JP5120748B2 - 炭素成形材料の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、射出成形、射出圧縮成形あるいはトランスファ成形した成形体を焼成する炭素成形材料の製造方法に関し、特に、焼成時の収縮異方性が小さく、炭素材料の物性の異方性を低減化した炭素成形材料の製造方法に関する。
また、目標とする最終製品形状に近似した炭素成形材料を製造することができ、例えば異形、複雑形状の炭素成形材料を製造する際にも、後処理的に機械加工する部分を極力少なくでき、更に、焼成時に発生する膨れや割れなどの現象を抑制することのできる炭素成形材料の製造方法に関する。
炭素材料は、非酸化性雰囲気において優れた耐熱性や高温強度を有し、また導電性、熱伝導性および化学的安定性も高く、このような特異な性質から電気、電子、機械、冶金、化学などの幅広い分野で広く使用されている。この炭素材料は、従来からコークス粉末などの炭素質粉末を骨材として、ピッチやタールなどの結合材を配合して加熱混練したのち
混練物を粉砕して原料粉を作製し、原料粉を押出し成形や冷間静水圧プレスなどによって成形し、成形体を焼成し、更にピッチ含浸、再焼成を繰り返し、必要に応じ黒鉛化することにより製造されている。
この製造プロセスにおいて、特に焼成過程では主に結合材に由来する多量の揮発性ガスが発生し、発生したガスが成形体から円滑に揮散、排出されないと、膨れなどの変形や割れが生じ易い。そのため、焼成過程における昇温速度を極めて緩やかに加熱する必要があり、通常、焼成サイクルは1ヶ月以上もの長期間を要している。また、立体形状の最終製品を得るためにはブロック状の炭素材から所望の形状に機械加工するので、高価なものとなるなどの難点がある。
一方、黒鉛などの炭素粉末と比較的炭化率の高い熱硬化性樹脂を結合材として混合、混練した後、乾燥、粉砕して成形粉とし、この成形粉を所望形状に成形した成形体を焼成、炭化する方法がある。
そして、成形法として、比較的に複雑形状の成形体を作製することのできる射出成形、射出圧縮成形、トランスファ成形などの成形方法があり、特に、複雑形状の成形体を作製することができ、成形サイクル時間の短い射出成形法が有用されている。例えば、特許文献1には炭素微粉末と熱硬化性樹脂を混合する際に、高い機械的エネルギーを加えてメカノケミカル現象により炭素微粉末の粒子表面に樹脂が高度に結合したペースト状組成物を得、この組成物を注型成形または射出成形して、焼成する製造方法が開示されている。
しかし、成形時にペースト状組成物の流動性が重要であり、特に射出成形では流動性を高く保持する必要があるため熱硬化性樹脂量が多くならざるを得ない。例えば、上記特許文献1では、炭素粉末の平均粒径が100μm以下の微粉末であることもあって、結合材である熱硬化性樹脂量も多くなり、特に肉厚の厚い炭素製品では焼成時に膨れや割れが生じ易く、肉厚の厚い炭素製品を製造することは困難である。
そこで、特許文献2では炭素粉末100重量部にベンジリックエーテル型フェノール樹脂10〜50重量部を添加混練し、この混練物を射出成形または押出成形して成形体をつくり、これを非酸化性雰囲気下、600℃以上の温度で熱処理する炭素成形体の製造法が提案されている。
特許文献2は樹脂の添加量が少なくても流動性のよい混練物が得られるベンジリックエーテル型フェノール樹脂を使用するもので、射出成形により複雑形状の成形体を効率よく作製できるとするものであるが、ベンジリックエーテル型フェノール樹脂は離形性が悪いので離形剤を添加する必要があり、更に、焼成炭化時に発生する揮発性ガスがフェノール樹脂などと比べて多い難点もあり、肉厚成形体を製造することが困難となる。
特許文献3にはメソカーボン粉末と有機バインダーとの均一混合物を加熱し、射出成形するメソカーボン粉末成形体の製造方法が開示されている。しかし、使用するメソカーボン粉末の粒径が1〜80μmと小さく、成形時の流動性を改善するために可塑剤を配合するので、焼成過程で発生するガス量も多くなりカーボン焼結体の密度や強度が低くなる欠点がある。
また、特許文献4にはオルト位結合/パラ位結合存在比が3以上のノボラック系フェノール樹脂50〜95質量%と、炭素質材料50〜5質量%とを主成分とする樹脂組成物を射出成形した成形体を炭化焼成したアモルファスカーボン成形体が開示されているが、炭素質材料の粒径が100μm以下の微粉を用いるので、樹脂組成物の樹脂量比が高く、焼成時に発生するガス量が多くなる難点がある。
特開昭59−195515号公報 特開平01−115869号公報 特開平08−113668号公報 特開2004−131527号公報
そこで、発明者らは上記の問題を解決すべく射出成形材料である樹脂組成物について種々の面から検討を行い、炭素粉末とバインダーである熱硬化性樹脂とを混合した樹脂組成物を射出成形などした成形体は、その表層面に樹脂分がリッチな層が形成され、この樹脂リッチ層が焼成炭化時に緻密な炭素層となって、樹脂成分の分解炭化時に発生するガスの排出が阻害されることを見出した。
この傾向は、炭素粉末の平均粒子径が小さく、熱硬化性樹脂の混合量比が高く、また成形体の肉厚が厚い場合に顕著となり、熱硬化性樹脂から発生する揮発性の分解ガスの排出が円滑に進まず、焼成炭化時に膨れや割れが発生することとなる。更に、成形体の焼成時には炭素粉末と熱硬化性樹脂の結合力が低下するので、分解ガスの圧力に耐えきれず、膨れや割れの発生が助長されることになる。
また、射出成形、射出圧縮成形、トランスファ成形などでは成形材料が金型キャビティに入り込む際に、成形材料が広がりながら空気をまきこんで充填され、さらに後から充填されてくる成形材料によってまきこんだ空気を押しつぶすように充填されるので、成形体および焼成した炭素成形体には射出方向に物性の異方性が生じ易い。
例えば、焼成後の炭素成形体の物性には射出する成形粉の流れ方向(X方向)に強度が低く、電気抵抗が高く、逆に、流れ方向と直角方向(Y方向)の物性には強度が高い、電気抵抗が低いなどという物性の異方性が現れる。
また、射出成形体には大きな残留応力が残存するので、硬化処理、焼成処理する過程で残留応力が開放されてスプリングバックにより射出方向に大きく膨張し、硬化、焼成時に歪みが生じ、割損する場合もある。
そこで、発明者らはこれらの問題点を解決すべく、原料となる炭素粉末の粒度およびピッチ粉末の粒度やその軟化点などを中心として、射出成形材料について鋭意検討を加えた結果、特に、射出成形時の成形金型の温度とピッチ粉末の軟化点との関係が重要であることを知見した。
すなわち、本発明は、射出成形時などにおいて成形材料の流動に伴う成形体の異方性を低減し、また焼成時の収縮による歪みを抑制して焼成時の収縮異方性が小さく、炭素材料の物性の異方性を低減化した炭素成形材料の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、異形、複雑形状の炭素材料を製造する際にも、後処理的に機械加工する部分が極力少ない最終製品形状に近似した炭素材料の製造方法、更に、焼成時に発生する膨れや割れなどの現象を低減化することのできる炭素成形材料の製造方法を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するための請求項1による炭素成形材料の製造方法は、平均粒子径が100〜2000μmの炭素粉末100重量部に対し、平均粒子径が100μm以下で軟化点が射出成形時の金型温度より30〜250℃高く、射出成形時に軟化しないピッチ粉末を3〜30重量部の割合で混合し、混合粉に残炭率40%以上の熱硬化性樹脂および融点が40〜150℃の有機物質からなる成形助剤を有機溶剤に溶解した樹脂溶液に加えて、炭素粉末100重量部に対し熱硬化性樹脂の樹脂固形分が10〜40重量部、成形助剤が0.1〜5重量部の量比に混練した後、混練物を乾燥、粉砕して成形粉を作製し、成形粉を射出成形により成形し、得られた成形体を180〜280℃の温度で硬化処理し、次いで、非酸化性雰囲気下800℃以上の温度で焼成処理することを構成上の特徴とする。
請求項2による炭素成形材料の製造方法は、請求項1において、炭素粉末100重量部に対し、セルロース繊維、レーヨン繊維、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、コーンスターチ、クルミ粉から選ばれた焼成助剤を10重量部以下添加することを特徴とする。
本発明の炭素成形材料の製造方法は、原料として特定粒度の炭素粉末およびピッチ粉末を用いて、ピッチ粉末の軟化点を射出成形時の成形金型の温度との関係で特定範囲に設定し、この炭素粉末とピッチ粉末の重量比、更に、炭素粉末に対するバインダーとなる熱硬化性樹脂および成形助剤の重量比などを特定範囲に設定して混練し、混練物を乾燥、粉砕して作製した成形粉を射出成形により成形することにより成形体の異方性が小さく、また焼成時の収縮による歪みを抑制して焼成時の収縮異方性が小さい、すなわち、物性の異方性を低減化し、更に、目的とする最終製品形状に近似した炭素成形材料を製造することが可能となる。
そして、本発明によれば、例えば、帯電防止材、電磁波シールド材、摺動部材、放熱基盤、遠赤外線放射体、発熱体、電磁誘導などの発熱体などとして有用な炭素成形材料を効率よく製造することができる。
原料の炭素粉末には樹脂を炭化した炭素やコークスを仮焼した炭素の粉砕品など各種の炭素粉末が用いられるが、黒鉛化度の高い黒鉛粉末は射出時の流動性が高く、成形性が良好で、ノズル詰まりやショートショットが少ないので、成形性の観点から人造黒鉛粉末や天然黒鉛粉末が好適である。
炭素粉末は、適宜な粉砕機で粉砕して平均粒子径が100〜2000μmに粒度調整したものが用いられ、好ましくは平均粒子径が400〜2000μmの炭素粉末が使用される。炭素粉末の平均粒子径が100μmを下回ると混練物の流動性が低下して成形性が悪化し、また平均粒子径が2000μmを越えると炭素成形材料の強度の低下を招き、更に射出成形時に金型のゲート付近で詰りが発生し易くなる。
炭素粉末と混合するピッチ粉末には石油系ピッチ、石炭系ピッチ、合成ピッチなど何れも使用することができるが、平均粒子径が100μm以下で、軟化点が射出成形時の金型温度より30〜250℃高いピッチ粉末を使用することが必要である。
ピッチ粉末は、その粒度が炭素粉末の粒度より小さいことが必要であり、平均粒子径が100μm以下のピッチ粉末を使用し、好ましくは10〜70μmの粉末が用いられる。ピッチ粉末の平均粒子径が100μmより大きくなると炭素粉末の表面にピッチ粉末がうまくまとわりつかず、また射出成形時に空気の巻き込みを抑えることができずに得られた成形体の物性に異方性が生じ易い。更に、焼成中に焼き締まりの効果が十分に発揮されないので、収縮異方性が大きくなって割損する場合がある。
また、使用するピッチ粉末は、その軟化点が射出成形時の金型温度より30〜250℃高いものが使用される。金型温度より低い軟化点のピッチ粉末を使用する、あるいは使用するピッチ粉末の軟化点より高い温度で射出成形すると、軟化したピッチ成分が射出成形体の表面に緻密層を形成するので焼成処理時に発生するガスが円滑に排出されず、したがってガスにより成形体に膨れが発生し、更に、熱硬化性樹脂の硬化速度を遅らせるので成形体が軟らかく、離型時に変形し易くなる。
そのため、ピッチ粉末の軟化点が射出成形時の金型温度より30℃以上高いものを使用する。しかし、ピッチ粉末の軟化点が高くなるとピッチの炭素化温度と焼成処理時の熱硬化性樹脂の熱分解温度とが近くなり、この温度域においてはガスの発生量が多くなるので発生ガスを速やかに揮散させることが困難となり、焼成中に成形体に膨れや割損が生じ易くなる。そこで、ピッチ粉末は軟化点が250℃以下のものが選定、使用される。
なお、軟化点はJIS K2207「軟化点の試験方法(環球法)」に準拠して測定され、規定の環である内径15.9mm、深さ6.4mmのリングに試料を充填し、グリセリン浴中に水平に支えて、試料の中央に規定の0.5gの鋼球を乗せ、浴温を毎分5℃の速さで上昇させて、鋼球を包み込んだ試料が環台の底板に触れたときの温度を読み取り、軟化点とする。
上記の炭素粉末とピッチ粉末は、炭素粉末100重量部に対してピッチ粉末を3〜30重量部の割合で混合して原料となる混合粉を得る。ピッチ粉末の混合割合が3重量部未満では射出成形時に空気の巻き込みが抑えられず、成形体に異方性が生じ易くなり、また焼成中に焼き締まりの効果が十分に発揮されないので収縮異方性が大きくなって割れ易くなる。一方、ピッチ粉末の混合割合が30重量部より多くなると成形粉の流動性が低下し、ショート成形になり易くなる。
なお、炭素粉末とピッチ粉末は適宜な混合機、例えば万能混合攪拌機、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダーなどの混合機でよく混合して混合粉を作製する。
混合粉は、残炭率が40%以上の熱硬化性樹脂、および、融点が40〜150℃の有機物質からなる成形助剤を有機溶剤に溶解した樹脂溶液と混合する。なお、残炭率は、磁製ルツボにサンプルを入れ、135℃で1時間加熱、さらに250℃で5時間加熱後、磁製ルツボに蓋をして非酸化性雰囲気中でさらに1000℃で30分間加熱し、1000℃で30分間加熱後のサンプルの重量を、磁製ルツボに投入したサンプルの重量で除すことにより測定される。
残炭率(%)=(1000℃で30分間加熱後のサンプルの重量)/(磁製ルツボに投入したサンプルの重量)×100
混合粉のバインダーとなる熱硬化性樹脂は常用される残炭率が40%以上のフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが用いられ、成形性や価格面からフェノール樹脂あるいはエポキシ樹脂が好適である。
また、成形助剤は成形時の流動性、成形性および離形性を向上させるために機能するもので、融点が40〜150℃の有機物質が用いられる。融点が40℃より低いと、射出成形時に成形助剤のみが先にキャビティ表面に流れてしまうために射出成形体表面に成形助剤の薄膜が形成され、金型内で成形体を硬化させるときに発生するガスの排出が妨害されるので、成形体に膨れが発生する。また融点が150℃よりも高いと、成形粉を射出する際、成形助剤がノズル内で十分に溶融しないため成形粉の流動性が上がらず、ショートショットになり易くなる。
これらの熱硬化性樹脂および成形助剤はアルコール、エーテル、アセトンなどの適宜な有機溶剤に溶解して樹脂溶液を調製し、炭素粉末とピッチ粉末の混合粉に樹脂溶液を加えて、炭素粉末100重量部に対し、熱硬化性樹脂の樹脂固形分が10〜40重量部、成形助剤が0.1〜5重量部の量比になるように混合し、混練する。
混合割合が炭素粉末100重量部に対して、樹脂固形分が10重量部未満では成形粉を射出成形する際に流動性が低くなり、均質な成形体を得ることが難しい。一方、樹脂固形分が40重量部を越えると成形性は良いが、射出成形時に円滑にガス抜けができず、焼成時に膨れ、割れが発生し易くなる。
また、成形助剤の混合割合が炭素粉末100重量部に対して、0.1重量部未満では混合原料の流動性が低下してショートショットになり易く、離形性も悪化する。しかし、混合割合が5重量部を越えると焼成時に成形助剤から発生する分解成分が多いため発生ガス量が多くなり、焼成時に膨れや割れが生じ易くなる。
この成形助剤は熱硬化性樹脂の分解前の焼成過程で、揮散して消失することが必要であり、成形助剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸塩、オレイン酸、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、有機リン酸エステル、架橋ポリオレフィンなどの化合物、もしくは、これらの2種以上の混合物が好適に使用される。
更に、これらの原料系において焼成助剤を添加することが好ましく、焼成助剤は熱硬化性樹脂を焼成して樹脂成分が炭化される前に分解されて揮散し、樹脂成分の炭化に伴って発生するガスの流出路を形成してガスの揮散放出を容易にするために機能する。焼成助剤としては、セルロース繊維、レーヨン繊維、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、コーンスターチ、クルミ粉などが例示される。
なお、焼成助剤は炭素粉末100重量部に対して0〜10重量部の割合で添加する。焼成助剤は焼成時に膨れや割れが発生しない場合には添加不要であるが、添加量比が10重量部を越えると炭素材料の物性が不均一化し、強度も低下することとなる。
炭素粉末、ピッチ粉末、熱硬化性樹脂、成形助剤および必要により焼成助剤などを所定の重量比に混合、混練する。混練はニーダー、加圧型ニーダー、2軸スクリュー混練機など適宜な混練機で十分に混練した後、混練物は真空乾燥や風乾などにより乾燥して有機溶剤分や低温度で揮散する揮発性成分を除去した後、粉砕して成形粉を作製する。
なお、焼成助剤は予め炭素粉末、熱硬化性樹脂、成形助剤とミキサーなどにより混合することができるが、樹脂溶液を作製する際にカッターミキサーなどにより分散させると、均一な混合ができる。
成形粉は5mm以下の粒状に粉砕することが好ましく、成形法としては、生産性や金型構造などを考慮すると射出成形法が好ましい
このようにして得られた成形体には表層面に樹脂分のリッチな層が形成され易い。この樹脂リッチ層は焼成処理時に樹脂分が炭化して組織が緻密なカーボン層(ガラス状カーボン層)に転化する。このカーボン層は硬化処理および焼成処理、特に焼成処理時に樹脂成分の炭化に伴って発生する樹脂の分解ガス、および成形助剤や焼成助剤から揮散されるガスの透過を妨げ、炭素材料の膨れや割れの原因となる。そこで、これらのガスの揮散を円滑に行うために成形体の表層面の一部を除去して樹脂リッチ層を予め取り除いておくことが好ましい。
樹脂リッチ層の除去量は、成形体の作製条件、成形体の大きさ、硬化処理、焼成処理などの条件にもよるが、通常、表層面を10μm以上、好適には40〜50μm程度除去すればよく、また、樹脂リッチ層の除去はサンドペーパーやサンドブラストなどによる研磨や研削による方法、あるいはバーナーなどで表面樹脂層を焼き飛ばす方法でも行うことができる。
成形体の表層面に形成された樹脂リッチ層を除去した後、常法により180〜280℃の温度に加熱して樹脂成分を硬化処理し、次いで、不活性ガスや窒素ガスなどの非酸化性雰囲気下で800℃以上の温度に加熱して樹脂成分を焼成処理して炭化し、更に、用途目的によっては3000℃程度の温度にまで加熱処理して黒鉛化することにより炭素成形材料が製造される。
以下、実施例と比較例とを対比して、本発明を具体的に説明する。
実施例1〜6、比較例1〜12
炭素粉末として人造黒鉛を粉砕し、粒度調整して平均粒子径の異なる黒鉛粉末を使用した。また、ピッチ粉末としては軟化点の異なる合成ピッチを用い、粉砕し、粒度調整して平均粒子径の異なるピッチ粉末を調製し、黒鉛粉末100重量部に対し、ピッチ粉末を異なる重量部の割合で混合して混合粉を作製した。
熱硬化性樹脂には残炭率50%のフェノール樹脂(群栄化学工業 (株) 製、レヂトップPG−2411)を用い、成形助剤には融点が80℃のステアリン酸を用い、アセトンを有機溶剤に用いて、アセトンにフェノール樹脂およびステアリン酸を異なる濃度で溶解し、完全相溶させて樹脂溶液を調製した。なお、樹脂溶液を調製する際にフェノール樹脂の硬化剤であるヘキサミンを添加した。
この樹脂溶液を黒鉛粉末とピッチ粉末の混合粉に加えて、黒鉛粉末100重量部に対して、フェノール樹脂の樹脂固形分およびステアリン酸の重量部が異なる量比となるように混合し、2軸ニーダーで60分間混練した。混練物を室温で風乾し、アセトンや揮発性成分を除去した後粉砕して、粒径3mm以下の成形粉を作製した。なお、実施例6においては、焼成助剤としてセルロース製の微小極細繊維を添加した。
これらの成形粉を150t汎用型の射出成形機を用いて、150×150×5tmmの金型により平板1枚取りの射出成形を行った。射出成形条件はシリンダ温度90℃、金型温度150、170、200℃、射出圧力および速度は成形粉の原料組成に合わせて最適条件を選択した。なお、成形体の表層面を1000番の紙ヤスリで研削して、表層面に形成された樹脂リッチ層を30μm研削除去した。
次いで、250℃の温度で5時間加熱して硬化処理した後、一旦常温に戻し、窒素雰囲気中で1000℃の温度で5時間加熱して焼成処理して炭素成形材料を製造した。しかし、成形時に膨れや変形が生じ、またはショート成形した比較例2、5、7、11、12については、焼成を行わなかった。これらの製造条件および成形性を表1に示した。
Figure 0005120748
次に、これらの炭素成形材料について、下記の方法で嵩比重、曲げ強度、固有抵抗および熱伝導率などを測定した。なお、物性の異方性を評価するために1枚の面内から射出方向のテストピースと、射出方向に対して直角方向のテストピースとを切出して、射出方向(X方向)と射出方向と直角方向(Y方向)の物性を各測定した。しかし、焼成しなかった比較例2、5、7、11、12については物性の測定を行わず、また、焼成により膨れや割れが発生した比較例6、8、9、10については固有抵抗と熱伝導率の測定は不可能であった。その結果を表2に示した。
嵩比重 ;
アルキメデス法により、試料の乾燥重量および水中での重量を測定(室温25℃)して求めた。
曲げ強度(MPa);
JIS K7203により、試験片サイズ90×10×5t(mm)、支点間距離80mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で3点曲げ試験を行った。
固有抵抗 (Ω.m);
JIS R7202の電圧降下法により、試験片サイズ90×10×5t(mm)の長手方向に直流電流0.5Aを流して、端子間距離67mmの電圧降下を測定(室温25℃)して算出した。
熱伝導率(Wm−1−1);
レーザーフラッシュ法により測定した。測定装置は真空理工株式会社製TC−7000型を用い、試験片サイズ10φ×2t(mm)に所定エネルギーのレーザー光を当て、試験片の温度変化およびレーザー光と投射面の裏面の温度変化より、比熱容量および厚さ方向の熱拡散率を測定し、熱伝導率=比熱容量×熱拡散率×密度より算出した。
Figure 0005120748
実施例1〜6はいずれも成形性が良好で、また焼成処理しても膨れや割れが発生せず、
炭素成形材料の物性の異方性、特に曲げ強度の異方性が小さな炭素成形材料を製造できることが分かる。
比較例1はピッチ粉末を配合しなかったため、射出成形時に成形材料の広がりを抑制して抱き込みエアを少なくすることができず、得られた炭素成形材料には射出方向(X方向)と射出方向と直角方向(Y方向)の物性の異方性が大きくなった。また、ピッチ粉末が焼成炭化する際に炭素粉末同士を引き寄せて焼き締まる効果がないため、焼成中の収縮異方性を抑制できず、歪みによって割れてしまうものもあった。
比較例2では黒鉛粉末の平均粒子径が50μmと小さかったために成形材料の流動性が悪く、ショート成形となった。
比較例3では平均粒子径が2200μmと大きな黒鉛粉末を使用したので、成形材料の流動性は良く、成形体および焼成品の外観は良好であったが、強度が著しく低下した。
平均粒子径が200μmと大きなピッチ粉末を使用した比較例4では、成形材料の流動性は良く、成形性は良好であったが、ピッチ粉末が黒鉛粉末に十分にまとわりつかず、射出成形時にエアの抱き込みを抑えることができないため、炭素成形体の強度の異方性が大きくなり、また焼成中の焼き締まり効果が発揮されず、収縮異方性が大きくなって割れてしまうものもあった。
比較例5では、ピッチ粉末の軟化点が射出成形時の金型温度より低かったため、射出成形時に軟化したピッチ成分が表面緻密層を作り、射出成形中に発生したガスにより成形体が膨れてしまったほか、溶融したピッチによりフェノール樹脂の硬化が遅くなり、離型時に成形体が軟らかく、変形した。
軟化点が射出成形時の金型温度より著しく高いピッチ粉末を用いた比較例6では、成形性は良好であったが、フェノール樹脂の焼成温度とピッチ粉末の分解温度が近似してくるために、その温度域における分解ガス量が多くなり、円滑に揮散させることが困難となって、焼成中に膨れや割れが発生し、得られた炭素成形体も嵩比重が小さく、強度も低いものとなった。
ピッチ粉末の配合量が35重量部と多い比較例7では混合粉中の微粉が多くなり、成形材料の流動性が低下し、ショート成形となった。
フェノール樹脂が8重量部と少ない比較例8では成形材料の流動性が悪く、成形体にウエルドラインが生じ、そのため焼成した炭素成形材料はウエルドラインに沿って割れ易くなった。
比較例9では、フェノール樹脂量を45重量部と多くしたため流動性が向上し、成形性は良好であったが、射出成形体が緻密になり、焼成中の分解ガスの透過,揮散が十分でないので膨れが発生し、炭素成形材料の嵩比重が小さく、強度も低下した。
比較例10は、成形助剤を配合しなかったために成形材料の流動性が低下し、金型に成形材料が充填できずショート成形となった。そのため、焼成した炭素成形材料はウエルドラインに沿って折れ易く、強度が低かった。
比較例11では成形助剤を11重量部添加したため、成形材料の流動性は良好であったが成形体の表層に成形助剤が浮き出て膜を形成し、発生するガスをスムースに排出できず成形体が膨れた。
比較例12では、融点が30℃の成形助剤を1重量部添加して射出成形したが、射出成形時に成形助剤のみが先にキャビティ表面に流れてしまい、成形体表面に成形助剤の薄膜が形成され、硬化時に発生するガスの排出ができずに成形体に膨れが生じた。

Claims (2)

  1. 平均粒子径が100〜2000μmの炭素粉末100重量部に対し、平均粒子径が100μm以下で軟化点が射出成形時の金型温度より30〜250℃高く、射出成形時に軟化しないピッチ粉末を3〜30重量部の割合で混合し、混合粉に残炭率40%以上の熱硬化性樹脂および融点が40〜150℃の有機物質からなる成形助剤を有機溶剤に溶解した樹脂溶液加えて、炭素粉末100重量部に対し熱硬化性樹脂の樹脂固形分が10〜40重量部、成形助剤が0.1〜5重量部の量比に混練した後、混練物を乾燥、粉砕して成形粉を作製し、成形粉を射出成形により成形し、得られた成形体を180〜280℃の温度で硬化処理し、次いで、非酸化性雰囲気下800℃以上の温度で焼成処理することを特徴とする炭素成形材料の製造方法。
  2. 炭素粉末100重量部に対し、セルロース繊維、レーヨン繊維、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、コーンスターチ、クルミ粉から選ばれた焼成助剤を10重量部以下添加することを特徴とする請求項1記載の炭素成形材料の製造方法。
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