以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、リード11,12が取り付けられた電極巻回体10をフィルム状の外装部材21の内部に収容したものである。リード11,12は、それぞれ、外装部材21の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。リード11,12は、例えば、アルミニウム(Al),銅(Cu),ニッケル(Ni)あるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
外装部材21は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材21は、例えば、ポリエチレンフィルム側と電極巻回体10とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材21とリード11,12との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム22が挿入されている。密着フィルム22は、リード11,12に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
なお、外装部材21は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
図2は、図1に示した電極巻回体10のI−I線に沿った断面構造を表すものである。電極巻回体10は、負極13と正極14とをセパレータ15を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ16により保護されている。
負極13は、例えば、負極集電体13Aと、負極集電体13Aに設けられた負極活物質層13Bとを有している。負極集電体13Aは、例えば、銅、鉄(Fe)、ニッケル、チタン(Ti)、ステンレス、またはそれらの少なくとも1種を含むリチウムとの反応性が低い金属材料により構成されていることが好ましい。リチウムとの反応性が高いと、充放電に伴い負極集電体11が膨張収縮して破壊してしまうからである。中でも、負極集電体13Aの構成元素としては銅を含むことが好ましい。高い導電性を得ることができるからである。なお、負極集電体13Aは単層により構成してもよいが、複数層により構成してもよい。
負極活物質層13Bは、構成元素としてスズを含んでおり、少なくとも一部において負極集電体13Aと合金化している。具体的には、負極集電体13Aの構成元素が負極活物質層13Bに、または負極活物質層13Bの構成元素が負極集電体13Aに、またはそれらが互いに拡散している。負極集電体13Aの構成元素の拡散に伴って負極集電体13Aと負極活物質層13Bとの一体化が促進され、形状崩壊を抑制することができるからである。
また、負極活物質層13Bは、構成元素として、スズ以外でリチウムと電気化学的に反応可能な第1元素を含んでおり、更に、負極集電体13Aの構成元素以外でリチウムと電気化学的に反応しない第2元素を含んでいることが好ましい。これにより、リチウムとの反応による膨張率が変化し、膨張収縮により負極集電体13Aにかかる応力を緩和することができるからである。
第1元素としては、例えば、アルミニウム、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)、あるいは鉛(Pb)が挙げられ、2種以上を含んでいてもよい。第2元素としては、例えば、マンガン(Mn)、鉄、コバルト(Co)、ニッケルあるいはクロム(Cr)が挙げられ、2種以上を含んでいてもよい。これらスズ、第1元素および第2元素は、単体として存在していてもよく、他の元素と合金あるいは化合物を形成していてもよい。また、スズ、第1元素および第2元素の分布状態は特に限定されないが、これらが相互に拡散し合って、各元素の濃度が厚み方向において連続的あるいは断続的に変化していることが好ましい。膨張収縮による応力をより緩和することができるからである。
負極活物質層13Bにおけるスズの含有量は45原子%以上96原子%以下の範囲内が好ましく、第1元素の含有量は2原子%以上48原子%以下の範囲内が好ましく、第2元素の含有量は2原子%以上48%以下の範囲内が好ましい。第1元素および第2元素の含有量が少ないとサイクル特性を十分に向上させることができず、また多くてもサイクル特性が低下してしまうと共に、スズの含有量が少なくなるので容量が低下してしまうからである。
更に、負極活物質層13Bは、気相法、液相法、または焼成法により少なくとも一部が形成されたものであることが好ましく、これらの2以上を組み合わせて形成されたものでもよい。充放電に伴う負極活物質層13Bの膨張および収縮による形状崩壊を抑制することができると共に、負極集電体13Aと負極活物質層13Bとを一体化することができ、負極13における電子伝導性を向上させることができるからである。なお、「焼成法」というのは、活物質を含む粉末とバインダーとを混合し成形した層を熱処理することにより、負極集電体13Aと負極活物質層13Bとを少なくとも一部において合金化する方法を意味する。
正極14は、例えば、正極集電体14Aと、正極集電体14Aに設けられた正極活物質層14Bとを有している。正極集電体14Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。
正極活物質層14Bは、例えば、正極活物質としてリチウムを吸蔵および離脱することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電剤およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウムと遷移金属とを含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。高電圧を発生可能であると共に、高エネルギー密度を得ることができるからである。このリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、一般式Lix MO2 で表されるものが挙げられる。Mは1種類以上の遷移金属元素を含み、例えばコバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。xは電池の充放電状態によって異なり、通常0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 あるいはLiNiO2 などが挙げられる。
セパレータ15は、負極13と正極14とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものであり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンにより構成されている。
セパレータ15には、電解液が含浸されている。電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩とを含んでおり、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。溶媒は非水溶媒により構成されており、スルトンを含有している。電解液の安定性をが向上し、分解反応などによる電池の膨れを抑制することができるからである。スルトンとしては、環内に不飽和結合を有するものが好ましく、特に、化1に示した1,3−プロペンスルトンが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
溶媒はスルトンのみにより構成するようにしてもよいが、他の1または2種以上の物質と混合して用いることが好ましい。スルトンの含有量が多くなると充放電効率が低下してしまうからである。電解液におけるスルトンの含有量は、0質量%よりも多く15質量%以下の範囲内が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下の範囲内であればより好ましい。
溶媒を構成する他の物質としては、炭酸エチレン,炭酸プロピレン,炭酸ジメチル,炭酸ジエチルあるいは炭酸エチルメチルなどの炭酸エステルが挙げられ、例えば、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高沸点溶媒と、炭酸ジメチル,炭酸ジエチルあるいは炭酸エチルメチルなどの低沸点溶媒とを混合して用いるようにすれば、高いイオン伝導度を得ることができるので好ましい。
また、溶媒には、化2(1)に示した1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは化2(2)に示した4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどの不飽和結合を有する環式炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。膨れおよび容量の低下をより抑制することができるからである。特に、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができるので好ましい。
更に、溶媒には、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を混合して用いるようにしてもよい。膨れおよび容量の低下をより抑制することができるからである。この場合、不飽和結合を有する環式炭酸エステルと共に混合して用いるようにすればより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体は、環式化合物でも鎖式化合物でもよいが、環式化合物の方がより高い効果を得ることができるので好ましい。このような環式化合物としては、化3(1)に示した4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化3(2)に示した4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化3(3)に示した4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは化3(4)に示した4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
電解質塩としては、例えば、LiPF6 ,LiCF3 SO3 あるいはLiClO4 などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、電解液はそのまま用いてもよいが、高分子化合物に保持させていわゆるゲル状の電解質としてもよい。その場合、電解質はセパレータ15に含浸されていてもよく、また、セパレータ15と負極13または正極14との間に層状に存在していてもよい。高分子材料としては、例えば、フッ化ビニリデンを含む重合体が好ましい。酸化還元安定性が高いからである。また、高分子化合物としては、重合性化合物が重合されることにより形成されたものも好ましい。重合性化合物としては、例えば、アクリル酸エステルなどの単官能アクリレート、メタクリル酸エステルなどの単官能メタクリレート、ジアクリル酸エステル,あるいはトリアクリル酸エステルなどの多官能アクリレート、ジメタクリル酸エステルあるいはトリメタクリル酸エステルなどの多官能メタクリレート、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリルなどがあり、中でも、アクリレート基あるいはメタクリレート基を有するエステルが好ましい。重合が進行しやすく、重合性化合物の反応率が高いからである。
この電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、負極集電体13Aに、例えば、気相法,液相法あるいは焼成法により負極活物質層13Bを成膜し、負極13を作製する。また、それらの2以上の方法、更には他の方法を組み合わせて負極活物質層13Bを成膜するようにしてもよい。気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法が挙げられ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法などが挙げられる。液相法としては、例えば、電解めっき法、無電解めっき法あるいは溶融めっき法などのいずれを用いてもよい。
なお、負極活物質層13Bを成膜したのちに、焼成法に限らず、例えば真空雰囲気中,大気雰囲気中,還元雰囲気中,酸化雰囲気中または不活性雰囲気中において熱処理することが好ましい。
次いで、例えば、正極活物質と導電材とバインダーとを混合して合剤を調製し、これをN−メチル−2−ピロリドンなどの分散媒に分散させて合剤スラリーとして正極集電体14Aに塗布したのち、圧縮成型して正極活物質層14Bを形成することにより正極14を作製する。
続いて、負極13と正極14とをセパレータ15を介して巻回して外装部材21の内部に挟み込んだのち、外装部材21の内部に電解液を注入し、外装部材21を密閉する。これにより、図1,2に示した二次電池が完成する。また、電解液を高分子化合物に保持させる場合には、外装部材21の内部に、電解液と共に重合性化合物を注入し、外装部材21の内部において重合性化合物を重合させることによりゲル化するようにしてもよい。または、負極13と正極14とをセパレータ15を介して巻回する前に、負極14または正極14の上に電解液を高分子化合物に保持させた電解質を形成するようにしてもよい。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極14からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極13に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極13からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極14に吸蔵される。その際、負極活物質層13Bには、構成元素として、スズ以外でリチウムと電気化学的に反応可能な第1元素が含まれているので、膨張収縮による形状崩壊およびそれに伴う電解液との副反応が抑制される。また、電解液にはスルトンが含まれているので、電解液の安定性が向上する。よって、その相乗効果により、サイクル特性が向上すると共に、電池の膨れが抑制される。
このように本実施の形態によれば、負極活物質層13Bの構成元素としてスズ以外でリチウムと電気化学的に反応可能な第1元素を含むと共に、電解液にスルトンを含有するようにしたので、サイクル特性を向上させることができると共に、膨れを抑制することができる。
特に、負極活物質層13Bの構成元素として、更に、負極集電体13Aの構成元素以外でリチウムと電気化学的に反応しない第2元素を含むようにすれば、または、スルトンとして環内に不飽和結合を有するものを用いるようにすれば、より高い効果を得ることができる。
また、電解液に、スルトンに加えて、不飽和結合を有する環式炭酸エステルまたはハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体、更にはそれらを共に含有するようにすれば、より高い効果を得ることができる。
更に、本発明の具体的な実施例について図面を参照して詳細に説明する。
(実験例1−1〜1−10)
図1,2に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。まず、厚み20μmの銅箔の表面を粗化して表面粗さRzを2μmとし、負極集電体13Aとした。次いで、この負極集電体13Aの上に、真空蒸着法によりスズを蒸着したのち、真空蒸着法により第1元素である亜鉛を蒸着して、真空雰囲気中において200℃で15時間熱処理を行うことにより負極活物質層13Bを形成し、負極13を作製した。続いて、負極13にリード11を取り付けた。
作製した負極13について、誘導結合高周波プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)発光分析により負極活物質層13Bの組成を調べたところ、スズと亜鉛との割合は、スズが約80原子%、亜鉛が約20原子%であった。また、負極13の断面を集束イオンビーム(FIB;Forcused Ion Beam )により切り出し、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy;X線光電子分光法),AES( Auger Electron Spectroscopy;オージェ電子分光法),SEM(Scanning Electron Microscope;走査型電子顕微鏡)およびEDX(Energy Dispersive X-Ray Spectroscope;エネルギー分散型X線検出器)により分析したところ、熱処理により負極活物質層13Bの少なくとも一部が負極集電体13Aと融着しており、負極集電体13Aの構成元素、すなわち銅が負極活物質層13Bに拡散していることが確認された。また、負極活物質層13Bにおいては、スズと亜鉛とが相互に拡散していることが確認された。
また、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2 )と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデンとを混合し、分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させたのち、アルミニウム箔よりなる正極集電体14Aに塗布し乾燥させることにより正極活物質層14Bを形成した。そののち、リード12を取り付けた。
次いで、作製した負極13と正極14とを微孔性ポリエチレンフィルムよりなるセパレータ15を介して巻回し、アルミラミネートフィルムよりなる外装部材21の間に挟み込んだのち、外装部材21の内部に電解液を注入し、外装部材21を密閉した。電解液には、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを炭酸エチレン:炭酸ジエチル=30:70の質量比で混合したものに、1,3−プロパンスルトンまたは1,3−プロペンスルトンを混合すると共に、電解質塩としてLiPF6 を溶解させた。その際、実験例1−1〜1−4では化4に示した1,3−プロパンスルトンを添加し、その電解液における含有量を0.5質量%〜15質量%の範囲内で表1に示したように変化させた。また、実験例1−5〜1−10では化1に示した1,3−プロペンスルトンを添加し、その電解液における含有量を0.2質量%〜15質量%の範囲内で表1に示したように変化させた。LiPF6 の濃度は1mol/lとした。
実験例1−1〜1−10に対する比較例1−1として、負極活物質層を形成する際に第1元素である亜鉛を蒸着せず、電解液にスルトンを添加しなかったことを除き、他は実験例1−1〜1−10と同様にして二次電池を作製した。また、比較例1−2,1−3として、負極活物質層を形成する際に第1元素である亜鉛を蒸着しなかったことを除き、他は実験例1−2または実験例1−7と同様にして二次電池を作製した。なお、比較例1−2では電解液に1,3−プロパンスルトンを1質量%の含有量となるように添加し、比較例1−3では電解液に1,3−プロペンスルトンを1質量%の含有量となるように添加した。更に、比較例1−4として、電解液にスルトンを添加しなかったことを除き、他は実験例1−1〜1−10と同様にして二次電池を作製した。
作製した実験例1−1〜1−10および比較例1−1〜1−4の二次電池について、サイクル試験および膨れ試験を行った。サイクル試験では、室温にて電流500mA、上限電圧4.2Vの定電流定電圧充電と、500mA、下限電圧2.5Vの定電流放電とを50サイクル行い、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合、(50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100(%)を調べた。膨れ試験では、4.2Vに満充電した状態で60℃において5日間放置し、放置前の電池厚みに対する放置後の電池厚みの増加率、(放置後の電池厚み/放置前の電池厚み)×100(%)を調べた。結果を表1に示す。
表1に示したように、負極活物質層に第1元素を含まない比較例1−1〜1−3では、スルトンを添加することにより厚みの増加率は小さくなったものの、放電容量維持率には向上がみられなかった。また、負極活物質層に第1元素を含み、かつ電解液にスルトンを含まない比較例1−4では、第1元素を含まない比較例1−1に比べて放電容量維持率は大幅に向上したものの、厚みの増加率はわずかに小さくなっただけであった。これに対して、負極活物質層13Bに第1元素を含み、かつ電解液にスルトンを含む実験例1−1〜1−10によれば、比較例1−1〜1−4に比べて厚み増加率を大幅に小さくすることができ、かつ放電容量維持率も大幅に向上させることができた。すなわち、負極活物質層13Bの構成元素として第1元素を含むと共に、電解液にスルトンを含有するようにすれば、その相乗効果により、サイクル特性を向上させることができると共に、膨れを抑制することができることがわかった。
また、1,3−プロパンスルトンを添加した実験例1−1〜1−4よりも、1,3−プロペンスルトンを添加した実験例1−5〜1−10の方がより高い効果が得られた。すなわち、環内に不飽和結合を有するスルトンを用いた方が好ましいことが分かった。
更に、スルトンの含有量を増加させると、厚み増加率は小さくなる傾向がみられ、放電容量維持率は低下する傾向がみられた。すなわち、スルトンの電解液における含有量は、0質量%よりも多く15質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以上10質量%以下とすればより好ましいことが分かった。
(実験例2−1〜2−10)
負極活物質層13Bの第1元素として、亜鉛に代えて、アルミニウム,銀,インジウム,アンチモンまたは鉛を用いたことを除き、他は実験例1−2または実験例1−7と同様にして二次電池を作製した。なお、実験例2−1〜2−5では電解液に1,3−プロパンスルトンを1質量%の含有量となるように添加し、実験例2−6〜2−10では電解液に1,3−プロペンスルトンを1質量%の含有量となるように添加した。
また、作製した負極13について、実験例1−2,1−7と同様にして負極活物質層13Bの組成を調べたところ、スズと第1元素との割合は、スズが約80原子%、第1元素が約20原子%であった。また、実験例1−2,1−7と同様にして負極13の断面を分析したところ、同様に、熱処理により負極活物質層13Bの少なくとも一部が負極集電体13Aと融着しており、負極集電体13Aの構成元素が負極活物質層13Bに拡散していることが確認された。また、負極活物質層13Bにおいては、スズと第1元素とが相互に拡散していることが確認された。
更に、作製した実験例2−1〜2−10の二次電池についても、実験例1−2,1−7と同様にして、サイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を比較例1−1〜1−3の結果と共に表2に示す。
表2に示したように、実験例2−1〜2−10についても、実験例1−2,1−7と同様に、厚み増加率を大幅に小さくすることができ、かつ放電容量維持率も大幅に向上させることができた。すなわち、第1元素としてアルミニウム,銀,インジウム,アンチモンまたは鉛を用いても、亜鉛と同様の効果を得られることがわかった。
(実験例3−1〜3−10)
負極活物質層13Bを形成する際に、第1元素を蒸着したのち、真空蒸着法により第2元素であるマンガン,鉄,コバルト,ニッケルまたはクロムを蒸着して、熱処理を行ったことを除き、他は実験例1−2または実験例1−7と同様にして二次電池を作製した。なお、実験例3−1〜3−5では電解液に1,3−プロパンスルトンを1質量%の含有量となるように添加し、実験例3−6〜3−10では電解液に1,3−プロペンスルトンを1質量%の含有量となるように添加した。
また、作製した負極13について、実験例1−2,1−7と同様にして負極活物質層13Bの組成を調べたところ、スズと第1元素と第2元素との割合は、スズが約70原子%、第1元素が約20原子%、第2元素が約10原子%であった。また、実験例1−2,1−7と同様にして負極13の断面を分析したところ、同様に、熱処理により負極活物質層13Bの少なくとも一部が負極集電体13Aと融着しており、負極集電体13Aの構成元素が負極活物質層13Bに拡散していることが確認された。また、負極活物質層13Bにおいては、スズと第1元素と第2元素とが相互に拡散していることが確認された。
本実験例に対する比較例3−1として、第2元素にコバルトを用い、電解液にスルトンを添加しなかったことを除き、他は実験例3−1〜3−10と同様にして二次電池を作製した。作製した実験例3−1〜3−10および比較例3−1の二次電池についても、実験例1−2,1−7と同様にして、サイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を実験例1−2,1−7および比較例1−1〜1−4の結果と共に表3に示す。
表3に示したように、負極活物質層13Bに第2元素を含む実験例3−1〜3−10によれば、第2元素を含まない実験例1−2または実験例1−7に比べて、厚み増加率をより小さくすることができ、かつ放電容量維持率もより向上させることができた。すなわち、負極活物質層13Bに第2元素としてマンガン,鉄,コバルト,ニッケルまたはクロムを含むようにすれば、より高い効果を得られることがわかった。
(実験例4−1〜4−14)
電解液の組成を変えたことを除き、他は実験例1−7または実験例3−8と同様にして二次電池を作製した。実験例4−1〜4−7は負極活物質層13Bを形成する際にスズと第1元素である亜鉛とを蒸着し、実験例4−8〜4−14は負極活物質層13Bを形成する際にスズと第1元素である亜鉛と第2元素であるコバルトとを蒸着したものである。
電解液は、表4に示したように、炭酸エチレン、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,3−ジオキソール−2−オン、4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、炭酸ジエチル、または炭酸ジメチルを混合したものに、1,3−プロペンスルトンおよびLiPF6 を溶解させて作製した。1,3−プロペンスルトンの電解液における含有量は1質量%とし、LiPF6 の濃度は1mol/lとした。
その際、実験例4−1,4−8では、炭酸エチレンと1,3−ジオキソール−2−オンと炭酸ジエチルとを炭酸エチレン:1,3−ジオキソール−2−オン:炭酸ジエチル=20:10:70の質量比で混合し、実験例4−2,4−9では、炭酸エチレンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとを炭酸エチレン:4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸ジエチル=20:10:70の質量比で混合し、実験例4−3,4−10では、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとを1,3−ジオキソール−2−オン:4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸ジエチル=10:20:70の質量比で混合した。
また、実験例4−4,4−11では、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとを4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸ジエチル=30:70の質量比で混合し、実験例4−5,4−12では、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと1,3−ジオキソール−2−オンと炭酸ジエチルとを4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:1,3−ジオキソール−2−オン:炭酸ジエチル=25:5:70の質量比で混合し、実験例4−6,4−13では、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとを4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸ジエチル=25:5:70の質量比で混合し、実験例4−7,4−14では、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジメチルとを4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:炭酸ジメチル=30:70の質量比で混合した。
本実験例に対する比較例4−1〜4−3として、負極活物質層を形成する際に第1元素および第2元素を蒸着せず、かつ炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの混合物に代えて、表4に示したように炭酸エチレンと1,3−ジオキソール−2−オンと炭酸ジエチルとの混合物、炭酸エチレンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとの混合物、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとの混合物を用いたことを除き、他は実験例4−1〜4−14と同様にして二次電池を作製した。
また、比較例4−4,4−5として、負極活物質層を形成する際に第1元素および第2元素を蒸着せず、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの混合物に代えて、表4に示したように4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとの混合物を用い、かつ、比較例4−4ではスルトンを添加しなかったことを除き、他は実験例4−1〜4−14と同様にして二次電池を作製した。比較例4−6,4−7として、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの混合物に代えて、表4に示したように4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンと炭酸ジエチルとの混合物を用い、かつ、スルトンを添加しなかったことを除き、他は実験例4−1〜4−14と同様にして二次電池を作製した。なお、比較例4−6では負極活物質層を形成する際にスズと第1元素である亜鉛を蒸着し、比較例4−7では負極活物質層を形成する際にスズと第1元素である亜鉛と第2元素であるコバルトとを蒸着した。
作製した実験例4−1〜4−14および比較例4−1〜4−7の二次電池についても、実験例1−7,3−8と同様にして、サイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を実験例1−7,3−8および比較例1−1,1−3の結果と共に表4に示す。
表4に示したように、1,3−ジオキソール−2−オンまたは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンを添加した実験例4−1,4−2,4−8,4−9によれば、添加していない実験例1−7,3−8に比べて厚み増加率が小さくなり、かつ放電容量維持率が向上した。更に、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとを共に用いた実験例4−3,4−10によれば、厚み増加率がより小さくなり、かつ放電容量維持率もより向上した。すなわち、スルトンに加えて、不飽和結合を有する環式炭酸エステルを含有するようにすれば、膨れをより小さくすることができると共に、サイクル特性をより向上させることができ、特に、1,3−ジオキソール−2−オンと4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得られることが分かった。
また、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを添加した実験例4−4,4−11によっても、添加していない実験例1−7,3−8に比べて厚み増加率が小さくなり、かつ放電容量維持率が向上した。更に、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンに加えて1,3−ジオキソール−2−オンまたは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンを添加した実験例4−5,4−6,4−12,4−13によれば、厚み増加率がより小さくなり、かつ放電容量維持率もより向上した。すなわち、スルトンに加えて、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を含有するようにすれば、膨れをより小さくすることができると共に、サイクル特性をより向上させることができ、更に、不飽和結合を有する環式炭酸エステルを含有するようにすれば、より高い効果を得ることができることが分かった。
加えて、炭酸ジエチルに代えて炭酸ジメチルを用いた実験例4−7,4−14についても、同様の結果がみられた。すなわち、他の溶媒と組み合わせても、同様の効果を得られることがわかった。
(実験例5−1〜5−3)
実験例5−1では、焼成法により負極活物質層13Bを形成したことを除き、他は実験例3−8と同様にして二次電池を作製した。すなわち、負極活物質層13Bにはスズと第1元素である亜鉛と第2元素であるコバルトとが含まれるように構成し、電解液は炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの混合物に1,3−プロペンスルトンと電解質塩であるLiPF6 とを添加して調整した。1,3−プロペンスルトンの電解液における含有量は1質量%、LiPF6 の濃度は1mol/lである。
負極活物質層13Bは、スズ合金粉末75質量%と、導電材である平均粒径6μmの人造黒鉛粉末10質量%と、結着材であるポリフッ化ビニリデン15質量%とを分散媒に混合してスラリーとし、負極集電体13Aに塗布して乾燥させ、加圧成形したのち、アルゴン雰囲気中において200℃で15時間熱処理を行うことにより形成した。スズ合金粉末は溶融プラズマ法により作製した。スズ合金粉末の組成は、ICP発光分析により調べたところ、スズが約70原子%、亜鉛が約20原子%、コバルトが約10原子%であった。また、作製した負極13の状態をXPS,AES,SEM,EDXおよびXRDにより分析したところ、熱処理によりスズ合金粒子同士またはスズ合金粒子と負極集電体13Aとが少なくとも一部において融着していることが確認された。また、スズ合金粒子の少なくとも一部に、負極集電体13Aの構成元素、すなわち銅が拡散していることも確認された。
実験例5−2,5−3では、表5に示したように、電解液に炭酸エチレンに代えて、1,3−ジオキソール−2−オンおよび4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いたことを除き、他は実験例5−1と同様にして二次電池を作製した。
本実験例に対する比較例5−1として、電解液に1,3−プロペンスルトンを添加しなかったことを除き、他は実験例5−1と同様にして二次電池を作製した。作製した実験例5−1〜5−3および比較例5−1の二次電池についても、実験例3−8と同様にして、サイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を表5に示す。
表5に示したように、実験例5−1〜5−3についても、実験例3−8と同様に、比較例5−1に比べて、厚み増加率が小さくなり、かつ放電容量維持率が向上した。また、1,3−ジオキソール−2−オンおよび4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを添加した実験例5−2,5−3によれば、実験例5−1よりも、更に特性が向上した。すなわち、負極活物質層13Bを焼成法により形成しても、同様の効果を得られることがわかった。
(実験例6−1〜6−3)
実験例6−1では、めっき法により負極活物質層13Bを形成したことを除き、他は実験例3−8と同様にして二次電池を作製した。すなわち、負極活物質層13Bにはスズと第1元素である亜鉛と第2元素であるコバルトとが含まれるように構成し、電解液は炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの混合物に1,3−プロペンスルトンと電解質塩であるLiPF6 とを添加して調整した。1,3−プロペンスルトンの電解液における含有量は1質量%、LiPF6 の濃度は1mol/lである。
負極活物質層13Bは、負極集電体13Aに、めっきにより、スズ亜鉛合金を堆積させたのち、さらにコバルトを堆積し、真空雰囲気中において200℃で15時間熱処理を行うことにより形成した。負極活物質層13Bの組成をICP発光分析により調べたところ、スズと亜鉛とコバルトとの割合は、スズが約70原子%、亜鉛が約20原子%、コバルトが約10原子%であった。また、作製した負極13の断面をFIBにより切り出し、XPS,AES,SEMおよびEDXにより分析したところ、熱処理により負極活物質層13Bの少なくとも一部が負極集電体13Aと融着しており、負極集電体13Aの構成元素、すなわち銅が負極活物質層13Bに拡散していることが確認された。また、負極活物質層13Bにおいては、スズと亜鉛とコバルトとが相互に拡散していることが確認された。
実験例6−2,6−3では、表6に示したように、電解液に炭酸エチレンに代えて、1,3−ジオキソール−2−オンおよび4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いたことを除き、他は実験例6−1と同様にして二次電池を作製した。
本実験例に対する比較例6−1として、電解液に1,3−プロペンスルトンを添加しなかったことを除き、他は実験例6−1と同様にして二次電池を作製した。作製した実験例6−1〜6−3および比較例6−1の二次電池についても、実験例3−8と同様にして、サイクル試験および膨れ試験を行った。得られた結果を表6に示す。
表6に示したように、実験例6−1〜6−3についても、実験例3−8と同様に、比較例6−1に比べて、厚み増加率が小さくなり、かつ放電容量維持率が向上した。また、1,3−ジオキソール−2−オンおよび4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、または4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを添加した実験例6−2,6−3によれば、実験例6−1よりも、更に特性が向上した。すなわち、負極活物質層13Bをめっき法により形成しても、同様の効果を得られることがわかった。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、フィルム状の外装部材21を用いる場合について説明したが、本発明は、外装部材に缶を用いる場合についても同様に適用することができ、その形状はコイン型、円筒型、角型、ボタン型、薄型、あるいは大型など、どのようなものでもよい。
また、上記実施の形態および実施例では、負極13および正極14を巻回した電極巻回体10を備える場合について説明したが、負極と正極とを1層または複数層積層した積層型のものについても同様に適用することができる。更に、二次電池に限らず、一次電池についても適用することができる。
10…電極巻回体、11,12…リード、13…負極、13A…負極集電体、13B…負極活物質層、14…正極、14A…正極集電体、14B…正極活物質層、15…セパレータ、16…保護テープ