本発明は、ステアリング操作部材に入力された操舵力を転舵装置に伝達する車両用操舵力伝達装置に関する。
近年では、運転者によって操作されるステアリング操作部材と車輪を転舵する転舵装置との一方に一端部が連結されるシャフト(以下、「第1シャフト」という場合がある)の回転位相と、他方に一端部が連結されるシャフト(以下、「第2シャフト」という場合がある)の回転位相との差である回転位相差を変化させつつ、第1シャフトと第2シャフトとの一方の回転を他方に伝達する回転伝達機構を備えた車両用操舵力伝達装置の開発が進められている。下記特許文献には、その回転伝達機構を備えた操舵力伝達装置の一例が記載されている。
実開平4−54769号公報
上記回転伝達機構は、第1シャフトの他端部に設けられた突出部と、第2シャフトの他端部に形成された1対の側壁面を有する溝とを備えている。その突出部が1対の側壁面によって挟まれた状態で溝に係合することで、2本のシャフトが連結されており、突出部と側壁面とを介して2本のシャフトの一方の回転が他方に伝達されている。突出部は1対の側壁面に沿って移動可能とされており、突出部の円滑な移動を担保すべく、突出部と1対の側壁面との間にはクリアランス(隙間)が設けられている。しかし、そのクリアランスが存在するために、突出部が1対の側壁面の間でガタついて、走行時に異音,振動等が生じる虞が有る。さらに、ステアリング操作部材の切り始め,切り返し時等には、そのクリアランスのため、突出部と1対の側壁面の一方とが接触するまでは、2本のシャフトの一方の回転が他方に伝達されない。このため、運転者がステアリング操作部材の操作フィーリングに違和感を感じる虞がある。上記回転伝達機構を備えた車両用操舵力伝達装置は、未だ開発途上であり、そのような問題を始めとする種々の問題を抱え、改良の余地を多分に残すものとなっている。そのため、種々の改良を施すことによって、その操舵力伝達装置の実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い車両用操舵力伝達装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の車両用操舵力伝達装置は、第1シャフトと、その第1シャフトの回転軸線と自身の回転軸線とが平行でありかつそれら回転軸線が所定距離ズレた状態で配設された第2シャフトと、(A)第1シャフトの回転軸線からその第1シャフトの径方向に上記所定距離より離れた位置において、その第1シャフトの本体部からその第1シャフトの径方向に突出するその第1シャフトの鍔部から第1シャフトおよび第2シャフトの回転軸線の延びる方向である回転軸線方向に突出した状態でその鍔部に設けられた第1シャフトの突出部と、(B)第2シャフトの他端部においてその第2シャフトの径方向に延びるようにして設けられ、第1シャフトの突出部が嵌り入るとともにその突出部を挟む1対の側壁面を有し、突出部の第2シャフトの径方向における移動を許容する径方向溝とを含んで構成され、第1シャフトと第2シャフトとの一方の回転を、回転位相差を変化させつつ、他方に伝達する回転伝達機構とを備えた操舵力伝達装置であって、第1シャフトの突出部が、(i) 第1シャフトの鍔部に対して、回転軸線方向に延びる回転軸線回りに回転可能とされた基体と、(ii) その基体に保持された弾性体と、(iii) その弾性体に支持され、その弾性体の弾性力によって付勢された状態で径方向溝の1対の側壁面の両方に接する低摩擦部材とを有するように構成される。
本発明の車両用操舵力伝達装置は、突出部を構成する低摩擦部材が弾性力によって付勢された状態で1対の側壁面に接する構造とされている。したがって、本発明の車両用操舵力伝達装置によれば、突出部の径方向溝内の円滑な移動を担保しつつ、突出部と1対の側壁面との間のクリアランスを無くすことが可能となり、走行時の異音,振動、操作フィーリングの違和感等を解消することが可能となる。このような利点から、本発明の装置によれば、回転伝達機構を備えた操舵力伝達装置の実用性を高くすることが可能となる。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(2)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項2に(3)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項3に(4)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項3または請求項4に(5)項および(6)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項5に(7)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項6に(9)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項7に、請求項6または請求項7に(10)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項8に、請求項3ないし請求項8のいずれか1つに(11)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項9に、請求項2ないし請求項9のいずれか1つに(13)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項10に、それぞれ相当する。
(1)運転者によって操作されるステアリング操作部材と車輪を転舵する転舵装置との一方に一端部が連結され、回転可能に配設された第1シャフトと、
前記ステアリング操作部材と前記転舵装置との他方に一端部が連結され、前記第1シャフトの回転軸線と自身の回転軸線とが平行でありかつそれら回転軸線が所定距離だけズレた状態で回転可能に配設された第2シャフトと、
(A) 前記第1シャフトの他端部において、その第1シャフトの回転軸線からその第1シャフトの径方向に前記所定距離より離れた位置に設けられた係合部と、(B) 前記第2シャフトの他端部において、その第2シャフトの径方向に延びるようにして設けられ、前記第1シャフトの係合部を係合させるとともに、その係合部の前記第2シャフトの径方向における移動を許容する案内通路とを含んで構成され、前記第1シャフトと前記第2シャフトとの一方の回転によって、その第1シャフトおよび第2シャフトのそれぞれの回転位相の差である回転位相差を変化させつつ、他方が回転するように構成された回転伝達機構と
を備えた車両用操舵力伝達装置であって、
前記第1シャフトが、(i) それの本体部である第1シャフト本体部と、(ii) その第1シャフト本体部の前記第2シャフト側の端部において、その第1シャフト本体部と一体的に設けられ、その第1シャフト本体部から前記第1シャフトの径方向に突出する第1シャフト鍔部と、(iii) 前記第1シャフトの回転軸線からその第1シャフトの径方向に前記所定距離より離れた位置において、前記第1シャフト鍔部から、前記第1シャフトおよび前記第2シャフトの回転軸線の延びる方向である回転軸線方向における前記第2シャフトの側に向って突出し、前記回転伝達機構の係合部として機能する突出部とを有し、
前記第2シャフトが、(i) それの本体部である第2シャフト本体部と、(ii) その第2シャフト本体部の前記第1シャフト側の端部において、その第2シャフト本体部と一体的に設けられ、その第2シャフト本体部から前記第2シャフトの径方向に突出する第2シャフト鍔部と、(iii) その第2シャフト鍔部において、その第2シャフト鍔部の前記第1シャフト側の端面に開口するとともに前記第2シャフトの径方向に延びるように設けられ、前記第1シャフトの突出部が嵌り入るとともにその突出部を挟む1対の側壁面を有し、前記回転伝達機構の案内通路として機能する径方向溝とを有し、
前記第1シャフトの突出部が、(i) 前記第1シャフト鍔部に対して、前記回転軸線方向に延びる回転軸線回りに回転可能とされた基体と、(ii) その基体に保持された弾性体と、(iii) その弾性体に支持され、その弾性体の弾性力によって付勢された状態で前記径方向溝の1対の側壁面の両方に接する低摩擦部材とを有することを特徴とする車両用操舵力伝達装置。
第1シャフトの他端部に設けられた突出部と、第2シャフトの他端部に形成された1対の側壁面を有する溝とを備え、その突出部が1対の側壁面によって挟まれた状態で溝に係合するとともに1対の側壁面に沿って移動する構造の回転伝達機構においては、突出部の円滑な移動を担保するために、突出部と1対の側壁面との間にはクリアランス(隙間)が設けられている。しかし、そのクリアランスがバックラッシュとなって走行時に異音,振動等が生じる虞が有る。さらに、ステアリング操作部材の切り始め,切り返し時等には、突出部と側壁面とが接触するまでは、2本のシャフトの一方の回転が他方に伝達されないため、運転者がスアリング操作部材の操作フィーリングに違和感を感じる虞がある。
本項に記載された態様の車両用操舵力伝達装置は、突出部を構成する低摩擦部材が弾性力によって付勢された状態で1対の側壁面に接する構造とされている。このため、弾性力によってクリアランスを無くすとともに、低摩擦部材によって突出部の円滑な移動が担保される。したがって、本項に記載された態様の装置によれば、突出部の円滑な移動を担保するとともに、突出部の1対の側壁面の間でのガタつきに起因する種々の問題、具体的には、走行時の異音,振動、操作フィーリングの違和感等を解消することが可能となる。
本項に記載された「回転伝達機構」は、2本のシャフトの回転位相差を変化させるものであることから、第1シャフトの回転角と第2シャフトの回転角との差が変化する。具体的に言えば、後に詳しく説明するが、例えば、2本のシャフトの回転角差(回転位相差)の無い状態の2本のシャフトのうちのステアリング操作部材に連結されるシャフト(以下、「操作部材側シャフト」という場合がある)の回転角である特定回転角から操作部材側シャフトが回転すると、操作部材側シャフトが180°回転するまでは、2本のシャフトのうちの転舵装置に連結されるシャフト(以下、「転舵装置側シャフト」という場合がある)は、操作部材側シャフトの回転角より小さい回転角しか回転しない。そして、操作部材側シャフトが180°回転すると、転舵装置側シャフトも180°回転し、2本のシャフトの回転角の差がなくなる。つまり、操作部材側シャフトが特定回転角からもう1つの特定回転角である180°まで回転する際に、回転角差が0から増加し、途中から減少して0に到るのである。このように、2本のシャフトが回転する場合のギヤ比、つまり、操作部材側シャフトの回転速度に対する転舵装置側シャフトの回転速度の比は、操作部材側シャフトが特定回転角から180°まで回転するにつれて大きくなる。このため、前者の特定の回転角が、ステアリング操作部材が車輪の転舵中立位置に対応する位置、つまり、中立操作位置にあるときの状態での操作部材側シャフトの回転角である場合には、ステアリング操作部材の操作角が小さい場合においては、穏やかで安定感のあるハンドリングが実現され、ステアリング操作部材の操作角が大きくなるにつれて、レスポンスの良いハンドリングが実現されるのである。つまり、本項に記載された「操舵力伝達装置」を搭載した車両においては、電磁モータ等のアクチュエータに依拠してステアリング操作部材の操作量に対する車輪の転舵量を変更するステアリングシステム、いわゆる操舵転舵比可変ステアリングシステム(VGRS(Variable Gear Ratio Steering))等を搭載することなく、ステアリング操作部材の操作フィーリングを上述したように変化させることができるのである。
本項に記載の「低摩擦部材」は、単一の部材として構成されるものであってもよく、2つのピースから構成されるものであってもよい。2つのピースから構成される場合には、2つのピースの一方が1対の側壁面の一方と、2つのピースの他方が1対の側壁面の他方と接触するように構成されてもよい。そのように2つのピースの各々が1対の側壁面の各々に接触する場合には、本項に記載の「弾性体」は、2つのピースから構成され、弾性体の2つのピースの一方が低摩擦部材の2つのピースの一方を支持し、弾性体の2つのピースの他方が低摩擦部材の2つのピースの他方を支持するように構成されてもよい。
本項に記載の「第1シャフト鍔部」と「第2シャフト鍔部」との各々は、各シャフトの本体部の外周面の一部から各シャフトの径方向に突出するものであってもよく、各シャフトの本体部の外周面の全周にわたって各シャフトの径方向に突出するもの、具体的に言えば、例えば、円形状のフランジ部であってもよい。また、ステアリング操作部材と転舵装置との一方と第1シャフトの一端部との連結、若しくは、ステアリング操作部材と転舵装置との他方と第2シャフトの一端部との連結は、それらが直接的に連結されるものであってもよく、それらの間にイタミディエイトシャフト,ユニバーサルジョイント等を介して連結されるものであってもよい。
(2)前記基体が円筒状の外周面を有する形状とされ、前記弾性体が前記基体の外周部において保持される円環状をなし、かつ、前記低摩擦部材が前記弾性体に外嵌された円環状をなす(1)項に記載の車両用操舵力伝達装置。
(3)前記基体がそれの外周部に外周面より小径の小径円筒面を持つ小径部を有し、前記弾性体が、その小径部において保持されている(2)項に記載の車両用操舵力伝達装置。
上記2つの項に記載の操舵力伝達装置においては、突出部の構造が具体的に限定されている。前者の項に記載の「低摩擦部材」は、弾性力によって付勢された状態で1対の壁面に接する環状の部材であることから、自身の径方向に変形可能であることが望ましく、自己潤滑性のプラスチック,低摩擦ナイロン,PTFE等のフッ素樹脂製の環状の部材であることが望ましい。
(4)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの一方の回転によって他方が回転する際、前記第1シャフトと第2シャフトとの一方から他方に伝達される回転トルクが大きい場合に、前記低摩擦部材の一部が前記基体の小径部に入り込み、前記突出部が、前記基体の外周面の少なくとも一部が前記1対の側壁面の一方に接触した状態で転動するように構成された(3)項に記載の車両用操舵力伝達装置。
本項に記載の操舵力伝達装置は、回転伝達機構によって伝達される回転トルクが小さい場合には、低摩擦部材が1対の側壁面の両方に接触するが、基体自体は1対の側壁面のいずれにも接触せず、回転トルクが大きくなったら、基体自体が低摩擦部材とともに1対の側壁面の一方に接触する構造とされている。したがって、本項に記載の装置によれば、低摩擦部材への負荷を軽減することが可能となり、低摩擦部材の摩耗,劣化等を抑制することが可能となる。
(5)前記小径部が、前記小径円筒面と、その小径円筒面と前記基体の外周面とをつなぐ1対の段差面とによって区画された円環状の溝である(3)項または(4)項に記載の車両用操舵力伝達装置。
(6)前記基体が、前記1対の段差面の一方と前記小径円筒面とを画定する段付形状の第1円筒部材と、前記1対の段差面の他方を画定する第2円筒部材とを有し、前記第1円筒部材と前記第2円筒部材とが同軸的に設けられるとともに固定される構造とされた(5)項に記載の車両用操舵力伝達装置。
操舵力伝達装置の製作時に、円筒状の外周面に形成された円環状の溝にその外周面の外径より小さな外径の円環状の弾性体を組み付けることは困難である。本項に記載の操舵力伝達装置においては、第1円筒部材の円筒面に円環状の弾性体を組み付けた後に、第1円筒部材と第2円筒部材とを同軸的に固定することが可能である。したがって、後者の項に記載の装置のよれば、装置の製作作業の簡便化を図ることが可能となる。なお、後者の項に記載の「円筒部材」は、中空形状のものはもちろん、中実形状のものをも含む概念である。つまり、後者の項に記載の「円筒部材」は、円柱形状であってもよい。
(7)前記基体が、
前記第1円筒部材と前記第2円筒部材との一方の外周面の外径が他方の外周面の外径より小さい構造とされた(6)項に記載の車両用操舵力伝達装置。
第1円筒部材と第2円筒部材とを一体的に固定する構造の基体においては、第1円筒部材の中心軸線と第2円筒部材の中心軸線とが、組み付け精度,劣化等のために僅かにズレる場合がある。2つの円筒部材の中心軸線がズレた状態で基体が1対の側壁面の間を転動すると、それら2つの円筒部材の一方と他方とが交互に1対の側壁面の一方に接触して、円滑な回転伝達を阻害する虞がある。本項に記載の装置によれば、2つの円筒部材の中心軸線が互いに僅かにズレていても、2つの円筒部材のうちの外径の小さな円筒部材は側壁面には接触しないため、円滑な回転伝達を担保することが可能となる。また、後に詳しく説明するが、フェイルセーフを考慮して、操舵力伝達装置が、第1円筒部材と第2円筒部材との一方に想定外の力が作用するとその一方が基体から離脱する構造とされる場合には、その一方の円筒部材は側壁面に接触しないことが望ましい。したがって、本項に記載の態様は、その一方の円筒部材が基体から離脱する構造の操舵力伝達装置に対して好適な態様である。
(8)前記基体が、
前記第1円筒部材と第2円筒部材との一方の外周面の前記回転軸線方向の長さが他方の外周面の前記回転軸線方向の長さの1/2より短い構造とされた(7)項に記載の車両用操舵力伝達装置。
第1シャフトと第2シャフトとの一方の回転を他方に伝達することを考えれば、1対の側壁面の一方への基体の接触部分は大きいほうが望ましい。したがって、本項に記載の装置によれば、1対の側壁面の一方への基体の接触部分をある程度の長さ確保することが可能となる。
(9)前記基体が、
前記第1円筒部材と第2円筒部材との一方にある大きさを超える力が作用した場合に、前記第1円筒部材と前記第2円筒部材との固定が解除され、前記第1円筒部材と第2円筒部材との一方が前記基体から離脱する構造とされた(7)項または(8)項に記載の車両用操舵力伝達装置。
回転伝達機構を備えた操舵力伝達装置は、突出部が1対の側壁面の間を移動しつつ、操舵力が伝達される構造とされている。このため、低摩擦部材が、基体を構成する第1円筒部材、若しくは、第2円筒部材の外周面と側壁面との間に噛み込むと、突出部の1対の側壁面の間での円滑な移動が阻害されて、操舵力が適切に伝達されない虞がある。本項に記載の操舵力伝達装置は、第1円筒部材と第2円筒部材との一方に大きな力が作用した場合には、その一方の円筒部材が基体から離脱する構造とされている。低摩擦部材が基体の外周面と側壁面との間に噛み込む際、若しくは、噛み込んだ後には、低摩擦部材、若しくは、弾性体によって、第1円筒部材と第2円筒部材との一方に大きな力が作用する。したがって、本項に記載の装置によれば、その一方の円筒部材の基体からの離脱に伴って、低摩擦部材の噛み込みを防止、若しくは、解除することが可能とされており、操舵力の円滑な伝達が担保されている。
(10)前記第1円筒部材と第2円筒部材との一方が、他方より前記第1シャフト鍔部に近い位置に設けられた(7)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の車両用操舵力伝達装置。
第1円筒部材と第2円筒部材との一方が、上述のように、基体から離脱する場合には、基体から離脱した円筒部材が径方向溝内に入り込むことは望ましくない。本項に記載の装置のよれば、例えば、その一方の円筒部材を基体から径方向溝外に離脱させることが可能となる。
(11)前記基体が、それの外周部に前記小径部を含む複数の小径部を有し、
前記突出部が、(i)前記弾性体を含み、前記複数の小径部の各々において保持される円環状の複数の弾性体と、(ii)前記低摩擦部材を含み、前記複数の弾性体の各々に外嵌される円環状の複数の低摩擦部材とを有する(3)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の車両用操舵力伝達装置。
(12)前記複数の弾性体の各々のばね定数が異なる(11)項に記載の車両用操舵力伝達装置。
上記2つの項に記載の操舵力伝達装置においては、基体の外周部に複数の円環状の弾性体および低摩擦部材が設けられている。弾性体の弾性力を利用して突出部の溝内でのガタつきを抑制する構造の回転伝達機構を備えた操舵力伝達装置においては、弾性体のばね定数によって運転者の操作フィーリングが異なる。したがって、後に詳しく説明するように、複数の弾性体のばね定数の各々を調整することで、運転者の操作フィーリングの微調整が可能となる。なお、後者の項に記載の「ばね定数」は、弾性体が発生させる弾性力の基準となるものであり、具体的に言えば、弾性体が発生させる弾性力を弾性体の変形量で除したものである。
(13)前記1対の側壁面の前記径方向溝の開口に位置する部分と、前記低摩擦部材の外周面の前記回転軸線方向における前記第2シャフト側の縁部との少なくとも一方が、テーパ部とされた(2)項ないし(12)項のいずれか1つに記載の車両用操舵力伝達装置。
径方向溝内に突出部が配置されている際に、低摩擦部材は弾性力によって付勢された状態で1対の側壁面の両方に接触している。つまり、低摩擦部材の外径は径方向溝の幅より大きいのである。このため、操舵力伝達装置の製作時に、突出部を径方向溝にその径方向溝の開口を越えて組み付けることは困難である。本項に記載の操舵力伝達装置においては、テーパ部を利用して突出部を径方向溝に組み付けることが可能である。したがって、本項に記載の装置のよれば、装置の製作作業の簡便化を図ることが可能となる。
以下、請求可能発明の実施例および変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
<車両用ステアリングシステムの全体構成>
図1に、実施例の車両用操舵力伝達装置を備えたステアリングシステムの全体構成を示す。本ステアリングシステムは、運転者によって操作されるステアリング操作部材としてのステアリングホイール10と、一端部においてステアリングホイール10を保持する操舵力伝達装置12と、車輪を転舵する転舵装置14と、操舵力伝達装置12と転舵装置14との間に位置するインタミディエイトシャフト(以下、「I/Mシャフト」と略す場合がある)16とを含んで構成されている。さらに、I/Mシャフト16の一端部と操舵力伝達装置12の備える出力シャフト18とは、ユニバーサルジョイント20によって連結され、I/Mシャフト16の他端部と転舵装置14の備える入力シャフト22の一端部とは、もう1つのユニバーサルジョイント24によって連結されている。
本システムは、図1において右側、つまり、ステアリングホイール10側が車両後方を、左側、つまり、転舵装置14側が車両前方を向くように配設されており、I/Mシャフト16は、車室とエンジン室とを区画するダッシュパネル26に設けられた穴を通るようにして配設されており、I/Mシャフト16のその穴を通る部分はブーツ28に被われている。
転舵装置14は、入力シャフト22と、外殻部材としてのハウジング30と、車輪を転舵するための転舵ロッド32とを備えており、その転舵ロッド32は、それの軸線方向に移動可能にそのハウジング30に保持されるとともに、車幅方向に延びるように配設されている。転舵ロッド32は、それの両端部が、左右の前輪の各々を保持するステアリングナックル(図示省略)に連結されている。また、入力シャフト22は、ハウジング30に回転可能に保持され、そのハウジング30内において、転舵ロッド32と係合している。入力シャフト22の車両前方側の端部にはピニオン(図示省略)が形成されており、転舵ロッド32の軸線方向における中間部に形成されたラック(図示省略)がそのピニオンと噛合することで、転舵ロッド32と入力シャフト22とが係合しているのである。
操舵力伝達装置12は、いわゆるステアリングコラムとして構成されたものであり、インパネリインフォースメント34に設けられたステアリングサポート36において、車体の一部に固定支持される。操舵力伝達装置12は、支持された状態では、図に示すように、車両前方側が下方に位置するように傾斜した姿勢で配置されることになる。操舵力伝達装置12には、それの前方部に前方ブラケット38が設けられるとともに、その前方ブラケット38より車両後方側にブレークアウェイブラケット(以下、「B.A.BKT」と略す場合がある)40が設けられており、それら前方ブラケット38とB.A.BKT40との各々が、ステアリングサポート36に取り付けられることで、操舵力伝達装置12は、2箇所において支持される。支持された操舵力伝達装置12は、後方に位置する部分がインパネ42から車両後方側に突出する状態とされ、その突出する後端部に、ステアリングホイール10が取り付けられている。操舵力伝達装置12のインパネ42から突出する部分は、コラムカバー44によって覆われ、また、下部は、インパネロアカバー46によってカバーされる。
図2に、操舵力伝達装置12の側面断面図を示す。操舵力伝達装置12は、大きくは、ステアリングホイール10を保持するとともに軸線方向に伸縮可能とされたコラムセクション50と、電動式パワーステアリング機能を実現する主体となるEPSセクション52とに区分することができ、それら2つのセクション50,52が一体化されたものとなっている。以下、それら各セクションについて、順に説明する。
コラムセクション50は、ステアリングホイール10を車両後方側の端部において保持するメインシャフト54と、そのメインシャフト54を挿通させた状態で回転可能に保持するコラムチューブ56とを含んで構成されている。メインシャフト54は、車両後方側つまり上方側に位置させられるアッパシャフト58と、車両前方側つまり下方側に位置させられるロアシャフト60とを含んで構成されている。アッパシャフト58はパイプ状に、ロアシャフト60はロッド状に形成され、アッパシャフト58の前方部にロアシャフト60の後方部が挿入されている。アッパシャフト58とロアシャフト60とはスプライン嵌合されており、アッパシャフト58とロアシャフト60とは、回転軸線方向に相対移動可能かつ相対回転不能な状態で接続されている。つまり、メインシャフト54は、回転軸線方向に伸縮可能な構造とされている。なお、ロアシャフト60は、それの後方側のシャフト本体部62と、そのシャフト本体部62の前方側のそのシャフト本体部62の外径より大きな外径の鍔部としての円形フランジ部64とから構成されており、その円形フランジ部64において、後に説明するEPSセクション52に連結されている。なお、本操舵力伝達装置12では、ロアシャフト60のシャフト本体部62とアッパシャフト58とによって、メインシャフト54のシャフト本体部が構成されている。
コラムチューブ56は、車両後方側(上方)に位置させられるアッパチューブ66と、車両前方側(下方)に位置させられるロアチューブ68とを含んで構成されている。アッパアチューブ66およびロアチューブ68は、ともに筒状のものであり、アッパチューブ66の前方部にロアチューブ68の後方部が嵌入されている。ロアチューブ68は、段付形状とされており、それの後方の部分においてアッパチューブ66の内径より小さな外径の小径部70と、前方の部分においてアッパチューブ66の内径より大きな外形の大径部72と、小径部70と大径部72とをつなぐ段差部74とを有している。ロアチューブ68の小径部70とアッパチューブ66との間には、図示を省略するライナが設けられており、このライナを介することによって、ロアチューブ68がアッパチューブ66にがたつきなく嵌入されるとともに、アッパチューブ66とロアチューブ68との回転軸線方向の相対移動を容易ならしめている。つまり、コラムチューブ56は、回転軸線方向に伸縮可能な構造とされている。
また、アッパチューブ66の後端部とロアチューブ68の前端部とには、それぞれ、ラジアルベアリング76,78が設けられ、コラムチューブ56は、それらベアリング76,78を介して、メインシャフト54を回転可能に保持している。このような構造とされていることで、コラムセクション50は、メインシャフト54の回転を担保しつつ、伸縮可能とされているのである。
図3に、EPSセクション52の側面断面図を示す。EPSセクション52は、ステアリングホイール10に加えられた操作力を転舵装置14に対して出力するための出力シャフト18と、動力源としての電磁モータ80を有してそのモータ80によって出力シャフト18の回転出力を助勢する助勢装置82と、出力シャフト18を回転可能に保持するとともに助勢装置82を収容するハウジングとしてのEPSハウジング84とを含んで構成されている。出力シャフト18は、出力側シャフト86,入力側シャフト88,トーションバー90の3つが一体化されたものとして構成されている。出力側シャフト86は、EPSハウジング84の車両前方側から延出しており、その延出する部分において、ユニバーサルジョイント20を介して、I/Mシャフト16に接続され、転舵装置14へ回転を出力する。
出力側シャフト86は、中空構造とされており、その出力側シャフト86の車両後方側の部分に入力側シャフト88が挿入している。出力側シャフト86の内周面と入力側シャフト88の外周面との間には、軸受92が介在させられており、出力側シャフト86と入力側シャフト88とは同軸的に相対回転可能とされている。入力側シャフト88は、車両前方側の端面に開口して回転軸線方向に延びる有底穴を有しており、入力側シャフト88の有するその有底穴と出力側シャフト86の有する穴とによって形成された空間に、トーションバー90が配設されている。トーションバー90の一端部は、その有低穴の底部にピン94によって固定されており、また、トーションバー90のもう一方の端部は、出力側シャフト86を回転軸線方向に貫通する貫通穴の前方側の端部にピン96によって固定されている。このような構成により、出力シャフト18は、トーションバー90の捩りを許容し、その分だけ自身も捩じられるものとされているのである。また、出力側シャフト86は、その外周において2つのラジアルベアリング98,100を介してEPSハウジング84に回転可能に保持され、入力側シャフト88は、その外周においてニードルベアリング102を介してEPSハウジング84に回転可能に保持されている。
助勢装置82は、上記電磁モータ80と、その電磁モータ80のモータ軸に連結されたウォーム104と、そのウォーム104に噛合させられるウォームホイール106とを含んで構成されている。そのウォームホイール106は、出力シャフト18の出力側シャフト86に固定されており、出力側シャフト86に対して相対回転不能とされている。このような構造により、電磁モータ80によってウォーム104に回転力が付与され、ウォームホイール106に回転力が付与される。つまり、助勢装置82は、電磁モータ80によって出力シャフト18の回転出力が助勢されて、車輪の転舵を助勢する転舵助勢力(「操舵助勢力」と言うこともできる)を発生させる構造とされている。
また、EPSセクション52は、回転角センサ108を備えている。回転角センサ108は、トーションバー90の車両前方部が固定される出力側シャフト86の回転角度位置と、トーションバー90の車両後方部が固定される入力側シャフト88の回転角度位置との差である相対回転変位量を検出するためのデバイスとされている。2本のシャフト86,88の相対回転変位量に基づいて操舵トルクを推定することが可能であり、その操舵トルクの大きさに応じた転舵助勢力を発生させるように電磁モータ80の作動が制御される。
また、出力シャフト18は、メインシャフト54の回転軸線と自身の軸線とが平行であり、かつ、それら回転軸線が所定量ズレた状態で配設されており、メインシャフト54の車両前方側の端部に連結されている。詳しく言えば、メインシャフト54を構成するロアシャフト60は、円形フランジ部64の前方側の端面に開口する凹所114を有しており、その凹所114内に出力シャフト18を構成する入力側シャフト88の後方側の端部が収容されている。凹所114内に収容された入力側シャフト88の後方側の端部より前方側のそのシャフト88の部分には、円環状の円環プレート116が固定的に嵌合されており、入力側シャフト88の鍔部として機能している。
円環プレート116の後方側の端面とロアシャフト60の円形フランジ部64の前方側の端面とは、小さな間隔をあけて向かい合っている。円環プレート116には、回転軸線方向に延びる貫通穴が形成されており、その貫通穴にピン118が固定的に嵌入されている。そのピン118は、円環プレート116から車両後方側に突出しており、そのピン118の突出する部分には、ニードルベアリング120を介してローラ122が設けられている。つまり、基体としてのローラ122が円環プレート116に対して、回転軸線方向に延びる回転軸線回りに回転可能とされているのである。
ローラ122は、図3のA−A’断面図である図4に示すように、第1円筒部材としての段付円筒部材124と第2円筒部材としての環状部材126とから構成されており、環状部材126が段付円筒部材124の最も外径の小さい部分に圧入されている。段付円筒部材124は、ローラ122の外周面として機能する大径円筒面128と、その大径円筒面128より小径の小径円筒面130と、大径円筒面128と小径円筒面130とをつなぐ段差面132と、環状部材126が圧入される圧入円筒面134とを有している。ローラ122の外周部には、小径円筒面130と段差面132と環状部材126の車両後方側の端面とによってローラ122の周方向に延びるように区画される周方向溝136が形成されており、その小径部としての周方向溝136内に円環状の弾性体としてのOリング138が設けられている。そのOリング138には環状の低摩擦部材としてのテフロンリング140が外嵌されている。本操舵力伝達装置12においては、ローラ122,Oリング138,テフロンリング140等によって、円環プレート116から入力側シャフト88の回転軸線の延びる方向に突出する突出部が構成されており、その突出部と出力シャフト18と円環プレート116とによって、第1シャフトが構成されているのである。その第1シャフトのシャフト本体部は、入力側シャフト88と出力側シャフト86とによって構成されている。なお、出力シャフト18等が第1シャフトとして機能するのに対し、メインシャフト54は第2シャフトとして機能している。
また、円形フランジ部64の前方側の端面には、図3のB−B’断面図である図5に示すように、円環プレート116から後方側に突出するローラ122と対向する位置に径方向溝150が形成されている。その径方向溝150は、凹所114からその円形フランジ部64の径方向に延びるように形成されており、その係方向溝150にローラ122がテフロンリング140と共に係合している。径方向溝150の幅、つまり、径方向溝150の有する1対の側壁面152の間の距離は、ローラ122の外周面の径より僅かに大きくされており、ローラ122と1対の側壁面152との間にはクリアランス(隙間)が存在する。一方、テフロンリング140の外径は径方向溝150の幅より僅かに大きくされており、テフロンリング140は、径方向に変形させられた状態で径方向溝150に係合する。テフロンリング140の内径とOリング138の外径とは略同じとされており、テフロンリング140の径方向への変形に伴ってOリング138も径方向に変形する。このため、テフロンリング140は、Oリング138の弾性力によって付勢された状態で1対の側壁面152の両方に接触している。つまり、本操舵力伝達装置12では、ローラ122,Oリング138,テフロンリング140等によって構成される突出部が、径方向溝150にガタつきなく係合し、係合部として機能しているのである。なお、図4に示すように、径方向溝150の開口に位置する1対の側壁面の端部である開口部154には傾斜面が形成されており、テフロンリング140の外周面の車両後方側の縁部にもテーパ状の傾斜面156が形成されている。
運転者によってステアリングホイール10が回転操作されると、メインシャフト54が自身の回転軸線回りに回転する。その際、ロアシャフト60の円形フランジ部64に形成された径方向溝150に係合するローラ122は、径方向溝150の有する1対の側壁面152によってそのロアシャフト60の周方向への変位が規制されるとともに、その径方向溝150によってそのシャフト60の径方向への移動が許容される。つまり、1対の側壁面152が1対の案内面として機能し、径方向溝150が案内通路として機能するのである。ロアシャフト60の回転に伴って、ローラ122が径方向溝150内を移動させられる際に、そのロアシャフト60の回転力が、ローラ122,ピン118,円環プレート116等を介して、入力側シャフト88に伝達されて、その入力側シャフト88が自身の回転軸線回りに回転するのである。つまり、操舵力伝達装置12は、ロアシャフト60の回転軸線回りの回転を、自身の回転軸線がロアシャフト60の回転軸線からズレて配設された入力側シャフト88に伝達する回転伝達機構を備えるものとされてる。上述のような構造によって、操舵力伝達装置12は、ステアリングホイール10に入力された操舵力を、インタミディエイトシャフト16等を介して転舵装置14に伝達するのである。なお、本操舵力伝達装置12では、その回転伝達機構は、径方向溝150,ローラ122,Oリング138,テフロンリング140等を含んで構成されている。
操舵力伝達装置12は、EPSセクション52の前方端部と、コラムセクション50のアッパチューブ66とにおいて、車体の一部に取り付けられている。EPSセクション52のEPSハウジング84には、先に説明した前方ブラケット38が固定的に設けられており、この前方ブラケット38には、軸挿通穴160が設けられている。ステアリングサポート36には、軸穴162が穿設された軸受部材164が固定されており、前方ブラケット38の軸挿通穴160と軸受部材164の軸穴162とに、支持軸166が挿通されることで、操舵力伝達装置12は、その支持軸166を中心に揺動可能に支持される。
一方、コラムセクション50は、B.A.BKT40に保持され、そのB.A.BKT40がステアリングサポート36に取り付けられている。詳しく説明すれば、図6に示すように、B.A.BKT40は、アッパチューブ66に固定された被保持部材170を保持する保持部材172と、その保持部材172に固定されてステアリングサポート36に取り付けられる取付プレート174とを有しており、その取付プレート174に設けられたスロット176を利用してステアリングサポート36に締結されている。被保持部材170,保持部材172には、それぞれ長穴178,180が穿設され、それらにはロッド182が貫通しており、図では省略するが、そのロッド182を利用して保持部材172が被保持部材170を挟持するようにされている。この挟持力によって、アッパチューブ66の変位が禁止される構造とされている。操作レバー184を操作することによって、その挟持力を弱めることが可能とされており、挟持力が弱められた状態では、ロッド182の長穴178に沿った移動が許容されることで、アッパチューブ66のロアチューブ68に対する軸線方向の移動が、アッパシャフト58のロアシャフト60に対する軸線方向の移動とともに許容され、コラムセクション50の伸縮が許容される。また、ロッド182の長穴180に沿った移動が許容されることで、前方ブラケット38に挿通された支持軸166を中心とした操舵力伝達装置12の揺動が許容されることになる。つまり、本操舵力伝達装置12は、そのような構造のチルト・テレスコピック機構186を備えているのである。
車両の衝突に起因して運転者がステアリングホイール10に二次衝突した場合には、B.A.BKT40がステアリングサポート36から離脱するとともに、コラムセクション50が収縮させられる。本操舵力伝達装置12には、二次衝突の衝撃を吸収する衝撃吸収機構187が設けられており、ステアリングコラム56の収縮に伴ってEAプレート188が変形させられることによって、二次衝突の衝撃が効果的に吸収される。
<回転伝達機構の機能>
本操舵力伝達装置12においては、互いの軸線が平行にズレた状態で配設された2本のシャフト60,88が、上記回転伝達機構によって連結されていることから、ロアシャフト60の回転位相と入力側シャフト88の回転位相とがズレて、それら2本のシャフト60,88の回転位相の差である回転位相差が変化するものとされている。以下に、具体的に図を用いて説明する。
図7に、ロアシャフト60の円形フランジ部64とその円形フランジ部64に連結される入力側シャフト88とその円形フランジ部64に形成された径方向溝150に係合する係合部としてのローラ122,テフロンリング140等との断面図(図3のB−B’断面図に相当する)を示す。図7(a)は、ステアリングホイール10が車輪の転舵中立位置に対応する位置、つまり、中立操作位置にあるときの状態を、図7(b)は、ステアリングホイール10が中立操作位置から左旋回方向に90゜回転操作された位置にあるときの状態を、図7(c)は、ステアリングホイール10が中立操作位置から右旋回方向に90゜回転操作された位置にあるときの状態を、図7(d)は、ステアリングホイール10が中立操作位置から右、若しくは左旋回方向に180゜回転操作された位置にあるときの状態を、それぞれ示している。
図から解るように、ステアリングホイール10が中立操作位置から右、若しくは左旋回方向に90゜回転操作された場合には、ロアシャフト60は自身の回転軸線を中心に90°回転するが、入力側シャフト88は自身の回転軸線を中心に90°までは回転せずに、入力側シャフト88の回転角は90°未満となる。そして、ステアリングホイール10が、さらに回転操作されて、中立操作位置から右、若しくは左旋回方向に180゜回転操作された場合に、ロアシャフト60および入力側シャフト88は共に180°回転する。ロアシャフト60の回転角αと入力側シャフト88の回転角βとの関係は、図8に示すように、ステアリングホイール10が中立操作位置から180°未満回転操作される場合には、入力側シャフト88の回転角βはロアシャフト60の回転角αより小さく、ステアリングホイール10が中立操作位置から180°回転操作されると、入力側シャフト88の回転角βがロアシャフト60の回転角αと同じとなる。つまり、ロアシャフト60の回転位相が、ロアシャフト60の回転位相と入力側シャフト88の回転位相とが一致する特定回転位相となる場合、具体的にいえば、ロアシャフト60の回転角αが0°若しくは180°となる場合には、各回転角α,βがともに同じとなり、回転位相差は0となる。一方、ロアシャフト60の回転角αが0°から180°に変化する間に、回転位相差は徐々に増加し、ある回転角からは逆に、徐々に減少し、0となるのである。この場合の2本のシャフト60,88のギヤ比(dβ/dα)、つまり、ロアシャフト60の回転速度(dα/dt)に対する入力側シャフト88の回転速度(dβ/dt)の比(dβ/dα)は、図9に示すように、ロアシャフト60の回転角αに応じて変化する。
図から解るように、ロアシャフト60の回転角αが0°の場合には、ギヤ比(dβ/dα)は最も小さく、ロアシャフト60の回転角αが大きくなるにつれてギヤ比(dβ/dα)は大きくなる。つまり、本操舵力伝達装置12においては、ステアリングホイール10の操作角が小さい場合においては、穏やかで安定感のあるハンドリングが実現され、ステアリングホイール10の操作角が大きくなるにつれて、レスポンスの良いハンドリングが実現されるのである。なお、本システムにおいては、ステアリングホイール10の操作範囲が、図示を省略する操作範囲制限機構によって、中立操作位置から左右約180゜に制限されている。
ちなみに、図9の縦軸に示されているeは、ローラ122が径方向溝150に係合する位置の入力側シャフト88の回転軸線からのオフセット量L(図5)に対する入力側シャフト88の回転軸線とロアシャフト60の回転軸線とのズレ量d(図5)の比率であり、ステアリングホイール10の操作フィーリングを左右するものとなっている。
<本操舵力伝達装置の特徴>
上記操舵力伝達装置12においては、ローラ122,Oリング138,テフロンリング140によって構成される係合部が、Oリング138およびテフロンリング140によって、径方向溝150にガタつきなく係合されている。一方、Oリング,テフロンリングを備えない円筒形状のローラを径方向溝に係合する構造の操舵力伝達装置を考えてみる。このような構造の操舵力伝達装置においては、係合部としてのローラと径方向溝の有する1対の側壁面との間にクリアランス(隙間)が存在し、そのクリアランスに起因して走行時に異音、振動等が発生する虞がある。また、ステアリングホイール10の切り始め,切り返し時等には、そのクリアランスのため、ローラと1対の側壁面の一方とが接触するまでは、ステアリングホイール10の操舵トルクは生じない。具体的に言えば、例えば、車両直進時にステアリングホイール10を中立操作位置から右、若しくは左旋回方向に回転操作された場合には、図10(a)に示すように、ステアリングホイール10の操作角が小さい間は、ローラが側壁面に接触しないため、操舵トルクは0となり、ローラが側壁面に接触した後に操舵トルクが大きくなる。このため、運転者がステアリングホイール10の操作フィーリングに違和感を感じる虞がある。
本操舵力伝達装置12においては、ステアリングホイール10が回転操作されない状態では、Oリング138の弾性力によってテフロンリング140が1対の側壁面152に接触している。そして、ステアリングホイール10が回転操作されてメインシャフト54の回転トルクが大きくなると、Oリング138の変形量が大きくなり、テフロンリング140が周方向溝136に入り込む。このため、例えば、車両直進時にステアリングホイール10を中立操作位置から右、若しくは左旋回方向に回転操作された場合には、図10(b)に示すように、ステアリングホイール10の操作角が小さい間は、テフロンリング140が弾性力によって付勢された状態で1対の側壁面152の接触しているが、ローラ122は側壁面152に接触していないため、Oリング138のばね定数に応じて操舵トルクが大きくなる。そして、ステアリングホイール10が回転操作されてメインシャフト54の回転トルクがある程度大きくなると、テフロンリング140が周方向溝136に入り込んで、ローラ122の外周面が側壁面152に接触することでメインシャフト54の回転トルクが伝達される。
本操舵力伝達装置12においては、上述したように、ローラ122の1対の側壁面152と間でのガタつきが防止されており、そのガタに起因する走行時の異音,振動等を抑制するとともに、ステアリングホイール10の操作フィーリングを向上させている。ちなみに、テフロンリング140を付勢する力、つまり、弾性力が大きいほど、ガタ対策の効果は高くなる。Oリングは変形量が大きくなるほどばね定数も大きくなるという特性があることから、本操舵力伝達装置12において、Oリング138は、ステアリングホイール10が回転操作されない場合においてもある程度変形した状態で周方向溝136において保持されている。
ローラ122は、テフロンリング140がOリング138の弾性力によって付勢された状態で径方向溝150に係合されている。このため、装置の製作時においてローラ122を径方向溝150の開口を超えてその係方向溝150に組み付ける際に、テフロンリング140の外周部に形成された傾斜面156と1対の側壁面154の開口部154とが当接する。本操舵力伝達装置12においては、図4に示すように、傾斜面156と開口部154とは互いに合致するテーパ部とされており、装置の製作時においてローラ122を円滑に径方向溝150に係合させることが可能とされている。また、ローラ122は、段付円筒部材124に環状部材126を圧入する構造とされている。このため、ローラ122の製作時には、段付円筒部材124の円筒面130にOリング138を配設するとともに、そのOリング138にテフロンリング140を外嵌させた後に、段付円筒部材124に環状部材126を圧入することができるため、Oリング138およびテフロンリング140をローラ122に組み付け易くされている。
また、テフロンリング140は、Oリング138の弾性力によって付勢された状態で1対の側壁面152と摺接している。このため、テフロンリング140がローラ122の外周面と側壁面152との間に噛み込まれ、メインシャフト54の回転が適切に出力シャフト18に伝達されない虞がある。本操舵力伝達装置12においては、ローラを構成する環状部材126は、段付円筒部材124の圧入円筒面134に圧入されてはいるが、段付円筒部材124に溶接等はされておらず、環状部材126にある大きさを超える力、具体的に言えば、5000Nを超える力が作用した場合に、環状部材126が段付円筒部材124から離脱するものとされている。したがって、本操舵力伝達装置12においては、ステアリングホイール10の回転操作時のテフロンリング140のローラ122の外周面と側壁面152との間への噛み込みが防止されている。なお、環状部材126の外径は段付円筒部材124の大径円筒面128の外径より小さくされているため、ローラ122が側壁面152に接触しても、環状部材126は側壁面152には接触しない。このため、テフロンリング140の噛み込み時等を除いて、環状部材126に大きな力が作用しないようにされている。
環状部材126が段付円筒部材124から離脱した場合には、その環状部材126はローラ122の円環プレート116側に設けられていることから、ローラ122と円環プレート116との間に位置することになる。このため、環状部材126が段付円筒部材124から離脱しても、環状部材126がローラ122の径方向溝150内の移動を妨げる虞は低いため、回転伝達機構の機能は担保される。また、環状部材126がローラ122の円環プレート116側に設けられていることから、ローラ122の径方向溝150への挿入量が少なくされている。詳しく言えば、上述したように、環状部材126の外径は段付円筒部材124の大径円筒面128の外径より小さくされており、環状部材126は側壁面152には接触しない。このため、環状部材126を回転軸線方において開口部154より車両後方側に位置させる必要が無いため、ローラ122の径方向溝150への挿入量が少なくされている。したがって、本操舵力伝達装置12においては、ローラ122の径方向溝150への挿入量を少なくした分、装置の全長が短縮されている。
<変形例>
上記操舵力伝達装置12においては、係合部として1つのOリング138および1つのテフロンリングを装着したローラ122が採用されているが、複数のOリングおよび複数のテフロンリングを装着したローラを採用することも可能である。そのような構造の係合部を備えた変形例の操舵力伝達装置200の回転伝達機構の拡大断面図を図11に示す。なお、変形例の操舵力伝達装置200は、係合部を除き、上記操舵力伝達装置12と同様の構成とされているため、変形例の操舵力伝達装置200については、回転伝達機構に関する部分のみを図示し、全体の図面を省略することとする。
変形例の操舵力伝達装置200の備えるローラ202は、段付円筒部材204と2つの環状部材206,208とから構成されており、環状部材206が段付円筒部材204の中間部に圧入され、環状部材208が段付円筒部材204の車両前方側端部に圧入されている。ローラ202の外周部には、段付円筒部材204と2つの環状部材206,208とによって区画される周方向溝210と、段付円筒部材204と環状部材206とによって区画される周方向溝212とが形成されている。周方向溝210内にはOリング214が設けられており、周方向溝212内にはOリング214より径の小さいOリング216が設けられている。Oリング214にはテフロンリング218が外嵌されており、Oリング216にはテフロンリング220が外嵌されている。2つのOリング214,216の各々は弾性変形させられており、2つのテフロンリング218,220の各々が弾性力によって付勢された状態で1対の側壁面222に接触している。
変形例の操舵力伝達装置200においても、上記操舵力伝達装置12と同様に、ローラ202の1対の側壁面222の間でのガタつきが防止されており、そのガタに起因する走行時の異音,振動等を抑制するとともに、ステアリングホイール10の操作フィーリングを向上させている。また、変形例の操舵力伝達装置200においては、Oリング216のばね定数はOリング214のばね定数より小さくされており、周方向溝212において保持されるOリング216の変形量は周方向溝210において保持されるOリング214の変形量より大きくされている。このため、例えば、車両直進時にステアリングホイール10を中立操作位置から右、若しくは左旋回方向に回転操作された場合において、ステアリングホイール10の操作角と操舵トルクとの関係は、図12に示すように変化する。図から解るように、変形例の操舵力伝達装置200においては、ローラ202が側壁面222に接する際の操舵トルクの変化が少なくなり、ステアリングホイール10の操作フィーリングが一層向上している。
請求可能発明の実施例である車両用操舵力伝達装置を備えた車両用ステアリングシステムを示す模式図である。
図1の車両用ステアリングシステムの備える車両用操舵力伝達装置を示す断面図である。
車両用操舵力伝達装置の備えるEPSセクションを示す断面図である。
図3に示すAA’線における断面図である。
図3に示すBB’線における断面図である。
車両用操舵力伝達装置の備えるコラムセクションを保持するブレークアウェイブラケットを示す斜視図である。
ステアリングホイールが回転操作される際の図3に示すBB’線における断面図である。
操作部材側シャフトの回転角と転舵装置側シャフトの回転角との関係を示すグラフである。
操作部材側シャフトの回転角に応じて変化する操作部材側シャフトと転舵装置側シャフトとのギヤ比を示すグラフである。
係合部と側壁面との間にガタがある状態でのステアリングホイールの操作角と操舵トルクとの関係、および、図2に示す車両用操舵力伝達装置におけるステアリングホイールの操作角と操舵トルクとの関係を示すグラフである。
変形例の車両用操舵力伝達装置の備える回転伝達機構を示す断面図である。
変形例の車両用操舵力伝達装置におけるステアリングホイールの操作角と操舵トルクとの関係を示すグラフである。
符号の説明
10:ステアリングホイール(ステアリング操作部材) 12:車両用操舵力伝達装置 14:転舵装置 18:出力シャフト(第1シャフト)(第1シャフト本体部) 54:メインシャフト(第2シャフト) 58:アッパシャフト(第2シャフト本体部) 62:シャフト本体部(第2シャフト本体部) 64:円形フランジ部(第2シャフト鍔部) 86:出力側シャフト(第1シャフト本体部) 88:入力側シャフト(第1シャフト本体部) 116:円環プレート(第1シャフト鍔部) 122:ローラ(基体)(突出部)(係合部)(回転伝達機構) 124:段付円筒部(第1円筒部材) 126:環状部材(第2円筒部材) 128:大径円筒面(外周面) 130:小径円筒面 132:段差面 136:周方向溝(小径部) 138:Oリング(弾性体) 140:テフロンリング(低摩擦部材) 150:径方向溝(案内通路)(回転伝達機構) 152:1対の側壁面 154:開口部(テーパ部) 156:傾斜面(縁部)(テーパ部) 200:車両用操舵量伝達装置 202:ローラ(基体)(突出部)(係合部)(回転伝達機構) 214:Oリング(弾性体) 216:Oリング(弾性体) 218:テフロンリング(低摩擦部材) 220:テフロンリング(低摩擦部材) 222:1対の側壁面