近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
マイクロチップはその内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば、液体試薬を保持する液体試薬保持部、検査・分析の対象となる検体(血液など)あるいは検体中の特定成分や液体試薬を計量するための計量部、検体(あるいは検体中の特定成分)と液体試薬とを混合する混合部、混合液について検査・分析を行なうための検出部などの各部と、これら各部を適切に接続する微細な流路とから構成することができる。
このような流体回路を有するマイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm角で厚さ数mm〜1cm程度のチップ内で行なえることから、検体および液体試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有し、たとえば血液検査などの生化学検査用として好適に用いられている。
ここで、たとえば血液検査用マイクロチップなどにおいては、血液中の血漿成分を用いて各種検査が行なわれることが多いことから、通常、マイクロチップの流体回路は、流体回路内に導入された血液から、遠心分離により血球成分を取り除き、血漿成分を分離、抽出するための血漿分離部(遠心分離部)を備える。
特許文献1には、流体回路内に導入された試料から対象成分を取り出すための遠心分離管を備えるマイクロチップが開示されている。図5〜10は、特許文献1に記載のマイクロチップの動作方法を示す概略工程図である。図5〜10に示されるマイクロチップの流体回路は、試料を流体回路内に導入するための取込口105、取込口105に接続された遠心分離管201、調整管接続部241aおよび溜部241bからなる調整管241、取り出された対象成分を計量するための第1秤量部205、試薬550が内蔵された試薬溜219a、219b、対象成分と試薬550との混合が行なわれる1次混合部217および2次混合部220、ならびに、得られた混合液について検査・分析を行なうための光検出路230から主に構成されており、遠心分離管201は、対象成分以外の成分(非対象成分)を主に収容するための第1保持部203を有している(図5参照)。以下、図5〜10を参照して、このマイクロチップの動作方法の概略を示す。
まず、取込口105から、遠心分離管201と調整管接続部241aとが満たされるように試料500を導入する(図5参照)。次に、第1回転軸310を中心としてマイクロチップを回転させることにより、境界B−B’より遠心分離管201側の試料500を遠心分離管201内で遠心分離する(図6参照)。この際、試料500中の対象成分510以外の非対象成分520は、第1保持部203内に収容される。境界B−B’より調整管241側の試料500は、溜部241bに導入される。また、この第1回転軸310を中心とする回転により、試薬溜219aおよび219bに収容されていた試薬550は、1次混合部217に導入される。
次に、第2回転軸311を中心としてマイクロチップを回転させることにより、遠心分離された対象成分510を遠心分離管201から第1秤量部205に導入する(図7参照)。第1秤量部205から溢れた対象成分510は、第1秤量部205に接続された廃液溜207に導入される。ついで、再度、第1回転軸310を中心としてマイクロチップを回転させることにより、第1秤量部205内の対象成分510を1次混合部217に導入し、試薬550と混合させる(図8参照)。
次に、吸引口230aからポンプで吸引することにより、得られた混合物質560を2次混合部220に導入し、さらに混合するとともに(図9参照)、混合物質560を光検出路230に導入する(図10参照)。光検出路230に導入された混合物質560は、光導入口233から光を導入し、光導出口235から取り出された透過光の透過量を測定するなどの光学測定に供されて、検査・分析が行なわれる。
以上のように、特許文献1に記載のマイクロチップによれば、第1回転軸310および第2回転軸311の2つの回転軸を用いてマイクロチップを回転させ、適切な方向の遠心力を印加することにより、試料中の対象成分の抽出、対象成分の計量、試薬との混合などの処理を行なうことが可能である。
しかし、特許文献1に記載のマイクロチップでは、対象成分510を計量するために第2回転軸311を中心としてマイクロチップを回転させた場合や、混合物質560を光検出路230に導入するために第2回転軸311を中心としてマイクロチップを回転させた場合に、第1保持部203内に保持されていた非対象成分520や対象成分510が流出する可能性があった。このような第1保持部203からの流出は、対象成分510の正確な計量を妨げる等の理由から、正確な検査・分析を阻害する要因となり得る。
また、第1回転軸310を中心としてマイクロチップを回転させて、流体回路内に導入された試料500を第1保持部203に導入する際、第1保持部203内に気体(空気)が入り込み、該気体が排出されることなく、残存してしまう可能性があった。第1保持部203内に気体が残存すると、第1秤量部205を満たすのに十分な量の対象成分510が第1秤量部205に導入されない可能性があり、このこともまた、正確な検査・分析を阻害し得る。
国際公開第05/033666号パンフレット
本発明のマイクロチップは、1つの好ましい態様において、基板表面に溝を備える第1の基板と、第2の基板とを貼り合わせてなる。かかるマイクロチップは、その内部に、第1の基板表面に設けられた溝と第2の基板における第1の基板側表面(第2の基板の貼り合わせ面)とから構成される空洞部からなる流体回路を備える。また、本発明のマイクロチップは、別の好ましい態様において、第3の基板と、基板の両面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とをこの順で貼り合わせてなる。かかる3枚の基板からなるマイクロチップは、第3の基板における第1の基板側表面(第3の基板の貼り合わせ面)および第1の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、第2の基板における第1の基板側表面(第2の基板の貼り合わせ面)および第1の基板における第2の基板側表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路と、の2層の流体回路を備えている。ここで、2層とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。第1の流体回路と第2の流体回路とは、第1の基板に形成された厚み方向に貫通する1または2以上の貫通穴によって連結されていてもよい。
本発明のマイクロチップを構成する各基板の材質は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの有機材料;シリコン、ガラス、石英などの無機材料等を用いることができる。
第1の基板表面に、流体回路を構成する溝を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。無機材料を用いて基板を形成する場合には、エッチング法などを用いることができる。
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路(2層の流体回路を備える場合には、第1の流体回路および第2の流体回路)は、流体回路内の流体(特には、液体)に対して適切な様々な処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位を備えており、これらの部位は、微細な流路を介して適切に接続されている。
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路は、上記部位の1つとして、マイクロチップ内に導入された検体を、遠心分離により対象成分と非対象成分とに分離するための遠心分離部を備える。ここで、本明細書中において「検体」とは、流体回路内に導入される検査・分析の対象となる物質(たとえば血液)を意味する。また、本明細書中において「対象成分」とは、マイクロチップ内で調製される、検査・分析に供される試料を構成する検体中の特定成分を意味し、典型的には、マイクロチップ内にあらかじめ保持されていた液体試薬と混合または反応される検体中の特定成分である。また、「非対象成分」とは、検体中の「対象成分」以外の成分をいう。検体が血液である場合、対象成分としては、血漿成分を挙げることができ、非対象成分としては、血球成分を挙げることができる。
本発明のマイクロチップは、検体導入口を有しており、当該検体導入口を通して流体回路内に検体が導入される。検体導入口は、マイクロチップ表面から流体回路まで貫通する貫通口として構成することができる。具体的には、マイクロチップが上記基板表面に溝を備える第1の基板と第2の基板とから構成される場合、検体導入口は、当該第1の基板を厚み方向に貫通する貫通する貫通口とすることができる。また、マイクロチップが第3の基板と、基板の両面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とをこの順で貼り合わせてなる場合、検体導入口は、当該第3の基板(または第1の基板)を厚み方向に貫通する貫通口とすることができる。上記遠心分離部は、当該検体導入口と流路を介して接続されており、検体導入口から注入された検体を遠心分離部に導入可能となっている。
本発明において流体回路は、遠心分離部以外の部位を備えていてもよく、かかる部位としては、たとえば液体試薬を保持するための液体試薬保持部、対象成分を計量するための対象成分計量部、液体試薬を計量するための液体試薬計量部、対象成分と液体試薬とを混合するための混合部、得られた混合液(上記した検査・分析に供される試料)についての検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための検出部などを挙げることができる。本発明のマイクロチップは、これら例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。
なお、「液体試薬」とは、上記対象成分と混合または反応させるための物質(試薬)であり、通常、マイクロチップ使用前にあらかじめ流体回路の液体試薬保持部に内蔵されている。対象成分と液体試薬とを混合させることによって最終的に得られた混合液は、特に限定されないが、たとえば、該混合液が収容された部位(たとえば検出部)に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法等の光学測定などに供され、検査・分析が行なわれる。
検体からの対象成分の抽出(対象成分と非対象成分との分離)、対象成分および/または液体試薬の計量、対象成分と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、典型的には、マイクロチップを、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なわれる。以下、本発明のマイクロチップを実施の形態を示してより詳細に説明する。
図1は、本発明のマイクロチップの好ましい一例を示す概略上面図である。図1に示されるマイクロチップは、表面上に流体回路を構成する溝および厚み方向に貫通する貫通穴を備えた第1の基板の溝形成側表面に第2の基板を貼り合わせて作製されている。図1は、かかるマイクロチップの第1の基板側表面を示す上面図となっている。実際には、流体回路を構成する溝は、第1の基板における図1に示される表面とは反対側表面(第2の基板との貼り合わせ面)に形成されているが、流体回路構造を明確に把握できるよう、溝のパターンを実線で示している。
マイクロチップの内部に形成された流体回路は、検体を流体回路内に導入するための検体導入口601に接続された、検体を対象成分と非対象成分とに分離するための遠心分離部602、遠心分離部602の第1の開口602aに接続された、対象成分を計量するための対象成分計量部603、計量時に対象成分計量部603から溢れた対象成分を収容するための第2の廃液溜め607、液体試薬A(図示せず)、液体試薬B(図示せず)をそれぞれ保持する液体試薬保持部604a、604b、計量された対象成分と液体試薬AおよびBとを混合するための混合部605、および、混合部605にて得られた混合液について検査・分析を行なうための検出部606から主に構成される。検体導入口601は、第1の基板を厚み方向に貫通する貫通口となっている。
遠心分離部602は、検体を導入するための第1の開口602aを上部(検体導入口601側)に備え、図1における下向きの遠心力(あるいは少なくとも下向き成分を含む方向の遠心力)の印加による遠心分離により分離される対象成分を収容するための第1の収容部610と、その一端が第1の収容部610の底部(第1の開口602a側とは反対側)に接続される第1の流路641と、第1の流路の他端に接続され、上記遠心分離により分離された非対象成分を主に収容するための第2の収容部620と、その一端が第1の流路641と第2の収容部620との接続位置に接続され、その他端が検体導入口601と遠心分離部602とを接続する流路に接続される気体導入路600と、第1の廃液溜め630と、第2の収容部620と第1の廃液溜め630とを接続する第2の流路640とから構成される。
第2の収容部620は、その上部(検体導入口601側)における第1の廃液溜め630とは反対側の領域で第1の収容部610の底部と、第1の流路641を介して連結されるとともに、その上部(検体導入口601側)における第1の廃液溜め630側の領域に第2の開口620aを有し、第1の流路640の一端は、当該第2の開口620aに連結されている。
気体導入路600は、その一端が第1の流路641と第2の収容部620との接続位置に接続され、その他端が検体導入口601と遠心分離部602とを接続する流路に接続されている。これにより、検体導入口601を通して、気体(空気)を当該接続位置に導入可能となっている。
第1の廃液溜め630には、第1の空気穴650が接続されており、液体(検体および第2の収容部に収容された分離液など)が第1の廃液溜め630に流入する際に、気体(空気)を逃がし、該液体の流入が円滑に行なわれるような構成となっている。同様に、第2の廃液溜め607および検出部606にも、それぞれ第2の空気穴651、第3の空気穴652が設けられている。これらの空気穴は、第1の基板を厚み方向に貫通する貫通穴である。また、液体試薬保持部604aおよび604bに設けられた液体試薬注入口660aおよび660bも、第1の基板を厚み方向に貫通する貫通穴となっており、該液体試薬注入口660aおよび660bを介して液体試薬A、Bをそれぞれ注入し、あらかじめ液体試薬を内蔵させておく。
上記遠心分離部602のような構成によれば、遠心分離により分離され、第2の収容部620に収容された非対象成分(たとえば血球成分。ただし、第2の収容部620に収容される液体は、非対象成分とともに、一部の対象成分を含み得る。)が、分離された第1の収容部610内の対象成分を対象成分計量部603に導入するための遠心力などの、その後の遠心力の印加により第1の収容部610方向へ流出することを防ぐことができる。すなわち、遠心分離より分離され、第1の収容部610内に収容された対象成分を対象成分計量部603に導入するための遠心力(図1における左向きの遠心力)を印加すると、第2の収容部620内に収容された非対象成分を含む分離液は、第1の収容部610方向ではなく、第2の流路640を通って第1の廃液溜め630に導入されることとなるため、当該非対象成分を含む分離液が対象成分計量部603の方向(すなわち、第1の収容部610方向)へ流出してしまうことを防止できる。
また、検体を導入するための第1の開口602aとは別に、第2の開口620aを備えることから、検体を遠心分離部602に導入する際、遠心分離部602内の気体(空気)を、第1の廃液溜め630の方向へ逃がすことが可能となるため、気体(空気)が遠心分離部602に残存するのを防止することができる。これにより、対象成分計量部603を満たすのに十分な量の対象成分を確実に抽出することが可能となる。
さらに、第1の流路641と第2の収容部620との接続位置に気体導入路600を接続することにより、当該接続位置に気体(空気)が導入可能となるため、図1における左向きの遠心力を印加して対象成分を対象成分計量部603に導入する際、第1の収容部610内の対象成分が、第2の収容部620内の液体に表面張力によって引っ張られて第2の収容部620の方へ流出してしまうことを防止することが可能となる。これにより、対象成分計量部603を満たすのに十分な量の対象成分を対象成分計量部603へ確実に導入することができる。
ここで、第2の収容部620と第1の廃液溜め630とを接続する第2の流路640は、第2の収容部620の第2の開口620aから、図1における上方向に延び(すなわち、第1の収容部610と第2の流路640とが、第2の収容部620に対して同じ側に配置される)、第1の収容部610と第1の流路641と第2の収容部620と第2の流路640とが、略U字状の形状を構成することが好ましい。このような形状とすることにより、遠心分離部602に検体を導入する際、第2の収容部620内に気体が残存してしまうことを防止できる。
また、対象成分計量部603と第1の廃液溜め630とは、第1の収容部610および第2の収容部620に対して同じ側に配置されることが好ましい。図1に示される例においては、対象成分計量部603および第1の廃液溜め630は、いずれも第1の収容部610および第2の収容部620に対して、図1における左側に配置されている。かかる構成によれば、遠心分離された第1の収容部610内の対象成分を対象成分計量部603に導入するための遠心力(図1における左向きの遠心力)を印加することにより、該対象成分を対象成分計量部603に導入することができるとともに、第2の収容部620内の非対象成分を含む分離液を、第1の廃液溜め630に導入することが可能となる。この際、第2の流路640は、図1における左向きの遠心力の印加により、非対象成分を含む分離液を第1の廃液溜め630に導入できるよう、第2の開口620aから図1における真上方向に延びるのではなく、幾分、図1における左向きに傾斜して延びていることが好ましい。
上記のように、対象成分計量部603と第1の廃液溜め630とは、第1の収容部610および第2の収容部620に対して同じ側に配置される場合、気体導入路600は、第1の収容部610および第2の収容部620に対して、対象成分計量部603および第1の廃液溜め630が配置される側とは反対側に配置されることが好ましい。図1に示される例においては、気体導入路600は、第1の収容部610および第2の収容部620に対して、図1における右側に配置されている。かかる構成によれば、遠心分離された第1の収容部610内の対象成分を対象成分計量部603に導入するための遠心力(図1における左向きの遠心力)を印加した際、分離された第2の収容部620内の分離液が気体導入路600に逆流することを防止できる。
図2は、図1に示されるマイクロチップの遠心分離部602を一部拡大して示す上面図である。第1の収容部610の底部と第2の収容部620上部右端とは、第1の流路641によって接続されており、第1の流路641と第2の収容部620との接続位置に気体導入路600の一端が接続されている。図2に示されるように、第1の流路641の幅W1を気体導入路600の幅W2より小さくすると、第1の収容部610に収容された対象成分を対象成分計量部603に導入するために図2における左向きの遠心力を印加した際、気体導入路600内に充填された対象成分が優先して第2の収容部620へ移動し、気体導入路600内に充填された対象成分が尽きると、第1の流路641と第2の収容部620との接続位置に気体(空気)が介在して、第1の収容部610内の対象成分と、第2の収容部620内の分離液とが分断されることとなるため、第1の収容部610内の対象成分の第2の収容部620方向への流出がより効果的に防止される。
なお、このような効果を得るために、第1の流路641の深さを気体導入路600の深さより小さくしてもよい。この場合、第1の流路641の幅W1と気体導入路600の幅W2とは、上記関係を有していてもよく、あるいは同程度の幅であってもよい。
一方、第1の収容部610上部の第1の開口602aは、検体を遠心分離部602に導入するための導入口であるとともに、遠心分離により分離された対象成分を対象成分計量部603に導入するための排出口でもあることから、その幅は比較的広いことが好ましく、たとえば500〜5000μm程度とすることができる。したがって、典型的には、第1の収容部610の形状は、逆三角形のような形状を採る。
第2の収容部620の形状は、特に制限されるものではないが、第2の収容部620を構成する溝底面(したがって流体回路の深さ)に傾斜を設けて(図1および2における2本の点線に挟まれる領域)、当該傾斜領域より底部側の領域における溝の深さをより深くすることが好ましい。これにより、小さい面積で多くの量の分離液を収容することができる。第2の開口620aの位置も、特に制限されないが、その上部(検体導入口601側)に設けられることが好ましい。また、たとえば図1に示されるように、第1の廃液溜め630が、第2の収容部620に対して左側に配置される場合には、第2の開口620aは、第2の収容部620上部の左端に設けられることが好ましい。これは、第2の収容部620内に収容された分離液を第1の廃液溜め630に効率よく送液できるようにするためである。
図1に示されるマイクロチップにおいて気体導入路600の他端は、第1の流路641と第2の収容部620との接続位置に気体を導入するために、検体導入口601と遠心分離部602とを接続する流路を介して検体導入口601に接続されているが、これに限定されるものではなく、別途設けられた貫通口に接続されていてもよい。
次に、図1に示されるマイクロチップの遠心分離部602における分離処理について、図3〜4を参照しながら説明する。図3および4は、図1に示されるマイクロチップの遠心分離部602における分離処理を説明するための上面図である。図1に示されるマイクロチップを用いた流体処理においては、まず、図3に示されるように、検体導入口601(図3において図示せず)から検体(血液など)を流体回路内に導入した後、図3における下向きの遠心力をマイクロチップに印加することにより、検体を第1の開口602aから遠心分離部602内に導入し、さらに当該下向きの遠心力を印加して、対象成分I(たとえば血漿成分)と非対象成分II(たとえば血球成分)とに遠心分離する。なお、対象成分Iと非対象成分IIとの界面位置は、検体中の非対象成分の量に応じて変化し得るが、少なくとも該界面が第2の収容部620内に位置するように、第2の収容部620の容積を調整しておく。たとえば、検体がヒトの血液であり、非対象成分IIが血球成分である場合には、ヒトの血液のヘマトクリット値は概して35〜50%程度であるため、この点を考慮して第2の収容部620の容積を調整する。当該遠心分離により、第1の収容部610、第1の流路641、気体導入路600の一部および第2の流路640は、対象成分Iによって充填され、第2の収容部620は、相分離された対象成分Iの一部と非対象成分IIとによって充填される。
ここで、検体を第1の開口602aを通して遠心分離部602内に導入する際、遠心分離部602内に存在していた気体(空気)は、第2の流路640もしくは気体導入路600を通って、第1の廃液溜め630方向へ移動するか、もしくは検体導入口601から排出されるため、気体(空気)が遠心分離部602内に残存することはない。第1の廃液溜め630へ移動した気体は、第1の空気穴650からマイクロチップ外へ排出される。また、第2の流路640から溢れる程度の量の検体が遠心分離部602に導入される場合、当該過剰分の検体は第2の流路640を通って第1の廃液溜め630に収容される(図3参照)。
なお、当該下向きの遠心力の印加により、液体試薬保持部604a、604bに収容されていた液体試薬A、Bは、混合部605に導入される(図1参照)。
次に、図3に示される遠心分離された状態から、左向きの遠心力をマイクロチップに印加することにより、第1の収容部610内の対象成分Iを対象成分計量部603に導入して、計量を行なう。対象成分計量部603から溢れた対象成分Iは、対象成分計量部603に接続された第2の廃液溜め607に収容される(図1参照)。また、当該左向きの遠心力の印加により、第2の収容部620内の対象成分Iおよび非対象成分IIは、第2の流路640を通って、第1の廃液溜め630に導入されることとなる。図4は、当該左向きの遠心力により、第1の収容部601内の対象成分I(図4に示されるIa)が対象成分計量部603方向に移動し、第2の収容部620内に分離液(非対象成分IIおよび対象成分Ib)が第1の廃液溜め630に移動している状態を示す図である。図4に示されるように、当該左向き遠心力により、第1の収容部601内の対象成分Iと第2の収容部620内の分離液とは、典型的には、第1の流路641の下部(第2の収容部620との接続位置)近傍にて分断されて、上記各方向に移動する。この際、上記した構成の気体導入路600を設けると、第2の収容部620内の分離液が第1の廃液溜め630に移動するとともに、気体導入路600内の対象成分Iが優先的に第2の収容部620に移動し、第1の流路641と第2の収容部620との接続位置に気体が介在することとなる(図4に示される状態)。
このように、第1の流路641と第2の収容部620との接続位置に気体を介在させることにより、当該接続位置より上側(第1の収容部610側)の対象成分Iと、当該接続位置より下側(第2の収容部620側)の分離液とが当該介在された気体によって分断されることとなるため、第2の収容部620内の分離液が第1の廃液溜め630に移動するにあたり、これに引きずられて第1の収容部610内の対象成分Iが第2の収容部620方向に移動して第1の廃液溜め630に流出するのを防止することができる。これにより、第1の収容部610内の対象成分Iの全量またはほぼ全量を対象成分計量部603に導入することが可能となる。また、第2の収容部620内の分離液が第1の流路641を通って対象成分計量部603方向へ流出することも防止できる。
なお、対象成分を計量した後の流体処理(マイクロチップの動作方法)は、図1を参照して、概略以下のとおりである。まず、図1における下向きの遠心力を印加して、対象成分計量部603内の対象成分を混合部605に導入し、液体試薬A、Bと混合して混合液を得る。次に、図1における左向きの遠心力を印加して、検出部606に導入する。検出部606内の混合液は、検出部606に光670を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法等の光学測定などに供され、検査・分析が行なわれる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
600 気体導入路、601 検体導入口、602 遠心分離部、602a 第1の開口、603 対象成分計量部、604a,604b 液体試薬保持部、605 混合部、606 検出部、607 第2の廃液溜め、610 第1の収容部、620 第2の収容部、620a 第2の開口、630 第1の廃液溜め、640 第2の流路、641 第1の流路、650 第1の空気穴、651 第2の空気穴、652 第3の空気穴、660a,660b 液体試薬注入口、670 光。