[第1実施例]
図1は、本発明による第1実施例としての永久磁石式回転電機が搭載されたハイブリッド型の電気自動車の一実施形態を示す構成図である。なお本発明による回転電機は、純粋な電気自動車にもハイブリッド型の電気自動車にも適用できるが、以下代表してハイブリッド型の電気自動車の実施例を説明する。
ハイブリッド型の電気自動車100には、エンジン120と第1の回転電機200と第2の回転電機202と、第1の回転電機200と第2の回転電機202に高電圧の直流電力を供給するあるいは第1の回転電機200と第2の回転電機202から高電圧の直流電力を受けるバッテリ180が搭載されている。さらに14ボルト系電力である低電圧電力を供給するバッテリがこの車両に搭載されており、以下に説明する制御回路に低電圧の直流電力を供給するが、この低電圧電力を供給するバッテリの図示を省略する。
エンジン120および第1の回転電機200と第2の回転電機202に基づく回転トルクは、変速機130とデファレンシャルギア132に伝達され、前輪110に伝達される。変速機130を制御する変速機制御装置134とエンジン120を制御するエンジン制御装置124と電力変換装置600を制御する回転電機制御回路604とリチュームイオン電池などのバッテリ180を制御するバッテリ制御装置184と統合制御装置170とが、それぞれ通信回線174によって接続されている。
統合制御装置170は、統合制御装置170より下位の制御装置である変速機制御装置134やエンジン制御装置124や電力変換装置600やバッテリ制御装置184から、それぞれの状態を表す情報を通信回線174を介して受け取る。これらの情報に基づき、統合制御装置170によって各制御装置の制御指令が演算され、統合制御170から各制御装置への制御指令が通信回線174を介してそれぞれの制御装置へ送信される。
例えば、バッテリ制御装置184はリチュームイオン電池であるバッテリ180の放電状況やリチュームイオン電池を構成する各単位セル電池の状態をバッテリ180の状態として統合制御装置170に通信回線174を介して報告する。
統合制御装置170は上記報告からバッテリ180の充電が必要と判断すると、電力変換装置600に発電運転の指示を出す。統合制御装置170はまたエンジン120と第1や第2の回転電機200,202の出力トルクを管理し、エンジンと第1や第2の回転電機200,202の出力トルクの総合トルクあるいはトルク分配比を演算処理し、処理結果に基づく制御指令を変速機制御装置134やエンジン制御装置124や電力変換装置
600へ送信する。トルク指令に基づき電力変換装置600は第1の回転電機200と第2の回転電機202を制御し、どちらか一方の回転電機であるいは両方の回転電機で指令のトルク出力を、あるいは発電電力を発生するようにこれらの回転電機を制御する。
電力変換装置600は統合制御装置170からの指令に基づき第1の回転電機200と第2の回転電機202を運転するためにインバータを構成するパワー半導体のスイッチング動作を制御する。これらパワー半導体のスイッチング動作により、第1の回転電機200と第2の回転電機202が電動機としてあるいは発電機として運転される。
電動機として運転する場合は高電圧のバッテリ180からの直流電力が前記電力変換装置600のインバータの直流端子に供給される。インバータを構成するパワー半導体のスイッチング動作を制御することにより上記供給された直流電力が3相交流電力に変換され、回転電機200あるいは202に供給される。一方第1の回転電機200あるいは第2の回転電機202が発電機として運転される場合、回転電機200あるいは202の回転子が外部から加えられる回転トルクで回転し、この回転トルクに基づき前記回転電機の固定子巻線に3相交流電力を発生する。発生した3相交流電力は前記電力変換装置600で直流電力に変換され、直流電力が前記高電圧のバッテリ180に供給され、前記バッテリ180が直流電力により充電される。
図1に示すとおり、電力変換装置600は、直流電源の電圧変動を押える複数の平滑用のコンデンサモジュールと、複数のパワー半導体を内蔵するパワーモジュールと、このパワーモジュールのスイッチング動作を制御するスイッチング駆動回路および前記スイッチング動作の時間幅を決める信号すなわちパルスワイドモデュレーションの制御を行うPWM信号を発生する回路を備えた回転電機制御回路から構成されている。
高電圧のバッテリ180はリチュームイオン電池あるいはニッケル水素電池などの2次電池であり、250ボルトから600ボルト、あるいはそれ以上の高電圧の直流電力が前記2次電池に充電され、あるいは前記2次電池から出力される。
図2は図1に示す電力変換装置600の回路図である。電力変換装置600には第1の回転電機200のための第1のインバータ装置と第2の回転電機202のための第2のインバータ装置とが設けられている。第1のインバータ装置は、第1のパワーモジュール
610と第1のパワーモジュール610における各パワー半導体21のスイッチング動作を制御する第1の駆動回路652と回転電機200の電流を検知する電流センサ660と以下に説明する第2のインバータ装置と共通に使用される制御回路648とコネクタ基板642に実装された送受信回路644やコンデンサジュール630を備えている。なお、駆動回路652は駆動回路基板650に設けられており、制御回路648は制御回路基板646に設けられている。
第2のインバータ装置は、第2のパワーモジュール620と第2のパワーモジュール
620における各パワー半導体21のスイッチング動作を制御する第2の駆動回路656と回転電機202の電流を検知する電流センサ662と第1のインバータと共通に使用される制御回路648と送受信回路644とコンデンサジュール630とを備えている。第2の駆動回路656は第2の駆動回路基板654に実装されており、また制御回路648は回転電機制御回路基板646に実装されており、送受信回路644はコネクタ基板642に実装されている。
第1のパワーモジュール610と第2のパワーモジュール620は、それぞれ対応する第1および第2の駆動回路652と656とから出力された駆動信号によって動作し、高電圧バッテリ180から供給された直流電力を三相交流電力に変換し、その電力を対応する回転電機200や202の電機子巻線に供給する。また回転電機200や202のの電機子巻線である固定子巻線に誘起された交流電力を直流に変換して高電圧バッテリに供給する。
第1および第2のパワーモジュール610や620は、図2に記載のごとく3相ブリッジ回路を備えており、3相に対応した直列回路がそれぞれバッテリ180の正極側と負極側との間に電気的に並列に接続されている。各直列回路は上アームを構成するパワー半導体と下アームを構成するパワー半導体とを備え、上アームのパワー半導体21と下アームを構成するパワー半導体21とは直列に接続されている。
第1のパワーモジュール610と第2のパワーモジュール620とは図2に示す如く、回路構成がほぼ同じであり、第1のパワーモジュール610で代表して説明する。本回路では、スイッチング用パワー半導体素子としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)21を用いている。IGBT21は、コレクタ電極,エミッタ電極及びゲート電極の3つの電極を備えている。IGBT21のコレクタ電極とエミッタ電極との間にはダイオード38が電気的に接続されている。ダイオード38は、カソード電極及びアノード電極の2つの電極を備えており、IGBT21のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBT21のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT21のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。
スイッチング用パワー半導体素子としてはMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。MOSFETは、ドレイン電極,ソース電極及びゲート電極の3つの電極を備えている。尚、MOSFETは、ソース電極とドレイン電極との間に、ドレイン電極からソース電極に向かう方向が順方向となる寄生ダイオードを備えているので、図2のダイオード38を設ける必要がない。
各相のアームはIGBT21のソース電極とIGBT21のドレイン電極が電気的に直列に接続されて構成されている。尚、本実施例では、各相の各上下アームのIGBTを1つしか図示していないが、制御する電流容量が大きいので、実際には複数のIGBTが電気的に並列に接続されて構成されている。以下説明を簡単にするため、1個のパワー半導体として説明する。
図2に示す実施例では、各相の各上下アームはそれぞれ3個のIGBTによって構成している。各相の各上アームのIGBT21のドレイン電極はバッテリ180の正極側に、各相の各下アームのIGBT21のソース電極はバッテリ180の負極側それぞれ電気的に接続されている。
各相の各アームの中点(上アーム側IGBTのソース電極と下アーム側のIGBTのドレイン電極との接続部分)は、対応する回転電機200や202の対応する相の電機子巻線に電気的に接続されている。
第1と第2の駆動回路652と656は、対応するインバータ装置610や620を制御するための駆動部を構成しており、制御回路648から出力された制御信号に基づいて、IGBT21を駆動させるための駆動信号を発生する。それぞれの駆動回路652や
656で発生した駆動信号は、対応する第1のパワーモジュール610や第2のパワーモジュール620における各パワー半導体のゲートにそれぞれ出力される。各相の各上下アームのゲートに供給する駆動信号を発生する2組の回路を1つの集積回路としている。駆動回路652や656はそれぞれ、6個の上記集積回路を有しており、これら6個の集積回路を収めて1ブロックとして駆動回路652や656を構成している。
制御回路648は各インバータ装置610や620の制御部を構成しており、複数のスイッチング用パワー半導体素子を動作(オン・オフ)させるための制御信号(制御値)を演算するマイクロコンピュータによって構成されている。制御回路648には、上位制御装置からのトルク指令信号(トルク指令値),電流センサ660や662及び回転電機
200や202に搭載された回転センサが検知した信号(センサ出力)が入力されている。制御回路648はそれらの入力信号に基づいて制御値を演算し、駆動回路652や656にスイッチングタイミングを制御するための制御信号を出力する。
コネクタ基板642に実装された送受信回路644は、電力変換装置600と外部の制御装置との間を電気的に接続するためのもので、図1の通信回線174を介して他の装置と情報の送受信を行う。
コンデンサジュール630は、IGBT21のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制するための平滑回路を構成するためのものであり、第1のパワーモジュール610や第2のパワーモジュール620における直流側の端子に電気的に並列に接続されている。
図3は、図1と図2に記載の回転電機200あるいは202の断面図である。回転電機200と202とはほぼ同じ構造であり、回転電機200の構造をこれらの代表例として図3から図5を用いて説明する。図4は図3にのA−A断面を示す図4は図3に固定子
230および回転子250のA−A断面であり、ハウジング212およびシャフト218の記載を省略した。
ハウジング212の内部に固定子230が保持されており、固定子230は固定子鉄心232と固定子巻線238とを備えている。固定子鉄心232の内側面に対して空隙222を介して回転子250が配置されている。回転子250は回転子鉄心252と永久磁石
254とを備えており、回転子鉄心252はシャフト218に固定されている。ハウジング212はシャフト218の回転軸方向の両側にエンドブラケット214をそれぞれ有しており、前記回転子鉄心252を有するシャフト218はエンドブラケット214のそれぞれに軸受216により回転自在に保持されている。
シャフト218には回転子の極の位置を検出する回転子位置センサ224と回転子の回転速度を検出する回転速度センサ226とが設けられている。これらのセンサ224と
226からの出力は図2に示す制御回路648に取り込まれ、これらセンサの出力に基づいてパワーモジュール610が制御される。
図4は図3に示す固定子230および回転子250のA−A断面図を示す。図4により図3に示す固定子230および回転子250の具体的な構造を説明する。固定子230は固定子鉄心232を有しており、固定子鉄心232は周方向に均等に多数のスロット234とティース236とを有しており、スロット234には分布巻された固定子巻線238が設けられている。図4で、固定子の回転子側には全周に渡ってティース236とスロット234が設けられている。尚、これら全てに符号を付すことはせず、代表して一部のティースとスロットにのみに符号を付した。
また、回転子鉄心252の表面には、永久磁石254,256が接着剤などで貼り付けられている。用途によって細心の安全対策が必要な場合には、この永久磁石254,256の外周に非磁性材である例えばステンレス管などをかぶせて上記磁石の遠心力による永久磁石254,256の回転飛散を防止することができる。更には、回転子鉄心252の表面側に磁石挿入孔を設けて、この挿入孔内に永久磁石254,256を装着しても構わない。上記磁石は回転子250の界磁極として作用し、これら界磁極を構成する永久磁石
254,256の磁化方向は、磁石の固定子側面がN極またはS極となる方向で、界磁極毎に磁化方向が反転している。
永久磁石254,256は磁化され、永久磁石となった状態で回転子鉄心252に貼り付けても良いし、あるいは永久磁石254,256が磁化されていない状態で回転子鉄心252に貼り付け、回転子250を構成した後に強力な磁界を与えて磁化されることにより永久磁石となるようにしてもよい。この場合、磁化されない状態の永久磁石254,
256を回転子鉄心252に貼り付け、その後に磁化する方が、回転電機の生産性が向上する。すなわち、これらの永久磁石254,256はたいへん強力な磁石であり、回転子250に永久磁石254,256を固定する前に磁石を着磁すると、永久磁石254,
256の固定時に回転子鉄心252との間に強力な吸引力が生じ、この求心力が作業の妨げとなる。また強力な吸引力により、永久磁石254,256に鉄粉などのごみが付着する恐れがある。
図4に示す実施形態では、各磁極すなわち各界磁極が1個の永久磁石254,256で構成されており界磁極毎に着磁方向が反転している。この実施形態では永久磁石254と256とでは極性が反対である。永久磁石254と256とを備えた回転子250の磁極は回転子250の周方向に等間隔に配置されており、この実施形態では8極である。
また、図4の実施形態は、回転子250の極ピッチτpが角度で45°である。これに対して、は小さくなっている。この割合、τm/τpを調節することにより、回転子の作る磁束密度分布の高調波成分を変化させることができる。これにより、回転電機の基本的な特性であるコギングトルク,通電時のトルクリプル,誘起電圧の波形などを調節することができる。
また図5は図3および図4に記載の分布巻された固定子巻線の代わりに集中巻の固定子を試用した回転電機を示す。また同一符号は対応する構成を示している。図5に示すような集中巻モータの場合にも同じように磁石の幅τmを調節することができる。尚、固定子のティースに図に示すようにコイルを集中的に巻回しているものを、ここでは集中巻と呼ぶ。一方、分布巻とは、スロットを跨いでコイルを挿入しているものとする。図5にはW相の巻線のみ図示したが、これらのコイルは直列、あるいは並列に接続することで端子からみた電圧を調節することができる。
図5の実施形態では、回転子側は、永久磁石254や256の固定子側の表面を図示したようにギャップ面の半径よりも磁石表面の曲率円弧を小さくしている。回転軸の垂直面での断面の状態を見ると各磁石は、回転子250の周方向両端部において回転子250から固定子230方向に向く形状を持ち、固定子230側面が回転子250面より極率の大きい曲線形状を成して、磁石の周方向における中央部が最も固定子230に近くなる形状をしている。
この形状(以下かまぼこ型と記す)により、磁石の固定子230側表面の磁束密度を周方向に正弦波状になめらかに分布させることができる。この効果により、高調波成分が減り、コギングトルクを低減させ、誘起電圧の波形の高調波を少なくすることができる。このような、かまぼこ型の形状の永久磁石も、本実施例を用いれば簡単に作ることができる。
ここで、本実施形態に用いられる永久磁石と、従来の回転電機に用いられていた焼結磁石及びボンド磁石との違いを以下に説明する。
焼結磁石は、その高エネルギー密度を活かして、モータを小型化できるので、電気自動車やハイブリッド車などに用いられている。しかしながら、焼結磁石は、その製法上、焼結工程での高温処理が不可欠なので、設備費用を含め、生産コストが高くなる。また、磁石材を高温に熱する焼結工程により、焼結工程前の形状・寸法に対し焼結工程後の形状・寸法が熱収縮等により変化してしまい、正確な寸法の部品を得るためには、焼結工程の後の成形工程で、寸法精度を得るために大幅な切削を含む成形作業が必要であった。これが磁石モータのコスト増を招いており、安価で制御性の良いモータを得る上での障害となっている。
また、ボンド磁石は、熱硬化性エポキシ樹脂と磁石材料とを混合し、この混合物を成型し製造する。つまり、エポキシ樹脂で磁石材料を接着した磁石である。エポキシ樹脂を結着剤として使用した磁石では、磁石材料とエポキシ樹脂との混合物を圧縮成型して磁石を製造している。このようなエポキシ樹脂で磁石材を接着するボンド磁石は、磁石材に対するエポキシ樹脂材の割合が多くなり、磁石にしめる磁石材料の割合が低下し、磁気特性が悪く、回転電機の特性が著しく低下する問題がある。このようなボンド磁石は、エネルギー密度が小さいため、大容量大トルク用途にはあまり用いられず、小型のファンモータなどに用いられている。
以上、説明したように焼結磁石でこのような形状にするためには、表面加工が必要となり、コストが上昇してしまう。実際には、焼結磁石は、1000℃以上で焼結させるため、熱収縮による変形を補正する必要があり、後で加工することが不可欠である。また、有機物により結着されたボンド磁石では、結着材であるエポキシ樹脂を150℃以上の高温で使用することが困難であり、150℃を超える熱的環境で使用するニーズの多い自動車用の回転電機には耐久性の点で不向きであった。
図5に示すかまぼこ型磁石の実施形態を図4の実施形態に適用できる。図4に示す実施形態において、回転子250に保持された永久磁石254や256を図5に示すかまぼこ型形状の磁石に変えることができる。分布巻のモータでは固定子が発生する回転磁界を集中巻より滑らかにすることができる。これに加え永久磁石をかまぼこ型形状にして回転子鉄心外周に配置することで、磁石の固定子側面の磁束密度の変化を正弦波関数に近い状態にすることができ、これらの結果から回転電機のトルクリプルを低減させることができる。特に低速回転おいて、低脈動のトルクを発生できるので、車両の発進時の加速が滑らかとなり、運転者に車両の運転性に関し高級感を与えるのに適する。
このような永久磁石は、従来の焼結磁石タイプでは、熱処理後の変形のため、成形が必要であり、高価なものになっていた。しかし、本発明の永久磁石を用いた回転機の場合、プレス型でこの形状を作れば、プレス加工後の変形が少なくなり、磁石の後加工は必要ない。あるいは後加工が必要であっても、加工作業量が少なく、加工工程が簡単になる効果がある。
図6は回転子250の他の作り方である。磁石抑え260により、遠心力による永久磁石の飛散を防止している。この磁石抑え260は、回転子鉄心252と一体でも良いし、後から回転子鉄心252に固定しても良い。また、磁石抑え260を磁性体で構成すると、リラクタンストルクを活用したモータにすることもできる。リラクタンストルクは、分布巻のモータの方がよく利用できるため、固定子構造は分布巻とする方法もある。
尚、本発明が適用される適用対象は8極に固定されるものではない。回転子250の極数は10極や12極などさらに多くの極であっても良い。また逆に少ない極数であっても良い。固定子巻線の巻回方式には分布巻と集中巻の方式がある。3相モータの場合、分布巻の固定子のスロット数は、極数の3n(nは自然数)になる。また、集中巻の場合には、固定子のスロット数をN,極数をPとすると、2/3<=P/N<=4/3の関係で、効率の良い3相モータになり、どの組合せに対しても適用できる。集中巻モータでは、1極を構成する固定子側のコイル数が少ないため、固定子が基本同期周波数以外の調波成分が大きい。特に基本同期周波数よりも低次の調波成分が多い。このため、回転子表面の永久磁石に流れる渦電流が多く、従来の焼結磁石を使ったモータでは、分割などの方策が不可欠であった。この原理や応用例については後述する。以下に説明するSiO系結着剤で磁性粉を結着した磁石では磁性粉間に絶縁材である結着剤が存在するため、永久磁石の内部抵抗が高抵抗なり渦電流がその分減少する。また表面に絶縁膜を形成した磁石粉を使用して結着することも可能である。このため従来の焼結型磁石に比べ、永久磁石の分割などの対策の必要性が少なく、対策が不要の場合は安価に回転電機を作ることができる。また従来対策しなかった回転電機に対して効率を向上でき、また磁石の発熱を減少できることで熱対策が容易となる。
ここで永久磁石254と256は磁石材料である希土類材料のネオジウム(Nd)の粉体をこのネオジウム(Nd)と前駆体が濡れ性の良い性質を備えている結着剤で結着した構造をしている。ここで濡れ性の優れた前駆体とは例えばSiO2 の前駆体であるアルコキシシロキサンまたはアルコキシシランである。ネオジウム(Nd)の粉体は板状の形状を為しており、高さ方向であるZ軸方向の値に対しX軸やY軸方向の大きさが数倍以上である、厚みが薄い形状をしている。ネオジウム(Nd)粉体のX軸やY軸方向の大きさは大きい方が良く、例えば粉体のX軸またはY軸方向の大きさが45μメータ以上の大きさの粉体を使用する方が残留特性を良くする。成形中にネオジウム(Nd)の粉体が割れるなどで細かくなり、小さい形状の粉体が混ざることはしかたないが、粉体の半分以上が
45μメータ以上の大きさ粉体であることが望ましく、さらには7割以上が45μメータ以上の大きさの粉体であるとより好ましい結果が得られる。9割以上が45μメータ以上の大きさの粉体であるとさらにより好ましい結果が得られる。なおネオジウム(Nd)にさらにディスプロシウム(Dy)を若干含んでいると特性が改善される。このディスプロシウム(Dy)を含むことにより、回転電機の温度が上昇しても良好な磁気特性が維持される。ディスプロシウム(Dy)の含有割合は数%程度で、多くても10%以下である。バインダーで希土類磁石材料の粉体を結着した構造の磁石及び磁石の製造方法についての詳細は後述する。
図3および図4で、回転子の回転速度センサ226と回転子位置センサ224との出力に基づき図2に示す第1の駆動回路652が第1のパワーモジュール610を制御する制御信号を発生して第1のパワーモジュール610に送信する。第1のパワーモジュールは制御信号に基づきスイッチング動作を行い、バッテリ180から供給される直流電力を3相交流電力に変換する。この3相交流電力は図3や図4に示す固定子巻線238に供給され、回転速度センサ226の検出値に基づいて3相交流電流の周波数が制御され、回転子位置センサ224の検出値に基づいて3相交流電流の回転子に対する位相が制御される。
上記位相と周波数の回転磁界が3相交流電流により固定子230に発生する。固定子
230の回転磁界が回転子250の永久磁石254,256に作用して回転子250に永久磁石254,256に基づく磁石トルクが生じる。
次に永久磁石254,256の製造方法について説明する。図7には、本実施形態に係る永久磁石254,256の製造プロセスの一例を示す。工程10では、粉体状の磁石材料を生成する。例えば希土類の磁石用磁粉は、組成を調整した母合金を急冷することにより製造できる。
工程15では、前記粉体状の磁石材料を圧縮成形する。例えば回転電機に使用する永久磁石を製造する場合は、この工程15では、回転電機に使用する永久磁石の最終磁石形状の型を用い、型に粉体状の磁石材料を供給し、圧縮成形する。圧縮成形された磁石材料は型により形状が決められた多孔質の状態であり、機械的強度は弱く、強い衝撃を受けると壊れる状態である。また磁化されていないので、永久磁石としての特性は有していない。この圧縮成形の状態のままで磁化しても回転電機の構成部品として使用することは機械強度的に困難である。
圧縮成形された磁石は、以下に詳述する製造方法を用いることで、磁石形状の寸法関係がその後の工程であまり変化しない。すなわち工程15で圧縮成形された形状が高い精度で維持できる。例えば以下の製造工程を使用した場合、磁石材料を結着するバインダーのバリなどの一部分を切削成形することが必要かもしれないが、形状の多くの部分は高い精度が維持されており、回転電機において要求される磁石の精度を達成できる可能性が高い。
焼結磁石では、圧縮成形された磁石材料を製造工程で高温に熱することが必要で、高温に熱した後冷却されることで磁石の形状は圧縮成形の形状から変形してしまう問題がある。このため従来の焼結磁石では最終形状の精度を維持するために切削加工が必須であった。このことにより生産性が悪くなる問題があった。また切削加工では曲線形状の加工が困難であり、曲線形状を備えた磁石を簡単に生産することができなかった。
工程20では、圧縮成形された磁石成形体にSiO2 の前駆体の溶液を含浸する。圧縮成形された磁石成形体は多孔質の状態であり、粘性が低く、磁石材料に対して濡れ性の良い性質を持つ結着剤の前駆体を含浸する。圧縮成形された磁石成形体に対し前駆体は濡れ性が良好で粘性も低いので、多孔質の圧縮成形体に前駆体が吸い込まれるように含浸される。具体的な前駆体は以下で詳述する。
磁石成形体に対する濡れ性の良好な結着剤の前駆体溶液を含浸することで、磁石成形体を構成するそれぞれの磁性粉体の表面を前記結着剤が被い、結果として多数の粉体を良好につなぎ合わせる作用を為す。また良好な濡れ性の作用で結着剤の前駆体溶液が磁石成形体の細部に入り込むので、量的に少ない結着剤で良好な結着効果が得られる。また良好な濡れ性を利用しているので、エポキシ樹脂の使用に比べ設備が比較的シンプルで安価になる。そらに以下に詳述する前駆体は比較的低い温度で硬化するので、圧縮成形体の寸法,形状が高い精度で維持したまま最終的な磁石が得られる。もちろん前駆体の含浸の工程で結着剤のバリなどができるが、粉末磁石の圧縮成形体の寸法や形状が変化するわけでは無いので、結着剤の切削処理を行うことで磁石が製造される。
工程25は、含浸された圧縮成形体を熱処理することにより結着剤で磁石材料を結着する工程である。以下に詳述する如くSiO系の材料であるSiO2 を結着剤として磁石材料を結着することで良好な磁石を得ることができる。以下に詳述するように、工程25での処理温度は比較的低い温度であり、この熱処理で磁石成形体の形状や寸法が変化することがほとんど無く、製造された磁石の形状や寸法関係は圧縮成形された形状や寸法に対し高い精度が維持されている。
次に永久磁石254と256の結着剤について説明する。上記工程20で使用される結着剤の前駆体の溶液は、SiO2 の前駆体であるアルコキシシロキサン,アルコキシシランを有しており、化学式1や化学式2に示すような末端基及び側鎖にアルコキシ基を有する化合物を有している。
また、溶媒のアルコールにはアルコキシシロキサン,アルコキシシラン中のアルコキシ基と同じ骨格の化合物が好ましいがこれらに限られるものではない。具体的にはメタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール等が挙げられる。また、加水分解及び脱水縮合用触媒としては酸触媒,塩基触媒,中性触媒のいずれでも良いが中性触媒が金属の腐食を最小限に抑えられるので最も好ましい。中性触媒としては、オルガノスズ触媒が効果的で、具体的にはビス(2−エチルヘキサノエート)スズ、n−ブチルトリス(2−エチルヘキサノエート)スズ,ジ−n−ブチルビス(2−エチルヘキサノエート)スズ,ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオネート)スズ,ジ−n−ブチルジラウリルスズ,ジメチルジネオデカノエートスズ,ジオクチルジラリル酸スズ,ジオクチルジネオデカノエートスズ等が挙げられるがこれらに限られるものではない。また、酸触媒としては希塩酸,希硫酸,希硝酸,蟻酸,酢酸等が、塩基触媒としては水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,アンモニア水等が挙げられるがこれらに限られるものではない。
結着剤の溶液中のSiO2 の前駆体であるアルコキシシロキサン,アルコキシシラン、その加水分解生成物、及びその脱水縮合物総量の含有量は体積分率として5vol% 以上かつ96vol% 以下が好ましい。アルコキシシロキサン,アルコキシシラン、その加水分解生成物、及びその脱水縮合物総量の含有量が5vol% 未満になると、磁石中の結着剤の含有率が低いため、硬化後の結着剤の材料としての強度がやや小さくなる。一方、アルコキシシロキサン,アルコキシシラン、その加水分解生成物、及びその脱水縮合物総量の含有量が96vol% 以上になると、SiO2 の前駆体であるアルコキシシロキサン,アルコキシシランの高分子量化の反応が速いため、結着剤溶液の増粘速度も速くなる。これは結着剤溶液の適正粘度の制御がより困難であることを意味しており、この結着剤溶液を含浸法に用いることが先に説明した材料に比べ難しくなる。
結着剤溶液中のSiO2 の前駆体であるアルコキシシロキサン又はアルコキシシランと水とは、以下の化学式3,化学式4に示した加水分解反応が生じる。ここで化学反応式は加水分解が部分的に生じた時の反応式である。
この際、水の添加量がアルコキシシロキサン又はアルコキシシランの加水分解反応の進行度を支配する因子の一つとなる。この加水分解反応は硬化後の結着剤の機械的強度が大きくするためには重要である。アルコキシシロキサン又はアルコキシシランの加水分解反応が発生していないと、その次に起こるアルコキシシロキサン又はアルコキシシランの加水分解反応物同士の脱水縮合反応が進行しないからである。この脱水縮合反応生成物が
SiO2であり、このSiO2が磁粉との接着性が高く、結着剤の機械的強度を大きくする重要な材料となるからである。更に、シラノールのOH基が磁粉表面のO原子又はOH基と相互作用が強く高接着化に寄与するからである。しかしながら、加水分解反応が進みシラノール基の濃度が高くなるとシラノール基を含む有機ケイ素化合物(アルコキシシロキサン又はアルコキシシランの加水分解生成物)同士の脱水縮合反応が進行し、有機ケイ素化合物の分子量が大きくなり、結着剤の溶液の粘度は高くなる。これは含浸法に用いる結着剤の溶液としては適正な状態が遠ざかる特性である。従って、結着剤溶液中のSiO2 の前駆体であるアルコキシシロキサン又はアルコキシシランに対する適正な水の添加量が必要となる。ここで、絶縁層形成処理液中の水の添加量として、化学反応式1,2に示した加水分解反応における反応当量の1/10〜1が好ましい。水の添加量が化学反応式1,2に示した加水分解反応における反応当量の1/10以下では、有機ケイ素化合物のシラノール基の濃度が低いため、シラノール基を含む有機ケイ素化合物と磁粉表面との相互作用が低く、また、脱水縮合反応が生じにくいため生成物中にアルコキシ基が多量に残存したSiO2 が生成するため、SiO2 中に欠陥部が多数発生し、SiO2 の強度が低くなる。一方、水の添加量が化学反応式1,2に示した加水分解反応における反応当量の1より大きくなると、シラノール基を含む有機ケイ素化合物は脱水縮合が発生し易くなり、結着剤溶液が増粘するため、磁粉と磁粉の隙間に結着剤溶液は浸透できなくなり含浸法に用いる結着剤溶液としては適正な状態から遠ざかる特性である。結着剤溶液中の溶媒には通常アルコールを用いる。それは結着剤溶液に用いる溶媒にはアルコキシシロキサン中のアルコキシ基は解離反応が速く、溶媒のアルコールと置換し平衡状態にあるからである。そのため溶媒のアルコールには沸点が水より低く粘度の低いメタノール,エタノール,n−プロパノール,iso −プロパノールが好ましい。しかし、化学的には溶液の安定性が若干低下するものの、結着剤の溶液の粘度が数時間で増加してしまうことが無く、かつ、沸点が水より低い溶媒であれば本発明の結着剤として用いることが可能で、アセトン等のケトン類などの水溶性溶媒であれば適用できる。
次に永久磁石254,256の他の製造方法を説明する。本発明に係る磁石製造プロセスの他の実施形態を図8および図9に示す。図8の実施形態では、粉体状の磁石材料を生成後で圧縮成形前に絶縁皮膜を作る処理を施す工程が加わる点が、上記で説明した図7のプロセスと異なる。また図9では、圧縮成形した磁石を回転子に装着し、その後に結着剤を含浸する処理を行っている点がことなる。
図8で図7と同じ工程の番号はほぼ同様の処理内容であることを示す。工程10で粉体状の磁石材料を生成し、工程12で生成された磁石材料の各粉体の表面に電気的な絶縁膜を作る処理を行う。磁粉表面のできるだけ全面にさらにできるだけ均一に電気的な絶縁層を作ることが望ましく、具体的な処理方法は後述する。製造された磁石が回転電機に使用される場合、上述の通り交流磁場で使用される。磁石を通る磁束が周期的に変化し、磁束の変化により、磁石内に渦電流が発生する。この渦電流は回転電機の効率を低下させる問題があり、また渦電流により磁石内の発熱を増大する恐れがある。磁石材料におけるそれぞれの粉体の表面を絶縁層で被うことによりこの渦電流を抑え、回転電機の効率低下を抑えることができ、また磁石の発熱しいては回転電機の発熱を抑制できる。特に回転子に内蔵される磁石では回転子は回転電機のハウジングと軸受を介して機械的につながっており、熱伝導性が良くない。このため磁石の発熱を抑えることは重要なことである。
高調波を含む交流磁束が磁石に印加される条件下で磁石が使用される場合は、希土類の磁石材料は電気抵抗が低く、渦電流を抑えて発熱を抑える観点から希土類の磁石粉体の表面に無機絶縁膜を形成されていることが好ましい。希土類の磁石粉体の表面に無機絶縁膜を形成するには、無機絶縁膜としてリン酸塩化成処理膜を適用するのが良い。リン酸塩化成処理液にリン酸,マグネシウム,ほう酸を用いた場合、以下のような組成が良い。リン酸量は1〜163g/dm3が望ましく、163g/dm3より大きいと磁束密度の低下を招き、1g/dm3 より小さいと絶縁性が悪くなる。また、ほう酸量はリン酸1gに対して0.05〜0.4gが望ましくこの範囲を超えると絶縁層の安定性が悪くなる。磁粉表面の全面に絶縁層をできるだけ均一に形成するためには、絶縁層の形成処理液の磁粉に対する濡れ性を向上させることが有効である。これには界面活性剤の添加が望ましい。こうした界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキル系,アルキルベンゼンスルホン酸系,両性イオン系、またはポリエーテル系の界面活性剤が挙げられ、その添加量は、絶縁層形成処理液中に0.01〜1重量%含有させることが望ましく、0.01重量%未満では表面張力を下げて磁粉表面を濡れさせる効果が不十分であり、1重量%を超えてもそれ以上の効果は望めず不経済である。
さらに防錆剤を入れることが磁石の特性劣化を防止するなどの観点から望ましい。防錆剤の量は0.01〜0.5mol/dm3 が望ましく、0.01mol/dm3未満では磁粉表面の錆の抑制が難しく、0.5mol/dm3より多くしても以上の効果は望めず経済的でない。
リン酸塩化成処理液の添加量は、希土類磁石用磁粉の平均粒径に依存する。希土類磁石用磁粉の平均粒径が0.1 〜500μmの場合、希土類磁石用磁粉1kgに対して300〜25mlが望ましい。300mlより多いと磁粉表面の絶縁膜が厚くなりすぎ、また、錆が発生し易くなるために磁石作製時の磁束密度の低下を招き、25mlより少ないと絶縁性が悪く、処理液の濡れない部分で錆の発生量が多くなり、磁石の特性劣化を引き起こす恐れがある。
コート膜形成処理液中の希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤させるのは、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物ゲルがゼラチン状の柔軟な構造を有することと、アルコールが希土類磁石用磁粉に対して優れた濡れ性を有するからである。また、ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の平均粒径が10μm以下のレベルまで粉砕する必要があるのは、希土類磁石用磁粉表面に形成されたコート膜が均一厚になり易いからである。更に、アルコールを主成分とした溶媒にすることにより、非常に酸化され易い希土類磁石用磁粉の酸化の抑制が可能となる。
更に、磁粉の絶縁性並びに磁気特性の向上を図ることを目的とした無機絶縁膜としてはフッ化物コート膜が望ましい。このような理由で希土類磁石粉体表面にフッ化物コート膜を形成する場合、フッ化物コート膜形成処理液中の希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の濃度に関しては希土類磁石用磁粉表面に形成する膜厚に依存するが、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の平均粒径が10μm以下のレベルまで粉砕され、かつアルコールを主成分とした溶媒に分散された状態を保つことが重要で、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の濃度として200g/dm3から1g/dm3となる。
希土類フッ化物コート膜形成処理液の添加量は、希土類磁石用磁粉の平均粒径に依存する。希土類磁石用磁粉の平均粒径が0.1 〜500μmの場合、希土類磁石用磁粉1kgに対して300〜10mlが望ましい。これは処理液量が多いと溶媒の除去に時間を要するだけでなく、希土類磁石用磁粉が腐食し易くなるためである。一方、処理液量が少ないと希土類磁石用磁粉表面に処理液の濡れない部分が生じるためである。以上の事項に関し、表1には希土類フッ化物,アルカリ土類金属フッ化物コート膜について、処理液として有効な濃度等を纏めている。
図8のプロセスでは工程12で希土類の磁石材料における各粉体の表面に絶縁膜を形成し、その後工程15で磁石材料を圧縮成形して多孔質の磁石を成形する。その後図7と同様工程20で結着剤の前駆体を含浸し、工程25で前駆体を硬化して磁石材料を結着剤で結着する。
以上、図7と図8を用いて本発明に係る磁石製造プロセスの例を述べた。図9は、回転子の外周表面側に永久磁石を挿入する磁石挿入孔を有する回転電機において、結着剤の含浸工程の前に圧縮成形された多孔質の磁石を回転子の磁石挿入孔に挿入し、その後結着剤の前駆体を磁石挿入孔に流し込み含浸する方法である。工程15までは既に説明したプロセスと同じである。工程17で回転子鉄心に設けられた磁石挿入孔に多孔質の圧縮磁石を挿入し、工程磁石22でSiO2 の前駆体の溶液を回転子の磁石挿入孔に流し込む。
次に工程27で回転子自身の温度を上げると前駆体が硬化し、圧縮成形された磁石の強度が強くなると共に磁石が前記回転子鉄心の磁石挿入孔に固定される。
以上、本発明に係る磁石製造プロセスの例を述べたが、具体的な永久磁石の実施例については以下に説明する。
[永久磁石の実施例1]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、組成を調整した母合金を急冷することにより作製したNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。NdFeB系母合金は鉄,
Fe−B合金(フェロボロン)にNdを混合して真空あるいは不活性ガス中または還元ガス雰囲気中で溶解し組成を均一化しされている。必要に応じて切断した母合金を単ロールや双ロール法などのロールを用いた手法で、回転するロールの表面に溶解させた母合金をアルゴンガスなどの不活性ガスあるいは還元ガス雰囲気で噴射急冷し薄帯とした後、不活性ガス中あるいは還元性ガス雰囲気中で熱処理する。熱処理温度は200℃以上700℃以下でありこの熱処理によりNd2Fe14B の微結晶が成長する。薄帯は10〜100
μmの厚さでありNd2Fe14Bの微結晶の大きさは10から100nmである。
Nd2Fe14Bの微結晶が平均30nmの大きさの場合、粒界層はNd70Fe30 に近い組成であり、単磁区臨界粒径よりも薄いためにNd2Fe14B の微結晶内に磁壁が形成されにくい。Nd2Fe14B 微結晶の磁化はそれぞれの微結晶で磁気的に結合しており磁化の反転は磁壁の伝搬によって起こっていると推定されている。磁化反転を抑制するためのひとつの手法として薄帯を粉砕した磁粉同士の磁気的結合をしやすくすることが挙げられる。そのために、磁粉間の非磁性部をできるだけ薄くすることが有効となり、粉砕粉は
Coを添加したWC製超硬金型内に挿入後上下パンチでプレス圧力5t−20t/cm2 で圧縮成形しプレス方向に垂直な方向で磁粉間の非磁性部が少ない。これは磁粉が薄帯を粉砕した扁平粉であるために、圧縮成形した成形体で扁平粉の配列に異方性が生じ、プレス方向に垂直方向に扁平粉の長軸(薄帯の厚さ方向と垂直な方向に平行)方向がそろうことによる。扁平粉の長軸方向がプレス方向の垂直方向に向きやすくなる結果、成形体においてプレス方向の垂直方向は、プレス方向よりも磁化が連続しておりそれぞれの粉においてパーミアンスが大きくなるため、磁化反転し難くなる。このため成形体のプレス方向とプレス方向に垂直な方向では減磁曲線に差が生じてくる。10×10×10mmの成形体において、プレス方向と垂直方向に20kOeで着磁し減磁曲線を測定すると残留磁束密度
(Br)は0.64T、保磁力(iHc)は12.1kOeであるのに対し、プレス方向に平行方向で20kOe の磁界で着磁後、着磁方向で減磁曲線を測定するとBr0.60T,iHc11.8kOe であった。このような減磁曲線の差は成形体に使用している磁粉に扁平粉を用いており、その扁平粉の向きが成形体内で異方性を有しているために生じているものと考えられる。
このような減磁曲線の差は成形体に使用している磁粉に扁平粉を用いており、その扁平粉の向きが成形体内で異方性を有しているために生じているものと考えられる。個々の扁平粉の結晶粒は10−100nmと小さく、その結晶方位の異方性は少ないが、扁平粉の形状が異方性をもつため、扁平粉の配列方向に異方性がある場合には磁気的にも異方性が生じることになる。このような成形体の試験片に下記1)〜3)のSiO2 前駆体溶液を含浸し熱処理した。実施した工程を以下に説明する。
結着剤であるSiO2前駆体には以下の3つの溶液を用いた。
1)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を5ml,水0.96ml,脱水メチルアルコール95ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
2)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
3)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を100ml,水3.84ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、4時間25℃の温度で放置した。
1)〜3)のSiO2 前駆体溶液の粘度はオストワルドの粘度計を用いて30℃の温度で測定した。
(1)上記Nd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、結着剤である1)〜3)のSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
図10に前記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片の断面部のSEM観察結果の一例を示す。図10(a)が二次電子像、(b)が酸素面分析像、(c)は珪素面分析像である。(a)に示すように扁平粉が異方性をもって堆積しており部分的にクラックが発生している。また、扁平粉の表面及び扁平粉内部のクラックに沿って酸素及び珪素が検出されている。このクラックは圧縮成形時に発生したものであり、含浸処理前は空洞になっている。このことから、SiO2 前駆体溶液は磁粉中のクラック内部まで含浸されていることが分かった。
(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃(発明者に確認要)で測定した減磁曲線は、SiO2含浸前とSiO2含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃(発明者に確認要)大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2含浸ボンド磁石で3.0%でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に200℃(発明者に確認要)1時間後に室温に戻して再着磁した後の不可逆熱減磁率は含浸処理を施した場合1%未満であるのに対し、エポキシ系ボンド磁石(比較例1)場合3%近い値であった。これは含浸処理によりクラックを含む粉末表面がSiO2 により保護されるため酸化等の腐食が抑制され、不可逆熱減磁率が低減されたからである。即ち、SiO2 前駆体による含浸処理によりクラックを含む粉末表面が保護されるため酸化等の腐食が抑制され、不可逆熱減磁率が低減される。不可逆熱減磁の抑制だけでなく、PCT試験や塩水噴霧試験でも含浸処理磁石の方が減磁の少ない結果が得られている。
更に(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片について大気中で225℃に1時間保持し冷却後20℃で減磁曲線を測定した。磁界印加方向は10mm方向であり、最初に+20kOeの磁界で着磁後±1kOeから±10kOeの磁界でプラスマイナス交互に磁界を印加して減磁曲線を測定した。
その結果を図11に示す。ここでは、上記2)の条件で含浸処理した磁石と、後述する、エポキシ樹脂をバインダーとして15vol% 含有した圧縮成形ボンド磁石と、の減磁曲線を比較している。図11の横軸は印加した磁界、縦軸は残留磁束密度を示す。含浸処理した磁石は磁界が−8kOeよりも負側に大きな磁界が印加されると磁束が急激に低下する。圧縮成形ボンド磁石は含浸処理した磁石よりもさらに磁界の絶対値が小さい値で磁束が急激に低下し、−5kOeよりも負側の磁界で磁束の低下が著しい。−10kOeの磁界印加後の残留磁束密度は、含浸処理磁石の場合0.44、圧縮成形ボンド磁石では0.11Tであり含浸処理磁石の残留磁束密度は圧縮成形ボンド磁石の値の4倍となっている。これは圧縮成形ボンド磁石が225℃で加熱中に各NdFeB粉の表面やNdFeB粉のクラック表面が酸化することで各NdFeB粉を構成しているNdFeB結晶の磁気異方性が低下し、その結果保磁力が減少し負の磁界印加により磁化が反転し易くなったためと考えられる。これに対し、含浸処理磁石ではNdFeB粉及びクラック表面がSiO2 膜で被覆されているため大気中加熱時の酸化が防止された結果、保磁力の減少が少ないものと考えられる。
(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度はSiO2含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は30MPa以上、本実施例中の2),3)のSiO2 前駆体溶液を用いたときは100MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
尚、磁石の比抵抗については焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約10倍の値を有したが、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較して約1/10の値となった。しかし、回転電機として使用する場合、渦電流損の発生は小さく、問題ない。特に磁石内蔵型の回転電機においては、高調波の磁束は回転子の磁極片280から内部に深く入り込まないので、磁石内の渦電流は少なく、それほど大きな問題では無い。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は20〜30%向上し、曲げ強度は同等〜3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能であることが分かった。
尚、本実施例と後述の[永久磁石の実施例2]〜[永久磁石の実施例5]について、結着剤1)〜3)を用いた場合の磁石特性を、表2にまとめている。
[永久磁石の実施例2]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。また、結着剤であるSiO2 の前駆体として以下の3つの溶液を用いた。
1)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水0.96ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
2)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
3)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を100ml,水9.6ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
1)〜3)のSiO2 前駆体溶液の粘度はオストワルドの粘度計を用いて30℃の温度で測定した。
(1)上記Nd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、結着剤である1)〜3)のSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、
SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度はSiO2含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は70MPa以上、本実施例中の2),3)のSiO2 前駆体溶液を用いたときは100MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
尚、磁石の比抵抗については焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約10倍の値を有したが、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較して約1/10の値となった。渦電流損がやや増加する恐れがあるが、使用を妨げるほどの障害とはならない。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は20〜30%、曲げ強度は2〜3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能であることが分かった。
[永久磁石の実施例3]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。結着剤であるSiO2 前駆体には以下の3つの溶液を用いた。
1)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 を25ml,水5.9ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05ml を混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
2)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
3)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは6〜8、平均は7)を25ml,水4.6ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
1)〜3)のSiO2 前駆体溶液の粘度はオストワルドの粘度計を用いて30℃の温度で測定した。
(1)上記Nd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、結着剤である1)〜3)のSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1
mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃(発明者に確認要)で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前と
SiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃(発明者に確認要)大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0%でありSiO2含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、SiO2含浸熱処理後で1%以下でありSiO2含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度はSiO2含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は100MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
尚、磁石の比抵抗については焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約10倍の値を有したが、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較して約1/10の値となった。しかし、この抵抗値の減少はそれほど大きな問題ではない。例えば回転電機として使用する場合、渦電流損はやや増加するが使用を妨げるほどの問題とはならない。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は20〜30%、曲げ強度は2〜3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能であることが分かった。
[永久磁石の実施例4]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。結着剤であるSiO2 前駆体には以下の3つの溶液を用いた。
1)CH3O−(Si(CH3O)2−O)−CH3 を25ml,水5.9ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05ml を混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
2)C2H5O−(Si(C2H5O)2−O)−CH3 を25ml,水4.3ml,脱水エチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05ml を混合し、3昼夜25℃の温度で放置した。
3)n−C3H7O−(Si(C2H5O)2−O)−n−C3H7 を25ml,水3.4ml,脱水iso−プロピルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05ml を混合し、6昼夜25℃の温度で放置した。
1)〜3)のSiO2 前駆体溶液の粘度はオストワルドの粘度計を用いて30℃の温度で測定した。
(1)上記Nd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、結着剤である1)〜3)のSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1
mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2含浸前とSiO2含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0%でありSiO2含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度はSiO2含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は80MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
尚、磁石の比抵抗については焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約10倍の値を有したが、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較して約1/10の値となった。渦電流損の発生がやや増加するが、この程度の抵抗値の減少は問題ではない。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は20〜30%、曲げ強度は約2倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能であることが分かった。
[永久磁石の実施例5]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。結着剤であるSiO2 前駆体には以下の3つの溶液を用いた。
1)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水9.6ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、1昼夜25℃の温度で放置した。
2)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水9.6ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
3)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を100ml,水9.6ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、4昼夜25℃の温度で放置した。
1)〜3)のSiO2 前駆体溶液の粘度はオストワルドの粘度計を用いて30℃の温度で測定した。
(1)上記Nd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、結着剤である1)〜3)のSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は
SiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は130MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
尚、磁石の比抵抗については焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約10倍の値を有したが、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較して約1/10の値となった。渦電流損の発生がやや増加するが、この程度の抵抗値の減少は問題ではない。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は20〜30%、曲げ強度は3〜4倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能であることが分かった。
[永久磁石の実施例6]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成する処理液は以下のようにして作製した。
(1)水に溶解度の高い塩、例えばLaの場合は酢酸La、または硝酸La4gを100mlの水に導入し、振とう器または超音波攪拌器を用いて完全に溶解した。
(2)10%に希釈したフッ化水素酸をLaF3 が生成する化学反応の当量分を徐々に加えた。
(3)ゲル状沈殿のLaF3 が生成した溶液に対して超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
(4)4000〜6000r.p.m の回転数で遠心分離した後、上澄み液を取り除きほぼ同量のメタノールを加えた。
(5)ゲル状のLaF3 を含むメタノール溶液を攪拌して完全に懸濁液にした後、超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
(6)(4)と(5)の操作を酢酸イオン、又は硝酸イオン等の陰イオンが検出されなくなるまで、3〜10回繰り返した。
(7)最終的にLaF3 の場合、ほぼ透明なゾル状のLaF3 となった。処理液としてはLaF3が1g/5mlのメタノール溶液を用いた。
その他の使用した希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成処理液について、表3に纏めた。
希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を上記Nd2Fe14B の磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
NdF3コート膜形成プロセスの場合:NdF3濃度1g/10ml半透明ゾル状溶液
(1)NdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉100gに対して15mlのNdF3 コート膜形成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)(1)のNdF3 コート膜形成処理を施した希土類磁石用磁粉を2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノール除去を行った。
(3)(2)の溶媒の除去を行った希土類磁石用磁粉を石英製ボートに移し、1×10-5torrの減圧下で200℃,30分と400℃,30分の熱処理を行った。
(4)(3)で熱処理した磁粉に対して、蓋付きマコール製(理研電子社製)容器に移したのち、1×10-5torrの減圧下で、700℃,30分の熱処理を行った。
結着剤であるSiO2前駆体にはCH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3(mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml ,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した溶液を用いた。
(1)上記希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を施したNd2Fe14B の磁粉を成形型に充填し、16t/cm2 の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横
10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、2昼夜25℃の温度で放置した結着剤であるSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
本実施例の希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成した希土類磁粉を用いた磁石は後述する絶縁膜として機能するだけでなく、TbF3とDyF3を、又効果は小さいがPrF3 をコート膜形成に用いた場合、磁石の保磁力向上に寄与可能であることが分かった。
上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は
SiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は50MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
更に、磁石の比抵抗についても焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約100倍以上の値を有し、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較しても同等の値となった。従って渦電流損が小さく、良好な特性を有する。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は約20%、曲げ強度は同等〜3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能、その上TbF3とDyF3とをコート膜形成に用いた時は磁気特性大幅向上が可能であることが分った。
[永久磁石の実施例7]
本実施例において、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を上記Nd2Fe14B の磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
PrF3コート膜形成プロセスの場合:PrF3濃度0.1g/10ml 半透明ゾル状溶液を用いた。
(1)NdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉100gに対して1〜30mlのPrF3コート膜形成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)上記(1)のPrF3 コート膜形成処理を施した希土類磁石用磁粉を2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノール除去を行った。
(3)上記(2)の溶媒の除去を行った希土類磁石用磁粉を石英製ボートに移し、1×10-5torrの減圧下で200℃,30分と400℃,30分の熱処理を行った。
(4)上記(3)で熱処理した磁粉に対して、蓋付きマコール製(理研電子社製)容器に移したのち、1×10-5torrの減圧下で、700℃,30分の熱処理を行った。
結着剤であるSiO2 前駆体にはCH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3(mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml ,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した溶液を用いた。
(1)上記PrF3コート膜を施したNd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2 の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、2昼夜25℃の温度で放置した結着剤であるSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
本実施例のPrF3 コート膜を形成した希土類磁粉を用いた磁石は後述する絶縁膜として機能するだけでなく、効果は小さいが磁石の保磁力向上に寄与可能であることが分かった。
上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は
SiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は100MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
更に、磁石の比抵抗についても焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約100倍以上の値を有し、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較しても同等の値となった。従って渦電流損の発生は小さく、良好な特性を有する。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は約20%、曲げ強度は2〜3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能、その上PrF3 をコート膜形成に用いた時は磁気特性向上が可能であることが分かった。PrF3 をコート膜形成した希土類磁粉を用いた磁石は磁気特性,曲げ強度,信頼性が全体的に向上しておりバランスの取れた磁石であることが分かった。
[永久磁石の実施例8]
本実施例において、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を上記Nd2Fe14B の磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
DyF3コート膜形成プロセスの場合:DyF3濃度2〜0.01g/10ml 半透明ゾル状溶液を用いた。
(1)NdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉100gに対して10mlのDyF3 コート膜形成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)上記(1)のDyF3コート膜形成処理を施した希土類磁石用磁粉を2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノール除去を行った。
(3)上記(2)の溶媒の除去を行った希土類磁石用磁粉を石英製ボートに移し、1×10-5torrの減圧下で200℃,30分と400℃,30分の熱処理を行った。
(4)上記(3)で熱処理した磁粉に対して、蓋付きマコール製(理研電子社製)容器に移したのち、1×10-5torrの減圧下で、700℃,30分の熱処理を行った。
結着剤であるSiO2前駆体にはCH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3(mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml ,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した溶液を用いた。
(1)上記DyF3コート膜を施したNd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2 の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、2昼夜25℃の温度で放置した結着剤であるSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO 2前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
本実施例のDyF3コート膜を形成した希土類磁粉を用いた磁石は後述する絶縁膜として機能するだけでなく、磁石の保磁力向上に寄与可能であることが分かった。
上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は
SiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は40MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
更に、磁石の比抵抗についても焼結型の希土類磁石に比べて、本磁石は約100倍以上の値を有し、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較しても同等の値となった。従って、渦電流損が小さく、良好な特性を有する。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は約20%、曲げ強度は同等〜3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能、その上TbF3とDyF3とをコート膜形成に用いた時は磁気特性大幅向上が可能であることが分かった。
[永久磁石の実施例9]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。リン酸塩化成処理膜を形成する処理液は以下のようにして作製した。
水1lにリン酸20g,ほう酸4g,金属酸化物としてMgO,ZnO,CdO,CaOまたはBaOの4gを溶解し、界面活性剤としてEF−104(トーケムプロダクツ製),EF−122(トーケムプロダクツ製),EF−132(トーケムプロダクツ製)を
0.1wt% になるように加えた。防錆剤としてはベンゾトリアゾール(BT),イミダゾール(IZ),ベンゾイミダゾール(BI),チオ尿素(TU),2−メルカプトベンゾイミダゾール(MI),オクチルアミン(OA),トリエタノールアミン(TA),o−トルイジン(TL),インドール(ID),2−メチルピロール(MP)を0.04mol/lになるように加えた。
リン酸塩化成処理膜を上記Nd2Fe14B の磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。使用したリン酸塩化成処理液の組成を表4に示す。
(1)NdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉100gに対して5mlのリン酸塩化成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)(1)のリン酸塩化成膜形成処理を施した希土類磁石用磁粉を180℃,30分、2〜5torrの減圧下で熱処理を行った。
結着剤であるSiO2前駆体にはCH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3(mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml ,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した溶液を用いた。
(1)上記リン酸塩化成膜形成処理を施したNd2Fe14B の磁粉を成形型に充填し、16t/cm2 の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、2昼夜25℃の温度で放置した結着剤であるSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、
SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は
SiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は100MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
更に、磁石の比抵抗についても焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約100倍以上の値を有し、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較しても同等の値となった。従って、渦電流損が小さく、良好な特性を有する。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は20〜30%、曲げ強度は約3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能であることが分かった。
[永久磁石の実施例10]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。リン酸塩化成処理膜を形成する処理液は以下のようにして作製した。水1lにリン酸20g,ほう酸4g,金属酸化物としてMgO4gを溶解し、界面活性剤としてEF−104(トーケムプロダクツ製)を0.1wt% になるように加えた。防錆剤としてはベンゾトリアゾール(BT)を用い、その濃度として0.01〜0.5mol/lになるように加えた。リン酸塩化成処理膜を上記Nd2Fe14B の磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
(1)NdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉100gに対して5mlのリン酸塩化成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)上記(1)のリン酸塩化成膜形成処理を施した希土類磁石用磁粉を180℃,
30分,2〜5torrの減圧下で熱処理を行った。
結着剤であるSiO2前駆体にはCH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3(mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml ,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した溶液を用いた。
(1)上記リン酸塩化成膜形成処理を施したNd2Fe14B の磁粉を成形型に充填し、16t/cm2 の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、2昼夜25℃の温度で放置した結着剤であるSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度はSiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は100MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。更に、磁石の比抵抗についても焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約100倍以上の値を有し、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較しても同等の値となった。従って、渦電流損が小さく、良好な特性を有する。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は20〜30%、曲げ強度は約3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能であることが分かった。
[永久磁石の実施例11]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。リン酸塩化成処理膜を形成する処理液は以下のようにして作製した。水1lにリン酸20g,ほう酸4g,金属酸化物としてMgO4gを溶解し、防錆剤としてベンゾトリアゾール(BT)を0.04mol/lになるように加えた。界面活性剤としてEF−104(トーケムプロダクツ製)を用い、その濃度として0.01 〜1
wt%になるように加えた。リン酸塩化成処理膜を上記Nd2Fe14B の磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
(1)NdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉100gに対してのリン酸塩化成処理液5mlを添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)(1)のリン酸塩化成膜形成処理を施した希土類磁石用磁粉を180℃,30分,2〜5torrの減圧下で熱処理を行った。
結着剤であるSiO2前駆体にはCH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml ,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した溶液を用いた。
(1)上記リン酸塩化成膜形成処理を施したNd2Fe14B の磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、2昼夜25℃の温度で放置した結着剤であるSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)上記圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、
SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は
SiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は90MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
更に、磁石の比抵抗についても焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約100倍以上の値を有し、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較しても同等の値となった。従って、渦電流損が小さく、良好な特性を有する。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は20〜30%、曲げ強度は約3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能であることが分かった。
[永久磁石の実施例12]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。
リン酸塩化成処理膜を形成する処理液は以下のようにして作製した。水1lにリン酸
20g,ほう酸4g、金属酸化物としてMgO4gを溶解し、界面活性剤としてEF−
104(トーケムプロダクツ製)を0.1wt%、防錆剤としてベンゾトリアゾール(BT)を0.04mol/lになるように加えた。リン酸塩化成処理膜を上記Nd2Fe14B の磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
(1)NdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉100gに対して2.5〜30ml のリン酸塩化成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)(1)のリン酸塩化成膜形成処理を施した希土類磁石用磁粉を180℃,30分,2〜5torrの減圧下で熱処理を行った。
結着剤であるSiO2 前駆体にはCH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水4.8ml ,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した溶液を用いた。
(1)上記リン酸塩化成膜形成処理を施したNd2Fe14B の磁粉を成形型に充填し、16t/cm2 の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、2昼夜25℃の温度で放置した結着剤であるSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に、不可逆熱減磁率も200℃大気中1時間保持後、SiO2 含浸熱処理後で1%以下でありSiO2 含浸無しの場合の3%近い値よりも小さい。これはSiO2 が磁粉の酸化による劣化を抑制しているためである。
上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は
SiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は100MPa以上の曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
更に、磁石の比抵抗についても焼結型の希土類磁石に比べて、本発明の磁石は約100倍以上の値を有し、圧縮型の希土類ボンド磁石と比較しても同等の値となった。従って、渦電流損が小さく、良好な特性を有する。
本実施例の結果から、本発明の低粘度のSiO2 前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石は通常の樹脂含有希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は20〜30%、曲げ強度は約3倍、更に不可逆熱減磁率は半分以下に減少させること及び磁石の高信頼化が可能であることが分かった。
[永久磁石の比較例1]
本比較例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。
(1)上記希土類磁石用磁粉と100μm以下のサイズの固形エポキシ樹脂(ソマール社製EPX6136)を体積で0から20%になるようにVミキサーを用いて混合した。
(2)前記(1)で作製した希土類磁石用磁粉と樹脂とのコンパウンドを金型中に装填し、不活性ガス雰囲気中で、成形圧16t/cm2 の条件で80℃の加熱圧縮成形した。作製した磁石は磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmのサイズを、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmのサイズである。
(3)前記(2)で作製したボンド磁石の樹脂硬化を窒素ガス中で170℃,1時間の条件で行った。
(4)前記(3)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(5)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(6)前記(3)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
前記(4)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性を調べた。その結果、磁石中のエポキシ樹脂含有率が高くなるに従い、磁石の残留磁束密度は減少していった。SiO2結着剤を含浸して作製したボンド磁石(実施例1〜5)と比較して、磁石の曲げ強度が50MPa以上の磁石で比較すると、エポキシ樹脂含有ボンド磁石は磁束密度が20〜30%低下していた。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はエポキシ樹脂含有ボンド磁石が5%とSiO2 含浸ボンド磁石の3.0% と比較して大きい。更に200℃1時間後に室温に戻して再着磁した後の不可逆熱減磁率は含浸処理を施した場合1%未満であるのに対し[永久磁石の実施例1〜5]、エポキシ樹脂含有ボンド磁石[永久磁石の比較例1]場合3%近い値と大きかった。不可逆熱減磁の抑制だけでなく、PCT試験や塩水噴霧試験でもエポキシ樹脂含有ボンド磁石はSiO2 含浸ボンド磁石と比較して低いレベルであった。
更に前記(4)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片について大気中で225℃に1時間保持し冷却後20℃で減磁曲線を測定した。磁界印加方向は10mm方向であり、最初に+20kOeの磁界で着磁後±1kOeから±10kOeの磁界でプラスマイナス交互に磁界を印加して減磁曲線を測定した。その結果を図4に示す。図4では、[永久磁石の実施例1]の2)の条件でSiO2 の含浸処理した磁石と、本比較例に示すようにエポキシ樹脂をバインダーとして15vol% 含有した圧縮成形ボンド磁石との、減磁曲線を比較している。図4の横軸は印加した磁界、縦軸は磁束密度を示す。
SiO2 結着剤を含浸処理した磁石は磁界が−8kOeよりも負側に大きな磁界が印加されると磁束が急激に低下する。圧縮成形ボンド磁石は含浸処理した磁石よりもさらに磁界の絶対値が小さい値で磁束が急激に低下し、−5kOeよりも負側の磁界で磁束の低下が著しい。−10kOeの磁界印加後の残留磁束密度は、含浸処理磁石の場合0.44 、圧縮成形ボンド磁石では0.11T であり含浸処理磁石の残留磁束密度は圧縮成形ボンド磁石の値の4倍となっている。これは圧縮成形ボンド磁石が225℃で加熱中に各NdFeB粉の表面やNdFeB粉のクラック表面が酸化することで各NdFeB粉を構成しているNdFeB結晶の磁気異方性が低下し、その結果保磁力が減少し負の磁界印加により磁化が反転し易くなったためと考えられる。これに対し、含浸処理磁石ではNdFeB粉及びクラック表面がSiO2 膜で被覆されているため大気中加熱時の酸化が防止された結果、保磁力の減少が少ないものと考えられる。
前記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は結着剤のエポキシ樹脂含有率を増加させると、曲げ強度は増加し、体積含有率として20
vol% で磁石の曲げ強度は48MPaとなり、ボンド磁石として必要な曲げ強度を有する。エポキシ樹脂含有ボンド磁石はSiO2 含浸ボンド磁石と比較して、比抵抗は同等のレベルであった。
本比較例の結果から、エポキシ樹脂含有希土類ボンド磁石は本発明の低粘度のSiO2前駆体を樹脂なしで冷間成形法で作製した希土類磁石成形体中へ含浸させた希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性において20〜30%低く、不可逆熱減磁率並びに磁石の信頼性が低いことが判明した。
尚、本比較例において、樹脂の体積分率(樹脂と希土類磁石用磁粉における樹脂の体積分率を示す。)を変化させたエポキシ樹脂含有ボンド磁石の評価結果を表5に纏める。
[永久磁石の比較例2]
本比較例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。
結着剤であるSiO2前駆体には、CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3(mは3〜5、平均は4)を1ml,水0.19ml ,脱水メチルアルコール99ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した溶液を用いた。
上記SiO2 前駆体溶液の粘度はオストワルドの粘度計を用いて30℃の温度で測定した。
(1)上記Nd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、結着剤である上記SiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまで
SiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に200℃1時間後に室温に戻して再着磁した後の不可逆熱減磁率は含浸処理を施した場合1%未満であるのに対し、エポキシ系ボンド磁石の場合3%近い値であった[永久磁石の比較例1]。
しかしながら、上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は低いレベルの値となり、本比較例のSiO2 含浸ボンド磁石はエポキシ樹脂含有ボンド磁石と比較して、1/10程度の値しかえられなかった。これは本比較例における結着剤中のSiO2 前駆体の含有量が1vol% と実施例おける結着剤中のSiO2 前駆体の含有量と比べて、1〜2桁少ないため、硬化後のSiO2 単体の曲げ強度が大きくても、磁石中の含有量が少なすぎることが影響している。
結論として、本比較例の磁石は磁石強度が低い短所があり、使用対象によっては上記曲げ強度を考慮することが必要である。
尚、本比較例、及び後述する[永久磁石の比較例3]の1),2),[永久磁石の比較例4]の各種特性については、表6に纏めている。
[永久磁石の比較例3]
本比較例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。
結着剤であるSiO2前駆体には以下の2つの溶液を用いた。
1)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水0.19ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05mlを混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
2)CH3O−(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水24ml,脱水エチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05ml を混合し、2昼夜25℃の温度で放置した。
1),2)のSiO2 前駆体溶液の粘度はオストワルドの粘度計を用いて30℃の温度で測定した。
(1)上記Nd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、結着剤である1),2)のSiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまでSiO2 前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
[永久磁石の比較例3]の1)について、上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石[永久磁石の比較例1]と比較して、20〜30%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率はSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% でありSiO2 含浸無しの場合の熱減磁率(5%)よりも小さい。更に200℃1時間後に室温に戻して再着磁した後の不可逆熱減磁率は含浸処理を施した場合1%未満であるのに対し、エポキシ系ボンド磁石[永久磁石の比較例1]場合3%近い値であった。
しかしながら、上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は低いレベルの値となり、本比較例のSiO2 含浸ボンド磁石はエポキシ樹脂含有ボンド磁石と比較して、1/6程度の値しかえられなかった。これは本比較例における結着剤中の水の添加量が少ないため、化学反応式1に示したSiO2 前駆体材料中のメトキシ基の加水分解が進行しないためシラノール基が生成せず、SiO2 前駆体の熱硬化反応におけるシラノール基間の脱水縮合反応が生じないため、熱硬化後のSiO2 の生成量が少なくSiO2 含浸ボンド磁石の曲げ強度が低かったのが原因である。
結論として、[永久磁石の比較例3]の1)の磁石は磁石強度が低いため、使用対象における磁石強度の関係を十分に考慮して使用することが望ましい。
[永久磁石の比較例3]の2)について、(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度はSiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は170MPaの曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石[永久磁石の比較例1]と比較して、20%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。しかしながら、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率は本比較例では4.0% と実施例でのSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% と比較して大きい値となった。更に200℃1時間後に室温に戻して再着磁した後の不可逆熱減磁率は実施例でのSiO2 含浸処理を施した場合1%未満であるのに対し、本比較例では2%近い値であった。これはSiO2 前駆体溶液が磁石表面から1mm強程度までしか磁石中に浸透しなかったことが影響していることが分かった。そのため、磁石における中央の部分の磁粉が大気中加熱時の酸化劣化を引き起こし、本比較例の磁石が実施例の磁石より不可逆熱減磁率が大きくなった原因である。
この結果から、本比較例のボンド磁石は従来のエポキシ系ボンド磁石に対して、遜色はないものの、長期信頼性に関しては従来のエポキシ系ボンド磁石より低くなる可能性がある。使用対象における酸化劣化を十分に考慮して使用することが望ましい。
[永久磁石の比較例4]
本比較例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。結着剤であるSiO2前駆体にはCH3O−
(Si(CH3O)2−O)m−CH3 (mは3〜5、平均は4)を25ml,水9.6ml,脱水メチルアルコール75ml,ジラウリン酸ジブチル錫0.05ml を混合し、6昼夜
25℃の温度で放置した溶液を用いた。上記SiO2 前駆体溶液の粘度はオストワルドの粘度計を用いて30℃の温度で測定した。
(1)上記Nd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(2)上記(1)で作製した圧縮成形試験片を加圧方向が水平方向になるようにバット内に配置し、結着剤である上記SiO2 前駆体溶液をバット中に液面が垂直方向に1mm/min になるように注入した。最終的に圧縮成形試験片の上面から5mm上方になるまで
SiO2前駆体溶液をバット中に注入した。
(3)上記(2)で使用した圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットを真空容器内にセットし、80Pa程度まで徐々に排気した。圧縮成形試験片表面からの気泡発生が少なくなるまで放置した。
(4)圧縮成形試験片は配置され、SiO2 前駆体溶液が満たされたバットをセットした真空容器の内圧を徐々に大気圧に戻し、圧縮成形試験片をSiO2 前駆体溶液内から取り出した。
(5)上記(4)で作製したSiO2 前駆体溶液で含浸された圧縮成形試験片を真空乾燥炉内にセットし、1〜3Paの圧力,150℃の条件で圧縮成形試験片に対して真空熱処理を施した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
上記(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度は
SiO2 含浸前で2MPa以下であるが、SiO2 含浸熱処理後は190MPaの曲げ強度を有する磁石成形体を作製することが可能であった。
上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、20%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。しかしながら、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率は本比較例では3.6% と実施例でのSiO2 含浸ボンド磁石で
3.0% と比較して大きい値となった。更に200℃1時間後に室温に戻して再着磁した後の不可逆熱減磁率は実施例でのSiO2 含浸処理を施した場合1%未満であるのに対し、本比較例では1.6% の値となった。これはSiO2 前駆体溶液が磁石表面から2mm弱程度までしか磁石中に浸透しなかったことが影響していることが分かった。そのため、磁石における中央の部分の磁粉が大気中加熱時の酸化劣化を引き起こし、本比較例の磁石が実施例の磁石より不可逆熱減磁率が大きくなった原因である。
この結果から、本比較例のボンド磁石は従来のエポキシ系ボンド磁石に対して、遜色はないものの、長期信頼性に関しては従来のエポキシ系ボンド磁石より低くなる可能性がある。この点を十分考慮して使用することが望ましい。
[永久磁石の比較例5]
本比較例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。また希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成する処理液は以下のようにして作製した。
(1)水に溶解度の高い塩、例えばNdの場合は酢酸Nd、または硝酸Nd4gを100mlの水に導入し、振とう器または超音波攪拌器を用いて完全に溶解した。
(2)10%に希釈したフッ化水素酸をNdF3 が生成する化学反応の当量分を徐々に加えた。
(3)ゲル状沈殿のNdF3 が生成した溶液に対して超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
(4)4000〜6000r.p.m の回転数で遠心分離した後、上澄み液を取り除きほぼ同量のメタノールを加えた。
(5)ゲル状のNdF3 を含むメタノール溶液を攪拌して完全に懸濁液にした後、超音波攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
(6)上記(4)と(5)の操作を酢酸イオン、又は硝酸イオン等の陰イオンが検出されなくなるまで、3〜10回繰り返した。
(7)最終的にNdF3の場合、ほぼ透明なゾル状のNdF3となった。処理液としてはNdF3 が1g/5mlのメタノール溶液を用いた。
希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を上記Nd2Fe14B の磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
NdF3コート膜形成プロセスの場合:NdF3 濃度1g/10ml半透明ゾル状溶液
(1)NdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉100gに対して15mlのNdF3 コート膜形成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)上記(1)のNdF3コート膜形成処理を施した希土類磁石用磁粉を2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノール除去を行った。
(3)上記(2)の溶媒の除去を行った希土類磁石用磁粉を石英製ボートに移し、1×10-5torrの減圧下で200℃,30分と400℃,30分の熱処理を行った。
(4)上記(3)で熱処理した磁粉に対して、蓋付きマコール製(理研電子社製)容器に移したのち、1×10-5torrの減圧下で、700℃,30分の熱処理を行った。
(5)上記希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を施したNd2Fe14Bの磁粉を成形型に充填し、16t/cm2の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10
mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(6)上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(7)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(8)上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
上記(5)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石(比較例1)と比較して、約20%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率は本比較例では3.0%と実施例でのSiO2 含浸ボンド磁石で3.0%と同等の値となった。更に200℃1時間後に室温に戻して再着磁した後の不可逆熱減磁率は実施例でのSiO2 含浸処理を施した場合1%未満であるのに対し、本比較例では1%未満の値となった。この結果を表7に示す。
しかしながら、(7)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度に関しては本比較例ではSiO2 含浸を実施していないため、2.9MPa という値となり、エポキシ系ボンド磁石と比較して1/15程度の値となった。
この結果から、本比較例のボンド磁石は従来のエポキシ系ボンド磁石に対して、機械的強度に乏しく、使用に当たってはこの点に注意が必要である。
[永久磁石の比較例6]
本実施例において、希土類磁石用磁粉には、〔永久磁石の実施例1〕と同様のNdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。またリン酸塩化成処理膜を形成する処理液は以下のようにして作製した。
水1lにリン酸20g,ほう酸4g、金属酸化物としてMgOの4gを溶解し、界面活性剤としてEF−104(トーケムプロダクツ製)を0.1wt%になるように加えた。防錆剤としてはベンゾトリアゾール(BT)を0.04mol/lになるように加えた。
リン酸塩化成処理膜を上記Nd2Fe14B の磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。使用したリン酸塩化成処理液の組成を表4に示す。
(1)NdFeB系の薄帯を粉砕した磁性粉100gに対して5mlのリン酸塩化成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)上記(1)のリン酸塩化成膜形成処理を施した希土類磁石用磁粉を180℃,
30分,2〜5torrの減圧下で熱処理を行った。
(3)上記リン酸塩化成膜形成処理を施したNd2Fe14B の磁粉を成形型に充填し、16t/cm2 の圧力で、磁気特性測定用として縦10mm,横10mm,厚さ5mmの試験片を、また、強度測定用として縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を作製した。
(4)上記(3)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対して、四探針法で比抵抗を測定した。
(5)更に上記比抵抗を調べた圧縮成形試験片に対して、30kOe以上のパルス磁界を印加した。その圧縮成形試験片について磁気特性を調べた。
(6)上記(3)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片を用いて、機械的曲げ試験を実施した。曲げ試験には試料形状15mm×10mm×2mmの圧縮成形体を用い、支点間距離12mmの3点曲げ試験により曲げ強度を評価した。
(3)で作製した縦10mm,横10mm,厚さ5mmの圧縮成形試験片に対する磁気特性については、残留磁束密度が樹脂含有ボンド磁石[永久磁石の比較例1]と比較して、約
25%向上可能であり、20℃で測定した減磁曲線は、SiO2 含浸前とSiO2 含浸熱処理後の成形体とで残留磁束密度及び保磁力の値がほぼ一致した。また、200℃大気中保持1時間後の熱減磁率は本比較例では3.1% と実施例でのSiO2 含浸ボンド磁石で3.0% とほぼ同等の値となった。更に200℃1時間後に室温に戻して再着磁した後の不可逆熱減磁率は実施例でのSiO2 含浸処理を施した場合1%未満であるのに対し、本比較例では1.2% の値となりやや増加したものの大きな差はなかった(表7)。しかしながら、上記(5)で作製した縦15mm,横10mm,厚さ2mmの圧縮成形試験片の曲げ強度に関しては本比較例ではSiO2 含浸を実施していないため、2.9MPa という値となり、エポキシ系ボンド磁石と比較して1/20程度の値となった。
この結果から、本比較例のボンド磁石は従来のエポキシ系ボンド磁石に対して、機械的強度に乏しく、使用に当たってはこの点を十分考慮して使用することが必要である。
上述の実施例により本発明を説明したが、本発明の磁石は次の効果を備えている。
1)磁石としての性能が従来の樹脂による磁石に比べ優れている。
2)さらに優れた特性に加え、磁石としての強度も強い。樹脂磁石では得られなかった特性に優れ、強度においても優れている磁石が得られる。
上述1)と2)の効果は、上述のとおり、例えば次のようにして達成される。
樹脂のない状態で磁粉を圧縮成形した際に生じる、1μm以下の磁粉と磁粉の隙間に結着剤溶液を浸透させる必要がある。そのためには結着剤溶液の粘度が100mPa・s以下であることと、磁粉と結着剤溶液の濡れ性が高いことが必要である。更には、硬化後の結着剤と磁粉との接着性が高く、結着剤の機械的強度が大きく、結着剤が連続的に形成されていることが重要である。
結着剤溶液の粘度に関しては磁石のサイズに依存するが圧縮成形体の厚さが5mm以下且つ磁粉と磁粉の隙間が1μm程度の場合は結着剤溶液の粘度が100mPa・s程度で磁粉と磁粉の隙間に結着剤溶液を圧縮成形体の中心部まで導入することが可能である。圧縮成形体の厚さが5mm以上且つ磁粉と磁粉の隙間が1μm程度になると、例えば30mm程度の厚さを有する圧縮成形体では、圧縮成形体の中心部まで結着剤溶液を導入するには、結着剤溶液の粘度が100mPa・s程度では高く、結着剤溶液の粘度が20mPa・s以下、望ましくは10mPa・s以下が必要となる。これは通常の樹脂と比較して1桁以上低い粘度である。そのためにはSiO2 の前駆体であるアルコキシシロキサンにおけるアルコキシ基の加水分解量の制御とアルコキシシロキサン分子量の抑制とが必要となる。即ち、アルコキシ基が加水分解するとシラノール基が生成されるが、そのシラノール基は脱水縮合反応を起こし易く、脱水縮合反応はアルコキシシロキサンの高分子量化を意味するからである。また、更にシラノール基同士は水素結合を生じるため、SiO2 の前駆体であるアルコキシシロキサン溶液の粘度は増大する。具体的にはアルコキシシロキサンの加水分解反応当量に対する水の添加量と加水分解反応条件を制御することである。結着剤溶液に用いる溶媒にはアルコキシシロキサン中のアルコキシ基は解離反応が速いことからアルコールを用いることが望ましい。溶媒のアルコールには沸点が水より低く粘度の低いメタノール,エタノール,n−プロパノール,iso −プロパノールが好ましいが、結着剤溶液の粘度が数時間で増加しなく、かつ、沸点が水より低い溶媒であれば本発明に係る磁石の製造に用いることができる。
硬化後の結着剤と磁粉との接着性に関しては、本発明に用いている結着剤であるSiO2前駆体は熱処理後の生成物がSiO2 であるため、磁粉表面が自然酸化膜で覆われていれば、磁粉表面とSiO2との接着性は大きく、SiO2を結着剤とした希土類磁石は磁石を破断した際の表面は磁粉またはSiO2 の凝集破壊面が殆どである。一方、結着剤に樹脂を用いた場合は樹脂と磁粉との接着性は磁粉表面とSiO2 と比較すると一般的に小さい。そのため、樹脂を用いたボンド磁石では、磁石を破断した際の表面は樹脂と磁粉の界面または樹脂の凝集破壊面の両方が存在する。従って、磁石強度を向上させるにはSiO2を結着剤として用いる方が樹脂を結着剤として用いるより有利である。
磁石中の希土類磁粉の含有率が75vol% 以上になる時は、圧縮成形するタイプの希土類磁石を用いることになるが、結着剤硬化後の希土類磁石の強度は、硬化後の結着剤の連続体が生成するかどうかが大きく影響する。それは接着界面の破断強度より同じ面積の結着剤単独の破断強度の方が大きいからである。エポキシ樹脂等の樹脂を用いた場合、全固形分中の樹脂体積分率が15vol% 以下になると樹脂と希土類磁粉との濡れ性が良好とはいえないため、磁石内部での樹脂硬化後の樹脂は連続体とはならず、島状に分布する。それに対して、前述したようにSiO2 前駆体は希土類磁粉との濡れ性が良好であるため、磁粉表面にSiO2 前駆体が連続的に拡がり、その連続的に拡がった状態で熱処理により硬化しSiO2 になる。一方、硬化後の結着剤の材料としての強度は曲げ強さで表すと
SiO2 は樹脂系と比較して1〜3桁大きい。そのため、結着剤硬化後の希土類磁石の強度は結着剤にSiO2 前駆体を用いた方が、樹脂を用いるより桁違いに高い。
次に本発明に係る磁石により適した磁石の材料について説明する。希土類磁石粉は、強磁性の主相および他成分からなる。希土類磁石がNd−Fe−B系磁石である場合には、主相はNd2Fe14B 相である。磁石特性の向上を考慮すると、希土類磁石粉は、HDDR法や熱間塑性加工を用いて調製された磁石粉であることが好ましい。希土類磁石粉は、
Nd−Fe−B系磁石の他に、Sm−Co系磁石などが挙げられる。得られる希土類磁石の磁石特性や、製造コストなどを考慮すると、Nd−Fe−B系磁石が好ましい。ただし、本発明の希土類磁石がNd−Fe−B系磁石に限定されるものではない。場合によっては、希土類磁石中には2種以上の希土類磁石粉が混在していてもよい。即ち、異なる組成比を有するNd−Fe−B系磁石が2種以上含まれてもよく、Nd−Fe−B系磁石と
Sm−Co系磁石とが混在していてもよい。
なお、本明細書で「Nd−Fe−B系磁石」とは、NdやFeの一部が他の元素で置換されている形態も包含する概念である。Ndは、Dy,Tb等の他の希土類元素で置換されていてもよい。置換にはこれらの一方のみを用いてもよく、双方を用いてもよい。置換は、原料合金の配合量を調整することによって行うことができる。このような置換によって、Nd−Fe−B系磁石の保磁力向上を図れる。置換されるNdの量は、Ndに対して、0.01atom%以上,50atom%以下であることが好ましい。0.01atom%未満であると置換による効果が不十分となる恐れがある。50atom%を越えると、残留磁束密度を高レベルで維持できなくなる恐れがあり、磁石を使用する用途に対応して注意することが望ましい。
一方、Feは、Co等の他の遷移金属で置換されていてもよい。このような置換によって、Nd−Fe−B系磁石のキュリー温度(Tc)を上昇させ、使用温度範囲を拡大させることができる。置換されるFeの量は、Feに対して、0.01atom%以上,30atom%以下であることが好ましい。0.01atom% 未満であると置換による効果が不十分となる恐れがある。30atom%を越えると、保磁力の低下が大きくなる恐れがあり、磁石を使用する用途に対応して注意することが望ましい。
希土類磁石における希土類磁石粉の平均粒径は、1〜500μmが好ましい。希土類磁石粉の平均粒径が1μm未満であると、磁粉の比表面積が大きく酸化劣化による影響が大きく、それを用いた希土類磁石の磁石特性の低下が懸念される。したがってこの場合磁石の使用状態を考え、注意することが望ましい。
一方、希土類磁石粉の平均粒径が500μmより大きいと、製造時の圧力によって磁石粉が砕け、十分な電気抵抗を得ることが難しくなる。加えて、異方性希土類磁石粉を原料として異方性磁石を製造する場合には、500μmを越えるサイズにわたり、希土類磁石粉における主相(Nd−Fe−B系磁石においては、Nd2Fe14B 相)の配向方向を揃えることは難しい。希土類磁石粉の粒径は、磁石の原料である希土類磁石粉の粒径を調節することによって、制御される。なお、希土類磁石粉の平均粒径はSEM像から算出することができる。
本発明は等方性磁石粉から製造される等方性磁石,異方性磁石粉をランダム配向させた等方性磁石、および異方性磁石粉を一定方向に配向させた異方性磁石のいずれにも適用可能である。高エネルギー積を有する磁石が必要であれば、異方性磁石粉を原料とし、これを磁場中配向させた異方性磁石が好適である。
希土類磁石粉は、製造する希土類磁石の組成に応じて、原料を配合して製造する。主相がNd2Fe14B 相であるNd−Fe−B系磁石を製造する場合には、Nd,Fe、およびBを所定量配合する。希土類磁石粉は、公知の手法を用いて製造したものを用いてもよいし、市販品を用いても良い。このような希土類磁石粉は、多数の結晶粒の集合体となっている。希土類磁石粉を構成する結晶粒は、その平均粒径が単磁区臨界粒子径以下であると、保磁力を向上させる上で好適である。具体的には、結晶粒の平均粒径は、500nm以下であるとよい。なお、HDDR法とは、Nd−Fe−B系合金を水素化させることにより、主相であるNd2Fe14B化合物をNdH3,α−Fe、およびFe2B の三相に分解させ、その後、強制的な脱水素処理によって再びNd2Fe14B を生成させる手法である。UPSET法とは、超急冷法により作製したNd−Fe−B系合金を、粉砕,仮成型後、熱間で塑性加工する手法である。
磁石の使用用途として高調波を含む高周波磁界が磁石に対して印加される条件下では、希土類磁石粉体表面に無機絶縁膜を形成されていることが好ましい。これにより磁石内部の電気抵抗を大きくでき、渦電流を低減でき、磁石中の渦電流損を低減化できる。このような無機絶縁膜としては、燐酸,硼酸,マグネシウムイオンを含有した燐酸塩化成処理液を用いて形成された膜が良く、膜厚の均一性と磁粉の磁気特性を確保するには界面活性剤と防錆剤が併用することが望ましい。特に界面活性剤としてはパーフルオロアルキル系界面活性剤、また、防錆剤としてはベンゾトリアゾール系防錆剤であることが望ましい。
更に、磁粉の絶縁性並びに磁気特性の向上を図ることを目的とした無機絶縁膜としてはフッ化物コート膜が望ましい。該フッ化物コート膜を形成する処理液としては、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、且つ、該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物は平均粒径が10μm以下まで粉砕されアルコールを主成分とした溶媒に分散されたゾル状態である溶液が望ましい。磁気特性の向上には該フッ化物コート膜が表面に形成された磁粉を1×10-4Pa以下の雰囲気、且つ、600〜700℃温度で熱処理することが望ましい。
次に第1実施例の作用効果について以下に説明する。図1に記載の第1および第2の回転電機200,202に使用される磁石が上記説明の構造を為すこと、すなわち粉体の磁石材料と濡れ性の良い結着剤の前駆体を磁石に含浸させて磁石を製造することで、次の効果の少なくとも1つまたは複数の効果を有している。なお上記説明のとおり、粉体の磁石材料と濡れ性の良い前駆体の結着剤としてSiO2 が最適である。
効果1、上述の磁石の製造工程では、高温に熱する焼結工程が存在しないので磁石の製造が容易である。
効果2、また俗にボンド磁石と称せられるエポキシ樹脂を使用した磁石ではないので、磁石のエネルギー密度が大きく、安価で比較的良好な特性の回転電機を得ることができる。
効果3、上記磁石は磁石材による成形がなされた後、結着剤の硬化を比較的低い温度で行うことが可能であり、成形された磁石材の形状や寸法の変化が少ない。磁石の形状や寸法に関し高い精度で製造できるので、モータや発電機として高い特性が得られる。例えば、寸法誤差によるコギングトルクを小さくしたり、複雑な磁石の形状によってギャップの磁束密度の高調波を小さくすることができる。磁石材単体でも、結着剤で結着した後の切削加工が非常に少なく、又容易である。例えば接着剤の食み出し部分を切削するなど、実質的な磁石形状の形成加工では無いので、加工が容易である。従来の焼結磁石では焼結のために高温に熱するので、その後の温度が下がる過程で収縮し、磁石材の形状が変化する。従って従来の焼結磁石では、焼結工程の後に磁石の形状や寸法を整えるための切削加工に多くの時間を費やすことが必要であった。上記実施の形態では、極めて少ない切削加工で、場合によっては切削加工なしで必要な磁石形状を得ることができる。
効果4、上述の如く磁石材の成形形状がその後の結着剤の含浸や硬化の工程でほとんど変化しないので、プレス加工等による磁石材の曲線形状を高い精度で維持したままで磁石を製造することが可能である。理論的には好ましい磁石の厚みや形状が分かっていても、量産可能な方法が無いために製品化が困難であった磁石の曲線形状を実現でき、良好な特性の回転電機を得ることが可能である。図5に示したような形状よりもさらに複雑な形状も可能である。
効果5、焼結の希土類磁石は電気抵抗が小さく渦電流による損失や発熱が大きい。上記磁石は粉末磁石表面に絶縁皮膜を形成でき、上記渦電流損や磁石の発熱を大幅に低減できる。自動車用の回転電機、特にハイブリッド車両に使用される回転電機は100度を超える環境で使用される可能性があり、磁石内での渦電流による発熱を低く抑えることが必要である。上述の実施の形態では電気抵抗を大きくできるので、磁石の発熱を低減できる。またその分回転電機の損失を低減でき、効率向上となる。
[第2実施例]
次に本発明の永久磁石回転電機を車載電動アクチュエータ装置用電機システムに適用した第2実施例を示す。第2実施例では、車載電動アクチュエータ装置として電動パワーステアリング装置を例に挙げて説明する。
まず、図12を用いて、本実施例の電動パワーステアリング装置の概略構成について説明する。図12は、本実施例の電動パワーステアリング装置のシステム構成を示す。
本実施例の電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という)300は、ステアリングシャフト(コラム)の近傍に永久磁石回転電機401を設け、ステアリングシャフトをアシストするコラム式EPSである。
尚、EPSとしては、ラックアンドピニオンギヤの近傍にモータを設けてピニオンギヤをアシストするピニオン式EPS、ラックアンドピニオンギヤの近傍にモータ設けてラックをアシストするラッククロス式EPSなどがある。本実施例の永久磁石回転電機401はそれらのEPSにも適用可能である。
運転者がステアリングホイール(ハンドル)301を回転させると、その主操舵力(回転力)は、ステアリングシャフト302を介してラックアンドピニオンギヤ307に伝達される。また、ステアリングシャフト302には、永久磁石回転電機401から出力された補助操舵力(回転力)が減速機304を介して伝達される。
ラックアンドピニオンギヤ307は、入力された主操舵力(回転力)と補助操舵力(回転力)とを直線の往復力に変換して左右のタイロッドに伝達する機構であり、ラックギヤが形成されたラックシャフト(いずれも図示省略)と、ピニオンギヤが形成されたピニオンシャフト(いずれも図示省略)から構成されている。ラックギヤとピニオンギヤは動力変換部(図示省略)において噛み合っており、ここで、回転力が直線の往復力に変換される。
ラックアンドピニオンギヤ307において直線の往復力に変換された操舵力は、ラックシャフトに連結された左右のタイロッドに伝達され、左右のタイロッドら左右の車輪に伝達される。これにより、左右の車輪は舵取りされる。
ステアリングシャフト302にはトルクセンサ303が設けられている。トルクセンサ303は、ステアリングホイール301に与えられた操舵力(回転トルク)を検出するためのものである。
永久磁石回転電機401は制御装置305によって制御されている。永久磁石回転電機401と制御装置305はEPSのアクチュエータ(電機システム)を構成している。
EPSは車載用のバッテリ306を電源としている。制御装置305はインバータ装置であり、トルクセンサ303の出力に基づいて、永久磁石回転電機401の出力トルクが目標トルクとなるように、バッテリ306から供給された直流電力を多相の交流電力に変換し、永久磁石回転電機401に供給している。
本実施例では、コギングトルクが小さく、小型軽量,高効率の集中巻式の永久磁石回転電機401をEPSに用いているので、操作性のよい、コンパクトなEPSを提供できる。
次に、図13を用いて、本実施例のEPSに用いられる電動アクチュエータ(電機システム)の電気的な接続関係について説明する。
図13は、本実施例のEPSに用いられる電動アクチュエータ(電機システム)の電気的な回路構成を示す。
制御装置305は、インバータ主回路(変換回路)を構成するパワーモジュール416と、パワーモジュール416のパワー半導体スイッチング素子のオン・オフ動作(スイッチング動作)を制御する制御モジュール422とを備えている。パワーモジュール416のインバータ主回路は、6つのパワー半導体スイッチング素子をブリッジ接続して構成した3相ブリッジ回路から構成されている。パワーモジュール416のインバータ主回路の入力側(直流側)にはバッテリ306が、出力側(交流側)には永久磁石回転電機401の電機子巻線238がそれぞれ電気的に接続されている。パワーモジュール316の6つのパワー半導体スイッチング素子のそれぞれのスイッチングを制御モジュール422で制御することにより、バッテリ306から出力された直流電力は、パワーモジュール416のインバータ主回路において3相交流電力に変換され、永久磁石回転電機1の電機子巻線238に供給される。
制御モジュール422は、パワー半導体スイッチング素子のオン・オフ動作(スイッチング動作)を制御するための制御信号を生成し、その制御信号をパワーモジュール416のドライバ回路(図示省略)に出力する制御部を構成している。制御モジュール416には、入力パラメータとして、トルクセンサ303によって検出されたステアリングホイール301のトルク検出値Tf,エンコーダEによって検出され、F/V変換器418によって変換された回転子250の回転速度検出値ωf及びレゾルバPSによって検出された回転子250の磁極位置検出値θmが入力される。
トルク検出値Tfはトルク指令値Tsと共にトルク制御回路17に入力される。トルク制御回路417は、トルク検出値Tfとトルク指令値Tsに基づいてトルク目標値Teを算出し、この算出されたトルク目標値Teの比例積分などによって電流指令値Is及び回転角θ1を出力する。回転角θ1は、エンコーダEから出力された位置情報θと共に位相シフト回路423に入力される。位相シフト回路423は、回転子250の位置情報θを、回転角θ1の指令に応じて位相シフトし、回転角θaとして出力する。回転角θaは磁極位置検出値θmと共に正弦波・余弦波発生回路419に入力される。正弦波・余弦波発生回路419は、回転角θa及び磁極位置検出値θmに基づいて電機子巻線238の各相巻線(ここでは3相)の誘起電圧を位相シフトした正弦波基本波形(駆動電流波形)値
Iavを発生して出力する。尚、上記位相シフト量は零の場合でもよい。
正弦波基本波形(駆動電流波形)値Iavは電流指令値Isと共に2相−3相変換回路420に入力される。2相−3相変換回路420は、正弦波基本波形(駆動電流波形)値Iav及び電流指令Isに基づいて、各相に対応した電流指令Isa,Isb,Iscを出力する。制御モジュール422は各相個別に電流制御系421A,421B,421Cを備えている。各相の電流制御系421A,421B,421Cには、対応する相の電流指令Isa,Isb,Iscと、対応する相の電流検出値Ifa,Ifb,Ifcが入力される。電流検出値Ifa,Ifb,Ifcは電流検出器CTによって検出されたものであり、パワーモジュール416の変換回路から各相の電機子巻線238に供給された相電流である。各相の電流制御系421A,421B,421Cは、対応する相の電流指令
Isa,Isb,Iscと、対応する相の電流検出値Ifa,Ifb,Ifcに基づいて、対応する相のパワー半導体スイッチング素子のスイッチング動作を制御するための制御信号を出力する。各相の制御信号は、パワーモジュール416の対応する相のドライバ回路(図示省略)に入力される。
パワーモジュール416の各相のドライバ回路(図示省略)は、対応する相の制御信号に基づいて、対応する相のパワー半導体スイッチング素子のスイッチング動作させるための駆動信号を出力する。各相の駆動信号は、対応する相のパワー半導体スイッチング素子に入力される。パワー半導体スイッチング素子がスイッチング動作すると、電機子巻線
238には、バッテリ306から供給された直流電力が交流電力に変換されて供給される。永久磁石回転電機401は回転子250の回転位置に応じた回転磁界を発生し、回転子
250が回転する。
電機子巻線438に供給される各相電流の合成電流は、界磁磁束に直角或いは位相シフトした位置(各相電流の合成の起磁力を永久磁石より90度以上進ませる制御を弱め界磁制御という)に常に形成される。これにより、無整流子で、かつ直流機と同等の特性を得ることができる。
制御装置305によって電機子巻線438に流す電流の作る電機子起磁力の合成ベクトルを永久磁石の中心より90度の位置に作ることによって最大トルクを発生し、また、位相を必要に応じてシフトすることによって、高速まで回転を可能にできる。
このような制御により、3相の正弦波誘起電圧と3相の正弦波電流とが作る出力(トルク)は回転によらず、脈動の少ない一定の出力を得ることができる。
次にEPSに用いられる永久磁石回転電機について説明する。概略の構成は、図3と同じであるが、回転子の構成については図14を用いて説明する。
本実施例の永久磁石回転電機401は、車載バッテリ(例えば出力電圧12V)を電源とするものであり、ステアリングシャフトの近傍に配置される。従って、取り付け位置の制限から小型化が必要であると共に、ステアリングをパワーアシストすることから大トルク(例えば、4Nm)の出力が必要である。
永久磁石回転電機401は、固定子230と、この固定子230の内側に回転可能に支持された回転子250とを備えた、表面磁石型の同期電動機である。永久磁石回転電機
401は、14ボルト系電源(出力電圧が12ボルトのバッテリ)から供給される電力で駆動される。尚、車載電源としては、24ボルト系電源若しくは42ボルト系電源(バッテリの出力電圧36ボルト)又は48ボルト系電源がある。ハイブリッド車などでは100ボルト,300V,600Vなどもある。自動車の種類によって、永久磁石回転電機401の駆動電源電圧が変わる。本実施例のEPSは、上記いずれの電源にも対応可能である。
固定子230は、珪素鋼板を積層した磁性体で形成された固定子鉄心232と、固定子鉄心のスロット234内に保持された図13に示す電機子巻線438とを備えている。ただし図14でスロット234に設けられた電気子巻線438は図5に示すように巻回されているが、この記載を省略する。固定子鉄心232は、等間隔に配置されたティース236が設けられ、構成される。複数のティース236には、それぞれ、電機子巻線438が巻回されている。電機子巻線438は分布巻あるいは集中巻のどちらの方式であっても良いが、本実施形態では集中巻方式で巻かれている。
電機子巻線438を分布巻とすると弱め界磁制御に優れ、また、リラクタンストルクの発生にも優れる。永久磁石回転電機401としては、モータの小型化や巻線抵抗の低減がたいへん重要である。電機子巻線438を集中巻とすることにより、電機子巻線5のコイルエンド長を短くできる。これにより、永久磁石回転電機401の回転軸方向の長さを短くすることができる。また、電機子巻線438のコイルエンドの長さを短くできるので、電機子巻線438の抵抗を小さくでき、モータの温度上昇を抑えることができる。また、コイル抵抗を小さくできることから、モータの銅損を小さくできる。したがって、モータへの入力エネルギーの内、銅損によって消費される割合を小さくでき、入力エネルギーに対する出力トルクの効率を向上することができる。
また、永久磁石回転電機401はステアリングシャフト(コラム)の近傍に置かれる場合、ラックアンドピニオンの近傍に置かれる場合などがあるが、何れも小型化が要求される。また、小型化された構造で電機子巻線を固定することが必要であり、巻線作業が容易なことも重要である。分布巻に比べ集中巻は巻線作業,巻線の固定作業が容易である。
電機子巻線238は、U相,V相,W相の3相から構成され、それぞれ複数の単位コイルから構成される。複数の単位コイルは、コイルエンド部において3相の各相毎に、板状導体から形成された図21に示す結線リング411によって結線されている。
永久磁石回転電機401は大きなトルクが要求される。例えば車の走行停止状態、あるいは走行停止に近い運転状態でステアリングホイール(ハンドル)が速く回転されると操舵車輪と地面との間の摩擦抵抗のため、上記モータには大きなトルクが要求される。このときには大電流がステータコイルに供給される。この電流は条件により異なるが100アンペア以上の電流が流れる。このような大電流を安全に供給でき、また上記電流による発熱を低減するために、板状導体から形成された結線リング411を用いることはたいへん重要である。上記結線リング411を介して電機子巻線438に電流を供給することにより接続抵抗を小さくでき、銅損による電圧降下を押えることができる。このことにより、大電流の供給が容易になる。また、インバータの素子の動作に伴う電流の立ち上がり時定数が小さくなる効果がある。
回転子250は、珪素鋼板を積層した磁性体からなる回転子鉄心252と、この回転子鉄心252の表面に接着剤によって固定された複数の永久磁石である永久磁石254を備えている。永久磁石254と256は、前述したSiO2により結着された磁石である。回転子鉄心は、シャフト218に固定されている。尚、永久磁石254,256の飛散を防止するために、永久磁石254,256の外周側(固定子側)の全周を覆うように、マグネットカバーを設けたり、テープを巻きつけたりしても良い。
図21に示すように固定子鉄心232は、軸方向両側からカップ状のブラケット409によって挟み込まれるようにして支持固定されている。ブラケット409には軸受216が設けられている。軸受216はシャフト218を回転可能に軸支している。シャフト
218上には、回転子250の位置を検出するためのレゾルバPSと、エンコーダEが設けられている。
結線リング411によって接続されたU相,V相,W相の各相には、パワーケーブルを介して、外部のバッテリから電力が供給される。
図14に示した実施例では、回転子250は10個の磁石でN,Sの5極対を形成し、固定子230はスロット234を12個持つ、いわゆる10極12スロットのモータである。このモータは、極数Pとスロット数Nの最小公倍数である60回のコギングトルクの周期性を持ち、いわゆる2極3スロットの繰り返しで得られる集中巻モータよりもコギングトルクが小さい。
しかし、EPS用途では、極小さなコギングトルクでも、ハンドルを握る人が感じるため、コギングトルクをさらに低減することが望ましい。
トルク脈動を減らすために、さら周方向に界磁極すなわち磁石配置にスキューを施すことが望ましい。具体的構造を図15に示す。磁石のみをスキューしてもよいが製作の容易さを考慮すると磁石を保持する回転子鉄心と磁石とを先ず一体とし、回転子鉄心と磁石との一体物、以下コアと記す、が互いに周方向にスキューするように固定する構造が好ましい。上図では、回転子を2つのコアに分割し、分割したコアをそれぞれ電気角θだけ周方向にずらしている。三相モータの場合、この電気角θは一般的に30°あるいは、15°となる。
また他の実施例を図16に示す。この実施例では回転子を3個のコアに分割し、2番目のコアを1番目と3番目のコアに対して角θだけスキューしている。分割された第1乃至第3コアの軸方向の長さの比をa:b:c=1:2:1とする。これにより、図15の場合には回転時に軸方向に力が働くが、図16の場合には、内力となって、軸方向に力が働かない。これによる低ノイズ化などに効果がある。
第2実施例において、コギングトルクを低下させたい場合には、回転子を分割して、周方向にスキューすなわちずらせばよい。図17はコギングトルクの状況を示し、横軸が電気角で表した回転角度であり、縦軸がトルクの大きさを示し、各グラフはトルクの変動部分を取り出して示している。例えば、電気角60°周期のコギングトルクが、スキューがあった場合には軸方向に2分割して、互いに周方向に電気角30°ずらすと、電気角60°周期の脈動を低減することができる。しかし、電気角30°周期のコギングトルクは残る。また、同じく回転子を2分割して互いに電気角15°周期ずらすと、電気角30°周期のコギング成分は無くなるが、60°周期のコギング成分は残る。コギングトルクの波形に含まれる次数成分が一つで、他の次数成分がないあるいは少ない場合にはこのようにすることが有効である。
本実施例のさらなる別方式では、分割により低減できないコギングトルクをも解決する方法として、理想的に回転子にスキューを施す。磁石の形状は回転子の回転軸線方向に対して連続的に周方向に傾斜させるようずらしたヘリカル形状になる。その磁石形状を図
18示す。図19にその原理を示す。図19には回転子の磁石2極分、すなわち1極対を平面に展開した図を示している。磁石は軸の端部から、端部まで、3相モータの場合60°ずらすように構成する。この形状を円筒状に丸めると、磁石は図18のヘリカル形状となる。点Aの部分と点Bの部分は30°ずれているため、AとB点は相対的に30°スキューしたのと同じ効果で、トルクリプルを相殺する。さらに、点Aと点Cは、15°ずれているため、上述した15°のスキューと同じ効果になる。このように、すべての軸上にトルク脈動を相殺する対となる点が存在するので、さらに高次でも同様の原理で、すべての高調波によるコギングトルクを消すことができるのでトルク脈動を低減することができる。電気的に60°以下の周期のトルク脈動は理論的にはすべてゼロにすることができる。図18の磁石形状と図19の磁石形状は異なるが、界磁極をスキューすることによりコギングトルクが低減できるので、磁石の形状が異なっていてもコギング低減効果が得られる。
従来の焼結磁石では、このような複雑な形状は、焼結後の後加工で製作するので、高価であり、低コストが要求される自動車用モータには採用できなかった。しかし、この形状をプレスで成形することは比較的容易である。本実施例のモータは、SiO2 により結着された磁石を使用しているため、プレスの形状がほぼそのまま最終形状となる。このため、結着剤で結着した後の磁石の切削加工が不要となったり、あるいは簡素化できたりする。上記形状の磁石を使用することにより高次のコギングトルクを非常に低い値に低減したモータを実現することができる。
図20は、図19よりもさらに複雑な形状にした磁石である。図19では磁石形状がかまぼこ型であるのに対し図19はブロック形状であり具体的な形状は異なっているが、磁極をスキューすることでコギングを低減する点は同じである。図20に示す磁石は、回転軸方向に略V字形状となるような形状となっており、この磁石を利用した回転電機は、固定子が発生する回転磁界に対して永久磁石が発生する軸方向の力成分がV字形状の一方と他方で逆方向となって打ち消し合うので軸方向に力を受けない。このため低騒音化や構成が簡単になる利点がある。この磁石は軸方向に2分割で同じものを反対につきあわせて構成しても良い。ここで磁石のV字形状とは、回転子の回転軸に沿った軸で見ると、磁石が回転方向である回転子の周方向に徐々にスキューし、磁石の途中でスキュー方向が逆転し回転子の周方向における反対方向となり、この反対方向に磁石が徐々にスキューする形状である。このスキュー方向が逆転する位置を磁石の回転軸方向における中央付近とすることで、回転軸方向に発生する力を互いに打ち消すようにできる。上述のとおり、スキューの折り返し点で磁石を分割しても同様の効果が得られる。
このような方法でコギングトルクを解決しても、電動パワーステアリング用モータではさらなる課題が現れる。それは、製作誤差に起因するトルク脈動である。一般に電源周波数よりも低次で、回転数に対して、2,4,6,8,10,12次などの調波成分になることが多い。上述のモータでは、10極を実施例としているので、スキューによるトルク脈動低減の効果は、回転数に対して、30次以上となる。これよりも低次の脈動は製作誤差に起因するものとなる。
また、突極磁極鉄心42と固定子ヨーク41間の隙間、あるいは突極磁極の長さの不均一等、製作誤差によって、固定子内径の芯円度は悪くなってコギングトルク,脈動トルクが発生する。このコギングトルク,脈動トルクは一般の脈動トルクと異なり、大きさや位相がモータ毎に異なるために予防が大変難しい。
例えば、回転子250はセグメント状の永久磁石256の1個が例えばS3で示すように厚さが厚くなってしまった場合、1回転あたり、突極磁極鉄心42の数12に相当するコギングトルクが発生する。これは、前に説明した永久磁石の極数と突極磁極鉄心42の極数に起因する60サイクル/回転のコギングトルクに比して遥かに大きな値となる。車載アクチュエータ装置のうち特に電動パワーステアリング装置ではハンドルを介して運転者にその脈動が伝わってしまう。
このように、運転者に脈動が伝わってしまうほどの極小さなコギングトルクを抑えるためには、組立,加工に伴うアンバランスを部品ベースで精度を上げて対処することは大変難しく、製造コストがかさむという問題があった。
そこで、製作誤差によってコギングトルクと逆相のコギングトルクを発生する重みを持った回転子の磁気アンバランスを、回転子の磁石を切削することで作り出すことができる。これは,上記のSiO2 により磁性粉体を結着させた磁石の特徴を生かしたもので、すなわち、切削作業中に磁石の周辺部分を破壊することなく、その部分だけを加工できる作業性の良さ故に可能になったものである。従来のボンド磁石では、後加工により、周辺部が崩れたりする。一方,焼結磁石割れてしまう等の問題があり、磁石そのものを、回転子の製作後に加工することはできなかった。
このようにして、製作によって生じてしまうコギングトルクを、後処理で補償することができるので、EPSのように製作誤差によるコギングトルクが問題になるモータを安価に提供することが可能になる。
この補正は、固定子230を組み上げた後に磁気的なアンバランス量を測定し、それに対応した磁気的な不平衡量を、例えば切削加工によって取り去ることができる。
次に、図21を用いて本実施例の磁気アンバランス補正装置について説明する。
永久磁石回転電機401は低速で一定回転で駆動される。413はトルク検出器であり、コギングトルクの測定値を出力する。更に回転の位置を検出するレゾルバPS,エンコーダEによりコギングトルクの大きさとともに、位相を出すことができる。414は磁気アンバランス量計算装置であり、永久磁石回転電機401からのコギングトルクの計測結果に基づいてそれを補正する突極磁性鉄心442表面の442a溝の位相と大きさ、あるいは永久磁石254,256表面の溝406aの位相と大きさを、固定子,回転子の形状,永久磁石の特性から算出し、磁気アンバランスの補正量を計算する装置である。コギングトルクの大きなモータにおいては、磁気アンバランスに該当する溝406aを回転子
250に付与することによって、コギングトルクを小さくすることができる。モータの全数を行うことによって、例えば、回転バランスを全数取るのと同じ方式でコギングトルク補正を行ことは可能で、これによって、コギングトルクの小さなモータを提供することができる。また、必要に応じて、コギングトルクの大きなモータのみ補正を行うことも可能である。
以上、本実施例では、固定子230と回転子250との間に空隙面に溝を設けて補正する方法を示したが、予め設けた溝などに磁性体を付着させることによっても可能であることはいうまでもない。また、空隙面及びその周囲に磁性体の変形による付加,除去あるいはその他の方法による磁性体の付加,除去によっても補正することが可能である。また、必要に応じては磁界計算を利用して、413のトルクセンサによって検出できたコギングトルクを0にする固定子磁気補正量,回転子磁気補正量を算出すると一層精度を上げることができる。
尚、本実施例では、集中巻固定子で突極磁極数を12、回転子250の極数を10とした例、すなわち突極磁極数M,回転子の極数Pとの比をM:P=6n:6n±2(nは正の整数)とした永久磁石回転電機を用いて説明したが、これに限定されるものでなく、突極磁極数M,回転子250の極数Pとの比をM:P=3n:3n±1(nは正の整数)とした永久磁石回転電機にも適用可能である。例えば永久磁石の極数を8、固定子の突極磁極数を9とすることも可能である。
また、突極磁極数を12、突極磁極数を8とした、いわゆる3:2の磁極の選択によっても、突極磁極表面の溝の付ける位置によって同様のコギングトルク補正を行うことができる。この場合には突極磁極表面の中心ではなく、コギングトルク低減できる突極磁極の特定の位置に適当の大きさの溝を配置することによってコギングトルク最小化することができる。
次に第2実施例の作用効果を以下に示す。図12から図21に記載の第2実施例において、回転電機に使用される磁石が上記説明の構造を為すこと、すなわち粉体の磁石材料と濡れ性の良い結着剤の前駆体を磁石に含浸させて磁石を製造することで、次の効果の少なくとも1つまたは複数の効果を有している。なお上記説明のとおり、粉体の磁石材料と濡れ性の良い前駆体の結着剤としてSiO2 が最適である。
効果1、上述の磁石の製造工程では、高温に熱する焼結工程が存在しないので磁石の製造が容易である。なお、結着剤で結着後に磁気特性を改善するために温度を挙げたとしても1000℃より低い温度で、磁石材の焼結温度より低く、焼結磁石に比べ、歪みの影響は小さい。従って焼結磁石に比べ製造コストを下げることが可能となる。
効果2、また俗にボンド磁石と称せられるエポキシ樹脂を使用した磁石ではないので、磁石のエネルギー密度が大きく、安価で比較的良好な特性の回転電機を得ることができる。
効果3、上記磁石は磁石材による成形がなされた後、結着剤の硬化を比較的低い温度で行うことが可能であり、成形された磁石材の形状や寸法の変化が少ない。磁石の形状や寸法に関し高い精度で製造できるので、モータや発電機として高い特性が得られる。例えば、寸法誤差によるコギングトルクを小さくしたり、上記磁石を回転子における回転軸線と平行な方向に対して周方向にずれるように配置したヘリカル形状のスキューなど複雑な磁石の形状によってギャップの磁束密度の高調波を小さくすることができる。磁石材単体でも、結着剤で結着した後の切削加工が非常に少なく、又容易である。例えば接着剤の食み出し部分を切削するなど、実質的な磁石形状の形成加工では無いので、加工が容易である。従来の焼結磁石では焼結のために高温に熱するので、その後の温度が下がる過程で収縮し、磁石材の形状が変化する。従って従来の焼結磁石では、焼結工程の後に磁石の形状や寸法を整えるための切削加工に多くの時間を費やすことが必要であった。上記実施の形態では、極めて少ない切削加工で、場合によっては切削加工なしで必要な磁石形状を得ることができる。
効果4、上述の如く磁石材の成形形状がその後の結着剤の含浸や硬化の工程でほとんど変化しないので、プレス加工等による磁石材の曲線形状を高い精度で維持したままで磁石を製造することが可能である。理論的には好ましい磁石の形状としてスキューが分かっていても、量産可能な方法が無いために製品化が困難であったヘリカル形状の磁石を実現でき、良好な特性の回転電機を得ることが可能である。図18や図20に示したような形状よりもさらに複雑な形状も可能である。
効果5、焼結の希土類磁石は、電気抵抗が小さく渦電流による損失や発熱が大きい。上記磁石は電気絶縁物であるSiO系の結着剤で希土類磁性粉を結着するので永久磁石内部の電気抵抗が大きく渦電流が減少し渦電流損や発熱を低減できる。更に電気絶縁膜を施した希土類磁性粉に対しても上述の結着剤の前駆体は濡れ性が良好で、内部抵抗が非常に高い永久磁石を作ることが可能となる。このため磁石内部の渦電流損や発熱を大幅に低減できる。自動車用の回転電機、特にハイブリッド車両に使用される回転電機は100度を超える環境で使用される可能性があり、磁石内での渦電流による発熱を低く抑えることが必要である。上述の実施の形態では電気抵抗を大きくできるので、磁石の発熱を低減できる。またその分回転電機の損失を低減でき、効率向上となる。
効果6、焼結の希土類磁石は、切削成形後にコーティングをして腐食を防止する。これを回転子に組込むのが従来の方式である。このため、回転子に組込んだ後に加工することはできなかった。さらに、ボンド磁石も回転子成形後に加工することはできなかった。本発明による磁石を用いた回転機では、磁石の後加工性の良さを活かし、回転子組立て、さらに着磁後にコギングトルクを測定し、そこから、磁極のアンバランスを検出し、それに応じた切削加工をする。
これらの固定子巻線が作る起磁力の調波成分を図22から図25に示す。棒グラフの横軸は、極対あたりの周方向の空間起磁力における次数を1次として、黒棒が同期次数,斜線棒が非同期次数をしめす。図22は、いわゆる分布巻であり、(A)には2極6スロットのモータの固定子が作る起磁力の高調波成分を示し、(B)には2極12スロットのモータの固定子が作る起磁力の高調波成分を示す。図からわかるように、非同期成分は空間5次以上しか無いことが分かる。また、2極12スロットモータの方が空間高調波が少ない。この高調波は磁石の渦電流の原因になっている。
一方、図23は集中巻であり、(A)には8極9スロットのモータの固定子が作る起磁力の高調波成分を示し、(B)には10極9スロットのモータの固定子が作る起磁力の高調波成分を示す。このように、集中巻は分布巻に比べて起磁力の非同期成分が大きい。特に、8極9スロットの場合には、5/4次の成分が大きく、10極9スロットの場合には、4/5次の成分が大きい。回転子の磁極数が、固定子起磁力の空間次数と一致した場合だけ、モータにトルクが生じる。従って、10極9スロットのモータの場合には、8極モータを回せる固定式磁力があるにもかかわらず、その成分は回転子と同期しないから、その分は回転子には非同期成分として働き、渦電流を生じさせる。これが磁石の温度上昇による減磁を引き起こす。
同様に図24は集中巻であり、2極3スロット系列のモータの固定子が作る起磁力の高調波成分を示し、(B)には4極3スロット系列のモータの固定子が作る起磁力の高調波成分を示す。これは、図5の実施例に相当する。2極3スロット系列のモータは、1次よりも低次の非同期の調波は無いが、それでも分布巻に比べて、高調波が多いことが分かる。逆に4極3スロット系列のモータには、1/2次の大きな低次成分がある。
同様に図25には集中巻であり、10極12スロットのモータの固定子が作る起磁力の高調波成分を示し、(B)には14極2スロットモータのモータの固定子が作る起磁力の高調波成分を示す。これは、図14のモータに相当する。この場合にも、非同期の大きな調波成分があることが分かる。
以上のなかで、特に注目すべきなのは、極数>スロット数の関係になるにつれて、非同期の成分が大きくなることである。固定子が極を構成しようとする場合に、より多くのコイルで構成した方が、高調波が少なくなるということを意味する。従って、集中巻のモータは、スロット数が少ないため、渦電流が多く、特に極数>スロット数の組合せに関しては、磁石の渦電流が流れやすいと言える。
図27は希土類磁性粉を模式的に描いた図であり、磁性粉502は面積の広い第1の面504とこの第1の面より面積の狭い第2の面506とを有する扁平形状を成している。第2の面506は非常に薄いので、第1の面に対して略垂直に近い場合が多い。この図は磁性粉体502を模式的に描いたので扁平な長方形を成しているが、実際は長方形ではなく、扁平ではあるが形や大きさが一定ではない。
図27は磁性粉502を圧縮成形した場合の磁性粉502の配列を模式的に示した図である。説明を簡単にするために磁性粉体502はそれぞれ面積の広い第1の面504とこの第1の面より面積の狭い第2の面506とを有している扁平な長方形としたが、上述のとおり非常に扁平であるがそれぞれ色々な形状を成している。図27に示すZ軸に沿って磁性粉を圧縮すると多くの磁性粉は第1の面504を互いに対向するように、すなわち第1の面がほぼ軸Xと軸Yからなる面に沿った配置となるように積層される。図27に示す、面積の広い第1の面504が軸Xと軸Yからなる面となった積層磁石に対して軸Xと軸Yからなる面に沿って着磁した場合と、Z軸に沿って着磁した場合とを比較すると、軸Xと軸Yからなる面に沿って着磁した場合の方がZ軸に沿って着磁した場合より残留磁束密度や保持力などの磁気特性が良好である。
図28は図5や図14で説明したかまぼこ型の永久磁石254を示す。永久磁石254あるいは256は磁化方向が逆であるが形状および発生する磁束量は同じであり、永久磁石254を代表例として以下説明する。回転子の半径方向で固定子に対向する面276は回転子鉄心より極率の大きい曲面形状を成している。また永久磁石254の周方向の両サイドは略半径方向を向いているが、圧縮成形した場合に型から外し易いように径方向に対し固定子側がやや狭くなる方向に少し傾斜をつけても良い。
希土類磁性粉を圧縮成形する場合の圧縮方向として、回転子の回転軸方向に圧縮すると永久磁石の磁気特性が良好となる。図27で磁石粉502を圧縮するZ軸を回転子の回転軸方向にすると、大部分の磁性粉502は、面積の広い第1の面504が回転軸に垂直な面となるように積層される。これは積層された回転子鉄心の各鋼板の積層方向とほぼ同じ方向となる。この方向の積層磁石は図27の軸Xおよび軸Yの面で着磁されることとなる。従って上述の如く良好な磁気特性の磁石が得られ、回転電機の特性面からも好ましい。
生産性向上の観点で圧縮成形を行い易くするには、図28の回転子の半径方向からの圧縮が好ましい。回転子の半径方向の圧縮は、圧縮対象である磁性粉の厚みの薄い方向である。希土類磁性粉は鉄などに比べ非常に硬く、圧縮方向の磁性粉の幅が薄い方が圧縮された磁性粉の密度が高くなる。圧縮された状態での磁性粉の密度は永久磁石の磁束密度に大きな影響を及ぼし、磁性粉の密度が低いと、永久磁石の磁気特性が悪くなる。また磁石形状が曲面を有し特性面からの形状に対する精度が問題となる場合、圧縮方向の磁性粉の幅の小さい方から圧縮する方が好ましい結果を得やすい。従ってかまぼこ型磁石では半径方向から圧縮成形した方が良い場合がある。
図29はかまぼこ型の永久磁石254を回転子鉄心252に取り付けた状態を回転軸に垂直な断面で示した図である。回転子鉄心252はその表面に窪み282を形成しており、前記窪み282の内部に永久磁石254の鉄心側部分が接着層284により固定されている。図28で記載のとおり、永久磁石254と256とは着磁方向が異なる以外は同じであり取り付け構造は同じであるので、永久磁石254を代表例として記載した。かまぼこ型の形状は図28で説明のとおりであり、同じ参照符号は図28を含む他図と同じことを示す。このかまぼこ型永久磁石は図28における回転軸方向の圧縮成形で製造されても良いし、回転子の半径方向の圧縮成形で製造されても良い。半径方向の圧縮により成形された場合の磁石内部286の磁性粉の配列を拡大して278で示す。面積の大きい第1の面は回転子の径方向と略垂直の面、すなわち固定子鉄心に対向している。上述の如くこの磁性粉の配列は面積の広い第1の面に略垂直に磁化されることで磁性粉の配置に対する磁化特性は悪くなるが、圧縮方向の磁性粉の厚みが薄くなることから生産性に優れており、また磁性粉の圧縮密度を上げやすい利点がある。磁性粉の圧縮密度を上げることは磁気特性の改善につながる。
図30は円筒型磁石712の製造方法の説明図である。回転子250の外周に円筒形磁石712を嵌め、磁極位置に磁化方向が反転するように着磁して図3など上述の回転電機を作ることが可能である。比較的小型の回転電機はこの円筒形磁石712を使用することで生産性が向上する。
圧縮成形する外側の型702と内側の型704との間に希土類の磁性粉を詰め、回転軸方向に圧縮成形し、その後上述の結着剤の前駆体を含浸することで磁石を形成する。この磁石を上述の回転子鉄心252の外周に固定子し、着磁することで回転子が完成する。この場合磁性粉の配列の多くは、面積の広い第1面は回転軸に垂直な方向の配列となるので、着磁方向が面積の広い第1の面に沿った方向となり、磁性粉の配列方向で見ると優れた磁気特性が得られる。
図30では説明を簡単にするため磁石の形状を単純な円筒形としたが、コギングを含むトルク脈動を低減するためには磁石の固定子側面を曲面とすることが望ましい。従来の焼結型磁石では焼結温度による磁石の形状変化のため、外周の形状を曲線とすることは製造技術の観点でいろいろな課題を抱えていたが、上記説明の製法では比較的容易に製造できる。
図31は固定子側面を曲面とした円筒磁石712を使用した回転子を回転軸に垂直な面で断面下した状態を示す。シャフト218に回転子250が固定されており、回転子250の外周に円筒形の磁石712が設けられている。円筒形磁石712の固定子側は極率の大きい曲線となっており、この曲線は回転電機の内部誘起電圧が正弦波に近づくような曲線となっている。このような円筒磁石を図30の如く回転軸に沿った方向の圧縮成形で作ることができるので、焼結型に比べ生産性が大きく改善できる。また磁性分の大部分はその第1の面が軸に垂直な面となり、優れた磁気特性が得られる。さらに回転子の積層面とも一致しており、この点でも磁気的に好ましい。渦電流も流れ難い。
図30や図31で説明の磁石や回転電機は比較的小型の回転電機に向いている。自動車用はもちろんそれ以外の分野に使用する回転電機でも効果は大きい。図30や図31を含む上記説明の全実施例は自動車用として説明したが、自動車以外の分野の回転電機であっても使用可能であり、自動車用として説明した効果はそれなりに他の分野の回転電機でも適用される。自動車用は使用環境が厳しいので特にその効果が顕著に現れるが、他の分野の回転電機でも従来の回転電機に比べると効果があり、もちろん使用可能である。
本発明では、SiO2 により結着された磁石により、回転子を構成するので、磁石の渦電流が流れにくいことに特徴がある。磁石の磁粉はそれぞれが電気的に絶縁物である
SiO2 により結着されているので、磁石内部の電気抵抗が大きくなる。希土類磁性粉は純鉄などに比べると非常に硬く、プレス加工しても積層状態の磁性粉間に隙間ができ易い。SiO2 の前駆体は希土類磁性粉に対して濡れ性が非常に良好で、前記磁性粉間の隙間に浸透し磁性粉を互いに結着する。このため磁石の強度が高くまた内部の電気抵抗が高い磁石を得ることができる。このような磁石には渦電流は生じにくい。自動車用の回転電機は他の分野の回転電機に対して使用される電力に対する回転機の体積が小さい。すなわち体積あたりの電力量が大きい。このような厳しい環境で使用される車両用回転電機では渦電流の低減効果が大きい。また分布巻より集中巻の方が渦電流が生じ易い。従って上記磁石は集中巻のモータに関して、有効である。
以上、本発明の各実施例について説明したが、これらの実施例を用いることにより以下に示すような作用効果が得られる。
本発明の各実施例によれば、回転電機に設けられている永久磁石を次のようにして製造する。まず磁性材料を圧縮成型し、この圧縮成型した磁性材料にこの材料と濡れ性が優れた結着剤の前駆体を含浸し、結着剤にて磁性材料を結着した磁石を得る。回転電機にこのような磁石を使用することで、エポキシ樹脂を結着剤として使用した磁石を使用する回転電機より、より高性能の回転電機を得ることができる。このように、磁石粉末にエポキシなどの絶縁材を混入させずに圧縮することで、成形磁石の磁石重量比を高めることができる。よって、高エネルギー密度の磁石を得ることができ、モータの高出力化を図ることができる。尚、永久磁石の製造には、結着剤で磁性材料を結着する工程の他に、さらに磁化する工程が必要である。この磁化する工程は、結着剤で磁性材料を結着した磁石材の形成体(磁石と記載する)を回転電機の部品に組込んだ後で行っても良い。むしろ磁化しない状態で回転電機の回転子などの部品に固定し、その後磁化する方法が回転電機を製造し易い場合が多い。上記磁石は上記磁化の工程で磁化されることにより、永久磁石としての作用をなす。
また、本発明の各実施例によれば、その前駆体が磁石材料と濡れ性が良好な結着剤で、磁石材料を結着した永久磁石を、永久磁石回転電機に使用したことである。本発明においては磁石材料と濡れ性が良好な結着剤を使用することで磁石における磁性材料の割合を多くでき、エポキシ樹脂を結着剤として使用した場合に比べ磁石の磁気エネルギーの低下を低減でき、良好な特性を維持できる。
また、本発明の各実施例によれば、上記磁石は、各々の磁石材料の間に絶縁物である結着剤が存在し、各々の部分の磁石が絶縁されることになるので、3次元的な固体の磁石として電気抵抗率が高く、渦電流損が小さくなる特徴がある。この結果、高効率で、高速回転に対応可能な回転電機を得ることができる。具体的には、磁石粉末に濡れ性の良い結着剤としてSiO2の前駆体を薄く含浸させており、SiO2 が絶縁物なので、各磁石粉末が薄い絶縁コーティングを施した状態になる。この結果、磁石の電気抵抗率が大きくなり、渦電流が流れにくくなる。この磁石を回転子表面に貼り付けることで、高速回転時に磁石の温度を抑え、減磁に対する耐力のあるモータを実現することができる。特に、本実施例のような表面磁石式回転電機は、ギャップ表面の磁石に渦電流損が流れやすいため、磁石が発熱する場合があるが、本実施例の回転機の磁石は、電気抵抗が大きいために、渦電流を低減でき、このような問題を解決することができる。
また、本発明の各実施例によれば、磁石材として磁気特性の優れた希土類磁石材を使用することで、磁気特性に優れた磁石を製造でき、特性が良好な回転電機を得ることができる。前駆体が希土類磁石材料と濡れ性が良好な結着剤として例えばSiO2 を使用することができ、SiO2 で希土類磁石材を結着することで磁気特性の低下を抑えた永久磁石を製造することができ、この磁石を回転子に使用することで特性の良好な回転電機を得ることができる。
また、本発明の各実施例によれば、永久磁石を比較的低い温度で製造できるため、磁石材のプレス成型による形状・寸法を高い精度で維持した状態で磁石材の結着を行うことができる。結果として高い精度で磁石を生産することが容易と成る。このため結着剤により固められた後の磁石は成形処理が焼結磁石に比べ非常に簡単であり、磁石の最終形状がわずかな切削加工で得られることが多く、場合によっては切削作業無しで磁石を完成することが可能となる。また、複雑な形状の磁石も熱収縮がほとんどないので、型の精度で磁石の寸法精度を実現することができ、寸法精度の高い磁石を利用した回転ムラの無い高精度な回転電機を得ることができる。これにより、従来の焼結磁石で出来なかった曲線形状を有する特に複雑で連続的な3次元形状をした磁石、例えばヘリカル形状をしたスキュー磁石を用いて回転子を簡単に構成できるので、トルク脈動のない制御性の良いモータにすることができる。
また、本発明の各実施例によれば、永久磁石の加工性が良く、一部だけ加工することが出来るため、最終形状後に切削加工することが容易であるという特徴がある。このため、磁石を貼り付けて回転子を組立てて着磁した後に、磁極毎のバランスを取るために切削加工をする。このように磁極のエネルギーの強い磁石を切削することにより、回転子磁極のエネルギーのばらつきを抑え、それに起因するコギングトルクを小さくすることができる。尚、この切削加工は、磁石材料を後加工できる特徴を生かしている。従来の焼結磁石では、回転子組立後に加工すると、割れや酸化による腐食の問題が発生し、実際にはできなかった。これにより、トルク脈動を少なくし、制御性の良い回転機を得ることが可能になる。
次に、上記各実施例に適用可能な永久磁石に関する他の実施形態を以下に列挙する。
上記実施例の永久磁石は、磁性粉体を結着剤にて結着しているが、回転電機に使用する場合、場所に応じて磁性粉体の粒子の大きさを変えてもよい。ここで、磁性粉体の粒子の大きさが大きい方が磁気特性が優ているので、例えば、減磁の厳しい永久磁石の角部や、表面部に大きな磁性粉体を集めると信頼性を向上することができる。尚、このように、場所によって磁性粉体の粒子の大きさを変更するといった技術は、結着剤がSiO2である必要はなく、従来のボンド磁石にも適用することができる。また、磁性粉体の粒子の大きさを変更するのに、一度に圧縮成形する必要はなく、例えば、粒子の大きさが異なる磁石を夫々別々に成形し、最終的にこれらの磁石を一体化しても構わない。
更に、固定子に対向する側に高保磁力の磁性粉体を配置し、固定子から離れる側に高残留磁束密度の磁性粉体を配置することも考えられる。このように永久磁石を構成することにより、高残留磁束密度の磁性粉体は、高保磁力の磁性粉体よりも希土類含有量が少なく、全体を高保磁力の磁性粉体で成形するよりも磁束密度が高く、高トルク化及び低コスト化が図れる。特に異なる磁性粉体を層状に配置するとよい。尚、この永久磁石の成形方法としては、同一型内で夫々の磁性粉体を層状に別々もしくは同時に圧縮成形した後、
SiO2の前駆体を含浸させることが考えられる。
また、上記実施例では、回転子鉄心の表面に永久磁石を貼り付けるか、回転子鉄心に磁石挿入孔を形成して、この磁石挿入孔内に永久磁石を挿入するようにしたが、上記実施例の永久磁石を用いれば容易に円筒形状に成形することができるので永久磁石を円筒状に成形し、この円筒状の永久磁石を回転子鉄心の外側に配置固定してもよい。このような円筒状の永久磁石は、回転子鉄心に対して軸方向から挿入するだけでよいので製造が容易となると共に、永久磁石が破損しない限り、遠心力によって永久磁石が回転子鉄心から離れてしまうことはない。また、上記実施例の永久磁石を用いれば円筒形状の内周径と外周径を高精度に成形することが可能であるため、型成形後に切削加工を施さなくても回転子鉄心の外周と永久磁石の内周との間の隙間をできるだけ小さくすることが可能であり、更に固定子と永久磁石の外周との間の隙間も精度良くすることが可能となる。
また、上記実施例の永久磁石を用いれば、1つの永久磁石の中に異方性と等方性の両方を備えた永久磁石を製造することが可能となる。回転電機に用いる場合には、隣の極に近い側を異方性とし、その間を等方性とした方がよく、このように構成すれば、着磁を良好に行うことができる。
また、一般的な磁性粉体は扁平した板状を呈しているが、上記実施例の永久磁石は、結着剤を含浸する前に圧縮成形することから、図10に示したように磁性粉体の扁平する方向がほぼ同一方向を向くようになる。ここで回転電機に用いた場合には、扁平した面が固定子側に向くように構成すれば、扁平していない側の面が固定子側に向くより、優れた磁気特性を得ることができる。また、磁性粉体の扁平した面の方向を着磁する方向と一致させることで着磁も良好に行うことができる。更に扁平した面の方向から圧縮される方が扁平していない面の方向から圧縮されるよりも強い強度を有しているので、応力が作用する方向に扁平した面が向くように構成するとよい。例えば、遠心力の作用する方向に扁平した面が向くように構成することが考えられる。
また、上記第1実施例においては、同等の回転電機として説明したが、第1の回転電機を低速高トルク型の回転電機とし、第2の回転電機を高速低トルク型の回転電機に構成して、第1の回転電機は、主に駆動することをメインに行い、第2の回転電機は、主に発電することをメインに行うようにしてもよい。このとき、第1の回転電機は、小型で高トルクの特性が要求されることから回転子の磁極として磁束密度の高い焼結磁石を用いるとよい。これに対して、第2の回転電機は、トルクはあまり必要ないが、高速回転時に連れ回る際の鉄損を低減することが望まれている。ここで第2の回転電機における回転子の磁極として磁束密度の高い焼結磁石を用いた場合、高速回転時に連れ回されると、鉄損は、永久磁石の磁束密度の2乗に比例して大きくなるため、あまり有効ではない。そこで第2の回転電機における回転子の磁極として上記実施例で用いたような、磁性粉体をSiO系の材料で結着して構成した永久磁石を用い、リラクタンストルクの利用率を第1の回転電機より大きくすることにより車両の総合効率を向上させることができる。
また、上記実施例において、SiO2を磁性粉体の結着剤として用いたが、SiO2を絶縁体として用いることも考えられる。具体的には、回転子鉄心や固定子鉄心に用いられる積層鋼板の夫々の鋼板間にSiO2 を介在させてもよい。この場合、積層鋼板の一枚一枚に接着剤を塗布して一体化させる必要がなく、積層鋼板を積層させた状態でSiO2 の前駆体に浸けることで粘度の低いSiO2 の前駆体は、鋼板間に入り込み各鋼板同士を結着させることができる。
また、SiO2の前駆体を別の用途で使用する方法として、コイルにSiO2の前駆体を塗布することでコイルの表面に絶縁層を形成することが考えられる。SiO2 の前駆体は粘度が低いため、束になって巻回されているコイルの夫々に絶縁層を形成することも可能である。このようにSiO2 の前駆体を塗布することでどんなに狭い箇所でも絶縁機能を有した高硬度の表面処理を施すことができる。
次に、上記の各実施形態から把握し得る請求項に記載以外の発明について、以下にその作用効果と共に記載する。
(1)固定子に対して回転子が相対回転を行う永久磁石式回転電機であって、前記固定子は、周方向に複数のスロットを有する固定子鉄心と、該固定子鉄心の前記スロット内に巻装される固定子巻線とから構成されており、前記回転子は、周方向に異なった磁極が形成されるように着磁された永久磁石を有しており、該永久磁石は、磁性粉体を結着して構成され、該磁性粉体の粒子の大きさは位置によって異なっていることを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成することにより、用途に応じて優れた磁気特性が必要な箇所に粒子の大きな磁性粉体を用いることが可能となる。
(2)(1)に記載の永久磁石式回転電機であって、前記永久磁石は、角部を有する形状に成形されており、該角部における前記磁性粉体の粒子が他の部位に比べて大きいことを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成することにより、減磁の厳しい角部の磁気特性を改善することが可能となる。
(3)(1)に記載の永久磁石式回転電機であって、前記永久磁石は、前記固定子と対向する表面側における前記磁性粉体の粒子が他の部位に比べて大きいことを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成することにより、磁気特性や信頼性を向上させることができる。
(4)固定子に対して回転子が相対回転を行う永久磁石式回転電機であって、前記固定子は、周方向に複数のスロットを有する固定子鉄心と、該固定子鉄心の前記スロット内に巻装される固定子巻線とから構成されており、前記回転子は、周方向に異なった磁極が形成されるように着磁された永久磁石を有しており、該永久磁石は、場所によって種類の異なる磁性粉体を結着して構成されていることを特徴とする永久磁石式回転電機。このように永久磁石の特性を場所によって異ならせることができるので、望まれる特性に合った永久磁石とすることが可能となる。
(5)(4)に記載の永久磁石式回転電機であって、前記永久磁石は、種類の異なる磁性粉体を層状に配置した状態で結着したことを特徴とする永久磁石式回転電機。磁性粉体は扁平形状となっているため、種類の異なる磁性粉体を層状に構成することで異なる磁性粉体を明確に分けることができ、製造も容易となる。
(6)(4)に記載の永久磁石式回転電機であって、前記永久磁石は、前記固定子鉄心に対向する側に高保磁力の磁性粉体を配置し、前記固定子鉄心から離れる側に高残留磁束密度の磁性粉体を配置していることを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成することにより、高残留磁束密度の磁性粉体は、高保磁力の磁性粉体よりも希土類含有量が少なく、全体を高保磁力の磁性粉体で成形するよりも磁束密度が高く、高トルク化及び低コスト化が図れる。
(7)(4)に記載の永久磁石式回転電機の製造方法であって、前記永久磁石は、同一型内で夫々の磁性粉体を層状に別々もしくは同時に圧縮成形した後、SiO2 の前駆体を含浸させて成形されることを特徴とする永久磁石式回転電機の製造方法。このように構成することにより、場所によって特性の異なる永久磁石を容易に製造することが可能となる。
(8)固定子に対して回転子が相対回転を行う永久磁石式回転電機であって、前記固定子は、周方向に複数のスロットを有する固定子鉄心と、該固定子鉄心の前記スロット内に巻装される固定子巻線とから構成されており、前記回転子は、回転子鉄心と、該回転子鉄心の外周に配置され、周方向に異なった磁極が形成されるように着磁された永久磁石とを有しており、該永久磁石は、磁性粉体をSiO系の材料にて結着して円筒形状に構成されて前記回転子鉄心に装着されていることを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成することにより、永久磁石の部品点数を低減でき、組付け性も向上させることができる。また、遠心力が作用した際にも永久磁石の脱落を防ぐことが可能となる。
(9)固定子に対して回転子が相対回転を行う永久磁石式回転電機であって、前記固定子は、周方向に複数のスロットを有する固定子鉄心と、該固定子鉄心の前記スロット内に巻装される固定子巻線とから構成されており、前記回転子は、周方向に異なった磁極が形成されるように着磁された永久磁石を有しており、該永久磁石は、異方性の場所と等方性の場所を両方有していることを特徴とする永久磁石式回転電機。このように永久磁石を場所によって等方性としたり、異方性としたりすることができるので、望まれる特性に合った永久磁石とすることが可能となる。
(10)(9)に記載の永久磁石式回転電機であって、隣の極に近い側を異方性とし、その間を等方性としたことを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成することにより着磁を良好に行うことができる。
(11)固定子に対して回転子が相対回転を行う永久磁石式回転電機であって、前記固定子は、周方向に複数のスロットを有する固定子鉄心と、該固定子鉄心の前記スロット内に巻装される固定子巻線とから構成されており、前記回転子は、周方向に異なった磁極が形成されるように着磁された永久磁石を有しており、該永久磁石は、扁平した磁性粉体を結着して構成され、夫々の該磁性粉体は、扁平した面の方向がほぼ前記固定子鉄心側に向いていることを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成すると、扁平していない側の面が固定子側に向くより、優れた磁気特性を得ることができる。
(12)固定子に対して回転子が相対回転を行う永久磁石式回転電機であって、前記固定子は、周方向に複数のスロットを有する固定子鉄心と、該固定子鉄心の前記スロット内に巻装される固定子巻線とから構成されており、前記回転子は、周方向に異なった磁極が形成されるように着磁された永久磁石を有しており、該永久磁石は、扁平した磁性粉体を結着して構成され、該磁性粉体は、扁平した面の方向が着磁する方向とほぼ一致していることを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成することにより、着磁を良好に行うことができる。
(13)固定子に対して回転子が相対回転を行う永久磁石式回転電機であって、前記固定子は、周方向に複数のスロットを有する固定子鉄心と、該固定子鉄心の前記スロット内に巻装される固定子巻線とから構成されており、前記回転子は、周方向に異なった磁極が形成されるように着磁された永久磁石を有しており、該永久磁石は、扁平した磁性粉体を結着して構成され、該磁性粉体は、扁平した面の方向が応力の作用する方向とほぼ一致していることを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成することにより、応力に対する永久磁石の耐久性を向上させることができる。
(14)(13)に記載の永久磁石式回転電機であって、前記磁性粉体の扁平した面の方向は、遠心力が作用する方向とほぼ同一方向を向いていることを特徴とする永久磁石式回転電機。このように構成することにより、回転子が回転する際に作用する遠心力に対する永久磁石の耐久性を向上させることができる。
(15)エンジンと回転電機により駆動されるハイブリット車両であって、前記回転電機は、主に車両の駆動を行う第1の回転電機と、該第1の回転電機よりも高速で回転することが可能で、かつ、前記第1の回転電機よりも最大トルクが小さい、主に発電を行う第2の回転電機を有し、前記第1の回転電機は、磁極として焼結磁石を用いており、前記第2の回転電機は、磁極として磁性粉体をSiO系の材料にて結着した永久磁石を用い、更に前記第1の回転電機よりも多くのリラクタンストルクが得られるように構成されていることを特徴とするハイブリット車両。尚、前記第1の回転電機は、リラクタンストルクが得られなくても構わない。このように構成することにより、第1の回転電機は、小型で高トルクを得ることができ、第2の回転電機は、高速回転の時に連れ回された場合の鉄損を少なくできるので車両の総合効率を向上させることができる。
(16)固定子に対して回転子が相対回転を行う回転電機であって、前記固定子は、周方向に複数のスロットを有する固定子鉄心と、該固定子鉄心の前記スロット内に巻装される固定子巻線とから構成されており、前記回転子は、鋼板を積層することにより構成された回転子鉄心と、該回転子鉄心の周方向に異なった磁極を生じさせる磁極部とから構成されており、前記回転子鉄心における夫々の前記鋼板の間にSiO2 を介在させたことを特徴とする回転電機。積層された鋼板をSiO2の前駆体に浸けることで粘度の低いSiO2の前駆体は、鋼板間に入り込み各鋼板同士を結着させることができる。
(17)固定子に対して回転子が相対回転を行う回転電機であって、前記固定子は、周方向に複数のスロットを有する固定子鉄心と、該固定子鉄心の前記スロット内に巻装される固定子巻線とから構成されており、前記回転子は、周方向に異なった磁極を有しており、前記固定子巻線の表面にはSiO2 の層が形成されていることを特徴とする回転電機。SiO2 の前駆体は粘度が低いため、束になって巻回されているコイルの夫々に絶縁層を形成することも可能である。このようにSiO2 の前駆体を塗布することでどんなに狭い箇所でも絶縁機能を有した高硬度の表面処理を施すことができる。