次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.実施例の概要:
B.装置の構成:
C.記録方式の基本的条件:
D.印刷モードの選択による凝集の防止:
E.記録方法の変更による凝集の防止:
F.変形例:
A.実施例の概要:
図1は、本発明の一実施例としての印刷システムの構成を示すブロック図である。この印刷システムは、印刷制御装置としてのコンピュータ90と、印刷部としてのカラープリンタ20と、を備えている。なお、カラープリンタ20とコンピュータ90の組み合わせを、広義の「印刷装置」と呼ぶことができる。
コンピュータ90では、所定のオペレーティングシステムの下で、アプリケーションプログラム95が動作している。オペレーティングシステムには、ビデオドライバ91やプリンタドライバ96が組み込まれており、アプリケーションプログラム95からは、これらのドライバを介して、カラープリンタ20に転送するための印刷データPDが出力されることになる。アプリケーションプログラム95は、処理対象の画像に対して所望の処理を行い、また、ビデオドライバ91を介して表示部21に画像を表示する。
アプリケーションプログラム95が印刷命令を発すると、コンピュータ90のプリンタドライバ96が、画像データをアプリケーションプログラム95から受け取り、これをカラープリンタ20に供給するための印刷データPDに変換する。図1に示した例では、プリンタドライバ96の内部には、解像度変換モジュール97と、色変換モジュール98と、ハーフトーンモジュール99と、ラスタライザ100と、色変換テーブルLUTと、が備えられている。
解像度変換モジュール97は、アプリケーションプログラム95が扱っているカラー画像データの解像度(即ち、単位長さ当りの画素数)を、プリンタドライバ96が扱うことができる解像度に変換する役割を果たす。こうして解像度変換された画像データは、まだRGBの3色からなる画像情報である。色変換モジュール98は、色変換テーブルLUTを参照しつつ、各画素ごとに、RGB画像データを、カラープリンタ20が利用可能な複数のインク色の多階調データに変換する。
色変換された多階調データは、たとえば256階調の階調値を有している。ハーフトーンモジュール99は、インクドットを分散して形成することにより、カラープリンタ20でこの階調値を表現するためのハーフトーン処理を実行する。ハーフトーン処理された画像データは、ラスタライザ100によりカラープリンタ20に転送すべきデータ順に並べ替えられ、最終的な印刷データPDとして出力される。なお、印刷データPDは、各主走査時のドットの記録状態を示すラスタデータと、副走査送り量を示すデータと、を含んでいる。
なお、プリンタドライバ96は、印刷データPDを生成する機能を実現するためのプログラムに相当する。プリンタドライバ96の機能を実現するためのプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された形態で供給される。このような記録媒体としては、フレキシブルディスクやCD−ROM、光磁気ディスク、ICカード、ROMカートリッジ、パンチカード、バーコードなどの符号が印刷された印刷物、コンピュータの内部記憶装置(RAMやROMなどのメモリ)および外部記憶装置等の、コンピュータが読み取り可能な種々の媒体を利用できる。
図2は、プリンタドライバ96のユーザ・インターフェース部102によって、コンピュータ90の表示部21に表示される印刷条件設定ウィンドウを示す説明図である。ユーザは、印刷条件の基本設定として、印刷媒体(「印刷用紙」とも呼ぶ)の種類の選択と、カラーインクの使用の有無の選択と、印刷モード設定とを選択することが可能である。
印刷媒体としては、CD−R(「合成樹脂製データ記録媒体」)の他に、普通紙、フォトプリント紙、OHPシートなどの複数種類の媒体が予め登録されている。ユーザは、これらの複数種類の印刷媒体の中から、印刷に使用する媒体を選択することが可能である。
モード設定としては、推奨設定(初期設定)と、オートフォトファイン設定と、詳細設定と、の3つの設定のうちの1つが選択可能である。「推奨設定」では、ユーザが印刷媒体を1つ選択すると、印刷媒体の種類に適した印刷モードが自動的に設定される。「オートフォトファイン設定」では、写真画像を高画質で印刷するための種々の条件が自動的に設定される。また、「詳細設定」では、ユーザが種々の条件を任意に選択できる。
図3は、プリンタドライバ96に登録されている複数の印刷モードテーブル104の内容を示す説明図である。この印刷モードテーブルには、モード1aからモード4dまでの計16個の印刷モードが含まれている。印刷解像度としては、360×360dpi,360×720dpi,720×720dpi,1440×720dpiの4つを利用可能である。ここで、各印刷解像度は、(主走査方向の解像度)×(副走査方向の解像度)で表されている。図3の表に示されている「最大インク重量」とは、各解像度において使用可能な複数種類のインクドットの中で最大のインクドットの重量を意味している。一般に、印刷解像度が高いほどインク重量は小さくなる。従って、印刷解像度が高いほど個々のインクドットが乾燥し易い傾向にある。
1つの印刷解像度に関しては、印刷方向(単方向または双方向)と、使用インク数(6色または4色)とに応じて、4つの印刷モードがそれぞれ設けられている。なお、使用インク数が4色のときには、CMYKの4種類のインクが使用され、6色のときには、CMYKの4種類のインクの他に、淡シアンインクと淡マゼンタインクとが使用される。
ところで、印刷速度は、一般に、スキャン繰り返し数(後述する)が少なく、印刷解像度が低いほど早い、また、単方向印刷よりも双方向印刷の方が早い。従って、図3の16種類の印刷モードの中では、スキャン繰り返し数の少ない360×360dpiの双方向印刷のモード1a,1bが最も印刷速度が速く、スキャン繰り返し数の多い1440×720dpiの単方向印刷のモード4c,4dが最も印刷速度が遅い。一般には、印刷速度が遅いほど個々のインクドットが乾燥し易いので、インク同士の凝集が起こりにくい傾向にある。
図3の右側半分には、印刷媒体の種類と、選択可能な印刷モードとの関係を示している。◎が付されているモードは、推奨設定(図2)において印刷媒体に応じて選択されるモードであり、○が付されているモードは詳細設定においてユーザが選択可能なモードである。例えば、印刷媒体として普通紙を選択した場合には、推奨設定は、モード1b(360×360dpi,双方向印刷,4色印刷)である。また、普通紙の場合には、ユーザは360×720dpiの4つのモード2a〜2dを選択できない。一方、印刷媒体としてCD−Rを選択した場合には、推奨設定は、モード4d(1440×720dpi,単方向印刷,4色印刷)である。また、CD−Rの場合には、ユーザは、最も印刷速度の遅い2つのモード4c,4d以外のモードは選択できない。このように、印刷モードの推奨設定(初期設定)では、印刷媒体の種類(より具体的には印刷媒体の材質)に応じて1つの印刷モードが予め選択されている。
なお、各印刷媒体の欄における「最大インク量」とは、単位面積当たりの全インク量の合計量の制限値を意味している。図3では、各種の印刷モードを、印刷解像度と、印刷方向と、使用インク数との3つのパラメータのみによって分類している。従って、同じ印刷モードでも、最大インク量などの他のパラメータは、印刷媒体によって異なる場合がある。具体的には、印刷モード4dの最大インク量は、普通紙では11.9mg/inch2 であり、フォトプリント紙では16.7mg/inch2 、CD−Rでは7.2mg/inch2 である。すなわち、CD−Rの印刷時には、他の印刷媒体の印刷の際よりも最大インク量の制限値が低く設定されている。すなわち、CD−Rの印刷では、単位面積当たりの全インク量が他の印刷媒体の印刷よりも少ないので、インクがより乾燥し易く、インク同士の凝集が起こりにくい。
なお、本実施例では、印刷モードを、印刷解像度と、印刷方向と、使用インク数との3つのパラメータのみによって分類しているが、これ以外のパラメータ(例えば最大インク量)を用いて、さらに印刷モードを細分してもよい。
このように、本実施例では、CD−Rの印刷時に、プリンタ20で利用可能な印刷モード1a〜4dの中で最も印刷速度の遅いモード4dが推奨設定として選択されるので、インクが乾燥し易くなり、インク同士の凝集を緩和することができる。この印刷モード4dは、最も印刷解像度の高いモードなので、インク滴の重量が小さく、インクが乾き易いという利点もある。さらに、この印刷モード4dは、単位面積当たりの全インク量の制限値が最も低いので、この点においても、インクが乾き易く、インク同士の凝集が起こりにくくなっている。
また、印刷モード4dは、シアンやマゼンタとしては比較的濃度の高いインクのみを用いており、淡インクを使用しないので、淡インクを用いる場合に比べてインク量を低減することができる。これによって、インクの乾燥が容易になり、インク同士の凝集が起こりにくくなるという効果が高められている。
なお、本実施例では、CD−R印刷時の推奨設定の印刷モードとして、印刷解像度が最も高く、単方向印刷であり、淡インクを用いず、最大インク量が最も小さい、という特徴を有するモード4dが選択されている。しかし、これらの特徴のうちの少なくとも一部を有さないような印刷モードを、CD−Rに対する推奨設定として選択することも可能である。
B.装置の構成:
図4は、カラープリンタ20の概略構成図である。カラープリンタ20は、紙送りモータ22によって印刷用紙Pを副走査方向に搬送する副走査送り機構と、キャリッジモータ24によってキャリッジ30をプラテン26の軸方向(主走査方向)に往復動させる主走査送り機構と、キャリッジ30に搭載された印刷ヘッドユニット60(「印刷ヘッド集合体」とも呼ぶ)を駆動してインクの吐出およびドット形成を制御するヘッド駆動機構と、これらの紙送りモータ22,キャリッジモータ24,印刷ヘッドユニット60および操作パネル32との信号のやり取りを司る制御回路40とを備えている。制御回路40は、コネクタ56を介してコンピュータ90に接続されている。
印刷用紙Pを搬送する副走査送り機構は、紙送りモータ22の回転をプラテン26と用紙搬送ローラ(図示せず)とに伝達するギヤトレインを備える(図示省略)。また、キャリッジ30を往復動させる主走査送り機構は、プラテン26の軸と並行に架設されキャリッジ30を摺動可能に保持する摺動軸34と、キャリッジモータ24との間に無端の駆動ベルト36を張設するプーリ38と、キャリッジ30の原点位置を検出する位置センサ39とを備えている。
図5は、制御回路40を中心としたカラープリンタ20の構成を示すブロック図である。制御回路40は、CPU41と、プログラマブルROM(PROM)43と、RAM44と、文字のドットマトリクスを記憶したキャラクタジェネレータ(CG)45とを備えた算術論理演算回路として構成されている。この制御回路40は、さらに、外部のモータ等とのインタフェースを専用に行なうI/F専用回路50と、このI/F専用回路50に接続され印刷ヘッドユニット60を駆動してインクを吐出させるヘッド駆動回路52と、紙送りモータ22およびキャリッジモータ24を駆動するモータ駆動回路54と、スキャナ80を制御するスキャナ制御回路55とを備えている。I/F専用回路50は、パラレルインタフェース回路を内蔵しており、コネクタ56を介してコンピュータ90から供給される印刷データPDを受け取ることができる。カラープリンタ20は、この印刷データPDに従って印刷を実行する。なお、RAM44は、ラスタデータを一時的に格納するためのバッファメモリとして機能する。
印刷ヘッドユニット60は、印刷ヘッド28を有しており、また、インクカートリッジを搭載可能である。なお、印刷ヘッドユニット60は、1つの部品としてカラープリンタ20に着脱される。すなわち、印刷ヘッド28を交換しようとする際には、印刷ヘッドユニット60を交換することになる。
図6は、印刷ヘッド28の下面におけるノズル配列を示す説明図である。印刷ヘッド28の下面には、ブラックインクを吐出するためのブラックインクノズル群KD と、濃シアンインクを吐出するための濃シアンインクノズル群CD と、淡シアンインクを吐出するための淡シアンインクノズル群CL と、濃マゼンタインクを吐出するための濃マゼンタインクノズル群MD と、淡マゼンタインクを吐出するための淡マゼンタインクノズル群ML と、イエローインクを吐出するためのイエローインクノズル群YD とが形成されている。
なお、各ノズル群を示す符号における最初のアルファベットの大文字はインク色を意味しており、また、添え字の「D 」は濃度が比較的高いインクであることを、添え字の「L 」は濃度が比較的低いインクであることを、それぞれ意味している。
各ノズル群の複数のノズルは、副走査方向SSに沿って一定のノズルピッチk・Dでそれぞれ整列している。ここで、kは整数であり、Dは副走査方向における印刷解像度に相当するピッチ(「ドットピッチ」と呼ぶ)である。本明細書では、「ノズルピッチはkドットである」とも言う。このときの単位[ドット]は、印刷解像度のドットピッチを意味している。副走査送り量に関しても同様に、[ドット]の単位を用いる。
各ノズルには、各ノズルを駆動してインク滴を吐出させるための駆動素子としてのピエゾ素子(図示せず)が設けられている。印刷時には、印刷ヘッド28が主走査方向MSに移動しつつ、各ノズルからインク滴が吐出される。
なお、各ノズル群の複数のノズルは、副走査方向に沿って一直線上に配列されている必要はなく、たとえば千鳥状に配列されていてもよい。なお、ノズルが千鳥状に配列されている場合にも、副走査方向に測ったノズルピッチk・Dは、図6の場合と同様に定義することができる。この明細書において、「副走査方向に沿って配列された複数のノズル」という文言は、一直線上に配列されたノズルと、千鳥状に配置されたノズルと、を包含する広い意味を有している。
図7は、ヘッド駆動回路52(図5)の主要な構成を示すブロック図である。また、図8は、ヘッド駆動回路52の動作を示すタイミングチャートである。ヘッド駆動回路52は、原駆動信号発生部220と、複数のマスク回路222と、各ノズルのピエゾ素子PEと、を備えている。マスク回路222は、印刷ヘッド28の各ノズル#1,#2…に対応して設けられている。なお、図7、図8において、信号名の最後に付されたかっこ内の数字は、その信号が供給されるノズルの番号を示している。
原駆動信号発生部220は、各ノズルに共通に用いられる原駆動信号ODRV(図8(a))を生成して複数のマスク回路222に供給する。この原駆動信号ODRVは、たとえば図8(b)に示すように、1画素分の主走査期間Td内に1つのパルスを含む信号である。i番目のマスク回路222は、i番目のノズルのシリアル印刷信号PRT(i)のレベルに応じて原駆動信号ODRVをマスクする。具体的には、マスク回路222は、印刷信号PRT(i)が1レベルのときには原駆動信号ODRVをそのまま通過させて駆動信号DRVとしてピエゾ素子PEに供給し、一方、印刷信号PRT(i)が0レベルのときには原駆動信号ODRVを遮断する。このシリアル印刷信号PRT(i)は、i番目のノズルが1回の主走査で記録する各画素の記録状態を示す信号であり、コンピュータ90から与えられた印刷データPD(図4)をノズル毎に分解したものである。なお、図8の例は、1画素おきにドットが記録される場合の例であり、全画素にドットが記録される場合には、原駆動信号ODRVがそのまま駆動信号DRVとしてピエゾ素子PEに供給される。
以上説明したハードウェア構成を有するカラープリンタ20は、紙送りモータ22により用紙Pを搬送しつつ、キャリッジ30をキャリッジモータ24により往復動させ、同時に印刷ヘッド28のピエゾ素子を駆動して、各色インク滴の吐出を行い、インクドットを形成して用紙P上に多色多階調の画像を形成する。
C.記録方式の基本的条件:
本発明の実施例に用いられている記録方式の詳細を説明する前に、以下ではまず、通常のインターレース記録方式の基本的な条件について説明する。なお、「インターレース記録方式」とは、印刷ヘッドの副走査方向に沿って測ったノズルピッチk[ドット]が2以上であるときに採用される記録方式を言う。インターレース記録方式では、1回の主走査では近隣のノズルの間に記録できないラスタラインが残り、このラスタライン上の画素は他の主走査時に記録される。なお、本明細書においては、「印刷方式」と「記録方式」とは同義語である。
図9は、通常のインターレース記録方式の基本的条件を示すための説明図である。図9(A)は、4個のノズルを用いた場合の副走査送りの一例を示しており、図9(B)はそのドット記録方式のパラメータを示している。図9(A)において、数字を含む実線の丸は、各パスにおける4個のノズルの副走査方向の位置を示している。ここで、「パス」とは1回分の主走査を意味している。丸の中の数字0〜3は、ノズル番号を意味している。4個のノズルの位置は、1回の主走査が終了する度に副走査方向に送られる。但し、実際には、副走査方向の送りは紙送りモータ22(図4)によって用紙を移動させることによって実現されている。
図9(A)の左端に示すように、この例では副走査送り量Lは4ドットの一定値である。従って、副走査送りが行われる度に、4個のノズルの位置が4ドットずつ副走査方向にずれてゆく。各ノズルは、1回の主走査中にそれぞれのラスタライン上のすべてのドット位置(「画素位置」とも呼ぶ)を記録対象としている。なお、本明細書では、各ラスタライン(「主走査ライン」とも呼ぶ)上で行われる主走査の延べ回数を、「スキャン繰り返し数s」と呼ぶ。
図9(A)の右端には、各ラスタライン上のドットを記録するノズルの番号が示されている。なお、ノズルの副走査方向位置を示す丸印から右方向(主走査方向)に伸びる破線で描かれたラスタラインでは、その上下のラスタラインの少なくとも一方が記録できないので、実際にはドットの記録が禁止される。一方、主走査方向に伸びる実線で描かれたラスタラインは、その前後のラスタラインがともにドットで記録され得る範囲である。このように実際に記録を行える範囲を、以下では有効記録範囲(または「有効印刷範囲」、「印刷実行領域」、「記録実行領域」)と呼ぶ。
図9(B)には、このドット記録方式に関する種々のパラメータが示されている。ドット記録方式のパラメータには、ノズルピッチk[ドット]と、使用ノズル個数N[個]と、スキャン繰り返し数sと、実効ノズル個数Neff[個]と、副走査送り量L[ドット]とが含まれている。
図9の例では、ノズルピッチkは3ドットである。使用ノズル個数Nは4個である。なお、使用ノズル個数Nは、実装されている複数個のノズルの中で実際に使用されるノズルの個数である。スキャン繰り返し数sは、各ラスタライン上においてs回の主走査が実行されることを意味している。たとえば、スキャン繰り返し数sが2のときには、各ラスタライン上において2回の主走査が実行される。このとき、通常は、一回の主走査において1ドットおきに間欠的にドットが形成される。図9の場合には、スキャン繰り返し数sは1である。実効ノズル個数Neff は、使用ノズル個数Nをスキャン繰り返し数sで割った値である。この実効ノズル個数Neff は、一回の主走査でドット記録が完了するラスタラインの正味の本数を示しているものと考えることができる。
図9(B)の表には、各パスにおける副走査送り量Lと、その累計値ΣLと、ノズルのオフセットFとが示されている。ここで、オフセットFとは、最初のパス1におけるノズルの周期的な位置(図9では4ドットおきの位置)をオフセットが0である基準位置と仮定した時に、その後の各パスにおけるノズルの位置が基準位置から副走査方向に何ドット離れているかを示す値である。たとえば、図9(A)に示すように、パス1の後には、ノズルの位置は副走査送り量L(4ドット)だけ副走査方向に移動する。一方、ノズルピッチkは3ドットである。従って、パス2におけるノズルのオフセットFは1である(図9(A)参照)。同様にして、パス3におけるノズルの位置は、初期位置からΣL=8ドット移動しており、そのオフセットFは2である。パス4におけるノズルの位置は、初期位置からΣL=12ドット移動しており、そのオフセットFは0である。3回の副走査送り後のパス4ではノズルのオフセットFは0に戻るので、3回の副走査を1サイクルとして、このサイクルを繰り返すことによって、有効記録範囲のラスタライン上のすべてのドットを記録することができる。
図9の例からも解るように、ノズルの位置が初期位置からノズルピッチkの整数倍だけ離れた位置にある時には、オフセットFはゼロである。また、オフセットFは、副走査送り量Lの累計値ΣLをノズルピッチkで割った余り(ΣL)%kで与えられる。ここで、「%」は、除算の余りをとることを示す演算子である。なお、ノズルの初期位置を周期的な位置と考えれば、オフセットFは、ノズルの初期位置からの位相のずれ量を示しているものと考えることもできる。
スキャン繰り返し数sが1の場合には、有効記録範囲において記録対象となるラスタラインに抜けや重複が無いようにするためには、以下のような条件を満たすことが必要である。
条件c1:1サイクルの副走査送り回数は、ノズルピッチkに等しい。
条件c2:1サイクル中の各回の副走査送り後のノズルのオフセットFは、0〜(k−1)の範囲のそれぞれ異なる値となる。
条件c3:副走査の平均送り量(ΣL/k)は、使用ノズル数Nに等しい。換言すれば、1サイクル当たりの副走査送り量Lの累計値ΣLは、使用ノズル数Nとノズルピッチkとを乗算した値(N×k)に等しい。
上記の各条件は、次のように考えることによって理解できる。近隣のノズルの間には(k−1)本のラスタラインが存在するので、1サイクルでこれら(k−1)本のラスタライン上で記録を行ってノズルの基準位置(オフセットFがゼロの位置)に戻るためには、1サイクルの副走査送りの回数はk回となる。1サイクルの副走査送りがk回未満であれば、記録されるラスタラインに抜けが生じ、一方、1サイクルの副走査送りがk回より多ければ、記録されるラスタラインに重複が生じる。従って、上記の第1の条件c1が成立する。
1サイクルの副走査送りがk回の時には、各回の副走査送りの後のオフセットFの値が0〜(k−1)の範囲の互いに異なる値の時にのみ、記録されるラスタラインに抜けや重複が無くなる。従って、上記の第2の条件c2が成立する。
上記の第1と第2の条件を満足すれば、1サイクルの間に、N個の各ノズルがそれぞれk本のラスタラインの記録を行うことになる。従って、1サイクルではN×k本のラスタラインの記録が行われる。一方、上記の第3の条件c3を満足すれば、図9(A)に示すように、1サイクル後(k回の副走査送り後)のノズルの位置が、初期のノズル位置からN×kラスタライン離れた位置に来る。従って、上記第1ないし第3の条件c1〜c3を満足することによって、これらのN×k本のラスタラインの範囲において、記録されるラスタラインに抜けや重複を無くすることができる。
図10は、スキャン繰り返し数sが2以上の場合のドット記録方式の基本的条件を示すための説明図である。スキャン繰り返し数sが2以上の場合には、同一のラスタライン上でs回の主走査が実行される。以下では、スキャン繰り返し数sが2以上のドット記録方式を「オーバーラップ方式」と呼ぶ。
図10に示すドット記録方式は、図9(B)に示すドット記録方式のパラメータの中で、スキャン繰り返し数sと副走査送り量Lとを変更したものである。図10(A)からも解るように、図10のドット記録方式における副走査送り量Lは2ドットの一定値である。但し、図10(A)においては、偶数回目のパスのノズルの位置を、菱形で示している。通常は、図10(A)の右端に示すように、偶数回目のパスで記録されるドット位置は、奇数回目のパスで記録されるドット位置と、主走査方向に1ドット分だけずれている。従って、同一のラスタライン上の複数のドットは、異なる2つのノズルによってそれぞれ間欠的に記録されることになる。たとえば、有効記録範囲内の最上端のラスタラインは、パス2において2番のノズルで1ドットおきに間欠的に記録された後に、パス5において0番のノズルで1ドットおきに間欠的に記録される。このオーバーラップ方式では、各ノズルは、1回の主走査中に1ドット記録した後に(s−1)ドット記録を禁止するように、間欠的なタイミングでノズルが駆動される。
このように、各主走査時にラスタライン上の間欠的な画素位置を記録対象とするオーバーラップ方式を、「間欠オーバーラップ方式」と呼ぶ。なお、間欠的な画素位置を記録対象とする代わりに、各主走査時にラスタライン上のすべての画素位置を記録対象としてもよい。すなわち、1本のラスタライン上でs回の主走査を実行するときに、同じ画素位置でドットの重ね打ちを許容してもよい。このようなオーバーラップ方式を、「重ね打ちオーバーラップ方式」または「完全オーバーラップ方式」と呼ぶ。
なお、間欠オーバーラップ方式では、同一ラスタラインを記録する複数のノズルの主走査方向の位置が互いにずれていればよいので、各主走査時における実際の主走査方向のずらし量は、図10(A)に示すもの以外にも種々のものが考えられる。たとえば、パス2では主走査方向のずらしを行わずに丸で示す位置のドットを記録し、パス5において主走査方向のずらしを行なって菱形で示す位置のドットを記録するようにすることも可能である。
図10(B)の表の最下段には、1サイクル中の各パスのオフセットFの値が示されている。1サイクルは6回のパスを含んでおり、パス2からパス7までの各パスにおけるオフセットFは、0〜2の範囲の値を2回ずつ含んでいる。また、パス2からパス4までの3回のパスにおけるオフセットFの変化は、パス5からパス7までの3回のパスにおけるオフセットFの変化と等しい。図10(A)の左端に示すように、1サイクルの6回のパスは、3回ずつの2組の小サイクルに区分することができる。このとき、1サイクルは、小サイクルをs回繰り返すことによって完了する。
一般に、スキャン繰り返し数sが2以上の整数の場合には、上述した第1ないし第3の条件c1〜c3は、以下の条件c1’〜c3’のように書き換えられる。
条件c1’:1サイクルの副走査送り回数は、ノズルピッチkとスキャン繰り返し数sとを乗じた値(k×s)に等しい。
条件c2’:1サイクル中の各回の副走査送り後のノズルのオフセットFは、0〜(k−1)の範囲の値であって、それぞれの値がs回ずつ繰り返される。
条件c3’:副走査の平均送り量{ΣL/(k×s)}は、実効ノズル数Neff (=N/s)に等しい。換言すれば、1サイクル当たりの副走査送り量Lの累計値ΣLは、実効ノズル数Neff と副走査送り回数(k×s)とを乗算した値{Neff ×(k×s)}に等しい。
上記の条件c1’〜c3’は、スキャン繰り返し数sが1の場合にも成立する。従って、条件c1’〜c3’は、スキャン繰り返し数sの値に係わらず、インターレース記録方式に関して一般的に成立する条件であると考えられる。すなわち、上記の3つの条件c1’〜c3’を満足すれば、有効記録範囲において、記録されるドットに抜けや不要な重複が無いようにすることができる。但し、間欠オーバーラップ方式を採用する場合には、同じラスタラインを記録するノズルの記録位置を互いに主走査方向にずらすという条件も必要である。また、重ね打ちオーバーラップ方式を採用する場合には、上記の条件c1’〜c3’が満足されていればよく、各パスにおいてすべての画素位置が記録対象とされる。
なお、図9,図10では、副走査送り量Lが一定値である場合について説明したが、上記の条件c1’〜c3’は、副走査送り量Lが一定値である場合に限らず、副走査送り量として複数の異なる値の組み合わせを使用する場合にも適用可能である。なお、本明細書において、送り量Lが一定値である副走査送りを「定則送り」と呼び、送り量として複数の異なる値の組み合わせを使用する副走査送りを「変則送り」と呼ぶ。
D.印刷モードの選択による凝集の防止:
図11は、凝集の発生とその抑制の状況を示す説明図である。図11(a)は、凝集の発生する過程を示す図であり、図11(b)凝集が発生しない場合を示す図である。図11(a)の(a−1)は、印刷媒体上のある位置にノズルから吐出されたインク滴が付着した状態である。(a−2)は、インク滴が印刷媒体に吸収されたり蒸発して小さくなる前に、他のインク滴が隣接する画素に付着した時の様子を示す。ここで、隣接する画素とは、少なくとも一つの点または線を共有する2以上の画素をいい、副走査方向に隣接する場合、主走査方向に隣接する場合、そして主走査方向と副走査方向との間の斜めの方向に隣接する場合とがある。この場合、(a−3)に示すように、二つのインク滴は、結合して大きなインク滴を形成する。このようなインク滴の結合が連続して生じた状態をインクの凝集と言い、画質の劣化の原因となっている。特に、合成樹脂のようにあまりインクを吸収しない印刷媒体では、凝集が起こりやすく画質劣化の大きな原因となっている。
図11(b)の(b−1)の点線は、印刷媒体上のある位置にノズルから吐出されたインク滴が付着した状態を示す。(b−2)は、先に吐出されたインク滴が印刷媒体に吸収されたり蒸発して小さくなった後に、後に吐出されたインク滴が隣接する画素に付着した時の様子を示す。(b−2)に示すように、向かって左側のインク滴が小さくなっているため、向かって右側のインク滴と結合していないことが分かる。
このように、ある画素にインク滴が付着して十分な時間が経過した後に、隣接する画素にインク滴を付着させれば、この二つのインク滴の結合を防止できるので、凝集が抑制できることになる。このためには、たとえば、双方向印刷でなく、単方向印刷の印刷モードを選択するのが好ましい。また、印刷解像度を高くすると、インク滴が小さくなるため乾燥がより促進されるが、このためには、より解像度の高い印刷モードを選択するのが好ましい。この結果、印刷速度の遅い特定の印刷モードを、印刷媒体に応じて自動的に選択するのが好ましいことが分かる。
印刷媒体に応じて自動的に選択するには、前述のように、印刷条件設定ウィンドウ(図2)において、印刷媒体の種類の選択で合成樹脂の印刷媒体を選択すると、自動的に印刷モードの選択の幅が狭められるようにすれば良い。たとえば、この例では、印刷媒体として合成樹脂の印刷媒体を選択すると、印刷モードテーブル104(図3)の中で最も印刷速度の遅い特定の印刷モード4cまたは4dのみから選択できるようになっている。ただし、たとえば、次に遅い印刷モード4a、4bでも、合成樹脂の印刷媒体にきれいに印刷できるような場合には、特定の印刷モード4aないし4dから選択できるようにしても良い。この場合、モード設定で「推奨設定」を選択すると、印刷モードテーブル104の中で遅い特定の印刷モード4cまたは4dが自動的に選択されるようにするのが好ましい。
以上説明したように、本発明では、印刷媒体としてコンパクトディスクのような合成樹脂製のデータ記録媒体が設定されると、単位面積当たりの印刷速度が最も遅い印刷モードが自動的に設定される。この結果、インクをあまり吸収しない合成樹脂に対して印刷を行う場合にも、凝集による画質の劣化を抑制して、印刷画質を向上させることができる。また、この印刷モードは、合成樹脂製のデータ記録媒体の印刷に適した、ドット記録方式や色変換テーブルLUTを採用することで、さらにきれいな印刷を行うことができる。
E.記録方法の変更による凝集の防止:
図12は、本発明のドット記録方式の第1の例のドット記録方式を示す説明図である。この記録方式のパラメータは、N=12,k=4,L=3,s=4である。これらのパラメータは、上述した条件c1’〜c3’を満足している。従って、記録されるドットに抜けや不要な重複が無く印刷を実行することができる。また、記録方式の基本的条件で説明したように、ノズルピッチkが4でスキャン繰り返し数sが4なので、1サイクルには16回のパスが含まれることになる。図12では、この1サイクルに含まれる16回のパスの一部を示している。
図12の右端に示す画素位置番号は、各ラスタライン上の画素の配列の順番を示しており、円内の番号はその画素位置におけるドットの形成を担当するパスの番号を示している。たとえば、1番目のラスタラインは#1と#5と#9と#13の4回のパスでドットが形成される。すなわち、1番目のラスタラインについては、画素位置番号が(1+4×n)番のドットは#1のパスが形成し、画素位置番号が(2+4×n)番のドットは#5のパスが形成し、画素位置番号が(3+4×n)番のドットは#9のパスが形成し、画素位置番号が(4+4×n)番のドットは#13のパスが形成することを示している。同様に、2番目のラスタライン上のドットは#4と#8と#12と#16のパスで形成され、3番目のラスタライン上のドットは#3と#7と#11と#15のパスで形成され、4番目のラスタライン上のドットは#2と#6と#10と#14のパスで形成される。このようにして、(1+3×m)番目のラスタラインは#1と#5と#9と#13のパスで、(2+3×m)番目のラスタラインは#4と#8と#12と#16のパスで、そして(3+3×m)番目のラスタラインは#3と#7と#11と#15パスで、そして(4+3×m)番目のラスタラインは#2と#6と#10と#14のパスで形成される。なお、本明細書では、m、nは、負でない整数である。
このようなラスタラインの形成は、印刷信号PRT(i)(図8)のタイミングを制御することにより行う。具体的には、たとえば、1番目のラスタラインの画素位置番号が(1+4×n)番の画素に、#1のパスでドットを形成させるためには、#1のパスでは印刷信号PRT(i)を(1+4×n)番目の画素位置においてのみ出力され得るように制御すればよい。すなわち、(1+4×n)番目のドットを記録するときにのみ印刷信号PRT(i)を出力し、(2+4×n)、(3+4×n)、(4+4×n)番目のドットでは、そのドットを記録するか否かに拘わらず印刷信号PRT(i)を出力しないようにすればよい。
この主走査方向に隣接する二つの画素のドット形成の時間的間隔は、たとえば、各パスに要する時間を5秒とすると、第1の例のラスタ番号が1番で画素位置番号が1番の画素と、ラスタ番号が1番で画素位置番号が2番の画素とでは20秒間である。このように、スキャン繰り返し数sが2以上となると、一本のラスタラインを複数のパスで形成することになるので、主走査方向に隣接する画素のドットを、連続する主走査では形成せず、連続しない主走査で形成するようにすることができる。この結果、主走査方向に隣接する画素に事前に形成されたドットのインク滴がかなり乾燥し、主走査方向へのインク滴の凝集が抑制されることになる。
ただし、画素位置番号が1の画素位置に着目すると、ラスタ番号が5の画素は#1のパスが、ラスタ番号が4の画素は#2のパスが、ラスタ番号が3の画素は#3のパスが、そしてラスタ番号が2の画素は#4のパスが担当する。このように、#1、#2、#3…といった連続するパスが副走査方向に順に隣接している。また、他の画素位置についても同様である。
図13は、本発明のドット記録方式の第2の例を示す説明図である。このドット記録方式は、第1の例の記録方式とパラメータは同一であるが、各パスの記録する画素位置が第1の例のドット記録方式とは異なる。具体的には、(1+4×m)番目と(3+4×m)番目のラスタラインについては、第1の例と同様であるが、これと隣接する(2+4×m)番目と(4+4×m)番目のラスタラインについては、画素位置が異なる。たとえば、この第2の例では、画素位置番号が(1+4×n)番のドットは#10のパスが形成し、画素位置番号が(2+4×n)番のドットは#14のパスが形成し、画素位置番号が(3+4×n)番のドットは#2のパスが形成し、画素位置番号が(4+4×n)番のドットは#6のパスが形成するが、第1の例では別のパスが形成する点で異なる。
図14は、本発明のドット記録方式の第1の例と第2の例における各パスのドットが記録する画素を示す説明図である。図示するように、第2の例の(4+4×m)番目のラスタラインと第1の例の(4+4×m)番目のラスタラインとでは、パス#2、#6、#10、#14の記録する画素の画素位置番号が入れ替えられている。具体的には、(1+4×n)番と(2+4×n)番のドットと、画素位置番号が(3+4×n)番と(4+4×n)番のドットとが入れ替えられている。この入れ替えは、印刷信号PRT(i)のタイミングを変更することで実現できる。
このように、各パスにおける駆動信号のタイミングを変更して、各画素位置の記録を担当するパスを変更することで、連続するパスが副走査方向に隣接する画素のドットを記録しないようにすることができる。
ただし、主走査方向と副走査方向との間の斜めの方向に隣接する画素に着目すると、この第2の例では、連続するパスが記録を担当する画素が存在する。具体的には、#4、#5のパスと#8、#9のパスである。ただし、斜めの方向に隣接する画素は、主走査方向や副走査方向に隣接する画素と比較すると、距離的間隔が大きいので、凝集の発生は比較的起こりにくい。
図15は、本発明のドット記録方式の第3の例のドット記録方式を示す説明図である。この記録方式のパラメータは、N=20,k=4,L=3,s=5である。これらのパラメータは、上述した条件c1’〜c3’を満足している。従って、記録されるドットに抜けや不要な重複が無く印刷を実行することができる。図13に示した第2の例との違いは、スキャン繰り返し数sを4から5に増大して、各パスが記録を担当する画素位置の自由度を増大させた点である。
図16は、本発明のドット記録方式の第2の例と第3の例における各パスのドット記録位置を示す説明図である。図13に示した第2の例では、4カ所の画素位置から各パスが記録する位置を選択できたが、この第3の例では、画素位置番号が(1+5×n)、(2+5×n)、(3+5×n)、(4+5×n)、そして(5+5×n)の5カ所の画素位置から各パスが記録する画素位置を選択できる。この結果、この第3の例では、斜めの方向に隣接する画素についても、連続して記録するパスが存在しないように記録することが可能である。
図17は、本発明のドット記録方式の第4の例を示す説明図である。図13に示した第2の例との違いは、副走査送りが変則送りである点である。この第4の例では、副走査送りを定則送りから変則送りに変えることで、一部のパスの担当するラスタラインを入れ替えている。具体的には、#5のパスと#6のパスとの間と、#9のパスと#10のパスとの間とで記録する画素を入れ替えている。
図18は、本発明のドット記録方式の第2の例と第4の例における各パスのドット記録位置を示す説明図である。第2の例と第4の例における各パスのドット記録位置を比較すると、#5のパスは、第2の例では(1+4×m)番目のラスタラインを記録しているが、この第4の例では(4+4×m)番目のラスタラインを記録している。一方、#6のパスは、第2の例では(4+4×m)番目のラスタラインを記録しているが、この第4の例では(1+4×m)番目のラスタラインを記録している。また、#9、#10のパスも同様に入れ替えられている。
パスが記録を担当するラスタラインの入れ替えは、各パスの副走査送り量Lを一部変更することによりできる。具体的には、#5のパスと#6のパスの入れ替えは、図17に示すように、第2の例における一定の送り量L=3に対して、この第4の例においては、#5のパスを副走査送り量L=2で、#6のパスを副走査送り量L=5で、#7のパスを副走査送り量L=2で、それぞれ送ることで可能となっている。#9のパスと#10のパスの入れ替えも、同様に副走査送り量を調整することにより行うことができる。
上述したドット記録方式の第1ないし第4の例から理解できるように、各パスが記録を担当する画素を、各パスにおける駆動信号のタイミングや各パスの副走査送り量を調整することにより変更することができる。このように、各パスが記録を担当する画素を適切に変更することにより、隣接する画素の記録のタイミングをずらすことができ、これにより凝集を防止して、印刷画像の劣化を抑制することができる。
図19は、理想的なインクを用いた場合に、ある1つの色を再現する際のインクデューティと各インクの記録率との関係を例示する図である。インクデューティとは、前述のように、単位面積当たりの全インク量を表す値であり、各インクの記録率の合計値である。たとえば、図19のインクデューティが100%のときの組合せでは、シアン(C)の記録率が20%,マゼンタの記録率が35%,イエロ(Y)の記録率が45%であり、他の色の記録率は0%である。
ところで、理想インクでは、たとえば、記録率10%のシアンと、記録率10%のマゼンタと、記録率10%のイエロとで再現される色は、記録率10%の単色ブラックの色と同じになる。従って、シアン,マゼンタ,イエロの記録率をそれぞれ5%ずつ減らして、単色ブラックの記録率を5%増やした場合は、同じ色を再現することができる。このため、図19のインクデューティが60%のときの色とインクデューティが100%のときの色とでは、理想インクでは差がないことになる。
このように、同じ1つの色を再現するための複数のインク色の記録率の組合せは、インクデューティによって変わる。また、インクデューティを低くするためには、ブラックインクの記録率(すなわち単位面積当たりのインク量)を増加させれば良いことがわかる。なお、現実には、ブラックインクの記録率を増大させると、ブラックインクドットの粒状感や印刷媒体の地肌の露出等の問題が顕在するので、ブラックインクの記録率は、これらの問題と印刷媒体のインクデューティの最大許容値との間のトレードオフを考慮して決定される。
このように、同じ1つの色を再現するための複数のインク色の記録率の組合せがインクデューティによって変わるので、インクデューティの最大許容値に応じて、プリンタドライバ96が利用する色変換テーブルLUT(図1参照)を変えることが好ましいことが分かる。したがって、インクの吸収量が少ない印刷媒体に、きれいに印刷するためには、このような印刷媒体に対応した色変換テーブルLUTを使用するのが好ましいことになる。具体的には、印刷媒体として合成樹脂が選択されると、合成樹脂製のデータ記録媒体用の色変換テーブルLUTが選択されるようにすれば良い。
また、階調数を増加させるために、淡シアンインク(図19)のように濃度の低いインクが使用されることが多いが、濃度の低いインクの使用は、インクデューティーを増大させる。したがって、複数の同一色相インクが利用可能な色相については、前記複数の同一色相インクの中で最も濃度の低いインクを使用せずに比較的濃度の高いインクのみを使用するように印刷データを生成するようにすれば、インク滴の凝集を抑制することができることが分かる。このような印刷データを生成するには、具体的には、合成樹脂製のデータ記録媒体用の色変換テーブルLUTを、インクデューティの最大許容値に拘わらず、濃色インクのみの使用を前提とするものにすれば良い。
以上に説明したように、合成樹脂製のデータ記録媒体に適した色変換テーブルLUTを使用すれば、インクデューティを制限してインクの凝集の抑制が可能となるとともに、印刷画像の画質の劣化も抑えることができる。
F.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、たとえば次のような変形も可能である。
上記の実施例では、CD−R用の印刷モードとして、解像度が1440×720で、かつ、印刷方向が単方向印刷であるものを例示している。しかし、たとえば、解像度がより低い720×720や双方向印刷であっても、主走査速度や副走査送り速度自体を低下させることにより、最も印刷速度の遅い印刷モードを構成し、CD−R用の印刷モードとして採用しても良い。
この発明はカラー印刷だけでなくモノクロ印刷にも適用できる。また、1画素を複数のドットで表現することにより多階調を表現する印刷にも適用できる。また、ドラムプリンタにも適用できる。尚、ドラムプリンタでは、ドラム回転方向が主走査方向、キャリッジ走行方向が副走査方向となる。また、この発明は、インクジェットプリンタのみでなく、一般に、複数のノズル列を有する記録ヘッドを用いて印刷媒体の表面に記録を行うドット記録装置に適用することができる。
上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。たとえば、図1に示したプリンタドライバ96の機能の一部または全部を、プリンタ20内の制御回路40が実行するようにすることもできる。この場合には、印刷データを作成する印刷制御装置としてのコンピュータ90の機能の一部または全部が、プリンタ20の制御回路40によって実現される。
本発明の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。この発明において、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。