本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分と、アルキッド樹脂と、生分解性脂肪族ポリエステル樹脂とを含む。本発明において、アルキッド樹脂とは、多価アルコールと多塩基酸とが縮合してなる樹脂を意味し、多価アルコールと多塩基酸との縮合物をさらに変性剤で変性した構造を有する樹脂も包含する。
アルキッド樹脂は本発明のゴム組成物に良好な粘着性と良好な耐加硫戻り性とを付与する。また、生分解性脂肪族ポリエステルは本発明のゴム組成物に良好な生分解性と良好な耐摩耗性とを付与する。
また、本発明においては該アルキッド樹脂と該生分解性脂肪族ポリエステルとを組合せてゴム組成物中に含有させることにより、アルキッド樹脂を単独で含有させる場合と比べて相乗的により顕著な耐加硫戻り性の向上効果を得ることができる。
すなわち本発明においては、アルキッド樹脂と生分解性脂肪族ポリエステルとを組合せて用いることにより、たとえばアルキッド樹脂を多量に配合したときに生じる耐摩耗性の低下やコストの過度な増大を生じさせることなく、環境への負荷および熱老化時の硬度変化が小さくかつ良好な粘着性を有するゴム組成物を得ることができる。
本発明はまた、上記のようなゴム組成物からなるタイヤ用ゴム組成物を提供する。上記のようなゴム組成物の特性により、本発明のタイヤ用ゴム組成物を空気入りタイヤのたとえばトレッドに用いた場合には、転がり抵抗を低減し、良好なウエットグリップ性能および耐摩耗性を得ることが可能である。また本発明のタイヤ用ゴム組成物を空気入りタイヤのたとえばサイドウォールに用いた場合には、良好な引裂強さおよび耐屈曲亀裂成長性を得ることが可能である。
<アルキッド樹脂>
本発明において用いられるアルキッド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との縮合物として得られる。本発明において、多価アルコールとは2価以上のアルコールを意味する。また多塩基酸とは、金属と置換したり、塩基を中和することが可能な水素原子の数、すなわち水素イオンになり得る水素原子の数が分子中で2以上である酸、言い換えれば塩基度が2以上である酸を意味する。なお本発明においては、塩基度が2以上である酸に対応する酸無水物(すなわち多塩基酸無水物)も便宜上多塩基酸と称する。
多価アルコールとしては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリトリット、ジペンタエリトリット、マンニット、ソルビットなどのポリアルコール等を例示でき、これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多価アルコールと多塩基酸との縮合反応に寄与する官能基の数が適切で、分子量が適度なアルキッド樹脂を得られるという理由から、三価アルコールがより好ましく、天然油脂を原料とすることによって環境に配慮できるという理由から、グリセリンが特に好ましい。
多塩基酸としては、たとえば、アゼライン酸、琥珀酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和二塩基酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和二塩基酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の、飽和二塩基酸または不飽和二塩基酸の無水物、シクロペンタジエン−無水マレイン酸付加物、テルペン−無水マレイン酸付加物、ロジン−無水マレイン酸付加物等のディールス−アルダー反応による二塩基酸、等を例示でき、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多塩基酸は、不飽和多塩基酸を含んでも良い。この場合、アルキッド樹脂中に不飽和多塩基酸に由来する構造部分を含有させることができ、物性を大きく低下させることなくより優れた粘着性付与能力を得ることができ得る。また、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応に寄与する官能基の数が適切で、分子量が適度なアルキッド樹脂を得るのに都合がよく、より安価に入手できるという理由から、二塩基酸およびその無水物がより好ましい。そして、不飽和二塩基酸およびその無水物を用いても良い。また、より安価に入手でき
るという理由から、フマル酸、油脂由来の二塩基酸、無水フタル酸および無水マレイン酸からなる群から選ばれる1種以上の酸がより好ましく、環境への負荷が小さくかつより強い粘着性が得られるという理由から、植物由来のフマル酸および/または油脂由来の二塩基酸を含むことがさらに好ましい。油脂由来の二塩基酸の原料油脂としては、パーム油、アマニ油等の不飽和結合が多いものが好ましい。
また、不飽和多塩基酸としては、水素イオンになり得る2以上の水素原子を少なくともトランスの位置に有しているものが好ましく、具体的には、上述のフマル酸等が好ましい。
フマル酸は、たとえばマレイン酸と比べて一層高い粘着性を有する点で特に好都合である。マレイン酸は、2つのカルボキシル基がシスの位置にあるために分子内で水素結合し易いのに対し、フマル酸は2つのカルボキシル基がトランスの位置にあるために分子間で水素結合し易い。これによりフマル酸においてはより高い粘着性が得られる。
本発明において用いられるアルキッド樹脂は、上記の縮合物が変性剤によってさらに変性されたものでも良い。変性剤としては、油脂および油脂脂肪酸、天然樹脂、合成樹脂等を用いることができる。
変性剤として油脂を用いる場合、アルキッド樹脂の粘着性、硬さ、軟化点、分子量等を所望に応じて容易に調整できる点で好ましい。
また変性剤として樹脂を用いる場合、同じくアルキッド樹脂の粘着性、硬さ、軟化点、分子量等を所望に応じて調整できる点で好ましい。
油脂としては、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、羊脂、牛脚脂等の動物油、パームオイル、パームカーネルオイル、大豆油、オリーブオイル、ナタネ油、ゴマ油、キリ油、ヒマシ油、アマニ油等の植物油、等を例示できる。環境への負荷が小さい点では、石油外資源由来、すなわち天然物由来の油脂が好ましい。
樹脂としては、ロジン、コハク、セラック等の天然樹脂、エステルガム、フェノール樹脂、炭素樹脂、メラミン樹脂等の合成樹脂、等を例示でき、これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。環境への負荷が小さい点で、石油外資源由来の天然樹脂が好ましい。
変性剤としては、安価に入手でき、ゴム組成物の硬度を過度に上昇させずに良好な粘着性を付与できる点で、動物油および/または植物油がより好ましく、安定した組成が得られる点で植物油が特に好ましい。植物油としては、粘着性付与効果およびコストの点でパームオイルおよび/またはパームカーネルオイルが好ましく、パームカーネルオイルがより好ましい。
本発明においては、アルキッド樹脂中の石油外資源由来成分、すなわち天然物由来成分の含有量が50〜100質量%の範囲内であることが好ましい。アルキッド樹脂中の天然物由来成分の含有量が50質量%以上である場合、バイオマス材料の比率を高め、環境への負荷をより小さくすることができる。天然物由来成分の該含有量は、70質量%以上、さらに80質量%以上、さらに90質量%以上であることがより好ましい。
アルキッド樹脂中の天然物由来成分の含有量は、100質量%であることが好ましいが、たとえばより高い耐熱老化性や耐摩耗性が要求される場合等においては、該含有量をたとえば30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下と
して石油資源由来の成分等を適宜組合せ、かかる効果を付与しても良い。
上記の天然物由来成分は、コストおよび性能のバランスの点で、動物由来成分および/または植物由来成分であることが好ましい。
植物由来成分としては、粘着性付与能力が高い点で、たとえば、上述したような、パームオイル、パームカーネルオイル等を例示できる。
アルキッド樹脂を合成する際には、全原料中の多価アルコールの質量割合を5〜40質量%の範囲内とすることが好ましい。多価アルコールの該質量割合が5質量%以上である場合、縮合反応を良好に進行させて所望の分子量のアルキッド樹脂を確実に合成でき、40質量%以下である場合、未反応の多価アルコールの残存やそれによる吸湿性の増大を良好に防止できる。多価アルコールの該質量割合は、10質量%以上、さらに12.5質量%以上であることがより好ましく、また、25質量%以下、さらに20質量%以下であることがより好ましい。
また、アルキッド樹脂を合成する際には、全原料中の多塩基酸の質量割合を10〜50質量%の範囲内とすることが好ましい。多塩基酸の該質量割合が10質量%以上である場合、縮合反応を良好に進行させて所望の分子量のアルキッド樹脂を確実に合成でき、50質量%以下である場合、アルキッド樹脂の粘着性の低下やゴム組成物の硬度の過度な上昇を良好に防止できる点で有利である。多塩基酸の該質量割合は、15質量%以上、さらに20質量%以上であることがより好ましく、また、30質量%以下、さらに25質量%以下であることがより好ましい。
アルキッド樹脂が変性剤によって変性されたものである場合、全原料中の変性剤の質量割合は、10〜85質量%の範囲内であることが好ましい。変性剤の該質量割合が10質量%以上である場合、ゴム組成物の硬度の過度な上昇を防止する効果が良好であり、85質量%以下である場合、縮合反応を良好に進行させて所望の分子量のアルキッド樹脂を確実に合成できる。変性剤の該質量割合は、30質量%以上、さらに40質量%以上であることがより好ましく、また、75質量%以下、さらに65質量%以下であることがより好ましい。
アルキッド樹脂中の油脂の含有量(質量%)は油長と呼ばれるが、該油長は45以上であることが好ましく、この場合、耐加硫戻り性および粘着性が特に良好である。該油長は、50以上であることがより好ましく、55以上であることがさらに好ましい。また、該油長は85以下であることが好ましく、この場合、多価アルコールおよび多塩基酸の質量比率を一定以上確保でき、縮合反応が良好に進行した適度な分子量を有するアルキッド樹脂を得ることができる。該油長は75以下であることがより好ましい。
アルキッド樹脂の数平均分子量は、250以上であることが好ましい。アルキッド樹脂の数平均分子量が250以上である場合、アルキッド樹脂がブリードしたり、加硫時にアルキッド樹脂が揮発することによるゴムの発泡が生じたりするおそれが少ない。アルキッド樹脂の数平均分子量は、500以上であることがより好ましい。また、アルキッド樹脂の数平均分子量は、5000以下であることが好ましい。アルキッド樹脂の数平均分子量が5000以下である場合、ゴム組成物の硬度の過度な上昇を防止できるため、ゴム組成物をたとえばトレッド用に用いた場合にグリップ性能がより良好になるとともに燃費も低減できる。アルキッド樹脂の数平均分子量は、3000以下、さらに1500以下であることがより好ましい。
アルキッド樹脂の酸価は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好
ましい。該酸価が5未満である場合、安価に入手したり、容易に合成することが難しくなる場合がある。また、酸価は60以下が好ましく、30以下がより好ましい。酸価が60以下である場合、架橋密度が低くなり過ぎないため、ゴム組成物を空気入りタイヤに用いた場合に、摩耗外観の悪化や走行中の硬度の低下を引き起こすおそれを少なくできる。なお本発明においてアルキッド樹脂の酸価とは、アルキッド樹脂をトルエン等の有機溶媒に溶解させて、水酸化カリウム(KOH)にて中和滴定する際の、アルキッド樹脂1gの中和滴定に必要なKOHの添加量(mg)を意味する。
アルキッド樹脂の水酸基価は、50以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましい。該水酸基価が50以上である場合、より良好な粘着性付与能力が発揮される。また、該水酸基価は、100以下であることが好ましく、90以下であることがより好ましい。水酸基価が100以下である場合、ゴム組成物のヒステリシスロスが大きくなり過ぎず、ゴム組成物を空気入りタイヤに用いた場合に転がり抵抗が悪化するおそれが少ない。なお本発明においてアルキッド樹脂の水酸基価とは、アルキッド樹脂をアセチル化させた後KOHにて中和する際、アルキッド樹脂1gから得られるアセチル化物に結合している酢酸を中和するのに必要なKOHの添加量(mg)を意味する。
アルキッド樹脂の軟化点は、−40℃以上であることが好ましく、−20℃以上であることがより好ましく、0℃以上であることがさらに好ましい。軟化点が−40℃以上である場合、特に良好な粘着性付与能力が発現される。また、軟化点は、30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。軟化点が30℃以下である場合、ゴム組成物を空気入りタイヤに用いた場合に、転がり抵抗が増大したり、硬度が過度に上昇してウエットグリップ性能が低下したりするおそれが少ない。
アルキッド樹脂の含有量は、ゴム成分の100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲内であることが好ましい。アルキッド樹脂の該含有量が0.5質量部以上である場合、粘着性付与効果が特に良好であり、10質量部以下である場合、耐摩耗性の低下およびコストの上昇を良好に防止できる。アルキッド樹脂の該含有量は、1.0質量部以上、さらに1.5質量部以上であることがより好ましく、また、7質量部以下、さらに5質量部以下であることがより好ましい。
<生分解性脂肪族ポリエステル>
本発明のゴム組成物は生分解性脂肪族ポリエステルを含む。本発明において、生分解性脂肪族ポリエステルとは、生体内または微生物の作用によって分解される脂肪族ポリエステルを意味する。本発明のゴム組成物に配合される生分解性脂肪族ポリエステルは、特に、微生物の作用によって最終的に二酸化炭素と水とに分解され得るものであることが好ましい。この場合、ゴム組成物を空気入りタイヤに用いた場合に使用後の空気入りタイヤをより容易に分解処理することが可能となる。
なお、アルキッド樹脂はポリエステルの一種であるため、アルキッド樹脂のうち生分解性を有しかつ脂肪族である樹脂は本発明の生分解性脂肪族ポリエステルにも包含されることとなる。
本発明において用いられる生分解性脂肪族ポリエステルは、下記の一般式(1)、
(一般式(1)中、A1は2価の脂肪族基を表し、nは2以上の整数を表す)
で表される構造を含むことが好ましい。一般式(1)で表される構造は、脂肪族ポリエステルのうちアルキッド樹脂以外の構造と言い換えることができる。
上記の一般式(1)で表される構造を含む生分解性脂肪族ポリエステルは、典型的には、上記の一般式(1)で表される構造を全体の50質量%以上となるように含む生分解性脂肪族ポリエステルであり、最も典型的には、上記の一般式(1)で表される構造のみで分子骨格が形成された生分解性脂肪族ポリエステルである。
上記の一般式(1)中、A1は2価の脂肪族基であり、より好ましくは、置換基を有しても良い2価の炭化水素基である。一般式(1)で表される構造の生分解性脂肪族ポリエステルは、生分解され易い点および良好な耐摩耗性と耐加硫戻り性とを有する点で好ましい。
また、生分解性脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)から選択される1種以上であることが好ましい。これらの脂肪族ポリエステルは、微生物による生分解性に特に優れるとともに、これらの脂肪族ポリエステルを用いたゴム組成物を空気入りタイヤの特にトレッド用に用いた場合、良好なグリップ性能の確保と低燃費化が可能である。
生分解性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、200〜800,000の範囲内であることが好ましい。該重量平均分子量が200以上である場合、物理的強度に優れるゴム組成物が得られ、800,000以下である場合、生分解性脂肪族ポリエステルをゴム組成物中に均一に分散させることができるため、耐摩耗性の低下が生じ難く、また微生物による生分解を比較的短期間で進行させることができる。生分解性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、さらに500〜200,000の範囲内、さらに1,000〜100,000の範囲内、さらに2,000〜50,000の範囲内、さらに5,000〜15,000の範囲内とされることが好ましい。
生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、−70℃以上であることが好ましく、この場合、ゴム組成物をトレッド用途に用いた場合にウエット性能が良好である。また該ガラス転移温度は−10℃以下であることが好ましく、この場合、ゴム組成物が過剰に硬くなったり低温下でもろくなったりすることを防止できる。該ガラス転移温度は、−15℃以下、さらに−20℃以下であることがより好ましい。該ガラス転移温度が−70℃〜−10℃の範囲内である場合、たとえばエポキシ化天然ゴムやスチレンブタジエンゴム等の一般的なガラス転移温度である−55℃〜−10℃とガラス転移温度が近接することにより、上記の生分解性脂肪族ポリエステルとゴム成分との相容性が良好である点でも好ましい。
なお、アルキッド樹脂および生分解性脂肪族ポリエステルの評価は、分子構造およびゴム組成物中の含有量については核磁気共鳴装置(NMR)や赤外線吸収スペクトル等を、数平均分子量および重量平均分子量についてはゲル浸透クロマトグラフ(GPC)等を、
ガラス転移温度については示差走査熱量分析装置等を、それぞれ用いて実施可能である。
生分解性脂肪族ポリエステルの好ましい例としては、微生物産生系では、ポリヒドロキシブチレートとして、三菱ガス化学社製の「ビオグリーン」等が挙げられる。また、化学合成系では、ポリ乳酸として、カーギル−ダウ社製の「NatureWorks」、三井化学社製の「レイシア」、カネボウ合繊社製の「ラクトロン」、大日本インキ化学工業社製の「プラメート」等、ポリカプロラクトンとして、ダウ社製の「TONE」、ダイセル化学工業社製の「セルグリーンPH」等、ポリ(カプロラクトン/ブチレンサクシネート)として、ダイセル化学工業社製の「セルグリーンCBS」等、ポリブチレンサクシネートとして、昭和高分子社製の「ビオノーレ」等、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)として、昭和高分子社製の「ビオノーレ」、Ireケミカル社製の「Enpol」等、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)として、三菱ガス化学社製の「ユーペック」等、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)として、デュポン社製の「Biomax」等、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)として、BASF社製の「Ecoflex」、Ireケミカル社製の「Enpol」等、ポリ(テトラメチレンアジペート/テレフタレート)として、イーストマンケミカル社製の「Eastarbio」等、ポリエチレンサクシネートとして、日本触媒社製の「ルナーレSE」等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の組合せでも用いられ得る。
本発明において用いられる生分解性脂肪族ポリエステルがPHAを含む場合、該PHAは、下記の一般式(2)、
(式中、Rは、二重結合を1つ以上含む炭素数2〜22の炭化水素基である)で表される構造単位を含むことが好ましい。
上記一般式(2)中のRで表される炭化水素基が二重結合を1つ以上含むことにより、PHAが柔軟性を有し、ゴム成分との相容性が高くなるため、より耐摩耗性に優れたゴム組成物が得られる。
上記一般式(2)中のRで表される炭化水素基の炭素数が2以上である場合、PHAが炭化水素基を有することにより燃費の低減効果が得られ、22以下である場合、未加硫ゴム組成物の製造時の粘度上昇が抑えられ、加工性が良好であるという効果が得られる。炭素数は、さらに3以上とされることが特に好ましく、20以下、さらに18以下とされることが特に好ましい。
PHAは、上記一般式(2)で表される構造単位のうち1種のみを含んでも良いが、上記Rで表される炭化水素基が異なる2種以上の構造単位を含んでいても良い。Rで表される炭化水素基のうち好ましいものとしては、二重結合を1つ含む炭化水素基として、CH3(CH2)5CH=CHCH2−、CH3(CH2)5CH=CH(CH2)3−、CH3CH2CH=CHCH2−、CH3(CH2)3CH=CHCH2−、CH3(CH2)4CH=CH−、CH3(CH2)4CH=CH(CH2)2−、CH3(CH2)7CH=CHCH2−、CH3(CH2)7CH=CH(CH2)3−、CH3(CH2)9CH=CHCH2−等、二重結合を
2以上含む炭化水素基として、CH3(CH2)4CH=CHCH2CH=CHCH2−、CH3(CH2)4CH=CHCH2CH=CH(CH2)3−、CH3CH2CH=CHCH2CH=CH−等、が例示でき、これらの炭化水素基のうち1種または2種以上が含有されることが好ましい。中でも、PHAが、上記一般式(2)中Rで表される炭化水素基として、CH3(CH2)5CH=CHCH2−、および、CH3(CH2)5CH=CH(CH2)3−を含む場合、PHAの柔軟性、PHAとゴム成分との相容性が良好となる点で特に好ましい。
PHAは、実質的に上記一般式(2)で表される1種または2種以上の構造単位のみからなることが好ましいが、該PHAは、上記一般式(2)のRで表される構造に代えて他の構造を有する構造単位を有していても良い。このような他の構造単位としては、たとえば、上記一般式(2)のRに相当する構造が二重結合を有しない炭化水素基であるものが挙げられる。この場合、上記一般式(2)を満たす1種または2種以上の構造単位数がPHAを構成する全構造単位数の5%以上、さらに10%以上、さらに15%以上を占めていることが好ましい。この場合、ゴム成分とPHAとの相容性が高く、耐摩耗性に優れたゴム組成物が得られる。さらに、PHAが、上記一般式(2)のRで表される構造のみが異なる他の構造単位を有する場合において、上記一般式(2)を満たす1種または2種以上の構造単位数がPHAを構成する全構造単位数の5%以上を占めるとともに、上記一般式(2)を満たす構造単位の炭素数が8〜18の範囲内、および/または、上記一般式(2)のRで表される構造のみが異なる他の構造単位の炭素数が4〜18の範囲内、となるよう調整されることが好ましい。ここで、該他の構造単位は、炭素数4〜18の範囲内のもののみからなることが好ましいが、PHA分子鎖全体の重量平均として上記の範囲内となるものであっても良い。
本発明において配合されるPHAの重量平均分子量は、500〜100,000の範囲内であることが好ましい。重量平均分子量が500以上である場合PHAがゴム表面にブルームする危険性が少ない。また100,000以下である場合PHAをゴム組成物中に均一に分散させることができ、耐摩耗性の低下が生じる危険性が少ない。耐摩耗性、転がり抵抗特性、ウエットグリップ性能のバランスの点で、重量平均分子量はさらに500〜70,000の範囲内であることが好ましく、600〜50,000の範囲内であることがさらに好ましく、700〜20,000の範囲内であることが最も好ましい。
PHAにおける構造単位の分子構造および含有量はガスクロマトグラフや核磁気共鳴装置(NMR)等を用いて評価可能であり、PHAの重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフ(GPC)等を用いて評価可能である。
PHAとしては、たとえばPHAを産生する微生物を用いることにより製造されたものを使用できる。PHAを産生する微生物としては、たとえばシュードモナス属に属する微生物が好ましく用いられ、具体的には、Pseudomonas oleovorans、Pseudomonas putida等が挙げられる。
PHAを産生する微生物を用いてPHAを製造する際の炭素源としては、不飽和脂肪酸およびその誘導体が好ましく用いられ、具体的には、炭素数12〜26の長鎖不飽和脂肪酸およびその誘導体、炭素数12〜26の長鎖不飽和脂肪酸から得られるトリグリセライドおよびその誘導体、植物油、動物油、魚油のうち炭素数12〜26の長鎖脂肪酸を含むものまたはこれらの誘導体等が挙げられる。中でも、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の長鎖脂肪酸およびこれらの脂肪酸から得られるトリグリセライド、パーム油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、菜種油、大豆油等の植物油、魚油、鯨油、豚脂、牛脂等の動物油が好ましく用いられる。
PHAの製造方法としては、一般的に用いられる微生物培養方法を採用でき、たとえば、窒素源の制限条件下で培養する方法が挙げられる。具体的には、任意の炭素源存在下で微生物を増殖させた後、PHAの合成原料となる前述の炭素源を与えて培養する方法等により目的のPHAを得ることができる。
得られたPHAは、一般的に用いられる方法により回収できる。具体的には、培養終了後、クロロホルム等のPHAが可溶な有機溶媒により抽出する方法、メタノール等のPHAが不溶の有機溶媒により沈殿回収する方法、アルカリ処理や酵素処理により抽出する方法、細胞粉砕装置等により細胞を粉砕した後PHAを抽出する方法、限外ろ過膜等により分離回収する方法、等が採用され得る。
本発明のゴム組成物において、生分解性脂肪族ポリエステルの含有量は、ゴム成分の100質量部に対して0.5〜80質量部の範囲内であることが好ましい。該含有量が0.5質量部以上である場合、ゴム組成物の生分解性および耐摩耗性を良好に確保でき、ゴム組成物を空気入りタイヤの特にトレッド用に用いた場合の燃費の低減効果および耐摩耗性に優れる。また該含有量が80質量部以下である場合、生分解性脂肪族ポリエステルの分散性が良好で、耐摩耗性の良好なゴム組成物が得られる。上記の生分解性脂肪族ポリエステルの該含有量は、3質量部以上、さらに5質量部以上であることがより好ましく、また、60質量部以下、さらに50質量部以下であることがより好ましい。
特に、ゴム成分の100質量部に対するPHAの含有量が0.5〜80質量部の範囲内であることが好ましい。PHAの該含有量が0.5質量部以上である場合、PHAを配合することによる転がり抵抗特性およびウエットグリップ性能の向上効果が良好であり、80質量部以下である場合、PHAの分散性が良好で耐摩耗性が良好である他、加工性も良好である。PHAの該含有量は、3〜60質量部の範囲内、さらに5〜50質量部の範囲内であることが特に好ましい。
最も典型的には、本発明のゴム組成物が、ゴム成分の100質量部に対して、アルキッド樹脂を0.5〜10質量部の範囲内、生分解性脂肪族ポリエステルを0.5〜80質量部の範囲内でそれぞれ含むことが好ましい。この場合、環境への負荷の低減効果と耐加硫戻り性の向上効果とが特に良好である。
<ゴム成分>
本発明において使用できるゴム成分としては、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等を例示でき、これらは単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。特に、本発明のゴム組成物を空気入りタイヤのトレッド用やサイドウォール用として用いる場合、耐摩耗性、耐疲労特性および耐屈曲亀裂成長性において優れるなどの効果が得られることから、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる1種以上のゴムが好ましく、さらに、環境への負荷をより小さくできる点で、天然ゴムおよび/または改質天然ゴムがより好ましい。
上記のスチレンブタジエンゴム(SBR)の結合スチレン量は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。結合スチレン量が10%以上である場合、本発明のゴム組成物をたとえばトレッド用として用いた場合のグリップ性能が特に良好である。また、結合スチレン量は、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。結合スチレン量が60%以下である場合、ゴム組成物をトレッド用として用いた場合の耐摩耗性が特に良好である。
ブタジエンゴム(BR)は、ブタジエンユニットの結合のうち90%以上がシス1,4−結合である高シスBRであることが好ましい。該高シスBRを配合することにより、特にトラック・バス用タイヤのトレッド用途や、一般の乗用車用も含めたサイドウォール用途において、耐屈曲亀裂成長性および耐老化性能を良好に改善することができる。
スチレンブタジエンゴム(SBR)および/またはブタジエンゴム(BR)を配合する場合、SBRおよび/またはBRの含有率は、ゴム成分中で50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。SBRおよび/またはBRの含有率が50質量%以下である場合、ゴム成分中の石油資源比率を低く抑え、環境への負荷をより小さくすることができる。また、ゴム組成物を空気入りタイヤのサイドウォール用に用いる場合には、通常SBRは使用しないため、BRの含有率を50質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましい。
本発明のゴム成分は、アルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む官能基含有天然ゴムおよび/または官能基含有ジエン系ゴムを含むことが好ましい。天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムがこれらの官能基を含む場合、ゴム成分と生分解性脂肪族ポリエステルとの相容性が向上するという効果が得られる。また、これらの官能基との相互作用や直接の化学反応がカーボンブラックやシリカ等のゴム用充填剤との間で生じ、それによって充填剤の分散性が向上し、ゴムの強度や転がり抵抗特性が向上する。
アルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基から選ばれる少なくとも1種の官能基は、官能基含有天然ゴム中または官能基含有ジエン系ゴム中に1×10-4〜80モル%の範囲内で含まれることが好ましい。官能基の含有量が1×10-4モル%以上であれば、ゴム成分と生分解性脂肪族ポリエステルとの相容性の向上効果が良好に得られ、80モル%以下であれば未加硫ゴム組成物の製造時の粘度上昇が抑えられ、加工性が良好となる。
天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムにアルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、シラノール基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含有させる方法としては、たとえば、炭化水素溶媒中で、有機リチウム開始剤を用いて重合されたスチレン−ブタジエン共重合体の重合末端に官能基を導入する方法や、天然ゴムあるいはジエン系ゴムをクロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法等の方法によりエポキシ化する方法等が挙げられる。
本発明のゴム組成物は、ゴム成分中の含有量が50〜100質量%の範囲内となるように天然ゴムおよび/または改質天然ゴムを含むことが好ましい。上記の含有量が50質量%以上である場合、石油資源比率を低減して環境への負荷をより小さくできるとともに、天然ゴムおよび改質天然ゴムとの相容性に優れるアルキッド樹脂を用いることによる粘着性付与効果を良好に発現できる。上記の含有量は、60質量%以上、さらに75質量%以上、さらに85質量%以上であることがより好ましい。なお、ゴム成分の100質量%を天然ゴムおよび/または改質天然ゴムが占めることが環境への負荷が小さい点で好ましいが、たとえば上記の含有量を85質量%以下、さらに75質量%以下、さらに60質量%以下とする場合、たとえば上記のスチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等の他のゴムを組合せることによって、より高い耐摩耗性や耐クラック性等の性能を確保できる可能性がある点で好都合である。
なお、改質されていない天然ゴムのゴム成分中の含有率は、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下がより好ましい。改質されていない天然ゴムの含有率が85質量%以下である場合、耐屈曲亀裂成長性および耐オゾン性に問題が生じるおそれが少ない。なお、ゴム組成物をトレッド用ゴム組成物として用いる場合、改質されていない天然ゴムのゴム成分中の含有率は80質量%以下とすることが好ましく、サイドウォール用ゴム組成物として用いる場合、該含有率は15〜85質量%の範囲内とすることが好ましい。
改質天然ゴムとしては、上述したエポキシ化天然ゴム(ENR)や、水素化天然ゴム等を例示できる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いても良い。特に、トレッド用途において良好なグリップ性能を得ることができる点、また、サイドウォール用途において天然ゴムと適度な大きさの海島構造をつくり、耐屈曲亀裂成長性を改善できるとともに他の改質天然ゴムに比べて比較的安価に入手できる点で、エポキシ化天然ゴム(ENR)が好ましい。エポキシ化天然ゴム(ENR)には、天然ゴムと比較して加硫戻り(すなわちリバージョン)をおこしやすいという問題があるが、本発明においては、ゴム組成物中にアルキッド樹脂および生分解性脂肪族ポリエステルを含有させるため、特に高温加硫を行なった場合の物性改善効果が良好に得られ、エポキシ化天然ゴムを用いても十分な耐加硫戻り性を有するゴム組成物を得ることができる。
また、ゴム成分がエポキシ化天然ゴムを含む場合、ゴム成分と生分解性脂肪族ポリエステルとの相容性が特に良好になる点でも好ましい。
エポキシ化天然ゴム(ENR)としては、市販のエポキシ化天然ゴム(ENR)を用いてもよいし、天然ゴムをエポキシ化して用いてもよい。天然ゴムをエポキシ化する方法としては、たとえば、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などの方法を例示できる。
過酸法としては、たとえば、天然ゴムに過酢酸や過ギ酸などの有機過酸を反応させる方法等を例示できる。
エポキシ化天然ゴム(ENR)のエポキシ化率、すなわちエポキシ化前の天然ゴム中の二重結合の全数のうちエポキシ化された数の割合は、3モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましく、15モル%以上が特に好ましい。エポキシ化率が3モル%以上である場合、改質効果が良好に得られる。エポキシ化率は、80モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましい。エポキシ化率が80モル%以下である場合、ゲル化を良好に防止できる。
なおエポキシ化率は、たとえば滴定分析や核磁気共鳴(NMR)分析等により求めることができる。
ゴム組成物を空気入りタイヤのトレッド用として用いる場合、ゴム成分中の改質天然ゴムの含有率は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。改質天然ゴムの該含有率が30質量%以上である場合、改質天然ゴムの配合によるグリップ性能の改善効果が良好である。一方、ゴム組成物をサイドウォール用として用いる場合、改質天然ゴムの該含有率は、15〜85質量%の範囲内であることが好ましい。サイドウォール用途では、改質天然ゴムの含有率を上記の範囲内に設定することで、天然ゴムなどの他のゴムと適度な分散サイズの海島構造を形成できるため、耐クラック性が特に良好になる。
<その他の成分>
本発明のゴム組成物は、ゴム成分、アルキッド樹脂、生分解性脂肪族ポリエステル、に加え、軟化剤、粘着付与剤、無機充填剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、硫黄その他の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、過酸化物、酸化亜鉛、ステアリン酸等、必要に応じた添加剤が適宜配合され得る。
軟化剤としては、芳香族系(アロマ系)オイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤、大豆油、パーム油、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸、などが挙げられる。軟化剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対してたとえば100質量部以下とされることが好ましく、この場合、該ゴム組成物がタイヤに使用された際のウエットグリップ性能を低下させる危険性が少ない。
価格が安いという観点では、アロマオイル、環境に配慮するという観点では大豆油、パーム油等の植物油が好ましい。特にゴムとして天然ゴム(NR)や改質天然ゴムを主成分とする場合には、アルキッド樹脂および植物油を併用することで、硬度を過度に上昇させることなく、粘着性の向上効果および転がり抵抗の低減効果をより良好に得ることができる。
軟化剤として用いる植物油のヨウ素価は、5〜150の範囲内であることが好ましく、40〜140の範囲内であることがより好ましい。該ヨウ素価が5以上であるものは安価に入手し易い。また、該ヨウ素価が150以下である場合、tanδおよび硬度の過度な上昇を防止し、ゴム組成物の熱老化による硬度変化を低減できる。
軟化剤として用いる植物油は、炭素数18以上の脂肪酸成分の含有率が、5〜100質量%の範囲内であるものが好ましい。該含有率は、20〜97質量%の範囲内がより好ましく、50〜95質量%の範囲内がさらに好ましい。該含有率が5質量%以上である場合、軟化剤の分子量の低下を防止し、ブリードを良好に防止できる。なお、該含有率は100質量%に近い方が好ましいが、該含有率が高いものは容易に入手しにくく、コストが上昇する傾向があるため、該含有率が97質量%以下、さらに95質量%以下のものを用いればコストを低減でき好ましい。
軟化剤として植物油を用いる場合、該植物油の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2〜30質量部の範囲内であることが好ましく、4〜15質量部の範囲内であることがより好ましい。植物油の該含有量が2質量部以上である場合、ゴムの硬度の過度な上昇を良好に防止できる。また、植物油の該含有量が30質量部以下である場合、ゴムの物理的強度が良好であるとともに、植物油の種類によって生じる場合があるブリードを良好に防止できる。
粘着付与剤としては、テルペン系重合体、フェノール系樹脂、石油系樹脂、ロジン系樹脂等から選択される1種または2種以上を例示できる。
安価である点では、フェノール系樹脂、石油系樹脂等が好ましいが、環境への負荷が小さい点では、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等が好ましい。
ゴム成分として天然ゴムや改質天然ゴムを使用する場合には、これらのゴムとの相容性が高い点でロジン系樹脂、テルペン系樹脂を併用することが好ましい。
本発明のゴム組成物は、さらに、無機充填剤を含むことが好ましい。具体的には、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイト、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸
化チタン、クレー、タルク、酸化マグネシウム等を例示できる。中でも、環境への負荷が小さい点で、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイト、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化チタン、クレー、タルク、酸化マグネシウムが好ましく、特に、アルキッド樹脂との併用でゴムの補強性が良好になる点で、シリカが好ましい。
無機充填剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、10〜150質量部の範囲内であることが好ましく、20〜100質量部の範囲内であることがより好ましい。無機充填剤の配合量が10質量部以上である場合、補強性が良好であり、無機充填剤の配合量が150質量部以下である場合、加工性が良好である。
無機充填剤としてシリカが配合される場合、ゴム成分の100質量部に対して、シリカを5〜150質量部の範囲内、およびシランカップリング剤を該シリカの含有量に対して1〜20質量%の範囲内となるようにそれぞれ含むことが好ましい。ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量が5質量部以上である場合、ゴム組成物を空気入りタイヤに用いたときの走行時におけるタイヤの発熱が低減されるとともに、良好なウエットグリップ性能と耐摩耗性とが得られる。また該含有量が150質量部以下である場合、未加硫ゴム組成物の製造時の粘度上昇が抑えられること等によりゴム組成物の製造時の加工性、作業性が良好となる。シリカの該含有量は、さらに10〜120質量部の範囲内、さらに15〜100質量部の範囲内とされることが好ましい。
シリカとしては、従来ゴム補強用として慣用されているものが使用でき、たとえば乾式法シリカ、湿式法シリカ、コロイダルシリカ等の中から適宜選択して用いることができる。また、窒素吸着比表面積(N2SA)が30〜300m2/gの範囲内、さらに120〜280m2/gの範囲内であるものを用いることが好ましい。シリカのN2SAが30m2/g以上である場合ゴム組成物に対する補強効果が大きい点で好ましく、300m2/g以下である場合ゴム組成物中での該シリカの分散性が良好で、該ゴム組成物の発熱性の増大を防止できる点で好ましい。
本発明のゴム組成物には、好ましくはシランカップリング剤がさらに配合される。シリカの含有量に対してシランカップリング剤の含有量が1質量%以上である場合、シランカップリング剤の配合によるカップリング効果が十分得られる。またシリカの含有量に対して20質量%より多くシランカップリング剤を配合してもコスト上昇の割にカップリング効果の上昇は少ない上、シランカップリング剤の含有量が過度に多い場合には、補強性、耐摩耗性がかえって低下する場合があるため、シリカの含有量に対するシランカップリング剤の含有量は20質量%以下とされることが好ましい。該含有量は、2〜15質量%の範囲内とされることが特に好ましい。
シランカップリング剤としては、従来からシリカ充填剤と併用される任意のシランカップリング剤を用いることができる。具体的には、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−メチルジエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−メチルジエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−メチルジエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−メチルジメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−メチルジメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリ
ルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−メチルジエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−メチルジエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(4−メチルジエトキシプロピル)ジスルフィド、ビス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−メチルジメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(4−メチルジメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
中でも、カップリング効果と製造コストとの両立の面で、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が特に好ましく用いられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
また、上述のシランカップリング剤以外のカップリング剤、たとえばアルミネート系カップリング剤、チタン系カップリング剤を併用することも可能である。
無機充填剤としてカーボンブラックが配合される場合、該カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対してたとえば100質量部以下、さらに2〜80質量部の範囲内とされることが好ましい。カーボンブラックの配合量が100質量部以下であればゴム組成物の調製時の分散性および作業性を悪化させる危険性が少ない。
カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積が、たとえば50〜1400m2/gの範囲内、さらに100〜200m2/gの範囲内に設定されたものが好ましく用いられる。窒素吸着比表面積が50m2/g以上であれば該ゴム組成物がタイヤに使用された場合に良好なウエットグリップ性能および耐摩耗性が得られ、1400m2/g以下であればゴム組成物を調製する際のカーボンブラックの分散性悪化によるゴム組成物の耐摩耗性の低下が防止される。
加硫剤としては、有機過酸化物もしくは硫黄系加硫剤を使用できる。有機過酸化物としては、たとえば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3あるいは1,3−ビス(t−ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン等を使用することができる。また、硫黄系加硫剤としては、たとえば、硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができる。これらの中では硫黄が好ましい。
加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、もしくは、キサンテート系加硫促進剤のうち少なくとも一つ
を含むものを使用することが可能である。
スルフェンアミド系としては、たとえばCBS(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系化合物などが挙げられる。
チアゾール系としては、たとえばMBT(2−メルカプトベンゾチアゾール)、MBTS(ジベンゾチアジルジスルフィド)、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、亜鉛塩、銅塩、シクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2−(2,6−ジエチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
チウラム系としては、たとえばTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが挙げられる。
チオウレア系としては、たとえばチアカルバミド、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジオルトトリルチオ尿素などのチオ尿素化合物などが挙げられる。
グアニジン系としては、たとえばジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、トリフェニルグアニジン、オルトトリルビグアニド、ジフェニルグアニジンフタレートなどのグアニジン系化合物が挙げられる。
ジチオカルバミン酸系としては、たとえばエチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ブチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛、ジプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛とピペリジンの錯塩、ヘキサデシル(またはオクタデシル)イソプロピルジチオカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。
アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系としては、たとえばアセトアルデヒド−アニリン反応物、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物、ヘキサメチレンテトラミン、アセトアルデヒド−アンモニア反応物などが挙げられる。
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩、ワックスなどを適宜選択して使用することが可能である。
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物には必要に応じて可塑剤を配合することができる。具体的には、DMP(フタル酸ジメチル)、DEP(フタル酸ジエチル)、DHP(フタル酸ジヘプチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、DLP(フタル酸ジラウリル)、DCHP(フタル酸ジシクロヘキシル)、無水ヒドロフタル酸エステル、DOZ(アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DBS(セバシン酸ジブチル)、等が挙げられる。
本発明のゴム組成物には、スコーチを防止または遅延させるためスコーチ防止剤として、たとえば無水フタル酸、サリチル酸、安息香酸などの有機酸、N−ニトロソジフェニルアミンなどのニトロソ化合物、N−シクロヘキシルチオフタルイミド等を使用することができる。
本発明のゴム組成物は、さらに、ステアリン酸、酸化亜鉛等の、通常ゴム工業にて使用される配合剤を適宜配合することができる。
環境への負荷の低減という点で、本発明のゴム組成物はバイオマス材料を50質量%以上含むことが好ましい。ゴム組成物中のバイオマス材料の含有率は、70質量%以上、さらに80質量%以上、さらに90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが最も好ましい。なお本発明において、バイオマス材料とは、2002年12月に閣議決定されたバイオマス・ニッポン総合戦略の策定により「再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されるバイオマスからなる材料を意味する。
本発明はまた、上述したようなゴム組成物からなるタイヤ用ゴム組成物を提供する。本発明のゴム組成物は良好な粘着性と耐加硫戻り性とを有するため、タイヤ用ゴム組成物として適しており、特に、成形時に粘着性が必要とされ、加硫時に金型に接するためにリバージョンの抑制も重要である用途に適している。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤの特にトレッドおよび/またはサイドウォールに対して好適に適用される。トレッドおよびサイドウォールは体積および質量が大きいことから、本発明のゴム組成物を用いることによる効果を顕著に得られる。
本発明の空気入りタイヤは、本発明のゴム組成物をタイヤ用ゴム組成物として用い、通常の方法で製造される。すなわち、必要に応じて各種の配合剤を配合した本発明のゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッドまたはサイドウォールの形状に成形し、他のタイヤ部材と貼りあわせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより本発明の空気入りタイヤを得ることができる。
本発明のゴム組成物は、乗用車用、トラック・バス用、重機用等、種々の空気入りタイヤに対して好適に適用され得る。図1は、本発明に係る空気入りタイヤの右半分を示す断面図である。タイヤTは、ビード部1とサイドウォール部2とトレッド部3とを有している。さらに、ビード部1にはビードコア4が埋設される。また、一方のビード部1から他方のビード部にわたって設けられ、両端を折り返してビードコア4を係止するカーカス5と、該カーカス5のクラウン部外側の2枚以上のベルトプライよりなるベルト層6とが配置されている。カーカス5とその折返し部5aに囲まれる領域には、ビードコア4の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス7が配置される。本発明のゴム組成物は、空気入りタイヤの主としてトレッド部、サイドウォール部に対して好適に使用され得る他、カーカスプライ、ベルトプライ、ビードエーペックスに対しても使用され得る。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<アルキッド樹脂の合成>
下記の手順に従ってアルキッド樹脂を合成した。なお、多価アルコール、多塩基酸および変性剤の配合量は、表1の配合処方にしたがった。
パームカーネルオイル(以下、PKOとも記載する)を、アルカリ触媒である水酸化リ
チウムの存在下で攪拌しながら200〜260℃で処理し、その後、180℃になるまで冷却し、攪拌しながら無水フタル酸を添加し、さらに、グリセリンを添加して210〜220℃になるまで昇温して反応させ、反応によって生成した水等を減圧除去し、アルキッド樹脂1を合成した。
多塩基酸として、無水フタル酸を添加する際に同時にフマル酸も添加した以外はアルキッド樹脂1と同様に、アルキッド樹脂2、3および4を合成した。
変性剤として、PKOのかわりに魚油を添加した以外はアルキッド樹脂1と同様に、アルキッド樹脂5を合成した。
多塩基酸として、無水フタル酸を添加する際に同時に無水マレイン酸も添加した以外はアルキッド樹脂1と同様に、アルキッド樹脂6および7を合成した。
得られたアルキッド樹脂1〜7の各種特性を表1に示す。
<ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)の合成>
炭素源としてオレイン酸を用い、微生物によりPHAを合成させた。シュードモナス・プチダPGA1を、下記に示す初期培地を用いて、30℃で6時間培養した後、供給原液として下記に示すオレイン酸水溶液と硫酸マグネシウム水溶液とを順次加えながらさらに72時間培養した。培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、該菌体を蒸留水および
メタノールで洗浄した。その後、クロロホルムで抽出して目的のPHAを得た。得られたPHAの構造単位としてのモノマーユニットの組成比をガスクロマトグラフ(島津製作所製「GC−14A」)にて評価した。なお、使用カラムは、RESTEK社製「Rtx−200」、測定条件は、初期温度60℃、昇温速度8℃/分、最終温度300℃、30分、である。結果を表2に示す。
また、得られたPHAの分子構造を、核磁気共鳴装置(Varian社製「UNITY
INOVA−500」(500MHz))にて評価した。なお、溶媒は重クロロホルムを用い、1H-NMRの測定条件は、パルス幅2.9μsec、繰り返し時間1.95sec、積算回数64回とし、13C−NMRの測定条件は、パルス幅4.0μsec、繰り返し時間15sec、積算回数5000回、とし、NMRスペクトルから前述一般式で表されるPHAのモノマーユニットを帰属した。帰属されたモノマーユニットの炭素数と、前述一般式のRで表される構造は下記の通りである。
(C:6) CH3(CH2)2−
(C:8) CH3(CH2)4−
(C:10) CH3(CH2)6−
(C:12) CH3(CH2)8−、および、CH3(CH2)5CH=CHCH2−
(C:14) CH3(CH2)10−、および、CH3(CH2)5CH=CH(CH2)3−
さらに、得られたPHAの重量平均分子量(Mw)をゲル浸透クロマトグラフ(GPC)(東ソー社製「HLC−8020」)にて評価した。なお、使用したカラムは、東ソー社製「TSKgel GMHXL」、移動相はテトラヒドロフランである。得られたPHAの重量平均分子量は、Mw=13,000であった。
(初期培地)
トータル容量 :3L
(NH4)2HPO4:3.66g/L
オレイン酸 :15g/L
pH :6.8
pH調整は、2M NH4OH、および2M NaOHを用いて行なった。
(供給原液)
オレイン酸 :15g/L
MgSO4・H2O:5g/L
次に、後述の表3〜5で示される、実施例および比較例で用いたアルキッド樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート以外の薬品をまとめて説明する。
SBR:日本ゼオン(株)製のスチレンブタジエンゴム「ニッポールNS116」(溶液重合SBR、結合スチレン量:21%、ガラス転移温度:−25℃)
NR:天然ゴム「RSS#3」
エポキシ化天然ゴム:GUTHRIE POLYMER SDN.BHD社製のENR−25(エポキシ化率:25モル%、ガラス転移温度:−41℃)
シリカ:デグッサ社製のUltrasil VN3(BET比表面積:175m2/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi−69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
大豆油:日清製油(株)製の大豆白絞油(S)(ヨウ素価:131、炭素数18以上の脂肪酸成分:84.9%)
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
液状ポリ乳酸:荒川化学工業(株)製のラクトサイザーGP−4001(重量平均分子量:800、ガラス転移温度:−66℃)
石油系レジン:丸善石油化学(株)製のマルカレッツT100AS(脂肪族系炭化水素樹脂、軟化点:100℃)
テルペンレジン:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジン PX300N(数平均分子量:2500、重量平均分子量:4800、軟化点:30℃)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸「桐」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤BBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルファンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(ジフェニルグアニジン)
<実施例1〜10,比較例1〜17>
[未加硫ゴム組成物の調製]
(トレッド用未加硫ゴム組成物)
(株)神戸製鋼所製の1.7L密閉式バンバリーミキサーを用いて、表3〜4の工程1の配合処方に記載の薬品を、バンバリーミキサーの充填率が58%になるように配合し、回転数80rpmで、混練機の表示温度が140℃になるまで3〜8分間混練りし(工程1)、混練物1を得た。なお、実施例1および比較例1〜4では、シリカの配合量が多いため、まず、シリカ50質量部およびシランカップリング剤4質量部ならびに表3の工程1に記載のその他の薬品をその配合処方にしたがって配合し、4分間混練りし、排出した後、表3の工程1に記載の残りの薬品(シリカ50質量部およびシランカップリング剤4質量部)を配合し、混練物1を得た。
得られた混練物1に、硫黄ならびに加硫促進剤BBSおよび加硫促進剤DPGを表3〜4の工程2の配合処方にしたがい配合し、2軸オープンロールを用いて50℃で3分間混練りする(工程2)ことで、本発明のトレッド用未加硫ゴム組成物を調製した。
(サイドウォール用未加硫ゴム組成物)
表5の工程3の配合処方に記載の薬品を配合した以外はトレッド用未加硫ゴム組成物の工程1と同様に(工程3)、混練物2を得た。次に、上記バンバリーミキサー中の混練物2に、エポキシ化天然ゴム(ENR)を表5の工程4の配合処方にしたがい添加して3分間混練りし(工程4)、混練物3を得た。さらに、得られた混練物3に、硫黄および加硫促進剤BBSを表5の工程5の配合処方にしたがい配合した以外はトレッド用未加硫ゴム組成物の工程2と同様に(工程5)、サイドウォール用未加硫ゴム組成物を調製した。
得られたトレッド用およびサイドウォール用未加硫ゴム組成物を用いて、以下の粘着性試験およびリバージョン試験を行なった。
(粘着性試験)
(株)東洋精機製作所製のPICMA・タックテスタを用いて、上昇スピード30mm/min、測定時間2.5秒間の条件下で、温度23℃、湿度55%での未加硫ゴム組成物の粘着力[N]を測定した。さらに、基準配合の粘着性指数を100とし、下記計算式、
(粘着性指数)=(各配合の粘着力/基準配合の粘着力)×100
により粘着力を指数表示した。粘着性指数が大きいほど粘着力が大きく、優れていることを示す。なお、基準配合は、実施例1および比較例1〜4では比較例1、実施例2〜9および比較例5〜12では比較例5、実施例10および比較例13〜17では比較例13とした。
(リバージョン試験)
キュラストメーターを用い、170℃における未加硫ゴム組成物の加硫曲線を測定した。最大トルク(MH)値を100として、加硫開始時点から15分後のトルク値を相対値で示し、相対値を100から引いた値をリバージョン率とした。リバージョン率が小さいほど、リバージョンが抑制され、耐加硫戻り性が良好であることを示す。
粘着性試験およびリバージョン試験の評価結果を表3〜5に示す。
[加硫ゴム組成物の調製]
上記の方法で調製したトレッド用およびサイドウォール用の未加硫ゴム組成物を必要なサイズに成形し、150℃で30分間(低温加硫)または170℃で12分間(高温加硫)のプレス加硫を行なうことで、後述の転がり抵抗試験および引裂試験に使用する加硫ゴムスラブシートならびにランボーン摩耗試験、ウエットグリップ試験、硬度試験およびデマチャ屈曲亀裂成長試験のそれぞれの試験に必要なサイズの加硫ゴム試験片を作製した。
そして、トレッド用途の実施例1〜9および比較例1〜12において、加硫ゴムスラブシートは後述の転がり抵抗試験に、加硫ゴム試験片は後述のランボーン摩耗試験、ウエットグリップ試験および硬度試験の各試験に必要なサイズに成形して用いた。
一方、サイドウォール用途の実施例10および比較例13〜17において、加硫ゴムスラブシートは後述の転がり抵抗試験および引裂試験に、加硫ゴム試験片は後述の硬度試験およびデマチャ屈曲亀裂成長試験の各試験に必要なサイズに成形して用いた。
後述の各評価試験において、低温加硫した加硫ゴム組成物および高温加硫した加硫ゴム組成物の各特性を評価した。評価結果は、実施例1および比較例1〜4では比較例1を、また、実施例2〜9および比較例5〜12では比較例5を、実施例10および比較例13〜17では比較例13をそれぞれ基準配合とし、以下に述べるように、基準配合の低温加硫時の数値を基準として指数表示した。
(転がり抵抗試験)
加硫ゴム組成物として、2mm×130mm×130mmの加硫ゴムスラブシートを作製し、そこから測定用試験片を切り出し、粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件下で、各試験用ゴム組成物のtanδを測定し、基準配合の低温加硫時の転がり抵抗指数を100として、下記計算式、
(転がり抵抗指数)=(基準配合の低温加硫時のtanδ)÷(各配合の低温加硫時または高温加硫時のtanδ)×100
により、転がり抵抗特性をそれぞれ指数表示した。指数が大きいほど転がり抵抗が低く、性能に優れることを示す。
(ランボーン摩耗試験)
(株)岩本製作所製のランボーン摩耗試験機にて、負荷荷重2.5kg、スリップ率40%、温度20℃、測定時間2分間の条件下で、ランボーン摩耗試験用加硫ゴム試験片を摩耗させて、各配合のランボーン摩耗量を測定し、容積損失量を算出した。さらに、基準配合の低温加硫時のランボーン摩耗指数を100とし、下記計算式、
(ランボーン摩耗指数)=(基準配合の低温加硫時の容積損失量)÷(各配合の低温加硫時または高温加硫時の容積損失量)×100
により、耐摩耗性を指数表示した。ランボーン摩耗指数が大きいほど、耐摩耗性が優れることを示す。
(ウエットグリップ試験)
スタンレー社製のポータブルスキッドテスターにて、ASTM E303−83の方法にしたがって最大摩擦係数を測定した。さらに、基準配合の低温加硫時のウエットグリップ指数を100とし、下記計算式、
(ウエットグリップ指数)=(各配合の低温加硫時または高温加硫時の最大摩擦係数)÷(基準配合の低温加硫時の最大摩擦係数)×100
により、ウエットグリップ性能を指数表示した。ウエットグリップ指数が大きいほど、ウエットグリップ性能が優れることを示す。
(硬度試験)
JIS K6253「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に従い、タイプAデュロメーターにて硬度を測定した。さらに、基準配合の低温加硫時の硬度を100とし、下記計算式、
(硬度指数)=(各配合の低温加硫時または高温加硫時の硬度)÷(基準配合の低温加硫時の硬度)×100
により、硬度を指数表示した。硬度指数が大きいほど、ゴム硬度が大きいことを示す。
(熱老化時の硬度変化)
未老化の試験片、および、100℃で48時間オーブンに入れて熱老化させた試験片について、上記の硬度試験と同様の方法で硬度を測定し、下記計算式、
(熱老化時の硬度変化)=(熱老化後の硬度)−(未老化時の硬度)
により、熱老化時の硬度変化を算出した。
(引裂試験)
JIS K 6252「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−引裂強さの求め方」に準じて、切り込みなしのアングル型試験片を使うことにより、引裂強さ(N/mm)を測定した。さらに、基準配合の低温加硫時の引裂強さを100とし、下記計算式、
(引裂強さ指数)=(各配合の低温加硫時または高温加硫時の引裂強さ)÷(基準配合の低温加硫時の引裂強さ)×100
により、引裂強さを指数表示した。引裂強さ指数が大きいほど、引裂強さが向上し、サイドウォール用ゴム組成物として優れていることを示す。
(デマチャ屈曲亀裂成長試験)
JIS K6260「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムのデマチャ屈曲亀裂試験方法」に準じて、温度23℃、相対湿度55%の条件下で、加硫ゴム組成物のサンプルに関して、100万回試験後の亀裂長さ、あるいは成長が1mmになるまでの回数を測定し、得られた回数および亀裂長さをもとに、加硫ゴム組成物のサンプルに1mmの亀裂成長がおこるまでの屈曲回数を常用対数値で表現した。なお、70%および110%とは、もとの加硫ゴム組成物のサンプルの長さに対する伸び率を表し、該常用対数値が大きいほど、亀裂が成長しにくく、耐屈曲亀裂成長性が優れていることを示す。
試験結果を表3〜5に示す。
アルキッド樹脂および生分解性脂肪族ポリエステルをゴム組成物中に含有させた実施例1〜10(実施例9を除く)は比較例1〜17と比べてリバージョン率の顕著な低減が認められた。たとえば比較例3,4においては、比較例2と比べてリバージョン率の低減効果が見られ、これは、生分解性脂肪族ポリエステルとして配合されたポリヒドロキシアルカノエートの寄与によると考えられる。しかし、実施例1においては、ポリヒドロキシアルカノエートに加えてアルキッド樹脂をも配合したことにより、アルキッド樹脂もポリヒドロキシアルカノエートも配合していない比較例1および2、実施例1と同量のポリヒドロキシアルカノエートのみを配合した比較例3、実施例1におけるアルキッド樹脂とポリヒドロキシアルカノエートとの総量と同量のポリヒドロキシアルカノエートを配合した比較例4と比べて、リバージョン率が顕著に低減できた。また実施例1においては、比較例1〜4と比べて粘着性も顕著に向上した。
実施例1では、比較例1〜4との比較において、転がり抵抗指数、ランボーン摩耗指数、ウエットグリップ指数が良好で熱老化時の硬度変化が低減される傾向が見られた。上記の傾向は特に高温加硫のもので顕著であり、該傾向は本発明のゴム組成物が有する耐加硫戻り性の低減効果と粘着性の向上効果によるものと考えられる。
実施例2〜8においても、アルキッド樹脂もポリヒドロキシアルカノエートも配合していない比較例5,6,9〜12、ポリヒドロキシアルカノエートのみ配合した比較例7および8と比べてリバージョン率が顕著に低減されていた。また実施例2〜8は比較例5〜8と比べて良好な粘着性を示した。なお比較例9〜12では比較的高い粘着性を示したもののリバージョン率が高かった。実施例2〜8では、比較例5〜12と比べて、低温加硫時および高温加硫時において転がり抵抗、ランボーン摩耗係数、ウエットグリップ指数が良好で熱老化時の硬度変化が低減される傾向が見られた。上記の傾向は特に高温加硫のもので顕著であった。エポキシ化天然ゴムを比較的多く含む実施例2〜8においては、アルキッド樹脂および生分解性脂肪族ポリエステルを含有させることによる効果が特に顕著に現れていることが分かる。
上記の結果より、実施例1〜8のゴム組成物は空気入りタイヤのトレッド用途として好適であることが分かる。
実施例10では、比較例13〜17と比べて、粘着性の向上およびリバージョン率の低減が顕著であるとともに、低温加硫および高温加硫において転がり抵抗指数、引裂強さおよび耐屈曲亀裂成長性が良好で熱老化時の硬度変化が低減される傾向が見られた。天然ゴムを多く含む実施例10においては、アルキッド樹脂および生分解性脂肪族ポリエステルを含有させることによる効果が顕著に現れていることが分かる。
上記の結果より、実施例10のゴム組成物は空気入りタイヤのサイドウォール用途として好適であることが分かる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 ビード部、2 サイドウォール部、3 トレッド部、4 ビードコア、5 カーカス、5a 折返し部、6 ベルト層、7 ビードエーペックス、T タイヤ。