JP5094150B2 - 血糖値上昇抑制剤 - Google Patents

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Description

本発明は、食後の血糖値の一時的な上昇を効果的に抑制することができる血糖値上昇抑制剤に関する。
我が国の糖尿病の罹患者数は、全国統計(2004年)では約740万人、その予備軍も含めると1620万人と言われ(厚生労働省 平成14年糖尿病実態調査)、前回調査(平成9年)より20%増加している。死亡の直接的原因としては、糖尿病は男性で第10位、女性で第9位(厚生労働省 平成17年人口動態統計の概況)であるが、糖尿病との合併症によって誘発される大血管障害などを含めると更に深刻な数になると考えられている。特に、大血管障害では、血糖値の恒常値(空腹時の血糖値)の高さよりも食後の血糖値の一時的な上昇に原因があるとされており、この大血管障害を予防するためには、食後の血糖値の上昇、特に最高値を抑制することが最も効果的である。
この点に関して、従来、食事の糖類の摂取を忌避する方法が長い間採られてきたが、近年は、糖類の単純な忌避ではなく、マルチトールやアステルパームなどの代替甘味料を利用した血糖値上昇の抑制が図られている。これらの代替甘味料は、優れた甘味の強さを有するが、味質の点で満足せず、その用途によっては砂糖を代替甘味料に置き換えたくないとの要望が強い。
かかる要望に答えるため、砂糖の味覚を損わずに血糖値の上昇を抑制する方法が提案されている。例えば特許文献1では、D−キシロースやL−アラビノースなどの砂糖分解酵素の阻害剤を食事と共に摂取する方法が提案されており、そこでは、コーヒーやオレンジジュースにD−キシロースやL−アラビノースを添加したものを摂取すると、食後の血糖値の上昇が緩やかになることが記載され、また、D−キシロースやL−アラビノースはそれ自体の味質も砂糖に近く、砂糖の味覚を損わないことが記載されている。
しかしながら、特許文献1の方法では、D−キシロースやL−アラビノースは食事の糖分と同時に摂取されているため、D−キシロースやL−アラビノースが小腸に到達してそこに存在する砂糖分解酵素を阻害するまでに一定の時間がかかり、血糖値上昇抑制効果を実際に発揮するまでに時間がかかった。
一方、出願人は、この関連において、特許文献2において砂糖とL−アラビノースを共に有効成分とする糖尿病治療剤を既に提案した。この治療剤は、従来忌避されていた砂糖も有効成分としている点で画期的であるが、実際の人間の食事摂取時の好適な経口方法や血糖値低下効果に好適な砂糖の量については何ら具体的に提案していない。
WO 94/12057号公報 特開2002−154967号公報
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、砂糖と砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤を用いて食後の血糖値の上昇を効果的に抑制することができる血糖値上昇抑制剤を提供することにある。
本発明者らは、かかる目的を達成するために腸管内での砂糖の吸収分解機構について鋭意研究した結果、砂糖の吸収分解が効果的に阻害されるためには、腸管内でD−キシロースやL−アラビノースなどの砂糖分解酵素阻害剤と基質の砂糖と小腸粘膜刷子縁膜に存在する砂糖分解酵素(スクラーゼ)とが複合体を形成していわゆる不拮抗型の阻害を発現していることが必要であり、この複合体の十分な形成には砂糖分解酵素阻害剤と基質の砂糖を摂取してから一定の時間がかかること、そして一旦複合体が形成されると、その解離が起こりにくく阻害効果が長時間持続すること、また小腸粘膜刷子縁膜に存在する有限量の砂糖分解酵素を阻害するためにはそれに対応して比較的多量の砂糖が必要であることを見出し、本発明の完成に至った。
即ち、本発明によれば、食前10分〜6時間で経口摂取されることによって食後の血糖値の上昇を抑制する血糖値上昇抑制剤であって、砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤と、1回の摂取あたり15g〜75g/回の砂糖とを有効成分として含有することを特徴とする血糖値上昇抑制剤が提供される。
本発明の血糖値上昇抑制剤の好ましい態様によれば、砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤の含有量は、砂糖の4〜20重量%であり、砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤は、L−アラビノース、D−タガトース、D−キシロース及びこれらの混合物からなる群から選択される。本発明の血糖値上昇抑制剤は、食品又は飲料の形態であることが好ましい。
本発明の血糖値上昇抑制剤は、砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤と十分な量の砂糖を有効成分として含有しているので、これらが腸管内で砂糖分解酵素と共に安定な複合体を形成することができ、結果として腸管での糖分の吸収分解を長時間阻害することができる。特に、本発明の血糖値上昇抑制剤は、腸管内で上述の複合体を形成させてから食事を摂取するようにしたので、腸管内に食事の糖分が到来してもその吸収分解を効果的に抑制することができる。
本発明の血糖値上昇抑制剤は、砂糖分解酵素(スクラーゼ)の不拮抗阻害剤と比較的多量の砂糖とを有効成分として含有するものであり、基質である砂糖(S)が腸管内の砂糖分解酵素(E)と結合してES複合体を形成し、そこに阻害剤(I)が結合して立体的な変化を引き起こしてESI複合体を形成し、この複合体が砂糖分解酵素の活性を阻害することによって腸管内での砂糖の吸収分解及び血糖値の上昇を抑制することを特徴とする。本発明で使用する砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤は、砂糖分解酵素に対して不拮抗阻害効果を持つものであればいずれも使用することができ、例えばL−アラビノース、D−タガトース、D−キシロースなどの糖質を使用することが好ましい。
本発明で使用する砂糖は、砂糖分解酵素の基質であり、砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤が腸管内で砂糖分解酵素と結合して阻害作用を発揮するのに必要な成分である。本発明の血糖値上昇抑制剤における砂糖含有量は、驚くべきことに1回の摂取あたり15g〜75gと比較的多量である。好ましい砂糖含有量は1回摂取あたり25g〜65gであり、特に、1回摂取あたり30g〜55gである。1回あたりの砂糖の含有量が上記下限未満であると、腸管内の砂糖分解酵素と結合する砂糖が少なくなるため酵素阻害が十分になされず、血糖値上昇抑制効果が十分に発揮されないおそれがあり、また、1回あたりの砂糖の含有量が上記上限を超えると、1回の摂取で困難であると共に経済性に劣るため好ましくない。
本発明の血糖値上昇抑制剤では、砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤の含有量は、砂糖の含有量に応じて決定すればよく、砂糖の4〜20重量%、特に5〜15重量%であることが好ましい。砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤の含有量が上記下限未満であると、腸管内で砂糖及び砂糖分解酵素と共に十分な量の複合体を形成せず、血糖値上昇抑制効果が十分に発揮できないおそれがあり、また、上記上限を超えると1回に摂取する不拮抗阻害剤の量が多くなり、下痢などを引起すおそれがあり、好ましくない。
本発明の不拮抗阻害剤を利用した砂糖分解酵素の活性の阻害には、砂糖が腸管に到達してそこで砂糖分解酵素と結合し、それにさらに砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤が結合して複合体を形成することが必要であり、そのためには一定の時間がかかる。従って、本発明の血糖値上昇抑制剤は、腸管内で上記複合体を十分に形成させるため、食前に摂取するようにしており、具体的には食前10分〜6時間で、好ましくは食前30分〜5時間で、さらに好ましくは食前1時間〜4時間で経口摂取するようにしている。上記のように食前一定時間前からの摂取としたのは、これより短くすると十分な量の複合体が形成されない段階で食事の糖分が腸管に到達してしまうので、その吸収分解を効果的に阻害できないおそれがあるからである。また食前6時間までの摂取としたのは、後述の検証試験2の結果から、腸管内で複合体が形成されてから有効に維持される時間が6時間程度であると考えられるからである。
本発明の血糖値上昇抑制剤は、所望により上述の二つの有効成分以外に、摂取を容易にするための成分や血糖値上昇抑制効果をさらに高めるための成分を含むことができる。摂取を容易にするための成分としては、味質を整える効果を有するスクラロース、キシリトール、エリスリトールなどの代替甘味料が挙げられ、血糖値上昇抑制効果をさらに高めるための成分としては、砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤の腸管内滞留時間を長くする効果を有するカラギーナン、寒天、植物ガム(グアガム、アラビアガム等)などの不溶性及び水溶性の食物繊維や増粘剤が挙げられる。
本発明の血糖値上昇抑制剤は、薬剤の形態に限定されるものではなく、食品又は飲料の形態であることができる。これらの形態にすることにより、摂取が一層容易になる。食品の形態としては、例えばアイスクリーム、ヨーグルト等の乳製品;飴、ガム、クッキー、ケーキ、プリン、ゼリー、ババロア、ムース、羊羹、饅頭、最中、どら焼き、たい焼き、回転焼き、煎餅、おはぎ、大福、団子、ぜんざいなどの和洋菓子類が挙げられ、飲料の形態としては、例えばコーヒー、紅茶、清涼飲料水、炭酸飲料水、果汁入り飲料水などが挙げられる。食品又は飲料の形態にするには、食品又は飲料の製造工程のいずれかで本発明の血糖値上昇抑制剤の有効成分を混入すればよい。この場合、有効成分の砂糖は、食品又は飲料中に本来含まれている砂糖を利用することができる。
本発明の血糖値上昇抑制剤は、砂糖と砂糖分解酵素の阻害剤と腸管内の砂糖分解酵素とから形成された複合体が砂糖分解酵素の活性を阻害した状態で長時間維持されているので、血糖値上昇抑制効果が長時間持続する。従って、本発明の血糖値上昇抑制剤は、食前10分から6時間までの広い時間範囲の中から摂取時期を選択することができ、糖尿病患者にとって摂取が極めて容易である。
以下、本発明の血糖値上昇抑制剤の製造例及び本発明の血糖値上昇抑制剤の効果を示す実施例を具体的に示す。なお、実施例の記載は純粋に発明の理解のためのみに挙げるものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1:複合体形成における砂糖の必要性の確認
砂糖分解酵素源としてラット由来の小腸アセトン粉末を使用し、これにL−アラビノースが結合して複合体を形成するために砂糖が必要であるかどうかを、L−アラビノース及び砂糖分解酵素からなる二成分系におけるL−アラビノースの遊離量と、L−アラビノース、砂糖分解酵素及び砂糖からなる三成分系におけるL−アラビノースの遊離量を経時的にin vitro試験で評価することにより確認した。
(1)0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)に砂糖2gとL−アラビノース200mgを溶解した溶液10mLを準備し、そこに小腸アセトン粉末(ラット)500mgを懸濁して懸濁液1を調製した。対照として、同じ緩衝液にL−アラビノース200mgのみを溶解した溶液10mLを準備し、そこに小腸アセトン粉末(ラット)500mgを懸濁して懸濁液2を調製した。各懸濁液は、37℃で1時間恒温した。
(2)各懸濁液は恒温後、それぞれセルロース透析膜(Ф17.8mm、Cutoff Mw25,000)に移し、密封した。懸濁液1を入れた透析膜は、8gの砂糖を溶解した90mLの0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)中に入れ、対照の懸濁液2を入れた透析膜は砂糖を溶解していない90mLの0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)中に入れ、それぞれ撹拌しながら37℃で2時間反応させた。
(3)2時間の反応終了後、懸濁液1を入れた透析膜を新たに調製した8gの砂糖を溶解した90mLの0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)中に移し、懸濁液2を入れた透析膜を新たに調製した0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)中に移し、再び撹拌しながら37℃でさらに2時間反応させた。この(3)の手順は5回繰り返し、計12時間反応させた。12時間の反応中、2時間ごとに緩衝液をサンプリングしておいた。
(4)サンプリングした各緩衝液は、HPLCで分析し、緩衝液中に遊離したL−アラビノース量を求めた。これらの2時間ごとの遊離L−アラビノース量のデータから、経過時間ごとに遊離L−アラビノース量をグラフ化し、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間及び12時間までに遊離したL−アラビノースの量を求め、反応開始時の懸濁液中のL−アラビノースの量を基準として各時間での各懸濁液中のL−アラビノースの残存率を算出した。その結果を図1に示す。図1中、黒丸は懸濁液1についての結果であり、白四角は対照の懸濁液2についての結果である。
図1から、L−アラビノース及び砂糖分解酵素からなる二成分系の懸濁液2に比べて、L−アラビノース及び砂糖分解酵素に加えて砂糖をさらに含む三成分系の懸濁液1はL−アラビノースを遊離しにくいことがわかる。このことから、L−アラビノースと砂糖分解酵素が複合体を形成するためには砂糖が必要であると言える。
実施例2:複合体の維持時間の確認
砂糖分解酵素源としてラット由来の小腸アセトン粉末を使用し、砂糖分解酵素と砂糖とL−アラビノースが複合体を形成してからその状態を維持し続ける時間を、砂糖及び砂糖分解酵素からなる二成分系と比較した砂糖、砂糖分解酵素及びL−アラビノースからなる三成分系における砂糖分解酵素の阻害率を経時的にin vitro試験で評価することにより確認した。
(1)0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)に砂糖2gとL−アラビノース200mgを溶解した溶液10mLを準備し、そこに小腸アセトン粉末(ラット)500mgを懸濁して懸濁液1を調製した。対照として、同じ緩衝液に砂糖2gのみを溶解した溶液10mLを準備し、そこに小腸アセトン粉末(ラット)500mgを懸濁して懸濁液2を調製した。各懸濁液は、37℃で1時間恒温した。
(2)各懸濁液は恒温後、それぞれセルロース透析膜(Ф17.8mm、Cutoff Mw25,000)に移し、密封した。各透析膜は、8gの砂糖を溶解した90mLの0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)中に入れ、撹拌しながら37℃で2時間反応させた。
(3)2時間の反応終了後、新たに調製した8gの砂糖を溶解した90mLの0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)中に各透析膜を移し、再び撹拌しながら37℃でさらに2時間反応させた。この(3)の手順は4回繰り返し、計10時間反応させた。10時間の反応中、30分ごとに少量(100μL)の緩衝液をサンプリングした。
サンプリングした各緩衝液をグルコース測定キット(グルコース(II−テスト、和光純薬)で測定し、各時点におけるグルコース産生量を求めた。これらの30分ごとのグルコース産出量のデータから、経過時間ごとにグルコース産生量をグラフ化し、2時間、4時間、6時間、8時間及び10時間の各時点におけるグルコース産生速度(つまり、砂糖分解速度)をそれらの各々の時点の前2時間にわたるグルコースの増大速度から求めた。また、0時間におけるグルコース産生速度は、反応開始30分後に採取したサンプル緩衝液におけるグルコース産生量を基準とし、対照のグルコース産生速度が不変として補正処理を行って求めた。さらに、各時点における対照の懸濁液2の砂糖分解速度を基準として懸濁液1の砂糖分解速度の抑制率(つまり砂糖分解酵素阻害率)を算出した。その結果を表1に示す。
Figure 0005094150
表1から、砂糖とL−アラビノースを添加して複合体が形成されている懸濁液1の小腸アセトン粉末は、砂糖分解酵素活性が長時間阻害されており、6時間後でも45%の砂糖分解酵素が阻害されていることがわかった。
実施例3:砂糖の量が血糖値上昇抑制効果に及ぼす影響の確認
砂糖及びL−アラビノースを有効成分とする血糖値上昇抑制剤中の砂糖の量が血糖値上昇抑制効果に及ぼす影響を成人男性を対象としたin vivo試験で検証した。
健常な成人男性5名(年齢42.4±6.6歳、BMI23.6±5.2)に血糖値上昇抑制剤として砂糖10gとL−アラビノース粉末0.5g(対砂糖5重量%)、砂糖20gとL−アラビノース粉末1.0g(対砂糖5重量%)、又は砂糖30gとL−アラビノース粉末1.5g(対砂糖5重量%)を水120gに溶解したものを摂取させた。2時間後、食事として砂糖20gを120gの水に溶解したものを摂取させた。その後、2時間にわたって血糖値の変化及び血糖値上昇の最高値を調べた。試験時間中は水道水以外の摂取は行わなかった。対照として、L−アラビノース粉末を含有しない血糖値上昇抑制剤についても試験を行った。血糖値測定にはメディセーフミニGR−102(テルモ)を用いた。これらの試験は同一人に対して4回繰り返し行い、4回の平均値に基づいてグラフ化及び統計処理を行った。その結果を表2及び図2〜4に示す。
Figure 0005094150
表2及び図2〜4から、血糖値上昇抑制剤中の砂糖の量が10gでは対照との効果の有意差がないが、20g以上では血糖値上昇抑制効果の有意差があることがわかる。
実施例4:砂糖に対するL−アラビノースの割合が血糖値上昇抑制効果に及ぼす影響の確認
砂糖及びL−アラビノースを有効成分とする血糖値上昇抑制剤中の砂糖に対するL−アラビノースの割合が血糖値上昇抑制効果に及ぼす影響を成人男性を対象としたin vivo試験で検証した。
健常な成人男性5名(年齢42.4±6.6歳、BMI23.6±5.2)に血糖値上昇抑制剤として砂糖20gとL−アラビノース粉末0.6g(対砂糖3重量%)、砂糖20gとL−アラビノース粉末1.0g(対砂糖5重量%)、砂糖20gとL−アラビノース粉末2.0g(対砂糖10重量%)、又は砂糖20gとL−アラビノース粉末3.6g(対砂糖18重量%)を水120gに溶解したものを摂取させた。2時間後、食事として砂糖20gを120gの水に溶解したものを摂取させた。その後、2時間にわたって血糖値の変化及び血糖値上昇の最高値を調べた。試験時間中は水道水以外の摂取は行わなかった。対照として、L−アラビノース粉末を含有しない血糖値上昇抑制剤についても試験を行った。血糖値測定にはメディセーフミニGR−102(テルモ)を用いた。これらの試験は4回繰り返し行い、4回の平均値に基づいてグラフ化及び統計処理を行った。その結果を表3及び図5〜8に示す。
Figure 0005094150
表3及び図5〜8から、血糖値上昇抑制剤中の砂糖に対するL−アラビノースの割合が3重量%では対照との血糖値上昇抑制効果の有意差がないが、5重量%以上では効果の有意差があることがわかる。
実施例5:実際の摂取状況での血糖値上昇抑制効果の確認
実施例3及び4では食事として砂糖を水に溶解したものを摂取したが、実施例5では実際の摂取状況を模倣するため、食事として市販食品を使用した。また、被験者の数を増やした。
健常な成人男女20名(年齢42.2±10.6歳、BMI21.3±4.5)に、砂糖40gを水110gに溶解して与え、摂取直前と摂取後2時間までの血糖値変化を調べた。この結果に基づき、年齢、性別、血糖値上昇値(60mg/dL以上と60mg/dL未満)がそれぞれ偏ることのないように二つの群(第一群及び第二群)に分けた。
本発明の血糖値上昇抑制剤として、砂糖40gとL−アラビノース粉末2.0gを水110gに溶解したものを準備し、これを第一食と称することにした。また、対照として、砂糖40gを水110gに溶解したものを準備し、これを第二食と称することにした。第一群には第一食を、第二群には第二食を与えた。
2時間後、両群に食事としてどら焼き(駿河屋)90g(砂糖含有量40g)を摂取させ、その後、2時間にわたって血糖値の変化及び血糖値上昇の最高値を調べた。血糖値測定にはメディセーフミニGR−102(テルモ)を用いた。また、試験時間中は水道水以外の摂取は禁止した。
この試験から7日の冷却期間を置いて、この試験を繰り返した。試験繰り返しの際は、第一群には第二食を、第二群には第一食を与えた。
得られた血糖値データは、クロスオーバーを考慮したt検定(中里 溥志,健康・栄養食品研究,7,71−78(2004))により分析し、対照(第二食)と比較した本発明の血糖値上昇抑制剤(第一食)の血糖値上昇抑制効果の有意性を検討した。但し、データの解析終了までは、被験者、試験実施者、データ解析者のいずれに対しても、第一食と第二食の内容を伏せた。結果を表4及び図9に示す。
Figure 0005094150
表4及び図9から、本発明の血糖値上昇抑制剤は食事として市販食品を使用した実際の摂取状況でも十分な血糖値上昇抑制効果を有することがわかる。
実施例6
様々な食品及び飲料の形態での本発明の血糖値上昇抑制剤の効果の確認
本発明の血糖値上昇抑制剤を様々な食品及び飲料の形態に作り、これらを食前2時間に摂取した場合の血糖値上昇抑制効果を確認した。
(水羊羹の形の血糖値上昇抑制剤の製造)
水300mLと寒天4gを鍋で加熱し寒天を溶解した。これに、市販の餡子(砂糖含量40重量%)400gとL−アラビノース粉末を8gを添加し、軽く加熱しながら均一に混合してから火を止めた。これを100gずつ八つの型に流し込み、冷却して、1個あたり砂糖20g、L−アラビノース1gを含む水羊羹を得た。
(リンゴゼリーの形の血糖値上昇抑制剤の製造)
グラニュー糖80gとL−アラビノース粉末4g、ゲルメイトKB(新日本製薬株式会社)1.5gを水52gと共に鍋に入れ、軽くかき混ぜながら80℃で5分間加熱した。加熱をやめた後、そこにリンゴ果汁30gとクエン酸0.15gを添加し、100gずつ四つの型に流し込み十分放冷した後、冷蔵庫で冷やして、1個あたり砂糖20g、L−アラビノース1gを含むリンゴゼリーを得た。
(落雁の形の血糖値上昇抑制剤の製造)
粉糖20gとL−アラビノース粉末1gを予めよく混合した後、水約4gを添加しながら更によく混ぜた。そこに微甚粉30gを加えて更に混ぜ合わせた後、型詰めして成形した。成形物は型から取り出し、一晩乾燥させ、砂糖20g、L−アラビノース1gを含む落雁を得た。
(最中の形の血糖値上昇抑制剤の製造)
小豆200gを煮上げた後、グラニュー糖80gを加え少し加熱してから、一晩寝かせた。これを鍋にいれ、水80mLとグラニュー糖100gとL−アラビノース13gを加えて、15分ほど加熱した後、煮詰めた寒天液(2〜3gの寒天を溶かし、砂糖80gを加えたもの)と混ぜ合わせて練りつぶし、最中餡を作った。このうち50gを市販の最中種に入れ、砂糖20g、L−アラビノース1gを含む最中を得た。
(炭酸飲料の形の血糖値上昇抑制剤の製造)
市販の炭酸水500mLにグラニュー糖20gとL−アラビノース粉末1gを添加して十分に混合し、さらにレモン果汁20gを添加し、砂糖20g、L−アラビノース1gを含む炭酸飲料を得た。
健常な成人男性5名(年齢42.4±6.6歳、BMI23.6±5.2)に血糖値上昇抑制剤として上記の水羊羹、リンゴゼリー、落雁、最中又は炭酸飲料を摂取させた。2時間後、食事として砂糖20gを120gの水に溶解したものを摂取させた。その後、2時間にわたって血糖値の変化及び血糖値上昇の最高値を調べた。試験時間中は水道水以外の摂取は行わなかった。対照として、砂糖20gを水120gに溶解した、L−アラビノース粉末を含有しない血糖値上昇抑制剤についても試験を行った。血糖値測定にはメディセーフミニGR−102(テルモ)を用いた。これらの試験は同一人に対して4回繰り返し行い、4回の平均値に基づいてグラフ化及び統計処理を行った。その結果を表5に示す。
Figure 0005094150
表5から、本発明の血糖値上昇抑制剤は、様々な食品及び飲料の形態であっても十分な血糖値上昇抑制効果を有することがわかる。
本発明の血糖値上昇抑制剤は、比較的多量の砂糖とL−アラビノースに代表される砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤を有効成分として含むため、血糖値上昇抑制効果の持続時間が長く、食前10分から6時間にわたる広い時間範囲のいずれの時点で摂取しても食事の糖質の吸収分解を効果的に阻止することができる。従って、本発明の血糖値上昇抑制剤は、糖尿病患者において食後の血糖値の上昇を抑制するために日常的に使用されることができる。
実施例1におけるL−アラビノースの残存率の結果を示す。 実施例3において、砂糖10gとL−アラビノース0.5gを摂取した2時間後に砂糖20gを摂取したときの血糖値の上昇を示す。 実施例3において、砂糖20gとL−アラビノース1.0gを摂取した2時間後に砂糖20gを摂取したときの血糖値の上昇を示す。 実施例3において、砂糖30gとL−アラビノース1.5gを摂取した2時間後に砂糖20gを摂取したときの血糖値の上昇を示す。 実施例4において、砂糖20gとL−アラビノース0.60gを摂取した2時間後に砂糖20gを摂取したときの血糖値の上昇を示す。 実施例4において、砂糖20gとL−アラビノース1.0gを摂取した2時間後に砂糖20gを摂取したときの血糖値の上昇を示す。 実施例4において、砂糖20gとL−アラビノース2.0gを摂取した2時間後に砂糖20gを摂取したときの血糖値の上昇を示す。 実施例4において、砂糖20gとL−アラビノース3.6gを摂取した2時間後に砂糖20gを摂取したときの血糖値の上昇を示す。 実施例5において、砂糖40gとL−アラビノース2.0gを摂取した2時間後に羊羹90g(砂糖含有量40g)を摂取したときの血糖値の上昇を示す。

Claims (3)

  1. 食前10分〜6時間で1回経口摂取されることによって食後の血糖値の上昇を抑制する血糖値上昇抑制剤であって、砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤と、1回の摂取あたり15g〜75gの砂糖とを有効成分として含有すること、及び砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤が、L−アラビノースであることを特徴とする血糖値上昇抑制剤。
  2. 砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤の含有量が、砂糖の4〜20重量%であることを特徴とする請求項1に記載の血糖値上昇抑制剤。
  3. 食前10分〜6時間で1回経口摂取されることによって食後の血糖値の上昇を抑制する血糖値上昇抑制剤の製造における砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤及び1回の摂取あたり15g〜75gの砂糖の使用であって、砂糖分解酵素の不拮抗阻害剤が、L−アラビノースであることを特徴とする使用。
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