JP5082403B2 - 車両用操舵角制御装置 - Google Patents

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本発明は、左右車輪の前後力(路面とタイヤとの間で発生する加減速方向の摩擦力のことであり、制駆動力とも呼ばれる。)の差、つまり制駆動力差に起因して発生する車両の偏向をその偏向方向と反対方向にカウンタステア操作することで低減するカウンタステア制御を実行する車両用操舵角制御装置に関するものである。
車両が左右の路面の摩擦係数が異なる路面(以下、μスプリット路面という)を走行中において、アンチスキッド制御(ABS制御)、トラクション制御(TCS制御)等の車輪のスリップを抑制するスリップ抑制制御(以下、μスプリット制御という)が実行される場合、左右車輪の前後力(路面とタイヤとの間で発生する加減速方向の摩擦力のことであり、制駆動力とも呼ばれる。)に差(ABS制御の場合には制動力差、TCS制御の場合には駆動力差)が生じる。この前後力差に起因して車両を偏向させるヨーモーメント(以下、前後力差起因ヨーモーメントという)が発生する。
この前後力差起因ヨーモーメントによる車両の偏向を抑制するためには、車両の偏向方向と反対方向に対応するステアリングホイール操作を行うことで操舵車輪の舵角を車両の偏向方向と反対方向に向けて補正してこの前後力差起因ヨーモーメントを低減する(打ち消す)ことが必要となる。つまり、運転者は、車両の偏向やヨー運動を感知して、ステアリングホイールを低路面摩擦側に転舵し、操舵車輪(前輪)を操舵することで、この車両偏向を抑制しなければならない。このような操舵車輪の舵角を車両の偏向方向と反対方向に向けて補正する操作はカウンタステア操作と呼ばれている。このカウンタステア操作を運転者が行うためには、運転スキルが要求される。
このため、特許文献1に記載されるような、左右車輪間の制動力差に基づいて操舵アシストトルクを付与することで、運転者にカウンタステア操作を促すような装置が開発されている。この装置では、さらに、パワーステアリング装置の遅れや制御の不感帯によって生じる操舵アシストトルクが実際に増大されるまでの遅れを、アンチスキッド制御が開始されてから所定の時間が経過するまで操舵アシストトルクをK(1よりも大きい値)倍に増大することで、操舵アシストトルクを効果的に増大させ、運転者が車両の偏向を修正するための操舵を容易に且つ効果的に行えるようにしている。
操舵アシストトルクの付与は、一般的には電動パワーステアリング装置(以下、EPSという)を利用して行われる。このような装置では、運転者のカウンタステア操作を誘導するものであって、カウンタステア操作はあくまでも運転者が行う。したがって、システムは操舵トルクを制御するが、その付与した結果、実際の操舵車輪(前輪)の操舵角が最終的にどのようになったかを知る必要は必ずしもない。
一方、特許文献2に記載されるような、左右車輪間の制動力差にもとづいて前輪あるいは後輪の操舵角を制御する装置も存在する。この装置は、μスプリット路で急制動を行った場合においても、車両の進路を変更させることなく安全に制動できるように、アンチスキッド制御システムによるブレーキ制御時に左右車輪のブレーキ液圧の圧力差を検出し、この圧力差に応じて車両の後輪あるいは前輪の補正操舵角を算出し、この補正操舵角に応じて車両の後輪あるいは前輪を操舵する。
操舵角の制御は、一般的には、前輪の場合は可変操舵比制御装置(以下、VGRSという)、後輪の場合は後輪操舵装置(以下、ARSという)が利用される。つまり、前記の操舵トルク制御では、パワーステアリング装置に対して付加的なハードウエアを必要としない。これに対して、操舵角制御ではEPSに対して、別個の操舵制御装置が必要となる。そして、運転者のステアリングホイール操作とは独立して、前輪あるいは後輪の操舵角が車両に与えられる。与えられる操舵角は、それ自体が車両の偏向を抑制するものであるから、実際にどれだけの操舵角が与えられたかを知ることが必要となる。
特開2004−352030号公報 特許第2540742号公報
ここで、特許文献1の特徴的事項と、それを特許文献2に記載の装置に応用した場合について考察してみる。
特許文献1は、EPSを利用して、運転者のカウンタステア操作を促すように操舵トルクを与える。しかし、EPSの遅れや制御の不感帯によって実際の操舵トルクには増大遅れ(操舵トルクの立ち上り、つまり、時間に対する操舵トルクの変化)があるため、所定時間の間だけ操舵トルクの目標値をK(1よりも大きい値)倍に増大することで、この遅れを補償する。EPSは、ステアリングホイールの据え切り(車両の停止状態でのステアリングホイール操作)にも対応して設計されるので、操舵トルク制御のためのトルク(力)の出力に対しては十分に余裕があり、目標値を前記K倍とすることで前記遅れの課題を解決することができる。
一方、特許文献2に記載されるような操舵角制御装置では、運転者のカウンタステア操作とは別個に、独立してカウンタステア操作を自動的に行う。したがって、この装置が高精度で操舵角制御を行うことができれば、その分だけ運転者の行うべきカウンタステア操作の量が低減されることとなる。さらに、通常の操舵装置であるEPSとは別個に存在するVGRSやARSなどのアクチュエータはタイヤの路面反力に対抗して変位(操舵角)を発生させることが必要となる。この操舵角の制御には、これらアクチュエータのパワーの制限、特に、変位の時間変化(アクチュエータが電気モータで駆動されるときには電気モータの最大回転速度)の制限を受ける。したがって、特許文献1に記載されるように目標値を「1」よりも大きい値であるK倍しただけでは、操舵角制御の応答性が十分には改善されない場合がある。
本発明は、上記点に鑑みて、μスプリット路における左右車輪の前後力差に起因するヨーモーメントによる車両の偏向を抑制する前輪もしくは後輪の操舵角制御(以下、修正舵角制御という)を実行する車両用操舵角制御装置において、修正舵角制御の応答性を改善し、高精度な制御を達成することを目的とする。
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車輪(FL〜RR)の前後力(FX**)を演算する前後力演算手段(50i)と、前後力(FX**)に基づいて左右車輪の前後力差(ΔFX)を演算する前後力差演算手段(50j)と、前後力差(ΔFX)を含む状態量(ΔFX、MS)に基づいて車輪(FL〜RR)の修正舵角(δfs、δrs)を演算する修正舵角演算手段(50k)と、修正舵角(δfs、δrs)を増大させた補償舵角(δfh、δrh)を演算する補償舵角演算手段(50m)と、修正舵角(δfs、δrs)と補償舵角(δfh、δrh)のいずれか一方を選択して最終修正舵角とする選択手段(50n)と、最終修正舵角に基づいて制御指示値を出力する駆動手段(50c)と、最終修正舵角に対応した車輪(FL〜RR)に発生させられた実際の修正舵角(δfsa、δrsa)を演算する実修正舵角演算手段(50q)と、を備え、選択手段(50n)は、μスプリット制御の開始直後に補償舵角(δfh、δrh)を最終修正舵角に選択し、実際の修正舵角(δfsa、δrsa)が補償舵角(δfh、δrh)と一致した後に最終修正舵角を補償舵角(δfh、δrh)より修正舵角(δfs、δrs)に切り替えることを特徴としている。
このように、選択手段(50n)にて修正舵角(δfs、δrs)と修正舵角(δfs、δrs)を増大させた補償舵角(δfh、δrh)のいずれか一方を最終修正舵角として選択できるようにしている。このため、アクチュエータの応答遅れを補償する必要があるときには補償舵角(δfh、δrh)が選択されるようにすることができる。
そして、選択手段(50n)は、μスプリット制御の開始直後に補償舵角(δfh、δrh)を選択するようにしている
これにより、μスプリット路でアンチスキッド制御が行われたときの車両の偏向を効果的に抑制するに際し、操舵角制御の応答性を改善し、高精度な制御を達成することが可能となる。
また、最終修正舵角に対応した車輪(FL〜RR)に発生させられた実際の修正舵角(δfsa、δrsa)を演算する実修正舵角演算手段(50q)を備え、選択手段(50n)にて、実際の修正舵角(δfsa、δrsa)が補償舵角(δfh、δrh)と一致した後に最終修正舵角を補償舵角(δfh、δrh)より修正舵角(δfs、δrs)に切り替える。このように、実際の修正舵角(δfsa、δrsa)を演算し、それが目標値である修正舵角(δfs、δrs)より大きくなり、さらには、補償舵角(δfh、δrh)と一致した後に、選択手段(50n)が最終修正舵角を補償舵角(δfh、δrh)から修正舵角(δfs、δrs)に切り替えるため、アクチュエータの応答遅れを確実に補償することができる。
また、請求項に示すように、選択手段(50n)にて、μスプリット制御開始時の前後力差(ΔFX)を含む状態量(ΔFX、MS)の時間変化(dΔFX、dMS)に基づいて、μスプリット制御の開始時から選択値を補償舵角(δfh、δrh)より修正舵角(δfs、δrs)に切り替えるまでの時間(τk)を設定するようにしても良い。
また、請求項に示すように、選択手段(50n)にて、μスプリット制御開始時の運転操作速度(dDS)に基づいて、μスプリット制御の開始時から選択値を補償舵角(δfh、δrh)より修正舵角(δfs、δrs)に切り替えるまでの時間(τk)を設定するようにしても良い。
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる車両用操舵角制御装置が備えられた車両1の運動制御機構10の全体構成を示した概略図である。以下、この図を参照して、本車両1の運動制御機構10の構成について説明すると共に、本発明の一実施形態にかかる車両用操舵角制御装置の詳細について説明する。
図1に示すように、運動制御機構10には、操舵角制御機構20、ブレーキ制御機構30、各種センサ41〜48および車両用操舵角制御装置を構成する電子制御装置(以下、ECUという)50が備えられている。
本実施形態の操舵角制御機構20は、操舵制御を操舵角制御により行うもので、前輪操舵角制御機構20Aおよび後輪操舵角制御機構20Bを有した構成とされている。
前輪操舵角制御機構20Aは、図1に示されるように、ステアリングホイール21、ステアリングシャフト22、操舵角センサ23、ステアリングギア比可変機構(VGRS)24、ステアリングギア機構25、ステアリングリンク機構26等を備えて構成され、操舵車輪となる両前輪FL、FRおよび両後輪RL、RRの車両中心線に対する角度(操舵角)の調整を行う。
ステアリングホイール21は、運転者によって操作される操舵操作部材に相当するもので、このステアリングホイール21が運転者によって操作されることで、例えば図示しないステアリングコラムを介してステアリングシャフト22が回転させられる。
ステアリングシャフト22は、運転者のステアリング操作を操舵車輪に伝える。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21側の部分(以下、上部シャフトという)22aとステアリングギア機構25側の部分(以下、下部シャフトという)22bの2部位に分かれており、上部シャフト22aには、運転者の操作による操舵角がそのまま伝えられ、下部シャフト22bには、上部シャフト22aに伝えられた操舵角が後述するVGRS24によって調整されて伝えられる。
また、本実施形態の前輪操舵角制御機構20Aには、操舵角センサ23が備えられており、運転者によるステアリングホイール21の回転角度(操舵角)が求められるようになっている。
VGRS24は、ギア機構部24aとモータ24bとを有した構成とされる。このVGRS24は、モータ24bの(絶対)回転角度を制御することにより上部シャフト22aに対して下部シャフト22bを相対回転させ、ステアリングホイール21の回転角度に対する左右前輪FL、FRの操舵角の比(ステアリングギア比)を調整する。
例えば、VGRS24は、上部シャフト22aに接続されたサンギア24aa、モータ24bに接続されたリングギア24ab、および下部シャフト22bに接続されたキャリア24acを備えた周知の遊星ギア機構にて構成される。このようなVGRS24のモータ24bの回転角度を制御することにより、ステアリングホイール21の回転角度(操舵角)と操舵車輪である左右前輪FL、FRの操舵角の関係を制御することができる。
ステアリングギア機構25は、歯車の組み合わせ、例えばラックアンドピニオン型のもので構成され、下部シャフト22bの回転によりピニオンギア25aに回転角が与えられ、ピニオンギア25aと噛合わされたラック25bによってピニオンギア25aの回転運動がラック25bの往復運動に変換される。
ステアリングリンク機構26は、ステアリングギア機構25から伝えられる力をタイロッド26a等を介してナックルアーム26bまで伝える。これにより、左右前輪FL、FRが同方向に転舵される。
後輪操舵角制御機構20Bは、左右後輪RL、RRを操舵するものである。後輪操舵角制御装置20Bは、基本的にはステアリングリンク機構26と同様の構造のリンク機構27にて構成される。そして、ECU50のモータ制御信号にてモータ27aが駆動されると、モータ27aの回転運動がタイロッド27bを往復運動させる力に変換され、それがナックルアーム27cまで伝えられることで、左右後輪RL、RRが転舵される。
ブレーキ制御機構30は、複数の電磁弁、リザーバ、ポンプおよびモータ等が備えられたアンチスキッド制御(以下、ABS制御という)やトラクション制御(以下、TCS制御という)、横滑り防止制御(以下、ESC(Electronic Stability Control)制御という)等を実行する周知のブレーキ液圧制御用アクチュエータ31を用いて、各車輪FL、FR、RL、RRに備えられた各ホイールシリンダ(以下、W/Cという)32**に発生させる圧力(以下、W/C圧という)を制御するものである。ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31としては、液圧によりW/C圧を発生させる液圧ブレーキシステム、電気的にW/C圧を発生させるブレーキバイワイヤなどの電動ブレーキシステムのいずれも採用できるがいずれも公知のものであるので、ここではブレーキ液圧制御用アクチュエータ31の具
体的な構造については省略する。
なお、参照符号に付した「**」は、各車輪FL〜RRのことを意味する添え字であり、「FL」は左前輪、「FR」は右前輪、「RL」は左後輪、「RR」は右後輪を意味している。例えば、W/C32**は、W/C32FL〜32RRのことを意味している。
このようなブレーキ制御機構30では、ABS制御、TCS制御やESC制御の非実行時(通常ブレーキ時)には、ブレーキぺダル60の操作に応じたブレーキ液圧を各W/C32**に発生させる。これにより、キャリパ33**によってディスクロータ34**にブレーキパッドが押し付けられ、制動トルクが発生させられる。そして、ABS制御、TCS制御やESC制御の実行時には、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31により、ブレーキペダル60の操作に独立して制御対象となるW/C32**の圧力が調整され、制動トルクが調整される。
また、各種センサ41〜48は、操舵角制御やABS制御、TCS制御やESC制御等の各種制御等に用いる検出信号を発生させるものである。具体的には、各車輪FL〜RRごとに車輪速度センサ41**およびW/C圧センサ42**が備えられていると共に、ヨーレートセンサ43および横加速度センサ45、ペダル操作量センサ46が備えられている。さらに、ステアリングリンク機構26およびリンク機構27には前輪FL、FRと後輪RL、RRの実際の操舵角を検出する操舵角センサ47、48がそれぞれ備えられている。これら各種センサ41〜48の検出信号は、ECU50に入力される。
ECU50は、操舵角センサ23の検出信号を受け取り、その検出信号に応じた制御指示値を示すモータ制御信号を発生させると共に、各種センサ41〜48の検出信号を受け取り、それに応じてブレーキ液圧制御用アクチュエータ31を駆動し、通常のABS制御、TCS制御やESC制御に加えてμスプリット制御を実行したり、μスプリット制御の制御状態に応じてモータ制御信号の制御指示値の修正を行う。このように、ECU50にて、モータ制御信号を出力して左右前輪FL、FRおよび左右後輪RL、RRの操舵角をそれぞれ調整する操舵角制御を行う。なお、本実施形態では様々な制御を統合的に行う1つECU50を表してあるが、車両1に搭載される複数個の制御ユニット、例えば、制駆動力制御ユニット、前輪操舵角制御ユニット、後輪操舵角制御ユニット、パワーステアリング制御ユニット、パワートレイン制御ユニットなど複数の制御ユニットを組み合わせ、これらを通信バスによって接続した構成とされていても良い。
図2は、ECU50(具体的にはCPU)のうち本実施形態で説明する操舵角制御に関わる部分のブロック構成を示した図である。この図を参照して、各制御ブロックについて説明する。なお、図2は、前輪操舵角制御系のブロック構成を例に挙げて示してあるが、後輪操舵角制御系に関しても前輪操舵角制御系と同様のブロック構成を採用することができる。
図2に示すように、ECU50には、基準舵角決定手段50a、調整手段50bおよび駆動手段50cが備えられている。
基準舵角決定手段50aは、運転者によるステアリングホイール21の操作に対応した操舵角の基準目標値である前輪基準舵角δfvを求めるものである。具体的には、基準舵角決定手段50aは、前輪操舵比演算手段50aa、前輪基準舵角演算手段50abを有して構成される。前輪操舵比演算手段50aaは、車体速度Vx、ステアリングホイール21の操舵角θsw、および、これらと前輪操舵比SGfとの関係を示すマップもしくは関数式に基づいて、前輪操舵比SGfを求める。図3(a)、(b)は、それぞれ、車体速度Vxやステアリングホイール操舵角θswと前輪操舵比SGfの演算に用いられる車速感応パラメータSGf1や舵角感応パラメータSGf2との関係を示したマップである。前輪操舵比SGfは、車速感応パラメータSGf1と操舵角感応パラメータSGf2の合算値(SGf=SGf1+SGf2)として演算される。これらのマップに示されるように、前輪操舵比SGfは、車体速度Vxが増大するほどより大きい値に設定され、ステアリングホイール操舵角θswが増大するほど小さい値に設定される。なお、車体速度Vxは、車輪速度センサ41**の検出信号から得られる各車輪速度Vw**に基づいて周知の手法により求められ、ステアリングホイール操舵角θswは、操舵角センサ23の検出信号に基づいて求められる。前輪基準舵角演算手段50abは、前輪操舵比SGfとステアリングホイール操舵角θswに基づいて前輪基準舵角δfvを演算する。すなわち、前輪基準舵角δfvは、前輪操舵比SGfを達成するためのステアリングホイール21と前輪FL、FRとの相対位置(角度)を調整する前輪操舵角目標値(具体的にはモータ24bの回転角度の目標値)である。
調整手段50bは、前輪基準舵角δfvに対して修正舵角制御を実行するために求められる前輪最終修正舵角δfcを調整して前輪操舵角目標値δftを演算するものである。この前輪操舵角目標値δftが運転者の操舵に対して修正舵角制御を加味した最終的な前輪操舵角の目標値(具体的にはモータ24bの回転角度の目標値)である。
駆動手段50cは、前輪操舵角目標値δftと対応する制御指令値を示すモータ制御信号をモータ24bに対して出力する。駆動手段50cは、通常時(修正舵角制御の非作動時)には、前輪基準舵角δfvとするためのモータ制御信号をモータ24bに対して出力することで操舵角制御を行う。そして、修正舵角制御を行う必要が有る場合には、前輪操舵角目標値δftは前輪基準舵角δfvが前輪最終修正舵角δfcによって調整された値として演算されるため、駆動手段50cは、それと対応する制御指令値を示すモータ制御信号をモータ24bに対して出力することで修正舵角制御を行う。
また、ECU50には、μスプリット制御に対応した修正舵角制御を実行するための修正舵角を求める手段として、実運動演算手段50d、目標運動演算手段50e、比較手段50f、安定化モーメント演算手段50g、ABS/TCS制御手段50h、前後力演算手段50i、前後力差演算手段50j、修正舵角演算手段50k、補償舵角演算手段50mおよび選択手段50nが備えられている。
実運動演算手段50cは、車両1の実際に発生している運動量VMa(以下、実運動量という)を演算するものである。ここで、「運動量」とは、車両の旋回運動を表す状態量であり、ヨーレート、横加速度、車体スリップ角、車体スリップ角速度に相当する値を用いて演算される状態量である。例えば、ヨーレートセンサ43の検出信号に基づいて実際に発生している実際のヨーレート(以下、実ヨーレートという)を演算している。
目標運動演算手段50dは、車両1の目標とする運動量VMt(以下、目標運動量という)を演算するもので、上記の実運動量と同一次元の状態量を演算する。例えば、運動量がヨーレートである場合には、操舵角センサ28の検出信号と車体速度に基づいて周知の方法によって求められる目標とするヨーレート(以下、目標ヨーレートという)を演算している。
なお、ここでは、実運動量VMaと目標運動量VMtの対象をヨーレートとしているが、ESC制御に使用されるものとして周知となっている他の状態量(例えば、車体スリップ角等)を用いても良い。
比較手段50fは、実際の運動量VMaと目標とする運動量VMtの偏差ΔVMを演算するものである。安定化モーメント演算手段50gは、比較手段50fにて求められた偏差ΔVMと後述する前後力差演算手段にて求められる前後力差ΔFXを用いて安定化モーメントMSを演算するものである。具体的には、数式1に示す演算式に偏差ΔVMと前後力差ΔFXを代入することにより安定化モーメントMSを求めている。なお、数式1中において、G1、G2は予め決められている係数である。
(数1) MS=G1・ΔFX+G2・ΔVM …数式1
ABS/TCS制御手段50hは、車輪速度センサ41**からの検出信号に基づいて車輪速度Vw**および車体速度(推定車体速度)を求めると共に、各車輪FL〜RR毎にスリップ率を求め、このスリップ率に基づいてABS制御やTCS制御を実行するものである。ABS制御では、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31にて対象車輪のW/C圧の減圧、保持、増圧を行うことで制動トルクを調整することで車輪スリップを抑制する。TCS制御では、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31にて駆動車輪のW/C圧の増圧、保持、減圧を行うこと、もしくは、図示しないエンジンの出力調整を行うことにより、駆動トルクを調整し、車輪スリップを抑制する。これらABS制御やTCS制御の手法に関しては、周知であるためここでは説明を省略するが、このABS/TCS制御手段50hにて、ABS制御もしくはTCS制御中の各車輪FL〜RRのW/C圧の制御目標値が求められているため、これが前後力演算手段50iに伝えられる。
前後力演算手段50iでは、各車輪FL〜RRの前後力FX**が演算される。前後力とは、上述したように路面とタイヤとの間で発生する加減速方向の摩擦力、つまり制駆動力のことである。具体的には、ABS制御もしくはTCS制御中の各車輪FL〜RRのW/C圧の制御目標値に基づいて、左右それぞれの車輪FL〜RRの制動トルクを求めるという周知の手法により、各車輪FL〜RRの前後力FX**が求められる。
なお、前後力FX**に関しては、この他、W/C圧センサ42**の検出信号から検出した各車輪FL〜RRのW/C圧を利用して求められる左右それぞれの車輪FL〜RRの制動トルク、図示しないエンジンの駆動トルクから得られる各車輪FL〜RRの駆動トルク、車輪速度Vw**を微分して求められる各車輪FL〜RRの加減速度、各車輪FL〜RRの回転運動方程式、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31の作動状態(電磁弁への指示電流値)等からも求められ、周知となっているどの手法により求めても良い。
前後力差演算手段50jは、前後力演算手段50iにて求められた各車輪FL〜RRの前後力に基づいて、左車輪FL、RLと右車輪FR、RRの前後力FX**の差(以下、前後力差という)ΔFXを演算する。μスプリット路面では、左右の路面の摩擦係数が異なっているため、μスプリット制御が実行される際には、左車輪FL、RLと右車輪FR、RRの前後力が異なった値となり、前後力差ΔFXが生じる。この前後力差ΔFXが前後力差起因ヨーモーメントの大きさと対応する物理量となる。
例えば、前後力差ΔFXは、右前後輪FR、RRの前後力FXFR、FXRRの和から左前後輪FL、RLの前後力FXFL、FXRLの和を差し引いた値を用いることができる。この前後力差ΔFXは、車両上方から見て時計回り方向と反時計回り方向とで正負の符号が変わるが、いずれの方向を正負としても構わない。なお、この前後力差演算手段50jで演算した前後力差ΔFXが上記した安定化モーメント演算手段50gに伝えられ、安定化モーメントMSが求められる。
前輪修正舵角演算手段50kは、安定化モーメントMSに基づいて、前輪修正舵角δfsを演算する。また、補償舵角演算手段50mは、前輪修正舵角δfsもしくは安定化モーメントMSに基づいて前輪補償舵角δfhを演算するものである。前輪操舵角制御機構20Aのアクチュエータ(例えば電動モータ24b)の応答遅れを考慮すると、前輪修正舵角δfsでは十分でない可能性があるため、それを補償するために、前輪修正舵角δfsよりも大きな値として前輪補償舵角δfhを設定することで、応答遅れを補償する。以下、前輪補償舵角δfhによってアクチュエータ等の応答遅れを補償するものを、補償制御という。
図4は、安定化モーメントMSと前輪修正舵角δfsおよび前輪補償舵角δfhとの関係の一例を示したものである。例えば、安定化モーメントMSに対して前輪修正舵角δfsが一定の勾配で増加するような特性とされる場合、前輪補償舵角δfhはそれよりも大きな勾配で増加する特性(図中実線参照)とされるか、もしくは、前輪修正舵角δfsに対して所定の定数が足された特性(図中破線参照)とされる。このような前輪補償舵角δfhは、次式で求められる。ただし、Kfzは1より大きな係数、δfkは正の定数であり、例えば、予めECU50に記憶させたデフォルト値とされる。
(数2) δfh=Kfz・δfs …数式2
(数3) δfh=δfs+δfk …数式3
選択手段50nは、前輪修正舵角δfsと前輪補償舵角δfhのいずれを採用するかの選択(一方から他方への切り替え)を行うものであり、前輪最終修正舵角δfcを出力する。基本的には、μスプリット制御が開始されると、前輪補償舵角δfhが採用されて補償制御が実行される。しかしながら、後述する運転操作速度dDSや前後力差ΔFXの時間変化dΔFX、安定化モーメントMSの時間変化dMSが小さいときには、上述した応答遅れがあまり出ないため、補償制御を実行する必要がないため、前輪修正舵角δfsが選択される。また、μスプリット制御開始からある程度時間が経過すると上述の応答遅れは問題とはならないため、前輪補償舵角δfhから前輪修正舵角δfsに切り替えることが必要となる。このため、選択手段50nは、μスプリット制御開始時には補償舵角演算手段50mが演算する前輪補償舵角δfhを採用し、後述する継続時間演算手段50r、運転操作速度演算手段50t、実修正舵角演算手段50qからのデータに基づいてμスプリット制御開始前および開始後に前輪修正舵角演算手段50kが演算する前輪修正舵角δfsを採用するようになっている。
制限手段50pは、入力値の減少量の時間変化に対して制限を設ける。本実施形態の場合、選択手段50nに採用された前輪補償舵角δfhもしくは前輪修正舵角δfsが入力値に該当する。制限手段50pの入力値が急に減少するものであった場合、すなわち前輪補償舵角δfhから前輪修正舵角δfsへの切替時の入力値の減少量が大きかった場合に、それが車両挙動に現れて運転者に違和感を与える可能性がある。したがって、入力値を徐々に変化させるよう減少量の時間変化に対して制限を設けている。例えば、1制御周期当たりの入力値の時間減少量(減少勾配)を所定値Kdownとし、前輪補償舵角δfhから1制御周期毎の減少量を所定値Kdownに制限することで、前輪最終修正舵角δfcを演算する。
さらに、ECU50には、実修正舵角演算手段50q、継続時間演算手段50r、運転操作検出手段50sおよび運転操作速度演算手段50tが備えられている。
実修正舵角演算手段50qは、最終前輪修正舵角δfc(目標値)に基づいて制御された結果である実際の前輪修正舵角(実際値)を求めるものである。実修正舵角演算手段50qは、実舵角センサ47で求められる実際の回転角度(実舵角δfa)と前輪基準舵角δfvとに基づいて前輪FL、FRの実際の修正舵角δfsaを求める。前輪実修正舵角δfsaを求める演算式には、実舵角センサ47がどの場所の実舵角δfaを検出しているかによるが、実舵角センサ47が車輪の操舵角そのものを検出する車輪舵角検出手段として機能するものであれば数式4が用いられる。実舵角センサ47がVGRS24の相対回転角検出手段として機能するものであれば、下部シャフト22bの回転角度から車輪操舵角への伝達比をKとすると、数式5が用いられる。

(数4)δfsa=δfa−δfv …数式4
(数5)δfsa=K・(θsw+δfa)−δfv …数式5
このようにして前輪実修正舵角δfsaが求められると、この前輪実修正舵角δfsaが選択手段50nに伝えられ、これに基づいて選択手段50nによる切り替えのしきい値となる補償制御時間(μスプリット制御が開始されてから、選択手段50nが前輪最終修正舵角δfcを前輪補償舵角δfhから前輪修正舵角δfsに切り替えるまでの時間)τkが設定される。例えば、前輪修正舵角(目標値)δfsと前輪実修正舵角(実際値)δfsaとが一致するまでの時間t1、これらの差が所定値K1以内(|δfs−δfsa|≦K1)となるまでの時間t2、もしくは、前輪実修正舵角(実際値)δfsaが前輪修正舵角(目標値)δfsの所定割合(δfsa=K2・δfs、ただしK2は1より小さい係数で、例えば0.8)となるまでの時間t3が、補償制御時間(補償制御が必要とされる時間)τkと対応した値となる。このため、これらのいずれかに基づいて補償制御時間τkを設定することができる。例えば、図5に示すような時間t1〜t3と実補償時間τhとの関係のマップから実補償時間τhを求め、時間t1〜t3に実補償時間τhを加えることで補償制御時間τkを得ることができる。
継続時間演算手段50rは、μスプリット制御が開始後の継続時間tmsを演算するものである。継続時間演算手段50rにて、μスプリット制御開始からの修正舵角制御の継続時間tmsを演算し、選択手段50nに伝えることで、継続時間tmsに応じた補償制御が行えるようにしている。具体的には、継続時間tmsと補償制御時間τkとを比較し、継続時間tmsが補償制御時間τkを越えたときに、補償制御を終了し、選択手段50nが前輪補償舵角δfhから前輪修正舵角δfsに切り替えて、前輪最終修正舵角δfcを求める。なお、μスプリット制御が開始したことは、例えば、ABS/TCS制御手段50hにて、μスプリット制御中にセットされるフラグがリセット状態からセット状態に切り替ったことから判定可能である。
運転操作検出手段50sは、前後力操作部材となるブレーキペダル60や図示しないアクセルペダルの操作量DSを検出するものである。ブレーキペダル60の操作量に関しては、ペダル操作量センサ46、例えば踏力センサやストロークセンサ、マスタシリンダ圧センサの検出信号により求められる。アクセルペダルの操作量に関しては、アクセルペダル操作量センサ、エンジン制御において取り扱われるアクセル開度センサ、スロットル開度センサの検出信号により求められる。
運転操作速度演算手段50tは、ブレーキペダル60や図示しないアクセルペダルの操作速度(以下、単に運転操作速度という)dDSを演算するものである。この運転操作速度dDSは、前後力差ΔFXの時間変化と対応するものであり、操作量DSを時間微分することにより求められる。前後力差ΔFXが緩やかに発生する場合には、補償制御を行う必要がない。逆に、前後力差ΔFXの時間変化が速いほど補償制御が長時間必要になる。つまり、前後力差ΔFXは、補償制御が必要とされる時間と対応した値となる。このため、前後力差ΔFXの時間変化と対応する運転操作速度dDSを用いて、補償制御を継続する時間を設定することができる。したがって、運転操作速度dDSが選択手段50nに伝えられ、この運転操作速度dDSに基づいて選択手段50nによる切り替えのしきい値となる補償制御時間τkが設定される。図6は、運転操作速度dDSと補償制御時間τkとの関係の一例を示したマップである。この図に示すように、運転操作速度dDSが大きいほど補償制御時間τkが長くなるようにすると好ましい。
なお、ここでは上述した時間t1〜t3や運転操作速度dDSに基づいて補償制御時間τkを求めることについて説明したが、これらのうちの1つのみから補償制御時間τkを求めても良い。また、これらの複数から最も短いもの、若しくは長いものを補償制御時間τkとして選択したり、これら複数の平均値を補償制御時間τkとしても良い。
選択手段50nの切り替えのしきい値として補償制御時間τkや実補償時間τhを設定し、選択値を前輪補償舵角δfhから前輪修正舵角δfsに切り替えることを説明したが、前輪実修正舵角δfsa(実際値)と前輪修正舵角δfs(目標値)や前輪補償舵角δfh(目標値)との関係に基づいて切り替えることも可能である。前輪実修正舵角δfsa(実際値)が前輪修正舵角δfs(目標値)よりも大きな値となり、この関係が所定時間を経過した後に(前輪実修正舵角δfsaが前輪修正舵角δfsを超えてオーバシュートした後に)、選択手段50nは選択値を前輪補償舵角δfhから前輪修正舵角δfsに切り替えることができる。また、前輪実修正舵角δfsa(実際値)が前輪補償舵角δfh(目標値)とほぼ一致し、この状態が所定時間を経過した後に(前輪実修正舵角δfsaが前輪修正舵角δfsを超えて前輪補償舵角δfhとほぼ一致し、前輪正舵角δfsに対してオーバシュートした後に)、選択手段50nは選択値を前輪補償舵角δfhから前輪修正舵角δfsに切り替えることができる。実舵角センサ47、48を用いて演算される実際の前輪修正舵角(δfsa)が、修正舵角制御の目標値(前輪修正舵角δfs)に対して確実に大きくなるように補償制御が行われるため、アクチュエータの応答遅れを補償することができる。
続いて、μスプリット制御が開始されたときのECU50の作動について図7を参照して説明する。図7は、直進制動において、μスプリット制御が開始されたときの前輪FL、FRの修正操舵角の様子を示したタイミングチャートである。なお、ここでは前輪FL、FRの操舵角を記載しているが、後輪RL、RRの操舵角についても図7と同様のタイミングチャートとなる。
上記のように構成されたECU50によれば、左右車輪FL〜RRそれぞれの前後力FX**が求められると、それに基づいて前後力差ΔFXが求められる。そして、実運動量VMaおよび目標運動量VMtの偏差ΔVMが演算されると、その偏差ΔVMと前後力差ΔFXに基づいて安定化モーメントMSが演算される。この安定化モーメントMSに基づいてμスプリット制御時の車両偏向を抑制する修正操舵角制御の前輪修正舵角(目標値)δfsが求められ、さらに前輪補償舵角δfhが求められる。これにより、前輪補償舵角δfhは、前輪修正舵角(目標値)δfsを増分補正した値として求められる。そして、μスプリット制御開始直後には、前輪補償舵角δfhが入力値として選択され、アクチュエータの応答遅れを補償する補償制御が実行される。
図7中に示すように、操舵角の最大速度が制限される(パワーに制限がある)アクチュエータであっても、前後力差ΔFXに基づく前輪修正舵角(目標値)δfsに対して前輪実修正舵角(実際値)δfsaが所定時間にわたり大きくなるオーバーシュートが発生する。このため、前輪修正舵角δfsを用いたときに不足する図中の面積A1に相当する力積(=力×時間)を、オーバシュートによる図中の面積A2に相当する力積によって補償することが可能となる。
なお、μスプリット制御開始直後においては時間変化の制限が掛からないため、前輪補償舵角δfhが前輪最終修正舵角δfcとなる。前輪基準舵角δfvが前輪最終修正舵角δfcによって調整されることで前輪操舵角目標値δftが求められる。これにより、この前輪操舵角目標値δftと対応する制御指令値を示すモータ制御信号がモータ24bに対して出力される。
一方、時間t1〜t3もしくは運転操作速度dDSに基づいて補償制御時間τkが求められる。このとき、時間t1〜t3が長くなるほど、力積の損失分が大きくなるため、補償制御時間τkを長く設定し、逆に短くなるほど力積の損失分が小さくなるため、補償制御時間τkを短く設定する。
そして、μスプリット制御の継続時間tmsが補償制御時間τkを超えると、選択手段50nにて採用する入力値が前輪補償舵角δfhから前輪修正舵角δfsに切り替えられる。このとき、前輪補償舵角δfhから前輪修正舵角δfsへの切替時の入力値の減少量の時間変化が大きくなければ、前輪修正舵角δfsがそのまま前輪最終修正舵角δfcとされ、減少量の時間変化が大きければ、この減少量の時間変化に制限が設けられた値が前輪最終修正舵角δfcとされる。そして、前輪最終修正舵角δfcと前輪基準舵角δfvとに基づいて前輪操舵角目標値δftが求められる。これにより、この前輪操舵角目標値δftと対応する制御指令値を示すモータ制御信号がモータ24bに対して出力される。
また、運転操作速度dDSが遅い場合、つまり前後力差ΔFXが緩やかに発生するときには、アクチュエータの応答遅れの補償は不要である。このため、この場合には補償制御時間τkがゼロに設定されることで、前輪補償舵角δfhへの切替えが行われることなく、μスプリット制御開始当初から前輪修正舵角δfsがそのまま前輪最終修正舵角δfcとなる。これに基づいて、上記と同様に、前輪操舵角目標値δftが求められ、これと対応する制御指令値を示すモータ制御信号がモータ24bに対して出力される。
以上が前輪操舵制御の構成であるが、後輪操舵制御の構成に関しは、図示しないが、前輪操舵制御系と同様のブロック構成が採用されている。
すなわち、図2〜図6や上記説明における前輪を後輪に読み替え、かつ、SGf、δfv、δfs、δfh、δfc、δft、δfa、δfsa、Kfz、δfkをSGr、δrv、δrs、δrh、δrc、δrt、δra、δrsa、Krz、δrkというように添え字fをrに、さらに、モータ24bをモータ27aに、実舵角センサ47を実舵角センサ48に置換することで、後輪操舵角目標値δrtに関しても求められる。このようにして、ECU50が構成されている。
後輪基準舵角δrvの求め方は、前輪基準舵角δfvの場合とは異なる。具体的には、図示しない後輪操舵比演算手段は、車体速度Vxと、これと後輪操舵比SGrとの関係を示すマップもしくは関数式に基づいて、後輪操舵比SGrを求める。ここで、後輪操舵比SGrとは、前輪FL、FRの操舵角に対する後輪RL、RRの操舵角の比である。図9は、車体速度Vxと後輪操舵比SGrとの関係を示したマップである。このマップに示されるように、後輪操舵比SGrは、車体速度Vxが低い場合には逆相(前輪FL、FRと後輪RL、RRとが逆の操舵方向であり、マップでは負の値)に設定され、車体速度Vxの増加にしたがって同相(前輪FL、FRと後輪RL、RRとが同じ操舵方向であり、マップでは正の値)のより大きい値に変更される。また、低速時の逆相を行わないように、車体速度Vxが小さいときには後輪操舵比SGrをゼロに設定することができる。そして、図示しない後輪基準舵角演算手段は、ステアリングホイール操舵角θswと、車体速度等に基づいて設定された前輪操舵比SGfを用いて前輪FL、FRの操舵角を演算し、この前輪操舵角(=θsw/SGf)と後輪操舵比SGrとに基づいて後輪基準舵角δrvを求める。すなわち、後輪基準舵角δrvは、車体速度Vxに応じた後輪操舵比制御を達成するための、後輪操舵角の目標値である。そして、後輪基準舵角δrvと、前輪FL、FRと同様にして求められる後輪最終修正舵角δrcとに基づいて後輪操舵角目標値δrt(具体的にはモータ27aの回転角度の目標値)が求められる。
以上説明したように、本実施形態の車両用操舵角制御装置によれば、μスプリット制御が行われたときの車両の偏向を効果的に抑制するに際し、操舵角制御の応答性を改善し、高精度な制御を達成することが可能となる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、前後力差ΔFXの時間変化と対応する運転操作速度dDSに基づいて補償制御時間τkを求め、補償制御の時間や補償制御を実行するか否かを決めるようにしていたが、前後力差ΔFXや前後力差ΔFXを含む状態量に相当する安定化モーメントMSに基づいて決めても良い。この場合、図6を図中カッコ内に示したように、前後力差ΔFXもしくは安定化モーメントMSと補償制御時間τkとの関係に読み替えて用いることで、補償制御時間τkを求めることができる。
また、上記実施形態では、数式2、数式3に含まれる係数Kfzと定数δfkを予めECU50に記憶させておいたデフォルト値として説明したが、上述した時間t1〜t3や運転操作速度dDS、さらには前後力差ΔFXや安定化モーメントMSのいずれかに基づいて演算により求めることも可能である。
図8(a)、(b)は、それぞれ、時間t1〜t3や運転操作速度dDS、前後力差ΔFXや安定化モーメントMSと係数Kfz、定数δfkとの関係の一例を示したマップである。これらの図に示すように、例えば、時間t1〜t3や運転操作速度dDS、前後力差ΔFXや安定化モーメントMSが第1値のときまではKfzを1、つまり補償制御が行われないようにしておき、第1値を超えると徐々に増大するようにKfzを設定することができる。そして、第1値よりも大きな第2値になるとKfzの増大を止めてKfzを一定値とすることができる。同様に、時間t1〜t3や運転操作速度dDS、前後力差ΔFXや安定化モーメントMSが第3値のときまではδfkを0、つまり補償制御が行われないようにしておき、第3値を超えると徐々に増大するようにδfkを設定することができる。そして、第3値よりも大きな第4値になるとδfkの増大を止めてδfkを一定値とすることができる。
さらに、上記実施形態では、μスプリット制御開始からの時間として補償制御時間τkを設定し、継続時間tmsが補償制御時間τkを超えたら補償制御を終了するようにしている。これに関しても、前輪および後輪実修正舵角δfsa、δrsaが実際に前輪及び後輪修正舵角δfs、δrsを超えてからの時間が補償に必要とされる実補償時間τhを超えたときに補償制御を終了するようにしても良い。
上記各実施形態では、ブレーキ制御機構30として、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ31を用いた液圧ブレーキに基づいて車輪FL〜RRに制動トルクを与えるものについて記載したが、電動ブレーキのように電動モータによりW/C圧を発生させたり、直接ディスクロータにブレーキパッドを押し付けることで車輪FL〜RRに制動トルクを与えるものであっても構わない。この場合、例えば、電動モータの制御指示値に基づいて制動トルクを求めることが可能である。
また、上記各実施形態では、前後力差ΔFXとして、右前後輪FR、RRの前後力FXFR、FXRRの和から左前後輪FL、RLの前後力FXFL、FXRLの和を差し引いた値を用いているが、前後力差が制動力差である場合には、左右車輪の間の前後力差ΔFXとして、右側前車輪FRの前後力(制動力)FXfrから左側前車輪FLの前後力(制動力)FXflを減じて得られる値が使用されてもよい。また、前後力差が駆動力差である場合には、右側駆動車輪の前後力(駆動力)から左側駆動車輪の前後力(駆動力)を減じて得られる値が使用されてもよい。
さらに、上記実施形態では、車両運動状態をフィードバックした修正舵角制御が行われる操舵制御装置に関して本発明の一実施形態を適用した場合について説明したが、車両運動状態をフィードバックした修正舵角制御を除いたものとしても良い。この場合、ECU50は、図2に示した実運動演算手段50d、目標運動演算手段50e、比較手段50fおよび安定化モーメント演算手段50gを無くした構成となる。そして、安定化モーメントMSに代えて、前後力差ΔFXそのものを用いて前輪および後輪修正舵角、補償舵角等を求めることになる。
本発明の第1実施形態における車両用操舵角制御装置が備えられた車両の運動制御機構の全体構成を示した概略図である。 ECUのうち操舵角制御に関わる部分のブロック構成を示した図である。 (a)、(b)は、それぞれ、車体速度Vxや操舵角θswと前輪操舵比SGfの演算に用いられる車速感応パラメータSGf1や舵角感応パラメータSGf2との関係を示したマップである。 安定化モーメントMSと前輪修正舵角δfsおよび前輪補償舵角δfhとの関係を示したマップである。 時間t1〜t3と補償終了時間thとの関係を示すMAPである。 運転操作速度dDSと補償制御時間τkとの関係を示したマップである。 μスプリット制御が開始されたときの車両全体の修正操舵角の様子を示したタイミングチャートである。 (a)、(b)は、それぞれ、時間t1〜t3や運転操作速度dDSと係数Kfz、定数δfkとの関係の一例を示したマップである。 車体速度Vxと後輪操舵比SGrとの関係を示したマップである。
符号の説明
1…車両、10…運動制御機構、20…操舵角制御機構、20A…前輪操舵角制御機構、20B…後輪操舵角制御機構、21…ステアリングホイール、22…ステアリングシャフト、22a…上部シャフト、22b…下部シャフト、23…操舵角センサ、24…VGRS、24b…モータ、25…ステアリングギア機構、26…ステアリングリンク機構、27…リンク機構、27a…モータ、30…ブレーキ制御機構、31…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、32…W/C、41…車輪速度センサ、42…W/C圧センサ、43…ヨーレートセンサ、45…横加速度センサ、46…ペダル操作量センサ、50…ECU、60…ブレーキペダル。

Claims (5)

  1. 輪のスリップを抑制すべく、前記車輪の前後力を調整するスリップ抑制制御を実行すると共に、左車輪と右車輪の通過する路面の摩擦係数が異なるμスプリット路面を走行中に前記スリップ抑制制御を実行するμスプリット制御が実行される車両用操舵制御装置であって、
    前記車輪の前後力を演算する前後力演算手段と
    前記前後力に基づいて左右車輪の前後力差を演算する前後力差演算手段と
    前記前後力差を含む状態量に基づいて前記車輪の修正舵角を演算する修正舵角演算手段と
    前記修正舵角を増大させた補償舵角を演算する補償舵角演算手段と
    前記修正舵角と前記補償舵角のいずれか一方を選択して最終修正舵角とする選択手段と
    前記最終修正舵角に基づいて制御指示値を出力する駆動手段と、
    前記最終修正舵角に対応した前記車輪に発生させられた実際の修正舵角を演算する実修正舵角演算手段と、を備え、
    前記選択手段は、前記μスプリット制御の開始直後に前記補償舵角を前記最終修正舵角に選択し、前記実際の修正舵角が前記補償舵角と一致した後に前記最終修正舵角を前記補償舵角より前記修正舵角に切り替えることを特徴とする車両用操舵角制御装置。
  2. 前記選択手段は、前記μスプリット制御の開始時から前記実際の修正舵角が前記修正舵角に一致するまでの時間に基づいて、前記実際の修正舵角が前記修正舵角に一致したときから前記最終修正舵角を前記補償舵角より前記修正舵角に切り替えるまでの時間を設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用操舵角制御装置。
  3. 前記選択手段は、前記μスプリット制御開始時の前記前後力差を含む状態量の時間変化に基づいて、前記μスプリット制御の開始時から前記最終修正舵角を前記補償舵角より前記修正舵角に切り替えるまでの時間を設定することを特徴とする請求項に記載の車両用操舵角制御装置。
  4. 運転者の運転操作を検出する検出手段と
    前記運転操作に基づいて運転操作速度を演算する運転操作速度演算手段と、を有し、
    前記選択手段は、前記μスプリット制御開始時の前記運転操作速度に基づいて、前記μスプリット制御の開始時から前記最終修正舵角を前記補償舵角より前記修正舵角に切り替えるまでの時間を設定することを特徴とする請求項に記載の車両用操舵角制御装置。
  5. 前記最終修正舵角を前記補償舵角より前記修正舵角に切替える場合に前記最終修正舵角の減少量の時間変化を制限する制限手段を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用操舵角制御装置。
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