JP5117436B2 - プリント基板端子用銅合金すずめっき材 - Google Patents
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Description
基板端子をプリント基板のスルーホールに挿入する工程において、基板端子はスルーホールの中心に挿入されることが理想である(図1(a)参照)。しかし、実際上すべての基板端子がスルーホールの中心に挿入されるわけではなく、中には、基板端子がスルーホールの内周部に当り、やや変形して実装されるものもある(図1(b)参照)。基板端子が変形したまま半田実装されると、元の形に戻ろうとするため半田部内に内部応力が発生し、これが原因で半田部にクラックが発生するという実装トラブルが予測される。しかし、従来の黄銅(Cu−Zn系銅合金、C2600又はC2680)のSnめっき材を使用した基板端子の材料では塑性変形性が高いため上記トラブルは発生しにくかった。
(1) 平均結晶粒径が1.5〜6.0μmである銅又は銅合金の表面にCu相、Cu−Sn合金相及びSn相の各めっき相がこの順に形成されているSnめっき材であって、Cu相の平均厚みが0〜2.0μm、Cu−Sn合金相の平均厚みが0.1〜1.5μm、Sn相の平均厚みが0.1〜1.5μmであり、銅又は銅合金の結晶粒径DXと銅又は銅合金直上のめっき相の結晶粒径DYとの間に、(DX−DY)≧1(単位:μm)が成り立つことを特徴とする、プリント基板端子用に好適なへたり性をもつ銅合金すずめっき材。
(2) 銅又は銅合金直上のめっき相中のC及びS濃度が合計0.02〜0.2質量%であることを特徴とする、上記(1)記載の銅合金すずめっき材。
(3) 銅合金が、2〜22質量%のZnを含有し、更に必要に応じてNi、Cr、Co、Sn、Fe、Ag、及びMnの群から選ばれた1種以上を合計で2.0質量%以下含有し、残部が銅及び不可避的不純物から構成されることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の銅合金すずめっき材。
本発明の銅又は銅合金(以下「銅合金」と総称する)として、例えばC23000、C22000、C21000等が挙げられる。
本発明の銅合金がCu−Zn系合金である場合、Znは2〜22質量%の範囲が好ましい。Znの添加量を増やすと強度が増加する反面、導電率が低下する。添加量が2質量%未満であると強度が不充分となり、22質量%を超えると導電率が不充分となる。
強度、耐熱性等の特性を改善するために、更に必要に応じてNi、Cr、Co、Sn、Fe、Ag、及びMnの群から選ばれた1種以上を添加することができる。ただし、添加量が増えると導電率が低下するため、合計添加量を2.0質量%以下とする。
本発明の銅合金の平均結晶粒径は、圧延方向に対して平行断面で1.5〜6.0μmとする。最終焼鈍後の平均結晶粒径を1.5μm未満とするために低温、短時間の焼鈍を行うと、通常は未再結晶が残ってしまう。結晶粒径が1.5μm未満で且つ未再結晶が残らないような結晶粒を得るための最終焼鈍を実施するには充分な時間をかけ、且つ温度管理を必要とするため、工業的に採用しにくく実用化が困難である。一方、平均結晶粒径が6.0μmを超えると、充分な強度が得られない。
本発明の銅又は銅合金の表面から母材にかけて、Sn相、Cu−Sn合金相、Cu相の各相でめっき皮膜が構成される。Cu下地めっき、Snめっきの順に電気めっきを行い、リフロー処理を施すことにより、本発明のめっき皮膜構造が得られる。
リフロー後のSn相の平均厚みは0.1〜1.5μmとする。Sn相が0.1μm未満になるとめっき剥離の原因となり、1.5μmを超えると、挿入力が増大する。
リフロー後のCu−Sn合金相の平均厚みは0.1〜1.5μmとする。Cu−Sn合金相が0.1μm未満又は1.5μmを超えると、めっき剥離の原因となる。
リフロー後のCu相の平均厚みは0〜2.0μmとする。電気めっきで形成したCu下地めっきは、リフロー時にCu−Sn合金相形成に消費され、その厚みはゼロになっても良い。Cu相が2.0μmを超えるとめっき剥離の原因となる。
電気めっき時の各めっきの厚みを、Snめっきは0.4〜2.2μmの範囲、Cuめっきは0.1〜2.2μmの範囲で適宜調整し、その次に230〜600℃、3〜30秒間の範囲のなかの適当な条件でリフロー処理を行うことにより、上記めっき構造が得られる。
材料に外力が働くこと(本発明の場合、基板端子がスルーホールの内周部に当り、たわむこと)によって、材料内で転位が移動し、集積することで材料は変形する。一般的に、金属組織の結晶粒界の原子配列は、粒内と比較して不規則であるため、転位は結晶粒界に優先的に集積する。特に、粒界三重点のように、局所的に結晶粒界の面積が大きい場所に集積しやすい。
本発明は下記理論により制限されるものではないが、めっきの母材である銅合金の金属結晶とめっき相の金属結晶の結晶粒径が異なった場合、つまり、めっきの母材である銅合金の結晶粒径DXとその銅合金直上のめっき相の結晶粒径DYとの間に(DX−DY)≧1が成り立つとき、銅合金母材とその直上のめっき相との界面には粒界三重点のような粗大な結晶粒界が一面に形成される。その粗大な結晶粒界が形成された界面の面積は、銅合金やめっき相内に存在する粒界三重点より大きい。したがって、外力が加わったとき、界面の局所的な結晶粒界が粗大な部分に転位が集積し、プリント基板端子の素材として好適なへたり性が得られると考えられる。一方、(DX−DY)が1未満になると、界面には粗大な結晶粒界は形成されにくく、本発明の効果が得られない。
銅合金及び銅合金直上のめっき相の結晶粒径の制御方法を次に説明する。
本発明が適用できる銅合金は、溶解→鋳造→均質化焼鈍→熱間圧延→面削→冷間圧延→再結晶焼鈍→冷間圧延という工程を経て製造される。このとき、再結晶焼鈍の加熱温度又は加熱時間を調整することにより、銅合金の結晶粒径を制御できる。加熱温度が高いほど、加熱時間が長いほど、結晶粒径は粗大になる。反対に、加熱温度が低いほど、加熱時間が短いほど、結晶粒径は微細になる。
銅合金の結晶粒径は、好ましくは1.5〜6.0μmである。6.0μmを超えると所望の強度が得られない。一方、1.5μm未満の場合には曲げ加工性が劣る。
電気めっきで形成したCu下地めっきは、リフロー時にCu−Sn合金相形成に消費されるため、銅合金直上のめっき相はCu−Sn合金相もしくはCu相となる。いずれの場合にしても、電気めっき時のCu電着粒の大きさを制御することにより、Cu−Sn合金相及びCu相の結晶粒径を調整できる。
めっき相の結晶粒径は、好ましくは0.5〜2.0μmである。2.0μmを超えると所望の強度が得られない。一方、0.5μm未満の場合には曲げ加工性が劣る。
銅合金直上のめっき相の結晶粒径を微細にするためには、Cu電着粒を小さくすればよく、
(a)電流密度を大きくすること、
(b)めっき浴の温度を下げること、
(c)めっき浴の濃度を上げること、
(d)めっき浴液の攪拌速度を上げること、
(e)めっき浴液に適当な界面活性剤を加えること、
等が効果的である。
銅合金直上のめっき相中にC及びS不純物が含有されると、外力が加わったとき、転位がそれら不純物周辺に集積し、変形しやすくなる。
めっき母材である銅合金直上のめっき相に含まれるC及びS濃度の合計が0.02〜0.2質量%の範囲内であるとき、プリント基板端子の素材として好適なへたり性が得られる。0.02質量%未満であると、目的とする効果が得られず、0.2質量%を超えると、めっき剥離の原因となる。
リフローSnめっきは、銅母材のアルカリ電解脱脂→水洗→硫酸酸洗→水洗→下地めっき→水洗→Snめっき→水洗→リフロー処理の工程を経て、製造される。このとき、アルカリ電解脱脂及び酸洗による不純物除去条件を調整することにより、銅母材表面に付着した不純物由来のC及びSがめっき相中に混入され、銅合金直上のめっき相のC及びS濃度を制御できる。
(a)アルカリ電解脱脂の電流密度を下げること、
(b)脱脂剤の濃度を下げること、
(c)脱脂剤又は硫酸の濃度を下げること、
(d)アルカリ電解脱脂又は酸洗の時間を短くすること、
(e)アルカリ電解脱脂又は酸洗の温度を下げること、
等が効果的である。
(1)アルカリ水溶液中で試料をカソードとして次の条件で電解脱脂を行った。脱脂剤:ユケン工業(株)製商標「パクナP105」。電流密度、脱脂剤濃度、温度、時間については下記表2参照。
(2)硫酸水溶液を用いて下記表2の条件で酸洗を行った。
(3)下記表3の条件でCu下地めっきを行った。また、電着時間を調整することによりめっき厚みを変化させた。
(4)次の条件でSnめっきを行った。めっき浴組成:酸化第1錫41g/L、フェノールスルホン酸268g/L、界面活性剤5g/L。めっき浴温度:50℃。電流密度9A/dm2。また、電着時間を調整することによりめっき厚みを変化させた。
(5)リフロー処理として、温度を550℃の加熱炉中に試料を5秒間挿入した後水冷した。
(イ)めっき厚み
Sn相、Cu−Sn合金相、Cu相の各相の厚みを求めた。測定には主として電解式膜厚計(電測社製CT−1)を用い、断面からのSEM観察、表面からのGDS(グロー放電発光分光分析装置)分析等も必要に応じて用いた。
(ロ)へたり量
銅合金すずめっき材を厚み0.64mm×幅0.64mm×長さ30mmの端子状にプレス加工した。アイコーエンジニアリング社製MODEL−1605Nを使用して、端子の一端をバイスで固定してばね長20mmとし、固定されてない端にナイフエッジを、変位量が1.0mmとなるまで押し当て、5秒保持した後、荷重を除去した。その後、試験前の端子末端位置から試験後の位置との差を測定し、へたり量を求めた(図2参照)。本発明における「プリント基板端子の素材として好適なへたり性」とは、上記試験でへたり量が、0.1mm以上となることを意味する。
めっき母材である銅合金の結晶粒径は、サンプルの圧延平行直角断面を機械研磨により、鏡面に仕上げ、10wt%塩化第二鉄水溶液に30秒浸漬させることによりエッチングを行い、金属組織を光学顕微鏡(倍率400倍)により観察し、JIS H 0501に規定された切断法により結晶粒径を求めた。
銅合金直上のめっき相の結晶粒径は、Cu−Sn合金相の場合、リフロー後の銅合金Snめっき材のめっき表面を、電解式膜厚計を用いて、Sn相を溶解除去し、めっき表面にCu−Sn合金相を露出させ、金属組織をELIONIX社製凹凸SEM(ERA−8000)により観察し、JIS H 0501に規定された切断法により結晶粒径を求めた。Cu相の場合、リフロー後の銅合金Snめっき材のめっき表面を、電解式膜厚計を用いて、Sn相及びCu−Sn合金相を溶解除去し、めっき表面にCu相を露出させて、同様に金属組織を観察して結晶粒径を求めた。
リフロー後の試料をアセトン中で超音波脱脂した後、GDS(グロー放電発光分光分析装置)により、Sn、Cu、Ni、C、Sの深さ方向の濃度プロファイルを求めた。測定条件は次の通りである。
・装置:JOBIN YBON社製JY5000RF−PSS型
・Current Method Program:CNBinteel−12aa−0。
・Mode:設定電力=40W。
・気圧:775Pa。
・電流値:40mA(700V)。
・フラッシュ時間:20s。
・予備加熱時間:2s。
・測定時間:分析時間=30s、サンプリング時間=0.020s/point。
濃度プロファイルデータより、Sn表面のSn、Cu、Ni濃度、銅合金直上のめっき相のC及びS濃度を求めた。
幅10mmの短冊試験片を採取し、曲げ軸が圧延方向に対し平行となるように曲げ半径0.64mmの90°曲げを行った後、150℃の温度で、大気中1000時間まで加熱した。加熱後、加熱炉から取り出し、曲げ戻し、曲げ外周部にテープ(住友3M社製、メッキ用マスキングテープ、#851A)を貼り付けた後、引き剥がし、光学顕微鏡(倍率50倍)でめっき剥離の有無を観察した。評価において「○」はめっき剥離なし、「×」はめっき剥離ありを示す。
JIS Z2241に準拠して、圧延平行方向での引張試験を行って引張強さ(TS)及び0.2%耐力(YS)を求めた。
(ト)導電率
JIS H0505に準拠して、ダブルブリッジによる体積抵抗率測定により導電率(EC;%IACS)を求めた。
銅合金と銅合金直上のめっき相の結晶粒径の差及び銅合金直上のめっき相中のC、S濃度がへたり性に及ぼす影響を表4に示す。表4の実施例はすべて表1の銅合金aを使用した。
発明例1〜5及び比較例1〜3ではCuの厚みを0.3μm、Snの厚みを0.8μmとして電気めっきを行ったところ、リフロー後のSn相の厚みは約0.5μm、Cu−Sn合金相の厚みは約1.2μmとなり本発明の範囲内であった。Cu相は消失していたのでこれら実施例での銅合金上のめっき相はCu−Sn合金相である。
発明例1〜5では、(DX−DY)が1.0μm以上となり、へたり量は0.1mmを超え、プリント基板端子の素材として好適なへたり性を示した。さらに、発明例1及び2はC、S濃度の合計が0.02%以上となり、そのへたり量は発明例3及び4より大きかった。
発明例1及び比較例1では、Cuめっき条件を変化させている。比較例1の銅合金直上のめっき相であるCu−Sn合金相の結晶粒径DYが粗大であるため、(DX−DY)は1未満となり、へたり量は0.1mm未満となった。
発明例2と比較例2では、再結晶焼鈍時間を変化させている。比較例2は銅合金の結晶粒径DXが微細であるため、(DX−DY)は1未満となり、へたり量は0.1mm未満となった。
比較例3は、アルカリ電解脱脂及び硫酸酸洗が不十分であるため、CとSの合計濃度が0.2%を超え、めっき剥離が発生した。
めっき厚みがめっき剥離性に及ぼす影響を表5に示す。アルカリ電解脱脂および酸洗の条件は表2b、Cuめっき条件は表3bである。表5の実施例はすべて再結晶焼鈍時間30sで平均結晶粒径Dxが3.5μmの銅合金aを使用し、(DX−DY)が1以上の発明例1〜5と同程度であり、C、S濃度の合計が0.02〜0.2質量%であり、へたり量は0.1mmを超えるの発明例1〜5と同程度のものであった。
発明例6〜10は、リフロー後のSn厚みが0.1〜1.5μmの範囲内、リフロー後のCu−Sn合金相の厚みが0.1〜1.5μmの範囲内、リフロー後のCu相の厚みが0〜2.0μmの範囲内であった。めっき厚みが規定範囲内であったこれら合金はめっき剥離が発生しなかった。
比較例4はリフロー後のSn相の厚みが0.1μm未満であり、比較例5はリフロー後のCu−Sn合金相の厚みが1.5μmを超え、比較例6はリフロー後のCu相の厚みが2.0μmを超えた。めっき厚みが規定範囲外であったこれら合金はめっき剥離が発生した。
各成分濃度が強度と導電率に及ぼす影響を表6に示す。アルカリ電解脱脂および酸洗の条件は表2b、Cuめっき条件は表3bである。表6の実施例はすべて銅合金の平均結晶粒径が1.5〜6.0μmであり、Cu相、Cu−Sn合金相及びSn相のそれぞれの平均厚みは本発明の範囲内であり、(DX−DY)が1以上での発明例1〜5と同程度であり、C、S濃度の合計が0.02〜0.2質量%であり、へたり量は0.1mmを超えて発明例1〜5と同程度であった。
発明例11〜18は、Zn濃度が2〜22%の範囲内であり、Ni、Cr、Co、Sn、Fe、Ag、及びMnの群から選ばれた1種の濃度が2.0%以下であった。成分濃度が本発明の1態様で規定した範囲内であったこれら合金はTS及びYSが400MPa以上、ECが30%IACS以上であり、プリント基板用銅合金として充分な特性を示した。
比較例7はNi、Cr、Co、Sn、Fe、Ag、及びMnの群から選ばれた1種の濃度が2.0%を超え、比較例8はZn濃度が22%を超えた。これら合金はECが30%IACS未満であった。比較例9はZn濃度が2%未満であり、TS及びYSが400MPa未満であった。成分濃度が本発明の1態様で規定した範囲外であったこれら銅合金の特性はプリント基板用銅合金として不充分であった。
Claims (3)
- 平均結晶粒径が1.5〜6.0μmである銅又は銅合金の表面にCu相、Cu−Sn合金相及びSn相の各めっき相がこの順に形成されているSnめっき材であって、Cu相の平均厚みが0〜2.0μm、Cu−Sn合金相の平均厚みが0.1〜1.5μm、Sn相の平均厚みが0.1〜1.5μmであり、銅又は銅合金の結晶粒径DXと銅又は銅合金直上のめっき相の結晶粒径DYとの間に、(DX−DY)≧1(単位:μm)が成り立つことを特徴とする、プリント基板端子用に好適なへたり性をもつ銅合金すずめっき材。
- 銅又は銅合金直上のめっき相中のC及びS濃度が合計0.02〜0.2質量%であることを特徴とする、請求項1記載の銅合金すずめっき材。
- 銅合金が、2〜22質量%のZnを含有し、更に必要に応じてNi、Cr、Co、Sn、Fe、Ag、及びMnの群から選ばれた1種以上を合計で2.0質量%以下含有し、残部が銅及び不可避的不純物から構成されることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項記載の銅合金すずめっき材。
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