JP5109039B2 - 貝殻粉末の処理方法、およびそれによるプラスチック用フィラー - Google Patents
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Description
ホタテ養殖の盛んな青森県では、毎年約5万トンものホタテ貝殻が廃棄処分されていて、それらの殆どのものが、現在でもなお野積み状態のままでの処理によって放置され続けてきたため、今では20万トンとも50万トンとも言われる膨大な累積量を抱える事態となっていて、風光明媚な名勝地として知られる陸奥湾に望む生産地のあちこちで確実にその景観を蝕んできていると共に、何よりも、ホタテ貝殻に付着するウロの断片を残した処理のままに放置されてしまうことに起因し、それらの腐敗による悪臭や塩害などを惹起してしまい、近隣住民の日常生活に不快感を与えることとなって行政当局に苦情が持ち込まれるものの、これまでのところではそのための有効な解決策も見出せないために住民の要望には応えきれておらず、また、観光や商用で県外から来県する人々に与えるイメージも損ね兼ねなく、これら問題は、ひいては経済活動にも支障を来すことになって財政上にも少なからぬ影響が出ているのではないかと懸念する向きもあるなど、この貝殻処理については長らく社会問題化し続けてきている。
そこで、このように日々溢れ続けるホタテ貝殻廃棄物の処理対策が、従来からも様々な角度から検討され続けて実験、追試が繰り返され、その中で実効あるものは一部実用化されたり、実用化に向けて着実に歩を進めてきているという実績を積んできているのも事実であり、例えば、古くはコンクリートの骨材に用いたり、表面に埋込んで化粧コンクリート板に応用したという極めて単純なものから、特開平7−304035号公報「貝殻レジンおよびその成形品の製造方法」発明に見られるような、所謂破砕貝殻を主原料とし、これに適宜合成樹脂材料、硬化剤及び効果促進剤の適量を混入して得られる混合物を固化してタイルやブロック、U字溝、植木鉢など栽培用品、魚礁ブロック等の成形品にしようとするもの、あるいは特開平9−158106号公報「道路の舗装方法」発明などに代表される土木建築資材の代替物にしようと試みるもの、あるいは、ホタテの生産高日本一で知られる網走市と同農協、北見農業事務所が協力してホタテ貝殻を暗渠の被覆材とする実用化に成功し、従来の被覆材よりも経済的だ農家に歓迎されると共に有効な貝殻処理対策として地元と漁業関係者からも好評を泊している事例などがある。
そこで、この発明でも、これまでのようにホタテ貝殻を単に産業廃棄物としてその処分だけを目的にした開発を志向するのではなく、ホタテ貝殻特有の構成素材を素材として見直し、その素材を活かした付加価値の高いものの実現化こそが、最終的にホタテ貝殻の需要を継続的且つ量的に喚起する最も有効な手段になるものと確信し、膨大な廃棄量に苦慮する地域に居住する者の責任とし、それこそ有り余る程のホタテ貝殻を目の当たりにできる絶好の地の利を活かし、貝殻特有の構成素材、特にホタテ貝殻の主体をなす炭酸カルシウム(CaCO3)の活用を取り上げ、しかも、従前までのもののように何かへの代替品としてだけで済まされてしまうことのない新規、有用なものの開発、完成を目途にすることにした。
この発明は、プラスチックフィラーとしての可能性を求め、ホタテ貝殻を代表として貝殻特有の成分の一つであるタンパク質コンキオリンに注目し、それが、プラスチック成形過程においてタンパク質の分解点(200℃)以上の融点で行われたとき、当該有機質が成形品中にて分解、熱変性してしまい、成形物までもが褐変することとなってしまったり、その分解ガスによって成形物中に空隙を生じて強度の低下を来すことになるなどして成形されるプラスチックそのものに悪影響を及ぼし、フィラーとして用いることができなくなるのではないのかとの予測の下に、そのような現象を来すことがない新規な貝殻粉末の処理をするようにし、従前までの石灰石からの炭酸カルシウムとは違って易処理性もあり、しかもプラスチック成形には欠かせない剛性(弾性率)、強度、耐衝撃性の三大力学特性に秀れ、易処理性プラスチックの範疇を越えた、所謂PET(ポリエチレンテレフタレート、以下同様。)等エンジニアプラスチックにも十分適合し得るプラスチック用フィラーのための貝殻粉末の処理方法と、それによるプラスチック用フィラーとを実現しようとするものである。
この発明の基礎をなすをなすプラスチック用フィラーは、基本的に次のような構成から成り立っている。
即ち、平均粒子径25μmに調整してなる貝殻粉末を、pH11以上、濃度0.01%以上とした水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬したまま所要時間以上に渡る水熱反応処理してコンキオリン等有機質を0.2%以下にまで除去するようにしてしまい、得た貝殻粉末をタンパク質の分解点以上の熱処理に適用してもその白色度を維持し得るようにした構成を要旨とする貝殻粉末の処理方法である。
この基本的な発明に関連し、この出願には、その貝殻粉末の処理方法によって得られるプラスチック用フィラーを包含している。
即ち、pH11以上、濃度0.01%以上とした水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、所要時間以上に渡る水熱反応処理し、コンキオリン等有機質残留量を0.2%以下にまで除去した平均粒子径25μmのホタテ貝殻粉末を、濾過・乾燥して形成し、タンパク質の分解点以上の融点を必要とするPET等エンジニアプラスチック成形に適用してもその白色度が維持できるようにした構成による、前記したこの発明の基本なす貝殻粉末の処理方法を利用して得られるプラスチック用フィラーである。
先ず、貝殻は、この発明の研究、開発の動機が有り余るホタテ貝の有用活用にあったことからホタテ貝を代表として取り上げているものの、その技術的思想としては必ずしもホタテ貝に止まるものではなく、アサリ、ハマグリ、アカガイ、シジミなどお馴染みの二枚貝(分類学上、軟体動物斧足類)や、アワビ、サザエなどといった巻貝(分類学上、軟体動物腹足類)等で、特に廃棄処分量の多くなる養殖対象の貝殻全般が対象となるものであり、それら貝殻は、成分の殆どが純粋な炭酸石灰からなるものであって、リン酸石灰や炭酸マグネシウムがほんの僅かだけ含まれ、その炭酸石灰の結晶が有機質のコンキオリン(二枚の貝殻を結び付けている物質の靱帯〈蝶番靱帯〉の主成分としても知られ、貝殻組成の一つでもあるタンパク質)で固められていて、それらの間に金属化合物や色素が含まれることによって貝殻特有の色彩や模様を表す組成を有しており、この発明の目的の一つであるプラスチック用フィラーとするために熱変性で褐変しないようにするには、炭酸石灰以外の成分、即ち主としてコンキオリンとその周囲の炭酸石灰結晶との間の色素部分を何らかの目的で完全に近い状態で除去する必要があることを突き止めたことから、そのような処理対象に挙げられる貝殻類全てをこの発明は包含している。
この水酸化ナトリウム水溶液中への貝殻粉末の浸漬時間は、pH値やその濃度、処理温度、それに貝殻粉末の粒度等にも左右されるために一概に規定することはできず、pH11以上、濃度0.01%以上となる所定値に調整した所定量の水酸化ナトリウム水溶液中で、水熱反応処理条件を適宜設定して処理するようにした上、それら処理済み貝殻粉末について、PET製品成形時のような300℃以上の加熱条件下での熱変性状態を確認することにより、この浸漬時間をはじめとする諸条件を設定する外ないといえる。
以下では、この発明を代表する実施例を取り上げ、詳細な説明を加えることによって上記までこの発明の貝殻粉末の処理方法、およびそれによるプラスチック用フィラーの構成が明確に把握できるようにする。
先ず、ホタテ貝殻粉末から有機質が取り除かれたことを確認するために、処理後の貝殻粉末を105℃にて乾燥した上、PET融点付近の300℃で熱処理し、全くこの発明の処理方法を経ていない無処理ホタテ貝殻粉末と比較用炭酸カルシウムと共に、その重量減少を比較してみた。この実験結果において重量減少率が高い程、有機質残留量が多いことを意味する。
有機質が残存した状態で熱処理すると着色するという熱変性を起こすことが知られている。
図2に示す棒グラフには、ホタテ貝殻の絶乾状態から300℃で熱処理した夫々の試料についてその重量減少率が表されている。
それによると、無処理ホタテ貝殻粉末と処理済みホタテ貝殻粉末とでは、コンキオリンに起因すると考えられる重量減少率に大きな差があり、処理済みホタテ貝殻粉末は無処理のものの72%に相当する有機質が取り除かれていることになり、この結果からホタテ貝殻の含有する有機質は、この発明の貝殻粉末の処理方法によって確実に低減化することが裏付けられた。
図3の棒グラフには、夫々の試料について、PET樹脂成形時の融点である300℃熱処理の前後における夫々の白色度を示してある。
更に驚くべきことに、この発明の処理方法で形成されたホタテ貝殻粉末は、石灰石よりも白色度が非常に高い傾向ことが判明する。
2 水酸化ナトリウム水溶液
3 貝殻粉末
Claims (2)
- 平均粒子径25μmに調整してなる貝殻粉末を、pH11以上、濃度0.01%以上とした水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬したまま所要時間以上に渡る水熱反応処理してコンキオリン等有機質を0.2%以下にまで除去するようにしてしまい、得た貝殻粉末をタンパク質の分解点以上の熱処理に適用してもその白色度を維持し得るようにしたことを特徴とする貝殻粉末の処理方法。
- pH11以上、濃度0.01%以上とした水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、所要時間以上に渡る水熱反応処理し、コンキオリン等有機質残留量を0.2%以下にまで除去した平均粒子径25μmのホタテ貝殻粉末を、濾過・乾燥して形成し、タンパク質の分解点以上の融点を必要とするポリエチレンテレフタレート等エンジニアプラスチック成形に適用してもその白色度が維持できるようにした、請求項1記載の貝殻粉末の処理方法によって形成してなるプラスチック用フィラー。
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