(動作原理)
まず、本発明の動作原理について説明する。本発明に係る光検出素子における光電変換部1の最小構成は、図15に示す構成であって、半導体(たとえば、n形シリコン層)の主機能層11の表面に絶縁層(たとえば、シリコン酸化膜)14を介して集積電極12を形成した構成になる。集積電極12には集積電圧が印加される。主機能層11の電位を基準電位として(または、主機能層11が積層されたサブストレート(図1参照)の電位を基準電位として)、集積電極12には正極性と負極性との集積電圧を印加することが可能になっている。集積電極12に正極性の集積電圧を印加すると、電子を集積することができるポテンシャル井戸である集積領域11bが主機能層11に形成され、集積電極12に負極性の集積電圧を印加すると、ホールを集積することができるポテンシャル井戸である集積領域11bが主機能層11に形成される。
主機能層11において集積電極12の近傍であって光が入射する部位は、光の入射により電子およびホールを生成する感光部11aとして機能する。感光部11aにおいて生成された電子およびホールは、集積電極12に印加される集積電圧の極性に応じて、集積領域11bに集積される。つまり、集積電圧が正極性であれば集積領域11bに電子が集積され、集積電圧が負極性であれば集積領域11bにホールが集積される。
動作を説明するために、図示しない発光源により強度を変調した信号光を投光し、光電変換部1では信号光を受光できるものとする。また、信号光の強度は矩形波で変調され、発光源が点灯と消灯とを交互に繰り返す場合を想定する。すなわち、発光源が点灯していると光電変換部1には信号光と環境光とがともに入射し、発光源が消灯していると光電変換部1には環境光のみが入射するから、たとえば、発光源が点灯している期間には集積領域11bに電子を集積し、発光源が消灯している期間には集積領域11bにホールを集積する場合を想定し、種々の条件を無視して単純なモデルで考えれば、信号光と環境光とを合わせた受光光量に対応する個数の電子と、環境光のみの受光光量に対応する個数のホールとを再結合させることになり、再結合後に残留した電子の個数は信号光の受光光量に対応する個数になると言える。ただし、後述するように、実際には再結合後に電子が残留するとは限らず、ホールが残留する場合があり、あるいは電子とホールとがともに残留する場合もあるが、いずれにしても、残留したキャリア(電子およびホール)を受光出力として取り出せば、再結合を行わずに取り出す場合に比較すると、環境光の成分を低減した受光出力を得ることができると言える。
動作をさらに詳しく説明する。図15では、黒丸が電子を表し白丸がホールを表しており、集積電極12に正極性の集積電圧を印加して電子を集積した後に、集積電極12に印加する集積電圧を負極性に切り換えてホールを集積する瞬間を示している。このとき、集積領域11bに集積されていた電子は、集積電圧が負極性になることによって集積領域11bから排出されるが、主機能層11の表面付近においてダングリングボンドないし界面電位により捕捉されている電子は集積領域11bに留まる。また、光の照射により主機能層11(光電変換部1)において生成された電子は主機能層11から排出され、生成されたホールは集積領域11bに集積される。つまり、集積領域11bから排出される電子と集積領域11bに集積されるホールとの一部が再結合して消滅し、また集積領域11bに捕捉されている電子は集積領域11bに集積されたホールと再結合して消滅する。再結合後には、電子とホールとの少なくとも一方が集積領域11bに残留するから、残留しているキャリアを受光出力として取り出す。
動作原理を説明するために、光電変換部1において1つの集積電極12のみを設けた構成を例示し、光電変換部1において異なる時刻に生成された電子とホールとを再結合させることによって、再結合後に残留するキャリアを受光出力として取り出す動作を説明したが、集積領域11bを1つだけ設けた構成では、集積電圧の極性を切り換えるときに集積領域11bから排出されるキャリアの多くは再結合に関与させることができない。そこで、以下の実施形態では、集積領域11bから排出されるキャリアを保持する保持領域11c(図1参照)を集積領域11bとは別に設け、集積領域11bと保持領域11cとの間でキャリアを交換することにより、再結合に関与するキャリアの個数を増加させた構成を説明する。
(実施形態1)
図2は本実施形態の光検出素子6を用いて空間情報検出装置の一種である測距装置を構成した例を示しており、この測距装置は、距離を測定する対象物3を含む対象空間に発光源2からの光を投光し、対象物3による反射光を含む対象空間からの光を光検出素子6で受光するとともに、対象物3による反射光の光量を反映した受光出力を光検出素子6から得るように構成している。この種の構成で対象物3までの距離を計測する技術としては、三角測量法の原理を用いる技術と、発光源2から投光された光が光検出素子6で受光されるまでの光の飛行時間を計測する技術とが主に用いられている。
三角測量法の原理を用いる技術では、発光源2から所定パターンの平行光線を対象空間に投光し、対象物3に形成されたパターンが受光光学系(図示せず)を通して光検出素子6に投影される位置を距離に換算する。一方、光の飛行時間を計測する技術では、発光源2から対象空間に投光する光の強度を適宜の変調波形で変調しておき、光検出素子6で受光した光と発光源2から投光した光との変調波形の時間差または位相差を求めることによって、時間差を飛行時間として用いるか位相差を飛行時間に換算し、飛行時間から距離を求める技術が知られている。以下に説明する実施形態では、強度を変調した光を発光源2から投光して光の飛行時間によって対象物3までの距離を計測する技術を想定するが、三角測量法の原理を用いる場合でも環境光の影響を軽減するために本発明の技術を適用可能であり、また本発明の技術思想の適用範囲は測距の目的に限らず、微粒子(煙、埃、汚れなどのセンサ)による光の拡散あるいは減衰による受光光量の変化を利用して微粒子を検出する微粒子センサなど受光光量を検出する必要がある種々の目的に適用可能である。
本実施形態では、発光源2を光検出素子6とは別に設けたタイミング制御回路4から出力される一定の変調周波数(たとえば、10MHz)である変調信号により駆動し、対象空間に投光する光の強度を変調信号により変調している。本実施形態では説明を簡単にするために変調信号の波形として矩形波を用い、発光源2が点灯と消灯とを繰り返すものとして説明する。ただし、変調信号の波形としては正弦波や鋸歯状波や三角波など他の波形も用いることが可能である。以下では、発光源2が点灯している期間を点灯期間とし、消灯している期間を消灯期間として説明する。発光源2が消灯していれば光検出素子6に入射する光は発光源2から対象空間に投光した光を含まない環境光のみであり、発光源2が点灯していれば光検出素子6に入射する光は発光源2から対象空間に投光した光を含む信号光と環境光との合計になる。したがって、光検出素子6で受光する光は、消灯期間には主として環境光になり、点灯期間には主として環境光と信号光とを併せたものになる。点灯期間と消灯期間との長さが一対一であれば、点灯期間の受光光量から消灯期間の受光光量を減算することにより、理論上では環境光の成分を除去して信号光の成分のみを取り出すことが可能になる。
光検出素子6から出力される受光出力は評価部としての距離演算回路5に与えられ、距離演算回路5では複数のタイミングで光検出素子6から取り出した受光出力を用い、発光源2から照射された光の強度変化の波形と、光検出素子6により受光した光の強度変化の波形との時間差または位相差から光の飛行時間を求め、飛行時間から対象物3までの距離を求める。
光検出素子6は光を電気信号に変換する光電変換部1を備え、光電変換部1を1個だけ単独で用いれば光電変換部1から見て特定の方向に存在する対象物3についてのみ距離を検出する構成になり、図2のように光電変換部1を複数個配列して光検出素子6を構成し、光検出素子6の前方に受光光学系を配置して光検出素子6から受光光学系を通して対象空間を見る方向を各光電変換部1の位置に対応付ければ、各方向における距離を画素値に持つ距離画像を生成することが可能である。本実施形態では、矩形状の単位格子からなる平面格子の格子点上に光電変換部1を配列するとともに光電変換部1からの出力を外部に取り出す電荷取出部7を設けた光検出素子6を構成し、この光検出素子6を用いて距離画像を生成する構成を想定して説明する。すなわち、光検出素子6は距離画像を生成するための撮像素子として機能する。なお、電荷取出部7は後述するようにCCDであり、光電変換部1は電荷取出部7の一部としても機能する。
1個の光電変換部1は、図1に示す構成を有し、n形シリコン層である基板10にp形シリコン層であるサブストレート16を介してn形シリコン層からなる主機能層11を設けてあり、主機能層11の一表面(主機能層11の厚み方向において基板10とは反対側である主表面)をシリコン酸化膜からなる絶縁層14により覆っている。基板10、主機能層11、サブストレート16は複数個の光電変換部1で共用される。主機能層11の主表面には絶縁層14を介して集積電極12と保持電極13とが対向し、保持電極13の全体と集積電極12の一部とは遮光膜15により覆われる。つまり、光電変換部1は、基板10と主機能層11と集積電極12と保持電極13と絶縁層14と遮光膜15とサブストレート16とにより構成される。なお、集積電極12および保持電極13は、集積電圧ないし保持電圧の印加によりそれぞれ主機能層11にポテンシャル井戸としての集積領域11bないし保持領域11cを形成する。
集積電極12および絶縁層14は透光性を有し、遮光膜15で覆われていない部位に入射する光が集積電極12を通して主機能層11に達するように構成してある。すなわち、基板10、主機能層11、サブストレート16のうち遮光膜15に覆われていない部位が光電変換部1において電子およびホールを生成する感光部11a(図2参照)として機能する。図示例では遮光膜15の一部が集積電極12に跨っているが、これは主機能層11において光励起によって生じた電子あるいはホールが、保持電極13に対応して主機能層11に形成される保持領域11cに直接集積されるのを防止するためである。
上述した光電変換部1では、遮光膜15に覆われていない部位である感光部11aに光が入射すると電子およびホールが生成される。また、集積電極12に集積電圧を印加すると主機能層11にポテンシャル井戸として集積領域11bが形成され、保持電極13に保持電圧を印加すると主機能層11にポテンシャル井戸として保持領域11cが形成される。集積電極12と保持電極13との距離および集積電圧と保持電圧との大きさは、ポテンシャル井戸として形成される集積領域11bと保持領域11cとの間で電子とホールとが移動可能になるように設定される。
感光部11aに入射する光量に応じた受光出力を得るための電子およびホールを感光部11aで生成する期間には、サブストレート16を基準電位(接地電位)に保ち、基板10を基準電位よりも高電位に保つ。つまり、基板10とサブストレート16との間では逆バイアスになる。基板10に印加する基板電圧とサブストレート16に印加するリセット電圧とは、それぞれ3段階に切換可能としている。すなわち、基板電圧は、2段階の高電位と接地電位とに切換可能とし、リセット電圧は、低電位と接地電位と高電位とに切換可能としてある。基板電圧が接地電位のときリセット電圧を低電位とし、基板電圧が高いほうの高電位のときリセット電圧を高電位とし、基板電圧が低いほうの高電圧のときリセット電圧を接地電位とするように、基板電圧とリセット電圧とが制御される。以下では、基準電位に対して高電位である場合を正極性と言い、低電位である場合を負極性と言う。
図示例では、直流電源E3,E4と切換スイッチSW3,SW4との組合せによって基板電圧およびリセット電圧が切換可能であることを模式化して示している。つまり、直流電源E3は高低2段階の正極性の電圧と接地電位の電圧との3段階の電圧を出力し、直流電源E4は正負両極性の電圧と接地電位の電圧との3段階の電圧を出力する。切換スイッチSW3,SW4はともに3接点スイッチであり、各直流電源E3,E4の出力電圧を択一的に選択する。基板電圧およびリセット電圧を切り換えるタイミングは、タイミング制御回路4により制御される。つまり、タイミング制御回路4が基板電圧とリセット電圧とを選択することは、切換スイッチSW3,SW4を切り換えることに相当する。なお、リセット電圧に対する基板電圧の電位差が一定になるようにSW3,SW4を連動させ、基板電圧をリセット電圧に合わせて3段階に切り換えているが、基板電圧はリセット電圧に対して高電位であれば基板10とサブストレート16とが逆バイアスになるから、リセット電圧にかかわらずリセット電圧よりも高電位になるような一定電圧を基板電圧に用いてもよい。
集積電極12に印加する集積電圧と保持電極13に印加する保持電圧とは、いずれも正極性と負極性との2段階に切換可能であり、集積電圧および保持電圧を切り換えるタイミングは、基板電圧およびリセット電圧と同様に、タイミング制御回路4により制御される。図示例では、タイミング制御回路4において集積電圧と保持電圧とを印加する機能を、直流電池E1,E2と切換スイッチSW1,SW2との組合せによって模式化して表している。集積電圧と保持電圧とを印加する直流電源E1,E2はそれぞれ正負両極性の電圧を出力可能であり、切換スイッチSW1,SW2により極性の切換が可能になっている。つまり、タイミング制御回路4が集積電圧と保持電圧とを選択することは、切換スイッチSW1,SW2を切り換えることに相当する。
集積電圧を正極性にすると集積領域11bに電子を集めることができ、集積電圧を負極性にすると集積領域11bにホールを集めることができる。同様に、保持電圧を正極性にすると保持領域11cに電子を集めることができ、保持電圧を負極性にすると保持領域11cにホールを集めることができる。本実施形態では、感光部11aにおいて生成されるキャリアである電子とホールとのうち電子を受光出力として用いる。
次に、光電変換部1の基本動作を説明する。基本動作では、感光部11aに入射した光量に応じて感光部11aで生成される電子とホールとを異なるタイミングで集積し、集積した電子とホールとを再結合させた後に残留する電子を取り出す。したがって、感光部11aに目的とする光が入射する前に電子あるいはホールが感光部11aに残留していると、感光部11aから取り出す電子に不要成分が含まれ、感光部11aから取り出す電子の個数が感光部11aでの受光光量に対応しないことになる。
そこで、電子とホールとを集積領域11bに集積する前に、まず光検出素子6に残留している電子およびホールを廃棄する必要がある。光検出素子6に残留している電子およびホールを廃棄する際には、電子とホールとを個別に廃棄する。たとえば、ホールから先に廃棄する場合には、まずホールを集積領域11bおよび保持領域11cから押し出すために、集積電圧と保持電圧とをともに正極性にする。このとき同時にリセット電圧を負極性にする。この状態では、ホールはサブストレート16に向かって移動するから、ホールの移動度を考慮し、この状態をホールが光検出素子6から消滅する程度の期間継続する。
ホールを廃棄した後には光検出素子6には主として電子が残留するから、次に、電子を廃棄するために、集積電圧および保持電圧を負極性にするとともに、リセット電圧を正極性にし、基板電圧をリセット電圧よりも高くする。光検出素子6に残留する電子はサブストレート16に向かって移動し、一部の電子はサブストレート16から廃棄され、サブストレート16を通過した残りの電子は基板10から廃棄される。
上述のように光検出素子6からホールおよび電子を廃棄して光検出素子6のリセットを行った後には、光検出素子6に残留する電子およびホールの量は熱平衡状態に応じた量になる。光検出素子6のリセットは、受光出力を光検出素子6から取り出すたびに行われる。
光検出素子6のリセット後には、まず集積領域11bに電子を集積するために、集積電極12に正極性の集積電圧を印加し、このとき保持領域11cに電子が集積されないように保持電極11bには負極性の保持電圧を印加する。感光部11aでは光の入射により電子とホールとが生成されるが、集積電圧が正極性であり保持電圧が負電圧であるから、主機能層11には集積領域11bから保持領域11cに向かう電位勾配が生じ、またサブストレート16に印加するリセット電圧を接地電位にすることによって、主機能層11において光が照射される部位の近傍では集積領域11bからサブストレート16に向かう電位勾配が生じる。なお、主機能層11において遮光膜15で覆われている部位にはサブストレート16から保持領域11cに向かう電位勾配が生じているが、この部位には光が照射されないから、保持領域11cにはホールはほとんど集積されない。
保持領域11cに電子が集積された後には、リセット電圧を接地電位に保ったままで、集積電圧を負極性とし、保持電圧を正極性とする。このとき、主機能層11にはサブストレート16から集積領域11bに向かう電位勾配が生じるとともに、保持領域11cから集積領域11bに向かう電位勾配が生じる。さらに、保持領域11cからサブストレート16に向かう電位勾配も生じる。したがって、集積領域11bに集積されていた電子は保持領域11cに移動する。また、感光部11aで光の照射により生成された電子とホールとのうち電子はサブストレート16に向かい、ホールは集積領域11bに向かって移動する。このような動作によって感光部11aで生成された電子とホールとを集積領域11bと保持領域11cとに振り分けることができる。
ここで、保持領域11cにホールが存在している場合には、そのホールも集積領域11bに向かって移動することになる。電子は集積領域11bから保持領域11cに向かい、ホールは感光部11aまたは保持領域11cから集積領域11bに向かうから、電子とホールとが出会い再結合する。一方、電子の一部は集積領域11bの表面のダングリングボンド(ないし界面電位)により捕捉されており、捕捉されている電子は、集積領域11bに集積されたホールと再結合して消滅する。また同様に、ホールの一部は保持領域11cの表面のダングリングボンド(ないし界面電位)により捕捉されており、捕捉されているホールは、保持領域11cに移送された電子と再結合して消滅する。
その後、集積電圧と保持電圧の極性を入れ換えると(つまり、集積電圧を正極性にし、保持電圧を負極性にすると)保持領域11cの電子が集積領域11bに向かい、集積領域11bのホールが保持領域11cに向かうから、電子とホールとが出会い再結合することによって消滅する。また、感光部11aで生成された電子も集積領域11bに集積され、感光部11aから集積部11bに集積された電子の一部もホールとの再結合に寄与する。ここで、集積領域11bに存在していたホールの一部は集積領域11bの表面のダングリングボンド(ないし界面電位)により捕捉されているから、集積領域11bに感光部11aから集積または保持領域11cから移送された電子と再結合して消滅し、同様にして、保持領域11cに存在していた電子の一部は保持領域11cの表面のダングリングボンド(ないし界面電位)により捕捉されているから、保持領域11cに移送されたホールと再結合して消滅する。
集積電圧と保持電圧との極性をそれぞれ入れ換える動作を多数回繰り返すと、上述の動作で電子とホールとが再結合し、ホールはほぼ完全に消滅し、電子のみが残留することになる。ここに、集積電圧と保持電圧との極性を1回入れ換えるだけでは電子とホールとが出会う確率が低いが、極性を多数回入れ換えることによって、再結合せずに残されていた電子およびホールの個数がしだいに増加する。つまり、集積電圧と保持電圧との極性を多数回入れ換えると、再結合に関与する電子およびホールの密度が増加して再結合確率が高くなる。
本実施形態では、集積電圧および保持電圧を切り換えるタイミングを発光源2の点灯期間および消灯期間に一致させることは必然ではないが、集積電圧および保持電圧を切り換えるタイミングを点灯期間と消灯期間とに一致させると動作の理解が容易であるから、まず、発光源2の点灯期間および消灯期間と集積電圧および保持電圧を切り換えるタイミングとを一致させる場合について説明する。すなわち、図3(a)に示すように、発光源2の点灯と消灯とを交互に繰り返し、図3(b)(c)のように、点灯期間Pbには集積電極12に正の集積電圧を印加するとともに保持電極13に負の保持電圧を印加し、消灯期間Pdには集積電極12に負の集積電圧を印加するとともに保持電極13に正の保持電圧を印加する。
点灯期間Pbと消灯期間Pdとのいずれにおいても感光部11aでは電子とホールとが一対一に生成されるが、点灯期間Pbには感光部11aで生成される電子が集積領域11bに集積され、消灯期間Pdには感光部11aで生成されるホールが集積領域11bに集積されるとともに、集積領域11bに存在していた電子が集積領域11bから保持領域11cに移動しようとする。ただし、集積領域11bと絶縁層14との界面にはダングリングボンドが存在しているから、点灯期間Pbにおいて集積領域11bに集積された電子の一部は、ダングリングボンド(ないし界面電位)により捕捉されて保持領域11cに移動することができず、消灯期間Pdにおいて集積領域11bに集積されたホールと再結合して消滅する。
点灯期間Pbにおいて集積領域11bに集積された電子の量は発光源2の点灯による信号光と信号光以外の環境光とを併せた光量に対応しており、消灯期間Pdにおいて集積領域11bに集積されたホールの量は環境光のみの光量に対応しているから、消灯期間Pdにおいて集積領域11bで電子がホールと再結合して消滅することは、電子のうち環境光の光量に対応する量の少なくとも一部を消滅させたことになり、保持領域11cに保持される電子の量は、信号光と環境光とを併せた光量に対応する電子の量よりも少なくなる。つまり、保持領域11cに保持された電子の量は、信号光と環境光とを併せた光量に対して環境光の一部光量を減殺した光量に対応する。
次の点灯期間Pbにおいては、保持領域11cに保持された電子が集積領域11bに移動しようとし、また感光部11aで生成された電子が集積領域11bに集積される。一方、前の消灯期間Pdにおいて電子と再結合せずに集積領域11bに残留していたホールは、集積領域11bに集積される電子と出会うことによって再結合する。また、再結合せずに残留するホールは、主として保持領域11cに移動する。これは、保持領域11cの周辺では、主機能層11の深部に向かう電位勾配よりも保持領域11cに向かう電位勾配のほうが大きいからである。
上述の動作により、環境光により生成されたホールは大部分が電子との再結合により消滅するから、点灯期間Pbと消灯期間Pdとを複数回繰り返すことによって、信号光に対応する電子の量に対する環境光に対応する電子の量の割合を低減することができる。したがって、再結合後に保持領域11cに残留する電子を光検出素子6から外部に取り出して受光出力に用いることにより、環境光の成分をある程度除去した受光出力を得ることができる。
ところで、上述の動作によってホールとの再結合後に保持領域11cに残留する電子を光検出素子6から取り出すには、集積電極12と保持電極13とに印加する電圧を調節することにより主機能層11に形成されるポテンシャル井戸を制御し、保持領域11cに保持している電子を転送する。つまり、主機能層11と集積電極12と保持電極13とを用いてCCDとして動作させるのであって、図2の左右の一方向に電子を転送することができる。図2に示す電荷取出部7には主機能層11のこの機能が含まれる。
上述のように、発光源2の点灯と消灯とを繰り返して電子とホールとを再結合させることにより信号光に対応する量の電子を保持領域11cに残留させる期間と、保持領域11cに残留する電子を光検出素子6から取り出す期間とが必要であって、以下では前者の期間を受光期間と呼び、後者の期間を取出期間と呼ぶ。受光期間においては、集積電極12に印加する集積電圧と保持電極13とに印加する保持電圧とは互いに異なる極性であって、しかも交互に極性を切り換えるが、取出期間においては、電子が一方向に転送されるように電圧を印加するタイミングを制御する。また、タイミングと併せて電圧値も制御してもよい。
取出期間において集積電極12および保持電極13に印加する電圧の制御はCCDにおける転送ゲートに印加する電圧の制御と同様である。すなわち、本実施形態では、フレームトランスファ方式のCCDイメージセンサと同様に、主機能層11がキャリアを転送する垂直転送レジスタに兼用される構成になる。光検出素子6では、主機能層11を垂直転送レジスタとして用い、さらに、垂直転送レジスタからの電子を水平転送レジスタ21(図10参照)により転送して各感光部11aごとの受光出力を半導体基板の外部に取り出す。また、上述の構成では主機能層11が転送レジスタに兼用されているが、インターライン方式のCCDイメージセンサと同様の構成を採用し、主機能層11における保持領域11cに保持されたキャリアを別に設けた垂直転送レジスタに転送し、垂直転送レジスタと水平転送レジスタとを通して半導体基板の外部に取り出すようにしてもよい。
上述した光検出素子6を用いて対象物3までの距離を計測するには、発光源2の変調信号と各光電変換部1(各感光部11a)で受光した光に含まれる変調成分との時間差または位相差を求める必要がある。本実施形態では、変調信号の波形として矩形波を採用しているから時間差を求めることができる。図4(a)に発光源2からの光の強度の変化を示し、図4(b)に光電変換部1により受光する光の強度の変化を示す。図4に示す時間差tdを求めるには、発光源2の点灯と消灯とに同期する複数の位相に対応するタイミングで得られる光電変換部1による受光光量を用いる技術と、発光源2の点灯と消灯とには同期しない複数のタイミングで得られる光電変換部1による受光光量を用いる技術とがある。
まず、発光源2の点灯と消灯とに同期するタイミングで得られる受光光量を用いる技術について説明する。ここでは、動作の理解を容易にするために、変調信号の位相の90度ごとに180度の区間を設定し、各区間ごとに受光光量を求めるものとする。つまり、変調信号における0〜180度、90〜270度、180〜360度、270〜90度の4区間について受光光量を求める。各区間の受光光量は図4(c)〜(f)に示す図形の面積に相当する。いま、各区間の受光光量をそれぞれA0〜A3で表し、環境光と信号光とを併せた受光強度がAb、環境光のみに対応する受光強度がAd、変調信号の周期が4T、時間差がtdであるとすれば、受光光量A0〜A3は、以下のように表すことができる。
A0=Ab×(2T−td)+Ad×td
A1=Ab×(T+td)+Ad×(T−td)
A2=Ab×td+Ad×(2T−td)
A3=Ab×(T−td)+Ad×(T+td)
これらの関係から(A1−A3)/(A0−A2)を求めると、td/(T−td)になるから、s=(A1−A3)/(A0−A2)と置いて、時間差tdを次式で表すことができる。
td=sT/(s+1)
つまり、変調信号の周期4Tと上述した4区間の受光光量A0〜A3とを用いることにより時間差tdを求めることができる。なお、受光光量A0〜A3は受光出力に対応するから、距離演算回路5では、光検出素子6から与えられる各光電変換部1ごとの受光出力を受光光量A0〜A3に代えて用いることにより時間差tdを求め、対象物3までの距離に換算することができる。また、上式の演算結果の符号は時間差tdが正になるように適宜に選択される。
ところで、上述したように、図4(c)に示すように受光光量A0を求める区間は変調信号における0〜180度の区間であり、図4(e)に示すように受光光量A2を求める区間は変調期間における180〜360度の区間である。ここで、ひとまず感光部11aで生成された電子とホールとが集積領域11bに集積される確率の差を無視することにより電子とホールとが集積領域11bに同じ確率(集積効率)で集積されると仮定し、さらに電子とホールとの再結合の確率(再結合確率)が1であると仮定する。
上述した仮定の下で、集積電極12に正の集積電圧を印加する期間を変調信号における0〜180度の区間に対応させ、集積電極12に負の集積電圧を印加する期間を変調信号における180〜360度の区間に対応させると、感光部11aで生成され集積領域11bに集積される電子の量(個数)は受光光量A0に相当し、感光部11aで生成され集積領域11bに集積されるホールの量(個数)は受光光量A2に相当することになる。すなわち、変調信号における0〜180度の区間と180〜360度の区間とで集積電圧の極性を交互に切り換える動作を行った後に保持領域11cに残留する電子の量は、(A0−A2)に相当すると言える。同様に、変調信号における90〜270度の区間において集積電圧の極性を正とし、変調信号における270〜90度の区間において集積電圧の極性を負とした後に保持領域11cに残留する電子の量は、(A1−A3)に相当する。したがって、変調信号に同期させて集積電極12に印加する集積電圧および保持電極13に印加する保持電圧の極性を交互に入れ換えることにより、電子とホールとを再結合させた後に保持領域11cに残留する電子を受光出力として光検出素子6の外部に取り出すだけで、(A0−A2)と(A1−A3)との演算を行ったことになり、距離演算回路5における演算量を低減できる。
上述した構成では動作の理解が容易になるように、発光源2が点灯と消灯とを繰り返す場合を例として説明したが、上述したように、発光源2を駆動する変調信号の波形としては、正弦波や鋸歯状波や三角波など他の波形も用いることが可能である。以下では、図5(a)のように、変調信号の波形として正弦波を用いる場合について説明する。
ここでは、光電変換部1に入射する光の強さを位相θの関数とし、g(θ)=(Ab−Ad)sinθ+(Ab+Ad)/2とおく(図5(b)参照)。この場合、変調信号における0〜180度、90〜270度、180〜360度、270〜90度の各区間における受光光量A0〜A3は、図5(c)(d)に斜線で示す面積に相当するから、それぞれ下式のように定積分で表すことができる。ただし、位相θは時間tの関数であり、θ=ωt(ω=2πf;fは変調周波数)、ψは投受光の位相差(ψの単位をラジアン、対象物3までの距離L[m]、光速c[m/s]とすれば、L=ψ・c/2ω)、Abは光電変換部1が受光した光の強さの極大値、Adは光電変換部1が受光した光の強さの極小値であり、Adは光電変換部1が受光した環境光に対応する光の強さに相当する。また、下式において角括弧内のコンマの両側の値は積分の区間を意味する。
A0=∫g(θ)dθ [−ψ,180°−ψ]
A1=∫g(θ)dθ [90°−ψ,270°−ψ]
A2=∫g(θ)dθ [180°−ψ,360°−ψ]
A3=∫g(θ)dθ [270°−ψ,90°−ψ]
Aa=Ab−Ad,Ac=(Ab+Ad)/2と置けば、受光光量A0〜A3は下式で表される。
A0=−2Aa・cosψ+Ac・π
A1=−2Aa・sinψ+Ac・π
A2=2Aa・cosψ+Ac・π
A3=2Aa・sinψ+Ac・π
これらの関係から(A1−A3)/(A0−A2)を求めるとtanψになるから、位相差ψは次式で表すことができる。
ψ=tan−1(A1−A3)/(A0−A2) …(1)
すなわち、変調信号の波形が正弦波である場合でも上式によって位相差ψを求めることができるから、変調信号の波形が矩形波である場合の時間差tdと同様に対象物3までの距離を求めることができる。また、変調信号の波形が正弦波である場合でも矩形波を用いる場合と同様に、光電変換部1から(A0−A2)と(A1−A3)とに相当する受光出力を得ることができる。
(A0−A2)または(A1−A3)に相当する受光出力が得られるというのは電子とホールとの集積領域11bへの集積効率が等しいという仮定と、電子とホールとの再結合確率が1である(つまり、出会った電子とホールとはすべて再結合する)という仮定とに基づいている。実際には、集積効率は等しくなく、また再結合確率は1よりも大幅に小さい(たとえば、0.1)。まず、再結合確率が1であるという仮定はそのままにして、電子とホールとの集積効率が異なることを考慮して(1)式を補正する。
上述した例では、変調信号の位相が0〜180度である期間と90〜270度である期間とにおいてそれぞれ集積領域11bに電子を集積するから、受光光量A0、A1に対応する電子が感光部11aから集積領域11bに集積され、受光光量A2、A3に対応するホールが感光部11aから集積領域11bに集積される。
いま、集積領域11bへの電子の集積効率に対するホールの集積効率をα(0<α<1)とする。つまり、ホールの集積効率が電子よりも小さいものとする。集積領域11bに集積される電子およびホールの個数を決定するパラメータとして影響が大きいのは、主機能層11の厚み寸法、受光する光の波長のほか、受光光量と集積電圧と集積電圧の印加期間とであると考えられ、主機能層11の厚み寸法と受光する光の波長とは電気的に制御できる要素ではないから固定値としてパラメータから除外し、集積電圧をVa、集積電圧Vaの印加期間をPaとすれば、受光光量がA0、A1であるときに集積領域11bに集積される電子の個数N0、N1は、適宜の関数hを用いて、それぞれN0=h(A0,Va,Pa)、N1=h(A1,Va,Pa)と表すことができる。同様にして、受光光量がA2、A3であるときに集積領域11bに集積されるホールの個数N2、N3は、それぞれN2=αh(A2,Va,Pa)、N3=αh(A3,Va,Pa)と表すことができる。
ここで、集積電圧Vaと印加期間Paとを一定として、個数N0、N1、N2、N3を受光光量A0、A1、A2、A3のみの関数として表せば、それぞれN0=h(A0)、N1=h(A1)、N2=αh(A2)、N3=αh(A3)になる。一方、各光電変換部1に対応する受光出力は、電子とホールとの再結合後に残留する電子の個数に相当するから、実際には、(N0−N2)と(N1−N3)とに相当する。つまり、(N0−N2)および(N1−N3)と受光光量A0、A1、A2、A3とは次の関係になる。
N0−N2=h(A0)−αh(A2)
N1−N3=h(A1)−αh(A3)
また、電子の個数N0、N1およびホールの個数N2、N3を用いて受光光量A0、A1、A2、A3を表すと、A0=h−1(N0)、A1=h−1(N1)、A2=h−1(N2/α)、A3=h−1(N3/α)であるから(h−1はhの逆関数)、位相差ψを求める(1)式は次式のように変形できる。
ψ=tan−1S
S={h−1(N1)−h−1(N3/α)}/{h−1(N0)−h−1(N2/α)}
関数hは、受光光量A0、A1、A2、A3に対して生成される電子やホールの量が飽和しない範囲では、受光光量A0、A1、A2、A3をパラメータとする線形関数とみなしてよいから、上式をさらに変形すると次式が得られる。
ψ=tan−1{(αN1−N3)/(αN0−N2)} …(2)
したがって、距離演算回路5において保持領域11cに残留する電子の量に応じて得られる受光出力を用いて対象物3までの距離を演算式を用いて求める場合には、受光出力が(N1−N3)または(N0−N2)であって集積効率αに関する補正が必要であることを考慮しなければならない。たとえば、(N1−N3)および(N0−N2)を用いた(2)式の近似式を作成し、近似式に含まれる集積効率αを距離演算回路5の調節要素に用いる。あるいはまた、距離演算回路5において受光出力と距離とをデータテーブルによって対応付けるようにし、集積効率αをデータテーブルに折り込む。
(2)式は電子およびホールの個数N0、N1、N2、N3をパラメータとしており、電子およびホールの個数N0、N1、N2、N3は、受光光量A0、A1、A2、A3と集積電圧Vaと印加期間Paとの関数であるから、各受光光量A0、A1、A2、A3と集積電圧Vaと印加期間Paとのうちの少なくとも1要素を調節すれば、(2)式を用いて位相差ψを求めることが可能である。
受光光量A0、A1、A2、A3の調節には変調信号の波形を変形することが必要であるから、折れ線近似などの技術による関数発生器を用いて変調信号の波形を調節する。また、上述の例のように、集積領域11bに電子を集積する場合とホールを集積する場合とで集積電圧Vaの絶対値を等しく設定するのではなく、ホールを集積する場合の集積電圧Vaの絶対値を、電子を集積する場合の集積電圧Vaの絶対値よりも大きくすれば、集積効率αを1に近付けることが可能になる。あるいはまた、電子を集積するときの集積電圧Vaの印加期間Paよりもホールを集積するときの集積電圧Vaの印加期間Paのほうが長くなるようにしても集積効率αを1に近付けることが可能になる。
変調信号が矩形波である場合も同様であって、電子とホールとの集積効率を考慮して補正することにより、時間差tdを正確に求めることができる。また、変調信号として他の波形を用いる場合も同様である。
ところで、上述の例では再結合確率を1と仮定しているが、実際には電子とホールとを再結合させて消滅させる場合の再結合確率は、電子とホールとの密度に依存する。一方、受光光量が少ないときにはできるだけ電子を消滅させず、受光光量が多くなると光検出素子6の飽和を防止するために消滅する電子の量を増やしたい場合がある。このような場合は、受光光量に応じて再結合確率を調節することが必要になる。本実施形態では、感光部11bで生成された電子とホールとを再結合させているから、電子の量に合わせてホールの量が変化する。その結果、受光光量に応じて再結合確率が自動的に調節される。
次に、発光源2の点灯および消灯とは非同期に求めた受光光量を用いて位相差ψを求める技術について簡単に説明する。この技術は、受光光量の変化に対応した信号に変調周波数とは異なる周波数の信号を干渉させると(混合すると)、両者の周波数差に相当する周波数で振幅が変化するビート信号が得られることを利用している。ビート信号の包絡線は位相差ψを内包しており、包絡線に相当する受光光量を包絡線の異なる位相で取り出せば、位相差ψを求めることができる。たとえば、包絡線の位相が0〜180度、90〜270度、180〜360度、270〜90度である4区間について受光光量を積分して求め、各受光光量をA0′、A1′、A2′、A3′とすれば、(1)式のA0、A1、A2、A3をA0′、A1′、A2′、A3′に読み替えるだけで、位相差ψを求めることができる。
なお、ビート信号を得る方法には受光光量に比例する受光信号を取り出し、変調信号とは異なる周波数の局発信号をタイミング制御回路4から出力し、受光信号と局発信号とを混合することが考えられるが、混合回路を設けると回路構成が複雑になるから好ましくない。そこで、集積電極12に集積電圧を印加し保持電極13に保持電圧を印加するタイミングを局発信号で制御し、混合回路の機能を集積領域11bと保持領域11cとを用いて実現する。要するに、変調信号の変調周波数とは異なる周波数である局発信号を用いて主機能層11に集積領域11bと保持領域11cとを形成することによって、保持領域11cに残留する電子がビート信号の振幅に相当する量になり、混合回路を用いることなくビート信号の振幅に応じた受光出力を距離演算回路5に与えることが可能になる。
(実施形態2)
実施形態1は、1個の光電変換部1に集積電極12と保持電極13とを1個ずつ設けていたが、本実施形態では、図6に示すように、1個の光電変換部1に対して、2個ずつの集積電極12a,12bおよび保持電極13a,13bを設けた例を示す。つまり、2個ずつの集積電極12a,12bおよび保持電極13a,13bが1グループ(ないし1画素)を構成する。2個の保持電極13a,13bは離間して配置され、両保持電極13a,13bの間に2個の集積電極12a,12bが配置される。また、集積電極12a,12bの間には各集積電極12a,12bにそれぞれ隣接する保持電極13a,13bとの距離よりも大きい距離のギャップgが形成される。この構成では各保持電極13a,13bを覆う遮光膜15の間の開口から感光部11aに光が導入される。また、図7に示すように、遮光膜15は隣接する各一対の光電変換部1における保持電極13a,13bに跨るように設けられる。集積電極12aと保持電極13aとの組および集積電極12bと保持電極13bとの組はそれぞれ実施形態1における集積電極12と保持電極13との関係と同様に機能する。ただし、受光期間において、2個の集積電極12a,12bには互いに逆極性の集積電圧が印加されるとともに、2個の保持電極13a,13bにも互いに逆極性の保持電圧が印加される。
図6においては、集積電極12a,12b同士または保持電極13a,13b同士には逆極性の電圧が印加され、かつ隣接する集積電極12a,12bと保持電極13a,13bとには互いに逆極性の電圧が印加されることを示すために、タイミング制御回路4において集積電圧および保持電圧を印加する構成を、集積電圧および保持電圧を印加する2個の直流電源E1,E2と、両直流電源E1,E2と集積電極12a,12bおよび保持電極13a,13bとの接続関係を切り換える2接点の切換スイッチSW1,SW2とで模式的に表している。また、集積電圧と保持電圧とは電圧値を等しくしてある。
本実施形態の構成では、変調信号の位相が0〜180度であるときに、集積電極12aに対応する集積領域11bに電子を集積し、集積電極12bに対応する集積領域11bにホールを集積するが、受光出力としてはいずれも電子を取り出すものとする。つまり、後述する動作によって保持電極13aに対応する保持領域11cに保持した電子と、集積電極12bに対応する集積領域11bに残留する電子とが受光出力を決める。
実施形態1において原理を説明した場合と同様に、本実施形態の原理も発光源2を駆動する変調信号を矩形波として説明する。また、本実施形態では、変調信号に同期するタイミングで集積電圧および保持電圧を切り換えるという条件で本実施形態の動作を説明する。この条件以外の動作は実施形態1において説明してあり、また本実施形態において説明する動作以外は実施形態1と同様である。
本実施形態では、発光源2の点灯期間において、集積電極12aに印加する集積電圧を正極性とし、集積電極12bに印加する集積電圧を負極性とする。また、点灯期間において、保持電極13aに印加する保持電圧を負極性とし、保持電極13bに印加する保持電圧を正極性とする。ただし、実施形態1と同様にして、電子およびホールを集積領域11bに集積する前に、主機能層11に残留する電子およびホールを廃棄する。
集積電極12a,12bに上述の極性で集積電圧を印加するとともに保持電極13a,13bに上述の極性で保持電圧を印加すると、主機能層11において集積電極12aに対応する部位に形成される集積領域11bには、主機能層11への光の照射により主機能層11で生成された電子が集積され、主機能層11において集積電極12bに対応する部位に形成される集積領域11bには、主機能層11への光の照射により主機能層11で生成されたホールが集積される。つまり、主機能層11で生成された電子とホールとは、各集積電極12a,12bに対応する部位で主機能層11に形成される2個の集積領域11bに振り分けられてそれぞれ集積される。
次に、環境光のみが存在する消灯期間において集積電極12a,12bに印加する集積電圧および保持電極13a,13bに印加する保持電圧の極性を切り換える。つまり、集積電極12aに印加する集積電圧を負極性とし、保持電極13aに印加する保持電圧を正極性とするとともに、集積電極12bに印加する集積電圧を正極性とし、保持電極13bに印加する保持電圧を負極性とする。このとき、感光部11aで生成された電子およびホールのうち、ホールは集積電極12aに対応する集積領域11bに集積され、電子は集積電極12bに対応する集積領域11bに集積される。
点灯期間において集積電極12aに対応する集積領域11bに存在していた電子はダングリングボンドに捕捉された一部を残して保持電極13aに対応する保持領域11cに移動し、点灯期間において集積電極12bに対応する集積領域11bに存在していたホールはダングリングボンドに捕捉された一部を残して保持電極13bに対応する保持領域11cに移動する。つまり、集積電極12aに対応する集積領域11bに残された電子は集積されたホールと再結合し、集積電極12bに対応する集積領域11bに残されたホールは集積された電子と再結合する。
消灯期間においては、集積電極12aに印加される集積電圧が負極性であり、保持電極13aに印加される保持電圧と集積電極12bに印加される集積電圧とはともに正極性であるから、集積電極12aに対応する集積領域11bから保持電極13aに対応する保持領域11cだけではなく、集積電極12bに対応する集積領域11bにも電子が移動しようとするが、ギャップgを設けていることにより、集積電極12bに対応する集積領域11bへの電子の移動は抑制される。同様に、集積電極12bに対応する集積領域11bから保持電極13bに対応する保持領域11cと集積電極12aに対応する集積領域11bとにホールが移動しようとするが、ギャップgの存在により集積電極12aに対応する集積領域11bへのホールの移動は抑制される。
消灯期間の次の点灯期間において、集積電極12aに対応する集積領域11bには、主機能層11で生成された電子と、保持電極13aに対応する保持領域11cに保持されていた電子とが集積され、集積電極12aに対応する集積領域11bに集積されていたホールはこれらの電子と出会い再結合することにより消滅する。同様にして、集積電極12bに対応する集積領域11bには、感光部11aで生成されたホールと、保持電極13bに対応する保持領域11cに保持されていたホールとが集積され、集積電極12bに対応する集積領域11bに集積されていた電子はこれらのホールと出会い再結合することにより消滅する。
点灯期間において集積電極12bに対応する集積領域11bに集積されたホールは、引き続く消灯期間において保持電極13bに対応する保持領域11cに移動する際に感光部11aあるいは保持領域11cからの電子と出会って再結合する。同様に、消灯期間において集積電極12aに対応する集積領域11bに集積されたホールは、引き続く点灯期間において保持電極13aに対応する保持領域11aに移動する際に感光部11aあるいは保持領域11cからの電子と出会って再結合する。
上述した動作を複数回繰り返した後において、保持電極13aに対応する保持領域11cに残留する電子は、実施形態1と同様であって、環境光に対応する成分が減殺されていることになる。一方、電子とホールとの集積効率が等しく、電子とホールとの再結合確率が1であれば、集積電極12bに対応する集積領域11bには電子は残留していないはずであるが、一般に再結合確率は1よりも大幅に小さいから、集積電極12bに対応する集積領域11bに電子が残留する。残留した電子は消灯期間に生成されたものであるが、点灯期間において生成されたホールとの再結合により、一部が消滅しているから点灯期間の情報を持っていることになる。つまり、集積電極12bに対応する集積領域11bに残留する電子も、信号光と環境光とを併せた成分から環境光に対する成分を減殺した成分になる。
上述の動作を踏まえて、光検出素子6における各光電変換部1に対応する受光出力から距離を求める場合の動作を以下に説明する。本実施形態では、集積電極12bに対応する集積領域11bに残留する電子を受光出力に用いる。集積電極12bに対応する集積領域11bに電子が残留する原因は、ホールの集積効率αが1より小さく、再結合確率βが1より小さいことにある。そこで、距離演算回路5において受光出力から距離を求めるために、集積領域11bへのホールの集積効率α(0<α<1)および電子とホールとの再結合確率β(0<β<1)を考慮して(1)式を修正することを考える。なお、集積電圧Vaと印加期間Paとについては電子とホールとに関わらず同条件であるものとする。
実施形態1と同様に考えれば、集積電極12aに対応する集積領域11bでは、受光光量がA0、A1であるときに集積領域11bに集積される電子の個数N0、N1はそれぞれN0=h(A0)、N1=h(A1)であり、受光光量がA2、A3であるときに集積領域11bに集積されるホールの個数N2,N3はそれぞれN2=αh(A2)、N3=αh(A3)になる。一方、集積電極12bに対応する集積領域11bにおいては、電子とホールとの関係が逆になるから、N0、N1がホールの個数を表すとともにN2、N3が電子の個数を表し、N0=αh(A0)、N1=αh(A1)、N2=h(A2)、N3=h(A3)になる。
また、電子とホールとの再結合により残留する電子の個数は、集積電極12aに対応する集積領域11bと保持電極13aに対応する保持領域11cとに関して言えば(N0−βN2)または(N1−βN3)であり、集積電極12bに対応する集積領域11bと保持電極13bに対応する保持領域11cとに関して言えば(N2−βN0)または(N3−βN1)である。したがって、集積電極12aと保持電極13aとの組を用いてホールと再結合された後に残留する電子の個数は次式で表される。
N0−βN2=h(A0)−αβh(A2) …(a)
N1−βN3=h(A1)−αβh(A3) …(b)
また、集積電極12bと保持電極13bとの組を用いてホールと再結合された後に残留する電子の個数は次式で表される。
N2−βN0=h(A2)−αβh(A0) …(c)
N3−βN1=h(A3)−αβh(A1) …(d)
つまり、受光出力としては(a)(b)(c)(d)に相当する4出力が得られる。そこで、(a)−(c)と(b)−(d)とをそれぞれ求めると、次式が得られる。
(N0−βN2)−(N2−βN0)=(1+β)(N0−N2)
={h(A0)−αβh(A2)}−{h(A2)−αβh(A0)}
=(1+αβ){h(A0)−h(A2)} …(e)
(N1−βN3)−(N3−βN1)=(1+β)(N1−N3)
={h(A1)−αβh(A3)}−{h(A3)−αβh(A1)}
=(1+αβ){h(A1)−h(A3)} …(f)
関数hを線形関数とすれば、(e)/(f)=(A0−A2)/(A1−A3)になる。結局、本実施形態の4出力を用いることにより、(1)式で用いる(A0−A2)/(A1−A3)を補正することなく求めることが可能になる。
上述した手順を簡単にまとめる。まず、変調信号の位相によって区分される4区間のうち180度異なる2区間分について電子の集積と保持とを繰り返した後、保持電極13aに対応する保持領域11cから受光出力を取り出すと(a)(c)に相当する出力が得られるから、距離演算回路5では両者の差分を求める。次に、変調信号の位相によって区分される4区間のうち上述の2区間とは異なる2区間について電子の集積と保持とを繰り返した後、集積電極12bに対応する集積領域11bから受光出力を取り出すと(b)(d)に相当する出力が得られるから、距離演算回路5では両者の差分を求める。このようにして求めた2つの差分値を除算すれば、除算結果は(1)式における(A0−A2)/(A1−A3)に相当するから、位相差ψを求めることができる。要するに、本実施形態の構成を採用し、保持電極13aに対応する保持領域11cと集積電極12bに対応する集積領域11bとにそれぞれ集積した電子の量の差分を用いると、集積効率αおよび再結合確率βの影響を除去して位相差ψを求めることが可能になる。
本実施形態では、各光電変換部1に設けた2個の保持電極13a,13bに対応する保持領域11cに光が入射しないように遮光膜15で保持電極13a,13bを覆っているが、図8に示すように、各光電変換部1にそれぞれ対応するレンズ19aを備えるレンズアレイ19を光検出素子6の受光面に配置してもよい。レンズアレイ19は、合成樹脂成形品によりレンズ19aを連続一体に形成するものを想定しているが、独立したレンズ19aをレンズ枠により保持したものを用いることもできる。各レンズ19aは、光の入射面が凸になった平凸レンズであって、レンズ19a同士の境界が光電変換部1の境界に一致するように配置される。
レンズ19aは収束レンズであり、図8に矢印で示すように、光電変換部1の中央部に入射光を収束させる機能があり、この機能により、保持電極13a,13bに光が入射するのを防止している。すなわち、遮光膜15を設けた場合と同様に、保持電極13a,13bに対応する保持領域11cへの光の入射を防止することができる。しかも、光電変換部1の全面に相当する領域に入射した光が収束されて光電変換部1における感光部11aに入射するから、遮光膜15を設ける場合に比較すると開口率が大きくなり、光の利用効率が高くなる。
(実施形態3)
実施形態2の構成では、集積電極12a,12bの間にギャップgが存在し、ギャップgが存在することによって各集積電極12a,12bに対応して形成される集積領域11bにおいて電子とホールとを分離して集積することが可能になっている。ギャップgは幅を広くするほうが電子とホールとを分離しやすくなる。一方、複数個の光電変換部1を配列することにより光検出素子6を構成し、かつ主機能層11を垂直転送レジスタとして兼用している場合には、集積電極12a,12bおよび保持電極13a,13bを用いて主機能層11に形成されるポテンシャル井戸を制御することでキャリア(電子またはホール)を転送するから、ギャップgの幅を広くするとギャップgの部位ではキャリアを転送するためのポテンシャル井戸を形成することができなくなる。
本実施形態は、図9(a)に示すように、実施形態2の構成における1つの光電変換部1を構成する1グループの集積電極12a,12bの間に転送用電極22を付加することにより、集積電極12a,12bの距離を広げて電子とホールとを分離しやすくしながらも、保持領域11cに残留する電子およびホールの転送を容易にしたものである。この構成では、保持領域11cに電子およびホールを集積する間には転送用電極22には転送電圧を印加せずに0Vに保つことによって、転送用電極22の幅以上の幅を有したギャップgを集積電極12a,12bの間に形成することができる。また、保持領域11cに集積したキャリアを転送する際には、転送用電極22を集積電極12a,12bおよび保持電極13a,13bと併せて用い、適宜のタイミングで転送電圧を印加することにより、キャリアが移動しやすくなるように主機能層11にポテンシャル井戸を形成することが可能になる。
また、光検出素子6においては、垂直方向に隣接する光電変換部1の間にも保持領域11cからのキャリアの漏れを抑制するために間隙が形成されているから、この間隙に対応する部位にも転送用電極23を付加することで、垂直方向において隣接する光電変換部1の間で電子とホールとを分離しながらも、キャリアの転送時にはキャリアが移動しやすいようにポテンシャル井戸を形成することが可能になる。この構成では、1グループ(1画素)当たり6個の電極(集積電極12a,12b、保持電極13a,13b、転送用電極22,23)を用いることになる。要するに、主機能層11を共用する集積電極12a,12bと保持電極13a,13bとのグループが複数グループ設けられ、グループ内で隣り合う集積電極12a,12bの間と、グループ間で隣り合う保持電極13a,13bの間とにそれぞれ転送用電極22,23が配置されるのである。
ところで、上述した例では、集積領域11bへのホールの集積効率は電子よりも小さいが、実施形態2で考察したように、1つの光電変換部1に集積電極12a,12bと保持電極13a,13bとを2個ずつ設け、この光電変換部1に対応した受光出力を用いると、集積効率αおよび再結合確率βの影響を排除して距離を求めることができる。しかしながら、ホールの集積効率が電子に比べて極端に小さいと、電子とホールとの再結合を利用する効果が十分に得られなくなる。そこで、電子およびホールを集積領域11bに集積する期間において転送用電極22に適宜の電圧を印加することにより、ホールの集積効率を高めてもよい。
すなわち、集積電極12a(または集積電極12b)に負極性の集積電圧を印加するとともに、集積電極12b(または集積電極12a)に正極性の集積電圧を印加しているときに、集積電極12a(または集積電極12b)に印加する集積電圧よりも絶対値の小さい負極性の電圧を転送用電極22に印加するのである。転送用電極22に電圧を印加せずに0Vに保つ場合には転送用電極22はホールの集積に寄与しないが、負極性の適宜大きさの電圧を転送用電極22に印加することによって、図9(b)のように、感光部11aで生成されたホールは集積電極12a(または集積電極12b)に対応する集積領域11bだけではなく、転送用電極22に対応して形成されるポテンシャル井戸にも集積される。転送用電極22に対応して形成されるポテンシャル井戸は、ホールに対して集積領域11bであるポテンシャル井戸よりも浅いから、転送用電極22に対応して形成されるポテンシャル井戸に集積されるホールは集積領域11bに流れる。その結果、集積電極12a(または集積電極12b)を単独で用いる場合に比べて多くのホールを集積領域11bに集積することが可能になる。なお、上述の例ではホールの集積効率が電子よりも小さい場合を想定しているが、逆に電子の集積効率がホールよりも小さい場合には、転送用電極22を電子の集積に用いるために転送用電極22に正極性の適宜大きさの電圧を印加するようにしてもよい。他の構成および動作は実施形態2と同様である。
(実施形態4)
実施形態1では、基板10とサブストレート16との電位を調節することによって光検出素子6に残留する電子およびホールを廃棄する構成例を示したが、本実施形態では、光検出素子6を構成する光電変換部1に隣接するように廃棄電極17(図10、図11参照)を設け、廃棄電極17に印加する廃棄電圧を制御することにより、光検出素子6に残留する電子およびホールを廃棄する例を示す。
光電変換部1を縦横に複数個ずつ配列している場合には、縦横の一方の方向に沿った廃棄電極17を他方の方向に隣接する各一対の光電変換部1の間に配置する。たとえば、図10のように主機能層11を垂直転送レジスタとして兼用する構成を採用する場合には、集積電極12a,12bと保持電極13a,13bと転送用電極22,23とを垂直方向(図10の縦方向)に配列し、光電変換部1を垂直方向に配列した各列の間に垂直方向に延長された廃棄電極17を設ける。この構成では、垂直転送レジスタとともに電荷転送部7を構成する水平転送レジスタ21に対して主機能層11である垂直転送レジスタの一端からキャリアが引き渡される。なお、図10では集積電極12a,12b、保持電極13a,13b、転送用電極22,23を垂直方向の各列ごとに分割しているが、各列間を分割せずに4列分を水平方向に延長された1個の電極で構成してもよい。
廃棄電極17は、n形の半導体層である主機能層11に主表面から所定の深さ(2〜3μm)までの領域で形成してある。主機能層11と廃棄電極17とはオーミックに接合してあり、正極性または負極性の廃棄電圧を廃棄電極17に印加することにより、主機能層11に残留する電子とホールとを廃棄電極17を通して主機能層11から廃棄することが可能になる。また、廃棄電極17に電圧を印加せず0Vに保つことにより、水平方向に隣接する主機能層11に形成される集積領域11b同士あるいは保持領域11c同士で電子またはホールが混合されるのを防止することができ、廃棄電極17が光電変換部1の分離性の向上に寄与することになる。つまり、廃棄電極17は光電変換部1を水平方向において互いに分離する分離電極として機能する。したがって、廃棄電極17の深さは、主機能層11に残留するキャリア(とくに、ホール)を確実に廃棄できるように設定されるのはもちろんのこと、光電変換部1の間のキャリアの漏れを防止することも考慮して設定される。なお、廃棄電極17を設けずに導電材料からなる分離電極を光電変換部1の分離の目的で設け、主機能層11に残留する電子およびホールは基板10およびサブストレート16を通して廃棄するようにしてもよい。
廃棄電極17を用いて主機能層11に残留する電子およびホールを廃棄する際には、電子を廃棄するかホールを廃棄するかに応じた極性で廃棄電極17に廃棄電圧を印加する。たとえば、保持電極13aに対応する保持領域11cに電子が残留し、集積電極12aに対応する集積領域11bにホールが残留しているものとする。実施形態1と同様に、主機能層11に残留するホールを先に廃棄する必要があるから、まず、ホールを廃棄するために廃棄電極17に負極性の廃棄電圧を印加した後に、電子を廃棄するために廃棄電極17に正極性の廃棄電圧を印加する。廃棄電極17に負極性の廃棄電圧を印加すれば、集積電極12aに対応する集積領域11bに残留していたホールが廃棄され、その後、廃棄電極17に正極性の廃棄電圧を印加すれば、保持電極13aに対応する保持領域11cに残留していた電子が廃棄される。この構成は基板10の導電形がn形である場合に用いることができるのはもちろんのこと、基板10の導電形がp形であって基板10を通してキャリアの廃棄ができない場合であっても、廃棄電極17を通して主機能層11の残留キャリアを廃棄することができる。
ところで、水平方向に隣り合う光電変換部1の間の分離性を向上させるために、廃棄電極17を設ける代わりに、図12に示すように、隣接する光電変換部1の列間に絶縁分離部18を形成してもよい。絶縁分離部18はシリコン酸化層(SiO2)からなる絶縁材料により形成されており、絶縁層14に連続するように形成される。絶縁分離部18は水平方向に隣り合う光電変換部1の間のキャリアの漏れを防止する目的であるから、主表面からの深さは保持領域11cの深さによって決まり、たとえば2〜3μmに設定される。なお、絶縁分離部18を形成する場合には主機能層11に残留するキャリアを廃棄するための電極を別途に設ける。たとえば、光検出素子6を形成する半導体基板の周部にCCDイメージセンサと同様のオーバーフロードレインを設け、オーバーフロードレインを通してキャリアを廃棄することが可能である。
なお、図では主機能層11が垂直転送レジスタを兼用する構成の光検出素子6を例示したが、主機能層11とは別に垂直転送レジスタを設け、主機能層11から転送ゲートを介して垂直転送レジスタにキャリアを引き渡すようにしてもよい。この構成を採用する場合には、各主機能層11において転送ゲートを設ける部位以外を、それぞれ廃棄電極17あるいは絶縁分離部18で囲むようにしてもよい。
(実施形態5)
本実施形態は、図13に示すように、実施形態3において説明した転送用電極22に代えて2個の制御電極24a,24bを設けるとともに、転送用電極23に代えて2個の制御電極25a,25bを設けた構成を有する。すなわち、本実施形態では、1個の光電変換部1において2個ずつの集積電極12a,12b、保持電極13a,13b、制御電極24a,24b、制御電極25a,25bを設け、1画素に8個の電極を設けた構成を採用している。また、図示例では、集積電極12a,12b、保持電極13a,13b、制御電極24a,24b、制御電極25a,25bを等間隔に配列してある。制御電極24a,24bは1個の光電変換部1において隣接する集積電極12a,12bの間に配置してあり、したがって制御電極24a,24bには光が透過する。また、制御電極25a,25bは隣り合う2個の光電変換部1に設けた保持電極13a,13bの間に配置してある。したがって、制御電極25a,25bは遮光膜15に覆われる。
以下では、本実施形態の動作を図14に基づいて説明する。図14(a)〜(h)は、それぞれ制御電極25a、保持電極13a、集積電極12a、制御電極24a、制御電極24b、集積電極12b、保持電極13b、制御電極25bに電圧を印加することにより形成されるポテンシャル井戸の深さの変化を示しており、各図の中央の横線はポテンシャル井戸が形成されない状態を表し、中央の横線よりも下側は電子に対するポテンシャル井戸が形成される状態、中央の横線よりも上側はホールに対するポテンシャル井戸が形成される状態をそれぞれ表している。つまり、中央の線を基準電位とすれば、電子に対するポテンシャル井戸が形成される期間は正極性の電圧を印加している期間であり、ホールに対するポテンシャル井戸が形成される期間は負極性の電圧を印加している期間になる。図14から明らかなように、集積電極12a,12bに印加する集積電圧と保持電極13a,13bに印加する保持電圧とは、それぞれ正負1段階ずつと基準電位との3段階に切り換えられ、制御電極24a,24b,25a,25bに印加する電圧は、正1段階と負2段階と基準電位との4段階に切り換えられる。図14では、電子を符号eで表し、ホールを符号hで表し、電子eないしホールhの移動を矢印で表している。また、丸を付した符号eおよび符号hは、感光部11から集積した電子またはホールを含むことを意味している。
ここで、実施形態1と同様に、発光源2が点灯と消灯とを繰り返し、かつ点灯期間Pbと消灯期間Pdとの受光光量の差分に相当する受光出力を得る場合を基本動作とすると、本実施形態では、集積期間Tc1と移送期間Tm1とが点灯期間Pbに対応し、集積期間Tc2と移送期間Tm2とが消灯期間Pdに対応する。実施形態1〜4では基本動作において、図3のように、点灯期間Pbと消灯期間Pdとの切換時点と集積電圧および保持電圧の切換時点とを一致させるから、図14に示す集積期間Tc1,Tc2のみの動作を行っていることになる。本実施形態の動作は、集積期間Tc1,Tc2の間に移送期間Tm1,Tm2を設けていることが特徴であり、移送期間Tm1,Tm2には集積領域11bと保持領域11cとの間に電位勾配を形成して電子またはホールの移動方向を規制することにより、電子またはホールが拡散するのを防止している。つまり、移送期間Tm1,Tm2には制御電極24a,24b,25a,25bに対応する部位に適宜の電圧を印加することによって、主機能層11における制御電極24a,24b,25a,25bに対応する部位に待避領域を形成し、待避領域に電子またはホールを一旦待避させた後に集積領域11bまたは保持領域11cに移送することによって、集積電圧と保持電圧との極性の反転時における電子またはホールの拡散を防止する。
さらに詳しく説明する。図14に示す動作では集積電極12a,12bに印加する集積電圧と保持電極13a,13bに印加する保持電圧と制御電極24a,24b,25a,25bに印加する電圧との組合せに10個の状態があり、10状態で1周期になるように各電圧の印加タイミングをタイミング制御回路4により制御する。各状態を区別するために、図14では1〜10の符号を付している。各状態における電圧の変化を表1に示す。表1では、電圧を+2V、+V、0、−V、−2Vの5段階で表している。0は基準電位であり、+2V>+V>0>−V>−2Vである。
状態1は集積期間Tc1、状態6は集積期間Tc2であって、各集積期間Tc1,Tc2には、感光部11aで生成された電子またはホールを集積領域11bに集積するとともに、集積期間Tc1,Tc2より前に保持領域11cに移送されている電子またはホールを保持領域11cで保持する。集積期間Tc1,Tc2の動作は基本的には実施形態1〜4と同様である。
状態2〜5は移送期間Tm1、状態6〜9は移送期間Tm2であって、各移送期間Tm1,Tm2には、集積電圧および保持電圧の極性を入れ換える。ただし、両極性の間に一旦は基準電位となる状態(状態3,8)を挟む。集積電圧と保持電圧とが基準電位となる状態3,8には、主機能層11において制御電極24a,24b,25a,25bに対応する部位に待避領域となるポテンシャル井戸を形成し、集積電極12a,12bに対応する集積領域11bからそれぞれ制御電極25b,25aに対応する待避領域に電子またはホールを移送するとともに、保持電極13a,13bに対応する保持領域11cからそれぞれ制御電極24a,24bに対応する待避領域に電子またはホールを移送することができるように主機能層11に電位勾配を付与する。集積領域11bと保持領域11cとには異なる種類のキャリア(一方が電子であれば他方がホール)が存在しているから、待避領域に電子またはホールが移送されることにより、電子とホールとが再結合する。すなわち、電子とホールとの再結合は、他の実施形態では主として集積電圧と保持電圧との極性の切換後に行われるが、本実施形態では集積電圧と保持電圧との極性の切換後だけではなく集積電圧と保持電圧との極性の切換時にも行われる。つまり、待避領域を設けていることにより、集積電圧と保持電圧とが基準電位を通過するときに、電子とホールとが待避領域に移送され、移送の間に電子とホールとが再結合する。図14において矢印が交差する部位がこの状態を表している。また、他の実施形態と同様に、集積領域11bおよび保持領域11cにおいて主機能層11の表面に捕捉されている電子またはホールは、集積領域11bおよび保持領域11cに移動してきた電子またはホールと再結合する。
要するに、移送期間Tm1,Tm2には、集積領域11bと保持領域11cとのうち電子を保持していた領域からホールを保持していた領域の反対側に形成される待避領域に向かって電子が移動し、ホールと再結合せずに待避領域に達した電子は、集積領域11bと保持領域11cとのうち最初に電子を保持していた領域とは異なる領域に移動して、当該領域に残留していたホールと再結合する。また同様にして、集積領域11bと保持領域11cとのうちホールを保持していた領域から電子を保持していた領域の反対側に形成される待避領域に向かってホールが移動し、電子と再結合せずに待避領域に達したホールは、集積領域11bと保持領域11cとのうち最初にホールを保持していた領域とは異なる領域に移動して、当該領域に残留していた電子と再結合する。このような動作により、集積電圧と保持電圧との極性の切換時であって集積電圧と保持電圧とが基準電位になるときには、電子およびホールが拡散せずに集積領域11bまたは保持領域11cを通って待避領域に向かって移動するように電位勾配を与え、その後、電子およびホールを先に通過した集積領域11bまたは保持領域11cに引き戻すのである。
移送期間Tm1,Tm2において状態2,7は、集積電圧と保持電圧との極性を切り換える前の準備期間であり、状態2,7で待避領域を用意することにより主機能層11に電位勾配を付与し、電子およびホールの拡散を防止することができる。なお、図14に示すように、集積領域11bに多くの電子およびホールを集めるために、状態1〜10のうち集積期間Tc1,Tc2に対応する状態1,6は他の状態よりも時間を長くしてある。また、状態1〜5と状態6〜10とは電子とホールとに関与する状態が入れ代わっているだけで、実質的に同様の動作になる。
上述した動作から明らかなように、本実施形態では、集積電圧および保持電圧がともに基準電位になる期間(状態3,8)には、隣接する集積領域11bおよび保持領域11cを挟む2つの待避領域の間に電位勾配を形成して電子とホールとの拡散を防止しているから、隣接する光電変換部1の間で電子とホールとが混合されることがなく、光電変換部1の分離性が高くなる。また、本実施形態の構成では、再結合後に残留する電子を受光出力として取り出す際の電子の転送用として、集積電極12a,12bおよび保持電極13a,13bとともに制御電極24a,24b,25a,25bを用いることができる。他の構成および動作は他の実施形態と同様である。
図14に示す動作から明らかなように、1画素を構成する8個の電極のうち、集積電極12a、保持電極13a、制御電極24a、25aの4個の電極と、集積電極12b、保持電極13b、制御電極24b、25bの4個の電極とがそれぞれ組になっており、電子およびホールは組になっている電極の間で移動するから、組外に電子またはホールが漏れることがなく、他組の電子またはホールとの混合を防止することができる。なお、上述した電圧の制御例は一例であって、集積電圧と保持電圧との切換時に待避領域に電子とホールとを移送し、その後に待避領域から集積領域11bと保持領域11cとに電子とホールとを移送する動作であれば、上述の例以外の動作を採用してもよい。また、1組の集積電極12a,12bと保持電極13a,13bとに対して、2個ずつの制御電極24a,24b,25a,25bを設けた例で説明したが、1組の集積電極12a,12bと保持電極13a,13bとに対して、制御電極を1個ずつしか設けていない場合(つまり、実施形態3における転送用電極22,23を設けた構成と同様の構成)であっても、集積電圧と保持電圧との切換時に待避領域に電子とホールとを移送するように電圧を制御することが可能である。
なお、上述した各実施形態では、主機能層11をn形、サブストレート16をp形、基板10をn形として説明したが、上述した動作が可能な範囲において導電形は適宜に選択可能である。また、受光出力として電子を採用したが、ホールを採用することも可能である。あるいはまた、電子とホールとの両方を受光出力として採用することも可能である。たとえば、図1に示した構成において、実際には、再結合確率が1ではないから、集積電圧と保持電圧とを制御することにより電子とホールとを再結合させた後には、電子とホールとの一方だけが残留するのではなく、電子とホールとがともに残留している。たとえば、点灯期間Pbには集積領域11bに主として電子を集積し、消灯期間Pdには集積領域11bに主としてホールを集積するとすれば、点灯期間Pbの受光光量に対応する個数の電子と、消灯期間Pdの受光光量に対応する個数のホールとは、ともに再結合によって同数ずつ消滅すると考えられる。いま、点灯期間Pbに集積した電子の個数をNe、消灯期間Pdに集積したホールの個数Nhとし、1回の再結合により消滅する電子およびホールの個数をNdとすれば、1回の再結合後に残留する電子とホールとの個数はNe−Nd、Nh−Ndになる。したがって、電子とホールとのどちらを受光出力に用いても、再結合せずに取り出す場合よりは少なくなり、結果的に光検出素子6の飽和が抑制される。また、電子を集積する期間を図4または図5に示した受光光量A0またはA1に対応する期間、ホールを集積する期間を受光光量A2またはA3の期間とすれば、再結合後の電子の個数は受光光量A0またはA1に対応する個数NEからNdに比例する一定数NDを減じた個数になり、再結合後のホールは受光光量A2またはA3に対応する個数NHからNdに比例する一定数NDを減じた個数になる。つまり、再結合後に残留した電子とホールとをそれぞれ受光出力として取り出した後に減算すれば(NE−ND)−(NH−ND)であって、(NE−ND)−(NH−ND)=NE−NHであるから、A0−A2またはA1−A3を求めることができる。なお、この演算は電子とホールとの集積効率が等しいと仮定して行っているが、集積効率が異なる場合には演算時に適宜の補正が必要になる。また、電子とホールとは極性が異なるから、光検出素子6の出力において電子とホールとに対応する受光出力の極性を反転させるか、あるいはA0−A2またはA1−A3の演算を行う外部回路(たとえば、距離演算回路5)において光検出素子6から得た2つの受光出力を加算する。