JP5075587B2 - オフセット印刷用水性プレコート剤 - Google Patents

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Description

本発明はオフセット印刷用水性プレコート剤に関し、より詳しくはオフセット印刷用水性プレコート剤自体の乾燥性や含有成分の系中での分散安定性が良好であり、得られる塗膜は高い光沢と、優れたオフセットインキ受理性、オフセットインキ乾燥性を有し、さらにオフセットインキ印刷物の光沢を向上させるオフセット印刷用水性プレコート剤に関する。
近年、オフセット印刷において、省資源で高い作業性を有する点から、基材となる紙の軽量化が図られている。特に新聞印刷では、大量の印刷物を一度に印刷するため、印刷用紙の消費量も格段に多く、運搬や印刷機への装填といった作業を考慮すると、紙の軽量化は作業面の負担軽減の大きな役割を果たすことになる。また、印刷後、販売店までの配送や宅配が行われることを考慮してもさらに有利である。そして、パルプ材料からなる紙の軽量化は、資源の節約のみならず環境負荷の軽減につながり、社会的な意義という面からも非常に有用といえる。
このような紙の軽量化を図るために、従来、より薄く、繊維の密度を粗くして、無機材料などの填料を極力用いないという方法が利用されている。しかしながら、この方法による紙の軽量化は、印刷の面からは不利な条件であることが多く、上記の新聞印刷等においては、印刷作業性や配送・配達の容易性とは裏腹に、多くの問題を抱える要因となっている。
例えば、繊維の密度の粗い紙を用いた場合、インキの着色成分のより多くが紙中に浸透しやすい。そうすると、印刷物の表面に留まる着色成分が減少して、結果的に印刷物の濃度が低下することになるので、これまで高い色濃度に基づいて購読者に強い印象を与えていた印刷物が得られなくなるといった問題が発生する。さらに紙が薄くなると、浸透したインキが裏面にまで達して裏面を着色し、両面印刷ができなくなる。また、インキの着色成分が浸透する際に、紙の中だけでなく、紙表面の繊維に沿って広がりが大きくなるため、印刷画像を構成する各色のドットの輪郭がぼやけて、結果的に不鮮明な画像となりやすい。加えて、紙表面の填料が少ない場合は、透明度が高くなり、また、新聞紙本来の地の色がでて、コントラストが低下するといった問題も発生する。
これまで、新聞印刷においては、特に写真画像の迫力が購読者を惹きつけ、より鮮明な広告ページの出来栄えがスポンサーを満足させるなど、カラー化・高画質化は一つの大きなセールスポイントとなってきた。したがって、紙の軽量化がさらに進行して、印刷画像の鮮明性が損なわれるようになると、販売部数や広告収入に直結する重大な問題になりかねない。
このような問題を解決する最も基本的な考え方として、オフセット印刷インキに近い組成で、高いコントラストを有する油性白色インク組成物を、予めオフセット印刷装置を用いて印刷する方法が提案されている(例えば特許文献1)。しかし、オフセット印刷を行うには、インキの供給や印刷の機構が複雑で、印刷装置自体が大掛かりで高価なことから、上記の目的のためにオフセット印刷装置を余分に追加することは、経済的に大きな負担を強いられるという問題があった。
そこで、特許文献2などは、その問題を解決する手段として、軽量化された印刷用紙にオフセット印刷インキを印刷するのに先立って、簡単な手段でプレコート剤を塗工し、良好な印刷適性を付与するという発明のコンセプトに従って検討した結果、アルミナを特定量以上用いて表面処理した二酸化チタンを主成分とする白色顔料と、塩基性化合物の存在下で水中に溶解または分散可能な高分子材料を利用したオフセット印刷用水性プレコート剤を利用することを提案している。
これにより、軽量化された印刷用紙の印刷適性上の問題点を改善して、軽量紙のままで利用できることから、印刷用紙の運搬や印刷機への装填等の作業時、また配送・配達の際の負担を軽減し、省資源や環境負荷の低減を可能にしている。さらに、簡易な塗工装置で塗工できるため、設備の面でも経済的となる。その上、特許文献2に記載のオフセット印刷用水性プレコート剤は、優れたオフセット印刷インキの受理性を有し、塗工後はインキの着色成分の紙中への浸透や紙表面での広がりすぎを抑えることにより、容易に高い色濃度と鮮明な印刷画像を有するオフセット印刷物の製造が実現できるようにした。
しかし、新聞印刷では、印刷スピードのさらなる高速化が要求されており、オフセット印刷用水性プレコート剤についても、従来とは比較にならない乾燥性が求められる。このような面では、特許文献2に記載のオフセット水性プレコート剤についても改善の余地を有している。
特公昭45−25649号公報 特願2007−153943号明細書
そこで、本発明が解決しようとする課題は、オフセット印刷用水性プレコート剤の塗工後の乾燥性および得られる塗膜の光沢を向上させ、且つ優れたオフセットインキ受理性やオフセットインキ乾燥性を有するオフセット印刷用水性プレコート剤を提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、着色成分としてアルミナまたはアルミナ・シリカ処理した二酸化チタンを主成分とする白色顔料と特定平均粒子径を有するポリスチレンエマルジョンを特定の質量比率の範囲で使用し、且つ塩基性化合物の存在下で水中に溶解または分散可能な酸基含有高分子樹脂を使用したオフセット印刷用水性プレコート剤を利用すると、上記の課題が全て解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1)アルミナまたはアルミナ・シリカで表面処理された二酸化チタンを主な成分とする白色顔料、平均粒子径が60〜500nmであるポリスチレンエマルジョン、塩基性化合物の存在下で、水中に溶解または分散可能な酸基含有高分子樹脂、塩基性化合物および水性媒体を主たる成分とし、前記白色顔料とポリスチレンエマルジョンとを固形分として白色顔料/ポリスチレンエマルジョン=90/10〜40/60の質量比率で含有させてなるオフセット印刷用水性プレコート剤であって、オフセット印刷用インキの印刷に先立って印刷用紙に塗工されるオフセット印刷用水性プレコート剤、および
(2)上記高分子樹脂が、アクリル酸系樹脂、スチレン−アクリル酸系樹脂、スチレンマレイン酸系樹脂、スチレン−アクリル酸−マレイン酸系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であって、塩基性化合物の存在下、水性媒体中に溶解または分散する酸価30〜300mgKOH/gの共重合体樹脂である上記(1)項に記載のオフセット印刷用水性プレコート剤
に関する。
本発明のオフセット印刷用水性プレコート剤は、分散安定性が改良され、また、印刷用紙に塗工後の乾燥性および得られる塗膜の光沢が向上すると共に、優れたオフセットインキ受理性、オフセットインキ乾燥性およびオフセットインキ印刷後の印刷物光沢を有するオフセット印刷用水性プレコート剤である。
本発明のオフセット印刷用水性プレコート剤(以下、オフセット印刷用水性プレコート剤を単にプレコート剤と呼ぶこともある)は、白色顔料、ポリスチレンエマルジョン、水中に溶解または分散可能な酸基含有高分子樹脂、水性媒体および塩基性化合物を構成材料とするものである。
まず、本発明のプレコート剤を形成する構成材料について説明する。
本発明のプレコート剤で利用する白色顔料としては、白色度と遮蔽性の高い二酸化チタンを必須成分とし、従来から塗料やインキ組成物に使用されているルチル型、アナターゼ型等の各種の二酸化チタンであって、その表面をアルミナで被覆処理したもの、およびアルミナとシリカを併用して被覆処理したものを使用する。
表面処理の方法は、従来用いられている方法を用いることができる。例えば、二酸化チタンの水系スラリーに、アルミン酸ナトリウム等を加え、中和によりアルミナ水和物を二酸化チタン表面に析出させる方法、アルミナゾルを加えてアルミナで表面処理する方法、アルミン酸ナトリウム等とケイ酸塩を加え、中和によりアルミナ水和物とシリカ水和物を二酸化チタン表面に析出させる方法、アルミナゾルとシリカゾルを加えてアルミナとシリカで表面処理する方法等によって行ってもよい。
さらに必要に応じて、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム等の他の白色を呈する顔料を性能が低下しない範囲で併用することもできる。
本発明においてプレコート剤中における上記白色顔料の含有量は、好ましくは15〜70質量%、より好ましくは30〜60質量%の範囲である。
また、本発明のプレコート剤に含まれるポリスチレンエマルジョンは、平均粒子径が60〜500nm、好ましくは、150〜450nmであるポリスチレンエマルジョンである。平均粒子径が60〜500nmであるポリスチレンエマルジョンとしては、公知のものが使用できる。
ポリスチレンエマルジョンの平均粒子径が、60nmより小さい場合は、白さが低下する傾向があるので好ましくなく、一方500nmより大きい場合は、製造するのが困難となる。
本発明のポリスチレンエマルジョンの使用量は、前記白色顔料/ポリスチレンエマルジョンの配合比が90/10〜40/60の質量比率(固形分)となる範囲で含有させなることが好ましい。言い換えると、白色顔料とポリスチレンエマルジョンの混合物が100質量%として、白色顔料90〜40質量%であり、ポリスチレンエマルジョンが10〜60質量%となるように配合することが好ましい。
ポリスチレンエマルジョンの質量比率が10質量%より小さくなると効果が少なく、一方、60質量%より多くなるとプレコート剤の塗布膜の白さが低下する傾向となるので好ましくない。
また、本発明のプレコート剤で利用する酸基含有高分子樹脂は、塩基性化合物と塩を形成して、水中に溶解または分散可能な水性高分子樹脂である。この様な水性高分子樹脂としては、通常、水性印刷インキや塗工剤で利用されている、アクリル酸系樹脂、スチレン−アクリル酸系樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、スチレン−アクリル酸−マレイン酸系樹脂等が好適に利用できる。
なお、アクリル酸系樹脂とはアクリル酸系単量体を、スチレン−アクリル酸系樹脂とはスチレン系単量体とアクリル酸系単量体を、スチレン−マレイン酸系樹脂とはスチレン系単量体とマレイン酸系単量体を、そしてスチレン−アクリル酸−マレイン酸系樹脂とはスチレン系単量体、アクリル酸系単量体およびマレイン酸単量体を共重合成分とする共重合体樹脂である。
ここで、具体的にアクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸、および、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどのそのアルキル基の炭素数が1〜23である(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル化合物、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチルなどの芳香族環を含む(メタ)アクリル酸エステル化合物をあげることができる。ここで、「(メタ)アクリル酸」という記載は、「アクリル酸またはメタクリル酸」を表すものである。
また、スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンとそれらの誘導体をあげることができる。
また、マレイン酸系単量体としては、(無水)マレイン酸、さらに、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノヘキシル、マレイン酸モノオクチル、マレイン酸モノ2−エチルヘキシル、マレイン酸モノラウリル、マレイン酸モノステアリルなどの、そのアルキル基の炭素数が1〜23であるマレイン酸モノアルキルエステル化合物、さらに、マレイン酸モノメトキシエチル、マレイン酸モノエトキシエチル、マレイン酸モノプロポキシエチル、マレイン酸モノブトキシエチル、マレイン酸モノメトキシプロピル、マレイン酸モノエトキシプロピル、マレイン酸モノメトキシエトキシエチル、マレイン酸モノエトキシエトキシエチル等のマレイン酸と多価アルコール誘導体とのモノエステル化合物、および、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸ジアルキルエステル化合物をあげることができる。
さらに、必要に応じて、(メタ)アクリルアミド、クロトン酸とそのエステル化合物、イタコン酸とそのエステル化合物、アクリロニトリル、オレフィン化合物等の、他の共重合可能な単量体を共重合成分としてもよい。これらの共重合成分から、常法により共重合体樹脂を得ることができる。
なお、上記の単量体の中でも、カルボキシル基含有単量体は、塩基性化合物と塩を形成して樹脂を水性媒体中に溶解または分散させるために必要であり、得られる共重合体樹脂の酸価としては、30〜300mgKOH/gであればよく、好ましくは50〜250mgKOH/g、より好ましくは50〜150mgKOH/gである。樹脂の酸価が30mgKOH/gより低くなると、水性媒体中への樹脂の分散性が低下し、一方、酸価が300mgKOH/gより高くなるとプレコート剤の乾燥性が低下して好ましくない。
なお、当該酸価は、計算により求めた理論酸価である。
また、特に白色顔料の顔料分散性、オフセット印刷インキの受理性を向上させるためには、上記の単量体の中でも、スチレン系単量体を使用した共重合体であるスチレン−アクリル酸系樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、スチレン−アクリル酸−マレイン酸系樹脂を利用することが好適である。
また、得られるプレコート剤の皮膜強度の面から、酸基含有高分子樹脂のガラス転移温度としては、−50℃〜100℃、質量平均分子量としては5,000〜100,000であることが好ましい。
なお、酸基含有高分子樹脂のガラス転移温度(Tg)は、下記Woodの式により求めた理論ガラス転移温度である。
Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・
・・・+Wx/Tgx
(式中、Tg1〜Tgxは単独重合体のガラス転移温度、W1〜Wxは重合分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。但し、ガラス転移温度は絶対温度で計算する。)
また、質量平均分子量は、カラムクロマトグラフィー法によって測定することができる。一例としては、Alliance 2690(ウォーターズ社製高速液体クロマトグラフィー装置)で、カラムとしてPLgel 5μ MIXED−D(Polymer Laboratories社製)を使用して行い、ポリスチレン換算の数平均分子量、重量平均分子量として求めることができる。
本発明の酸基含有樹脂の使用量は、前記白色顔料100質量部に対して5〜30質量部、好ましくは10〜25質量部である。高分子樹脂の使用量が5質量部未満の場合は、白色顔料の分散性およびプレコート剤の塗工適性が低下し、また皮膜が脆弱となるので好ましくない。一方30質量部を越える場合は、プレコート剤の粘度が高くなる傾向があり、またプレコート剤自体の乾燥性やオフセット印刷インキの乾燥性も低下して好ましくない。
また、本発明のプレコート剤で利用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン等の有機塩基性化合物、アンモニアをあげることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記の塩基性化合物の中でも、揮発性の高いものはプレコート剤の乾燥性を向上させる効果がある反面、安定な塗工適性を維持するのが困難な傾向があり、揮発性の低いあるいは不揮発性のものは、その逆の傾向を示すことから、オフセット印刷の速度等、要求される性能に応じて使い分けることが好ましい。
また、本発明のプレコート剤で使用する水性媒体としては、水、または水と水混和性溶剤との混合物があげられる。水混和性溶剤としては、例えば、低級アルコール類、多価アルコール類、およびそれらのアルキルエーテルまたはアルキルエステル類等があげられ、具体的には、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等があげられる。なお、プレコート剤の乾燥性と塗工適性に対する水混和性溶剤の揮発性の影響については、上記の塩基性化合物と同様の傾向があり、やはりオフセット印刷の速度等、要求される性能に応じて使い分けることが好ましい。
さらに本発明のプレコート剤においては、必要に応じて、消泡剤、界面活性剤、レベリング剤、ワックスなどの他の材料を使用することもできる。
次に、以上のプレコート剤を構成する構成材料を用いて、本発明のプレコート剤を製造する方法について説明する。
本発明のプレコート剤を製造する方法としては、一般的な方法により行うことができ、例えば、まず塩基性化合物の存在下に酸基含有高分子樹脂を水性媒体中に溶解ないし分散させる。次いで、かくして得られる溶液ないし分散液に白色顔料、必要に応じて、水性媒体、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤などを混合して、各種分散・撹拌機、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、パールミル等を利用して分散し、さらにポリスチレンエマルジョンおよび残りの材料を添加混合してプレコート剤を得る方法等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
最後に、上記の構成材料と製造方法から得られたプレコート剤を、印刷用紙に塗工する方法を説明する。本発明のプレコート剤は、オフセット印刷に先立って印刷用紙に塗工されるが、オフセット印刷機等の複雑で高価な設備を必要とせず、簡易な塗工機で塗工可能であることを特徴とするものである。この様な簡易な塗工機としては、ロールコーター、フレキソコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター等をあげることができる。さらにプレコート剤を印刷用紙の全面に塗工しても良いが、例えば、オフセット印刷が新聞などで、文字と写真画像に分かれている場合、より高画質が求められる写真画像の印刷部分にだけ塗工してもよい。この場合、プレコート剤を部分的に塗工できる塗工機が必要となるが、フレキソコーターやグラビアコーターであれば部分的な塗工が可能である。
さらに、本発明のプレコート剤の塗工と、オフセット印刷インキの印刷とは一連の塗工
・印刷工程により行われることが好ましいから、塗工機はオフセット印刷機の上流に設けられ、印刷用紙にプレコート剤を塗工し、必要に応じて乾燥装置により塗工層を乾燥させた後、オフセット印刷用インキが印刷される。
この方法によって得られるオフセット印刷物は、例えば、印刷用紙の軽量化の図られた新聞印刷用に利用された場合、購読者やスポンサーに高い満足感を与えるものとなる。
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものとする。
<オフセット印刷用水性プレコート剤で使用する材料>
(1)白色顔料
二酸化チタン:デュポン社製
タイピュア R−900 アルミナ/シリカ=100/0
タイピュア R−902 アルミナ/シリカ=70/30
タイピュア R−960 アルミナ/シリカ=34/64
(2)ポリスチレンエマルジョン(以下、P−Stエマルジョンと呼ぶこともある):BASFジャパン(株)社製
平均粒子径160nmのポリスチレンエマルジョン(固形分50%)
平均粒子径300nmのポリスチレンエマルジョン(固形分50%)
平均粒子径450nmのポリスチレンエマルジョン(固形分50%)
(3)酸基含有高分子樹脂
酸基含有高分子樹脂の製造例
撹拌機、冷却管、窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、酢酸エチル600部を仕込んで77℃に加熱し、窒素ガスを導入しながら、表2に記載した単量体成分と、開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド12部との混合物を1.5時間かけて滴下し、さらに同温度に保ちながら2時間共重合させた後、溶剤を減圧下で留去して、酸基含有高分子樹脂A〜Cを得た。
酸基含有高分子樹脂A:
単量体組成:MAA123部、MMA97部、2EHA80部、St100部
理論酸価:200mgKOH/g
酸基含有高分子樹脂B:
単量体組成:St200部、isoBMn200部
理論酸価:148mgKOH/g
酸基含有高分子樹脂C:
単量体組成:MAA153部、MMA67部、2EHA80部、St100部
理論酸価:250mgKOH/g
なお、上記の単量体組成として、MAAはメタクリル酸、MMAはメタクリル酸メチル、2EHAはアクリル酸2−エチルヘキシル、isoBMnはマレイン酸モノイソブチル、Stはスチレンである。
<酸基含有高分子樹脂ワニスの調製>
酸基含有高分子樹脂の中和量に相当するアンモニアを含む水:イソプロピルアルコール=9:1の水性媒体70部に、酸基含有高分子樹脂A30部を加熱溶解させて、固形分30%の酸基含有高分子樹脂ワニスAを得た。
上記酸基含有高分子樹脂ワニスAを得る方法と同様に酸基含有高分子樹脂ワニスB、酸基含有高分子樹脂ワニスCを得た。
<実施例1〜10、比較例1〜4の調製>
表1の配合に従って、高分子樹脂ワニス、白色顔料および水性媒体を、ペイントコンディショナーを用いて練肉・分散し、さらにポリスチレンエマルジョンを加え撹拌を行い実施例1〜10、比較例1〜4のオフセット印刷用水性プレコート剤を得た。
<実施例1〜10、比較例1〜4の評価方法および評価基準>
(白色度)
印刷用紙(王子製紙(株)製、新聞印刷原紙)に、実施例1〜10、比較例1〜4のオフセット印刷用水性プレコート剤100質量部に対して、水:イソプロパノール=1:1の水性希釈剤40質量部で希釈した、各オフセット印刷用水性プレコート剤を、165line/inchのハンドプルファーを用いて展色し、乾燥後の白色度を、ハンター白色計((株)村上色彩技術研究所)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
(オフセット印刷用プレコート剤の表面乾燥性)
印刷用紙(王子製紙(株)製、新聞印刷原紙)に、RDS−12メアバーにて、実施例1〜10、比較例1〜4のオフセット印刷用水性プレコート剤100質量部に対して、水:イソプロパノール=1:1の水性希釈剤40質量部で希釈した、各オフセット印刷用水性プレコート剤を展色直後、ハンドプルーファーゴムロール部にて、塗布した各オフセット印刷用水性プレコート剤の塗膜上を走行させ、ゴムロールに対する各オフセット印刷用水性プレコート剤の「塗膜の取られ方」により評価した。その結果を表1に示す。
9:1秒で「塗膜の取られ」が無いもの
8:2秒で「塗膜の取られ」が無いもの
7:3秒で「塗膜の取られ」が無いもの
6:4秒で「塗膜の取られ」が無いもの
5:5秒で「塗膜の取られ」が無いもの
すなわち、数字が大きいほど表面乾燥性が良いことを示している。
(オフセット印刷用プレコート剤の塗膜光沢性)
印刷用紙(王子製紙(株)製、新聞印刷原紙)に、165 line/inchのハンドプルファーにて、実施例1〜10、比較例1〜4のオフセット印刷用水性プレコート剤100質量部に対して、水:イソプロパノール=1:1の水性希釈剤40質量部で希釈した、各オフセット印刷用水性プレコート剤を展色し、乾燥後の塗膜光沢を、光沢計(堀場製作所(株))を用いて測定した。その結果を表1に示す。
(新聞インキのインキ乾燥性)
印刷用紙(王子製紙(株)製、新聞印刷原紙)に、165 line/inchのハンドプルファーにて、実施例1〜10、比較例1〜4のオフセット印刷用水性プレコート剤100質量部に対して、水:イソプロパノール=1:1の水性希釈剤40質量部で希釈した、各オフセット印刷用水性プレコート剤を展色して、乾燥させた。次ぎに、各展色面に、RI展色装置((株)明製作所製)を用いてインキ盛量0.1ccで新聞印刷用オフセットインキ(ニューウエブマスター・プロセス墨、サカタインクス(株)製)のベタ印刷後、セット性試験機を用いて新聞印刷用オフセットインキのセット時間を測定し乾燥性を評価した。その結果を表1に示す。
(新聞インキの印刷光沢)
印刷用紙(王子製紙(株)製、新聞印刷原紙)に、165 line/inchのハンドプルファーにて、実施例1〜10、比較例1〜4のオフセット印刷用水性プレコート剤100質量部に対して、水:イソプロパノール=1:1の水性希釈剤40質量部で希釈した、各オフセット印刷用水性プレコート剤を展色して、乾燥させた。次に、各展色面に、RI展色装置((株)明製作所製)を用いてインキ盛量0.1ccで新聞印刷用オフセットインキ(ニューウエブマスター・プロセス墨、サカタインクス(株)製)のベタ印刷を行った。ベタ印刷から24時間経過後のインキの光沢を、光沢計(堀場製作所(株))を用いて測定した。その結果を表1に示す。
(分散安定性)
実施例1〜10、比較例1〜4のオフセット印刷用水性プレコート剤をそれぞれガラス瓶に採り、密栓し40℃において7日保存した後の分散安定性について評価した。ここで、分散安定性は、オフセット印刷用水性プレコート剤中で白色顔料等が沈降する程度を目視観察して評価しており、沈降が少ないほど分散安定性が高いことを示す。測定結果を表1に示す。
Figure 0005075587
表1に示すように、ポリスチレンエマルジョンを含まない比較例1、3、4のオフセット印刷用水性プレコート剤は、いずれも分散安定性に劣り、表面乾燥しにくく、かつ新聞インキの印刷光沢が低かった。一方、ポリスチレンエマルジョンを過剰に含む比較例2のオフセット印刷用水性プレコート剤は、白色度が低かった。
これに対し、表1に示すように、本実施例1〜10のオフセット印刷用水性プレコート剤は、いずれも分散安定性が高く、高い白色度を有し、表面乾燥性に優れ、塗膜光沢性が高く、新聞インキ乾燥性が良く、かつ新聞インキの印刷光沢も高かった。

Claims (2)

  1. オフセット印刷用インキの印刷に先立って印刷用紙に塗工されるオフセット印刷用水性プレコート剤であって、
    アルミナまたはアルミナ・シリカで表面処理された二酸化チタンを含む白色顔料、平均粒子径が60〜500nmであるポリスチレンエマルジョン、
    塩基性化合物、
    塩基性化合物の存在下で、水中に溶解または分散せしめることが可能な酸基含有高分子樹脂、および、水性媒体を主たる成分として有し、
    前記白色顔料とポリスチレンエマルジョンとを、固形分として白色顔料/ポリスチレンエマルジョン=90/10〜40/60の質量比率で含有することを特徴とするオフセット印刷用水性プレコート剤。
  2. 前記酸基含有高分子樹脂が、アクリル酸系樹脂、スチレン−アクリル酸系樹脂、スチレンマレイン酸系樹脂、スチレン−アクリル酸−マレイン酸系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であって、塩基性化合物の存在下、水性媒体中に溶解または分散する酸価30〜300mgKOH/gの共重合体樹脂であることを特徴とする請求項1記載のオフセット印刷用水性プレコート剤。
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