JP5046196B2 - 被覆超硬合金工具 - Google Patents

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Description

硬質被覆層が優れた耐酸化性を有し、従って高速切削時においても硬質被覆層の機械的性質が劣化することなく、極めて優れた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製工具に関する。
特許文献1には、Crを含んだ炭化タングステン基超硬合金の表面に、高温化学気相蒸着法によって第一層として粒状結晶組織を有するチタンの窒化物層、第二層として柱状結晶組織を有するチタンの炭窒化物層を披覆してなる炭化タングステン基被覆超硬合金工具の製造過程において、第二層被覆後、35TorrのH雰囲気中て1050℃に1時間保持することによって基材構成成分であるCoとCrを硬質皮膜中に拡散させ、反応固溶体を第一層及び第二層まで含有せしめた炭化タングステン基被覆超硬合金工具に関する技術が開示されている。
特許文献2に開示されるように、炭化タングステン基超硬合金の表面に、粒状結晶組織のチタンの炭化物または炭窒化物からなる下層とその上に柱状結晶組織からなるチタン炭窒化物層を中層として、前記中層の上に炭化チタンまたは炭窒酸化チタンからなる粒状結晶組織を上層として形成し、前記上層の上に粒状結晶組織の酸化アルミニウム層を最上層としてなる多層硬質被覆層を被覆した炭化タングステン基被覆超硬合金工具において、硬質被覆層上層形成後、H雰囲気中で高温熱処理することにより、基材から拡散したCoを硬質被覆層上層の結晶粒界中に0.01から6質量%含有せしめた炭化タングステン基被覆超硬合金工具が知られている。
特許文献3は炭化タングステン基超硬合金基材の表面から深さ10から50μmの幅に亘り、結合相中のCo及びCrの含有量が基材内部の結合相中のCo及びCrの含有量の比でCo:1.1〜1.5、Cr:1.2〜2.0を満足する炭化タングステン基超硬合金に1種または2種以上からなるチタン化合物層で構成された硬質被覆層を被覆し、その上に酸化アルミニウム層を被覆した炭化タングステン基被覆超硬合金工具に関する技術を開示している。
特開平9−262705号公報 特許第3503658号公報 特開2000−126905号公報
しかし、特許文献1の被覆超硬合金工具は、チタン化合物硬質被覆層中に基材構成成分を含有させることによって、被覆層の靭性を向上させ、工具の耐チッピング性・耐欠損性の向上を図ったものであるが、硬質被覆層のうち、基材と密接した最下層がチタン窒化物層により形成されているため、基材との熱膨張率の差が大きく、被覆密着性が必ずしも十分ではなく、より密着性に優れたものの実現が望まれている。
また、特許文献2記載の技術では、基材構成成分であるCoが被覆層上層まで拡散含有されるため、特に高速切削等の高温にさらされる使用条件において硬質被覆層中に含まれるCoが容易に酸化し、硬質被覆層の機械的性質を劣化させて工具寿命を低下させる問題がある。
さらに、特許文献3記載の技術は、基材内部の含有量に比べてCrを多く含有する基材表面層を有するものであるが、耐欠損性を高めることを目的として、Co含有量も基材内部に比べて富化されている。従って、特許文献3に開示される被覆超硬合金工具では、硬質被覆層内部へ大量にCoが拡散し、硬質被覆層の耐酸化性を劣化させる可能性がある。
従って、本発明が解決しようとする課題は、密着性に優れた硬質被覆層最下層チタン炭化物膜の耐酸化性を高め、特に高速及び高送り等の高能率加工条件下において、優れた耐酸化性を発揮する硬質被覆層を有する炭化タングステン基被覆超硬合金工具を提供することである。
本発明は、結合相形成成分としてのCo及びCrを含有し、残部が分散層形成成分としての炭化タングステンと不可避不純物からなる組成の炭化タングステン基超硬合金を基材とし、前記基材上に粒状結晶組織を有するチタンの炭化物皮膜を第一層とし、前記第一層の直上に第二層として柱状結晶組織のチタン炭窒化物皮膜を被覆した被覆超硬合金工具において、前記基材と前記第一層との界面から基材深さ方向に10μmの領域におけるCr含有量、Co含有量を質量%で、CrS、CoS、としたとき、Co≦5.0であり、含有量比Cr/Coが0.35≦Cr/Co≦0.50であり、前記第一層は基材のCo、Crに起因する成分を含有し、該第一層におけるCr含有量、Co含有量を質量%で、CrL1、CoL1、としたとき、0.1≦CrL1≦0.6であり、含有量比CrL1/CoL1が0.6≦CrL1/CoL1≦1.6であることを特徴とする被覆超硬合金工具である。
本発明は、硬質被覆層中に拡散する基材構成成分のCoとCrの含有量を制御することにより、密着性に優れた硬質被覆層最下層チタン炭化物膜の耐酸化性を高めたものであり、これによって、高速、高送りなど高い温度の発生する条件下で使用された場合、高温にさらされる硬質被覆層では、第二層柱状結晶チタン炭窒化物膜の結晶粒界中を酸素が内向拡散するが、硬質被覆層第一層粒状結晶チタン炭化物内に固溶分散するCrは第一層と第二層の界面近傍へ拡散移動し、第二層内を内向拡散してきた酸素と結合して、硬質被覆層界面近傍に緻密なCr酸化膜を形成し、第一層内部への酸素の内向拡散を防ぐことによって硬質被覆層の耐酸化性を飛躍的に高めることが出来る。
本発明の被覆超硬合金工具は、前記硬質被覆層第二層におけるCr含有量を質量%で、CrL2、としたとき、0<CrL2≦0.3であることが好ましい。
本発明の被覆超硬合金工具は、硬質層被覆前の超硬合金製基材に所定の加熱処理を施すことによって、硬質被覆層中に拡散する基材構成成分のCoとCrの含有量を制御することにより、密着性に優れた硬質被覆層最下層チタン炭化物膜の耐酸化性を高め、特に高速及び高送り等の高能率加工条件下において、優れた耐酸化性を発揮する硬質被覆層を有する炭化タングステン基被覆超硬合金工具を実現できる。
本発明の被覆超硬合金工具はその基材表面から内部に向かって10μmの幅に渡って、Cr量とCo量の比Cr/Coがある特定の範囲内の値を取ることが重要である。Crを含有する炭化タングステン基超硬合金に対し、その表面に熱化学蒸着法によって硬質被覆層を被覆する過程において、キャリアーガスとしてHガス或いは、Nガスとの混合ガスを使用し、CHガスとの混合ガス雰囲気中で熱処理を施すと、基材表面近傍の結合相内部に固溶分散しているCrが基材表面に向かって拡散する。これは、加熱処理中にCHガスを流すことによって、基材は浸炭雰囲気中に晒されることになり、基材表面近傍の結合相中に固溶したCrが表面のCHガスの成分である炭素成分と結びつこうとするため、結合相中を拡散し、表面へ移動する。また、結合相内部において、基材表面部とその直下部分に濃度差が発生し、質量移動によりCo成分が基材表面部の直下に移動し、その結果基材表面から内部10μmの幅でCr濃度が基材内部の濃度よりも濃くなる現象が起こる。このときの加熱処理条件の最適化と基材成分の選択により、Cr量とCo量をある一定範囲内に制御することが可能となる。このときの最適な加熱条件については、後述する。
上記硬質被覆層被覆前の加熱処理後、硬質被覆層第一層としてチタン炭化物皮膜を成膜する際、その成膜条件として、CHガス濃度を最適化することによって、硬質被覆層内部へ拡散する基材成分Crの量を制御することができる。Crは前記の加熱処理が終了した直後、基材表面で一部炭化物を形成している。一方、TiClを原料ガスとしてチタン炭化物皮膜を形成する際、TiClは基材表面から炭素を奪い、特に炭素供給源となっているCHガスが少ない条件であるときに、それは激しくなる。チタン炭化物はCr炭化物よりも自由生成エネルギーが小さく、基材表面上でチタン炭化物を形成する際に、炭素供給が不足した場合、Cr炭化物を分解して炭素成分を奪い、炭化物を形成する。そして分解されたCrは第一層内に金属成分単体として取り込まれる。そのため、CHガス濃度を制御することで、Cr成分の硬質被覆層への拡散量を調整することが可能である。具体的な成膜条件については後述する。
本発明の被覆超硬合金工具は、前記基材と前記第一層との界面から基材深さ方向に10μmの領域におけるCr含有量、Co含有量を質量%で、CrS、CoS、としたとき、Co≦5.0でなければならない。Coが5.0を超えて大きくなると、基材表面部のCo量が多くなり、前記硬質被覆層中へ拡散するCo量が多くなる。そのため、目的とする前記第一層の耐酸化性が確保できなくなるため、Co≦5.0でなければならない。
本発明の被覆超硬合金工具は、前記基材と前記第一層との界面から基材深さ方向に10μmの領域におけるCr含有量、Co含有量を質量%で、CrS、CoS、としたとき、Cr/Coが0.35≦Cr/Co≦0.50の範囲でなければならない。Cr/Coが0.35未満であると、基材表面のCr量が不十分であるため、硬質被覆層中へのCr拡散量が減少し、耐酸化性向上効果が得られないためである。また、Cr/Coが0.5を超えて大きくなると、CrとCoの複合炭化物が析出及び成長し、基材表面の耐欠損性が極端に低下してしまう。そのため、前記硬質被覆層直下の基材表面から深さ方向に10μmの領域におけるCoとCrの質量濃度比Cr/Coが0.35≦Cr/Co≦0.5の範囲でなければならない。
また、本発明の被覆超硬合金工具において、前記第一層におけるCr含有量、Co含有量を質量%で、CrL1、CoL1、としたとき、0.1≦CrL1≦0.6でなければならない。Cr含有量CrL1が0.1%未満であるとき、第一層に含まれるCr量が少ないため、大気中で高温にさらされた際に酸素の内向拡散を阻害するバリア層が十分に形成されなくなり、第一層の耐酸化性を改善することが出来ない。また、CrL1が0.6を超えて多くなると、硬質被覆層第一層中のCr量が多くなり、第一層の硬度が低下し、耐摩耗性が低下する。そのため、前記第一層におけるCr含有量、Co含有量を質量%で、CrL1、CoL1、としたとき、0.1≦CrL1≦0.6でなければならない。
本発明の被覆超硬合金工具において、前記第一層におけるCr含有量、Co含有量を質量%で、CrL1、CoL1、としたとき、CrL1/CoL1が0.6≦CrL1/CoL1≦1.6でなければならない。CrL1/CoL1が0.6未満では、硬質被覆層第一層中に含まれるCr含有量が少なくなり、第一層内に含まれるCoの割合が大きくなる。この状態では、大気中で高温にさらされた際に酸素の内向拡散を阻害するバリア層が十分に形成されなくなり、その効果が発揮できない。また、成膜温度を低くするなど、第一層内に含まれるCoが少なくなる条件で成膜を行った場合、第一層を形成するチタン炭化物は結晶粒が小さくなり、結晶同士の間に空孔ができる。その結果、第一層内にCrが相当量含まれていたとしても、結晶の間に出来た空孔が第一層内部での酸素の拡散を助長し、酸素の内向拡散を防ぐCr酸化物バリア層の機能を阻害し、その効果を小さくしてしまう。成膜温度を下げて第一層の成膜を行うと、基材から第一層へ拡散するCoが少なくなり、CoL1の値も小さくなる。その結果、反対にCrL1/CoL1が大きくなり、CrL1/CoL1が1.6を超えて大きくなると、上記の機構によって硬質被覆層第一層の耐酸化性が低下してしまう。そのため、CrL1/CoL1は0.6≦CrL1/CoL1≦1.6でなければならない。また、CrL1/CoL1を上記の数値範囲内とするためには、CoL1が0.5%以下であることが望ましい。
本発明の被覆超硬合金工具は、前記第二層におけるCr含有量を質量%で、CrL2としたとき、0<CrL2≦0.3であることが望ましい。CrL2が0であると前記第二層にCrが含有されないため、前記第二層の耐酸化性が改善されない。また前記第二層のCr含有量が0.3を超えて大きくなると、前記第二層の硬度が低下し、耐摩耗性を劣化させてしまう。そのため、CrL2は0<CrL2≦0.3であることが望ましい。
本発明の被覆超硬合金工具において基材結合相表面のCrの一部が雰囲気ガス中のCHガス中の炭素と反応し、Cr炭化物を形成していることが望ましい。Cr炭化物は上記硬質被覆層被覆前の加熱処理中に基材表面の結合相において形成され、その後硬質被覆層第一層の粒状結晶組織チタン炭化物膜の成膜過程において、雰囲気ガス中のチタンによって炭素を奪われる。チタンはCrよりも炭化物の自由生成エネルギーが小さい。上記過程において、チタンは炭化物を形成するが、炭素を奪われたCrは硬質被覆層第一層のチタン炭化物膜に拡散する。また、結合相表面のCr炭化物は、結合相の成分であるCoの硬質被覆層中への拡散を抑制し、耐酸化性の劣化を防止する効果がある。上記過程によりCrの硬質被覆層中への拡散を促し、Coの硬質被覆層中への拡散を抑えるため、最表面の一部のCrが炭化物を形成していることが望ましい。
本発明の被覆超硬合金工具において、前記硬質被覆層第一層チタン炭化物皮膜中に拡散含有されるCrは化合物ではなく、金属単体として固溶分散していることが望ましい。Crが炭化物として分散する場合、チタン炭化物よりも酸化されにくいため、酸化表面層を形成できず、硬質被覆層第一層の耐酸化性を改善する効果を発揮できなくなる。金属成分として固溶分散していれば拡散バリア層の形成が容易となる。そのため、前記硬質被覆層第一層チタン炭化物皮膜中に拡散含有されるCrは金属成分として固溶分散していることが望ましい。
<基材の加熱処理>
本発明の被覆超硬合金工具を製作するためにまず基材の加熱処理を行う必要がある。そのためには、例えば切削工具に対して硬質被覆層を形成するために一般的に広く用いられている熱化学蒸着装置が必要である。前記熱化学蒸着装置と、結合相成分としてCoとCrを含んだ炭化タングステン基超硬合金製基材を準備し、前記化学蒸着装置内にその基材をセットする。ここで、本発明が対象とする基材組成範囲は、好ましくはCo含有量が5質量%から10質量%であり、Cr含有量が0.1〜1質量%である炭化タングステン基超硬合金製基材である。この基材組成範囲を外れると本発明の有利な効果を奏することが困難になる。
その後、熱化学蒸着装置に付随する真空ポンプを使用して、前記基材をセットしたチャンバ内を真空排気し、同時にチャンバ内にHガス濃度とNガス濃度を夫々80から85体積%及び20から15体積%の混合ガスにして、圧力20から30kPaで基材を加熱昇温する。一定の温度に達したとき、その温度で加熱保持しながら、基材最表面の結合相内でCrを濃化させるため、チャンバ内にCHガスを流して加熱処理を行う。このとき基材最表面結合相内でのCr濃度は、加熱温度とCHガス濃度によって制御可能である。
本発明例の被覆超硬合金工具の形態を実現する上で最適な基材の加熱処理条件として、加熱保持温度は、好ましくは900℃から980℃であり、より好ましくは920℃から950℃である。チャンバ内に放流するCHガス濃度は、好ましくは0.5から2.5体積%であり、より好ましくは1.0から2.0体積%である。また、このとき基材はHガス、Nガス及びCHガスの混合ガス雰囲気にさらされ、Nガス濃度は30から40体積%が最適であり、Hガス、Nガス及びCHガスの合計を100体積%として残りのガスの体積%をHガスが占めるようにする。チャンバ内の圧力は15から20kPaが最適である。
前記加熱処理において、加熱処理中の保持温度とCHガス濃度、そして保持時間が基材最表面での結合相中の成分濃度に影響を及ぼす。夫々のパラメーターの最適条件を前記の通りとしたのは、以下の理由によるものである。加熱温度はCrの結合相内の拡散を促す重要なパラメーターであり、好ましくは前記900℃から980℃とし、より好ましい温度範囲を920℃から950℃としたのは、処理温度が900℃未満では前記結合層内の表面においてCrを拡散移動せしめるには不十分であるためであり、980℃を超えると、超硬基材表面において炭化タングステン硬質相粒子が成長し、硬度低下を招くためである。また、CHガス濃度を所定の範囲内とした理由は、0.5体積%未満では、結合相内部に固溶するCrを基材最表面まで拡散移動させるためには不十分な濃度であり、2.5体積%より多いと、基材表面において、Crの極端な濃化が発生し、本発明の工具において基材表面部分の強度を著しく低下させるためである。また、この加熱処理における加熱温度保持時間は0.1時間以上であることが望ましく、0.5〜30時間とするのがより望ましく、1〜10時間とするのがさらに望ましい。前記加熱保持時間が0.1時間未満では加熱処理効果が十分に得られない。また、30時間超では加熱効果が飽和する傾向が認められる。
<硬質被覆層第一層の成膜>
本発明の被覆超硬合金工具において、前記の処理条件にて熱化学蒸着装置を用いて硬質被覆層被覆前の加熱処理を実施した後、そのまま硬質被覆層第一層のチタン炭化物被膜の成膜を行う。超硬基材は900℃から980℃までの温度で、CHガス、Hガス及びNガスの混合ガス雰囲気中で1時間以上加熱保持された後、TiClガス、Hガス及びNガス雰囲気中で5から10kPaの圧力でチタン炭化物皮膜の成膜を行う。このとき、本発明の被覆超硬合金工具では第一層の成膜はCHガス濃度を従来のチタン炭化物の成膜条件の50%以下として成膜することが望ましい。本発明の被覆超硬合金工具において、第一層成膜中その炭素源となるCHガスの供給を意図的に少なくするため、雰囲気ガス中のTiClは基材表面において不足する分の炭素を基材表面の結合相を介して基材内部から奪うことで、炭化物として基材表面上に形成される。このとき、基材側では基材最表面において炭素が不足し、結合相を介して基材構成成分の硬質被覆層への拡散が促進され、その結果基材構成成分が硬質被覆層第一層内部へ取り込まれることとなる。
本発明において、第一層成膜の際、基材から第一層へ拡散するCo量CoL1は第一層成膜時の成膜温度とCHガス濃度によって調整が可能である。成膜温度とCHガス濃度は共に基材と第一層の間の拡散に影響を与えるパラメーターであり、成膜温度が高いほど基材からCoとCrの拡散が促され、またCHガス濃度が高いほど拡散が抑制される。従って、基材から拡散するCo量を小さく抑えようとする場合、成膜温度を低くし、かつCHガス濃度を高くするのが効果的である。そして、上記の条件でCo量を抑える場合、必然的に第一層の結晶粒は細かくなり、第一層内部に空孔を多く発生させてしまうことになる。この状態の第一層では、たとえ所定量のCrが含有されていたとしても、バリア層の機能が弱いために高い耐酸化性を得ることが不可能になる。そのため、本発明では第一層内部のCo量を調整し、ある程度第一層内部に拡散含有させる条件を選択する必要があり、その結果本発明の目的とする第一層の耐酸化性を高めるためには、第一層内部のCr量とCo量の比は本発明において要求される数値範囲内とすることが必要となる。
前記の硬質被覆層第一層成膜過程において、基材構成成分の拡散を促すべく必要な成膜条件としては、好ましくは、加熱温度を950℃から980℃とし、熱化学蒸着装置チャンバ内圧力を10から20kPaとする。より好ましくは、前記チャンバ内圧力を13から17kPaで制御するとともに、キャリアーガスとしてHガスを使用し、TiClガスを1.5から3体積%とし、CHガス濃度を1から3体積%とする。さらに好ましくはCHガス濃度を1.5から2体積%で調整する。上記成膜条件のうち、CHガス濃度について、1体積%未満では炭素の供給源が不十分であり、基材から大量の炭素を奪ってしまうため、基材表面において、脆弱な複合炭化物が生成し、強度が極端に低下してしまう。また、CHガス濃度が3体積%より大きくなると、硬質皮膜形成過程において炭素の供給が十分に行われるため、基材と皮膜間の相互拡散が促進されず、硬質被覆層第一層内部に基材構成成分が取り込まれなくなる。そのため、CHガス濃度を1から3体積%で調整することが望ましい。また、第一層の成膜温度を930℃未満とすると、結晶粒が細かくなり、結晶粒同士の間に空孔が多く発生する。この空孔は第一層内部において、酸素の内向拡散を助長し、バリア層の機能を阻害するため、耐酸化性が低下する。バリア層を有効に作用させるためには、成膜温度を950℃以上とすることが望ましい。一方、成膜温度が980℃を超えると、基材から第一層へ大量のCoが拡散し、第一層の耐酸化性が低下してしまう。そのため、成膜温度は980℃以下であることが望ましい。
<硬質被覆層第二層の成膜>
本発明の被覆超硬合金工具において、上記の成膜条件にて硬質被覆層第一層を被覆したのち、連続して硬質被覆層第二層柱状結晶組織を有する炭窒化チタン皮膜の成膜を行う。第二層の炭窒化チタン皮膜の成膜は以下の要領で行う。
上記の硬質被覆層第一層成膜工程が終了した後、TiClガスとNガスを停止し、Hガスを流した状態のまま、熱化学蒸着装置のチャンバ内温度を、好ましくは830から900℃とし、より好ましくは840℃から890℃付近まで落とす。炉内の温度が安定したら、まずNガスを流し、その後TiClガスを流して柱状結晶組織を有する炭窒化チタン皮膜の成膜を行う。このときTiClガス濃度は、好ましくは1.5から3体積%とし、より好ましくは2.0から2.5体積%とする。CHCNガス濃度は、好ましくは0.3から0.8体積%とし、より好ましくは0.5体積%とする。チャンバ内圧力は6から8kPaが望ましい。
<ミクロ組織>
本発明の被覆超硬合金工具の超硬合金基材において、その炭化タングステン粒子は平均粒径が1から3μmの細・中粒であることが望ましい。1μm未満の微粒合金では、Co濃度の比較的多い基材表面において、結合相の占める割合が大きくなり、Co成分が硬質被覆層第一層へ大量に拡散し、硬質被覆層第二層成膜中に硬質被覆層第一層を通過して、硬質被覆層第二層中へ拡散してしまい、本発明の目的である高い耐酸化性を得ることができなくなる。また、平均粒径が3μmよりも大きくなると、基材の機械的性質が極端に劣化してしまうため、被覆超硬合金工具の耐摩耗性が劣化してしまう。そのため、超硬合金基材の炭化タングステン粒子は平均粒径が1から3μmの細・中粒であることが望ましい。
本発明の被覆超硬合金工具において、硬質被覆層の夫々の層厚は、好ましくは粒状結晶組織を有する第一層チタン炭化物膜が0.05から1.5μmであり、柱状結晶組織を有する第二層チタン炭窒化物膜が5.0から15.0μmである。前記層厚は、より好ましくは、第一層チタン炭化物膜が0.1から1.0μmであり、第二層チタン炭窒化物膜が5.0から12.0μmである。
本発明の被覆超硬合金工具において、上記硬質被覆層第二層チタン炭窒化物膜の上にα型結晶組織を有するAl層、その上にチタン窒化物層を被覆しても良い。ただし、このときの第一層から最外層までの厚みは30μm以下が好ましい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、下記の実施例により本発明が限定されるものではない。
(実施例1)加熱処理後の基材組織観察による耐酸化性評価
本発明は、Crを含んだ炭化タングステン基超硬合金基材に対し、硬質被覆層被覆前の特殊熱処理によって基材表面にCr濃度を増加させ、また、硬質被覆層第一層を被覆する過程において、硬質被覆層中へCrの選択的拡散を促進するものである。この熱処理及び成膜技術により硬質被覆層中への基材Coの拡散を抑え、Crを多く含んだ密着性の高い硬質皮膜を実現できるものである。
原料粉末として平均粒径4.5μmのWC粉末とCo粉末、及びCr粉末と合金炭素量調整用炭素粉末を使用して、CoとCrの含有量の比Cr/Coを4種類の組み合わせで変化させて各原料粉末を秤量し、配合した。また、従来例として、Crを使用せずに配合したものも合わせて準備した。次にアトライターを使用して湿式混合し、乾燥した後、高温酸化試験用のテストピースとしてSNMN120408形状のテストチップ、また切削による寿命試験用としてCNMG120408形状のテストチップを夫々圧粉体としてプレス成形し、1.0〜10.0Paの真空中、1400〜1500℃の範囲の温度に1時間保持の条件で真空焼結して、基材となる超硬合金焼結体を製造した。このとき製造した超硬合金焼結体AからEの各組成を表1に示す。表1中の基材A〜Eの組成は、「Co+Cr+WC=100質量%」として表示したものである。表1は配合組成を示すものでもあるが、基材A〜Eの各焼結体は、表1中の「Cr換算」の欄が「Cr含有量」の欄になる点を除き、表1中に記載した数値の組成を有する。
Figure 0005046196
これらの超硬合金焼結体を通常の熱化学蒸着装置を用い、硬質層被覆前の熱処理を施した。まず、前記超硬合金焼結体を100%Hガス雰囲気中で所定の温度まで昇温し、夫々加熱保持温度まで到達した後、CHガス、Nガス及びHキャリアーガスを流し、加熱保持した。ここで、基材表面でのCrとCo量を調整する目的で、基材として前記表1中のAからDを任意に選択し、加熱温度とCHガス濃度及び加熱処理時間の組み合わせを変えて処理を行った。また、その他の条件として、Nガス濃度を30体積%一定、残りをHガスとし、圧力は15kPaとした。加熱温度は900℃から980℃の間で調整し、CHガス濃度を0.5から2.5体積%の間で調整した。夫々を本発明例1から12とし、各々の使用した基材と硬質被覆層被覆前加熱処理条件を表2に示す。
Figure 0005046196
上記加熱処理が終了した後、処理条件の異なる本発明例1から12の表面にそのまま硬質被覆層を被覆した。まず、硬質被覆層被覆前の加熱処理を施した前記超硬合金焼結体をHガス雰囲気中で980℃まで昇温し、原料ガスとしてHキャリアーガスを94.5から97体積%とTiClガスを2.5体積%使用し、圧力12kPaにて1.0μmの厚さの第一層粒状結晶組織を有するチタン炭化物膜を形成した。また、このとき、基材表面から第一層に含まれるCr量を制御する目的で、CHガス濃度を1.0から2.5体積%まで調整して成膜を行った。本発明例1から12の第一層成膜時のCHガス濃度を表2に示す。
上記第一層成膜後、継続して下記の条件にて第二層の成膜を実施した。まず、原料ガスとしてHキャリアーガスを50体積%とNガスを47.5体積%、TiClガスを2体積%、CHCNガス濃度を0.5体積%で使用して、圧力6kPaにて厚さ5.0μmの柱状結晶組織を有するチタン炭窒化物膜を890℃で形成した。本発明例1から12までいずれも同じ条件で成膜を行った。このとき、第二層に拡散含有されるCrの量は第一層のCr量により決まり、第一層に拡散含有されるCrの量が多いほど、第二層に拡散含有されるCr量も多くなる。
次に、比較例の製作を行った。比較例の製造条件を表2に示す。まず、比較例13は基材表面のCo量Coの上限値を検証する目的で製作した。比較例13は基材として表1記載のDを選択し、硬質被覆層被覆前の熱処理条件として、加熱処理温度を900℃、CHガス濃度を1.0体積%、Nガス濃度を15体積%、残りをHキャリアーガスとし、1時間の加熱処理を実施後、Hガス雰囲気中で980℃にて、原料ガスとしてHキャリアーガス濃度を94.5体積%とTiClガス濃度を2.5体積%使用し、圧力12kPaにて1.0μmの厚さの第一層粒状結晶組織を有するチタン炭化物膜を成膜した。このとき、基材表面から第一層に含まれるCr量を制御する目的で、CHガス濃度を3.0体積%として、成膜を行った。基材としてCoの多いものを使用し、また、処理温度を低くすることで、基材表面Co量であるCosの減少を抑えることを狙ったものである。第一層被覆後は、第二層を本発明例と同じ条件で成膜した。
比較例14の製作を行った。比較例14は、基材表面のCr含有量のCrとCo含有量のCoの比Cr/Coの上限値を検証する目的で製作した。比較例14は基材として表1記載のAを選択し、硬質被覆層被覆前の熱処理条件として、加熱処理温度を1000℃、CHガス濃度を2.5体積%、Nガス濃度を15体積%、残りをHキャリアーガスとし、2時間の加熱処理を実施後、Hガス雰囲気中で980℃にて、原料ガスとしてHキャリアーガス濃度を94.5体積%とTiClガス濃度を2.5体積%で使用し、圧力12kPaにて1.0μmの厚さの第一層粒状結晶組織を有するチタン炭化物膜を成膜した。また、このとき、基材表面から第一層に含まれるCr量を制御する目的で、CHガス濃度を3.0体積%として、成膜を行った。比較例14は硬質被覆層被覆前の加熱処理温度を1000℃として本発明例のそれよりも高い処理温度とし、基材表面のCr量Crの増加とCo量Coの減少を促進させ、一方で第一層成膜時のCHガス濃度を抑えることにより、基材表面から第一層中へ拡散するCrの量を抑えたものである。第一層成膜後、第二層は本発明例と同じ条件で成膜を行った。
比較例15を製作した。比較例15は基材表面のCo含有量CoとCr含有量の比Cr/Coの下限値を検証する目的で製作した。比較例15は基材として表1記載のAを選択し、硬質被覆層被覆前の熱処理条件として、加熱処理温度を850℃、CHガス濃度を1.0体積%、Nガス濃度を15体積%、残りをHキャリアーガスとし、1時間の加熱処理を実施後、Hガス雰囲気中で980℃にて、原料ガスとしてHキャリアーガス濃度を96.5体積%とTiClガス濃度を2.5体積%使用し、圧力12kPaにて1.0μmの厚さの第一層粒状結晶組織を有するチタン炭化物膜を成膜した。また、このとき、基材表面から第一層に含まれるCr量を制御する目的で、CHガス濃度を1.0体積%として、成膜を行った。比較例15は第一層被覆前の加熱処理の際、処理温度を本発明例よりも低く設定し、基材表面のCr量を低く抑えることを目的としたものである。第一層成膜後、第二層は本発明例と同じ条件で成膜を行った。
比較例16の製作を行った。比較例16は、第一層に含まれるCr量CrL1の上限値を検証する目的で製作した。比較例16は基材として表1記載のCを選択し、硬質被覆層被覆前の熱処理条件として、加熱処理温度を950℃、CHガス濃度を2.5体積%、Nガス濃度を15体積%、残りをHキャリアーガスとし、1時間の加熱処理を実施後、Hガス雰囲気中で980℃にて、原料ガスとしてHキャリアーガス濃度を97.15体積%とTiClガス濃度を2.5体積%使用し、圧力12kPaにて1.0μmの厚さの第一層粒状結晶組織を有するチタン炭化物膜を成膜した。また、このとき、基材表面から第一層に含まれるCr量を制御する目的で、CHガス濃度を0.35体積%として、成膜を行った。比較例16は第一層成膜前の加熱処理を本発明例とほぼ同じ条件としているが、第一層成膜時のCHガス濃度を本発明例よりも少なくして炭素の供給量を減らし、基材表面から第一層へのCr拡散を促進させることを目的としたものである。第一層成膜後、第二層は本発明例と同じ条件で成膜を行った。
比較例17を製作した。比較例17は、第一層に含まれるCr量CrL1の下限値を検証する目的で製作した。比較例17は基材として表1記載のAを選択し、硬質被覆層被覆前の熱処理条件として、加熱処理温度を980℃、CHガス濃度を2.0体積%、Nガス濃度を15体積%、残りをHキャリアーガスとし、1時間の加熱処理を実施後、Hガス雰囲気中で980℃にて、原料ガスとしてHキャリアーガス濃度を94.5体積%とTiClガス濃度を2.5体積%使用し、圧力12kPaにて1.0μmの厚さの第一層粒状結晶組織を有するチタン炭化物膜を成膜した。また、このとき、基材表面から第一層に含まれるCr量を制御する目的で、CHガス濃度を3.0体積%として、成膜を行った。比較例17は第一層成膜前の加熱処理を本発明例とほぼ同じ条件としているが、一方、第一層成膜時のCHガス濃度を本発明例よりも多くして炭素の供給量を増やし、基材表面から第一層へのCr拡散を抑制することを目的としたものである。第一層成膜後、第二層は本発明例と同じ条件で成膜を行った。
比較例18を製作した。比較例18は、第一層に含まれるCr量CrL1とCo量CoL1の比CrL1/CoL1の上限値を検証する目的で製作した。比較例18は基材として表1記載のAを選択し、硬質被覆層被覆前の熱処理条件として、加熱処理温度を980℃、CHガス濃度を2.0体積%、Nガス濃度を15体積%、残りをHキャリアーガスとし、2時間の加熱処理を実施後、Hガス雰囲気中で900℃にて、原料ガスとしてHキャリアーガス濃度を95.5体積%とTiClガス濃度を2.5体積%使用し、圧力12kPaにて1.0μmの厚さの第一層粒状結晶組織を有するチタン炭化物膜を成膜した。また、このとき、基材表面から第一層に含まれるCr量を制御する目的で、CHガス濃度を2.0体積%として、成膜を行った。比較例18は第一層成膜時の成膜温度を低くすることによって、基材からのCo拡散を抑制して第一層内に拡散するCr量とCo量比の調整を図ったものである。第一層成膜後、第二層は本発明例と同じ条件で成膜を行った。
比較例19を製作した。比較例19は、第一層に含まれるCr量CrL1とCo量CoL1の比CrL1/CoL1の下限値を検証する目的で製作した。比較例19は基材として表1記載のDを選択し、硬質被覆層被覆前の熱処理条件として、加熱処理温度を900℃、CHガス濃度を1.0体積%、Nガス濃度を15体積%、残りをHキャリアーガスとし、2時間の加熱処理を実施後、Hガス雰囲気中で980℃にて、原料ガスとしてHキャリアーガス濃度を94体積%とTiClガス濃度を2.5体積%使用し、圧力12kPaにて1.0μmの厚さの第一層粒状結晶組織を有するチタン炭化物膜を成膜した。また、このとき、基材表面から第一層に含まれるCr量を制御する目的で、CHガス濃度を3.5体積%として、成膜を行った。比較例19は比較的Co量の多い基材を使用し、基材表面の第一層成膜時のCHガス濃度を多くすることによって基材からのCr拡散を抑制して、第一層内に拡散するCrとCo量の調整を図ったものである。第一層成膜後、第二層は本発明例と同じ条件で成膜を行った。
従来例20の製作を行った。従来例20は基材として表1記載の基材Eを使用し、被覆前の加熱処理を行わずに硬質被覆層として、第一層に、TiClガス濃度を2.0体積%とCHガス濃度を5体積%、Hキャリアーガスを残りとして炉内へ流し、980℃にて粒状結晶組織を有する炭化チタン膜を6.5kPaの圧力にて0.5μmの厚みで成膜した。その後、原料ガスとしてNガス濃度を20.0体積%、TiClガス濃度を2体積%、CHCNガス濃度を0.6体積%、残りをHキャリアーガスとして使用し、圧力6.5kPaにて厚さ6.0μmの柱状結晶組織を有する炭窒化チタン膜を910℃で形成した。硬質被覆層を形成した後、そのままHガス雰囲気中で1000℃まで昇温し、1000℃到達後1時間加熱保持したものを製造し、従来例20とした。
電子線プローブマイクロアナライザを使用して、本発明例1から12、比較例13から19、及び従来例20の各基材表面から内部10μmの範囲と硬質被覆層第一層及び第二層中に含まれるCrとCo含有量の分析を行った結果を表3に示す。また、同時にCr/Co、CrL1/CoL1も算出し、表3に示す。表3より、Crは本発明例1の0.84%から本発明例11の1.82%まで分布し、例えば同じ基材A、処理温度900℃、処理時間1時間の本発明例1と3を比較すると、CHガス濃度が0.5体積%である本発明例1のCrが0.84%であるのに対し、CHガス濃度が2.5体積%である本発明例3のCrが0.99%となっており、CHガス濃度が多い条件であるほど、Crが大きくなることがわかる。また、本発明例3と同じく基材Aを使用し、加熱処理温度980℃、CHガス濃度が2.5体積%の本発明例12を比較すると、本発明例12のCrは1.09%となっており、加熱処理時のCHガス濃度が同じ2.5体積%の両者の比較から、加熱処理温度が高くなると、Crが大きくなることがわかる。
Figure 0005046196
本発明例において、Coに及ぼす加熱処理条件の影響について検討する。本発明例において、同じ基材A、同じ1.0体積%のCHガス条件である本発明例2と本発明例7の比較から、本発明例2のCoが2.28%、本発明例7のCoが2.18%と加熱処理温度が高いほどCoが小さくなっており、また他にも本発明例3と本発明例12を比較しても同様の傾向となっている。同じ加熱処理温度同士の本発明例1から本発明例3を比較するとCHガス濃度が高くなるにつれ、Coが減少する傾向にあることがわかる。加熱処理温度が950℃の本発明例4から6、980℃の本発明例7と12を比較しても同様の傾向が見られる。処理温度が高くなるとCoが小さくなる原因は、Crの基材表面への外向拡散に伴う質量移動と基材表面でのCoの蒸発が高温になるほど促進されるためである。
本発明例の第一層に含有されるCrとCoについて検討する。表2より、本発明例は硬質被覆層第一層被覆時のCHガス条件として、1.0から2.5体積%の範囲内で制御している。例えば、第一層の成膜条件として、CHガス濃度が1.0体積%である本発明例3のCrL1は0.26%、CHガス濃度が2.5体積%である本発明例7のCrL1は0.12%であり、両者の比較からCHガス濃度が高い条件ほど第一層に含まれるCr量が減少する傾向がある。これは、CHガス濃度が高いとTiClガスに対する炭素供給が十分に行われ、基材表面のCr炭化物の分解が進まず、その結果硬質被覆層中への拡散が抑えられるためである。また、CrL1は基材表面のCr量Crからも影響を受け、第一層成膜時のCHガス濃度が1.0体積%である本発明例1と本発明例9を比較すると、夫々のCrL1は0.19と0.60%であり、同じ成膜条件で比較してもCr量が多い本発明例9のCrL1量が多い。即ち、Crが多いほど第一層へ拡散するCr量が多くなり、CrL1も多くなることになる。また、CoL1も同様に基材表面のCo量Coに影響を受けており、本発明例中Coが5.00%の本発明例11とCoが2.22%の本発明例3を比較すると、夫々CoL1は0.42%と0.16%となり、Coが多いほどCoL1も多くなることがわかる。
本発明例の第二層に含有されるCrとCoについて検討する。本発明においては、第二層に含まれるCr量は第一層に含有されるCr量によって影響を受ける。表3の分析結果より、本発明例のCrL2は0%から0.40%までの数値を記録しており、例えば本発明例1のCrL1は0.19%、本発明例12のCrL1は0.38%、本発明例9のCrL1は0.60%であり、CrL1が多いほどCrL2も多くなっていることがわかる。一方、本発明例は基材からのCo拡散を抑え、第二層の成膜温度を低くして製造するため、第二層へのCoの拡散は無く、いずれの発明例においてもCoは検出されていない。
比較例13について説明する。比較例13は基材Dを使用し、硬質被覆層被覆前の加熱処理温度を900℃とし、CHガス濃度を1.0体積%、処理時間を1時間、第一層被覆時のCHガス濃度を3.0体積%、その他の条件を本発明例と同じにして製造したものである。比較例13は基材表面のCo量Coの上限値を検証する目的で製作した。表3より、Coは5.65質量%となっており、本発明例と比較してCosが大きい、即ち、基材表面のCo量が多い結果となった。比較例13のCrsは1.96%となり、本発明例を含めて最も多くなっているが、一方、第一層成膜時のCHガス濃度を3.0体積%とすることによって、第一層へのCr拡散を抑えているため、CrL1は0.57%となった。
比較例14について説明する。比較例14は基材Aを使用し、硬質被覆層被覆前の加熱処理温度を1000℃とし、CHガス濃度を2.5体積%、処理時間を2時間、第一層被覆時のCHガス濃度を3.0体積%、その他の条件を本発明例と同じにして製造したものである。比較例14は、硬質被覆層被覆前の加熱処理温度を高くし、処理時間を延ばしている。また、CHガス濃度を高めることでCrが多くなり1.21%となるが、一方で処理温度が高いため、Coが1.83%と少なくなっている。そのため、Cr/Coの値が大きくなり、その値は0.66と本発明例よりも高いものとなっている。また、第一層のCr量及びCo量は夫々0.30%、0.27%、両者の比は1.13となり、第二層のCr量は0.14%となった。硬質被覆層のCr量とCo量はいずれも本発明例と同じとなっている。
比較例15について説明する。比較例15は基材Aを使用し、硬質被覆層被覆前の加熱処理温度を850℃とし、CHガス濃度を1.0体積%、処理時間を1時間、第一層被覆時のCHガス濃度を1.0体積%、その他の条件を本発明例と同じにして製造したものである。第一層被覆前の加熱処理の際、処理温度を本発明例よりも低い温度とすることで、基材表面の組成の変化を抑えており、基材表面のCr量Crは0.64%と、本発明例を含め最も小さい値となった。第一層からの成膜条件は本発明例と同じ条件であり、表3に示すようにCrL1は0.18%、CrL1/CoL1が0.60となり、第二層からはCrが0.04%検出された。
比較例16について説明する。比較例16は基材Cを使用し、硬質被覆層被覆前の加熱処理温度を950℃とし、CHガス濃度を2.5体積%、処理時間を1時間、第一層被覆時のCHガス濃度を0.35体積%、その他の条件を本発明例と同じにして製造したものである。比較例16は第一層被覆の際、CHガス濃度を本発明例よりも少ない0.35体積%として成膜を行っている。そのため、基材表面から第一層へのCr拡散が促進され、第一層中のCr量CrL1は0.83%となり、本発明例と比較して大きな値となった。
比較例17について説明する。比較例17は基材Aを使用し、硬質被覆層被覆前の加熱処理温度を980℃とし、CHガス濃度を2.0体積%、処理時間を1時間、第一層被覆時のCHガス濃度を3.0体積%、その他の条件を本発明例と同じにして製造したものである。比較例17は第一層被覆の際、CHガス濃度を本発明例よりも多い3.0体積%として成膜を行っている。そのため、表3よりCrL1が0.08%となり、最も小さい値となった。これは、チタン炭化物が形成される際の炭素の供給がCHガスによって十分に行われた結果、基材表面から第一層へのCr拡散が抑制されたためである。
比較例18について説明する。比較例18は基材Aを使用し、硬質被覆層被覆前の加熱処理温度を980℃とし、CHガス濃度を2.0体積%、処理時間を2時間、第一層被覆時のCHガス濃度を2.0体積%、成膜温度を900℃、その他の条件を本発明例と同じにして製造したものである。比較例18は第一層被服前の加熱処理を本発明例と略同じ条件で行っている一方、第一層成膜時の成膜温度を900℃として本発明例よりも低い温度で成膜を行っている。比較例18は成膜温度を低くし、基材表面から第一層へ拡散するCoの量が非常に少なくなるような条件を選定している。その結果、表3より、CrL1が0.26%に対し、CoL1は0.08%となり、第一層のCr量とCo量の比CrL1/CoL1は3.25となった。比較例18のCoL1は本発明例及び比較例中最も小さく、また、CrL1/CoL1は本発明例と比較例の中で最も大きな値となった。
比較例19について説明する。比較例19は基材Dを使用し、硬質被覆層被覆前の加熱処理温度を900℃とし、CHガス濃度を1.0体積%、処理時間を2時間、第一層被覆時のCHガス濃度を3.5体積%、その他の条件を本発明例と同じにして製造したものである。比較例19は第一層被覆前の加熱処理を本発明例と略同じ条件で行っている一方、第一層成膜時のCHガス濃度を3.5体積%として、基材から第一層へのCr拡散を抑制し、基材として比較的Coの多い基材Dを選択することによって、基材表面と第一層に含有されるCo量を調整した。その結果、CrL1が0.12%に対し、CoL1は0.42%となった。その結果、第一層のCr量とCo量の比、CrL1/CoL1は0.29となり、本発明例と比較例の中で最も小さな値となった。
従来例20を説明する。従来例20は、EPMAによる分析の結果、表3より、CoとCrは夫々6.53%、0%であった。これは基材内部の組成と同一のものである。また第一層に含まれるCr量のCrL1とCo量CoL1及びその比は0.12%、8.0%、0.02であった。第二層にはCoが2.27%含まれている。基材にはCrが含まれていないため、基材成分のCrの硬質被覆層中への拡散は無い。一方、従来例20は硬質被覆層被覆後に高温加熱処理を施しているため、基材から拡散したCoが硬質被覆層中に豊富に含まれていることがわかる。
本発明例1から12、比較例13から19及び従来例20のSNMN120408形状の被覆超硬合金焼結体に対して、大気中900℃にて加熱する高温酸化加速試験を実施した。このとき、試験時間を30分と60分の2種類で実施し、夫々試験時間30分で第二層、試験時間60分で第一層の耐酸化性を評価した。試験終了後、各試料の被覆超硬合金焼結体の破断面を作成し、酸化層厚みを走査型電子顕微鏡による観察で測定した。測定結果を表4に示す。
Figure 0005046196
まず、本発明例に着目する。本発明例の30分加熱後の酸化膜厚みは2.0から4.2μmとなり、いずれも硬質被覆層第二層で酸化の進行が止まっている。また、第二層に含まれるCr量が多いものほど酸化膜が薄くなる傾向が見られる。これは第二層に含まれるCrが緻密な酸化膜を形成して酸素の内向拡散を抑制し、Cr量が豊富であるほど、拡散防護壁が厚くなって酸素の内向拡散を長時間防ぐことができるためである。また、60分加熱後の酸化膜厚みはいずれも5.0μmとなり、第二層は全て酸化してしまったものの、第一層は酸化されずに残る結果となった。これは第一層にCrを豊富に含み、Coの拡散を抑えることで耐酸化性を飛躍的に高めたものである。一方、従来例20は30分加熱後、60分加熱後のいずれの場合でも酸化層の厚みは6.0μmとなり、硬質被覆層全てが酸化する結果となった。従来例は硬質被覆層第一層及び第二層のCo量CoL1及びCoL2が本発明例と比較して多くなっている。Co酸化膜には拡散防護壁としての機能が無く、酸素の内向拡散を防ぐことができず、本発明例に対して著しく耐酸化性に劣る結果となったものである。
本発明における基材表面のCo濃度Coの上限値について検討する。ここでは、本発明例1から12と比較例13を比較する。表4の結果より、本発明例の加熱処理60分後の酸化層厚みはいずれも5.0μmとなっている。即ち、第二層が酸化してしまったが、第一層は酸化されずに食い止められている。一方、比較例13は60分加熱後6.0μmとなり、硬質被覆層全てが酸化した。本発明例はCoが5.0%以下であるのに対し、比較例13は5.65%となっており、そのため、第一層に拡散するCo量CoL1が0.85%と多く、第一層の耐酸化性が著しく低い。以上の結果より、本発明の被覆超硬合金工具においてはCos≦5.0でなければならない。
本発明における基材表面のCoとCr濃度の比Cr/Coの下限値について検討する。ここでは、本発明例1及び比較例15を比較する。本発明例1の60分加熱後の酸化層厚みは5.0μmである。第二層が酸化してしまうものの、第一層は酸化されずに残る結果となった。一方、比較例15はいずれも60分加熱後全ての硬質被覆層が酸化している。本発明例1のCr/Coは0.35であるのに対し、比較例15は0.20となり、本発明例よりも小さい値となっている。比較例15はCosが3.25%と比較的Co量が多い。その結果、第一層に拡散するCo量が多くなるため、本発明例1のCoL1が0.21%であるのに対して、比較例15はCoL1が0.30%である。比較例15は基材表面のCo成分が多く、Cr成分が少ないため、硬質被覆層に拡散する成分の量にもそれが影響を及ぼし、第一層内部にCoが多く含まれることとなった。そして、このことが硬質被覆層の耐酸化性を著しく低下する原因となったのである。従って、本発明の被覆超硬合金工具では、基材表面のCr量とCo量の比Cr/Coは0.35≦Cr/Coでなければならない。
第一層のCr量CrL1の下限値について検討する。ここでは、本発明例1から12と比較例17を比較する。比較例17の60分加熱処理後の酸化層厚みは6.0μmとなり、硬質被覆層第一層まで全てが酸化した。本発明例1から12の第一層のCr量CrL1は0.10から0.60%となっているが、比較例17の第一層のCr量CrL1は0.08%である。即ち、第一層に含まれるCr量が比較例17の方が少ないため、第一層に十分な耐酸化性が確保できなかったために上記の結果となったものである。よって本発明の被覆超硬合金工具では、硬質被覆層第一層に含まれるCr量CrL1は0.10≦CrL1でなければならない。
第一層のCr量とCo量の比CrL1/CoL1の下限値について検討する。ここでは、本発明例7と比較例19を比較する。本発明例7の60分加熱後の酸化層厚みは5.0μmである。一方、比較例19の酸化層厚みは6.0μmとなり、第一層まで全て酸化され、本発明例と比較して著しく耐酸化性が劣る結果となった。本発明例7のCrL1/CoL1比は0.60であり、比較例19のCrL1/CoL1比は0.29である。本発明例7と比較例19のCrL1/CoL1比は異なる値となっているが、一方で第一層内に含まれるCr量はどちらも0.12%と同じである。即ち、比較例19のCoL1は0.42%であるため、CrL1の0.12%に対してその割合が多くなり、Cr含有による耐酸化性改善の効果が弱くなってしまったことが、耐酸化性低下の原因である。従って、本発明例の被覆超硬合金工具において、硬質被覆層第一層のCrとCoの質量濃度CrL1とCoL1の比CrL1/CoL1は0.6≦CrL1/CoL1でなければならない。
第二層に含まれるCr質量濃度CrL2の下限値について検討する。ここでは本発明例2と4を比較する。表3より、本発明例4の第二層にはCrが0.09%含まれており、一方、本発明例2の第二層にはCrが含まれていない。高温加熱試験の結果、本発明例4は30分加熱後の酸化層厚みが3.0μmとなった。また、他の本発明例と比較すると、第二層のCr含有量が多いほど、酸化層の厚みが薄くなる傾向が見られる。一方、本発明例2は30分の加熱処理による酸化試験の結果、酸化層厚みは4.2μmとなり、他の発明例と比較して酸化層の厚みが厚くなった。即ち、表4の結果より、Crの含有されていない本発明例2の第二層の耐酸化性は他の本発明例の硬質被覆層第二層に比べて劣る結果となった。従って、本発明例の被覆超硬合金工具において第二層に含まれるCr質量濃度CrL2は0<CrL2であることが望ましい。
(実施例2)合金鋼の高速高送り旋削加工による切削寿命評価
本発明例1から12、比較例13から19及び従来例20のCNMG120408形状テストチップを使用し、以下の条件にて切削評価を行った。
(加工条件):
被削材:SCM440丸棒、160φ×600mm、硬さHB250
周速:300m/分
送り量:0.45mm/回転
切り込み量:2.0mm
切削方法:乾式切削
上記の条件は、合金鋼の高速、高送りの切削条件となっている。乾式切削に加え、高い送り量での加工となり、硬質被膜の耐酸化性、耐摩耗性のみならず刃先の強度も要求される条件となっている。上記の条件で切削評価を行い、夫々の切れ刃の最大逃げ面摩耗量が0.35mmに到達するまでの加工時間を測定した。また、2分間切削した後の切れ刃の損傷状態を観察し、これらの結果を表5に示した。
Figure 0005046196
表5より、本発明例1から12は加工時間が4.0から5.5分となった。また、寿命までの途中の損傷状態はいずれも正常な摩耗状態であった。本発明では、硬質被覆層被覆前の加熱処理及び第一層被覆時の製造条件を調整し、基材表面のCr量とCo量及び硬質被覆層内へ拡散するCo量とCr量を最適な量に調節している。そのため、本発明の被覆超硬後金工具は、上記の乾式高速高送り加工の条件下においても、基材表面の強度と硬質被覆層の硬度を劣化させること無く、基材から拡散したCrを含む硬質被覆層が優れた耐酸化性を示し、高温・高負荷環境下でも長寿命を発揮する結果となった。
本発明例の基材表面のCr量とCo量の比Cr/Coの上限値を検証する目的で、本発明例12と比較例14を比較する。表5より、比較例14の加工時間は0.8分、それに対し本発明例12の加工時間は5.5分の長寿命であった。また、本発明例12は正常摩耗で損傷が進行したのに対し、比較例14は途中で欠損が発生した。表3より、比較例14のCr/Coが0.66となり、本発明例12の0.50と比較して大きな値となっている。また、表3より、比較例14はCrが1.21%に対してCoが1.83%となり、Cr量に対してCo量が少ない。その結果、基材表面の強度が極端に低下し、高送り環境下での高負荷に比較例14の刃先が耐えきれず、早期に欠損に至ったものである。従って、本発明例の被覆超硬合金工具において、基材表面のCr量とCo量の比Cr/CoはCr/Co≦0.50でなければならない。
第一層のCr量CrL1の上限値を検証する目的で、本発明例1から12と比較例16を比較する。表5より、比較例16の加工時間は2.5分である。それに対し、本発明例1から12の加工時間は4.0から5.5分であり、比較例16の1.6倍から2.2倍の長寿命となった。また、比較例16は途中まで正常摩耗であったが、第二層が摩滅した後、一気に逃げ面摩耗が大きく進行する損傷形態となった。表3より、比較例16のCrL1は0.83%となり、本発明例1から12のCrL1量0.10から0.60%よりも大きな値となっており、硬質被覆層に多くのCrが含まれていることがわかる。比較例16はその第一層に豊富に含まれるCrが硬質被覆層の硬度を低下せしめる原因となり、第一層の耐摩耗性が低下した。そのため、第二層が摩滅するまでは正常摩耗であったが、その後第二層が摩滅した後、逃げ面摩耗が急激に大きくなり、早期に寿命に至ったものである。従って、本発明の被覆超硬合金工具において、硬質被覆層第一層のCr量CrL1は0.60%以下でなければならない。
本発明例の第一層のCr量CrL1とCo量CoL1との比CrL1/CoL1の上限値を検証する目的で、本発明例3と比較例18を比較する。表5より、比較例18の加工時間は2.0分、それに対し、本発明例3の加工時間は5.5分であり、比較例18の2倍以上の長寿命となった。また、損傷は正常摩耗となった。一方、比較例18は皮膜剥離が発生する損傷状態となった。これは、第二層が摩滅する前に第一層が酸化し、第一層の強度が低下したために発生した現象である。表3より、本発明例3のCrL1/CoL1は1.60であるが、比較例18のCrL1/CoL1は3.25となっており、本発明例3よりも二倍以上の大きな値となっている。本発明例3と比較例18はCrL1が夫々0.26%で同じ値となっているが、比較例18のCoL1は0.08%であり、本発明例3のCo量の半分である。比較例18は、第一層内部へ拡散するCo量を少なくするために、成膜温度を低くして製造した。成膜温度が低いため、第一層内部には空孔が発生する。これは、チタン炭化物の粒子が小さくなった結果、結晶と結晶の間に隙間ができるために発生するものである。そして、この空孔が第一層内部での酸素の内向拡散を助長し、Cr酸化膜による拡散バリア効果の機能を阻害する。その結果、第一層の耐酸化性が低下し、第二層内部を通過して拡散した酸素が第一層を容易に酸化させ、その後強度の低下した第一層が第二層ごと剥離して早期に寿命に至ったものである。一方、本発明例3の第一層成膜温度は980℃であり、結晶は比較的大きく組織は緻密である。そのため、比較例18の第一層に見られるような空孔がなく、第一層においてCr酸化物の拡散バリア層が有効に機能し、第一層は高い耐酸化性を備えることになる。上記の結果より、第一層において、Cr酸化物による拡散バリア層を有効に機能させるためには、空孔の少ない緻密な組織が必要であり、そのためには成膜温度を950℃以上とすることが望ましい。成膜温度を950℃以上とすると、基材から第一層へ相当量のCoが拡散し、その結果、第一層に含まれるCrとCoの比CrL1/CoL1は一定の数値以下となる。そしてこのCrL1/CoL1の上限は、上記本発明例3と比較例18の比較から、第一層のCr量とCo量の比CrL1/CoL1≦1.6でなければならない。
第二層におけるCr量のCrL2の上限値を検証する目的で、本発明例9と11を比較する。表5より、本発明例9の加工時間は4.0分である。それに対し、本発明例11の加工時間は5.5分であり、本発明例9よりも長寿命となった。また、損傷形態は両者とも正常摩耗となっている。一方、比較例9のCrL2は0.40%となり、本発明例11のCrL2は0.30%よりも値が大きくなっており、硬質被覆層に多くのCrが含まれていることがわかる。即ち、本発明例9において、第二層に豊富に含まれるCrが第二層の硬度を低下せしめる原因となり、硬質被覆層の耐摩耗性が低下したため、硬質皮膜の摩耗が早く、比較的摩耗が早くなる結果となったのである。従って、本発明の被覆超硬合金工具において、硬質被覆層第一層のCr量のCrL2はCrL2≦0.30であることが望ましい。
従来例20の被覆超硬合金工具は上記の切削試験の結果、表5より加工時間が1.5分となっており、本発明例の38%以下の短寿命となった。すくい面にクレータ状の摩耗が発生し、これが進行した結果、刃先の強度が極端に低下して早期に刃先が欠損する損傷形態となった。従来例20は第一層に8.00%、第二層には2.27%のCoが含まれており、これが硬質被覆層の耐酸化性を著しく劣化させ、特に熱の上昇の激しい工具のすくい面部分の硬質被覆層が摩滅して、クレータ摩耗が発生し、早期に寿命に至ったものである。
本発明例は硬質層被覆前の加熱処理を施し、熱処理条件を最適化することによって、その基材表面の基材成分を調整し、また、その後の硬質被覆層第一層粒状結晶炭化チタン膜を被覆する過程において、成膜条件を最適化することによって基材構成成分であるCrの選択的拡散を促し、Coの拡散を抑えることができた。これらの結果、硬質被覆層第一層炭化チタン膜の耐酸化性を飛躍的に高め、切削時に発生する高温にも早期に酸化されることなく、長時間の切削が可能であった。
上記のように、本発明によって、硬質被覆層の耐酸化性を格段に高めることにより、この特性の優れた被覆超硬合金工具を実現し、工具寿命の長い被覆超硬合金工具を提供することができた。
本発明品は主に旋削加工用工具に適用でき、耐酸化性が要求される高速高送り加工用金属加工工具にも適用できる。

Claims (2)

  1. 結合相形成成分としてのCo及びCrを含有し、残部が分散層形成成分としての炭化タングステンと不可避不純物からなる組成の炭化タングステン基超硬合金を基材とし、前記基材上に粒状結晶組織を有するチタンの炭化物皮膜を第一層とし、前記第一層の直上に第二層として柱状結晶組織のチタン炭窒化物皮膜を被覆した被覆超硬合金工具において、前記基材と前記第一層との界面から基材深さ方向に10μmの領域におけるCr含有量、Co含有量を質量%で、CrS、CoS、としたとき、Co≦5.0であり、含有量比Cr/Coが0.35≦Cr/Co≦0.50であり、前記第一層は基材のCo、Crに起因する成分を含有し、該第一層におけるCr含有量、Co含有量を質量%で、CrL1、CoL1、としたとき、0.1≦CrL1≦0.6であり、含有量比CrL1/CoL1が0.6≦CrL1/CoL1≦1.6であることを特徴とする被覆超硬合金工具。
  2. 請求項1に記載の被覆超硬合金工具において、前記第二層におけるCr含有量を質量%で、CrL2、としたとき、0<CrL2≦0.3であることを特徴とする被覆超硬合金工具。
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