本発明の貫接合構造及び貫接合方法の第1実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、木造の構造物10の仕口部を示したものである。構造物10は、主に柱12と梁14で構成されており、柱12の一方の側面から他方の側面まで矩形状の貫穴16が形成されている。貫穴16には貫18が挿通されており、貫穴16と貫18の上面との間には一方(図の左手前側)から第1楔20が打込まれ、他方(図の右奥側)から第2楔22が打込まれている。なお、貫穴16内において、打込まれた第1楔20と第2楔22の間には隙間が形成されており、第1楔20と第2楔22は離間配置となっている。
図2(a)、(b)には、柱12と貫18の仕口部(接合部)の断面が示されている。第1楔20は、縦断面が台形状となっており、一方の端面(鉛直面)の中央部から他方の端面(鉛直面)の中央部に向けて略水平方向に貫通穴24が形成されている。同様にして、第2楔22は、縦断面が台形状となっており、他方の端面(鉛直面)の中央部から一方の端面(鉛直面)の中央部に向けて略水平方向に貫通穴26が形成されている。
貫通穴24、26には、1本のボルト28が挿通されている。ボルト28の長さは、予め、打込み後の第1楔20の端面から第2楔22の端面までの距離よりも長く設定されている。これにより、第1楔20の端面及び第2楔22の端面から外方へ、ボルト28の両端部が突出するようになっている。また、ボルト28は、スタッドボルトであり、両端に後述するナット34、36が螺合する螺合溝が形成されている。
ボルト28の第1楔20側の端部には、ボルト28を挿通可能な大きさの開口が形成された座金30が外挿され、座金30を介してナット34が締結されている。同様にして、ボルト28の第2楔22側の端部には、ボルト28を挿通可能な大きさの開口が形成された座金32が外挿され、座金32を介してナット36が締結されている。
ここで、ボルト28、ナット34、及びナット36により、第1楔20及び第2楔22を連結する連結構造38が構成されている。そして、貫18、第1楔20、第2楔22、及び連結構造38によって、貫接合構造40が構成されている。
次に、貫接合構造40の施工方法について説明する。
図3(a)に示すように、まず、柱12の貫穴16に一方から貫18を挿通する。
続いて、図3(b)に示すように、貫18の上面と貫穴16の間に、図示しないハンマ等の打込み手段を用いて、一方から第1楔20を打込む。同様にして、貫18の上面と貫穴16の間に、他方から第2楔22を打込む。このとき、第1楔20及び第2楔22は、予め設定した最終的な打込み位置まで打込まれる。
続いて、図3(c)に示すように、第1楔20の端面(鉛直面)に接触させて座金30を立設し、座金30の開口、貫通穴24、及び貫通穴26に一方からボルト28を挿通する。なお、ボルト28の第1楔20側の端部には予めナット34が螺合されており、ナット34、座金30、及び第1楔20の端面を接触配置することにより、第2楔22の端面(鉛直面)からボルト28の他端部が突出する。
続いて、図3(d)に示すように、ボルト28の他端部に座金32を外挿してナット36を螺合する。そして、締め付け具合を調整しながら、ナット34、36を第1楔20側又は第2楔22側からそれぞれ締結する。このようにして貫接合構造40が構築される。
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
図4(a)には、本発明に対する比較例として、楔同士を連結しない構成の貫接合構造200が示されている。貫接合構造200は、柱202に形成された貫穴204に貫206が挿通され、貫206の上面と貫穴204の間に両側から台形状の第1楔208、第2楔210がそれぞれ打込まれている。
ここで、比較例としての貫接合構造200では、地震等による交番加力(矢印X)が作用すると、柱202の撓みで貫穴204の穴径が広がり、第1楔208、第2楔210が徐々に貫穴204から抜け出してくる。特に、第1楔208及び第2楔210の底面と貫206の上面との摩擦力よりも、交番加力の方が大きい場合には、第1楔208と第2楔210の外方向への移動を阻害する部材が無いことから、第1楔208、第2楔210が貫穴204から抜け出してしまうことになる。
貫接合構造200では、第1楔208、第2楔210が抜け出してしまうと、回転剛性(仕口(接合部)において単位の回転角を生じるのに必要な曲げモーメント)が低下する。このため、水平力が作用した時に構造物全体の耐力が低下することになる。
一方、図4(b)に示すように、本実施形態における貫接合構造40では、ボルト28の両端部がナット34、36によって第1楔20及び第2楔22に固定されているため、第1楔20及び第2楔22は、互いに離れる方向の移動が制限されている。
ここで、地震等による交番加力(矢印X)が貫接合部(柱12と貫18の仕口部)に作用して、第1楔20が貫穴16から抜け出そうとしたとき、第2楔22は、ボルト28によって、打込まれる方向(第1楔20側)に引っ張られる。このため、第1楔20は貫穴16から抜けにくくなる。
同様にして、第2楔22が貫穴16から抜け出そうとしたとき、第1楔20は、ボルト28によって、打込まれる方向(第2楔22側)に引っ張られる。このため、第2楔22は貫穴16から抜け出しにくくなる。これにより、第1楔20及び第2楔22が貫穴16内で保持される。
第1楔20及び第2楔22が保持された貫接合構造40では、回転剛性の低下が抑えられるため、水平力が作用しても構造物10全体の耐力を維持することができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1楔20、第2楔22が貫穴16から抜け出しにくくなり、交番加力(繰り返し荷重)を受けても貫接合部の回転剛性及び回転抵抗力が低下しにくくなる。このため、貫架構を耐震要素とする木造構造物の耐震性能(耐力、変形性能)を、楔を連結しない従来の貫架構の場合よりも向上させることができる。
また、第1楔20と第2楔22の連結作業は、ボルト28を挿通してナット34、36を締結するだけでよいので、連結作業が容易となる。さらに、地震等により第1楔20と第2楔22の位置が僅かにずれることがあっても、ナット34、36を締め直すことで初期連結状態が再現される。
また、第1楔20と第2楔22が貫穴16から抜け出しにくくなることから、第1楔20と第2楔22の紛失を回避することができる。
図5(a)、(b)には、本発明の第1実施形態の他の実施例として、楔同士を接触させた構成の貫接合構造50が示されている。なお、前述の第1実施形態の部材と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
貫接合構造50は、貫穴16と貫18の上面との間に一方から第1楔42が打込まれ、他方から第2楔44が打込まれている。第1楔42は、縦断面が略三角形状となっており、一方の端面(鉛直面)の中央部から他方の端面(鉛直面)の中央部に向けて略水平方向に貫通穴46が形成されている。同様にして、第2楔44は、縦断面が略三角形状となっており、他方の端面(鉛直面)の中央部から一方の端面(鉛直面)の中央部に向けて略水平方向に貫通穴48が形成されている。
第1楔42及び第2楔44は、先に第2楔44が所定の打込み量で貫穴16に打込まれ、後から第1楔42が所定の打込み量で貫穴16に打込まれることにより、貫穴16内で互いの傾斜面が接触して、鉛直方向に重なった状態となっている。この重なり状態において、貫通穴46と貫通穴48が連通している。なお、第1楔42と第2楔44が重なったときに貫通穴46と貫通穴48が連通しやすくなるように、貫通穴46と貫通穴48を、縦方向を長軸とする楕円形状あるいは長穴としてもよい。
貫通穴46、48には、ボルト28が挿通されており、ボルト28の第1楔42側の端部には、座金30を介してナット34が締結されている。同様にして、ボルト28の第2楔44側の端部には、座金32を介してナット36が締結されている。
ここで、地震等による交番加力(矢印X)が貫接合部に作用して第1楔42が貫穴16から抜け出そうとしたとき、第2楔44がボルト28によって、打込まれる方向(第1楔42側)に引っ張られる。このため、第1楔42は貫穴16から抜けにくくなる。
同様にして、第2楔44が貫穴16から抜け出そうとしたときは、第1楔42がボルト28によって、打込まれる方向(第2楔44側)に引っ張られる。このため、第2楔44は貫穴16から抜け出しにくくなる。このとき、第1楔42と第2楔44の接触面では摩擦力が発生しているため、第1楔42と第2楔44の位置ずれが抑制され、貫穴16内に第1楔42及び第2楔44が保持される。
第1楔42及び第2楔44が保持された貫接合構造50では、回転剛性の低下が抑えられるため、水平力によるモーメントによって横圧縮力が作用しても耐え切ることができ、構造物全体の耐力を維持することができる。
図6(a)、(b)には、本発明の第1実施形態の他の実施例として、楔を付勢する手段を設けた構成の貫接合構造60、70が示されている。なお、前述の第1実施形態の部材と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図6(a)に示すように、貫接合構造60は、前述の貫接合構造40(図2参照)において、第2楔22の端面とナット36の間に座金32と皿バネ52を設けた構成となっている。皿バネ52は、ボルト28に外挿され、ナット36を柱12の外側に向けて付勢している。
ここで、地震等による交番加力(矢印X)が貫接合部に作用して、第1楔20と第2楔22が互いに離れる方向に移動し、第2楔22が貫穴16から抜け出そうとしたとき、ナット34、36間の距離は変わらないため、皿バネ52が圧縮される。圧縮された皿バネ52は、元の状態に戻ろうとして第2楔22を第1楔20に近づける方向に付勢する。
このように、ナット34とナット36の間で、皿バネ52を設けた部分が弾性変形して緩衝部となる。このため、大きな曲げモーメントが貫接合部に作用する場合など、第1楔20及び第2楔22の間隔の変動をある程度許容した方が良い場合には、本構成を用いることで、第1楔20、第2楔22、貫18のめり込み等の損傷を抑えることができる。また、皿バネ52の付勢力が第2楔22に作用するため、仮にナット36の締結が不十分な場合があっても、第2楔22の緩みを抑えることができる。
第1楔20及び第2楔22が保持された貫接合構造60では、回転剛性の低下が抑えられるため、水平力が作用しても構造物全体の耐力を維持することができる。なお、皿ばね52は、第1楔20の端面とナット34の間に設けてもよく、第1楔20の端面とナット34の間及び第2楔22の端面とナット36の間の両方に設けてもよい。
一方、図6(b)に示すように、貫接合構造70は、前述の貫接合構造50(図5参照)において、第2楔44の端面とナット36の間に座金32と皿バネ52を設けた構成となっている。皿バネ52は、ボルト28に外挿され、ナット36を柱12の外側に向けて付勢している。
ここで、地震等による交番加力(矢印X)が貫接合部に作用して、第1楔42と第2楔44が互いに離れる方向に移動し、第2楔44が貫穴16から抜け出そうとしたとき、ナット34、36間の距離は変わらないため、皿バネ52が圧縮される。圧縮された皿バネ52は、元に戻ろうとして第2楔44を第1楔42に近づける方向に付勢する。
このように、ナット34とナット36の間で、皿バネ52を設けた部分が弾性変形して緩衝部となるため、大きな曲げモーメントが貫接合部に作用する場合など、第1楔42及び第2楔44の間隔の変動をある程度許容した方が良い場合には、第1楔42、第2楔44、貫18のめり込み等の損傷を抑えることができる。また、皿バネ52の付勢力が第2楔44に作用するため、仮にナット36の締結が不十分な場合があっても、第2楔44の緩みを抑えることができる。
第1楔42及び第2楔44が保持された貫接合構造70では、回転剛性の低下が抑えられるため、水平力が作用しても構造物全体の耐力を維持することができる。なお、皿ばね52は、第1楔42の端面とナット34の間に設けてもよく、第1楔42の端面とナット34の間及び第2楔44の端面とナット36の間の両方に設けてもよい。
次に、本発明の貫接合構造及び貫接合方法の第2実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部品には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図7(a)、(b)には、木造の構造物80の仕口部の断面が示されている。第1楔20の貫通穴24には、第1ボルト54が挿通されている。第1ボルト54の長さは、第1楔20の一方の端面から他方の端面までの距離よりも長く設定されている。また、第1ボルト54の一端には螺合溝が形成されており、座金30を介してナット34が締結されている。
同様にして、第2楔22の貫通穴26には、第2ボルト56が挿通されている。第2ボルト56の長さは、第2楔22の一方の端面から他方の端面までの距離よりも長く設定されている。また、第2ボルト56の一端には螺合溝が形成されており、座金32を介してナット36が締結されている。
第1ボルト54及び第2ボルト56の対向する端部には、エボナイト等の硬質ゴムからなる弾性部材58が接着固定されている。ここで、第1ボルト54、第2ボルト56、及び弾性部材58により、第1楔20及び第2楔22を連結する連結部材62が構成されている。そして、貫18、第1楔20、第2楔22、ナット34、ナット36、及び連結部材62によって、貫接合構造90が構成されている。
次に、貫接合構造90の施工方法について説明する。
図8(a)に示すように、まず、柱12の貫穴16に一方から貫18を挿通する。
続いて、図8(b)に示すように、貫18の上面と貫穴16の間に、図示しないハンマ等の打込み手段を用いて、一方から第1楔20を打込む。同様にして、貫18の上面と貫穴16の間に、他方から第2楔22を打込む。このとき、第1楔20及び第2楔22は、最終的な打込み位置まで打込まれる。
続いて、図8(c)に示すように、第1楔20の端面に接触して座金30を立設し、座金30の開口及び貫通穴24、26に一方から連結部材62を挿通する。なお、第1ボルト54の端部には予めナット34が螺合されており、ナット34、座金30、及び第1楔20の端面を接触配置することにより、第2楔22の端面から第2ボルト56の他端部が突出する。
続いて、図8(d)に示すように、第2ボルト56の他端部に座金32を外挿し、ナット36を螺合する。そして、締め付け具合を調整しながら、ナット34、36を第1楔20側又は第2楔22側からそれぞれ締結する。このようにして、貫接合構造90が構築される。
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。
図9(a)に示すように、貫接合構造90では、第1ボルト54の端部がナット34によって第1楔20に固定され、第2ボルト56の端部がナット36によって第2楔22に固定されているため、第1楔20及び第2楔22は、互いに離れる方向の移動が制限されている。
ここで、地震等による交番加力(矢印X)が貫接合部に作用して第1楔20が貫穴16から抜け出そうとしたとき、第2楔22が連結部材62によって、打込まれる方向(第1楔20側)に引っ張られるため、第1楔20は貫穴16から抜けにくくなる。
同様にして、第2楔22が貫穴16から抜け出そうとしたとき、第1楔20が連結部材62によって、打込まれる方向(第2楔22側)に引っ張られるため、第2楔22は貫穴16から抜け出しにくくなる。これにより、第1楔20及び第2楔22が貫穴16で保持される。
また、図9(a)、(b)に示すように、貫接合構造90では、柱12と貫18の接合部に大きな曲げモーメントMが作用したとき、柱12に対する貫18の変形角の増大に伴って第1楔20、第2楔22が貫18又は柱12にめり込もうとする。このとき、第1楔20、第2楔22が同一方向(矢印R方向)にそれぞれ揺動することになるが、本実施形態では、仮に第1楔20及び第2楔22が揺動したとしても、第1楔20と第2楔22の配置状態に合わせて中央部の弾性部材58が弾性変形するため、第1ボルト54及び第2ボルト56の変形が抑えられる。
これにより、第1楔20と第2楔22の変位に対する第1ボルト54と第2ボルト56の追従性(変形対応)が良くなり、柱12と貫18の接合部に大きな曲げモーメントMが作用したとき、及び曲げモーメントMの作用が無くなったときのいずれの場合についても、連結部材62による第1楔20及び第2楔22の連結状態を維持できる。
このようにして、構造物80に繰り返し交番加力が作用したときでも、第1楔20及び第2楔22が貫穴16に保持され、貫接合構造90の回転剛性の低下が抑えられるため、水平力によるモーメントMによって横圧縮力が作用しても耐え切ることができ、構造物80全体の耐力を維持することができる。
図10(a)、(b)には、本発明の第2実施形態の他の第1、第2実施例として、楔を付勢する手段を設けた貫接合構造100、110が示されている。なお、前述の第2実施形態の部材と基本的に同一の部材には、前記第2実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図10(a)に示すように、貫接合構造100は、前述の貫接合構造90(図9参照)において、第2楔22の端面とナット36の間に座金32と皿バネ52を設けた構成となっている。皿バネ52は、第2ボルト56に外挿され、ナット36を柱12の外側に向けて付勢している。
ここで、地震等による交番加力(矢印X)が貫接合部に作用して、第1楔20と第2楔22が互いに離れる方向に移動し、第2楔22が貫穴16から抜け出そうとしたとき、ナット34、36間の距離は変わらないため、皿バネ52が圧縮される。圧縮された皿バネ52は、元に戻ろうとして第2楔22を第1楔20に近づける方向に付勢する。
このように、ナット34とナット36の間で、皿バネ52を設けた部分が弾性変形して緩衝部となるため、大きな曲げモーメントが貫接合部に作用する場合など、第1楔20及び第2楔22の間隔の変動をある程度許容した方が良い場合には、第1楔20、第2楔22、貫18のめり込み等の損傷を抑えることができる。
また、皿バネ52の付勢力が第2楔22に作用するため、仮にナット36の締結が若干不十分な場合があっても、第2楔22の緩みを抑えることができる。なお、皿ばね52は、第1楔20の端面とナット34の間に設けてもよく、第1楔20の端面とナット34の間及び第2楔22の端面とナット36の間の両方に設けてもよい。
さらに、第1楔20及び第2楔22が曲げモーメントの作用で揺動したとしても、第1楔20と第2楔22の配置状態に合わせて弾性部材58が弾性変形するため、第1ボルト54及び第2ボルト56の変形が抑えられる。これにより、第1楔20と第2楔22の変位に対する第1ボルト54と第2ボルト56の追従性(変形対応)が良くなり、連結部材62による第1楔20及び第2楔22の連結状態を維持できる。
一方、図10(b)に示すように、貫接合構造110は、前述の貫接合構造50(図5参照)において、第2楔44の端面とナット36の間に座金32と皿バネ52を設け、さらにボルト28に換えて連結部材64を用いた構成となっている。連結部材64は、第1ボルト66、第2ボルト68、及び弾性部材72で構成されている。
第1楔42の貫通穴46には、第1ボルト66が挿通されている。第1ボルト66の長さは、第1楔42の一方の端面から傾斜面の略中央部までの距離よりも長く設定されている。また、第1ボルト66の一端には螺合溝が形成されており、座金30を介してナット34が締結されている。
同様にして、第2楔44の貫通穴48には、第2ボルト68が挿通されている。第2ボルト68の長さは、第2楔44の一方の端面から傾斜面の略中央部までの距離よりも長く設定されている。また、第2ボルト68の一端には螺合溝が形成されており、座金32及び皿バネ52を介してナット36が締結されている。
第1ボルト66及び第2ボルト68の対向する端部には、エボナイト等の硬質ゴムからなる弾性部材72が接着固定されている。ここで、貫18、第1楔42、第2楔44、ナット34、ナット36、及び連結部材64によって貫接合構造110が構成されている。
ここで、地震等による交番加力(矢印X)が貫接合部に作用して、第1楔42と第2楔44が互いに離れる方向に移動し、第2楔44が貫穴16から抜け出そうとしたとき、ナット34、36間の距離は変わらないため、皿バネ52が圧縮される。圧縮された皿バネ52は、元に戻ろうとして第2楔44を第1楔42に近づける方向に付勢する。
このように、ナット34とナット36の間で、皿バネ52を設けた部分が弾性変形して緩衝部となるため、大きな曲げモーメントが貫接合部に作用する場合など、第1楔42及び第2楔44の間隔の変動をある程度許容した方が良い場合には、第1楔42、第2楔44、貫18のめり込み等の損傷を抑えることができる。
また、皿バネ52の付勢力が第2楔44に作用するため、仮にナット36の締結が不十分な場合があっても、第2楔44の緩みを抑えることができる。なお、皿ばね52は、第1楔42の端面とナット34の間に設けてもよく、第1楔42の端面とナット34の間及び第2楔44の端面とナット36の間の両方に設けてもよい。
さらに、第1楔42の傾斜面と第2楔44の傾斜面が接触した接触面では、接触による摩擦力が発生しているため、第1楔42と第2楔44が貫穴16内に保持される。なお、第1楔42及び第2楔44が曲げモーメントの作用で揺動したとしても、第1楔42と第2楔44の配置状態に合わせて弾性部材72が弾性変形するため、第1ボルト66及び第2ボルト68の変形が抑えられる。これにより、第1楔42と第2楔44の変位に対する第1ボルト66と第2ボルト68の追従性(変形対応)が良くなり、連結部材64による第1楔42及び第2楔44の連結状態を維持できる。
図11(a)、(b)には、本発明の第2実施形態の他の第3実施例として、弾性部材に引張スプリングを設けた貫接合構造120が示されている。なお、前述の第2実施形態の部材と基本的に同一の部材には、前記第2実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
貫接合構造120は、前述の貫接合構造90(図9参照)の弾性部材58に換えて、引張スプリング74を設けた構成となっている。引張スプリング74は、螺旋状部の径が、第1ボルト54及び第2ボルト56の径よりも大きく、且つ貫穴16と貫18の隙間に収納可能な大きさとなっている。また、引張スプリング74は、両端部が第1ボルト54及び第2ボルト56の対向する端部に接着固定されている。ここで、第1ボルト54、第2ボルト56、及び引張スプリング74で連結部材76が構成されている。
次に、貫接合構造120の施工方法について説明する。
図12(a)に示すように、第1ボルト54、引張スプリング74、及び第2ボルト56が一体となった状態で、第1楔20の貫通穴24に第1ボルト54を挿通する。そして、第1ボルト54の端部に座金30を外挿して、ナット34を螺合する。
続いて、図12(b)に示すように、柱12の貫穴16に一方から貫18を挿通し、さらに、貫18の上面と貫穴16の間に第2ボルト56及び引張スプリング74を挿通して、第1楔20を打込み開始位置に配置する。この状態で、図示しないハンマ等の打込み手段を用いて、一方から第1楔20を打込む。
続いて、図12(c)に示すように、第2ボルト56に第2楔22を外挿して、貫18の上面と貫穴16の間に他方から第2楔22を打込む。このとき、第1楔20及び第2楔22は、最終的な打込み位置まで打込まれる。
続いて、図12(d)に示すように、第2ボルト56の他端部に座金32を外挿し、ナット36を螺合する。そして、締め付け具合を調整しながら、ナット34、36を第1楔20側又は第2楔22側からそれぞれ締結することにより、貫接合構造120が構築される。
このように、連結部材76の中央部を構成する引張スプリング74の大きさが、第1楔20及び第2楔22に形成された貫通穴24、26よりも大きい場合でも、上記の手順で施工することにより貫接合構造の構築が可能となる。
次に、本発明の貫接合構造及び貫接合方法の第3実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部品には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
図13(a)、(b)には、貫接合構造130の断面が示されている。柱12の貫穴16には貫18が挿通されており、貫穴16と貫18の上面との間には一方(図の左側)から第1楔82が打込まれ、他方(図の右側)から第2楔104が打込まれている。なお、打込まれた第1楔82と第2楔104の間には所定の幅の隙間が形成されており、第1楔82と第2楔104は離間配置となっている。
第1楔82は、縦断面が台形状となっており、一方の端面(左鉛直面)から中央部に向けて所定の幅で、空洞部としての欠き込み86が形成されている。また、第1楔82は、欠き込み86の右内壁面の中央部から、第1楔82の他方の端面(右鉛直面)の中央部に向けて、略水平方向に貫通穴84が形成されている。貫通穴84の内径は、後述するワイヤ88の留金物92の外径よりも大きくしてある。
一方、第2楔104は、縦断面が台形状となっており、一方の端面(左鉛直面)から右端部に向けて所定の幅で、空洞部としての欠き込み106が形成されている。欠き込み106は、第2楔104の底面側及び左側面側に開口している。また、欠き込み106の上部には、後述するワイヤ88が収納可能な大きさの溝部107が、第1楔82に向かう方向を長手方向として形成されている。また、溝部107の右端部上面には、後述する座金112を係止するための凹部108が形成されている。
第1楔82の貫通穴84には、1本のワイヤ88が挿通されている。ワイヤ88は、第1楔82と第2楔104が連結可能となるように、予め所定の長さに加工されている。また、ワイヤ88は、図13(c)に示すように、両端部に留金物92、94が形成されている。留金物92、94は、図示しない加工機によってロータリースエージングしたワイヤ端末金物で、留金物92に更にネジ加工を施したものである。
図13(a)、(b)に示すように、ワイヤ88の留金物92側の端部は、貫通穴84から欠き込み86内に突出している。そして、留金物92の径よりも大径の開口が形成された座金96がワイヤ88に外挿され、留金物92にナット98が締結されることで、欠き込み86内にワイヤ88の一方の端部が固定されている。また、欠き込み86の開口(左側)には、板材からなる蓋102が接着固定され、閉止されている。
一方、第2楔104の溝部107には、ワイヤ88の他端が挿通(収納)されている。ワイヤ88の留金物94側には、ワイヤ88の径よりも大径の開口が形成された座金112がワイヤ88に外挿されており、さらに、座金112の上部が欠き込み106の凹部108に係止され、座金112の下部が貫18上面に接触することで、ワイヤ88の他端が固定されている。なお、第2楔104の側の構成を第1楔82と同様にしてもよい。
ここで、貫18、第1楔82、第2楔104、ワイヤ88、ナット98、凹部108、及び座金112によって、貫接合構造130が構成されている。
次に、本発明の第3実施形態の作用として、貫接合構造130の施工方法について説明する。
図14(a)に示すように、まず、ワイヤ88の留金物94側に座金112を外挿配置する。そして、ワイヤ88の一端を欠き込み106の溝部107に収納すると共に、座金112を凹部108に係止して、第2楔104にワイヤ88の一端を取付ける。なお、座金112は接着剤で固定しておく。
続いて、図14(b)に示すように、貫18の上面と貫穴16の間に、図示しないハンマ等の打込み手段を用いて、一方から第2楔104を打込む。そして、第2楔104を最終的な打込み位置まで打込むことにより、貫穴16の他方からワイヤ88及び留金物92が突出する。
続いて、図14(c)に示すように、ワイヤ88の留金物92を第1楔82の貫通穴84に挿通する。この状態で第1楔82の左端面に当て板を当て、図示しないハンマ等の打込み手段を用いて他方から第1楔82を打込む。これにより、欠き込み86内に留金物92が突出する。
続いて、図14(d)に示すように、座金96を留金物92を通ってワイヤ88に外挿して、欠き込み86の右内側面に接触させる。この状態で留金物92にナット98を締結する。この後、欠き込み86の開口に蓋102(図13(a)参照)を接着固定して、欠き込み86を閉止する。このようにして、貫接合構造130が構築される。
貫接合構造130では、ナット98、留金物92及び座金96が第1楔82及び第2楔104の外側から視認されないので、構造物の美観を損ねることがなくなる。また、座金112を凹部108に係止させることで、第2楔104にワイヤ88の一端を取付けられるので、第1楔82と第2楔104を両方ともナット締めするものに比べて、施工が容易となる。
また、貫接合構造130では、ワイヤ88の両端部がナット98及び座金112によって第1楔82及び第2楔104に固定されているため、第1楔82及び第2楔104は、互いに離れる方向の移動が制限されている。
ここで、地震等による交番加力が貫接合部に作用して第1楔82が貫穴16から抜け出そうとしたとき、第2楔104が、座金112の係止箇所でワイヤ88によって、打込まれる方向に引っ張られるため、第1楔82は貫穴16から抜けにくくなる。同様に、第2楔104が貫穴16から抜け出そうとしたときは、第1楔82がワイヤ88によって、打込まれる方向に引っ張られるため、第2楔104は貫穴16から抜け出しにくくなる。これにより、第1楔82及び第2楔104が貫穴16で保持される。
第1楔82及び第2楔104が保持された貫接合構造130では、回転剛性の低下が抑えられるため、水平力が作用しても構造物全体の耐力を維持することができる。
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。ボルト28は、本実施形態のスタッドボルト状のものだけでなく、一方にヘッドが形成された一般的なボルト形状であってもよい。この場合、ナットの締結は第1楔20又は第2楔22の一方のみで行うことになる。
また、第1楔42と第2楔44の接触面の一方に凸部、他方に凹部を設けて、該凸部と凹部を係合させるように打込むようにしてもよい。さらに、各実施形態の第1楔、第2楔は、貫穴16に打込みが可能であれば、端面が必ずしも鉛直面でなくともよい。また、第1楔20と第2楔22、あるいは、第1楔42と第2楔44に第1楔82のような欠き込み86と蓋102を設けて、各金物を外部から視認できないようにしてもよい。
また、固定手段としては、ナットの締結や座金の係合の他に、第1楔、第2楔に凹部を形成し、棒状の連結部材を打込み等により嵌合させる手段を用いてもよい。さらに、付勢部材として、皿バネ52に換えてコイルスプリングやゴム弾性体を用いてもよい。
また、弾性部材58の接続は、接着だけでなく、例えば、端部に弾性部材58の径よりも小径の凹部が形成された棒状部材を用いて、当該凹部に弾性部材58を締まり嵌めしてもよく、さらに、締まり嵌めした箇所の外側をナット状の部材で締め付けて固定するようにしてもよい。
また、本発明は、かけこ彫りやこみ栓止めの貫接合構造と共に用いてもよい。