JP5136309B2 - エンジンシステム - Google Patents

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Description

本発明は、EGR方式の切り替えによる諸状態の変化を円滑にするエンジンシステムに関する。
排気マニホールド(高圧部)から吸気マニホールド(高圧部)にEGRガスを還流させるHPEGR(High Pressure EGR)方式に対し、より大量のEGRを行う方式として、排気マニホールドに取り付けたターボチャージャのタービンの出口(低圧部)からターボチャージャのコンプレッサ入口(低圧部)にEGRガスを還流させるLPEGR(Low Pressure EGR)方式が注目を浴びている。
従来のLPEGR方式を行うエンジンシステムを図15に示す。このエンジンシステム151は、エンジン2の排気マニホールド3から取り出した排気がタービン4に供給される高圧段ターボチャージャ5と、高圧段ターボチャージャ5のタービン4から出る排気を調整する高圧排気調整弁6と、高圧段ターボチャージャ5のタービン4から出る排気と排気マニホールド3から分岐される排気とを切り替えて低圧段ターボチャージャ7のタービン8に供給する排気切替弁9と、排気切替弁9から供給される排気でタービン8が駆動される低圧段ターボチャージャ7と、低圧段ターボチャージャ7のタービン8の出口から大気までを繋ぐ排気ガス排出配管10と、排気ガス排出配管10に挿入され排気ガスから粒子状物質を除去するDPF(Diesel Paticulate Filter)11と、排気ガス排出配管10に挿入され排気ガスから窒素酸化物を除去するNOx触媒式窒素酸化物除去装置12と、DPF11を通過した後の排気ガスをEGRガスとして排気ガス排出配管10から分岐する低圧EGR配管17と、その低圧EGR配管17に挿入された低圧EGRクーラ18と、低圧EGR配管17におけるEGRガスの量を調節する低圧EGRバルブ19と、大気から低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20までを繋ぎその途中に低圧EGR配管17が合流されている吸気管21と、その吸気管21の低圧EGR配管合流箇所より大気側に挿入された吸気スロットル(絞り弁)22と、低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20の出力を高圧段ターボチャージャ5のコンプレッサ23の入力に繋ぐ低圧ターボ出力ガス配管24と、高圧段ターボチャージャ5のコンプレッサ23の出力と低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20の出力とを切り替える吸気切替弁25と、吸気切替弁25で選択されたガスをエンジン2の吸気マニホールド13に提供する高圧ガス配管26とを備える。
このエンジンシステム151は、ターボチャージャが2段に設けられた2ステージターボシステムを採用しているが、ターボチャージャが1段のみのシングルターボシステムでも、LPEGRの概要は同じである。
このエンジンシステム151の制御は、コンピュータ27で行われる。コンピュータ27は、エンジン回転速度、エンジン空気量(吸入空気量とも言う)、エンジン燃料量(燃料投入量とも言う;以下では、燃料量と称す)など、EGR制御に必要なセンサ信号を入力している。コンピュータ27は、排気切替弁9のアクチュエータ、低圧EGRバルブ19のアクチュエータ、吸気切替弁25のアクチュエータ、高圧排気調整弁6のアクチュエータなど、EGR制御に必要なアクチュエータに駆動信号を出力することができる。
このエンジンシステム151では、低圧段ターボチャージャ7のタービン8から出てDPF11を通過した後の排気ガスをEGRガスとして排気ガス排出配管10から分岐し、低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20に還流させる。低圧EGR配管17には、EGRガスが吸気管21の新気(取り込んだ外気)と合流する箇所より上流に低圧EGRバルブ19があり、低圧EGRバルブ19の開口面積を調節(開度調節)することで、新気に合流させるEGRガス量が調節される。
低圧EGRバルブ19の開度調節は、エンジン回転速度、燃料量、吸入空気量をセンサでセンシングし、コンピュータ27において、エンジン2にEGRガスを負荷した後の空気量が適切な空気量になるように開度を演算し、低圧EGRバルブ19のアクチュエータに駆動信号を出力することで行われる。
コンピュータ27には、エンジン回転速度と燃料量をパラメータにして吸入空気量を引き当てるマップが形成されている。EGR制御を行わないときの各エンジン回転速度と各燃料量における吸入空気量をM0とし、マップの各エンジン回転速度と各燃料量による参照先に格納されている吸入空気量をM(N,Q)とすると、EGR量は、M(N,Q)−M0となる。言い換えると、EGR制御を行わないときの吸入空気量M0にEGR量を加えた値がマップ化されている。エンジン回転速度と燃料量ごとに吸入空気量M(N,Q)を与えれば、そのエンジン状態に対するEGR量が一義的に決まる。これを吸入空気量制御方式(以下、MAF制御方式)と呼ぶ。
エンジンにかかる負荷が低く、EGR経路出口とEGR経路入口との圧力差が極小のときは、吸気管21のEGRガスが合流する箇所より上流に設けられた吸気スロットル22を絞ることで、EGRガスが合流する箇所に流れ込む新気を減らす。これにより、EGR経路出口の圧力を下げて、圧力差を拡大させてEGRガスを吸気管21に導入しやすくする。
エンジンにかかる負荷が増すと、EGR経路出口とEGR経路入口との圧力差が大きくなるので、吸気スロットル22は全開にする
コンピュータ27には、エンジン回転速度と燃料量をパラメータにして吸気スロットル22の開度を引き当てる空気量マップが形成されている。従って、エンジン回転速度と燃料量が入力されると吸気スロットル22の開度が空気量マップで指定された開度に制御される。このような吸気スロットル制御が行われている下で、前述の吸入空気量制御方式によるEGR量(又はEGR率)が調節される。
次に、従来のHPEGR方式を行うエンジンシステム161を図16に示す。このエンジンシステム161は、エンジン2の排気マニホールド3から取り出した排気がタービン4に供給される高圧段ターボチャージャ5と、高圧段ターボチャージャ5のタービン4から出る排気を調整する高圧排気調整弁6と、高圧段ターボチャージャ5のタービン4から出る排気と排気マニホールド3から分岐される排気とを切り替えて低圧段ターボチャージャ7のタービン8に供給する排気切替弁9と、排気切替弁9から供給される排気でタービン8が駆動される低圧段ターボチャージャ7と、低圧段ターボチャージャ7のタービン8の出口から大気までを繋ぐ排気ガス排出配管10と、排気ガス排出配管10に挿入され排気ガスから粒子状物質を除去するDPF11と、排気ガス排出配管10に挿入され排気ガスから窒素酸化物を除去するNOx触媒式窒素酸化物除去装置12と、エンジン2の排気マニホールド3から排気ガスをEGRガスとして取り出してエンジン2の吸気マニホールド13に送る高圧EGR配管14と、その高圧EGR配管14に挿入された高圧EGRクーラ15と、高圧EGR配管14におけるEGRガスの量を調節する高圧EGRバルブ16と、大気から低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20までを繋ぐ吸気管21と、その吸気管21に挿入された吸気スロットル22と、低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20の出力を高圧段ターボチャージャ5のコンプレッサ23の入力に繋ぐ低圧ターボ出力ガス配管24と、高圧段ターボチャージャ5のコンプレッサ23の出力と低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20の出力とを切り替える吸気切替弁25と、吸気切替弁25で選択されたガスをエンジン2の吸気マニホールド13に提供する高圧ガス配管26とを備える。
図16のエンジンシステム161においても図15のエンジンシステム151と同様に、コンピュータ27は、エンジン回転速度、エンジン空気量、エンジン燃料量(燃料量)など、EGR制御に必要なセンサ信号を入力し、排気切替弁9のアクチュエータ、高圧EGRバルブ16のアクチュエータ、吸気切替弁25のアクチュエータ、高圧排気調整弁6のアクチュエータなど、EGR制御に必要なアクチュエータに駆動信号を出力することができる。
近年、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)と煤とを同時に低減するための燃焼方式として、燃料の早期噴射を行い、予混合燃焼を主体とさせる燃焼方式(PCI燃焼方式と称す)が注目を浴びている。PCI燃焼方式では、過早着火やノッキングを防止する手段として、大量のEGRを行うことが一般的である。そのEGR率は、50〜80%である。
EGR方式の問題点、燃焼方式の問題点、及びこれらを組み合わせたときの問題点について以下に述べる。なお、PCI燃焼方式以外の、拡散燃焼が主体となる燃焼方式は、従来燃焼方式と称する。
HPEGR方式では、ターボチャージャのタービンの上流である排気マニホールドからEGRガスを抜き出し、そのEGRガスを吸気マニホールドに入れる。このためターボチャージャのタービンを通るガス量が減る。エンジンの負荷が同一であるとして比較すると、大量のEGRを行うほどターボが働かなくなり、ターボチャージャのコンプレッサがエンジンに過給する新気量が減る。その結果、軽負荷領域(エンジンが比較的軽負荷となるエンジン回転速度と燃料量で表される領域を指す;エンジンが比較的高負荷となる領域は高負荷領域と言い、これらの中間的な領域は中負荷領域と言う)においては、排気ガス規制対応として比較的大量のEGRを行うことが要求されるにもかかわらず、空気過剰率λを大きく上げることができない。
LPEGR方式では、ターボチャージャのタービンの下流である排気ガス排出配管からEGRガスを抜き出し、そのEGRガスをターボチャージャのコンプレッサの上流である吸気管に入れる。このため排気ガスの全量がターボチャージャのタービンを通る。よって、HPEGR方式に比べて同一EGR量でも空気過剰率λを上げることができる。同一空気過剰率λではEGR率を上げることができる。しかし、その反面、従来燃焼方式による燃焼で生成した煤がEGRガスに伴いターボチャージャのコンプレッサを通り、インタークーラ(図示せず)を通る。このため、コンプレッサ翼やインタークーラのガス通路が汚染され、コンプレッサ効率の低下、インタークーラの冷却能力の低下が経年変化として発生する。
PCI燃焼方式は、従来燃焼方式に比べてNOxや煤が大幅に減少する。しかし、PCI燃焼方式は、燃料を早期に噴射するため、過早期着火やノッキングを生じやすく、軽負荷領域でしか使用できない。過早期着火やノッキングを抑制するには、EGRを大量に行い給気の酸素濃度を低減させる燃焼制御を行うか、エンジン筒内の圧縮空気(EGRガスと空気の混合ガス)の温度を下げることで燃焼の反応速度を抑制する燃焼制御を行うしかない。給気酸素濃度低減のために行うEGRは、空気過剰率λが1.0未満となると理論空気量が不足する。理論空気量が不足すると、PCI燃焼方式においても大量の煤が発生する。この煤が発生する空気過剰率λになるときがPCI燃焼方式の理論的限界となる。また、エンジン筒内の圧縮空気(EGRガスと空気の混合ガス)の温度を下げるには、圧縮比を下げることが有効であるが、圧縮比を下げると始動性の悪化や理論熱効率の低下が生じる。
次に、HPEGR方式とPCI燃焼方式を組み合わせるとする。HPEGR方式では、軽負荷領域のときターボチャージャの効率が低いので、排気マニホールドの内圧が過給圧に比べて十分に高くなり、軽負荷領域でのEGRは行いやすい。軽負荷領域で使用するターボチャージャと高負荷領域で使用するターボチャージャのように、ターボチャージャを複数段に設けておき、エンジン負荷に応じてターボチャージャを切り替える複数ステージターボシステムにおいては、軽負荷領域用の小容量のターボチャージャを使用することで軽負荷領域でも過給率を上げることができる。よって、PCI燃焼方式により早期噴射が行われる軽負荷領域でも過給率を上げることができ、大量にEGRを行っても空気過剰率λを高く維持することができる。その結果、より広い負荷領域で早期噴射を行うことができる。つまり、PCI燃焼方式を行うことができるエンジン負荷領域(以下、PCI領域と称す)が拡大する。
しかし、エンジン負荷が増してくると、PCI領域から従来燃焼領域(従来燃焼方式しかできない負荷領域)に移ることになる。このPCI領域から従来燃焼領域に移るとき、EGR量が減少するためタービンを駆動する排気ガス量が急激に増加する。その結果、ガス流量の小さい小容量のターボチャージャでは、排気マニホールドの内圧が過給圧よりも非常に高くなり、ポンピングロスが増大する。HPEGR方式では、EGRガスを冷却するEGRクーラの冷却能力をいかに高めても、EGRクーラの冷却媒体がエンジン冷却水であるため、エンジン冷却水の温度以下には冷却できない。例えば、EGRクーラを通ったEGRガスの温度は80℃近辺である。吸気マニホールド内にて新気とEGRガスが混合されるので、吸気マニホールド内の吸入ガス(新気とEGRガスの混合ガス)の温度は比較的高くなる。その温度は、例えば、50〜60℃である。このように、エンジン筒内圧縮ガス温度が上がるので、空気過剰率λが上がったほどにはPCI領域は拡大しない。
次に、LPEGR方式とPCI燃焼方式を組み合わせるとする。LPEGR方式に、HPEGR方式に用いたのと同じ小容量のターボチャージャを用いると、排気ガスの全量がタービンを通ることになる。このため、HPEGR方式に比べてターボチャージャが行うことができる仕事量が増え、エンジン筒内に供給するガス(新気とEGRガスの混合ガス)の量が増大する。その結果、EGRガス混合後の吸気酸素濃度を同一とした場合、HPEGR方式に比べて空気過剰率λを上げることができ、PCI領域の拡大が期待できる。また、コンプレッサの上流で新気とEGRガスが混合された混合ガスは、コンプレッサを通過した後、インタークーラ(図示せず)で冷却されるので、吸気マニホールド内の吸入ガスの温度はHPEGR方式に比べて低く、HPEGR方式よりもPCI領域の拡大が期待できる。
しかし、LPEGR方式に、HPEGR方式に用いたのと同じ小容量のターボチャージャを用いると、エンジン負荷がより低いときにターボチャージャの許容回転速度に達する。従って、HPEGR方式と同じエンジン負荷までターボチャージャを用いるには、ターボチャージャの容量を大きくしなければならない。ターボチャージャの容量を大きくすると、エンジン負荷が軽負荷での過給率は下がる。このため、PCI領域は上記期待したほどは拡大しない。また、タービン、コンプレッサの仕事がHPEGR方式に比べて大きいため、従来燃焼領域でもPCI燃焼領域でもポンピングロスが大きい。また、従来燃焼領域では、コンプレッサ翼やインタークーラのガス通路が汚染され、コンプレッサ効率の低下、インタークーラの冷却能力の低下が経年変化として発生する。
以上のように、いずれの組み合わせにも問題点がある。
EGR方式とターボ方式の組み合わせとして、排気ガス浄化に効率的なものは、エンジン負荷が軽負荷のときは小容量のターボチャージャとLPEGR方式の組み合わせ、エンジン負荷が中負荷のときは中容量のターボチャージャとLPEGR方式又はHPEGR方式の組み合わせ、エンジン負荷が大負荷のときは高容量のターボチャージャとHPEGR方式の組み合わせである。ただし、これらの組み合わせに必要な装置を全て装備するエンジンシステムは、3種類以上のターボチャージャを装備することになる。
図17に示されるように、燃料量に対する吸気マニホールド(図中は給気MFD)内のガス温度特性をLPEGR(Low Pressure EGR)方式とHPEGR(High Pressure EGR)方式についてプロットする。このグラフによると、HPEGR方式のほうが全般的にガス温度が高く、特に燃料量が少ないときに両方式のガス温度の差が大きい。
図18に示されるように、エンジン回転速度と燃料量を直交二軸とする状態平面に、LPEGR方式とHPEGR方式についてPCI限界をプロットする。PCI限界とは、エンジン回転速度と燃料量で示されるエンジン負荷が図18のグラフにおいてPCI限界を示す線よりも下にあるとき、PCI燃焼方式で煤が発生せず、エンジン回転速度と燃料量で示されるエンジン負荷がPCI限界を示す線よりも上にあるとき、PCI燃焼方式で煤が発生するという意味を持つ。図18中、PCI限界を示す線よりも下の領域がPCI領域(PCI燃焼方式を行うことができる負荷領域)となる。
このグラフによると、全てのエンジン回転速度においてHPEGR方式よりLPEGR方式のほうがPCI限界となる燃料量が高い。PCI限界を示す線よりも下の領域がPCI領域であるから、LPEGR方式は、HPEGR方式よりPCI領域が広く、比較的に燃料量が多くてもPCI燃焼方式を行うことができることがわかる。
次に、2種類の方式のEGR装置を装備し、エンジン負荷によってEGR装置を切り替えるという組み合わせを検討する。図15、図16に示した従来のエンジンシステムは、いずれも2種類のターボチャージャを装備したエンジンシステムである。このような2ステージターボシステムを備えたエンジンシステムにおいて、LPEGR方式のEGR装置とHPEGR方式のEGR装置とを装備する。エンジン負荷が軽負荷〜中負荷のとき、小容量のターボチャージャとLPEGR方式の組み合わせで動作し、エンジン負荷が中負荷〜高負荷のとき、大容量のターボチャージャとHPEGR方式の組み合わせで動作するものとする。このとき、エンジン状態平面中のエンジン負荷が軽負荷〜中負荷となる領域には、PCI限界が含まれる。
この組み合わせでは、PCI燃焼方式が行われている軽負荷領域では、LPEGR方式により、ターボチャージャの過給仕事をHPEGR方式よりも増やし、かつ、吸気マニホールド内ガス温度を下げてPCI領域を拡大する。中〜高負荷領域では、HPEGR方式により供給ガス量(新気とEGRガス)の直線的な増大を抑えることで小容量ターボチャージャと大容量ターボチャージャの容量比を近付けることができる。この結果、切り替え時に発生する過給圧の段差を小さくできるので、両ターボチャージャの切り替えを円滑に行うことができる。また、高負荷領域での供給ガス量の低下により燃焼圧(Pmax)を下げることができる。
しかしながら、この組み合わせでは、LPEGR方式とHPEGR方式でターボチャージャを通るガス量が異なるので、EGR方式の切り替え時のEGR量が意図したEGR量よりも過大、過小になる状況が発生する。すなわち、同一のエンジン負荷にてEGR方式が変わった瞬間には、過給圧が同じなら吸気組成や吸気量又はその両方が異なる。吸気量が同一なら過給圧とタービン入口圧が異なることになるので、ポンピングロスの大きな変化により軸出力の円滑な切り替わりが阻害される。これにより、EGR方式が切り替わった瞬間に軸出力に段差が生じる。
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、EGR方式の切り替えによる諸状態の変化を円滑にするエンジンシステムを提供することにある。
上記目的を達成するために本発明は、PCI燃焼方式による燃料早期噴射が可能なエンジンと、小容量駆動・大容量駆動が切り替え可能なターボチャージャと、上記エンジンの排気マニホールドから吸気マニホールドに排気ガスを還流する高圧EGR手段と、排気ガス排出配管から吸気管に排気ガスを還流する低圧EGR手段と、エンジン負荷に応じて上記低圧EGR手段のみを稼働するか、上記高圧EGR手段のみを稼働するか、上記低圧EGR手段と上記高圧EGR手段の両方を稼働させるかを判断して上記低圧EGR手段と上記高圧EGR手段を制御するコンピュータとを備え、上記コンピュータは、エンジン回転速度と燃料量を直交二軸とするエンジン状態平面に、上記低圧EGR手段のみ稼働が許容されるLPEGR領域と、上記高圧EGR手段のみ稼働が許容されるHPEGR領域と、上記低圧EGR手段と上記高圧EGR手段のいずれか一方の稼働又は両方の稼働が可能な遷移領域とが定義され、かつ上記コンピュータの上記エンジン状態平面に、燃料早期噴射を行うPCI領域と燃料早期噴射を行わない非PCI領域とが定義され、さらに、上記PCI領域は、上記LPEGR領域に含まれ、上記コンピュータは、現在のエンジン回転速度と燃料量とにより上記エンジン状態平面を参照することで、稼働させるEGR手段を決定すると共に、上記低圧EGR手段のみを稼働するときは上記ターボチャージャを小容量駆動に切り替え、上記高圧EGR手段のみを稼働するときは上記ターボチャージャを大容量駆動に切り替えるものである。
上記コンピュータの上記エンジン状態平面に、上記低圧EGR手段の稼働が望ましい低圧EGR推奨領域と上記高圧EGR手段の稼働が望ましい高圧EGR推奨領域とを区画するEGR境界線が定義され、上記EGR境界線より低圧EGR推奨領域側に所定の距離以上離れた領域が上記LPEGR領域と定義され、上記EGR境界線より高圧EGR推奨領域側に所定の距離以上離れた領域が上記HPEGR領域と定義され、上記EGR境界線より所定の距離未満の領域が上記遷移領域と定義されてもよい。
上記コンピュータは、現在のエンジン回転速度、燃料量及び過去のエンジン回転速度、燃料量により、上記エンジン状態平面における未来のエンジン回転速度、燃料量を予測し、上記コンピュータは、過去のエンジン回転速度、燃料量が上記LPEGR領域か上記HPEGR領域にあり、現在のエンジン回転速度、燃料量が上記遷移領域に移ったとき、上記予測したエンジン回転速度、燃料量が上記EGR境界線を超えて他のEGR推奨領域側に移らなければ、稼働させるEGR手段を過去のまま維持し、上記予測したエンジン回転速度、燃料量が上記EGR境界線を超えて他のEGR推奨領域側に移れば、上記低圧EGR手段と上記高圧EGR手段をの両方の稼働を開始させてもよい。
上記コンピュータは、エンジン回転速度を上記EGR境界線の最高回転速度で割った正規化回転速度と燃料量を上記EGR境界線のエンジン回転速度=0における燃料量で割った正規化燃料量とで上記エンジン状態平面が定義され、上記EGR境界線が円、直線等の四次以下の関数で定義されてもよい。
上記コンピュータは、上記LPEGR領域と上記遷移領域との境界となる下限境界線が上記EGR境界線に対して正規化回転速度、正規化燃料量が所定比小さい線で定義され、上記遷移領域と上記HPEGR領域との境界となる上限境界線が上記EGR境界線に対して正規化回転速度、正規化燃料量が所定比大きい線で定義されてもよい。
上記コンピュータは、エンジン回転速度と燃料量を直交二軸とするエンジン状態平面の場所ごとに、EGRを行わない場合の空気量にEGR量を加えた混合ガス量が定義され、上記コンピュータは、現在のエンジン回転速度と燃料量とにより上記エンジン状態平面を参照してEGR量を決定するMAF制御の機能を有し、上記コンピュータは、上記LPEGR領域では上記低圧EGR手段に上記MAF制御を適用し、上記HPEGR領域では上記高圧EGR手段に上記MAF制御を適用し、上記遷移領域では一方のEGR手段に上記MAF制御を適用しつつ他方のEGR手段については開度が漸減する制御を行ってもよい。
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
(1)EGR方式の切り替えによる諸状態の変化を円滑にすることができる。
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
図1に示されるように、本発明に係るエンジンシステム1は、エンジン2の排気マニホールド3から取り出した排気がタービン4に供給される高圧段ターボチャージャ5と、高圧段ターボチャージャ5のタービン4から出る排気を調整する高圧排気調整弁6と、高圧段ターボチャージャ5のタービン4から出る排気と排気マニホールド3から分岐される排気とを切り替えて低圧段ターボチャージャ7のタービン8に供給する排気切替弁9と、排気切替弁9から供給される排気でタービン8が駆動される低圧段ターボチャージャ7と、低圧段ターボチャージャ7のタービン8の出口から大気までを繋ぐ排気ガス排出配管10と、排気ガス排出配管10に挿入され排気ガスから粒子状物質を除去するDPF11と、排気ガス排出配管10に挿入され排気ガスから窒素酸化物を除去するNOx触媒式窒素酸化物除去装置12と、エンジン2の排気マニホールド3から排気ガスをEGRガスとして取り出してエンジン2の吸気マニホールド13に送る高圧EGR配管14と、その高圧EGR配管14に挿入された高圧EGRクーラ15と、高圧EGR配管14におけるEGRガスの量を調節する高圧EGRバルブ16と、DPF11を通過した後の排気ガスをEGRガスとして排気ガス排出配管10から分岐する低圧EGR配管17と、その低圧EGR配管17に挿入された低圧EGRクーラ18と、低圧EGR配管17におけるEGRガスの量を調節する低圧EGRバルブ19と、大気から低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20までを繋ぎその途中に低圧EGR配管17が合流されている吸気管21と、その吸気管21の低圧EGR配管合流箇所より大気側に挿入された吸気スロットル22と、低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20の出力を高圧段ターボチャージャ5のコンプレッサ23の入力に繋ぐ低圧ターボ出力ガス配管24と、高圧段ターボチャージャ5のコンプレッサ23の出力と低圧段ターボチャージャ7のコンプレッサ20の出力とを切り替える吸気切替弁25と、吸気切替弁25で選択されたガスをエンジン2の吸気マニホールド13に提供する高圧ガス配管26とを備える。
このエンジンシステム1の制御は、コンピュータ27で行われる。コンピュータ27は、エンジン回転速度、エンジン空気量、エンジン燃料量(単に燃料量とも称する)など、EGR制御に必要な信号を図示しないセンサから入力することができる。コンピュータ27は、これらのセンサからの入力信号を適宜なサンプリング時間で繰り返しサンプリングし、現在の信号値と過去における適宜な時間分の信号値をメモリに蓄積し必要に応じて演算に使用するようになっている。また、コンピュータ27は、排気切替弁9のアクチュエータ、高圧EGRバルブ16のアクチュエータ、低圧EGRバルブ19のアクチュエータ、吸気切替弁25のアクチュエータ、高圧排気調整弁6のアクチュエータなど、EGR制御に必要なアクチュエータに駆動信号を出力することができる。
高圧EGR配管14、高圧EGRバルブ16は、高圧EGR手段を構成する。低圧EGR配管17、低圧EGRバルブ19は、低圧EGR手段を構成する。このように、本発明のエンジンシステム1は、エンジン2の排気マニホールド3から吸気マニホールド13に排気ガスを還流する高圧EGR手段と、排気ガス排出配管10から吸気管21に排気ガスを還流する低圧EGR手段とを共に備える。
本発明にあっては、コンピュータ27は、エンジン負荷に応じて低圧EGR手段のみを稼働するか、高圧EGR手段のみを稼働するか、低圧EGR手段と高圧EGR手段の両方を稼働させるかを判断して低圧EGR手段と高圧EGR手段を制御するようになっている。
コンピュータ27は、エンジン回転速度と燃料量をエンジン負荷の指標とし、この指標に従ってEGR手段を選択的に稼働するようになっている。すなわち、コンピュータ27は、回転速度と燃料量を直交二軸とするエンジン状態平面に、低圧EGR手段のみ稼働が許容されるLPEGR領域と、高圧EGR手段のみ稼働が許容されるHPEGR領域と、低圧EGR手段と高圧EGR手段のいずれか一方の稼働又は両方の稼働が可能な遷移領域とがメモリ上に定義されている(図2〜図10参照)。コンピュータ27は、現在のエンジン回転速度と燃料量とにより上記エンジン状態平面を参照することで、稼働させるEGR手段を判断するようにプログラムが構成されている。
図1のエンジンシステム1は、高圧段ターボチャージャ5と低圧段ターボチャージャ7とを備えた2ステージターボシステムである。エンジンシステム1は、高圧段ターボチャージャ5と低圧段ターボチャージャ7の組合わせにより、小容量駆動と大容量駆動とが切り替え可能となっている。ターボチャージャの種類や個数に拘わらず、小容量駆動と大容量駆動とが切り替え可能なターボチャージャを備えていれば、本発明は実施できる。
コンピュータ27は、低圧EGR手段のみを稼働するとき(エンジン2が軽〜中負荷であってLPEGR領域に相当)は、小容量駆動と大容量駆動とが切り替え可能な上記ターボチャージャを小容量駆動に切り替え、高圧EGR手段のみを稼働するとき(エンジン2が中〜高負荷であってHPEGR領域に相当)は上記ターボチャージャを大容量駆動に切り替えるようにプログラムが構成されている。
エンジン2は、PCI燃焼方式による燃料早期噴射が可能なエンジン2である。そこで、コンピュータ27のエンジン状態平面には、燃料早期噴射を行うPCI領域と燃料早期噴射を行わない非PCI領域とが定義されている。PCI領域は、LPEGR領域に完全に含まれており、非PCI領域の一部がLPEGR領域に含まれている(図2〜図4参照)。
コンピュータ27のメモリ上に定義されているエンジン状態平面は、低圧EGR手段の稼働が望ましい低圧EGR推奨領域と高圧EGR手段の稼働が望ましい高圧EGR推奨領域とを区画するEGR境界線が定義される。このEGR境界線より低圧EGR推奨領域側に所定の距離以上離れた領域がLPEGR領域と定義されている。EGR境界線より高圧EGR推奨領域側に所定の距離以上離れた領域がHPEGR領域と定義されている。そして、EGR境界線より所定の距離未満の領域が遷移領域と定義されている(図4〜図10参照)。
図1のエンジンシステム1は、PCI領域を含むエンジン2が軽〜中負荷のLPEGR領域では、ターボチャージャが小容量駆動でEGR方式がLPEGR方式とし、エンジン2が中〜高負荷のHPEGR領域では、ターボチャージャが大容量駆動でEGR方式がHPEGR方式という組み合わせで動作するものである。そして、LPEGR領域とHPEGR領域のEGR境界線の付近には、遷移領域が設けられる。遷移領域では、EGR方式の切り替えに際し、円滑な諸状態の変化を得るためのアルゴリズムを実行するようになっている。
コンピュータ27は、現在のエンジン回転速度、燃料量及び過去のエンジン回転速度、燃料量により、上記エンジン状態平面における未来のエンジン回転速度、燃料量を予測するようにプログラムが構成されている。また、コンピュータ27は、過去のエンジン回転速度、燃料量がLPEGR領域かHPEGR領域にあり、現在のエンジン回転速度、燃料量が遷移領域に移ったとき、予測したエンジン回転速度、燃料量がEGR境界線を超えて他のEGR推奨領域側に移らなければ、稼働させるEGR手段を過去のまま維持し、予測したエンジン回転速度、燃料量が上記EGR境界線を超えて他のEGR推奨領域側に移れば、低圧EGR手段と高圧EGR手段の両方の稼働を開始させるようにプログラムが構成されている。
さらに、コンピュータ27のメモリにおいては、エンジン回転速度をEGR境界線の最高回転速度で割った正規化回転速度と燃料量をEGR境界線のエンジン回転速度=0における燃料量で割った正規化燃料量とでエンジン状態平面が定義されている(図3〜図10参照)。EGR境界線は、円、直線等の四次以下の関数で定義するのが望ましい。
コンピュータ27のメモリにおいては、LPEGR領域と遷移領域との境界となる下限境界線がEGR境界線に対して正規化回転速度、正規化燃料量が所定比小さい線で定義されていると共に、コンピュータ27のメモリにおいては、遷移領域とHPEGR領域との境界となる上限境界線がEGR境界線に対して正規化回転速度、正規化燃料量が所定比大きい線で定義されている(図4〜図10参照)。
コンピュータ27のメモリには、エンジン回転速度と燃料量を直交二軸とするエンジン状態平面の場所ごとに、EGRを行わない場合の空気量にEGR量を加えた混合ガス量が定義されている。ただし、これについては図示しない。コンピュータ27は、現在のエンジン回転速度と燃料量とにより上記エンジン状態平面を参照してEGR量を決定するMAF制御の機能を有する。本発明にあっては、コンピュータ27は、LPEGR領域では低圧EGR手段にMAF制御を適用し、HPEGR領域では高圧EGR手段にMAF制御を適用し、遷移領域では一方のEGR手段にMAF制御を適用しつつ他方のEGR手段については開度が漸減する制御を行うようにプログラムが構成されている。
以下、本発明の動作とその原理を詳細に説明する。
図2に示されるように、本発明のエンジンシステム1にあっては、EGR方式の切り替えの判断に用いるために、エンジン回転速度Nと燃料量Qを直交二軸とするエンジン状態平面が定義される。エンジン状態平面は、メモリ上においてはエンジン回転速度Nと燃料量Qをパラメータとして検索可能なマップで表現するのが望ましい。エンジン状態平面に描かれる境界線等の曲線は関数で定義してもよい。以下では、図2のようなエンジン状態平面を領域マップと呼ぶ。
また、エンジンシステム1には、領域マップとは別に、従来より、MAF制御に用いるために、エンジン回転速度と燃料量を直交二軸とするエンジン状態平面の場所ごとに混合ガス量が定義されている。以下では、このMAF制御用エンジン状態平面(図示せず)はEGRマップと呼ぶ。
図2の領域マップは、横軸にエンジン回転数N(rpm)を取り、縦軸に燃料量Q(mm3/st)を取り、低圧EGR手段の稼働が望ましい低圧EGR推奨領域と上記高圧EGR手段の稼働が望ましい高圧EGR推奨領域とを区画するEGR境界線BLを定義したものである。
図2の領域マップには、PCI限界PLが示されている。これについては、図4で説明する。
図3に示されるように、エンジン回転速度Nを低圧EGR推奨領域における最高回転速度となるEGR境界線BLの最高回転速度Nmaxで割ったものを正規化回転速度N*とし、燃料量Qを低圧EGR推奨領域における最大燃料量となるEGR境界線BLのエンジン回転速度=0における燃料量Qmaxで割ったものを正規化燃料量Q*とする。この正規化回転速度N*と正規化燃料量Q*とを直交二軸としてエンジン状態平面(領域マップ)を定義する。図3の領域マップでは、横軸はエンジン回転数N*(単位無し)、縦軸は燃料量Q*(単位無し)となり、EGR境界線BLが座標(1,0)と座標(0,1)を通ることになる。
例えば、EGR境界線BLは、
a1×Q*4+a2×Q*3
+a3×Q*2+a4×Q*+a5
=b1×N*4+b2×N*3
+b3×N*2+b4×N*+b5 (1)
a1〜a5,b1〜b5は定数
という近似式で定義する。近似式は、直線関数、二次関数、三次関数、四次関数、円関数、楕円関数などを用いることができる。後述のように、あるEGR方式から他のEGR方式に制御を遷移させる際に、遷移領域に突入した後にEGR境界線に到達する座標を演算により予測する。このとき、方程式の解として代数の一般解が得られる四次以下の関数を採用するのが望ましい。
遷移領域の上限境界線UBと下限境界線DBを定義する。図4には下限境界線DBの定義のみ示す。上限境界線UBは、高圧EGR手段のみ稼働が許容されるエンジン状態から遷移領域のエンジン状態に入る境界線である。下限境界線DBは、低圧EGR手段のみ稼働が許容されるエンジン状態から遷移領域のエンジン状態に入る境界線である。上限境界線UBより上かつ右がHPEGR領域となり、下限境界線DBより下かつ左がLPEGR領域となり、上限境界線UBと下限境界線DBに挟まれたところが遷移領域となる。上限境界線UB、下限境界線DBは、前述のような近似式で定義するとよい。
下限境界線DBは、EGR境界線BLに対して正規化回転速度N*、正規化燃料量Q*が所定比小さい線で定義される。上限境界線UBは、EGR境界線BLに対して正規化回転速度N*、正規化燃料量Q*が所定比大きい線で定義される。例えば、EGR境界線BLの±5%の範囲を遷移領域とすると、上限境界線UBはEGR境界線BLの各座標×1.05から得られ、下限境界線DBはEGR境界線BLの各座標×0.95から得られる。これ以後の説明は、EGR境界線BLの座標の±5%に上限境界線UB、下限境界線DBを定義したものとする。
なお、エンジンシステム1において、最適な上限境界線UB、下限境界線DBは、実機を用いた実験によって調査をして定めるのが望ましい。
図4には、
N*2+Q*2=1 (2)
で定義される円弧近似のEGR境界線BLと、実測で求めたEGR境界線BLと、
N*2+Q*2=0.952 (3)
で定義される下限境界線DBが示されている。
本発明では、LPEGR領域にPCI領域が含まれる。すなわち、図4に示されるように、PCI限界PLがLPEGR領域(下限境界線DBの下かつ左)にある。PCI限界より下がPCI領域、PCI限界より上が非PCI領域である。
図5(a)に、EGR境界線BLを直線近似した場合の領域マップを示し、図5(b)に、EGR境界線BLを円弧近似した場合の領域マップを示す。いずれの場合も、EGR境界線BLの座標の±5%に下限境界線DB、上限境界線UBを定義したものであり、下限境界線DB、上限境界線UB、遷移領域が直線的又は円弧的な形状となる。上限境界線UBより上かつ右がHPEGR領域、下限境界線DBより下かつ左がLPEGR領域、上限境界線UBと下限境界線DBの間が遷移領域である。これらの定義は図6〜図8まで同様である。図2、図3では、EGR境界線BLによって低圧EGR手段の稼働が望ましい低圧EGR推奨領域と高圧EGR手段の稼働が望ましい高圧EGR推奨領域の2つの領域が区画された。しかし、EGR境界線BL上においてEGR方式を切り替えるようにすると、エンジンの諸状態が急激に変化することがある。本発明においては、図5以降のように、下限境界線DB、上限境界線UBによってLPEGR領域、遷移領域、HPEGR領域の3つの領域が区画されることになる。
コンピュータ27は、現在のエンジン回転速度Nと燃料量Qをそれぞれのセンサにより測定し、正規化回転速度N*と正規化燃料量Q*を求める。上式(1)の右辺の値、
a1×Q*4+a2×Q*3
+a3×Q*2+a4×Q*+a5 (4)
と左辺の値、
b1×N*4+b2×N*3
+b3×N*2+b4×N*+b5 (5)
とを比較することで、現在のEGR方式が決定される。
例えば、今、エンジン始動直後とすると、アイドリング状態であるので、
a1×Q*4+a2×Q*3
+a3×Q*2+a4×Q*+a5
<b1×N*4+b2×N*3
+b3×N*2+b4×N*+b5 (6)
となる。このときのエンジン負荷を表す領域マップの点E(N*,Q*)は、図示のように、LPEGR領域に位置する。よって、コンピュータ27は、低圧EGR手段のみを稼働させる。
なお、点Eから上向きに垂線を立てEGR境界線BLに交差させると、その交差点Ebから正規化回転速度N*に対応するEGR境界線BL上の正規化燃料量Q*が分かる。
図6(a)及び図6(b)に示されるように、その後、エンジン負荷が高まり、エンジン回転速度Nと燃料量Qが増えたとする。このとき、
(a1×Q*4+a2×Q*3
+a3×Q*2+a4×Q*+a5)0.95
=(b1×N*4+b2×N*3
+b3×N*2+b4×N*+b5)0.95 (7)
となったとする。式(7)の添え字0.95は、エンジン負荷が下限境界線DBに至ったことを示す。なお、添え字が1.05であればエンジン負荷が上限境界線UBにあることを示す。
エンジン負荷が式(7)の関係に至ったときの正規化回転速度をN0*、正規化燃料量をQ0*とし、領域マップに点E0を示す。エンジン負荷が式(7)の関係に至る直前の正規化回転速度をNm*、正規化燃料量をQm*とし、領域マップに点Emを示す。コンピュータ27は、点Emと点E0を通る直線とEGR境界線BLの方程式を解いて両者が交わる点E1(N1*,Q1*)を将来の予測点として求める。領域マップ上の点E1は、エンジン負荷を表す点の軌跡がEGR境界線BLに至る点を表す。このとき、エンジン負荷が将来、EGR境界線BLに至るという予測が成立する。よって、コンピュータ27は、低圧EGR手段と高圧EGR手段の両方の稼働を開始させる。
これに対し、点Emと点E0を通る直線とEGR境界線BLの方程式が実根を持たない場合もある。また、解(N1*,Q1*)が1>N1*>0かつ1>Q1*>0とならない場合がある。これは現実のエンジンには有り得ない解である。これらの場合は、エンジン負荷が将来、EGR境界線BLに至らないという予測が成立する。よって、コンピュータ27は、稼働させるEGR手段を過去のまま維持する。図6のように、過去に低圧EGR手段のみを稼働させていたときは、低圧EGR手段のみの稼働が維持される。
図7(a)及び図7(b)に示されるように、エンジン負荷が高負荷から軽くなって上限境界線UBを下に越えたとする。直前の過去のエンジン負荷を表す領域マップの点Em(Nm*,Qm*)はHPEGR領域に位置し、コンピュータ27が高圧EGR手段のみを稼働させている。現在のエンジン負荷は上限境界線UBの点E0(N0*,Q0*)である。コンピュータ27は、点Emと点E0を通る直線とEGR境界線BLの方程式を解いて両者が交わる点E1(N1*,Q1*)を求める。エンジン負荷が将来、EGR境界線BLに至るという予測が成立すれば、コンピュータ27は、低圧EGR手段と高圧EGR手段の両方の稼働を開始させる。
図8(a)に示されるように、直前の過去のエンジン負荷を表す領域マップの点Em(Nm*,Qm*)がHPEGR領域に位置し、コンピュータ27が高圧EGR手段のみを稼働させており、エンジン負荷が軽くなって上限境界線UBの点E0(N0*,Q0*)に至ったとする。コンピュータ27は、点Emと点E0を通る直線とEGR境界線BLの方程式を解いて両者が交わる点E1(N1*,Q1*)を求めるが、方程式が実根を持たない。つまり、点Emと点E0を通る直線はEGR境界線BLに交わらない。このとき、コンピュータ27は、高圧EGR手段のみを稼働させることを維持する。
図8(b)に示されるように、直前の過去のエンジン負荷を表す領域マップの点Em(Nm*,Qm*)がHPEGR領域に位置し、コンピュータ27が高圧EGR手段のみを稼働させており、エンジン負荷が軽くなって上限境界線UBの点E0(N0*,Q0*)に至ったとする。コンピュータ27は、点Emと点E0を通る直線とEGR境界線BLの方程式を解いて両者が交わる点E1(N1*,Q1*)を求めるが、現実のエンジンには有り得ない解(この例では燃料量が負)が得られたので、コンピュータ27は、高圧EGR手段のみを稼働させることを維持する。
エンジン負荷が高負荷から軽負荷へと負荷減少時に上限境界線UBの点E0(N0*,Q0*)に到達した時点、あるいはエンジン負荷が軽負荷から高負荷へと負荷増加時に下限境界線DBの点E0(N0*,Q0*)到達した時点において、コンピュータ27は、EGRバルブの開度(HPEGR領域における負荷減少時は高圧EGRバルブ16、LPEGR領域における負荷増加時は低圧EGRバルブ19)を固定値として記憶する。また、コンピュータ27は、予測される点E1(N1*,Q1*)でのEGRバルブの開度(同上)を0とする。コンピュータ27は、点E0から点E1に移行する間のEGRバルブの開度は正規化回転速度N*に対し直線補間する。すなわち、EGRバルブの開度が上記記憶した固定値から0まで直線的に減少するよう制御する。
図9に示されるように、エンジン負荷が高負荷から軽負荷へと負荷減少時(つまり高圧EGR手段のみ稼働させていたとき)に、領域マップ上で直前の過去の点Emから現在の点E0に到達すると、低圧EGR手段と高圧EGR手段の両方の稼働を開始させることになる。このとき、コンピュータ27は、点E0から予測される点E1まで、上記直線補間で求めた開度で高圧EGR手段の高圧EGRバルブ16を制御する。また、この間、コンピュータ27は、MAF制御によって低圧EGR手段の低圧EGRバルブ19を制御する。これにより、エンジン負荷が実際に点E1を通過するときには、高圧EGR手段の高圧EGRバルブ16は開度が0となるので、HPEGR領域から遷移領域に入った点E0より、遷移領域からLPEGR領域に入る点E2までのEGR方式の切り替えが円滑になる。
図10に示されるように、エンジン負荷が軽負荷から高負荷へと負荷増加時(つまり低圧EGR手段のみ稼働させていたとき)に、領域マップ上で直前の過去の点Emから現在の点E0に到達すると、低圧EGR手段と高圧EGR手段の両方の稼働を開始させることになる。このとき、コンピュータ27は、点E0から予測される点E1まで、上記直線補間で求めた開度で低圧EGR手段の低圧EGRバルブ19を制御する。また、この間、コンピュータ27は、MAF制御によって高圧EGR手段の高圧EGRバルブ16を制御する。これにより、エンジン負荷が実際に点E1を通過するときには、低圧EGR手段の低圧EGRバルブ19は開度が0となるので、LPEGR領域から遷移領域に入った点E0より、遷移領域からHPEGR領域に入る点E2までのEGR方式の切り替えが円滑になる。
上記直線補間で求めた開度に1より小さい定数A又はBを掛けることで上記直線補間で求めた開度より小さい開度を低圧EGR手段又は高圧EGR手段への指示開度としてもよい。これにより、遷移領域内における当該EGR手段の開度を上記直線補間で求めた開度とは異ならせることができる。当該EGR手段とMAF制御されているもう一方のEGR手段との間で、EGR量(EGR率)の分担比率を任意に変化させるようにしてもよい。
以上説明したように、本発明は、1個以上のターボチャージャを備えたエンジンシステムにおいて、エンジン回転速度と燃料量が示すエンジン状態に応じて複数方式のEGR手段を切り替える際に、ある方式のEGR手段が推奨される領域と他のEGR手段が推奨される領域との境界線に重ねて有限幅の遷移領域を定義し、遷移領域では、複数のEGR方式を併用しつつ、段階的あるいは無段階的に推奨されるEGR手段に切り替えていき、遷移領域を出たときには推奨されるEGR手段のみの稼働となるようにした。これにより、EGR方式の差異による吸入空気量、排気ガス量の急激な変化を緩和することができ、EGR手段の切り替えに伴う諸状態の変化が円滑となる。この結果、有害な排気ガスの発生を抑制すると共に、燃費の意図しない悪化を抑制することができる。また、燃料早期噴射を行うPCI領域がLPEGR領域に含まれており、LPEGR領域よりもエンジン負荷が高いところにHPEGR領域があるので、低圧EGR手段の問題点であるコンプレッサ翼やインタークーラ内面の汚損を防止することができ、給気系の経年変化を抑制することができる。
図11及び図12に、本発明のエンジンシステム1における制御の流れを示す。ただし、PCIに関する制御、ターボチャージャの小容量駆動・大容量駆動の切り替え制御に関しては、省略する。
以下の説明及びフローチャート内では、コンピュータ制御手順記述の慣例に従い、長方形ボックスで示されるステップの等式(=)は右辺の値を左辺に代入することを意味し、菱形ボックスで示されるステップの等式・不等式は右辺の値と左辺の値の一致判定・大小判定を意味する。
ステップS1。車両のキースイッチが運転者によってオンされる。これにより、車両内の制御用電源が立ち上がり、コンピュータ27が起動され、以下のステップがコンピュータ27によって実行開始される。
ステップS2。変数Q1*、N1*、I、K、J、H、J*、H*をそれぞれ0とする。変数Q1*は正規化燃料量、N1*は正規化回転速度、I、K、J、H、J*、H*は、いずれもエンジン状態が領域間を遷移することで発生するフロー制御用の二値の変数(いわゆるフラグ)である。変数Iは、遷移領域に初めて入ったときにI=1というフラグが立てられるようになっている。変数Kは、遷移領域にいるときにK=1というフラグが立てられるようになっている。変数の組み合わせ(J*,H*)が(1,0)の場合は、LPEGR領域(後述するQ*<F0.95(N*)の領域)にいるか又はLPEGR領域を通過後に遷移領域(後述するF1.05(N*)>Q*>F0.95(N*))に入ったことを意味する。(J*,H*)が(0,1)の場合は、HPEGR領域(後述するQ*>F1.05(N*))にいるか又はHPEGR領域を通過後に遷移領域に入ったことを意味する。
ステップS3。エンジン制御や本発明のEGR制御に必要な各種マップを読み取る。
ステップS4。運転者の始動操作に基づき、エンジンを始動する。
ステップS5。各センサによりエンジン回転速度N(rpm)、投入燃料量Q(mm3/st)、吸入空気量MAF(g/cyl)を読み取る。
ステップS6。ステップS5で読み取ったエンジン回転速度Nを低圧EGR推奨領域における最高回転速度Nmaxで割り、正規化回転速度N*とし、投入燃料量Qを低圧EGR推奨領域における最大燃料量Qmaxで割り、正規化燃料量Q*とする。
ステップS7。EGR境界線BLを近似する関数F(x)、下限境界線DBを近似する関数F0.95(x)、上限境界線UBを近似する関数F1.05(x)のxに正規化回転速度N*を与えてこれら関数の値を求め、正規化燃料量Q*と比較する。Q*<F0.95(N*)であれば、ステップS7−1に進む。そうでなければステップS9に進む。
ステップS7−1。エンジン負荷がLPEGR領域にある。J=1,H=0を代入すると共に、J*,H*にJ,Hの値を代入する。なお、エンジン始動直後は必ずステップS7の判定がYESとなり、ステップS7−1でJ=1,H=0となる。
ステップS8。エンジン負荷がLPEGR領域にあるので、低圧EGR手段のみ稼働させる。
ステップS8−1。高圧EGR手段の高圧EGRバルブ16の開度を0に固定する。
ステップS8−2。ステップS5でセンサから読み取る吸入空気量MAFがEGRマップで規定されたMAF0となるように低圧EGR手段の低圧EGRバルブ19を開度制御する。ステップS23に進む。
ステップS9。F(N*)>Q*>F0.95(N*)であれば、ステップS10に進む。そうでなければステップS13に進む。
ステップS10。エンジン負荷が遷移領域のEGR境界線BLより下限境界線DB側にある。初めてこの領域に来たとき、変数J*はQ*>F0.95(N*)となる直前の値、つまりステップS7−1で代入されたJ*=1となっている。従って、変数の組み合わせ(J*,H*,K,I)は(1,0,0,0)である。これはエンジン負荷がLPEGR領域から遷移領域に入ったことを意味する。ステップS10では(J*,H*,K,I)が(1,0,0,0)かどうかを判定し、YESであればステップS12に進む。ステップS12からはステップS30に進むが、ステップS30以降に行う遷移領域でのEGR制御手順は後に詳述するが、フラグとフローについてのみ示すと、ステップS30ではI=1,K=1として遷移領域でのEGR制御の後、ステップS5に戻る。ステップS10でNOであればステップS11に進む。
ステップS11。(J*,H*,K,I)が(1,0,1,1)かどうかを判定し、YESであればステップS12に進む。NOであればステップS7−1に進む。
ステップS13。F1.05(N*)>Q*>F(N*)であれば、ステップS14に進む。そうでなければステップS18に進む。
ステップS14。(J*,H*,K,I)が(1,0,0,0)かどうかを判定し、YESであればステップS20に進む。NOであればステップS15に進む。
ステップS15。(J*,H*,K,I)が(0,1,0,0)かどうかを判定し、YESであればステップS12に進む。NOであればステップS16に進む。
ステップS16。(J*,H*,K,I)が(0,1,1,1)かどうかを判定し、YESであればステップS12に進む。NOであればステップS17に進む。ステップS17からはステップS5に戻ることになる。
なお、ステップS9からステップS11及びステップS13からステップS16にあっては、エンジン負荷が遷移領域にあることを意味する。エンジン負荷が軽負荷から増加してEGR境界線BLに達した場合、Q*≒F(N*)となるが、これはステップS30で判定される。その後、ステップS30−2にてK=0,I=0が代入されると、(J*,H*,K,I)は(1,0,0,0)となる。このようにエンジン負荷が軽負荷から増加してEGR境界線BLに達した場合、ステップS20以降のEGR制御手順が実行されることになる。
ステップS18。エンジン負荷が増加し、Q*>F1.05(N*)となった。すなわち、エンジン負荷がHPEGR領域にある。H=1,J=0を代入し、ステップS19に進む。
ステップS19。J*,H*に現在のJ,Hの値(0,1)を代入し、ステップS20に進む。
ステップS20。エンジン負荷がHPEGR領域にあるので、高圧EGR手段のみ稼働させる。
ステップS20−1。低圧EGR手段の低圧EGRバルブ19の開度を0に固定する。
ステップS20−2。ステップS5でセンサから読み取る吸入空気量MAFがEGRマップで規定されたMAF0となるように高圧EGR手段の高圧EGRバルブ16を開度制御する。ステップS23に進む。
ステップS23。過去の正規化回転速度Nm*に現在のN*を代入し、過去の正規化燃料量Qm*に現在のQ*を代入した後、ステップS5に戻る。
エンジン負荷が減少している場合に、ステップS5から流れてステップS13に来たときは、(J*,H*,K,I)は(0,1,0,0)である。この場合は、ステップS20には進まず、ステップS12を経て、ステップS30に進む。また、ステップS30以降を経由してステップS5から流れてステップS13に来たときは、(J*,H*,K,I)は(0,1,1,1)である。この場合は、エンジン負荷が減少してF(N*)>Q*>F0.95(N*)が成立するまではステップS13→ステップS14→ステップS15→ステップS16→ステップS30という流れが繰り返される。
ステップS30。遷移領域でのEGR制御手順を実行開始する。
ステップS30−1。Q1*とF(N*)の差の絶対値と所定の許容値Δとを比較する。言い換えると、Q1*≒F(N*)かどうかを判定する。YESであればステップS30−2に進む。NOであればステップS30−3に進む。
ステップS30−2。I=0,K=0,H=0を代入すると共に変数Q1*=0とする。ステップS31へ進み、ステップS31からステップS5に戻る。
ステップS30−3。K=1とし、サブルーチンA(図12)に進む。
ステップS30以降の意味を解説すると、エンジン負荷がF(N*)>Q*>F0.95(N*)のときは、(J*,H*,K,I)が(1,0,0,0)であるか又は(1,0,1,1)の場合にこの遷移領域でのEGR制御手順が開始される。エンジン負荷がF1.05(N*)>Q*>F0.95(N*)のときは、(J*,H*,K,I)が(0,1,0,0)であるか又は(0,1,1,1)の場合にこの遷移領域でのEGR制御手順が開始される。
ステップS30−1では、エンジン負荷が変化し、領域マップ上における軌跡の将来を予測したとき、EGR境界線BLに到達するか否かを判定する。Q1*は正規化回転速度N*における正規化燃料量Q*の予測点である。F(N*)は正規化回転速度N*におけるEGR境界線BL上の点(図5(a)及び図5(b)の交差点Eb)である。両者の差の絶対値が微小値であるΔ以下となった場合には、予測点がEGR境界線BLに到達したと判断できる。よって、ステップS30−2に進むことになる。以後は、領域に関係なくEGR方式を切り替えることになる。ステップS30−2では、変数J*,H*,K,I,Q1*を全て0にすることになる。
予測点がEGR境界線BLに到達していないと判断された場合、ステップS30−3に進み、変数Kに1を代入してサブルーチンAに進み遷移領域でのEGR制御手順を継続することになる。なお、予測を行う演算式には、関数の近似解法を用いる。
エンジン負荷が減少してQ*≒F(N*)となった場合、ステップS30−2においてI=0,K=0が代入されるため、(J*,H*,K,I)は(0,1,0,0)に戻されて、流れはステップS5に戻る。その状態からエンジン負荷がさらに減少してF(N*)>Q*>F0.95(N*)となると、(J*,H*,K,I)は(0,1,0,0)であるので、ステップS9→ステップS10→ステップS11→ステップS7−1と流れることになる。従って、エンジン負荷が遷移領域にある場合における低圧EGR手段のMAF制御が行われることになる。
エンジン負荷がさらに減少してQ*<F0.95(N*)になると、ステップS5からの流れはステップS7からステップS7−1に流れる。J=1,H=0,J*=J,H*=Hという代入が行われ、変数の組み合わせ(J*,H*)=(1,0)となり、低圧EGR手段のMAF制御が行われることになる。変数の組み合わせ(J*,H*,K,I)はエンジン始動直後に戻る。その後も、これまで述べた通りのEGR制御が繰り返される。
サブルーチンAのステップS40−1(ここより図12)。I=1かどうかを判定する。YESであればステップS40−9へ進む。NOであればステップS40−2へ進む。初めて遷移領域でのEGR制御手順に入ったときは、I=0である。
ステップS40−2。低圧EGRバルブ19の開度LA0と高圧EGRバルブ16の開度HA0を読み取る。ステップS40−3に進む。
ステップS40−3。N0*=N*を代入し、Q0*=Q*を代入すると共に、I=1を代入する。
ステップS40−4。エンジン負荷が遷移領域に入る直前の正規化回転速度Nm*、正規化燃料量をQm*(領域マップ上の点Em)と、エンジン負荷が遷移領域に到達したときの正規化回転速度N0*、正規化燃料量Q0*(領域マップ上の点E0)を通る直線とEGR境界線BL(Q*=F(N*))の方程式を解いて両者が交わる点E1(N1*,Q1*)を将来の予測点として求める。この予測点は、エンジン負荷が増加又は減少によりEGR境界線BLに到達する予測点である。ステップS40−5に進む。
ステップS40−5。ステップS40−4における演算で、方程式が実根を持たないとき(図8(a)参照)、領域マップ上における軌跡が将来、EGR境界線BLに到達しないという予測がなされたことになる。よって、ステップS40−5では、実根を持つかどうかを判定し、NO(実根を持たない)であれば、ステップS40−6に進む。YESであればステップS40−8に進む。
ステップS40−6。I=0,K=0を代入し、Q1*=0を代入する。ステップS40−7に進む。ステップS40−7からはステップS5(図11)に戻ることになる。
ステップS40−8。ステップS40−4における演算で、方程式が実根を持ったとしても、解である(N1*,Q1*)が現実のエンジンに有り得るかどうか調べる必要がある(図8(b)参照)。よって、ステップS40−8では、0<N1*<1かつ0<Q1*<1かどうかを判定する。NOであれば、ステップS40−6に進む。YESであればステップS40−9に進む。
ステップS40−9。エンジン状態が遷移領域に入った場合は、常に、F1.05(N*)>Q*>F0.95(N*)である。このときF(N*)>Q*>F0.95(N*)であれば、LPEGR領域から遷移領域に入ったことが判断できる。それ以外であれば、HPEGR領域から遷移領域に入ったことが判断できる。そこで、ステップS40−9では、F(N*)>Q*>F0.95(N*)かどうか判定し、YESであればステップS40−10に進む。NOであればステップS40−12に進む。
ステップS40−10。エンジン状態がLPEGR領域から遷移領域に入った場合である。ステップS40−4で演算したEGR境界線BLに到達する予測点E1(N1*,Q1*)と遷移領域への浸入点E0(N0*,Q0*)との間で、現在点E(N*,Q*)に対する開度LA0を直線補間により求める。この開度LA0で低圧EGRバルブ19を制御する。すなわち、ステップS40−10では、EVL(低圧EGRバルブ19のアクチュエータ駆動量)に、
EVL=A×LA0×(N1*−N*)/(N1*−N0*)
を代入する。ステップS40−11に進む。なお、正の定数Aは1以下の値を持ち、開度制御においてバルブを締める割合を調整する定数である。
ステップS40−11。ステップS40−10のEGR制御で不足するEGR量を、ステップS5でセンサから読み取る現在の吸入空気量MAFに対する目標値であるEGRマップで規定されたMAF0の差より求め、吸入空気量MAFがEGRマップで規定された目標値MAF0となるように高圧EGR手段の高圧EGRバルブ16を開度制御する。つまり、高圧EGRバルブ16にMAF制御が適用される。サブルーチンAを終了し、図11の制御フローに戻る。
ステップS40−12。エンジン状態がHPEGR領域から遷移領域に入った場合である。ステップS40−4で演算したEGR境界線BLに到達する予測点E1(N1*,Q1*)と遷移領域への浸入点E0(N0*,Q0*)との間で、現在点E(N*,Q*)に対する開度LA0を直線補間により求める。この開度LA0で高圧EGRバルブ16を制御する。すなわち、ステップS40−12では、EVH(高圧EGRバルブ16のアクチュエータ駆動量)に、
EVH=B×HA0×(N1*−N*)/(N1*−N0*)
を代入する。ステップS40−13に進む。なお、正の定数Bは1以下の値を持ち、開度制御においてバルブを締める割合を調整する定数である。
ステップS40−13。ステップS40−12のEGR制御で不足するEGR量を、ステップS5でセンサから読み取る現在の吸入空気量MAFに対する目標値であるEGRマップで規定されたMAF0の差より求め、吸入空気量MAFがEGRマップで規定されたMAF0となるように低EGR手段の低EGRバルブ19を開度制御する。つまり、低圧EGRバルブ19にMAF制御が適用される。サブルーチンAを終了し、図11の制御フローに戻る。
図11に示されるように、流れは、サブルーチンAから戻ると、ステップS5に進むことになる。
次に、図13及び図14に、本発明のエンジンシステム1の他の実施形態による制御の流れを示す。この制御フローは、図11及び図12の制御フローに対してサブルーチンA終了からステップS5に至る途中に、ステップS24を挿入すると共に、変数Iを除去したものである。ステップS24では、Nm*=N*を代入し、Qm*=Q*を代入する。変数IはステップS2をはじめ、あらゆるステップで除去されている。これにより、予測点(N1*,Q1*)が一つ前のエンジン状態を用いて常時演算され修正されるので、予測点(N1*,Q1*)の予測精度が向上する。
本発明は、エンジン状態平面(領域マップ)に、LPEGR領域とHPEGR領域と遷移領域とを定義したが、領域の種類分割をさらに増やしてもよい。この場合でも、エンジン回転速度と燃料量によりエンジン状態がどの領域にあるかを判定し、領域ごとに適切なEGR手段の稼働を行うようにするとよい。図11〜図14の制御フローは、関数F(N*)の種類を増やし、関数F(N*)とQ*の大小関係で分岐する経路を増やすことで、多様なEGR手段の稼働が可能となる。これにより、LPEGR領域とHPEGR領域との間における、EGR方式の切り替えによる諸状態の変化をより円滑にする遷移制御が可能となる。
本発明の一実施形態を示すエンジンシステムの構成図である。 エンジン回転速度を横軸とし燃料量を縦軸とするエンジン状態平面(領域マップ)である。 正規化回転速度を横軸とし正規化燃料量を縦軸とする領域マップである。 EGR境界線を円弧近似した場合の下限境界線を定義したエンジン状態平面(領域マップ)である。 本発明のエンジンシステムの動作を説明する図であり、(a)はEGR境界線を直線近似した場合の下限境界線、上限境界線、LPEGR領域、HPEGR領域、遷移領域を定義した領域マップ、(b)はEGR境界線を円弧近似した場合の下限境界線、上限境界線、LPEGR領域、HPEGR領域、遷移領域を定義した領域マップである。 本発明のエンジンシステムの動作を説明する図であり、(a)はEGR境界線を円弧近似した場合のエンジン負荷が軽負荷から高まるときを示した領域マップ、(b)はEGR境界線を直線近似した場合のエンジン負荷が軽負荷から高まるときを示した領域マップである。 本発明のエンジンシステムの動作を説明する図であり、(a)はEGR境界線を円弧近似した場合のエンジン負荷が高負荷から軽くなるときを示した領域マップ、(b)はEGR境界線を直線近似した場合のエンジン負荷が高負荷から軽くなるときを示した領域マップである。 本発明のエンジンシステムの動作を説明する図であり、(a)はEGR境界線を円弧近似した場合のエンジン負荷が高負荷でEGR境界線に到達しないと予測されるときを示した領域マップ、(b)はEGR境界線を直線近似した場合のエンジン負荷が高負荷でEGR境界線に到達しないと予測されるときを示した領域マップである。 本発明のエンジンシステムの動作を説明する図であり、エンジン負荷が高負荷(HPEGR領域)から軽負荷(LPEGR領域)へと減少するときを示した領域マップである。 本発明のエンジンシステムの動作を説明する図であり、エンジン負荷が軽負荷(LPEGR領域)から高負荷(HPEGR領域)へと増加するときを示した領域マップである。 本発明のエンジンシステムの基本となる制御の流れを示すフローチャートである。 本発明のエンジンシステムの基本となる制御の流れを示すフローチャートである。 本発明のエンジンシステムの基本となる制御の流れを示すフローチャートである。 本発明のエンジンシステムの基本となる制御の流れを示すフローチャートである。 従来のエンジンシステムの構成図である。 従来のエンジンシステムの構成図である。 燃料量に対する吸気マニホールド内のガス温度特性図である。 エンジン状態平面におけるPCI限界を示す図である。
符号の説明
1 エンジンシステム
2 エンジン
3 排気マニホールド
4 高圧段ターボチャージャのタービン
5 高圧段ターボチャージャ
6 高圧排気調整弁
7 低圧段ターボチャージャ
8 低圧段ターボチャージャのタービン
9 排気切替弁
10 排気ガス排出配管
11 DPF
12 NOx触媒式窒素酸化物除去装置
13 吸気マニホールド
14 高圧EGR配管
15 高圧EGRクーラ
16 高圧EGRバルブ
17 低圧EGR配管
18 低圧EGRクーラ
19 低圧EGRバルブ
20 低圧段ターボチャージャのコンプレッサ
21 吸気管
22 吸気スロットル
23 高圧段ターボチャージャのコンプレッサ
24 低圧ターボ出力ガス配管
25 吸気切替弁
26 高圧ガス配管
27 コンピュータ

Claims (6)

  1. PCI燃焼方式による燃料早期噴射が可能なエンジンと、小容量駆動・大容量駆動が切り替え可能なターボチャージャと、上記エンジンの排気マニホールドから吸気マニホールドに排気ガスを還流する高圧EGR手段と、排気ガス排出配管から吸気管に排気ガスを還流する低圧EGR手段と、エンジン負荷に応じて上記低圧EGR手段のみを稼働するか、上記高圧EGR手段のみを稼働するか、上記低圧EGR手段と上記高圧EGR手段の両方を稼働させるかを判断して上記低圧EGR手段と上記高圧EGR手段を制御するコンピュータとを備え、
    上記コンピュータは、エンジン回転速度と燃料量を直交二軸とするエンジン状態平面に、上記低圧EGR手段のみ稼働が許容されるLPEGR領域と、上記高圧EGR手段のみ稼働が許容されるHPEGR領域と、上記低圧EGR手段と上記高圧EGR手段のいずれか一方の稼働又は両方の稼働が可能な遷移領域とが定義され、かつ上記コンピュータの上記エンジン状態平面に、燃料早期噴射を行うPCI領域と燃料早期噴射を行わない非PCI領域とが定義され、さらに、上記PCI領域は、上記LPEGR領域に含まれ、
    上記コンピュータは、現在のエンジン回転速度と燃料量とにより上記エンジン状態平面を参照することで、稼働させるEGR手段を決定すると共に、上記低圧EGR手段のみを稼働するときは上記ターボチャージャを小容量駆動に切り替え、上記高圧EGR手段のみを稼働するときは上記ターボチャージャを大容量駆動に切り替えることを特徴とするエンジンシステム。
  2. 上記コンピュータの上記エンジン状態平面に、上記低圧EGR手段の稼働が望ましい低圧EGR推奨領域と上記高圧EGR手段の稼働が望ましい高圧EGR推奨領域とを区画するEGR境界線が定義され、
    上記EGR境界線より低圧EGR推奨領域側に所定の距離以上離れた領域が上記LPEGR領域と定義され、上記EGR境界線より高圧EGR推奨領域側に所定の距離以上離れた領域が上記HPEGR領域と定義され、上記EGR境界線より所定の距離未満の領域が上記遷移領域と定義されることを特徴とする請求項記載のエンジンシステム。
  3. 上記コンピュータは、現在のエンジン回転速度、燃料量及び過去のエンジン回転速度、燃料量により、上記エンジン状態平面における未来のエンジン回転速度、燃料量を予測し、
    上記コンピュータは、過去のエンジン回転速度、燃料量が上記LPEGR領域か上記HPEGR領域にあり、現在のエンジン回転速度、燃料量が上記遷移領域に移ったとき、
    上記予測したエンジン回転速度、燃料量が上記EGR境界線を超えて他のEGR推奨領域側に移らなければ、稼働させるEGR手段を過去のまま維持し、
    上記予測したエンジン回転速度、燃料量が上記EGR境界線を超えて他のEGR推奨領域側に移れば、上記低圧EGR手段と上記高圧EGR手段の両方の稼働を開始させることを特徴とする請求項記載のエンジンシステム。
  4. 上記コンピュータは、エンジン回転速度を上記EGR境界線の最高回転速度で割った正規化回転速度と燃料量を上記EGR境界線のエンジン回転速度=0における燃料量で割った正規化燃料量とで上記エンジン状態平面が定義され、上記EGR境界線が円、直線等の四次以下の関数で定義されることを特徴とする請求項2又は3記載のエンジンシステム。
  5. 上記コンピュータは、上記LPEGR領域と上記遷移領域との境界となる下限境界線が上記EGR境界線に対して正規化回転速度、正規化燃料量が所定比小さい線で定義され、上記遷移領域と上記HPEGR領域との境界となる上限境界線が上記EGR境界線に対して正規化回転速度、正規化燃料量が所定比大きい線で定義されることを特徴とする請求項記載のエンジンシステム。
  6. 上記コンピュータは、エンジン回転速度と燃料量を直交二軸とするエンジン状態平面の場所ごとに、EGRを行わない場合の空気量にEGR量を加えた混合ガス量が定義され、 上記コンピュータは、現在のエンジン回転速度と燃料量とにより上記エンジン状態平面を参照してEGR量を決定するMAF制御の機能を有し、
    上記コンピュータは、上記LPEGR領域では上記低圧EGR手段に上記MAF制御を適用し、上記HPEGR領域では上記高圧EGR手段に上記MAF制御を適用し、上記遷移領域では一方のEGR手段に上記MAF制御を適用しつつ他方のEGR手段については開度が漸減する制御を行うことを特徴とする請求項1〜いずれか記載のエンジンシステム。
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