以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の説明の具体的形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変形できるものである。
本発明の静電荷像現像用トナー(以下、「トナー」と略記する)の製造方法は、重合体一次粒子を凝集させて粒子凝集体を得る凝集工程及び該粒子凝集体を構成する重合体一次粒子同士を融着させる熟成工程を少なくとも有する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、互いのガラス転移温度が15℃以上異なる少なくとも2種類の重合体一次粒子を凝集工程で凝集させることを特徴とするものである。
乳化重合凝集法は、基本的に、重合性単量体(以下、「モノマー」と略記することがある)を乳化重合することにより重合体一次粒子を含有する分散液を得る乳化重合工程、得られた分散液に、必要に応じて、着色剤、帯電制御剤、ワックス、その他の添加剤等を添加し分散させて得られる重合体一次粒子含有分散液を凝集させて粒子凝集体を生成する凝集工程、並びに、凝集工程で得られた粒子凝集体含有分散液中で粒子凝集体中の粒子間の融着を起こさせてトナー母粒子を生成させる熟成工程を含んでいる。
通常、乳化重合工程で、反応容器内の「乳化剤を含有する水性媒体」に、モノマー及び重合開始剤を添加して乳化状態でモノマーを重合して、重合体一次粒子分散液を製造し、これを凝集工程に供する。
本発明のトナーの製造方法に用いられる重合体一次粒子の体積中位径(Mv50)は通常0.05μm〜0.5μm程度のものである。このような重合体一次粒子は、モノマーを乳化重合することにより得られる。本発明においては、凝集工程においてガラス転移温度が15℃以上異なる少なくとも2種類の重合体一次粒子を用いる。凝集工程で用いる重合体一次粒子の種類は2種類だけに限定されるわけではなく、互いのガラス転移温度が15℃以上異なる2種類の重合体一次粒子が用いられればよく、その2種類の重合体一次粒子と共に、他の重合体一次粒子をも併せて用いることができる。すなわち、凝集工程で用いられる重合体一次粒子分散液中の複数種類の重合体一次粒子は、互いのガラス転移温度が15℃以上異なる組合せとなる関係にある少なくとも2種類の重合体一次粒子を含んでいればよい。
かかる2種類の重合体一次粒子は、それぞれ乳化重合、懸濁重合等の方法により分散状態で得られるが、それぞれの重合体一次粒子分散液を、凝集工程で共に凝集させて凝集粒子を得る。一方の重合体一次粒子が実質的に凝集し終わってから、他方の重合体一次粒子を添加するのではなく、凝集工程で共に凝集させて凝集粒子を得ることが必要である。なかでも、それぞれの重合体一次粒子分散液を、混合して所望の2種類の重合体一次粒子を含んだ分散液を得て、それを凝集させることが好ましい。
乳化重合凝集法によるトナーの製造方法について詳細に検討した結果、特定の関係にある重合体一次粒子を凝集工程で用いることで、定着性と保存安定性に優れたトナーが得られることを見出し、更に、ガラス転移温度の異なる重合体一次粒子の凝集工程における挙動について詳細に検討した結果、ガラス転移温度に15℃以上の差があるときに限り、ガラス転移温度の低い重合体一次粒子(以下、「低Tg重合体一次粒子」と略記する場合がある)は、粒子凝集体中心部に近い領域に相対的に多く存在し、ガラス転移温度の高い重合体一次粒子(以下、「高Tg重合体一次粒子」と略記する場合がある)は、粒子凝集体の表面に近い領域に相対的に多く存在する傾向にあることを見出し、それに基づき実際にトナー母粒子を製造したところ、確かにそのために定着性と保存安定性に優れたトナーが得られた。
本発明は上述の知見に基づくものであり、凝集工程においてガラス転移温度が異なる2種類の重合体一次粒子を凝集することで、重合体一次粒子が凝集して粒子凝集体を生成する過程において、ガラス転移温度の差に起因して2種類の重合体一次粒子の挙動が異なり、そのことにより、凝集過程を経て得られる個々の粒子凝集体内において2種類の重合体一次粒子が均一に分布しているのではなく、個々の粒子凝集体の中心部に近い領域と表面に近い領域とでは、2種類の重合体一次粒子の存在割合が異なるという新たな知見を得た。そして、その知見を適用することにより、本発明の特徴的な性能を有するトナーが得られたものである。
すなわち、本発明において、粒子凝集体の中心部に近い領域と表面に近い領域とで、ガラス転移温度が異なる2種類の重合体一次粒子の存在割合が異なることに着目し、2種類の重合体一次粒子の存在割合が上記のように異なることを前提に、それぞれの重合体一次粒子の量や性状を設計、制御し、優れた定着性能と高い保存安定性を兼ね備えた静電荷像現像用トナーを製造できた。
本発明における重合体一次粒子のガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて、実施例に記載の方法によって求め、かかる測定方法で測定したものとして定義する。示差走査熱量計の測定による重合体一次粒子のガラス転移温度がバインダー樹脂以外の他の成分、例えば、ワックス等の熱量変化に起因するものと重なるために明確に測定できない場合には、ワックス等の示差走査熱量計による測定の障害となる成分を除いて作成した重合体一次粒子について測定したガラス転移温度を、重合体一次粒子のガラス転移温度として採用する。
本発明においては、ガラス転移温度は、実際の重合体一次粒子を測定して、その測定値として定義される。重合体一次粒子を構成するモノマー組成をもとに、理論的に計算でガラス転移温度(以下、「理論ガラス転移温度」と略記する)を求めることもできるが、通常、理論ガラス転移温度は実測で求められるガラス転移温度とは一致しないため、そのままでは、本発明における「ガラス転移温度」とは異なるものである。
ただし、理論ガラス転移温度は、実験を伴わずに計算だけで求められるという簡便性から、場合によっては、重合体一次粒子のモノマー組成を設定する際の参考とし、各モノマー組成設計の効率化に役立てることは通常行われている。
従って、ガラス転移温度が所定の範囲内になる蓋然性が高いことを理論ガラス転移温度により推定して設定したモノマー組成の重合体一次粒子を乳化重合で作製し、得られた重合体一次粒子について測定したガラス転移温度と理論ガラス転移温度との差を参考として、当初設定したモノマー組成を修正して、所定のガラス転移温度の樹脂を効率的に設計することができる。
従って、下記する理論ガラス転移温度を、実際のガラス転移温度と理論ガラス転移温度との差を参考にして修正した温度を、本発明の「ガラス転移温度」として採用することもできる。すなわち、「修正された理論ガラス転移温度」を用いた場合に文言上本願発明の範囲内に入れば、その発明は本願発明に含まれる。従って、かかる修正が殆ど必要ない系の場合には、下記する理論ガラス転移温度を、本発明の「ガラス転移温度」として採用することができる。
「理論ガラス転移温度」については以下の通りである。重合体一次粒子の理論ガラス転移温度を「Tg(絶対温度)」とおくと、Tgは、重合体一次粒子を構成する各モノマーで形成されるホモポリマーのガラス転移温度(Tg)を用いて下記式(1)から算出される。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn (1)
[式中、W1、W2、・・・Wnは、重合体一次粒子を構成する全モノマーに対する各モノマーの質量分率を示し、Tg1、Tg2・・・Tgnは各モノマーを用いて形成されるホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)を示す。]
ここで、「重合体一次粒子を構成するモノマー」とは、重合体一次粒子を得るに際して乳化重合反応に供するモノマーを意味する。
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、2種類の重合体一次粒子のうち高Tg重合体一次粒子が、低Tg重合体一次粒子のガラス転移温度より15℃〜100℃だけ高い温度のガラス転移温度を有するものであることが好ましい。すなわち、2種類の重合体一次粒子のガラス転移温度の差が100℃を超えないことが好ましい。2種類の重合体一次粒子のガラス転移温度の差は、より好ましくは18℃〜70℃の範囲であり、特に好ましくは20℃〜60℃の範囲であり、更に好ましくは30℃〜55℃の範囲であり、最も好ましくは40℃〜50℃の範囲である。
2種類の重合体一次粒子のガラス転移温度の差が小さすぎる場合には、定着性と保存安定性を兼ね備えることができなくなる場合がある。
重合体一次粒子のガラス転移温度は、得られるトナーの定着性や保存安定性と密接な関係にあり、本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法においては、2種類の重合体一次粒子のうち高Tg重合体一次粒子のガラス転移温度が50℃〜200℃であることが好ましく、70℃〜180℃であることがより好ましく、80℃〜150℃であることが特に好ましい。高Tg重合体一次粒子のガラス転移温度が低すぎる場合は、低Tg重合体一次粒子のガラス転移温度が必然的に低くなりすぎるため、保存安定性が悪くなる場合があり、一方、高Tg重合体一次粒子のガラス転移温度が高すぎる場合は、凝集がうまく進行しなかったり、定着性が悪くなったりする場合がある。
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、2種類の重合体一次粒子のうち低Tg重合体一次粒子のガラス転移温度が30℃〜70℃であることが好ましく、40℃〜65℃であることがより好ましく、45℃〜60℃であることが特に好ましい。低Tg重合体一次粒子のガラス転移温度が低すぎる場合は、保存安定性が悪くなる場合があり、一方、低Tg重合体一次粒子のガラス転移温度が高すぎる場合は、定着性が悪くなる場合がある。
また、定着性と保存安定性とが共に良好であるトナーを得るためには、ガラス転移温度が15℃以上異なる2種類の重合体一次粒子のうち、高Tg重合体一次粒子の質量が、重合体一次粒子全質量の50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。重合体一次粒子全質量に対する高Tg重合体一次粒子の質量が大きすぎると、得られるトナーの定着性が悪化する場合があり、その傾向は50質量%を超えると一層顕著になる場合がある。
一方、高Tg重合体一次粒子の質量は、重合体一次粒子全質量の1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが特に好ましい。重合体一次粒子全質量に対する高Tg重合体一次粒子の質量が小さすぎると、定着性と保存安定性の両立ができなくなる場合がある。
また、本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法においては、重量平均分子量(Mw)について特に限定はないが、2種類の重合体一次粒子のうち、高Tg重合体一次粒子のバインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)が、低Tg重合体一次粒子のバインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)よりも大きいことが、定着性と保存安定性の両立の点から好ましい。
本発明のトナーの製造方法における凝集工程においては、上述の少なくとも2種類の重合体一次粒子の他に、着色剤、必要に応じて荷電制御剤、ワックス等を含む混合分散液を用いるが、予めそれぞれの成分の分散液、即ち、重合体一次粒子分散液、着色剤分散液、必要に応じ荷電制御剤分散液、ワックス微粒子分散液を作製しておき、これらを混合して混合分散液を得ることができる。
ワックスは、画像形成装置での画像形成の際のトナーの離型性を制御するために有用な成分であり、上述のようにワックス微粒子分散液としてから他の成分と共に混合分散液中に存在させて、ワックス含有トナーを得ることができるが、重合体一次粒子に内包された形態で用いてもよい。この場合、重合体一次粒子に内包化されたワックスと、内包化されていないワックスとを併用してもよいが、実質的に全量のワックスを重合体一次粒子に内包化された形で用いることが好ましい。
ワックスを内包した重合体一次粒子は、例えば、ワックス微粒子の存在下でのモノマーの乳化重合、すなわち、ワックス微粒子をシードとした乳化重合により得ることができる。この際、ワックスとして、ステアリルアクリレート等の長鎖重合性単量体とともに水性媒体中で加熱分散処理したワックスを用いることが好ましい。このような処理をしたワックスは、モノマーとの親和性が良好であるため、ワックス成分がモノマーと良好な混合状態で乳化重合が進行し、ワックス成分を内包した重合体一次粒子の分散液が得られる。このようなワックス成分を内包した重合体一次粒子から得られるトナーは、本発明の効果とともにワックス内包の効果を重畳的に発現するので特に好ましい。
ガラス転移温度が異なる2種類の重合体一次粒子の何れにも、ワックスを内包させることもさせないこともできるが、低Tg重合体一次粒子のみがワックスを内包しているか、あるいは、低Tg重合体一次粒子が高Tg重合体一次粒子のワックス含有割合よりも大きい含有割合でワックスを内包していることが好ましい。こうすることによって、定着性と保存安定性の両立がとり易くなる。
低Tg重合体一次粒子の好ましいワックス含有割合は、低Tg重合体一次粒子全体に対し、5質量%〜40質量%であり、より好ましくは7質量%〜30質量%であり、特に好ましくは、10質量%〜20質量%である。低Tg重合体一次粒子中のワックス含有割合が小さすぎると定着性が悪くなる場合があり、一方、多すぎると、トナーの保存安定性が悪くなる場合がある。
高Tg重合体一次粒子の好ましいワックス含有割合は、高Tg重合体一次粒子全体に対し、0質量%〜20質量%であり、より好ましくは、0質量%〜15質量%であり、特に好ましくは、0質量%〜10質量%である。高Tg重合体一次粒子中のワックス含有割合が大きすぎると、トナーの保存安定性が悪くなる場合がある。
なお、重合体一次粒子全体に対するワックス含有割合は、ワックスを内包した重合体一次粒子を得るときに乳化重合に供するモノマー質量(A)と乳化重合時に存在させるワックスの質量(B)とから、「B/(A+B)」として求められる。
以下に、本発明の実施の形態を更に詳しく説明する。
本発明の製造方法は、乳化重合凝集法において、ガラス転移温度が異なる2種類の重合体一次粒子を含む分散液に、必要に応じて他の重合体一次粒子や着色剤、帯電制御剤、ワックス及びその他の添加剤等を添加し分散させて得られる重合体一次粒子含有分散液を共凝集させて粒子凝集体を生成する凝集工程、並びに凝集工程で得られた粒子凝集体に含有される重合体一次粒子間の融着を起こさせてトナー粒子を生成させる熟成工程を有する。
ガラス転移温度が異なる2種類の重合体一次粒子の何れもが、それぞれ乳化重合により製造されることが好ましい。乳化重合では、乳化剤を含有する水性媒体にモノマー、重合開始剤等を添加してモノマーを乳化重合する。
重合体一次粒子の製造においては、ガラス転移温度や重量平均分子量(Mw)、ワックス含有割合等の観点からモノマー組成や反応条件が設定される。ガラス転移温度の制御にあたっては、予め、前述のガラス転移温度に関する予備実験の結果等を利用することができ、また、重量平均分子量(Mw)の制御にあたっては乳化重合における通常の分子量制御の手法が採用される。
重合体一次粒子のバインダー樹脂は、スチレン重合体又はスチレンの共重合体であることが好ましい。すなわち、本発明では乳化重合に供するモノマーとして、スチレンを主成分とするモノマーを用いることが特に好ましい。乳化重合に供するモノマーとの親和性の観点から、ガラス転移温度が異なる2種類の重合体一次粒子のバインダー樹脂の何れもがスチレン重合体あるいはスチレンの共重合体であることが特に好ましい。
乳化重合により重合体一次粒子を製造するに当たって、特に、乳化重合により低Tg重合体一次粒子を製造するに当たっては、極性基を有するモノマーとして、ブレンステッド酸性基(以下、単に「酸性基」と略記する場合がある)を有するモノマー若しくはブレンステッド塩基性基(以下、単に「塩基性基」と略記する場合がある)を有するモノマー、及び、極性基を有さない、すなわち、ブレンステッド酸性基又はブレンステッド塩基性基を何れも有さないモノマー(以下、「その他のモノマー」と略記する場合がある)を配合することにより重合を進行させる。この際、モノマー同士は別々に加えてもよいし、予め、複数のモノマー混合しておいて添加してもよい。更に、モノマー添加中にモノマー組成を変更することも可能である。また、モノマーはそのまま添加してもよいし、予め、水や乳化剤等と混合、調製した乳化液として添加することもできる。
前記の酸性基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ケイ皮酸等のカルボキシル基を有するモノマー;スルホン化スチレン等のスルホン酸基を有するモノマー;ビニルベンゼンスルホンアミド等のスルホンアミド基を有するモノマー等が挙げられ、中でもカルボキシル基を有するモノマーが好ましく、特にアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
前記の塩基性基を有するモノマーとしては、アミノスチレン等のアミノ基を有する芳香族ビニル化合物;ビニルピリジン、ビニルピロリドン等の窒素含有複素環含有モノマー、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これら酸性基を有するモノマー及び塩基性基を有するモノマーは、それぞれ対イオンを伴って塩として存在していてもよい。
低Tg重合体一次粒子を調製するために、乳化重合に供するモノマー全量に対する前記の極性基を有するモノマーの割合は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。極性基を有するモノマーの量が多いと水に対する分散安定性が良好であり、凝集工程における粒径制御性に優れているが、吸湿し易くなり、帯電性が悪くなったり、トナーの保存安定性(トナーの固結性)が悪くなったり、熟成工程においてトナー母粒子の形状の制御がし難くなったりする場合がある。一方、極性基を有するモノマーの量が少ないと粒径制御が困難となる場合がある。
また、高Tg重合体一次粒子を調製するために、乳化重合に供するモノマー全量に対する前記の極性基を有するモノマーの割合は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。また、高Tg重合体一次粒子を調製するためには、極性基を有するモノマーを用いないことも好ましい。極性基を有するモノマーの割合が多すぎる場合は、凝集工程における粒径制御が困難になる場合がある。
また、前記の「その他のモノマー」としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−n−ノニルスチレン等のスチレン類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジプロピルアクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド等のアクリル酸アミド類等を挙げることができる。この中では、特にスチレン、ブチルアクリレート等が好ましい。
低Tg重合体一次粒子を調製するために、乳化重合に供するモノマーは、少なくともスチレンを主成分とし、これに、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル等の少なくとも何れかのモノマー、及び、極性基を有するモノマーを共重合成分として用いることが、性能面でバランスのとれたトナーを得る上で好ましい。
高Tg重合体一次粒子を調製するために、乳化重合に供するモノマーは、少なくともスチレンを主成分とすることが好ましい。また、性能面でバランスをとるために要すればこれに、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル等の少なくとも何れかのモノマーや極性基を有するモノマーを共重合成分として用いることも可能である。低Tg重合体一次粒子の調製より、スチレンの使用量を増やすことが、好適なTgを得るため、定着性と保存安定性の両立が得られやすくなるために好ましい。具体的には、高Tg重合体一次粒子中のスチレンの含有量は、60〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。
本発明におけるガラス転移温度が異なる2種類の重合体一次粒子の何れか、あるいは両者とも、一部が架橋されているものであってもよいが、特に、高Tg重合体一次粒子のみが架橋されていることが好ましい。
架橋は、乳化重合系に少なくとも2つの官能基を有するモノマー(多官能性モノマー)を配合することによってなされる。この場合の多官能性モノマーとしては、通常、ラジカル重合性を有するものが用いられ、例えばジビニルベンゼン、ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールアクリレート、ジアリルフタレート等が挙げられる。また、反応性基をペンダントグループに有するモノマー、例えばグリシジルメタクリレート、メチロールアクリルアミド、アクロレイン等を用いることも可能である。
多官能性モノマーを用いる場合のその含有量は、重合体一次粒子を構成する全モノマー中に、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。また、重合体一次粒子が架橋されている場合には、重合体一次粒子のテトラヒドロフラン(THF)不溶分が15〜80質量%となるように前記の多官能性モノマーを含有することが好ましい。THF不溶分はセライト濾過による質量法で測定した。
本発明方法において、乳化重合を行う際の重合開始剤としては、公知の水溶性重合開始剤を用いることができる。例えば、過酸化水素;過硫酸カリウム等の過硫酸塩類;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の有機過酸化物類;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物類等が用いられる。また、これらの重合開始剤に、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸等の還元性有機化合物類、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物類等の還元剤を併用したレドックス系開始剤とすることもできる。中でも、開始剤としては過酸化水素、有機過酸化物類、アゾ系化合物類が好ましい。
また、本発明では、乳化重合を行う際に必要に応じて公知の連鎖移動剤を使用することもできる。そのような連鎖移動剤の具体的な例としては、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、ジイソプロピルキサントゲン、四塩化炭素、トリクロロブロモメタン等が挙げられる。連鎖移動剤は単独でも2種類以上の併用でもよく、モノマー100質量部に対して通常0〜5質量部の範囲で用いられる。
ガラス転移温度が異なる2種類の重合体一次粒子の何れもが、それぞれ乳化重合により製造されるが、乳化重合では乳化剤を含有する水性媒体にモノマー及び重合開始剤を添加してモノマーを乳化重合する。乳化剤としては、公知のカチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等の界面活性剤が使用される。これらの界面活性剤は2種以上を併用してもよい。
乳化重合工程で乳化剤として用いられるカチオン界面活性剤の具体例としては、ドデシルアンモニウムクロリド、ドデシルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルピリジニウムクロリド、ドデシルピリジニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。また、アニオン界面活性剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム等の脂肪酸石鹸、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。更に、ノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートエーテル、モノデカノイル蔗糖等が挙げられる。
トナー中にワックスを含有させる場合、ワックスは凝集工程で添加してもよいが、重合体一次粒子内にワックスを含むように乳化重合工程で添加してもよい。その方法としては、乳化剤の存在下で乳化させて得られたワックス微粒子を乳化重合工程で添加しワックス微粒子をシードとしてモノマーを乳化重合する方法、モノマーにワックスを溶解しておき、それを乳化重合する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、ワックス微粒子をシードとして乳化重合することが好ましい。更に、乳化剤の存在下でステアリルアクリレート等のような長鎖重合性単量体とともにワックスを乳化したワックス微粒子を乳化重合工程で添加する方法が特に好ましい。このような方法で乳化重合工程においてワックスを添加することにより、トナー中でのワックスの分散が良好になり、また多量に添加することが可能となるため、得られるトナーの離型性、耐フィルミング性が良好となり、ワックス漏出抑制の観点からも好ましい場合がある。
本発明におけるワックスとしては、公知のワックス類の任意のものを使用することができるが、具体的には低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、共重合ポリエチレン等のオレフィン系ワックス;パラフィンワックス;ベヘン酸ベヘニル、モンタン酸エステル、ステアリン酸ステアリル等の長鎖脂肪族基を有するエステル系ワックス;水添ひまし油、カルナバワックス等の植物系ワックス;ジステアリルケトン等の長鎖アルキル基を有するケトン;アルキル基を有するシリコーン系ワックス;ステアリン酸等の高級脂肪酸;エイコサノール等の長鎖脂肪族アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと長鎖脂肪酸とから得られる多価アルコールカルボン酸エステル、又は部分エステル;オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド;低分子量ポリエステル等が例示される。
これらのワックスの中で、本発明の効果に加え、重畳的に定着性を改善するためには、ワックスの融点は30℃以上が好ましく、40℃以上が更に好ましく、50℃以上が特に好ましい。また、100℃以下が好ましく、90℃以下が更に好ましく、80℃以下が特に好ましい。融点が低すぎると定着後にワックスが表面に露出しべたつきを生じやすく、融点が高すぎると低温での定着性が劣り好ましくない。
ワックスは1種類で用いてもよいし、数種類を用いてもよい。トナー中のワックスの使用量は、トナー全体に対して、通常0.1質量%〜40質量%、好ましくは1質量%〜37質量%、更に好ましくは5質量%〜35質量%、特に好ましくは7質量%〜30質量%である。
以上のようにして得られる重合体一次粒子の体積中位径(Mv50)は、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、特に好ましくは0.1μm以上であり、また、通常3μm以下、好ましくは2μm以下、特に好ましくは1μm以下である。体積中位径(Mv50)は、実施例記載の方法で測定され、その方法で測定したものとして定義される。
重合体一次粒子の体積中位径(Mv50)が前記範囲より小さい場合は、凝集速度の制御が困難となる場合があり、また、前記範囲より大きい場合は、凝集して得られるトナー母粒子の粒径が大きくなり過ぎるため、トナーとして高解像度を要求される用途には不適当な場合がある。重合体一次粒子の体積中位径(Mv50)は、乳化剤やモノマー、開始剤等の原料濃度や、重合条件等によって制御することができる。
凝集工程においては、前記したガラス転移温度が異なる少なくとも2種類の重合体一次粒子、着色剤、及び必要に応じて帯電制御剤、ワックス、その他の内添剤を、それぞれ微細に分散した分散液とし、同時にあるいは逐次に混合して凝集させる。
上記着色剤の具体的な例としては、カーボンブラック、アニリンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ハンザイエロー、ローダミン系染顔料、クロムイエロー、キナクリドン、ベンジジンイエロー、ローズベンガル、トリアリルメタン系染料、モノアゾ系、ジスアゾ系、縮合アゾ系染顔料等、公知の任意の染顔料を単独あるいは混合して用いることができる。フルカラートナーの場合にはイエローはベンジジンイエロー、モノアゾ系、縮合アゾ系染顔料、マゼンタはキナクリドン、モノアゾ系染顔料、シアンはフタロシアニンブルーをそれぞれ用いるのが好ましい。
着色剤は、実質的に水に不溶である有機顔料を界面活性剤の存在下で水中に微細に分散したものが好ましく、この場合の着色剤の体積中位径(Mv50)は、好ましくは0.01〜3μm、より好ましくは0.05μm〜1μmである。
また、上記帯電制御剤としては、公知の任意のものを単独ないしは併用して用いることができ、例えば、正帯電性帯電制御剤として4級アンモニウム塩、塩基性・電子供与性の金属物質が挙げられ、負帯電性帯電制御剤として金属キレート類、有機酸の金属塩、含金属染料、ニグロシン染料、アミド基含有化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物及びそれらの金属塩、ウレタン結合含有化合物、酸性若しくは電子吸引性の有機物質が挙げられる。
また、本発明の製造方法で得られる静電荷像現像用トナーをカラートナー又はフルカラートナーにおける黒色トナー以外のトナーとして使用する場合には、無色ないしは淡色でトナーへの色調障害がない帯電制御剤を用いることが好ましく、例えば、正帯電性帯電制御剤としては4級アンモニウム塩化合物が、負帯電性帯電制御剤としてはサリチル酸若しくはアルキルサリチル酸のクロム、亜鉛、アルミニウム等との金属塩、金属錯体や、ベンジル酸の金属塩、金属錯体、アミド化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物、フェノールアミド化合物、4,4’−メチレンビス〔2−〔N−(4−クロロフェニル)アミド〕−3−ヒドロキシナフタレン〕等のヒドロキシナフタレン化合物が好ましい。
帯電制御剤の使用量はトナーに所望の帯電量により決定すればよいが、通常は重合体一次粒子100質量部に対し、0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜10質量部を用いる。帯電制御剤も、水中で体積中位径(Mv50)が、好ましくは0.01μm〜3μm程度、より好ましくは0.05μm〜1μm程度の微細な分散液として使用することが望ましい。
本発明における凝集工程においては、前記したガラス転移温度が異なる少なくとも2種類の重合体一次粒子、着色剤、及び必要に応じて帯電制御剤、ワックス、その他の内添剤を、それぞれ微細に分散した分散液とし、同時にあるいは逐次に混合して凝集させる。このうち、これらの分散液を混合して混合分散液として同時に凝集させることが、組成の均一性及び粒径の均一性の観点で好ましい。ただ、凝集を行う各成分のうち、帯電制御剤分散液は、凝集工程の途中で添加してもよいが、凝集工程の後に添加してもよい。
凝集処理は通常、攪拌槽内で、加熱する方法、電解質を加える方法、これらを組み合わせる方法等がある。攪拌下に凝集する場合、粒子同士の凝集力と攪拌による剪断力とのバランスから粒子凝集体の粒径が制御されるが、加熱するか、或いは電解質を加えることによって凝集力を調整し、目的とする粒径とすることができる。
電解質を添加して凝集を行う場合の電解質としては、有機塩、無機塩の何れでもよいが、具体的には、NaCl、KCl、LiCl、Na2SO4、K2SO4、Li2SO4、CH3COONa、C6H5SO3Na等の1価の金属カチオンを有する無機塩;MgCl2、CaCl2、MgSO4、CaSO4、ZnSO4等の2価の金属カチオンを有する無機塩;Al2(SO4)3、Fe2(SO4)3等の3価の金属カチオンを有する無機塩等が挙げられる。これらのうち、2価以上の多価の金属カチオンを有する無機塩を用いる場合、凝集速度が速くなり生産性の点で好ましいが、一方で凝集粒子に取り込まれない重合体一次粒子等の量が増加するため、結果として所望のトナー粒径に至らない微粉が発生しやすくなる。従って、凝集作用のそれほど強くない1価の金属カチオンを有する無機塩を用いることが、上記微粉の発生量を抑えられる点で好ましい。
電解質の添加量は、電解質の種類、目的とする体積中位径(Dv50)等によって異なるが、混合分散液の固形成分100質量部に対して、通常0.05〜25質量部、好ましくは0.1〜15質量部、更に好ましくは0.1〜10質量部である。添加量が前記範囲より少ない場合は、凝集の進行が遅くなり、凝集処理後も1μm以下の微粉が残ったり、得られた粒子凝集体の体積中位径(Dv50)が目的の値に達しない等の問題を生じる場合がある。また、添加量が前記範囲よりも多い場合は、凝集が急速に進行しやすく、体積中位径(Dv50)の制御が困難となり、得られた粒子凝集体中に粗粉や不定形のものが含まれる等の問題を生じる場合がある。
電解質を加えて凝集を行う場合の凝集温度は、20〜70℃が好ましく、30〜60℃が更に好ましい。
電解質を用いずに加熱のみによって凝集を行う場合の凝集温度は、低Tg重合体一次粒子のガラス転移温度を「Tg」とすると、(Tg−20℃)〜Tgの温度範囲が好ましく、(Tg−10℃)〜(Tg−5℃)の範囲であることが特に好ましい。
凝集に要する時間は、装置形状や処理スケールにより最適化されるが、目的とする体積中位径(Dv50)に到達するためには、前記した所定の温度で通常、少なくとも30分以上保持することが望ましい。所定の温度へ到達するまでの昇温は、一定速度で昇温してもよいし、段階的に昇温することもできる。
トナーの帯電性や耐熱性等の性能を保持あるいは向上させるための手法として、カプセル化工程を設けることが好ましい。カプセル化工程は、殻用樹脂微粒子(以下、単に「樹脂微粒子」と略記する)を、上記した粒子凝集体の表面に付着又は固着させ、粒子凝集体の表面を部分的にあるいは全面にわたって被覆する工程である。
本発明によれば、ガラス転移温度が異なる2種類の重合体一次粒子のうち、高Tg重合体一次粒子を粒子凝集体の表面近傍に相対的に多く存在させることができ、高Tg重合体一次粒子の性状により粒子凝集体の表面特性を制御することができるため、上記カプセル化の手法を採用することは必ずしも必要ではなく、製造工程の簡素化が可能である。しかし、本発明の効果と共に、いわゆるカプセル化の効果を重畳的に得るために、樹脂微粒子を粒子凝集体の表面に付着又は固着させ、粒子凝集体の表面を部分的にあるいは全面にわたって被覆させてもよい。
樹脂微粒子は、凝集工程以降、熟成工程以前又は熟成工程中の段階で、粒子凝集体含有分散液に樹脂微粒子を添加することで粒子凝集体表面に供給される。樹脂微粒子は、通常、界面活性剤を含有する水を主体とする液中に分散して用いられるが、乳化重合によって得られたものが好ましく、前記の帯電制御剤を凝集処理後に加える場合には、粒子凝集体を含む分散液に帯電制御剤を加えた後に樹脂微粒子を加えることが好ましい。
樹脂微粒子としては、好ましくは体積中位径(Mv50)が0.02μm〜3μm、更に好ましくは0.05μm〜1.5μmであって、前述の重合体一次粒子製造における乳化重合で用いられるモノマーと同様なモノマーを重合して得られたもの等を用いることができる。また、樹脂微粒子に用いられる樹脂は架橋されているものが好ましく、架橋剤としては、上述の重合体一次粒子に用いられる多官能性モノマーが使用できる。樹脂微粒子が架橋樹脂である場合の架橋度は、テトラヒドロフラン不溶分として通常5質量%以上であり、10質量%以上が好ましく、15質量%以上が更に好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、70質量%以下が好ましい。
また、樹脂微粒子は実質的にワックスを含まないものが好ましく、樹脂微粒子中のワックス含有量が通常1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であることが望ましい。樹脂微粒子が実質的にワックスを含まない場合は、複写機やプリンター等での画像形成の際に、トナーが定着される前にはトナー表面部にワックスが浸出しにくく、画像形成装置の汚れを防ぐことができ、また、保存安定性も良好となるため好ましい。
凝集工程で得られた粒子凝集体は、粒子凝集体を構成する重合体一次粒子間の融着を起こす熟成工程で処理される。熟成工程の温度は、好ましくは粒子凝集体を構成する高Tg重合体一次粒子のガラス転移温度をTg’とすると、通常Tg’以上、より好ましくは(Tg’+5℃)以上であり、また、好ましくは(Tg’+80℃)以下、より好ましくは(Tg’+50℃)以下である。また、熟成工程に要する時間は、目的とする形状により異なるが、粒子凝集体を構成する高Tg重合体一次粒子のガラス転移温度(Tg’)に到達した後、通常0.1〜10時間、好ましくは1〜6時間保持することが望ましい。
乳化重合凝集法においては、上記凝集工程以降、好ましくは熟成工程以前又は熟成工程中の段階で、界面活性剤を添加するか、凝集液のpH値を上げることが好ましい。ここで用いられる界面活性剤としては、前記の重合体一次粒子を製造する際に用いることのできる乳化剤から1種以上を選択して用いることができる。特に重合体一次粒子を製造した際に用いた乳化剤と同じものを用いることが好ましい。界面活性剤を添加する場合の添加量は限定されないが、混合分散液の固形成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。凝集工程以降、熟成工程の完了前の間に界面活性剤を添加するか、凝集液のpH値を上げることにより、凝集工程で凝集した粒子凝集体同士の凝集等を抑制することができ、粗大粒子が生じることを抑制できる場合がある。
熟成工程での加熱処理により、粒子凝集体における重合体一次粒子同士の融着一体化がなされ、粒子凝集体は球形に近い形状となる。熟成工程前の粒子凝集体は、重合体一次粒子を主構成成分とした静電的あるいは物理的凝集による集合体であると考えられるが、熟成工程後は、粒子凝集体を構成する重合体一次粒子は互いに融着しており、球状に近い形状のトナー母粒子を得ることが可能となる。この様な熟成工程によれば、熟成工程の温度及び時間等を制御することにより、重合体一次粒子が凝集した形状である葡萄型、融着が進んだジャガイモ型、更に融着が進んだ球状等、目的に応じて様々な形状(円形度)のトナー母粒子を製造することができる。
上記の各工程を経ることにより得たトナー母粒子は、公知の方法に従って固液分離し、トナー母粒子を回収し、次いで、これを必要に応じて洗浄した後、乾燥することにより目的とするトナー母粒子を得ることができる。
本発明の静電荷像現像用トナーは、上記工程で得られるトナー母粒子のままであってもよいが、流動性や現像性を制御する為に、トナー母粒子に公知の外添剤が添加されたものでもよい。外添剤としては、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、タルク、ハイドロタルサイト等の金属酸化物や水酸化物、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン酸金属塩、窒化チタン、窒化珪素等の窒化物、炭化チタン、炭化珪素等の炭化物、アクリル系樹脂やメラミン樹脂等の有機粒子等が挙げられ、複数組み合わせることが可能である。中でも、シリカ、チタニア、アルミナが好ましく、また、例えば、シランカップリング剤やシリコーンオイル等で表面処理されたものがより好ましい。外添剤の体積平均一次粒子径は1〜500nmの範囲が好ましく、より好ましくは5〜100nmの範囲がよい。また、前記粒径範囲において小粒径のものと大粒径のものとを併用することも好ましい。外添剤の添加量の総量は、トナー母粒子100質量部に対して0.05〜10質量部の範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部である。
トナー母粒子の表面に、外添剤を添加する方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)等の高速流動式混合機において、羽根形状、回転数、時間、駆動−停止の回数等を適宜設定して均一に攪拌、混合することによりなされる。また、圧縮剪断応力を加えることのできる装置によって固着することもできる。
本発明の静電荷像現像用トナーは、体積中位径(Dv50)が3μm〜9μmであることが好ましく、4μm〜8μmがより好ましく、5μm〜7μmが特に好ましい。また、粒径5.04μm以下の微粉粒子含有割合の下限は、好ましくは0.1体積%以上であり、より好ましくは0.5体積%以上であり、特に好ましくは1体積%以上である。一方、上限は、好ましくは10体積%以下、より好ましくは7体積%以下、特に好ましくは5体積%以下である。また、粒径12.7μm以上の粗粉粒子含有割合は、好ましくは2体積%以下、より好ましくは1体積%以下、特に好ましくは0.5体積%以下である。粒径5.04μm以下及び粒径12.7μm以上の粒子、特に粒径12.7μm以上の粗粉粒子は、本来は全く存在しないのが最も好ましいが、実際の製造上は困難であり、除去工程に設備も要することから、前記範囲に制御することが望ましい。体積中位径(Dv50)や粒子含有割合が前記範囲を逸脱する場合は高解像度の画像形成に適さない場合があり、前記範囲未満では粉体としての取り扱いが困難な傾向にある。
更に、体積中位径(Dv50)を数中位径(Dn50)で除した値(Dv50/Dn50)が、好ましくは1.0〜1.25、より好ましくは1.0〜1.20、特に好ましくは1.0〜1.15であり、1.0に近い方が望ましい。静電荷像現像用トナーの粒度分布がシャープなものの方が粒子間の帯電性が均一になる傾向にあるので、高画質及び高速化を達成するための静電荷像現像用トナーの(Dv50/Dn50)は前記範囲であることが好ましい。体積中位径(Dv50)、数中位径(Dn50)は、実施例記載の方法で測定し定義される。
また、静電荷像現像用トナーの形状は出来るだけ球形に近いものが好ましく、平均円形度は、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.92以上、特に好ましくは0.95以上である。球形に近いほど粒子内での帯電量の局在化が起こりにくく、現像性が均一になる傾向にあるが、完全な球状トナーを作ることは製造上困難であるので、前記平均円形度は、好ましくは0.995以下、より好ましくは0.990以下である。平均円形度は、実施例記載の方法で測定し、そのように測定して得た値として定義される。
また、本発明におけるトナーのTHF可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるピーク分子量(Mp)のうち少なくとも1つが、好ましくは3万以上、より好ましくは4万以上、更に好ましくは5万以上であり、好ましくは20万以下、より好ましくは15万以下、更に好ましくは10万以下であることが望ましい。ピーク分子量(Mp)が何れも前記範囲より低い場合は、非磁性一成分現像方式における機械的耐久性が悪化する場合があり、ピーク分子量(Mp)が何れも前記範囲より高い場合は、低温定着性や定着強度が悪化する場合や、フルカラートナーとしての透明性が低下する場合がある。
トナーのTHF不溶分はセライト濾過による質量法で測定した場合、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。前記範囲にない場合は、機械的耐久性と低温定着性や透明性との両立が困難となる場合がある。
本発明のトナーの帯電性は、正帯電性であっても負帯電性であってもよいが、負帯電性トナーとして用いることが好ましい。トナーの帯電性の制御は、帯電制御剤の選択及び含有量、外添剤の選択及び添加量等によって調整することができる。
また、本発明のトナーの製造方法を使用して製造されたトナーは、黒色トナー用、カラートナー用、フルカラートナー用の何れにも好適に用いることができる。
本発明のトナーの製造方法を使用して製造されたトナーは、トナーを磁力により静電潜像部に搬送するためのキャリアを共存させた磁性二成分現像剤用、又は、磁性粉をトナー中に含有させた磁性一成分現像剤用、或いは、現像剤に磁性粉を用いない非磁性一成分現像剤用の何れに用いてもよいが、本発明の効果を顕著に発現するためには、特に非磁性一成分現像方式用のトナーの製造方法として使用することが好ましい。
前記磁性二成分現像剤として用いる場合には、トナーと混合して現像剤を形成するキャリアとしては、公知の鉄粉系、フェライト系、マグネタイト系キャリア等の磁性物質又は、それらの表面に樹脂コーティングを施したものや磁性樹脂キャリアを用いることができる。キャリアの被覆樹脂としては、一般的に知られているスチレン系樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等が利用できるが、これらに限定されるものではない。キャリアの平均粒径は、特に制限はないが10μm〜200μmが好ましい。これらのキャリアは、トナー1質量部に対して5〜100質量部使用することが好ましい。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下の例で「部」とあるのは「質量部」を意味する。
各粒子径、平均円形度、電気伝導度、熱特性等は次のように測定した。
<体積中位径(Mv50)の測定方法>
日機装社製「マイクロトラックUPA(ultra particle analyzer)」(以下、「UPA」と略記する)を用いて常法に従って測定した値として定義される。
<体積中位径(Dv50)の測定方法と定義>
1μm以上の体積中位径(Dv50)を有す粒子の体積中位径(Dv50)は、ベックマンコールター社製マルチサイザーII(アパーチャー径100μm)(以下、「マルチサイザー」と略記する)を用い、分散媒には同社製アイソトンIIを用い、分散質濃度0.03質量%になるように分散させて測定した。測定粒子径範囲は2.00から64.00μmまでとし、この範囲を対数目盛で等間隔となるように256分割に離散化し、それらの体積基準での統計値をもとに算出したものを体積中位径(Dv50)とし、個数基準での統計値をもとに算出したものを個数中位径(Dn50)とした。Dv50/Dn50を算出して粒径分布とした。
<平均円形度の測定方法と定義>
平均円形度は、分散質を分散媒(セルシース:シスメックス社製)に、5720〜7140個/μLの範囲になるように分散させ、フロー式粒子像分析装置(シスメックス社(旧東亜医用電子社)製、FPIA2100)を用いて、以下の装置条件にて測定を行い、その値を「平均円形度」と定義する。本発明においては、同様の測定を3回行い、3個の「平均円形度」の相加平均値を、「平均円形度」として採用する。
・モード :HPF
・HPF分析量 :0.35μL
・HPF検出個数:2000〜2500個
以下は、上記装置で測定され、上記装置内で自動的に計算されて表示されるものであるが、「円形度」は下記式で定義される。
[円形度]=[粒子投影面積と同じ面積の円の周長]/[粒子投影像の周長]
そして、HPF検出個数である2000〜2500個を測定し、この個々の粒子の円形度の算術平均(相加平均)が「平均円形度」として装置に表示される。
<電気伝導度の測定方法>
電気伝導度の測定は、導電率計(アズワン株式会社製のCyberScanCON100)を用いて行なった。
<熱特性>
パーキンエルマー社製熱分析装置DSC7を用い、同社の取り扱い説明書に記載された方法で、10℃から110℃まで10℃/分の速度で昇温させた際の吸熱曲線より、融点・融解熱量・融解ピーク半値幅を測定し、続いて110℃から10℃まで10℃/分の速度で降温させた際の発熱曲線より、結晶化温度・結晶化ピーク半値幅を測定した。
<ガラス転移温度の測定方法>
試料を、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製示差走査熱量計DSC6220を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定した。ガラス転移温度は、装置付属の解析ソフトを用い、DSC曲線のベースラインから外れ始める点、及びピーク立ち上がり後、傾きが一定に落ち着いた点をそれぞれ接点とする接線を引き、得られる両者の交点の温度とした。
なお、ワックス等を含有する重合体一次粒子(又は樹脂微粒子)のガラス転移温度の測定に際しては、ワックス等の融点により、ワックス等の吸熱曲線と重なる場合があるので、重合体一次粒子(又は樹脂微粒子)のガラス転移温度の測定ができない場合がある。その場合は、ワックス等を含有する重合体一次粒子(又は樹脂微粒子)と同じ重合処方のワックス抜きの重合体一次粒子(又は樹脂微粒子)のガラス転移温度を測定し、得られた値を、ワックス等を含有する重合体一次粒子(又は樹脂微粒子)のガラス転移温度として採用する。
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
重合体一次粒子又は樹脂微粒子の0.1質量%THF溶液を調液し、4時間静置してから、クラボウ製GLクロマトディスク(サンプル前処理用フィルター)13Pを使って濾過した。THF可溶成分を、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
装置:東ソー社製GPC装置 HLC−8020
カラム:ポリマーラボラトリー 社製 PL−gel Mixed−B 10μ
溶媒:THF
試料濃度:0.1質量%
検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
実施例1
<ワックス・長鎖重合性単量体分散液A1の調製>
パラフィンワックス(日本精蝋社製HNP−9、表面張力23.5mN/m、熱特性:融点82℃、融解熱量220J/g、融解ピーク半値幅8.2℃、結晶化温度66℃、結晶化ピーク半値幅13.0℃)27部(270g)、ステアリルアクリレート(東京化成社製)2.8部、20質量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(第一工業製薬社製、ネオゲンS20A)(以下、「20%DBS水溶液」と略記する)1.9部、脱塩水68.3部を90℃に加熱して、ホモミキサー(特殊機化工業社製 マークIIfモデル)を用い10分間攪拌した。次いで、90℃加熱下で、ホモジナイザー(ゴーリン社製、LAB60−10TBS型)を用いて25MPaの加圧条件で循環乳化を開始し、体積中位径(Mv50)が250nmになるまで分散して、ワックス・長鎖重合性単量体分散液A1(エマルション固形分濃度=30.2質量%)を作製した。
<低Tg重合体一次粒子分散液B1の調製>
攪拌装置(3枚翼)、加熱冷却装置、濃縮装置、及び各原料・助剤仕込み装置を備えた反応器(内容積5L)に、上記ワックス・長鎖重合性単量体分散液A1を39.2部(186g)、脱塩水258部を仕込み、攪拌しながら窒素気流下で90℃に昇温した。
その後、攪拌を続けたまま、下記のモノマー類と乳化剤水溶液の混合物を4時間かけて添加した。このモノマー類と乳化剤水溶液の混合物を滴下開始した時間を重合開始とし、下記の開始剤水溶液1を重合開始30分後から3.5時間かけて添加し、更にその後、下記の開始剤水溶液2を2時間かけて添加した。その後、攪拌下で内温90℃のまま1時間保持した。
[モノマー類]
スチレン 76.8部
アクリル酸ブチル 23.2部
アクリル酸 0.85部
ブロモトリクロロメタン 1.0部
ヘキサンジオールジアクリレート 0.7部
[乳化剤水溶液]
20%DBS水溶液 1.0部
脱塩水 66.7部
[開始剤水溶液1]
8%過酸化水素水溶液 15.5部
8%L−(+)アスコルビン酸水溶液 15.5部
[開始剤水溶液2]
8%L−(+)アスコルビン酸水溶液 14.2部
重合反応終了後、冷却し、乳白色の低Tg重合体一次粒子分散液B1を得た。体積中位径(Mv50)は280nmであった。重量平均分子量(Mw)は、85000であり、ピーク分子量(Mp)は36000であった。
<重合体(B)一次粒子分散液の調製>
上記で得られた「低Tg重合体一次粒子分散液B1」、及び、後記で得られる「低Tg重合体一次粒子分散液B2」中の低Tg重合体一次粒子のガラス転移温度を測定するために、ワックスを含有していないものを以下のように調製した。ワックス・長鎖重合性単量体分散液A1と脱塩水の代わりに、20%DBS水溶液1部と脱塩水315部を仕込んだ以外は、低Tg重合体一次粒子分散液B1と同様の方法で重合体(B)一次粒子分散液を得た。体積中位径(Mv50)は190nmであり、重量平均分子量(Mw)は、30500であった。DSCを用いて測定したガラス転移温度(Tg)は52℃であった。この値を、「低Tg重合体一次粒子分散液B1」、「低Tg重合体一次粒子分散液B2」中の低Tg重合体一次粒子のガラス転移温度(Tg)とした。
<高Tg重合体一次粒子分散液C1の調製>
攪拌装置(3枚翼)、加熱冷却装置、濃縮装置、及び各原料・助剤仕込み装置を備えた反応器(内容積5L)に、20%DBS水溶液1.0質量部(4.5g)、脱塩水311部を仕込み、窒素気流下で90℃に昇温し、攪拌しながら8%過酸化水素水溶液3.2部、8%L−(+)アスコルビン酸水溶液3.2部を一括添加した。
その5分後、攪拌を続けたまま、下記のモノマー類と乳化剤水溶液の混合物の滴下を開始し、5時間かけて添加した。モノマー類と乳化剤水溶液の混合物の滴下開始と同時に、下記の開始剤水溶液の滴下も開始し、6時間かけて添加した。その後、更に攪拌しながら、内温90℃のまま1時間保持した。
[モノマー類]
スチレン 100.0部
アクリル酸 0.85部
[乳化剤水溶液]
20%DBS水溶液 1.0部
脱塩水 66.2部
[開始剤水溶液]
8%過酸化水素水溶液 18.8部
8%L−(+)アスコルビン酸水溶液 18.8部
重合反応終了後、冷却し、乳白色の高Tg重合体一次粒子分散液C1を得た。体積中位径(Mv50)は230nmであった。重量平均分子量(Mw)は、265000であり、Mpは79000であった。また、ガラス転移温度(Tg)は98℃であった。
<トナー母粒子D1の製造>
攪拌装置(ダブルヘリカル翼)、加熱冷却装置、濃縮装置、及び各原料・助剤仕込み装置を備えた混合器(内容積2L)に、低Tg重合体一次粒子分散液B1を90部(固形分)(1060g)と高Tg重合体一次粒子分散液C1を10部仕込み、内温8℃として、20%DBS水溶液0.05部(固形分)を加えて均一に混合した。更に、第一硫酸鉄の5%水溶液(FeSO4・7H2Oとして0.12部)を5分かけて添加した。続けて、シアン顔料分散液(大日精化社製 EP750)4.4部(固形分)を5分かけて添加して均一に混合した後、脱塩水21.7部を滴下した。この間、内温は10℃に保った。その後、50分かけて内温53℃に昇温し、更に40分かけて57℃まで昇温した。ここでマルチサイザーを用いて体積中位径(Dv50)を測定したところ、7.5μmであった。
続いて、20%DBS水溶液6部(固形分)を40分かけて添加しながら、85℃まで昇温した。その後、更に90℃まで昇温し、そのまま保持した。フロー式粒子分析装置で平均円形度を測定し、0.97になったら、その後30分かけて30℃まで冷却してスラリーを得た。冷却後の体積中位粒径(Dv50)は7.4μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.968であった。
スラリーを抜き出し、5種C(東洋濾紙株式会社製、No.5C)の濾紙を用いてアスピレーターにより吸引ろ過をした。濾紙上に残ったケーキを、攪拌機(プロペラ翼)を備えた内容積10Lのステンレス容器に移し、電気伝導度が1μS/cmのイオン交換水8kgを加え、50rpmで攪拌することにより均一に分散させ、その後30分間攪拌したままとした。
その後、再度5種Cの濾紙を用いてアスピレーターにより吸引ろ過し、再度ろ紙上に残った固形物を、攪拌機(プロペラ翼)を備え、電気伝導度が1μS/cmのイオン交換水8kgの入った内容積10Lのステンレス容器に移し、50rpmで攪拌することにより均一に分散させ、30分間攪拌したままとした。ろ液の電気伝導度は2μS/cmとなるまで、この工程を繰り返した。
ここで得られたケーキをステンレス製バットに高さ20mmとなる様に敷き詰め、40℃に設定された送風乾燥機内で48時間乾燥することにより、トナー母粒子D1を得た.
<現像用トナーE1の製造>
協立理工株式会社サンプルミルKR−3内に、トナー母粒子D1を100部投入し、続いて、シリコーンオイルで疎水化処理された、体積平均一次粒径0.015μmのシリカ微粒子1.5部を添加し、攪拌・混合して篩別することにより現像用トナーE1を得た。
実施例2
<トナー母粒子D2の製造>
低Tg重合体一次粒子分散液B1の添加量を、90部(固形分)(1060g)の代わりに95部とし、高Tg重合体一次粒子分散液C1の添加量を、10部の代わりに5部とした以外は、D1と同様の方法で現像用母粒子D2を得た。冷却後の体積中位径(Dv50)は7.3μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.970であった。
<現像用トナーE2の製造>
トナー母粒子D1の代わりにトナー母粒子D2を用いた以外は現像用トナーE1と同様の方法で現像用トナーE2を得た。
比較例1
<低Tg重合体一次粒子分散液B2の調製>
ワックス・長鎖重合性単量体分散液A1の仕込み量を35.6部(169g)、脱塩水257部に変更する以外は低Tg重合体一次粒子分散液B1と同様の方法で低Tg重合体一次粒子分散液B2を得た。体積中位径(Mv50)は260nmであった。重量平均分子量(Mw)は、87000であり、ピーク分子量(Mp)は38000であった。
<トナー母粒子D3の製造>
低Tg重合体一次粒子分散液B1と高Tg重合体一次粒子分散液C1の代わりに、低Tg重合体一次粒子分散液B2のみを使用する以外はトナー母粒子D1と同様の方法でトナー母粒子D3を得た。冷却後の体積中位粒径(Dv50)は7.3μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.968であった。なお、低Tg重合体一次粒子分散液として、実施例1〜5と同じ「低Tg重合体一次粒子分散液B1」を用いず、「低Tg重合体一次粒子分散液B2」を用いたのは、両者の厳密な比較をするために、トナー母粒子全体に含有されるワックスの量を同一にしたためである。
<現像用トナーE3の製造>
トナー母粒子D1の代わりにトナー母粒子D3を用いた以外は現像用トナーE1と同様の方法で現像用トナーE3を得た。
比較例2
<トナー母粒子D4の製造>
攪拌装置(ダブルヘリカル翼)、加熱冷却装置、濃縮装置、及び各原料・助剤仕込み装置を備えた混合器(内容積2L)に、低Tg重合体一次粒子分散液B1を90部(固形分)(1060g)を仕込み、内温8℃として、20%DBS水溶液0.05部(固形分)を加えて均一に混合した。更に、第一硫酸鉄の5%水溶液(FeSO4・7H2Oとして0.12部)を5分かけて添加した。続けて、シアン顔料分散液(大日精化社製、EP750)4.4部(固形分)を5分かけて添加して均一に混合した後、脱塩水21.7部を滴下した。この間、内温は10℃に保った。その後、60分かけて内温51℃に昇温し、更に60分かけて56℃まで昇温した。ここでマルチサイザーを用いて体積中位径(Dv50)を測定したところ、7.1μmであった。
凝集工程終了後、内温を54℃保持したまま、高Tg重合体一次粒子分散液C1を10部(固形分)を、10分かけて添加して、54℃のままで30分保持した。続いて、20%DBS水溶液6部(固形分)を40分かけて添加しながら、85℃まで昇温した。その後、更に90℃まで昇温し、そのまま保持した。フロー式粒子分析装置で平均円形度を測定し、0.97になったら、その後30分かけて30℃まで冷却してスラリーを得た。冷却後の体積中位径(Dv50)は7.2μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.97であった。
スラリーを抜き出し、5種C(東洋濾紙株式会社製、No.5C)の濾紙を用いてアスピレーターにより吸引ろ過をした。濾紙上に残ったケーキを、攪拌機(プロペラ翼)を備えた内容積10Lのステンレス容器に移し、電気伝導度が1μS/cmのイオン交換水8kgを加え50rpmで攪拌することにより均一に分散させ、その後30分間攪拌したままとした。
その後、再度5種Cの濾紙を用いてアスピレーターにより吸引ろ過し、再度ろ紙上に残った固形物を、攪拌機(プロペラ翼)を備え、電気伝導度が1μS/cmのイオン交換水8kgの入った内容積10Lのステンレス容器に移し、50rpmで攪拌することにより均一に分散させ、30分間攪拌したままとした。ろ液の電気伝導度は2μS/cmとなるまで、この工程を繰り返した。
ここで得られたケーキをステンレス製バットに高さ20mmとなる様に敷き詰め、40℃に設定された送風乾燥機内で48時間乾燥することにより、現像用母粒子D4を得た。
<現像用トナーE4の製造>
トナー母粒子D1の代わりにトナー母粒子D4を用いた以外は現像用トナーE1と同様の方法で現像用トナーE4を得た。
比較例3
<重合体一次粒子分散液C2の調製>
モノマー類中のスチレン100部の代わりに、スチレン65.5部とアクリル酸ブチル34.5部を添加する以外はC1と同様の方法で重合体一次粒子分散液C2を得た。体積中位径(Mv50)は170nmであった。重量平均分子量(Mw)は、238000であり、ピーク分子量(Mp)は、109000であった。また、ガラス転移温度(Tg)は38℃であった。
<トナー母粒子D5の製造>
高Tg重合体一次粒子分散液C1の代わりに、重合体一次粒子分散液C2を使用する以外はトナー母粒子D1と同様の方法でトナー母粒子D5を得た。冷却後の体積中位径(Dv50)は7.6μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.97であった。
<現像用トナーE5の製造>
トナー母粒子D1の代わりにトナー母粒子D5を用いた以外は現像用トナーE1と同様の方法で現像用トナーE5を得た。
実施例3
<高Tg重合体一次粒子分散液C3の調製>
反応器(内容積5L)に仕込む20%DBS水溶液の添加量を、1.0質量部から2.0質量部に変更した以外は、高Tg重合体一次粒子分散液C1と同様の方法で高Tg重合体一次粒子分散液C3を得た。体積中位径(Mv50)は97nmであった。重量平均分子量(Mw)は、118000であり、ピーク分子量(Mp)は、71000であった。また、ガラス転移温度(Tg)は98℃であった。
<トナー母粒子D6の製造>
高Tg重合体一次粒子分散液C1の代わりに、高Tg重合体一次粒子分散液C3を使用する以外は、トナー母粒子D1と同様の方法でトナー母粒子D6を得た。冷却後の体積中位径(Dv50)は7.4μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.97であった。
<現像用トナーE6の製造>
トナー母粒子D1の代わりにトナー母粒子D6を用いた以外は現像用トナーE1と同様の方法で現像用トナーE6を得た。
実施例4
<高Tg重合体一次粒子分散液C4の調製>
モノマー類にブロモトリクロロメタン1.0質量部を追加する以外は高Tg重合体一次粒子分散液C1と同様の方法で高Tg重合体一次粒子分散液C4を得た。体積中位径(Mv50)は250nmであった。重量平均分子量(Mw)は、31000であり、ピーク分子量(Mp)は35000であった。また、ガラス転移温度(Tg)は95℃であった。
<トナー母粒子D7の製造>
高Tg重合体一次粒子分散液C1の代わりに、高Tg重合体一次粒子分散液C4を使用する以外はトナー母粒子D1と同様の方法でトナー母粒子D7を得た。冷却後の体積中位径(Dv50)は7.4μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.97であった。
<現像用トナーE7の製造>
トナー母粒子D1の代わりにトナー母粒子D7を用いた以外は現像用トナーE1と同様の方法で現像用トナーE7を得た。
実施例5
<高Tg重合体一次粒子分散液C5の調製>
モノマー類中のアクリル酸を添加しない以外は高Tg重合体一次粒子分散液C1と同様の方法で高Tg重合体一次粒子分散液C5を得た。体積中位径(Mv50)は220nmであった。重量平均分子量(Mw)は215,000であり、ピーク分子量(Mp)は87000であった。また、ガラス転移温度(Tg)は100℃であった。
<トナー母粒子D8の製造>
高Tg重合体一次粒子分散液C1の代わりに、高Tg重合体一次粒子分散液C5を使用する以外はトナー母粒子D1と同様の方法でトナー母粒子D8を得た。冷却後の体積中位粒径(Dv50)は7.5μmであり、フロー式粒子分析装置で測定した平均円形度は0.97であった。
<現像用トナーE8の製造>
トナー母粒子D1の代わりにトナー母粒子D8を用いた以外は現像用トナーE1と同様の方法で現像用トナーE8を得た。
[評価]
<定着性の評価方法>
未定着のトナー像を担持した記録紙を用意し、加熱ローラの表面温度を100℃から210℃まで5℃刻みで変化させ、定着ニップ部に搬送し、120mm/secの速度で排出されたときの定着状態を観察した。定着時に加熱ローラにトナーのオフセットあるいは用紙巻き付きが生じず、定着後の記録紙上のトナーが十分に記録紙に接着している温度領域を定着温度領域とした。定着機の加熱ローラは、離型層がPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)でできており、シリコーンオイルの塗布なしで評価した。
判定基準
○(良好):定着温度領域は20℃以上である。
×(不良):定着温度領域は20℃未満である。
<保存安定性の評価方法>
現像用トナー10gを内径3cm、高さ6cmの円筒形の容器に入れ、20gの荷重をのせ、50℃40%RHの環境下に24時間放置した後、トナーを容器から取り出し、上から荷重をかけることでブロッキングの程度を測定した。
判定基準
○(良好):ブロッキングしているが100g未満の荷重で崩れる。
×(不良):ブロッキングしていて100g以上の荷重で初めて崩れるか、又は荷重をかけても崩れない。
得られた現像用トナーの評価結果を以下の表1にまとめた。
表1中、「St」はスチレン、「BA」はブチルアクリレート、「AA」はアクリル酸を表す。
(*1)比較例3で使用した「重合体一次粒子分散液C2」は、比較例なので、高Tg重合体一次粒子分散液ではないが、比較便宜上「高Tg重合体一次粒子分散液」の欄に記載した。
(*2)の記載は、「高Tg重合体一次粒子」の含有割合、すなわち、(高Tg重合体一次粒子の質量)/(高Tg重合体一次粒子の質量+高Tg重合体一次粒子の質量)を示す。
実施例1と比較例1とを比較すると、高Tg重合体一次粒子を添加することによって、トナーの耐環境性を大幅に改良することができた。
実施例1と比較例2とを比較すると、高Tg重合体一次粒子を凝集工程で添加すると、より広い定着温度幅が得られた。
実施例1と比較例3とを比較すると、ガラス転移温度(Tg)が低い重合体一次粒子を使用した場合は、トナーの耐環境性が悪化した。
実施例1〜5によると、高Tg重合体一次粒子の物性を調整することにより、トナー性能を調整することができた。また、実施例1〜5のトナーは何れも、定着性と保存安定性の両立ができた。一方、比較例1〜3のトナーは何れも、定着性と保存安定性のどちらかが劣っていた。