JP5117023B2 - 錠剤の製造方法及び打錠用杵 - Google Patents

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Description

本発明は、錠剤成分を、打錠用杵を用いて打錠する、錠剤の製造方法及び錠剤、並びに打錠用杵に関する。
従来、生理活性成分が用いられた錠剤は、生理活性成分又はこれを造粒したものに、結合剤、崩壊剤、崩壊助剤、賦形剤、滑沢剤、有機溶媒等を添加し、圧縮成形することによって製造されている。一般に用いられている錠剤の打錠機では、回転盤上の臼に、撹拌型の供給機によって錠剤原料が機械的に供給され、上杵と下杵の間で錠剤原料が圧縮成形されることで錠剤が得られる。この際、生薬や、融点の低い生理活性成分を錠剤原料に用いると、この原料が打錠用杵の先端部に付着し、打錠障害の一つである杵付着(スティッキング)が発生し、製造された錠剤の表面に傷やくすみ、凹凸等が生じる原因となることが知られている。
上述のようなスティッキングを防止するため、従来、滑沢剤の添加量を増量することによって杵先と組成物との滑りを良くする方法や、賦形剤の添加量を増量することによって組成物中の低融点生理活性成分が杵に付着し難くする方法、結合剤の添加量を増量することによって杵先と組成物との結合力よりも強固な結合力を組成物に与える方法、また、低融点生理活性成分を造粒する際に該低融点生理活性成分に付着しにくい成分と賦形剤を共に配合して造粒を行う方法等が用いられている。
しかしながら、上述のように滑沢剤の添加量を増量した場合には、組成物の結合力の低下による製錠不良が生じたり、本来は疎水性である滑沢剤が増量されることによって崩壊時間が遅延し、生理活性成分の吸収が遅れる等の問題があった。また、賦形剤の添加量を増量した場合には、錠剤の大きさが必要以上に大きくなり、使用者の服用容易性を低下させてしまう虞があった。また、結合剤の添加量を増量した場合には、生理活性成分の錠剤からの溶出が著しく遅延して生体内利用能が低下するため、速効性が重要となる薬剤においては大きな問題となる。
また、生理活性成分を賦形剤と共に造粒する方法では、賦形剤を多量に必要とするとともに、乾式造粒法を用いた場合には、上述と同様の付着現象が生じるため、低融点の生理活性成分が顆粒表面に残存する等の問題があった。また、湿式造粒法を用いた場合には、低融点の生理活性成分を乾燥させる際の処理上の制約や、有機溶媒を使用することによる作業環境の低下等の問題があった。
上述のような、スティッキングが生じた状況下で製錠された錠剤は、外観が好ましくないばかりか、錠剤のコーティングを行う際に被覆膜の均一性を損なう等、製品としての重大な欠点につながることから、スティッキングの抜本的な解決が望まれている。
上記問題点を解決するため、例えば、低融点の有効成分に対し、平均粒子径が1〜100μmの結晶性粉末を配合する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、イブプロフェン(低融点有効成分)を含む造粒物に対し、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等を含む打錠助剤を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
しかしながら、特許文献1及び2に記載の何れも改質剤を添加する方法であり、錠剤の増量につながったり、また、打錠粉体の混合性が低下する虞がある。
また、打錠における障害は成分間の融点降下により生じることから、融点降下を生じる複数の成分を各々群分けして配合するか、又は、これらの複数成分が融解しない温度で造粒した粒で配合する方法が提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、特許文献3に記載の方法では、打錠粉の製造プロセスが複雑になってしまうという問題がある。
また、打錠に用いる装置の面での対策として、滑沢剤を錠剤表面にのみ塗布する、所謂外部滑沢法を用いた装置が提案されている(例えば、特許文献4、5)。しかしながら、特許文献4及び5に記載の方法では、特殊な装置を必要とするため、汎用性に乏しいという問題がある。
特開平10−59842号公報 特開平9−143065号公報 特開2001−312650号公報 特開2001−104453号公報 特表2000−19983号公報
上述したように、一般に製造されている錠剤は、打錠機に設けられた杵と臼とを用いて打錠末を圧縮成型することにより打錠される。例えば、回転盤に付設された臼内に臼孔を形成し、臼孔の下方に配置した下杵の位置を調整して臼孔内の空間を所定容積に設定し、この臼孔内に粉末薬剤等の打錠末を収納して上杵で圧縮することで錠剤を形成し、その後、下杵で押し上げて前記錠剤を臼孔内から取り出すように構成されている。
上述のような打錠用の杵は、頻繁に繰り返される圧縮操作で容易に変形しないように高い機械的強度が要求され、従来、超鋼合金や合金工具鋼等が用いられており、さらに、腐食対策として杵表面にクロムメッキ等を施したものも用いられている。
合金工具鋼等を用いた従来の打錠用杵では、その金属材料が、表面に打錠末が付着するような性質を有しているため、特に、薬理作用物質や賦形剤(例えば、糖アルコール)等の付着性物質を含む打錠末を打錠する場合、打錠用杵への付着がより顕著になる。打錠用杵に打錠末が付着すると、該打錠末と杵表面との離型性が低下し、打錠された錠剤の表面が粗面になったり、錠剤の表面に明瞭な刻印を形成できなくなる虞がある。このため、薬理作用物質や賦形剤等の付着性物質を含有する成分を用いて錠剤を成型する場合に、上述のような問題が生じることの無い、好適な製造方法が望まれていた。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、低融点の生理活性成分を配合した錠剤を製造する際のスティッキングを防止することができる錠剤の製造方法及び錠剤、並びに打錠用杵を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、生薬や、融点が70〜150℃の低融点の生理活性成分を配合した錠剤を製造する際、炭窒化チタンコーティングした打錠用杵を用いて打錠することにより、長時間連続的に打錠を続けた場合でも、杵先端への組成物の付着(スティッキング)が防止され、安定した打錠を継続できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下に関する。
即ち、本発明の錠剤の製造方法は、錠剤成分を、上杵と下杵とを備える打錠用杵を用いて打錠する錠剤の製造方法において、前記錠剤成分は、70〜150℃の融点を有する生理活性成分の群から選ばれる1種又は2種以上を含有し、少なくとも前記上杵の先端部及び前記下杵の先端部は、炭窒化チタンでコーティングされていることを特徴とする。
また、本発明の錠剤の製造方法は、前記生理活性成分が、アスピリン、イブプロフェン、フェナセチン、フルフェナム酸、エテンザミド、サリチルアミド、サザピリン、アミノピリン、アンチピリン、イソプロピルアンチピリン、クロフェゾン、ケトフェニルブタゾン、フェニルブタゾン、アルクロフェナック、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンD4の群から選ばれる1種又は2種以上からなる構成とすることができる。
また、本発明の錠剤の製造方法は、前記錠剤成分が、生薬エキス末、生菌、又はそれらを含む粒子を含有する構成とすることができる。
発明の打錠用杵は、70〜150℃の融点を有する生理活性成分の群から選ばれる1種又は2種以上を含有する錠剤成分を打錠して錠剤とする打錠用杵であって、上杵と下杵とを備え、少なくとも前記上杵の先端部及び前記下杵の先端部は、炭窒化チタンでコーティングされていることを特徴とする。
本発明の錠剤の製造方法によれば、表面の少なくとも一部が炭窒化チタンでコーティングされた打錠用杵を用いて錠剤成分を打錠するので、低融点の生理活性成分を錠剤化する場合であっても、打錠機の打錠用杵に低融点生理活性成分が付着するのを防止できる。これにより、長時間に亘って打錠を行い、打錠用杵の温度が上昇した場合であっても、錠剤の品質を損なうこと無く、連続的に安定して錠剤の打錠を行うことができる。
従って、品質に優れた錠剤を高い製造効率で得ることができ、品質の向上及び製造コストの低減を簡便な構成で実現することができる。
以下、本発明に係る錠剤の製造方法及び錠剤、並びに打錠用杵の実施の形態について、図1を適宜参照しながら説明する。
本実施形態の錠剤の製造方法は、錠剤成分を、表面の少なくとも一部が炭窒化チタンでコーティングされた打錠用杵を用いて打錠する方法である。
[錠剤]
本実施形態の錠剤は、上述したように、錠剤成分(錠剤用組成物)が、表面の少なくとも一部が炭窒化チタンでコーティングされた打錠用杵によって打錠されてなる。
以下、本実施形態の錠剤について詳述する。
本実施形態の錠剤成分は、融点が150℃以下、好ましくは70〜150℃の低融点を有する生理活性成分を含有してなる。このような、低融点の生理活性成分としては、融点が上記範囲のものであれば特に限定されず、何れのものであってもよい。具体的には、以下の生理活性成分が代表例として挙げられるが、これらに限定されるものではなく、例えば、フェナセチン:134〜137℃(融点、以下同様)、フルフェナム酸:134℃、アスピリン:136℃、エテンザミド:131〜134℃、サリチルアミド:104℃、サザピリン:136〜145℃、アミノピリン:107〜109℃、アンチピリン:111〜113℃、イソプロピルアンチピリン:103〜105℃、クロフェゾン:94.5〜97.5℃、ケトフェニルブタゾン:126〜129℃、フェニルブタゾン:104〜107℃、アルクロフェナック:91〜94℃、イブプロフェン:75〜77℃、ビタミンA:62〜64℃、ビタミンD2:115〜118℃、ビタミンD3:84〜85℃、ビタミンD4:108℃、等が挙げられる。
また、グルクロノラクトン:170〜174℃、スクラルファート、ビタミン類(B1:248℃、B2:280℃、B6:160℃、A:62〜64℃、C:190〜192℃、D2:115〜118℃、D3:84〜85℃、D4:108℃、H:232℃)の他、常温下で液状を呈する薬物等も挙げられる。
また、メチルメチオニン・スルホニウム・クロリド:140℃、シメチジン:140〜145℃、塩酸ラニチジン:140℃、ファモチジン:164℃、塩酸ロキサチジンアセタート:147〜151℃、ソファルコン:142−146、リンゴ酸クレボプリド:160〜165℃、スピゾフロン:105−108℃、マレイン酸トリメブチン:131〜135℃、等のような胃腸薬関連成分が挙げられる。
また、臭化水素酸デキストロメトルファン:126℃、ノスカピン:174〜177℃、アセチルシステイン:107℃、グアイフェネシン:79〜83℃、ジプロフィリン:159〜163℃、塩酸エピネフリン:157〜160℃の他、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、等のような鎮咳去痰薬関連成分が挙げられる。
また、ジメンヒドリナート:102〜107℃、メシル酸ベタヒスチン:110〜114℃、等のような鎮暈剤関連成分や、ブロムワレニル尿素:151〜155℃、グルテチミド:83〜88℃、フルラゼパム:79〜83℃、等のような催眠・鎮静剤関連成分も挙げられる。
また、融点が150℃以下の生薬エキス末や乳酸菌等の生菌、又はそれらを含有する造粒粒子を使用することもでき、生薬エキスとしては、例えば、ロートエキス、シャクヤクエキス、アカメガシワエキス、等が挙げられる。
上述した低融点の生理活性成分は、その1種を単独で、又は2種以上を併用して使用することができるが、特に、アスピリン、エテンザミド、アルクロフェナック、及びイブプロフェンの群から選ばれる1種、又は2種以上の組み合わせにおいて効果が顕著である。
本実施形態の錠剤成分では、低融点の生理活性成分の配合量は、特に制限されるものではなく、製剤する錠剤の用途によって適宜調整することができるが、通常は、錠剤全体に対して1〜99重量%、好ましくは5〜90重量%、更に好ましくは10〜80重量%である。
また、低融点の生理活性成分の配合態様は特に制限されるものではなく、例えば、そのまま配合する方法か、又は、乾式法あるいは湿式法等の常法に従って造粒する方法、又は、脂肪酸、グリセリンあるいはこれらの誘導体、結晶性高分子(水溶性、水不溶性、腸溶性、胃溶性等)等の有機化合物、あるいは1〜3価の金属塩であるケイ酸塩、炭酸塩、酸化物、水酸化物等の無機化合物等で被覆するか、あるいは表面改質したものを使用する方法等を用いることができる。
また、この際の造粒物の径としては、平均粒子径が1000μm以下、特に850〜50μmに形成されたものを使用することが好ましい。造粒物の平均粒子径が1000μmを超えると、含有量が不均となったり、打錠成形に適さなくなる虞がある。
本実施形態の錠剤としては、所謂錠剤の形状を有する物ならどのようなものでもよく、薬物を含有する細粒や、ペレット等を包含する錠剤等であっても良い。
また、このような錠剤を製造する際、通常、上記生理活性成分(薬物)を、賦形剤、滑沢剤、崩壌剤等と混合して打錠末とし、これを杵と臼で圧縮することにより、錠剤として成形することができる。さらに、このようにして得られる錠剤を、常法に従い、表面コーティングを施して製品としてもよい。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、香料、フレーバー等の製剤添加剤を打錠末に配合し、錠剤を製造することもできる。
上述したような、本実施形態で用いられる賦形剤の好適な例としては、例えば、乳糖や白糖等の糖類、D−マンニトール、D−ソルビトール等の糖アルコール、デンプン(例えばトウモロコシデンプン、バレイショデンプン、小麦デンプン等)、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、デキストリン、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。
また、これら賦形剤の錠剤中における含有量は、10〜80質量%の範囲であることが好ましく、20〜60%の範囲であることがより好ましい。賦形剤の含有量がこの範囲であれば、製錠化が容易となる。
また、本実施形態で用いられる滑沢剤の好適な例としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。
また、これら滑沢剤の錠剤中における含有量は、0.01〜5質量%の範囲であることが好ましい。滑沢剤の含有量が0.01質量%未満だと、スティッキング抑制効果が充分でなくなる虞があり、また、5質量%を超えると、結合力低下による製錠不良や、疎水性が増大することによる崩壊遅延が起こり易くなる。
また、本実施形態で用いられる結合剤の好適な例としては、例えば、デンプン、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンな等が挙げられる。
また、これら結合剤の錠剤中における含有量は、0.5〜10質量%の範囲であることが好ましい。結合剤の含有量がこの範囲であれば、錠剤の崩壊性を損なうこと無く、打錠時の成形性を保つことができる。
また、本実施形態で用いられる崩壊剤の好適な例としては、例えば、デンプン、α化デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
また、これら崩壊剤の錠剤中における含有量は、0.5〜30質量%の範囲であることが好ましく、1〜20%の範囲であることがより好ましい。崩壊剤の含有量がこの範囲であれば、打錠時の成形性を損なうことなく、適正な崩壊性を有する錠剤が得られる。
また、錠剤の表面に用いられるコーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、ツイーン80、プルロニックF68,ヒマシ油、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシメチルセルロースアセテートサクシネート、オイドラキット(アクリル酸系共重合物:ローム社製;ドイツ)、カルボキシメチルエチルセルロース、ポルビニルアセタルジエチルアミノアセテート、ワックス類及びタルク、酸化チタン、ベンガラ等の色素等が挙げられる。
また、錠剤成分に添加される酸味料としては、例えば、クエン酸(無水クエン酸)、酒石酸、リンゴ酸などが挙げられる。また、人工甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチンニカリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。また、香料としては、合成物及び天然物の何れでも良く、例えば、レモン、ライム、オレンジ、メントール、ストロベリーなどが挙げられる。また、着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号等の食用色素、食用レーキ色素、ベンガラ、タルク、タール系色素等が挙げられる。
[打錠用杵]
本実施形態の打錠用杵は、表面の少なくとも一部が炭窒化チタンでコーティングされてなる。図1に例示する打錠機20に備えられた打錠用杵1は、上杵10及び下杵11の各表面10a、11a全体に炭窒化チタンによるコーティングが施された構成とされている。
打錠用杵の母材としては、例えば、超硬合金、合金工具鋼、燒結合金等、頻繁に繰り返される打錠末の圧縮操作において、変形しにくく機械的強度に優れる材料を用いることが好ましく、具体的には、SKD、SKH、オーステナイト系SUS等が挙げられ、この中でもSKDを用いることが最も好ましい。
本実施形態の打錠用杵では、上記母材の表面への炭窒化チタンのコーティング処理については、従来公知の方法、例えば、成分元素を分子状にガス化し、化学反応によって皮膜を形成するCVD法や、ガス状元素をプラズマで分解することによりイオン化して皮膜を作るPVDイオンプレーティング法等の方法で行うことができる。
また、上記母材の表面に施す炭窒化チタンによるコーティング処理は、炭窒化チタンによる単層のコーティングでも良いが、例えば、窒化チタンと炭化チタンとを多層化した複層コーティングとすることが、打錠用杵に低融点の生理活性成分が付着するのを確実に防止できる点でより好ましい。
本実施形態の打錠用杵は、母材表面へのコーティングの厚みを、1〜10μmの範囲とすることが好ましい。
コーティングの厚さを上記範囲とすることにより、打錠用杵の表面に低融点の生理活性成分が付着するのを確実に防止できる。
なお、本実施形態の打錠用杵は、母材の材質を炭窒化チタンとすることもでき、この場合には、打錠用杵に特にコーティング処理を施すこと無く、打錠に用いることができる。
また、図1に例示する打錠機20に備えられた打錠用杵1は、上杵10及び下杵11の各表面10a、11a全体に炭窒化チタンによるコーティングが施された構成とされているが、これには限定されない。例えば、打錠用杵1(上杵10、下杵11)の少なくとも先端部10b、11bにのみ、炭窒化チタンによるコーティングが施されていれば、上述したように、上杵10及び下杵11に低融点の生理活性成分が付着するのを確実に防止することができる。
本実施形態の打錠用杵を用いて打錠を行ない、錠剤を製造する打錠機については、特に限定されず、例えば、図1に示す例のような断面構造を有する回転式の打錠機等、公知の打錠機を用いることができる。
図1に例示する本実施形態の打錠用杵が備えられる打錠機20は、上杵10及び下杵11からなる打錠用杵1と、円盤状の回転盤3の周方向に所定間隔をおいて複数設けられる製錠臼2とが備えられており、該製錠臼2の上方には、上杵10が製錠臼2に対して上下動可能に上杵保持盤4に保持されており、また、製錠臼2の下方には、下杵11が下杵保持盤5に上下動可能に保持され、下杵11の杵先が製錠臼2内に該製錠臼2の下方から突入されている。
なお、詳細な図示を省略するが、回転盤3と上杵保持盤4及び下杵保持盤5は円盤状に形成されるとともに同軸に回転駆動され、この回転により上杵10と下杵11は、それぞれ図示略のガイドレールに案内され、所定位置で上下に駆動される。
また、上杵10と下杵11は、各表面10a、11a全体に炭窒化チタンがコーティングされている。
以下に、本実施形態の打錠用杵1を備えた打錠機20で、錠剤を製造する際の手順について説明する。
まず、図示略のガイドレールによって下杵11が所定高さに位置決めされ、製錠臼2内の空間が所定容積に設定されて、打錠末充填ゾーンにおいてこの製錠臼2内に打錠末30が充填される。
次いで、打錠末圧縮ゾーンにおいて上杵10が図示略のガイドレールに案内され、下方へ向けて移動して圧縮ローラに導かれ、打錠末30が圧縮されることによって打錠される。
次いで、上杵10が図示略のガイドレールに案内されて上方に持ち上げられ、錠剤取り出しゾーンにおいて下杵11が図示略のガイドレールによって上方に押し上げられ、製錠臼2から、上述のようにして圧縮成型された錠剤が取り出される。
本実施形態の錠剤の製造方法では、上述したような打錠用杵が備えられた打錠機を用い、従来公知の条件により、上述したような錠剤用組成物を打錠することができ、これにより、直径が3〜12mm程度、厚さ(中央部)が1〜10mm程度とされた錠剤を安定して得ることができる。そして、打錠機による打錠圧を0.1〜4t程度として連続的に打錠した場合でも、打錠用杵にスティッキングが生じるのを防止でき、安定して打錠を行なうことが可能となる。
なお、本実施形態の製造方法で得られる錠剤は、円形錠の他、各種変形錠とすることもでき、特に形状は限定されない。
以上、説明したように、本実施形態の錠剤の製造方法によれば、表面の少なくとも一部が炭窒化チタンでコーティングされた打錠用杵を用いて錠剤成分を打錠するので、低融点の生理活性成分を錠剤化する場合であっても、打錠機の打錠用杵に低融点生理活性成分が付着するのを防止できる。これにより、長時間に亘って打錠を行い、打錠用杵の温度が上昇した場合であっても、錠剤の品質を損なうこと無く、連続的に安定して錠剤の打錠を行うことができる。従って、品質に優れた錠剤を高い製造効率で得ることができ、品質の向上及び製造コストの低減を簡便な構成で実現することができる。
本実施形態の製造方法では、特に、長時間の打錠を行なった場合に、打錠用杵への低融点生理活性成分の付着を防止する大きな効果がある。
以下に、本発明の錠剤の製造方法及び錠剤、並びに打錠用杵を実証するための実施例について説明するが、本発明は本実施例によって限定されるものではない。
[打錠用杵]
本実施例では、打錠用杵として、母材がSKD−11(JIS G 4404:2006)からなるものを使用した。
また、打錠用杵の表面のコーティングは、炭窒化チタンコーティング、ハードクロムメッキ、窒化クロムコーティングの3種類とし、杵表面の全体にコーティングした。 打錠用杵の表面へのコーティングは、炭窒化チタンコーティング:CVD法、窒化クロムコーティング:PVD法の各方法で行い、また、コーティング層の厚さを2〜5μmとした。
[錠剤成分]
本実施例では、下記の組成1〜3に示すような錠剤組成を有する錠剤を製造した。
そして、上記3種類のコーティングが施された各打錠用杵を用い、各条件で製造された錠剤の評価を行なった。
<組成1>
低融点の生理活性物質としてイブプロフェンを用い、下記(1)に示す組成の錠剤を、下記(2)に示す方法で製造した。
(1)組成
a:イブプロフェン : 800重量部
b:コーンスターチ : 150重量部
c:ヒドロキシプロピルセルロース : 50重量部
d:無水カフェイン : 400重量部
e:結晶セルロース : 400重量部
f:マンニトール : 160重量部
g:ステアリン酸マグネシウム : 40重量部
(2)方法
流動層造粒機を用い、予めヒドロキシプロピルセルロース200gを水に溶解した溶液に、イブプロフェン2400g、コーンスターチ450gを投入して4000gとした溶液を、65℃の温度で噴霧することにより造粒した。これを乾燥させた後、目開きが850μmのふるいにかけて粒度を調整した。
次いで、得られた造粒物1000gに無水カフェイン400g、結晶セルロース400g、及びマンニトール160gを加え、V型混合機((株)特寿工作所製)を用いて15分間混合した。更に、ステアリン酸マグネシウム40gを添加して5分間混合し、錠剤用組成物を得た。
得られた組成物を、回転盤上に複数の打錠用杵が設けられた打錠機(LIBRA:(株)菊水製作所製)を使用し、直径が8mm、杵先半径が12mmの打錠用杵を用いて、打錠圧1.0tで打錠し、錠剤を製造した。
<組成2>
低融点の生理活性物質としてアスピリンを用い、下記(1)に示す組成の錠剤を、下記(2)に示す方法で製造した。
(1)組成
a:アスピリン : 500重量部
b:無水カフェイン : 120重量部
c:ヒドロキシプロピルスターチ : 80重量部
d:結晶セルロース : 150重量部
e:乳糖 : 200重量部
f:ステアリン酸マグネシウム : 30重量部
(2)方法
アスピリン17500g及びヒドロキシプロピルスターチ2800gを、V型混合機((株)特寿工作所製)を用いて5分間混合した後、乾式造粒機を用いて造粒し、これを整粒の後、平均粒子径が230μmの顆粒を得た。
次いで、得られた顆粒5800gに、無水カフェイン1200g、結晶セルロース1500g、及び乳糖2000gを加え、V型混合機を用いて15分間混合した。更に、ステアリン酸マグネシウム300gを添加して5分間混合し、錠剤用組成物を得た。
得られた組成物を、回転盤上に複数の打錠用杵が設けられた打錠機(LIBRA:(株)菊水製作所製)を使用し、直径が10mm、杵先半径が8mmの打錠用杵を用いて打錠圧1.5tで打錠し、錠剤を製造した。
<組成3>
低融点の生理活性物質としてアスピリンを用い、下記(1)に示す組成の錠剤を、下記(2)に示す方法で製造した。
(1)組 成
a:第1層・・・アスピリン : 80重量部
・・・コーンスターチ : 20重量部
b:第2層・・・炭酸マグネシウム : 120重量部
・・・トウモロコシデンプン : 30重量部
(2)方法
まず、第1層については、アスピリン16000g及びコーンスターチ4000gを、V型混合機((株)徳寿工作所製)を用いて5分間混合した後、乾式造粒機を用いて造粒し、これを整粒した後、平均粒子径が500μmの顆粒を得た。
また、第2層については、まず、トウモロコシデンプン1500gを、8重量%となるように水に加熱溶解した。次いで、このトウモロコシデンプン溶液に、炭酸マグネシウム12000g、及びトウモロコシデンプン1500gを投入し、撹拌造粒機を用いて加熱撹拌しながらトウモロコシデンプン水溶液を噴霧して造粒した。噴霧終了後、造粒品を、流動層造粒機を用いて乾燥し、これを整粒した後、平均粒子径が300μmの顆粒を得た。
上述のようにして得られた第1層、及び第2層の顆粒を、それぞれ、回転盤上に複数の打錠用杵が設けられた打錠機(LIBRA:(株)菊水製作所製)の直径10mmの臼に投入し、杵先半径8mmの打錠用杵を用いて打錠圧1.2tで打錠し、2層錠の錠剤を製造した。
[評価方法]
上記組成1〜3の成分からなる打錠末を、以下の各実施例及び比較例に示す条件で2時間の連続打錠を行い、30分、1時間、及び2時間の各時点における打錠用杵の表面(打錠部分)、及び製造された錠剤の表面を観察し、以下の基準で評価した。
<打錠用杵の表面の評価>
(1)○:打錠用杵に打錠末の付着(スティッキング)が見られなかった。
(2)△:打錠用杵の一部に打錠末の付着が認められた。
(3)×:打錠用杵の全てに打錠末の付着が認められた。
<錠剤の表面の評価>
(1)○:錠剤の表面にくすみや凹凸等が見られず、美麗であった。
(2)×:錠剤の表面にくすみや凹凸等による粗面箇所が認められた。
[実施例1、比較例1〜2]
上記組成1に示す組成及び方法で錠剤を製造した。この際、打錠用杵の表面のコーティングは、実施例1を炭窒化コーティング、比較例1をハードクロムメッキ、比較例2を窒化クロムコーティングとした。
[実施例2、比較例3〜4]
上記組成2に示す組成及び方法で錠剤を製造した。この際、打錠用杵の表面のコーティングは、実施例2を炭窒化コーティング、比較例3をハードクロムメッキ、比較例4を窒化クロムコーティングとした。
[実施例3、比較例5〜6]
上記組成3に示す組成及び方法で錠剤を製造した。この際、打錠用杵の表面のコーティングは、実施例3を炭窒化コーティング、比較例5をハードクロムメッキ、比較例6を窒化クロムコーティングとした。
上記実施例1〜3、及び比較例1〜6で製造した錠剤の評価結果を表1に示す。
Figure 0005117023
[評価結果]
表1に示すように、本発明に係る錠剤の製造方法を用いて錠剤を製造した実施例1〜3においては、打錠用杵の表面が炭窒化コーティングされているため、30分〜2時間の連続打錠を行なった場合でも、打錠用杵の表面の評価結果が全て○であり、打錠末(錠剤成分)の杵への付着が全く生じないことが確認できた。
また、実施例1〜3で得られた錠剤は、表面の評価結果が全て○であり、錠剤の表面にくすみや凹凸等が全く見られず、良好な表面であることが確認できた。
これに対し、打錠用杵の表面をハードクロムメッキとした比較例1、3、5は、30分間の連続打錠を行なった時点では、打錠用杵の表面への打錠末の付着は確認されなかったものの、2時間の連続打錠後、打錠用杵の一部に表面への打錠末の付着が確認され、打錠用杵の表面の評価結果が△となった。また、これに伴い、比較例1、3、5において、2時間の連続打錠後に得られた錠剤は、表面に粗面箇所が確認され、表面の評価結果が全て×となった。
また、打錠用杵の表面を窒化クロムコーティングとした比較例2は、30分間の連続打錠を行なった時点では、打錠用杵の表面への打錠末の付着は確認されなかったものの、2時間の連続打錠後、打錠用杵の一部に、表面への打錠末の付着が確認され、打錠用杵の表面の評価結果が△となった。また、同様に、打錠用杵の表面を窒化クロムコーティングとし、生理活性物質としてアスピリンが含有された打錠末を打錠した比較例4及び6は、30分間の連続打錠を行なった時点では、打錠用杵の表面への打錠末の付着は一部のみであったものの、2時間の連続打錠後、打錠用杵の全てに、表面への打錠末の付着が確認され、打錠用杵の表面の評価結果が×となった。また、これら打錠用杵への打錠末の付着に伴い、比較例2、4、6で得られた錠剤は、表面に粗面箇所が確認され、表面の評価結果が全て×となった。
以上の結果より、本発明に係る錠剤の製造方法が、低融点の生理活性成分を錠剤化する場合であっても、打錠機の打錠用杵に低融点生理活性成分が付着するのを防止できるので、長時間に亘る打錠を行って打錠用杵の温度が上昇しても、錠剤の品質を損なうこと無く、連続的に安定して錠剤の打錠を行うことが可能となることが明らかとなった。
本発明に係る錠剤の製造方法の一例を説明する概略図であり、打錠用杵が備えられた打錠機の断面を示す図である。
符号の説明
1…打錠用杵、2…製錠臼、3…回転盤、4…上杵保持盤、5…下杵保持盤、10…上杵(打錠用杵)、11…下杵(打錠用杵)、10a、11a…表面、30…打錠末(錠剤成分)

Claims (4)

  1. 錠剤成分を、上杵と下杵とを備える打錠用杵を用いて打錠する錠剤の製造方法において、
    前記錠剤成分は、70〜150℃の融点を有する生理活性成分の群から選ばれる1種又は2種以上を含有し、
    少なくとも前記上杵の先端部及び前記下杵の先端部は、炭窒化チタンでコーティングされていることを特徴とする錠剤の製造方法。
  2. 前記生理活性成分が、アスピリン、イブプロフェン、フェナセチン、フルフェナム酸、エテンザミド、サリチルアミド、サザピリン、アミノピリン、アンチピリン、イソプロピルアンチピリン、クロフェゾン、ケトフェニルブタゾン、フェニルブタゾン、アルクロフェナック、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンD4の群から選ばれる1種又は2種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の錠剤の製造方法。
  3. 前記錠剤成分は、生薬エキス末、生菌、又はそれらを含む粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の錠剤の製造方法。
  4. 70〜150℃の融点を有する生理活性成分の群から選ばれる1種又は2種以上を含有する錠剤成分を打錠して錠剤とする打錠用杵であって、
    上杵と下杵とを備え、少なくとも前記上杵の先端部及び前記下杵の先端部は、炭窒化チタンでコーティングされていることを特徴とする打錠用杵。
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