JP5070731B2 - 非水電解質電池の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、リン酸鉄リチウムを正極に用いた非水電解質電池の製造方法に関する。
近年、携帯電話、ノートパソコン等の携帯機器類用、電気自動車用などの電源として、エネルギー密度が高く、サイクル特性の良好な非水電解質電池が注目されている。このような非水電解質電池の中で、現在最も広く市場に出回っているのがリチウム二次電池である。市場に出回っているリチウム二次電池の主流は、2Ah以下の携帯電話用を中心とした小型民生用である。現在、リチウム二次電池用の正極活物質としては数多くのものが存在するが、最も一般的に知られているのは、作動電圧が4V付近のリチウムコバルト酸化物(LiCoO)やリチウムニッケル酸化物(LiNiO)、あるいはスピネル構造を持つリチウムマンガン酸化物(LiMn)等を基本構成とするリチウム含有遷移金属酸化物である。中でもリチウムコバルト酸化物は、電池容量2Ah以下の小容量リチウム二次電池では、充放電特性とエネルギー密度に優れることから正極活物質として広く採用されている。
しかしながら、今後の中型・大型、特に大きな需要が見込まれる産業用途への展開を考えた場合、電池の安全性が非常に重要視されるため、現在の小型電池の仕様をさらに厳しく再検討する必要がある。産業用途では80℃以上といった小型民生用では考えられないような高温環境において使用されることも想定される。このような高温環境下では、非水電解質電池のみならずニッケル−カドミ電池や鉛電池であっても非常に短寿命となり、いずれの電池系においても課題が存在する。また、キャパシターは、唯一この温度領域で使用できる電気化学デバイスであるが、エネルギー密度が小さいといった問題がある。このように、高温においても長寿命でエネルギー密度の高い電池が求められていた。
最近、熱的安定性が優れるオリビン構造を有するリン酸鉄リチウム(LiFePO)が注目を集めている。このオリビン構造を有するLiFePOは、リンと酸素が共有結合しているため、高温においても酸素を放出することが無く、正極活物質として使用することで電池の安全性を飛躍的に高めることができると期待される。さらに、Liイオンの吸蔵・放出が3.4V付近で行われることから、正極で生じる副反応量を抑えることができると考えられ、電池の長寿命化が期待できる。
LiCoO等の4V級正極活物質を用いた非水電解質電池においては、非水電解質中の電解質塩としてLiN(CFSOを単独で用いると、充電条件によっては、正極の貴な電位のため、正極集電体に用いるアルミニウムが腐食することが知られている。また、LiN(CFSO等のイミド塩をLiPF等のルイス酸複塩構造を有する塩と併用することで、電池の自己放電を抑制できることについても知られている(例えば特許文献1)。
また、非水電解質がビニレンカーボネートを含有することで、グラファイトを負極活物質として用いた電池の保存性能を向上できることにが知られている(例えば特許文献2)。しかしながら、非水電解質中のビニレンカーボネートの存在が、LiFePOを正極活物質に用いた電池の正極自己放電率やエネルギー保持特性に与える影響についてはこれまで全く知られていない。
特許文献3には、正極活物質としてLiFePOを用い、ゴム系ポリマーであるスチレン・ブタジエン系共重合体の水分散体を用いて正極用電極を作成した実施例が記載されている(実施例4参照)。しかしながら、正極がゴム系ポリマーを含有し、且つ、ビニレンカーボネートを含有する非水電解質を用いることで、さらに好ましくは、非水電解質がN(C2n+1SO)(C2m+1SOアニオン(n、mは1〜4の整数)をさらに含有することで、高温保存時の正極自己放電が小さく、且つ、エネルギー保持特性に優れた非水電解質電池とすることができることについては記載されていない。
特許第3016447号公報 特許第3059832号公報 特開2005−63825号公報
本発明は、80℃での高温保存時の正極自己放電率が小さく、かつ、エネルギー保持特性に優れた非水電解質電池の製造方法を提供することを目的としている。
本発明は、リン酸鉄リチウム及びゴム系ポリマーを含有している正極と、負極と、ビニレンカーボネートを含有する非水電解質を用いて非水電解質電池を製造する非水電解質電池の製造方法である。
また、本発明の製造方法は、前記非水電解質は、N(C2n+1SO)(C2m+1SOアニオン(n、mは1〜4の整数)を含有していることを特徴としている。
ここで、リン酸鉄リチウムとは、一般式LiFe1−yPO(0≦y<0.1、MはAl、Mg及びNbからなる群より選ばれた一種以上の元素)で表される化合物に代表されるものである。
スチレンブタジエンゴム等は水系のバインダーであるため、従来、LiCoO等のリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質と組み合わせて使われることはなかった。これは、LiCoO等を水と接触させると結晶構造中のLiが脱離してしまうためである。一方、LiFePOは充放電に伴う結晶の伸縮率が約8%であり、この値は、LiCoOの同伸縮率が約3%であることに比べて極めて大きい。このため、正極活物質としてLiFePOを用いる正極のバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のビニル系のバインダーを使用した場合、40℃以上の環境下、とりわけ80℃以上の高温環境下では、バインダーの軟化やそれに伴う膨張などにより、正極における物理的形状が維持できないか、或いは活物質と導電剤との接触点が失われるといった現象により、正極の電気化学的特性を維持することが難しくなると考えられる。ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のビニル系のバインダーを使用しても、正極活物質がLiCoO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiMn等の、材料自体がある程度の伝導性を有するものである場合は、高率充放電特性がある程度低下するものの、低率充放電であれば高温保存を行っても、ほぼ同等のエネルギーを得ることが可能であるが、本発明電池に用いるリン酸鉄リチウムは、それ自身の伝導性が非常に乏しいために、導電剤との接点が失われると、低率充放電であっても十分なエネルギーを確保できなくなる。そのため、バインダーの物理的な高温耐性は重要であり、スチレンブタジエンゴム等の高温物理耐性のあるゴム系のポリマーをバインダーとして用いることで、軟化・膨張を防ぎ、導電剤との接触点を80℃の高温環境下に置く前と同等のレベルに維持することが可能となり、正極においてゴム系ポリマーを併用することで、本発明の効果が顕著に発揮される。
ゴム系ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)又はフッ素ゴムが好ましく、なかでも、スチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いる場合、吸水性高分子であるカルボキシメチルセルロース(CMC)を併用することが好ましい。
負極にグラファイトなどの炭素材料を用いた電池では、ビニレンカーボネートを添加することで保存特性が改善されることがよく知られている。これは、ビニレンカーボネートが負極付近で還元分解され、負極表面上に良好な副反応を抑制する被膜を形成するためである。ところが、本発明者らは正極活物質として上記のリン酸鉄リチウムを用いた電池にビニレンカーボネートを添加した場合、高温保存時に負極だけでなく、驚くべきことに正極の自己放電を抑制する効果があることを見いだし、本発明に至った。この効果の作用機構についてはよく分かっていないが、高温環境下において、正極場での溶媒や支持塩の酸化分解をビニレンカーボネートが何らかの形で阻害しているものと考えられる。従って、リン酸鉄リチウムを正極に用いた電池にビニレンカーボネートを添加することで、これまでの電池系では見られないほど電池の自己放電量を顕著に抑えることが可能である。この様にリン酸鉄リチウムを正極に用いた電池に非水溶媒としてビニレンカーボネートを添加することで高温保存時に自己放電が少なく、かつ良好なエネルギー保持特性を有する電池とすることが可能となる。
リン酸鉄リチウムを正極に用いる本発明電池の製造方法において、非水電解質が含有するビニレンカーボネートの量は、LiCoO等の4V級正極活物質を用いる電池における考え方とは異なる。4V級正極活物質を用いる電池においては、正極場でビニレンカーボネートが分解、消費されるため、ビニレンカーボネートの含有量が多すぎると電池性能が低下してしまうが、リン酸鉄リチウムを正極に用いる本発明電池では、そのような虞はほとんどなく、ビニレンカーボネートを比較的多く含有させることができる。本発明電池の製造方法において、非水電解質中に含有させるビニレンカーボネートの割合は、非水電解質を構成する非水溶媒の全質量に対して0.5質量%以上とすることが好ましい。ビニレンカーボネートは、周知のように、負極にグラファイト等の炭素材料を用いた場合には、負極側で消費されるため、電池の製造工程中に行う初期活性化工程を経て完成した電池の非水電解質中のビニレンカーボネートの含有比率は、通常、注液時の比率よりも減少している。
リン酸鉄リチウムを正極に用いた非水電解質電池では、正極作動電位が比較的卑であるので、非水電解質中の電解質塩にイミド塩を用いてもアルミニウムが腐食する虞がないことや、イミド塩を用いることで電池の自己放電が抑制できることについては公知文献から予測容易であり、また実験事実もその通りである。しかしながら、本発明者らの検討によれば、非水電解質がビニレンカーボネートを含有しない場合には、イミド塩を用いると、電池の自己放電率は抑制されるものの、正極自己放電率については逆に大きくなることがあることがわかった。
ところが、ビニレンカーボネートを含有する非水電解質を用いると、実に驚くべきことに、非水電解質にイミド塩を用いることにより、非水電解質にイミド塩を用いない場合に比べ、正極自己放電率が逆に抑制されることがわかった。即ち、非水電解質が、ビニレンカーボネートと、N(C2n+1SO)(C2m+1SOアニオン(n、mは1〜4の整数)とを含有するものとした場合に、正極自己放電抑制効果が相乗的に発現することを見出した。この作用機構については必ずしも明らかではないが、イミドアニオン自体の正極での酸化分解やリチウムイミド塩による正極集電体の腐食がビニレンカーボネートと共存させることで顕著に抑制されているものと推察される。
非水電解質が、N(C2n+1SO)(C2m+1SOアニオン(n、mは1〜4の整数)を含有するものとするためには、通常「イミド塩」と呼ばれるリチウム塩を電解質塩として用いることで達成できる。前記「イミド塩」としては、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)が好ましい。非水電解質に用いる電解質塩として、上記「イミド塩」の他に、LiPF、LiBF等の無機塩を併用できる。これらの無機塩を併用する場合、「イミド塩」の混合比を20モル%以上とすることが好ましい。
本発明によれば、高温保存時の正極自己放電が小さく、かつ、エネルギー保持特性に優れた非水電解質電池を提供することができる。
以下に、本発明の実施の形態を例示するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
非水電解質は、非水溶媒に電解質塩が溶解しているものを使用でき、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが好適に使用可能である。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
但し、本発明に於いては、80℃の高温保存に於いて顕著な効果を発揮することを特徴とするものである観点から、非水溶媒中に低沸点成分が多く含まれていると、保存中に溶媒の蒸気圧による電池膨れを誘発する虞がある。この様な事態を防ぐために、非水溶媒中にビニレンカーボネートよりも沸点の高い溶媒を30%以上含ませることが好ましい。ビニレンカーボネートよりも沸点の高い溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等が挙げられる。
非水電解質中の電解質塩の濃度は、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.5mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、1mol/l〜2.5mol/lである。
本発明電池の負極は、何ら限定されるものではなく、リチウム金属、リチウム合金(リチウム―アルミニウム、リチウム―鉛、リチウム―錫、リチウム―アルミニウム―錫、リチウム―ガリウム、およびウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(LiTi12等)、ポリリン酸化合物等が挙げられる。これらの中でもグラファイトは、金属リチウムに極めて近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電を実現できるため負極材料として好ましい。例えば、人造黒鉛、天然黒鉛が好ましい。特に,負極活物質粒子表面を不定形炭素等で修飾してあるグラファイトは、充電中のガス発生が少ないことから望ましい。また、LiTi12は電解質塩としてリチウム塩を採用した場合に自己放電を少なくでき、かつ充放電における不可逆容量を少なくできるので、負極材料として好ましい。
正極及び負極には、必要に応じて、周知の導電剤、フィラー、集電体を周知の処方で用いることができる。
本発明電池に用いるセパレータとしては、特に限定されるものではなく、周知の材料を周知の手法で用いることができる。
以下に、実施例並びに比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の記載により限定されるものではない。
(実施例1)
(LiFePOの作製)
シュウ酸鉄二水和物(FeC・2HO)とリン酸二水素アンモニウム(NHPO)と炭酸リチウム(LiCO)とをモル比が2:2:1になるように計り取り、混合した。その後、窒素雰囲気下においてアルコールを溶媒としてボールミルで2時間湿式粉砕混合を行うことで前駆体を得た。
得られた前駆体をアルミナ製の匣鉢に入れ、雰囲気置換式焼成炉にて、窒素流通下(2.0l/min)で700℃、5時間焼成してLiFePOの粉末を合成した。
得られたLiFePOにポリビニルアルコール(分子量約1500)を質量比が1:1になるように乾式混合し、この混合物をアルミナ製の匣鉢に入れ、環状焼成炉にて窒素流通下(2.0l/min)で700℃、2時間熱処理することでLiFePOに対してカーボンコート処理を行った。このようにしてリン酸鉄リチウム正極活物質を得た。
(正極の作製)
前記リン酸鉄リチウム正極活物質、導電材としてのアセチレンブラック及びCMC(カルボキシメチルセルロース、第一工業製薬社製、品番:セロゲンBSH−12)を84:8:4の質量比で計り取り、乾式混合した後、水を加えて十分混練し、適度な粘性を有するペーストとした。次に、水を分散媒とするSBR(スチレン−ブタジエンゴム、JSR社製、品番:S01101)を加え、さらに混練した。ここで、SBRの添加量は、固体換算で前記CMCと同質量とした。このようにして、前記リン酸鉄リチウム正極活物質、アセチレンブラック、SBR及びCMCを質量比84:8:4:4の割合で含有している正極ペーストを得た。前記正極ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体上に塗布し、乾燥した後、活物質層の残存空間率が35%になるようにプレス加工を行い、正極とし、正極端子を取り付けた。
(負極の作製)
負極活物質としての人造黒鉛(平均粒径6μm、エックス線回折分析による面間隔(d002)0.337nm、c軸方向の結晶の大きさ(Lc)55nm)及びCMC(カルボキシメチルセルロース第一工業製薬社製、品番:セロゲンBSH−12)を94:3の質量比で計り取り、乾式混合した後、水を加えて十分混練し、適度な粘性を有するペーストとした。次に、水を分散媒とするSBR(スチレン−ブタジエンゴム、JSR社製、品番:S01101)を加え、さらに混練した。ここで、SBRの添加量は、固体換算で前記CMCと同質量とした。このようにして、人造黒鉛、SBR及びCMCを質量比94:3:3の割合で含有している負極ペーストを得た。前記負極ペーストを厚さ15μmの銅箔集電体上に塗布し、乾燥した後、プレス加工を行い、負極とし、負極端子を取り付けた。
(非水電解質の調製)
エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びビニレンカーボネート(VC)を質量比3.2:3.2:3.1:0.5の割合で混合した混合溶媒に電解質塩としてLiN(SOCFを1mol/lの濃度で溶解させ、非水電解質を調整した。前記非水電解質中の水分量は30ppm未満とした。
(極群の構成及び非水電解質の適用)
以下の操作は、露点が−40℃以下の乾燥雰囲気下において行った。乾燥した前記正極及び前記負極各1枚を厚さ20μmポリプロピレン製セパレータを介して対向させ、極群を構成した。外装体として、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなるラミネートフィルムを用い、前記極群を前記正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように注液孔となる部分を除いて気密封止した。前記注液孔から前記非水電解質を一定量注液することにより、前記極群に非水電解質を適用した。次いで、減圧状態で前記注液孔部分を熱封口した。このようにして、初期活性化工程前の状態の非水電解質電池を組み立てた。
(実施例2〜3、比較例1〜6)
電解質塩の種類、ビニレンカーボネートの有無又は正極に用いるポリマーの種類について、表1に示すとおりに処方を適宜変更して非水電解質電池を組み立てた。
即ち、実施例2においては、非水電解質の調製の調製において、LiN(SOCFに代えてLiN(SOを用いたことを除いては実施例1と同様とし、実施例3においては、LiN(SOCFに代えてLiPFを用いたことを除いては実施例1と同様とした。
比較例1〜3及び比較例6においては、ビニレンカーボネートを含有していない非水電解質を用いた。即ち、非水電解質の調整において、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びメチルエチルカーボネートを質量比3.4:3.3:3.3の割合で混合した混合溶媒を用いた。なお、電解質塩については表1記載の通りのものを表1記載の濃度で用いた。表1において、「TFSI」はLiN(SOCFを表し、「Beti」はLiN(SOを表している。
比較例4においては、正極に用いるポリマーをSBR+CMCに代えてPVdF(ポリフッ化ビニリデン)とした。非水電解質については実施例1と同一である。比較例4における正極の作製処方は次の通りである。
周知の処方により、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を分散媒とし、前記リン酸鉄リチウム正極活物質、アセチレンブラック及びPVdFを84:8:8の質量比で含有している正極ペーストを作製し、厚さ20μmのアルミニウム箔集電体上の両面に塗布し、乾燥した後、活物質層の残存空間率が35%になるようにプレス加工を行い、正極とし、正極端子を取り付けた。
比較例5及び比較例6においては、一般的なLiCoO電極を正極に用いた。非水電解質については実施例3及び比較例3とそれぞれ同一である。比較例5及び比較例6における正極の作製処方は次の通りである。
周知の処方により、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を分散媒とし、LiCoO、アセチレンブラック及びPVdFを84:8:8の質量比で含有している正極ペーストを作製し、厚さ20μmのアルミニウム箔集電体上の両面に塗布し、乾燥した後、活物質層の残存空間率が35%になるようにプレス加工を行い、正極とし、正極端子を取り付けた。
(初期活性化工程)
実施例1〜3及び比較例1〜6にて組み立てた電池に対し、各電池に対して初期充放電を5サイクル行うことからなる初期活性化工程に供した。初期活性化工程における充電条件は、電流0.1ItmA(約10時間率)、15時間の定電流定電圧充電とし、放電条件は、電流0.1ItmA(約10時間率)の定電流放電とした。充電設定電圧は、実施例1〜3及び比較例1〜4の電池に対しては3.7Vとし、比較電池5〜6の電池に対しては4.2Vとした、また、放電終止電圧は、実施例1〜3及び比較例1〜4の電池に対しては2.0Vとし、比較電池5〜6の電池に対しては3.0Vとした。この工程における5サイクル目の放電を便宜上「初期放電」と命名し、容量を「初期放電容量(mAh)」として記録した。
以上の工程を経て、非水電解質電池を作製した。
(高温保存試験)
実施例1〜3及び比較例1〜6のそれぞれの電池に対し、前記初期活性化工程における充電条件と同一の条件を採用して充電末状態とし、80℃の恒温槽中で14日間静置した。恒温槽から電池を取り出し、温度20℃において、前記初期活性化工程における放電条件と同一の条件を採用して定電流で放電を行った。このときの放電を便宜上「保存後放電」と命名し、このときの放電容量を「保存後放電容量(mAh)」として記録した。次に、前記初期活性化工程における充電条件と同一の条件を採用して充電を行い、さらに、前記初期活性化工程における放電条件と同一の条件を採用して定電流で放電を行った。このときの放電を便宜上「回復放電」と命名し、このときの放電容量を「回復放電容量(mAh)」として記録した。
(エネルギー保持率)
高温保存試験の結果を基に、各電池について次の算出式に従い「エネルギー保持率(%)」を算出した。
エネルギー保持率(%)=回復放電時のエネルギー(Wh)/初期放電時のエネルギー(Wh)×100
(電池の自己放電率)
同じく、高温保存試験の結果を基に、各電池について次の算出式に従い「電池の自己放電率(%)」を算出した。
電池の自己放電率(%)=(初期放電容量−保存後放電容量)/初期放電容量×100
(正極自己放電率)
さらに、高温保存試験の結果を基に、各電池について次の算出式に従い「正極自己放電率(%)」を算出した。なお、本願明細書にいう「正極自己放電率」は、下記定義から、自己放電量のうちの保存後の充電によって回復する量の初期放電容量に占める割合を表しているから、「可逆的保存後容量低下率」と換言可能である。
正極自己放電率(%)={(初期放電容量−保存後放電容量)−(初期放電容量−回復放電容量)}/初期放電容量×100
表1に本発明電池1〜3及び比較電池1〜6の「エネルギー保持率(%)」と「電池の自己放電率(%)」及び「正極自己放電率(%)」を示す。
Figure 0005070731
(電池の保存特性とビニレンカーボネート)
ビニレンカーボネートを含有する非水電解質を用いた本発明電池1〜3は、ビニレンカーボネートを含有しないことを除いてはそれぞれ同じ組成の非水電解質を用いた比較電池1〜3に比べて、非水電解質電池のエネルギー保持率、及び、正極自己放電率が改善されている。特に電解質塩として「イミド塩」を用いている電池についてみると、ビニレンカーボネートを含有しない非水電解質を用いた比較例1、2における正極自己放電率が大きいのに対し、ビニレンカーボネートを含有する非水電解質を用いた実施例1,2の正極自己放電率が顕著に向上し、且つ、高いエネルギー保持率を兼ね備えたものとなっている。推察ではあるが、このことは、これまでよく知られているような、グラファイトなどの炭素材料を用いた負極に対するビニレンカーボネートの添加効果だけではなく、本発明の様に正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用い、非水電解液の支持塩にリチウムイミド塩を用いた電池にビニレンカーボネートを添加した場合、リチウムイミド塩自体の正極での酸化分解やリチウムイミド塩による正極集電体の腐食がビニレンカーボネートと共存させることで何らかの形で抑制されているものと考えられる。
また、比較電池5、6を見ると分かるように、正極活物質としてLiCoOを用いた電池ではビニレンカーボネートを添加しても正極自己放電率に改善効果が見られない。これは、充電末でのLiCoOの電位がビニレンカーボネートの酸化分解電位を越えているために、負極の被膜形成で消費されなかったビニレンカーボネートが保存中に正極で酸化分解され、逆に正極自己放電を促進させる結果となっているためと考えられる。
(電池の保存特性とバインダー)
本発明電池1と比較電池4とを比較するとわかるように、バインダーにゴム系ポリマーを用いることで、高温保存後のエネルギー保持率と正極自己放電率が共に向上している。これは高温環境下で生じる正極の抵抗増加が劇的に抑制されていることに起因していると推察される。バインダーの軟化やそれに伴う膨張を抑えることで、活物質と導電剤との接触点が失われることが無く、正極の電気化学的特性を維持できることが証明された。従って、バインダーにゴム系ポリマーを使用することは、正極自己放電率とエネルギー保持特性の改善に大きく寄与している。
本発明は、コンシューマ用途はもちろんのこと、今後用途拡大が見込まれる産業用途の非水電解質電池への利用可能性が特に大きい。

Claims (2)

  1. リン酸鉄リチウム及びゴム系ポリマーを含有している正極と、負極と、ビニレンカーボネートを含有する非水電解質を用いて非水電解質電池を製造する非水電解質電池の製造方法。
  2. 前記非水電解質は、N(C2n+1SO)(C2m+1SOアニオン(n、mは1〜4の整数)を含有している請求項1記載の非水電解質電池の製造方法。
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