ここで、各種鋼矢板における継手は、先行して打設された鋼矢板の継手に対して、新たに打設しようとする鋼矢板の継手を嵌合させたうえで地中に打設させることによって、これらの鋼矢板の連結状態を維持したまま打設することを可能とするという重要な機能に寄与している。
しかしながら、この継手は、製造時、打設時、打設後の各場面において、以下に示すような問題点を有している。
即ち、継手の形状が上述の機能を奏するためには、上述のような、各継手が互いに嵌合可能となるように嵌合溝119、129と、嵌合溝119、129に対して嵌合可能となる係合部118、128を形成させる必要があるため、鋼矢板の製造時においては、その両側の端部を複雑形状に成形させる必要がある。ここで、このような複雑形状の継手を成形させる場合、他のウエブ部やフランジ部等を成形させる場合と比較して、圧延ロールによる負荷が非常に大きく、その分において製造コストの上昇を招いていた。特に、図24(b)に示すような、左右非対称の継手127の成形時には、このような問題が顕著となっていた。
また、従来においては、熱間圧延または冷間圧延により製造された、継手の成形されていない鋼矢板本体に対して、別途製造された継手を溶接によって取り付けることによって圧延ロール負荷を低減させる方法も提案されている。しかしながら、このように溶接を利用する方法を採ると、溶接時における溶接熱によって鋼矢板本体が変形してしまい、その変形を修正させるために多大な労力、コストを要しており、鋼矢板の製造コストを低減させるという観点での抜本的な解決策にはなり得なかった。
また、打設時においては、鋼矢板を地中に打設することによってその周囲の土等が圧密され、鋼矢板の継手等に大きな外力が負荷され、これに伴って継手がその長手方向に沿って曲がる、又はねじれることがある。この場合、長手方向に向けて曲がる等した継手同士を嵌合させながら地中に打設することになるため、互いに嵌合している継手間において大きな摩擦抵抗が生じ、これによって継手相互の温度が上昇し、これら継手が熱溶着されてしまうケースがあった。継手が熱溶着されてしまうと、熱溶着された継手同士をガス切断等する必要が生じ、施工歩掛を低減させてしまうため、一般には、継手間を冷却させながら施工することになるが、その分、手間がかかり、施工性に悪影響を及ぼしていた。
このような継手間の熱溶着を防止するためには、継手内の嵌合用空間を広くするという対策も考えられるが、この場合、嵌合用空間を広くするために継手の大きさ自体を大きくとる必要があり、その分において鋼材重量が増大し、製造コストの増加を招いてしまっていた。このため、このような対策は、積極的に採用できなかった。
また、打設後においては、例えばU字形鋼矢板110によって構築される地中連続壁体116の場合、図25(a)に示すように、中立軸L1近傍に鋼材重量が多い継手115が位置することになる。中立軸近傍に位置する部材の断面は、打設後の地中連続壁体に対して作用する土圧等による曲げ荷重に対して大きく抵抗しにくいため、U字形鋼矢板110によって構築された地中連続壁体116は、曲げ剛性に対する鋼材使用効率が非常に低く、非経済的であった。
このように、従来の鋼矢板における継手は、製造時、打設時、打設後において種々の問題の原因となっており、この継手がなくとも地中連続壁体の構築が可能となる鋼矢板の提案が望まれていた。
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、従来の鋼矢板における複雑形状の継手がなくとも地中連続壁体の構築が可能であり、さらには経済性、施工性に優れた地中連続壁体用部材、及びこれを用いた地中連続壁体を提供することにある。
本発明者は、上述した課題を解決するために、ウエブ部の両側にアーム部を有する鋼矢板から構成される地中連続壁体用部材であって、それぞれの上記アーム部の端部には、互いに接続して壁体を構成するための雄型継手又は雌型継手の何れかが設けられており、上記雄型継手は、アーム部の先端部が、当該アーム部に対して少なくとも1箇所以上折り曲げられて形成され、上記雌型継手は、アーム部の端部に取り付けられた嵌入溝形成用部材と、当該嵌入溝形成用部材が取り付けられることによって形成され、上記雄型継手を嵌入係止可能とする嵌入溝とを有し、上記嵌入溝形成用部材は、上記アーム部に対して着脱可能とされていることを特徴とする、本願請求項1に記載の地中連続壁体用部材を発明した。
本願請求項2に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1に記載の地中連続壁体用部材において、一方のアーム部の端部に上記雄型継手を有し、他方のアーム部の端部に上記雌型継手を有することを特徴とする。
本願請求項3に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1に記載の地中連続壁体用部材において、それぞれのアーム部の端部には、上記雄型継手又は上記雌型継手のうちの何れか一方のみが設けられてなり、上記雄型継手又は上記雌型継手のうちの何れか他方のみがそれぞれのアーム部の端部に設けられた他の地中連続壁体用部材と接続可能とされていること特徴とする。
本願請求項4に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1〜3の何れか1項に記載の地中連続壁体用部材において、上記鋼矢板は、ウエブ部の両側にアーム部が設けられて断面形状が略U字形又は略Z字形に構成されていることを特徴とする。
本願請求項5に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1〜4の何れか1項に記載の地中連続壁体用部材において、上記鋼矢板は、ウエブ部の両側にフランジ部が設けられ、フランジ部の端部に更にアーム部が設けられて断面形状が略ハット形に構成されていることを特徴とする。
本願請求項6に記載の地中連続壁体用部材は、ウエブ部の両側に、互いに略平行な平板状のアーム部の中間部が固着されて断面形状が略H字形の鋼矢板から構成される地中連続壁体用部材であって、上記アーム部のそれぞれの端部には、互いに接続して壁体を構成するための雄型継手又は雌型継手の何れかが設けられ、上記雄型継手は、アーム部の先端部が、当該アーム部に対して少なくとも1箇所以上折り曲げられて形成され、上記雌型継手は、アーム部の端部に取り付けられた嵌入溝形成用部材と、当該嵌入溝形成用部材が取り付けられることによって形成され、上記雄型継手を嵌入係止可能とする嵌入溝とを有し、上記嵌入溝形成用部材は、上記アーム部に対して着脱可能とされていることを特徴とする。
本願請求項7に記載の地中連続壁体用部材は、請求項6に記載の地中連続壁体用部材において、上記アーム部の一方の端部に上記雄型継手を有し、上記アーム部の他方の端部に上記雌型継手を有することを特徴とする。
本願請求項8に記載の地中連続壁体用部材は、請求項6に記載の地中連続壁体用部材において、上記アーム部のそれぞれの端部には、上記雄型継手又は上記雌型継手のうちの何れか一方のみが設けられてなり、上記雄型継手又は上記雌型継手のうちの何れか他方のみが上記アーム部のそれぞれの端部に設けられた他の地中連続壁体用部材と接続可能とされていることを特徴とする。
本願請求項9に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1〜8のうち何れか1項に記載の地中連続壁体用部材において、上記雄型継手は、上記アーム部の先端部が、当該アーム部に対して1箇所のみ折り曲げられて形成されていることを特徴とする。
本願請求項10に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1〜9のうち何れか1項に記載の地中連続壁体用部材において、上記雄型継手は、上記アーム部に対して折り曲げられた第1の折り曲げ部と、当該第1の折り曲げ部の折り曲げ方向とは反対方向に向けて折り曲げられて形成された第2の折り曲げ部とを有することを特徴とする。
本願請求項11に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1〜10のうち何れか1項に記載の地中連続壁体用部材において、上記嵌入溝形成用部材は、底壁部の両側に設けられた側壁部により断面凹状に形成され、上記嵌入溝は、上記嵌入溝形成用部材における一方の側壁部が上記雌型継手を有するアーム部の端部に対して取り付けられて形成されることを特徴とする。
本願請求項12に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1〜11のうち何れか1項に記載の地中連続壁体用部材において、上記嵌入溝形成用部材は、上記雌型継手を有するアーム部の長手方向の上部において着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
本願請求項13に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1〜12のうち何れか1項に記載の地中連続壁体用部材において、上記嵌入溝形成用部材の長手方向の下部において下方に向けて突出された突出片が、上記雌型継手を有するアーム部の長手方向の下部に固着された環状部材の挿通孔内に挿通されてなることを特徴とする。
本願請求項14に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1〜13のうち何れか1項に記載の地中連続壁体用部材において、上記雌型継手を備えるアーム部の長手方向の下部には、互いに連結すべき他の上記鋼矢板における雄型継手の長手方向の下部において、下方に向けて突出された突出片を挿通可能な環状部材が固着されていることを特徴とする。
本願請求項15に記載の地中連続壁体用部材は、請求項1〜14のうち何れか1項に記載の地中連続壁体用部材において、上記嵌入溝形成用部材が取り外されてなることを特徴とする鋼矢板。
本願請求項16に記載の地中連続壁体は請求項1〜14のうち何れか1項記載の地中連続壁体用部材を複数に亘って地中に配置して構築される地中連続壁体であって、互いに隣接する上記地中連続壁体用部材は、一方の上記地中連続壁体用部材における雌型継手の嵌入溝内に、他方の上記地中連続壁体用部材における雄型継手が嵌入されて地中に壁状に設置されてなることを特徴とする。
本願請求項17に記載の地中連続壁体は、請求項16に記載の地中連続壁体において、地中に配置された上記地中連続壁体用部材における嵌入溝形成用部材が地中から取り除かれてなることを特徴とする。
請求項18に記載の地中連続壁体は、請求項16又は17に記載の地中連続壁体において、互いに隣接する一方の上記地中連続壁体用部材において、雌型継手を有するアーム部の長手方向の下部には環状部材が固着されてなり、互いに隣接する他方の上記地中連続壁体用部材における雄型継手の長手方向の下部において、下方に向けて突出して設けられた突出片が上記環状部材の挿通孔内に挿通されてなることを特徴とする。
請求項19に記載の地中連続壁体の構築方法は、請求項1〜14のうち何れか1項記載の地中連続壁体用部材を複数に亘って地中に配置することによって地中連続壁体を構築する地中連続壁体の構築方法であって、先行して打設された上記地中連続壁体用部材における雄型継手又は雌型継手の何れか一方に、後行して打設されるべき上記地中連続壁体用部材における雄型継手又は雌型継手の何れか他方を接続させて、当該後行して打設されるべき地中連続壁体用部材を地中に打設することを特徴とする。
請求項20に記載の地中連続壁体の構築方法は、請求項19に記載の地中連続壁体の構築方法において、上記後行して打設されるべき地中連続壁体用部材の打設後において、先行して打設された上記地中連続壁体用部材に対して取り付けられた嵌入溝形成用部材を地中から取り除くことを特徴とする。
請求項21に記載の地中連続壁体の構築方法は、請求項20に記載の地中連続壁体の構築方法において、上記取り除かれた嵌入溝形成用部材を、後行して打設されるべき他の地中連続壁体用部材に取り付け、当該後行して打設されるべき他の地中連続壁体用部材を地中に打設することを特徴とする。
上述の如き構成からなる本発明は、従来の鋼矢板における複雑形状の継手と異なり、非常に簡単な形状の雄型継手5しか鋼矢板に成形されていないにも関わらず、嵌入溝形成用部材7を用いることによって従来の鋼矢板における継手と同様に、打設時において二つの地中連続壁体用部材1の連結状態を維持したまま打設することが可能となっている。
また、本発明を適用した地中連続壁体用部材1は、従来の鋼矢板における複雑形状の継手ではなく、非常に簡単な形状の雄型継手5を鋼矢板に対して成形するのみでよいため、鋼矢板の成形時における圧延ロール負荷を大きく低減可能となっており、製造コストを低減でき、経済性に優れたものとなっている。また、従来の鋼矢板における複雑形状の継手がないため、鋼矢板の各部位の幅や厚み等を小さくしなくとも断面性能をそのまま確保しつつ鋼材重量を削減でき、剛性に対する鋼材の使用効率が向上し、経済性に優れたものとなっている。
また、本発明を適用した地中連続壁体用部材1は、雄型継手5を溶接にて取り付ける必要がないため、溶接時における溶接熱によって鋼矢板そのものの変形を引き起こすことがなく、溶接による鋼矢板そのものの変形を修正する労力を削減可能となる。
また、打設時において、鋼矢板の継手の熱溶着を防止することを目的として、嵌入溝59内の空間を大きくしたとしても、鋼矢板そのものの鋼材重量が増加するわけではないため、鋼矢板の製造コストの増加を招くことなく嵌入溝59内の空間を広くすることができる。これに伴って、本発明を適用した地中連続壁体用部材1は、打設時における抵抗を低減でき、更には、継手部間で生じる摩擦抵抗も低減できることにより継手部間の熱溶着が発生しにくくなり、これによって施工性が大きく向上することになる。
以下、本発明を実施するための最良の形態として、土木建築分野における土留め壁、基礎構造、擁壁等の構築時に用いるのに好適な地中連続壁体用部材、及びこの地中連続壁体用部材から構築される地中連続壁体について、図面を参照しながら詳細に説明する。
第1の実施の形態
まず、本発明を適用した地中連続壁体用部材の第1の実施の形態について説明する。
図1(a)、図2は、本発明を適用した地中連続壁体用部材1を示している。本実施の形態における地中連続壁体用部材1は、ウエブ部11の両側にアーム部15、16を有するハット形鋼矢板10から構成されるものである。地中連続壁体用部材1は、複数に亘って地中に連続配置することによって地中連続壁体を構成するものである。
地中連続壁体用部材1を構成するハット形鋼矢板10は、図1(b)に示すように、ハット形鋼矢板10の幅方向の中央部に位置するウエブ部11と、ウエブ部11の両側の端部から、図中内側に向かって傾斜するように屈曲して設けられるフランジ部13と、そのフランジ部13の端部から図中外側に向かって屈曲して設けられ、ウエブ部11と略平行をなす平板状のアーム部15、16とを備えており、断面形状が略ハット形に形成されるものである。
本発明を適用した地中連続壁体用部材1を構成するハット形鋼矢板10は、図1(b)に示すように、ウエブ部11の両側に位置するアーム部15、16の先端側の端部に、従来の鋼矢板における継手が一体的に設けられておらず、その代替として、一方のアーム部15の先端部に、従来の鋼矢板における継手の形状と異なる形状の雄型継手5が形成されている。また、他方のアーム部16の先端側の端部にも同様に、従来の継手が設けられておらず、当該他方のアーム部16は、フランジ部13の端部から図中外側に向けて延長されて、平板状の形状を呈している。そして、この他方のアーム部16には、嵌入溝形成用部材7が取り付けられ、これによって、図1(a)、図2に示すような雌型継手9が形成されることになる。この雄型継手5と雌型継手9とは、地中に隣接配置される地中連続壁体用部材1の間で互いに接続されることによって、その隣接配置される地中連続壁体用部材1による壁体を構成可能とするために設けられるものである。
図3(a)は、雄型継手5の構成を示す拡大平面図である。雄型継手5は、アーム部15の先端部15aが、そのアーム部15に対して折り曲げられて形成された第1の折り曲げ部31と、アーム部15に対する第1の折り曲げ部31の折り曲げ方向とは反対方向に向けて更に折り曲げられて形成された第2の折り曲げ部33とを備えている。本実施の形態において、この第2の折り曲げ部33は、アーム部15と略平行をなしている。
雄型継手5における第1の折り曲げ部31と第2の折り曲げ部33とは、アーム部15から一体的に成形されている。この雄型継手5の成形方法は、特に問わないが、例えば、熱間圧延、冷間圧延時においてウエブ部11等を含めてハット形鋼矢板10全体として一体的に成形してもよいし、先端に継手が形成されていないアーム部15、16を有するハット形鋼矢板10を熱間圧延、冷間圧延により一体的に成形した後、何れか一方のアーム部のみをロール曲げ加工又はプレス加工することによって成形してもよい。
図4は、雌型継手9を形成する際に用いられる嵌入溝形成用部材7の構成を示す斜視図である。嵌入溝形成用部材7は、平板状の底壁部51と、底壁部51の両側に設けられた側壁部53、55とを備え、これら底壁部51、側壁部53、55により、その長手方向に向けて延長された凹溝を有し、断面凹状に形成されている。本実施形態においては、この嵌入溝形成用部材7は、断面略コ字状に形成されている。この嵌入溝形成用部材7の長手方向の長さは、ハット形鋼矢板10の長手方向の長さと略同一となるように調整されている。
図3(b)は、このような嵌入溝形成用部材7が地中連続壁体用部材1に対して取り付けられて形成される雌型継手9の構成を示す拡大平面図である。雌型継手9は、ハット形鋼矢板10におけるアーム部16の端部17近傍の側面に対して、嵌入溝形成用部材7における一方の側壁部53の端部が取り付けられて形成されており、これによって、アーム部16の先端と嵌入溝形成用部材7における他方の側壁部55との間において開口された開口部57と、開口部57から連通される嵌入溝59とが形成されることになる。このように、雌型継手9は、嵌入溝形成用部材7と、嵌入溝59とを少なくとも備えるものである。
嵌入溝形成用部材7における一方の側壁部53は、嵌入溝形成用部材7がなす凹溝の一部をアーム部16の端部17の一部が覆うように、アーム部16の先端から適宜間隔をあけた部位に取り付けられる。嵌入溝59は、嵌入溝形成用部材7がなす凹溝と、アーム部16の先端から嵌入溝形成用部材7における一方の側壁部53が取り付けられている部位までの係止部19とから構成されており、嵌入溝59内には、雄型継手5を嵌入可能な広さをもった空間が形成される。
図3(c)は、一つの地中連続壁体用部材1における雌型継手9の嵌入溝59内に他の地中連続壁体用部材1における雄型継手5を嵌入させて、二つの地中連続壁体用部材1を連結させた状態を示している。雌型継手9の嵌入溝59内に雄型継手5を嵌入させた場合、雄型継手5は、雌型継手9に対して係止可能となるように構成されている。即ち、この場合、雌型継手9における他方の側壁部55に対して雄型継手5における第1の折り曲げ部31が係合可能とされるとともに、雌型継手9における矢板側係止部19に対して第2の折り曲げ部33が係合可能となるよう、雌型継手9における開口部57の間隔や嵌入溝59の形状、雄型継手5における第1の折り曲げ部31、第2の折り曲げ部33の位置、長さが調整されている。これによって、雌型継手9と雄型継手5とが互いにずれ動いたとしても、雄型継手5は雌型継手9に対して係止され、雄型継手5が雌型継手9に対して抜け止め状態とされることになり、二つの地中連続壁体用部材1の連結部における連結状態が保持されることになる。
この嵌入溝形成用部材7は、アーム部16の端部17近傍の側面に対して着脱可能に取り付けられている。これら二部材を着脱可能とするための構成の態様は、特に限定するものではないが、例えば、以下に示すようなボルト接合によって具体化される。
嵌入溝形成用部材7には、その長手方向の上部において、図4に示すような、ボルト等の雄ねじ部材25を螺合可能な雌ねじ孔61が形成されており、更に、地中連続壁体用部材1を構成するハット形鋼矢板10には、アーム部16の端部17近傍の側面において、雄ねじ部材25を挿通可能な図示しない複数個の挿通孔が開孔されている。そして、嵌入溝形成用部材7を地中連続壁体用部材1に取り付ける場合には、アーム部16の端部17近傍の側面に開孔された挿通孔と嵌入溝形成用部材7の雌ねじ孔61との位置が合致するように互いに所定位置に位置決めし、この挿通孔と雌ねじ孔61内に雄ねじ部材25を挿通、螺合させることによって取り付けられる。図2は、嵌入溝形成用部材7を地中連続壁体用部材1に対して取り付けた後の状態を示している。なお、嵌入溝形成用部材7を地中連続壁体用部材1から取り外す場合は、この雄ねじ部材25を取り外すことによって可能となる。
因みに、嵌入溝形成用部材7は、雌型継手9を構成するアーム部16の長手方向の上部において着脱可能に取り付けられていることが好ましい。この理由は、以下に説明するように、施工性が向上するためである。即ち、地中連続壁体用部材1によって地中連続壁体3を構築後、嵌入溝形成用部材7を地中から取り除く際に、地中連続壁体用部材1と嵌入溝形成用部材7との連結を解除するために雄ねじ部材25を取り外す必要がある。ここで、これら二部材を連結している雄ねじ部材25が打設後において地面近傍に位置していれば、雄ねじ部材25の取り外し作業が容易となり、施工性の向上に寄与することになる。
図5(a)は、本発明を適用した地中連続壁体用部材1を複数に亘って地中に連続配置して構築される地中連続壁体3の構成を示す平面図である。地中連続壁体3は、互いに隣接する一方の地中連続壁体用部材1における雌型継手9の嵌入溝59内に、互いに隣接する他方の地中連続壁体用部材1における雄型継手5が嵌入されることによって、複数の地中連続壁体用部材1が地中に壁状に設置された状態となって構成されている。
このような地中連続壁体3の構築方法について説明する。
まず、図6に示すように、一つ目の地中連続壁体用部材1を地中に所定深さ打設する。この場合において用いられる地中連続壁体用部材1は、現場運搬前の段階で組立てられたものを用いてもよいし、施工直前に組立てたものを用いてもよい。
次に、図7に示すように、先行して打設された地中連続壁体用部材1における雌型継手9の嵌入溝59内に、後行して打設されるべき他の地中連続壁体用部材1における雄型継手5を、地中連続壁体用部材1の長手方向の上方から嵌入させながら、その後行して打設されるべき他の地中連続壁体用部材1を地中に鉛直下方に向けて打設する。ここで、雌型継手9の嵌入溝59内に雄型継手5を嵌入させた場合、雄型継手5は、雌型継手9に対して係止可能に構成されているため、後行して打設される地中連続壁体用部材1における雄型継手5は、打設時においても雌方継手9に対して係止されながら地中に打設されることになる。そして、これによって、従来の鋼矢板における複雑形状の継手部がない場合でも、互いに隣接配置して打設される二つの地中連続壁体用部材1が、打設時においても離間することなく所定位置に保持されたまま打設され、連続した壁体を構築可能となっている。
そして、先行して打設された地中連続壁体用部材1に対して後行して打設される地中連続壁体用部材1の打設作業が完了後は、図8に示すような状態となる。
なお、上述の例においては、先行して打設された地中連続壁体用部材1における雌型継手9に、後行して打設されるべき地中連続壁体用部材1における雄型継手5を接続させて、その後行して打設されるべき地中連続壁体用部材1を地中に打設する場合を例に説明した。しかし、本発明はこれに限定するものではなく、先行して打設された地中連続壁体用部材1における雄型継手5又は雌型継手9のうちの何れか一方に対して、後行して打設されるべき地中連続壁体用部材1における雄型継手5又は雌型継手9のうちの何れか他方を接続させて、その後行して打設されるべき地中連続壁体用部材1を地中に打設すればよい。
ここで、一般に、鋼矢板における継手部は、打設時、打設後の何れにおいても、連結しようとする二枚の鋼矢板が、その長手方向に直交する面における種々の方向(例えば、アーム部の幅方向や面法線方向)にずれ動かないように、互いに隣接する継手部間を係合させて、所定位置に保持されるようにしている。しかしながら、例えば、土留め壁や擁壁等のように、打設後において鋼矢板の長手方向の全長に亘る範囲の大部分が地中に埋設される場合、壁体を構成する各鋼矢板は継手部間での係合がなくともその周囲の土圧によって地中の所定位置に保持されることになる。このため、後行して打設されるべき地中連続壁体用部材1が、地中に打設された後においては、先行して打設された地中連続壁体用部材1の嵌入溝形成用部材7を地中から引き抜いて取り除くことが望ましい。これによって、後述するように、地中から引き抜いた嵌入溝形成用部材7を、後行して打設されるべき他の地中連続壁体用部材1に取り付けて再度利用可能となる。なお、嵌入溝形成用部材7を取り除かずに、そのまま地中連続壁体3の一部にしたままとしてもよいのは勿論である。
嵌入溝形成用部材7を地中連続壁体用部材1から取り外して地中から取り除く場合、上述のように、雄ねじ部材25を取り外した後、図8に示す矢印の方向(鉛直方向)に向けて嵌入溝形成用部材7を引き抜くという簡単な作業によって行なわれる。このようにして嵌入溝形成用部材7が地中から取り除かれた後の地中連続壁体3は、図5(b)に示すような構成となる。
なお、地中から引き抜いた嵌入溝形成用部材7を再度利用する場合は、次に説明するような手順で行なう。まず、図9(a)に示すように、互いに隣接配置すべき二つの地中連続壁体用部材1の打設後において、先行して打設された地中連続壁体用部材1に取り付けられた嵌入溝形成用部材7を地中から取り除き、これを後行して打設されるべき他の地中連続壁体用部材1aに取り付ける。そして、この嵌入溝形成用部材7が取り付けられた地中連続壁体用部材1aを、既設の地中連続壁体用部材1に対して隣接させて地中に打設させることによって完了する。この場合、嵌入溝形成用部材7を取り外す対象となる地中連続壁体用部材1は、先行して打設されたものであり、雌型継手5の嵌合溝59内に既に他の地中連続壁体用部材1における雄型継手5が嵌入された地中連続壁体用部材1であれば、地中連続壁体3を構成する何れのものでもよい。
また、嵌入溝形成用部材7を地中から引き抜く場合の手段は特に問わないが、例えば、地中連続壁体用部材1の打設完了の直前に、雄ねじ部材25を取り外して嵌入溝形成用部材7を打設せずに地中連続壁体用部材1のみを所定深さに到達するまで打設して、嵌入溝形成腰部材7の雌ねじ孔61を地中から露出させるようにし、その露出させた雌ねじ孔61内にアイボルト等の吊金具をはめ込んだうえでこれを引き抜くようにしてもよい。
なお、地中連続壁体3の構築作業完了後、例えば地中連続壁体3の周囲の地盤変動等により、各地中連続壁体用部材1がばらばらになる場合があるので、これを防止するため、各地中連続壁体用部材1の上部を、コーピング、溶接、ボルト接合、ドリルねじ等によって接合することが好ましい。なお、各地中連続壁体用部材1の上部が互いにずれた状態で配置され、景観性に劣る場合もありえるが、コーピングにより各地中連続壁体用部材1の上部を固着した場合は各地中連続壁体用部材1が外部に露出されないため、この問題点を有利に解決できる。
このように、本発明を適用した地中連続壁体用部材1は、従来の鋼矢板における複雑形状の継手と異なり、非常に簡単な形状の雄型継手5しか鋼矢板に成形されていないにも関わらず、嵌入溝形成用部材7を用いることによって従来の鋼矢板における継手と同様に、打設時において二つの地中連続壁体用部材1の連結状態を維持したまま打設することが可能となっている。
また、本発明を適用した地中連続壁体用部材1は、従来の鋼矢板における複雑形状の継手ではなく、非常に簡単な形状の雄型継手5を鋼矢板に対して成形するのみでよいため、鋼矢板の成形時における圧延ロール負荷を大きく低減可能となっており、製造コストを低減でき、経済性に優れたものとなっている。また、従来の鋼矢板における複雑形状の継手がないため、鋼矢板の各部位の幅や厚み等を小さくしなくとも断面性能をそのまま確保しつつ鋼材重量を削減でき、剛性に対する鋼材の使用効率が向上し、経済性に優れたものとなっている。
また、本発明を適用した地中連続壁体用部材1は、雄型継手5を溶接にて取り付ける必要がないため、溶接時における溶接熱によって鋼矢板そのものの変形を引き起こすことがなく、溶接による鋼矢板そのものの変形を修正する労力を削減可能となる。
また、打設時において、鋼矢板の継手の熱溶着を防止することを目的として、嵌入溝59内の空間を大きくしたとしても、鋼矢板そのものの鋼材重量が増加するわけではないため、鋼矢板の製造コストの増加を招くことなく嵌入溝59内の空間を広くすることができる。これに伴って、本発明を適用した地中連続壁体用部材1は、打設時における抵抗を低減でき、更には、継手部間で生じる摩擦抵抗も低減できることにより継手部間の熱溶着が発生しにくくなり、これによって施工性が大きく向上することになる。
次に、本発明を適用した地中連続壁体用部材1の各構成要素の詳細について説明する。
地中連続壁体用部材1における雄型継手5と雌型継手9の嵌合強度は、上述のように大きく要求されるものではなく、また打設完了後においては嵌入溝形成用部材7を取り除くことになるため、互いに隣接する地中連続壁体用部材1の接続部における止水性の確保や土粒子移動の十分な抑制はできず、打設後における接合状態を単独では維持することができない。このため、地中連続壁体用部材1の適用の対象としては、河川、港湾の護岸壁等のように、前面が水中に面しており、背後地盤の流出を必ず防がなければならないような箇所には不適であり、矢板前背面を地盤で拘束されている盛土法尻や基礎構造、または地上部の継手部を化粧壁で被覆できる土留め壁、宅地擁壁、道路擁壁等のような箇所が挙げられる。
なお、互いに隣接する地中連続壁体用部材1の接続部は透水性を有しているため、例えば、本発明の地中連続壁体3を、河川、湖畔等の岸辺に護岸として構築した場合、地中連続壁体3の前背面側の地下水の自然な流れが遮断されることが無くなる。このため、本発明の地中連続壁体用部材1、地中連続壁体3をあえて河川、湖畔等の護岸として用いてもよく、これにより、生き物の生息の場となっている河川や湖畔等の水辺の生態系と自然環境を保持することが可能となる。
本発明における雄型継手5の形状は、少なくとも雄型継手5を嵌入溝59内に嵌入させた場合において、雄型継手5が雌型継手9に対して係止可能に形成されるように、アーム部15の先端部15aが、アーム部15に対して少なくとも1箇所以上折り曲げられて形成されていればよい。この条件を満たしさえすれば、第1の折り曲げ部31や第2の折り曲げ部33の長さ、各面間の傾斜角等は特に問わない。このため、第1の折り曲げ部31とアーム部15、並びに第2の折り曲げ部33と第1の折り曲げ部31が、それぞれどのような角度で傾斜していてもよいし、図3(a)等に示すように略直交していてもよい。また、ハット形鋼矢板10の成形時における圧延ロール負荷を低減させる必要があるため、第2の折り曲げ部33は、アーム部15に対する第1の折り曲げ部31の折り曲げ方向とは反対方向に向けて折り曲げられて形成されていることが望ましい。
また、雄型継手5の形状として、必ずしも第2の折り曲げ部33は必須の構成要素とはならない。即ち、雄型継手5は、図10(a)に示すように、アーム部15の先端部15aが、そのアーム部15に対して、略直交して又は傾斜して1箇所のみ折り曲げられて形成されていてもよい。この場合においては、雌型継手9の嵌入溝59の形状がこのような雄型継手5の形状に応じて調整される。これにより、更に成形時における圧延ロール負荷を低減することができ、製造コストの低減、経済性の向上に寄与することになる。
雌型継手9の嵌入溝59内の空間の大きさは、打設時における鋼矢板の継手部間で生じる熱溶着を防止するために、雄型継手5を嵌入係止可能となるような範囲で増大させ、雄型継手5の嵌入時において遊嵌状態となるようにするのが好ましい。このように、雄型継手5と雌型継手9との嵌合強度は、特に問うものではない。
嵌入溝形成用部材7の形状は、部材の一部において少なくとも断面凹状に形成され、凹溝が形成されていればよく、上述の実施例のような断面略コ字状の断面形状のほかに、断面半割筒状、断面略台形状、断面略U字状等の形状によって具体化される。
この嵌入溝形成用部材7の材質は、特に限定するものではないが、例えば、金属製、鋼製等によって具体化される。嵌入溝形成用部材7は、地中連続壁体用部材1の打設後において引き抜いて、他の鋼矢板に流用して複数回に亘って使用するため、強度、剛性を兼ね備えた鋼製であることが好ましい。また、複数回に亘って使用しても、曲げや反り、ねじりが発生しないよう、板厚を厚くすることによって、強度、剛性を増加させてもよい。この嵌入溝形成用部材7の成形方法も特に限定するものではなく、熱間圧延、押し出し成形、冷間圧延による製造や、鋼板等の製造後にこれをロール曲げ加工、プレス加工等をして成形してもよい。
また、嵌入溝形成用部材7は、使用箇所によっては、十分な板厚を確保できず、雌ねじ孔61を開孔することができない場合がある。この場合は、図10(b)に示すように、嵌入溝形成用部材7の一方の側壁部53に対して略直交して設けられる平板状の接合部65を更に設け、これをアーム部16側面に当接させ、この接合部65に図示しない雌ねじ孔61を開孔させるようにしてもよい。これによって、確実に嵌入溝形成用部材7をアーム部16に対して連結可能となる。
次に、本発明における地中連続壁体腰部材1に適用される他の構成について説明する。
嵌入溝形成用部材7をハット形鋼矢板10における他方のアーム部16に対して連結させる場合、上述のようにアーム部16をハット形鋼矢板10の長手方向の上部においてのみ連結する可能性がある。この場合、地中連続壁体用部材1の地中打設時において嵌入溝形成用部材7と地中連続壁体用部材1との下部の相対的な位置ずれが大きくなり、地中連続壁体用部材1を正確に地中に打設しにくくなる可能性がある。このため、以下のような構成を適用するようにしてもよい。
まず、図4に示すように、嵌入溝形成用部材7の長手方向の下部において、下方に向けて突出された第2の突出片63を設ける。そして、図11(a)に示すように、挿通孔24を有する環状部材23を、アーム部16の長手方向の下部に固着させる。そして、図12に示すように、この嵌入溝形成用部材7における第2の突出片63を、地中連続壁体用部材1における環状部材23の挿通孔24内に挿通させた状態で、嵌入溝形成用部材7を地中連続壁体用部材1における他方のアーム部16に取り付ける。これによって、嵌入溝形成用部材7と地中連続壁体用部材1とがその下部において連結され、打設時における相対的な位置ずれを低減させることが可能となる。
なお、ここで用いられる環状部材23は、その材質を特に問うものではないが、打設時における土圧等に対して抵抗可能となるように、鋼製材料であることが好ましい。また、この環状部材23は、溶接等によってアーム部15に対して固着されることになる。また、この環状部材23における挿通孔24は、第2の突出片63を挿通可能となるようにその大きさ等が予め調整されており、その大きさは特に問うものではない。
地中連続壁体用部材1の打設後においても、地震等による地中連続壁体3周囲の地盤変動により、地中連続壁体3を構成する地中連続壁体用部材1の下部が大きく位置ずれする可能性がある。このため、これを防止するために、図11(b)に示すように、下方に向けて突設された第1の突出片21を、雄型継手5を構成するアーム部15の下部に設けるようにしてもよい。この場合においては、図13に示すように、互いに隣接配置された一方の地中連続壁体用部材1における環状部材23の挿通孔24内に、互いに隣接配置された他方の地中連続壁体用部材1における第1の突出片21が挿通されることになる。このように、互いに連結すべき一の地中連続壁体用部材1における第1の突出片21は、互いに連結すべき他の地中連続壁体用部材1における環状部材23の挿通孔24内に挿通可能とされるよう、その設けられる位置等が予め調整されている。
そして、これによって、打設後においても、互いに隣接配置された二つの地中連続壁体用部材1がその下部において連結されることになり、地盤変動等が発生しても相対的な位置ずれを低減させることが可能となる。因みに、ハット形鋼矢板10における第1の突出片21と嵌入溝形成用部材7における第2の突出片63とは、何れも一つの環状部材23の挿通孔24内に挿通されるようにしてもよいし、それぞれ別個の環状部材23の挿通孔24内に挿通されるようにしてもよい。
また、本発明においては、図14(a)に示すように、地中連続壁体用部材を構成するハット型鋼矢板10におけるそれぞれのアーム部15、16の端部に、雌型継手9のみが設けられた地中連続壁体用部材1Aを用いるようにしてもよい。この場合、図14(b)に示すように、他の地中連続壁体用部材1として、地中連続壁体用部材を構成するハット形鋼矢板10におけるそれぞれのアーム部15、16の端部に、雄型継手5のみが設けられた地中連続壁体用部材1Bも必要である。即ち、本発明における地中連続壁体用部材は、嵌入溝形成用部材7と嵌入溝59とを有する雌型継手9をそれぞれのアーム部15、16の端部において備える地中連続壁体用部材1Aと、第1の折り曲げ部31と第2の折り曲げ部33とを有する雄型継手5を、それぞれのアーム部15、16の端部において備える地中連続壁体用部材1Bとが含まれることになる。なお、第2の折り曲げ部33は、上述したように省略してもよい。
本発明においては、このような、それぞれのアーム部15、16において雌型継手9を備える地中連続壁体用部材1Aと、それぞれのアーム部15、16において雄型継手5を備える地中連続壁体用部材1Bとを、交互に地中に連続配置することによって、図14(c)に示すような、地中連続壁体3を構築することが可能となる。この場合は、互いに隣接配置すべき地中連続壁体用部材1Aにおける雌型継手9の嵌入溝59内に、互いに隣接配置すべき地中連続壁体用部材1Bにおける雄型継手5を嵌入させながら、その地中連続壁体用部材1Bを地中に打設することになる。
このように、本発明においては、地中連続壁体腰部材を構成する鋼矢板10に対して、一つの雄型継手5と一つの雌型継手9とからなる一組の継手を設ける必要はなく、それぞれのアーム部15、16の端部に、雄型継手5又は雌型継手9のうちの何れか一方のみを設けるようにしてもよい。この場合は、雄型継手5又は雌型継手9のうちの何れか他方のみをそれぞれのアーム部15、16の端部に設けられた他の地中連続壁体用部材と、互いに接続可能とされることになる。
このような地中連続壁体用部材1A、1Bを用いた場合においても、非常に簡単な形状の雄型継手5しか鋼矢板に成形されていないにも関わらず、従来の鋼矢板における継手と同様に、地中連続壁体の構築が可能となっており、また、簡単な形状の雄型継手を成形するのみでよいことによる製造コストの低減を図ることができ、更には、打設時における抵抗を低減できるという所期の効果を奏することとなる。
第2の実施の形態
本発明の適用の対象となる鋼矢板は、第1の実施の形態において説明した断面略ハット形のハット形鋼矢板10に限らず、種々の断面形状の鋼矢板に対して適用できる。以下、他の鋼矢板に対して本発明を適用した例について説明する。なお、第1の実施の形態における地中連続壁体用部材1の構成と同一の構成については、同一の符号を付すとともに、その説明を省略する。
図15(a)は、本発明を適用した地中連続壁体用部材1Cの構成を示している。地中連続壁体腰部材1Cは、ウエブ部71の両側にアーム部73、74を有するU字形鋼矢板70から構成されるものである。
地中連続壁体用部材1Cを構成するU字形鋼矢板70は、図15(b)に示すように、U時形鋼矢板70の幅方向の中央部に位置するウエブ部71と、ウエブ部71の両側に設けられるアーム部73、74とを備えており、断面形状が略U字形の形状に構成される。一方のアーム部73の端部には、第1の実施の形態において説明した雄型継手5が形成される。また、他方のアーム部74には、何も連設されておらず平板状の形状を呈しており、これに嵌入溝形成用部材7を着脱可能に取り付けることによって、雌型継手9が形成される。このように、雌型継手9は、嵌入溝形成用部材7と、嵌入溝59とを少なくとも備えるものである。
図16(a)は、この地中連続壁体用部材1Cを複数に亘って地中に連続配置して構築される地中連続壁体3Aの構成を示している。この地中連続壁体3Aにおいても、互いに隣接する一方の地中連続壁体用部材1Cにおける嵌入溝59内に、互いに隣接する他方の地中連続壁体用部材1Cにおける雄型継手5が嵌入されることによって、複数の地中連続壁体用部材1Cが地中に壁状に設置された状態となって構成される。また、この地中連続壁体3Aを構成する地中連続壁体用部材1Cから嵌入溝形成用部材7を取り外し、これを地中から取り除いた後の地中連続壁体3Aは、図16(b)に示すような状態となる。
このU字形鋼矢板70を用いた地中連続壁体用部材1Cによって構築された地中連続壁体3Aは、中立軸L1近傍に位置する各アーム部73、74の端部の形状が、鋼材重量の少ない簡単な形状から構成されている。このため、壁体の下部が支持層に打ち込まれ強固に地盤に拘束されており、壁体上部でコーピング等によって隣接する地中連続壁体用部材1C同士が連結されている場合などであって、この壁体の中立軸がL1近傍に位置する場合には、曲げ剛性に対する鋼材使用効率に優れ、経済的に優れたものとなっている。また、地中連続壁体用部材3Aは、上述したような所期の効果を奏するものである。
また、本発明においてU字形鋼矢板70を用いた場合においても、図17(a)に示すように、地中連続壁体用部材を構成するU字形鋼矢板70におけるそれぞれのアーム部73、74の端部に、雌型継手9のみが設けられた地中連続壁体用部材1Dを用いるようにしてもよい。また、本発明においては、図17(b)に示すように、地中連続壁体用部材を構成するU字形鋼矢板70におけるそれぞれのアーム部73、74の端部に、雄型継手5のみが設けられた地中連続壁体用部材1Eを用いるようにしてもよい。また、本発明においては、このような、それぞれのアーム部73、74において雌型継手9を備える地中連続壁体用部材1Dと、それぞれのアーム部73、74において雄型継手5を備える地中連続壁体腰部材1Eとを、交互に地中に連続配置することによって、図17(c)に示すような、地中連続壁体3Aを構築してもよい。この場合においても、上述したような所期の効果を奏する。
第3の実施の形態
図18(a)は、本発明を適用した地中連続壁体用部材1Fの構成を示している。地中連続壁体用部材1Fは、ウエブ部81の両側にアーム部83、84を有するZ字形鋼矢板80から構成されるものである。
地中連続壁体用部材1Fを構成するZ字形鋼矢板80は、図18(b)に示すように、Z字形鋼矢板80の幅方向の中央部に位置するウエブ部81と、ウエブ部81の両側に設けられるアーム部83、84とを備えており、断面形状が略Z字形の形状に構成される。一方のアーム部83の端部には、第1の実施の形態において説明した雄型継手5が形成される。また、他方のアーム部84には、何も連設されておらず平板状の形状を呈しており、これに嵌入溝形成用部材7を着脱可能に取り付けることによって雌型継手9が形成される。このように、雌型継手9は、嵌入溝形成用部材7と、嵌入溝59とを少なくとも備える。
図19(a)は、この地中連続壁体用部材1Fを複数に亘って地中に連続配置して構築される地中連続壁体3Bの構成を示している。この地中連続壁体3Bにおいても、互いに隣接する一方の地中連続壁体用部材1Fにおける嵌入溝59内に、互いに隣接する他方の地中連続壁体用部材1Fにおける雄型継手5が嵌入されることによって、複数の地中連続壁体用部材1Fが壁状に設置された状態となって構成される。因みに、この地中連続壁体3Bにおいては、互いに隣接する地中連続壁体用部材1Fの平面的な配置形状が、ウエブ部81の中央部を中心として略鏡像対称をなすように予め調整されている。また、この地中連続壁体用部材1Fから嵌入溝形成用部材7を取り外し、これを地中から取り除いた後の地中連続壁体3Bは、図19(b)に示すような状態となる。
図19(c)は、この地中連続壁体用部材1Fを複数に亘って地中に連続配置して構築される地中連続壁体3Cの構成を示している。この地中連続壁体3Cにおいては、上述の地中連続壁体3Bと異なり、互いに隣接する地中連続壁体用部材1Fの平面的な配置形状が同一の形状から構成されている。また、この地中連続壁体3Cを構成する地中連続壁体用部材1Fから嵌入溝形成用部材7を取り外し、これを地中から取り除いた後の地中連続壁体3Cは、図19(d)に示すような状態となる。
このように、Z字形鋼矢板80を用いた場合も同様に、従来の鋼矢板における複雑形状の継手を用いることなく地中連続壁体3B、3Cを構築可能となっており、上述したような所期の効果を奏する。
また、本発明においてZ字形鋼矢板80を用いた場合においても、図20(a)に示すように、地中連続壁体用部材を構成するZ字形鋼矢板80におけるそれぞれのアーム部83、84の端部に、雌型継手9のみが設けられた地中連続壁体用部材1Gを用いるようにしてもよい。また、本発明においては、図20(b)に示すように、地中連続壁体用部材を構成するZ字形鋼矢板80におけるそれぞれのアーム部83、84の端部に、雄型継手5のみが設けられた地中連続壁体用部材1Hを用いるようにしてもよい。
また、このような、それぞれのアーム部83、84において雌型継手9を備える地中連続壁体用部材1Gと、それぞれのアーム部83、84において雄型継手5を備える地中連続壁体用部材1Hとを、交互に地中に連続配置することによって、図20(c)に示すような、地中連続壁体3Bを構築するようにしてもよい。この場合においては、互いに隣接する地中連続壁体用部材1Gと地中連続壁体用部材1Hとの平面的な配置形状が、ウエブ部81の中央部を中心として略鏡像対称をなすように予め調整されていることになる。
また、それぞれのアーム部83、84において雌型継手9を備える地中連続壁体用部材1Gと、それぞれのアーム部83、84において雄型継手5を備える地中連続壁体用部材1Hとを、交互に地中に連続配置することによって、図20(d)に示すような、地中連続壁体3Cを構築するようにしてもよい。この場合においては、互いに隣接する地中連続壁体用部材1Gと地中連続壁体用部材1Hとの平面的な配置形状を略同一の形状をなすように予め調整されていることになる。この場合においても、上述のような所期の効果を奏する。
第4の実施の形態
図21(a)は、本発明を適用した地中連続壁体用部材1Dの構成を示している。地中連続壁体用部材1Iは、ウエブ部91とウエブ部91の両側に固着された互いに略平行なアーム部93とからなるH字形鋼矢板90によって構成されるものである。
地中連続壁体用部材1Iを構成するH字形鋼矢板90は、図21(b)に示すように、平板状のウエブ部91の両側に、互いに略平行な平板状のアーム部93、94の中間部が固着されて、断面形状が略H字形の形状に構成される。なお、本発明におけるアーム部93、94は、通常フランジ部として機能するものであるが、本発明においてはこれをアーム部として定義する。各アーム部93、94の一方の端部には、第1の実施の形態において説明した雄型継手5が形成される。また、各アーム部93、94の他方の端部には、何も連設されておらず、これに嵌入溝形成用部材7を着脱可能に取り付けることによって雌型継手9が形成される。このように、雌型継手9は、嵌入溝形成用部材7と、嵌入溝59とを少なくとも備える。
図22(a)は、この地中連続壁体用部材1Iを複数に亘って地中に連続配置して構築される地中連続壁体3Dの構成を示している。この地中連続壁体3Dにおいては、互いに隣接する一方の地中連続壁体用部材1Iの各アーム部93、94における嵌入溝59内に、互いに隣接する他方の地中連続壁体用部材1Iにおける雄型継手5が嵌入されることによって、複数の地中連続壁体用部材1Iが壁状に設置された状態となって構成される。また、この地中連続壁体3Dを構成する地中連続壁体用部材1Iから嵌入溝形成用部材7を取り外し、これを地中から取り除いた後の地中連続壁体3Dは、図22(b)に示すような状態となる。
また、雄型継手5や雌型継手9は、ウエブ部91の両側の各アーム部93、94に常に設ける必要はなく、図21(c)、図21(d)に示すように、何れか一方のアーム部93、94に設けるようにしてもよい。図21(c)、図21(d)に示される地中連続壁体用部材1Jは、一方のアーム部93の一方の先端部に雄型継手5が形成され、その一方のアーム部93の他方の端部に嵌入溝形成用部材7を着脱可能に取り付けることによって雌型継手9が形成されている。
図22(c)は、この地中連続壁体用部材1Jを複数に亘って地中に連続配置して構築される地中連続壁体3Eの構成を示している。そして、図22(d)は、この地中連続壁体3Eから、地中連続壁体3Eを構成する地中連続壁体用部材1Jから嵌入溝形成用部材7を取り外した状態を示す。
このように、H字形鋼矢板90を用いた場合も同様に、従来の鋼矢板における複雑形状の継手を用いることなく地中連続壁体3D、3Eを構築可能となっており、上述したような所期の効果を奏する。
なお、地中連続壁体用部材1Iを用いる場合、互いに略平行なアーム部93、94の両端部に雄型継手5、雌型継手9を設ける必要があり、打設時においてはそれぞれの雄型継手5、他の雌型継手9が嵌入されることになる。ここで、各アーム部93、94の雄型継手5に嵌入される雌型継手9の嵌入状態がある程度同一の状態となる必要がある。このため、地中連続壁体用部材1Iは、そのアーム部93、94に設けられる雄型継手5、雌型継手9について高い位置決め精度が望まれるが、打設時において接合部が二箇所となるため、打設時における連結状態を一層安定させて打設することが可能となる。また、地中連続壁体用部材1Jを用いる場合、そのアーム部93、94に設けられる雄型継手5、雌型継手9については高い位置決め精度が必要とされず、その分において打設労力の負担の軽減を図ることが可能となる。
また、本発明においてH字形鋼矢板90を用いた場合においても、図23(a)に示すように、地中連続壁体用部材を構成するH字形鋼矢板90におけるアーム部93、94のそれぞれの端部に、雌型継手9のみが設けられた地中連続壁体用部材1Kを用いるようにしてもよい。また、本発明においては、図23(b)に示すように、地中連続壁体用部材を構成するH字形鋼矢板90におけるアーム部93、94のそれぞれの端部に、雄型継手5のみが設けられた地中連続壁体用部材1Lを用いるようにしてもよい。また、このような、アーム部93、94のそれぞれの端部において雌型継手9を備える地中連続壁体用部材1Kと、アーム部73、74のそれぞれの端部において雄型継手5を備える地中連続壁体用部材1Lとを、交互に地中に連続配置することによって、図23(c)に示すような、地中連続壁体3Dを構築するようにしてもよい。この場合においても、上述したような所期の効果を奏する。また、上述したように、何れか一方のアーム部93、94のそれぞれの端部にのみ、二つ一組の雄型継手5、又は雌型継手9を設けるようにしてもよいのは勿論である。