本発明の実施形態は、ブラックインク組成物、インクセット、該インクセットを用いた記録方法及び記録物等の各種の態様を包含している。これらの各種の発明の態様は、いずれもブラックインク組成物に関連している。本発明のブラックインク組成物によれば、水溶性ポリウレタン樹脂を所定量含有することで、表面欠陥などが回避又は抑制された良好な状態の記録物を提供できる。また、本発明のブラックインク組成物は、表面欠陥が回避又は抑制されるとともに、所定量のカーボンブラックを含有することで、ゴールデングロスや位相ずれなどが有効に回避又は抑制されたモノクロ画像又はグレースケール画像を備える記録物を提供できる。本発明のブラックインク組成物によれば、所定量の水溶性ウレタン樹脂を含有することにより、記録物接触部材等へのインク組成物の樹脂成分の付着性を低下させ、これにより付着物が固化して接触部材が膨大化すること等の不具合が抑制される。このため、接触部材が記録物に接触することが繰り返されたとしても接触部分が膨大化されず、接触の痕跡を残しにくくなる。また、ブラックインク組成物は所定量の水溶性ウレタン樹脂を含有することで、接触部材が記録物上の固化前のブラックインク組成物に接触してもその接触痕跡を残留させない程度の流動性(粘性)を一定期間保持することができると考えられる。以下、本発明のブラックインク組成物、インクセット、記録方法及び記録物の各種態様について詳細に説明する。
(ブラックインク組成物)
本発明のブラックインク組成物は、1種又は2種以上の他のブラックインク組成物と組み合わせて使用されることがあるブラックインク組成物である。こうした組み合わせによって、「位相ずれ」や「ゴールデングロス」を回避又は抑制することができる。
「位相ずれ」とは、前記のとおり、記録媒体上に印字された記録画像に対して、観察者
の観察角度を変化させたり、光源の照射角度を変化させると、中間階調用ブラックインク組成物で記録した領域の一部で灰色の明度がずれて、本来の灰色よりも黒色側あるいは白色側にずれて観察される現象である。位相ずれが発生すると、その領域が本来の灰色よりも薄い灰色に見えたり、暗い灰色に見えたり、あるいは完全に真っ黒になるので、画像の輪郭までも判別することが非常に困難になる。こうした現象は特にグロス調又はセミグロス調といった光沢系の記録媒体に記録した際に生じやすく、マット調の記録媒体では比較的には起こりにくい。
位相ずれが発生する領域について、図1に基づいて説明する。図1に模式的に示すように、濃いブラックインク組成物K1と、中間階調用ブラックインク組成物K2と、薄いブラックインク組成物K3との使用割合を変化させることによって、黒色から白色に至るグレースケールを適切に作成することができる。このように、3種類のブラックインク組成物K1、K2、及びK3を用いると、前記のように、グレーバランスの安定性とメタメリズムを飛躍的に向上させることができる。しかしながら、図1の「位相ずれ発生領域」に示すとおり、主に、中間階調用ブラックインク組成物K2によって記録される領域に、位相ずれが発生する。
前記の「位相ずれ発生領域」は、グレーレベル約35〜約55の領域を中心として、約30〜約60の領域にまで及ぶ(ここでグレーレベル0を絶対黒とし、グレーレベル255を絶対白とする)。また、「位相ずれ発生領域」の明度範囲は、約25〜約30を中心領域とし、約20〜約35の領域まで及ぶ。2種以上のブラックインク組成物を用いて黒白モノクロ画像を記録する場合には、位相ずれ発生領域を記録するのに用いられるブラックインク組成物は、通常、カーボンブラックをそのブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%以上1.5重量%以下の量で有する中間階調用ブラックインク組成物(以下、当該濃度範囲のカーボンブラックを含有するブラックインク組成物を、特に第1のブラックインク組成物という。)である。
一方、「ゴールデングロス」(golden gloss;以下、GGと略称すること
がある)とは、前記のとおり、記録媒体上に印字された記録画像に対して、観察者の観察角度を変化させたり、光源の照射角度を変化させると、薄いブラックインク組成物で記録した領域の一部が金色にキラキラ光る現象である。本発明者の研究によれば、ゴールデングロスは、或る特定領域にのみ発生する。このゴールデングロスが発生すると、その発生領域は勿論、その近辺領域においても、記録物の色調の判別は不能になり、記録画像の輪郭までも判別することが非常に困難になる。
ゴールデングロスが発生する領域は、図1の「GG発生領域」(すなわち、ゴールデングロス発生領域)に示すとおり、主に、薄いブラックインク組成物K3によって記録される領域である。前記の「GG発生領域」は、グレーレベル約100〜約140の領域を中心として、約90〜約160の領域にまで及ぶ(ここでグレーレベル0を絶対黒とし、グレーレベル255を絶対白とする)。また、「GG発生領域」の明度範囲は、約50〜約60を中心領域とし、約40〜約70の領域まで及ぶ。2種以上のブラックインク組成物を用いて黒白モノクロ画像を記録する場合には、GG発生領域を記録するのに用いられるブラックインク組成物は、通常、カーボンブラックをそのブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%未満の量(特には、0.01重量%以上で0.4重量%未満の量)で有する濃度の比較的薄いブラックインク組成物(以下、当該濃度範囲のカーボンブラックを含有するブラックインク組成物を、特に第2のブラックインク組成物という。)である。
(水溶性ポリウレタン樹脂)
本ブラックインク組成物は、水溶性ポリウレタン樹脂を含有している。水溶性ポリウレタン樹脂は、特に制限はなく、ジイソシアネート化合物とジオール化合物とを反応して得られる水溶性のポリウレタン樹脂を使用することができる。ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート化合物、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらジイソシアネートの変性物(カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン含有変性物など)等が挙げられる。
ジオール化合物としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドやテトラヒドロフラン等の複素環式エーテルを(共)重合させて得られるジオール化合物が挙げられる。斯かるジオール化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルジオール、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ−3−メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペート等のポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール等のポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。これらの中では、ポリエーテル系、ポリエステル系及びポリカーボネート系のうち1種以上が好ましい。
また、上記の他、カルボン酸基、スルホン酸基などの酸性基を有するジオール化合物も使用でき、その具体例としては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸などが挙げられる。これらの中では、ジメチロールプロピオン酸が好ましい。これらのジオール化合物は、2種以上を併用してもよい。
水溶性ポリウレタン系樹脂の合成に際しては、低分子量のポリヒドロキシ化合物を添加してもよい。低分子量のポリヒドロキシ化合物としては、ポリエステルジオールの原料として使用される、グリコール、アルキレンオキシド低モル付加物、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール及びそのアルキレンオキシド低モル付加物が挙げられる。また、このようにして得られたウレタンプレポリマーは、ジメチロールアルカン酸に由来する酸基を中和した後または中和しながら水延長またはジ(トリ)アミンで鎖延長することができる。鎖延長の際に使用されるポリアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
水溶性ポリウレタン樹脂としては、望ましくは、ジオール化合物としてポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のジオールを用いて得られるポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられる。水溶性ポリウレタン樹脂の形態も特に限定されない。代表的には、エマルジョンタイプ、例えば、自己乳化エマルジョンや、自己安定化タイプが挙げられる。特に、上記の化合物のうちカルボン酸基、スルホン酸基などの酸性基を有するジオールを用いたり、低分子量のポリヒドロキシ化合物を添加したり、酸性基を導入したウレタン樹脂、中でもカルボキシル基を有するものが望ましい。さらに、後述する架橋処理により、これらカルボキシル基等の官能基を架橋させるのが、光沢向上、耐擦性向上等の点から望ましい。
水溶性ポリウレタン樹脂は、中和したものを使用することもできる。中和に使用する塩基としては、例えば、ブチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、モルホリン、アンモニア、水酸化ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。
ポリウレタン樹脂の酸価は、記録物上の表面欠陥及びゴールデングロス又は位相ずれを抑制する観点からは、好ましくは10〜300であり、一層好ましくは20〜100である。なお、酸価は、樹脂1gを中和させるのに必要なKOHのmg量である。また、ポリウレタン樹脂の架橋前の重量平均分子量(Mw)は、記録物上の表面欠陥及びゴールデングロス又は位相ずれを抑制する観点からは、好ましくは100〜20万であり、より好ましくは1000〜5万である。Mwは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)
で測定する。ポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg;JIS K6900に従い測定)は、記録物上の表面欠陥及びゴールデングロス又は位相ずれを抑制する観点からは、好ましくは−50〜200℃であり、一層好ましくは−50〜100℃である。さらに、ポリウレタン樹脂は、本発明の顔料分散液中において微粒子状に分散している場合と顔料に吸着している場合とがあるが、記録物上の表面欠陥及びゴールデングロス又は位相ずれを抑制する観点からは、ポリウレタン樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分子径(体積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(Microtrac Inc.社)を使用して測定することができる。
水溶性ポリウレタン樹脂の好ましい具体例としては、NeoRez R−960(ゼネカ製)、NeoRez R−989(ゼネカ製)、NeoRez R−9320(ゼネカ製)、NeoRad NR−440(ゼネカ製)、ハイドランAP−30(大日本インキ工業(株)製)、ハイドランAPX−601(大日本インキ工業(株)製)、ハイドランSP−510(大日本インキ工業(株)製)、ハイドランSP−97(大日本インキ工業(株)製)、エラストロンMF−60(第一工業製薬(株)製)、エラストロンMF−9(第一工業製薬(株)製)、M−1064(第一工業製薬(株)製)、アイゼラックスS−1020(保土ヶ谷化学(株)製)、アイゼラックスS−1040(保土ヶ谷化学(株)製)、アイゼラックスS−1085C(保土ヶ谷化学(株)製)、アイゼラックスS−4040N(保土ヶ谷化学(株)製)、ネオタンUE−5000(東亞合成(株)製)、RU−40シリーズ(スタール・ジャパン製)、ユーコートUWS−145(三洋化成(株)製)、パーマリンUA−150(三洋化成(株)製)、WF−41シリーズ(スタール・ジャパン製)、WPC−101(日本ウレタン工業(株)製)が挙げられる。
(エージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物)
水溶性ポリウレタン樹脂とともにあるいは水溶性ポリウレタン樹脂として、エージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物を用いることができる。エージングされたポリウレタン樹脂組成物とは、水溶性ポリウレタン樹脂と水溶性有機溶媒と水とを含有し、実質的な粘度変化を有しない組成物、当該組成物の製造方法、当該組成物を用いた水性インク組成物の製造方法および水性インク組成物である。
エージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物を用いることで、粘度変化を回避又は抑制された水性インク組成物が得られる。本発明のポリウレタン樹脂組成物は、好ましくは、水溶性ポリウレタン樹脂と水溶性有機溶媒と水とを含む混合物を当該混合物の粘度を低下させるエージング工程を実施することによって得ることができる。また、水性インク組成物は、本発明のポリウレタン樹脂組成物と、水と顔料とを含有する顔料分散液と、残余の成分とを用いて調製することができる。顔料分散液に本発明のポリウレタン樹脂組成物を混合することで、容易に粘度変化が回避又は抑制された水性インクを得ることができる。こうして製造された水性インク組成物をインクジェットプリンタ用のインク組成物として用いる場合、ノズルからの吐出安定性が確保されたインクを提供することができる。また、こうした水性インク組成物によれば、粘度等が安定化するのを待って市場に供給する必要もないため、効率的な生産及び供給が可能となる。
特に、本発明のブラックインク組成物や後述するライトカラーインク組成物においては、相対的に水溶性ポリウレタン樹脂固形分を多く含有しているため、経時的なインク組成物の粘度変化の影響が大きいと考えられるが、エージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物を少なくとも水溶性ポリウレタン樹脂の一部として、好ましくは、水溶性ポリウレタン樹脂をエージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物として含有させることにより、特別に粘度変化を抑制するための処理をインク組成物に加えたり、あるいはそのための添加剤をインク組成物に加えたりすることなく、インク組成物の粘度を安定化することができる。しかも、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂組成物を使用しても本発明のブラックインク組成物等に含有されている水溶性ポリウレタン樹脂の本来の目的を妨げることなく粘度安定性を確保することができたのである。
本組成物は、水溶性ポリウレタン樹脂と水溶性有機溶媒と水とを含有している。一方、本組成物は、顔料を含有していない。ここで、水溶性とは、水あるいは水を含む水性媒体に分散可能、好ましくは溶解可能であることを意味する。
(水溶性有機溶媒)
ポリウレタン樹脂組成物は、1種又は2種類以上の水溶性有機溶媒を含むことができる。水溶性有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であれば特に限定しないで用いることができるが、水性インク組成物の水性媒体を構成するものであって、ポリウレタン樹脂と混合した際、混合物の粘度が上昇又は変化するような水溶性有機溶媒を用いることが好ましい。こうした水溶性有機溶媒としては、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ピロリドン類、ジオール類が挙げられる。なかでも、ジオール類が好ましい。ジオール類としては、炭素数5〜7の直鎖アルキルジオール類が好ましく、より好ましくは、1,2−ヘキサンジオールである。1,2−ヘキサンジオールは、水性インク組成物において好ましい水溶性有機溶媒であるとともに、ポリウレタン樹脂と混合した際に粘度が上昇するからである。したがって、予めポリウレタン樹脂と1,2−ヘキサンジオールとを混合し粘度を安定化させておくことで粘度等の安定性に優れるエージング樹脂を得ることができる。なお、水性インク組成物に用いる水溶性有機溶媒の全量がポリウレタン樹脂組成物から供給される必要はなく、ポリウレタン樹脂組成物には、ポリウレタン樹脂をエージングするのに有効量の水溶性有機溶媒が含まれていればよい。
水溶性有機溶媒としては、トリオール類も好ましい。トリオール類は、水やジオール類との相溶性が良好であるほか、トリオール類は、ポリウレタン樹脂組成物を低温下で保存する場合、樹脂組成物の凍結及び凍結による粘度上昇を抑制することができるからである。こうしたトリオール類としては、炭素数3〜5の直鎖アルキルトリオール類が好ましく、より好ましくは、グリセリン(1,2,3−プロパントリオール)である。グリセリンは、水性インク組成物の保湿剤成分でもあることから、本ポリウレタン樹脂組成物を用いた水性インク組成物の組成や物性を大きく変えることなく用いることができる。
また、本ポリウレタン樹脂組成物における水溶性有機溶媒の濃度は、0.5wt%以上20wt%以下であることが好ましい。0.5wt%未満であるとエージングの効果が得られにくいからであり、20wt%を超えると安定な組成物を調製できないからである。より好ましくは、1wt%以上15wt%以下である。
ポリウレタン樹脂組成物におけるポリウレタン樹脂と水溶性有機溶媒との重量比は特に限定しない。最終的に得ようとする水性インク組成物における樹脂量にもよるが、本混合物における水溶性有機溶媒は、ポリウレタン樹脂の固形分に対して10wt%以上100wt%以下とすることができる。この範囲で、有効にエージングできるからである。
ジオールなどの水溶性有機溶媒は、ポリウレタン樹脂の固形分に対して50wt%以上100wt%以下とすることができる。この範囲であると、カーボンブラック等の顔料濃度が1.5wt%以上の水性インク組成物において有効な粘度安定化効果を得ることができる。より好ましくは80wt%以下であり、さらに好ましくは73wt%以下である。また、下限はより好ましくは、60wt%以上である。
また、ジオール類などの水溶性有機溶媒は、ポリウレタン樹脂の固形分に対して10wt%以上50wt%未満であることが好ましい。この範囲であると、カーボンブラック等の顔料の含有量が1.5wt%未満(特には、0.4wt%未満)の水性インク組成物において、有効な粘度安定化効果を得ることができる。こうした顔料含有量の低い水性インク組成物において相対的に多量の水溶性ポリウレタン樹脂を含有する場合、上記比率で水溶性有機溶媒を含有することで水溶性ポリウレタン樹脂による粘度変化等を有効に抑制できる。より好ましくは、15wt%以上であり、さらに好ましくは20wt%以上である。また、上限はより好ましくは40wt%以下である。なお、顔料濃度1.5wt%未満の水性インク組成物については後述する。
トリオール類などの水溶性有機溶媒は、ポリウレタン樹脂の固形分に対して10wt%以上100wt%以下であることが好ましい。より好ましくは、15wt%以上である。さらに好ましくは30wt%以上であり、一層好ましくは50%以上である。
(その他の成分)
ポリウレタン樹脂組成物は、少なくとも水溶性ポリウレタン樹脂および水溶性有機溶媒を含有し、これらのみから構成されていてもよいが、これらはともに水に分散あるいは溶解可能であることから、混合物は好ましくは水を含んでいる。例えば、本組成物は、ポリウレタン樹脂と水溶性有機溶媒と水とのみから構成することができる。水は水性インク組成物およびインク組成物において主要な媒体成分であり、水を含む状態でエージングすることで効果的にエージングを行なうことができる。水は、ろ過されたイオン交換水以上のグレードの水を用いることが好ましい。なお、本組成物は、顔料を含まないことが好ましい。
ポリウレタン樹脂組成物には、ポリウレタン樹脂を水に分散あるいは溶解可能とするために、アルカリやアミン類などの塩基性化合物を含んでいてもよい。また、組成物には、他に、エージング工程に悪影響を与えない範囲で、顔料以外の他の水性インク組成物の成分を含めることができる。例えば、水性インク組成物を調製するのにあたって、用いられる界面活性剤、pH調製剤などの成分を添加することも可能である。界面活性剤、pH調整剤等については後述する。
混合物の調製方法は特に限定しない。ポリウレタン樹脂と水溶性有機溶媒との所定量を混合した後、必要に応じて水を添加することもできるし、ポリウレタン樹脂と水溶性有機溶媒と水とをおおよそ同時に混合することもできるし、ポリウレタン樹脂あるいは水溶性有機溶剤のいずれかと水との混液を調製後に、残部を添加し混合してもよい。ポリウレタン樹脂の安定性確保の観点からは、ポリウレタン樹脂の水溶液を混合物に用いることが好ましい。
本発明で用いる水溶性ポリウレタン樹脂組成物は、実質的な粘度変化を有しない。ここで実質的な粘度変化を有しないとは、粘度が時間経過に伴って大きく変化せず、ほぼ一定であることを意味している。こうした特性は、具体的には、密封可能な容器(粘度に対する蒸発等の影響を排除することができる程度の密封性容器)にポリウレタン樹脂組成物の所定量を封入して所定温度(例えば、70℃±3℃)の恒温下で所定期間静置し、該静置期間開始時と終了後の粘度を測定し、これらの粘度から下記式(1)に基づいて得られる粘度変化率(ΔV)に基づいて判断することもできる。
ΔV(%)=|V−V0|/V0×100・・・(1)
ただし、V0は静置期間開始時の粘度であり、Vは静置期間終了後の粘度である。なお、粘度の測定温度は20℃とすることが好ましい。
本発明のポリウレタン樹脂組成物については、静置期間を1日としたとき前記粘度変化率が3.0%以下であることが好ましく、より好ましくは2.5%以下であり、さらに好ましくは2.0%以下である。3.0%以下であれば、最終的に得ようとする水性インク組成物の粘度変化を回避又は抑制できる。
なお、ポリウレタン樹脂組成物おける粘度は、動粘度(単位Pa・s)として測定され、その測定は逆流式粘度管を用いた測定方法あるいはこれと同等の精度及び正確性が得られる測定方法によることが好ましい。具体的には、キャノンフェンスケ型の逆流式粘度管(典型的には、離合社製のVMC−252型)を用い、20℃における管内の液体(インク)の移動時間により測定することができる。
また、グリセリンなどのトリオール類を含有するポリウレタン樹脂組成物にあっては、低温において実質的な粘度変化を有しない。なお、本明細書において低温とは、5℃以下を意味し、好ましくは0℃以下、より好ましくは−5℃以下、さらに好ましくは−10℃以下を意味している。また、実質的に粘度変化を有しないとは、既にのべたのと同義である。こうした低温時における特性は、具体的には、密封可能な容器(粘度に対する蒸発等の影響を排除することができる程度の密封性容器)にポリウレタン樹脂組成物の所定量を封入して所定の低温(例えば、−20℃±3℃)の恒温下で所定期間静置し、該静置期間開始時と終了後の粘度を測定し、これらの粘度から上記式(1)に基づいて得られる粘度変化率(ΔV)に基づいて判断することもできる。なお、粘度の測定温度は20℃とすることが好ましい。
トリオール類を含有するポリウレタン樹脂組成物については、−20℃±3℃での静置期間を4日としたとき前記粘度変化率が10.0%未満であることが好ましく、より好ましくは6.0%未満である。10.0%未満であれば、最終的に得ようとする水性インク組成物の粘度変化を回避又は抑制できる。
(水溶性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法)
本発明のポリウレタン樹脂組成物にこうした特性を付与するには、水溶性ポリウレタンと水溶性有機溶媒との混合物(以下、実質的な粘度変化のない状態に至る前のポリウレタン樹脂組成物を混合物というものとする。)の粘度を低下させるエージング工程を実施することができる。本発明において、エージングとは、物質が時間の経過とともに化学変化やその他の現象を起こす現象あるいはそのような現象を起こさせるための操作をいう。したがって、本発明におけるエージング工程は、エージングを実施しない場合と比較して水性インク組成物調製時および/または調製後において粘度などの液体の物性が改善ないし安定化できる程度に、前記混合物について時間を経過させる工程であれば足り、必ずしも外部から人為的になんらかの作用(温度等)を付与するものである必要はない。したがって、エージング工程は、工程間における待機あるいは保管時の雰囲気での一定時間の経過であってもよいし、独立する工程でなく他の工程に付随するものであってもよい。
エージング工程は、例えば、混合物自体の粘度が安定化するまで行なうか、あるいは、最終的に得ようとするインク組成物のその調製後一定期間における粘度変化が一定以下に抑制できる程度に安定化するまで行なうことができる。なお、混合物の粘度は、例えば、インクなどの分野で用いられている粘度測定法であればよく、例えば、キャノンフェンスケ型逆流式粘度管を用いる方法を用いることができる。
エージング工程の温度は40℃以上であることが好ましい。40℃以上であれば、適切な期間内でエージング工程を完了できるからである。より好ましくは50℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上である。また、当該温度は80℃以下であることが好ましい。80℃以下であれば、インク用としてのポリウレタン樹脂組成物の物性等が維持されるからである。したがって、エージング工程においては、40℃以上80℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以上80℃以下である。最も好ましくは約70℃である。こうしたエージング温度を確保するには、エージング工程を加熱を伴って実施することが好ましい。
エージング工程の時間は、24時間以上であることが好ましい。24時間以上であれば、エージングの効果が得られるからである。より好ましくは48時間以上であり、さらに好ましくは72時間以上である。120時間以上であることが好ましい場合もある。また、エージング工程は216時間以下とすることができる。216時間以内であれば、時間に応じた効果が得られやすいからである。生産効率の観点からは、好ましくは、168時間以下である。より好ましくは144時間以下である。したがってエージング工程の好ましい所要時間の範囲の例としては、24時間以上168時間以下、48時間以上144時間以下、72時間以上216時間以下、120時間以上216時間以下等が挙げられる。
エージング工程の所要時間は、混合物中における水溶性有機溶媒量によっても相違することがある。例えば、水溶性有機溶媒量が水溶性ポリウレタン樹脂(固形分)量に対して多いほど相対的にエージング所要時間が短くなる傾向があり、水溶性有機溶媒量が少ないほど相対的にエージング所要時間が長くなる傾向がある。したがって、水溶性有機溶媒が水溶性ポリウレタン樹脂の固形分に対して10wt%以上50wt%未満の混合物には、120時間以上216時間以下であることが好ましく、168時間以上216時間であることがより好ましい。また、水溶性有機溶媒が50wt%以上100wt%以下の混合物には、24時間以上168時間以下であることが好ましく、72時間以上120時間以下であることがより好ましい。
以上のことから、好ましいエージング工程としては、約70℃で48時間以上144時間以下とすることが挙げられる。さらに好ましくは、約70℃で72時間以上120時間以下とすることが挙げられる。また、これらのエージング条件によって混合物に付与されうるエージング効果と同様の効果を付与できる限り、他のエージング条件であってもよい(以下、このような他のエージング条件を当該条件と等価なエージング条件という)。一つのエージング条件と等価なエージング条件は、時間および/または温度を変化させた条件でエージング工程を実施して得られる効果を評価することで取得できる。
また、他の好ましいエージング工程としては、約70℃で120時間以上216時間以下とすることが挙げられる。さらに好ましくは、約70℃で168時間以上216時間以下とすることが挙げられる。さらに、これらの条件と等価なエージング効果が得られるエージング条件が挙げられる。
こうしてエージング工程を経て得られるポリウレタン樹脂組成物は、エージングによって粘度等の経時変化が低減されて安定化され、単にこれらが混合されたものとは粘度等の物性を含む物理化学的特徴が相違したものとなっている。したがって、エージング工程後のポリウレタン樹脂組成物は、水性インク組成物の調製に適したポリウレタン樹脂組成物となっている。
また、トリオール類を含有する混合物をエージングして得られるポリウレタン樹脂組成物は、上記した特徴のほか、低温で保存した場合であっても、凍結及び凍結によるポリウレタン樹脂組成物の変性(例えば、粘度上昇など)を抑制して、水性インク組成物の調製に適した物性を維持することができる。
本発明のブラックインク組成物は、水溶性ポリウレタン樹脂を、樹脂固形分として、0.2重量%以上10重量%以下含有していることが好ましい。この範囲であると、効果的にブラックインク組成物の付着性や粘度を低下させることができ、記録物上における表面欠陥を回避又は抑制できる。また、位相ずれやゴールデングロスも同時にさらに効果的に回避又は抑制できる。より好ましくは、0.5重量%以上であり、また、5重量%以下である。
特に、第1のブラックインク組成物においては、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分は0.2重量%以上4重量%以下であることが好ましい。この範囲であると、第1のブラックインク組成物のカーボンブラック濃度域において有効に表面欠陥を回避又は抑制できる。また、位相ずれも効果的に回避又は抑制できる。より好ましくは、0.5重量%以上であり、また、2重量%以下である。0.5重量%以上であると、第1のブラックインク組成物の形成するインク層に適切な膜厚の樹脂層を付与してゴールデングロスをより回避又は抑制できる。2重量%以下であると、第1のブラックインク組成物の粘度を適切な範囲に保持しやすく、吐出安定性を確保できるからである。さらに好ましくは、1.5重量%以下である。
また、第2のブラックインク組成物においては、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分は1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。この範囲であると、第2のブラックインク組成物のカーボンブラック濃度域において有効に表面欠陥を回避又は抑制できる。また、ゴールデングロスも効果的に回避又は抑制できる。より好ましくは、2重量%以上であり、また、6重量%以下である。2重量%以上であると、第2のブラックインク組成物の形成するインク層に適切な膜厚の樹脂層を付与してゴールデングロスをより回避又は抑制でき、6重量%以下であると、第2のブラックインク組成物の粘度を適切な範囲に保持しやすく、吐出安定性を確保できるからである。さらに好ましくは、4重量%以下である。
さらに、例えば、第1のブラックインク組成物と第2のブラックインク組成物とさらにカーボンブラック濃度の高い他のブラックインク組成物(例えば、1.5重量%以上)と組み合わせて用いる場合、第1のブラックインク組成物と第2のブラックインク組成物との関係では、第2のブラックインク組成物における水溶性ポリウレタン樹脂の固形分濃度が第1の当該固形分濃度よりも高いことが好ましい。カーボンブラックの含有量が少ないときに水溶性ポリウレタン樹脂の固形分の絶対量が多いと、安定した膜厚の樹脂膜を備えるインク層を形成できるからである。第2のブラックインク組成物の水溶性ポリウレタン樹脂の樹脂固形分濃度は、第1のブラックインク組成物の同樹脂の固形分濃度の2倍以上であることが好ましく、より好ましくは、3倍以上である。第1のブラックインク組成物と第2のブラックインク組成物とのカーボンブラック濃度差を考慮すれば、当該濃度比が2倍以上であると、カーボンブラック濃度に関わらず、安定した膜厚の樹脂膜を形成でき、それぞれの組成物において効果的に記録物上の表面欠陥、位相ずれやゴールデングロスを回避又は抑制できる。
また、第1のブラックインク組成物において、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分は、カーボンブラック含有量の0.67倍以上2.5倍以下であることが好ましい。この範囲の
濃度比であると、位相ずれを回避又は抑制しつつ、記録物上の表面欠陥を抑制できる。より好ましくは、1.0倍以上であり、さらに好ましくは1.2倍以上である。また、より好ましくは2.0倍以下であり、さらに好ましくは1.6倍以下である。
また、第2のブラックインク組成物において、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分は、カーボンブラック含有量の7.5倍以上であることが好ましい。7.5倍以上であると、ゴールデングロスを回避又は抑制しつつ記録物上の表面欠陥を抑制できる。より好ましくは、10倍以上であり、さらに好ましくは12倍以上であり、最も好ましくは13倍以上である。
(微粒子エマルジョン)
本発明のブラックインク組成物は、微粒子エマルジョンを含有してもよい。本発明のブラックインク組成物が含有することのできる微粒子エマルジョンは、分散媒が水であり、分散質がポリマー微粒子である水系分散液の形態を採ることができる。この微粒子エマルジョンに含まれるポリマー微粒子の最低造膜温度(MFT)は、特に限定されるものではないが、好ましくは25℃以下、より好ましくは0〜25℃、更に好ましくは10〜20℃である。MFTは、JIS K 6800に従って測定される。MFTが前記範囲内のエマルジョンを含有する本発明に係るインク組成物を用いて記録媒体に印字することにより、室温下で印字面を被覆する保護膜が自動的に形成される。
微粒子エマルジョンに含有される前記ポリマー微粒子のガラス転移温度(Tg)は、該エマルジョンのMFTを前記範囲内に調整する観点から、−15〜10℃であることが好ましく、−5〜5℃であることが更に好ましい。Tgは、JIS K6900に従って測定される。エマルジョンのMFTを前記範囲内に調整するその他の方法としては、市販のMFT降下剤を使用する方法を挙げることができる。
前記ポリマー微粒子は、インク組成物中における分散安定性の観点から、その平均粒子径が5〜200nmであることが好ましく、5〜100nmであることが更に好ましい。
また、前記ポリマー微粒子は、親水性部分と疎水性部分とを有するものが好ましい。前記ポリマー微粒子の構造は、単相構造、複相構造(コアシェル構造)等のいずれでもよい。該コアシェル構造は、異なる2種以上のポリマーが相分離して存在する構造であればよく、例えば、シェル部がコア部を完全に被覆している構造、シェル部がコア部の一部を被覆している構造、シェル部ポリマーの一部がコア部ポリマー内にドメイン等を形成している構造、コア部とシェル部の中間に更にもう一層以上、組成の異なる層を含む3層以上の多層構造であってもよい。
前記ポリマー微粒子として、前記コアシェル構造のものを用いる場合、コア部がエポキシ基を有するポリマーからなり、シェル部がカルボキシル基を有するポリマーからなるものが好ましい。インク組成物に、このようなポリマー微粒子を含有させることにより、前記保護膜の形成時に、前記コア部のエポキシ基と前記シェル部のカルボキシル基とが結合して網目構造を形成するので、該保護膜の強度を向上させることができる。
また、前記ポリマー微粒子は、カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーに由来する構造を1重量%以上10重量%以下有し、且つ重合可能な二重結合を好ましくは2つ以上、更に好ましくは3つ以上有する架橋性モノマーによって架橋された構造(架橋性モノマーに由来する構造)を0.2重量%以上4重量%以下有するものが好ましい。インク組成物に、このようなポリマー微粒子を含有させることにより、ノズルプレート表面が該インクにより濡れ難くなるので、該インク液滴の飛行曲がりを防止することができ、吐出安定性をより向上させることができる。
前記カルボキシル基を有する不飽和ビニルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等を挙げることができ、特にメタクリル酸が好ましい。
前記架橋性モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパンメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;メチレビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。
前記ポリマー微粒子は、前記エマルジョンとして、本発明に係るインク組成物に含有されるが、該エマルジョンは、公知の乳化重合により製造することができる。例えば、不飽和ビニルモノマーを、界面活性剤(乳化剤)、重合触媒、重合開始剤、分子量調整剤及び中和剤等の存在下、水中で乳化重合させることにより、前記ポリマー微粒子の前記エマルジョンが製造される。
前記不飽和ビニルモノマー(前記ポリマー微粒子を構成するモノマー)としては、一般的に乳化重合で使用されるアクリル酸エステルモノマー類、メタクリル酸エステルモノマー類、芳香族ビニルモノマー類、ビニルエステルモノマー類、ビニルシアン化合物モノマー類、ハロゲン化モノマー類、オレフィンモノマー類及びジエンモノマー類等を挙げることができる。具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化モノマー類;スチレン、2−メチルスチレンビニルトルエン、tert−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン、イソプロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニルモノマー類を挙げることができる。
前記界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等)及び非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等)を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、アセチレングリコール[オレフィンY並びにサーフィノール82,104,440,465及び485(何れもAir Products andChemicals Inc.製)]を用いることもできる。
前記エマルジョン(前記ポリマー微粒子)の製造時においては、印刷安定性の向上の観点から、前記乳化重合の際に、前記不飽和ビニルモノマーに加えて、アクリルアミド類及び水酸基含有モノマーからなる群から選ばれる1種又は2種以上を配合することが好ましい。該アクリルアミド類としては、例えば、アクリルアミド及びN,N'−ジメチルアクリルアミド等を挙げることができ、使用に際しては、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、該水酸基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
また、前記ポリマー微粒子として、前記コアシェル構造のものを用いる場合、それを含有するエマルジョンは、例えば、特開平4−76004号公報に開示されている方法(前記不飽和ビニルモノマーの多段階の乳化重合)等により製造することができる。なお、前述したように、コアシェル構造のポリマー微粒子は、そのコア部がエポキシ基を有するポリマーからなることが好ましいが、コア部へのエポキシ基の導入方法としては、例えば、エポキシ基を有する不飽和ビニルモノマーであるグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等を他の不飽和ビニルモノマーと共重合させる方法、あるいは一種以上の不飽和ビニルモノマーを重合させてコア部(コア粒子)を調製する際に、エポキシ化合物を同時に添加し、これらを複合化させる方法等を挙げることができる。特に、前者の方法が、重合の容易さや重合安定性等の点で好ましい。
ブラックインク組成物における、微粒子エマルジョンの固形分濃度は、0.5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1重量%以上である。また、より好ましくは0.5重量%以上10重量%以下であることが好ましい。より好ましくは1重量%以上である。添加量が0.5重量%以上であると、ゴールデングロス、位相ずれを抑制して印字品質が得られやすくなり、10重量%以下であると、インクの保存安定性や目詰まり回復性を確保することができる。
また、第1のブラックインク組成物における前記微粒子エマルジョンの固形分濃度は、0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは3重量%以下である。また、第2のブラックインク組成物における微粒子エマルジョンの固形分濃度は、1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、8重量%以下である。さらに好ましくは5重量%以下である。
本ブラックインク組成物が微粒子エマルジョンを含有するとき、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分と微粒子エマルジョンの固形分との合計量は、0.5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。この範囲であるとブラックインク組成物の粘度を適切な範囲に維持しやすく、吐出安定性を確保できるからである。より好ましくは1重量%以上であり、さらに好ましくは1.5重量%以上である。また、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは8重量%以下である。
また、第1のブラックインク組成物が微粒子エマルジョンを含有する場合、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分と微粒子エマルジョンの固形分との合計量は、0.8重量%以上10重量%以下であることが好ましい。この範囲であるとブラックインク組成物の粘度を適切な範囲に維持しやすく、吐出安定性を確保できるからである。より好ましくは、1重量%以上であり、さらに好ましくは1.5重量%以上である。また、より好ましくは、8重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下である。
第2のブラックインク組成物が微粒子エマルジョンを含有する場合、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分と微粒子エマルジョンの固形分との合計量は、0.2重量%以上20重量%以下であることが好ましい。この範囲であると良好な印字品質と吐出安定性を確保でき、インクの信頼性も確保できるからである。より好ましくは、0.5重量%以上であり、さらに好ましくは1重量%以上である。また、より好ましくは、15重量%以下であり、さらに好ましく8重量%以下である。
本発明の第1のブラックインク組成物において、前記微粒子エマルジョンの固形分含有量は、前記カーボンブラックの含有量の2倍量以上である。上限は特に限定されないが、前記カーボンブラックの含有量の10倍量以上になると、吐出不良となってしまう場合がある。前記微粒子エマルジョンの含有量が、前記カーボンブラックの含有量の2倍量未満になると、位相ずれを充分に抑制することができない。
また、本発明の第2のブラックインク組成物において、前記微粒子エマルジョンの固形分含有量は、前記カーボンブラックの含有量の20倍量以上である。上限は特に限定されないが、前記カーボンブラックの含有量の50倍量以上になると、吐出不良となってしまう場合がある。前記微粒子エマルジョンの含有量が、前記カーボンブラックの含有量の20倍量未満になると、ゴールデングロスを充分に抑制することができない。
なお、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分は、微粒子エマルジョンの固形分との合計量の40重量%以上80重量%以下とすることができる。40重量%未満であると、記録物上の表面欠陥、ゴールデングロス、位相ずれを抑制又は回避しにくくなり、80重量%を超えるとブラックインク組成物の粘度を適切は範囲に保持しにくくなり吐出安定性が確保しにくくなるからである。また、第1のブラックインク組成物においては、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分は、前記合計量の40重量%以上60重量%以下であることが好ましく、第2のブラックインク組成物においては、50重量%以上80重量%以下であることが好ましい。また、第1のブラックインク組成物と第2のブラックインク組成物との関係においては、第2のブラックインク組成物における水溶性ポリウレタン樹脂の固形分の合計量に対する割合が高いことが好ましい。
(ポリアルキレン型エマルジョン)
ポリマー微粒子を構成する樹脂成分としては、特に、ポリアルキレン系樹脂を用いることができる。すなわち、本ブラックインク組成物は、ポリアルキレン系樹脂のエマルジョン(以下、ポリアルキレン型エマルジョンという。)を含有することができる。ポリアルキレン系樹脂としては、オレフィン系骨格を主体とするポリマーを用いることができる。
本発明においてポリアルキレン系樹脂の好ましい例としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ブチルゴム、ブタジエンゴム、低結晶性エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体が挙げられる。これらの樹脂を二種以上用いることもできる。ポリアルキレン系樹脂としては、ポリエチレン又はポリプロピレンなどポリオレフィン系樹脂のエマルジョンが挙げられる。なかでも、ポリプロピレン系ポリマーが好ましく用いられる。ポリアルキレン系樹脂は、公知の方法によりエマルジョンの形態として利用できる。ポリアルキレン型エマルジョンは、通常、水性エマルジョンとして本ブラックインク組成物に適用される。
なお、ポリアルキレン樹脂は、不飽和カルボン酸又はその無水物によって変性されていてもよい。変性のための不飽和カルボン酸またはその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、ケイヒ酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸など;および無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物が挙げられる。
本発明のブラックインク組成物がポリアルキレン型エマルジョンを含有する場合、ポリアルキレン型エマルジョンの固形分は、0.5重量%以上10重量%以下であることが好ましい。より好ましくは1重量%以上である。また、より好ましくは5重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以下である。また、第1のブラックインク組成物におけるポリアルキレン型エマルジョンの固形分濃度は、0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは3重量%以下である。また、第2のブラックインク組成物におけるポリアルキレン型エマルジョンの固形分濃度は、1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、8重量%以下である。さらに好ましくは5重量%以下である。
また、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分とポリアルキレン型子エマルジョンの固形分との合計量は、0.5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。この範囲であるとブラックインク組成物の粘度を適切な範囲に保持しやすく吐出安定性を確保できるからである。より好ましくは1重量%以上であり、さらに好ましくは1.5重量%以上である。また、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは8重量%以下である。
また、第1のブラックインク組成物がポリアルキレン型エマルジョンを含有する場合、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分とポリアルキレン型エマルジョンの固形分との合計量は、0.8重量%以上10重量%以下であることが好ましい。この範囲であると良好な印字品質と吐出安定性を確保できるからである。より好ましくは、1重量%以上であり、さらに好ましくは1.5重量%以上である。また、より好ましくは、8重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下である。
第2のブラックインク組成物がポリアルキレン型エマルジョンを含有する場合、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分とポリアルキレン型エマルジョンの固形分との合計量は、0.2重量%以上20重量%以下であることが好ましい。この範囲であると良好な印字品質と吐出安定性を確保できるからである。より好ましくは、0.5重量%以上であり、さらに好ましくは1重量%以上である。また、より好ましくは、15重量%以下であり、さらに好ましく8重量%以下である。
(他の樹脂成分)
また、本発明のブラックインク組成物は、場合によりその他の樹脂成分を含有することがある。その他の樹脂成分とは、ブラックインク組成物の製造に通常用いられる樹脂成分を意味し、例えば、樹脂系分散剤、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、及び酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩、並びに樹脂系界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどを挙げることができる。
(カーボンブラック)
本発明のブラックインク組成物に用いるカーボンブラックとしては、酸化チタン及び酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネスト法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、本発明においては、マット系メディアや普通紙の発色性に特に優れるという点で、自己分散型カーボンブラックを用いることもできる。自己分散型カーボンブラックは、分散剤を用いることなく水性媒体中に分散および/または溶解することが可能なカーボンブラックである。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解」とは、カーボンブラックを分散させるための分散剤を用いなくても水性媒体中に安定に存在している状態をいう。こうした自己分散型カーボンブラックは、表面に多数の親水性官能基およ
び/またはその塩(以降、分散性付与基という)を、直接またはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させたものが挙げられる。
親水性付与基としては、−COOH、−CO、−OH、−SO3H、−PO3H2などの酸性基及び第4級アンモニウム並びにそれらの塩が例示できる。
自己分散型カーボンブラックは、例えば、カーボンブラック表面に物理的処理または化学的処理を施すことで、前記分散性付与基または前記分散性付与基を有する活性種をカーボンブラックの表面に結合(グラフト)させることによって製造される。前記物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また前記化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
本発明においては、次亜ハロゲン酸及び/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料が、高発色という点で好ましい。本発明における自己分散型カーボンブラックとしては、典型的にはこうした酸化処理により前記酸性基又はその塩が導入された酸化処理カーボンブラックが挙げられる。
以上説明したことから、本発明において用いるカーボンブラックとしては、具体的には、三菱化学(株)製のNo.2300,No.900,HCF88,No.33,No.20B、No.40,No.45,No.52,MA7,MA8,MA100,No2200B等が、コロンビア社製のRaven5750,Raven5250,Raven5000,Raven3500,Raven1255,Raven700等が、キャボット社製のRegal400R,Regal330R,Regal660R,Mogul L,Monarch700,Monarch800,Monarch880,Monarch900,Monarch1000,Monarch1100,Monarch1300,Monarch1400等が、デグッサ社製のColor BlackFW1,Color BlackFW2,Color BlackFW2V,Color BlackFW18,Color BlackFW200,Color BlackS150,ColorBlackS160,Color BlackS170,Printex 35,Printex U,Printex V,Printex 140U,Special Black 6,Special Black5,SpecialBlack 4A,Special Black 4、Special Black250等が挙げられるが、これらに限定
されるものではない。
カーボンブラックの粒径は、特に限定されるものではないが、10μm以下が好ましく、更に好ましくは0.1μm以下である。また、本発明によるインクセットにおいて、各ブラックインク組成物が含有するカーボンブラックは、それぞれ同じであることも異なることもできる。
本発明の第1のブラックインク組成物において、カーボンブラックの含有量は、位相ずれ発生領域の記録に用いることのできる量であり、具体的には、ブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%以上1.5重量%未満、より好ましくは、0.5重量%以上1.2重量%以下、特には0.6重量%以上1.0重量%以下である。また、第2のブラックインク組成物におけるカーボンブラックの含有量は、GG発生領域の記録に用いることのできる量であり、具体的には、ブラックインク組成物の全重量に対して0.4重量%未満、特には、0.01重量%以上で0.4重量%未満、好ましくは0.05重量%以上0.3重量%以下、より好ましくは、0.1重量%以上0.25重量%以下である。
また、本発明のブラックインク組成物は、カーボンブラックが本来的に有している帯色性(濃色部における帯赤性、又は、特には淡色部における帯黄性)を無彩色化するための補色用の着色剤を含有することもできる。補色用の着色剤とは、ブラックインクによる記録画像に生じる帯色を低減ないし解消して無彩色の画像を得るためにブラックインク組成物中に含有させる着色剤を意味し、例えば、カラーインデックス・ピグメントブルー60(C.I.PB60)、カラーインデックス・ピグメントブルー15:3、及びカラーインデックス・ピグメントブルー15:4などを挙げることができる。
前記ピグメントブルー60は、カーボンブラック含有量0.01重量%以上1重量%以下のブラックインク組成物に用いることが好ましく、その含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、前記ブラックインク組成物の全重量に対して、0.01〜0.5重量%の量であることが好ましい。また、前記ピグメントブルー15:3及びピグメントブルー15:4は、カーボンブラック含有量1重量%以上10重量%以下のブラックインク組成物に用いることが好ましく、その含有量も、特に限定されるものではないが、例えば、前記ブラックインク組成物の全重量に対して、0.1重量部以上5重量部以下であることが好ましい。
(ブラックインク組成物の組成と製造方法)
本発明のブラックインク組成物は、従来公知のブラックインク組成物と同様の配合成分を含む水系インクとして調製することができる。また、従来公知の各種の記録方法用インクとして利用することができ、好ましくはインクジェット記録用インクとして利用することができる。
以下に、本発明のブラックインク組成物がインクジェット記録用であり、特に、水系インク組成物である場合の上記以外の成分とインクの製造方法について簡単に説明する。
本発明のブラックインク組成物において、カーボンブラックは、例えば、分散剤で水性媒体中に分散させた顔料分散液としてインク組成物に添加するのが好ましい。顔料分散液を調製するのに用いられる分散剤としては、一般に顔料分散液を調製するのに用いられている分散剤、例えば高分子分散剤や界面活性剤を使用することができる。
本発明のブラックインク組成物に含有される分散剤の量は特に限定されるものではないが、好ましくは0.01重量%以上10重量%以下、より好ましくは0.1重量%以上5重量%以下の範囲である。分散剤の含有量が0.01重量%未満になると界面活性効果が十分に得られず、10重量%を超えると結晶の析出、液晶の形成、あるいは顔料の安定性低下などによる吐出不良の原因となる場合が認められる。
分散剤としては、慣用の界面活性剤の他、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を好適に使用することができる。なお、この顔料分散液に含まれる分散剤がブラックインク組成物の分散剤及び界面活性剤としても機能するであろうことは当業者に明らかであろう。より好ましい分散剤としては、高分子分散剤、特に樹脂分散剤を使用することができる。高分子分散剤の好ましい例としては天然高分子を挙げることができる。その具体例としては、にかわ、ゼラチン、ガゼイン、又はアルブミンなどのタンパク質類、アラビアゴム、又はトラガントゴムなどの天然ゴム類、サボニンなどのグルコシド類、アルギン酸、あるいはアルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、又はアルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、又はエチルヒドロキシセルロースなどのセルロース誘導体などを挙げることができる。
また、高分子分散剤の好ましい例としては合成高分子も挙げられる。その具体例としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸塩−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、又はアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、又はスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−マレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、あるいは、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、又は酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩を挙げることができる。これらの中でも、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、及びスチレン−無水マレイン酸共重合体が前記分散剤として好ましい。
また、樹脂分散剤としては、市販のものを使用することができ、その具体例としては、ジョンソンポリマー株式会社製、ジョンクリル68(分子量10000、酸価195)、ジョンクリル61J(分子量10000、酸価195)、ジョンクリル680(分子量3900、酸価215)、ジョンクリル682(分子量1600、酸価235)、ジョンクリル550(分子量7500、酸価200)、ジョンクリル555(分子量5000、酸価200)、ジョンクリル586(分子量3100、酸価105)、ジョンクリル683(分子量7300、酸価150)、ジョンクリルB−36(分子量6800、酸価250)等を挙げることができる。
本発明のブラックインク組成物は、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤の具体例としては、アニオン性界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、又はポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩など)、ノニオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、又はポリオキシエチレンアルキルアミドなど)、両性界面活性剤(例えば、N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩、N,N、N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、又は2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン)等を挙げることができ、これらは単独で又は二種以上を組合せて使用することができる。
この添加によってブラックインク組成物の記録媒体への浸透性を向上することができ、種々の記録媒体においてにじみの少ない記録を期待することができる。本発明で用いるブラックインク組成物において用いられるアセチレングリコール系界面活性剤の好ましい具体例としては、一般式(1):
〔式中、0≦m+n≦50であり、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立したアルキル基、好ましくは炭素数6以下のアルキル基である〕で表わされる化合物を挙げることができる。
前記一般式(1)で表される化合物の中で、特に好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどを挙げることができる。前記一般式(1)で表されるアセチレングリコール系界面活性剤として市販品を利用することも可能であり、その具体例としてはサーフィノール104、82、465、485、又はTG(いずれもAir Products and Chemicals.Inc.より入手可能)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(いずれも日信化学社製の商品名)を挙げることができる。
本発明のブラックインク組成物は、一般式(2):
(式中、R11〜R17は、独立して、C1−6アルキル基を表し、j及びkは、独立して、1以上の整数を表し、EOはエチレンオキシ基を表し、POはプロピレンオキシ基を表し、s及びtは0以上の整数を表すが、但しs+tは1以上の整数を表し、EO及びPOは、[ ]内においてその順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよい)で表されるシリコーン系界面活性剤を含むのが好ましい。この添加によってブラックインク組成物の記録媒体への浸透性を向上することができる。
前記一般式(2)で表されるシリコーン系界面活性剤において好ましい化合物は、前記一般式(2)において、R11〜R17が、独立して、C1−6アルキル基、より好ましくはメチル基であり、j及びkが、独立して、1以上の整数、より好ましくは1〜2であり、s及びtは0以上の整数を表すが、但しs+tが1以上の整数、より好ましくはs+tは2〜4である化合物である。
前記一般式(2)で表されるシリコーン系界面活性剤において特に好ましい化合物は、前記式(2)において、j及びkが同じ数であり、しかも1〜3、特には1又は2である化合物であり、更に好ましい前記一般式(2)で表される化合物の、R11〜R17は全てメチル基を表し、jが1を表し、kが1を表し、uが1を表し、sが1以上の整数、特には1〜5の整数を表し、tが0を表す化合物である。
前記一般式(2)で表されるシリコーン系界面活性剤の添加量は適宜決定されてよいが、本発明で用いるブラックインク組成物の全重量に対して0.03〜3重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜2重量%程度であり、更に好ましくは0.3〜1重量%程度である。
前記一般式(2)で表されるシリコーン系界面活性剤は市販されており、それを利用することが可能である。例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社より市販されているシリコーン系界面活性剤BYK−347又はBYK−348が利用可能である。
界面活性剤の含有量が0.01重量%未満になると界面活性効果が十分に得られず、10重量%を超えると結晶の析出、液晶の形成、あるいは顔料の安定性低下などによる吐出不良の原因となる場合が認められる。
各ブラックインク組成物に添加される水溶性有機溶媒の含有量は、ブラックインク組成物の全重量に対して、好ましくは0.5重量%以上40重量%以下程度であり、より好ましくは2重量%以上30重量%以下である。前記の水溶性有機溶媒としては、通常の水性顔料インク組成物に配合される水溶性有機溶媒を用いることができ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、若しくはトリメチロールプロパンなどの多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、若しくはトリエチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類;あるいは、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、又はトリエタノールアミンを挙げることができる。
なお、水溶性ポリウレタン樹脂として、有機溶媒とポリウレタン樹脂を含むエージング済みのポリウレタン樹脂組成物を用いる場合には、用いた有機溶媒と同一の水溶性有機溶媒を用いてインク組成物を調製してもよいし、既に使用した水溶性有機溶媒以外の別の水溶性有機溶媒を用いても、これらを組み合わせて用いてもよい。
また、本発明のブラックインク組成物は、防腐剤、金属イオン捕獲剤、及び/又は防錆剤を更に含有するのが好ましい。ここで、防腐剤は、アルキルイソチアゾロン、クロルアルキルイソチアゾロン、ベンズイソチアゾロン、ブロモニトロアルコール、オキサゾリジン系化合物、及びクロルキシレノールからなる群から選択された1種以上の化合物が好ましく、金属イオン捕獲剤は、エチレンジアミン四酢酸塩が好ましく、防錆剤は、ジシクロヘキシルアンモニウムニトラート及び/又はベンゾトリアゾールが好ましく用いられる。
その他、インク成分の溶解性を向上させ、更に記録媒体、例えば、紙に対する浸透性を向上させ、あるいはノズルの目詰まりを防止する成分として、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、又はイソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホランなどを挙げることができ、これらを適宜選択して使用することができる。
また、pH調整剤、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類及びそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機水酸化物、水酸化アンモニウム、4級アンモニウム塩(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類、その他、燐酸塩などを挙げることができる。その他の添加剤として、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸及びその塩、市販の酸化防止剤、紫外線吸収剤なども用いることができる。
また、本発明のブラックインク組成物は、表面張力が45mN/m以下であることが好ましく、更に好ましくは、25〜45mN/mの範囲である。表面張力が45mN/mを越えると、印字の乾燥性が悪くなり、滲みが発生しやすくなり、カラーブリードが発生する等のため、良好な記録画像が得られにくい。また、表面張力が25mN/m未満では、プリンタヘッドのノズル周囲が濡れやすくなるためにインク滴の飛行曲がりが発生する等、吐出安定性に問題が生じ易い。上記表面張力は、通常に用いられる表面張力計によって測定することができる。インクの表面張力は、インクを構成する各成分の種類や組成比などを調整することにより上記範囲内とすることができる。本発明のインクジェット記録用インクセットに含まれる第1のブラックインク組成物及び第2のブラックインク組成物は、通常の方法で調製することができる。
更に、本発明のブラックインク組成物は、pH調整剤として三級アミンを含有することが好ましい。本発明のブラックインク組成物に添加することができる三級アミンは、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロペノールアミン、ブチルジエタノールアミン等を挙げることができる。これらは、単独で使用しても併用しても構わない。これら三級アミンの本発明のブラックインク組成物への添加量は、0.1重量%以上10重量%以下、より好ましくは、0.5重量%以上5重量%以下である。
また、本発明のブラックインク組成物には、浸透促進剤、糖、及び/又はアルギン酸誘導体を含有させることもできる。前記浸透促進剤としては、例えば、多価アルコールの炭素数3以上のアルキルエーテル誘導体、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、又はジプロピレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。糖の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類を挙げることができ、好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などを挙げることができる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、
前記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール(一般式HOCH2(CHOH)nCH2OH(ここで、nは2〜5の整数を表す)で表される)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ糖などを挙げることができる。特に糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビットなどを挙げることができる。また、市販品としてHS−500又はHS−300(林原生物化学研究所製)等を用いることができる。これら糖類の添加量は0.1〜40重量%程度が好ましく、より好ましくは1〜30重量%程度である。
アルギン酸誘導体の好ましい例としては、アルギン酸アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルギン酸有機塩(例えば、トリエタノールアミン塩)、アルギン酸アンモニウム塩、等を挙げることができる。このアルギン酸誘導体のブラックインク組成物への添加量は、好ましくは0.01〜1重量%程度であり、より好ましくは0.05〜0.5重量%程度である。アルギン酸誘導体の添加により良好な画像が得られる理由は明確ではないが、反応液に存在する多価金属塩が、ブラックインク組成物中のアルギン酸誘導体と反応し、着色剤の分散状態を変化させ、着色剤の記録媒体への定着が促進されることに起因するものと考えられる。本発明のブラックインク組成物には、その他、必要に応じて、防腐剤、防かび剤、及び/又はリン系酸化防止剤等を添加することもできる。
本発明のブラックインク組成物は、常法によって調製することができ、例えば、前記の各成分を適当な方法で分散、及び混合することによって製造することができる。好ましくは、まず、顔料と高分子分散剤とイオン交換水とを適当な分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミルなど)で混合し、均一な顔料分散液を調製する。次いで、水溶性ポリウレタン樹脂やエージングした水溶性ポリウレタン樹脂組成物の他、必要に応じて、前記の微粒子エマルジョン〔特には、pH調整樹脂エマルジョン、ポリアルキレン型エマルジョン〕、イオン交換水、水溶性有機溶媒、防腐剤、及び/又は防黴剤等を常温で充分に攪拌してインク溶媒を調製する。このインク溶媒を適当な分散機で攪拌した状態のところに前記顔料分散液を徐々に滴下して充分に攪拌する。充分に攪拌した後に、目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するために濾過を行って目的のブラックインク組成物を得ることができる。なお、前記のポリアルキレン型エマルジョンは、市販のものを使用することができる。例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社より市販されているAQ593やAQ513又はPEM−17を利用することができる。
(インクセット)
上記した各種態様のブラックインク組成物は、当該ブラックインク組成物のカーボンブラック濃度とは異なるカーボンブラック濃度のブラックインク組成物の1種又は2種以上を含むインクセットを構成することができる。第1のブラックインク組成物及び/又は第2のブラックインク組成物は、カーボンブラック濃度のさらに高い他のブラックインク組成物を組み合わせることができる。当該他のブラックインク組成物としては、カーボンブラック濃度が1.5重量%以上のブラックインク組成物が挙げられる。より好ましくは、カーボンブラック濃度が2重量%以上のブラックインク組成物である。このブラックインク組成物は、好ましくは、カーボンブラック濃度が6重量%未満であり、また、カーボンブラックは自己分散型でないカーボンブラックである。また、当該他のブラックインク組成物としては、カーボンブラック濃度が6重量%以上のブラックインク組成物であり、好ましくは、既に説明した自己分散型カーボンブラックを含有するブラックインク組成物が挙げられる。当該他のブラックインク組成物としては、カーボンブラック濃度が1.5重量%以上6重量%未満のブラックインク組成物とカーボンブラック濃度が6重量%以上のブラックインク組成物との双方を含んでいてもよいし、いずれか一方を含んでいてもよい。
本発明のインクセットの好ましい態様は、本発明のブラックインク組成物である第1のブラックインク組成物と第2のブラックインク組成物とのほか、カーボンブラック濃度が1.5重量%以上(好ましくは6重量%未満であり、また、自己分散型でないカーボンブラックを含有する)のブラックインク組成物とを含有するインクセットである。このインクセットによれば、位相ずれ及びGGが回避又は抑制されるとともに、記録物上の表面欠陥も回避又は抑制されて、高画質なモノクロ画像やグレースケール画像を有する記録物を得ることができる。また、こうした態様によれば、特に、光沢性媒体において上記した効果とともに優れた光学濃度とグレーバランスを得ることができる。
本発明のインクセットの他の好ましい態様は、本発明のブラックインク組成物である第1のブラックインク組成物と第2のブラックインク組成物とのほか、カーボンブラック濃度が6重量%以上(好ましくは自己分散型カーボンブラック)のブラックインク組成物とを含有するインクセットである。
このインクセットによれば、特に、マット紙などの非光沢性媒体において、高画質なモノクロ画像やグレースケール画像と、優れた光学濃度とグレーバランスとを得ることができる。
本発明のインクセットのさらに他の好ましい態様は、本発明のブラックインク組成物である第1のブラックインク組成物と第2のブラックインク組成物とのほか、カーボンブラック濃度が1.5重量%以上(好ましくは6重量%未満であり、また、自己分散型でないカーボンブラックを含有する)のブラックインク組成物と、カーボンブラック濃度が6重量%以上(好ましくは自己分散型カーボンブラック)のブラックインク組成物とを含有するインクセットである。このインクセットによれば、媒体の種類に応じて他のブラックインク組成物を切替え使用することで上記した双方の態様の効果を得ることができ、媒体の光沢性に関わらず上記効果とともに良好な光学濃度とグレーバランスの記録画像を得ることができる。
本発明のインクセットは、モノクロ記録用のインクセット又はカラー記録用のインクセットであることができる。モノクロ記録用の場合には、複数種類のブラックインク組成物からインクセットが構成される。各ブラックインク組成物は、それぞれ適切な補色用着色剤を含むことができるし、モノクロ記録用インクセットに、例えば、補色を印刷することが可能なカラーインク組成物、例えば、ライトマゼンタとライトシアンの組合せ、ライトマゼンタとライトシアンとイエローの組合せのカラーインク組成物を含めることもできる。
(カラー記録用インクセット)
カラー記録用インクセットの場合には、ブラックインク組成物のほかに、シアン、マゼンタ、イエロー等の有彩色のカラーインク組成物からインクセットが構成される。典型的な本発明によるインクセットとしては、例えば、イエローインク組成物、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物、第1のブラックインク組成物及びさらに高濃度のカーボンブラックを含有するブラックインク組成物を加えて5色のインクセット;前記5色インクセットにライトシアンインク組成物及びライトマゼンタインク組成物を加えた7色のインクセット;前記7色インクセットにダークイエローインク組成物を加えた8色のインクセット;前記5色インクセットにレッドインク組成物、グリーンインク組成物、及びブルーインク組成物を加えた8色のインクセット;前記5色インクセットにオレンジインク組成物、グリーンインク組成物、及びブルーインク組成物を加えた8色のインクセット;並びに前記5色インクセットにオレンジインク組成物、グリーンインク組成物、及びバイオレットインク組成物を加えた8色のインクセット;並びに、前記の各インクセットに第2のブラックインク組成物を加えたインクセット;を挙げることができる。
なお、「ライトマゼンタ」及び「ライトシアン」の各インク組成物とは、一般的には、濃度変調による記録画像の画質向上を目的に、それぞれマゼンタインク組成物、及びシアンインク組成物の色材濃度を低くしたインク組成物である。また、「ダークイエロー」のインク組成物とは、シャドー部等の暗色に対する色再現性を向上させる目的で、イエローインク組成物よりも明度・彩度の低い色材(顔料)を用いたイエローインク組成物である。そして、「レッド」、「オレンジ」、「グリーン」、「ブルー」、及び「バイオレット」の各インク組成物は、色再現範囲を向上させるために、イエロー、マゼンタ、シアンの中間色を構成する要素として使用されるインク組成物である。
(カラーインク組成物)
本発明のインクセットに用いる各種カラーインク組成物及び本発明のインクセットと独立して用いるカラーインク組成物においても、上記した水溶性ポリウレタン樹脂及びエージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物を用いることができる。すなわち、ブラック以外の有彩色顔料を含有するカラーインク組成物であれば、水溶性ポリウレタン樹脂及びエージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物を用いることは有効である。そして、本発明のブラックインク組成物と同様、濃度の異なるマゼンタインク組成物(マゼンタ、ライトマゼンタ)及び濃度の異なるシアンインク組成物(シアン、ライトシアン)について、組成物に含まれる顔料濃度に応じて、上記水溶性ポリウレタン樹脂等の濃度を設定することができる。なお、ライトマゼンタインク組成物やライトシアンインク組成物は、それぞれ通常のマゼンタインク組成物及びシアンインク組成物と組み合わせて用いることができる。
例えば、ライトカラーインク組成物として有彩色顔料濃度が0.5wt%以上1.5wt%未満の水性インク組成物が挙げられる。有彩色顔料の含有量が0.5wt%以上1.5wt%未満のライトカラーインク組成物としては、例えば、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分含有量が前記有彩色顔料の含有量の0.67倍以上2.5倍以下とすることができる。また、このライトカラーインク組成物においては、水溶性ポリウレタン樹脂固形分量が0.3wt%以上4wt%以下とすることができる。こうしたライトカラーインク組成物では、水溶性ポリウレタン樹脂を主要樹脂とするため、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂を用いることが効果的である
なお、こうしたライトカラーインク組成物と組み合わせて使用されることもあるカラーインク組成物は、有彩色顔料の含有量が1.5wt%以上7wt%未満とすることができる。こうしたカラーインク組成物においては、例えば、水溶性ポリウレタン樹脂の固形分含有量が前記有彩色顔料の含有量の0.04倍以上0.35倍以下とすることができる。また、このカラーインク組成物においては、水溶性ポリウレタン樹脂固形分量が0.05wt%以上2.5wt%以下であってもよい。こうしたカラーインク組成物であっても、水溶性ポリウレタン樹脂を主要樹脂とするため、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂を用いることが効果的である。
顔料濃度に応じて水溶性ポリウレタン樹脂及び/又はエージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物を用いることにより、表面光沢度が印字デューティに関わらず安定したインク組成物、すなわち、光沢ムラが回避又は抑制されたインク組成物を得ることができる。光沢ムラが大きいインクで記録すると、記録画像上において打ち込み量が多い領域と少ない領域とで光沢レベルが相違するために、画像が沈んで見えたり周囲と違和感が生じてしまったりする。したがって、光沢ムラが改善されたインク組成物を用いることで、このような問題のない良好な画像を得ることができる。特に、顔料濃度の低いカラーインク組成物において、光沢ムラが出現しやすいため、顔料濃度の低いカラーインク組成物において有効である。
こうしたカラーインク組成物は、水溶性ポリウレタン樹脂やエージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物以外にも、本発明のブラックインク組成物と同様のインク構成成分を用いることができ、同様に製造することができる。
なお、イエローインク組成物に使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185等を挙げることができ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128及び138からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
また、マゼンタインク組成物及びライトマゼンタインク組成物に使用される顔料として
は、C.I.ピグメントレッド、5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、15:1、112、122、123、168、184、202、209及びC.I.ピグメントバイオレット19等を挙げることができ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、209及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
さらに、シアンインク組成物及びライトシアンインク組成物に使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60及びC.I.バットブルー4、60等を挙げることができ、好ましくはC.I.ピグメントブルー15:3、15:4及び60からなる群から選択される1種又は2種以上の混合物である。
(エージングされた水溶性ポリウレタン樹脂を用いて製造した水性インク組成物)
エージングされた水溶性ポリウレタン樹脂組成物を用いて製造した水性インク組成物は、当該ポリウレタン樹脂組成物を用いなかった場合と比較してその調製直後あるいはその後において粘度等の物性が安定化されている。したがって、例えばインクジェットプリンタ用の水性インク組成物として良好な吐出安定性を備えたものとなっている。特に、インクセットを構成する全てのインク組成物に使用される水溶性ポリウレタン樹脂の少なくとも一部又は全部として当該水溶性ポリウレタン樹脂組成物が使用されることで、インクセットのインク組成物全ての吐出安定性が安定化されるため、インクセット全体を安定的に使用することができる。
また、こうした水性インク組成物は、密封可能な容器に前記組成物の所定量を封入して所定温度(好ましくは目標温度±3℃)の恒温下で所定期間経過するまでの期間継続して静置し、該静置期間開始時と終了後の粘度を測定し、これらの粘度から下記式(1)から算出される粘度変化率(ΔV)が予め決められた数値以下あるいは未満となっていることが好ましい形態である。
ΔV(%)=|V−V0|/V0×100・・・(1)
ただし、V0は静置期間開始時の粘度であり、Vは静置期間終了後の粘度である。なお、静置期間は、所定温度で静置を開始したときから開始できる。例えば、水性インク組成物の製造時から開始することもできる。水性インク組成物の製造時とは、水性インク組成物がタンク内等で調製された時点(第一の時点)、タンクから貯留用容器に充填された時点(第二の時点)、あるいは水性インク組成物が包装容器あるいはそれに類した容器に充填された時点(第三の時点)とすることができる。
また、こうした水性インク組成物の評価基準としては、前記目標温度を50℃〜70℃の範囲の一つの温度とすることができる。具体的には、50℃、60℃、70℃等である。また、前記静置期間としては、適宜設定するものであるが、3日以上とすることができる。さらに、前記粘度変化率としては、水性インク組成物の用途やノズル構造に基づいて要求される特性等によって異なるが、例えば、70℃±3℃で保存する場合には6日間で10%未満とすることができ、好ましくは7%未満、より好ましくは4%未満とすることができる。
なお、こうした水性インク組成物おける粘度は、動粘度(単位Pa・s)として測定され、その測定は逆流式粘度管を用いた測定方法あるいはこれと同等の精度及び正確性が得られる測定方法によることが好ましい。具体的には、キャノンフェンスケ型の逆流式粘度管(典型的には、離合社製のVMC−252型)を用い、20℃における管内の液体(インク)の移動時間により測定することができる。
本発明のインクセットは、従来公知の各種の記録方法用インクとして利用することができる。好ましいインクセットは、水系であり、特にインクジェット記録用インクセットである。また、本発明の記録方法は、インク組成物の液滴を吐出して、前記液滴を記録媒体に付着させて記録を行う記録方法であって、本発明のインクセットを用いる。ここで、記録方法は、本発明のインクセットが収容されたインクカートリッジ(各ブラックインク組成物が個別に収容されたインクカートリッジ)を公知のインクジェット記録装置に搭載させて、記録媒体に対して記録することにより、好適に行うことができる。ここで、インクジェット記録装置としては、電気信号に基づいて振動可能な電歪素子が搭載されるとともに、前記電歪素子の振動によって、本発明に係るインクセットが含むインクを吐出することができるように構成されたインクジェット記録装置が好ましい。また、インクセットを収容するインクカートリッジ(収容ケース)としては、公知のものを好適に使用することができる。また、本発明の記録物は、各種態様の本発明のインクセットの付着物層からなる画像を有している。この画像は、位相ずれの発生やGGが良好に抑制されるとともに、微小な凹状ドットなどの表面欠陥も回避又は抑制されている。
本発明のブラックインク組成物及びインクセットは、任意の記録方法に用いることができ、例えば、水性グラビアインク、水性フレキソインク、又は特にインクジェット記録用水性インクとして好適に使用することができる。また、水性塗料として使用することも可能である。
また、本発明のブラックインク組成物は、記録媒体として、ブラックインク組成物に含まれる着色剤(特に顔料)と水溶性ポリウレタン樹脂と微粒子エマルジョン〔ポリアルキレン型エマルジョン〕の樹脂成分をその表面上に実質的に残留させるが前記ブラックインク組成物の液体成分を実質的に吸収する記録媒体に用いるのが好ましい。こうした記録媒体は、例えば、表面の平均孔径が、前記顔料の平均粒径よりも小さい。好ましい記録媒体は、前記顔料の平均粒径よりもそれぞれ小さい平均孔径を有するインク受容層を含む記録媒体である。
本発明のブラックインク組成物及びインクセットに好ましい記録媒体として、多孔質顔料を含有するインク受容層を、基材上に設けた記録媒体を使用することができる。インク受容層は、記録媒体の最上層であるか、あるいはその上に、例えば、光沢層を有する中間層であることもできる。このような記録媒体としては、そのインク受容層中に多孔質顔料及びバインダー樹脂を含有する、いわゆる吸収型(空隙型ともいう)の記録媒体と、前記インク受容層中にカゼイン、変性ポリビニルアルコール(PVA)、ゼラチン、又は変性ウレタン等の樹脂を更に含有する、いわゆる膨潤型の記録媒体とが知られており、本発明のブラックインク組成物はいずれの記録媒体にも使用することができる。吸収型記録媒体のインク受容層に含有される前記多孔質顔料としては、例えば、沈殿法、ゲルタイプ、又は気相法等のシリカ系、擬ベーマイト等のアルミナ水和物、シリカ/アルミナハイブリッドゾル、スメクタイト粘土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、カオリン、白土、タルク、珪酸マグネシウム、又は珪酸カルシウム等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
また、吸収型記録媒体のインク受容層に含有される前記バインダー樹脂としては、結着能力を有し、インク受容層の強度を高めることのできる化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、澱粉、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、スチレン−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体ラテックス、アクリル酸及びメタクリル酸の重合体等のアクリル系共重合体ラテックス等を挙げることができる。
前記インク受容層には、吸収型記録媒体のインク受容層の場合も、膨潤型の記録媒体のインク受容層の場合も、必要に応じ、定着剤、蛍光増白剤、耐水化剤、防かび剤、防腐剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、pH調整剤、消泡剤、及び/又は保水剤等の各種添加剤を含有させることもできる。前記の各インク受容層が設けられる前記基材としては、紙(サイズ処理紙を含む);ポリエチレン、ポリプロピレン、又はポリエステル等を紙にコートしたレジンコート紙;バライタ紙;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、又はポリプロピレン等の熱可塑性樹脂フィルム;合成紙;合成繊維で形成されたシート状物等を挙げることができる。
特に好ましい態様の記録媒体は、前記基材と、その上に設けた最上層としての前記インク受容層とを有する記録媒体であり、それらの基材及びインク受容層も、例えば、以下の物性を有するものが好ましい。前記基材としては、紙(木材パルプを含有するもの)が好ましく、その坪量は、好ましくは100g/m2以上350g/m2以下、更に好ましくは180〜260g/m2である。また、厚みは、好ましくは100μm以上400μm以下、更に好ましくは180μm以上260μm以下である。前記インク受容層は、インク受容層全体の重量を基準として、固形分換算で、前記多孔質顔料として湿式法シリカゲルを50重量%以上60重量%以下の量で含有し、前記バインダー樹脂としてポリビニルアルコールを30重量%以上40重量%以下の量で含有することが、インク吸収性、及び印字堅牢性等の点で好ましい。また、前記インク受容層の塗工量は、固形分換算で、5g/m2以上50g/m2以下であることが、インク吸収性の点で好ましい。なお、インク受容層自体の厚みとしては、好ましくは10μm以上40μm以下、更に好ましくは20μm以上30μm以下である。本発明のブラックインク組成物を記録する記録媒体は、前記記録媒体の表面(特には、インク受容層)の平均孔径が50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。平均孔径が300nmを超えると、顔料がインク受容層内部まで浸透し、発色性が低下することがある。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものでない。なお、実施例中の「%」及び「部」は特に断らない限り、重量基準である。
(実施例I)
(1)ブラックインク組成物の調製
以下の表1に記載の9種のブラックインク組成物に関して、以下のように顔料分散液を調製し、その後、水溶性ポリウレタン樹脂等を添加し混合して、ブラックインク組成物を得た。
具体的には、表1に示す顔料(カーボンブラック、ピグメントブルー15:3)及び水溶性樹脂(分散剤)を混合して顔料分散液を調製し、さらに水溶性ポリウレタン樹脂(ポリエステル系ポリウレタン樹脂、酸価50、トリエチルアミン中和)等を加え、サンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズ〔直径=1.7mm;混合物の1.5倍量(重量)〕とともに2時間分散させ、9種のブラックインク組成物を得た。すなわち、1種類のカーボンブラックについて高濃度の高濃度ブラックインク組成物 K1、4種類の中間階調
用の中濃度ブラックインク組成物としてK2,K4(実施例)及びK6、K8(比較例)、さらに、4種類の低濃度ブラックインク組成物としてK3、K5(実施例)及びK7、K9(比較例)を得た。表1に記載の水溶性樹脂(分散剤)としては、スチレン−アクリル酸共重合体(分子量=15000;酸価=100)を用いた。また、AQ593は、ポリプロピレン型エマルジョン(ビックケミージャパン株式会社製)であり、BYK348は、シリコーン系界面活性剤である。表1において、単位は最下欄から3行を除いて重量%であり、各インクには、その他に全体を100%とする純水が含まれている。
(2)インクセット
表1に示す各ブラックインク組成物と、ライトシアンインク組成物、ライトマゼンタ組
成物、イエローインク組成物を表2に示すように組み合わせて、実施例1及び2のインクセットと比較例1及び2のインクセットとを構成した。なお、ライトシアンインク組成物(1%)、ライトマゼンタ組成物(1%)及びイエローインク組成物(5.0%)の顔料には、それぞれPB−15:3、PV−19、PY−74を用いた。
(3)評価方法1(位相ずれ及びゴールデングロス)
[1]記録方法
実施例1〜2及び比較例1〜2の各インクセットを、インクジェットプリンタ(PM−4000PX;セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジのブラックインク室(高濃度ブラックインク組成物K1)、グレーインク室(K2、K4、K6、K8の中間階調用ブラックインク組成物)及びシアンインク室(K3、K5、K7、K9の低濃度ブラックインク組成物)にそれぞれ充填した。また、同様に、ライトシアンインク組成物、ライトマゼンタインク組成物及びイエローインク組成物も、以下の表3に示すインク室にそれぞれ充填した。
出力は、各インクセットについて、インクジェット用専用記録用紙(PM写真用紙:セイコーエプソン株式会社製)に対して、解像度1440×720dpiで行い、それぞれ白から黒へのグレーの階調パターン(グレースケール)を、階調を区切らずに無段階で行った。なお、出力は各インクの吐出量を分配して行った。
[2]位相ずれの確認評価
位相ずれの評価は5人の観察者によって行った。出力した記録物を室内光である蛍光灯の直下1.5mの机上に設置し、観察者を机脇に立たせた。観察者は直立した状態から光りをさえぎらないように、印刷物の右端から左端までを、種々の視角で視線を動かして印刷物を観察した。その観察結果を以下の表4に示す。なお、位相ずれが発生している記録物では、或る一定の角度の視線によって観察した場合に、グレーレベル40〜60の範囲の黒い出力色において、蛍光灯の光りが白く強く反射してしまい、反転したように見えてしまう。表4において、分母は観察者全員の人数(5人)を示し、分子は位相ずれを確認した人の人数を示す。
[3]ゴールデングロスの確認評価
ゴールデングロスの評価は5人の観察者によって行った。出力した記録物を室内光である蛍光灯の直下1.5mの机上に設置し、観察者を机脇に立たせた。観察者は直立した状態から光をさえぎらないように、印刷物の右端から左端までを、種々の視角で視線を動かして印刷物を観察した。その観察結果を以下の表5に示す。なお、ゴールデングロスが発生している記録物では、或る一定の角度の視線によって観察した場合に、グレーレベル140前後の範囲の黒い出力色において、蛍光灯の光りが金色気味に強く反射して見えてしまう。表5において、分母は観察者全員の人数(5人)を示し、分子はゴールデングロスを確認した人の人数を示す。
表4及び5に示すように、実施例のインクセットによれば、いずれも位相ずれ及びゴールデングロスが回避されたことがわかった。したがって、実施例のインクセットによれば、位相ずれ及びGGが有効に回避又は抑制された記録物が得られることがわかった。
(4)評価方法2(表面欠陥)
[1]記録方法
実施例1〜2及び比較例1〜2の各インクセットを、インクジェットプリンタ(PX−G900;セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジのブラックインク室(高濃度ブラックインク組成物K1)、マットブラックインク室(K2、K4、K6、K8の中間階調用ブラックインク組成物)及びイエローインク室(K3、K5、K7、K9の低濃度ブラックインク組成物)にそれぞれ充填した。また、同様に、ライトシアンインク組成物、ライトマゼンタインク組成物及びイエローインク組成物も、以下の表6に示すインク室にそれぞれ充填した。
出力は、インクジェット専用記録用紙(PM写真用紙:セイコーエプソン株式会社製)に対して、解像度2880×1440dpiで、図2に示すグレーレベル140、100、50、20の4点の濃度の分割グレーベタパターンを100ページ連続印刷した。
[2]表面欠陥の確認評価
連続印刷後の記録物につき、5人の観察者によって出力物の記録紙押さえ部材の接触痕跡からなる表面欠陥を観察した。この接触痕跡は、記録紙押さえである歯車状の薄板であるローラの突状あるいはそれに樹脂成分が付着固化したものが記録物の画像表面に接触することによって微小な凹状ドットの軌跡(ローラ跡)を残すことによって形成される。観察結果を表7に示す。表7において、分母は観察者全員の人数(5人)を示し、分子は表面欠陥を確認した人の人数を示す。
図2及び表7に示すように、実施例のインクセットによれば、広いグレーレベルにわたってローラ跡などの表面欠陥が回避されていたことがわかった。したがって、実施例のインクセットによれば、位相ずれやGGが有効に回避又は抑制されるとともに、表面欠陥のない高品質な表面を有する記録物が提供できることがわかった。
(実施例II)
次に、K1(フォトブラックインク組成物-自己分散型ではないカーボンブラック)と
K10(マットブラックインク組成物-自己分散型カーボンブラック)のインクチェンジ
を行い、さらに中濃度、低濃度ブラックインクと組み合わせて非光沢性媒体(マット系メディア)に画像を印刷して得られた記録物についての実施例について説明する。
(1)ブラックインク組成物の調製
以下の表8に記載のK10のブラックインク組成物に関して、以下のように水成媒体等を添加し混合して、ブラックインク組成物を得た。
具体的には、表8に基づいて顔料(自己分散型カーボンブラック)を水性媒体と混合し、サンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズ〔直径=1.7mm;混合物の1.5倍量(重量)〕とともに2時間分散させ、K10の自己分散型カーボンブラックを含有するブラックインク組成物を得た。
(2)インクセット
表1に示すK2及びK3の各ブラックインク組成物と、上記の方法で調製した、K10のブラックインク組成物のほか、シアンインク組成物、ライトシアンインク組成物、マゼンタ組成物、ライトマゼンタインク組成物及びイエローインク組成物を表9に示すように
組み合わせて、実施例3のインクセットを構成した。また、これらのインクセットの各インク組成物を表9に示すように、インクジェットプリンタA(PX−G900;セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジの各インク室に充填した。以下、このプリンタをプリンタA(実施例3)と称する。
なお、シアンインク組成物(4.0%)、ライトシアンインク組成物(1%)、マゼンタインク組成物(5.5%)、ライトマゼンタ組成物(1%)及びイエローインク組成物(
5.0%)の顔料には、それぞれPB−15:3、PV−19、PY−74を用いた。なお、比較例として、市販のPX−G900のインクカートリッジ(フォトブラックインク組成物(カーボンブラック濃度1.5%)、マットブラックインク組成物(カーボンブラック濃度6%)、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物、ブルーインク組成物、レッドインク組成物及びグロスオプティマイザインク組成物のインクセットが各インク室に充填されたもの)をインクジェットプリンタA(PX−G900;セイコーエプソン株式会社製)に装着した。以下、このプリンタをプリンタB(比較例3)と称する。
(3)評価方法(インク重量ばらつきの発生による色相変化の評価)
プリンタA及びBを用いて、専用記録紙(セイコーエプソン社製、フォトマット紙)に対して解像度1440×720にて印刷を行い、18階調のパッチを持つグレースケールを出力した。両者は、出力色がほぼ同一となるような出力データを使用した。更に、その際、各インクセットに含まれる1つのインク組成物の吐出インク重量のみを10%減少させ、順々に、吐出インク重量を10%減少させるインク組成物の種類を変えて、それぞれのインク重量の組み合わせについて同一データを出力した。なお、規定のインク重量を得るための駆動電圧は、ヘッドを駆動させる電圧を変化させてインクを吐出させ、そのインク重量を実測することにより決定した。
通常のインク重量で得られた出力データと、インク重量を減少させて得られた出力データとを、それぞれ、グレタグ社製グレタグマクベスSPM50を用いて測色し、各パッチについて、CIE規定のa*b*値を求めた。測色条件は、光源D50、光源フィルタなしで白色基準は絶対白とし、視野角は2度とした。通常のインク重量で得られた出力データと、インク重量を減少させて得られた出力データとの変化度Δa*b*を算出し、以下の基準で評価した。結果を表10に示す。
A:全てのパッチにおいてΔa*b*が2以下
B:3個以内のパッチにおいてΔa*b*が2を越えるが、他のパッチは2以下
C:6個以内のパッチにおいてΔa*b*が2を越えるが、他のパッチは2以下
D:7個以上のパッチにおいてΔa*b*が2を越える
表10に示すように、プリンタAではすべてのパッチにおいてΔa*b*が2以下で結
果はAであったのに対して、プリンタBを用いた場合は結果がCだった。以上のことから、プリンタAで用いたインクセットによれば、フォトマット紙など非光沢媒体において、好ましいグレースケールを安定的に得られることがわかった。プリンタA及びBにおいて良好なグレースケールパッチ作製時における各インク組成物のインク使用量とグレーレベルとの関係を図3及び図4に例示する。
なお、ブラックインク組成物K1、K2、K3及びK10の各インク組成物について、インクジェットプリンタA(PX−G900;セイコーエプソン株式会社製)を用いて、印字デューティを10〜100%の範囲で2種類の専用記録紙(フォトマット紙、及びPM写真紙(光沢紙)、いずれもセイコーエプソン株式会社製)に対して解像度1440×720にて印字して、グレタグ社製グレタグマクベスSPM50を用いて測色して光学濃度を測定した。測色条件は、光源D50、光源フィルタなしで白色基準は絶対白とし、視野角は2度とした。結果を表11並びに図5及び図6に示す。
表11並びに図5及び図6に示すように、ブラックインク組成物K1は、PM写真紙において優れた光学濃度を示し、ブラックインク組成物K10は、フォトマット紙において
優れた光学濃度を示していた。したがって、ブラックインク組成物K1とブラックインク組成物K10とをそれぞれ光沢性媒体及び非光沢性媒体に対して用いることで媒体の光沢性に関わらず表面欠陥がなく良好なグレースケールの記録画像が得られるとともに、良好な光学濃度の記録画像が得られることがわかった。
(実施例III)
(1)エージングした水溶性ポリウレタン樹脂液の調製
水分散性ポリエステル系ポリウレタン樹脂(酸価50、トリエチルアミン中和)の樹脂固形分15%のポリウレタン樹脂組成物(樹脂溶液)を表12に示す組成となるように調製した。この樹脂溶液を密閉容器に充填し、表12に併せて示す条件で静置してエージング工程を実施して、ポリウレタン樹脂水溶液を得た。なお、この樹脂水溶液は、1,2−へキサンジオールを水溶性ポリウレタン樹脂固形分に対して33.3%含有していた。なお、水溶性ポリウレタン樹脂水溶液は、エージング工程開始前において高い粘度を示すが、エージング開始後5日間経過後には顕著に粘度が低下し、その後安定化し、エージング工程終了時には、実質的に粘度変化を有しない液体となっていた。
(2)pH調製樹脂エマルジョンの調製
メタクリル酸エチル60部、メタクリル酸メチル36部、メタクリル酸4部、分子量調整剤としてチオグリコール酸オクチル3部、ポリビニルアルコール1部及びイオン交換水280部を攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調製した。別の攪拌機付き反応器に、イオン交換水130部及び過硫酸カリウム2部を仕込み、80℃ に昇温し、そして前記単量体混合物の分散物を4時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、80℃ にて、30分間の後反応を行った。重合転化率は、99% 以上であった。次いで、仕込みのメタクリル酸と当モル量の水酸化ナトリウムに相当する量の10%水酸化ナトリウム水溶液を反応器に添加し、更に80℃にて、1時間熱処理した後に、適量のイオン交換水を加えて、固形分濃度15%のpH調整樹脂エマルジョンAを得た。このpH 調整樹脂エマルジョンAの酸価は30であった。
(3)ブラックインク組成物の調製
次に、以下の表13に記載の組成に従って、4種のブラックインク組成物(K11〜K14)及び2種のブラックインク組成物(K15、K16)を調製した。具体的には、表13に示す顔料(カーボンブラック、ピグメントブルー15:3)及び水溶性樹脂(分散剤)を混合して顔料分散液を調製し、さらに(1)で調製したエージングポリウレタン樹脂水溶液又はpH調製樹脂エマルジョンAを加え、サンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズ〔直径=1.7mm;混合物の1.5倍量(重量)〕とともに2時間分散させ、6種のブラックインク組成物を得た。すなわち、3種類の中間階調用の中濃度ブラックインク組成物としてK11,K13(実施例)及びK15(比較例)、さらに、3種類の低濃度ブラックインク組成物としてK12、K14(実施例)及びK16(比較例)を得た。なお、表13に記載の水溶性樹脂(分散剤)としては、スチレン−アクリル酸共重合体(分子量=15000;酸価=100)を用いた。また、HS−500は、糖を主成分とする溶剤である。
(4)インクセットの構成
調製したブラックインク組成物及びライトシアンインク組成物、ライトマゼンタインク組成物及びイエローインク組成物とを表14に示すように組み合わせて実施例4〜7のインクセット及び比較例4〜6のインクセットを構成した。なお、ブラックインク組成物K1〜K9については、実施例1、2で既に調製したものと同様のものを用いた。
(5)評価方法1(位相ずれ及びゴールデングロス)
[1]記録方法
実施例4〜7及び比較例4〜6の各インクセットを、インクジェットプリンタ(PM−4000PX;セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジの各種インク室に表15に示すように割り当ててそれぞれ充填した。出力は、各インクセットについて、実施例1、2と同様に行った。
[2]位相ずれ及びゴールデングロスの確認評価
位相ずれの評価及びゴールデングロスの評価はそれぞれ5人の観察者によって、実施例1、2と同様にして行った。結果を、表16に示す。
表16に示すように、実施例のインクセットによれば、いずれも位相ずれ及びゴールデングロスが回避されたことがわかった。すなわち、比較例6のpH調整樹脂エマルジョンAに替えて水溶性ポリウレタン樹脂溶液、またはエージングした水溶性ポリウレタン樹脂溶液を用いても、位相ずれ及びゴールデングロスが改善されることがわかった。
(6)評価方法2(表面欠陥)
[1]記録方法
実施例4〜7及び比較例4〜6の各インクセットを、インクジェットプリンタ(PX−G900;セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジの各種インク室に対して表17に示す割り当てでそれぞれ充填した。出力は、実施例1、2と同様にして行った。
[2]表面欠陥の確認評価
連続印刷後の記録物につき、5人の観察者によって出力物の記録紙押さえ部材の接触痕跡からなる表面欠陥を観察した。結果を表18に示す。
表18に示すように、実施例のインクセットによれば、広いグレーレベルにわたってローラ跡などの表面欠陥が回避されていたことがわかった。すなわち、pH調整樹脂エマルジョンに替えて水溶性ポリウレタン樹脂溶液、またはエージングした水溶性ポリウレタン樹脂溶液を用いることで、位相ずれ及びゴールデングロスが改善されるとともに、表面欠陥のない高品質な表面を有する記録物が提供できることがわかった。
(7)評価方法3(インク保存安定性)
次に、実施例のインクセット(実施例4〜7)及び比較例のインクセット(比較例4〜6)に用いた各種ブラックインク組成物(K2〜K9、K11〜K16)について、インク保存安定性の評価を行った。評価方法は、水性インク組成物を調製直後にインクパックに50cc封入し、70℃の環境下で6日間(144時間)放置した。放置前後のインク組成物の粘度を、Physica社製粘弾性試験機を用いて測定(測定温度20℃)し、次式により粘度変化率(ΔV)を求めた。粘度変化率を、以下の基準で評価した。結果を表19に示す。
ΔV(%)=|V−V
0|/V
0×100
ただし、V
0は、放置時の粘度であり、Vは6日経過時の粘度である。
評価A:インクの粘度変化が4%未満であった。
評価B:インクの粘度変化が4%以上7%未満であった。
評価C:インクの粘度変化が7%以上であった。
表19に示すように、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂を用いたブラックインク組成物(K11〜K14)は良好な保存安定性を示した。これに対して、エージングしていない水溶性ポリウレタン樹脂を用いたブラックインク組成物K2〜K5は、いずれも保存安定は良好ではなかった。これにより、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂水溶液を用いることで良好な保存安定性が得られることがわかった。なお、水溶性ポリウレタン樹脂を用いていないブラックインク組成物(K6〜K9及びK15及びK16(pH調整樹脂エマルジョンA使用))も良好な保存安定性を示し、水溶性ポリウレタン樹脂の使用がインク組成物の保存安定性を低下させることが明らかであった。
また、以上の評価方法1〜3の結果をブラックインクセットについてまとめたものを表20に示す。
表20に示すように、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂を用いたブラックインク組成物による実施例6〜7のインクセットは、水溶性ポリウレタン樹脂の使用による優れた特性(位相ずれ及びゴールデングロスの改善並びに表面欠陥の抑制)を有するとともに、水溶性ポリウレタン樹脂に起因する保存不安定性が解消されて良好な保存安定性をも有していることがわかった。すなわち、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂を用いることによって、水溶性ポリウレタン樹脂によって得られる良好な表面特性を維持しつつ保存安定性を向上させることができた。
(実施例IV)
以下の実施例では各種カラーインク組成物を調製し、光沢ムラ及び保存安定性について評価した。
(1)カラーインク組成物の調製
表21に示す組成にしたがって、実施例の10種類のカラーインク組成物と比較例の5種類のカラーインク組成物を調製した。具体的には、表21に示す各種顔料及び水溶性樹脂(分散剤)を混合して顔料分散液を調製し、さらに実施例IIIで調製したエージングポリウレタン樹脂水溶液又は該エージング前のポリウレタン樹脂水溶液を加え、サンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズ〔直径=1.7mm;混合物の1.5倍量(重量)〕とともに2時間分散させ、合計15種類のカラーインク組成物を得た。なお、表21に記載の水溶性樹脂(分散剤)としては、スチレン−アクリル酸共重合体(分子量=15000;酸価=100)を用いた。
(2)評価方法1(光沢ムラ)
調製した各種カラーインク組成物(C1〜C15)とブラックインク組成物(K1〜K3、K6、K7、K11及びK12、実施例I及びIII参照)を、インクジェットプリンタ(PM−G900;セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジの各種インク室に表22に示すように割り当ててそれぞれ充填した。
出力は、インクジェット専用記録用紙(PM写真用紙:セイコーエプソン株式会社製)に対して、解像度1440×720dpiで、単色で各インクをDuty10〜100%までの10パッチを印刷した。印字サンプルを1日乾燥させた後、自動変角光度計(GP−200 株式会社村上色彩技術研究所)を用いて、45度光沢度測定を行った。結果を表23及び図7〜図11に示す。なお、ブラックインク組成物についても同様に測定した。結果を表24及び図12、図13に示す。また、光沢ムラについて以下の基準で評価した評価結果を表25に示す。
A:Duty10〜100%までの10パッチの45度グロスのDuty値とDuty値の差が0以上30未満
B:Duty10〜100%までの10パッチの45度グロスのDuty値とDuty値の差が30以上60未満
C:Duty10〜100%までの10パッチの45度グロスのDuty値とDuty値の差が60以上
表23及び図7〜図11に示すように、実施例のカラーインク組成物(C1、C2、C4,C5、C7、C8、C10、C11、C13、C14)は、それぞれ比較例のカラーインク組成物(C3、C6、C9、C12、C15)に比較して広い範囲の打ち込み量において安定した光沢度を有していた。特に、顔料濃度の低いカラーインク組成物において顕著であったが、水溶性ポリウレタン樹脂を用いることでこうした不具合が回避又は抑制されていることがわかった。また、表24並びに図12及び図13に示すように、ブラックインク組成物においても水溶性ポリウレタン樹脂を用いることで光沢ムラが回避又は抑制できることがわかった。
(3)評価方法2(インク保存安定性)
次に、実施例のカラーインク組成物と比較例のカラーインク組成物について、インク保存安定性の評価を行った。評価方法は、水性インク組成物を調製直後にインクパックに50cc封入し、70℃の環境下で6日間(144時間)放置した。放置前後のインク組成物の粘度を、Physica社製粘弾性試験機を用いて測定(測定温度20℃)し、次式により粘度変化率(ΔV)を求めた。粘度変化率を、以下の基準で評価した。結果を表25にあわせて示す。
ΔV(%)=|V−V0|/V0×100
ただし、V0は、放置時の粘度であり、Vは6日経過時の粘度である。
評価A:インクの粘度変化が4%未満であった。
評価B:インクの粘度変化が4%以上7%未満であった。
評価C:インクの粘度変化が7%以上であった。
表25に示すように、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂を用いカラーインク組成(C2、C5、C8、C11、C14)は、良好な保存安定性を示した。これに対して、エージングしていない水溶性ポリウレタン樹脂を用いたカラーインク組成物(C1、C4、C7、C10、C13)の保存安定性は良好ではなかった。これにより、カラーインク組成物においても、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂水溶液を用いることで良好な保存安定性が得られることがわかった。なお、水溶性ポリウレタン樹脂を用いていないカラーインク組成物(C3、C6、C9、C12、C15)は良好な保存安定性を示し、水溶性ポリウレタン樹脂の使用がインク組成物の保存安定性を低下させることが明らかであった。
以上のことから、表25に示すように、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂を用いたカラーインク組成物は、水溶性ポリウレタン樹脂の使用による優れた特性(光沢ムラの回避又は抑制)を有するとともに、水溶性ポリウレタン樹脂に起因する保存不安定性が解消されて良好な保存安定性をも有していることがわかった。すなわち、エージングした水溶性ポリウレタン樹脂を用いることによって、水溶性ポリウレタン樹脂によって得られる良好な表面特性を維持しつつ保存安定性を向上させることができた。