JP5115476B2 - 透明電極付きガラス基板とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は透明電極付きガラス基板とその製造方法に関する。
従来からコンピュータ、情報家電、各種表示デバイス等として、金属酸化物等からなる透明導電膜をパターニングして形成した透明電極付きガラス基板が使用されている。
そして、このような透明電極付きガラス基板を製造する方法としては、従来から主にフォトリソグラフィ・エッチングプロセスやリフトオフ法が適用されてきたが、近年では、より生産性、環境適応性等が優れているレーザパターニング法が提案されている(特許文献1〜3参照)。
このレーザパターニング法とは、レーザ光を用いて基板上に形成したレジスト層や金属薄膜層等の加工や剥離を行う方法である。そして、このようなレーザパターニング法にもいくつかの種類があるが、中でも、基板上に形成した金属等からなる薄膜に所望の開口部を有するマスクを介してレーザ光を直接照射し、その薄膜の一部分を除去して基板上に所望のパターンを形成する方法が、環境面、工程を少なくできるといったコスト面等の観点から特に好ましい。このような方法をダイレクトパターニング法ともいう。
しかし、このダイレクトパターニング法において、透明導電膜の一部分を完全に除去することを目的として、高いエネルギ密度のレーザ光を照射した場合、透明導電膜の一部分を完全に除去することができたとしても、同時にガラス基板への負荷が高まり、その表面に疵が生じる場合があった。また、エネルギ密度が高まるとタクトアップが困難となり、生産効率が低くなる傾向があった。
これに対して低いエネルギ密度のレーザ光を照射すると、透明導電膜のレーザ光を照射した部分が完全に除去できずガラス基板上に残存する、いわゆる膜残りが生じる場合があった。この場合、ガラス基板上に形成した透明電極に正しく電気が流れなくなるので、形成した透明電極付きガラス基板は所望の性能を発揮しなくなる。
例えば、ダイレクトパターニング法によってガラス基板上に透明導電膜からなる透明電極を形成したものを、プラズマディスプレィパネル(以下PDPともいう)の前面基板として用いた場合、照射したレーザ光のエネルギ密度が低すぎて、薄膜のレーザ光を照射した部分が完全に除去されずガラス基板上に膜残りが生じていると、適切な箇所でプラズマが放電しなくなるので、PDP前面基板として所望の性能の発揮が困難となる。
この点について図を用いて説明する。
PDPは例えば図2に示すように透明な前面基板1及び背面基板2からなる構造を有している。そして、前面基板1は、その上に、画像を形成する画素にプラズマ放電を発生させるための透明導電膜からなる表示電極5a及び5b、バス電極6並びにブラックストライプ4を有し、背面基板2はアドレス電極7を有している。また、前面基板1は、表示電極5a及び5bとアドレス電極7との間の絶縁を確保し、プラズマを安定に発生させるために、また、電極がプラズマに侵食されるのを防ぐために、誘電体層8及びMgO保護層9を有している。そして、このような構造を有するPDPでは、対向する透明な前面基板1及び背面基板2の間に形成した隔壁3によりセル(空間)を区画し、セル内には可視発光が少なく紫外線発光効率が高いHe+Xe、Ne+Xeなどのペニング混合ガスを封入する。そして、表示電極5a及び5bの間でプラズマ放電を発生させて、セル内壁の蛍光体層10を発光させ、表示画面上に画像を形成させる(特許文献4、非特許文献1、非特許文献2参照)。
したがって、透明な前面基板1上に形成した透明導電膜にレーザ光を照射して得た表示電極5a及び5bにおいて、その間の前面基板1上(レーザ光を照射し透明導電膜を除去したことで露出した前面基板の表面部分)に膜残りが生じていると、表示電極5aと表示電極5bとの間で通電が生じ、プラズマ放電が発生し難くなるのでPDP前面基板として所望の性能の発揮が困難となる。
エネルギ密度が高いレーザ光を照射して、プラズマ放電が発生する十分なレベルまで透明導電膜を除去する場合、ガラス基板表面に疵が発生するおそれがある。
また、レーザパターニングを行う場合、膜を除去するためにレーザ光またはガラス基板を走査させて行う必要がある。その場合、レーザ光の若干の揺らぎまたはガラス基板の位置ずれが存在するため、ガラス基板の照射される位置は若干ずれが生じ膜残りが発生する。したがって、膜残りを防ぐために、レーザ光の照射位置は一部重なり合う必要がある(特許文献6、7参照)。このような方法を用いてレーザパターニングを行う場合、レーザ光を重なり合わせた部分には段差が生じ、それ以外の部分との間で放電特性に違いが生じる。この対策として放電特性に影響の少ない箇所にレーザ光の重なり合わせた部分を配置されるように設計するなどの施策が提案されている(特許文献2、6、7参照)。しかしこの方法では設計が制約されるので、レーザ出力から算出される効率の良い条件でのレーザパターニングが出来ない。
このようにダイレクトパターニング法によって透明電極付きガラス基板を製造する場合、用いるレーザ光エネルギ密度の高低に関わらず問題が生じており、所望の性能を得ることが困難であった。
ここで、この対策として、低いエネルギ密度のレーザ光を照射し、膜残り部分をエッチング液を用いてエッチングするという方法が考えられる。
例えば、太陽電池製造などでは薄膜にレーザ光を照射した後に薄膜用のエッチング液でエッチング処理することで、膜残りをなくす方法が提案されている(特許文献5参照)。
特開2001―60432号公報 特開2005−108668号公報 特開2005−135802号公報 特開平7―65727号公報 特開2000−114555号公報 特開2000−348611号公報 特開2000−348610号公報 内田龍男、内池平樹著、「フラットパネルディスプレイ大辞典」、工業調査会、2001年12月25日、p.583−585 奥村健史著、「フラットパネル・ディスプレイ2004実務編」、日経BP社、p.176−183
しかし、特許文献5に記載の方法では薄膜そのものをエッチングするため、その薄膜の抵抗値が上昇すると共に、表面の粗さが大きくなってしまう。この場合、例えば、この処理をしたものをPDP前面基板に用いた場合、放電が不安定となってしまう問題がある。
また、特許文献5のように、ダイレクトパターニング法によって透明電極付きガラス基板を製造する場合、そのガラス基板に低いエネルギ密度のレーザ光を照射するので、透明導電膜のレーザ光を照射した部分がガラス基板上に残存するが、その表面に疵が生じることなく生産効率を向上させることも可能となる。しかし、このガラス基板上の膜残り部分を上記の方法でエッチングすると、形成した透明電極の抵抗値が上昇し、表面の粗さが高くなってしまうという問題が生じる。
本発明はこのような問題を解決することを目的とするものであり、ダイレクトパターニング法によって透明電極付きガラス基板を製造する場合において、従来法のようにレーザ光を照射した部分の膜残りが生じず、また、そのガラス基板の表面に疵も生じず、かつ、形成した透明電極の抵抗値が上昇したり、表面の粗さが粗くなったりすることのない透明電極付きガラス基板の製造方法、該製造方法によって製造される透明電極付きガラス基板を提供することにある。
本発明者は上記の課題を解決するため鋭意検討し、レーザ光を照射して形成した薄膜パターン付きガラス基板を、前記ガラス基板を溶解するエッチング液であって、その溶解速度が、前記透明導電膜を溶解する溶解速度よりも速い性質を具備するエッチング液(以下、ガラス用エッチング液という。)を用いてエッチング処理する工程を具備する透明電極付きガラス基板の製造方法が、上記課題を解決する方法であることを見出し本発明を完成させた。
すなわち本発明は次の(1)〜(9)である。
(1)透明導電膜が形成されたガラス基板上に、レーザパターニングを施して、薄膜パターン付きガラス基板を得るパターン形成工程と、前記薄膜パターン付きガラス基板を、前記ガラス基板を溶解するエッチング液であって、その溶解速度が、前記透明導電膜を溶解する溶解速度よりも速い性質を具備するエッチング液を用いてエッチング処理するエッチング工程とを具備する透明電極付きガラス基板の製造方法。
(2)前記エッチング液がガラス基板を0.05nm/min以上で溶解し、かつ、ITOを0.002nm/min以下で溶解するエッチング液である、上記(1)に記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
(3)前記エッチング液が、NaOH、NaCO及びフッ化アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する、上記(1)又は(2)に記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
(4)前記レーザパターニングにおいて用いるレーザ光のエネルギ密度が22mJ/mm以下である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
(5)前記ガラス基板上の、前記レーザパターニングの際にレーザ光の照射が重なる繋ぎ目部分の段差が、2nm以下である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
(6)前記透明導電膜の除去された部分が、波長400nmから700nmの範囲において95%以上の透過率を有する、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。ここで透過率は、顕微分光光度計でガラスの透過率を100%とした時のものを意味する。
(7)前記透明導電膜が、ITO、ATO及び酸化錫からなる群から選ばれる少なくとも1つを主成分とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法により製造される透明電極付きガラス基板。
(9)上記(8)に記載の透明電極付きガラス基板を用いてなるプラズマディスプレィ前面基板。
本発明によれば、ダイレクトパターニング法によって透明電極付きガラス基板を製造する場合において、従来法のようにレーザ光を照射した部分の膜残りが生じず、また、そのガラス基板の表面に疵も生じず、かつ、形成した透明電極の抵抗値が従来法の場合のように上昇したり、表面の粗さが高くなったりすることのない透明電極付きガラス基板の製造方法を提供することができる。
そして、レーザ光のエネルギ密度を低くすることが可能となり、同じ出力のレーザで照射面積を広くすることができるのでタクトアップ及びコストダウンが実現できる。
図1(A)は、実施例及び比較例における透明電極付きガラス基板の、薄膜パターン12が付いた側の膜表面を示す概略図であり、図1(B)はその側面図である。 図2は、従来のPDPの概略構成を示す概略図である。
符号の説明
1 前面基板
2 背面基板
3 隔壁
4 ブラックストライプ
5a、5b 表示電極
6 バス電極
7 アドレス電極
8 誘電体層
9 MgO保護層
10 蛍光体層
11 ガラス基板
12、12a、12b 薄膜パターン
13 レーザパターニング部
14a、14b 抵抗値測定点
20 薄膜パターン付きガラス基板
以下、本発明について詳細に説明する。
以下、パターン形成工程とエッチング工程とを具備する透明電極付きガラス基板の製造方法について説明する。
初めにパターン形成工程について説明する。
本発明の製造方法が具備するパターン形成工程は、ガラス基板上に透明導電膜を形成した後、レーザパターニングを施して、薄膜パターン付きガラス基板を得る工程である。
ここでガラス基板は特に限定されず、例えば、電極用基板として従来から用いられている各種ガラス基板(ソーダライムガラス、無アルカリガラス等)を用いることができる。好ましい具体的態様の1つとしてPDP用の高歪点ガラスを挙げることができる。また、その大きさや厚さも特に限定されない。例えば縦横の長さとして、各々、400〜3000mm程度のものを好ましく用いることができる。また、その厚さは0.7〜3.0mmが好ましく、1.5〜3.0mmがより好ましい。
また、このようなガラス基板上に形成する透明導電膜の材質も特に限定されず、概ね透明であって、電気導電性を具備するものであればよい。透明導電膜の材質は、例えば酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、ITO(酸化錫をドープした酸化インジウム)、ATO(酸化アンチモンをドープした酸化錫)、AZO(酸化アルミニウムをドープした酸化亜鉛)、GZO(ガリウムをドープした酸化亜鉛)、酸化チタン及び窒化チタン等からなる群から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。
また、透明導電膜の材質は、このような中でも、ITO、ATO、酸化錫および酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1つを主成分とすることが好ましい。
なお、ここで主成分とは、50質量%以上の含有率であることを意味する。前記透明導電膜はITO、ATO及び酸化錫からなる群から選ばれる少なくとも1つを、80質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましく、99質量%以上含有することが更に好ましい。
ここで、透明導電膜の材質は、酸化インジウム、酸化錫又は酸化亜鉛を80〜99質量%含有し、残部がドーパント材料であるものが好ましく、更に、酸化インジウムを80〜99質量%含有し、残部がドーパント材料であるものが好ましく、更に、酸化インジウムを80〜99質量%含有し、残部が酸化錫であるものが好ましい。
理由は、比抵抗が低くまた可視光の透過率が高く透明電極として優れた特性をもつからである。
また、この透明導電膜の厚さも特に限定されない。ただし、薄すぎるとこの透明導電膜をパターニングして形成した透明電極の抵抗が高くなり、例えばPDP前面基板として用いた場合に、プラズマ放電が安定して放電しなくなる傾向がある。したがって、このような現象が生じない程度の厚さであることが好ましい。逆に厚すぎると材料費が高まりコストアップするとともに、透過率が下がり輝度が低下する傾向がある。したがって、前記透明導電膜の厚さは、概ね50〜250nm程度であることが好ましい。
また、この透明導電膜は複数の膜から構成される積層膜であってもよい。また、この透明導電膜は1種類の材料からなっていてもよく、異なる種類の材料からなっていてもよい。
また、この透明導電膜は、材料毎に所定のシート抵抗及び比抵抗以下であることが望ましい。例えば、この透明導電膜付きガラス基板をPDP前面基板として用いた場合に、比抵抗値が高すぎるとプラズマ放電が安定して放電しにくくなる傾向があるからである。例えば透明導電膜の材質がITOである場合は、そのシート抵抗が30Ω以下、比抵抗値が4×10−4Ω・cm以下であることが好ましく、シート抵抗が16Ω以下、比抵抗値が2.1×10−4Ω・cm以下が更に好ましい。また、ATOである場合は、シート抵抗が250Ω以下、比抵抗値が3.3×10−4Ω・cm以下が好ましく、シート抵抗が200Ω以下、比抵抗値が2.6×10−4Ω・cm以下がより好ましい。
また、このような透明導電膜を前記ガラス基板上に形成する方法も特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することができる。従来公知の方法としては、物理的蒸着法(PVD)(真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等)、化学的蒸着法(CVD)(熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等)、イオンビーム蒸着法、焼付け法(スプレー法)、液相成膜法が挙げられる。
また、このような方法における成膜条件も特に限定されない。
例えばスパッタリング法を適用する場合であれば、ターゲットして酸化錫がドープされた酸化インジウムを用い、成膜時の雰囲気ガスとしてアルゴン−酸素混合ガスを用い、成膜時のガラス基板温度を100〜500℃とし、その他の成膜時条件を通常の範囲とすることで、酸化錫がドープされた酸化インジウムの薄膜を前記ガラス基板上に形成することができる。
なお、本発明の製造方法においては、上記のように、前記ガラス基板上に前記透明導電膜を形成するが、前記ガラス基板と前記透明導電膜との間に他の薄膜を形成してもよい。
例えば、前記ガラス基板としてアルカリ成分を含有するガラス基板を用いる場合には、ガラス基板に含まれるアルカリ成分が、前記透明導電膜へ拡散してその抵抗値に影響を及ぼす場合があるので、その拡散を抑制するためにアルカリバリア層として二酸化ケイ素膜等を前記ガラス基板と前記透明導電膜との間に形成してもよい。
このようなアルカリバリア層のような他の薄膜を形成する方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することができる。従来公知の方法としては上記の透明導電膜を形成する方法と同様の方法が挙げられる。
また、この他の薄膜の厚さも特に限定されない。前記アルカリバリア膜の場合であればアルカリバリア性及びコスト面から、10〜500nmであることが好ましい。
本発明の製造方法が具備するパターン形成工程では、このようにガラス基板上に透明導電膜を形成した後、レーザパターニングを施して、薄膜パターン付きガラス基板を得る。
ここでレーザパターニングは、前記ガラス基板上に形成した前記透明導電膜にレーザ光を照射し、その薄膜の一部分を除去することによって基板上に所望のパターンを形成する方法であれば、特に限定されない。レーザパターニングとしては、例えば、前記ガラス基板上に形成した前記透明導電膜に、所望の開口部を有するマスクを介してレーザ光を直接照射し、その薄膜の一部分を除去して基板上に所望のパターンを形成するダイレクトパターニング法が挙げられる。
また、レーザパターニングにおいて用いるレーザ光の種類は特に限定されず、レーザ光を照射してその一部を除去する前記透明導電膜の種類等によって適宜選択することができる。例えばCOレーザ光、YVOレーザ光、エキシマレーザ光、Nd−YAGレーザ光が挙げられる。これらの中でもNd−YAGレーザ光を用いることが好ましく、波長としては、Nd−YAGレーザの基本波(1064nm)を好ましく用いることができる。高出力で安定したレーザ光を安価に得られることからである。
また、照射するレーザ光のエネルギ密度は、22mJ/mm以下であることが好ましく、18〜22mJ/mmであることがより好ましく、18〜20mJ/mmであることが更に好ましい。このような範囲であると、前記ガラス基板にレーザ光の照射による疵がより生じ難く、かつ、後述するエッチング処理により、前記透明導電膜の除去すべき部分をより除去することができるからである。
なお、複数回照射した場合のエネルギ密度は、各々の照射における照射時間を単純合計した値を照射時間として算出するものとする。
本発明の製造方法では、このようなパターン形成工程によって、薄膜パターン付きガラス基板を得ることができる。
次に、本発明のエッチング工程について説明する。
本発明の製造方法が具備するエッチング工程は、前記薄膜パターン付きガラス基板を、ガラス用エッチング液を用いてエッチング処理する工程である。
このようなエッチング工程によって、透明電極の抵抗値を上昇させず、表面の粗さを高めずに、前記薄膜パターン付きガラス基板における前記透明導電膜の除去すべき残存部分を除去することができる。
なお、特許文献1〜3に記載されているとおり、レーザパターニング法自体はよく知られており、従来の湿式法に替わるパターニング方法として非常に期待されている方法である。湿式法は、ガラス基板上に透明導電膜を形成し、フォトリソグラフィック法を用いて膜をパターニングする方法であり、現在でも工業的に広く利用されている。ただし、この湿式法は、露光や洗浄などの多くの工程を必要とし、また廃液処理の問題もあるため、これらの問題点がないレーザパターニングが注目されてきている。
しかし、透明導電膜の残存(膜残り)が生じないように、高いエネルギ密度のレーザ光を照射すると、ガラス基板表面に疵が発生することがあり、逆に、低いエネルギ密度のレーザ光を照射すると膜残りが生じることがあり、所望の薄膜パターン付きガラス基板を製造することが困難であった。
さらにレーザパターニングを行う場合、膜を除去するためにレーザ光(またはガラス基板)を走査させて行う必要がある。その場合、レーザ光にも若干の揺らぎが存在するため、ガラス基板の照射される位置は若干ずれが生じる。よって、膜残りを防ぐために、実際上レーザ光の照射位置は一部重なり合う必要がある。
そのような場合はレーザの重なり合う部分で段差が発生し放電開始電圧が不均一となってしまう為発光ムラが発生してしまう。これを改善する方法としては参考文献2、6、7に記載されているように、レーザの重なり合う部分がPDPの透明電極間の放電ギャップの部分以外となるようにする方法が提案されている。しかしこの方法ではレーザの重なり合う部分の配置に設計上の制約が発生してしまう。
本発明者は、この問題を解決すべく検討を行った結果、レーザ光の出力を下げた状態でパターニングを行うことにより膜残りが発生するが、この膜残りは、透明導電膜がガラス基板中に溶解したような形で残存しているもの(つまり、ガラスと膜とが混合して一体化しているもの)であることを見出した。また、レーザの重なり合う部分に発生した段差もまた透明導電膜がガラス基板中に溶解したような形で残存していることを見出した。
そして、この透明導電膜が溶解したガラス基板の一部分を、ガラス用エッチング液で除去すれば膜残りを除去できることを見出し、本発明を完成させた。
本来、レーザパターニング後の処理方法としては、透明導電膜をパターニングするのであるから、その透明導電膜を溶解するようなエッチング液を用いればよい、というのが通常の考え方である。このように透明導電膜をエッチングするエッチング液でエッチング処理を行なうのが特許文献5に記載されている方法である。
しかしこの方法は太陽電池用透明導電膜のエッチング方法としては適しているが、例えばPDP前面板の透明導電膜のパターニング後処理方法としては適していない。それは、この方法は透明電極そのものを溶解するのであるから、本来パターニングで溶解すべきではない電極を形成する部分の透明導電膜の表面もエッチングしてしまうため、透明電極の抵抗値の上昇や表面粗さの変化が発生してしまい、PDP前面基板として用いた場合駆動電圧が高くなり消費電力が上昇すると共にプラズマ放電が不安定となる傾向がある。前述したとおり、透明導電膜はガラス中に溶解したような形で残存しているのであるから、透明導電膜用のエッチング液を用いても一部の膜の除去は可能かもしれないが、完全に膜残りを防止することはできない。PDPの場合、一つ一つの電極が画面上の画素を形成しているため、規格上、膜残りはほとんど許容されない。また、例えばATOのようにその透明電極を溶解するような適当なエッチング液がない場合、この方法を用いることはできない。したがって、特許文献5に記載されている方法では、特にPDPにおいては、全くその効果が発揮されない。
これに対し、本発明のようにガラス用エッチング液を用いることで、透明電極表面のエッチングを最小限に抑えることができ、特にPDP前面基板として有用である。また、膜残りもなく、かつ透明電極の種類によらず、パターニングが可能となる。
本発明の製造方法が具備するエッチング工程において用いる、ガラス用エッチング液とは、前記ガラス基板を溶解するエッチング液であって、その溶解速度が、前記透明導電膜を溶解する溶解速度よりも速い性質を具備するエッチング液を意味する。
また、このエッチング液は、次に説明する溶解処理により、使用するガラス基板(例えばPDP用の高歪点ガラス)を0.05nm/min以上で溶解し、かつ、使用する透明導電膜(例えば、ITO薄膜)を0.002nm/min以下で溶解するエッチング液であることが好ましい。
また、このエッチング液は、この使用するガラス基板を0.1nm/min以上で溶解することがより好ましく、0.15nm/min以上で溶解することがさらに好ましい。このようなエッチング液であると、生産性等の点で好ましい。
また、このエッチング液は、使用する透明導電膜を0.0015nm/min以下で溶解することがより好ましく、0.0010nm/min以下で溶解することがさらに好ましい。
このようなエッチング液であると、エッチング処理時の前記透明導電膜への影響(負荷)がより大きく低減されるので好ましい。
さらに、ガラス用エッチング液が使用するガラス基板を溶解する速度(ガラス基板溶解速度)と、ガラス用エッチング液が使用するITO薄膜を溶解する速度(ITO薄膜溶解速度)との比(ガラス基板溶解速度/ITO薄膜溶解速度)が25以上であることが好ましく、75以上であることがより好ましく、150以上であること更に好ましい。エッチング処理時の前記透明導電膜への影響(負荷)をより低減した上で、更に膜残りを効率的に防止できるからである。
このような(1)ガラス基板溶解速度及び(2)ITO薄膜溶解速度は、各々、以下に説明するガラス基板の溶解処理及び測定を行い求めることができる。
まず、(1)ガラス基板溶解速度の測定におけるガラス基板の溶解処理について説明する。
始めにガラス基板を純水で洗浄した後乾燥させる。次に、このガラス基板の表面にポジ型レジスト(富士フイルムアーチ社製)を500rpmで5秒間、ついで1000rpmで10秒間スピンコートした後、105℃で30分加熱してレジスト膜を形成する。そしてこのレジスト膜上に所望のパターンが形成されたポジ型のマスクをかぶせた後、2秒間露光する。その後、20℃の0.5質量%NaOH水溶液に1分間浸して現像し、レジストパターンを形成する。
このようにして表面にレジストパターンを形成したガラス基板をエッチング液に60分浸漬する。
そして、このガラス基板をエッチング液から取り出した後、その表面を全面露光し、20℃の0.5質量%NaOH水溶液に1分間浸してレジストパターンを除去する。厳密には、このレジストパターンを除去する工程でもガラス基板はわずかに溶解されるが、エッチング量が0.02nm以下であることからガラス基板の溶解速度にはほとんど影響を与えない。
次いで、ガラス基板溶解速度の測定について説明する。
このような溶解処理を行ったガラス基板の、レジストで覆われておらずエッチングされた部分と、レジストで覆われていてエッチングされなかった部分との境界部分を形状測定器(DEKTAK3−ST、Veeco社製)を用いて形状測定する。そして、その境界部分におけるガラス基板の侵食量(ガラス基板の表面に垂直方向における侵食された長さ(ガラス基板表面からの深さ))を測定し、この値からガラス基板溶解速度を算出する。
前記ガラス基板溶解速度は、上記のような溶解処理を施し、このような測定を行い求めた侵食量から算出される溶解速度である。
次に、(2)ITO薄膜溶解速度の測定におけるガラス基板の溶解処理および測定について説明する。
ITO薄膜の溶解処理では、ガラス基板の表面に上記の方法でITO薄膜を形成したITO薄膜付きガラス基板を用いる。
そして、このITO薄膜付きガラス基板に、上記のガラス基板の溶解処理と同じ溶解処理を施し、更に、同じ測定方法で侵食量を測定し、溶解速度を算出する。
前記ITO薄膜溶解速度は、上記のITO薄膜付きガラス基板を用いて上記の溶解処理を施し、このような測定を行い求めた侵食量から算出される溶解速度である。
ガラス用エッチング液は、このような溶解処理を行った場合に、上記のような速度でガラス基板及びITO薄膜を溶解する性能を具備するエッチング液であることが好ましい。
このような性能を具備する好ましいエッチング液としては、40℃、1質量%NaOH水溶液が挙げられる。本発明者がこのエッチング液の前記ガラス基板溶解速度及び前記ITO薄膜溶解速度を測定したところ、それぞれ0.186nm/min及び0.001nm/min以下であった。
また、同様に、ガラス用エッチング液としては60℃、1質量%NaCOが挙げられ、前記ガラス基板溶解速度及び前記ITO薄膜溶解速度はそれぞれ0.577nm/min及び0.001nm/min以下であった。
また、同様に、ガラス用エッチング液としては40℃、0.5質量%NHF水溶液が挙げられ、前記ガラス基板溶解速度及び前記ITO薄膜溶解速度はそれぞれ0.206nm/min及び0.001nm/minであった。
なお、40℃、王水(硝酸100ml+純水1000ml+塩酸(HCl35%)1000ml)の前記ITO薄膜溶解速度は45.7nm/minであり、ガラス基板溶解速度はそれ以下であった。
また、40℃の塩化鉄含有酸性水溶液(塩酸(HCl35%)1000ml +純水1000ml+40%塩化鉄(III)500ml)の前記ITO薄膜溶解速度は24.4nm/minであり、ガラス基板溶解速度はそれ以下であった。
また、このエッチング液は上記の性質を具備すれば、その種類も限定されない。エッチング液の種類としては、無機アルカリ溶液や有機アルカリ溶液が例示される。無機アルカリ溶液中に含まれる無機アルカリとしては、例えば、NaOH、NaCO、フッ化アンモニウムが挙げられる。このような中でもNaOH、NaCO及びフッ化アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有するエッチング液であることが好ましく、NaOHを含有するエッチング液であることがより好ましい。
また、このエッチング液の濃度も特に限定されない。上記のような性質を具備するものであればよい。
さらに、このようなエッチング液を用いたエッチング処理方法も特に限定されない。処理温度、処理時間、処理方法(浸漬法、スプレー法等)等、通常の範囲で行うことできる。
例えば、前記薄膜パターン付きガラス基板を10〜90℃、好ましくは10〜70℃、更に好ましくは30〜50℃に調整した1質量%NaOH水溶液に1分間浸漬するのが、エッチング処理の好ましい具体的態様の一つである。NaOH水溶液の濃度は、0.2〜10質量%、特に0.5〜5質量%、さらに1〜5質量%であることが好ましい。
また、例えば、前記薄膜パターン付きガラス基板を10〜90℃、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃、更により好ましくは55〜65℃に調整した1質量%NaCO水溶液に1分間浸漬するのが、エッチング処理の好ましい具体的態様の一つである。NaCO水溶液の濃度は、0.2〜10質量%、特に0.5〜5質量%であることが好ましい。 また、例えば、前記薄膜パターン付きガラス基板を10〜60℃、好ましくは20〜45℃に調整した0.5質量%フッ化アンモニウム水溶液に1分間浸漬するのが、エッチング処理の好ましい具体的態様の一つである。フッ化アンモニウム水溶液の濃度は、0.2〜10質量%、特に0.4〜2質量%であることが好ましい。
このようなガラス用エッチング液を用いたエッチング処理によって、透明電極の抵抗値をより上昇させず、表面の粗さをより高めずに、前記薄膜パターン付きガラス基板における前記透明導電膜の除去すべき残存部分をより完全に除去することができる。
本発明の製造方法は、以上に説明したパターン形成工程とエッチング工程とを具備する透明電極付きガラス基板の製造方法である。
そして、このような本発明の製造方法によれば、レーザ光の照射による疵を有さず、膜残りがない透明電極付きガラス基板を、透明電極の抵抗値が上昇したり、透明電極の表面粗度が高くなったりすることなしに製造することができる。したがって、PDP前面基板としても好ましく用いることができる。
ここで、本発明において「レーザ光の照射による疵を有さない」とは、本発明の製造方法によって製造された透明電極付きガラス基板を用いてPDPを製造した場合に安定に放電でき、かつ視覚によって画面上に不具合を認識できないという状態を意味するものとする。
また、ここで、本発明において「膜残りがない」とは、後述する実施例において説明する方法によって、レーザパターニング部を挟んで測定した絶縁抵抗値が20MΩ以上となる状態を意味するものとする。この状態であれば、パターニング部を挟んだ部分の放電が好適となるからである。
また、ここで、本発明において「透明電極の抵抗値が上昇しない」とは、後述する実施例において説明する方法と同様の方法で測定したシート抵抗値が、本発明の製造方法におけるエッチング処理の前後において、その上昇幅が5%以下であることを意味する。
また、ここで、本発明において「透明電極の表面粗度が高くならない」とは、後述する実施例において説明する方法と同様の方法で測定した表面粗さ(Ra)が、本発明の製造方法におけるエッチング処理の前後において、その上昇幅が10%以下であることを意味する。
このような本発明の製造方法を適用して、例えばPDP前面基板を製造することができる。
例えば、本発明の製造方法により透明電極付きガラス基板を製造した後、例えば従来公知のフォトリソグラフィ・エッチングプロセスやリフトオフ法を適用してバス電極を形成し、その上面に誘電体の原料を塗布等した後に焼成し、誘電体層を形成することで、PDP前面基板を製造することができる。
また、ここで、バス電極を形成した後に、エッチング工程を行うこともできる。
また、本発明の製造方法が具備するエッチング工程は、洗浄処理を兼ねていてもよい。
例えば、ここに示したPDP前面基板の製造方法において、薄膜パターン付きガラス基板の表面を洗浄する性能をも具備する前記エッチング液を用いて、前記エッチング工程を行うこともできる。
以下、本発明の実施例および比較例を示す。
(実施例1)
<パターン形成工程>
ガラス基板として1000mm×650mmのPDP用高歪み点ガラス(旭硝子製PD200)基板を準備した。そして、このガラス基板の表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚が130nmとなるようにITOの成膜を行った。ターゲットは、10質量%の酸化錫がドープされた酸化インジウムターゲットを使用した。成膜時のガラス基板温度は250℃であり、スパッタガスはAr−O混合ガスを用いた。形成された膜の組成は、ターゲットと同等であった。
このようにして得られたITO薄膜(透明導電膜)を表面に有するガラス基板を、以下ではITO薄膜付きガラス基板という。
次に、このITO薄膜付きガラス基板を50mm×30mmに複数枚切り出した。そして、各々にレーザパターニングを施し、図1のような薄膜パターン付きガラス基板20を得た。
図1はITO薄膜付きガラス基板のITO薄膜の長辺の中央部分に、短辺に略平行に、幅100μmでレーザパターニングを行ってレーザパターニング部13を形成し、ガラス基板11上に薄膜パターン12(12a、12b)を形成した図を示している。図1(A)は薄膜パターン付きガラス基板20の薄膜パターン12が付いた側の膜表面を示す図であり、図1(B)は薄膜パターン付きガラス基板20の断面を示す図である。
レーザはホモジナイザなどにより断面短形に形成し基板に照射する。
ここで、レーザパターニング条件は、レーザ光波長:1064nm、レーザ巾:100μm、レーザ長さ:100μm、レーザパルス巾120ns、レーザ照射周波10KHz、レーザ照射時の重なりを10μmとした。なお、レーザの照射は1箇所で1回照射した。
また、レーザパターニング時のエネルギ密度については、レーザの1回照射におけるエネルギ密度で15.0mmJ/mmから36.3mmJ/mmの範囲で7段階変更し、各々のエネルギ密度でレーザパターニングを行い、薄膜パターン付きガラス基板20を得た。
<エッチング工程>
次に、各々のエネルギ密度でレーザパターニングを行った薄膜パターン付きガラス基板を、50℃のNaOH(水酸化ナトリウム)3質量%溶液に2分間浸漬した。このようなエッチング処理を行って得られた基板を、以下では透明電極付きガラス基板という。
次に、得られた透明電極付きガラス基板を下記のとおり評価した。結果を第1表に示す。
(1)透明電極間が絶縁となるレーザエネルギ密度
まず、各々の透明電極付きガラス基板について、図1に示すようにレーザパターニング部13を挟んで測定点間の絶縁抵抗値を測定した。なお、絶縁抵抗値の測定は、10mm間隔(左右対称)で透明電極の抵抗値測定点14a、14bにテスター(PC510:三和電気計器社製)をあて、測定点間の絶縁抵抗値を測定することで行った。
なお、上記のように図1は薄膜パターン付きガラス基板20を示す図であり、透明電極付きガラス基板を示す図ではないが、その構造は概略としては同様であるので(具体的には、図1の薄膜パターン付きガラス基板20の薄膜パターン12を透明電極としたものが透明電極付きガラス基板である)、図1を用いて説明した。
次に、各々の透明電極付きガラス基板の絶縁抵抗値において、20MΩ以上の絶縁抵抗値となる最小のエネルギ密度を求めた。その値を第1表に示す。この値が小さいほど、小さいエネルギ密度のレーザ光で、絶縁性を十分に有するパターンを形成することができることになる。
なお、PDPが適切に機能するためには、図1におけるレーザパターニング部13において十分に強い絶縁性が必要であり、レーザパターニング部13の絶縁抵抗値は20MΩ以上必要であるとされている。
以下の(2)〜(6)においては、20MΩ以上の絶縁抵抗値となる最小のエネルギ密度のレーザ光を照射して得た透明電極付きガラス基板についてのみ評価を行った。
(2)膜減り量
透明電極付きガラス基板の透明電極の厚さをエッチング処理前後で測定し、その薄膜の減り量を算出した。なお、薄膜の厚さは形状測定器(DEKTAK3−ST、Veeco社製)により測定した。膜減り量は0.1nm以下、特には0.05nm以下であることが好ましい。
(3)表面粗さ
JIS B0601(2001年)に規定される算術平均高さRaをいい、原子間力顕微鏡(Nano Scope IIIa;Scan Rate1.0Hz,Sample Lines256,Off−line Modify Flatten order−2,Planefit order−2、Digital Instruments社製)によって、透明電極付きガラス基板の透明電極の任意の測定領域(5μm×5μm)を測定することによって求めた。
この表面粗さRaは2.5nm以下であることが好ましい。透明電極付きガラス基板を例えばPDP前面基板として用いた場合、この表面粗さRaが高すぎると誘電体の侵食が増加し、駆動電圧が高くなり消費電力が上昇すると共に、プラズマ放電が不安定となる傾向があるためである。
(4)シート抵抗値
透明電極付きガラス基板の透明電極の任意の点を、表面抵抗計(ロレスターIP MCP−250、三菱油化社製)にて測定した。
このシート抵抗値はITOの場合、30Ω以下が好ましく、16Ω以下であることがより好ましい。透明電極付きガラス基板を例えばPDP前面基板として用いた場合、このシート抵抗が高すぎると駆動電圧が高くなり消費電力が上昇すると共に、プラズマ放電が不安定となる傾向があるためである。
(5)レーザエッチング部の波長550nmの透過率
レーザエッチングされた部分の透過率を顕微分光光度計(大塚電子(株)製MCPD−1000)を用いて測定した。透過率の測定直径は約40μmであり、ITO成膜していないPDP用高歪み点ガラス(旭硝子製PD200)基板を透過した光の強度を100%として、ITO膜付きガラス基板の透過率を測定した。波長400nmから700nmの波長域で透過率測定を行い、その代表点として波長550nmの透過率を第1表に記載した。
(6)つなぎ目の段差測定
レーザパターニングを行う場合、膜を除去するためにレーザ光(またはガラス基板)を走査させて行う必要がある。その場合、レーザ光にも若干の揺らぎが存在するため、ガラス基板の照射される位置は若干ずれが生じる。よって、膜残りを防ぐために、実際上レーザ光の照射位置は一部重なり合う必要がある。この重なり合った部分を形状測定器(DEKTAK3−ST、Veeco社製)を用いて形状測定し、その段差を測定した。
透明電極付きガラス基板を例えばPDP前面基板として用いた場合、段差が2nm以下であればインピーダンスの変化が問題にならず、放電特性に影響しない。
(実施例2)
薄膜パターン付きガラス基板を、60℃のNaCO(炭酸ナトリウム)3質量%溶液に3分間浸漬することに変更した以外は実施例1と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った。結果を第1表に示す。
(実施例3)
薄膜パターン付きガラス基板を、40℃のNHF(フッ化アンモニウム)0.5質量%溶液に2分間浸漬することに変更した以外は実施例1と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った。結果を第1表に示す。
(比較例1)
実施例1で得た薄膜パターン付きガラス基板にエッチング処理を行なわずに、実施例1と同様の評価を行った。結果を第1表に示す。
この表に示すように絶縁抵抗値は36.3mmJ/mm以上でO.L.(over load、以下同じ)(20MΩ以上)となったが、この値は、特許文献1に記載されている「ITO膜からなる透明電極の場合に10MΩ以上の抵抗値とするためには30mJ/mm2以上のエネルギ密度が必要」との見解と概ね一致している。
(比較例2)
薄膜パターン付きガラス基板を、40℃の純水に1分間浸漬することに変更した以外は実施例1と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った。結果を第1表に示す。
比較例1と変化なく、絶縁抵抗値も36.3mmJ/mm以上でO.L.(20MΩ以上)のままであった。
(比較例3)
薄膜パターン付きガラス基板を、40℃の王水(硝酸100ml+純水1000ml+塩酸(HCl35%)1000mlの混合液(以下、「王水エッチング液」と記す))に15秒間浸漬することに変更した以外は実施例1と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った。結果を第1表に示す。
(比較例4)
薄膜パターン付きガラス基板を、40℃の塩化鉄含有酸性水溶液(塩酸(HCl35%)1000ml+純水1000ml+40%塩化鉄(III)500mlの混合液(以下、「塩化鉄エッチング液」と記す))に15秒間浸漬することに変更した以外は実施例1と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例1と同様の評価を行った。結果を第1表に示す。
実施例1〜3はITO膜からなる透明電極をガラス用エッチング液で処理した例である。絶縁抵抗値は18.0mmJ/mm2以上でO.L.(20MΩ以上)であり、比較例1に比べかなり低いエネルギ密度でPDPが適切に機能するために必要な十分に強い絶縁性が得られた。また、エッチング処理を行っても、ITO膜からなる透明電極の膜厚、抵抗(シート抵抗)、表面粗さ(Ra)に変化はなく良好な値を維持している。また、ガラス基板に疵も見られない。また、レーザエッチング部分の透過率も95%以上と良好であり、つなぎ目の段差も2以下であり例えばPDP用透明電極として優れた特性を有している。
一方、比較例1及び2は特に何の処理も施していないため、パターニングするために非常に高いレーザ出力を必要としており、ガラス基板上に疵が見られるため好ましくない。
レーザエッチング部分の透過率も76〜77%以上と非常に低く、つなぎ目の段差も10nm以上あるので安定した放電特性が得られず、例えばPDP用透明電極としては適していない。
また、比較例3及び4はITO膜をエッチングするエッチング液で処理した比較例である。実施例1〜3と同様に絶縁抵抗値は18.0mmJ/mm2でO.L.(20MΩ以上)ある。しかし、ITO膜からなる透明電極がエッチングされてしまうため、シート抵抗が上昇し、表面粗さも上昇しており、例えば、PDP用透明電極としては、駆動電力が上昇し放電が不安定となるため、不適切な処理方法である。
Figure 0005115476
次に、実施例1〜3及び比較例1〜4で用いたITOの代わりにATO(酸化アンチモンドープ酸化錫)を用いた実施例及び比較例を示す。
(実施例4)
実施例1と同様のガラス基板を準備した。そして、このガラス基板に、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚が130nmとなるようにATOの成膜を行った。ターゲットは、全体として3質量%の酸化アンチモンがドープされた酸化錫ターゲットを使用した。成膜時のサンプル基板温度は200℃であり、スパッタガスはAr−O混合ガスを用いた。形成された膜の組成はターゲットと同等であった。
そして、以下は実施例1と同様にパターン形成工程及びエッチング工程を施し、実施例1と同様の評価を行った。結果を第2表に示す。なお、ATOの場合、シート抵抗値は250Ω以下が好ましく、200Ω以下であることがより好ましい。
(実施例5)
薄膜パターン付きガラス基板を、60℃のNaCO(炭酸ナトリウム)3質量%溶液に3分間浸漬することに変更した以外は実施例4と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例4と同様の評価を行った。結果を第2表に示す。
(実施例6)
薄膜パターン付きガラス基板を、40℃のNHF(フッ化アンモニウム)0.5質量%溶液に2分間浸漬することに変更した以外は実施例4と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例4と同様の評価を行った。結果を第2表に示す。
(比較例5)
実施例4で得た薄膜パターン付きガラス基板にエッチング処理を行なわずに、実施例4と同様の評価を行った。結果を第2表に示す。
この表に示すように絶縁抵抗値は24.8mmJ/mm以上でO.L.(20MΩ以上)となった。
(比較例6)
薄膜パターン付きガラス基板を、40℃の純水に1分間浸漬することに変更した以外は実施例4と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例4と同様の評価を行った。結果を第2表に示す。
(比較例7)
薄膜パターン付きガラス基板を、王水エッチング液に15秒間浸漬することに変更した以外は実施例4と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例4と同様の評価を行った。結果を第2表に示す。
(比較例8)
薄膜パターン付きガラス基板を、塩化鉄エッチング液に15秒間浸漬することに変更した以外は実施例4と同様にして、透明電極付きガラス基板を得た。そして、実施例4と同様の評価を行った。結果を第2表に示す。
実施例4〜6はガラスをエッチングするエッチング液で処理した例である。ATO膜に膜の減りや表面粗さ等の特性の変化はほとんどなく、レーザ光のエネルギ密度が18.0mmJ/mm以上で絶縁抵抗値はO.L.(20MΩ以上)となり、非常に低いエネルギ密度でPDPが適切に機能するために必要な十分に高い絶縁性が得られており、ガラス基板上に疵も見られない。また、レーザエッチング部分の透過率も95%以上と良好であり、つなぎ目の段差も2以下であり、例えばPDP用透明電極として優れた特性を有している。
一方、比較例5,6は、特に何の処理も施していないため、パターニングするために非常に高いレーザ出力を必要としており、ガラス基板上に疵が見られるため好ましくない。レーザエッチング部分の透過率も70%以下と非常に低く、つなぎ目の段差も大きく安定した放電特性が得られない、例えばPDP用透明電極としては適していない。
また、比較例7、8はITOをエッチングするエッチング液で処理した比較例である。これらのエッチング液はガラス、ATOともにエッチングできないため、比較例5(エッチング処理をしていない例)と差がなく、絶縁抵抗値がO.L.(20MΩ以上)となるエネルギ密度も高く、ガラス基板に疵がみられ、好ましくない。
ATOのように化学的に安定で、これを溶解する適当なエッチング液が存在しない透明導電膜の場合、ITOを用いた比較例3、4のようにレーザパターニング後に透明導電膜を直接エッチングすることで絶縁性を向上させることはこれまでできなかった。
しかし、このような透明導電膜をエッチングする適当なエッチング液が存在しない場合においても、実施例4〜6のようにガラス用エッチング液で処理することで、本発明のレーザパターニングによるパターン工程において、低いエネルギ密度でPDPが適切に機能するために必要な十分に高い絶縁性が得ることができる。
Figure 0005115476
本発明の透明電極付きガラス基板は、レーザ光を照射した部分の膜残りやガラス基板の表面に疵がなく、かつ透明電極の抵抗値が上昇したり、表面の粗さが高くなったりすることがないので、PDP前面基板として好適である。

なお、2006年5月18日に出願された日本特許出願2006−139046号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

Claims (9)

  1. 透明導電膜が形成されたガラス基板上に、レーザパターニングを施して、薄膜パターン付きガラス基板を得るパターン形成工程と、
    前記薄膜パターン付きガラス基板を、前記ガラス基板を溶解するエッチング液であって、その溶解速度が、前記透明導電膜を溶解する溶解速度よりも速い性質を具備するエッチング液を用いてエッチング処理するエッチング工程と
    を具備する透明電極付きガラス基板の製造方法。
  2. 前記エッチング液がガラス基板を0.05nm/min以上で溶解し、かつ、ITOを0.002nm/min以下で溶解するエッチング液である、請求項1に記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
  3. 前記エッチング液が、NaOH、NaCO及びフッ化アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する、請求項1又は2に記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
  4. 前記レーザパターニングにおいて用いるレーザ光のエネルギ密度が22mJ/mm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
  5. 前記ガラス基板上の、前記レーザパターニングの際にレーザ光の照射が重なる繋ぎ目部分の段差が、2nm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
  6. 前記透明導電膜の除去された部分が、波長400nmから700nmの範囲において95%以上の透過率を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
  7. 前記透明導電膜が、ITO、ATO及び酸化錫からなる群から選ばれる少なくとも1つを主成分とする、請求項1〜6のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の透明電極付きガラス基板の製造方法により製造される透明電極付きガラス基板。
  9. 請求項8に記載の透明電極付きガラス基板を用いてなるプラズマディスプレィ前面基板。
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