、第2のコンデンサレンズ3および対物レンズ4は、電子ビーム照射装置10における電子光学系を構成している。なお、電子光学系は、本実施例に限定されるものではない。
電子ビーム照射装置10では、電子ビーム源1(電界放出型電子銃(FEG))から電子ビームが出射され、この電子ビームが電子光学系となる第1のコンデンサレンズ2、第2のコンデンサレンズ3および対物レンズ4を経てウェハ等の試料5に照射される。本実施例では、電子ビーム照射装置10は、図示を略すが、2次電子検出装置、画像表示装置等を備える走査電子顕微鏡であり、1次電子としての電子ビームが照射されることにより試料5から放出される2次電子を2次電子検出装置等(図示せず)で検出し、この検出した2次電子に基づいて得られた2次電子画像を画像表示装置等(図示せず)により表示することにより、この2次電子画像に基づく試料5の観察評価を可能にする。
電子ビーム照射装置10の電子ビーム源1には、電界放出型電子銃(FEG)の一例として、特開平6−84452号公報に記載された(段落番号0010〜0013参照)熱電界放射陰極(熱陰極電界放射型(TFE:Thermal Field Emission)の電子銃)を用いることができる。図2は、上述した公報の熱陰極電界放射型(TFE)の電子銃20を概略的に示す構成図であり、図3は、図2のTFE電子銃20のエミッタ電極としての針状電極21の近傍を拡大して示す模式的な構成図であり、図4は、針状電極21の近傍を拡大して示す模式的な斜視図である。
TFE電子銃20は、針状電極21と、サプレッサー電極22と、タングステンワイヤ23と、碍子24と、金属製支柱25と、ネジ26とを有する。
針状電極21は、軸方位が<100>方位からなるタングステン単結晶で形成され、ジルコニウムと酸素とからなる被覆層が設けられている。TFE電子銃20では、針状電極21の位置を寸法精度良く固定するために、針状電極21がサプレッサー電極22に組み込まれている。
針状電極21は、タングステンワイヤ23に溶接固定されて支持されている。タングステンワイヤ23の両端部は、電気絶縁性の碍子24を通して固定された2つの金属製支柱25に溶接固定されている。サプレッサー電極22は、碍子24にネジ26で締め付け固定されている。針状電極21は、タングステンワイヤ23を介して加熱可能とされ、かつタングステンワイヤ23を介してサプレッサー電極22との間で所定の電位差が付与可能とされている。また、針状電極21には、図3に示すように、ジルコニウム源27が付着されており、先端部28(先端28a)にジルコニウムの拡散供給が可能とされている。
TFE電子銃20では、サプレッサー電極22とタングステンワイヤ23との間に電位差が与えられることにより、針状電極21の先端28aが強力な電界中に配置されることとなり、針状電極21の先端28aから電子が放出され、電子ビームを出射する。この出射された電子ビームは、図示は略すがエミッタ電極と試料5(もしくはエミッタ電極から見て試料5側となる個所)との間(以下加速電極という)に付与された電位差(加速電圧)により加速されて試料5へ向かうこととなる。このTFE電子銃20では、エミッタ電極としての針状電極21の先端部28に複数の針状部30(図1および図8参照)が本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法により形成されている。これを以下で説明する。なお、以下の説明では、針状電極21の延在方向(電子ビームの出射方向)をZ軸方向とし、このZ軸方向に直交する平面をX−Y平面とする。
本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法では、集束イオンビームの照射による除去加工により、エミッタ電極(本実施例では針状電極21)の先端部に互いに独立しかつ電子ビームの出射方向に伸長する複数の針状部を形成するものである。
先ず、タングステン単結晶で形成された針状電極21の先端部28に横方向からミリング加工を施すことにより、針状電極21の先端28aを平坦面(29)とする平坦面形成工程(図5参照)を行う。ここで、本実施例では、針状電極21の先端部28が、先細り形状すなわち全体に錐体形状とされている。この平坦面形成工程では、図5に示すように、針状電極21の先端部28を集束イオンビームIaでX−Y平面に大略沿う方向から照射して物理的なスパッタリング現象による加工である除去加工することにより、針状電極21の先端個所28bを取り除いてX−Y平面と平行な平坦面(29)を形成する。この平坦面形成工程により、針状電極21の先端部28近傍が截頭円錐形状とされ、平坦な先端面29が形成される。この先端面29は、所望の特性の電子ビームを出射できるように、大きさ寸法、位置、個数等が適宜設定される後述する針状部30(所定の領域31)に適合するものとされ、基準平面と同一平面上に位置するように形成される。この基準平面とは、後述するように各針状部30の先端位置を同一平面上に位置させるための基準となる面であり、X−Y平面と平行であれば、サプレッサー電極22から見た各針状部30までの間隔に基づいて設定するものであってもよく、加速電極から見た各針状部30までの間隔に基づいて設定するものであってもよい。特に、本実施例では、針状電極21の先端部28が全体に錐体形状とされていることから、Z軸方向で見た形成位置を適宜調節することで、容易に後述する針状部30(所定の領域31)に適合する径寸法とすることができる。この平坦面形成工程の後、集束イオンビームの照射による除去加工により、先端部28に各針状部30を形成する針状部形成工程を行う。
ここで、集束イオンビームの照射による除去加工では、以下で述べる特性があることから、特に針状部形成工程では当該特性を考慮しつつ集束イオンビームを照射する必要がある。ここで、図6は、1つ目の特性を説明するための集束イオンビームの照射状態を示す斜視図であり、図7は、図6に示すI−I線に沿って得られた模式的な断面図であり、図8は、図6に示すI−I線に沿って得られ図7とは異なる場面を示す模式的な断面図である。また、図9は、2つ目の特性を説明するための照射角度を説明する説明図であり、図10は、図9の照射角度に対する除去加工の際の除去量比率を模式的に示すグラフである。さらに、図11は、両特性を考慮しつつ集束イオンビームを照射する方法を説明するための模式的な斜視図であり、図12は、図11に示すII−II線に沿って得られた模式的な断面図であり、図13ないし図15は、図11に示すII−II線に沿って得られ他の図とは異なる場面を示す模式的な断面図である。
まず、1つ目の特性について説明する。図6に示すように、上記した先端部28が全体に錐体形状とされた針状電極21(試料)の先端面29に、その中心個所へ向けてZ軸方向に沿って集束イオンビームIを照射したとする。すると、照射個所では、試料(本実施例ではタングステン単結晶からなる針状電極21)を構成する原子がはじき出されるスパッタリング現象が生じる。このため、針状電極21の先端部28には、物理的なスパッタリング現象により、照射領域(以下イオン照射スポット40とする)のみが除去加工されて、イオン照射スポット40の面積と略一致する上面を有しZ軸方向に伸長する円柱状の除去空間41が形成される(図6ないし図8参照)。ところが、図6ないし図8に示すような集束イオンビームIの一様な照射による除去加工では、針状電極21の先端部28にイオン照射スポット40に沿う円柱状の除去空間41が形成されていくが(図7参照)、図8に示すように、除去空間41の長さ寸法をある一定の深さ寸法Cdよりも長くすることができなくなる、換言するとある一定の深さ寸法Cdを超えて除去加工をすることができなくなってしまう。この一定の深さ寸法Cdは、試料の材質等の条件により異なるが、一般的にイオン照射スポット40の直径の4〜5倍である。これは、次のことが考えられる。
集束イオンビームの照射による除去加工では、はじき出された原子が加工表面に衝突すると当該衝突個所に付着して試料を再構成してしまう特性があり、これを再付着という。このことから、照射個所からはじき出された原子が除去空間41から試料(針状電極21)の外方へと逃げている場合(図7矢印a1参照(理解容易のための模式的な図示であり、実際のものとは異なる))では除去加工により除去空間41の深さ寸法を長くすることができるが、イオン照射スポット40に対する深さ寸法が一定の深さ寸法Cdに到達すると、照射個所からはじき出された原子が除去空間41から試料(針状電極21)の外方へと逃げることができず(図8矢印a2参照(理解容易のための模式的な図示であり、実際のものとは異なる))に再付着が生じてしまう。すると、照射個所ではスパッタリング現象が生じていても、除去空間41の内方では除去加工により深さ寸法を長くすることができなくなってしまうこととなる。
この1つ目の特性を回避しつつ除去加工を行うために、照射個所からはじき出された原子が、加工表面に衝突することなく試料(針状電極21)の外方へと逃げるための除去排出空間42(図12参照)を形成しつつ除去加工を行うことが考えられる。この除去排出空間42は、除去加工により深さ寸法を長くすることができなくなってしまうことを防止するために、照射個所からはじき出された原子が加工表面に衝突することなく試料(針状電極21)の外方へと逃げることができるものであればよい。
次に、2つ目の特性について説明する。図9に示すように、試料(本実施例ではタングステン単結晶からなる針状電極21)の照射面に対して直交する方向を基準として、その基準方向に対する傾斜角度を照射角度とする。すなわち、照射角度は、試料の照射面に対して直交する方向が0°となり、当該照射面に平行となる方向(照射できず)が90°となる。すると、集束イオンビームの一様な照射による除去加工では、図10に示すように、照射個所における除去加工の際の除去量(除去加工により切削する量)比率は、照射角度が0°の際を1とすると、照射角度が60°〜70°辺りから飛躍的に上昇し、85°の辺りで10となり、90°では0となる。なお、ここでは、再付着が生じていないものとする。
この2つ目の特性すなわち照射角度により除去量に差異が生じることから、図11に示すように、試料の照射面に対し直交する方向(Z軸方向)から集束イオンビームを照射した場合であっても、当該イオン照射スポット40が形成された個所の平面度合い(例えば、既にスパッタリング現象が生じてX−Y平面と平行ではない個所(凹凸等も含む)が形成されている等)により、相対的に照射角度が大きくなって除去加工の度合い(切削した長さ寸法)に差異が生じてしまうこととなる。このことは、集束イオンビームによるイオン照射スポット40が、数nm〜数十nmの直径寸法であることから、針状電極21の先端部28に複数の針状部30を形成する除去加工では、集束イオンビームによる照射個所を移動させる必要があり、この移動に伴ってイオン照射スポット40の内方には、既に除去加工が施された個所(相対的に照射角度が大きくなる)と、未だ除去加工されていない個所(照射角度が0°)とが混在するので、重要となる。
以上の2つの特性、すなわち再付着の問題と、照射角度による除去量の差異の問題とを考慮しつつ集束イオンビームを照射して針状部形成工程を行うこととなる。この2つの特性を考慮した集束イオンビームによる除去加工の一例として、本実施例の針状部形成工程では、図11ないし図15に示す照射方法が採用されている。
図11に示すように、集束イオンビームIをZ軸方向に沿う方向で針状電極21の先端面29を照射(先端面29に対する照射角度0°)しつつ、照射個所を適宜移動しながら針状電極21の先端部28を除去加工するものとする。この集束イオンビームIによる照射個所は、針状電極21の先端面29における一方の周縁部29a(実線で示す集束イオンビームI参照)から、中心個所を経て他方の周縁部29b(2点鎖線で示す集束イオンビームI参照)に至るように移動(走査)させる(矢印A1参照)ものとする。ここで、集束イオンビームIによる走査は、本実施例では、矢印A1と直交する方向に所望の加工幅に応じてライン走査を行いつつ、当該ライン走査位置を矢印A1方向に移動させている(ラスタースキャン)。このことから、矢印A1が帯状の走査のフレーム走査方向となる。
針状電極21の先端面29の一方の周縁部29aの周辺が集束イオンビームIで照射された除去加工により、先端部28では、図12に示すように、一方の周縁部29a側の側面28eの近傍が最も深い加工深さとなりかつ先端面29の中央へ向けて急速に加工深さが浅くなる加工表面43となる。これは、照射角度による除去量の差異が大きく影響している。このとき、加工個所(加工表面43の各々の個所)からはじき出された原子は、除去加工前に側面28eが存在していた方向(X−Y平面に沿う方向)へと向かうことにより、加工表面43に衝突することなく針状電極21の外方へと逃げることができ(図12矢印a3参照(理解容易のための模式的な図示であり、実際のものとは異なる))、再付着の問題は殆ど生じない。このことから、この例では、除去されることにより形成された空間、換言すると加工表面43から除去加工前に先端面29および側面28eが存在していた個所に至るまでの空間が除去排出空間42として機能することとなる。ここで、加工表面43において、最も深い加工深さとなる側面28eの近傍が所望の加工深さPdに到達したら、集束イオンビームIによる照射個所を先端面29の中央側へ移動させていく(矢印A1、2点鎖線で示す集束イオンビームI、二点鎖線で示す矢印A2参照)。
すると、図13に示すように、針状電極21の加工表面43が中心位置に近づく。この際、除去排出空間42が形成されている(矢印a4参照(理解容易のための模式的な図示であり、実際のものとは異なる))ことから加工個所における除去加工は円滑に行うことができるが、針状電極21の加工表面43において除去排出空間42を画成する個所、すなわち実際に照射されている加工個所よりも一方の周縁部29a側に位置する加工表面43aが、再付着(矢印a5参照(理解容易のための模式的な図示であり、実際のものとは異なる))により所望の加工深さPdよりも高く(Z軸方向を高さ方向として)なる。引き続き、加工個所が所望の加工深さPdに到達させつつ、集束イオンビームIによる照射個所を先端面29の他方の周縁部29b側へ移動させていく(矢印A2、2点鎖線で示す集束イオンビームI、二点鎖線で示すA3参照)。
これにより、図14に示すように、集束イオンビームIが先端面29の他方の周縁部29bの近傍を照射する時点では、加工表面43は、他方の周縁部29bに最も近い個所が加工深さPdとされており、かつ再付着により一方の周縁部29aに近づくにつれて高くなるような傾斜面43bとなっている。
その後、傾斜面43bとなっている個所を適宜集束イオンビームIで照射することにより、図15に示すように、加工表面43を全体に渡って所望の加工深さPdとする。
上述したように、照射角度による除去量の差異を利用しつつ再付着の問題を避けるように集束イオンビームによる除去加工を行うことにより、針状電極21の先端部28を効率良く所望の形状とすることができる。詳細には、集束イオンビームIの照射方向をZ軸方向としつつ周縁部29a側から先端面29(X−Y平面)を照射することにより、集束イオンビームIの照射個所(イオン照射スポット40(図6ないし図8参照))内にZ軸方向で照射される集束イオンビームIに対する照射角度が大きくなる個所(X−Y平面に平行ではない個所)を常に形成し、照射角度による除去量の差異を利用して除去加工に要する時間を短縮するとともに、周縁部29a側から中央個所を経て他方の周辺部29bへ至るように集束イオンビームIの照射個所を移動させることにより、常に加工表面43に通じる除去排出空間42を形成していることとなり、除去加工の際に再付着に起因して加工深さ寸法を長くすることができなくなることを防止している。このように、集束イオンビームIの照射位置移動させることに伴って、集束イオンビームIのドーズ量を適宜調整することにより、さらに効率良く所望の形状とすることができる。
上記した照射方法を用いて集束イオンビームの照射による除去加工での針状部形成工程が行われる。先端面29をその垂直方向(Z軸方向)からみた平面図を図16に示す。
本実施例の針状部形成工程では、先ず、図16に示すように、先端面29に、少なくとも2つ以上(図16では4つ)の所定の領域31を設定する。この各領域31は、後述するように、針状部30の先端となる個所であり、先端面29をZ軸方向から見た際の針状電極21における針状部30の設定位置となる個所である(図17および図18参照)。
次に、先端部28において各針状部30に相当する個所を少なくとも1つ含む複数の延在柱部分28c(本実施例としての図17では各々が針状部30に相当する個所を1つずつ含む4つ)を設定し、換言すると、先端面29において各領域31を少なくとも1つ含む複数の区画個所28d(本実施例としての図17では各々が領域31を1つずつ含む4つ)を設定する。
次に、図17に示すように、針状電極21の先端部28における4つの延在柱部分28cを除く個所(32)、すなわち先端面29における4つの区画個所28dを除く個所(32a(図16に十字状の2点鎖線参照))を、Z軸方向から針状電極21のエッチングが可能な強度の集束イオンビームIbで照射する。この照射による除去加工の方法は、上記したように、先端面29において一方の周縁部から中心を経て他方の周縁部へと至るように行い(矢印A4および矢印A5参照)、照射個所の加工状況に応じて適宜ドーズ量を調整する。当該照射方法で先端面29における4つの区画個所28dを除く個所(32a(図16に十字状の2点鎖線参照))を満遍なく照射するように走査(本実施例では上述したラスタースキャン)することにより、本実施例では、4つの延在柱部分28c(区画個所28d)を除く個所が除去されて分割溝部分44が形成され、先端部28が分割溝部分44により4つの延在柱部分28c(区画個所28d)に分割される。
この集束イオンビームIbの走査により、針状電極21の先端部28は、Z軸方向で見て略等しい深さの分割溝部分44により平坦面である先端面29の一部である区画個所28dを先端に有する4つの延在柱部分28cに、すなわち互いに等しい長さ寸法(Z軸方向で見て)でかつ等しい先端形状の4つの延在柱部分28cに分割されることとなる。このように、ここまでの工程、すなわち、各領域31およびそこに対応する各延在柱部分28cを設定し、先端面29へのZ軸方向からの集束イオンビームの照射により先端部28の除去加工を行うことが、本発明の電界放出型電子銃の製造方法において、針状電極21の先端部28の各領域31を先端としてZ軸方向に延在する複数の延在柱部分28c(本実施例では4つ)に分割する先端照射分割工程となる。
この先端照射分割工程の後、Z軸方向から各延在柱部分28cに集束イオンビームIbを照射して、各延在柱部分28cにおいて所定の領域31のみが残存するように走査し、すなわち各延在柱部分28cの先端面(28d)において領域31を除く総ての領域を走査する。これにより、針状電極21の先端部28では、各領域31を先端面としてZ軸方向に延在する個所(2点鎖線で示す符号30参照)のみが残存されることとなり、この各残存個所が複数(本実施例では4つ)の針状部30(図18および図19参照)となる。このように、先端照射分割工程の後、集束イオンビームIbの照射による各延在柱部分28cに部分的な除去加工(エッチング加工)を行うことが、本発明の電界放出型電子銃の製造方法において、先端照射分割工程により分割された各延在柱部分28cを各領域31に適合する所望の外形形状に整えて各針状部30を成形する針状部整形工程となる。なお、この針状部整形工程は、先端照射分割工程で形成された各延在部分を所望の外形形状に整えて各針状部を形成する工程であることから、先端照射分割工程で形成された各延在部分が各針状部として適当な外形形状を呈していれば、行わなくてもよい。また、針状電極21(エミッタ電極)の延在方向に対する集束イオンビームの照射方向の変更は、集束イオンビーム照射装置(図示せず)からの集束イオンビームの出射方向を変更することでも実行することが可能であるが、針状電極21(エミッタ電極)の姿勢を適宜変更することで容易に実行することができる。このように針状電極21(エミッタ電極)の姿勢を適宜変更することにより針状電極21(エミッタ電極)の延在方向に対する集束イオンビームの照射方向を変更する場合、図2に示すTFE電子銃20として組み付けられた状態のまま行うことができ、より容易にかつ針状電極21(エミッタ電極)を傷めることなく姿勢変更を行うことを可能とする。
ここで、実際に本発明に係る製造方法を実施したところ、図18および図19(写真)に示すように、針状電極21の先端部28に4本の針状部30を形成することができた。図18および図19の例は、先端照射分割工程において、針状電極21の先端面29に4個所の等しい面積の領域31を格子状に設定(図16参照)したものである。ここで、図18に示すように、各針状部30は、先端が略等しい面上に位置している。これは、針状部形成工程の先端照射分割工程に先立って平坦面形成工程で針状電極21に先端面29を形成することにより、先端照射分割工程で形成される各延在柱部分28cの先端に相当する個所が平坦な先端面29として予め均一に形成されていることによる。また、各針状部30は、略等しい長さ寸法(図18参照)で、かつ略等しい径寸法とされている(図19参照)。これは、集束イオンビームによるイオン照射スポットは、数nm〜数十nmの直径寸法であるとともに、このイオン照射スポットによる照射位置を適宜設定することができることによる。
このように、集束イオンビームは極めて狭い範囲を照射することができることから、本発明の電界放出型電子銃の製造方法では、所定の領域31を極めて小さく設定して、当該各領域31を除く個所を取り除くように除去加工を施せば、極めて細い針状部30を針状電極21の先端面29に形成することができる。
よって、本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法では、針状電極21の先端部28にエッチング加工を施して、極めて細い複数の針状部30を針状電極21の先端部28に形成することができる。なお、図18の例では、エミッタ電極としての針状電極21の先端部28に4本の針状部30を形成したが、例えば、図1に示す電子ビーム源1のように互いに等しい9本の針状部を格子状に形成してもよく、上記した例に限定されるものではない。
このようにして製造されたTFE電子銃20は、エネルギー幅の極めて微小なビームを高輝度に発生させることができ、極めて細く絞った電子ビームスポットに大きな値の電子ビーム電流を流すことができる。
本実施例の電子ビーム照射装置10では、図1に示すように、電子ビーム源1がエミッタ電極としての針状電極21(図3および図4参照)の先端に等間隔3×3すなわち縦3列、横3列で正方形を描く9個(図20(a)参照)の微細な針状部30とされてフィールドエミッションアレイを構成している。ここで、本実施例では、9個の針状部30が描く正方形の一辺が略1μmとされており、後述する複数の電子ビーム源による電子ビーム発生領域の直径寸法すなわち電子ビーム源1の複数の針状部30(本実施例では9つ)の設定領域の直径寸法Dが1μm強(略1.4μm)とされている。
なお、フィールドエミッションアレイの各針状部30は、1列でも任意の行列数でもよい。すなわち、フィールドエミッションアレイの複数の電子ビーム源(各針状部30)は、縦横3個ずつの合計9個である必要はなく、縦横2個ずつ配置された電子ビーム源でもよく、縦横4個、5個、・・・であってもよい。さらに、正方形状に配置される必要もなく、縦横2個×3個、3個×4個、・・・であってもよく、円形状(図20(b)参照)に配置されていてもよい。ここで、電子ビーム源1は、その光軸(各針状部30から出射される複数の電子ビームの中心位置)に対して垂直な面上において、光軸を中心とする点対称をなす配置関係となるように、各針状部30が設けられていることが望ましい。
電子ビーム照射装置10では、図1に示すように、電子ビーム源1の各針状部30から微細な電子ビームが出射され、この電子ビームが第1のコンデンサレンズ2および第2のコンデンサレンズ3を通過する。第2のコンデンサレンズ3を通過した複数の電子ビームは、円形の破線で囲まれた範囲を拡大して示しているように、各々が縮小されてウェハ等の試料5の面上に1個の微小なスポット(照射領域)を形成する。
電子ビーム源1のフィールドエミッションアレイの各針状部30は、電子ビーム源1からの電子ビームが試料5の面上に結像する領域と、電子ビームの収差等によるボケとを略同等にするように構成または設定されている。言い換えると、縮小光学系(電子光学系)のトータル倍率(縮小系)をβ、光源における、複数の電子ビーム源を含めた大きさをD、収差などを含めた縮小光学系のスポット径(光源を1個の無限小の線源とした場合)をdとして、d>β*Dを満たすように構成または設定されている。このようにすれば、複数の電子ビーム源は、試料5の面上で重畳する。
図21は、複数の電子ビームが重畳された様子を模式的に示す正面図である。電子ビーム照射装置10では、縦横3個×3個のフィールドエミッションアレイとされた電子ビーム源1の各針状部30(図20(a)参照)からの電子ビームが第2のコンデンサレンズ3を通過することにより、各針状部30からの各電子ビームが縦横3個×3個の各照射領域Bで試料5の面上を照射することとなり、各照射領域Bの周囲にはボケの領域S(ボケの径またはボケのスポット径)が生じている。電子ビーム照射装置10では、前述した構成または設定により、電子ビーム源1の各針状部30からの各電子ビーム(B)のボケの範囲Sが、各電子ビームの照射範囲Bの間の隙間を埋めることとなる。換言すると、電子ビーム照射装置10では、電子ビーム源1の9つの針状部30から出射された9つの電子ビームの照射領域のそれぞれが試料5の面上でぼやけて、あたかも1つのビームが作り出した1つの点状の照射領域T(図21の二点鎖線参照)で試料5の面上を照射することとなる。なお、図21の下方に示すグラフは、電子ビーム源1からの電子ビームの強度分布を模式的に示しており、小さな山は各電子ビームによる照射領域Bの強度分布を示し、大きな山は各電子ビームが重ねられて形成された電子ビーム源1からの電子ビームの強度分布、すなわち1つの点状のビームとして試料5の面に照射される照射領域Tの強度分布を示している。
ここで、電子ビーム照射装置10では、複数の電子ビーム源による電子ビーム発生領域の直径寸法すなわち電子ビーム源1の複数の針状部30(本実施例では9つ)の設定領域の直径寸法Dと、電子ビーム源1から出射された電子ビームが1つの点状のビームとして試料5の面を照射する照射領域Tの直径寸法d(スポット径の直径寸法)との比が所望の割合であるように構成されている。ここで、直径寸法Dが電子ビーム源1の複数の針状部30の設定領域であることから、上記した本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法の先端照射分割工程において所定の領域31(図16参照)を設定する際に、試料5の面上での電子ビーム源1からの電子ビームによる照射領域Tを勘案することで、容易に直径寸法Dと直径寸法dとの比を所望の割合とすることができる。また、平坦面形成工程において、照射領域Tを勘案して設定された所定の領域31(図16参照)に基づいて、先端面29の径寸法を設定することは言うまでもない。
これにより、電子ビーム照射装置10では、電子ビーム源1の各針状部30から出射された複数の電子ビーム(本実施例では9つ)が、試料5の面上ではあたかも1つの点状ビームによる照射領域Tを形成する構成であるので、従来の電子ビーム照射装置に比較して、小さなビーム径でも大きな電子ビーム電流を得ることができる。
また、本発明に係る製造方法では、上記したように、平坦面形成工程でエミッタ電極の先端に平坦な先端面を形成し、先端照射分割工程で先端面に集束イオンビームを照射して除去加工することにより先端部を分割することにより、エミッタ電極をエッチングしてその先端に針状部を形成するものであることから、使用された電界放出型電子銃(FEG)を再生するために適用することができる。この電界放出型電子銃(FEG)の再生方法について、以下に説明する。
電界放出型電子銃(FEG)は、使用されることにより、電子が放出されるエミッタ電極の先端が当初成形された状態から変化することが知られている。電界放出型電子銃(FEG)では、極めて細く形成されたエミッタ電極の先端に強い電界をかけることにより、エミッタ電極の先端から電子を放出させるものであることから、エミッタ電極の先端が磨耗すると、出射される電子ビームの特性が当初設定された特性から変化したり、電子ビームを出射できなくなったりしてしまう。そこで、使用によりエミッタ電極の先端が磨耗した電界放出型電子銃(FEG)を回収し、エミッタ電極を取り出す。ここで、取り出すエミッタ電極は、電位差を与えられることにより電子が放出される側の電極であり、上記した実施例では針状電極21(図3参照)がこれに相当する。また、例えば、特許文献5のようなフィールドエミッション型の電子銃では、後述するように、各陰極電極をエミッタ電極とみなすことができ、あるいは各陰極電極が設けられた導電性基板をエミッタ電極とみなすことができる。
先ず、取り出したエミッタ電極に対し平坦面形成工程を行う。すなわち、エミッタ電極の先端部にX−Y平面に沿う方向から集束イオンビームを照射して、エミッタ電極の先端を平坦面とする。ここで、先端面に対して垂直な方向が針状部の延在方向となることから、このことを勘案して先端面を形成することが望ましい。
次に、先端照射分割工程を行う。すなわち、エミッタ電極の先端面に複数の所定の領域(所定の領域31に相当)と、当該領域を少なくとも1つ含む延在柱部分(延在柱部分28cに相当)と、その延在柱部分に対応する先端面における複数の区画個所(区画個所28dに相当)とを設定する。その後、集束イオンビームの特性を考慮しつつエミッタ電極の先端面に集束イオンビームをZ軸方向から照射し、先端面における複数の区画個所を除く個所を満遍なく照射するように走査する。これにより、エミッタ電極の先端に複数の延在柱部分を形成することができ、当該各延在柱部分に適宜針状部整形工程を実行することにより、エミッタ電極の先端に針状部を形成することができる。この先端照射分割工程の際、所定の領域は、FEGを動作させた際に所望の電子ビームの特性を得ることができるように、少なくとも2つ以上設定すればよい。ここで、上記したTFE電子銃20と同様の設定として電子ビーム照射装置10の電子ビーム源1に適用すると、電子ビーム照射装置10と同様に複数の針状部から出射された複数の電子ビームが、試料の面上では1つの点状ビームを形成する構成とすることができることはいうまでもない。
よって、本発明に係る製造方法を適用すれば、エミッタ電極の先端の磨耗により所望の特性の電子ビームを出射することができなくなった電界放出型電子銃(FEG)を再生、再利用することができる。このように、本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法を適用した再生方法では、使用によりエミッタ電極の先端が磨耗してしまった電界放出型電子銃(FEG)をエミッタ電極の先端に所望の針状部を形成することができ、電界放出型電子銃(FEG)すなわちそれを備える荷電粒子ビーム装置の再生利用を可能とする。
なお、上記した本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法を適用した再生方法の例では、使用によりエミッタ電極の先端が磨耗してしまった電界放出型電子銃(FEG)を回収して再生していたが、エミッタ電極の先端が磨耗したものに限定されるものではなく、例えば、出射される電子ビームの特性を変化させることに利用することもできる。また、本発明に係る再生方法は、本発明に係る製造方法の一適用例である。
以上説明したように、本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法では、エミッタ電極の先端部のエッチング(除去)加工の手段として、集束イオンビームの照射による除去加工を用いることから、エミッタ電極の先端部が極めて細い微少な個所であるにも拘わらず、互いに独立して電子ビームの出射方向に伸長する複数の針状部を形成することができる。これは、集束イオンビームによる照射スポットは、電子ビームの出射個所として求められる大きさ寸法に対して極めて小さな数nm〜数十nmの直径寸法であることによる。このことから、本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法では、所定の領域31を極めて小さく設定して、当該各領域31を除く個所を取り除くように除去加工(エッチング加工)を施せば、エミッタ電極の先端(上記した実施例では、針状電極21の先端部28)に極めて細い複数の針状部を形成することができる。
また、本発明に係る製造方法では、平坦面形成工程で針状電極21に平坦な先端面29を形成してから、先端照射分割工程で設定した各領域31を含む領域(28d)毎に分割して各延在柱部分28cを形成して、各針状部30を形成することから、所定の領域31を極めて小さく設定した場合であっても、各針状部30の先端をX−Y平面と平行な同一の平面(基準平面)上に位置させることができる。ここでの基準平面とは、X−Y平面と平行であれば、サプレッサー電極22から見た各針状部30までの間隔に基づいて設定するものであってもよく、加速電極から見た各針状部30までの間隔に基づいて設定するものであってもよい。
さらに、上記した製造方法では、先端照射分割工程において、針状電極21の延在方向であるZ軸方向からの集束イオンビームの針状電極21の先端面29への照射により除去加工を行っていることから、各領域31を設定した位置に正確に合致させて各針状部30を形成することができる。
上記した製造方法では、先端照射分割工程において、集束イオンビームで先端面29を走査する際、集束イオンビームの照射による除去加工の特性を考慮した照射方法を採用し、かつ集束イオンビームのドーズ量を適宜調整しているので、再付着により生じる深さ寸法の差異をなくすことができ、所望の形状の各針状部30を形成することができる。このことは、各針状部30がX−Y平面に沿う方向で見た互いの間隔に対してZ軸方向で見た長さ寸法が大きい、すなわち各針状部30の形成のために極めて狭い範囲を深く掘り下げるように(高いアスペクトレシオで)先端部28を除去加工する必要があることに対し、集束イオンビームの一様な照射による除去加工では再付着により照射領域の中心個所を深くすることが困難であることから、特に有効である。
本発明に係る製造方法では、平坦面形成工程、先端照射分割工程および針状部整形工程のいずれも集束イオンビームを用いることから、製造のための設備を簡易なものとすることができ、製造コストの増加を抑制することができる。
本発明に係る製造方法では、針状電極21の先端部28が全体に錐体形状とされていることから、平坦面形成工程において、Z軸方向で見た形成位置を適宜調節することで、容易かつ適切に、電子ビームの特性に応じて設定される針状部30(所定の領域31)に適合する径寸法とすることができる。
本発明に係る製造方法では、平坦面形成工程と先端照射分割工程とで、集束イオンビームでエミッタ電極の先端面を照射する際のエミッタ電極に対する集束イオンビームの照射方向(エミッタ電極の姿勢を適宜変更することで容易に実行することができる)を変更すればよいことから、大掛かりな製造のための設備を必要とすることはなく、製造コストの増加を抑制することができ、製造の工程を容易なものとすることができる。
本発明に係る製造方法では、集束イオンビームの照射による除去加工を用いることにより、極めて細い微少な個所であるエミッタ電極の先端部に、互いに独立して電子ビームの出射方向に伸長する複数の針状部を形成するものであることから、既存のエミッタ電極を簡易な方法で超微細加工することができる。特に、上記した実施例では、エミッタ電極に平坦な先端面を形成(平坦面形成工程)した後、集束イオンビームをZ軸方向からエミッタ電極の先端面に照射して適宜走査する(先端照射分割工程)ことにより、エミッタ電極の先端に所望の針状部を形成するものであることから、既存のエミッタ電極を簡易な方法で超微細加工することができる。このことから、本発明に係る製造方法を適用することにより、エミッタ電極の再生利用、このエミッタ電極を有する電界放出型電子銃(FEG)、およびこれを備える荷電粒子ビーム装置の再生利用を可能とすることができる。
上記した実施例では、FIB−CVD(集束イオンビームを用いた化学蒸着法)を行うことができる装置を用いて集束イオンビームの照射による除去加工を行っていることから、加工表面の形状をリアルタイムで確認しつつ除去加工を行うことができるので、製造工程に要する時間を短縮できるとともに、互いに独立して電子ビームの出射方向に伸長する複数の針状部をより正確に形成することができる。
電子ビーム照射装置10では、複数の荷電粒子ビームが前記試料上で1つの点状ビームとされるので、従来の荷電粒子ビーム装置に比較して、小さなビーム径であっても大きな荷電粒子ビーム電流を得ることができる。
電子ビーム照射装置10では、試料面上では、複数の荷電粒子ビームが縮小され、かつ重畳されて、1個のスポットを形成することができ、荷電粒子ビーム源からの荷電粒子ビームが試料上に結像する領域と、荷電粒子ビームの収差等によるボケとを略同等にすることができる。数式で表すと、縮小光学系のトータル倍率(縮小系)をβ、光源における、複数の荷電粒子ビーム源を含めた大きさをD、収差などを含めた縮小光学系のスポット径(光源を1個の無限小の線源とした場合)をdとすれば、d>β*Dを満たすようにすれば、複数の荷電粒子ビーム源は、試料面上で重畳することになり、荷電粒子ビーム源からの荷電粒子ビームが試料上に結像する領域と、荷電粒子ビームの収差等によるボケとを略同等にするように構成することができる。
本発明に係る製造方法により形成された電界放出型電子銃(FEG)およびこれを備える電子ビーム照射装置10では、出射される電子ビームのスポット(照射領域)を極めて細く絞ることができると共に、このスポットで大きな電子ビーム電流を流すことができる。
電子ビーム照射装置10では、複数の荷電粒子ビーム源による荷電粒子ビーム発生領域の直径と、荷電粒子ビームが試料上に収束されたときのスポット径との比が所望の割合であるように構成することができる。これにより、複数の荷電粒子ビームが縮小され、かつ重畳されて、1個のスポットを形成することができる。
電子ビーム照射装置10では、試料面上では、複数の荷電粒子ビームが縮小され、かつ重畳されて、1個のスポットを形成することができ、複数の荷電粒子ビーム源からの複数の荷電粒子ビームが試料上に収束された理想的な大きさを、荷電粒子ビームの収差等によるボケの範囲以下とすることができる。
したがって、本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法によれば、簡易な方法でエミッタ電極に極めて細い針状部を形成することができる。
なお、上記した実施例では、平坦面形成工程の後の針状部形成工程における分割工程として、Z軸方向からの集束イオンビームの照射による除去加工によりエミッタ電極(上記した実施例では針状電極21)の先端部を分割して複数の針状部を形成する先端照射分割工程を行うものであったが、上記した実施例に限定されるものではない。この分割工程としての他の例を側面照射分割工程とし、この側面照射分割工程について以下で説明する。
側面照射分割工程では、先端照射分割工程と同様に、先端面29に少なくとも2つ以上(この例では先端照射分割工程と同様に4つとする)の所定の領域31を設定する(図16参照)。この後、先端照射分割工程とは異なり、図22に示すように、各領域31からZ軸方向に延在する複数の延在領域(30)を設定する。この複数の延在領域(30)が、各領域31を先端としてZ軸方向に延在する針状部30の存在位置となる個所(針状部30として残存される個所)である。その後、先端照射分割工程と同様に、延在領域(30)を少なくとも1つ含む延在柱部分(この例では、各々が1つの延在領域(30)を含む4つの延在柱部分28c´)を設定する。
次に、針状電極21の先端部28における各延在柱部分28c´を除く個所に、X−Y平面に沿う方向から針状電極21の先端部28の側面28eに向けてかつ針状電極21の中心を通るように集束イオンビームIb´を照射する。この集束イオンビームIb´は、先端照射分割工程の集束イオンビームIbと同様に針状電極21のエッチングが可能な強度とされる。この集束イオンビームIb´の照射による除去加工の方法は、上記した実施例と同様に、集束イオンビームの照射による除去加工の特性を考慮しつつ行う。すなわち、集束イオンビームIb´の照射位置を、針状電極21の先端部28の側面28eにおいて、先端面29側からZ軸方向に沿って移動させ(矢印A6および矢印A7参照)、かつ照射個所の加工状況に応じて適宜ドーズ量を調整する。この側面照射分割工程では、先端照射分割工程とは異なり、集束イオンビームIb´の照射による除去加工により、X−Y平面に沿う方向から針状電極21の先端部28の側面28e向けて照射していることから、針状電極21の中心を通りつつ当該針状電極21を貫通させつつ先端面29側からZ軸方向に沿って移動させる(矢印A6および矢印A7参照)。このように移動させることにより、X−Y平面に沿う(針状電極21の側面に略直交する)方向からの集束イオンビームIb´に対する加工表面の照射角度が常に大きくなるので、除去加工に要する時間を短縮することができる。また、加工表面から除去加工が施されることにより除去された先端面29および側面28eに相当する個所が、はじき出された原子が針状電極21の外方への除去排出空間として機能することとなるので、常に加工表面に通じる除去排出空間が形成されていることとなり、除去加工の際に再付着に起因して加工深さ寸法を長くすることができなくなることを防止することができる。
側面照射分割工程では、上記した照射方法で、先端部28における4つの延在柱部分28c´を除く個所(符号44´で示す分割溝部分に相当する箇所)を満遍なく照射するように走査する。詳細には、この例では、延在領域(30)が、先端面29において4つの等しい円形状の領域31が互いに等間隔にかつ先端面29の中心から等間隔に設定された各領域31からZ軸方向に延在するように設定されていることから、針状電極21の中心軸線を通りつつ各延在領域(30)を避けるように、針状電極21の側面に対して互いに直交する2つの方向から走査される(矢印A6および矢印A7参照)。この走査の一例として、矢印A6および矢印A7を帯状の走査のフレーム走査方向としてラスタースキャンを行う。この針状電極21の側面に対する2つの方向からの走査の際、針状電極21をX−Y平面に沿って貫通するように集束イオンビームIb´の照射による除去加工を行う。この集束イオンビームIb´の走査により、4つの延在柱部分28c´を除く個所が除去されて分割溝部分44´が形成され、先端部28が分割溝部分44´により4つの延在柱部分28c´に分割される。この工程、すなわち、各領域31を設定し、各領域31からZ軸方向に延在する複数の延在領域(30)を設定し、延在領域(30)を少なくとも1つ含む延在柱部分(この例では、各々が1つの延在領域(30)を含む4つの延在柱部分28c´)を設定し、X−Y平面に沿う方向からの集束イオンビームの照射により先端部28の除去加工を行うことが、本発明の電界放出型電子銃の製造方法において、針状電極21の先端部28を、各領域31を先端としてZ軸方向に延在する複数の延在柱部分28c(本実施例では4つ)に分割する側面照射分割工程となる。この側面照射分割工程の後、先端照射分割工程を行った場合と同様に、適宜針状部整形工程を実行して、各延在領域(30)を所望の外形形状に整えることにより、各針状部30を形成することができる。
また、上記した実施例では、エミッタ電極の例として針状電極21(図3参照)が示され、本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法により針状電極21の先端部28に複数の針状部30を形成していたが、エミッタ電極は電位差を与えられることにより電子が放出される側の電極であればよく、上記した実施例に限定されるものではない。例えば、エミッタ電極は、図23に示す従来の荷電粒子ビーム装置50に設けられた針状部51であってもよく、特許文献5のようなフィールドエミッション型の電子銃の各陰極電極であってもよく、特許文献5のフィールドエミッション型の電子銃の各陰極電極が設けられた導電性基板であってもよい。これは、特許文献5のようなフィールドエミッション型の電子銃では、各陰極電極の先端から電子が放出されるものであることから、各陰極電極をエミッタ電極とみなして当該各陰極電極の先端に針状部を形成してもよく、導電性基板をエミッタ電極とみなして各陰極電極としての針状部を導電性基板に形成してもよいことによる。なお、特許文献5のような導電性基板をエミッタ電極とみなす場合、導電性基板が板形状であることから針状部を形成したい側の平面を上記した先端面とみなして本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法(上記した実施例では先端照射分割工程、針状部整形工程および側面照射分割工程)を適宜行えばよい。
さらに、上記した実施例の針状部形成工程において、分割工程(上記した例では、先端照射分割工程および側面照射分割工程)の前に、エミッタ電極の先端面の所定の領域に保護膜を形成する針状部先端被覆工程を行う構成としてもよい。この一例を以下で説明する。針状電極21の周辺をカーボン(C)ガス(炭素を含む反応ガス:例えばピレン(C16H10、フェナントレン(C14H10)、ナフタレン(C10H8))の雰囲気とし、この雰囲気中においてZ軸方向から集束イオンビームで針状電極21の先端面29における各領域31のみを行き渡るように局所的に照射する。この集束イオンビームは、カーボン(C)を堆積させるに足りる強度とする。これにより、針状電極21の先端面29にその垂直方向から見て所定の領域31を覆うようにカーボン(C)を堆積させることができ、このカーボン(C)が後述するように保護膜として機能する。このカーボン(C)は、荷電粒子ビームを用いて各領域31に設けられたデポジション膜となる。ここで、集束イオンビームは、極めて小さな領域であっても局所的に照射することが可能であることから、極めて小さな所定の領域31を覆うカーボン(C)を針状電極21の先端面29に堆積させることができる。なお、この針状部先端被覆工程における集束イオンビームの強度は、針状電極21のエッチングを意図しない強度、すなわち針状電極21へのダメージを極力少なくすることができる強度とすることが望ましい。この針状電極21の先端面29に堆積されたカーボン(C)は、集束イオンビームIbが針状電極21にダメージを与えることを防止する、すなわち保護膜として機能する。しかしながら、実際に、タングステン単結晶からなるエミッタ電極の先端面の所定の領域にカーボン(C)を堆積させることなく、本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法を実施したところ、FIB照射による結晶ダメージ等の影響を受けることなく、適切な形状および強度の針状部を形成することができたことから、タングステン単結晶からなるエミッタ電極に本発明に係る電界放出型電子銃の製造方法により互いに独立してZ軸方向(電子ビームの出射方向)に伸長する複数の針状部を形成する場合、針状部先端被覆工程は行わなくてよい。なお、このFIB照射による結晶ダメージ等の影響の有無は、使用開始前に高温で加熱処理を行う工程で確認することができた。
上記した実施例の側面照射分割工程は、集束イオンビームの照射による除去加工の際、針状電極21の側面に対して互いに直交する2つの方向から針状電極(エミッタ電極)の先端部を貫通することにより、当該先端部を4つの延在柱部分28cに分割するものであることから、針状電極21の側面を一方の方向から照射した後、針状電極21を90°回転させて他方の方向から照射することで容易に実行することができる。このことから、例えば、針状電極(エミッタ電極)の先端部を6つの延在部分に分割する場合、針状電極を適宜60°回転させることで容易に実行することができ、針状電極(エミッタ電極)の先端部を8つの延在部分に分割する場合、針状電極を適宜45°回転させることで容易に実行することができる。
上記した実施例では、平坦面形成工程および針状部形成工程(先端照射分割工程、針状部整形工程、側面照射分割工程)を行うことにより、エミッタ電極(針状電極21)の先端部28に複数の針状部30を形成していたが、集束イオンビームを照射して生じる物理的なスパッタリング現象による加工を利用した除去加工により、先端部に互いに独立しかつ電子ビームの出射方向に伸長する複数の針状部を形成するものであればよく、上記した実施例に限定されるものではない。ここで、平坦面形成工程は、形成する複数の針状部の先端を容易に同一平面上に位置させることができることから、採用することが望ましい。また、針状部形成工程の分割工程(先端照射分割工程および側面照射分割工程)は、複数の針状部を形成する際の除去加工に要する時間を削減する一例であることから適宜採用すればよい。
上記した実施例では、針状部形成工程(特に先端照射分割工程および側面照射分割工程)において、集束イオンビームの照射による除去加工の特性を考慮した一例としての照射方法が採用されていたが、再付着の問題を避けるように集束イオンビームの照射による除去加工を行うものであればよく、上記した実施例に限定されるものではない。
上記した実施例では、熱陰極電界放射型(TFE)の電子銃が示されていたが、電界放出型電子銃(FEG)であれば、例えば、冷陰極電界放射型(CFE:Cold Field Emission)の電子銃であっても本発明の電界放出型電子銃の製造方法を適用することができ、上記した実施例に限定されるものではない。
上記した実施例では、電子ビーム照射装置として走査電子顕微鏡が示されていたが、本発明の電界放出型電子銃の製造方法により製造された電界放出型電子銃(FEG)を備えるものであれば、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)、描画装置、半導体製造・検査装置等であってもよく、上記した実施例に限定されるものではない。
上記した実施例では、集束イオンビームを照射して生じる物理的なスパッタリング現象による加工を利用した除去加工により、平坦面形成工程および針状部形成工程(先端照射分割工程、針状部整形工程、側面照射分割工程)を行っていたが、上記した実施例に限定されるものではなく、集束イオンビームの照射に際し反応性ガスを用いて行うアシストエッチングとすることができる。この一例として、タングステン(W)からなるエミッタ電極にXeF2(フッ化キセノン)ガスを用いてアシストエッチングを行った場合、物理的なスパッタリング現象による加工を利用した除去加工に比較して略7倍程度の加工速度を得ることができるとともに、反応生成物であるWF6(フッ化タングステン)は揮発性があることから再付着の問題が生じることがないので、各針状部の形成のために極めて狭い範囲を深く掘り下げるように(高いアスペクトレシオで)先端部を除去加工することが可能である。