JP5103964B2 - 表面性状の良好な深絞り用鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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鋼中に残留する介在物は、そのサイズおよび量が特定の範囲であり、組成が特定のものであれば、上述したノズル詰まりを招くことなく、かつ、介在物をクラスター状に巨大化させずに微細分散化させる。
そして、介在物が微細分散化することにより、r値ならびに強度伸びバランスを大幅に改善できる。
[1]鋼組成は、質量%で、C≦0.005%、Si≦0.1%、Mn≦0.5%、P≦0.05%、S≦0.02%、N≦0.005%、0.010%≦Ti≦0.20%、0.001%≦Sb≦0.02%を含み、前記Tiのうちの非酸化物Ti(Ti*)を、C(質量%)、N(質量%)、S(質量%)との関係において、(C/12)≦(Ti*/48)−(N/14+S/32)≦10(C/12)を満足するように含有し、さらに、Ca、金属REMのいずれか1種または2種以上を合計で0.0005%以上、Alを式(1)または式(2)を満たす範囲で含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、鋼中の介在物は、圧延直角方向寸法:2〜5μmの介在物が500個/100mm2以上、圧延直角方向寸法:20μm以上の介在物が10個/100mm2以下で、かつ、介在物中のTi酸化物の含有量の割合が60%以上であることを特徴とする表面性状の良好な深絞り用鋼板。
%Ti/%Al≧5 ‥‥ (1)
Al≦0.010% かつ %Ti/%Al<5 ‥‥ (2)
なお、%Ti、%Alは、ぞれぞれ鋼中のトータルTiおよびAlを示す。
[2]前記[1]において、さらに、質量%で、Nb:0.001〜0.1%、B:0.0001〜0.05%のいずれか1種または2種を含有することを特徴とする表面性状の良好な深絞り用鋼板。
[3]前記[1]または[2]に記載の鋼組成を有する鋼片を、900〜1300℃の温度で加熱、均熱し、650〜960℃の温度で仕上圧延を終了し、400〜750℃の温度で巻取り、次いで、50〜95%の圧下率で冷間圧延を施した後、700〜920℃の温度で再結晶焼鈍を施し、鋼中の介在物が、圧延直角方向寸法:2〜5μmの介在物が500個/100mm2以上、圧延直角方向寸法:20μm以上の介在物が10個/100mm2以下で、かつ、介在物中のTi酸化物の含有量の割合が60%以上であることを特徴とする表面性状の良好な深絞り用鋼板の製造方法。
[4]前記[3]において、前記再結晶焼鈍後、引き続き、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする表面性状の良好な深絞り用鋼板の製造方法。
そして、本発明の製造方法によれば、上記鋼板を連続鋳造時にイマージョンノズルの閉塞を起こすことがなく製造できる。
はじめに、本発明に想到するに至った契機となる実験研究について説明する。まず、C:0.002%、Si:0.02%、Mn:0.1%、P:0.01%、S:0.007%、Al:0.005%、N:0.002%、Ti:0.02〜0.04%、O:0.001〜0.023%、Ca:0.001%、(Ti*/48)-(N/14+S/32)≒3.0×(C/12)(Ti*:非酸化物Ti)からなり、Sbを0〜0.015%と変化させた成分組成のシートバーを、1200℃に加熱して均熱した後、仕上温度が890℃になるように3パス圧延を行って板厚4.0mmの熱延板とした。その後、600℃-1時間の条件でコイル巻取り相当の熱処理を行った。次いで、圧下率が80%の冷間圧延を施した後、850℃-40秒の再結晶焼鈍を施した。
上記により得られた鋼板に対して、介在物個数、特に、2〜5μmのサイズと20μm以上のサイズの酸化物系介在物の個数におよぼすSb添加量の影響を調査した。
調査にあたって、介在物のサイズと個数は、鋼板表面近傍をバフ研磨後、ノーエッチングで光学顕微鏡にて400倍の倍率で観察して測定した。介在物が酸化物であることは、EPMAにより元素分析を行い、酸化物系介在物の形状および色を事前に確認した後、光学顕微鏡観察により判断した。なお、この時の介在物中のTi酸化物の含有量は、EPMA分析より60%以上であった。また、介在物サイズが5μm以下のものは100mm2の視野で、介在物サイズが20μm以上のものは1000mm2の視野で、それぞれ観察して個数を求めた。
得られた結果を図1に示す。図1より、この成分組成系の鋼材においては、Sb添加量を0.001%(10ppm)以上とすることにより、2〜5μmのサイズの介在物が500個/100mm2以上、20μm以上のサイズの介在物の個数が10個/100mm2以下になることが分かる。
上記により得られた鋼板に対して、鋼板の成形性について調査した。具体的にはr値と強度伸び(TS×EL)におよぼす2〜5μmのサイズの介在物の個数の影響を調査した。
調査にあたって、r値はJIS5号引張試験片を用いて3点法で測定し、3方向のr値、すなわち、rL(圧延方向のr値)、rC(圧延方向に直角方向のr値)、rD(圧延方向に45°方向のr値)の平均値をr=(rL+rC+2rD)/4により求めた。また、引張試験もr値と同様に3方向の平均値で求めた。また、この鋼板について、鋼板表面近傍を顕微鏡観察し、このうち、2〜5μmサイズの介在物の個数を測定した。
得られた結果を図2に示す。図2より、この成分組成系の鋼材において、r値と強度伸びバランスTS×ELは、2〜5μmのサイズの介在物の個数に依存し、個数が500個/100mm2以上の時、高r値と高TS×ELを両立させることができ、より高いr値とTS×EL特性が得られることがわかる。
調査するにあたって、液圧バルジ試験は、ダイ穴直径が150mmφ、ダイ肩半径が8mm、素板直径が220mmの条件で行った。介在物割れの有無は、液圧バルジ試験で鋼板を割れ発生まで成形した時、試験サンプルの先端部に発生する破談部の他に、側面部に発生するネッキングの有無で評価し、1箇所でもネッキング割れが観察された時には介在物割れ発生とした。なお、介在物中のTi酸化物の含有量は、全て60%以上であった。
得られた結果を、介在物個数、r値およびSb添加量と併せて、図3に示す。図3より、2〜5μmのサイズの介在物が500個/100mm2以上で、かつ、20μm以上のサイズの介在物の個数が10個/100mm2以下とすることにより、r値が高く、割れが発生していない、すなわち、深絞り性と介在物割れが両立可能となることが分かる。
本発明にかかる鋼板の成分組成は、
(1)C≦0.005%、Si≦0.1%、Mn≦0.5%、P≦0.05%、S≦0.02%、N≦0.005%、0.010%≦Ti≦0.20%、
(2)0.001%≦Sb≦0.02%
(3)Tiのうちの非酸化物Ti(Ti*)を、C(質量%)、N(質量%)、S(質量%)との関係において、(C/12)≦(Ti*/48)−(N/14+S/32)≦10(C/12)を満足する
(4)Ca、金属REMのいずれか1種または2種以上を合計で0.0005%以上
(5)Alを式(1)または式(2)を満たす範囲で含有
%Ti/%Al≧5 ‥‥ (1)
Al≦0.010% かつ %Ti/%Al<5 ‥‥ (2)
なお、%Ti、%Alは、ぞれぞれ鋼中のトータルTiおよびAlを示す。
(6)必要に応じてさらに、Nb:0.001〜0.1%、B:0.0001〜0.05%の1種または2種を含有
(7)残部はFeおよび不可避的不純物
である。
以下、上記のように限定した理由を詳細に説明する。
Cは、少ないほど深絞り性が向上するので少ないほうが好ましいが、精錬の負荷なども考慮し、かつ悪影響の出ない上限として0.005%以下に限定した。なお、深絞り性の観点からは、Cは0.003%以下が好ましい。
Siは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量を含有させるが、その含有量が0.1%を超えると、溶融亜鉛めっき性が劣化するので0.1%以下に限定した。なお、めっき性と深絞り性の観点からは、Siは0.05%以下が好ましい。
Mnは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量を含有させるが、その含有量が0.5%を超えると、深絞り性が劣化するので0.5%以下に限定した。なお、深絞り性の観点からは、Mnは0.3%以下が好ましい。
Pは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量を含有させるが、その含有量が0.05%を超えると、深絞り性が劣化するので0.05%以下に限定した。なお、深絞り性の観点からは、Pは0.03%以下が好ましい。
Sは、少ないほど深絞り性が向上するので少ないほうが好ましいが、その含有量が0.02%以下であれば、さほど悪影響が出ないので、0.02%以下に限定した。なお、深絞り性の観点からは、Sは0.01%以下が好ましい。
Nは、少ないほど深絞り性が向上するので少ないほうが好ましいが、その含有量が0.005%以下であれば、さほど悪影響が出ないので、0.005%以下に限定した。なお、深絞り性の観点からは、Nは0.003%以下が好ましい。
Tiは、本発明において最も重要な役割を担う成分であり、Ti脱酸により、2〜5μmのサイズの微細酸化物系介在物を形成し、冷延−焼鈍後の粒成長性を制御して、強度伸びバランスを向上させる成分である。さらに、この微細酸化物は、熱延板の微細化にも有効に作用するため、冷延−焼鈍後に{111}再結晶集合組織を発達させてr値を高くする。このTi含有量が0.010%未満では、微細酸化物の量が少なすぎるため、上述の所期した効果が得られなくなる。このTiは、0.025%以上の添加でより有効に作用する。ただし、0.20%を越えて添加すると薄鋼板では材質が硬化して所期の材料特性を損なうばかりか、コスト上昇をも招くことになるので、上限は0.20%とする。なお、深絞り性の観点からは、Tiは0.10%以下が好ましい。
Sbは、本発明において重要な役割を担う成分であり、0.001%以上0.02%以下を満たす必要がある。すなわち、Sbを0.001%以上添加することにより、2〜5μmサイズの微細酸化物が増加し、その結果、熱延板粒径の微細化ならびに冷延−焼鈍後の粒成長性を制御でき、高r値ならびに強度伸びバランスが向上する。その含有量が0.001%未満では効果がなく、一方、0.02%を超えて含有させると、逆に表面性状が劣化する。なお、めっき性および深絞り性の観点からは、Sbは0.003%以上0.015%以下が好ましい。
非酸化物Tiとは、全Tiのうち鋼中で酸化物状態で存在しないTi、すなわち炭化物、窒化物、硫化物などとして存在したり、固溶状態で存在するTiの総量を意味し、次の方法で求めたものである。
非酸化物Ti量=全Ti量−酸化物Ti
ここで、酸化物Ti=全O量×鋼中介在物のEPMAによるTi濃度(%)/鋼中介在物のEPMAによるO濃度(%)である。そして、EPMAによるTi濃度およびO濃度は、鋼中に存在する3〜10μmの酸化物系介在物をランダムに10個選び出してEPMAで濃度を測定し、その平均値を用いる。なお、全O量および全Ti量は、固体発光分光分析法(QV分析)で測定することができる。こうして求めた非酸化物Tiは、本発明にかかる鋼板において、きわめて重要な役割を担う成分であり、鋼中の固溶C、固溶N、固溶Sを炭化物、窒化物、硫化物として析出固定して低減させることにより深絞り性の劣化を防止する効果がある。この非酸化物Ti(Ti*)の量は、C、N、S各含有量との関係において、(C/12)≦(Ti*/48)−(N/14+S/32)≦10(C/12)の関係式を満足する必要がある。すなわち、(C/12)>(Ti*/48)−(N/14+S/32)では、熱延板中に多量の固溶Cが残留するため、冷延−焼鈍後の深絞り性が劣る。一方、Ti*/48)−(N/14+S/32)>10(C/12)の量の非酸化物Tiは、逆に深絞り性を劣化させるため、(C/12)≦(Ti*/48)−(N/14+S/32)≦10(C/12)に限定する。なお、深絞り性の観点からは、1.5(C/12)≦(Ti*/48)−(N/14+S/32)≦7.5(C/12)が好ましい。
Caおよび金属REMは、本発明にかかる鋼板において重要な役割を担う成分であり、CaおよびREMのいずれか1種または2種以上を合計で0.0005%以上添加する必要がある。すなわち、溶鋼をTi脱酸した後、さらにCaおよびREMのいずれか1種または2種以上を合計で0.0005%以上添加することにより、溶鋼中の酸化物組成を、Ti酸化物:90%以下、好ましくは20%以上90%以下、さらに好ましくは85%以下、CaOおよび/またはREM酸化物:5%以上、好ましくは8%以上50%以下で、Al2O3が70%以下となる低融点の酸化物系介在物となるように調整する。このような調整を行うと、連続鋳造時に、地金を含んだTi酸化物のノズルへの付着を阻止して、ノズル閉塞を無くすことができる。さらに、CaOおよび/またはREM酸化物は、冷延−焼鈍後の粒成長および熱延板の微細化に寄与できる。このような効果を発現するREMとしては、CeやYが好ましい。なお、過剰なCa、REMの添加は発錆をもたらす原因ともなるので、合計量で0.005%以下の範囲で添加するのが望ましい。
Alは、本発明においては重要な役割を担う成分であり、1)%Ti/%Al≧5、あるいは2)Al≦0.010%かつ%Ti/%Al<5のいずれかの条件を満たす必要がある。なお、%Ti、%Alは、ぞれぞれ鋼中のトータルTiおよびAlを示す。前記条件が満たされなくなると、Al脱酸鋼となり、巨大なAl2O3のクラスターが多量に生成し、鋼片の表面性状を劣化させるとともに、冷延−焼鈍後の粒成長性を制御するための2〜5μmサイズの微細酸化物が少なくなるため、強度伸びバランスが劣る。したがって、Al含有量は上記1)または2)の条件を満足する必要があり、このうち特に、1)の条件は、本発明の目的を達成する上で好ましい範囲である。
Nbは、熱延板の組織を微細化することにより、冷延−焼鈍後のr値を向上させる効果がある。その添加量が0.001%未満では添加効果がなく、一方、0.1%を越えて添加しても添加の効果が飽和し、逆に深絞り性の劣化につながるので、Nbを添加する場合、0.001〜0.1%の範囲とする。なお、深絞り性の観点からは、Nbは0.001〜0.05%が好ましい。
Bは、鋼の耐二次加工脆性の改善のために添加してもよいが、その添加量が0.0001%未満では添加効果がなく、一方、0.05%を越えて添加すると逆に深絞り性の劣化につながるので、Bを添加する場合、0.0001〜0.05%とする。なお、深絞り性の観点からは、Bは0.0001〜0.02%が好ましい。
前述したように、本発明では、2〜5μmのサイズを有する微細な介在物を500個/100mm2以上、20μm以上のサイズを有する介在物を10個/100mm2以下となるように調整することが必要である。ところで、鋼片(スラブ)中に存在する介在物の寸法は、圧延により、圧延方向には伸長するものの、板幅方向にはほとんど変化しない。従って、圧延直角方向すなわち鋼板幅方向の介在物寸法を所定の範囲内に保つことが重要であり、本発明において、介在物のサイズとは圧延直角方向のサイズとする。
また、鋼板幅方向の介在物寸法を所定の範囲内に保つためには、鋼片段階で介在物寸法を制御する必要がある。このため、鋼片中に含まれる微細介在物の制御は、本発明の重要な構成要件の一つである。特に、本発明方法の下で生成する介在物は、幅(圧延直角方向)が2〜5μmサイズの大きさを有する粒状または破断状の酸化物系介在物が主である。幅が2〜5μmのサイズの介在物で、かつ、その個数が500個/100mm2以上であれば、熱延時の結晶粒微細化ならびに冷延−焼鈍時の粒成長を制御することができる。しかし、幅が20μmよりも大きい介在物では前記の如き効果はなく、逆に表面欠陥の原因となる。よって、本発明では、幅(圧延直角方向)が20μm以上のサイズの介在物を10個/100mm2以下とした。ここで、幅が2〜5μmサイズの大きさを有する粒状または破断状の介在物とは、鋼スラブで生成した介在物であって、比較的大きなものは熱延および冷延にて圧延方向に分断された破断状の介在物をいい、また比較的小さなものは、その形を維持しているような粒状の介在物をいう。
なお、介在物のサイズと個数は、鋼板表面近傍をバフ研磨後、ノーエッチングで光学顕微鏡で400倍の倍率で観察して測定した。介在物サイズが5μm以下のものは100mm2の視野で、また介在物サイズが20μm以上のものは1000mm2の視野で、それぞれ観察して個数を求める。なお、介在物が酸化物であることは、EPMAにより元素分析を行い、酸化物系介在物の形状および色を事前に確認した後、光学顕微鏡観察により判断した。
なお、この時の介在物中のTi酸化物の含有量の割合は60%以上とする。60%未満では介在物の融点が高くなり、ノズル詰まりを引き起こすためである。
製鋼工程
この工程は、本発明の場合とくに限定されるものではないが、以下に好ましい処理方法を例示する。素材は極低炭素鋼であって、Ti≧0.010%とし、1)%Ti/%Al≧5、あるいは2)Al≦0.010%かつ%Ti/%Al<5のいずれかの条件を満たす成分組成を有する鋼を溶製する必要がある。
調整成分としてのTiをTi≧0.010%にする理由は、Ti<0.010%では脱酸能力が弱く、溶鋼中の全酸素濃度が高くなり、伸び、絞り等の材料特性が悪化するためである。
また、1)%Ti/%Al≧5、あるいは2)Al≦0.010%かつ%Ti/%Al<5、のいずれかの条件にする理由は、これらの条件を満たさない条件ではTi脱酸鋼ではなくAl脱酸鋼となり、Al2O3濃度が70%以上のAl2O3クラスターが大量に生成するからである。本発明は、Ti酸化物を主体とする介在物とし、この介在物中に、後述するようにCaO、REM酸化物を含有させて所期の目的を達成しようとするものである。この点から、上記1)、2)の2つの条件のうち、とくに1)%Ti/%Al≧5の条件で調整することが好ましい。
なお、本発明のもとでは、Alで脱酸する従来方法に比べると、Ti合金の歩留まりが悪く、しかも、Ca、REMを含有するため介在物組成調整用合金は高価である。このことから、かかるTi合金の溶鋼中への添加は、介在物の組成調整が可能な範囲でできるだけ少量に済むように行うのが経済的で好ましい。この意味において、Ti含有合金等の脱酸材の添加の前には、溶鋼中の溶存酸素を200ppm以下にし、またスラグ中のFeO、MnOを低下させるために予備脱酸することが望ましい。この予備脱酸は、脱酸後の溶鋼中のAl≦0.010%となるように少量のAlによる脱酸、SiやFeSi、MnやFeMnの添加によって行うのが好ましい。
そこで、本発明においては、Ti合金により脱酸した後、Ca、REMのいずれか1種または2種以上を合計で0.0005%以上になるように添加して、溶鋼中ひいては鋼板中の酸化物組成を、Ti酸化物:20%以上90%以下、好ましくは85%以下、CaOおよび/またはREM酸化物:5%以上、好ましくは8%以上50%以下、Al2O3が70%以下である低融点の酸化物系介在物とする。これにより、地金を取り込んだTi酸化物のノズルへの付着を有効に防止することが可能になる。なお、望ましい介在物の組成は、Ti2O3:30%以上80%以下、CaO、REM酸化物(La2O3、Ce2O3等):10%以上40%以下である。上記介在物のTi酸化物が20%未満ではTi脱酸鋼ではなく、Al脱酸鋼となり、Al2O3濃度が高まるためノズル詰まりが発生し、また、CaO、REM酸化物濃度が高くなると発錆が悪化するため、Ti酸化物濃度は20%以上とする。一方、Ti酸化物濃度が90%超えでは、CaO、REM酸化物が少なくノズル詰まりが発生するためTi酸化物濃度は20%以上90%以下とする。また、上記介在物中のAl2O3については、70%を越えると高融点組成となるためにノズル閉塞が起きるだけでなく、介在物の形状がクラスター状になり、製品面での非金属介在物性の欠陥が増加する。
なお、以上説明した鋼中の酸化物系介在物の組成は、酸化物系介在物を任意に10個抽出し、その平均値(EPMA分析値)から求めるものとする。
また、酸化物Ti=全O量×鋼中介在物のEPMAによるTi濃度(%)/鋼中介在物のEPMAによるO濃度(%)とする。EPMAによるTi濃度およびO濃度は、鋼中に存在する3〜10μmの酸化物系介在物をランダムに10個選び出してEPMAで濃度を測定し、その平均値を用いる。なお、全O量および全Ti量は、固体発光分光分析法(QV分析)で測定することができる。
熱間圧延に先立って行うスラブの加熱は、900℃以上1300℃以下の温度で行うこととする。900℃以上のスラブ加熱温度で行うことで、圧延時の荷重負荷の過度の上昇を抑制でき、操業上好ましい。また、スラブ加熱温度を1300℃以下の温度では、圧延前の結晶粒径の粗大化を抑制できるため、熱延板の微細化に好ましい。なお、スラブ加熱温度は、深絞り性の観点からは1200℃以下がより好ましい。
連続鋳造から圧延にかけての処理において、CC-DR(連続鋳造−ダイレクトローリング)またはHCR(ホットチャージローリング)を採用することは、省エネルギーの観点から好ましい方法と言える。
仕上圧延の終了温度は、650℃以上960℃以下とする。960℃以下の温度で熱間圧延を終了すると、熱延板の結晶粒の粗大化を抑制でき、冷延−焼鈍後の深絞り性の向上に有利となる。また、Ar3変態点以下のα域で熱間圧延を終了してもいいが、その温度が650℃以上とすることにより、圧延負荷の増大を抑制でき、操業上好ましい。なお、深絞り性の観点から、好ましい仕上圧延終了温度は850℃以上950℃以下である。
熱間圧延後のコイル巻取り温度は、高温ほど析出物の粗大化に有利である。巻取り温度が750℃以下とすることにより、スケール厚さの増大を抑制できるので、酸洗性の観点から好ましい。また、巻取り温度が400℃以上とすると析出物が粗大化し、冷延焼鈍後の深絞り性の向上に好ましい。このためコイル巻取温度は、400℃以上750℃以下とする。深絞り性の観点から、好ましくは550℃以上750℃以下である。
この工程は、高いr値を得るために行う処理であり、この目的を達成するためには冷延圧下率を50%以上95%以下とすることが必要である。圧下率が50%に満たないと、優れた深絞り性が得られない。一方、95%超えの圧下率で冷間圧延を施しても、それ以上の高r値は得られず、逆にr値が低下する。なお、深絞り性の観点からは、冷延圧下率は60%以上95%以下が好ましい。
冷間圧延工程を経た冷延鋼板は、再結晶焼鈍を施す必要がある。焼鈍温度は700℃以上920℃以下とする。焼鈍温度が700℃未満では、深絞り性に好ましい{111}再結晶集合組織が発達しない。一方、920℃を越える高温域で焼鈍を行っても、それ以上の深絞り性は得られず、逆にα→γ変態により集合組織がランダム化し、r値が劣化する。なお、深絞り性の観点からは、焼鈍温度は750℃以上880℃以下が好ましい。
また、焼鈍後の鋼帯に対しては、形状矯正、表面粗度等の調整のために、10%以下の調質圧延を加えてもよい。
得られた鋼板の鋼組成を表1(鋼A〜D、鋼F)に、介在物の含有量を表2にそれぞれ示す。なお、介在物組成、非酸化物Tiの割合は前述した方法と同様にして求めた。また、この時の介在物の板幅方向サイズはすべて50μm以下であった。
転炉出鋼後、300tonの溶鋼をRH脱ガス装置にて脱炭処理し、C:0.0016%、Si:0.01%、Mn:0.10%、P:0.013%、S:0.004%に調整するとともに、溶鋼温度を1590℃に調整した。この溶鋼中に、Alを1.2〜1.6kg/ton添加し脱酸処理を行った。脱酸処理後の溶鋼中のAl濃度は0.032%であった。その後、Fe-Tiを添加するとともに、Fe-Nbを添加して成分組成の調整を行った。なお、この処理の後のTi濃度は0.038%であった。次に、上記溶鋼を、2ストランドスラブ連続鋳造機にて鋳造し、連鋳スラブを製造した。なお、この時のタンディッシュ内溶鋼中に含まれる介在物の平均的な組成は、95〜98wt%Al2O3、5wt%以下のTi2O3からなるクラスター状の介在物が主体であった。鋳造時にタンディッシュならびに浸漬ノズル内にArガスを吹きこまなかった場合には、著しくノズルのAl2O3が付着し、3チャージ目にスライディングノズルの開度が著しく増加し、ノズル詰まりにより鋳込みを中止した。また、Arガスを吹いた場合にも、ノズル内にはAl2O3が大量に付着しており、8チャージ目にはモールド内の湯面の変動が大きくなり鋳込みを中止した。次に、上記連鋳スラブは4.0mmまで熱間圧延した後、0.8mmまで冷間圧延し、さらに、CGLラインにて再結晶焼鈍と合金化溶融亜鉛めっき処理を施した。尚、熱延、冷延、焼鈍条件は表3に示す通りである。また、めっき処理は、上記本発明の場合と同様に行った。
得られた鋼板の鋼組成を表1(鋼E、G)に、介在物の含有量を表2にそれぞれ示す。なお、介在物組成、非酸化物Tiの割合は前述した方法と同様にして求めた。また、この時の介在物の板幅方向サイズはすべて50μm以下であった。
一方、比較例では、表面欠陥が認められる上に、平均r値、強度伸びバランス(TS×El)が劣っている。
Claims (4)
- 鋼組成は、
質量%で、C≦0.005%、Si≦0.1%、Mn≦0.5%、P≦0.05%、S≦0.02%、N≦0.005%、0.010%≦Ti≦0.20%、0.001%≦Sb≦0.02%を含み、
前記Tiのうちの非酸化物Ti(Ti*)を、C(質量%)、N(質量%)、S(質量%)との関係において、(C/12)≦(Ti*/48)−(N/14+S/32)≦10(C/12)を満足するように含有し、
さらに、Ca、金属REMのいずれか1種または2種以上を合計で0.0005%以上、Alを式(1)または式(2)を満たす範囲で含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
鋼中の介在物は、
圧延直角方向寸法:2〜5μmの介在物が500個/100mm2以上、圧延直角方向寸法:20μm以上の介在物が10個/100mm2以下で、かつ、介在物中のTi酸化物の含有量の割合が60%以上であることを特徴とする表面性状の良好な深絞り用鋼板。
%Ti/%Al≧5 ‥‥ (1)
Al≦0.010% かつ %Ti/%Al<5 ‥‥ (2)
なお、%Ti、%Alは、ぞれぞれ鋼中のトータルTiおよびAlを示す。 - さらに、質量%で、Nb:0.001〜0.1%、B:0.0001〜0.05%のいずれか1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の表面性状の良好な深絞り用鋼板。
- 請求項1または2に記載の鋼組成を有する鋼片を、
900〜1300℃の温度で加熱、均熱し、650〜960℃の温度で仕上圧延を終了し、400〜750℃の温度で巻取り、
次いで、50〜95%の圧下率で冷間圧延を施した後、700〜920℃の温度で再結晶焼鈍を施し、鋼中の介在物が、
圧延直角方向寸法:2〜5μmの介在物が500個/100mm2以上、圧延直角方向寸法:20μm以上の介在物が10個/100mm2以下で、かつ、介在物中のTi酸化物の含有量の割合が60%以上であることを特徴とする表面性状の良好な深絞り用鋼板の製造方法。 - 前記再結晶焼鈍後、引き続き、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする請求項3に記載の表面性状の良好な深絞り用鋼板の製造方法。
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