JP5143576B2 - かつら - Google Patents

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本発明はかつらに係り、特に、かつらベースがネット部材から成るかつらに関する。
従来、かつらは、ネットや人工皮膚などのかつらベースに天然毛髪や人工毛髪などの毛髪を植設することにより作製される。人工皮膚で作製されるかつらは、ネットで作製されるかつらと比較すると、形状保持性には優れるが通気性が劣ることがある。快適さを追求するかつらにおいて、通気性の確保は重要な要素である。そのため、特許文献1の図2や特許文献2に開示されているように、同一形状の網目からなるネットが一面に張られて作製されるかつらも多い。
特開平7−229009号公報 特開平9−273016号公報
しかしながら、ネットからなるかつらベースに毛髪を植設して成るかつらは、毛髪が倒れてしまうことにより、意図しない不自然な髪の分け目、すなわち毛割れが生じて、所望のへアスタイルが作れなくなることがある。また、毛割れによりその部分のネットが露見し、かつらの装着が他人に知られてしまうという問題がある。以下、詳説する。
通常、毛髪はネット網目のうち縦糸もしくは横糸の一方に結びつけることで所定の間隔をあけて規則的に植設される。植設は通常手作業で行われ、一定方向に毛髪を引っ張ることで結びつけられるから、植設された毛髪は結びつけられたネットを構成する糸に対して垂直な一定の方向へ向かう方向性を有する。このような植設方法によれば、植設された毛髪が同一方向に規則正しく並ぶので、上方向からの力が何度か加わると毛髪が立ち上がらずに寝てしまうことがある。
毛髪が立ち上がり、ボリュームが出ている場合には毛割れは発生しにくい。また、毛先をスタイリングすることで毛割れを露見させないようにすることが可能である。しかし、植設した毛髪が立ち上がらずに寝てしまうと、毛髪が根元から分かれ易くなる。また、毛髪が寝ている場合、一度毛割れが発生すると、スタイリングにより修正しても、時間が経過すると毛割れが再度発生してしまうことが多い。
ここで、特許文献2の図8に開示されているように、ネット部材の縦糸及び横糸に複数本の毛髪を植設する方法も考えられる。このように毛髪を植設したかつらによれば、従来のかつらに比べ毛量が多くなり、植設した毛髪が立ち上がるので、上述したように毛髪が立ち上がらないことによる毛髪の根元付近に発生する毛割れを防ぐことができる。しかし、このようなかつらでは必要以上に毛量が多くなってしまう。
また、他の問題として、ネットで作製されるかつらは、長期間使用していると、かつら脱着時に生じる引っ張り荷重によって、ネットを構成している縦糸または横糸が伸びてしまい、ネットにシワが生じることがある。このようにしてネットに生じたシワは、かつら自体の形状が歪む原因となるとともに、シワをきっかけとしたネットの破損を生じやすくする。このシワの発生の原因は、ネットを、縦糸又は横糸に平行な方向に引っ張った場合に、その平行な糸自体が伸びてしまい、歪みが生じてしまうことにある。
このようなシワはフィット感の低下、ネットの破損、かつらの変形等の原因となり、さらに、このシワを境として両側の毛髪に互いに背反する指向性が生じ、毛髪が背反する方向に倒れてしまうことにより、意図しない不自然な髪の分け目、すなわち毛割れが生じてしまうことがある。
一方、ネットのシワを防ぐために、2枚以上のネットを重ねてかつらを作製することもなされているが、ネットを重ねることでかつらが厚くなり、装着感の低下や通気性の低下などの原因となる。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ネットで作製されたかつらベースを使用し、毛割れやシワが生じにくいかつらを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明のかつらは、ネット部材からなるかつらベースに複数の毛髪が植設されて成るかつらであって、ネット部材が、糸の方向の異なる複数の網目が規則的に連接されてなることを特徴とする。
また、ネット部材は、糸の方向の異なる網目パターンが規則的に連接されてなることが望ましい。
さらに、ネット部材は、隣接する網目パターン同士の網目形状が異なることが望ましい。
ネット部材は、二種類の網目パターンが市松模様状に連接されてなるものであってもよい。その場合、二種類の網目パターンは、六角形の網目を有する網目パターンと八角形の網目を有する網目パターンとからなることが望ましい。
ネット部材は、三種類以上の網目パターンが碁盤目状に連接されてなるものであってもよい。
ネット部材は、隣接する網目パターン同士の間に連結部を備えることが望ましい。この場合、連結部に用いられるネット編成糸の径は、網目パターンを構成する他の部位のネット編成糸の径よりも太くなっていることが望ましい。
網目パターン同士の境により画成される1つの区画は3.0cm×3.0cm以下であることが望ましい。
本発明のかつらによれば、ネット部材が、糸の方向の異なる複数の網目が規則的に連接されてなることにより、異なる網目の相互間でネット部材にかかる力が分散され、シワが生じにくい。
糸の方向の異なる網目パターンが規則的に連接されている場合、特に隣接する網目パターン同士の網目形状が異なる場合には、二種類の網目パターンが市松模様状に連接される場合や、三種類以上の網目パターンが碁盤目状に連接されてなる場合のいずれであっても、異なる網目パターンの相互間でネット部材にかかる力が分散され、シワが生じにくい。
六角形の網目を有する網目パターンと八角形の網目を有する網目パターンとは、糸の方向が全て異なるため、特にシワが生じにくい。
隣接する網目パターン同士の間に連結部を備え、特に連結部に用いられるネット編成糸の径が網目パターンを構成する他の部位のネット編成糸の径よりも太くなっている場合には、この連結部においてネット部材にかかる加重が吸収され、シワが生じにくい。
網目パターン同士の境により画成される1つの区画が3.0cm×3.0cm以下である場合は、特にシワが生じにくい。
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1乃至4は、第一乃至第四の実施形態に係るかつらの一部を模式的に示す平面図である。かつら1,12,13,14は、ネット部材2,22,23,24からなるかつらベースに複数の毛髪が植設されて成るものである。なお、図はネット部材の一部を拡大して示し、毛髪及びかつら全体は図示を省略している。
ネット部材はフィラメントと呼ばれる糸がほぼ平面状に織られてなるものであるが、フィラメントの編み込みにより平面的に閉じられた最小単位を「網目」という。また、同一形状の網目の集合を「網目パターン」という。さらに、網目パターンがある境界線を境に異なる場合、この境界線により画成される同一の網目パターンからなる領域を、「区画」という。
ネット部材2,22,23,24はいずれも、糸の方向の異なる網目パターンが規則的に連接するよう織られてなり、より具体的には、四角形、六角形または八角形の網目を有する各網目パターンが市松模様状または碁盤目状に連接されてなることを特徴としている。ネット部材は、例として図6(A)に第四の実施形態に係るかつらに用いられるネット部材の拡大写真を示すように、面内に碁盤目状の区画が画成されており、それぞれの区画のフィラメントの織り方、すなわち網目パターンが、隣接する区画と異なっている。このように複数の織り方が連続的になされたネットは各種販売されており、これらを適宜利用することができる。
説明の都合上、図1乃至4において、マス目状に画成された区画の列をA、B、C・・・とし、同様に行をa、b、c・・・とする。各区画内に表示されている数字「4」、「6」および「8」は、その区画内における網目の辺の数を表し、「四角形」、「六角形」および「八角形」であることを示している。また、区画同士が一辺を共有することを隣接、一角を共有することを点接と表現する。なお、隣接には、区画同士が連結部を介して接続されている場合を含む。
隣接するパターンの網目形状が異なり、糸の方向が異なることにより、かつらベースを引っ張った場合であっても引っ張り応力が分散され吸収されるから、シワの発生を防ぐことができる。
また、糸の方向が異なることにより、その糸に植設された毛髪の指向性が異なることとなり、毛割れを防ぐことができる。これについて以下詳説する。ネット部材のフィラメントに毛髪を植設すると、植設された毛髪はフィラメントに対し垂直で、かつネット部材に対し植設時の引っ張り方向に傾く指向性を有する。仮に、図7(A)に毛髪及びその指向性を矢印で表現して示すように、毛髪を四角形の網目Sの4辺すべてに植設すると共に、隣接する区画の八角形の網目Tの8辺すべてに植設した場合、八角形の網目Tに植設した4方向の毛髪T1、T3、T5、およびT7は四角形の網目Sに植設した毛髪S1、S2、S3、およびS4と同一の指向性をもつが、他の4方向の毛髪T2、T4、T6、およびT8が四角形の網目Sに植設した毛髪S1、S2、S3、およびS4とのいずれとも異なる指向性をもつので、毛髪が相互に交差し寄り掛かるようにして毛髪が立ち上がることにより、毛割れを防止できる。このような毛髪同士の指向性の違いは、隣接する網目パターンが異なる場合に起こるが、特に隣接する網目パターンが六角形と八角形の場合、六角形を構成する辺の向きと八角形を構成する辺の向きとがいずれも同一でないから、特に指向性の違いが大きく、六角形と八角形のいずれもそれぞれ任意の一辺ずつに植設した場合であっても、必ず異なる網目パターンに植設された毛髪同士の指向性が異なることとなる。
この時の毛髪同士の状態は、図8に示すように、複数の毛髪Hが根元付近で相互に交差し支え合うようになる。そのため、毛髪が立ち上がると共に、根元付近で弾力的可動範囲20が確保され、毛髪が様々な動きに対応することができるから、毛割れが生じにくい。
また、図7(B)に示すように、四角形の網目Sの4辺すべてに植設するとともに、八角形の網目の4方向のみに植設し、上記八角形に植設した毛髪の4方向中2方向の毛髪T1、およびT5が四角形に植設した毛髪S1、およびS3と同一の指向性をもち、他の2方向の毛髪T2およびT4が異なる指向性をもつようにした場合、四角形と八角形の網目に植設された毛髪の指向性が完全同一でないので、図8に示すように、複数の毛髪Hが根元付近で相互に交差し、支え合うような状態となる。
各実施形態のかつらはいずれもこのような構成をとっており、特別な植設方法に頼らず毛植え技術者が意識せずに公知の植設方法で植設した場合でも毛髪の指向性をバラけさせることができ、さらに、毛割れを防ぐことができる。以下、個々の実施形態に特有の特徴について説明する。
[第一実施形態]
第一実施形態のかつら1はネット部材2をかつらベースとし、ネット部材2にはマス目状の区画が画成されている。一区画は1.5cm×1.5cmであり、一つの区画内に100前後の網目がある。一つの網目は毛髪を植設可能な大きさで、かつ毛髪を植設したあとにネットが露見せず、かつらの装着が視認されないほどの大きさである。
図1に示すように、区画Aa、Bb、Cc、Dd、Ca、Db、Ecなどは、1.5mm角程度の四角形の網目の集合体、すなわち四角形の網目パターンからなる。また、区画Ba、Cb、Dc、Ed、Ab、Bc、Cdなどは対角線が1.5mm程度の八角形の網目の集合体、すなわち八角形の網目パターンからなる。
ここで、八角形の網目パターンからなる区画は、四角形の網目パターンからなる区画に隣接する位置に配設されている。また、同一の網目パターンからなる区画は、角隅同士が点接するように配設されている。すなわち、ネット部材2は、隣接する区画に異なる網目パターンからなる区画が配設され、市松模様状に互い違いになるように構成されている。
このように構成されたネット部材2をかつらベースとして使用すると、区画ごとにフィラメントの方向が異なるから、かつら脱着時に生じる引っ張り荷重、いわゆる荷重ベクトルが直線的に働かず、分散されて吸収される。そのため歪みが生じにくく、ネット部材に生じるシワを防止することができる。また、上述のようにフィラメントに植設された毛髪はフィラメントに対し垂直な指向性を有するところ、隣接する区画とフィラメントの方向が異なるから、何ら意図せず毛髪を植設した場合であっても、植設された毛髪は隣接する区画の毛髪と異なる指向性を有することとなる。そのため、毛髪が立ち上がるから、毛割れが生じにくい。
[第二実施形態]
次に、第二実施形態のかつらについて説明する。
第二実施形態のかつら12は、第一実施形態のかつら1と同様、市松模様状のネット部材22で構成されているが、網目の形状が第一実施形態のかつらと異なる。すなわち、図2に示すように、区画Aa、Bb、Cc、Dd、Ca、Db、Ecなどは六角形の網目の集合体、すなわち六角形の網目パターンからなる。区画Ba、Cb、Dc、Ed、Ab、Bc、Cdなどは八角形の網目の集合体、すなわち八角形の網目パターンからなり、この点は第一実施例のかつらと同様である。
ここで、八角形の網目パターンからなる区画は、六角形の網目パターンからなる区画に隣接する位置に配設されている。また、同一の網目パターンからなる区画は、角隅同士が点接するように配設されている。すなわち、ネット部材22は、隣接する区画に異なる網目パターンからなる区画が配設され、市松模様状に互い違いになるように構成されている。
このように構成されたネット部材22をかつらベースとして使用すると、区画ごとにフィラメントの方向が異なるから、かつら脱着時に生じる引っ張り荷重、いわゆる荷重ベクトルが直線的に働かず、分散され、吸収される。特に、四角形の網目であれば直線的に伸びる縦糸と横糸があるが、六角形や八角形の網目では、フィラメントが複数のマス目にわたって直線的に伸びる部分がない。そのため引っ張りに対して糸自体が伸びることがなく、マス目が変形して対応することができるから、ネット部材に歪みが生じにくく、シワを防止することができる。また、第一実施形態のかつら1と同様、植設された毛髪は隣接する区画の毛髪と異なる指向性を有することとなるから、毛割れの発生を防止することができる。
[第三実施形態]
次に、第三実施形態のかつらについて説明する。
第三実施形態のかつら13は、異なる3種類の網目パターンからなる区画を碁盤目状に構成してなるネット部材23で構成されている。
具体的には図3に示すように、区画Ab、Bc、Cd、Deなどは八角形の網目の集合体からなり、それぞれの区画の角隅が点接する形で配設されている。また、区画Aa、Ac、Ca、Ccなどは四角形の網目の集合体からなり、これらはそれぞれの区画が点接も隣接もしていない。さらに、区画Bb、Bd、Db、Ddなどは植設可能な大きさの六角形の網目の集合体からなり、上記四角形の区画と同様に、それぞれの区画が点接も隣接もしていない。
このように、隣接する区画に糸の方向の異なる網目パターンが配設されていればよく、四角形と六角形と八角形との区画が、それぞれ異なる位置に配設されていてもよい。
このように構成されたネット部材23をかつらベースとして使用すると、区画ごとにフィラメントの方向が異なるから、かつら脱着時に生じる引っ張り荷重、いわゆる荷重ベクトルが直線的に働かず、分散され、吸収される。また、第一実施形態のかつら1と同様、植設された毛髪は隣接する区画の毛髪と異なる指向性を有することとなるから、毛割れの発生を防止することができる。
[第四実施形態]
次に、第四実施形態のかつらについて説明する。
第四実施形態のかつら14は、第一実施形態と同様の構成であるが、図4(A)に示すように、区画間の所定の位置、具体的には図において左右方向2つ置きの区画の間に、前後方向に沿って、連結糸6からなる連結部5が設けられている。すなわち、四角形の網目パターンと八角形の網目パターンとの境目は、例えばA列とB列との境目のように連結部5を介して連結されている部分と、例えばB列とC列との境目のように織り方を変えることによりパターンが変化している部分とがある。
図5(D)において図4(A)の区画Aaの右端付近の一部を例として拡大して示すように、連結部5に用いられているネット編成糸3の径は、他の部位のネット編成糸4の径よりも太くなっている。具体的にはネット編成糸3の径が約0.25mm〜0.3mmとなっており、他のネット編成糸4の径よりも約25%〜50%太くなっている。また、連結部5付近のネット編成糸は補強されて編み込まれている。そのため、画成される網目にひずみが起きるような強い引っ張り荷重が加わっても、過剰な伸びを抑制することでネット全体のシワを防ぐことができる。
連結部5は図4(A)及び図5(D)において前後方向に設けられ、連結糸6は連結部5に用いられているネット編成糸3同士の間で前後方向と直交する方向に2本ずつ配設されている。
なお、連結部5は、図4(B)に示すように左右方向に沿って設けてもよいし、図5(C)に示すように、前後左右の両方向に設けてもよい。また、一区画ごとに連結部5を設けてもよい。
[かつらベースの作製]
次に、かつらベースの作製方法について説明する。いずれの実施形態であっても、作製方法は同様である。
第一工程として、かつら装着者の頭部形状に模した雄型の石膏型10を作製し、図9に示すように石膏型10上に外周線9a、かつら露見防止用帯状ネット取付線9b、および第二の縫い目8bの位置を記入した。
第二工程として、かつら装着者の頭部形状にネットを成形する。まず、かつら作製に必要な線が記入された石膏型10に、第二のネット部材2bを張り付けてステープルで固定する。第二のネット部材2bは、かつらベースとかつら装着者の自毛とを固定するためのかつら装着止め具などを取り付ける部位に縫製されるネットである。次いで、第一のネット部材2aを連結部5が石膏型10の前頭から後頭の前後方向と略平行になるように張り付けてステープルで固定したあと、第一のネット部材2aと第二のネット部材2bの上から熱硬化性ウレタン樹脂溶液を塗布し、加熱温度100℃で8時間乾燥させて成形を行った。ここで、使用した熱硬化性ウレタン樹脂溶液は、日新レジン株式会社製のE−64A(No.1.2.3)を6.5g、E−65BS(No.1)を3.5g、メチルエチルケトンを300.0g混合したものを使用した。石膏型10の冷却後、第一のネット部材2aおよび第二のネット部材2bを石膏型から取り外した。
第三工程として、第一のネット部材2aの外周線付近全周に、かつら外縁部露見防止用帯状ネット7を取り付ける。まず、頭部形状に成形した第一のネット部材2aを石膏型10の形状にあわせて固定した。図9に示す石膏型10に記入したかつら露見防止用帯状ネット取付線9bに沿って、図10に示すように、第一のネット部材2a上にポリエステル製のネットを帯状にしたかつら外縁部露見防止用帯状ネット7を、図11のように外周線9aから2mm突出するように配置し、仮縫製を行なった。次に、第一のネット部材2aを石膏型10から取り外し、図12に示すようにかつら外周線9aから頭頂部方向の内側1mmの位置に印をつけた第一の縫い目8aに沿って、第一のネット部材2aとかつら外縁部露見防止用帯状ネット7を縫製した。最後に仮縫いした糸を取り除いた。
第四工程として、かつら外縁部露見防止用帯状ネット7が縫製された第一のネット部材2aと第二のネット部材2bを一体化してかつらベース1aを作製する。
まず、頭部形状に成形した第一のネット部材2aを石膏型10の形状に合わせて固定した上に、頭部形状に成形した第二のネット部材2bを石膏型10の形状に合わせて固定して、外周線9aから5mm突出する位置を仮縫製した。次に、かつら外縁部露見防止用帯状ネット7を縫製した位置と同様に、第一の縫い目8aに沿って、第一のネット部材2aと第二のネット部材2bを縫製した。続いて、外周線9aから頭頂部方向の内側2cmの位置に印をつけた第二の縫い目8bに沿って、第一のネット部材2aと第二のネット部材2bを縫製した。最後に仮縫いした糸を取り除いた。
第五工程として、かつらベース1の形状を再修正する。まず、かつらベース1aを石膏型10の形状にあわせてステープルで固定した。次に、熱硬化性ウレタン樹脂溶液を染み込ませた綿布を、かつらベース1a上に叩きながら樹脂を塗布し、100℃で4時間乾燥させてかつらベース1aを再付形した。使用した熱硬化性ウレタン樹脂溶液は、日新レジン株式会社製のE−64A(No.1.2.3)を6.5g、E−65BS(No.1)を3.5g、メチルエチルケトンを600.0g混合したものを使用した。
第六工程として、図10に示すように、かつらベース1aの第二のネット部材2bの不要部分を取り除く。具体的には、第二のネット部材2bは、かつらベースとかつら装着者の自毛とを固定するための、かつら装着止め具などを取り付ける部位に縫製されるネットであるので、第二の縫い目8bの頭頂部方向の内側1mmの位置から、頭頂部付近にある第二のネット部材2bを切除した。また、外周線9aに沿って不要な第二のネット部材2bを切除した。
また、上記の作製工程では、第一のネット部材2aの上側に第二のネット部材2bを配置するが、第一のネット部材2aの下側に第二のネット部材2bを配置してもよい。しかし、この場合には第二のネット部材2bの切除部がかつら装着者の頭皮に接すると、痛みやかゆみを誘発する恐れがあるので、レーステープで切除部を覆うように縫製する。なお、上記レーステープはポリエステル製の幅5mm、厚さ0.4mmのレーステープを使用するのがよい。
[かつらベースへの毛髪の植設]
最後に、かつらベース1aに毛髪を植設した。まず、頭部形状雄型に成形したエポキシ樹脂(図示省略)にかつらベース1aを合わせて、画鋲で固定した。次に、ネットの表面から鉤針を挿入して、ネットを掬い上げた後、鉤針の鉤部に毛髪を引っ掛けて結んだ。
植設する毛髪は、天然毛髪もしくは人工毛髪であり、毛髪の中央部を二つ折りにした折れ部をネットに結びつけることにより植設される。その際、毛髪は、ネットに対し略垂直になる方向性を有するが、これに加え、植設時の力の入れ具合により、ネットに対し水平方向の指向性を備える。このような水平方向の指向性を図7では矢印で表現する。植設の方法としては、公知のひばり結びもしくは巻き結びなどを用いる。
様々なネット部材をかつらベースに採用し、試験を行った。いずれもポリエステル製のネットを使用した。
[実施例1]
実施例1のかつらは、図4(A)に示す第四実施形態のかつらと同様であり、かつらベースを構成するネット部材は、一つの区画が1.5cm×1.5cmに画成されている。
区画Ba、Cb、Dc、Ed、Ab、Bc、Cdなどの範囲内にある四角形の網目は一辺が1.5mm×1.5mmに構成されている。また、それぞれの同一形状の区画の角隅が点接する形で配設されている。
区画Aa、Bb、Cc、Dd、Ca、Db、Ecなどの範囲内にある八角形の網目は対角線が1.5mm×1.5mmに構成されている。また、それぞれの画成される同一形状の区画の角隅が点接する形で配設されている。さらに、2列置きの区画間に前後方向に沿った連結部を設けてネット全体を補強している。
[実施例2]
実施例2のかつらは実施例1のかつらと同様であるが、ネット部材として、図2に示す第二実施形態において説明したネット部材22を使用している。すなわち、四角形の網目パターンの代わりに、対角線が1.5mm×1.5mmの六角形の網目パターンを有している。
[実施例3]
実施例3のかつらは、実施例1のかつらと同様であるが、ネット部材として、図3に示す第三実施形態において説明したネット部材23を使用している。すなわち、かつらベースが、四角形、六角形、八角形の網目パターンからなる区画を碁盤目状に構成したネット部材からなる。
[実施例4]
実施例4のかつらは、実施例1のかつらと同様である。ただし、かつらベースを構成するネット部材は、一つの区画が3.0cm×3.0cmに画成されており、この点のみ実施例1のかつらと相違する。
[比較例1]
1.5mm×l.5mmの四角形の網目のみからなるネット部材でかつらベースを構成し、かつらを作製した。
[比較例2]
対角線が1.5mmの八角形の網目のみからなるネット部材でかつらベースを構成し、かつらを作製した。
[比較例3]
四角形の網目パターンと八角形の網目パターンとが順に現れるように縞状に区画が構成されたネット部材でかつらベースを構成し、かつらを作製した。各区画の幅は1.5cmである。
[比較例4]
比較例4のかつらは、実施例1のかつらと同様である。ただし、かつらベースを構成するネット部材は、一つの区画が3.5cm×3.5cmに画成されており、この点のみ実施例1のかつらと相違する。
[伸長回復率および残留ひずみ率の測定]
JISの試験に基づいた方法で寸法変化度を測定した。具体的には、特定の負荷を一定時間与え、伸長回復率および残留ひずみ率を測定した。これは、ネットを用いたかつらベースにシワが発生し歪みなどが生じる原因として、頭部にかつらを取り付けるときにかつらベースを繰り返し引っ張ることにより、かつらベースにひずみが生じるためであることから、引っ張りとひずみの関係を調べたものである。
伸長回復率と残留ひずみ率の測定方法は、JIS L 1096にある6.14.2伸長回復率及び残留ひずみ率(2)B法(定荷重法)に則って行った。ただし、一部変更し、試験用ネットを1.5cm×15cmに切断してネット片を採取し、1.13gの初荷重を加えて行った。なお、網目の編成によっては縦横の向きの伸長回復率と残留ひずみ率とが異なることから、左右方向、および前後方向に切り出したネット片で測定した。
[洗浄試験]
また、かつらベースの洗浄試験を繰り返し行ない、かつらベースの歪みとシワの状態を確認した。具体的には、実施例1〜4、および比較例1〜4のかつらにおける、毛髪を植設する前の、15cm×15cmの大きさのかつらベースを用意し、それぞれについて以下の作業を行った。
まず、容器に水5リットルを注ぎ、その水の中に市販のシャンプー0.5gを溶かした後、かつらベースを入れて1分間押し洗いした。次に、別の容器に水5リットルを注ぎ、かつらベースを1分間濯いだ。シャンプーを十分に洗い流すために、このような濯ぎを計2回行った。室温で1時間乾燥した後、かつらベースの歪みとシワの状態を確認し、実施例1〜4および比較例1〜4の形状保持性を検証した。
[試験の結果]
試験の結果を図13に示す。
伸長回復率が高く、残留ひずみ率が低いほど形状が安定していることを示している。伸長回復率について、実施例1〜4では網目の向きが左右、および前後方向で50%を超えて安定しているのに対して、比較例1〜4では網目の向きが左右、および前後方向のどちらか一方、もしくは双方で50%を下回っていることがわかる。
残留ひずみ率について、実施例1〜4では5%以下で残留ひずみが少なく形状が安定しているのに対して、比較例1〜4では比較例3および4の左右方向のネット片を除き、10%を超えており、残留ひずみが大きくシワが生じやすいことがわかる。
実施例1〜4では、伸長回復率が高く、かつ残留ひずみ率が低いので、洗浄後の状態を見ると、かつらベースにシワや歪みが生じておらず、形状保持性に優れていることがわかる。しかし、比較例1〜4を見ると、洗浄回数を重ねていくことによりかつらベースにシワや歪みが生じてしまい、形状保持性に欠けることがわかる。
また、区画の大きさは1.5cm×1.5cm程度が好ましいが、3.0cm×3.0cm程度のものであってもほぼ同等の効果を得ることができ、一方、3.5cm×3.5cm程度以上になると次第にシワが生じやすくなることがわかる。
以上説明したように、本発明のかつらは、糸の方向の異なる網目パターンが規則的に連接されたネット部材をかつらベースに利用することに着目したものであり、その主旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施することができる。
例えば、網目の形状は四角形、六角形、八角形に限らず、三角形、五角形などを採用してもよいし、これらを組み合わせてもよい。さらに、隣接する網目パターンの網目形状が同じであっても、その網目向きが異なるもの、例えば隣接する区画が同じ正方形の網目パターン同士であって、互いの糸の角度が45度違っているものであってもよい。
また、網目パターンの区画は四角形を組み合わせた碁盤目状のみならず、他の形状、例えばサッカーボールの表面のような五角形と六角形の組み合わせなどであってもよい。
また、かつらの部位によって、糸の方向の異なる網目パターンが規則的に連接されたネット部材と通常の単一網目パターンのネット部材とを繋げたり、重ねたりして利用してもよい。さらに、かつらベースは、分け目からネット部材が露見するのを防ぐため、毛髪の分け目に相当する位置に、装着者の頭部形状に成形した人工皮膚を備えることも可能である。
第一の実施形態に係るかつらの一部を示す拡大平面図である。 第二の実施形態に係るかつらの一部を示す拡大平面図である。 第三の実施形態に係るかつらの一部を示す拡大平面図である。 第四の実施形態に係るかつらの一部を示す拡大平面図である。 第四の実施形態に係るかつらの一部を示す拡大平面図である。 第四の実施形態に係るかつらに用いられるネット部材を示し、(A)は拡大写真、(B)はその説明図である。 実施形態に係るかつらの一部を示す拡大平面図である。 実施形態に係るかつらにおける毛髪同士の状態を示す側面図である。 実施形態のかつらを作製するための石膏型を示す平面図である。 実施形態のかつらの作製過程を示す平面図である。 図10の外周線境界付近の拡大図である。 外縁部露出防止用帯状ネットを取り付ける工程の説明図である。 実施例及び比較例の試験結果を示す表である。
符号の説明
1 かつら
1a かつらベース
2 ネット部材
2a 第一のネット部材
2b 第二のネット部材
3 ネット編成糸
4 ネット編成糸
5 連結部
6 連結糸
7 外縁部露見防止用帯状ネット
9a 外周線
9b 露見防止用帯状ネット取付線
10 石膏型
20 弾力的可動範囲
22 ネット部材
23 ネット部材
H 毛髪
Aa〜Ff 区画

Claims (9)

  1. ネット部材からなるかつらベースに複数の毛髪が植設されて成るかつらであって、
    上記ネット部材は、糸の方向の異なる複数の網目が規則的に連接されてなることを特徴とする、かつら。
  2. 前記ネット部材は、糸の方向の異なる網目パターンが規則的に連接されてなることを特徴とする、請求項1に記載のかつら。
  3. 前記ネット部材は、隣接する網目パターン同士の網目形状が異なることを特徴とする、請求項1または2に記載のかつら。
  4. 前記ネット部材は、二種類の網目パターンが市松模様状に連接されてなることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のかつら。
  5. 前記二種類の網目パターンは、六角形の網目を有する網目パターンと八角形の網目を有する網目パターンとからなることを特徴とする、請求項4に記載のかつら。
  6. 前記ネット部材は、三種類以上の網目パターンが碁盤目状に連接されてなることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のかつら。
  7. 前記ネット部材は、隣接する網目パターン同士の間に連結部を備えることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のかつら。
  8. 前記連結部に用いられるネット編成糸の径は、前記網目パターンを構成する他の部位のネット編成糸の径よりも太くなっていることを特徴とする、請求項7に記載のかつら。
  9. 網目パターン同士の境により画成される1つの区画が3.0cm×3.0cm以下であることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載のかつら。
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