JP4154865B2 - 複数画素を階調再現の1単位とする印刷 - Google Patents
複数画素を階調再現の1単位とする印刷 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、インク滴を吐出することによって印刷を行う印刷技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、コンピュータの出力装置として、インクをヘッドから吐出するインクジェットプリンタが広く普及している。また、従来のインクジェット型プリンタは、各画素をオン・オフの2値で再現できるだけであったが、近年では1画素で3以上の多値の再現ができる多値プリンタも提案されている。多値の画素は、例えば、各画素位置に形成されるドットの大きさを調整することによって再現することができる。複数種類の大きさのドットを形成する際には、複数の異なる量のインクを選択的に吐出できるような複雑な波形を有する駆動信号を用いる。そして、この駆動信号を整形することによって、各画素位置でのインクの吐出量が調整される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、1種類の駆動信号を用いる場合には、1画素当たりのインク吐出量を高々3段階程度に変更できるだけである。このため、画素毎の局所的な階調再現性も、これによって制限されてしまう。換言すれば、各画素でのインク吐出量の調整による局所的な階調再現性は、その自由度がかなり低いという問題があった。一方、局所的な階調再現性の自由度を高めることができれば、より高画質な印刷や、より高速な印刷を達成できる可能性がある。そこで、従来から、局所的な階調再現性の自由度を高めることのできる技術が望まれていた。
【0004】
この発明は、従来技術における上述の課題を解決するためになされたものであり、インクの吐出による局所的な階調再現性の自由度を高めることができる技術を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
上述の課題の少なくとも一部を解決するため、本発明では、主走査を行いつつ印刷媒体上に印刷を行う印刷装置であって、同一のインクを吐出するための複数のノズルと、前記複数のノズルからインク滴をそれぞれ吐出させるための複数の吐出駆動素子とを有する印刷ヘッドと、前記印刷媒体と印刷ヘッドの少なくとも一方を移動させることによって主走査を行う主走査駆動部と、前記印刷媒体と印刷ヘッドの少なくとも一方を移動させることによって副走査を行う副走査駆動部と、印刷信号に応じて各吐出駆動素子に駆動信号を供給するヘッド駆動部と、前記各部の制御を行う制御部と、を備える。
前記制御部は、前記同一のインクによる階調再現を、
(i)印刷解像度で規定されるピッチを有する画素のうちで、主走査方向と副走査方向のうちの一方向に沿って連続するN画素(Nは2以上の整数)を階調再現の1単位として設定し、
(ii)前記N画素のうちの少なくとも1つの画素位置に吐出可能なインク量を、他の画素位置に吐出可能なインク量とは異なる値に設定し、
(iii)前記N画素の各画素位置におけるインク量を調整することによって、前記N画素毎にM階調(MはN+2以上の整数)を再現する、
ことによって行う第1の印刷モードを有する。
また、前記ヘッド駆動部は、1回の主走査の間には、前記複数のノズルによって走査される各主走査ライン上の画素位置のうちの間欠的な画素位置にのみ、各主走査毎に予め設定された一定量のインク滴を吐出するように前記複数の吐出駆動素子を駆動するとともに、各主走査ライン上で複数回の主走査が行われる際に、前記N画素毎にM階調を再現するためのインク滴を前記印刷ヘッドから吐出させる。
【0006】
この印刷装置では、一方向に沿って連続するN画素を階調再現の1単位として用いてM階調(M≧N+2)を再現するので、N画素のそれぞれに吐出するインク量について大きな自由度がある。従って、従来とは異なる階調再現性を実現することが可能である。また、1回の主走査の際に間欠的な画素位置にのみインク滴を吐出する場合には、N画素を1単位として多値の階調再現を行う方が、各画素毎に多値の階調再現を行うよりも主走査の回数が少なくて済む。従って、印刷速度を向上させることが可能である。
【0009】
前記ヘッド駆動部は、前記N画素のうちの少なくとも1つの画素位置においては、複数回の主走査においてインクを重ねて吐出させるようにしてもよい。また、前記インクが重ねて吐出される画素位置においては、各主走査で吐出されるインク量が互いに異なるようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、N画素を1単位とする多値の階調再現の自由度をより高めることが可能である。
【0011】
前記ヘッド駆動部は、複数種類の共通駆動信号のうちのいずれかを、各主走査毎に選択的に発生可能な共通駆動信号発生部と、前記共通駆動信号発生部から供給された前記共通駆動信号を前記印刷信号に応じて各画素毎に整形することによって、前記各吐出駆動素子に与えられる前記駆動信号を生成する駆動信号整形部と、を備えるようにしてもよい。このとき、前記ヘッド駆動部は、前記共通駆動信号の波形を変更することによって、前記複数のノズルから吐出されるインク量を変更する。
【0012】
この構成によれば、インクの吐出量を容易に変更することが可能である。
【0013】
なお、前記整数Nは2であり、前記整数Mは4以上であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、2画素単位で多くの階調を再現することが可能である。
【0015】
前記階調再現の1単位となる画素対は、隣接する主走査ライン上において逆向きに配列されることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、一様な印刷画像においてもドットが偏って配置されることが無いという利点がある。
【0017】
前記N画素で再現可能なM階調のうちの最も暗い階調では、前記印刷媒体上の印刷領域を前記同一のインクでベタ打ち可能なインク量が吐出されることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、N画素を階調再現の1単位としていても、ベタ画像を再現することが可能である。
【0019】
前記N画素で再現可能なM階調は、明度レベルがほぼ等間隔になるように設定されていることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、滑らかな階調再現を実現することが可能である。
【0021】
前記制御部は、さらに、前記第1の印刷モードよりも高い印刷解像度で印刷を行う第2の印刷モードを有しており、前記第1の印刷モードにおいて前記N画素の位置に吐出可能な最も少ないインク量は、前記第2の印刷モードにおいて前記印刷媒体上の印刷領域を前記同一のインクでベタ打ち可能なインク量に相当することが好ましい。
【0022】
この構成によれば、ノズルから吐出されるインク量の種類が少なくて済むので、インク吐出のための制御が容易になるという利点がある。
【0027】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、印刷方法および印刷装置、印刷制御方法および印刷制御装置、ドットの位置ズレ調整方法および装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、そのコンピュータプログラムを含み搬送波内に具現化されたデータ信号、等の態様で実現することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.装置の全体構成:
B.第1実施例:
C.他の実施例:
D.ドットの位置ズレ調整
E.変形例
【0029】
A.装置の構成:
図1は、本発明の一実施例として印刷システムの構成を示すブロック図である。この印刷システムは、コンピュータ90と、カラープリンタ20と、を備えている。なお、プリンタ20とコンピュータ90とを含む印刷システムは、広義の「印刷装置」と呼ぶことができる。
【0030】
コンピュータ90では、所定のオペレーティングシステムの下で、アプリケーションプログラム95が動作している。オペレーティングシステムには、ビデオドライバ91やプリンタドライバ96が組み込まれており、アプリケーションプログラム95からは、これらのドライバを介して、プリンタ20に転送するための印刷データPDが出力される。画像のレタッチなどを行うアプリケーションプログラム95は、処理対象の画像に対して所望の処理を行い、また、ビデオドライバ91を介してCRT21に画像を表示している。
【0031】
アプリケーションプログラム95が印刷命令を発すると、コンピュータ90のプリンタドライバ96が、画像データをアプリケーションプログラム95から受け取り、これをプリンタ20に供給する印刷データPDに変換する。図1に示した例では、プリンタドライバ96の内部には、解像度変換モジュール97と、色変換モジュール98と、ハーフトーンモジュール99と、ラスタライザ100と、色変換ルックアップテーブルLUTと、が備えられている。
【0032】
解像度変換モジュール97は、アプリケーションプログラム95で形成されたカラー画像データの解像度を、印刷解像度に変換する役割を果たす。こうして解像度変換された画像データは、まだRGBの3つの色成分からなる画像情報である。色変換モジュール98は、色変換ルックアップテーブルLUTを参照しつつ、各画素ごとに、RGB画像データを、プリンタ20が利用可能な複数のインク色の多階調データに変換する。
【0033】
色変換された多階調データは、例えば256階調の階調値を有している。ハーフトーンモジュール99は、いわゆるハーフトーン処理を実行してハーフトーン画像データを生成する。このハーフトーン画像データは、ラスタライザ100によりプリンタ20に転送すべきデータ順に並べ替えられ、最終的な印刷データPDとして出力される。なお、印刷データPDは、各主走査時のドットの形成状態を示すラスタデータと、副走査送り量を示すデータと、を含んでいる。
【0034】
なお、プリンタドライバ96は、印刷データPDを生成する機能を実現するためのプログラムに相当する。プリンタドライバ96の機能を実現するためのプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された形態で供給される。このような記録媒体としては、フレキシブルディスクやCD−ROM、光磁気ディスク、ICカード、ROMカートリッジ、パンチカード、バーコードなどの符号が印刷された印刷物、コンピュータの内部記憶装置(RAMやROMなどのメモリ)および外部記憶装置等の、コンピュータが読み取り可能な種々の媒体を利用できる。
【0035】
なお、プリンタドライバ96を備えたコンピュータ90は、印刷データPDを生成し、これをプリンタ20に供給して印刷を行わせる印刷制御装置としての機能を有している。
【0036】
図2は、プリンタ20の概略構成図である。プリンタ20は、紙送りモータ22によって印刷用紙Pを副走査方向に搬送する副走査送り機構と、キャリッジモータ24によってキャリッジ30をプラテン26の軸方向(主走査方向)に往復動させる主走査送り機構と、キャリッジ30に搭載された印刷ヘッドユニット60を駆動してインクの吐出およびドット形成を制御するヘッド駆動機構と、これらの紙送りモータ22,キャリッジモータ24,印刷ヘッドユニット60および操作パネル32との信号のやり取りを司る制御回路40とを備えている。制御回路40は、コネクタ56を介してコンピュータ90に接続されている。
【0037】
印刷用紙Pを搬送する副走査送り機構は、紙送りモータ22の回転をプラテン26と用紙搬送ローラ(図示せず)とに伝達するギヤトレインを備える(図示省略)。また、キャリッジ30を往復動させる主走査送り機構は、プラテン26の軸と並行に架設されキャリッジ30を摺動可能に保持する摺動軸34と、キャリッジモータ24との間に無端の駆動ベルト36を張設するプーリ38と、キャリッジ30の原点位置を検出する位置センサ39とを備えている。
【0038】
図3は、制御回路40を中心としたプリンタ20の構成を示すブロック図である。制御回路40は、CPU41と、プログラマブルROM(PROM)43と、RAM44と、文字のドットマトリクスを記憶したキャラクタジェネレータ(CG)45とを備えた算術論理演算回路として構成されている。この制御回路40は、さらに、外部のモータ等とのインタフェースを専用に行なうI/F専用回路50と、このI/F専用回路50に接続され印刷ヘッドユニット60を駆動してインクを吐出させるヘッド駆動回路52と、紙送りモータ22およびキャリッジモータ24を駆動するモータ駆動回路54と、を備えている。I/F専用回路50は、パラレルインタフェース回路を内蔵しており、コネクタ56を介してコンピュータ90から供給される印刷データPDを受け取ることができる。プリンタ20は、この印刷データPDに従って印刷を実行する。なお、RAM44は、ラスタデータを一時的に格納するためのバッファメモリとして機能する。
【0039】
CPU41は、印刷動作の制御を行う狭義の「制御部」として機能する。また、制御回路40内のCPU41,PROM43、およびRAM44と、コンピュータ90とは、印刷動作の種々の制御を行っているので、これらの全体を広義の「制御部」に含めることも可能である。
【0040】
印刷ヘッドユニット60は、印刷ヘッド28を有しており、また、インクカートリッジ70(図2)を搭載可能である。なお、印刷ヘッドユニット60は、1つの部品としてプリンタ20に着脱される。すなわち、印刷ヘッド28を交換しようとする際には、印刷ヘッドユニット60を交換することになる。
【0041】
図4は、印刷ヘッド28の下面におけるノズル配列を示す説明図である。印刷ヘッド28の下面には、ブラックインクKを吐出するためのノズル群と、濃シアンインクCを吐出するためのノズル群と、淡シアンインクLCを吐出するためのノズル群と、濃マゼンタインクMを吐出するためのノズル群と、淡マゼンタインクLMを吐出するためのノズル群と、イエローインクYを吐出するためのノズル群とが形成されている。各ノズルには、吐出駆動素子としてのピエゾ素子(図示せず)がそれぞれ設けられている。
【0042】
図5は、ヘッド駆動回路52(図3)の内部構成を示すブロック図である。ヘッド駆動回路52は、共通駆動信号生成回路110と、駆動信号整形回路120とを備えている。
【0043】
共通駆動信号生成回路110は、共通駆動信号COMの波形を示す波形データを格納するためのRAM112を有しており、この波形データをD−A変換することによって任意の波形を有する共通駆動信号COMを生成する。駆動信号整形回路120は、シリアル印刷信号PRTの値に応じて共通駆動信号COMの一部または全部をマスクして、各ノズル用の駆動信号DRVを生成する複数のアナログスイッチ(図示せず)を備えている。整形された駆動信号DRVは、各ノズルの駆動素子であるピエゾ素子130に供給される。なお、図3の例では、48個のピエゾ素子130のそれぞれに対する印刷信号PRT(1)〜PRT(48)に応じて、それぞれの駆動信号DRV(1)〜DRV(48)が生成されている。
【0044】
なお、「共通駆動信号」とは、複数のノズルに共通に使用される駆動信号を意味している。本実施例では、図4に示した6つのノズル群のすべてに対して同一の共通駆動信号COMが供給される。但し、各ノズル群毎に異なる共通駆動信号COMを供給するようにしてもよい。
【0045】
共通駆動信号生成回路110は、互いに波形が異なる複数種類の共通駆動信号の中の1つを、各主走査毎にそれぞれ選択して生成することが可能である。以下に説明する各実施例におけるドットの形成は、このような共通駆動信号生成回路110の機能を利用して行われる。
【0046】
B.第1実施例:
図6(A)〜(G)は、第1実施例で利用される駆動信号波形とドット形成の様子とを示す説明図である。図6(A),(B)には、小ドットSDを形成するための第1の共通駆動信号COM1の波形と、小ドットの形成の様子とが示されている。図6(B)の各矩形は1つの画素を表しており、ここでは主走査ライン上で連続する4つの画素位置P1〜P4が描かれている。この印刷モードでは、主走査方向の印刷解像度は360dpiである。第1の共通駆動信号COM1は、1画素おきに小ドット用のパルスW1が1回発生する信号である。図6(B)に示すように、小ドットSDを形成する場合には、このパルスW1がピエゾ素子130(図5)に印加される。一方、小ドットSDを形成しない場合には、駆動信号整形回路120(図5)によってパルスW1がマスクされる。なお、図6(B)の例では小ドットSDが奇数画素位置P1,P3に形成されている。小ドットSDのインク量は10ngである。
【0047】
小ドット用のパルスW1が1画素おきにしか発生しない理由は、印刷速度の向上のために主走査速度(キャリッジ速度)を高い値に設定すると、すべての画素位置においてインクを吐出することが物理的に困難だからである。より詳細に説明すれば、以下の通りである。すなわち、インクの吐出周波数は、駆動信号の周波数のみでなく、ノズル部分の機械的な固有振動数にも依存する。従って、印刷速度の向上のために主走査速度を高い値に設定すると、主走査時における主走査ライン上の画素の周波数が、インク吐出周波数の上限値よりも高くなってしまう。この場合には、各画素でインクを吐出することが不可能なので、1画素おきにインクを吐出することになる。
【0048】
なお、印刷画質の向上のためには、1つの主走査ライン上のすべての画素位置のドット形成を1回の主走査で完了するよりも、数回の主走査に分けて行う方が好ましいという事情もある。この理由は、ノズルの製造誤差によって、ドットの形成位置がずれている場合に、1主走査ライン上のすべての画素位置のドット形成を1つのノズルだけで行うよりも、複数のノズルで行う方がドットの位置ズレが緩和されるからである。
【0049】
以上の説明から理解できるように、各主走査では主走査ライン上の1画素おきにインクを吐出するとともに、各主走査ライン上におけるドット形成を複数回の主走査で完了することによって、印刷速度と印刷画質の両方を向上させることが可能である。
【0050】
図6(C),(D)には、中ドットMDを形成するための第2の共通駆動信号COM2の波形と、中ドットMDの形成の様子とが示されている。第2の共通駆動信号COM2も、1画素おきに中ドット用のパルスW2が1回発生する信号である。但し、中ドットMDは偶数画素位置P2,P4に形成される。中ドットMDのインク量は20ngである。
【0051】
図6(E),(F)には、大ドットLDを形成するための第3の共通駆動信号COM3の波形と、大ドットLDの形成の様子とが示されている。第3の共通駆動信号COM3も、1画素おきに大ドット用のパルスW3が1回発生する信号である。大ドットLDは偶数画素位置P2,P4に形成される。大ドットLDのインク量は30ngである。
【0052】
図6(B)に示す小ドットSD用の小インク滴と、図6(D)に示す中ドットMD用の中インク滴と、図6(F)に示す大ドットLD用の大インク滴とは、同じ主走査ライン上に吐出される。この主走査ライン上において、小インク滴を吐出するための1回目の主走査を「パス1」と呼び、中インク滴を吐出するための2回目の主走査を「パス2」、大インク滴を吐出するための3回目の主走査を「パス3」と呼ぶ。なお、パス1とパス2の間、および、パス2とパス3の間には、少なくとも1回の副走査送りがそれぞれ行われる。従って、3回のパスにおいては、異なるノズルが同じ主走査ラインを走査する。但し、副走査送りを行わずに同じノズルを用いて各パスを実行することも可能である。
【0053】
1つの主走査ライン上では、小ドットSD用の小インク滴の吐出のための主走査は1回しか行われない。従って、小ドットSDは、2画素に1つの割合でしか形成されない。この2画素を、以下では「画素ペア」または「画素対」と呼ぶ。図6(A)〜(G)の例では、画素位置P1,P2が画素ペアを構成し、また、画素位置P3,P4も画素ペアを構成する。小ドットSDは、各画素ペア内のいずれか一方の特定の画素位置にのみ形成される。同様に、中ドットMDや大ドットLDも、各画素ペアのいずれか一方の特定の画素位置にのみ形成される。
【0054】
図6(G)は、奇数画素位置P1,P3に小ドットSDがそれぞれ形成され、偶数画素位置P2,P4に大ドットLDがそれぞれ形成された状態を示している。この状態では、第1の画素ペアP1,P2に合計40ngのインクが吐出されており、また、第2の画素ペアP3,P4にも合計40ngのインクが吐出されている。なお、小ドットSDはパス1で形成されたものであり、大ドットLDはパス3で形成されたものである。
【0055】
広い領域にわたって図6(G)のように各画素ペアに合計40ngのインクが吐出されると、ベタ画像が再現される。図7は、小ドットSDと大ドットLDとで再現されるベタ画像を示す説明図である。奇数番目の主走査ラインL1,L3,L5では、奇数画素位置P1,P3に小ドットSDが形成されているとともに、偶数画素位置P2,P4に大ドットLDが形成されている。一方、偶数番目の主走査ラインL2,L4では、奇数画素位置P1,P3に大ドットLDが形成されているとともに、偶数画素位置P2,P4に小ドットSDが形成されている。換言すれば、主走査方向MSにも副走査方向SSにも、小ドットSDと大ドットLDが交互に形成されており、この結果、白地の部分が無いベタ画像が再現されている。なお、図7では、図示の便宜上、小ドットSDと大ドットLDとの間に隙間が残っているように見えるが、実際にはインクが拡がるので、これらの間に隙間は存在しない。
【0056】
図7のようなドットの配列は、隣接する主走査ライン上において、画素ペアが逆向きに配列されていることによって実現されている。このような配列を利用すると、ベタ画像を再現し易いという利点がある。また、一般に、一様な印刷画像を再現したときに、ドットが偏り無くほぼ一様に配置されるので、画質が向上するという利点がある。
【0057】
小ドットSD用のインク滴は、印刷解像度が720dpiの印刷モードにおいてベタ画像を再現することが可能なインク量を有している。このように、720dpiの印刷モード(高画質印刷モード)においてベタ画像を再現可能がインク量を、図6(A)〜(G)に示した360dpiの印刷モード(高速印刷モード)においても利用すれば、ヘッド駆動回路52(図5)の構成を簡略化することができる。特に、共通駆動信号生成回路110内のRAM112のデータ量を削減することが可能である。
【0058】
図8は、第1実施例における画素ペア毎のインク吐出量を示す説明図である。図8の上側の表は、パス1〜3で吐出されるインク滴の量と、各インク滴が吐出される画素位置とを示している。また、下側の表は、3ビットのハーフトーンデータの値と、このハーフトーンデータに応じて吐出されるインク量の合計値との関係を示している。この例では、1つの画素ペアにおいて、5つの階調が再現されていることが理解できる。
【0059】
なお、「ハーフトーンデータ」とは、ハーフトーンモジュール99(図1)におけるハーフトーン処理によって得られたデータであり、各インク色成分に関してドットの形成状態を表すデータである。すなわち、このハーフトーンデータは、画素ペアを1単位とする局所的な階調を表すデータである。画素ペアを1単位とするハーフトーンデータを、以下では「画素ペア用ハーフトーンデータ」と呼ぶ。また、1画素を1単位とするハーフトーンデータを、「1画素用ハーフトーンデータ」と呼ぶ。
【0060】
なお、本明細書において、「局所的な階調」とは、1画素から数画素程度の局所的な小さい領域で再現される階調を意味している。これに対して、数十画素から数百画素を含む広い領域で再現される階調を「広域的な階調」または「画像階調」と呼ぶ。
【0061】
図9(A)〜(C)は、画素ペア用ハーフトーンデータと、1画素用ハーフトーンデータと、ドット形成との関係を示す説明図である。この例では、図9(C)に示すように、各画素ペアにおけるドット形成状態は、左から順番に、ドット無し、小ドットSDのみ、中ドットMDのみ、大ドットLDのみ、小ドットSDおよび大ドットLD、となっている。図9(A)に示す画素ペア用ハーフトーンデータも、このドット形成状態に対応している。画素ペア用ハーフトーンデータは、図9(B)に示す3種類の1画素用ハーフトーンデータに変換される。1画素用ハーフトーンデータは、1画素毎にオン/オフ状態を示す1ビットのデータである。この1画素用ハーフトーンデータは、各パス毎にシリアル印刷信号PRT(図5)として駆動信号整形回路120に供給される。
【0062】
なお、画素ペア用ハーフトーンデータから1画素用ハーフトーンデータへの変換は、プリンタ20の制御回路40内においてCPU41によって行われる。但し、このハーフトーンデータ相互の変換を、専用のハードウェア回路で行ってもよく、あるいは、プリンタドライバ96(図1)内で行ってもよい。但し、ハーフトーンデータ相互の変換をプリンタ20の内部で行うようにすれば、コンピュータ90からプリンタ20へのデータ転送量が少なくて済むという利点がある。
【0063】
図10は、誤差拡散を利用したハーフトーン処理の手順を示すフローチャートである。この手順は、図7の奇数番目の主走査ラインL1,L3,L5上におけるハーフトーン処理を行うために、ハーフトーンモジュール99(図1)によって実行されるものである。
【0064】
ステップS1では、奇数画素位置における画素値Doddを取得する。この画素値Dodd は、特定のインクの階調レベルを表す値であり、例えば8ビットで0〜255の範囲の値を有している。ステップS2では、この画素値Dodd を小ドット用の第1のしきい値Th1と比較する。画素値Dodd が第1のしきい値Th1以上の場合には、ステップS3において、その奇数画素位置における小ドットSDの形成状態をオンに設定する。また、ステップS4では、小ドットSDのオン状態に相当する階調レベルD(S-on)を画素値Dodd から差し引くことによって、誤差ΔDを求める。一方、画素値Dodd が第1のしきい値Th1未満の場合には、画素値Dodd がそのまま誤差ΔDとなる。そして、ステップS5では、この誤差ΔDを周囲の画素に拡散する。
【0065】
ステップS6では、次の偶数画素位置における画素値Devenを取得する。ステップS7では、この画素値Devenを中ドット用の第2のしきい値Th2および大ドット用の第3のしきい値Th3と比較する。画素値Devenが第2のしきい値Th2未満の場合には、画素値Devenがそのまま誤差ΔDになる。一方、画素値Devenが第2のしきい値Th2以上で第3のしきい値Th3未満の場合には、その偶数画素位置における中ドットMDの形成状態をオンに設定し(ステップS8)、また、中ドットMDのオン状態に相当する階調レベルD(M-on)を画素値Devenから差し引くことによって、誤差ΔDを求める(ステップS9)。一方、画素値Devenが第3のしきい値Th3以上の場合には、その偶数画素位置における大ドットLDの形成状態をオンに設定し(ステップS10)、また、大ドットLDのオン状態に相当する階調レベルD(L-on)を画素値Devenから差し引くことによって、誤差ΔDを求める(ステップS11)。そして、ステップS12において、この誤差ΔDを周囲の画素に拡散する。
【0066】
こうして、画素ペアを構成する奇数画素位置と偶数画素位置におけるドットの形成状態が決定されると、ステップS13において、画素ペアのハーフトーンデータが、図9に示した対応関係に従って設定される。
【0067】
なお、図7の偶数番目の主走査ラインL2,L4上におけるハーフトーン処理では、最初に偶数画素位置の画素値Devenが処理された後に奇数画素位置の画素値Dodd が処理される。そして、これらの2つの画素で構成される画素ペアについてハーフトーンデータが設定される。
【0068】
ハーフトーン処理としては誤差拡散以外の他の処理方法も利用可能である。また、図10の例では、1画素毎にハーフトーン処理を行った後に画素ペア毎のハーフトーンデータを求めていたが、この代わりに、画素ペア毎にハーフトーン処理を行うようにしてもよい。但し、図10の例のように、1画素毎にハーフトーン処理を行った後に画素ペア毎のハーフトーンデータを求めるようにすれば、画像の階調をより忠実に再現できると期待される。
【0069】
上述した第1実施例の主な特徴は以下の通りである。
(特徴1)局所的な階調再現の1単位は、画素ペアである。
(特徴2)画素ペアを構成する2つの画素位置の一方にはインク滴が重ねて吐出される。
(特徴3)1回の主走査では、主走査ライン上の間欠的な画素位置にのみインク滴が吐出される。
(特徴4)1回の主走査では、主走査毎に設定された一定量のインク滴のみが吐出可能である。
(特徴5)インク滴は、画素ペアを構成する2つの画素位置のそれぞれのほぼ中央に吐出される。
【0070】
上記特徴1は、画素ペアを構成する2つの画素位置に吐出可能なインク量が互いに異なっていることを意味する。これに対して、従来の印刷装置では、1画素が局所的な階調再現の1単位として用いられており、各画素に吐出可能なインク量は同じである。この特徴1によれば、従来よりも再現できる階調数を多くすることができ、かつ、従来よりも小さいドットが使用可能になる。従って、画像の粒状性を改善することが可能である。特徴2は、画素ペアにおいて再現できる階調数を増加させる働きを有している。特徴3は、上述したように主走査速度を高めたことに起因する制約である。特徴4は、インク吐出の制御(特に共通駆動信号の発生)を容易にするという働きがある。特徴5は、例えば双方向印刷時の往路と復路におけるドットの主走査方向位置を一致させ易くする働きがあり、この結果、画質を向上させることが可能である。
【0071】
第1実施例は、このような種々の特徴により、各主走査ライン上で3回の主走査を行うことによって、紙白状態(ドット無し)からベタ状態までの5つの階調を再現することが可能となっている。なお、上記の特徴がすべて成立する必要は無く、特徴2〜5のうちの1つ以上の特徴を有していない実施例を構築することも可能である。
【0072】
図11(A)〜(E)は、比較例におけるドット形成の様子を示す説明図である。この比較例では、各画素が同じ階調再現性を有している点で、第1実施例と異なる。なお、図11では、図示の便宜上、駆動信号波形は省略されている。
【0073】
インク滴の吐出は、第1実施例と同様に1画素おきに行われる。具体的には、パス1では極小ドットVSD(5ng)が奇数画素位置に形成され、パス2では極小ドットVSDが偶数画素位置に形成される。パス3では小ドットSD(10ng)が奇数画素位置に形成され、パス4では小ドットSDが偶数画素位置に形成される。図11(E)に示すように、1画素に吐出可能なインク量は、0ng,5ng,10ng,15ngの4段階である。すなわち、この比較例では、4つの階調が局所的に再現可能である。なお、仮にベタ画像を再現するために1画素当たり20ngのインク吐出量がそれぞれ必要である場合には、さらに2回の主走査が必要となる。
【0074】
このように、比較例では、画素毎に4階調を再現するために、1つの主走査ライン上で4回以上のパスを必要とする。これに対して、図6に示した第1実施例では、1つの主走査ライン上で3回のパスを行えば、5階調を再現することが可能である。この理由は、主に、第1実施例では画素ペアを階調再現の1単位としているからである。すなわち、第1実施例では、画素ペアを階調再現の1単位として用いることによって、比較例に比べて少ないパス数で、同等以上の階調再現性を実現することが可能である。一般に印刷速度はパス数に反比例するので、第1実施例では、比較例に比べて印刷速度が向上している。また、第1実施例は比較例と同等以上の階調再現性を有している。
【0075】
さらに、第1実施例では、いくつかの点に関して比較例よりも選択の自由度が高い。具体的に、各パスにおいて吐出されるインク量や、各パスでのインク吐出の対象となる画素位置(例えば偶数/奇数画素位置のいずれか)、1主走査ライン上でのドット形成を完了するのに必要なパス数などに関して、比較例よりも第1実施例の方が選択の自由度が高い。換言すれば、第1実施例は、インクの吐出による局所的な階調再現における自由度が高いという利点がある。
【0076】
C.他の実施例:
図12(A)〜(G)は、第2実施例で利用される駆動信号波形とドット形成の様子とを示す説明図であり、図6(A)〜(G)に対応するものである。第2実施例では、パス1において、奇数画素位置に小ドットSD(10ng)が形成される(図12(A),(B))。パス2では、偶数画素位置に小ドットSDが形成される(図12(C),(D))。また、パス3では、偶数画素位置に中ドットMD(20ng)が形成される(図12(E),(F))。
【0077】
図12(G)は、4つの画素位置P1〜P4に小ドットSD用のインク滴がそれぞれ吐出され、偶数画素位置P2,P4に中ドットMD用のインク滴がそれぞれ吐出された状態を示している。第1の画素ペアP1,P2と第2の画素ペアP3,P4には、40ngのインクがそれぞれ吐出されている。
【0078】
図6(A)〜(G)と図12(A)〜(G)とを比較すれば理解できるように、第1実施例では3つのパスで吐出されるインク量は互いに異なるが、第2実施例ではパス1とパス2で吐出されるインク量は同一である。第2実施例のように、1主走査ライン上で行われる複数回の主走査のうちのいくつかの主走査において同一のインク量が吐出される場合にも、第1実施例と同じパス数で同じ階調数を再現することが可能である。このことからも、画素ペアを用いた局所的な階調再現性における自由度が高いことが理解できる。
【0079】
図13は、第2実施例における画素ペア毎のインク吐出量を示す説明図である。第2実施例においても、第1実施例と同様に、1つの画素ペアにおいて5つの階調が再現可能である。
【0080】
図14は、第3実施例における画素ペア毎のインク吐出量を示す説明図である。
第3実施例では、パス1において奇数画素位置に小ドットSD(6ng)が形成され、また、パス2においては偶数画素位置に中ドットMD(12ng)が、パス3においては奇数画素位置に大ドットLD(22ng)が形成される。図14の下部の表から理解できるように、第3実施例では、画素ペア当たり0ng,6ng,12ng,22ng,および40ngのインク量を吐出することが可能である。この第3実施例においても、第1実施例と同様に、1つの画素ペアにおいて5つの階調が再現可能である。また、ベタ画像の再現に必要なインク量(画素ペア当たり40ng)を吐出可能である。なお、第3実施例に使用される共通駆動信号の波形は図示を省略する。
【0081】
図15は、第3実施例における画素ペア当たりのインク吐出量と画像の明度レベルLとの関係を示すグラフである。第3実施例で局所的に再現可能な階調は、0ng,6ng,12ng,22ng,および40ngの5つのインク量に相当する5つの階調である。吐出量が0ngのときの明度PWは、印刷媒体そのものの明度であり、これは「紙白」と呼ばれている。この図から理解できるように、第3実施例では、画素ペアによって再現可能な5つの階調の明度レベルLが、互いにほぼ等間隔になるように設定されている。このように階調を等間隔に設定すれば、滑らかな階調再現が可能であり、画質が向上するという利点がある。なお、本明細書において、「明度がほぼ等間隔」とは、明度の間隔ΔLが、その平均値±20%の範囲内にあることを言う。但し、明度の間隔ΔLがその平均値±10%の範囲にあるときに、「明度がほぼ等間隔」と言うこととしてもよい。
【0082】
なお、第2および第3実施例も、上記第1実施例において説明した特徴1ないし特徴5を有している。従って、第2、第3実施例も、第1実施例と同様に、比較例によりも少ないパス数で、比較例と同等以上の階調を再現することが可能であるという利点がある。また、インクの吐出による局所的な階調再現性の自由度が高いという利点もある。
【0083】
D.ドットの位置ズレ調整
上述した種々の実施例において、各ドットはそれぞれ画素の中心に正しく形成されるものとしていたが、実際には、サイズが異なるドット同士の主走査方向の位置が、相対的に多少ずれる場合がある。図16(A)は、大ドットLDと小ドットSDとの相対位置が正常な状態からずれた状態を示している。図16(A)では、大ドットLDの位置を基準として画素を区切る格子が描かれており、小ドットSDの位置は画素の中心からやや右側に寄っていることが理解できる。但し、この場合にも、図16(B),(C)に示すように、それぞれの駆動信号の波形は正規のタイミングで発生している。図16(A)のようにドットの位置がずれる理由は、ノズルの製造誤差などに起因して、インク滴の吐出速度や吐出方向が多少ずれるからである。
【0084】
大ドットLDと小ドットSDの相対位置がこのようにずれた場合には、例えば図16(D)に示すように、小ドット用の駆動信号の発生タイミングを適切な補正値ΔTで補正すれば良い。図6(A)〜(G)で説明したように、異なるサイズのドットは異なるパスで形成される。従って、例えば小ドットSDを形成するパスにおいて、駆動信号の発生タイミングを図16(D)のように調整すれば、相対的な位置ズレを低減することができる。
【0085】
図17は、大ドットLDと小ドットSDの相対位置ズレを調整するためのテストパターンの一例を示している。このテストパターンは、5本の直線状のサブパターンを含んでいる。各サブパターンは、大ドットLDと小ドットSDとが、副走査方向SSに沿ってほぼ一列に交互に配置された状態で記録されたものである。また、大ドットLDと小ドットSDは、いずれも往路で形成されている。5本のサブパターンでは、小ドットSDのためのインク吐出のタイミングが一定量δずつ異なっており、これに応じて大ドットLDと小ドットSDの相対位置が少しずつシフトしている。各サブパターンの下には、相対位置調整番号Vrel の値1〜5が印刷されている。各相対位置調整番号Vrel の値1〜5は、小ドットSDの位置ズレの相対補正値ΔT(1)〜ΔT(5)と予め対応づけられている。なお、実際には相対位置調整番号Vrel は一辺が数十ドットの大きな文字で印刷されるが、図17では図示の便宜上、小さな数字で描かれている。
【0086】
相対位置ズレの調整時には、このようなテストパターンをプリンタ20で印刷し、最も適切な調整状態を示す相対位置調整番号Vrel をユーザが選択して、プリンタ20に設定する。図18は、テストパターンで選択された相対位置調整番号Vrel と、印刷時の位置ズレ補正との関係を示す説明図である。この例では、図18(A)に示すように、相対位置調整番号Vrel の値が4のときに大ドットLDと小ドットSDとの相対位置が整合している。但し、テストパターンでは、大ドットLDと小ドットSDが副走査方向に沿って配列されるのに対して、実際の印刷時には図18(B)に示すように、大ドットLDと小ドットSDは隣接した画素位置に形成される(図6(G)も参照)。従って、実際の印刷時には、図18(B)に示したように、1画素分の基準ズレ量T0と、相対補正値ΔT(4)とを加算した補正値Tで、小ドットSDのタイミングが調整される。こうすることによって、大ドットLDと小ドットSDの主走査方向の位置を整合させることが可能である。
【0087】
なお、上述した例では、小ドットSDの位置を補正していたが、この代わりに、大ドットLDの位置を補正するようにしてもよい。また、中ドットMDに関しても、同様の手順により、大ドットLDや小ドットSDとの相対位置を整合させることが好ましい。
【0088】
プリンタ20が双方向印刷を行う場合には、双方向印刷に起因する位置ズレの調整が行われる。図19は、双方向印刷時のドットの位置ズレ調整の手順を示すフローチャートである。ステップS21では、往路と復路に関して、相対位置ズレ調整用のテストパターンがそれぞれ印刷され、ステップS22では適切な相対位置調整番号がプリンタ20に入力される。相対位置ズレ調整用のテストパターンは、前述した図17に示したものと同じものである。但し、双方向印刷時には、往路と復路の両方で印刷が行われるので、往路と復路のそれぞれに関してテストパターンが印刷され、相対位置調整番号Vrel (すなわち相対補正値)も往路と復路のそれぞれに関して決定される。なお、往路と復路の両方でテストパターンを印刷して相対補正値を設定する代わりに、往路に関する相対補正値を、復路に利用することも可能である。但し、往路と復路とでは、相対補正値の正負の符号が逆となる。
【0089】
ステップS23では、双方向印刷時の基準位置ズレ調整用のテストパターンが印刷される。図20は、基準位置ズレ調整用のテストパターンの一例を示す説明図である。このテストパターンは、大ドットLDのみで形成された5本の直線状のサブパターンを含んでいる。各サブパターンは、往路で記録される上部直線部ULと、復路で記録される下部直線部LLとで構成されている。5本のサブパターンでは、下部直線部LLを構成する大ドットLDのためのインク吐出のタイミングが一定量ずつ異なっており、これに応じて、上部直線部ULと下部直線部LLとの相対位置が少しずつシフトしている。各直線状パターンの下には、基準位置調整番号Vref の値1〜5が印刷されている。各基準位置調整番号Vrel の値1〜5は、基準補正値と予め対応づけられている。
【0090】
双方向印刷時の基準位置調整番号Vref は、サイズの異なる複数のドットの中の1つの基準ドット(図20の例では大ドットLD)に関して決定される。基準ドットLDに関しては、この基準位置調整番号Vref に応じた基準補正値で、双方向印刷時の主走査方向の位置ズレが補正される。他のドット(中ドットMDおよび小ドットSD)に関しては、この基準補正値と、ステップS21,S22で決定された相対補正値が加算されて、双方向印刷時の補正値が決定される。
【0091】
こうして相対補正値と基準補正値とが決定された後に、ステップS25においてユーザが印刷実行を指示すると、ステップS26において、位置ズレ補正を行いつつ印刷が実行される。具体的には、往路では、相対補正値のみを用いてサイズの異なる複数種類のドット同士の主走査方向の位置ズレが補正され、復路では、相対補正値と基準補正値とを用いて位置ズレが補正される。但し、これとは逆に、往路では相対補正値と基準補正値とを用いて位置ズレ補正を行い、復路では基準補正値のみを用いて位置ズレ調整を行うようにしてもよい。
【0092】
なお、図19の手順による相対補正値と基準補正値の設定は、プリンタ20の組み立て時点において実行されるようにしてもよく、また、プリンタ20のユーザによって実行されるようにしてもよい。あるいは、相対補正値と基準補正値のうちの一方の設定をプリンタ20の組み立て時に実行し、他方の設定をユーザが実行するようにしてもよい。
【0093】
図21は、双方向印刷時のズレ調整に関連する主要な構成を示すブロック図である。プリンタ20内のPROM43には、基準位置調整番号Vref と、相対位置調整番号Vrel と、基準補正値テーブル204と、相対補正値テーブル206とが格納されている。調整番号Vref ,Vrel は、図19のステップS22,S24で入力されたものである。基準補正値テーブル204は、基準位置調整番号Vref と基準補正値との関係を格納したテーブルである。相対補正値テーブル206は、相対位置調整番号Vrel と相対補正値との関係を示すテーブルである。
【0094】
プリンタ20内のRAM44には、ドットの主走査方向の位置ズレを補正するための位置ズレ補正実行部(調整値決定部)210としての機能を有するコンピュータプログラムが格納されている。位置ズレ補正実行部210は、往路では、相対補正値に応じたタイミング調整値Tをヘッド駆動回路52に供給し、また、復路では、相対補正値と基準補正値との両方に応じたタイミング調整値Tをヘッド駆動回路52に供給する。なお、駆動信号生成のタイミングは、位置センサ39で検出されたキャリッジの原点位置を基準に決定される。また、各パスにおけるタイミング調整値Tは、そのパスで記録されるドットの種類に応じて決定される。ヘッド駆動回路52は、このタイミング調整値Tに応じて、各パスにおける駆動信号の発生タイミングを補正する。
【0095】
このように、図19に示した手順では、主走査印刷時における基準ドットLD同士の主走査方向の位置ズレを基準補正値で補正し、また、基準ドットLDと他のドットSD,MDとの位置ズレを相対補正値で補正したので、双方向印刷時における互いの位置を整合させることが可能である。また、図18(A),(B)で説明したように、大ドットLDと小ドットSDとは、実際の印刷時には主走査方向に沿った異なる位置に記録されるが、相対補正値を決定する際には同じ主走査位置を取るように副走査方向に沿ってほぼ一列に記録される。このようにすれば、適切な相対補正値を容易に決定することができるという利点がある。
【0096】
なお、上述した例では、大ドットLDを基準ドットとして用いていたが、中ドットMDや小ドットSDを基準ドットとして用いることも可能である。
【0097】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0098】
E1.変形例1:
上記各実施例では、3回の主走査によって1主走査ライン上におけるインク滴の吐出を完了するものとしていたが、1主走査ライン上で行われる主走査の回数は3回に限らず、4回以上としてもよい。
【0099】
E2.変形例2:
上記各実施例では画素ペアを、主走査方向に沿って連続する画素で構成していたが、副走査方向に沿って連続する画素で画素ペアを構成してもよい。また、上記各実施例では、画素ペアを局所的な階調再現の1単位としていたが、連続する3つ以上の画素を局所的な階調再現の1単位とすることも可能である。一般には、主走査方向と副走査方向のうちの一方向に沿って連続するN画素(Nは2以上の整数)を階調再現の1単位として設定すればよい。このとき、N画素のうちの少なくとも1つの画素位置に吐出可能なインク量が、他の画素位置に吐出可能なインク量とは異なる値に設定される。
【0100】
また、上記各実施例では、局所的に再現可能な階調数を5としていたが、この階調数は4に設定してもよく、あるいは6以上に設定してもよい。一般に、N画素の各画素位置におけるインク量を調整することによって、N画素でM階調(MはN+2以上の整数)を再現するようにすればよい。
【0101】
E3.変形例3:
この発明はドラムスキャンプリンタにも適用可能である。尚、ドラムスキャンプリンタでは、ドラム回転方向が主走査方向、キャリッジ走行方向が副走査方向となる。また、この発明は、インクジェットプリンタのみでなく、一般に、複数のノズルを有する印刷ヘッドを用いて印刷媒体の表面に印刷を行う印刷装置に適用することができる。このような印刷装置としては、例えばファクシミリ装置や、コピー装置などがある。
【0102】
E4.変形例4:
上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、制御回路40(図2)の機能の一部をホストコンピュータ90が実行するようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例として印刷システムの構成を示すブロック図。
【図2】プリンタの構成を示す説明図。
【図3】プリンタ20における制御回路40の構成を示すブロック図。
【図4】印刷ヘッド28の下面におけるノズル配列を示す説明図。
【図5】ヘッド駆動回路52(図2)の内部構成を示すブロック図。
【図6】第1実施例で利用される駆動信号波形とドット形成の様子とを示す説明図。
【図7】小ドットSDと大ドットLDとで再現されるベタ画像を示す説明図。
【図8】第1実施例におる画素ペア毎のインク吐出量を示す説明図。
【図9】画素ペア用ハーフトーンと、1画素用ハーフトーンデータと、ドット形成との関係を示す説明図。
【図10】ハーフトーン処理の手順を示すフローチャート。
【図11】比較例におけるドット形成の様子を示す説明図。
【図12】第2実施例で利用される駆動信号波形とドット形成の様子とを示す説明図。
【図13】第2実施例におる画素ペア毎のインク吐出量を示す説明図。
【図14】第3実施例におる画素ペア毎のインク吐出量を示す説明図。
【図15】第3実施例における画素ペア当たりのインク吐出量と画像の明度レベルLとの関係を示すグラフ。
【図16】大ドットと小ドットの相対位置がずれた状態を示す説明図。
【図17】大ドットと小ドットの相対位置ズレ調整用テストパターンを示す説明図。
【図18】相対位置調整番号と印刷時の位置ズレ補正の関係を示す説明図。
【図19】印刷時のドットの位置ズレ調整手順を示すフローチャート。
【図20】基準位置ズレ調整用テストパターンを示す説明図。
【図21】双方向印刷時の位置ズレ調整に関連する主要な構成を示すブロック図。
【符号の説明】
20…カラープリンタ
21…CRT
22…紙送りモータ
24…キャリッジモータ
26…プラテン
28…印刷ヘッド
30…キャリッジ
32…操作パネル
34…摺動軸
36…駆動ベルト
38…プーリ
39…位置センサ
40…制御回路
41…CPU
43…PROM
44…RAM
50…I/F専用回路
52…ヘッド駆動回路
54…モータ駆動回路
56…コネクタ
60…印刷ヘッドユニット
70…インクカートリッジ
90…コンピュータ
91…ビデオドライバ
95…アプリケーションプログラム
96…プリンタドライバ
97…解像度変換モジュール
98…色変換モジュール
99…ハーフトーンモジュール
100…ラスタライザ
110…共通駆動信号生成回路
112…RAM
120…駆動信号整形回路
130…ピエゾ素子
204…基準補正値テーブル
206…相対補正値テーブル
210…位置ズレ補正実行部
Claims (10)
- 主走査を行いつつ印刷媒体上に印刷を行う印刷装置であって、
同一のインクを吐出するための複数のノズルと、前記複数のノズルからインク滴をそれぞれ吐出させるための複数の吐出駆動素子とを有する印刷ヘッドと、
前記印刷媒体と印刷ヘッドの少なくとも一方を移動させることによって主走査を行う主走査駆動部と、
前記印刷媒体と印刷ヘッドの少なくとも一方を移動させることによって副走査を行う副走査駆動部と、
印刷信号に応じて各吐出駆動素子に駆動信号を供給するヘッド駆動部と、
前記各部の制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記同一のインクによる階調再現を、
(i)印刷解像度で規定されるピッチを有する画素のうちで、主走査方向と副走査方向のうちの一方向に沿って連続するN画素(Nは2以上の整数)を階調再現の1単位として設定し、
(ii)前記N画素のうちの少なくとも1つの画素位置に吐出可能なインク量を、他の画素位置に吐出可能なインク量とは異なる値に設定し、
(iii)前記N画素の各画素位置におけるインク量を調整することによって、前記N画素毎にM階調(MはN+2以上の整数)を再現する、
ことによって行う第1の印刷モードを有し、
前記ヘッド駆動部は、
1回の主走査の間には、前記複数のノズルによって走査される各主走査ライン上の画素位置のうちの間欠的な画素位置にのみ、各主走査毎に予め設定された一定量のインク滴を吐出するように前記複数の吐出駆動素子を駆動するとともに、
各主走査ライン上で複数回の主走査が行われる際に、前記N画素毎にM階調を再現するためのインク滴を前記印刷ヘッドから吐出させる、印刷装置。 - 請求項1記載の印刷装置であって、
前記ヘッド駆動部は、前記N画素のうちの少なくとも1つの画素位置においては、複数回の主走査においてインクを重ねて吐出させる、印刷装置。 - 請求項2記載の印刷装置であって、
前記インクが重ねて吐出される画素位置においては、各主走査で吐出されるインク量が互いに異なる、印刷装置。 - 請求項3記載の印刷装置であって、
前記ヘッド駆動部は、
複数種類の共通駆動信号のうちのいずれかを、各主走査毎に選択的に発生可能な共通駆動信号発生部と、
前記共通駆動信号発生部から供給された前記共通駆動信号を前記印刷信号に応じて各印刷画素毎に整形することによって、前記各吐出駆動素子に与えられる前記駆動信号を生成する駆動信号整形部と、
を備え、
前記ヘッド駆動部は、前記共通駆動信号の波形を変更することによって、前記複数のノズルから吐出されるインク量を変更する、印刷装置。 - 請求項1ないし4のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記整数Nは2であり、前記整数Mは4以上である、印刷装置。 - 請求項5記載の印刷装置であって、
前記階調再現の1単位となる印刷画素対は、隣接する主走査ライン上において逆向きに配列される、印刷装置。 - 請求項1ないし6のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記N画素で再現可能なM階調のうちの最も暗い階調では、前記印刷媒体上の印刷領域を前記同一のインクでベタ打ち可能なインク量が吐出される、印刷装置。 - 請求項1ないし7のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記N画素で再現可能なM階調は、明度レベルがほぼ等間隔になるように設定されている、印刷装置。 - 請求項1ないし8のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記制御部は、さらに、前記第1の印刷モードよりも高い印刷解像度で印刷を行う第2の印刷モードを有しており、
前記第1の印刷モードにおいて前記N画素の位置に吐出可能な最も少ないインク量は、前記第2の印刷モードにおいて前記印刷媒体上の印刷領域を前記同一のインクでベタ打ち可能なインク量に相当する、印刷装置。 - 同一のインクを吐出するための複数のノズルと、前記複数のノズルからインク滴をそれぞれ吐出させるための複数の吐出駆動素子とを有する印刷ヘッドを用いて、主走査を行いつつ印刷媒体上に印刷を行う印刷方法であって、
前記同一のインクによる階調再現を、
(i)印刷解像度で規定されるピッチを有する画素のうちで、主走査方向と副走査方向のうちの一方向に沿って連続するN画素(Nは2以上の整数)を階調再現の1単位として設定し、
(ii)前記N画素のうちの少なくとも1つの画素位置に吐出可能なインク量を、他の画素位置に吐出可能なインク量とは異なる値に設定し、
(iii)前記N画素の各画素位置におけるインク量を調整することによって、前記N画素毎にM階調(MはN+2以上の整数)を再現し、
(iv)1回の主走査の間には、前記複数のノズルによって走査される各主走査ライン上の画素位置のうちの間欠的な画素位置にのみ、各主走査毎に予め設定された一定量のインク滴を吐出するように前記複数の吐出駆動素子を駆動するとともに、
(V)各主走査ライン上で複数回の主走査が行われる際に、前記N画素毎にM階調を再現するためのインク滴を前記印刷ヘッドから吐出させる、
ことによって行う、印刷方法。
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