JP5079320B2 - グリコール酸の製造方法 - Google Patents
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そこで、グリコール酸から高純度グリコリドを得る方法として、一旦グリコール酸オリゴマーを合成し、高沸点の極性有機溶媒中で解重合することで高純度のグリコリドを得る方法が開示されている(特許文献1)。更に、グリコール酸オリゴマーを解重合してグリコリドを製造する方法において、該オリゴマーに含まれている微量アルカリ金属イオンが該解重合反応系を不安定にする原因となるが、この反応系に二価以上のカチオンの硫酸塩もしくは有機酸塩を添加することで、該アルカリ金属イオンが存在していても解重合反応の長期安定性が得られることが開示されている(特許文献2)。つまり、このような用途に使用する原料グリコール酸には、二価以上のカチオンの硫酸塩が含有されることが有利に働くことを意味する。
カルボン酸アンモニウム塩をカルボン酸に変換するための最も一般的な方法として、硫酸等の強酸を添加して、副生硫安と共に遊離酸を得る方法が考えられるが、昨今の環境問題を考えると硫安のような大量な廃棄物を生成するプロセスは望ましくない。
〔1〕グリコール酸アンモニウム塩にカルシウム源を添加してグリコール酸カルシウムを製造する工程と、前記グリコール酸カルシウムに硫酸を添加する工程と、を含むグリコール酸の製造方法;
〔2〕前記グリコール酸カルシウムを製造する工程の後、固液分離により固体のグリコール酸カルシウムを回収し、前記硫酸を添加する工程において、該固体のグリコール酸カルシウム又はこれに水を加えたグリコール酸カルシウムスラリーに硫酸を添加する、上記〔1〕に記載のグリコール酸の製造方法;
〔3〕前記グリコール酸カルシウムを製造する工程において、発生したアンモニアを気相部に回収する、上記〔1〕又は〔2〕に記載のグリコール酸の製造方法;
〔4〕前記アンモニアを気相部に回収するときの温度を50℃以上とする、上記〔1〕から〔3〕のいずれか1項に記載のグリコール酸の製造方法;
〔5〕前記カルシウム源が、水酸化カルシウム、酸化カルシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される一種以上である、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載のグリコール酸の製造方法;
〔6〕前記グリコール酸アンモニウム塩が、グリコロニトリルを、ニトリラーゼ、及び/又はニトリルヒドラターゼとアミダーゼの組合せによって酵素的に加水分解して得られたものである、上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載のグリコール酸の製造方法;
〔7〕前記加水分解が、ニトリラーゼによって行われる、上記〔6〕に記載のグリコール酸の製造方法;
〔8〕前記ニトリラーゼが、Acinetobacter属由来である、上記〔7〕記載のグリコール酸の製造方法;
〔9〕前記ニトリラーゼが、Acinetobacter sp.AK226由来である、上記〔8〕記載のグリコール酸の製造方法;
〔10〕上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の方法で得られたグリコール酸の水溶液を原料としてグリコール酸オリゴマーを合成する工程と、前記グリコール酸オリゴマーを解重合させてグリコリドを得る工程と、該グリコリドを開環重合してポリグリコール酸を得る工程と、を含む、ポリグリコール酸の製造方法;
〔11〕グリコール酸アンモニウム塩にカルシウム源を添加してグリコール酸カルシウムを製造する工程と、前記グリコール酸カルシウムに硫酸を添加し、固体の硫酸カルシウムを分離する工程と、を含む、グリコール酸と硫酸カルシウムを同時に製造する方法、に関する。
また、仮に、グリコール酸アンモニウム塩に最初から不純物としてグリコロアミドが含まれていても、本発明に係るグリコール酸製造方法によれば、アルカリ加水分解の結果、該グリコロアミドをグリコール酸アンモニウムに変換し、引き続きグリコール酸カルシウムに変換すると同時にアンモニアを気相部へ回収することができる。
また、グリコール酸カルシウムに硫酸を加えると硫酸カルシウムが析出するため、高品質かつ高純度のグリコール酸を得ることができるとともに、固体の硫酸カルシウムに付着したグリコール酸は水で洗浄することによって回収できるので、高収率でグリコール酸を得ることができる。また、硫酸を加える前に、固液分離により固体のグリコール酸カルシウムを回収することによって、グリコール酸カルシウムを容易に精製することができるので、最終的に得られるグリコール酸の品質や純度をさらに向上させることができる。
さらに、得られたグリコール酸水溶液には、溶解度分の硫酸カルシウムが溶解しているので、当該水溶液からグリコール酸オリゴマー及びグリコリドを経由してポリグリコール酸を製造する際、グリコール酸オリゴマーからグリコリドを合成する解重合反応を安定に行うことができるという効果も得られる。
また、本発明に係る方法によれば、硫酸カルシウムも純度の高い高品質のものを得ることができるので、通常廃棄物として扱われる硫酸カルシウムを石膏ボードやセメント材料等の製品原料として利用することができる。
本発明に係るグリコール酸の製造方法では、まずグリコール酸アンモニウム塩にカルシウム源を添加して、グリコール酸カルシウムを製造する。
本発明に係るグリコール酸の製造方法に用いられるグリコール酸アンモニウム塩は、如何なる製法によって得られたものでも構わないが、特に有用なのは青酸とホルマリンから合成されたグリコロニトリルを酵素的に加水分解して製造されたものである。
微生物種としては、多くのものが知られているが、例えばニトリラーゼ高活性を有するものとして、Rhodococcus属、Acinetobacter属、Alcaligenes属、Pseudomonas属、Corynebacterium属等が挙げられる。また、ニトリルヒドラターゼ及びアミダーゼ高活性を有するものとして、Rhodococcus属、Pseudomonas属等が挙げられる。本発明に用いられるグリコール酸アンモニウム塩の製造には、特にニトリラーゼ高活性を有するものが好ましく、特にグラム陰性菌であるAcinetobacter属、Alcaligenes属が好ましく、更に好ましくはAcinetobacter属が好ましい。
具体的には、Acinetobacter sp.AK226 (FERM BP-08590)、Acinetobacter sp.AK227(FERM BP-08591)である。これらの菌株は特開2001−299378、特開平11−180971、特開平06−303991、特開昭63−209592、特公昭63−2596号公報等に記載されている。
グリコール酸アンモニウム塩水溶液に対し、カルシウム源を固体のまま或いは水と混ぜたスラリー状態で混合することができる。スラリー状態で使用する場合は、その流動性或いは攪拌しながら均一な状態で扱えることから、固形分重量濃度を10〜50重量%にするのがよく、好ましくは20〜40重量%、更に好ましくは25〜35重量%がよい。添加されたカルシウム源は、グリコール酸アンモニウムに対し反応を起こし、グリコール酸カルシウムとアンモニアを生成する。使用するカルシウム源はグリコール酸アンモニウム塩水溶液と接触させたときに、効率よく、好ましくない副生成物を生じることなくグリコール酸カルシウムが得られ、また加熱処理によりアンモニアを気相部に除くことができるものであれば如何なるものでも構わないが、カルシウム源の中でも、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウムが好ましく、特に水酸化カルシウムと酸化カルシウムが望ましい。
溶液中のカルシウムカチオンまたは硫酸アニオンの濃度を低減させたり、溶液中からカルシウムカチオンまたは硫酸アニオンを除去したりする必要がある場合は、それぞれ一般的なカチオン交換法、またはアニオン交換法等の操作によって行うことができる。
また、反応液及び処理液中のカルシウムイオン及びアンモニウムイオンの分析はイオンクロマトグラフィーで実施した。カラムはカチオン交換カラム(東ソー Tsk gel IC-Cation )、カラム温度は40℃、移動相は2mM硝酸水溶液、流速は0.5cc/min、検出器は電導度計(東ソーCM-8020)で実施した。
さらに、反応液及び処理液中の硫酸イオンの分析はイオンクロマトグラフィーで実施した。カラムはアニオン交換カラム(東ソー Tsk gel IC-AnionSW )、カラム温度は40℃、移動相はアニオン分析用溶離液(東ソー製)、流速は1.2cc/min、検出器は電導度計(東ソーCM-8020)で実施した。
塩化ナトリウム0.1重量%、リン酸二水素カリウム0.1重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.05重量%、硫酸第一鉄七水和物0.005重量%、硫酸アンモニウム0.1重量%、硝酸カリウム0.1重量%硫酸マンガン五水和物0.005重量%を含む培養液250mlを三角フラスコに仕込み、pHが7になるように水酸化ナトリウムで調整し、121℃で20分間滅菌した後、アセトニトリル0.5重量%を添加した。これにAcinetobacter sp.AK226を接種して30℃で振とう培養した(前培養)。ミーストパウダー0.3重量%、グルタミン酸ナトリウム0.5重量%、硫酸アンモニウム0.5重量%、リン酸水素二カリウム0.2重量%、リン酸ニ水素カリウム0.15重量%、塩化ナトリウム0.1重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.18重量%、塩化マンガン4水和物0.02重量%、塩化カルシウム二水和物0.01重量%、硫酸鉄7水和物0.003重量%、硫酸亜鉛7水和物0.002重量%、硫酸銅5水和物0.002重量%、大豆油2重量%を含む培養液3Lを5Lジャーファーメンターに仕込み、121℃で20分間滅菌した後、前記の前培養液を接種して30℃で通気攪拌を行った。培養開始10時間後から大豆油のフィードを開始した。PHは7になるようにリン酸及びアンモニア水でコントロールし、最終的に約5重量%のAcinetobacter sp.AK226懸濁液を得た。更に0.06Mリン酸バッファーを用いて2回洗浄を行い、最終的にリン酸バッファーに懸濁されたAcinetobacter sp.AK226懸濁液(乾燥菌体濃度5重量%)を得た。
前記のように得られたAcinetobacter sp.AK226懸濁液(5.1重量%)1.8gと蒸留水225gを1L四ツ口フラスコに仕込み懸濁させた。該フラスコにpH計と温度計を設置し反応液のpHと温度をモニタリングできるようにして、50℃恒温水槽に入れてスターラー攪拌を実施し、内温が50℃になるまでしばらく保持した。次に原料の55重量%グリコロニトリル水溶液(東京化成製)を、液体クロマトグラフィー用ポンプを用いて0.33g/minでフィードした。原料グリコロニトリル中に安定剤として含まれる硫酸を中和するため、チューブポンプで1.5重量%アンモニア水をフィードした。尚、アンモニア水フィードポンプはpH計による制御で内液pHが6.9±0.1になるようにセットした。反応中は定期的にサンプリングを行い、高速液体クロマトグラフィーでグリコロニトリルとグリコール酸アンモニウム濃度を測定し、定常グリコロニトリル濃度が2重量%以下になるように原料の添加量を調節した。最終的なグリコール酸アンモニウム蓄積濃度は52重量%であった。次に得られたグリコール酸アンモニウム塩水溶液を遠心分離機(クボタ製:高速遠心機7700)を用いて、回転数:10000pm、処理時間:20min、処理温度:4℃で処理し、上澄みを回収後、MF(旭化成ケミカルズ製:PSP-003)を用いて、流速2ml/min、処理温度:30℃で処理して52重量%のグリコール酸アンモニウム塩水溶液を1065g得た。反応液には副生成物としてグリコロアミドが0.33重量%含まれていた。
前記のように調製した52重量%グリコール酸アンモニウム塩水溶液50gを100mL四ツ口フラスコに仕込み、側管に温度計と還流器を取り付け、中央にスリーワンモーターの撹拌羽根を取り付け、恒温水槽に全体を漬けて、内液を所望の温度に昇温し、30重量%の水酸化カルシウムスラリー37.9gを15minかけて滴下した。(因みにグリコール酸アンモニウム塩1molに対して0.55molの水酸化カルシウムを用いたことになる。) 所望の時間まで処理した後、得られたグリコール酸カルシウムスラリーをサンプリングし、適当な濃度まで蒸留水で希釈し、高速液体クロマトグラフィーでグリコール酸濃度及びグリコロアミド濃度を、イオンクロマトグラフィーでアンモニア濃度を測定し、グリコール酸重量当たりのアンモニア重量%とグリコロアミド濃度を求めた。結果については表1及び図1に示す。
実施例1で得られたグリコール酸カルシウムスラリーをガラスフィルター付漏斗で濾過し、グリコール酸カルシウムの湿潤結晶32.4gを得た。この結晶の一部を採り、適当な濃度まで水に希釈して、液体高速クロマトグラフィーでグリコール酸濃度を、イオンクロマトグラフィーでアンモニア濃度を測定して、本サンプルを洗浄前サンプルとした。次に残ったグリコール酸カルシウム湿潤結晶に対し、同重量の50℃に加温した蒸留水を加えてスパチラで撹拌した後、ガラスフィルター付漏斗で濾過し、グリコール酸カルシウムの湿潤結晶を得た(1回目洗浄)。該結晶の一部を洗浄前サンプルと同様に分析した後、該結晶の一部を前出と同様の洗浄操作と分析を行った(2回目洗浄)。更に同様にして3回目洗浄操作と分析を行った。結果は表2に示す。
比較例として、カルボン酸アンモニウムの加熱加水分解により、アンモニアを除去した。
[グリコール酸アンモニウム塩水溶液の調製]で調製した52重量%グリコール酸アンモニウム塩水溶液50gを100mL四ツ口フラスコに仕込み、側管に内液温測定用の温度計とトップ温度測定用の温度計を付けたトの字管を挟んでリービッヒ冷却管を取り付け、中央にスリーワンモーターの撹拌羽根を取り付け、オイルバスに全体を漬けて、内液を所望の温度に昇温して水と共にアンモニアを除去した。最終的な留去重量は23.3gであった。所望時間での分析値を基に初期グリコール酸アンモニウムに対する、脱アンモニア率(気相部へアンモニアとして除去された率)とグリコロアミド生成率を求めた。本操作ではグリコール酸アンモニウムのアンモニウムイオンを約20%しかアンモニアとして除去することができない上に、約20%は副生物であるグリコロアミドに転換された。処理条件については表3に、及び結果については図2に示す。
実施例4で得られたグリコール酸カルシウムスラリーの一部を実施例6と同様に、ガラスフィルター付漏斗で濾過した後、得られたグリコール酸カルシウムの湿潤結晶に対し、同重量の50℃に加温した蒸留水を加えてスパチラで撹拌した後、ガラスフィルター付漏斗で濾過する操作を3回繰り返し、得られたグリコール酸カルシウムの湿潤結晶の一部に対し、グリコール酸カルシウム1molに対し1.03molのモル比になるように、50重量%硫酸を60℃の温度を保ちながら添加して1時間程熟成した後、得られた硫酸カルシウムの結晶をガラスフィルター付漏斗で濾過分離した濾液として、54.1重量%のグリコール酸水溶液を得た。該グリコール酸水溶液中のその他不純物濃度を測定したところ、カルシウムカチオンが3400重量ppm/GA、硫酸アニオンが6500重ppm/GA、アンモニアが2重量ppm/GA以下、グリコロアミドは検出されなかった。
Claims (9)
- グリコール酸アンモニウム塩にカルシウム源を添加し、50℃以上の温度で、発生したアンモニアを気相部に回収しながらグリコール酸カルシウムを製造する工程と、前記グリコール酸カルシウムに硫酸を添加する工程と、を含むグリコール酸の製造方法。
- 前記グリコール酸カルシウムを製造する工程の後、固液分離により固体のグリコール酸
カルシウムを回収し、前記硫酸を添加する工程において、該固体のグリコール酸カルシウ
ム又はこれに水を加えたグリコール酸カルシウムスラリーに硫酸を添加する、請求項1に
記載のグリコール酸の製造方法。 - 前記カルシウム源が、水酸化カルシウム、酸化カルシウム及び炭酸カルシウムからなる
群から選択される一種以上である、請求項1又は2に記載のグリコール酸の製造方法。 - 前記グリコール酸アンモニウム塩が、グリコロニトリルを、ニトリラーゼ、及び/又はニトリルヒドラターゼとアミダーゼの組合せによって酵素的に加水分解して得られたものである、請求項1から3のいずれか1項に記載のグリコール酸の製造方法。
- 前記加水分解が、ニトリラーゼによって行われる、請求項4に記載のグリコール酸の製
造方法。 - 前記ニトリラーゼが、Acinetobacter属由来である、請求項5記載のグリコール酸の製造方法。
- 前記ニトリラーゼが、Acinetobacter sp.AK226由来である、請求項6記載のグリコール
酸の製造方法。 - 請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法で得られたグリコール酸の水溶液を原料としてグリコール酸オリゴマーを合成する工程と、前記グリコール酸オリゴマーを解重合させてグリコリドを得る工程と、該グリコリドを開環重合してポリグリコール酸を得る工程と、を含む、ポリグリコール酸の製造方法。
- グリコール酸アンモニウム塩にカルシウム源を添加し、50℃以上の温度で、発生したアンモニアを気相部に回収しながらグリコール酸カルシウムを製造する工程と、前記グリコール酸カルシウムに硫酸を添加し、固体の硫酸カルシウムを分離する工程と、を含む、グリコール酸と硫酸カルシウムを同時に製造する方法。
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