JP5111119B2 - オーステナイト系鉄−炭素−マンガン金属鋼板の製造方法、およびこれにより製造される鋼板 - Google Patents

オーステナイト系鉄−炭素−マンガン金属鋼板の製造方法、およびこれにより製造される鋼板 Download PDF

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Description

本発明は、極めて高い機械的性質、特に遅れ割れに対する優れた抵抗性と組み合わされた高い機械的強度を有する熱間圧延および冷間圧延鋼板を鉄−炭素−マンガンオーステナイト系鋼から製造することに関する。
特に自動車分野におけるある用途は、金属構造物の更なる軽量化、および衝撃を受けた時の強化を必要とすること、そして良好な絞り性も必要とするということが知られている。このことは、高い引っ張り強度と大きな変形性を併せ持つ構造材料の使用を必要とする。これらの要求に満たすために、仏国特許第2829775号明細書は、熱間圧延あるいは冷間圧延可能であり、そして1200MPaを超え得る強度を有する、主要元素として鉄/炭素(2%までの)およびマンガン(10%〜40%の)を有する例えばオーステナイト系合金を開示している。これらの鋼の変形モードは充分に高い積層欠陥エネルギーに対しては積層欠陥エネルギーのみに依存し、機械的変形の観察されるモードは双晶形成によるものであり、高加工硬化性を生じる。転位の伝播に対する障害として作用することにより、双晶は降伏強度の増大を助ける。しかしながら、積層欠陥エネルギーがある限界を超える場合には、完全な転位滑りが支配的な変形機構となり、そして加工硬化性は低下する。それゆえ、前述の特許は、積層欠陥エネルギーが極めて高い機械的強度と組み合わされて高加工硬化性が観察されるようなものであるFe−C−Mn鋼のグレードを開示している。
変形後に高残留応力が残存しがちなので、遅れ割れに対する感受性は、特に冷間形成操作後に機械的強度と共に増加するということが知られている。この金属中に可能性として存在する原子状水素と組み合わされて、これらの応力は遅れ割れ、すなわち、変形後のある時間に起こる割れを生じやすい。水素は、結晶格子欠陥、例えばマトリックス/介在物界面、双晶境界および粒界の中への拡散により進行的に蓄積し得る。水素がある時間後に臨界濃度に達する場合に有害になり得るのは、後者の欠陥においてである。この遅れは残留応力分布場および水素拡散の動力学から生じ、室温における水素拡散係数は特にオーステナイト系構造合金中で低く、この元素の1秒当りの平均経路はほぼ0.03ミクロンである。加えて、粒界に局在化する水素はこれらの凝集を弱め、そして遅れ粒間割れの出現を有利とする。
それゆえ、遅れ破壊に対する極めて高い抵抗性と組み合わされた高強度と高延性を同時に呈する熱間圧延あるいは冷間圧延の鋼を有する必要性が存在する。
また、このような鋼を安価に、すなわち現存の工業的なラインの生産性の要請と適合する製造条件の下で、そしてこのタイプの製品に対する許容し得るコストによって提供する必要性も存在する。特に、特別な脱ガス熱処理により水素含量を著しく低減し得ることが知られている。これらの処理の追加コストとは別に、これらの熱的な条件は、可能性として機械的性質の点での要求としばしば相容れない粒粗大化またはセメンタイト析出をこれらの鋼中で生じる。
それゆえ、本発明の目的は、製造が安価であり、900MPaを超える強度、50%を超える破断時伸びを有し、冷間形成に特に好適であり、そして特別な脱ガス熱処理を特に必要とせずに遅れ割れに対する極めて高い抵抗性を有する熱間圧延あるいは冷間圧延の鋼板あるいは製品を提供することである。
この目的のために、本発明の一つの主題は、鉄−炭素−マンガンオーステナイト系鋼板であって、化学組成が含量を重量で表して、0.45%≦C≦0.75%、15%≦Mn≦26%、Si≦3%、Al≦0.050%、S≦0.030%、P≦0.080%、N≦0.1%、それにバナジウム、チタン、ニオブ、クロムおよびモリブデン(ここで、0.050%≦V≦0.50%、0.040%≦Ti≦0.50%、0.070%≦Nb≦0.50%、0.070%≦Cr≦2%、0.14%≦Mo≦2%である)から選択される少なくとも1つの金属元素、および場合によっては0.0005%≦B≦0.003%、Ni≦1%、Cu≦5%から選択される1つ以上の元素を含み、組成の残りが鉄と溶融から生じる不可避の不純物からなり、析出した炭化物、窒化物または炭窒化物の形の金属元素の量が0.030%≦V≦0.150%、0.030%≦Ti≦0.130%、0.040%≦Nb≦0.220%、0.070%≦Cr≦0.6%、0.14%≦Mo≦0.44%であるものである。
好ましくは、鋼の組成物は0.50%≦C≦0.70%を含む。
好ましい実施形態によれば、鋼の組成物は17%≦Mn≦24%を含む。
好ましい実施形態によれば、鋼の組成物は0.070%≦V≦0.40%を含み、析出した炭化物、窒化物あるいは炭窒化物の形のバナジウムの量は0.070%≦V≦0.140%である。
好ましくは、鋼の組成物は0.060%≦Ti≦0.40%を含み、析出した炭化物、窒化物あるいは炭窒化物の形のチタンの量は0.060%≦Ti≦0.110%である。
有利には、鋼の組成物は0.090%≦Nb≦0.40%を含み、析出した炭化物、窒化物あるいは炭窒化物の形のニオブの量は0.090%≦Nb≦0.200%である。
好ましくは、鋼の組成物は0.20%≦Cr≦1.8%を含み、析出した炭化物の形のクロムの量は0.20%≦Cr≦0.5%である。
好ましくは、この鋼の組成物は0.20%≦Mo≦1.8%を含み、析出した炭化物の形のモリブデンの量は0.20%≦Mo≦0.35%である。
好ましい実施形態によれば、上記析出物の平均寸法は、5ナノメーター〜25ナノメーター、更に好ましくは7ナノメーター〜20ナノメーターである。
有利には、上記析出物の集団の少なくとも75%は粒状位置(intragranular position)中に在る。
本発明のもう一つの主題は、鉄−炭素−マンガンオーステナイト系鋼からできた冷間圧延薄板を製造する方法であって、化学組成が含量を重量で表して、0.45%≦C≦0.75%、15%≦Mn≦26%、Si≦3%、Al≦0.050%、S≦0.030%、P≦0.080%、N≦0.1%、それにバナジウム、チタン、ニオブ、クロムおよびモリブデン(ここで、0.050%≦V≦0.50%、0.040%≦Ti≦0.50%、0.070%≦Nb≦0.50%、0.070%≦Cr≦2%、0.14%≦Mo≦2%である)から選択される少なくとも1つの金属元素、および場合によっては0.0005%≦B≦0.003%、Ni≦1%、Cu≦5%から選択される1つ以上の元素を含み、組成の残りが鉄と溶融から生じる不可避の不純物からなる鋼が供給され、半完成製品がこの鋼から鋳造され、半完成製品が1100℃〜1300℃の温度まで加熱され、半完成製品が890℃以上の圧延終了温度により熱間圧延され、得られる鋼板が580℃を下回る温度でコイル化され、鋼板が冷間圧延され、そして加熱速度Vでの加熱ステップ、温度Tでの均熱処理時間tの間の均熱処理ステップ、引き続いての冷却速度Vでの冷却ステップ、場合によっては引き続いての温度T均熱処理時間tでの均熱処理ステップを含む熱処理が行われ、上述の析出金属元素の量を得るために、パラメーターV、T、t、V、T、tが調整される方法である。
実施の好ましい方法によれば、焼鈍後の炭化物、窒化物あるいは炭窒化物の析出物の平均寸法が5ナノメーター〜25ナノメーター、好ましくは7ナノメーター〜20ナノメーターであるような方法で、パラメーターV、T、t、V、T、tは調整される。
有利には、焼鈍後の上記析出物の集団の少なくとも75%が粒状位置中に在るような方法で、パラメーターV、T、t、V、T、tは調整される。
実施の好ましい方法においては、化学組成が0.050%≦V≦0.50%を含む鋼が与えられ、半完成製品が950℃を超える圧延終了温度により熱間圧延され、鋼板が500℃を下回る温度でコイルとされ、鋼板が30%以上の圧延比により冷間圧延され、焼鈍熱処理が700℃〜870℃の温度T、30秒〜180秒の時間で2℃/秒〜10℃/秒の加熱速度Vにより行われ、そして鋼板が10℃/秒〜50℃/秒の速度で冷却される。
加熱速度Vは好ましくは3℃/秒〜7℃/秒である。
実施の好ましい方法によれば、均熱処理温度Tは720℃〜850℃である。
有利には、半完成製品は逆転する鋼ロールの間でスラブまたは薄い帯鋼(strip)の形で鋳造される。
本発明の更にもう一つの主題は、自動車分野において構造部品、補強部品または外部部品を製造するために、上述の、あるいは上述した方法により製造されるオーステナイト系鋼板を使用することである。
本発明の更なる特徴および利点は、実施例として示される下記の説明の過程で明白になるであろう。
多数の試みの後で、本発明者らは、次の条件を観察することにより上述の種々の要求が対処可能であるということを実証した。
鋼の化学組成に関しては、炭素がミクロ構造の形成と機械的性質において極めて重要な役割を果たす。炭素は積層欠陥エネルギーを増大させ、そしてオーステナイト相の安定性を促進する。15重量%〜26重量%の範囲のマンガン含量と組み合わせられると、この安定性は0.45%以上の炭素含量に対して達成される。しかしながら、0.75%を超える炭素含量に対しては、工業的な製造時のある加熱サイクルにおける炭化物の過度の析出を防止することが困難となり、この析出が延性を低下させる。
好ましくは、最適な炭化物あるいは炭窒化物の析出と組み合わせられた充分な強度を得るには、炭素含量は0.50重量%〜0.70重量%である。
マンガンも強度の増大、積層欠陥エネルギーの増大およびオーステナイト相の安定化に必須の元素である。この含量が15%未満であると、変形性を極めて著しく低下させるマルテンサイト相が形成する危険性がある。更には、マンガン含量が26%を超えると、室温における延性は低下する。加えて、コストの理由のために、マンガン含量が高いことは望ましくない。積層欠陥エネルギーを最適化し、変形の影響下でのマルテンサイトの形成を防止するためには、好ましくは、マンガン含量は17%〜24%である。更には、マンガン含量が24%を超えると、双晶形成による変形モードは完全な転位滑りによる変形モードよりも不利である。
アルミニウムは鋼の脱酸素に特に有効な元素である。炭素のように、アルミニウムは積層欠陥エネルギーを増大させる。しかしながら、マンガンは液体鉄中の窒素の溶解性を増大させるために、高マンガン含量を有する鋼中に過渡に存在する場合にはアルミニウムは欠点である。過度に大量のアルミニウムが鋼中に存在すると、アルミニウムと結合する窒素は、アルミニウム窒化物の形で析出し、これは高温変換(hot conversion)時の粒界のマイグレーションを阻害し、そして連続鋳造において現れる割れの危険性を極めて著しく増大させる。加えて、後で説明するように、本質的に炭窒化物の微細な析出物を形成するためには、充分な量の窒素が利用可能でなければならない。0.050%以下のAl含量はAlNの析出を妨げ、下記に挙げる元素を析出するための充分な窒素含量を維持する。
したがって、この析出と固化時の体積欠陥(ブリスター)の形成を妨げるためめには、窒素含量は0.1%以下でなければならない。加えて、窒化物の形で析出することができる元素、例えばバナジウム、ニオブおよびチタンが存在する場合には、水素トラッピングに無効である粗い析出物を生じる恐れがあるので、窒素含量は0.1%を超えてはならない。
ケイ素も鋼の脱酸素および固相硬化に有効な元素である。しかしながら、3%の含量よりも上では、ケイ素は伸びを低下させ、しかるべき組み立て工程時に望ましくない酸化物を形成する傾向があり、したがって限界未満に保たれなければならない。
硫黄とリンは粒界を脆化する不純物である。充分な熱間延性を維持するには、これの含量はそれぞれ0.030%および0.080%を超えてはならない。
場合によっては、ホウ素は0.0005%〜0.003%の量で添加され得る。この元素はオーステナイト系粒界で偏析し、これらの凝集を増大させる。0.0005%よりも下では、この効果は得られない。0.003%よりも上では、ホウ素はホウ炭化物の形で析出し、そしてこの効果は飽和する。
ニッケルは、固溶硬化により鋼の強度を増大させるのに場合によっては使用され得る。ニッケルは高破断時伸びを得るのに寄与し、特に靭性を増大させる。しかしながら、再びコストの理由のために、ニッケル含量を1%以下の最大含量に制限することは望ましい。
同様に、場合によっては、5%を超えない含量で銅を添加することは、銅金属の析出により鋼を硬化する一つの手段である。しかしながら、この含量よりも上では、銅は熱間圧延鋼板中の表面欠陥の出現の原因となる。
析出物の形成能のある金属元素、例えばバナジウム、チタン、ニオブ、クロムおよびモリブデンは、本発明の文脈内で重要な役割を果たす。これは、遅れ割れが特にオーステナイト系粒界における水素の過度の局所濃縮により引き起こされることが知られているためである。本発明者らは、本発明においてはっきりと規定されているタイプの析出物、性状、量、大きさおよび分布が遅れ割れに対する感受性を極めて著しく低下させ、そして延性および靭性を低下させずに感受性を低下させるということを実証した。
本発明者らは、最初に、析出したバナジウム、チタンあるいはニオブの炭化物、窒化物または炭窒化物が水素トラップとして極めて有効であるということを実証した。クロムあるいはモリブデン炭化物もこの役割を果たし得る。それゆえ、室温においては、この水素は、これらの析出物とマトリックスとの間の界面で不可逆的にトラップされる。しかしながら、析出物の形の金属元素の量が析出物の性状に依存する臨界的な含量に等しいか、あるいはそれ以上であるためには、しかるべき工業的な条件下で遭遇し得る残存水素のトラッピングを確実なものとすることが必要である。炭化物、窒化物および炭窒化物の析出物の形の金属元素の量は、バナジウム、チタンおよびニオブの場合にはそれぞれV、TiおよびNbにより表され、そして炭化物の形のクロムおよびモリブデンの場合にはCrおよびMoにより表される。
この関連で、この鋼は、
量が0.050重量%〜0.50重量%で、析出物の形での量Vが0.030重量%〜0.150重量%であるバナジウム(好ましくは、バナジウム含量は0.070%〜0.40%であり、量Vは0.070重量%〜0.140重量%である)、
量が0.040重量%〜0.50重量%で、析出物の形での量Tiが0.030%〜0.130%であるチタン(好ましくは、チタン含量は0.060%〜0.40%であり、量Tiは0.060重量%〜0.110重量%である)、
量が0.070重量%〜0.50重量%で、析出物の形での量Nbが0.040%〜0.220%であるニオブ(好ましくは、ニオブ含量は0.090%〜0.40%であり、量Nbは0.090重量%〜0.200重量%である)、
量が0.070重量%〜2重量%で、析出物の形での量Crが0.070%〜0.6%であるクロム(好ましくは、クロム含量は0.20%〜1.8%であり、量Crは0.20%〜0.5%である)、および
量が0.14重量%〜2重量%で、析出物の形での量Moが0.14%〜0.44%であるモリブデン(好ましくは、モリブデン含量は0.20%〜1.8%であり、量Moは0.20%〜0.35%である)
から選択される1つ以上の金属元素を含有する。
これらの種々の元素に対して表される最小値(例えば、バナジウムの場合には0.050%)は、製造の加熱サイクル中で析出物を形成するのに必要とされる添加量に対応する。更に多量の析出物を得るには好ましい最小含量(例えば、バナジウムの場合には0.070%)が推奨される。
これらの種々の元素に対して表される最大値(例えば、バナジウムの場合には0.50%)は、過度の析出、または機械的性質を低下させる不適切な形での析出、あるいは本発明の不経済な実施に対応する。元素の添加を最適化するには、好ましい最大含量(例えば、バナジウムの場合には0.40%)が推奨される。
析出物の形での金属元素の最小値(例えば、バナジウムの場合には0.030%)は、遅れ割れに対する感受性を極めて著しく低下させるための析出物の量に対応する。遅れ割れに対する特に高い抵抗性を得るには好ましい最小量(例えば、バナジウムの場合には0.070%)が推奨される。
析出物の形での金属元素の最大値(例えば、バナジウムの場合には0.150%)は、延性または靭性の劣化を示し、破壊は析出物上で開始する。更には、この最大値よりも上では、著しい析出が起こり、これは、冷間圧延後の連続焼鈍熱処理時に完全な再結晶化を防止し得る。
延性が可能な限り維持され、そして得られる析出物が通常の再結晶化焼鈍条件下で再結晶化に適合性であるには、析出物の形での好ましい最大含量(例えば、バナジウムの場合には0.140%)が推奨される。
更には、本発明者らは、過度に大きい平均の析出物の大きさがトラッピングの有効性を低下させるということを実証した。語句「平均の析出物の大きさ」は、例えば抽出レプリカを用い、続いて透過型電子顕微鏡観察により観察可能な大きさを意味すると本明細書では理解される。各析出物の直径(球形あるいは殆ど球形の析出物の場合)または最長長さ(不規則形状の析出物の場合)が測定され、次にこれらの析出物に対する大きさの分布ヒストグラムが生成され、これから粒子の統計的に代表的な数を計数することにより平均が計算される。平均寸法が25ナノメーターを超える場合は、析出物とマトリックスとの間の界面の減少により水素トラッピングの有効性は減少する。所与の析出物の量に対しては、25ナノメーターを超える平均の析出物の大きさも析出物の密度を低下させ、したがってトラッピング部位の間の距離を過度に増大させる。水素トラッピングのための界面面積も低下する。好ましくは、可能な限り大量の水素をトラップするには、平均の析出物の大きさは20ナノメーター未満である。
しかしながら、平均の析出物の大きさが5ナノメーター未満である場合には、析出物は、マトリックスと凝集するように形成し、したがってトラッピング能を低下させる傾向を有する。これらの極めて微細な析出物を制御する困難性も増大する。平均の析出物の大きさが7ナノメーターを超える場合には、これらの困難性は最適に回避される。この平均値は、ナノメーターのオーダーの大きさを有する多数の極めて微細な析出物の存在を含み得る。
本発明者らは、遅れ割れに対する感受性を低下させるのに、析出物が粒状位置に有利に位置するということも実証した。これは、析出物の集団の少なくとも75%が粒状位置中に在る場合、可能性として存在する水素が脆化の潜在的な部位であるオーステナイト系粒界に蓄積せずに更に均一に分布するためである。前述の元素の1つ、特にクロムの添加によって、種々の炭化物、例えばMC、M、M23、MCの析出が可能となる。ここで、Mは金属元素のみならず、FeまたはMnも示し、これらの元素はマトリックス中に存在する。析出物内の鉄およびマンガンの存在は、低コストのために析出物の量を増大させ、したがって析出物の有効性を増大させる。
本発明者らは、バナジウム炭化物VC、バナジウム窒化物VNおよび比較的複雑な炭窒化物V(CN)の形で析出されるバナジウムの添加が本発明の文脈内で特に有利であるということも実証した。
本発明の目的は、特に、極めて高い機械的性質と遅れ破壊に対する低い感受性の両方を有する鋼を提供することである。冷間圧延および焼鈍した鋼板の製造の文脈内で上述したように、鋼を焼鈍サイクル後で完全に再結晶化するということが推奨される。例えば鋳造、熱間圧延あるいはコイル化段階で起こる過度に早期の析出は、再結晶化に可能な遅延効果を及ぼし、金属を硬化し、そして熱間圧延あるいは冷間圧延力を増大させるリスクを冒す。このような析出はオーステナイト系粒界で著しく起こるので、これもさほど有効でない。高温で形成されるこれらの析出物の寸法は大きく、しばしば25ナノメーターを超える。
本発明者らは、熱間圧延あるいはコイル化時にバナジウムの析出が殆ど起こらない限り、この元素の添加が特に望ましいことを実証した。結果として、予め存在する熱間圧延および冷間圧延力設定は修正される必要はなく、そして全てのバナジウムは冷間圧延後の以降の焼鈍サイクル時に極めて微細かつ均一な析出に使用可能である。析出は、均一に分布したナノスケールのVCおよびVNまたはV(CN)の析出物の形で起こり、この析出物の大部分は粒状位置、すなわち水素トラッピングに最も望ましい形のものである。加えて、この微細な析出は粒成長を制限し、可能性としては焼鈍後にオーステナイト系粒の微細な大きさが得られる。
本発明による製造方法は、次の通り行われる。0.45%≦C≦0.75%、15%≦Mn≦26%、Si≦3%、Al≦0.050%、S≦0.030%、P≦0.080%、N≦0.1%、それに0.050%≦V≦0.50%、0.040%≦Ti≦0.50%、0.070%≦Nb≦0.50%、0.070%≦Cr≦2%、0.14%≦Mo≦2%から選択される1つ以上の金属元素、および場合によっては0.0005%≦B≦0.003%、Ni≦1%、Cu≦5%から選択される1つ以上の元素を有し、残りの組成が鉄と溶融から生じる不可避の不純物からなる、鋼が溶融される。
この溶融に続いて、鋼はインゴットに鋳造されるか、あるいはほぼ200mmの厚さのスラブの形で連続鋳造され得る。鋳造は、数十ミリメートルの厚さの薄いスラブまたは数ミリメートルの厚さの薄い帯鋼の形でも有利に行われ得る。本発明によるしかるべき更なる元素、例えばチタンまたはニオブが存在する場合には、薄い製品の形で鋼を鋳造することは、特に、極めて微細かつ熱的に安定な窒化物または炭窒化物の析出を生じ、この存在が遅れ割れに対する感受性を低下させる。
これらの鋳造された半完成製品は1100℃〜1300℃の温度まで最初に加熱される。この目的は、各点において、圧延時に鋼が受ける高い変形に有利な温度を得ることである。しかしながら、再加熱温度は、マンガンおよび/または炭素により局所的に富化されたいかなる領域においても到達可能な固相温度に近接しすぎ、そして熱間形成にとって有害である液体状態に鋼を局所的に至らす恐れがあるので、1300℃を超えてはならない。勿論、薄いスラブの直接鋳造の場合には、1300℃〜1000℃で出発するこれらの半完成製品を熱間圧延する段階は、中間の再加熱段階を通さずに鋳造後直接に実施可能である。
半完成製品は熱間圧延されて、例えば薄いスラブの鋳造品から得られる半完成製品の場合には2ミリメートル〜5ミリメートルの、あるいは更には1mm〜5mmの、あるいは薄い帯鋼を鋳造する場合には0.5mm〜3mmの厚さの熱間圧延帯鋼厚さを得る。本発明による鋼の低アルミニウム含量は、圧延時の熱間変形性を損なうAlNの過度の析出を防止する。延性の欠如によるいかなる割れの問題も回避するために、圧延終了温度は890℃を下回らなければならない。
圧延後、帯鋼は、ある機械的性質の低下を生じる、本質的に粒間のセメンタイト(Fe、Mn)C)の炭化物の著しい析出がないような温度でコイル化されなければならない。これは、コイル化温度が580℃を下回る場合に得られる。得られる製品が完全に再結晶化されるような方法で製造条件も選択される。
次に、以降の冷間圧延操作と、それに続く焼鈍が行われ得る。この追加の段階は、熱間圧延の帯鋼について得られる粒径よりも小さい粒径を生じ、それゆえ更に高強度の性質を生じる。勿論、例えば0.2mm〜数mmの厚さの範囲の薄い厚さの製品を得ることを所望する場合には、これが行われなければならない。
上述の方法により得られる熱間圧延製品は、場合によっては先行の酸洗い操作を通常の方法で行った後に冷間圧延される。この圧延段階の後、粒は極めて加工硬化され、そして再結晶化焼鈍処理を行うことが推奨される。この処理は、延性を回復し、そして本発明による析出物を得る効果を有する。この焼鈍は、好ましくは連続的に行われ、
加熱速度Vで特性化される加熱段階、
温度T均熱処理時間tでの均熱処理ステップ
冷却速度Vでの冷却ステップおよび
場合によっては温度T均熱処理時間tでの均熱処理ステップ
の一連の段階を含む。
温度Tでの随意の均熱処理ステップの前に、製品は場合によっては室温まで冷却され得る。この温度Tでの均熱処理ステップは、別な装置、例えば鋼コイルの静的焼鈍用の炉中で場合によっては行われ得る。
パラメーターV、T、t、V、T、tの精確な選択は、特に完全な再結晶化によって所望の機械的性質が得られるような方法で通常行われる。更には、本発明の文脈内で、当業者ならば、焼鈍後で析出した炭化物、窒化物または炭窒化物の形で存在する金属元素(V、Ti、Nb、Cr、Mo)の量が上述の含量(V、Ti、Nb、Cr、Mo)内に在るような方法で、特に冷間圧延比にしたがってこれらを調整する。
当業者ならば、これらの析出物の平均寸法が5ナノメーター〜25ナノメーター、好ましくは7ナノメーター〜20ナノメーターであるような方法で、これらの焼鈍パラメーターも調整する。
これらのパラメーターは、析出の大部分がマトリックス中で均一に起こるような、すなわち、析出物の少なくとも75%が粒状位置にあるような方法でも調整され得る。
特に、本発明はバナジウムを添加することにより有利に行われる。これを行うためには、0.45%≦C≦0.75%、15%≦Mn≦26%、Si≦3%、Al≦0.050%、S≦0.030%、P≦0.080%、N≦0.1%、0.050%≦V≦0.50%、および場合によっては0.0005%≦B≦0.003%、Ni≦1%、Cu≦5%から選択される1つ以上の元素組成を有する鋼が溶融される。本発明による鋼板は、半完成製品を鋳造し、1100℃〜1300℃の温度までこれを加熱し、950℃以上の圧延終了温度により半完成製品を熱間圧延し、次に500℃を下回る温度でこれをコイル化することにより最適に製造される。
鋼板は、30%を超える圧延比(圧延比は(冷間圧延前の鋼板厚さ−冷間圧延後の鋼板厚さ)/(冷間圧延前の鋼板厚さにより定義される)により冷間圧延される。30%の圧延比は再結晶化を得る最小の変形に対応する。次に、焼鈍熱処理は、2℃/秒〜10℃/秒(好ましくは3℃/秒〜7℃/秒)の加熱速度Vにより、700℃〜870℃(好ましくは720℃〜850℃)の温度Tで30秒〜180秒の時間行われ、次に、鋼板は10℃/秒〜50℃/秒の速度で冷却される。
このように、50%を超える破断時伸びと共に1000MPaを超える強度を有し、そしてバナジウム炭窒化物の極めて微細でかつ均一な析出のために遅れ割れに対する優れた抵抗性をもたらす鋼が得られる。
本発明によるCrあるいはMo添加の場合には、再結晶化焼鈍の後にナノスケールのクロムあるいはモリブデンの炭化物の析出が再結晶化と相互作用しないような方法で、温度均熱処理を行うことが有利である。この処理は、連続焼鈍設備により上述の冷却ステップの直後の時効域内で行われ得る。それゆえ、当業者ならば、この均熱処理ステップのパラメーター(均熱処理温度T均熱処理時間t)を調整して、本発明によるクロムおよびモリブデン炭化物を析出させる。引き続いて鋼をコイルの形で焼鈍することにより、この析出を起こさせることも可能である。
非限定的な例として、次の結果は本発明によりもたらされる有利な特徴を示す。
(実施例)
下記の表に示す組成(組成は重量パーセントで表される)を有する鋼を溶融した。本発明による鋼I1およびI2と別に、この表は比較として参照の鋼の組成を示す。鋼R1は極めて低いバナジウム含量を有する。鋼R2の冷間圧延鋼板は、下記に説明する条件下で過多量の析出物を有する(表2を参照)。鋼R3は過剰のバナジウム含量を有する。
Figure 0005111119
これらの鋼からの半完成製品を1180℃まで再加熱し、これらを3mmの厚さとするために、950℃の温度で熱間圧延し、次に500℃の温度でコイル化した。
次に、このように得られた鋼板を50%の圧延比で1.5mmの厚さまで冷間圧延し、次に表2に示す条件下で焼鈍した。
化学的抽出と選択的添加により炭化物、窒化物または炭窒化物の形の析出した金属元素の量をこれらの種々の鋼板中で求めた。組成および製造条件のために、これらの随意の析出物はバナジウム、主としてバナジウム炭窒化物をベースとするものであった。透過型電子顕微鏡を用いて観察される抽出レプリカをベースとして測定した平均の析出物の大きさと一緒に、析出物の形でのバナジウムVの量を表2に示す。
Figure 0005111119
表3は、これらの条件下で得られる引っ張りにおける機械的性質、すなわち、強度および破断時伸びを示す。更に、直径55mmの円形ブランクを冷間圧延および焼鈍鋼板から切り出した。次に、これらのブランクを絞って、連結によって直径33mmのパンチを用いて平底のカップ(Swift式ネッキング試験)を形成した。この方法で、この試験の過酷度を特性化する因子β(すなわち、パンチ直径に対する初期のブランク直径の比)は1.66であった。次に、形成直後に、あるいは3ケ月待った後に微小割れの存在をチェックし、遅れ割れに対するいかなる感受性も特性化した。これらの観察の結果も表3に示す。
Figure 0005111119
参照R3の場合には、全バナジウム含量(0.865%)は過剰であり、そして850℃で焼鈍した後でも再結晶化を得ることは不可能であった。それゆえ、伸びの性質は極めて不充分であった。鋼R2の場合には、析出物の大きさは好適であっても、バナジウム析出が過剰量(0.219%の析出バナジウム)で起こり、その結果、破断時伸びの劣化と不充分な特性を生じた。
鋼R1の場合には、所望の析出は存在せず、そして遅れ破壊に対する感受性が存在した。
本発明による鋼I1およびI2は、好適なタイプおよび大きさの析出物を含む。これらの75%より多くは粒状位置に局所化するものであった。これらの鋼は、優れた機械的性質(1000MPaを超える強度、55%を超える伸び)と、遅れ割れに対する高い抵抗性を併せ持つ。後者の性質は特別な脱ガス熱処理無しでも得られた。
本発明による熱間圧延あるいは冷間圧延鋼板は、極めて高い強度と大きな延性が自動車の重量低減を極めて有効に助け、衝撃時の安全性を増大させるために、自動車業界で構造部品、補強要素または外部部品の形で有利に使用される。

Claims (16)

  1. 化学組成が含量を重量で表して
    0.45%≦C≦0.75%
    15%≦Mn≦26%
    Si≦3%
    Al≦0.050%
    S≦0.030%
    P≦0.080%
    N≦0.1%、
    0.050%≦V≦0.50%、
    および場合によっては、
    0.0005%≦B≦0.003%
    Ni≦0.01%
    Cu≦0.002%、
    から選択される1つ以上の元素を含み、組成の残りが鉄と溶融から生じる不可避の不純物からなり、析出した炭化物、窒化物または炭窒化物の形のバナジウムの量が
    0.030%≦V≦0.150%
    である、鉄−炭素−マンガンオーステナイト系鋼板。
  2. 前記鋼の組成が含量を重量で表して
    0.50%≦C≦0.70%
    を含むことを特徴とする、請求項1に記載の鋼板。
  3. 前記鋼の組成が含量を重量で表して
    17%≦Mn≦24%
    を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の鋼板。
  4. 前記鋼の組成が
    0.070%≦V≦0.40%
    を含み、析出した炭化物、窒化物あるいは炭窒化物の形のバナジウムの量が
    0.070%≦V≦0.140%
    であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼板。
  5. 前記析出物の平均寸法が5ナノメーター〜25ナノメーターであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼板。
  6. 前記析出物の平均寸法が7ナノメーター〜20ナノメーターであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の鋼板。
  7. 前記析出物の集団の少なくとも75%が粒状位置中に在ることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の鋼板。
  8. 化学組成が含量を重量で表して
    0.45%≦C≦0.75%
    15%≦Mn≦26%
    Si≦3%
    Al≦0.050%
    S≦0.030%
    P≦0.080%
    N≦0.1%、
    0.050%≦V≦0.50%、
    および場合によっては、
    0.0005%≦B≦0.003%
    Ni≦0.01%
    Cu≦0.002%、
    から選択される1つ以上の元素を含み、
    組成の残りが鉄と溶融から生じる不可避の不純物からなる鋼が供給され、
    半完成製品がこの鋼から鋳造され、
    前記半完成製品が1100℃〜1300℃の温度まで加熱され、
    前記半完成製品が890℃以上の圧延終了温度により熱間圧延され、
    前記鋼板が580℃を下回る温度でコイル化され、
    前記鋼板が冷間圧延され、そして
    前記鋼板が焼鈍熱処理にかけられる
    ことを含み、前記熱処理が
    加熱速度Vでの加熱ステップと
    温度T均熱処理時間tでの均熱処理ステップと
    引き続いて冷却速度Vでの冷却ステップと
    場合によっては引き続いて温度T均熱処理時間tでの均熱処理ステップと
    を含み、請求項1から4のいずれか一項に記載の析出したバナジウムの量を得るために、パラメーターV、T、t、V、T、tが調整される、鉄−炭素−マンガンオーステナイト系鋼からできた冷間圧延鋼板を製造する、方法。
  9. 前記焼鈍後の前記炭化物、窒化物または炭窒化物の析出物の平均寸法が5ナノメーター〜25ナノメーターであるような方法で、パラメーターV、T、t、V、T、tが調整されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
  10. 前記焼鈍後の前記析出物の平均寸法が7ナノメーター〜20ナノメーターであるような方法で、パラメーターV、T、t、V、T、tが調整されることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
  11. 前記焼鈍後の前記析出物の集団の少なくとも75%が粒状位置中に在るような方法で、パラメーターV、T、t、V、T、tが調整されることを特徴とする、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 化学組成が
    0.050%≦V≦0.50%
    を含む鋼が与えられること、前記半完成製品が950℃以上の圧延終了温度により熱間圧延されること、前記鋼板が500℃を下回る温度でコイル化されること、前記鋼板が30%を超える圧延比で冷間圧延されること、焼鈍熱処理が2℃/秒〜10℃/秒の加熱速度Vにより700℃〜870℃の温度T、30秒〜180秒の時間で行われること、そして前記鋼板が10℃/秒〜50℃/秒の速度で冷却される
    ことを特徴とする、請求項8に記載の冷間圧延の鉄−炭素−マンガン系鋼板を製造する方法。
  13. 加熱速度Vが3℃/秒〜7℃/秒であることを特徴とする、請求項12に記載の冷間圧延鋼板を製造する方法。
  14. 均熱処理温度Tが720℃〜850℃であることを特徴とする、請求項12または13に記載の冷間圧延鋼板を製造する方法。
  15. 前記半完成製品が逆転する鋼ロールの間でスラブまたは薄い帯鋼の形で鋳造されることを特徴とする、請求項8から14のいずれか一項に記載の製造方法。
  16. 自動車分野での構造部品、補強部品または外部部品の製造への請求項1から7のいずれか一項に記載の、あるいは請求項8から15のいずれか一項に記載の方法により製造される、オーステナイト系鋼板の使用。
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