JP5063139B2 - フォトニック構造体 - Google Patents

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Description

この発明はフォトニック結晶に関し、特にスパイラルのような曲線状に線状欠陥光導波路を形成することができるフォトニック構造体に関する。
屈折率が周期性を持って変化する人工的な構造体はフォトニック結晶と呼ばれ、光の制御性が高いことから次世代光デバイスへの応用が期待されている。フォトニック結晶はその周期性のために固体中の電子のエネルギがバンド構造を持つのと同じように、フォトニックバンドと呼ばれるバンド構造を持つ。バンドとバンドの間に現れるギャップはフォトニックバンドギャップと呼ばれ、フォトニックバンドギャップに対応する周波数域の光はフォトニック結晶中を伝播することができない。フォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶中に線状の欠陥を導入すると、欠陥以外の場所ではフォトニックバンドギャップ効果により光が閉じ込められるため、線状の欠陥に沿って光を導波させることができる。
従来、フォトニック結晶の屈折率周期構造は固体の結晶の周期構造と類似の並進対称性を有する場合が多く研究されてきた(例えば、非特許文献1参照)。2次元フォトニック結晶においては、正方格子や三角格子の周期構造がよく調べられている。図19Aに正方格子の2次元フォトニック結晶の例を示す。空気中に高屈折率のロッド11が配列された構造である。ロッド11の配列周期、直径及び屈折率を適当に選ぶことにより、フォトニックバンドギャップが現れる。図19Bに正方格子の2次元フォトニック結晶における光導波路の基本構造の例を示す。光導波路12は周期構造を構成するロッド列の一部を欠損させた構造であり、この欠損列中を光が導波する。光導波路12は直線形状だけに限らず、図19Bに示すように曲げ部分が存在しても光を低損失で導波させることができる。光導波路の曲げ角度は結晶の周期性により制限され、正方格子では90度、三角格子では120度などとなる。
一方、並進対称性を有さないフォトニック構造体についても研究されている。回転対称性を有し、円座標系で定義される周期性を有するフォトニック構造体の例が特許文献1に記載されている。円座標系フォトニック結晶と呼ばれ、並進対称性は持たないが、円座標系における半径方向と円周方向に周期性を有するものである。5回対称性(5回転対称性)を持つ円座標系フォトニック結晶において、フォトニックバンドギャップが観測されている。光導波路構造については直線形状の光導波路だけでなく、並進対称格子(正方格子や三角格子)では不可能であった円弧状の光導波路が作製可能であることが示されている。
また、周期性をまったく持たないフォトニック構造体の例が非特許文献2で報告されている。アモルファスフォトニック物質と呼ばれ、周期性が存在しなくてもフォトニックバンドギャップが存在することが示されている。光導波路についても直線を組み合わせた曲げ光導波路について光導波特性が調べられている。
特許第3743637号公報 J.D.Joannopoulos, R.D.Meade, J.N.Winn著,藤井壽崇,井上光輝共訳,「フォトニック結晶−光の流れを型にはめ込む−」,コロナ社,2000年10月 宮嵜 博司,「応用物理」,第74巻,応用物理学会,2005年,p.202
ところで、発光デバイスや受光デバイス、光変調デバイスなどを集積化した光回路では、デバイス間の光のやりとりを行うために光導波路を用いる。光導波路にフォトニック結晶光導波路を用いると、光導波路の急激な曲げが可能になり、コンパクトな光回路が構成できる。この場合、各デバイスにおける光の入出射角度や導波距離が制御できる光導波路形状として、曲線状の光導波路が有効である。特に、曲率半径を変化させることができるスパイラル形状、あるいはスパイラル形状の一部分であるような曲線形状が有効である。
また、例えばファイバオプティクスジャイロスコープ(以下、FOGと言う。)の光ファイバ部分をフォトニック結晶光導波路で代替することができれば、FOGの小型化を図ることができる。FOGの感度は光ファイバが囲む面積に比例するため、フォトニック結晶光導波路を光ファイバの代わりに使用する際には、面内で単位面積あたりの行路長を長くする工夫が必要となる。この場合、フォトニック結晶光導波路をスパイラル状に形成することが有効となる。
しかるに、従来の2次元正方格子あるいは三角格子の周期構造において、線状欠陥光導波路をスパイラル状に形成しようとしても、90度や120度といった特定の曲げ角度の光導波路の組み合わせしか形成できないため、構成の自由度が小さく、また、なめらかな曲線形状を得ることができないという問題があった。
円座標系フォトニック結晶については、ある一つの同心円を構成するロッドを欠損させることにより、円形の光導波路が作製可能であるが、スパイラル形状にすることができないという問題がある。
アモルファス構造のフォトニック構造体においては、低屈折率媒質中に高屈折率のロッドをランダムに配列した場合にもフォトニックバンドギャップが存在することが確認されている。しかしながら、光導波路を作製するためには、ランダムに配列したロッドを単純に欠損させて光導波路を作製しても、良好な導波特性が得られないことが示されている。導波特性を向上させるためには、光導波路となる経路の両側面に直線的かつ周期的にロッドを配列させる必要があり、これは並進対称性のあるフォトニック結晶の線状欠陥光導波路と同等の配列になってしまう。即ち、並進対称性がないアモルファス構造のフォトニック構造体において、自由な形状で光導波路を構成するにはどのような指針が必要であるかに関する研究はほとんど進んでいない。
この発明の目的はこのような状況に鑑み、スパイラル構造を実現することができるフォトニック構造体を提供することにある。
この発明では、並進対称性を有さず、半径方向の長さ及び円周方向の角度で特定される円座標系の半径方向と円周方向とに周期性をもって屈折率の変化が配列されることでフォトニックバンドギャップが現出しているフォトニック構造体各々が互いに相違する円座標中心をもつ、複数の、半径方向と円周方向とに周期性をもって屈折率の変化が配列される円座標系フォトニック結晶の領域から構成され、それら複数の円座標系フォトニック結晶が、隣り合う領域どうしの界面としてのヘテロ界面を介して接合されたヘテロ界面構造を有するものとする。
また、この発明では、並進対称性を有さず、半径方向の長さ及び円周方向の角度で特定される円座標系の半径方向と円周方向とに周期性をもって屈折率の変化が配列されることでフォトニックバンドギャップが現出しているフォトニック構造体各々が互いに相違する前記半径方向の屈折率の変化の配列の周期をもつ、複数の、半径方向と円周方向とに周期性をもって屈折率の変化が配列される円座標系フォトニック結晶の領域から構成され、それら複数の円座標系フォトニック結晶が、隣り合う領域どうしの界面としてのヘテロ界面を介して接合されたヘテロ界面構造を有するものとする。
さらに、この発明によれば、並進対称性と、回転対称性と、円座標系で定義される規則性のいずれの秩序性も有さない屈折率の変化の配列によってフォトニックバンドギャップが現出しているフォトニック構造体前記屈折率の変化の配列が、その各配列の基準点からの距離が徐々に変化するスパイラル状の配列の少なくとも一部を有するものとされる。
この発明によれば、スパイラル構造を実現することができ、よって例えばスパイラル形状の線状欠陥光導波路を作製することができる。
以下、この発明の実施形態を説明する。
〈第1の実施形態〉
図1はこの発明によるフォトニック構造体の第1の実施形態の構成例を示したものであり、この形態ではフォトニック構造体は半径方向の長さ及び円周方向の角度で特定される円座標系の周期性をもって屈折率が変化する構造とされた扇形の円座標系フォトニック結晶が5個組み合わされた構成となっている。5個の扇形円座標系フォトニック結晶は同一構造を有するものとされている。図1中、P1〜P5はこれら5個の扇形円座標系フォトニック結晶がそれぞれ位置する領域を示す。
図2は図1に示したフォトニック構造体の構成単位である扇形円座標系フォトニック結晶を示したものであり、図2中、Cは円座標の中心を示す。ロッド21は円の半径方向に一定の周期aで円座標系の規則性を持って配列されており、この例では14周からなる同心円状にロッド21が配列されている。扇形の中心角は72°とされ、ロッド21は1周外へ行く毎に1個増えるように配列されている。なお、図2中、破線で挟まれた部分(ロッド21が実線で描かれている部分)が図1において組み合わされる構成単位であり、点線で描かれた半径方向一列のロッド21は削除される。
上記のような構成とされた扇形円座標系フォトニック結晶が各領域P1〜P5に配置される。ここで、領域P1とP2が接合する(隣り合う)界面(ヘテロ界面)を図1中に示したようにS1とし、以下それぞれの領域が接合する界面を同様にS2〜S5とする。領域P1〜P5の各部分のロッド21がなす同心円の中心(各部分の円座標の中心)をC1〜C5とすると、これらC1〜C5は図1に示したように、いずれも異なる位置に位置される。即ち、領域P1のロッド21の円座標中心C1は領域P5の最内のロッド21と同一位置とされ、領域P2のロッド21の円座標中心C2は領域P1の最内のロッド21と同一位置とされ、以下同様に各領域P3〜P5のロッド21の円座標中心C3〜C5はそれぞれ領域P2〜P4の最内のロッド21と同一位置とされる。
このようにして扇形円座標系フォトニック結晶を各領域P1〜P5に円座標中心C1〜C5を変化させて配置することにより、各界面S1〜S5において隣り合う領域のロッド21の同心円は1周期ずれ、例えば領域P1において10周目にあるロッド21は界面S1において領域P2の9周目にあるロッド21となめらかに接続し、領域P2の9周目にあるロッド21は界面S2において領域P3の8周目にあるロッド21となめらかに接続する。以下、界面S3〜S5でも同様であり、界面S5においては例えば領域P5の6周目のロッド21が領域P1の5周目のロッド21となめらかに接続する。これは各界面S1〜S5において内側の周のロッド21に接続するために、段階的に中心からの距離が小さくなっていく効果のためである。即ち、領域P1の10周目のロッド21は360°周回した時点で領域P1の5周目のロッド21になめらかにつながる構造となっており、さらに内側に向かって360°の周回を繰り返すことが可能な構造となっている。
このように、同一構造の扇形円座標系フォトニック結晶を1周期分ずつ、半径方向の周期配列をシフトさせて接合すると、周の異なるロッド間がなめらかに接続する構造を作製することが可能となり、360°周回を繰り返すスパイラル状にロッドを連続して配列させることができる。このロッド列を欠損させることにより、スパイラル形状の光導波路を作製することができる。
図1に示したような構造を有するフォトニック構造体は、例えば空気中(屈折率1)にシリコン(屈折率3.4)の円柱を配列させた構造とされ、この構造は例えば以下のような工程により作製することができる。
1)シリコン基板表面を熱酸化し、酸化膜を形成する。
2)熱酸化膜の上に電子線レジストを塗布し、シリコンの円柱が配列されるパターン構造を電子線描画装置により露光する。
3)レジストを現像後、レジストパターンをマスクとして熱酸化膜を反応性イオンエッチング装置でエッチングする。
4)レジストを除去した後、熱酸化膜をマスクとしてシリコンを高周波誘導結合プラズマ法反応性イオンエッチング装置を用いてエッチングする。
5)その後、熱酸化膜をアッシングにより除去し、フォトニック構造体が完成する。
この構造に対する光伝播特性をFDTD(Finite Difference Time Domain)法により計算した。ロッド21の半径rは0.22μmとし、同心円の半径方向の周期(ロッド21の半径方向の配列周期)aは0.88μmとした。なお、シミュレーションは2次元(X−Z平面)で行い、Y方向(ロッド21の中心軸方向)は無限大とした。以下の結果はすべてTE偏光(電場の振動方向が紙面と垂直)の結果である。
光透過スペクトルを調べるため、図3Aに矢印で示したように光31を入射させ、モニタ32の位置における透過スペクトルを計算した。結果を図3Bに示す。図3Bより波長1.75〜1.9μmの領域と2.4μm以上の領域で透過率がゼロレベルになっており、これら波長域の光がフォトニック構造体中を伝播できないことがわかる。即ち、これら波長域にフォトニックバンドギャップが存在することがわかった。また、異なる方向から光を入射して、フォトニックバンドギャップが変化するかどうか調べた結果、フォトニックバンドギャップの位置は変化せず、等方的にフォトニックバンドギャップが存在していることがわかった。
次に、図4に示したようにロッド21をスパイラル状に欠損させて光導波路22を形成した。導波特性を調べるために、図4中、Aの位置から光を矢印の方向に入射させて、光導波路22中を導波する電場の強度を調べた。なお、図においては電場の強度を大きい方から順に実線、破線、点線で示した等高線で示しており、また負の電場は灰色を付して示している。
フォトニックバンドギャップ中の波長である1.8μmの波長の連続光を位置Aから入射した結果、図4に示したように光導波路22中のみに強い電場の強度を確認できた。このことは光導波路22に入射した光が側壁のロッド配列により形成されるフォトニックバンドギャップに反射されて、光導波路22中のみを伝播していることを示している。以上のことから、この光導波路構造がスパイラル光導波路として機能していることがわかった。
スパイラル光導波路が実際に光を導波させることができるかどうかは明らかではなかったが、上述したようにこの発明において、同一構造の扇形円座標系フォトニック結晶を円座標中心をシフトさせて接合させた構造がフォトニックバンドギャップを有し、フォトニックバンドギャップ中の波長の光を入射すると、スパイラル形状の光導波路を光が導波することを初めて明らかにした。
図1では同一構造の扇形円座標系フォトニック結晶を1周期分シフトさせて接合させた構造としているが、屈折率変化周期の整数倍(2以上)のシフトであっても同様にスパイラル形状の光導波路を作製することができる。また、上記の原理を用いると、図1に示したように5回対称(5回転対称)ではなく、4回対称や6回対称といった異なる対称性の扇形円座標系フォトニック結晶を中心位置を整数周期分シフトさせて接合しても、同様にスパイラル状にロッドがなめらかに連続する構造を作製することができる。接合面(界面)毎にロッドの中心からの距離が小さくなっていくため、接合面が増加するほど、360°周回した位置(図1ではS5)においてロッド間が接続する周期のずれが大きくなるという特徴がある。なお、各扇形円座標系フォトニック結晶の周期構造は、導波させたい光の波長や偏光の条件によって、周期やロッドの半径を選択して設計することができる。
〈第2の実施形態〉
図5はこの発明によるフォトニック構造体の第2の実施形態の構成例を示したものである。この形態では第1の実施形態と同様、フォトニック構造体は扇形の円座標系フォトニック結晶が5個組み合わされた構成となっているものの、5個の扇形円座標系フォトニック結晶は第1の実施形態のように同一構造ではなく、相似形をなすものとされている。即ち、領域P2の扇形円座標系フォトニック結晶は領域P1の扇形円座標系フォトニック結晶を全体に縮小した相似形となっており、配列周期aとロッド21の半径rが共に同じ割合で縮小された構造となっている。同様に、領域P3〜P5の扇形円座標系フォトニック結晶も領域P2〜P5の扇形円座標系フォトニック結晶をそれぞれ縮小した構造になっている。つまり、扇形円座標系フォトニック結晶は領域P1からP5に行くに従い、順次縮小された構造になっており、界面(ヘテロ界面)S1〜S5においては屈折率が変化する周期が不連続に変化している。なお、図5では倍率(縮小率)は94%となっている。
領域P1の扇形円座標系フォトニック結晶の構成は図2に示した第1の実施形態の扇形円座標系フォトニック結晶の構成と同様であり、ロッド21は14周からなる同心円状に配列されている。
このように円座標系で定義される扇形の構造を相似形で接合していくと、同じ周にあるロッド21の各同心円の中心からの距離は接合面が増加するに従って小さくなり、そのため360°周回した位置(図5では界面S5の位置)においてはある周にあるロッド21を異なる周にあるロッド21となめらかに接続することが可能となる。図5ではS1〜S4の各界面(各接合面)において11周目のロッド21がなめらかに接続するよう、各領域P1〜P5のロッド21の円座標中心C1〜C5(図示せず)の位置を制御している。これにより、界面S5においては領域P5の11周目に位置するロッド21は領域P1の8周目の位置にあるロッド21となめらかに接続しているが、相似形の倍率を制御することにより、界面S5において領域P1の任意の周のロッド21に接続させることができる。
このように、相似形とされ、周期構造の異なる扇形円座標系フォトニック結晶を接合させると、周の異なるロッド間がなめらかに接続する構造を作製することが可能となり、この実施形態においても360°周回を繰り返すスパイラル状にロッドを連続して配列させることができる。そして、このロッド列を欠損させることにより、スパイラル形状の光導波路を作製することができる。
一方、図6は倍率(縮小率)を98%として、相似形の扇形円座標系フォトニック結晶を5個組み合わせたものであり、以下、この図6に示したフォトニック構造体の光伝播特性を第1の実施形態と同様に説明する。なお、光伝播特性のシミュレーション条件等は第1の実施形態と同様である(以下の第3及び第4の実施形態においても同様)。
フォトニック構造体は第1の実施形態と同様、空気中にシリコンの円柱を配列させた構造とした。各領域P1〜P5の各同心円の半径方向の周期a及びロッド21の半径rは下記値である。
・領域P1 a=0.880μm , r=0.220μm
・領域P2 a=0.862μm , r=0.216μm
・領域P3 a=0.845μm , r=0.211μm
・領域P4 a=0.828μm , r=0.207μm
・領域P5 a=0.812μm , r=0.203μm
また、各領域P1〜P5の同心円の中心C1〜C5(図示せず)はそれぞれ異なる位置にあり、ここでは界面S5において領域P5の11番目の周と領域P1の10番目の周が一致するよう中心位置C1〜C5を制御して接合させた。
光透過スペクトルを調べるため、図7Aに矢印で示したように光31を入射させ、モニタ32の位置における透過スペクトルを計算した。結果を図7Bに示す。図7Bより波長1.62〜1.85μmの領域と2.37μm以上の領域で透過率がゼロレベルになっており、これら波長域の光がフォトニック構造体中を伝播できないことがわかる。即ち、これら波長域にフォトニックバンドギャップが存在することがわかった。また、異なる方向から光を入射して、フォトニックバンドギャップが変化するかどうか調べた結果、フォトニックバンドギャップの位置は変化せず、等方的なフォトニックバンドギャップが存在していることがわかった。
次に、図8に示したようにロッド21をスパイラル状に欠損させて光導波路22を形成した。導波特性を調べるために、図8中、Aの位置から光を矢印の方向に入射させて、光導波路22中を導波する電場の強度を調べた。1.75μmの波長の連続光を入射させた結果、光導波路22中のみに強い電場の強度を確認できた。このことは光導波路22に入射した光が側壁のロッド配列により形成されるフォトニックバンドギャップに反射されて、光導波路22中のみを伝播していることを示している。以上のことから、この光導波路構造がスパイラル光導波路として機能していることがわかった。
上記においては11周目に位置するロッド21を欠損させたため、界面S5における領域P5とP1の光導波路の位置ずれが約1周期分と小さい。光導波路中のみに光を伝播させるためにはフォトニックバンドギャップを有する側壁に囲まれている必要がある。側壁の厚さは4周期分程度以上あれば十分である。従って、ロッドを上記のように14周ではなく、半径方向に多数配列し、例えば40周目のロッドを欠損させると、界面S5における光導波路の位置ずれを約4周期分とすることができ、スパイラル形状の光導波路を良好に作製することができる。
また、さらに大きい周のロッドを欠損させれば、相似形の倍率が1に極めて近い条件でスパイラル光導波路を作製することができる。例えば160周目のロッドを欠損させた場合、相似形の倍率が99.5%であっても界面S5における位置ずれが4周期分となり、スパイラル形状の光導波路を作製することができる。
以上、相似形の扇形円座標系フォトニック結晶を5個組み合わせる構成を例として説明したが、上記の原理を用いると、5個に限らず、例えば4個や6個(この場合、扇形の中心角が90度や60度になる)組み合わせても、同様にスパイラル状にロッドがなめらかに連続する構造を作製することができる。また、相似形の扇形円座標系フォトニック結晶間の相似形の倍率は各界面(各ヘテロ界面)毎に異なっていてもよく、360°周回した部分の接合面(界面)において、接合する一方の扇形円座標系フォトニック結晶のある周にあるロッドを他方の扇形円座標系フォトニック結晶の別の周にあるロッドとなめらかに接合させることができればスパイラル光導波路を作製することが可能である。さらに、組み合わせる扇形円座標系フォトニック結晶は扇形の中心角が等しいものに限らず、中心角が異なるものであってもよい。
〈第3の実施形態〉
図9はこの発明によるフォトニック構造体の第3の実施形態の構成例を示したものであり、この形態ではフォトニック構造体は並進対称性、回転対称性及び円座標系で定義される規則性のいずれの秩序性も有さず、屈折率要素の基準点からの距離が徐々に変化するスパイラル状の配列を有するものとされており、つまり中心Cを同一とし、半径が単調に変化する位置にロッド21が配列された構造となっている。
ロッド21は破線Sで示す位置を始点とし、Sに戻る14周の曲線上に配列されている。なお、1〜4周目は始点S位置のロッド21のみとしている。各ロッド21を図9中に示したようにR14-0のように定義する。R14-0とは中心Cから14周目の曲線上にあり、Sを起点として起点上(0番目)にあるロッドである。n周目のm番目のロッドはRn-mで定義する。また、n周目でSに戻る最後のロッドはRn-finと表すことにする。
図10に示したように、Rn-mのロッドの中心Cからの距離をD(n,m)とすると、D(n,m)は次の式で表される。
Figure 0005063139
ここで、DnはRn-0のロッドの中心Cからの距離、θ(n,m)はRn-mのロッドとRn-(m−1)のロッドとが中心Cとなす角度である。但し、θ(n,0)=0とする。B(n,m)はnとmに依存する定数である。例えば、B(n,m)がmに対して一定の正の定数の場合、n周目に存在するロッド21の中心Cからの距離はmの増加と共に単調に増加する。一方、B(n,m)がmに対して一定の負の定数の場合には単調に減少する。B(n,m)がmと共に変化する場合は、n周目に存在するロッド21の中心Cからの距離はmの増加と共に単調ではない変化をする。
図9はB(n,m)とθ(n,m)のそれぞれが、nによっては異なる値を持つが、同一のnにおいてはmによらず、一定の値を持つ場合の例である。この場合、B(n,m)=Bn,θ(n,m)=θnと表す。図9ではBnは負の値とする。例えば、10周目にあるロッドに注目すると、D(10,fin)はD(10,0)と比べて(1+B10)倍程度だけ小さい。そのため、SにおいてR10-finのロッドはR10-0のロッドとは接続せず、10周目より内側の周に位置するロッドに接続している。B10の値を制御することにより、任意の周のロッドになめらかに接続させることができる。図9では6周目のロッドになめらかに接続するようB10の値を制御している。同様に、6周目の曲線上にあるロッドの中心Cからの距離D(6,m)はB6の値によってmと共に変化し、R6-finが6周目より内側の曲線に位置するロッドに接続するよう制御できる。
即ち、B(n,m)の値を制御すると、外側の周に位置するロッドが内側の周に位置するロッドになめらかに接続して360°の周回を繰り返すスパイラル状にロッドを配列させることができる。このロッド列を欠損させることにより、スパイラル形状の光導波路を作製することができる。
以下、この図9に示したフォトニック構造体の光伝播特性を説明する。
フォトニック構造体は空気中にシリコンの円柱を配列させた構造とした。各周のDn,Bn及びθnは図11の表に示した値とし、ロッド21の半径rは0.22μmとした。
光透過スペクトルを調べるため、図12Aに矢印で示したように光31を入射させ、モニタ32の位置における透過スペクトルを計算した。結果を図12Bに示す。波長1.75〜2.05μmの領域で透過率がゼロレベルになっており、この波長域の光がフォトニック構造体中を伝播できないことがわかる。即ち、この波長域にフォトニックバンドギャップが存在することがわかった。また、異なる方向から光を入射してフォトニックバンドギャップが変化するかどうか調べた結果、フォトニックバンドギャップは変化せず、等方的なフォトニックバンドギャップが存在していることがわかった。
次に、図13に示したようにロッド21をスパイラル状に欠損させて光導波路22を形成した。導波特性を調べるために、図13中、Aの位置から光を矢印の方向に入射させて、光導波路22中を導波する電場の強度を調べた。1.8μmの波長の連続光を入射した結果、光導波路22中のみに強い電場の強度を確認できた。このことは光導波路22に入射した光が側壁のロッド配列により形成されるフォトニックバンドギャップに反射されて、光導波路22中のみを伝播していることを示している。以上のことから、この光導波路構造がスパイラル光導波路として機能していることがわかった。
<第4の実施形態>
図14はこの発明によるフォトニック構造体の第4の実施形態の構成例を示したものであり、この形態では第3の実施形態と同様、ロッド21が式(1)で表されるように配列されており、さらに式(1)においてθ(n,m)が以下の式で表される場合の構造体である。
θ(n,m)=φn+(Δn/Nn)×m …(2)
ここで、φn,Δn,Nnはnによって異なる定数である。
φn,Δn,Nnの各値と式(1)で定義されるDn,Bnの各値は例えば図15に示した表のように設定される。式(2)によれば、θ(n,m)はmの値と共に大きくなる。ロッド21の半径rは0.264μmとし、このフォトニック構造体の光伝播特性を調べた結果を以下に示す。なお、フォトニック構造体は空気中にシリコンの円柱を配列させた構造とした。
図16Aに矢印で示したように光31を入射させ、モニタ32の位置における透過スペクトルを計算した。結果を図16Bに示す。波長1.83μm〜2.25μmの領域で透過率がゼロレベルになっており、この波長域にフォトニックバンドギャップが存在することがわかった。また、異なる方向から光を入射してフォトニックバンドギャップが変化するかどうか調べた結果、フォトニックバンドギャップの位置は変化せず、等方的なフォトニックバンドギャップが存在していることがわかった。
次に、図17に示したようにロッド21をスパイラル状に欠損させて光導波路22を形成した。導波特性を調べるために、図17中、Aの位置から光を矢印の方向に入射させて、光導波路22中を導波する電場の強度を調べた。1.95μmの波長の連続光を入射した結果、光導波路22中のみに強い電場の強度を確認できた。このことは光導波路22に入射した光が側壁のロッド配列により形成されるフォトニックバンドギャップに反射されて、光導波路22中のみを伝播していることを示している。以上のことから、この光導波路構造がスパイラル光導波路として機能していることがわかった。
上記第3の実施形態と第4の実施形態を参照すると、共に屈折率要素であるシリコンのロッドの中心Cからの距離が徐々に変化しながら曲線形状に配列していることが特徴である。このことから、並進対称性と回転対称性と円座標の規則性のいずれの秩序性も有さないフォトニック構造体であって、屈折率要素の基準点からの距離が徐々に変化する規則性を有して配列されていることを特徴とするフォトニック構造体を用いると、光を効率的に導波させる光導波路を実現できることがわかる。B(n,m),θ(n,m)は任意に設定することができ、導波させたい光の波長や偏光の条件によって、さらには所望の曲線状の線状欠陥が形成できるように決定される。
以上、各種実施形態について説明したが、この発明によれば、図18Aに示したようなスパイラル形状の光導波路のみならず、他の曲線状の光導波路も作製することができる。例えば、第1の実施形態や第2の実施形態では円座標系フォトニック結晶の接合の仕方を変えることにより、図18Bに示したようなうねり形状の光導波路も作製することができる。図18Bは中心角180°の扇形円座標系フォトニック結晶を順次接合し、曲率半径が変化するうねり形状の光導波路を作製したものである。
一方、第3の実施形態や第4の実施形態においても図18Bに示したようなうねり形状の光導波路を作製することができる。この場合、複数の基準点に基づく複数のスパイラル状配列の一部を接合することにより、うねり形状の光導波路を作製することが可能となる。
なお、この発明は上述したような低屈折率材料中に高屈折率材料の柱が配列された構造(柱タイプフォトニック構造体)だけでなく、高屈折率材料中に孔を開け、低屈折率材料の媒質で満たす構造(孔タイプフォトニック構造体)についても適用することができる。
また、上記においてはロッド(シリコン円柱)の高さを無限大として光伝播特性の計算を行ったが、実用上は高さ方向(上下方向)に光を閉じ込めることが必要となる。従来の2次元フォトニック結晶においても、2次元フォトニック結晶をスラブ(薄い板状)にし、その上下を屈折率の低い材料(空気など)で挟むことにより、屈折率差による全反射で上下方向の光の閉じ込めを行っている。従って、この発明においても、上下を屈折率の異なる材料で挟み込んだスラブ形状のフォトニック構造体としても、その効果を発揮することはいうまでもない。
この発明によるフォトニック構造体の第1の実施形態の構成例を示す図。 図1における構成単位の扇形円座標系フォトニック結晶を説明するための図。 Aは図1に示したフォトニック構造体の光透過スペクトルの計算条件を説明するための図、Bはその計算結果を示すグラフ。 図1に示したフォトニック構造体にスパイラル光導波路を形成し、光導波路中の電界強度を調べた結果を模式的に示した図。 この発明によるフォトニック構造体の第2の実施形態の構成例を示す図。 この発明によるフォトニック構造体の第2の実施形態の他の構成例を示す図。 Aは図6に示したフォトニック構造体の光透過スペクトルの計算条件を説明するための図、Bはその計算結果を示すグラフ。 図6に示したフォトニック構造体にスパイラル光導波路を形成し、光導波路中の電界強度を調べた結果を模式的に示した図。 この発明によるフォトニック構造体の第3の実施形態の構成例を示す図。 図9におけるロッドの配列条件を説明するための図。 図9におけるロッドの配列条件の数値例を示す表。 Aは図9に示したフォトニック構造体の光透過スペクトルの計算条件を説明するための図、Bはその計算結果を示すグラフ。 図9に示したフォトニック構造体にスパイラル光導波路を形成し、光導波路中の電界強度を調べた結果を模式的に示した図。 この発明によるフォトニック構造体の第4の実施形態の構成例を示す図。 図14におけるロッドの配列条件の数値例を示す表。 Aは図14に示したフォトニック構造体の光透過スペクトルの計算条件を説明するための図、Bはその計算結果を示すグラフ。 図14に示したフォトニック構造体にスパイラル光導波路を形成し、光導波路中の電界強度を調べた結果を模式的に示した図。 曲線状光導波路の形状を示す模式図、Aはスパイラル形状、Bはうねり形状。 Aは従来の並進対称性を有するフォトニック結晶の構成例を示す図、BはAに線状欠陥光導波路を形成した例を示す図。

Claims (11)

  1. 並進対称性を有さず、半径方向の長さ及び円周方向の角度で特定される円座標系の半径方向と円周方向とに周期性をもって屈折率の変化が配列されることでフォトニックバンドギャップが現出しているフォトニック構造体であって
    各々が互いに相違する円座標中心をもつ、複数の、半径方向と円周方向とに周期性をもって屈折率の変化が配列される円座標系フォトニック結晶の領域から構成され、それら複数の円座標系フォトニック結晶が、隣り合う領域どうしの界面としてのヘテロ界面を介して接合されたヘテロ界面構造を有していることを特徴とするフォトニック構造体。
  2. 請求項1記載のフォトニック構造体において、
    前記へテロ界面構造における隣り合う前記領域どうしの円座標中心の位置の相違が半径方向の屈折率変化周期の整数倍であることを特徴とするフォトニック構造体。
  3. 並進対称性を有さず、半径方向の長さ及び円周方向の角度で特定される円座標系の半径方向と円周方向とに周期性をもって屈折率の変化が配列されることでフォトニックバンドギャップが現出しているフォトニック構造体であって
    各々が互いに相違する前記半径方向の屈折率の変化の配列の周期をもつ、複数の、半径方向と円周方向とに周期性をもって屈折率の変化が配列される円座標系フォトニック結晶の領域から構成され、それら複数の円座標系フォトニック結晶が、隣り合う領域どうしの界面としてのヘテロ界面を介して接合されたヘテロ界面構造を有していることを特徴とするフォトニック構造体。
  4. 請求項3記載のフォトニック構造体において、
    前記複数の円座標系フォトニック結晶は、互いに相似形をなす扇形であることを特徴とするフォトニック構造体。
  5. 請求項2乃至4のいずれかに記載のフォトニック構造体において、
    前記周期性をもって屈折率の変化が配列される配列中に、曲率半径が変化する曲線状に配列の欠陥が設けられていることを特徴とするフォトニック構造体。
  6. 請求項記載のフォトニック構造体において、
    前記曲線がスパイラル形状をなすことを特徴とするフォトニック構造体。
  7. 並進対称性と、回転対称性と、円座標系で定義される規則性のいずれの秩序性も有さない屈折率の変化の配列によってフォトニックバンドギャップが現出しているフォトニック構造体であって、
    前記屈折率の変化の配列は、その各配列の基準点からの距離が徐々に変化するスパイラル状の配列の少なくとも一部を有していることを特徴とするフォトニック構造体。
  8. 請求項7記載のフォトニック構造体において、
    各々が互いに相違する基準点をもつ、複数の、前記スパイラル状の配列の一部を、相互に接合することにより得られる構造を有していることを特徴とするフォトニック構造体。
  9. 請求項7又は8記載のフォトニック構造体において、
    前記屈折率の変化の配列に、線状の配列の欠陥が設けられていることを特徴とするフォトニック構造体。
  10. 請求項7記載のフォトニック構造体において、
    前記屈折率の変化の配列に、前記基準点を中心とするスパイラル形状をなす線状の配列の欠陥が設けられていることを特徴とするフォトニック構造体。
  11. 請求項8記載のフォトニック構造体において、
    前記屈折率の変化の配列に、うねり形状をなす線状の配列の欠陥が設けられていることを特徴とするフォトニック構造体。
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