本発明に係る車輌の制動装置についての実施例を図1から図9に基づいて説明する。
最初に、本実施例の制動装置の適用対象となる車輌の一例を図1に基づいて説明する。この図1に示す車輌は、前輪10FL,10FRを内燃機関等の原動機20で駆動させ、後輪10RL,10RRを電動機30で駆動させる所謂ハイブリッド車輌である。
先ず、このハイブリッド車輌においては、原動機20の動作を制御する原動機制御手段としての電子制御装置(以下、「原動機ECU」という。)21が用意されており、この原動機ECU21によって原動機20の始動制御や出力制御等が実行される。例えば、原動機20がガソリン燃料で動く内燃機関であれば、この原動機20は、その原動機ECU21によって吸入空気量や燃料噴射量、点火時期等が制御され、要求値に応じた軸出力トルクを発生させる。このハイブリッド車輌においては、その軸出力トルクが差動装置も含む変速機(所謂トランスアクスル)40を介して前輪10FL,10FRに伝達される。この変速機40は、有段無段を問わぬ自動変速機や自動変速モード付きの手動変速機等の様な変速比を自動で変更できるものであり、その変速動作を制御する変速機制御手段としての電子制御装置(以下、「変速機ECU」という。)41によって要求値に応じた変速段又は変速比への変速制御が実行される。
尚、近年においては原動機ECU21に変速機ECU41の機能を持たせて統合させることがあるので、かかる場合には、原動機ECU21によって変速機40の変速制御が実行される。
更に、このハイブリッド車輌においては、電動機30の動作を制御する電動機制御手段としての電子制御装置(以下、「電動機ECU」という。)31が用意されており、この電動機ECU31によって電動機30の軸出力制御が実行される。一般に、電動機30は出力可能な軸出力の最大値が決められているので、その電動機ECU31は、その最大値までの範囲内で要求値に応じた軸出力を発生させるように電動機30の駆動制御を行う。この電動機30は、図1に示す高電圧バッテリ50からの供給電力や発電時のオルタネータ22からの供給電力によって駆動する。ここでは、これ1つで左右夫々の後輪10RL,10RRに駆動力を発生させる電動機30について例示する。これが為、この車輌には、その電動機30の軸出力トルクを減速して左右夫々の後輪10RL,10RRに伝える動力伝達手段32が用意されている。例えば、この動力伝達手段32は、減速ギヤやディファレンシャルギヤを備えている。
ここで、本実施例の電動機(第1車輌制動力発生手段)30は、発電機として作動させることによって運動エネルギを電気エネルギに変換し、車輌に働かせる回生車輌制動力(第1車輌制動力)を発生させる。本実施例においては、その回生車輌制動力が夫々の後輪10RL,10RRに各々回生車輪制動力(第1車輪制動力)として配分して作用する。つまり、ここでは、その電動機30が本車輌の制動装置の一端をも担っている。従って、電動機ECU31は、制動要求時等、後輪10RL,10RRに制動力を働かせる必要があるときに、電動機30を発電機として作動させ、その夫々の後輪10RL,10RRに対して回生車輪制動力を働かせる。その際に発生した電力は、高電圧バッテリ50に蓄電される。尚、その高電圧バッテリ50にはオルタネータ22からの供給電力も蓄電され、そのオルタネータ22の供給電力は、図1に示す低電圧バッテリ51にも蓄電される。その低電圧バッテリ51の電力は、例えば、原動機20のスタータを駆動させる際に使用される。
本車輌の制動装置は、上述した回生制動時の電動機30だけでなく、車輌に対して摩擦等で機械的な制動力を発生させる機械車輌制動力発生手段(第2車輌制動力発生手段)も備えている。この機械車輌制動力発生手段は、その機械車輌制動力(第2車輌制動力)を全ての車輪10FL,10FR,10RL,10RRに既定の配分比で配分して作用させるものであり、その配分された機械車輪制動力(第2車輪制動力)を夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに働かせる。例えば、本実施例の機械車輌制動力発生手段としては、油圧の力により夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに機械的な制動トルクを付与して機械車輪制動力を発生させる所謂一般的な油圧ブレーキを例示する。これが為、以下においては、この機械車輌制動力発生手段を「油圧車輌制動力発生手段」といい、この油圧車輌制動力発生手段によって発生させられた機械車輌制動力及び機械車輪制動力を夫々「油圧車輌制動力」及び「油圧車輪制動力」という。
具体的に、ここで例示する油圧車輌制動力発生手段は、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに配設したキャリパーやブレーキパッド、ディスクロータ等からなる油圧制動手段61FL,61FR,61RL,61RRと、これら各油圧制動手段61FL,61FR,61RL,61RRのキャリパーに対して各々に油圧(即ち、作動流体としてのブレーキ液)を供給する油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRと、運転者により操作されるブレーキペダル63と、このブレーキペダル63に入力された運転者の操作圧力(ペダル踏力)を倍化させる制動倍力手段(ブレーキブースタ)64と、この制動倍力手段64により倍化されたペダル踏力をブレーキ液の液圧(油圧)へと変換するマスタシリンダ65と、その変換された油圧配管66内の油圧をそのまま又は調圧して各油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRに伝える作動流体圧力調節部(以下、「ブレーキアクチュエータ」という。)67と、を備えている。
ここで、本実施例のブレーキアクチュエータ67は、油圧配管66内の油圧を予め設定された一定の配分比で夫々の油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRに伝えるよう構成しておく。例えば、このブレーキアクチュエータ67は、オイルリザーバ,オイルポンプ,夫々の油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRの油圧を各々に増減する為の増減圧制御弁の如き種々の弁装置等を含み、その弁装置等を電子制御装置(油圧制動ECU)68に駆動制御させることによって所謂ABS制御やブレーキアシスト制御等が行われるように構成されている。
その増減圧制御弁は、ABS非制御時等の通常時には運転者による要求車輌制動力に応じた油圧を各油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRに伝える。その要求車輌制動力とは、運転者がブレーキペダル63の操作によって得たい車輌減速度を車輌に働かせる為の総制動力のことであり、マスタシリンダ65の油圧、つまりペダル踏力センサ81により検出された倍化後のペダル踏力に基づいて求めることができる。一方、この増減圧制御弁は、ABS制御時等のように必要に応じて油圧制動ECU68によってデューティ比制御され、運転者による要求車輌制動力や各車輪10FL,10FR,10RL,10RRのスリップ率等に応じた油圧を各油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRに発生させる。
ここで、本実施例のハイブリッド車輌は、全ての車輪10FL,10FR,10RL,10RRに常時駆動力を働かせる四輪駆動車(所謂フルタイム4WD車)であってもよく、通常は前輪10FL,10FRのみに駆動力を働かせ、その前輪10FL,10FRのスリップ率等を観ながら必要に応じて後輪10RL,10RRにも駆動力を働かせる四輪駆動車(所謂スタンバイ式4WD車)であってもよい。尚、そのスタンバイ式4WD車の前輪10FL,10FRと後輪10RL,10RRの関係は逆であってもよい。また、このハイブリッド車輌は、高電圧バッテリ50や低電圧バッテリ51の蓄電量、要求駆動力等に応じて原動機20を停止させ、電動機30のみで駆動させるものであってもよい。これが為、ハイブリッド車輌においては、その何れの場合であっても、車輌の挙動安定化等の観点から前輪10FL,10FRと後輪10RL,10RRの駆動力の関係を総合的に判断して夫々に最適な車輪駆動力を発生させる必要がある。また、車輌の挙動を安定させる為には、原動機20の軸出力トルクや夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRの制動力の協調制御が行われることが好ましい。このようなことから、本実施例のハイブリッド車輌には、原動機20や電動機30、変速機40や油圧車輌制動力発生手段(ブレーキアクチュエータ67)の協調制御を実行させる電子制御装置(以下、「総合ECU」という。)70が用意されている。この総合ECU70は、原動機ECU21,電動機ECU31,変速機ECU41及び油圧制動ECU68の夫々の間で制御指令や制御要求値、各種センサの検出信号等の授受を行い、最適な車輌駆動力制御や車輌制動力制御等を実行させる。ここでは、後述する要求油圧車輌制動力Fbrakeと要求回生車輌制動力Fmotorと要求外的車輌制動力Fetcを求めて設定する車輌制動力設定手段が総合ECU70に設けてある。また、この車輌制動力設定手段は、後述する運転者の要求車輌制動力Fdriverについての演算及び設定機能も有している。
ところで、車輌においては、その挙動について安定化への積極的な制御を行うときがあり、そのような制御の実行条件(以下、「車輌挙動積極制御条件」という。)になったときの様々な制御動作の1つとして制動制御が行われる。例えば、その車輌挙動積極制御条件とは、雪氷路等の摩擦係数の低い路面(低μ路)を走行している低μ路条件、より高回転側で変速機40を変速させる等の所謂スポーツ走行をしているスポーツ走行条件(換言すれば、高回転側で変速機を変速させる変速条件)、アンチロックブレーキシステム(ABS)が作動しているABS作動条件などが該当する。つまり、低μ路走行の場合には、運転者によって制動動作が行われたときに車輪10FL,10FR,10RL,10RRがロックし易くなる。また、スポーツ走行の場合には、運転者が急制動を行う傾向が高く、車輪10FL,10FR,10RL,10RRがロックし易くなっている。これが為、これらの場合には、車輪10FL,10FR,10RL,10RRがロックして車輌の挙動を乱さないようにABSを作動させ、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRの制動力の増減制御を行う。
ここで、その車輌挙動積極制御条件下で行われる制動制御については、車輌の挙動の適切な安定化を図る為に、その条件以外の通常制動制御のときよりも緻密で且つ速やかに制動力を増減させることが望まれる。従って、この車輌挙動積極制御条件下での制動制御は、油圧車輪制動力に比べて発生時の応答性に優れる回生車輪制動力を増減させることによって行う方が好ましい。つまり、油圧車輪制動力は、作動油(ブレーキ液)の圧力が油路(マスタシリンダ65から夫々の油圧制動手段61FL,61FR,61RL,61RRのキャリパーまでの油路)を伝わるまでに時間がかかり、その油路の分だけ遅れて発生するので、応答性の点で回生車輪制動力に劣る。これが為、応答性良く的確に制動力を増減させる為には、回生車輪制動力の増減制御によって行うことが望ましい。
また、油圧車輪制動力を増減させる際には、ブレーキアクチュエータ67が油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRの圧力の増減制御を油圧車輌制動力とその配分比に応じて行う。従って、その圧力を増加させたときには、増圧の為に必要な作動油(ブレーキ液)が上流側の油圧配管66やマスタシリンダ65から油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRへと送られるので、運転者がペダル踏力(換言すれば、ペダル踏み込み量)を一定に保っているにも拘わらず、その油圧配管66やマスタシリンダ65の減圧(負圧)によってブレーキペダル63が奥へと吸い込まれてしまう。一方、その圧力を減少させたときには、減圧に伴う作動油が下流側の油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRからマスタシリンダ65へと戻されるので、運転者がペダル踏力を一定に保っているにも拘わらず、そのマスタシリンダ65の増圧(正圧)によってブレーキペダル63が運転者側に押し戻されてしまう。つまり、油圧車輪制動力の増減制御を行った場合には、そのようなブレーキペダル63のペダルフィーリングの悪化を運転者に感じさせてしまう可能性がある。これが為、車輌挙動積極制御条件下で制動制御させるときには、ペダルフィーリングの悪化を招くことのない回生車輪制動力の増減制御によって行うことが好ましい。
しかしながら、本車輌は、後輪10RL,10RRのみにしか回生車輪制動力を働かせることができないので、車輌の挙動安定化という観点からすれば、制動制御を回生車輪制動力のみで行うことは好ましくない。
また、本実施例の油圧車輌制動力発生手段は油圧車輌制動力を既定の配分比で夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに配分するので、特に低μ路で油圧車輪制動力と回生車輪制動力を同時に発生させた場合には、後輪10RL,10RRの制動力が回生車輪制動力の分だけ前輪10FL,10FRよりも大きくなり、その後輪10RL,10RRがロックし易くなって車輌の挙動を乱してしまう可能性がある。
そこで、本実施例においては、電動機30の回生車輌制動力と油圧車輌制動力発生手段の油圧車輌制動力以外の第3車輌制動力(以下、「外的車輌制動力」という。)を車輌に働かせる外的制動力発生手段(第3車輌制動力発生手段)を用意し、その外的車輌制動力の内の少なくとも1つを回生車輪制動力の働く車軸とは異なる車軸の車輪(即ち、ここでは前輪10FL,10FR)に配分して第3車輪制動力(以下、「外的車輪制動力」という。)を作用させるようにする。
例えば、その外的制動力発生手段としては、エンジンブレーキ制御手段(原動機ECU21及び変速機ECU41)やオルタネータ22等の原動機20の動作に伴うものが考えられ、その内の少なくとも1つを利用する。
エンジンブレーキ制御手段を利用するときには、エンジンブレーキトルクを発生又は増加させるように総合ECU70が原動機ECU21や変速機ECU41に指示を与え、そのエンジンブレーキトルクによって車輌に外的車輌制動力が働くようにする。例えば、原動機20と変速機40との間のクラッチ42が切れている場合には、そのクラッチ42を繋ぐことによってエンジンブレーキトルクを発生させる。一方、クラッチ42が繋がって既にエンジンブレーキが働いている場合には、変速機40をダウンシフト制御することによってエンジンブレーキトルクを増加させる。ここで、その何れの場合においても、原動機20が駆動していればこれを停止させる。このときの外的車輌制動力については、例えば、機関回転数や変速段又は変速比をパラメータとするマップデータを予め用意しておき、このマップデータから求めさせるようにすればよい。
また、オルタネータ22は、一般に図示しないベルトやプーリを介して原動機20のクランク軸に連結されており、これが駆動すれば原動機20の負荷となるので、結果的にエンジンブレーキトルクを増加させることになる。例えば、オルタネータ22がクランク軸の回転にのみ連動するものである場合には、総合ECU70が原動機ECU21や変速機ECU41に指示を与えて上記の如くエンジンブレーキトルクを発生又は増加させればよく、これによりオルタネータ22を外的制動力発生手段として利用することができる。この場合のオルタネータ22によって発生する外的車輌制動力については、例えば、機関回転数をパラメータとするマップデータを予め用意しておき、このマップデータから求めさせるようにすればよい。更に、オルタネータ22がクランク軸の回転に依存することなく駆動又は停止させることのできるものである場合には、オルタネータ22を駆動させ又は発電量若しくは充電量を増加させるように総合ECU70が原動機ECU21に指示を与え、負荷を増やしてエンジンブレーキトルクの増加を図ればよい。この場合のオルタネータ22によって発生する外的車輌制動力については、例えば、機関回転数やオルタネータ22の回転数をパラメータとするマップデータを予め用意しておき、このマップデータから求めさせるようにすればよい。
具体的に、本実施例においては、車輌挙動積極制御条件の場合、全ての車輪10FL,10FR,10RL,10RRに油圧車輪制動力を働かせると共に、前輪10FL,10FRに外的車輪制動力を働かせ、且つ後輪10RL,10RRに回生車輪制動力を働かせる。
より具体的には、先ず、応答性の悪化やペダルフィーリングの悪化を抑えるべく、車輌に働かせる油圧車輌制動力が一定に保たれるように制動制御を行う。つまり、この場合には、運転者による要求車輌制動力Fdriverが変わらなければ同じ大きさの油圧車輌制動力を発生させ続けるように油圧車輌制動力発生手段のブレーキアクチュエータ67を制御する。
また、この車輌挙動積極制御条件においては、その条件に最適な前後輪の制動力配分比(以下、「最適前後輪制動力配分比」という。)γ0が存在している。ここで例示する最適前後輪制動力配分比γ0は、前輪10FL,10FRに働かせる前輪制動力FFRと後輪10RL,10RRに働かせる後輪制動力FRRとを用いて下記の式1の如く表す。
γ0=FFR/FRR … (1)
例えば、この最適前後輪制動力配分比γ0は、ABS作動時であっても、路面摩擦係数や制動開始時の車速の違いによって、また、低μ路走行時とスポーツ走行時との違いによって異なり、予め実験やシミュレーションを行って求めておくことができる。
ここで、本実施例においては、固定された配分比で要求油圧車輌制動力Fbrakeが前後輪に配分される。つまり、要求油圧車輌制動力Fbrakeは、その配分比に基づき前輪10FL,10FRの要求油圧車輌制動力Fbrake-FRと後輪10RL,10RRの要求油圧車輌制動力Fbrake-RRとに分けられる。従って、ここでは、前輪10FL,10FRの要求回生車輌制動力Fmotorと後輪10RL,10RRの要求外的車輌制動力Fetcの車輌挙動積極制御条件に応じた下記の式2の配分比(以下、「前後輪制動力配分比」という。)γを明らかにし、その前後輪制動力配分比γとなるように要求回生車輌制動力Fmotorと要求外的車輌制動力Fetcを発生させれば、最適前後輪制動力配分比γ0で前後輪に制動力を働かせることが可能になる。
γ=Fetc/Fmotor … (2)
その要求油圧車輌制動力Fbrakeとは、ブレーキアクチュエータ67を作動させることによって車輌に働かせる油圧車輌制動力の要求値である。一方、その要求外的車輌制動力Fetcとは、上述した種々の外的制動力発生手段の内の少なくとも1つを作動させることによって車輌に働かせる外的車輌制動力の要求値である。
また、例えば、この前後輪制動力配分比γは、最適前後輪制動力配分比γ0と同様に路面摩擦係数や制動開始時の車速の違い等によって異なるので、車輌挙動積極制御条件に応じて各々実験やシミュレーションを行い、その結果に基づいて予めマップデータ等として用意しておく。
尚、上記式1の最適前後輪制動力配分比γ0は、前輪10FL,10FRに働かせる要求油圧車輌制動力Fbrake-FR及び要求外的車輌制動力Fetcと、後輪10RL,10RRに働かせる要求油圧車輌制動力Fbrake-RR及び要求回生車輌制動力Fmotorと、を用いて下記の式3の如く表すこともできる。
γ0=Fbrake-FR+Fetc/Fbrake-RR+Fmotor … (3)
更に、上述した車輌挙動積極制御条件下の制動制御時ではなくても、つまり通常制動制御時であっても、車速によっては次のような事象が起こってしまい、上述した外的車輌制動力が必要とされる場合がある。具体的に、本実施例の制動装置の一端を担っている電動機30は、その特性により高回転になると運動エネルギから電気エネルギへの変換効率が低下していくので、高車速域においては車速が高くなるにつれて回生制動力の最大値(最大限界値)が低くなっていってしまう。ここでは、その電気エネルギへの変換効率の低下が見受けられるまでの車速域を通常車速域と称し、その電気エネルギへの変換効率の低下が見受けられる車速域を高車速域と称する。従って、通常制動制御時においては、既に電動機30が回生制動力の最大値で駆動している場合、高車速域にて車速が高いほど要求車輌制動力Fdriverに対する実際の車輌制動力が小さくなるので、その差を埋める大きさの車輌制動力を電動機30以外から発生させなければならない。以下においては、高車速域におけるかかる場合の条件のことを「高車速域条件」という。尚、ここでは、運転者による要求車輌制動力Fdriverに変化がないものとする。
そこで、本実施例においては、その高車速域条件のときにも、上述した車輌挙動積極制御条件下の制動制御時と同様に応答性の悪化やペダルフィーリングの悪化を抑えるべく油圧車輌制動力を一定に保たせる一方で、外的制動力発生手段の外的車輌制動力を以て高車速域における車輌制動力の不足分を補填させる。
以下に、この本実施例の制動装置の動作の一例を図2のフローチャートに基づいて説明する。
先ず、総合ECU70は、車輌が現在制動中であるのか否かについて判断する(ステップST1)。かかる判断は、例えば、ペダル踏力センサ81の検出信号を受信したか否かを観ることによって行うことができる。
この総合ECU70は、制動中でなければ本処理を一旦終え、制動中であれば運転者のブレーキペダル63の操作に伴う要求車輌制動力Fdriverの算出を行う(ステップST2)。ここで、その要求車輌制動力Fdriverは、運転者の制動要求が反映されているペダル踏力センサ81の検出値に基づいて、例えば予め用意してあるマップデータを用いて設定させる。そのマップデータは、ペダル踏力センサ81の検出値をパラメータにして要求車輌制動力Fdriverを導き出すものである。
そして、この総合ECU70は、その要求車輌制動力Fdriverを求めた後、上述した車輌挙動積極制御条件に合致しているのか否かについての判定を行う(ステップST3)。
例えば、かかる判定は、低μ路走行のときであれば、ABSが作動中であるのか否か、低μ路走行に最適な車輌駆動力制御や車輌制動力制御等を車輌側で実行させる所謂スノーモードスイッチがON状態になっているのか否か、路面の摩擦係数の大きさ等を利用して行う。つまり、低μ路走行時には、ABS作動中のとき、スノーモードスイッチがON状態になっているとき、路面の摩擦係数が所定値(予め実験等を行って設定しておく)よりもちいさくなっているときに、車輌挙動積極制御条件に合致しているとの判定を行う。
また、スポーツ走行の場合には、例えば通常走行モードからスポーツ走行モードへと変更させる為の所謂スポーツ走行モードがON状態になっているのか否か、ABSが作動中であるのか否か等を利用して行う。つまり、この場合には、スポーツ走行モードがON状態になっているときやABS作動中のときに、車輌挙動積極制御条件に合致しているとの判定を行う。
総合ECU70は、そのステップST3にて車輌挙動積極制御条件であるとの判定を行った場合、その車輌挙動積極制御条件に応じた前後輪制動力配分比γを上述したマップデータ等から求める(ステップST4)。
続いて、この総合ECU70は、例えば車速センサ82の検出値に基づき取得した現在の車速Vにおける回生車輌制動力の最大値Fmotor-maxの算出を行い(ステップST5)、更に要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proを求める(ステップST6)。
その回生車輌制動力の最大値Fmotor-maxとは、本実施例の電動機30がその車速Vにおいて夫々の後輪10RL,10RRに働かせることのできる回生車輪制動力の最大値の総和であり、その電動機30の性能に依存する固有値として予め設定しておくこともできる。従って、ここでの例示とは異なり各後輪10RL,10RRに1つずつ電動機(所謂インホイールモータ等)が配されている場合には、その夫々の電動機が各々に発生させる回生車輪制動力の最大値の総和をステップST5にて算出させればよい。
一方、その要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proは、要求車輌制動力Fdriverよりも小さく且つ回生車輌制動力の最大値Fmotor-max以下であり、例えば高電圧バッテリ50への現状で蓄電可能な容量等を考慮して決定する。例えば、図3に示す制動開始車速が通常車速域のときの或る一例においては、その要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proを回生車輌制動力の最大値Fmotor-maxよりも小さな値に定める。また、図4に示す制動開始車速が高車速域のときの或る一例においては、その要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proを回生車輌制動力の最大値Fmotor-maxに定める。
ここで、その通常車速域の場合には、要求車輌制動力Fdriverの大きさにも依るが、回生車輌制動力の最大値Fmotor-maxやこれと同等の大きさに要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proを設定しない方がよい。何故ならば、そのように大きな値に要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proを設定してしまったときには、前後輪制動力配分比γとなるよう要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proを設定することによって、全体の車輌制動力が要求車輌制動力Fdriverを超えてしまう虞があるからである。従って、高車速域であっても通常車速域に近い場合には、同様の理由から要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proを回生車輌制動力の最大値Fmotor-maxやこれと同等の大きさに設定しない方が好ましい。
そして、この総合ECU70は、上記式2の「Fetc」と「Fmotor」に各々要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proと要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proを当て嵌めた下記の変形式(式4)に基づいて、その要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proを求める(ステップST7)。つまり、このステップST7においては、その式4にステップST4の前後輪制動力配分比γとステップST6の要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proを代入し、これにより要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proの算出を行う。
Fetc-pro=F motor-pro ×γ … (4)
また、この総合ECU70には、上述した種々の外的制動力発生手段の全てを同時に作動させることによって車輌に対して発生可能な外的車輌制動力の最大値Fetc1を演算させ(ステップST8)、要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proがその外的車輌制動力の最大値Fetc1以下であるのか否かについて判定させる(ステップST9)。つまり、ここでは、本車輌の外的制動力発生手段が要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proを車輌に働かせることができるのか否かについての判断が為される。
このステップST9で肯定判定されて本車輌の外的制動力発生手段によって要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proを発生させることができると判った場合、総合ECU70は、その暫定値Fetc-proを要求外的車輌制動力Fetcとして設定し(ステップST10)、且つ、上記ステップST6の要求回生車輌制動力の暫定値Fmotor-proを要求回生車輌制動力Fmotorとして設定する(ステップST11)。
一方、そのステップST9で否定判定されて本車輌の外的制動力発生手段では要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proを発生させることができないと判った場合、この総合ECU70は、外的制動力発生手段で現状において発生させることのできる外的車輌制動力の最大値Fetc1を要求外的車輌制動力Fetcとして設定する(ステップST12)。そして、この総合ECU70は、その要求外的車輌制動力Fetcと上記ステップST4の前後輪制動力配分比γを上記式2の変形式に代入して要求回生車輌制動力Fmotorを求める(ステップST13)。
この総合ECU70は、そのようにして要求外的車輌制動力Fetcと要求回生車輌制動力Fmotorの設定を行った後、そのステップST10,ST11又はステップST12,ST13の要求外的車輌制動力Fetc及び要求回生車輌制動力Fmotorと上記ステップST2の要求車輌制動力Fdriverとを下記の式5に代入して要求油圧車輌制動力Fbrakeを求める(ステップST14)。
Fbrake=Fdriver−Fetc−Fmotor … (5)
そして、本実施例の総合ECU70は、そのようにして設定した要求外的車輌制動力Fetcと要求回生車輌制動力Fmotorと要求油圧車輌制動力Fbrakeが車輌に働くよう、夫々に原動機ECU21や変速機ECU41の双方又は一方,電動機ECU31及び油圧制動ECU68に対して指示を与える(ステップST15)。その際、総合ECU70は、制御対象となる外的制動力発生手段の指令値(エンジンブレーキの大きさに係る指令値)がその要求外的車輌制動力Fetcとなるように算出する。また、かかる指示は、運転者による要求車輌制動力Fdriverが変わるまで継続させる。
これにより、例えば図3に示すように制動開始車速が通常車速域の場合には、要求外的車輌制動力Fetcと回生車輌制動力の最大値Fmotor-maxよりも小さい要求回生車輌制動力Fmotorとが車輌挙動積極制御条件に応じた前後輪制動力配分比γで車輌に働き、更に、要求車輌制動力Fdriverに対する残りの要求油圧車輌制動力Fbrakeが車輌に働く。一方、図4に示す制動開始車速が高車速域の場合には、要求外的車輌制動力Fetcと回生車輌制動力の最大値Fmotor-max以下の要求回生車輌制動力Fmotorとが車輌挙動積極制御条件に応じた前後輪制動力配分比γで車輌に働き、更に、要求車輌制動力Fdriverに対する残りの要求油圧車輌制動力Fbrakeが車輌に働く。
そして、その何れの場合においても要求車輌制動力Fdriverが変更されるまでは、要求外的車輌制動力Fetcと要求回生車輌制動力Fmotorと要求油圧車輌制動力Fbrakeを制動開始車速時と同じ大きさに保ったまま車速を低下させていく。つまり、車輌には、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRの油圧車輪制動力が変動されることなく運転者の要求車輌制動力Fdriverが働いている。従って、ここでは、それ以上ブレーキアクチュエータ67を駆動制御させる必要が無く、油圧車輌制動力発生手段における油路(油圧配管66等)の油圧変化が生じないので、ブレーキペダル63の吸い込みや押し戻しを的確に防ぐことができる。尚、高車速域においては、上述したように電動機30における回生車輌制動力の最大値Fmotor-maxが通常車速域よりも小さくなっているが、その最大値Fmotor-maxは車速が低下していくほどに大きくなっていくので、車速が低下しても十分に制動開始車速時と同じ大きさの要求回生車輌制動力Fmotorを出力し続けることができる。
また、ここでは、車輌挙動積極制御条件に応じた適切な最適前後輪制動力配分比γ0で前後輪に車輌制動力が配分されるので、その車輌挙動積極制御条件に沿った最適な制動制御を行うことができ、車輌の挙動を安定させることができる。
尚、その何れの場合においても、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRには、各々の要求油圧車輪制動力と要求回生車輪制動力が作用して運転者のブレーキペダル63の操作に応じた各々の要求車輪制動力が働く。
ところで、本実施例の総合ECU70は、上記ステップST3にて車輌挙動積極制御条件ではないとの判定を行った場合に、通常制動制御時における要求外的車輌制動力Fetcと要求回生車輌制動力Fmotorと要求油圧車輌制動力Fbrakeの設定を行う(ステップST16)。
例えば、このステップST16の設定動作は、図5のフローチャートに示す如くして行う。
先ず、総合ECU70は、電動機30の通常車速域における回生車輌制動力の最大値Fmotor0の算出を行う(ステップST16A)。ここで求める通常車速域の回生車輌制動力の最大値Fmotor0とは、図6に示す通常車速域全域においての回生車輌制動力の最大値Fmotor0を指す。尚、上述したステップST6においても説明したが、ここでの例示とは異なって各後輪10RL,10RRに1つずつ電動機(インホイールモータ等)が配されている場合には、その夫々の電動機が通常車速域において各々に発生させる回生車輪制動力の最大値の総和をそのステップST16Aで算出させればよい。
続いて、この総合ECU70は、現在の車速Vが閾値たる所定の基準車速V0以上になっているのか否かについての判定を行う(ステップST16B)。その基準車速V0とは、電動機30の電気エネルギへの変換効率の低下が起こる最低車速のことであり、上述した通常車速域と高車速域との境界の車速のことをいう。つまり、このステップST16Bにおいては、現在の車速Vが高車速域に達しているのか否かを判断している。
このステップST16Bで否定判定されて現在の車速Vが電動機30の通常車速域にあると判断された場合、総合ECU70は、上記ステップST2の要求車輌制動力Fdriverと通常車速域における現在の車速Vの回生車輌制動力の最大値Fmotor0を下記の式6に代入して要求油圧車輌制動力Fbrakeを求める(ステップST16C)。ここでは、図6に示す通常車速域における回生車輌制動力の最大値Fmotor0が車輌に働くよう電動機30を駆動させる。これが為、このステップST16Cでは、そのときの要求車輌制動力Fdriverに対する不足分である図6に示す要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)が算出される。
Fbrake=Fdriver−Fmotor0 … (6)
一方、上記ステップST16Bで肯定判定されて現在の車速Vが電動機30の高車速域にあると判断された場合、総合ECU70は、その高車速域の現在の車速Vに応じた回生車輌制動力の最大値Fmotor1を算出し(ステップST16D)、これを要求回生車輌制動力Fmotorとして設定する(ステップST16E)。そのステップST16Dでは、例えば、これらの対応関係をマップデータとして用意しておき、このマップデータを利用してその回生車輌制動力の最大値Fmotor1を求める。
そして、この総合ECU70は、通常車速域の回生車輌制動力の最大値Fmotor0と上記ステップST16Eの要求回生車輌制動力Fmotor(つまり、高車速域における現在の車速Vの回生車輌制動力の最大値Fmotor1)を下記の式7に代入して要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proを求める(ステップST16F)。ここでは、通常車速域における回生車輌制動力の最大値Fmotor0に対してのエネルギ変換効率の低下に相当する減少分たる図6に示す要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)が算出される。
Fetc-pro=Fmotor0−Fmotor1 … (7)
本実施例の総合ECU70は、上記ステップST8,ST9と同様に、外的車輌制動力の最大値Fetc1を演算し(ステップST16G)、要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proがその最大値Fetc1以下であるのか否かについて判定する(ステップST16H)。つまり、このステップST16Hにおいても、本車輌の外的制動力発生手段が要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proを車輌に働かせることができるのか否か判断される。
そのステップST16Hで肯定判定されて本車輌の外的制動力発生手段によって要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proを満たすことができると判った場合、総合ECU70は、その暫定値Fetc-pro(=Fetc0)を要求外的車輌制動力Fetcとして設定し(ステップST16I)、その要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)と上記ステップST2の要求車輌制動力Fdriverと上記ステップST16Eの要求回生車輌制動力Fmotor(つまり、高車速域における現在の車速Vの回生車輌制動力の最大値Fmotor1)を下記の式8に代入して要求油圧車輌制動力Fbrakeを求める(ステップST16J)。つまり、ここでは、通常車速域の要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)がこの高車速域においても一定に保たれるような図6に示す要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)の設定が為されている。
Fbrake=Fdriver−Fetc0−Fmotor1 … (8)
一方、上記ステップST16Hで否定判定されて本車輌の外的制動力発生手段では要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proを発生させることができないと判った場合、総合ECU70は、その外的制動力発生手段により発生させることのできる外的車輌制動力の最大値Fetc1を要求外的車輌制動力Fetcとして設定し(ステップST16K)、その要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc1)と上記ステップST2の要求車輌制動力Fdriverと上記ステップST16Eの要求回生車輌制動力Fmotor(つまり、高車速域における現在の車速Vの回生車輌制動力の最大値Fmotor1)を下記の式9に代入して要求油圧車輌制動力Fbrakeを求める(ステップST16L)。つまり、ここでは、図7に示す如く、最大限の回生車輌制動力(回生車輌制動力の最大値Fmotor1)と要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc1)を電動機30と外的制動力発生手段で発生させ、要求車輌制動力Fdriverに対する残りを油圧車輌制動力発生手段から発生させるように要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake1)が設定される。
Fbrake=Fdriver−Fetc1−Fmotor1 … (9)
このようにして通常制動制御時において必要とされる要求外的車輌制動力Fetc、要求回生車輌制動力Fmotorや要求油圧車輌制動力Fbrakeが設定された後、総合ECU70は、上記ステップST15に進む。
例えば、通常車速域のステップST15において総合ECU70は、電動機ECU31と油圧制動ECU68に対して、夫々に要求回生車輌制動力Fmotor(上記ステップST16Aの回生車輌制動力の最大値Fmotor0)と上記ステップST16Cの要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)を発生させるべく指示を与える。これにより、電動機ECU31は、その要求回生車輌制動力Fmotorが後輪10RL,10RRに対して例えば均等に配分されるよう電動機30を発電機として作動させる。一方、油圧制動ECU68は、その要求油圧車輌制動力Fbrakeが夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに対して既定の配分比で配分されるように油圧車輌制動力発生手段のブレーキアクチュエータ67を駆動制御する。
従って、通常制動制御時で通常車速域の場合には、その回生車輌制動力の最大値Fmotor0と要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)が車輌に働くこととなり、これが為に車輌に対して運転者の要求車輌制動力Fdriverを作用させることができる。尚、その際、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRにおいては、各々の要求油圧車輪制動力と要求回生車輪制動力が作用して運転者のブレーキペダル63の操作に応じた各々の要求車輪制動力が働く。
一方、高車速域のステップST15において総合ECU70は、原動機ECU21や変速機ECU41の双方又は一方,電動機ECU31及び油圧制動ECU68に対して、夫々に要求外的車輌制動力Fetcと要求回生車輌制動力Fmotorと要求油圧車輌制動力Fbrakeを発生させるべく指示を与える。そして、これにより、原動機ECU21や変速機ECU41の双方又は一方は、その要求外的車輌制動力Fetcとなるように制御対象とする外的制動力発生手段への指令値(エンジンブレーキの大きさに係る指令値)を算出し、これに基づいて制御対象の外的制動力発生手段の駆動制御を行う。また、電動機ECU31は、その要求回生車輌制動力Fmotorが後輪10RL,10RRに対して例えば均等に配分されるよう電動機30を発電機として作動させる。また、油圧制動ECU68は、その要求油圧車輌制動力Fbrakeが夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRに対して既定の配分比で配分されるように油圧車輌制動力発生手段のブレーキアクチュエータ67を駆動制御する。尚、その際、夫々の車輪10FL,10FR,10RL,10RRにおいては、各々の要求外的車輪制動力と要求油圧車輪制動力と要求回生車輪制動力が作用して運転者のブレーキペダル63の操作に応じた各々の要求車輪制動力が働く。
具体的に、通常制動制御時の高車速域で且つ本車輌の外的制動力発生手段によって要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)を発生させることができる場合には、上記ステップST16Iの要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)と、上記ステップST16Eの要求回生車輌制動力Fmotor(=Fmotor1)と、上記ステップST16Jの要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)と、を発生させるべく指示を与える。これにより、この場合には、その要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0),回生車輌制動力の最大値Fmotor1及び要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)が車輌に働くこととなり、これが為に車輌に対して運転者の要求車輌制動力Fdriverを作用させることができる。つまり、ここでは、電動機30のエネルギ変換効率の低下に拘わらず、ブレーキアクチュエータ67を要求車輌制動力Fdriverに応じた通常車速域と同じ大きさの要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)となるよう駆動制御すればよい。従って、この場合には、それ以上ブレーキアクチュエータ67を駆動制御させる必要が無く、油圧車輌制動力発生手段における油路(油圧配管66等)の油圧変化が生じないので、ブレーキペダル63の吸い込みや押し戻しを的確に防ぐことができる。
また、通常制動制御時の高車速域で且つ本車輌の外的制動力発生手段によって要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)を発生させることができない場合には、上記ステップST16Kの要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc1)と、上記ステップST16Eの要求回生車輌制動力Fmotor(=Fmotor1)と、上記ステップST16Lの要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake1)と、を発生させるべく指示を与える。これにより、この場合には、その要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0),回生車輌制動力の最大値Fmotor1及び要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake1)が車輌に働くこととなり、これが為に車輌に対して運転者の要求車輌制動力Fdriverを作用させることができる。つまり、ここでは、仮に要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)が予期していた以上に大きかったとしても、油圧車輌制動力発生手段の油圧車輌制動力で要求車輌制動力Fdriverへの不足分を補うことができるので、車輌減速度不足を運転者に感じさせずに済む。
ここで、本車輌は制動開始と共に車速Vが低下していくので、通常制動制御時の高車速域においては、電動機30による回生車輌制動力の最大値Fmotor1が増えていく。本実施例においては、このような場合でも、要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)が一定に保持されたままその回生車輌制動力の最大値Fmotor1の増加分だけ小さくなった要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc1)を設定して、運転者の要求車輌制動力Fdriverを満足させる。つまり、ここでは、このような場合においてもブレーキアクチュエータ67が油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRの減圧制御を行わないので、その減圧に要する作動油(ブレーキ液)が下流側の減圧対象の油圧配管62FL,62FR,62RL,62RRから油圧配管66やマスタシリンダ65へと送られることがない。これが為、ここでは、その油圧配管66等の増圧が生じないので、その増圧に伴ったブレーキペダル63の運転者のペダル踏力に抗する押し戻しを防ぐことができる。また、ここでは、要求車輌制動力Fdriverを満たすべく外的車輌制動力を減少させつつ回生車輌制動力を増加させているので、その要求車輌制動力Fdriverを満足させながら、更に、ブレーキペダル63の押し戻しを防ぎながらも電動機30を最大限のエネルギ回収効率の状態で運転することができる。
このように、上述した本実施例の制動装置によれば、油圧車輌制動力発生手段における油路(油圧配管66等)の油圧変化を最小限に抑えてブレーキペダル63の吸い込みや押し戻しの発生を防ぐことができるので、運転者によるブレーキペダル63の操作感の悪化を回避することができる。また、この制動装置は、車輌挙動積極制御条件に合致していれば、その条件に応じた最適前後輪制動力配分比γ0となるよう前後輪に要求車輌制動力Fdriverを配分させるので、運転者によるブレーキペダル63の操作感の悪化を回避しつつ、その際の車輌挙動積極制御条件に最適な車輌挙動の安定化を図ることができる。また、通常制動制御時においては、要求車輌制動力Fdriverを満足させ、更に電動機30のエネルギ回収効率を高めながらも、運転者によるブレーキペダル63の操作感の悪化が回避される。また、この制動装置は、車輌挙動積極制御条件であるか否かに拘わらず応答性に劣る油圧車輌制動力を一定に保持させて可能な限り増減させないので、制動制御時の応答性の向上が可能になる。
ここで、上述したステップST16の通常制動制御時における要求外的車輌制動力Fetcと要求回生車輌制動力Fmotorと要求油圧車輌制動力Fbrakeの設定動作は、図8のフローチャートに示す如くして行ってもよい。
つまり、一般に、制動制御指令されてから実際に制動力が発生するまでの応答性は、前述したが如く電動機30による回生車輌制動力の方が油圧車輌制動力よりも優れているのみならず、外的車輌制動力と比べても回生車輌制動力の方が優れている。従って、油圧車輌制動力発生手段,外的制動力発生手段及び電動機30に対して同時に制動制御指令が行われた場合には、油圧車輌制動力や外的車輌制動力が回生車輌制動力よりも遅れて車輌に働くことになる。
そこで、ここでは、そのような応答性の遅れを解消すべく、回生車輌制動力よりも応答性に劣る外的車輌制動力の予測値を早い段階で発生させておき、余剰分が出た場合には外的車輌制動力の大きさを別途調節するように構成する。尚、本車輌における油圧車輌制動力は、運転者によるブレーキペダル63の操作によって発生するものであり、更に、後で微調整を行うと油圧変化に伴うブレーキペダル63の操作感や操作性の悪化を招いてしまう。これが為、油圧車輌制動力については、予測値による制御対象とはしない。
先ず、ここでの総合ECU70は、上記の図5の場合と同様に、通常車速域における回生車輌制動力の最大値Fmotor0の算出を行い(ステップST160A)、続いて、現在の車速Vが閾値たる所定の基準車速V0以上になっているのか否かについての判定を行う(ステップST160B)。
そのステップST160Bで否定判定されて現在の車速Vが通常車速域にあると判断された場合、総合ECU70は、上記の図5のときと同じ要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)を求める(ステップST160C)。
一方、上記ステップST160Bで肯定判定されて現在の車速Vが高車速域にあると判断された場合、総合ECU70は、上記の図5のときと同様に、その高車速域の現在の車速Vに応じた回生車輌制動力の最大値Fmotor1を算出し(ステップST160D)、これを要求回生車輌制動力Fmotorとして設定する(ステップST160E)。
更に、この総合ECU70は、通常車速域と高車速域の夫々の回生車輌制動力の最大値Fmotor0,Fmotor1を下記の式10に代入して要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)を求める(ステップST160F)。尚、この要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)は、上記の図5におけるステップST16Fの要求外的車輌制動力の暫定値Fetc-proと同じものである。
Fetc0=Fmotor0−Fmotor1 … (10)
そして、この総合ECU70は、本車輌における種々の外的制動力発生手段の内の少なくとも1つによって発生させる外的車輌制動力の予測値Fetc2を演算し、これを発生させるよう原動機ECU21や変速機ECU41の双方又は一方に指示を与える(ステップST160G)。つまり、ここでは、その予測値Fetc2がエンジンブレーキによって車輌に働く。
その予測値Fetc2は、上記図5のステップST16Gで求めた外的車輌制動力の最大値Fetc1であってもよく、車速Vや要求車輌制動力Fdriverに応じて算出させた値であってもよい。例えば、本車輌においては、車速Vが高いほど、また、要求車輌制動力Fdriverが大きいほどに外的車輌制動力による補填量が多くなると考えられる。これが為、その予測値Fetc2については、車速Vが高く、また、要求車輌制動力Fdriverが大きいほどに大きくする。
続いて、この総合ECU70は、その外的車輌制動力の予測値Fetc2が上記ステップST160Fの要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)以上であるのか否かを判定する(ステップST160H)。つまり、ここでは、外的車輌制動力の予測値Fetc2の要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)に対する過不足を判断している。
ここで、このステップST160Hで肯定判定された場合とは、外的車輌制動力の予測値Fetc2が丁度要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)になっている又はその予測値Fetc2が要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)に対して余っていると判断される場合であり、本車輌の外的制動力発生手段によって要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)を満たすことができる場合に相当する。これが為、この場合の総合ECU70は、その予測値Fetc2と要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)を下記の式11に代入して外的車輌制動力補正値Fetc-corを求め(ステップST160I)、その分だけ外的車輌制動力を減少させるよう原動機ECU21や変速機ECU41の双方又は一方に指示を与える(ステップST160J)。これにより、本車輌の外的制動力発生手段は、その外的車輌制動力補正値Fetc-corの分だけエンジンブレーキを小さくし、要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)を車輌に働かせる。
Fetc-cor0=Fetc2−Fetc0 … (11)
そして、総合ECU70は、その要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)と運転者による要求車輌制動力Fdriverと高車速域における現在の車速Vの回生車輌制動力の最大値Fmotor1を上記式8に代入して要求油圧車輌制動力Fbrakeを求める(ステップST160K)。つまり、ここでは、上記図5のステップST16Jと同じく、通常車速域と同じ大きさの要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake0)が高車速域においても設定される。尚、外的車輌制動力の予測値Fetc2と要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)が一致しているときには、上記ステップST160I,ST160Jを省略してステップST160Kに進めばよい。
一方、上記ステップST160Hで否定判定された場合とは、外的車輌制動力の予測値Fetc2が要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)に対して不足していると判断される場合であり、本車輌の外的制動力発生手段では要求外的車輌制動力Fetc(=Fetc0)を発生させることができない場合に相当する。これが為、この場合の総合ECU70は、その全ての外的制動力発生手段により同時に発生させることのできる外的車輌制動力の最大値Fetc1を求め(ステップST160L)、この最大値Fetc1を発生させるよう原動機ECU21や変速機ECU41の双方又は一方に指示を与える(ステップST160M)。尚、このステップST160L,ST160Mは、上記ステップST160Gで求めた外的車輌制動力の予測値Fetc2が外的車輌制動力の最大値Fetc1でないときにのみ実行させればよい。
そして、総合ECU70は、その外的車輌制動力の最大値Fetc1と運転者による要求車輌制動力Fdriverと高車速域における現在の回生車輌制動力の最大値Fmotor1を上記図5の式9に代入して要求油圧車輌制動力Fbrakeを求める(ステップST160N)。つまり、ここでは、上記図5のステップST16Lと同じく、最大限の回生車輌制動力Fmotor1と外的車輌制動力Fetc(=Fetc1)を電動機30と外的制動力発生手段で発生させ、要求車輌制動力Fdriverに対する残りを油圧車輌制動力発生手段から発生させるように要求油圧車輌制動力Fbrake(=Fbrake1)が設定される。
通常制動制御時において必要とされる要求外的車輌制動力Fetc、要求回生車輌制動力Fmotorや要求油圧車輌制動力Fbrakeはこのようにして設定してもよく、その設定後、総合ECU70は、ステップST15に進み、これらを車輌に働かせる。このように、ここでは、外的車輌制動力の応答性が向上されるので、車輌制動力の全体の応答性をも高めることができるようになる。
ところで、本実施例の車輌においては、外的車輌制動力(エンジンブレーキ)を発生させる際に原動機20が停止状態になっている場合がある。そして、その場合には、上述したように回生車輌制動力よりも劣る外的車輌制動力の応答性が更に悪くなってしまう可能性がある。特に、上述した車輌挙動積極制御条件の下では、その応答性の悪化が車輌の挙動に大きく影響してしまう。従って、少なくとも車輌挙動積極制御条件のときには、たとえ駆動力として使わずとも原動機20を始動状態で待機させておくことが望ましい。
そこで、以下においては、その原動機20についての始動又は停止の状態制御の一例について図9のフローチャートに基づき説明する。
先ず、ここでの総合ECU70は、上記ステップST3と同様にして車輌挙動積極制御条件に合致しているのか否かの判定を行う(ステップST21)。
総合ECU70は、そのステップST21で車輌挙動積極制御条件であるとの判定を行った場合、次に原動機20が始動中であるのか否かについて判定し(ステップST22)、始動中でなければ原動機20を始動させるよう原動機ECU21に対して指示を行う一方(ステップST23)、始動中であればその状態を保たせたままステップST24に進む。尚、そのステップST23においては、クラッチ42が切断状態になっている。
続いて、この総合ECU70は、そのように原動機20が始動している状態で制動要求があったのか否かについての判定を行う(ステップST24)。かかる制動要求とは、上述した図2のステップST15で要求外的車輌制動力Fetcを発生させるべく原動機ECU21や変速機ECU41の双方又は一方に対して行った指示のことである。従って、このステップST24においては、総合ECU70自身が原動機ECU21等に対して行った指示を判定材料にしている。
そして、ここで制動要求無しとの判定の場合には、本処理を一旦終えて上記ステップST21に戻る。
一方、そのステップST24で制動要求有りとの判定が為された場合、総合ECU70は、クラッチ42が係合されているのか否かを判定し(ステップST25)、係合状態にあればクラッチ42を切断させるよう変速機ECU41に対して指示を行い(ステップST26)、切断状態にあればその状態を保たせたままステップST27に進む。
総合ECU70は、原動機20が始動状態で且つクラッチ42が切断状態のときに、つまり原動機20が始動状態で待機させられているときに、そのときの車速V又は電動機30の回転数(即ち、出力トルク)に応じて原動機20の回転数を上昇させるよう原動機ECU21に対して指示を行う(ステップST27)。例えば、その原動機20の回転数は、クラッチ42を係合した際に要求外的車輌制動力Fetcに相当するエンジンブレーキが働く程度にまで上昇させる必要があり、車速Vや電動機30の回転数にも依存するので、これらをパラメータとしたマップデータを予め行った実験やシミュレーションの結果に基づいて用意しておく。
そして、この総合ECU70は、そのエンジンブレーキを発生させるに最適な回転数まで原動機20の回転数が上昇したことを図示しないクランク角センサの検出信号で確認した後、クラッチ42を係合させるよう変速機ECU41に対して指示を行う(ステップST28)。これにより、この車輌においては、クラッチ42が係合され、要求外的車輌制動力Fetcに相当するエンジンブレーキが前輪10FL,10FRに配分される。
このように、本実施例の制動装置においては、車輌挙動積極制御条件のときに原動機20を始動状態で待機させておくので、外的車輌制動力を車輌に働かせる際の応答性の悪化が抑えられ、適切な車輌挙動の安定化に寄与することができる。
ここで、本実施例においては、車輌挙動積極制御条件になっていないときに次のような制御を実行させる。
総合ECU70は、上記ステップST21で車輌挙動積極制御条件ではないとの判定を行った場合、次に車輌が駆動力不足になっているのか否かについて判定する(ステップST29)。例えば、ここでの判定は、アクセル開度等から判る運転者の加速要求などに基づいて行う。つまり、加速要求時に車輌が必要とする駆動力と実際に原動機20や電動機30によって車輌に働かせている駆動力とを比較し、この比較結果から駆動力の過不足を判断する。
総合ECU70は、そのステップST29で駆動力不足と判定した場合、原動機20が始動中であるのか否かについての判定を行う(ステップST30)。
そして、このステップST30で原動機20が停止中との判定を行った場合、この総合ECU70は、その原動機20を始動させるよう原動機ECU21に対して指示を行うと共に、クラッチ42を係合させるよう変速機ECU41に対して指示を行う(ステップST31)。これにより、この車輌においては、原動機20を始動させた後にクラッチ42を係合させ、その後で原動機20を上昇させる等して不足している駆動力を補うことができる。
一方、そのステップST30で原動機20が始動中と判定された場合、この車輌においては、駆動力不足との判定が為されたことからも明らかなように制動状態にはなく、クラッチ42の係合された駆動状態にあると判断できる。ここで、この場合には、運転者によるアクセル開度の変化量に変動が無いものと仮定する。これが為、かかる場合の総合ECU70は、現状の変速段から少なくとも1段以上ダウンシフトさせるように変速機ECU41に対して指示を行う(ステップST32)。これにより、この車輌においては、変速機40がダウンシフトして不足している駆動力が補われる。
また、上記ステップST29で駆動力不足ではないと判定した場合、総合ECU70は、次に制動力不足になっているのか否かについての判定を行う(ステップST33)。かかる判定は、運転者による要求車輌制動力Fdriverと実際の車輌制動力又は油圧車輌制動力発生手段や電動機30等に対する指令値とを比較して行う。
ここで、制動力不足と判定された場合、この総合ECU70は、上記ステップST30に進み、原動機20が始動中でなければ上記ステップST31に進んで原動機20を始動させた後にクラッチ42を係合させる一方、原動機20が始動中であれば上記ステップST32に進んで変速機40の変速段を少なくとも1段以上ダウンシフトさせる。この制動力不足の場合には、そのステップST31でエンジンブレーキを発生させることができ、また、そのステップST32でエンジンブレーキを現状よりも大きくすることができる。従って、この場合には、その新たに発生したエンジンブレーキ又は増加したエンジンブレーキによって、不足している制動力を補うことができる。例えば、ここでは、不足している制動力を発生させることができるように原動機20の回転数や変速機40の変速段についてマップデータ等を利用して決める。
また、上記ステップST33で制動力不足ではないと判定された場合にも、総合ECU70は、原動機20が始動中であるのか否かについての判定を行う(ステップST34)。
そして、ここで原動機20が始動中ではないと判定された場合には、本処理を一旦終えて上記ステップST21に戻る。つまり、駆動中であれば駆動力が要求値に対して満ち足りており、かかる状態で原動機20が停止している場合には、その停止状態を保ったままにする。これにより、この車輌においては、駆動中であれば電動機30での駆動状態を維持することができるので、特に排気ガス等の環境性能の点で優れた運転状態を保つことができる。また、制動中のときには、外的車輌制動力を車輌に働かせる必要が無いので、原動機20の始動に伴う環境性能の回避することができる。
一方、そのステップST34で原動機20が始動中であると判定された場合、総合ECU70は、クラッチ42を切断させるよう変速機ECU41に対して指示を行うと共に、原動機20を停止させるよう原動機ECU21に対して指示を行う(ステップST35)。これにより、この車輌においては、クラッチ42が切断された後に原動機20が停止させられる。従って、ここでは、駆動中であったのならば電動機30のみでの駆動に切り換えることができるので、駆動力を維持したまま排気ガス等の環境性能を向上させることができる。尚、その際に駆動力が低下してしまったときには、次の工程で上記ステップST29,ST30を経た上記ステップST31において再び原動機20が始動させられるので問題無い。また、制動中のときには、制動力を維持したまま原動機20の停止による環境性能の向上を図ることができる。尚、その際に制動力が低下してしまったときには、次の工程で上記ステップST33を経た上記ステップST31において再び原動機20が始動させられるので問題無い。
ところで、上述した本実施例においては前輪10FL,10FRを原動機20で駆動させ、後輪10RL,10RRを電動機30で駆動させるハイブリッド車輌について例示したが、本発明に係る制動装置は、これとは逆の前輪10FL,10FRを電動機で駆動又は回生制動させ、後輪10RL,10RRを原動機で駆動させるハイブリッド車輌に適用してもよい。また、この制動装置は、そのようなハイブリッド車輌に限ることなく、例えば、前輪10FL,10FRと後輪10RL,10RRの内の何れか一方を電動機で駆動又は回生制動させる電気自動車に適用してもよい。
更に、上述した本実施例においては外的車輌制動力として原動機20の動作に伴い発生するものを例示したが、その外的車輌制動力は、次のような走行抵抗発生手段90を利用してもよい。
例えば、その走行抵抗発生手段90としては、車輌の空気抵抗を増加させることの可能な空気抵抗可変手段が考えられ、外的車輪制動力を作用させたい車軸の車輪に応じて、例えば電動機等のアクチュエータの駆動力で出し入れや角度変更が可能なフラップを備えたフロントバンパー、そのようなアクチュエータの駆動力でフラップ角度の変更が可能なリアウイング等を利用すればよい。この種の走行抵抗発生手段90の場合には、走行抵抗発生手段90を作動させる電子制御装置(以下、「走行抵抗可変ECU」という。)91に対して総合ECU70が車輌の空気抵抗を増加させるよう指示を与え、その増加した空気抵抗により車輌に働く力を外的車輌制動力として働かせる。例えば、上記のフロントバンパーの場合には、格納されているフラップを出させる又は空気抵抗が大きくなるようにフラップ角度を変更させ、前輪10FL,10FRに外的車輪制動力を作用させる。また、上記のリアウイングの場合には、空気抵抗が大きくなるようにフラップ角度を変更させ、後輪10RL,10RRに外的車輪制動力を作用させる。これらの場合の外的車輌制動力については、例えば、車速とフラップ角度をパラメータとするマップデータを予め用意しておき、このマップデータから求めさせるようにすればよい。
また、その走行抵抗発生手段90としては、車輪10FL,10FR,10RL,10RRの路面へのグリップ力を増やして路面抵抗の増加が可能な路面抵抗可変手段が考えられ、例えば電動機等のアクチュエータを作動させて減衰力の変更ができるサスペンションのダンパー(所謂エアサスペンション等)、そのようなアクチュエータを作動させてサスペンションのキャンバー角の変更が可能なスタビライザー等があり、外的車輪制動力を作用させたい車軸の車輪に対して作用させる。この種の走行抵抗発生手段90の場合には、路面抵抗を増加させるよう総合ECU70が走行抵抗可変ECU91に指示を与え、その増加した路面抵抗により車輌に働く力を外的車輌制動力として働かせる。例えば、上記のダンパーであれば減衰力を大きくし、上記のスタビライザーであればキャンバー角をネガティブキャンバー側へと変更する。この場合の外的車輌制動力については、例えば、上記のダンパーであればその減衰力をパラメータとし、上記のスタビライザーであればキャンバー角をパラメータとするマップデータを予め用意しておき、このマップデータから求めさせるようにすればよい。
更にまた、上述した本実施例においては車輌挙動積極制御条件として低μ路走行時やスポーツ走行時、ABS作動時を例示したが、その車輌挙動積極制御条件については、トラクションコントロールシステム(TRC)やビークルスタビリティコントロールシステム(VSC)等の車輌挙動制御システムが作動しているときを含めてもよい。
つまり、例えば、スポーツ走行時に運転者が急激なアクセル操作を行った場合には、TRCを作動させる。そして、ここでは、そのTRCの作動に伴って原動機20や電動機30の出力低下と駆動輪の制動制御が行われ、その駆動輪を空転させないようにする。ここで、本実施例の車輌が原動機20と電動機30の双方で駆動しているときには、全ての車輪10FL,10FR,10RL,10RRが駆動輪となる。従って、TRC作動中のときを車輌挙動積極制御条件として含め、上述したその条件下での制動制御を実行することによって、この場合には、より適切に加速中の車輌の挙動を安定させることができるようになる。
また、例えば、車速超過状態での旋回動作や急激な操舵操作が行われた場合には、VSCを作動させる。そして、ここでは、そのVSCの作動に伴って原動機20や電動機30の出力低下と車輪10FL,10FR,10RL,10RRの制動制御が行われ、車輌をアンダーステア状態やオーバーステア状態にさせないようにする。従って、VSC作動中のときを車輌挙動積極制御条件として含め、上述したその条件下での制動制御を実行することによって、この場合には、より適切に旋回中の車輌の挙動を安定させることができるようになる。