JP5114721B2 - ダスト塊成鉱の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ダスト塊成鉱の製造方法に関するものであり、特に、性状の異なる鉄分含有ダストが混合されてなる原料ダストであっても、最適な混練条件を予測することによって、強度に優れたダスト塊成鉱を効率良く製造する技術に関する。
製鉄所内の高炉、焼結、転炉、電気炉、連続鋳造機、熱間圧延機などの周辺では、多量のダストやスケール(以下、これらを総称して鉄分含有ダストと言う)が排出されている。これら鉄分含有ダストの多くは鉄分を数十%程度の割合で含有しているため、鉄源として有効な資源であり、製鉄所内においては鉄分含有ダストの再利用が盛んに行われている。
これら鉄分含有ダストは、通常、数十マイクロメートルから数百マイクロメートル程度の粒度範囲を有しているので、このままでは取扱に不便である。そこで従来から、鉄分含有ダストを湿式集塵機等で集め、天日に曝してある程度含水量を減少させてから、鉄分含有ダストにセメントを加えて数日間養生させて固形化し、この固形化した鉄分含有ダストを高炉や転炉に再投入する、といった再利用方法が採用されている。
しかし、この方法では、セメントを加えてから数日間養生させる必要があり、またセメントは、S(硫黄)を多量に含有しているため、高炉で使用した場合には、SOxガス増の原因となり、転炉で使用した場合には、製品のS分が上昇するため、必ずしも好ましい手段とは言えなかった。
そこで、下記特許文献1には、製鋼の際に転炉から発生する製鋼ダストに対して、アルファ化した澱粉等を混合し、圧縮塊成化して製鋼ダスト塊成を製造する方法が開示されている。この方法によれば、比較的短時間で製鋼ダスト塊成を製造することが可能であり、また澱粉等には硫黄(S)が殆ど含まれないことから、環境面、品質面でも優位である。
しかし、特許文献1に記載された方法は、転炉から発生した1種類の製鋼ダストを対象としており、その処理条件も、転炉から発生した製鋼ダストの性状に合わせて決められたものであるから、実際のダスト処理に適用することは難しいと考えられる。すなわち、実際の製鉄所においては、高炉、焼結、転炉、電気炉、連続鋳造機、熱間圧延機などの周辺でそれぞれ発生した鉄分含有ダストを分別して回収している訳ではなく、これら鉄分含有ダストが混合された状態のものを原料ダストとして処理しようとしている。原料ダストの性状は、そこに含まれる鉄分含有ダストの種類や割合によって大きく異なることが予想され、このような性状にバラツキがある原料ダストに対して一つの処理条件でダスト塊成処理を行った場合には、必ずしも必要な強度を有するダスト塊成鉱が得られない場合があった。
下記特許文献2には、ステンレス鋼の酸洗スラッジからなるスラッジケーキと、製鋼工程及び圧延工程で発生したドライ状のダストと、熱延スケールとを、有機質バインダ、粉石炭及び水と共に混練し、その後、ブリケットに成形する方法が開示されている。この特許文献2に記載された方法を一見したところでは、スラッジケーキ、ドライ状ダスト、圧延スケールを混合して処理しており、実際の製鉄所においても適用可能なように見える。
しかし、特許文献2では、水分量を調整することによって混練物の粘着性や硬さ等を適当に決めるとしか記載されておらず、ダスト等の性状を把握した上で混練条件を設定するといった手順は開示されていない。従って特許文献2に記載の方法であっても、ダストの性状が変動した場合には、必ずしも必要な強度を有するダスト塊成鉱が得られない場合があった。
特開2001−214222号公報 特開昭52−88519号公報
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、製鉄工程の各所で発生する鉄分含有ダストが任意の割合で混合されてなる原料ダストに対し、原料ダストの物理的性質を個別に把握してから最適な処理条件を決定し、その処理条件に従ってダスト塊成鉱を製造することで、強度にバラツキのないダスト塊成鉱の製造方法を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明のダスト塊成鉱の製造方法は、製鉄工程において発生する高炉ダスト、転炉ダスト、鉄鉱石粉のうち2種以上の鉄分含有ダストが、高炉ダストの混合比率は5〜60質量%の範囲、転炉ダストの混合比率は10〜70質量%の範囲、鉄鉱石粉の混合比率は5〜65質量%の範囲で混合されてなる原料ダストに、原料ダストの全量に対して1質量%〜5質量%の水溶性有機系バインダと原料ダストの全量に対して10質量%〜25質量%の水とを添加して混練する際に、混練後の原料ダストに対する空隙飽和度が80%以上になるように混練時間を調整する工程と、混練後の原料ダストを含む混練物を成形してダスト塊成鉱とする工程と、を具備してなることを特徴とする。
また、本発明のダスト塊成鉱の製造方法においては、前記混練時間を調整する工程において、前記原料ダストの水に対する濡れ性を測定し、前記濡れ性の結果に基づいて、前記原料ダストに対する空隙飽和度が80%以上になるように混練時間を調整することが好ましい。
また、本発明のダスト塊成鉱の製造方法においては、前記原料ダストの水に対する濡れ性として前記原料ダストの毛管上昇速度を測定してから、下記式(1)に基づいて混練時間を決定することが好ましい。
空隙飽和度(%)=100×b×(1−(1/(a・t+1)))…(1)
ただし、式(1)において、aは原料ダストの毛管上昇速度(mm/秒)であり、tは混練時間(秒)であり、bは混練方法によって決まる混練定数であって、パドル式混練法でb=1.0として求めた空隙飽和度を基準としたときの各混練法での空隙飽和度の比である。濡れ性の評価としては毛管上昇速度に限定されるものではなく、例えば、化学工学便覧(1994年、丸善)の第246頁等に記載されている浸液重量法や浸漬熱量法を用いても良い。
また、本発明のダスト塊成鉱の製造方法においては、パドル式混練法によって混練する場合には前記bを1.0に設定し、回転式混練法によって混練する場合には前記bを0.8に設定することが好ましい。
上記のダスト塊成鉱の製造方法によれば、混練後の原料ダストの空隙飽和度が80%以上になるように混練時間を調整するので、原料ダストの性質に合わせて混練時間を最適化することができ、これにより、どのような組成の原料ダストであっても、強度が一定なダスト塊成鉱とすることができる。
また、上記のダスト塊成鉱の製造方法によれば、原料ダストの性質として、混練時の媒体として使用する水に対する濡れ性を利用するので、混練時間をより最適化することができる。
更に、上記のダスト塊成鉱の製造方法によれば、原料ダストの毛管上昇速度を測定し、これを上記(1)式に代入して混練時間を求めるので、混練時間を容易にかつ精度良く決めることができる。
また、上記式(1)には、混練条件によって定まる混練定数が導入されているので、混練条件に左右されることなく、混練時間を容易にかつ精度良く決めることができる。
本発明のダスト塊成鉱の製造方法によれば、製鉄工程の各所で発生する鉄分含有ダストが任意の割合で混合されてなる原料ダストに対し、原料ダストの物理的性質を個々に把握してから最適な処理条件を決定し、その処理条件に従ってダスト塊成鉱を製造することで、強度にバラツキのないダスト塊成鉱の製造方法を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
まず、本実施形態のダスト塊成鉱の製造方法の手順を順に述べると、原料ダストを用意し、次いで、この原料ダストの水に対する濡れ性を測定し、次いで、この濡れ性の結果から原料ダストに最適な混練時間を算出し、次いで、原料ダストに水溶性有機系バインダ(以下、バインダという)と水を添加し、次いで、先に算出した混練時間に基づいて原料ダストとバインダと水を混練し、次いで、混練後の混練物を成形してダスト塊成鉱とする。
以下、各手順について詳細に説明する。
本実施形態のダスト塊成鉱の製造方法に用いられる原料ダストは、製鉄工程において発生する2種以上の鉄分含有ダストが混合されてなるものである。ここで製鉄工程とは、鉄鉱石を原料として高炉で溶銑とする製銑工程、高炉から出銑された溶銑を転炉において精錬するとともに必要に応じて成分調整を行う工程、転炉から溶鋼を連続鋳造機に搬送してから連続鋳造してスラブ等の鋳片を鋳造する鋳造工程、スラブ等の鋳片を熱間圧延して、鋼板や鋼管、さらに線材等の製品する工程をまでを少なくとも含む工程である。なお前記製銑工程や精錬を含む工程に代わり、電気炉にスクラップ等を投入して溶鋼を製造する工程でも構わない。
例えば、鉄鉱石を原料として高炉で溶銑とする工程では、高炉周辺において、いわゆる鉄鉱石粉とよばれる鉄分含有ダストが発生する。この鉄鉱石粉は、粒径が10〜100μm程度のもので、Feを85質量%程度含み、残部としてCaO、SiO等を含んでいる。この鉄鉱石粉は主に集塵機で集められて所定の集積場に集積される。
また、高炉周辺からは、高炉ダストと呼ばれる鉄分含有ダストも排出される。この高炉ダストは、粒径が10〜200μm程度、平均粒径が50μm程度のもので、Feを70質量%程度含み、グラファイトを5質量%程度含み、残部としてCaO、SiO等を含んでいる。この高炉ダストは主に集塵機とバグフィルタによって集められて所定の集積場に集積される。
また、転炉における精錬工程及び成分調整工程においては、転炉周辺において、転炉ダストと呼ばれる鉄分含有ダストが排出される。この転炉ダストは、粒径が1〜50μm程度、平均粒径が7〜8μm程度のもので、FeとFeOを合計で85質量%程度含み、残部としてCaO、SiO等を含んでいる。FeとFeOの割合はほぼ1:1である。この転炉ダストは、湿式集塵機によって集められ、天日で乾燥して含水量を数質量%程度まで低下させ、その後、所定の集積場に集積される。
また、連続鋳造工程や圧延工程ではスケールが発生する。このスケールは、FeOを主成分とするもので、連続鋳造機内の冷却水や熱間圧延時のデスケーリング用の水や冷却水に混入したものがフィルタで分別されて回収される。スケールは、転炉ダストと同様に、天日で乾燥して含水量を数質量%程度まで低下させ、その後、所定の集積場に集積される。
尚、上記の鉄分含有ダストはあくまで一例であり、本発明においてはこれ以外の鉄分含有ダストを用いて良いことは言うまでもない。
各集積場に集積された鉄分含有ダストは、任意の割合で混合されて原料ダストに調製される。例えば、高炉ダストの混合比率は5〜60質量%の範囲でも良く、転炉ダストの混合比率は10〜70質量%の範囲でも良く、鉄鉱石粉の混合比率は5〜65質量%の範囲でよい。またこの他に数質量%〜数十質量%程度のスケールが含まれていても良い。尚、原料ダストの混合比は全くの任意であり、上記の混合比率はあくまで例示であり、原料ダストの混合比がこれに限定されるものではない。
尚、原料ダストには、湿式集塵機によって集積された鉄分含有ダストが含まれるため、原料ダスト自体には数質量%程度の水分が含まれる。
こうして調製された原料ダストは、上述のように様々な工程において排出された鉄分含有ダストを任意の割合で含有しているので、水分量、粒度、成分が原料ダスト毎に異なっており、水に対する濡れ性も当然に原料ダスト毎に異なっている。本実施形態においては、原料ダストとバインダと水とを混練してダスト塊成鉱を製造するので、原料ダストと水との親和性を予め把握しておくことが極めて重要である。すなわち、原料ダストの濡れ性が高ければ、原料ダストが水に馴染みやすいので、80%以上の空隙飽和度を達成するためには混練時間が短くて済む。一方、原料ダストの濡れ性が低いと、原料ダストが水に馴染みにくいので、80%以上の空隙飽和度を達成するためには混練時間を長くする必要がある。原料ダストの水に対する濡れ性と、空隙飽和度と、混練時間との関係については後述するが、ここではまず、原料ダストの段階で水に対する濡れ性を評価しておく必要がある。
原料ダストの水に対する濡れ性は、上述したように、浸透速度法のほか、浸液重量法、浸漬熱量法などの手法で評価することが望ましく、特に、浸透速度法(化学工学便覧,1994年,丸善,246頁)に準じた方法によって、毛管上昇速度を測定することで評価することが望ましい。図1には、毛管上昇速度の測定装置の例を示す。図1に示すように、この測定装置1は、中空部2aの内径が30mmのアクリル製円筒管2と、アクリル製円筒管2の底部に装着された目開き90μmのガーゼ生地3と、アクリル製円筒管2を収容するシャーレ4とから概略構成されている。
この試験装置1を用いて毛管上昇速度を測定するには、まず、アクリル製円筒管2の底部にガーゼ生地3を装着して中空部2aの一端側を塞ぎ、次に中空部に2aに原料ダスト5を高さ100mmになるまで充填する。充填後の原料ダスト5に対しては、アクリル製円筒管2とともに5回程度タッピングすることで、嵩密度のバラツキを低減する。
次に、シャーレ4に水を満たし、このシャーレ4に満たされた水中に、アクリル製円筒管2を浸漬させる。アクリル製円筒管2の浸漬高さが20mmになるように、アクリル製円筒管2とシャーレ4の相対位置を調整する。その後、シャーレ4に水を注いでシャーレ4における水面高さが常に30mmになるように調整する。
アクリル製円筒管2を水に浸漬させると、水が原料ダストに浸透して、中空部2aにおける水位が次第に上昇する。アクリル製円筒管2を水に浸漬した時点を開始時間とし、この開始時間からの経過時間(秒)と、中空部における水位の変化量(mm)との関係から、毛管上昇速度(mm/分)が求められる。毛管上昇速度は、経過時間(秒)と水位の変化量(mm)とが定常状態になった範囲で測定することが望ましい。定常状態とは、水位の変化量が経過時間に対してほぼ一定に変化した状態をいい、より具体的には開始時間から400秒以上経過した状態を言う。
ここで得られた毛管上昇速度は、数値が高いほど原料ダストに対する水の濡れ性が高いことを示し、数値が低いほど水の濡れ性が低いことを示すことになる。
次に原料ダストに対して、水溶性有機系バインダと水とを添加して混練する。原料ダストに対して水溶性有機系バインダと水とを添加して混練することによって、図2に示すように、水に水溶性有機系バインダが溶解し、このバインダが溶解されてなる水11(以下、バインダ含有水という)が、原料ダストを構成するダスト粒子12の周囲に分散して、ダスト粒子12同士の間に入り込む。その後、混練物を成形する際に水を除去することによって、ダスト粒子12同士が水溶性有機系バインダによって強固に結着された状態になる。
従って、混練物から成形されたダスト塊成鉱が十分な機械的強度を備えるためには、混練の段階で、バインダ含有水11が、混練時にダスト粒子12の周囲に十分に行き渡る必要がある。図2に示すように、ダスト粒子の一部に、バインダ含有水が行き渡らない部分13が発生すると、この行き渡らない部分13にはバインダが付着せず、ダスト塊成鉱の機械的強度を低下させる要因になる。
本発明では、原料ダストのダスト粒子に対してバインダ含有水が十分に行き渡ったかどうかを評価するパラメータとして、原料ダストの空隙飽和度を採用する。空隙飽和度とは、粉体を構成する構成粒子同士間の全空隙のうち、例えば水等によって埋められている(飽和している)空隙の割合を言う。空隙飽和度は例えば、バインダ含有水を含んだ原料ダストを走査型電子顕微鏡で観察し、ダスト粒子間の全空隙面積に対する、バインダ含有水で満たされた空隙の割合を、画像処理することによって求められる。
本発明においては、混練後の原料ダストの空隙飽和度が80%以上になることが望ましい。空隙飽和度が80%以上であれば、後で実証するようにダスト塊成鉱の1個当たりの圧潰強度が50kg以上となり、ダスト塊成鉱の集合体を重機等で取り扱った場合でもダスト塊成鉱が粉化、崩壊することがない。
混練の際に添加する水溶性有機系バインダとしては、澱粉を用いることが好ましく、より具体的には、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、甘藷澱粉またはこれらの化工澱粉を用いることができる。
水溶性有機系バインダの添加量は、原料ダストの全量に対して1質量%〜5質量%の範囲とすることが好ましく、2質量%〜5質量%の範囲とすることがより好ましく、2質量%〜3質量%の範囲とすることが最も好ましい。バインダの添加量が1質量%未満になると、バインダ量が少なくなりすぎて、ダスト塊成鉱の機械的強度を高めることができなくなる。また、バインダの添加量が5質量%を超えると、原料ダストと水との配合バランスが悪くなり、却ってダスト塊成鉱の機械的強度が低下するので好ましくない。
また、混練の際に添加する水の量としては、原料ダストの全量に対して10質量%〜25質量%の範囲とすることが好ましい。水の添加量が10質量%未満になると、空隙飽和度を80%以上にするのが困難になる。また、水の添加量が25質量%を超えると、原料ダストとバインダとの配合バランスが悪くなり、原料ダストのダスト粒子が水に浮いた状態になり、ダスト粒子同士を結着させることができなくなるので好ましくない。
原料ダストをバインダと水とともに混練する際には、各種の混練機を用いることができ、より具体的には、パドル式混練機、ボール式のボールミル、回転式のミックスマラー、ブレード式のパドルミキサー等を例示することができる。
混練する際の混練時間は、原料ダストの水に対する濡れ性を考慮して決定することが望ましい。すなわち上述したように、水に対する濡れ性が原料ダスト毎に異なっていることから、当然に最適な混練時間が変わって来る。特に、水に対する濡れ性が低い原料ダストに対して混練時間を短くなると、混練後の原料ダストの空隙飽和度が80%未満になって、ダスト塊成鉱の強度が低下してしまう虞がある。また、水に対する濡れ性が高い原料ダストに対して混練時間を長くすると、原料ダストの空隙飽和度が早期に80%以上に達し、それ以降の混練は無駄になってしまう。
本発明においては、原料ダストの毛管上昇速度を測定してから、下記式(2)に基づいて混練時間を決定することが望ましい。尚、式(2)は、後述するように実験から求められた実験式である。
ただし、式(2)において、aは原料ダストの毛管上昇速度(mm/秒)であり、tは混練時間(秒)であり、bは混練方法によって決まる混練定数であって、パドル式混練法でb=1.0として求めた空隙飽和度を基準としたときの各混練法での空隙飽和度の比であある。
空隙飽和度(%)=100×b×(1−(1/(a・t+1)))…(2)
本発明においては、空隙飽和度(%)が80%以上になることが好ましいから、式(2)は下記式(3)のように変形される。すなわち、この式(3)が成立するように混練時間(秒)(t)を決めてやればよい。例えば、混練定数bが1の場合、原料ダストの毛管上昇速度a(mm/秒)が0.014(mm/秒)であった場合には、混練時間t(秒)は290秒以上になる。
80%≧100×b×(1−(1/(a・t+1)))…(3)
また、混練法によっては、混練物に対するトルク量が変わってくることから、混練方法に応じて式(2)または式(3)におけるb値の値を変更してやると良い。例えば、パドル式混練法によって混練する場合にはbを1.0に設定し、回転式混練法によって混練する場合にはbを0.8に設定することが好ましい。このbの値についても、後述するように実験から求められた実験値である。回転式混練法、パドル式混練法以外の方法については、後述する実験方法と同様にしてそのb値を算出してやればよい。
混練後の混練物に対し、押出成形を施して例えば直径20mm程度、高さ20mm程度の円柱状のペレットに成形する。次いで例えば150℃、1時間の条件で乾燥を行ってペレット中に含まれる水分を蒸発させ、含水率を1質量%以下にする。この水分の蒸発によって、ペレット中のダスト粒子同士がバインダによって強固に結着される。このようにして、ペレット状のダスト塊成鉱が得られる。
調製されたダスト塊成鉱は、鉄分を多く含んでいるので、鉄資源として高炉または転炉に投入されて再利用される。
上記のダスト塊成鉱の製造方法によれば、混練後の原料ダストの空隙飽和度が80%以上になるように混練時間を調整するので、原料ダストの性状に合わせて混練時間を最適化することができ、これにより、どのような原料ダストであっても、強度が一定なダスト塊成鉱とすることができる。
また、原料ダストの性状として、混練時の媒体として使用する水に対する濡れ性を利用するので、混練時間をより最適化することができる。
更に、原料ダストの毛管上昇速度を測定し、これを上記(2)式に代入して混練時間を求めるので、混練時間を容易にかつ精度良く決めることができる。
また、上記式(2)には、混練条件によって定まる混練定数が導入されているので、混練条件に左右されることなく、混練時間を容易にかつ精度良く決めることができる。
また、上記のダスト塊成鉱の製造方法によれば、バインダとして澱粉を用いるので、調製されたダスト塊成鉱にはSOxガス発生原因となる硫黄(S)が含まれず、これによりSOx排出量の低減を図ることができ、更に、転炉で使用した場合でも、製品のS分が上昇せず、品質面でも優れている。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。
「実験例1(ダスト塊製鋼の空隙飽和度と圧潰強度との関係)」
原料ダストとして、転炉ダスト80質量%部、高炉ダスト20質量%部が混合されてなる原料ダストを用意した。
尚、転炉ダストは、粒径が1〜50μm程度、平均粒径が7〜8μm程度のもので、FeとFeOを合計で85質量%程度含み、残部としてCaO、SiO等を含んでおり、FeとFeOの割合はほぼ1:1であり、含水率は数質量%である。また、高炉ダストは、粒径が10〜200μm程度、平均粒径が50μm程度のもので、Feを70質量%程度含み、グラファイトを5質量%程度含み、残部としてCaO、SiO等を含んでおり、水分量はほぼ0質量%である。
次に、原料ダスト全量の2質量%相当量のコーンスターチと、原料ダスト全量の15質量%相当量の水とを添加して混合物とし、この混合物に対してパドル式混練機によって様々な混練時間で混練を行った。混練時間を変えることで、原料ダストの空隙飽和度を0〜100%の範囲に調整した。混練の終了後、押出成形機を用いて混練物を直径20mm、高さ20mmの円柱状のペレットに成形し、その後、150℃で1時間加熱する条件で乾燥を行った。このようにしてダスト塊成鉱を製造した。
得られたダスト塊成鉱について、ペレット1個当たりの圧潰強度を測定すると共に、混練後の混練物について空隙飽和度を測定した。空隙飽和度の測定は、上述したように、バインダ含有水を含んだ原料ダストを走査型電子顕微鏡で観察し、ダスト粒子間の全空隙面積に対する、バインダ含有水で満たされた空隙の割合を、画像処理することによって求めた。
図3に、空隙飽和度と圧潰強度との関係をグラフで示す。
図3に示すように、空隙飽和度が60%を超えた付近から、圧潰強度が急激に上昇し始め、空隙飽和度が80%の時に圧潰強度が50kg/個まで上昇していることがわかる。50kg/個以上の圧潰強度は、ペレット状のダスト塊成鉱の機械的強度の一つの目安であり、50kg/個以上であれば、重機によってダスト塊成鉱を搬送等した場合でも衝撃によってダスト塊成鉱が崩れることがなく、ダスト塊成鉱の粉化、崩壊が防止される。
従って、本発明において、ダスト塊成鉱の機械的強度を50kg/個以上にするためには、混練条件等を制御して、混練後の原料ダストの空隙飽和度を80%以上まで高める必要があることがわかる。尚、図3に示す圧潰強度と空隙飽和度の関係は、たとえ原料ダストの組成が変わったとしても変わるものではなく、原料ダストに対するバインダの添加量が1〜5質量%の範囲で、かつ水の添加量が10〜25質量%の範囲であれば、空隙飽和度が80%のときの圧潰強度は50kg/個程度になる。
「実験例2(原料ダストの種類と毛管上昇速度との関係)」
原料ダストとして、転炉ダスト、高炉ダスト及び鉄鉱石粉をそれぞれ用意した。転炉ダスト及び高炉ダストについては、実験例1と同じものを用いた。また、鉄鉱石粉は、粒径が10〜100μm程度のもので、Feを85質量%程度含み、残部としてCaO、SiO等を含み、含水率はほぼ0質量%のものである。
各原料ダストについて毛管上昇速度を測定した。毛管上昇速度の測定装置としては、図1に示す測定装置を用いた。図1におけるアクリル製円筒管の底部にガーゼ生地を装着して中空部の一端側を塞ぎ、次に中空部に原料ダストを高さ100mmになるまで充填した。充填後の原料ダストに対してはアクリル製円筒管とともに5回程度タッピングし、原料ダストを落ち着かせた。次に、シャーレに水を満たし、このシャーレに満たされた水中に、アクリル製円筒管を浸漬させた。アクリル製円筒管の浸漬高さが20mmになるように、アクリル製円筒管とシャーレの相対位置を調整した。その後、シャーレに水を注いでシャーレにおける水面高さが常に30mmになるように調整した。
アクリル製円筒管を水に浸漬させると、水が原料ダストに浸透して中空部における水位が次第に上昇するので、アクリル製円筒管を水に浸漬した時点を開始時間とし、この開始時間からの経過時間(秒)と、中空部における水位の変化量(mm)との関係をグラフにプロットした。結果を図4に示す。
図4に示すように、高炉ダストのプロットの傾きが最も大きく、すなわち毛管上昇速度が最も大きくなっていることがわかる。次いで、鉄鉱石粉のプロットの傾きが次に大きくなり、転炉ダストのプロットの傾きが最も小さくなっている。
図4に示すように、経過時間が400秒を超えた時点からどの原料ダストのプロットも安定していると認められるので、経過時間400秒〜1000秒の区間における、水位の変化量(毛管高さ)から、各原料ダストの毛管上昇速度を算出すると、高炉ダストの場合に0.025mm/秒となり、鉄鉱石粉の場合に0.017mm/秒となり、転炉ダストの場合に0.010mm/秒になることがわかった。
以上のように、転炉ダスト、高炉ダスト及び鉄鉱石粉については、毛管上昇速度がそれぞれ異なっているので、混練時間を最適化するためには、原料ダストの毛管上昇速度を考慮する必要があることがわかった。尚、図4に示す傾向は、原料ダストに対するバインダの添加量が1〜5質量%の範囲で、かつ水の添加量が10〜25質量%の範囲であれば、ほぼ同様な結果が得られるものと考えられる。
「実験例3(原料ダストの種類と空隙飽和度との関係)」
原料ダストとして、転炉ダスト、高炉ダスト及び鉄鉱石粉をそれぞれ用意した。これらはいずれも、実験例1及び実験例2で使用したものと同じものを用いた。
次に、各原料ダストに、原料ダスト全量の2質量%相当量のコーンスターチと、原料ダスト全量の15質量%相当量の水とをそれぞれ添加して混合物とし、この混合物に対してパドル式混練機によって0〜300秒の範囲の混練時間で混練を行った。混練後の混練物について、空隙飽和度を測定した。空隙飽和度の測定は、混練物を走査型電子顕微鏡で観察し、ダスト粒子間の全空隙面積に対する、バインダ含有水で満たされた空隙の割合を、画像処理することによって求めた。
各原料ダストについての、混練時間と空隙飽和度との関係を図5に示す。
図5に示すように、混練時間の経過に伴って空隙飽和度が上昇するが、80%の空隙飽和度に達するまでの混練時間は、原料ダストの種類によって異なっていることがわかる。すなわち、最も早く80%の空隙飽和度に達したのは高炉ダストであって、そのときの混練時間はおよそ130秒である。次いで、鉄鉱石粉が200秒で空隙飽和度80%に達し、最後に転炉ダストが300秒になってようやく80%近くまで上昇している。この順序は、実験例2における毛管上昇速度の高い順序に一致している。すなわち、毛管上昇速度が高いほど、換言すると原料ダストの水に対する濡れ性が高いほど、80%の空隙飽和度に達するまでの混練時間が短くなることが判明した。
「実験例4(毛管上昇速度、空隙飽和度及び混練時間との関係)」
原料ダストとして、高炉ダスト60質量%部、転炉ダスト20質量%部及び鉄鉱石粉20質量%部が混合されてなる原料ダストを用意した。これらはいずれも、実験例1及び実験例2で使用したものと同じものである。この原料ダストについて、毛管上昇速度を実験例2と同様にして測定した。
また、この原料ダストに、原料ダスト全量の2質量%相当量のコーンスターチと、原料ダスト全量の15質量%相当量の水とをそれぞれ添加して混合物とし、この混合物に対してパドル式混練機によって0〜300秒の範囲の混練時間で混練を行った。混練後の混練物について、空隙飽和度を測定した。空隙飽和度の測定は、実験例3と同様にして行った。
原料ダストについての混練時間と空隙飽和度との関係を図6に示す。
本実験例で使用した原料ダストの毛管上昇速度は0.020mm/秒であった。
また、図6に示すように、混練時間が0〜100秒の間で空隙飽和度が急激に上昇し、100秒を過ぎてから空隙飽和度の上昇が緩やかになった。
図6に示すプロットの回帰曲線を最小自乗法により算出したところ、下記の実験式(4)が導出された。ただし、式(4)において、aは原料ダストの毛管上昇速度(mm/秒)であり、tは混練時間(秒)である。
空隙飽和度(%)=100×(1−(1/(a・t+1)))…(4)
この実験式(4)の曲線を図6のプロットに重ねたグラフを図7に示す。図7に示すように、実験式の曲線とプロットとが良く一致していることがわかる。
次に、パドル式混練機に代えて、回転式混練機を用いたこと以外は上記と同様にして、0〜300秒の範囲の混練時間で混練を行い、混練後の混練物について、空隙飽和度を測定した。空隙飽和度の測定は、実験例3と同様にして行った。回転式混練機を使用した場合の原料ダストの混練時間と空隙飽和度との関係を図8に示す。図8には、パドル式混練機を用いた場合の混練時間と空隙飽和度との関係を合わせて示す。
図8に示すように、回転式混練機を用いた場合は、パドル式混練機を用いた場合に比べて、空隙飽和度が若干低下する傾向がある。このように、混練方式によって空隙飽和度が変化する場合には、混練条件によって決まる混練定数を上記式(4)に導入することで、一般化できるものと考えられる。パドル式混練機の場合の空隙飽和度を基準にすると、回転式混練機による空隙飽和度はパドル式の0.8倍であるので、上記式(4)に混練係数bを導入して式(5)とし、回転式混練法によって混練する場合にはbを0.8に設定し、パドル式混練法によって混練する場合にはbを1.0に設定することで、混練時間を精度良く決定できることが判明した。
空隙飽和度(%)=100×b×(1−(1/(a・t+1)))…(5)
本実験例では、回転式混練機を用いた場合のb値の算出方法について説明したが、その他の混練法を使用した場合でも、上記と同様にしてb値を求めればよい。すなわち、他の混練方法によって混練された原料ダストについて、図8と同様にして混練時間と空隙飽和度との関係を調査し、パドル式混練方法の空隙飽和度を基準にして、他の方法による空隙飽和度のパドル式混練方法に対する倍率を計算し、その倍率をb値にすればよい。
「実験例5」
原料ダストとして、下記の表1に示すNo.1〜No.5の5種類の原料ダストを用意した。各原料ダストを構成する高炉ダスト等はいずれも、実験例1及び実験例2で使用したものと同じものである。この原料ダストについて、毛管上昇速度を実験例2と同様にして測定した。そして、得られた毛管上昇速度を、上記式(5)に代入することによって、各原料ダストに最適な混練時間を算出した。
毛管上昇速度と混練時間の計算値を表1に示す。
次に、各原料ダストに、原料ダスト全量の2質量%相当量のコーンスターチと、原料ダスト全量の15質量%相当量の水とをそれぞれ添加して混合物とし、この混合物に対してパドル式混練機によって混練を行った。混練時間は、先に算出した混練時間の通りとした。
混練後の混練物について、空隙飽和度を測定した。空隙飽和度の測定は、実験例3と同様にして行った。
空隙飽和度を測定後の混練物に対して押出成形を行い、直径20mm、高さ20mmの円柱状のペレットに成形した。その後、150℃、1時間で乾燥してペレットの含水率を1質量%以下に低減させた。このようにして実施例のダスト塊成鉱を製造した。
得られたダスト塊成鉱について、圧潰強度を測定するとともに、圧潰強度測定の際に、ペレットが潰れて粉化したかどうか確認した。
表2には、実際の混練時間、空隙飽和度、圧潰強度、粉化の有無、平均混練時間、粉化率を示す。
また、混練時間を270秒に固定したこと以外は上記実施例と同様にして、比較例のダスト塊成鉱を製造した。結果を表2に示す。
Figure 0005114721
Figure 0005114721
*1)混練時間不足による粉化発生。
*2) 混練時間不足による粉化発生
表2に示すように、実施例の場合、適切な混練時間を設定したことによって、空隙飽和度がいずれも80%以上となり、またペレットの圧潰強度の50kg/個以上となり、粉化も全く起きていないことがわかる。
一方、比較例については、No.1の原料ダストの場合は、混練時間が計算値(290秒)よりも20秒ほど短かったために、空隙飽和度が78%程度になり、これにより圧潰強度も35kg/個に低下していることがわかる
次に、No.3の原料ダストの場合は、混練時間が計算値(300秒)よりも30秒ほど短かったために、空隙飽和度が77%程度になり、これにより圧潰強度も32kg/個に低下していることがわかる
図1は、本発明の実施形態であるダスト塊成鉱の製造方法を実施する際の、毛管上昇速度を測定する測定装置を示す模式図である。 図2は、原料ダスト中のダスト粒子を示す拡大模式図である。 図3は、実験例1の原料ダストの空隙飽和度と圧潰強度との関係をグラフである。 図4は、実験例2において原料ダストの毛管上昇速度を測定した際の、経過時間(秒)と中空部における水位の変化量(mm)との関係を示すグラフである。 図5は、実験例3において原料ダストの混練時間と空隙飽和度との関係を示すグラフである。 図6は、実験例4において原料ダストの混練時間と空隙飽和度との関係を示すグラフである。 図7は、実験例4において原料ダストの混練時間と空隙飽和度との関係を示すグラフである。 図8は、実験例4において回転式混練法及びパドル式混練法で混練した場合の、原料ダストの混練時間と空隙飽和度との関係を示すグラフである。
符号の説明
1…毛管上昇速度の測定装置

Claims (4)

  1. 製鉄工程において発生する高炉ダスト、転炉ダスト、鉄鉱石粉のうち2種以上の鉄分含有ダストが、高炉ダストの混合比率は5〜60質量%の範囲、転炉ダストの混合比率は10〜70質量%の範囲、鉄鉱石粉の混合比率は5〜65質量%の範囲で混合されてなる原料ダストに、原料ダストの全量に対して1質量%〜5質量%の水溶性有機系バインダと原料ダストの全量に対して10質量%〜25質量%の水とを添加して混練する際に、混練後の原料ダストに対する空隙飽和度が80%以上になるように混練時間を調整する工程と、
    混練後の原料ダストを含む混練物を成形してダスト塊成鉱とする工程と、を具備してなることを特徴とするダスト塊成鉱の製造方法。
  2. 前記混練時間を調整する工程において、前記原料ダストの水に対する濡れ性を測定し、前記濡れ性の結果に基づいて、前記原料ダストに対する空隙飽和度が80%以上になるように混練時間を調整することを特徴とする請求項1に記載のダスト塊成鉱の製造方法。
  3. 前記原料ダストの水に対する濡れ性として前記原料ダストの毛管上昇速度を測定してから、下記式(1)に基づいて混練時間を決定することを特徴とする請求項2に記載のダスト塊成鉱の製造方法。
    空隙飽和度(%)=100×b×(1−(1/(a・t+1)))…(1)
    ただし、式(1)において、aは原料ダストの毛管上昇速度(mm/秒)であり、tは混練時間(秒)であり、bは混練方法によって決まる混練定数であって、パドル式混練法でb=1.0として求めた空隙飽和度を基準としたときの各混練法での空隙飽和度の比である。
  4. パドル式混練法によって混練する場合には前記bを1.0に設定し、回転式混練法によって混練する場合には前記bを0.8に設定することを特徴とする請求項3に記載のダスト塊成鉱の製造方法。
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