JP5107394B2 - 電磁波吸収体及びそれを用いた内装材 - Google Patents

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Description

本発明は、幅広い周波数の電磁波に対する高い吸収能を有する電磁波吸収体、及びそれを用いた内装材に関する。
電磁波吸収体には、広範囲の周波数の電磁波を効率良く吸収できるだけでなく、入射方向に応じた電磁波吸収能の差(電磁波吸収能の異方性)が少ないことも求められる。電子機器や通信機器が発達した現在では電磁波はいたる所に存在しているので、電磁波ノイズによるトラブルは深刻である。それは、住宅やビル等の建築物の居住空間及びオフィス空間でも同じで、不要な電磁波ノイズをできるだけ低減するために、吸収する必要がある。
現在金属のシート又はネットからなる電磁波吸収体が広く使用されているが、プラスチックシートに金属蒸着膜を形成した電磁波吸収シートも提案された。例えば特開平9-148782号(特許文献1)は、プラスチックフィルムと、その両面に形成した第一及び第二のアルミニウム蒸着膜とからなり、第一のアルミニウム蒸着膜は非導通の線状パターンにエッチングされており、第二のアルミニウム蒸着膜は網目状の導通パターンにエッチングされている電磁波吸収シートを提案している。しかし、この電磁波吸収シートの線状パターン及び網目状パターンはいずれも規則的であるので、広範囲の周波数の電磁波を効率良く吸収することができない上に、電磁波吸収能の異方性が大きい。
特開平11-40980号(特許文献2)は、プラスチックフィルムの一面に順に銅蒸着層及びニッケル蒸着層を形成してなる電磁波シ−ルド材を提案している。しかしこの電磁波シ−ルド材は電磁波吸収能が十分でないだけでなく、その異方性が大きい。
特開平9-148782号 特開平11-40980号
従って本発明の目的は、広範囲の周波数の電磁波に対して良好な吸収能を有するだけでなく、電磁波吸収能の異方性が低い電磁波吸収体、及びかかる電磁波吸収体からなる内装材を提供することである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、(a) プラスチックフィルムに形成した金属薄膜に、実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる電磁波吸収フィルム、又は(b) 異なる線状痕を有する複数枚の電磁波吸収フィルム片を隣接して配置してなる複合電磁波吸収フィルムと、(c) 縦、横又は縦横の線状痕を有する電磁波吸収フィルムとを誘電体スペーサを介して配置してなる電磁波吸収体は、広範囲の周波数の電磁波に対して良好な吸収能を有するだけでなく、電磁波吸収能の異方性が低いことを発見し、本発明に想到した。
すなわち、本発明の第一の電磁波吸収体は、第一の電磁波吸収フィルムと第二の電磁波吸収フィルムとを誘電体スペーサを介して配置してなり、(a) 前記第一の電磁波吸収フィルムは、(1) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる電磁波吸収フィルム、又は(2) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる複数の電磁波吸収フィルム片を隣接するように配置してなり、前記電磁波吸収フィルム片の線状痕が幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なる複合電磁波吸収フィルムであり、(b) 前記第二の電磁波吸収フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で縦方向、横方向又は縦横方向に形成してなることを特徴とする。
本発明の第二の電磁波吸収体は、一対の第一の電磁波吸収フィルムの間に1つの第二の電磁波吸収フィルムを誘電体スペーサを介して配置してなり、(a) 一対の前記第一の電磁波吸収フィルムは同じでも異なっていても良く、各第一の電磁波吸収フィルムは、(1) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる電磁波吸収フィルム、又は(2) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる複数の電磁波吸収フィルム片を隣接するように配置してなり、前記電磁波吸収フィルム片の線状痕が幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なる複合電磁波吸収フィルムであり、(b) 前記第二の電磁波吸収フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で縦方向、横方向又は縦横方向に形成してなることを特徴とする。
上記電磁波吸収体において、前記誘電体スペーサはハニカム状又は格子状の誘電体シート又は発泡誘電体からなるのが好ましい。前記誘電体スペーサの厚さはλ/24〜λ/2の範囲(ただし、λは吸収すべき電磁波の中心波長である。)であるのが好ましい。
前記第一の電磁波吸収フィルムにおける線状痕は10〜90°の交差角で二方向に配向しているのが好ましい。前記線状痕の幅は全体の90%が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の横手方向間隔は1〜500μmの範囲内にあって、平均1〜100μmであるのが好ましい。
本発明の建築物の内装材は、上記電磁波吸収体を具備することを特徴とする。上記内装材はパーティションであるのが好ましい。
本発明の電磁波吸収体は、(a) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる電磁波吸収フィルム、又はその小片を線状痕が幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なるように隣接して配置した複合電磁波吸収フィルムからなる第一の電磁波吸収フィルムと、(b) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で縦方向、横方向又は縦横方向に形成してなる第二の電磁波吸収フィルムとを誘電体スペーサを介して配置してなるので、高い電磁波吸収能を有するだけでなく、電磁波吸収能の異方性が低い。また構造が簡単であるので、電磁波吸収能を有する建築物のパーティション等の内装材を安価に提供することができる。
本発明の電磁波吸収体を構成する線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの一例を示す断面図である。 図1(a) の線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの線状痕の詳細を示す平面図である。 図1(a) 及び図1(b) のA部分を示す拡大断面図である。 図1(c) のA'部分を示す拡大断面図である。 本発明の電磁波吸収体を構成する線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの別の例を示す断面図である。 図2(a) のB部分を示す拡大断面図である。 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの線状痕の別の例を示す平面図である。 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの線状痕のさらに別の例を示す平面図である。 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの線状痕のさらに別の例を示す平面図である。 微細穴を有する線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムを示す平面図である。 図4(a) のC部分を示す拡大断面図である。 保護層を形成した線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムを示す断面図である。 本発明の電磁波吸収体を構成する複合電磁波吸収フィルムの一例を示す平面図である。 図6(a) のA-A断面図である。 複合電磁波吸収フィルムの別の例を示す平面図である。 複合電磁波吸収フィルムのさらに別の例を示す平面図である。 図6の複合電磁波吸収フィルムを縦横に配列してなる複合電磁波吸収フィルムを示す部分平面図である。 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの製造装置の一例を示す斜視図である。 図9(a) の装置を示す平面図である。 図9(b) のB-B断面図である。 複合フィルムの進行方向に対して傾斜した線状痕が形成される原理を説明するための部分拡大平面図である。 図9(a) の装置において、複合フィルムに対するパターンロール及び押えロールの傾斜角度を示す平面図である。 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの製造装置の別の例を示す部分断面図である。 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの製造装置のさらに別の例を示す斜視図である。 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの製造装置のさらに別の例を示す斜視図である。 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの製造装置のさらに別の例を示す斜視図である。 二枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す斜視図である。 二枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す斜視図である。 二枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す斜視図である。 二枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す斜視図である。 二枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体の基本構成を示す部分断面図である。 図15(a) におけるD部分を示す拡大断面図である。 図15(a) におけるE部分を示す拡大断面図である。 図15(a) の電磁波吸収体に保護層を設けてなる電磁波吸収体を示す部分断面図である。 三枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す斜視図である。 三枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す斜視図である。 三枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す斜視図である。 三枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す斜視図である。 三枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す斜視図である。 三枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す斜視図である。 三枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す斜視図である。 三枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す斜視図である。 三枚の電磁波吸収フィルムを有する本発明の電磁波吸収体の基本構成を示す部分断面図である。 図17(a) の電磁波吸収体に保護層を設けてなる電磁波吸収体を示す部分断面図である。 本発明の電磁波吸収体に用いる誘電体スペーサの一例を示す部分概略図である。 本発明の電磁波吸収体に用いる誘電体スペーサの別の例を示す部分概略図である。 本発明の電磁波吸収体に用いる誘電体スペーサのさらに別の例を示す部分概略図である。 本発明の電磁波吸収体を含むパーティションの一例を示す部分断面図である。 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルム上に表面抵抗測定用電極を配置した状態を示す平面図である。 電磁波吸収体の電磁波吸収能を評価する装置を示す平面図である。 実施例1のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。 実施例2のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。 実施例3のピーク吸収率及びピーク周波数を示すグラフである。
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
[1] 電磁波吸収フィルム
本発明の電磁波吸収体を構成する電磁波吸収フィルムは、図1(a) に示すように、プラスチックフィルム10の少なくとも一面に、線状痕12を有する単層又は多層の金属薄膜11を有する線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルム1である。多層の金属薄膜11を二層構造とする場合、磁性金属薄膜と非磁性金属薄膜との組合せが好ましい。
(1) プラスチックフィルム
プラスチックフィルム10を形成する樹脂は、絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。プラスチックフィルム10の厚さは10〜100μm程度で良い。
(2) 金属薄膜
金属薄膜11を形成する金属は導電性を有する限り特に限定されないが、耐食性及びコストの観点からアルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、銀及びこれらの合金が好ましく、特にアルミニウム、銅、ニッケル及びこれらの合金が好ましい。金属薄膜11は蒸着法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、又はプラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法等の化学気相蒸着法)、めっき法又は箔接合法により形成することができる。金属薄膜11は単層でも複層でも良い。
(a) 単層の金属薄膜
単層の場合、金属薄膜は導電性、耐食性及びコストの観点からアルミニウムからなるのが好ましい。単層の金属薄膜の厚さは0.01μm以上が好ましい。厚さの上限は特に限定的でないが、実用的には10μm程度で十分である。勿論、10μm超の金属薄膜を用いても良いが、高周波数の電磁波の吸収能はほとんど変わらない。金属薄膜の厚さは0.01〜5μmがより好ましく、0.01〜1μmが最も好ましく、10〜100 nmが特に好ましい。
(b) 複層の金属薄膜
図2(a) 及び図2(b) に示すように、プラスチックフィルム10に複数の金属薄膜11a,11bを設けても良い。一方の金属薄膜を非磁性金属により形成し、他方の金属薄膜を磁性金属により形成するのが好ましい。多層の金属薄膜11a,11bでも、線状痕12自体は図1(a)〜図1(d) に示すものと同じで良い。非磁性金属として銅、銀、アルミニウム、錫又はこれらの合金が挙げられ、磁性金属としてニッケル、コバルト、クロム又はこれらの合金が挙げられる。好ましい組合せはニッケルと銅又はアルミニウムである。磁性金属薄膜の厚さは0.01μm以上が好ましく、非磁性金属薄膜の厚さは0.1μm以上が好ましい。厚さの上限は特に限定的でないが、両者とも実用的には10μm程度で良い。より好ましくは、磁性金属薄膜の厚さは0.01〜5μmであり、非磁性金属薄膜の厚さは0.1〜5μmである。
(3) 線状痕
図1(b)〜図1(d) に示すように、金属薄膜11に実質的に平行で断続的な線状痕群12a,12bが二方向に不規則な幅及び間隔で形成されている。なお、説明のために図1(c) 及び図1(d) では線状痕12の深さを誇張している。二方向に配向した線状痕12は種々の幅W及び間隔Iを有する。線状痕12の幅Wは線状痕形成前の金属薄膜11の表面Sに相当する高さで求め、線状痕12の間隔Iは、線状痕形成前の金属薄膜11の表面Sに相当する高さにおける線状痕12の間隔とする。線状痕12が種々の幅W及び間隔Iを有するので、線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムは広範囲にわたる周波数の電磁波を効率良く吸収することができる。
線状痕12の幅Wの90%は0.1〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、0.5〜50μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.5〜20μmの範囲内にあるのが最も好ましい。線状痕12の平均幅Wavは1〜50μmであるのが好ましく、1〜10μmがより好ましく、1〜5μmが最も好ましい。
線状痕12の横手方向間隔Iの90%は1〜500μmの範囲内にあるのが好ましく、1〜100μmの範囲内にあるのがより好ましく、1〜50μmの範囲内にあるのが最も好ましく、1〜30μmの範囲内にあるのが特に好ましい。また線状痕12の平均横手方向間隔Iavは1〜200μmが好ましく、5〜50μmがより好ましく、5〜30μmが最も好ましい。
線状痕12の長さLは、摺接条件(主としてロール及びフィルムの相対的な周速、及びフィルムのロールへの巻回角度)により決まるので、摺接条件を変えない限り大部分がほぼ同じである(ほぼ平均長さに等しい)。線状痕12の長さは特に限定的でなく、実用的には1〜100 mm程度で良く、好ましくは2〜10 mm程度である。
線状痕12a,12bの鋭角側の交差角(以下特に断りがなければ単に「交差角」と言う)θsは10°以上90°未満が好ましく、20〜80°がより好ましく、30〜70°が最も好ましい。金属薄膜−プラスチック複合フィルムとパターンロールとの摺接条件(摺接方向、周速比等)を調整することにより、図3(a)〜図3(c) に示すように種々の交差角θsの線状痕12が得られる。
(4) 微細穴
図4(a) 及び図4(b) に示すように、金属薄膜11に線状痕12の他に多数の微細貫通穴13をランダムに設けても良い。微細穴13は、表面に高硬度微粒子を有するロールを金属薄膜11に押圧することにより形成することができる。図4(b) に示すように、微細穴13の開口径Dは線状痕形成前の金属薄膜11の表面Sに相当する高さで求める。微細穴13の開口径Dは全体の90%が0.1〜1,000μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜500μmの範囲内にあるのがより好ましい。また微細穴13の平均開口径Davは0.5〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、1〜50μmの範囲内にあるのがより好ましい。
(5) 保護層
図5に示すように、線状痕付き金属薄膜11の上に保護層10aを形成するのが好ましい。保護層10aはプラスチックのハードコート又はフィルムであるのが好ましい。フィルムを用いる場合、熱ラミネート法又はドライラミネート法により接着するのが好ましい。プラスチックハードコートは、例えば光硬化性樹脂の塗布及び紫外線の照射により形成することができる。保護層の厚さは10〜100μm程度が好ましい。
(6) 表面抵抗
線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルム1の電磁波反射係数RCは、RC=(R−Z)/(R+Z)[ただし、Rは金属薄膜11の表面抵抗(Ω/□)であり、Zは電磁波の特性インピーダンス(Ω)である。]により表され、R=Zだと0である。金属薄膜11の表面抵抗は、金属薄膜11の材料及び厚さ、線状痕12の幅、間隔、長さ等により調整することができる。表面抵抗は直流二端子法で測定することができる。電磁波の特性インピーダンスZは、電磁波源の近傍では電磁波源からの距離に応じて大きく変化し、電磁波源から十分に遠い位置では自由空間の特性インピーダンス(377Ω)である。従って、線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルム1を電磁波源の近傍に配置する場合、Zにできるだけ近くなるようにRを調整し、電磁波源から十分に遠い位置に配置する場合、Rを自由空間の特性インピーダンスに近づける。
[2] 複合電磁波吸収フィルム
(1) 構成
本発明の電磁波吸収体を構成する複合電磁波吸収フィルム100は、図6(a) 及び図6(b) に示すように、隣接する複数の(図示の例では第一〜第三の)電磁波吸収フィルム片1a〜1cを有し、各電磁波吸収フィルム片1a〜1cは、一方の面に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕12が10〜90°の交差角で複数方向に形成された金属薄膜11を有するプラスチックフィルム10からなり、複数の電磁波吸収フィルム片1a〜1cは線状痕12の幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なっている。電磁波吸収フィルム片1a〜1cは、接着剤によりプラスチックベースフィルム20に貼付されている。各電磁波吸収フィルム片1a〜1c自体は上記線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムと同じで良い。線状痕12の幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なる複数の電磁波吸収フィルム片1a〜1cを隣接して配置してなる複合電磁波吸収フィルム100を使用すると、広範な周波数の電磁波ノイズに対する吸収能が一層向上し、かつ入射方向に応じた電磁波吸収能の変化が著しく小さくなる。また、プラスチックベースフィルム20はプラスチックフィルム10と同じ樹脂及び厚さで良い。
(2) 各電磁波吸収フィルム片の線状痕
複数の電磁波吸収フィルム片1a〜1cは、線状痕12の幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なっている必要がある。電磁波吸収フィルム片1a〜1cの線状痕12a,12bの交差角θsについては、いずれも10〜90°が好ましく、20〜80°がより好ましい。この範囲内に入っていれば、電磁波吸収フィルム片1a〜1cの二種又は全ての交差角θsが同じでも良いし、また全て異なっていても良い。交差角θsの中心線L1〜L3の配向方向については、図6の例では異なっているが、勿論限定的ではない。例えば、交差角θsの中心線L1〜L3が全て直交又は平行でも良い。線状痕12の幅、間隔及び長さは、後述するように製造条件の変更により変えることができる。
(3) 各電磁波吸収フィルムの表面抵抗
線状痕12の幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つを異ならせることにより、第一の電磁波吸収フィルム片1aの表面抵抗を20 Ω/□〜1 kΩ/□とするのが好ましく、100〜800 Ω/□とするのがより好ましく、200〜700 Ω/□とするのが最も好ましい。第二の電磁波吸収フィルム片1bの表面抵抗は1 kΩ/□超〜3.5 kΩ/□未満とするのが好ましく、1.5 kΩ/□以上〜3.5 kΩ/□未満とするのがより好ましく、2kΩ/□以上〜3.5 kΩ/□未満とするのが最も好ましい。第三の電磁波吸収フィルム片1cの表面抵抗は3.5 kΩ/□〜1 MΩ/□とするのが好ましく、3.5 kΩ/□〜500 kΩ/□とするのがより好ましく、3.5 kΩ/□〜100 kΩ/□とするのが最も好ましい。表面抵抗は直流二端子法で測定することができる。複数の電磁波吸収フィルムが上記のように異なる表面抵抗を有することにより、入射面に対して電界成分が垂直な偏波(TE波)が斜め入射する場合、及び入射面に対して磁界成分が垂直な偏波(TM波)が斜め入射する場合のいずれも、入射方向に関わらず優れた吸収能が得られる。
TE波及びTM波を一層効率良く吸収するために、第一の電磁波吸収フィルムと第二の電磁波吸収フィルムとの表面抵抗差を1kΩ/□以上とするとともに、第二の電磁波吸収フィルムと第三の電磁波吸収フィルムとの表面抵抗差を500 Ω/□以上とするのが好ましい。前者は1.5 kΩ/□以上であるのがより好ましく、後者は700 Ω/□以上であるのがより好ましい。
(4) 各電磁波吸収フィルムの面積率
第一〜第三の電磁波吸収フィルム片1a〜1cの面積率は、合計を100%としてそれぞれ50〜70%、10〜20%及び20〜30%であるのが好ましい。四種類以上の電磁波吸収フィルムを組合せる場合、それぞれの面積率は適宜設定ことができる。
(5) 各電磁波吸収フィルムの形状及び配置
電磁波吸収フィルム片1a〜1cの形状は限定されないが、いずれも矩形状(正方形状又は長方形状)であるのが好ましい。矩形状の電磁波吸収フィルム片1a〜1cからなる複合電磁波吸収フィルムも矩形状であるのが好ましい。特に、三つの矩形状の電磁波吸収フィルムからなる複合電磁波吸収フィルムの場合、図6(a) に示すように、電磁波吸収フィルム片1b及び1cの一辺が電磁波吸収フィルム片1aの一辺に隣接し(電磁波吸収フィルム片1b及び1cの辺の合計長さは電磁波吸収フィルム片1aの一辺の長さにほぼ等しい)、かつ電磁波吸収フィルム片1bの一辺が電磁波吸収フィルム片1cの同じ長さの一辺に隣接しているのが好ましい。この場合、電磁波吸収フィルム片1a及び1cはほぼ正方形状であり、電磁波吸収フィルム片1bは長方形状であるのが好ましい。ただし、図7に示すように、電磁波吸収フィルム片1a〜1cがストライプ状に配置されていても良い。いずれの場合も、複合電磁波吸収フィルム片100の縦横の長さの比はほぼ黄金比であるのが好ましい。
図6(a) に示すように、電磁波吸収フィルム片1a〜1cは、僅かな隙間14を設けて隣接する。限定的ではないが、隙間14の幅dは0.1〜5 mmが好ましく、0.5〜3 mmがより好ましい。このように異なる線状痕を有するために異なる表面抵抗を有する複数種の電磁波吸収フィルム片1a〜1cが互いに絶縁するように配置されているので、複合電磁波吸収フィルム100は異方性の少ない電磁波吸収能を有すると考えられる。なお電磁波吸収フィルム片1a〜1cの金属薄膜11はプラスチックベースフィルム20側でも良い。
図7(a) 及び図7(b) は複合電磁波吸収フィルム100における電磁波吸収フィルム片の別の配置例を示す。これらの複合電磁波吸収フィルム100では、矩形状の電磁波吸収フィルム片1a〜1cがストライプ状に配置されている。図7(a) の複合電磁波吸収フィルムでは、第一〜第三の電磁波吸収フィルム片1a〜1cの面積率は図6(a) と同じで良い。図7(b) の複合電磁波吸収フィルムでは、電磁波吸収フィルム片1bは1kΩ/□超〜1 MΩ/□の表面抵抗及び30〜50%の面積率を有するのが好ましい。電磁波吸収フィルム片1bの表面抵抗は1.5〜500 kΩ/□がより好ましく、2〜100 kΩ/□が最も好ましい。電磁波吸収フィルム片1aと1bの表面抵抗差は1kΩ/□以上が好ましい。
図8は図6の複合電磁波吸収フィルム100を縦横に配列してなる複合電磁波吸収フィルム110を示す。隣接する複合電磁波吸収フィルム100の間には隙間14が設けられている。勿論、縦横に配列する複合電磁波吸収フィルム100における電磁波吸収フィルム片の形状及び配列は図6に限定されない。
[3] 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルムの製造装置
図9(a)〜図9(e) は金属薄膜−プラスチック複合フィルムの金属薄膜に線状痕を二方向に形成する装置の一例を示す。この装置は、(a) 金属薄膜−プラスチック複合フィルム10’を巻き出すリール21と、(b) 複合フィルム10’の幅方向と異なる方向で金属薄膜11の側に配置された第一のパターンロール2aと、(c) 第一のパターンロール2aの上流側で金属薄膜11の反対側に配置された第一の押えロール3aと、(d) 複合フィルム10’の幅方向に関して第一のパターンロール2aと逆方向にかつ金属薄膜11の側に配置された第二のパターンロール2bと、(e) 第二のパターンロール2bの下流側で金属薄膜11の反対側に配置された第二の押えロール3bと、(f) 第一及び第二のパターンロール2a,2bの間で金属薄膜11の側に配置された電気抵抗測定手段4aと、(g) 第二のパターンロール2bの下流側で金属薄膜11の側に配置された電気抵抗測定手段4bと、(h) 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルム1を巻き取るリール24とを有する。その他に、所定の位置に複数のガイドロール22,23が配置されている。各パターンロール2a,2bは、撓みを防止するためにバックアップロール(例えばゴムロール)5a,5bで支持されている。
図9(c) に示すように、各パターンロール2a,2bとの摺接位置より低い位置で各押えロール3a,3bが複合フィルム10’に接するので、複合フィルム10’の金属薄膜11は各パターンロール2a,2bに押圧される。この条件を満たしたまま各押えロール3a,3bの縦方向位置を調整することにより、各パターンロール2a,2bの金属薄膜11への押圧力を調整でき、また中心角θ1に比例する摺接距離も調整できる。
図9(d) は線状痕12aが複合フィルム10’の進行方向に対して斜めに形成される原理を示す。複合フィルム10’の進行方向に対してパターンロール2aは傾斜しているので、パターンロール2a上の硬質微粒子の移動方向(回転方向)aと複合フィルム10’の進行方向bとは異なる。そこでXで示すように、任意の時点においてパターンロール2a上の点Aにおける硬質微粒子が金属薄膜11と接触して痕Bが形成されたとすると、所定の時間後に硬質微粒子は点A’まで移動し、痕Bは点B’まで移動する。点Aから点A’まで硬質微粒子が移動する間、痕は連続的に形成されるので、点A’から点B’まで延在する線状痕12aが形成されたことになる。
第一及び第二のパターンロール2a,2bで形成される第一及び第二の線状痕群12A,12Bの方向及び交差角θsは、各パターンロール2a,2bの複合フィルム10’に対する角度、及び/又は複合フィルム10’の走行速度に対する各パターンロール2a,2bの周速度を変更することにより調整することができる。例えば、複合フィルム10’の走行速度bに対するパターンロール2aの周速度aを増大させると、図9(d) のYで示すように線状痕12aを線分C’D’のように複合フィルム10’の進行方向に対して45°にすることができる。同様に、複合フィルム10’の幅方向に対するパターンロール2aの傾斜角θ2を変えると、パターンロール2aの周速度aを変えることができる。これはパターンロール2bについても同様である。従って、両パターンロール2a,2bの調整により、線状痕12a,12bの方向を図1(b) 及び図3(c) に例示するように変更することができる。
各パターンロール2a,2bは複合フィルム10’に対して傾斜しているので、各パターンロール2a,2bとの摺接により複合フィルム10’は幅方向の力を受ける。従って、複合フィルム10’の蛇行を防止するために、各パターンロール2a,2bに対する各押えロール3a,3bの縦方向位置及び/又は角度を調整するのが好ましい。例えば、パターンロール2aの軸線と押えロール3aの軸線との交差角θ3を適宜調節すると、幅方向の力をキャンセルするように押圧力の幅方向分布が得られ、もって蛇行を防止することができる。またパターンロール2aと押えロール3aとの間隔の調整も蛇行の防止に寄与する。複合フィルム10’の蛇行及び破断を防止するために、複合フィルム10’の幅方向に対して傾斜した第一及び第二のパターンロール2a,2bの回転方向は複合フィルム10’の進行方向と同じであるのが好ましい。
図9(b) に示すように、ロール形の各電気抵抗測定手段4a,4bは絶縁部40を介して一対の電極41,41を有し、それらの間で線状痕付き金属薄膜11の電気抵抗を測定する。電気抵抗測定手段4a,4bで測定した電気抵抗値をフィードバックして、複合フィルム10’の走行速度、パターンロール2a,2bの回転速度及び傾斜角θ2、押えロール3a,3bの位置及び傾斜角θ3等の運転条件を調整する。
複合フィルム10’に対するパターンロール2a,2bの押圧力を増大するために、図10に示すようにパターンロール2a,2bの間に第三の押えロール3cを設けても良い。第三の押えロール3cにより中心角θ1に比例する金属薄膜11の摺接距離も増大し、線状痕12a,12bは長くなる。第三の押えロール3cの位置及び傾斜角を調整すると、複合フィルム10’の蛇行の防止にも寄与できる。
図11は、図3(a) に示すように三方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bの下流に複合フィルム10’の幅方向と平行な第三のパターンロール2cを配置した点で図9(a)〜図9(e) に示す装置と異なる。第三のパターンロール2cの回転方向は複合フィルム10’の進行方向と同じでも逆でも良いが、線状痕を効率よく形成するために逆方向が好ましい。幅方向と平行に配置された第三のパターンロール2cは複合フィルム10’の進行方向に延在する線状痕12cを形成する。第三の押えロール30bは第三のパターンロール2cの上流側に設けられているが、下流側でも良い。第三のパターンロール2cの下流側に電気抵抗測定ロール4cを設けても良い。なお図示の例に限定されず、第三のパターンロール2cを第一のパターンロール2aの上流側、又は第一及び第二のパターンロール2a、2bの間に設けても良い。
図12は、図3(b) に示すように四方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bと第三のパターンロール2cとの間に第四のパターンロール2dを設け、第四のパターンロール2dの上流側に第四の押えロール3dを設けた点で図11に示す装置と異なる。第四のパターンロール2dの回転速度を遅くすることにより、図9(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)を複合フィルム10’の幅方向と平行にすることができる。
図13は、図3(c)に示すように直交する二方向に配向する線状痕を形成する装置の別の例を示す。この装置は、第二のパターンロール32bが複合フィルム10’の幅方向と平行に配置されている点で図9(a)〜図9(e) に示す装置と異なる。従って、図9(a)〜図9(e) に示す装置と異なる部分のみ以下説明する。第二のパターンロール32bの回転方向は複合フィルム10’の進行方向と同じでも逆でも良い。また第二の押えロール33bは第二のパターンロール32bの上流側でも下流側でも良い。この装置は、図9(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)を複合フィルム10’の幅方向にし、図3(c) に示す線状痕を形成するのに適している。
線状痕の傾斜角及び交差角だけでなく、それらの深さ、幅、長さ及び間隔を決める運転条件は、複合フィルム10’の走行速度、パターンロールの回転速度及び傾斜角及び押圧力等である。複合フィルムの走行速度は5〜200 m/分が好ましく、パターンロールの周速は10〜2,000 m/分が好ましい。パターンロールの傾斜角θ2は20°〜60°が好ましく、特に約45°が好ましい。複合フィルム10’の張力(押圧力に比例する)は0.05〜5kgf/cm幅が好ましい。
本発明の装置に使用するパターンロールは、鋭い角部を有するモース硬度5以上の微粒子を表面に有するロール、例えば特開2002-59487号に記載されているダイヤモンドロールが好ましい。線状痕の幅は微粒子の粒径により決まるので、ダイヤモンド微粒子の90%は1〜1,000μmの範囲内の粒径を有するのが好ましく、10〜200μmの範囲内の粒径がより好ましい。ダイヤモンド微粒子はロール面に50%以上の面積率で付着しているのが好ましい。
特許第2063411号に記載の方法により線状痕12を有する金属薄膜11に多数の微細穴13を形成することができる。微細穴13を形成するのに用いるロール自体は線状痕形成用ロールと同じで良い。微細穴13は、線状痕形成用ロールと同様に鋭い角部を有するモース硬度5以上の多数の微粒子が表面に付着したロールと平滑面のロールとの間隙に複合フィルム10’を同じ周速で通過させることにより形成できる。
[4] 電磁波吸収体
第一の電磁波吸収フィルム(上記線状痕付き金属薄膜−プラスチック層複合フィルムからなる電磁波吸収フィルム、又は複数の電磁波吸収フィルム片からなる複合電磁波吸収フィルム)は、第一の電磁波吸収フィルムと異なる線状痕パターンを有する第二の電磁波吸収フィルム(縦方向の線状痕が金属薄膜に形成された金属薄膜−プラスチック層複合フィルム、横方向の線状痕が金属薄膜に形成された金属薄膜−プラスチック層複合フィルム、又は縦横直交する方向の線状痕が金属薄膜に形成された金属薄膜−プラスチック層複合フィルム)と組合せて、電磁波吸収体とする。第一の電磁波吸収フィルムと第二の電磁波吸収フィルムとの間隔は、吸収すべき電磁波の中心波長λの1/4を含む範囲、例えばλ/8〜λ/2の範囲だけでなく、吸収すべき電磁波の中心波長λの1/12を含む範囲、例えばλ/24〜λ/6の範囲も好ましい。λ/12の間隔のとき、電界及び磁界の両方をバランス良く吸収することができる。従って、第一の電磁波吸収フィルムと第二の電磁波吸収フィルムとの間隔はλ/24〜λ/2の範囲が好ましく、具体的には0.1〜10 mmが好ましく、1〜8mmがより好ましい。この間隔は、相当する厚さの誘電体スペーサ15を設けることにより確保できる。第一の電磁波吸収フィルムで吸収されずに反射又は透過した電磁波は第二の電磁波吸収フィルムにより吸収されるので、電磁波吸収能は著しく向上する。
電磁波吸収体50を構成する電磁波吸収フィルムの組合せの例として、図14(a) は、斜交する線状痕が形成された金属薄膜−プラスチック層複合フィルムからなる第一の電磁波吸収フィルム1と、横方向の線状痕が形成された金属薄膜−プラスチック層複合フィルムからなる第二の電磁波吸収フィルム1’との組合せを示し、図14(b) は、斜交する線状痕が形成された金属薄膜−プラスチック層複合フィルムからなる第一の電磁波吸収フィルム1と、縦方向の線状痕が形成された金属薄膜−プラスチック層複合フィルムからなる第二の電磁波吸収フィルム1’との組合せを示し、図14(c) は、斜交する線状痕が形成された金属薄膜−プラスチック層複合フィルムからなる第一の電磁波吸収フィルム1と、縦横に直交する二方向の線状痕が形成された金属薄膜−プラスチック層複合フィルムからなる第二の電磁波吸収フィルム1’との組合せを示す。勿論、電磁波吸収体50の構成は図14に限定されず、例えば第一の電磁波吸収フィルム1に、縦横の線状痕を有する金属薄膜−プラスチック層複合フィルムや、異なる線状痕を有する金属薄膜−プラスチック層複合フィルム片からなる複合電磁波吸収フィルムを用いても良い。そのような場合でも、第二の電磁波吸収フィルム1’における線状痕の方向は縦、横又は縦横のいずれかでなければならない。
いずれの場合も、図15(a)〜図15(c) に示すように、電磁波吸収体50は、第一及び第二の電磁波吸収フィルム1,1’と、それらの間に設けられた誘電体スペーサ15とを有する。各電磁波吸収フィルム1,1’における金属薄膜11は電磁波吸収体50の内側でも外側でも良い。図示の例では誘電体スペーサ15はハニカム形状の誘電体シートであり、第一及び第二の電磁波吸収フィルム1,1’に接着又は溶着されている。図中、15aは接着剤を示す。誘電体スペーサ15用の誘電体シートはプラスチックでも紙などのセルロース材でも良い。第一及び第二の電磁波吸収フィルム1,1’による電磁波吸収能を向上させるために、両者の間隔D(実質的に誘電体スペーサ15の厚さにより決まる。)は、吸収すべき電磁波の中心波長λの1/4及び1/12を含む範囲、例えばλ/24≦D≦λ/2の範囲内にあるのが好ましい。二枚の電磁波吸収フィルム1,1’からなる電磁波吸収体50は、住宅、ビル等の建築物の内外壁に内蔵させるのが好ましい。図15(d) は線状痕付き金属薄膜11の上に保護層10aを形成した電磁波吸収体50を示す。この保護層10aは上記のものと同じで良い。
図16(a)〜図16(h) は、一枚の第二の電磁波吸収フィルム1’を一対の第一の電磁波吸収フィルム1,1で挟んだ構成の電磁波吸収体60を示す。いずれの場合も、第二の電磁波吸収フィルム1’は縦、横又は縦横の線状痕を有するが、第一の電磁波吸収フィルム1は斜交する線状痕を有する電磁波吸収フィルム[図16(a)〜図16(c)]か、縦横の線状痕を有する電磁波吸収フィルム[図16(d)及び図16(e)]か、異なる線状痕を有する複数の金属薄膜−プラスチック複合フィルムからなる複合電磁波吸収フィルムである[図16(f)〜図16(h)]。一対の第一の電磁波吸収フィルム1,1の線状痕は同じでも異なっていても良い。
いずれの場合も、図17(a) に示すように、電磁波吸収体60は、第一の電磁波吸収フィルム1と第二の電磁波吸収フィルム1’との間に誘電体スペーサ15を有する。各電磁波吸収フィルム1,1’における金属薄膜11は電磁波吸収体60の内側でも外側でも良い。誘電体スペーサ15は図15に示す例と同じで良い。第一及び第二の電磁波吸収フィルム1,1’の間隔D(実質的に誘電体スペーサ15の厚さにより決まる。)は、吸収すべき電磁波の中心波長λの1/4及び1/12を含む範囲、例えばλ/24≦D≦λ/2の範囲内にあるのが好ましい。三枚の電磁波吸収フィルム1,1’,1からなる電磁波吸収体60は、両側から来る電磁波を等しく吸収することができるので、住宅、ビル等の内装材として用いられるパーティションに内蔵させるのに好適である。図17(b) は各線状痕付き金属薄膜11の上に保護層10aを形成した電磁波吸収体60を示す。この保護層10aは上記のものと同じで良い。
第一及び第二の電磁波吸収フィルム1,1’の間に設ける誘電体スペーサの具体例として、図18に示すハニカム積層体15、図19に示す発泡誘電体(発泡スチロール等)15a、図20に示す格子状誘電体シート15bなどが挙げられる。
図21は、図17(b) に示す保護層10a付きの電磁波吸収体60の両側表面にさらに表層材(化粧板、クロス等)40,40を設けたパーティション70を示す。この構成ではプラスチックフィルム10及び/又は保護層10aを支持板として使用するので、十分な機械的強度を有するように厚くするのが好ましい。このパーティション70は両側からくる電磁波を効率よく吸収することができる。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
実施例1
(1) 第一の電磁波吸収フィルムの製造
粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール2a,2bを有する図9(a) に示す構造の装置を用い、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一面に真空蒸着法により厚さ0.05μmのアルミニウム薄膜を形成した複合フィルム10’から、第一の電磁波吸収フィルムとしての線状痕付きアルミニウム薄膜−プラスチック層複合フィルム1を製造した。線状痕は図1(b)に示すように二方向に配向していた。光学顕微鏡写真から、第一の電磁波吸収フィルムの線状痕は下記特性を有することが分った。
幅Wの範囲:0.5〜5μm(全体の90%)
平均幅Wav:2μm
横手方向間隔Iの範囲:2〜30μm(全体の90%)
平均横手方向間隔Iav:20μm
平均長さLav:5mm
鋭角側の交差角θs:30°
(2) 第二の電磁波吸収フィルムの製造
粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール32a,32bを有する図13に示す構造の装置を用い、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一面に真空蒸着法により厚さ0.05μmのアルミニウム薄膜を形成した複合フィルム10’から、第二の電磁波吸収フィルムとしての線状痕付きアルミニウム薄膜−プラスチック層複合フィルム1’を製造した。線状痕は図13に示すように縦横直交する二方向に配向していた。光学顕微鏡写真から、第二の電磁波吸収フィルムの線状痕は下記特性を有することが分った。
幅Wの範囲:0.5〜5μm(全体の90%)
平均幅Wav:2μm
横手方向間隔Iの範囲:2〜30μm(全体の90%)
平均横手方向間隔Iav:20μm
平均長さLav:5mm
鋭角側の交差角θs:90°
(3) 表面抵抗の測定
図22に示すように、第一及び第二の線状痕付きアルミニウム薄膜−プラスチック複合フィルム1,1’の各試験片(28 cm×28 cm)の対向端部に四対の銅電極(3cm×1cm)61,61を配置し、それらの間の抵抗値を直流二端子法により測定した。平均抵抗値から求めた表面抵抗は、第一の電磁波吸収フィルムが377Ω/□で、第二の電磁波吸収フィルムが450Ω/□であった。
(4) 電磁波吸収能の測定
発砲ウレタン樹脂製の誘電体ホルダ62(28 cm×28 cm×2 cm)と、ホルダ62から100 cm離れた送信アンテナ63a及び受信アンテナ63bと、アンテナ63a,63bに接続したネットワークアナライザ64とを有する図23に示す装置を用い、第一及び第二の電磁波吸収フィルム1,1’からなる電磁波吸収体(図14(c) に相当)の電磁波吸収能を以下の方法により評価した。まず接地したアルミニウム板(28 cm×28 cm×2 mm)をホルダ62の前面(アンテナ側)に固定し、アルミニウム板にアンテナ63aから10°から60°まで10°間隔で入射角度θiを変えながら、1〜7GHzの電磁波(円偏波)を0.25 GHz間隔で照射し、アンテナ63bで反射波を受信し、ネットワークアナライザ64により反射電力を測定した。
次にホルダ62の前面にアルミニウム板の代わりに第一の電磁波吸収フィルム1を接合し、ホルダ62の後面に第二の電磁波吸収フィルム1’を接合し、第二の電磁波吸収フィルム1’を接地して、上記と同じ方法で反射電力を測定した。アルミニウム板を用いて測定した反射電力が入射電力と等しいと仮定し、反射係数(反射電力/入射電力)RCを求め、RL(dB)=20 log(1/RC)により反射減衰量(リターンロス)RL(dB)を求めた。各入射角度θiにおける反射減衰量は周波数に応じて変化するので、反射減衰量が最大となるときの周波数(ピーク周波数)で得られた反射減衰量をピーク吸収率として用いた。ピーク吸収率及びピーク周波数を図24に示す。図24から明らかなように、TE波のピーク吸収率は入射角度θiが10°では約23 dBであり、入射角度θiが60°まで増大するにつれて約13 dBまで低下した。またTM波のピーク吸収率は入射角度θiが10°では約13 dBであり、入射角度θiが60°まで増大するにつれて約18 dBまで増大した。
実施例2
(1) 複合電磁波吸収フィルムの製造
粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール2a,2bを有する図9(a) に示す構造の装置を用い、実施例1と同じ複合フィルム10’のアルミニウム薄膜に交差角θsが90°の二方向の線状痕を形成し、電磁波吸収フィルム1aを得た。次にパターンロール2a,2bの周速及び傾斜角、プラスチックフィルムの走行速度及び張力等を変更して、電磁波吸収フィルム1aと異なる二方向の線状痕を有する電磁波吸収フィルム1b,1cを得た。電磁波吸収フィルム1a〜1cの線状痕の特性は表1に示す通りであった。
Figure 0005107394
これらの電磁波吸収フィルム1a〜1cを、線状痕12a,12bに対して辺が45°となるように切断し、得られた電磁波吸収フィルム片1a〜1cを厚さ200μmのPETベースフィルム20に接着することにより、図6(a) に示す複合電磁波吸収フィルム100を作製した。この複合電磁波吸収フィルム100における各電磁波吸収フィルム片1a〜1cのサイズ及び面積率を表2に示す。
Figure 0005107394
この複合電磁波吸収フィルム100を長辺を水平にしてホルダ62の前面に固定した以外実施例1と同様にして図14(d) に示す電磁波吸収体50を得た。この電磁波吸収体50のピーク吸収率及びピーク周波数を測定した結果を図25に示す。図25から明らかなように、TE波のピーク吸収率は入射角度θiが10°では約24 dBであるが、入射角度θiが60°まで増大するにつれて約10 dBまで低下した。またTM波のピーク吸収率は入射角度θiが10°から30°まで変化するにつれて約27 dBから約40 dBまで増大し、それから入射角度θiが60°まで変化するにつれて約11 dBまで低下した。このように線状痕の幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なる複数の透明電磁波吸収フィルムを組合せてなる複合透明電磁波吸収フィルムを用いると、電磁波吸収能が向上することが分かる。
実施例3
実施例1で作製した縦横直交する線状痕を有する第二の電磁波吸収フィルム1’を挟んで2枚の発砲ウレタン樹脂板(28 cm×28 cm×2 cm)を接着し、得られた複合板の前面及び後面に実施例2の複合電磁波吸収フィルム100を接合し、図16(h) に示す電磁波吸収体60を得た。この電磁波吸収体60をホルダ62の位置に配置し、実施例1と同様にしてピーク吸収率及びピーク周波数を測定した。結果を図26に示す。図26から明らかなように、TE波のピーク吸収率は入射角度θiが10°から40°まで変化するにつれて約26 dBから約36 dBまで増大し、それから入射角度θiが60°まで変化するにつれて約17 dBまで低下した。またTM波のピーク吸収率は入射角度θiが10°から30°まで変化するにつれて約22 dBから約38 dBまで増大し、それから入射角度θiが60°まで変化するにつれて約17 dBまで低下した。このように線状痕の幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なる複数の透明電磁波吸収フィルムを組合せてなる一対の複合透明電磁波吸収フィルムの間に縦横方向の線状痕を有する電磁波吸収フィルムを介在させた電磁波吸収体は、広い入射角度範囲にわたって高い電磁波吸収能を有することが分かる。
1・・・(第一の)電磁波吸収フィルム
1’・・・第二の電磁波吸収フィルム
1a,1b,1c・・・電磁波吸収フィルム片
100,110・・・複合電磁波吸収フィルム
10・・・プラスチックフィルム
10’・・・複合フィルム
11,11a,11b・・・金属薄膜
10a・・・保護層
12,12a,12a',12b,12b',12c,12d・・・線状痕
12A,12B・・・線状痕群
13・・・微細穴
14・・・隙間
15,15a,15b・・・誘電体スペーサ
20・・・プラスチックベースフィルム
2a,2b,2c,2d,32a,32b,42・・・パターンロール
3a,3b,3c,3d,30b,33a,33b・・・押えロール
4a,4b,4c,4d,34a,34b・・・電気抵抗測定手段(ロール)
5a,5b,35a・・・バックアップロール
21,24・・・リール
22,23・・・ガイドロール
50,60・・・電磁波吸収体
70・・・パーティション
61・・・電極
62・・・誘電体ホルダ
63a・・・送信アンテナ
63b・・・受信アンテナ
64・・・ネットワークアナライザ

Claims (7)

  1. 第一の電磁波吸収フィルムと第二の電磁波吸収フィルムとを誘電体スペーサを介して配置してなる電磁波吸収体であって、(a) 前記第一の電磁波吸収フィルムは、(1) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる電磁波吸収フィルム、又は(2) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる複数の電磁波吸収フィルム片を隣接するように配置してなり、前記電磁波吸収フィルム片の線状痕が幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なる複合電磁波吸収フィルムであり、(b) 前記第二の電磁波吸収フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で縦方向、横方向又は縦横方向に形成してなることを特徴とする電磁波吸収体。
  2. 一対の第一の電磁波吸収フィルムの間に1つの第二の電磁波吸収フィルムを誘電体スペーサを介して配置してなる電磁波吸収体であって、(a) 一対の前記第一の電磁波吸収フィルムは同じでも異なっていても良く、各第一の電磁波吸収フィルムは、(1) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる電磁波吸収フィルム、又は(2) プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で10〜90°の交差角で複数方向に形成してなる複数の電磁波吸収フィルム片を隣接するように配置してなり、前記電磁波吸収フィルム片の線状痕が幅、間隔、長さ及び方向の少なくとも1つが異なる複合電磁波吸収フィルムであり、(b) 前記第二の電磁波吸収フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜に実質的に平行で断続的な線状痕群を不規則な幅及び間隔で縦方向、横方向又は縦横方向に形成してなることを特徴とする電磁波吸収体。
  3. 請求項1又は2に記載の電磁波吸収体において、前記誘電体スペーサがハニカム状又は格子状の誘電体シート又は発泡誘電体からなることを特徴とする電磁波吸収体。
  4. 請求項1〜のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記線状痕の幅は全体の90%が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の横手方向間隔は1〜500μmの範囲内にあって、平均1〜200μmであることを特徴とする電磁波吸収体。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記誘電体スペーサの厚さがλ/24〜λ/2の範囲(ただし、λは吸収すべき電磁波の中心波長である。)であることを特徴とする電磁波吸収体。
  6. 請求項1〜のいずれかに記載の電磁波吸収体を具備することを特徴とする建築物の内装材。
  7. 請求項6に記載の内装材であって、パーティションであることを特徴とする内装材。
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