一般印刷用途に使用される、顔料および接着剤を主成分とした塗工層を、セルロース繊維を主体とした紙基材上の少なくとも片面上に少なくとも1層設けてなる顔料塗工紙(以下、単に塗工紙と言う)は、カタログ、ポスター、雑誌や美術誌等、多くの商業分野で幅広く使用されている。最近の傾向としては、白紙および印刷品質要求の高まりを受け、白色度や白紙光沢などの塗工紙としての品質はもちろん、印刷後の印刷光沢・平滑度等の品質も向上している。
塗工紙の製造に当たっては、ブレードコーター、ロールコーター、ロッドブレードコーター、バーコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、スロットコーター、スライドコーター、スプレーコーター等の各種の塗工方式が用いられるが、塗工紙の中でも品質要求の高い品種においては、ブレードコーターが好適に用いられる。これは、ブレードコーターにて塗工された塗工紙が、他の塗工方式で塗工された塗工紙と比較して、白紙の光沢や平滑度といった品質の面で優れたものを得やすく、また、高速での塗工紙製造が可能であるためである。しかしながら、近年の塗工紙の高品質化、および製造速度の高速度化に伴い、操業性が低下し、製造効率が低下するという問題がクローズアップされてきた。
ブレードコーターにおける塗工紙製造の問題点としては、紙切れや塗工量のプロファイル不良、あるいは局所的に塗工されない箇所が現れるスキップコートなどの各種問題点が知られているが、なかでもストリークと呼ばれる、幅数十μm〜数mm、長さ数cm〜数百m以上にわたる筋状の欠陥の発生が、最も大きな問題となっている。
ストリークの発生原因については、循環塗工液中の異物がブレード計量部においてブレード刃先と原紙の間に滞留し、この箇所において筋状に塗工されない状態となる場合や、ブレード計量部出口側のブレード刃先にスタラグマイトと呼ばれる固形物が堆積し(この状態をブリーディングが発生したという)、この固形物が正常に計量が行われた均一な塗工面上に接触することにより発生すると考えられている。さらには、塗工液が原紙上にアプリケートされ、その後ブレード刃にて計量されるまでのわずかな時間においても、塗工液中の水分は多孔質で吸水性のある原紙に接触することで塗工液側から原紙側に移動し、結果として塗工液の濃度・粘度は上昇する。この脱水行程が局所的に不均一に行われて凝集物を形成し、前述した異物がブレード刃先と原紙間に滞留したのと同じ状態となり、ストリーク発生につながると考えられる。また、塗工液のブレード摩耗性が高い場合、局所的にブレード刃の摩耗が進行し、ブリーディングが誘発され、ストリークが発生することもある。
高速塗工適性、または高速塗工時の操業性改善という面では、スタラグマイトやブリーディングの発生を抑制するため、ブレード刃直下での高せん断速度域での流動性を良好する目的で、ハイシェア域での粘度を低く保つ手法や、加圧・脱水過程にて塗工液の固形分上昇による流動性低下を抑制するため、保水度と呼ばれる塗工液が水を保持する要素を良好とする方法がとられてきた。このため、顔料および接着剤を主成分とする、原紙上に塗工層を形成する塗工液(以下、単に塗工液という)の組成や物性面を規定したり、あるいは特定の材質を持つブレード刃を使用するなど、操業性の改善を行う目的で種々の提案がされている。
例えば、塗工液が紙基材に接触してから計量されるまでの時間を短くすることにより、塗工液の固形分上昇を最小限として操業性低下を回避する方法(例えば、特許文献1参照)、塗工液中に特定の置換度を持つアセチル化澱粉を用いる方法(例えば、特許文献2参照)、ブレード刃下での異物侵入によるストリークを抑制するため、特定の原紙にバッキングロールに接触するブレードの接触長が長くなるベントブレードを用いて塗工層を形成する方法(例えば、特許文献3参照)、特定の下塗り層に特定の顔料を含有する塗工層をベントブレードを用いて設ける方法(例えば、特許文献4参照)、特定のブレード刃を使用する方法(例えば、特許文献5参照)、ダブル塗工を行う際に、下塗り層表面を粗面化処理する方法(例えば、特許文献6参照)、特定の高せん断粘度を有する、炭酸カルシウムを特定量含有する塗工液をプレブレードとアフターブレードの2回掻き取ることで計量を行う方法(例えば、特許文献7参照)、特定の小粒径、低ゲル含量を有するラテックスを使用する方法(例えば、特許文献8参照)等を挙げることができる。
しかしながら、発明者らがこれら提案について検討した結果、近年要求される高品質な塗工紙を、高速で効率よく生産するためには、未だ不十分であることが判明した。例えば、塗工液が紙基材に接触してから計量されるまでの時間を短くする手法では、計量前に原紙へ浸透する水分量が低下することからストリーク発生が低減することが期待されるものの、計量後にも紙基材への水分浸透が進行し、原紙繊維が膨潤することにより得られる塗工紙の平滑度が低下する問題を抱えている。塗工液中に特定の置換度を持つアセチル化澱粉を用いる方法では、該澱粉の配合量が全固形分中3重量%未満であると塗工紙品質の向上が期待できるが、塗工液の保水度が低下し、操業性は悪化する。ブレード刃下での異物侵入によるストリークを抑制するため、特定の原紙にバッキングロールに接触するブレードの接触長が長くなるベントブレードを用いて塗工層を形成する艶消し塗工紙の製造方法や、特定の下塗り層に特定の顔料を含有する塗工層を設けてなるベントブレードを用いた光沢塗工紙の製造方法では、塗工量を低減させることが難しく、例えば塗工濃度を低減させる等によって塗工量を低減することは達成できるが、得られる塗工紙の品質は低下する。特定のブレード刃を使用する方法では、ブレード刃先の摩耗によるストリークの発生は抑制できるものの、高速塗工適性の劣る塗工液を使用した場合には、ストリークの抑制には効果がない。ダブル塗工を行う際に、下塗り層表面を粗面化処理する方法では、ブレードは下への異物の滞留確率は減少するが、保水度の劣る塗工液を塗工する際にはストリーク発生を抑制できないばかりか、光沢塗工紙の製造においては得られる塗工紙の光沢・平滑度が低下する。特定の高せん断粘度を有する、炭酸カルシウムを特定量含有する塗工液をプレブレードとアフターブレードの2回掻き取ることで計量を行う方法では、塗工液保水度が劣る場合にプレブレードでの書き取りの際に塗工液の不動化が促進され、アフターブレードでの掻き取り時に塗工量制御が困難になりやすいとともにストリークが発生しやすくなる。特定の小粒径、低ゲル含量を有するラテックスを使用する方法では、高せん断速度下での粘度低減には効果があるが、塗工層強度、印刷品質の面で不十分で、かつ該ラテックスの製造コストが高いといった問題点がある。
特公平1−22399号公報
特開平7−189179号公報
特開平7−189184号公報
特開平7−216791号公報
特開平7−331597号公報
特開平5−51898号公報
特開平9−158085号公報
特開平10−96193号公報
塗工液の保水度を表す方法としてもこれまでいくつかの方法が例示されており、一定圧力で一定時間経過後の塗工液中から押し出された水の量を計測する加圧脱水量測定法(例えば、非特許文献1参照)、および多孔質板上に塗工液の薄膜を形成し、この表面の光沢が薄膜形成後から一定の光沢値まで低下する時間を測定する、光沢低下時間測定法(例えば、非特許文献2参照)などが挙げられる。
しかしながら、加圧脱水量測定法では塗工液濃度が異なる場合、脱水可能な水の量が変化するため、全く同一の組成を有する塗工液を、濃度を変えて測定した場合に全く異なる値が得られる。さらに、加圧脱水量測定法では脱水量が少ない場合に塗工液が水を保持する能力が高い、すなわち保水度が良好であると判断されるが、塗工液濃度を低下させた場合には脱水可能な水の量が増えるため、加圧脱水量としては増加を示し、この点から保水度が低下したと判断される。しかし、実際の操業においては、塗工液濃度を低下させることにより、塗工液の濃度上昇速度を遅らせる働きがあり、このためブリーディング等の塗工欠陥につながる現象は発生しにくくなる。つまり、加圧脱水量測定の結果を比較するに当たっては、塗工液濃度、さらに厳密に言うと加圧下で脱水可能な水の量が同一である場合には脱水量の大小により保水度の比較が可能であるが、大多数の一般的な塗工液の比較を行う場合には、加圧脱水量測定の結果のみによって保水度の議論を行うのは不可能である。
また、光沢低下時間測定法の場合、光沢が低下して一定値を示すようになるまでの時間が長いほど保水度は良好であると判断される。例えば塗工液濃度を低下させて脱水可能な水の量を増やした場合には光沢低下時間は増加し、塗工液の保水度は向上したと言うことができる。この点では先の加圧脱水量測定法と異なり、塗工液濃度(脱水可能な水の量)が異なったとしても、測定結果の光沢低下時間が長いほど保水度が良好であると言うことができ、塗工液濃度にかかわらず光沢低下時間という一つの尺度で塗工液保水度を論ずることが可能である。しかしながらこの方法は、多孔質板上に展開した塗工液の脱水を促進するドライビングフォースとしては、多孔質板の細孔による毛細管力、および多孔質板を形成している素材の吸水力のみであり、実際の塗工時に発生しているブレードの押しつけ圧のような外部からの圧力を考慮できないという欠点を持っている。
このため、塗工液の加圧脱水量や光沢低下時間にて塗工液の保水度を規定し塗工性を改善する方法(例えば、特許文献9参照)では、近年に要求される高品質な塗工紙を、高速で効率良く製造するために使用される塗工液の特定方法としては不十分である。また、特定の塗工液保水度を有し、かつ特定の高せん断下でのキャピラリー粘度を有する塗工液を塗工する方法も提案されているが(例えば、特許文献10参照)、塗工液保水度の測定方法としては加圧脱水量測定法であり、かつキャピラリー粘度測定は、使用するキャピラリーの圧力変化から粘度が算出されるが、この圧力変化はニュートン流体である場合には理論的な取り扱いができるものの、顔料を含有する一般の塗工液のような非ニュートン流体においては圧力変化の理論的取り扱いは困難であり、従って測定に使用するキャピラリ−の種類によって測定結果としての粘度が大きく変化することから、高速塗工時の操業性が良好である塗工液の特定方法としては不十分であった。
「Measuring the water retension of coating colors」、Stefan E.S.ら、TAPPI JOURNAL、Dec.、p207−210、1989
「Coating color structure and water retension」、Beck,U.ら、TAPPI COATING CONFERENCE PROCEEDINGS、p47−54、1983
特開2001−303487号公報
特開平11−336000号公報
接着剤として使用される澱粉は、接着剤としての機能の他に塗工液の保水度を良好にすることが知られており、これまでは塗工液の保水度が劣り高速塗工適性に劣る場合には澱粉使用量を増やす手法がとられてきた。しかしながら、使用澱粉量を増やすことにより、塗工液の保水度が良好になると同時に塗工紙の品質が低下することもよく知られており、特に塗工紙の光沢・平滑度を低下させる傾向が顕著である。さらに、一般的に良く用いられる塗工手法である、下塗り層を設けた後に上塗り層を設ける、いわゆるダブル塗工、あるいは3層以上の塗工層を設ける際にブレード塗工方式を採用する場合、下塗り層表面の平滑度が良好であるほど最終製品の光沢・平滑度が発現しやすく、塗工紙としては好ましいと言えるが、下塗り層の平滑度を向上する程上塗り層塗工時にストリークが発生しやすいという欠点を抱えている。これは、原紙に下塗り層が存在しない、あるいは原紙の下塗り層の平滑度が劣る場合、仮に塗工液中異物がブレード刃先と原紙間に滞留したとしても、原紙の凹凸により異物が持ち去られる確率が高いのに対し、下塗り層が平滑である場合には凹凸が小さいために異物がいつまでも滞留したまま移動できないことに起因すると考えられる。このため、近年の塗工紙品質の向上により、澱粉使用量を低減したり、下塗り塗工層の平滑度を向上させた場合、ストリークの発生頻度が上昇し、高速度での効率的な生産を妨げる要因となっていた。
また、塗工液の保水度向上のため、澱粉以外の物質が用いられることもある。例えば、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、アクリル系樹脂からなるアルカリ膨潤型の、一般的に合成保水剤、あるいは増粘剤と呼ばれる物質の添加が保水度を向上させる(例えば、特許文献11参照)。しかし、発明者らが検討したところ、確かにこれらは澱粉と比較すると少量にて塗工液保水度向上効果があるものの、塗工紙の品質面では光沢・平滑度を低下させる傾向が顕著であり、澱粉使用量増による保水度向上効果が得られるだけの増粘剤を使用した場合、品質面では優位性を見いだせず、近年要求される高品質の塗工紙を高速で効率よく製造するには不十分であった。
上記の如く、近年塗工紙に要求される光沢・平滑度といった品質を高レベルで満たす塗工紙を、高速で操業性良く生産する方法としては、未だ満足する方法がないのが現状である。
セルロース繊維を主体とする紙基材の少なくとも一面上に、顔料および接着剤を主成分とする塗工層を少なくとも1層以上設けてなる塗工紙において、せん断速度1.8×105(1/s)で測定されるハイシェア粘度が40mPa・s以下であり、かつ減圧度700hPa、せん断速度1(1/s)、初期ギャップ0.5mmの条件で、Anton Paar社製レオメーターPhysica MCR101と同社のイモビリゼーションセルとを組み合わせてなる塗工液の不動化時間を測定する装置を使用して測定される塗工液の不動化時間が200秒以上である塗工液を用いることで、ストリーク等の塗工欠陥の発生を効果的に抑制し、高速塗工適性に優れた作業性の良好な塗工紙を得ることができることを見いだし、本発明の完成に至った。
従来から知られているように、高速塗工を行う際には、高せん断領域における粘度が低いほど流動性に優れ、塗工適性としては良好な物となる。発明者らが検討した結果、近年の塗工紙の高品質化に伴い、せん断速度1.8×105(1/s)で測定されるハイシェア粘度(以下、単にハイシェア粘度と述べる)としては40mPa・s以下とすることが必要であることがわかった。ちなみに、ハイシェア粘度が40mPa・sを超えて高い場合、ブレード直下での流動性に劣るため、部分的な凝集の発生やブレード刃先のスタラグマイト生成が起こりやすく、結果としてストリークの発生を増大させ、高品質の塗工紙を効率よく製造することができない。本発明所望の効果を得るためには、ハイシェア粘度として40mPa・s以下とすることが必要であるが、これ以下であれば特に限定されない。しかしながら、低粘度化した場合には塗工液の原紙への浸透が増大したり、塗工液の原紙への供給部、あるいはブレードメタリング部において液跳ね等が生じやすくなる可能性があり、ハイシェア粘度としては5〜40mPa・sが好ましく、さらに高品質な塗工紙を得るためには10〜30mPa・sがより好ましい。なお、本発明で言うハイシェア粘度とは、ハーキュレス高せん断粘度計にて測定された値である。
しかしながら、塗工液が特定のハイシェア粘度を有する場合においても、塗工液の保水度が劣る場合には、塗工液が部分的な凝集を起こす、あるいは塗工液中の異物、もしくは塗工液中の凝集物がブレード刃と不動化した塗工液層間に滞留しやすくなるため、ストリークが発生し、高速塗工適性としては不十分であり、塗工液が特定の不動化時間を有することが必要である。
本発明で規定する測定方法により測定される塗工液の不動化時間は、原紙の下部から供給される減圧度がブレードの押しつけ圧の代替として外部圧力を生じさせたと同じような効果があり、かつ塗工液の不動化完了を粘度の上昇という観点から測定できる点が従来の測定法とは異なる点である。塗工液濃度変化により不動化時間は変化し、濃度低下による脱水可能な水の量が増えた場合には不動化時間は長くなり、保水度向上と見なすことができることから、光沢低下時間と同じようにすべての塗工液を不動化時間という一つの尺度で議論することが可能であり、かつ圧力による強制脱水の挙動も反映した、より実際の塗工状態に近い状態で塗工液保水度を把握していると言える。従って、本発明においては、塗工液保水度の指標として本発明で規定した方法により測定された、塗工液の不動化時間を採用することとした。
本発明における塗工液保水度は、塗工液の不動化時間で示される。以下、塗工液の不動化時間測定方法について述べる。
塗工液の不動化時間を、Anton Paar社製レオメーターPhysica MCR101と、同社のイモビリゼーションセルとを組み合わせてなる塗工液の不動化時間を測定する装置を使用して測定した。本装置は、図1に示されるように、レオメーターの測定用パラレルプレート上部11aと下部11bの間に測定対象塗工液17および紙基材19を設置して測定される装置である。イモビリゼーションセルは、パラレルプレート下部11bを含めて下の部分が相当する。パラレルプレート下部11bは鉛直方向に貫通する孔を多数有しており、この孔を介して減圧室13aと空間的に接している。このため、減圧ポンプに接続された接続口13bから減圧することにより減圧室13aは減圧され(本発明の条件としては、700hPa)、紙基材19および測定対象塗工液17も減圧を受けることになる。減圧下においては塗工液中から水が失われるため塗工液の体積は減少し、パラレルプレート間のギャップ、即ち11aの下部と11bの上部との距離(本発明の条件としては、初期ギャップ:0.5mm)は減少するが、これはパラレルプレート上部11aに結合している法線応力検出部および回転速度制御部15で測定される法線応力が、一定範囲にはいるよう自動的にギャップが調整され、さらには塗工液に与えられるせん断速度(本発明の条件としては、1(1/s))が一定となるように、法線応力検出部および回転速度制御部15において回転速度は自動的にコントロールされる。このようにして減圧下における塗工液の粘度を連続的に測定し、図2に示されるような粘度カーブを得ることができる。図2の粘度カーブにおいて、初期には緩やかに粘度は上昇し、ある時間において急激に粘度変化が起こり、粘度上昇が完了する点21が現れる。この点21は、塗工液の流動性が急速に失われ、塗工液が不動化状態まで変化していることを示し、粘度上昇が完了した時間T1を、測定した塗工液の不動化時間とした。塗工液の不動化時間が長いほど該塗工液の保水度が良好であることを表す。また、Anton Paar社製レオメーターPhysica MCR101のかわりに、同社製MCR301、もしくはMCR501を用いても、同様の結果を得ることができる。
前記塗工液の不動化時間測定においては、以下のように調製された紙基材を用いた。LBKP(フリーネス(CSF)=400ml)70部、NBKP(フリーネス(CSF)=410ml)30部のパルプスラリーに、軽質炭酸カルシウム(PC:白石カルシウム製)を灰分が7部となるように添加し、対パルプ100部当り澱粉1.5部、アルケニル無水コハク酸0.2部、および硫酸バンド0.5部を添加した紙料を用いて長網抄紙機で抄紙し、その抄紙工程中で澱粉の塗工量が乾燥重量で2g/m2となるようにサイズプレス装置で塗布・乾燥させ、マシンキャレンダで旭精工株式会社製全自動デジタル型王研式透気度・平滑度試験機EYOで測定される王研式平滑度を35秒になるように平滑化処理して、坪量が90g/m2の紙基材を得た。この紙基材を、塗工液不動化時間の測定に使用した。なお、塗工液の不動化時間を測定する際の温度としては25℃とし、測定に供する塗工液量としては2mlとした。
高速で塗工紙を生産する際に生産性を良好とするためには、ハイシェア粘度が40mPa・s以下であると同時に、上記方法で測定された塗工液の不動化時間として、200秒以上であることが必要である。ちなみに、塗工液の不動化時間が200秒未満の場合、塗工液の保水度が劣ることとなり、その結果、塗工液が原紙上に供給されてブレード刃にて計量されるまでに脱水が進行して塗工量制御が困難になったり、ブレード刃下の高せん断領域において急速な脱水が進行し、部分的な凝集物の発生や、該凝集物あるいは塗工液中の異物がブレード刃と原紙上で不動化した塗工層間に滞留することでストリークを生じやすくなる。不動化時間の好ましい範囲としては、不動化時間の下限として200秒以上であり、400秒以上が好ましく、500秒以上がより好ましく、700秒以上が特に好ましく、1000秒以上が最も好ましい。また、塗工液中に澱粉等の水溶性高分子量を多量に配合すること等により不動化時間を大きくすることができるが、この場合には得られる塗工紙の品質が低下し、また塗工液の粘度が高くなりすぎる、あるいは塗工後の乾燥効率が著しく低下する等の問題が生ずる可能性がある。このため、不動化時間の上限としては5000秒以下程度であり、4000秒以下が好ましく、3000秒以下がより好ましい。
塗工液の保水度向上のためには、澱粉やカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、あるいはアクリル系樹脂のアルカリ膨潤型等の合成保水剤、増粘剤の使用が有効であるが、これらの配合量を増やすことにより、塗工紙の白紙光沢、平滑度が低下する。このため、近年の塗工紙に求められる品質を達成するためにはこれらの使用量を極力低減させることが望ましい。しかしながら、この使用量低減は塗工液保水度の低下に直結し、さらにダブル塗工の場合には下塗り層の平滑度向上と相まって、高速塗工適性が劣る結果となる。
発明者らが鋭意検討した結果、これまでさほど注意に払われてこなかった、ラテックスにより保水度が大きく変化し、塗工液中のラテックスを変更することで塗工液の保水度が大きく変化することを見いだした。
ラテックスは一般に塗工液の総固形分中、顔料100質量部に対して3〜30質量部程度配合されるため、顔料組成に次いで塗工液物性に大きく影響を及ぼすのは容易に想像される。しかしながら、これまでは澱粉使用量が比較的多く、塗工液の保水度レベルが高かったために、ラテックスの保水度への影響は限定的と捉えられていた。近年の塗工紙品質の向上による澱粉使用量減等により、ラテックスの保水度へ及ぼす影響が相対的に大きくなった。
塗工紙に用いられるラテックスは、主としてSBRラテックスと呼ばれるものが多く、その組成はスチレン、ブタジエンが大半を占め、さらに所望する強度、白紙品質、印刷品質を得るために、アクリロニトリル、メチルメタクレート、あるいは酸単量体とともに乳化重合して得られるのが一般的である。ラテックス粒子は前述の単量体が様々な比率でブレンドされたものでなっており、さらにその表面は、高速塗工時の機械安定性を向上させるためにカルボキシル変性されたものが一般的に使用されている。ラテックス粒子表面にはカルボキシル基等の親水基が存在し、さらにその周りには重合時に生成した、あるいは重合後に添加されたオリゴマー、水溶性高分子等が吸着し、さらにラテックスの水相中にも前述のオリゴマー、水溶性高分子が遊離していると考えることができる。また、ラテックス粒子表面に、親水性ポリマー等をブロック重合している場合もある。
ラテックスの塗工液保水度への寄与を測る尺度として、加圧脱水量によるラテックスの保水度測定を行ってもよい。この場合、使用するラテックスの濃度は同一にする必要がある。基本的にはラテックスの加圧脱水量が少ないほど、塗工液の保水度は良好となるが、発明者らが検討した結果、ラテックスの加圧脱水量と、塗工液の保水度の間には完全な相関関係は得ることができなかった。これは、ラテックスを塗工液組成物に添加した際、ラテックス粒子表面、およびラテックス中に存在する親水基等が塗工液の保水度向上に寄与するが、塗工液の保水度としては、ラテックス粒子およびラテックス中に共存していた親水基等と、塗工液中のラテックス以外の物質間で何らかの相互作用を及ぼすため、ラテックスの加圧脱水量が同じであっても、塗工液の保水度向上程度が異なると考えられる。
発明者らがさらに検討した結果、塗工液の保水度を良好とするためには、塗工液中に用いられるラテックスとして、式(1)にて計算されるW値が70以下となるラテックスを使用することが好ましいことが判明した。
W=(L×r2)/10000 式(1)
式(1)において、L:ラテックスエマルジョンの加圧脱水量(g/m2)、r:ラテックス平均粒子径(nm)である。
ラテックスの加圧脱水量は、Kaltec Scientific,Inc.製のAA−GWR保水度計を用いて測定され、測定条件として、印加圧力100kPa、加圧時間30秒にて、0.1μmポアサイズポリカーボネートフィルターを介して濾紙No.2にラテックス中の水分を吸収させ、測定前後のろ紙重量変化から、ラテックスの加圧脱水量L(g/m2)を求めた。なお、ラテックスの温度を25℃として測定した。また、加圧脱水量は固形分濃度により大きく変動するため、固形分濃度を50%に統一して測定した。
ラテックス粒子の平均粒子径は、ラテックスをオスミウム酸で処理し、これを透過型電子顕微鏡で倍率5万倍で写真撮影し、得られた顕微鏡写真の重合体ラテックス粒子の約200個の粒子径を測定し数平均で求めた。また、より簡便な方法として、サブミクロン粒子アナライザーモデルN4(ベックマンコールター社製)による測定でも求めることができる。
W値が70以下となるラテックスを用いた場合に塗工液の保水度が良好となる理由としては、本発明で好適に用いられるカルボキシ変性されたラテックス粒子の粒子径が小さいほど非表面積は増大し、さらにラテックス粒子表面に吸着、あるいは重合された親水性官能基、オリゴマー、もしくはラテックス中に共存する親水性オリゴマー、ポリマー量が多いため、塗工液中の水を保持する能力に富み、保水性が良好であるためと考えられる。ちなみに、W値が70を超える場合、塗工液の保水性が劣る可能性が高く、高速塗工時のストリークの発生頻度が高くなる可能性がある。また、ラテックスとしてW値が70を超えて、保水度が劣る場合には澱粉等保水度を向上させる添加物を塗工液中に併用することも可能であるが、塗工紙の品質を低下させる可能性がある。W値の下限値については特に限定されないが、ラテックスの製造の容易さや塗工液としての取り扱い等を考慮すると、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上が特に好ましい。また、W値の上限値としては70以下が好ましく、60以下がより好ましく、50以下が特に好ましく、40以下が最も好ましい。
使用するラテックスのW値を好ましい範囲とするためには、例えばラテックス粒子径を小さくする、使用するエチレン系不飽和カルボン酸単量体量を下げる、あるいは水溶性高分子共存下にてラテックス粒子を重合する方法等が挙げられる。
ラテックスの粒子径については特に限定されないが、ラテックス表面における親水基の分布密度が同じである場合、粒子径が小さいほど保水度は良好であり好ましい。本発明で用いられるテックスの粒子径としては、40−200nmが好ましく、40−150nmがより好ましく、40−120nmがさらに好ましい。ラテックスの製造効率、および塗工紙品質の面で、50−100nmが最も好ましい。
本発明で使用するラテックスとしては、平均粒子径が50nm以上100nm以下であり、かつL値が70以下であることがより好ましい。本発明においては、ラテックスの平均粒子径は50nm以上100nm以下であり、かつL値が70以下であると塗工液の不動化時間、およびW値の好ましい範囲を両立しやすくなるため、より好ましい形態である。ちなみに、L値として更に好ましい範囲としては、60以下であり、50以下が最も好ましい。L値の下限としては、10以上が好ましく、15以上がより好ましい。
塗工液中のラテックスの配合部数は、顔料全固形分に対して5〜25質量%程度であることが好ましい。5質量%未満である場合、ラテックスのみを接着剤として使用すると塗工層強度に劣る可能性がある。この場合、澱粉やポリビニルアルコール等を併用することで塗工層強度の向上を図ることができるが、必要とされる塗工層強度を満足するほど澱粉等の配合量を上げると塗工紙品質が低下し、またポリビニルアルコール等の配合量を上げるとハイシェア粘度が高くなり、本発明所望の効果が得られにくい。逆にラテックス配合量が25質量%を超えた場合、塗工紙表面のラテックス量が多くなり過ぎ、塗工紙のべたつき性が悪化して操業に支障をきたしたり、得られた塗工紙の印刷品質が低下する可能性がある。塗工液中のラテックス配合部数としてさらに好ましくは、6〜15質量%程度である。
本発明で使用されるラテックス粒子の製造方法としては、主として乳化重合法による製造方法で得られるが、これに限定されるものではない。また、乳化重合法としては、単量体混合物を一段階で反応器に添加する一段重合、あるいは、単量体混合物を二段階で反応器に添加する二段重合、または、単量体混合物を多段階で反応器に添加する多段階重合法等(バッチ重合法、セミバッチ重合法、シード重合法等)や、ソープフリー重合法、パワーフィード重合法等の方法や、分散重合法も使用できる。
本発明に用いられる、共重合体ラテックスの乳化重合において、公知の連鎖移動剤、乳化剤、重合開始剤、電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。以下、共重合体ラテックスの製造に使用される単量体、添加剤等について例示するが、これらに限定される物ではない。
本発明で好適に用いられる、特定のW値を有するラテックス製造に用いられる単量体としては、脂肪族共役ジエン系類、モノオレフィン系類、エチレン系不飽和カルボン酸類、アルケニル芳香族類、不飽和カルボン酸アルキルエステル類、ヒドロキシアルキル基を有する不飽和単量体類、不飽和カルボン酸アミド類、シアン化ビニル類、ハロゲン化ビニル類、ビニルエステル類、メタクリル酸エステル類、ポリオキシエチレン基を有するラジカル重合性単重体類等を用いることができる。
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、クロロプレン、2−クロル−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられる。
モノオレフィン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ブロモスチレン、ビニルベンジルクロリド、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン、アルキルスチレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ビニルナフタレン等の芳香族(ジ)ビニル化合物、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリロニトリルおよび、酢酸ビニル等のモノオレフィン系脂肪族単量体が挙げられる。また、その他のモノオレフイン系単量体としては、例えば、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸ヒドロキシプロピル等の、オレフイン系不飽和ヒドロキシ単量体類などが挙げられる。
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの単量体、またはジカルボン酸(無水物)などが挙げられるが、アクリル酸、メタクリル酸の使用が好ましい。
本発明で使用するラテックスとしては、ラテックス重合に使用されるエチレン系不飽和カルボン酸単量体量が、全モノマー100質量部中3.5質量部以下であることが好ましい。前記エチレン系不飽和カルボン酸単量体が3.5質量部を超える場合には粘度が高くなる傾向にあり、3.5質量部以下が好ましく、3.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部未満が更に好ましい。また、前記エチレン系不飽和カルボン酸単量体量の下限としては、ラテックスエマルジョンの安定性確保の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。
不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル単重体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート 2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられる。
不飽和二塩基酸アルキルエステルとしてはクロトン酸アルキルエステル、イタコン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステルなどを例示できる。アミノ基を有する塩基性単量体としては、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどが挙げられる。
エチレン系不飽和カルボン酸アミド単重体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられる。
ハロゲン化ビニルとしては、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等を例示できる。オレフィンとしては、エチレン等を例示できる。アリル化合物としては、アリルエステル、ジアリルフタレートなどが挙げられる。
ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ビニルブチレート、ビニルステアレート、ビニルラウレート、ビニルミリステート、ビニルプロピオネート、バーサティク酸ビニル等を例示できる。ビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテルなどが挙げられる。
メタクリル酸エステル類としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソフブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロへキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エチル−ヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,5−ペンタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールエトキシアタリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、アリルメタクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、メトキシポリエチリングリコールメタクリレート、ステアリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールメタクリレート、2,2−ビス[4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、イソボルニルメタクリレートなどが挙げられる。
ポリオキシエチレン基を有するラジカル重合性単重体としては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールメチルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールブチルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールフェニルエーテルモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエーテルモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールフェニルエーテルモノアリルエーテル、マレイミドのエチレンオキシドポリ付加物、ポリエチレングリコールモノ(ビニルフェニル)エーテル等が挙げられる。
その他として、スチレンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウムなどスルホン酸基を有する単量体、アクロレイン、また、トリアリルイソシアヌレート等の3個以上の二重結合を有する単量休も使用できる。
ラテックスの乳化重合に用いられる重合開始剤の具体例としてはペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、クメンハイドロパーオキサイドなどの過酸化物が挙げられる。過硫酸塩と過酸化物を組み合わせたり、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ソーダなどの還元剤を重合開始剤に組み合わせて用いることも可能である。ペルオキソ二硫酸塩のように過硫酸塩の開始剤を単独でまたは複数、さらには亜硫酸塩などの還元剤を複合して用いることができ、過酸化ベンゾイル等の油溶性重合開始剤も適宜用いることができる。特に水溶性重合開始剤の使用が好ましい。また、重合に際して、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンチン、ヘキセン、ヘプチン、シクロペンチン、シクロヘキセン、シクロヘプチン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を使用しても良い。
ラテックスの乳化重合に用いられる連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、2−エチルへキシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−へキサデシルメルカプタン、セチルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物や、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルへキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン等が挙げられる。
ラテックスを乳化共重合する際に、生成する共重合体ラテックスの粒子径を調節するとともに、共重合体ラテックスに充分な重合安定性を付与するために使用される乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルアリルスルホネート、アルキルサルフェート、アルキルナフタレンスルホネート、アルキルサクシネートスルホネート、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、あるいはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪族エステル等のノニオン性界面活性削が挙げられる。
ラテックスの乳化重合する際に使用する電解質としては、NaOHのみ、またはLiOHのみの使用が好ましい。
また、ラテックスの乳化重合する際に、水溶性ポリマー存在下で重合することも好ましい形態である。水溶性ポリマーとしては特に限定はないが、例えばポリアクリルアミド系高分子が挙げられる。
共重合体ラテックスを製造する温度は、特に限定はないが、40〜800℃の範囲が好ましい。
ラテックスの粒子径としては、前述のごとく平均粒子径が40nm以上200nm以下であることが好適であるが、ラテックス粒子の粒子径分布として単一のピークを持つ分布である必要はなく、塗工適性および塗工紙品質向上のため、粒子径分布ピークを2つ以上持つラテックスをしても良い。もしくは、単一のピークを持つ粒子径分布を有するラテックスを、異なる平均粒径でありかつ単一以上のピークを持つラテックス1種以上と併用しても良い。
ラテックスのゲル含有量としては特に限定されないが、ゲル含有量が低いと塗工層強度が低下する傾向にある。このため、ラテックスのゲル含有量としては、50%以上が好ましく、60%以上99%以下がさらに好ましく、70%以上95%以下が最も好ましい。なお、ここでいうラテックスのゲル含有量は、ラテックスフィルムのトルエン不溶分から算出される値を指す。
ラテックス中の分散安定性が劣ったり、または製造過程中、あるいは貯蔵・運搬中に意図せずに凝集物や粗大粒子が生成することがある。これら凝集物や粗大粒子は、塗工液調製中の攪拌等によるせん断により破壊され、本来の微小粒子に再乖離する場合には問題ないが、そうでない場合にはストリークの原因となることがある。このため、ラテックス中にはとくに粗大粒子がないことが望ましく、具体的には20μm以上の粒子が0.1%質量以下、さらに好ましくは0.05質量%以下であることが好ましい。粗大粒子の含有量を所望の範囲とするためには、製造過程において粗大粒子が生成しない方法を採用するか、または得られたラテックスから、濾過等の操作により粗大粒子を除外する方法等が挙げられる。
ラテックス粒子の組成として、中心部から表層部まで同一の組成を持つ均質構造ラテックス、粒子内部と外部で異なる組成を有する、所謂コアシェルラテックスと呼ばれる、断続2層構造、あるいは3層以上の構造を持つラテックス、さらにはラテックス粒子中心から表層に向けて、組成が連続的に変化するラテックスのいずれも使用することができる。このうち、塗工液保水度の向上と、得られる塗工紙の品質両立の観点から、均質構造でないラテックスが好ましく用いられる。
単量体を合成して得られたラテックスの表面は、機械的安定性、および保水度を良好とするためカルボキシ変性を行ったものであることが好ましい。カルボキシ変性法としては、ユリア類、メラミン樹脂類、フェノール樹脂類、グリコール類、エポキシ樹脂類、イミン類、アミン類、多価金属酸化物類、多価金属塩及び水酸化物類を使用して行うことができる。
本発明において、塗工液中にはラテックスとともに、澱粉も使用できる。しかし、澱粉配合量が多い場合、塗工液保水度は良好となる物の、得られる塗工紙品質、特に白紙光沢度が低下するため、澱粉配合量としては顔料100質量部に対し、3質量部以下が好ましく、0.5〜3質量部がさらに好ましい。
塗工液中に使用される澱粉としては、澱粉溶液の濃度20%、温度40℃にて測定された、ブルックフィールド型粘度型60rpmで測定される、いわゆるB型粘度が30mPa・s以上であることが好ましい。澱粉はカチオン性澱粉、両性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の各種変性法により変性した物が使用できるが、変性により分子量を小さくした場合、澱粉溶液の粘度は低下する。分子量が小さい場合には塗工液の粘度を上昇させる効果が低減し、一般的な塗工条件で塗工可能である範囲にて塗料液中澱粉配合量を増やすことが可能であるが、発明者らが検討した結果、澱粉溶液の濃度20%、温度40℃にて測定されたB型粘度が30mPa・s未満である場合、澱粉添加による塗工液の保水度向上効果はほとんど見られなかった。澱粉溶液の濃度20%、温度40℃にて測定された粘度の上限については限定されないが、該粘度が高すぎる場合、塗工液中に配合した場合に得られる塗工液の粘度が高くなりすぎてしまう可能性があり、該澱粉溶液のB型粘度として好ましくは30〜2000mPa・s、さらに好ましくは80〜1000mPa・sである。
塗工液中の顔料としては、本発明所望の効果を損なわないように一般的に使用される顔料が使用でき、例えば重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、焼成カオリン、構造化カオリン、デラミカオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、アルミナ珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スクメタイト、サチンホワイト等の無機顔料や、密実型、中空型、貫通孔型のプラスチックピグメント、バインダーピグメント等の有機顔料等、通常の塗被紙分野に使用される顔料を使用することが可能であり、これらの中から1種あるいは2種以上を適宜選択して使用できる。
中でも、カオリンは塗工紙の白紙光沢、平滑付与のため、好ましく用いられる顔料である。また、炭酸カルシウムは、カオリンと比較して高シェア域での粘度が低く、流動性が良好であるという理由で好ましく用いられる顔料である。炭酸カルシウムの配合量については、得ようとする塗工紙の品質要求により変更することができ、例えば高光沢のグロス系塗工紙の場合は顔料全固形分中、炭酸カルシウムを5〜60質量%、光沢の低いダル・マット系塗工紙の場合、炭酸カルシウムを5〜100質量%使用することが好ましい。ちなみに、炭酸カルシウムの配合量が5質量%未満であると、炭酸カルシウムを添加する効果、即ち塗工液の流動性改良効果が現れにくい。なお、炭酸カルシウムとしては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムのどちらも使用することができ、また結晶形態についても、アラゴナイト系、カルサイト系、バテライト系等、結晶形態を問わず使用することができるが、高シェア域での流動性を良好とするためには、重質炭酸カルシウムの使用が好ましい。
塗工液中に使用する顔料の平均粒子径は、0.1〜1.5μm程度が好ましい。なお、顔料の平均粒子径については、ピロリン酸ソーダの0.1%液中に顔料を超音波で5分間分散処理し、セディグラフ5100(マイクロメリティクス社製)を用いて沈降法により測定した。平均粒子径は粗粒子分から累積質量が50%に相当する点での粒子径で示した。
塗工液中に、保水度を向上させる目的で、本発明で好適に使用される特定のW値を持つラテックスや澱粉の他、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム等の天然多糖類系高分子、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等の合成系の水溶性高分子、ビニルハライド、酢酸ビニル、スチレン、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリルアミド、メチルビニルエーテル等のビニル系重合体や共重合体、スチレン−ブタジエン系、メチルメタクリレート−ブタジエン系等の特定のW値でない合成ゴムラテックス、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、オレフィン−無水マレイン酸系樹脂、メラミン系樹脂等の合成高分子化合物等を、本発明所望の効果を妨げない範囲で添加することもできる。添加量としては本発明所望の塗工液粘度、保水度レベルにあれば特に限定されないが、これらの水溶性高分子は塗工液の保水度を向上させる効果を持っているが粘度を上昇させる効果も大きく、配合量が多い場合、ハイシェア粘度上昇により高速塗工適性を低下させたり、得られる塗工紙の光沢・平滑度を低下させることがある。このため、配合量として好ましくは顔料100質量部に対して1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。
塗工液を紙基材上に塗工・乾燥して塗工層を得る際の塗工方式としては、得られる塗工紙の光沢・平滑度といった物性を向上させるため、ブレード塗工方式を用いることが好ましい。ブレード塗工方式としては、剛直なブレードを用いるベベルブレード方式と、屈曲可能なベントブレード方式があるが、低塗工量で良好な塗工紙品質を得るためには、ベベルブレード方式を用いるのが好ましい。なお、ブレードでの計量より前に、紙基材上に塗工液を供給する方式には、ロール供給方式、ジェットファウンテン供給方式、あるいは塗工液供給部とブレード計量部が一体となった、いわゆるショートドウェル方式などがあるが、本発明においてはいずれの場合にも使用することができる。高速塗工適性と得られる塗工紙品質の両立の面からは、ジェットファウンテン供給方式が最も好ましい。
顔料及び接着剤を主成分とする塗工層を設ける原紙として、セルロース繊維を主体とする紙基材および、あらかじめ顔料および接着剤を主成分とする下塗り塗工層を少なくとも1層以上設けたものである塗工用原紙を用いることができる。得られる塗工紙の光沢・平滑度を良好とするためには、あらかじめ顔料および接着剤を主成分とする下塗り塗工層を少なくとも1層以上設けたものである塗工用原紙を使用することが好ましい。また、該下塗り層塗工液として、本発明で規定する特定の物性を有しない塗工液を使用しても良く、この場合、上塗り塗工液が本発明の規定する範囲にある塗工液であれば良い。
顔料及び接着剤を主成分とする塗工層を設ける原紙として、セルロース繊維を主体とする紙基材および、あらかじめ顔料および接着剤を主成分とする下塗り塗工層を少なくとも1層以上設けたものである塗工用原紙の平滑度として、PPS平滑が4.0μm以下である紙基材を用いた場合、本発明による効果が顕著である。
得られる塗工紙の光沢・平滑といった白紙品質を向上させるためには、下塗り層・上塗り層のように少なくとも2層の顔料及び接着剤を主成分とする顔料塗工層を原紙上に設けることができるが、この際に原紙の平滑度が高い場合、上塗り層の高速塗工時の操業性低下が問題となりやすい。紙基材が平滑である場合にはその表面凹凸が小さいため、塗工液中の異物や凝集物がブレード刃と紙基材間にいつまでも滞留したまま移動できずにストリークが発生しやすくなったり、塗工液の保水度に劣る場合に不動化層形成が早くなり、ブレード計量時の不動化層厚みが増すことによりブレード刃下の流動性を維持した塗工液層厚みが減少してストリークが発生しやすくなる。
本発明で規定する、特定のハイシェア粘度および特定の不動化時間を有する塗工液を使用した場合、高せん断下での流動性が良好であると同時に、塗工液が局所的に不動化して凝集物を作ることを回避でき、さらに不動化層の厚みを低く抑えることができることから、平滑な原紙を使用して高速塗工を行っても、操業性の低下を回避できると考えられる。なお、ここでいうPPS平滑による平滑度とは、パーカープリントサーフ(PPS)表面平滑度試験機(機種:MODEL M−569型、MESSMER BUCHEL社製/英国)を用い、バッキングディスク:ソフトラバー、クランプ圧力:1MPaで5回平滑度測定を行ない、その平均としての値であり、PPS平滑の数値が小さいほど平滑度が高いことを表す。PPS平滑度の下限値としては特に限定がないが、平滑度が高すぎると本発明で規定する塗工液を使用した場合でも操業性が低下する可能性があり、PPS平滑平滑として好ましくは0.5〜4.0μm、品質と操業性の両面を考えると、より好ましくは1.0〜3.5μmである。
紙基材を形成するパルプについては、製法や種類等について特に限定するものではなく、KP、SPのような化学パルプ、SGP、RGP、BCTMP、CTMP等の機械パルプや、ECFパルプやTCFパルプ等の塩素フリーパルプ、脱墨パルプのような古紙パルプ、あるいはケナフ、バガス、竹、藁、麻等のような非木材パルプ、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリノジック繊維等の有機合成繊維、さらにはガラス繊維、セラミック繊維、カーボン繊維等の無機質繊維も使用出来る。
また、紙基材中には、必要に応じて填料が配合出来る。この場合の填料としては、特に限定するものではないが、一般に上質紙に用いられる各種の顔料、例えばカオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、タルク、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の鉱物質顔料や、ポリスチレン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂並びにそれらの密実型、微小中空型、貫通孔型の粒子である有機顔料が挙げられる。
なお、紙料中にはパルプ繊維や填料の他に、従来から使用されている各種のアニオン性、ノニオン性、カチオン性あるいは両性の歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤、定着剤や内添サイズ剤等の各種抄紙用内添助剤を、必要に応じて適宜選択して使用することができる。さらに染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添助剤も紙の用途に応じて適宜添加することができる。
紙基材の抄紙方法については特に限定するものではなく、例えば抄紙pHが4.5付近である酸性抄紙法、また中性サイズ剤および/または炭酸カルシウム等のアルカリ性填料を主成分として含み、抄紙pH約6の弱酸性から抄紙pH約9の弱アルカリ性の中性抄紙法等、全ての抄紙方法に適用することができ、抄紙機も長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、丸網抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の通常用いられている抄紙機を適宜使用することができる。
本発明に用いる塗工液中には、前述した顔料や接着剤の他に各種助剤、例えば界面活性剤、pH調節剤、粘度調節剤、保水剤、柔軟剤、光沢付与剤、ワックス類、分散剤、流動変性剤、導電防止剤、安定化剤、帯電防止剤、架橋剤、サイズ剤、蛍光増白剤、着色剤、紫外線吸収剤、消泡剤、耐水化剤、可塑剤、防腐剤、香料等を、本発明の所望の効果を失わないように、必要に応じて適宜使用することも可能である。
本発明の塗工層の乾燥後塗工量は、特に限定されるものではないが、一般的に紙基材の片面に対し3〜40g/m2、好ましくは4〜30g/m2、さらに好ましくは5〜25g/m2である。塗工量が3g/m2に満たない場合、塗工層を原紙上に形成する効果が現れにくく、他方40g/m2を超えると高速塗工時において急激な乾燥が必要となり、結果バインダーマイグレーションによりモトリング等の印刷障害の発生や印刷強度の低下が発生する可能性が高くなるため、上記にて規定する範囲の塗工量が好ましい。
塗工層の乾燥方法については特に限定されず、エアードライヤー、シリンダードライヤー、IRドライヤー等一般に使用される乾燥方法が使用できる。
塗工紙の水分としては、紙基材を用いた場合、紙基材上に塗工層を設けて通常の乾燥工程後、または必要に応じて表面処理工程等で平滑化処理された後、水分が3〜10%、好ましくは4〜8%程度となるように調整して仕上げられる。
また平滑化処理する際は、通常のスーパーキャレンダ、グロスキャレンダ、ソフトキャレンダ等の平滑化処理装置を用いてオンマシンやオフマシンにて行われ、加圧装置の形態、加圧ニップの数、加温等も通常の平滑化処理装置に準じて適宜調節される。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが,本発明はそれらの範囲に限定されるものでない。なお、例中の「部」及び「%」は特に断わらない限り、「質量部(固型分)」及び「質量%」を示す。また、「AC」はラテックスの乳化重合において使用された全モノマー100質量部中のエチレン系不飽和カルボン酸単量体量を表す。
・参考例1
(紙基材の調製)
LBKP(フリーネス(CSF)=400ml)70部、NBKP(フリーネス(CSF)=410ml)30部のパルプスラリーに、軽質炭酸カルシウム(PC:白石カルシウム製)を灰分が7部となるように添加し、対パルプ100部当り澱粉1.5部、アルケニル無水コハク酸0.2部、および硫酸バンド0.5部を添加した紙料を用いて長網抄紙機で抄紙し、その抄紙工程中で澱粉の塗工量が乾燥重量で2g/m2となるようにサイズプレス装置で塗布・乾燥させ、マシンキャレンダで旭精工株式会社製全自動デジタル型王研式透気度・平滑度試験機EYOで測定される王研式平滑度を35秒になるように平滑化処理して、坪量が90g/m2の紙基材を得た。この紙基材のPPS平滑は、5.8μmであった。
(塗工液の調製)
ミラグロス91(成分;カオリン、エンゲルハード社製)70部に、水および分散剤(商品名;アロンA−9、東亞合成化学社製)0.1部を加え、コーレス分散機にて分散し、固形分72%のカオリン分散液を得た。この分散液に固形分75%のFMT−97(成分;重質炭酸カルシウム、株式会社ファイマテック製)を固形分として30部を加え、顔料スラリーを調製した。この顔料スラリー固形分100部に対して、澱粉(商品名;エースB、澱粉濃度20%・温度40℃におけるB型粘度160mPa・s、王子コーンスターチ社製)1.5部、ラテックス(商品名;T2535D、JSR社製、W値:94、加圧脱水量:70.8g/m2、平均粒子径:115nm、AC3.75部、電解質NaOH/KOH)12部を添加し、さらに水を加えて、固形分濃度が64%の塗工液を調製した。
(塗工紙の作成)
上記により得られた紙基材に、塗工速度1200m/minである、ジェットファウンテン供給方式のベベルブレードコーターにて、乾燥後の塗工量が片面10g/m2となるように両面に塗工層を設け、坪量110g/m2の塗工紙を得た。
・参考例2
(下塗り塗工液の調製)
ハイドロカーブ60(成分;重質炭酸カルシウム、備北粉化工業株式会社製)100部に、澱粉(商品名;エースB、王子コーンスターチ社製)10部、ラテックス(商品名;XQ83302、ダウ・ケミカル日本株式会社製)4部を添加・撹拌し、さらに水を加えて、固形分濃度が65%の塗工液を調製した。
(上塗り塗工液の調製)
ミラグロス91(成分;カオリン、エンゲルハード社製)70部に、水および分散剤(商品名;アロンA−9、東亞合成社製)0.1部を加え、コーレス分散機にて分散し、固形分72%のカオリン分散液を得た。この分散液に固形分75%のFMT−97(成分;重質炭酸カルシウム、株式会社ファイマテック製)を固形分として30部を加え、顔料スラリーを調製した。この顔料スラリー固形分100部に対して、澱粉(商品名;エースB、前出)3部、ラテックス(商品名;T2535D、前出)12部を添加し、さらに水を加えて、固形分濃度が64%の塗工液を調製した。
(塗工紙の作成)
参考例1で得られた紙基材上に、塗工速度1200m/minである、ジェットファウンテン供給方式のベベルブレードコーターにて、乾燥後の塗工量が片面10g/m2となるように下塗り塗工液を両面塗工、乾燥して下塗り層を形成した。この状態での塗工原紙としてのPPS平滑は、4.2μmであった。さらに塗工速度1200m/minである、ジェットファウンテン供給方式のベベルブレードコーターにて、乾燥後の塗工量が片面9g/m2となるように上塗り塗工液を両面塗工、乾燥して塗工層を設け、坪量128g/m2の塗工紙を得た。
・参考例3
参考例2において、上塗り塗工液中のラテックスを異なるラテックス(商品名:PA2327、日本エイアンドエル社製、W値55、加圧脱水量:49.5g/m2、平均粒子径:105nm、AC4.0部)に変更した以外は、参考例2と同様にして塗工紙を得た。
・参考例4
参考例3において、下塗り塗工液中のハイドロカーブ60をハイドロカーブ90(成分;重質炭酸カルシウム、備北粉化工業社製)に変更した以外は、参考例3と同様にして塗工紙を得た。なお、下塗り塗工層形成後の塗工原紙のPPS平滑は、3.5μmであった。
・参考例5
参考例4において、上塗り塗工液濃度を64%から61%に変更した以外は、参考例4と同様にして塗工紙を得た。
・実施例1
参考例4において、上塗り塗工液中のラテックスを異なるラテックス(商品名:S2500B、JSR社製、W値35、加圧脱水量:54.8g/m2、平均粒子径:80nm、AC4.0部、電解質NaOH/KOH)に変更した以外は、参考例4と同様にして塗工紙を得た。
・参考例6
実施例1において、上塗り塗工液中の澱粉配合量を3部から4.5部に変更した以外は、参考例4と同様にして塗工紙を得た。
・実施例2
実施例1において、上塗り塗工液中の澱粉配合量を3部から1.5部に変更した以外は、実施例1と同様にして塗工紙を得た。
・実施例3
実施例1において、上塗り塗工液中の澱粉量を3部から0部とし、さらにアクリル系アルカリ膨潤型合成保水剤(商品名:アルコガムL−29K、日本NSC社製)0.5部を加えた以外は、実施例1と同様にして塗工紙を得た。
・実施例4
実施例1において、下塗り塗工液中のハイドロカーブ90(100部)を、ハイドロカーブ90を50部およびミラグロス91(前出)50部に変更し、固形分濃度を63%に変更し、上塗り塗工液の調製法を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして塗工紙を得た。なお、下塗り塗工層形成後の塗工原紙のPPS平滑は、3.1μmであった。
(上塗り塗工液の調製)
ミラグロス91(成分;カオリン、エンゲルハード社製)50部に、水および分散剤(商品名;アロンA−9、東亞合成社製)0.1部を加え、コーレス分散機にて分散し、固形分72%のカオリン分散液を得た。この分散液に固形分75%のセタカーブHG(成分;重質炭酸カルシウム、備北粉化工業株式会社製)を固形分として50部を加え、顔料スラリーを調製した。この顔料スラリー固形分100部に対して、澱粉(商品名;エースB、前出)2.5部、ラテックス(商品名;S2500B、前出)12部を添加し、さらに水を加えて、固形分濃度が64%の上塗り塗工液を調製した。
・実施例5
実施例4において、上塗り塗工液中のラテックスを異なるラテックス(S2543(B)−2、JSR社製、W値32、加圧脱水量:50.1g/m2、平均粒子径:80nm、AC2.5部、電解質NaOH/KOH)に変更した以外は、実施例4と同様にして塗工紙を得た。
・実施例6
実施例4において、上塗り塗工液中のラテックスを異なるラテックス(S2543(C)−7、JSR社製、W値31、加圧脱水量:48.1g/m2、平均粒子径:80nm、AC2.5部、電解質NaOH)に変更した以外は、実施例4と同様にして塗工紙を得た。
・実施例7
実施例4において、上塗り塗工液中のラテックスを異なるラテックス(S2543(D)−7、JSR社製、W値28、加圧脱水量:43.4g/m2、平均粒子径:80nm、AC2.75部、電解質NaOH、S2543(C)−7に対してAC量を変更し、ポリアクリルアミド存在下で重合)に変更し、さらに澱粉配合量を2.5部から2部に変更した以外は、実施例4と同様にして塗工紙を得た。
比較例1
参考例2において、上塗り塗工液中の澱粉量を3部から0部とし、ラテックスを14部とした以外は、参考例2と同様にして塗工紙を得た。
比較例2
参考例2において、上塗り塗工液中のカオリンを異なるカオリン(商品名:コンツァー1500、株式会社イメリスミネラルズジャパン製)に変更してカオリン分散液濃度を63%とし、上塗り塗工液濃度を61%とした以外は、参考例2と同様にして塗工紙を得た。
上記参考例、実施例および比較例で得られた塗工紙は、同一条件にて金属ロールと弾性ロールで構成された加圧ニップで通紙して、各評価用塗工紙を得た。かくして得られた塗工紙について下記の評価を行い、1層塗工の場合にはその塗工液、2層塗工の場合には上塗り塗工液のハイシェア粘度(mPa・s、表中HS粘度と記載)、不動化時間(秒)、塗工紙の白紙光沢(%)、塗工用原紙および塗工紙の白紙平滑(μm)、ストリーク発生状況について得られた結果を表1に記載した。
・塗工液ハイシェア粘度測定
塗工液のハイシェア粘度は、熊谷理機工業株式会社製ハーキュレス高せん断粘度型Model HR−801Cを用い、ボブF、回転数8800回転での粘度を測定した。この際のせん断速度は、1.8×105(1/s)である。
・塗工液の不動化時間の測定
Anton Paar社製レオメーターPhysica MCR101と同社のイモビリゼーションセルとを組み合わせてなる塗工液の不動化時間を測定する装置を使用して測定した。測定条件は、測定治具としてパラレルプレート50mmφ、初期ギャップ0.5mm、測定中せん断速度1(1/s)一定とし、減圧度700hPaとして、減圧開始後に塗工液粘度の測定を行い、塗工液粘度が急激に上昇し、上昇を完了した時間を測定した塗工液の不動化時間とした。塗工液容量は2mlとし、紙基材としては本発明で規定した、特定の紙基材を使用した。
・ラテックス加圧脱水量測定
ラテックスの加圧脱水量は、Kaltec Scientific,Inc.製のAA−GWR保水度計を用いて測定した。測定条件としては、印加圧力100kPa、加圧時間30秒にて加圧し、0.1μmポアサイズポリカーボネートフィルターを介して濾紙No.2にラテックス中水分を吸収させ、測定前後のろ紙重量変化から、ラテックスの加圧脱水量(g/m2)を求めた。なお、加圧脱水量は固形分濃度により大きく変動するため、ラテックスの加圧脱水量測定においては、該エマルジョンの固形分濃度を50%に統一し、測定するラテックスの温度を25℃として測定した。
・ラテックス平均粒子径
ラテックスをオスミウム酸で処理し、これを透過型電子顕微鏡で倍率5万倍で写真撮影し、得られた顕微鏡写真の重合体ラテックス粒子の約200個の粒子径を測定し数平均で求めた。
・白紙光沢度評価
TAPPI試験法:T 480 om−92(TAPPI Test Method T 480 om−92)に準じて、光沢度計(型式:GM−26D、村上色彩技術研究所社製)を使用して測定した。
・平滑度評価
各実施例・比較例で使用した塗工用原紙、および得られた塗工紙の平滑度を、パーカープリントサーフ(PPS)表面平滑度試験機(機種:MODEL M−569型、MESSMER BUCHEL社製/英国)を用い、バッキングディスク:ソフトラバー、クランプ圧力:1MPaで5回平滑度測定を行ない、その平均を求めた。
・ストリーク発生状況
塗工紙のストリーク発生状況に対して、下記のように評価を行った。
◎:ストリークの発生がなく、全く問題ないレベルである。
○:ストリークがわずかに発生したが、実用上問題とならないレベルである。
×:ストリークが頻繁に発生し、生産効率に劣り、問題となるレベルである。