JP5136196B2 - 制振鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、振動のエネルギーを吸収して振動を減衰させてしまう能力を有する制振鋼板およびその製造方法に関するものである。
制振材料は、振動のエネルギーを材料自体の中で熱エネルギーに変換して振動を減衰させてしまう能力を有するため、種々の技術分野で騒音公害や振動公害の解決に役立ち、微小な振動やノイズの除去にも役立つものである。金属系制振材料としては、金属だけからなる制振合金や、鋼板と粘弾性高分子材料の積層構造からなる制振鋼板(ここでは樹脂積層制振鋼板という。)が知られている。現在、2枚の炭素鋼板の間に樹脂層を積層した樹脂積層制振鋼板が最も多く利用されている。
樹脂を積層せず、金属単体で構成された制振合金として、鋳鉄に代表される複合型、鉄に他の合金元素を配合した強磁性型、転位型及び双晶型に大別される。強磁性型制振合金の代表的なものとしては、12Cr−2Al鋼、12Cr−2Al−3Mo鋼などが知られているが、高価なCrを多く含むので材料コストが高くなる。
特許文献1においては、制振合金として、安価な合金成分、具体的にはAlを6〜10質量%含有した制振合金が開示されている。
鋼板の加工性はαFe相やγFe相の集合組織に依存し、特に鋼板面に結晶の{222}面集積度を増加させることによって向上できるとされている。
特許文献2には、Al含有量が6.5質量%以上10質量%以下の高Al含有鋼板で、αFe結晶の{222}面集積度が60%以上95%以下、又は{200}面集積度が0.01%以上15%以下にすることで、高いAl含有量でも加工性を高くできることが開示されている。また高Al含有鋼板で、前記の特定面の面集積度を向上させる方法として、Al含有量が3.5質量%以上6.5質量%未満の母材の表面に溶融Alめっき法でAl合金を付着させ、冷間圧延し、更に拡散熱処理することが開示されている。
特開2001−59139号公報 特開2006−144116号公報
樹脂積層制振鋼板は、有機樹脂が2つの鋼板の間に積層されているという構成上、溶接性に劣ること、100℃以上での使用が困難であること、一般の機械構造用炭素鋼に比して強度がかなり低いことなどの理由により、その用途は著しく制限されている。
従来の制振合金は、樹脂積層制振鋼板のような上記制限は無いが、高価な合金を多く含み材料コストが高くなる。また特許文献1に記載のものは、安価な成分で構成されているが、Al含有量が高いために加工性に劣り、圧延などの金属加工が困難であるという問題を有する。また、その制振性能も十分とはいえなかった。
本発明は、加工性に優れ、高温での使用が可能であり、十分な制振性能を有する制振鋼板を提供することを目的とする。
本発明において制振鋼板とは、樹脂積層制振鋼板に限らず、一般に制振性能を有する鋼板を制振鋼板と称する。
鋼板の表層にFe−Al金属間化合物をはじめとする金属間化合物を有し、金属間化合物及びα−Fe相がともに鋼板面に対して{222}配向することにより、優れた制振特性を実現できることが明らかとなった。前記Fe−Al金属間化合物は、一部又は全てのAlに替えてSi、Ge、Ti又はZnの1種又は2種以上でもよい。更に、鋼板のα−Fe相も鋼板面に対して{222}配向することにより、制振特性に併せて優れた加工性を具備することができる。
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)鋼板の表層にFe−M金属間化合物と残部鉄及び不可避的不純物からなる第二層を有し、前記MはAl、Si、Ge、Ti又はZnの1種又は2種以上であり、前記Fe−M金属間化合物及び鋼板のα−Fe相がともに鋼板面に対して{222}配向してなることを特徴とする制振鋼板。
(2)前記Fe−M金属化合物の鋼板面に対する{222}面集積度が、50%以上98%以下であることを特徴とする(1)に記載の制振鋼板。
(3)前記鋼板の厚さをtとしたとき、鋼板表面から1/2t位置のα−Fe相の鋼板面に対する{222}面集積度が80%以上99%以下であることを特徴とする(1)又は(2)記載の制振鋼板。
(4)更に、前記第二層のAl含有量が10質量%以上32質量%以下であることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の制振鋼板。
(5)更に、前記第二層のSi含有量が3質量%以上12質量%以下であることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の制振鋼板。
(6)更に、前記第二層のGe含有量が12質量%以上25質量%以下であることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の制振鋼板。
(7)更に、前記第二層のTi含有量が45質量%以上50質量%以下であることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の制振鋼板。
(8)更に、前記第二層のZn含有量が72質量%以上79質量%以下であることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の制振鋼板。
(9)前記鋼板表面の片面における前記第二層の厚さが鋼板厚さの0.2%以上10%以下であることを特徴とする(1)〜(8)の何れか1項に記載の制振鋼板。
(10)前記(1)〜(10)の何れか1項に記載の制振鋼板の製造方法であって、鋼板の表層にAl、Al−Si合金、Si、Ge、Ti、Zn、又はZn−Fe合金の1種又は2種以上と残部不可避的不純物からなる金属を付着する工程、前記金属を付着した鋼板に冷間圧延を施す工程、前記冷間圧延を施した鋼板に熱処理を施す工程をこの順序で実施することを特徴とする制振鋼板の製造方法。
(11)前記冷間圧延を施す工程における圧下率が60%以上95%以下であることを特徴とする(10)に記載の制振鋼板の製造方法。
(12)前記熱処理を施す工程において、熱処理の温度が700℃以上1000℃以下であることを特徴とする(10)又は(11)に記載の制振鋼板の製造方法。
(13)前記熱処理を施す工程において、熱処理最高温度までの昇温速度が5℃/分以上30℃/分以下であることを特徴とする(10)〜(12)の何れか1項に記載の制振鋼板の製造方法。
本発明は、鋼板面に対して{222}配向したα−Fe相を、同じく{222}配向した第二層中の金属間化合物で両面から挟む構造の鋼板にすることにより、又は前記第二層を前記鋼板の片面に配することより、優れた制振特性と優れた加工性を併せ持つ制振鋼板とすることができる。
まず、前記(1)に係る本発明について説明する。
本発明の制振鋼板の特徴は、鋼板の表層に金属間化合物を有し、金属間化合物及び鋼板のα−Fe相がともに鋼板面に対して{222}配向することである。これにより、優れた制振特性と優れた加工性を併せ持つ制振鋼板とすることができる。即ち、{222}配向したα−Fe相を主とする鋼板を、同じく{222}配向した金属間化合物で両面から挟む構造とすることにより、又は前記第二層を前記鋼板の片面に配することにより、優れた制振特性を得ることができる。その理由については不明な点が多いが、α−Fe相に比べて原子間結合力の高い金属間化合物がα−Fe相上に接して{222}配向することによって、変形に要するエネルギーが大きくなり、{222}配向した金属間化合物とα−Fe相の界面で振動エネルギーが効率よく減衰することが考えられる。また、{222}配向したα−Fe相の鋼とすることにより、鋼板の加工性を向上することができる。更に、{222}配向している金属間化合物が、同じように{222}配向したα−Fe相に接していることで、加工時における金属間化合物とα−Fe相との界面での剥離が抑制できる。
以上のような特徴を有する本発明の制振鋼板は、Al、Al−Si合金、Si、Ge、Ti、Zn、又はZn−Fe合金の1種又は2種以上と残部不可避的不純物からなる金属を鋼板表面に付着させて第二層とし、次いで冷間圧延と熱処理をこの順序で施すことによって得ることができる。これにより、Al、Si、Ge、Ti又はZnの1種又は2種以上の金属を総称して「M」と表現し、鋼板の表層にFe−M金属間化合物と残部鉄及び不可避的不純物からなる第二層が形成される。
冷間圧延及び熱処理後にFe−M金属間化合物を形成させる金属は、不可避的不純物として、質量%で(内数、以下同じ)、S、P、N、O(酸素)を合計で0.05%以下含有しても良い。また、冷間圧延及び熱処理後の第二層は、Fe−M金属間化合物と、上記の金属が含有する量の範囲内の不可避的不純物の他に、残部鉄からなる。後述のように、熱処理中に鋼板中のFeが金属M層中に拡散し、一部はFe−M金属間化合物を形成し、残部はFeのまま、第二層中に残存する。
本発明の制振鋼板において、上記のように、Fe−M金属間化合物が鋼板面に対して{222}配向している。好ましくは、Fe−M金属間化合物の鋼板面に対する{222}面集積度が、50%以上98%以下で配向しているものであり(前記(2)に係る本発明)、更に好ましくは、70%以上98%以下で配向しているものである。
Fe−M金属間化合物の鋼板面に対する{222}面集積度が50%以上に高くなると、鋼のα−Fe相が{222}高配向であることと相まって、優れた制振特性を実現することができる。一方、{222}面集積度が98%を超えると前記効果が飽和してくるので制振特性の更なる向上が得られない場合がある。
本発明の制振鋼板は、鋼部分がα−Fe相を有している。鋼部分はα−Fe相以外にセメンタイト相、パーライト相、γ−Fe相などを含んでいても良い。以下のようにα−Fe相の{222}面集積度を高く保つことによってより優れた効果が得られ、鋼部分におけるα−Fe相の存在比率は80%以上であるとより好ましい。
本発明の制振鋼板において、鋼板の厚さをtとしたとき、鋼板表面から1/2t位置のα−Fe相の鋼板面に対する{222}面集積度が80%以上99%以下であると、優れた制振特性とより優れた加工性を得ることができるので、より好ましい(前記(3)に係る本発明)。
また、{222}面集積度が低いと、プレス加工、深絞り加工の際に破断、割れが生じやすくなる場合があるが、鋼板表面から1/2t位置のα−Fe相の{222}面集積度が80%以上であれば更に良好な加工性を実現することができる。一方、{222}面集積度が99%超となると、制振特性向上及び加工性向上の効果はいずれも飽和する。また、鋼板表面から1/2t位置のα−Fe相の{222}面集積度が上記の好ましい範囲であると、鋼板の中心内部までα−Fe相の{222}面集積度が高いので、絞り加工の評価値である平均r値が1.3以上となり、優れた加工性が得られるようになる。
Fe−M金属間化合物の鋼板面に対する{222}面集積度、及びα−Fe相の鋼板面に対する{222}面集積度の測定は、MoKα線によるX線回折法、EBSP法で行うことができる。
Fe−M金属間化合物の鋼板面に対する{222}面集積度に関しては、鋼板表面に対して平行なFe−M金属間化合物の結晶11面{110}、{200}、{211}、{310}、{222}、{321}、{411}、{420}、{332}、{521}、{442}の積分強度を測定し、その測定値それぞれをランダム方位である試料の理論積分強度で除した後、{222}強度の比率を下式(2)の百分率で求めた。この場合の結晶面は、結晶系に応じて、低指数、高指数面のものを含むものとする。例えば、{222}は{111}も含み、{110}は、{220}を含む。
α−Fe相の鋼板面に対する{222}面集積度に関しては、試料表面に対して平行なFeのα結晶11面{110}、{200}、{211}、{310}、{222}、{321}、{411}、{420}、{332}、{521}、{442}の積分強度を測定し、その測定値それぞれをランダム方位である試料の理論積分強度で除した後、{222}強度の比率を百分率で求めた。{222}強度比率は以下の式(2)で表される。
{222}面集積度
=[{i(222)/I(222)}/{Σi(hkl)/I(hkl)}]×100 … (2)
ただし、記号は以下の通りである。
i(hkl):測定した試料における{hkl}面の実測積分強度
I(hkl):ランダム方位をもつ試料における{hkl}面の理論積分強度
Σ :αFe結晶11面についての和
ここで、ランダム方位を持つ試料の積分強度は、試料を用意して実測して求めてもよい。鋼板の厚み方向1/2t位置におけるα−Fe相の鋼板面に対する{222}面集積度に関しても、前記と同様に行う。
また、絞り加工の評価値である平均r値はJIS Z 2254で求められる平均塑性ひずみ比を意味し、以下の式で算出される値である。
平均r値=(r0+2r45+r90)/4 … (3)
なお、r0、r45、r90は、試験片を板面の圧延方向に対し、それぞれ0°、45°、90°方向に採取し測定した塑性ひずみ比である。
Fe−M金属間化合物がFe−Al金属間化合物である場合、金属間化合物中の主要元素はFeとAlである。また、好ましい金属間化合物の結晶構造はDO3型のFe3AlあるいはB2型のFeAlである。前記金属間化合物を有する第二層のAl含有量が10質量%以上32質量%以下であれば、上記好ましい結晶構造の金属間化合物とすることができる(前記(4)に係る本発明)。
前記金属間化合物を有する第二層のAl含有量が10質量%未満であると、本発明の作用効果は得られるが、形成される金属間化合物の割合が少なくなり、α−Fe相中にAlの一部が固溶した固溶体との混合となる。また、前記金属間化合物を有する表層のAl含有量が32質量%を超えると、{222}配向の低いFe2Al5などの別の金属間化合物が形成されるので、本発明の作用効果は得られるが、金属間化合物の{222}面集積度が低下する。なお、前記金属間化合物を有する第二層中におけるFeとAlの合計含有量が75質量%以上であれば、上記良好なFe−Al金属間化合物が形成されるので好ましい。
Fe−M金属間化合物がFe−Si金属間化合物である場合、金属間化合物中の主要元素はFeとSiである。また、好ましい金属間化合物の結晶構造はDO3型あるいはB2型のFe3Siである。前記金属間化合物を有する第二層のSi含有量が3質量%以上12質量%以下であれば、上記好ましい結晶構造の金属間化合物とすることができる(前記(5)に係る本発明)。
前記金属間化合物を有する第二層のSi含有量が3質量%未満であると本発明の作用効果は得られるが、形成される金属間化合物の割合が少なくなり、α−Fe相中にSiの一部が固溶した固溶体との混合となる。また、前記金属間化合物を有する第二層のSi含有量が12質量%を超えると、{222}配向の低いFeSiなどの別の金属間化合物が形成されるので、本発明の作用効果は得られるが、金属間化合物の{222}面集積度が低下する。なお、前記金属間化合物を有する第二層中におけるFeとSiの合計含有量が75質量%以上であれば、上記良好なFe−Si金属間化合物が形成されるので好ましい。
Fe−M金属間化合物がFe−Ge金属間化合物である場合、金属間化合物中の主要元素はFeとGeである。また、好ましい金属間化合物の結晶構造はCu3Au型のFe3Geである。前記金属間化合物を有する第二層のGe含有量が12質量%以上25質量%以下であれば、上記好ましい結晶構造の金属間化合物とすることができる(前記(6)に係る本発明)。
前記金属間化合物を有する第二層のGe含有量が12質量%未満であると、本発明の作用効果は得られるが、形成される金属間化合物の割合が少なくなり、α−Fe相中にGeの一部が固溶した固溶体との混合となる。また、前記金属間化合物を有する第二層のGe含有量が25質量%を超えると、{222}配向の低いFe6Ge5などの別の金属間化合物が形成されるので、本発明の作用効果は得られるが、金属間化合物の{222}面集積度が低下する。なお、前記金属間化合物を有する第二層中におけるFeとGeの合計含有量が75質量%以上であれば、上記良好なFe−Ge金属間化合物が形成されるので好ましい。
Fe−M金属間化合物がFe−Ti金属間化合物である場合、金属間化合物中の主要元素はFeとTiである。また、好ましい金属間化合物の結晶構造はCsCl型のFeTiである。前記金属間化合物を有する第二層のTi含有量が45質量%以上50質量%以下であれば、上記好ましい結晶構造の金属間化合物とすることができる(前記(7)に係る本発明)。
前記金属間化合物を有する第二層のTi含有量が45質量%未満であると、本発明の作用効果は得られるが、配向する金属間化合物に割合が少なくなり、金属間化合物がFeTiと異なる六結晶系で{222}配向しないFe2Tiの2相となる。また、前記金属間化合物を有する第二層のTi含有量が50質量%を超えると、{222}配向の低いα−Tiが形成されるので、本発明の作用効果は得られるが、金属間化合物の{222}面集積度が低下する。なお、前記金属間化合物を有する第二層中におけるFeとTiの合計含有量が80質量%以上であれば、上記良好なFe−Ti金属間化合物が形成されるので好ましい。
Fe−M金属間化合物がFe−Zn金属間化合物である場合、金属間化合物中の主要元素はFeとZnである。また、好ましい金属間化合物の結晶構造はCu5Zn8型のFe3Zn10である。前記金属間化合物を有する第二層のZn含有量が72質量%以上79質量%以下であれば、上記好ましい結晶構造の金属間化合物とすることができる(前記(8)に係る本発明)。
前記金属間化合物を有する第二層のZn含有量が72質量%未満であると、本発明の作用効果は得られるが、金属間化合物のみとはならず、配向しないFe3Zn10とα−Fe相中にZnが固溶した固溶体との2相となる。また、前記金属間化合物を有する第二層のZn含有量が79質量%を超えると、{222}配向の低いFeZn10などの別の金属間化合物が形成されるので、本発明の作用効果は得られるが、金属間化合物の{222}面集積度が低下する。なお、前記金属間化合物を有する第二層中におけるFeとZnの合計含有量が75質量%以上であれば、上記良好なFe−Zn金属間化合物が形成されるので好ましい。
なお、金属間化合物を有する第二層中において、第二層の表面から前記第二層と鋼との界面までの間に金属Mの濃度分布が存在する場合、金属間化合物の金属Mの代表濃度を後述するEPMAを用いた元素濃度面分析のピーク濃度(質量%)として定義し、この代表値が上記上下限の範囲内であればよい。第二層とは、金属Mの濃度が母材の鋼板中のM濃度より高い領域と定義する。また、第二層を形成する金属及び第二層中の不可避的不純物の含有量はEPMA、赤外吸収法、蛍光X線法、ICP-MS法による元素分析により測定できる。
本発明の制振鋼板は、鋼板表面(板面)の片面における第二層の厚さが鋼板厚さの0.2%以上10%以下であると好ましい(前記(9)に係る本発明)。
片面の第二層の厚さが鋼板厚さの0.2%以上であれば十分な制振特性を得ることができるので好ましい。また、片面の第二層の厚さが鋼板厚さの10%を超えると制振特性の改善効果が飽和するので、10%以下が好ましい。
本発明の制振鋼板は、特に成分を限定するものではないが、Cが0.01%以下の極低炭素鋼であればプレス成形性が向上し、Cが0.01%超0.10%以下の低炭素鋼であれば低コストで高強度化できるので、好適である。
また、鋼部分のAl含有量が6.5質量%未満であると好ましい。Al含有量が6.5質量%未満であると、それより高いAl含有量に比較し、引張破断伸びが向上し、高い{222}面集積度との相乗効果で更に優れた加工性が得られるからである。
本発明の制振鋼板は、鋼板の厚さが50μm以上5mm以下であると好ましい。鋼板の厚さが50μm以上であれば、製造歩留まりが低下することなく製造することができる。また、板厚が5mm以下であると、制振特性の改善効果が非常に顕著になる。
本発明の制振鋼板において、金属間化合物を有する第二層は制振鋼板の板面の両面全面を被覆していると好ましいが、鋼板の板面の表面に一部金属間化合物で覆われていない部分があっても構わない。鋼板の全表面積に占める第二層に被覆された割合(被覆面積率)が高くなるほど、制振鋼板の制振特性が改善される。被覆面積率が80%以上であると好ましい。
次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。
母材鋼板を準備し、母材鋼板の板面両側又は片側の表面に、第二層として金属Mの構成元素として、Al、Al−Si合金、Si、Ge、Ti、Zn、又はZn−Fe合金の1種又は2種以上と残部不可避的不純物からなる金属を付着する工程、前記金属を付着した母材鋼板に冷間圧延を施す工程、前記冷間圧延を施した鋼板に熱処理を施す工程をこの順序で実施する(前記(10)に係る本発明)。
特許文献2に記載の鋼板は、Al含有量が6.5質量%以上10質量%以下の高Al含有鋼板であって、α−Fe相の{222}面集積度が60%以上95%以下、または{200}面集積度が0.01%以上15%以下の一方または両方の高Al含有鋼板である。この鋼板の製造はAlを3.5質量%以上6.5質量%以下含有する鋼板の少なくとも片面にAl合金を付着させ、冷間で加工歪みを付与させた後にAlを拡散させる熱処理を施すものであった。
本発明者らは、{222}面集積度をさらに向上させる技術開発に取り組み、各種実験を行ってきた。その結果、鋼板に付着させる金属はAlに限定されず、Fe以外の金属Mとして、Al、Al−Si合金、Si、Ge、Ti、Zn、又はZn−Fe合金の1種又は2種以上と不可避的不純物からなる金属を第二層として鋼板に付着させたまま冷間圧延を施し、その後に熱処理で鋼板を再結晶させることによって{222}面集積度が向上できること、この現象が冷延の際に鋼中に形成される特別な転位組織によって発現できることを発見した。熱処理により該転位組織から{222}面集合組織を発達させるようなα−Fe結晶の再結晶核が発生するようになるのである。
本発明では、冷間圧延前の母材鋼板に付着させる第二層の厚みの望ましい範囲は、板面の両面合計で0.1μm以上500μm以下である。母材鋼板と第二層が合金化している場合には、合金化している厚みは第二層の厚みに含める。第二層の厚みが0.1μm未満であると、Fe−M金属間化合物の形成を十分に行えない場合や、{222}配向を十分に得ることができなくなる場合がある。500μm超の場合にも、{222}面集積度が低くなり、本発明の範囲に入らなくなる可能性が高まるため500μm以下が好ましい。
本発明において、第二層は金属Mを主成分とする金属である。「Mを主成分」とは、M含有量が50質量%以上であることを意味する。金属M以外の成分として、Fe、Al、Co、Cu、Cr、Ga、Hf、Hg、In、Mn、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Pt、Sb、Si、Sn、Ta、Ti、V、W、Zn、Zrのうち1つ以上の元素を含有してもよい。
本発明の製造方法において、準備する母材鋼板の厚みは、片面の第二層の最終厚さが鋼板の厚みに対して0.2%〜10%になるように調整すればよい。この範囲であれば、制振特性が改善されるからである。
第二層の母材鋼板への付着は溶融めっき法、電気めっき法、粉末塗布法、ドライプロセス法、クラッド法等によって実施でき、いずれの方法で付着を行っても本発明の効果を得ることができる。また、付着させる第二層に希望する合金元素を添加させ、同時に合金化させることも可能である。
冷間圧延を施す工程は母材鋼板に第二層を付着させたままで実施する。冷間圧延の圧下率は60%以上95%以下とすると好ましい(前記(11)に係る本発明)。
圧下率が60%未満であると、熱処理を施す工程後に得られる金属間化合物やα−Fe相の{222}面集積度は低く、本発明の範囲には到達できないことがある。95%を超えると、前記面集積度の増加は飽和し、製造コストは増加することからメリットは少ない。
前記冷間圧延後に前記熱処理することにより、鋼板表面に付着した金属Mが鋼板中に拡散するとともに鋼板中のFeが金属M層中に拡散し、鋼板の表層におけるFeの含有量及び金属Mの含有量がFe−M金属間化合物を形成する含有量となり、第二層にFe−M金属間化合物が形成される。また、鋼板表面への金属Mの付着、冷間圧延、熱処理をこの順序で行うことにより、第二層に形成されたFe−M金属間化合物と鋼板のα−Fe相のいずれも、熱処理の結果、鋼板面に対する{222}面集積度が増大する、即ち、鋼板面に対して{222}配向することとなる。
第二層に含まれている金属Mが鋼中に拡散することによって、金属間化合物及びα−Fe相に関しより高い{222}面集積度が得られる傾向もあり、かつ、制振特性や機械的特性も向上する。
本発明においては、冷間圧延前の第二層の付着量を調整するとともに、冷間圧延後の熱処理の温度と時間を調整することにより、第二層にFe−M金属間化合物を形成すると共に、金属間化合物とα−Fe相の{222}配向特性を具備することができる。
熱処理の結果、第二層中のFe濃度が上昇する。熱処理をある時点で終了することにより、鋼板厚み方向の金属Mの濃度分布に不均一性を持たせ、第二層についてM含有量をFe−M金属間化合物が形成される濃度とすることができる。そして、上記のように鋼部分の{222}面集積度が高くなるのみならず、Fe−M金属間化合物の{222}面集積度も高くなることがわかった。
冷間圧延後の熱処理温度と熱処理時間には好適な組み合わせ範囲があり、この好適な組み合わせ範囲よりも熱処理温度が高く、あるいは熱処理時間が長すぎると、第二層として付着した金属Mが鋼板内に十二分以上に拡散してしまい、表層にFe−M金属間化合物を十分に形成することができない場合がある。具体的には、熱処理温度は、700℃以上1000℃以下が好ましい(前記(12)に係る本発明)。
冷間圧延後の熱処理を施す工程は、真空雰囲気、Ar雰囲気、H2雰囲気といった非酸化性雰囲気で行うことができる。この際、熱処理温度は、上述のように、700℃以上1000℃以下とすると好ましい。700℃以上であると、金属間化合物の{222}面集積度はより高くなり、容易に本発明の範囲に到達できる。熱処理温度が高すぎると好ましい結晶構造の金属間化合物が形成されないことがあるが、1000℃以下であれば好ましい結晶構造の金属間化合物を形成することができる。
以上の温度範囲と時間範囲の中で、熱処理後の鋼板表層にFe−M金属間化合物が形成される条件を選択して熱処理を行う。
次に、冷間圧延後の熱処理時の好ましい昇温速度は5℃/分以上30℃/分以下である(前記(13)に係る本発明)。
5℃/分以上の昇温速度であれば、表層に好ましい金属間化合物相を効率よく形成することができる。また、昇温速度を30℃/分以下とすれば金属間化合物を{222}配向とすることができる。従って、昇温速度の好ましい範囲は5℃/分以上30℃/分以下である。
さらに優れた本発明の効果を発現させるためには、第二層を付着させる前の母材鋼板に予備熱処理を施すと良い。この予備熱処理は、母材鋼板の製造過程で蓄積された転位構造を再配列させるもので、再結晶を起こさせることが望ましいが、必ずしも再結晶を起こさせる必要はない。
ここで、望ましい予備熱処理温度は700℃以上1100℃以下である。700℃未満であると、より優れた本発明の効果を得るための転位組織の変化が起こりにくい。1100℃超にすると、鋼板表面に好ましくない酸化皮膜が形成され、その後の第二層の付着および、冷間圧延に悪影響を及ぼす場合がある。この予備熱処理の雰囲気は、真空中、不活性ガス雰囲気中、水素雰囲気中のどの条件においても、上述した効果を得ることができるが、予備熱処理後の第二層の付着および、その後の冷間圧延に悪影響を及ぼすような鋼板表面の酸化膜を形成しない条件が求められる。予備熱処理の時間は特別限定する必要はないが、鋼板の製造性等を考慮すると数秒(2〜5秒)から数時間(2〜5時間)以内が適当である。
鋼板の表層に、第二層としてFe−M金属間化合物を有する本発明の制振鋼板を製造し、制振特性及び加工性についての評価を行った。
鋼板表層の金属間化合物について、その厚さを、L断面(圧延方向断面)においてL方向(圧延方向)の全厚み視野でEPMA法を用いてFe含有量とM含有量の面分布を測定し、母材よりも高いM含有量の領域について、詳細にXRD回折法と透過電子顕微鏡によって組織と結晶構造を関係づけることによって金属間化合物層を同定した。また金属間化合物の鋼板面に対する{222}面集積度は、前述の通りEBSP法によって求めた。
また、金属間化合物中の金属Mの濃度について、前述のEPMA法で求めた面分布を基にしてピークM濃度(質量%)とした。
鋼板のFe相の鋼板面に対する{222}面集積度については、前述の通りMoKα線によるX線回折法によって評価した。評価箇所は、鋼板の表層界面のα-Fe相と板厚の中心(1/2t)のα相について行なった。鋼板の表層界面の評価には、各処理で形成されたM元素からなる表面層をエッチングで除去して行なった。
制振特性に関しては、「JIS G 0602制振鋼板の振動減衰特性試験方法」に従って、幅20mm、長さ200mmの試験材を鋼板から作成し、片端固定により振動減衰特性を調べた。200℃の恒温槽内で、固定していない片端を自由振動させ、非接触変位計により変位の時間変化を測定し、減衰法によって損失係数を求めた。{222}配向した金属間化合物が表層にある鋼板と、当該鋼板の表面層を除去した鋼板を準備し、それぞれについて損失係数を求めた上で、(金属間化合物付き鋼板の損失係数)/(金属間化合物除去鋼板の損失係数)で定義される比を損失係数比と定義した。損失係数比が1.02以上であれば制振特性が良好であると判断した。
加工性については、ランクフォード値の評価を、前記(3)式で得られる平均r値によって行った。
(実施例1)
第二層としてAl合金を用い、金属MがAlである場合について本発明の制振鋼板を製造した。
母材の鋼板の成分は、何れも質量%でC:0.0019%、Si:0.011%、Mn:0.13%、Al:0.039%、Ti:0.061%、Cr:0.002%以下、N:0.002%、残部Fe及び不可避不純物を含む。真空溶解法によって上記成分を有するインゴットを溶製し、熱間圧延によって1mm、2mm、3mmの厚さにした鋼板を用意し、酸洗により表面のスケールを除去した上で母材鋼板とした。
この母材鋼板に、予備熱処理として水素雰囲気中で800℃×10秒の熱処理を施した。その後、母材鋼板の表面に溶融めっき法又はクラッド法でAl合金を付着させた。めっき浴の組成は90%Al−10%Siであり、母材鋼板の両面に付着させて、第二層を形成した。めっき付着量の制御はめっき凝固前にワイピングノズルで窒素ガスを表面に吹きつけて不要なめっきを吹き飛ばすことによって行った。クラッド法は、90%Al−10%Si合金を付着させた鋼板を冷間圧延を施して薄肉化した。
90%Al−10%Si合金は、不可避的不純物として、質量%で、S、P、N、O(酸素)を合計で0.01%以下含有していた。
Al合金又はAlを付着させた鋼板に冷間圧延を施して薄肉化させた。その後、この鋼板を非酸化性雰囲気(Ar雰囲気又はH雰囲気)中で熱処理を施して再結晶、Al拡散を進行させ、金属間化合物を形成した。表1に示す本発明例No.1−1〜42、比較例No.1−1〜7、及び表2に示す本発明例No.2−1〜34、比較例No.2−1〜6を製造した。熱処理後の第二層は、表1に示すFe−Al金属間化合物と上記90%Al−10%Si合金が含有する範囲内の不可避的不純物の他に、残部鉄からなっていた。
表1には製造条件として、片面の第二層形成厚み、冷間圧延の圧下率、熱処理の昇温速度、保持温度、保持時間を示す。後述する表2〜6についても同様である。
また、表1にはこのようにして製造した鋼板について、第二層に関してはその片面の厚さ/鋼板の厚さ比(%)、金属間化合物の結晶種類、{222}面集積度、ピークAl濃度の評価結果を、鋼部分に関しては厚さ、第2層との界面及び板厚1/2t位置の{222}面集積度を示す。さらに制振特性、r値の評価結果を示す。後述する表2〜6についても同様である。
表1の本発明例No.1−1〜42に示す制振鋼板については、本発明の好ましい製造条件を用いて製造を行った結果として、鋼板の表層にFe−Al金属間化合物が形成され、金属間化合物、鋼部分のいずれも{222}面集積度が良好な値となり、制振特性を示す損失係数比はいずれも1.02を超え、良好な制振特性を示した。
比較例No.1−1〜3については、鋼板表層に金属間化合物が形成されず、表層には、金属間化合物を構成する結晶がFe3Al、FeAlのいずれでもなく、Alが固溶したα鉄が形成された比較例とFe3Alが形成されるものの、α鉄が共存していた比較例である。そのため、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No.1−4については、第二層を形成せずに冷間圧延と熱処理を行った。そのため、鋼板表層には金属間化合物が形成されず、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No.1−5は鋼板表層に第二層を形成後、冷間圧延を行わずに熱処理を行った。そのため、金属間化合物が形成されず、第二層の{222}面集積度は低い値である。そのため、損失係数比は1.00と低い値であった。
比較例No.1−6は鋼板表層に第二層を形成後、冷間圧延を行った後、熱処理を600度で行った。そのため、第二層中の金属間化合物の{222}面集積度が46%と低い値であった。熱処理の昇温速度が35℃/分と高速であったことにも起因する。そのため、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No.1−7は鋼板表層に第二層を形成後、冷間圧延を行った後、熱処理を行わなかった。そのため、第二層に金属間化合物が形成されず、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
前記(3)式で得られる本発明例の制振鋼板のランクフォード値は1.5を超える良好な値であった。
Figure 0005136196
Figure 0005136196
(実施例2)
第二層としてAlを用い、クラッド法により、第二層を形成させた他は、実施例1と同様に試験を行った。クラッド法は、実施例1と同様に行った。
Alは、不可避的不純物として、質量%で、S、P、N、O(酸素)を合計で0.05%以下含有していた。
表2に製造条件と評価結果を示す。熱処理後の第二層は、表1に示すFe−Al金属間化合物と、上記のAlが含有する範囲内の不可避的不純物の他に、残部鉄からなっていた。
表2の本発明例No.2−1〜34に示す制振鋼板については、本発明の好ましい製造条件を用いて製造を行った結果として、鋼板の表層にFe−Al金属間化合物が形成され、金属間化合物、鋼部分のいずれも{222}面集積度が良好な値となり、制振特性を示す損失係数比はいずれも1.02を超え、良好な制振特性を示した。
比較例No.2−1は鋼板表層に第二層を形成し、冷間圧延を行った後、熱処理を700℃、10秒保持で行った。しかし、昇温速度が不適切であったため、第二層中の金属間化合物の{222}面集積度が48%と低い値であった。そのため、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No.2−2、3については、鋼板表層に金属間化合物が形成されず、表層には、金属間化合物を構成する結晶がFe3Al、FeAlのいずれでもなく、Alが固溶したα鉄が形成された。1000℃、600秒又は900秒保持と、高温で長時間保持しすぎたためである。そのため、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No.2−4については、第二層を形成せずに冷間圧延と熱処理を行った。そのため、鋼板表層には金属間化合物が形成されず、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No.2−5は鋼板表層に第二層を形成後、冷間圧延を行わずに熱処理を行った。そのため、金属間化合物が形成されず、第二層の{222}面集積度は低い値である。そのため、損失係数比は1.00と低い値であった。
比較例No.2−6は鋼板表層に第二層を形成後、冷間圧延を行った後、熱処理を行わなかった。そのため、第二層に金属間化合物が形成されず、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
前記(3)式で得られる本発明例の制振鋼板のランクフォード値は1.5を超える良好な値であった。
Figure 0005136196
Figure 0005136196
(実施例3)
第二層としてSi、Ge、Ti金属をそれぞれ用い、金属MがSi、Ge、Tiである場合について本発明の制振鋼板を製造した。
金属MがSiである場合には、鋼板厚さ1mm,2mm,5mmの3種類、Geの場合には、鋼板厚さ1mm,2mmの2種類、Tiの場合には、鋼板厚さ1mm,4mmの2種類をそれぞれ、製造した。
母材の鋼板の成分は質量%でC:0.083%、Si:0.11%、Mn:0.23%、Al:0.01%、Cr:0.002%以下、N:0.003%、残部Fe及び不可避不純物を含む。真空溶解法によって上記成分を有するインゴットを溶製し、熱間圧延によって母材鋼板とした。
この母材鋼板に、予備熱処理としてアルゴン雰囲気中で表3〜5に示す温度×60秒の熱処理を施した。その後、母材鋼板の表面にスパッタ法を用いてSi、Ge、Ti金属を付着させた。Si、Ge、Ti金属は、不可避的不純物として、質量%で、S、P、N、O(酸素)を合計で、それぞれ0.01%以下、0.03%以下、0.05%以下含有していた。それぞれ純度99.9%以上の金属ターゲット剤を用意して、第二層の厚さが所定の厚さとなるように制御し、両面を被覆した。第二層を付着させた鋼板に所定の圧下率で冷間圧延を施して薄肉化させた。その後、この鋼板を真空(10-4torr以下)中で熱処理を施して再結晶、金属Mの拡散を進行させ、金属間化合物を形成した。表3〜5に示す各本発明例、比較例を製造した。金属Mとして、表3はSi、表4はGe、表5はTiを用いている。
熱処理後の第二層は、表3、表4に示すFe−Si金属間化合物、Fe−Ge金属間化合物と、上記のSi、Ge金属が含有する範囲内の不可避的不純物の他に、残部鉄からなっていた。表5の熱処理後の第二層は、Fe−Ti金属間化合物と、一部α-Tiが含有する範囲内の不可避的不純物の他に、残部鉄からなっていた。
表3に示す本発明例No.3−1〜21、表4に示す本発明例No.4−1〜14、表5に示す本発明例No.5−1〜14は、いずれも本発明の好ましい製造条件を用いて製造を行った結果として、鋼板の表層にFe−M金属間化合物が形成され、金属間化合物、鋼部分のいずれも{222}面集積度が良好な値となり、制振特性を示す損失係数比はいずれも1.02を超え、良好な制振特性を示した。
比較例No3−1、2、No.4−1は、何れも鋼板表層に金属間化合物が形成されず、第二層の金属M(Si又はGe)が固溶したα鉄が形成された。1000℃、600秒又は900秒保持と、高温で長時間保持しすぎたためである。そのため、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No3−3は、第二層の金属間化合物の{222}面集積度がそれぞれ46%と低い値であった。熱処理の保持温度が650℃と低温であったことに起因する。そのため、損失係数比はいずれも1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No3−4、No.4−2、No.5−2については、第二層を形成せずに冷間圧延と熱処理を行った。そのため鋼板表層には金属間化合物が形成されず、鋼部分の{222}面集積度は80%未満と低い値であった。損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No3−5、No.4−3、No.5−3は、何れも第二層中の{222}面集積度は6〜8%と低い値であった。冷間圧延を行わなかったためである。そのため、損失係数比は1.00と低い値であった。
比較例No3−6、No.4−4、No.5−4は、何れも鋼板表層に金属間化合物が形成されず、表層には第二層の金属M(Si、Ge又はTi)と鋼部分のFeとによる合金化層が形成された。いずれも、熱処理を行わなかったことに起因する。そのため、損失係数比は1.00と低い値であった。
比較例No3−7は、鋼板表層に金属間化合物が形成されず、第二層の金属M(Si)が固溶したα鉄が形成された。1050℃、150秒保持と、高温で長時間保持しすぎたためである。そのため、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
前記(3)式で得られる本発明例の制振鋼板のランクフォード値は1.3を超える良好な値であった。
Figure 0005136196
Figure 0005136196
Figure 0005136196
(実施例4)
第二層としてZn合金を用い、金属MがZnである場合について本発明の制振鋼板を製造した。
母材の鋼板の成分は質量%でC:0.005%、Si:0.2%、Mn:0.5%、Al:0.01%、Ti:0.05%、残部Fe及び不可避不純物を含む。真空溶解法によって上記成分を有するインゴットを溶製し、熱間圧延によって3.2mm厚さとし、さらに冷間圧延によって2mm厚さと3mm厚さの2種類の母材鋼板とした。
この母材鋼板に、予備熱処理として水素雰囲気中で720℃×5秒の熱処理を施した。その後、母材鋼板の表面に電気めっき法でZn合金を付着させた。めっき浴は硫酸系酸性溶液を用い、付着させるめっきは94%Zn−6%Feの合金である。94%Zn−6%Fe合金は、不可避的不純物として、質量%で、S、P、N、O(酸素)を合計で0.01%以下含有していた。付着させたZn合金の厚さが所定の厚さになるように制御した。Zn合金を付着させた鋼板に冷間圧延を施して薄肉化させた。その後、この鋼板を非酸化性雰囲気中で熱処理を施して再結晶、Zn拡散を進行させ、金属間化合物を形成した。表6に示す本発明例No.6−1〜9、比較例No.6−1〜5を製造した。
熱処理後、第二層は、表6に示すFe−Zn金属間化合物と、上記94%Zn−6%Fe合金が含有する範囲内の不可避的不純物の他に、残部鉄からなっていた。
表6の本発明例No.6−1〜92に示す制振鋼板については、本発明の好ましい製造条件を用いて製造を行った結果として、鋼板の表層にFe−Zn金属間化合物が形成され、金属間化合物、鋼部分のいずれも{222}面集積度が良好な値となり、制振特性を示す損失係数比はいずれも1.02を超え、良好な制振特性を示した。
比較例No.6−1、2については、鋼板表層に金属間化合物の他に、Znが固溶したα鉄が形成された。800℃、600秒又は900秒保持と、長時間保持しすぎたためである。そのため、損失係数比は1.00であり、制振特性の改善効果は見られなかった。
比較例No.6−3については、第二層を形成せずに冷間圧延と熱処理を行った。そのため鋼板表層には金属間化合物が形成されず、鋼部分の{222}面集積度は低い値であった。損失係数比は1.00であった。
比較例No6−4は、第二層中の{222}面集積度は6%と低い値であった。冷間圧延を行わなかったためである。そのため、損失係数比は1.00と低い値であった。
比較例No6−5は、鋼板表層に金属間化合物が形成されず、表層にはZnと鋼部分のFeとによる合金化層が形成された。いずれも、熱処理を行わなかったことに起因する。そのため、損失係数比は1.00と低い値であった。
前記(3)式で得られる本発明例の制振鋼板のランクフォード値は1.5を超える良好な値であった。
Figure 0005136196

Claims (13)

  1. 鋼板の表層にFe−M金属間化合物と残部鉄及び不可避的不純物からなる第二層を有し、前記MはAl、Si、Ge、Ti又はZnの1種又は2種以上であり、前記Fe−M金属間化合物及び鋼板のα−Fe相がともに鋼板面に対して{222}配向してなることを特徴とする制振鋼板。
  2. 前記Fe−M金属化合物の鋼板面に対する{222}面集積度が、50%以上98%以下であることを特徴とする請求項1に記載の制振鋼板。
  3. 前記鋼板の厚さをtとしたとき、鋼板表面から1/2t位置のα−Fe相の鋼板面に対する{222}面集積度が80%以上99%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の制振鋼板。
  4. 更に、前記第二層のAl含有量が10質量%以上32質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の制振鋼板。
  5. 更に、前記第二層のSi含有量が3質量%以上12質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の制振鋼板。
  6. 更に、前記第二層のGe含有量が12質量%以上25質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の制振鋼板。
  7. 更に、前記第二層のTi含有量が45質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の制振鋼板。
  8. 更に、前記第二層のZn含有量が72質量%以上79質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の制振鋼板。
  9. 前記鋼板表面の片面における前記第二層の厚さが鋼板厚さの0.2%以上10%以下であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の制振鋼板。
  10. 請求項1〜10の何れか1項に記載の制振鋼板の製造方法であって、鋼板の表層にAl、Al−Si合金、Si、Ge、Ti、Zn、又はZn−Fe合金の1種又は2種以上と残部不可避的不純物からなる金属を付着する工程、前記金属を付着した鋼板に冷間圧延を施す工程、前記冷間圧延を施した鋼板に熱処理を施す工程をこの順序で実施することを特徴とする制振鋼板の製造方法。
  11. 前記冷間圧延を施す工程における圧下率が60%以上95%以下であることを特徴とする請求項10に記載の制振鋼板の製造方法。
  12. 前記熱処理を施す工程において、熱処理の温度が700℃以上1000℃以下であることを特徴とする請求項10又は11に記載の制振鋼板の製造方法。
  13. 前記熱処理を施す工程において、熱処理最高温度までの昇温速度が5℃/分以上30℃/分以下であることを特徴とする請求項10〜12の何れか1項に記載の制振鋼板の製造方法。
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