JP5041354B2 - 反応性蒸留によるフェノールの製法 - Google Patents

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Description

【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明はフェノールの生成に関するものであり、より詳細に述べれば、反応性蒸留を用いてクメンヒドロペルオキシド(CHP)からフェノール及びアセトンを生成する方法に関するものである。
【0002】
従来技術の記載
フェノールは広範な種々の工業的用途を有する重要な有機化学物質である。フェノールは例えばフェノール樹脂、ビスフェノールA及びカプロラクタムの製造に用いられる。現在、フェノールの製造には多くの方法が用いられているが、全生産能力の最大部分を提供する一つの製法は、今や米国全生産量の四分の三を超える割合を占めるクメン法である。この方法に含まれる基礎的反応はクメンヒドロペルオキシドの、フェノール及びアセトンへの分解である:
C(CHOOH=COH +(CHCO
【0003】
この反応は酸性条件下で行われ、フェノール及びアセトンの収率は一般的に40%以上である。
【0004】
工業的規模では、クメンヒドロペルオキシドは通常、約50℃乃至70℃の温度で、希硫酸(0.5乃至25%濃度)で処理される。分解が完了した後、反応混合物を分離し、油層を蒸留してフェノール及びアセトンを、クメン、α−メチルスチレン、アセトフェノン及びタールと共に得る。クメンを再循環し得て、上記ヒドロペルオキシドに変換し、その後分解し得る。このように製造されたフェノールは、樹脂に使用するのに適しているが、医薬品級の製品のためにはさらに精製する必要がある。
【0005】
種々の固体酸触媒上におけるクメンヒドロペルオキシド(CHP)の不均質分解はすでに報告されている。例えば、米国特許第4,490,565号はクメンヒドロペルオキシドの分解におけるゼライトベータの使用を開示しており、米国特許第4,490,566号は、ZSM−5等の束縛指数(Constraintindex)1−12のゼライトの使用を開示し、EP−A−492807号は同じ方法でホージャサイトの使用を開示している。クメンヒドロペルオキシドの酸触媒作用分解においてスメクタイトクレーを使用することが米国特許第4,870,217号に記載されている。
【0006】
米国特許第4,898,995号は、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニア等の不活性支持体上の、スルホン酸官能価を有するイオン交換樹脂か又は12−タングストホスホン酸のようなヘテロポリ酸からなる不均一系触媒上でクメンヒドロペルオキシドを反応させることによってフェノールとアセトンとを同時に製造する方法を開示している。このようなヘテロポリ酸触媒は一般にそれらの水和物として用いられ、そのものは350℃より高い温度では本来不安定である。
【0007】
プロピレンをベンゼンでアルキル化することによってクメンを製造するために触媒蒸留が用いられる。シューメイカー(Shoemaker)らの“Cumene by Catalytic Distillation,Hydrocarbon Processing”57頁(1987年6月)を参照されたい。
【0008】
フス(Huss,Jr)らの米国特許第4,935,577号は、触媒蒸留を用いるアルキル化及びオリゴマー化のためのルイス酸で促進された無機酸化物触媒系の使用を開示している。
【0009】
スミス(Smith Jr.)らの米国特許第5,055,627号は蒸留塔反応器中に置かれたゼオライト触媒床においてベンゼンとプロピレンからクメンを製造するためのアルキル化法を開示している。アルキル化されたベンゼンは蒸留塔反応器から固定床の下方の点において取り出され、未反応の有機芳香族化合物はオーバーヘッドとして取り出される。
【0010】
ヒルドレス(Hildreth)の米国特許第5,905,178号は、触媒蒸留を用いる水素化によって、クメンとの混合物からα−メチルスチレンを取り出し、側鎖を選択的に水素化し、クメンを製造する方法を開示している。α−メチルスチレンはクメン−フェノール過酸化法における副生物として生成する。
【0011】
本発明の目的は、触媒蒸留を用いてフェノール及びアセトンを製造する方法を提供することである。この方法は、過剰の熱発生を回避して、クメンヒドロペルオキシドの高い反応熱(252 . 6KJ/モル又は60.6kcal/モル)を利用してアセトンのような低沸点分解生成物を分離する、というクメンヒドロペルオキシドの反応法を提供する。
【0012】
発明の概要
本発明は、
i)上方部分に蒸留塔そして下方部分に触媒床を含む反応性蒸留塔に、触媒床の上に又は上方部分において、クメンヒドロペルオキシド供給原料を導入する段階;
ii)アセトンの希釈部分を前記クメンヒドロペルオキシドと混合して希釈されたクメンヒドロペルオキシドを生成する段階;
iii)希釈されたクメンヒドロペルオキシドの発熱分解を達成するのに十分な条件下で、希釈されたクメンヒドロペルオキシドを触媒床に通し、フェノールを含有する重質留分とアセトンを含有する気化した軽質留分とを含有する生成物にする段階;
iv)重質留分を前記塔からボトムとして取り出す段階;
v)気化した軽質留分を、触媒床及び反応性蒸留塔の少なくとも一部から上方に流す段階;
vi)軽質留分を濃縮して、次にクメンヒドロペルオキシド供給原料と混合するためのアセトン希釈部分の少なくとも一部を供給する段階、;
vii)任意に前記軽質留分の一部をオーバーヘッドとして前記塔から取り出す段階;
viii)段階i)から段階vii)までを繰り返す段階
を含む、クメンヒドロペルオキシドからフェノール及びアセトンを製造する方法に関する。
【0013】
段階v)及びvi)を用いて、例えばアセトンの前記塔を通す還流速度の設定等によって、クメンヒドロペルオキシドの希釈を制御することができる。好ましくは、反応器を通過する希釈されたクメンヒドロペルオキシドの液体流れは、触媒床が湿潤した状態に十分保たれる速度に維持され、それによって触媒温度が上記液体の沸点に又はその近くに維持され、本発明の方法の恒温的操作を提供する。段階vii)は任意であるから、本願の請求の範囲の方法には、全てのオーバーヘッド生成物を塔に還流させるという全還流の条件下で行われる操作が含まれる。
【0014】
アセトンの希釈部分が、1)蒸留塔の上方部分、2)蒸留塔の下方部分で前記触媒床の上流、例えばCHP供給原料トレイ、及び3)前記蒸留塔に導入する前のクメンヒドロペルオキシドの少なくとも一つに添加され得る。アセトンを含む回収されたオーバーヘッドを、重質化合物、すなわち182℃より高い標準沸点を有する化合物、例えば、α−メチルスチレン(AMS)のダイマー、の生成を低減するのに十分な量で、触媒床に一つ以上の部位において直接添加することもできる。このような段階間でのアセトン希釈物の注入は、触媒床を反応体液体の沸点又はその近辺の温度に維持することを補助し、恒温操作を行い、一方反応器の“ホットスポット”を回避するのに役立つ。
別の面において、本発明は、
a)上方部分に蒸留塔を、下方部分に触媒床を含む反応性蒸留塔;
b)フェノールを含む高沸点のボトム生成物を取り出すための触媒床の下流の下方出口;
c)触媒床の上流の部位におけるクメンヒドロペルオキシド供給原料を導入するための、蒸留塔の底部又はその近くにある入口;
d)アセトンを含む低沸点オーバーヘッド生成物を取り出すための上方出口;e)前記オーバーヘッド生成物を冷却するための、前記上方出口の上流の熱交換器;
f)そこからオーバーヘッド生成物が回収され及び/又は蒸留塔に戻る出口を有する熱交換器の上流のオーバーヘッド生成物受け器;及び
g)前記受け器から還流するオーバーヘッド生成物を導入するための、前記蒸留塔の上方部分におけるオーバーヘッド生成物入口
を含む、クメンヒドロペルオキシドからフェノールを製造するための装置に関する。
【0015】
前記装置はさらに、
h)クメンヒドロペルオキシドを導入するための入口に又はその近くにおいて、前記受け器から蒸留塔にオーバーヘッド生成物を導入するための、蒸留塔の下方部分におけるオーバーヘッド生成物入口;
i)オーバーヘッド生成物を、クメンヒドロペルオキシドを導入するための入口の上流のクメンヒドロペルオキシド供給原料流に再循環させるオーバーヘッド生成物ライン;並びに
j)オーバーヘッド生成物を触媒床の一つ以上の部分に再循環させるオーバーヘッド生成物ライン
から成る群から選択される要素をさらに含むことができる。
【0016】
本発明の方法及び装置は、フェノール及びアセトンに高い選択性を有し、4−クミルフェノール、及び2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンのような高沸点不純物の同時生成が極めて低く、長いオンストリーム時間において、クメンヒドロペルオキシドの100%又は100%に近い変換を達成することができる。さらに本発明は、クメンヒドロペルオキシドの分解により発生する反応熱を効率的に利用し、低沸点生成物、例えばアセトン、を反応生成混合物から分離することができる。このような配置はリボイラーの使用を最小にし、エネルギーコストを減らし、他方、高収率、良好な生成物純度及びより安い設備投資を実現する。
【0017】
特定の態様の記載
触媒蒸留において、触媒を含む反応域を、オーバーヘッド凝縮器、還流ポンプ、リボイラー、オーバーヘッド受け器、及び制御機器を装備した分別塔内に設置する。供給原料成分類を触媒床の上に導入する。生成物を蒸留法によって反応域から連続的に取り出す。
【0018】
触媒蒸留は、反応成分類の蒸留が反応と同じ温度範囲で起きるという化学反応にのみ適する。例えば、臨界点より高い操作は限界であり得て、共沸混合物、又は沸点の近い成分類の存在は障害を起こし得る。
【0019】
蒸留塔は、典型的には従来の反応器より高い液体流量及び気体流量で操作されるので、本発明の塔の反応性部分における低減された滞留時間は副生物の生成を最小に抑える。2−フェニル−2−プロパノールの脱水により、α−メチルスチレン(AMS)、さらに二量体化、オリゴマー化、及びコークス生成等の反応を受け得る反応性中間体の生成がなされるので、このことはCHP分解の場合に特に好都合である。塔の反応性部分に不均一系触媒を用いる場合、重質化合物の生成を最小にすることによって触媒寿命は延びる。
【0020】
分解反応のための好ましい条件としては、蒸留塔に使用するのに適切な温度及び圧力範囲がある。高い反応熱により、好ましくは50重量%未満、より好ましくは0.1乃至25重量%、最も好ましくは0.5乃至5重量%、例えば約3重量%の程度の希CHP濃度で、CHPの分解が起きる。塔への供給原料は25乃至95重量%範囲のCHP、好ましくは75乃至85重量%の範囲のCHP、例えば80重量%CHPであり、好ましくはアセトンによりさらに希釈して上記のレベルにする必要がある。希釈レベルは、塔を通す還流速度を設定することによって、又はアセトンを含む再循環されたオーバーヘッドをクメンヒドロペルオキシド供給原料に直接添加することによって調節することができる。
【0021】
表1はクメンヒドロペルオキシドの分解に関係する主な成分類の標準沸点を示す。アセトンは他の全ての主要成分より顕著に低い沸点を有し、そのために反応性蒸留塔における分離は容易である。その他の低沸点成分類、例えばメタノール、アセトアルデヒド、及びベンゼンも塔中に存在し得る。
【0022】
【表1】
Figure 0005041354
【0023】
用いる触媒は均一系触媒でも不均一系触媒でもよい。適切な均一触媒系は、希硫酸(0.01乃至5%濃度)を用いることができる。過塩素酸、燐酸、p−トルエンスルホン酸、及び二酸化硫黄のような他の酸も有効な均一系触媒である。
【0024】
クメンヒドロペルオキシドの分解に適切に使用できる不均一系触媒としては、米国特許第4,490,565号に開示されたゼオライト・ベータのような固体酸触媒;米国特許第4,490,566号に開示されたZSM−5のようなConstraint Index1−12のゼオライト;EP−A−492807号に開示されているホージャサイト;米国特許第4,870,217号に記載されているスメクタイトクレー;米国特許第4,898,995号に開示されている、シリカ、アルミナ、チタニア及びジルコニアのような不活性支持体上の12−タングスト燐酸のような、スルホン酸官能価又はヘテロポリ酸を有するイオン交換樹脂類がある。本発明に適切に使用できるその他の固体酸触媒には、米国特許第6 , 169 , 216号に記載されている、硫酸ジルコニアのような硫酸遷移金属酸化物を、鉄酸化物又は鉄及びマンガンの酸化物と共に含むもの、並びに米国特許第6 , 297 , 406号に記載されている、セリウムと、IVB族金属、例えばジルコニウムとの混合酸化物を含むものがある。
【0025】
本発明の方法は、米国特許第6 , 169 , 215号に開示されているように、VIB族金属のオキシアニオン又はオキシドで、少なくとも400℃の温度でオキシド種をか焼することによって改質したIVB族金属酸化物を含む固体酸触媒を使用することもできる。IVB族金属酸化物をVIB族金属のオキシアニオンで改質すると、その物質に酸官能価が与えられる。IVB群金属酸化物、特にジルコニアを、VIB族金属オキシアニオン、特にタングステートで改質することが、米国特許第5,113,034号;及び“Proceedings 9th International Congress on Catalysis”のアラタ(K.Arata)及びヒノ(M.Hino)の論文(4巻、1727−1735頁、1988)に記載されている。
【0026】
本発明に使用できる大きな細孔の結晶性分子篩には、2,2,4−トリメチルペンタンを物理的に吸収するのに十分大きい細孔を有するものが含まれる。代表的な大きな細孔の結晶性分子篩には、例えば下記のゼオライト類が含まれる:ZSM−3、ZSM−4、ZSM−12、ZSM−18、ZSM−20、ゼオライト・ベータ、ゼオライトL、モルデン沸石、ホージャサイト、ゼオライトY、及び上記のものの希土類金属含有形態。本発明の目的のために、ゼオライトYは合成型ゼオライトY、並びに、骨格脱アルミン酸塩ゼオライト、例えば米国特許第3,293,192号に記載されているウルトラステーブルY(USY)及び米国特許第4,503,023号に記載されるLZ−21を含むその変種が含まれる
【0027】
本発明の方法に用いるために選択される大きな細孔のゼオライトは、一般的に1未満から1000を超える広い範囲にわたるアルファ値を有することができる。“アルファ値”又は“アルファ数”はゼオライトの酸性官能価の尺度であり、米国特許第4,016,218号、J. Catalysis、6巻、278−287頁(1966)及び J. Catalysis 61巻、390−396頁(1980)に、その測定の詳細と共により完全に記載されている。低酸度(アルファ値が約200未満)のゼオライト類は、(a)高いシリカ/アルミナ比を有するゼオライトの合成、(b)蒸気処理、(c)蒸気処理後、脱アルミニウム化、及び(d)骨格アルミニウムをその他の種で置換を含む種々の技術によって得られる。例えば蒸気処理の場合、ゼオライトを約260℃ ( 500゜F )から約649℃ ( 1200゜F )まで、より好ましくは約399℃ ( 750゜F )から約538℃ ( 1000゜F )までの範囲の高温の蒸気にさらすことができる。この処理は100%蒸気の雰囲気、又は蒸気と、ゼオライトに対して実質的に不活性の気体とからなる雰囲気中で実施できる。同様な処理はより低い温度で、高圧を用いて、例えば約177℃ ( 350゜F )から約371℃ ( 700゜F )までの温度、約1 . 0乃至約20 . 2MPa ( 約10乃至約200気圧 )で達成され得る。数種類の蒸気処理法の特定の詳細が、米国特許第4,32,994号;第4,374,296号及び第4,418,235号の開示から得られる。上記の方法とは別に又は上記の方法のいずれかに加えて、ゼオライトの表面酸度は、米国特許第4,520,221号に記載される嵩高の作用剤で処理することによって除去又は低減し得る。
【0028】
本発明に用いることができる他の細孔の結晶性分子篩には、柱状シリケート及び/又はクレー;アルミノホスフェート類、例えばALPO−5、VPI−5;シリコアルミノホスフェート類、例えばSAPO−5、SAPO−37、SAPO−31、SAPO−40、SAPO−41;及び他の金属アルミノホスフェート類が含まれる。これらは、米国特許第4,440,871号;第4,554,143号;第4,567,029号;第4,666,875号及び第4,742,033号に種々記載されている。
【0029】
本発明において触媒として有用なマクロ孔質酸カチオン交換樹脂の特別の種類は、実質的多孔度、高い表面積、一般的に表面積1平方メートル当り水素イオン約0.5ミリ当量未満という低い表面酸濃度によって特徴づけられる。上記カチオン交換樹脂は一般的に0.5乃至20重量%という少量の水を含むことができる。本発明の方法に用いられるマクロ孔質樹脂は、酸官能基の存在及び高度の真の多孔度を有するが、硬さを有し、溶媒又は溶液に浸したときに又はそこから取り出したときに最小の容積変化しか受けない構造によって特徴付けられる。
【0030】
用いられるマクロ孔質酸イオン交換樹脂はスルホン酸基の存在によって典型的に表わされ、例えば、Amberlyst−15、Amberlyst XN−1005、Amberlyst XN−1010、Amberlyst XN−1011、Amberlyst XN−1008及びAmberlite 200として市販されているもののようなスルホン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー交換樹脂である。
【0031】
過フッ素化イオン交換ポリマー、又はシリカのような金属酸化物の網目構造内に分散するスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を含む過フッ素化イオン交換ポリマーを含む多孔性マイクロ複合体、例えばナフィオン(Nafion)(登録商標)も本発明の触媒として有用である。
【0032】
固体触媒は広範の種々の粒度につくられる。それらの粒子は粉末、顆粒、又は、押出物等の成形物の形態であり得る。触媒を例えば押出物のように成形する場合、その触媒を乾燥前に押出し、或いは部分的に乾燥し、次に押出すことができる。本触媒はそれだけで押出してもよいし、マトリックス物質と複合化し、その触媒の最終的形態にしてもよい。この目的のためには、アルミナ、シリカ−アルミナ及びシリカのような従来のマトリックス物質が適し、シリカが非酸性結合剤として、より好ましい。他の結合剤物質、例えばチタニア、ジルコニア及び他の金属酸化物又はクレーが用いられ得る。活性触媒はマトリックスと、80:20乃至20:80の重量比で、例えば80:20乃至50:50の、活性触媒:マトリックス重量比で複合化し得る。上記複合化は、物質を一緒に十分に混ぜ合わせ、その後押出すか又はペレット状にするという従来の手段によって行われ、所望の最終触媒粒子を得る。
【0033】
本発明の分解反応は、クメンヒドロペルオキシドと上記の固体酸化物触媒とを液相で、20乃至150℃、好ましくは40乃至120℃の温度、−0.0069乃至0.69Mpa(−10乃至1000psig)、好ましくは大気圧から2.758MPa(400psig)までの圧力で接触させることによって達成される。クメンヒドロペルオキシドの接触を有効にするために、上記触媒は静止床に含まれ、接触操作が連続的に行われる。クメンヒドロペルオキシドに基づく液空間速度(LHSV)は0.1乃至100時間−1、好ましくは1乃至50時間−1の範囲である。クメンヒドロペルオキシドは、ベンゼン、トルエン、クメンのような、分解反応には不活性の有機溶媒、最も好ましくはアセトンで希釈するのが好ましい。希釈レベルの調節は、塔を通す還流速度を設定することによって、又は溶媒を含む再循環されたオーバーヘッドをクメンヒドロペルオキシド供給原料に直接添加することによって行われる。溶媒の使用は、反応熱(約252.6KJ/モル又は約60kcal/モル)を放散させるのに役立つために好ましい。
【0034】
本発明に用いられる蒸留塔に用い得る充填物は蒸留操作に必要な効率の関数として選択される。充填物は、リングの形態の固体、ポリ−ローブ(poly-lobed)押出品又はサドル充填物等、当業者に公知の充填物から選択できる。充填物の非制限的例は、ラシヒリング、ポールリング、イントス(Intos)リング、バール(Berl)サドル充填物、ノバロックス(Novalox)サドル充填物及びインタロックス(Intalox)サドル充填物である。充填物は、構造化充填物、例えばKochにより販売されるFLEXIPAC(登録商標)又はSulzerにより販売されるSULZER CHEMTECH又はSULZER(登録商標)から選択することもできる。
【0035】
本発明の方法に用いられ得る分配トレイは、当業者に公知の分配トレイにおけるように、特にそれが属する蒸留域の主要部分が充填物からなる場合、蒸気の上方への通過及び液体の回収や、その後の液体のオーバーフローを可能にする単純なトレイである。本発明により蒸留トレイが用いられる場合、そのトレイは当業者に公知の蒸留トレイ、特に多孔トレイ、泡鐘トレイ又はバルブトレイから選択できる。
【0036】
本発明による触媒蒸留塔の操作により、塔及び触媒床中に成分の分布がもたらされる。種々の成分の濃度は、触媒の最適性能に影響を与え、所望反応を遅らせたり、不都合な反応を促進したりすることがある。触媒床の最適な操作を達成するように、その触媒床は成分濃度が最適となる塔内の位置に配置される。これは触媒床の下に位置する、ストリッパーとして作用する別の蒸留区分の存在をもたらし得る。
【0037】
本発明を下記の実施例を参照してより詳細に説明する。
【0038】
実施例1 図1のプロセス構成では、反応性蒸留塔(100)においてクメンヒドロペルオキシドからフェノール及びアセトンが生成する。約80重量%CHPを含むクメンヒドロペルオキシド含有供給原料のライン(110)から、上記供給原料が入口(120)を介して触媒床(130)の上の部位に導入され、そこで塔のオーバーヘッドから誘導されるアセトンの希釈部分と混合され、希クメンヒドロペルオキシド混合物を生成し、その混合物は、約50乃至90℃の温度、0乃至」0.0069MPa(0乃至10psig)の圧力及び0.3乃至5時間−1のLHSVを含むクメンヒドロペルオキシド分解条件下で触媒床(130)を通過し、フェノール及びアセトンを含む生成物を提供する。上記触媒床は固体触媒の、構造化されていない(unstructured)充填した床である。触媒は典型的には1/24インチ直径より大きいペレットの形態であり、触媒床の気孔容積は液体をその床の下方に流し、蒸気をその床の上方に流す。
【0039】
上記触媒は次のように作られる:ZrOCl・8HOの500部を撹拌しながら蒸留水3.0リットル中に溶解する。この溶液にFeSO・7HOを7.6部を添加する。濃縮したNHOHを260部、(NH1240・HOを54部及び蒸留水を2940部含有する別の溶液を調製した。両方の溶液を60℃に加熱し、その加熱溶液を、ノズル混合を用いて50部/分の速度で合わせた。最終複合物のpHを、濃縮した水酸化アンモニウムの添加によって約9に調整した。次に、このスラリーをポリプロピレン製ボトルに入れ、蒸気処理室(100℃)中に72時間置いた。生成した生成物を濾過により回収し、過剰の水で洗滌し、85℃で一晩乾燥した。乾燥した生成物を空気流れで800℃で3時間、か焼し、その後ペレットにした。その後、この触媒ペレットを触媒床に添加した。
【0040】
生成したフェノール及びその他の重質化合物は触媒床を通って下方に流れ、下部出口(140)を介して反応性蒸留塔から取り出され、送られてプラント(示されていない)の蒸留区分で回収される。アセトンを含むオーバーヘッドは塔を上方に流れ、上部出口(150)を通り、そこから凝縮器(160)のような熱交換器に導かれ、その後オーバーヘッド受け器(170)に達する。アセトンを含有するオーバーヘッドは上記受け器からライン(180)を通って取り出されるか、還流として蒸留塔の上部(190)に再循環される。クメンヒドロペルオキシド供給原料のアセトンによる希釈は、蒸留塔に再循環されるアセトン量を種々変えることによって、すなわち塔を通す還流速度を設定することによって制御される。供給原料の組成及び推定生成物組成を以下の表2に示す。
【0041】
【表2】
Figure 0005041354
【0042】
実施例2 図2のプロセス構成では、反応性蒸留塔(200)においてクメンヒドロペルオキシドからフェノール及びアセトンが生成される。約80重量%CHPを含有するクメンヒドロペルオキシド含有供給原料ライン(210)は、供給原料を、触媒床(230)の上の部位における入口(220)から導入し、そこで塔のオーバーヘッドから誘導されるアセトン希釈部分と混合され、希クメンヒドロペルオキシド混合物を生成し、その混合物は、約50℃乃至90℃の温度、0.0069MPa(0乃至10psig)の圧力、0.3乃至5時間−1のLHCVを含む、クメンヒドロペルオキシド分解条件下で触媒床(230)を通過し、フェノールとアセトンを含有する生成物を生ずる。上記触媒床は実施例1に記載したような固体触媒の、構造化されていない充填した床である。生成したフェノール及び重質化合物は上記触媒床を通って下方に流れ、下方出口(240)により反応性蒸留塔から取り出され、送られてプラント(示されていない)の蒸留部分で回収される。アセトンを含有するオーバーヘッドは塔を上方に流れ、上部出口(250)を通り、凝縮器(260)のような熱交換器に導かれ、その後オーバーヘッド受け器(270)に達する。アセトン含有オーバーヘッドは上記受け器からライン(280)を通って取り出されるか、又はライン(290)を通って蒸留塔の上方部分に還流として再循環されるか、ライン(292)を通って蒸留塔の下部に再循環される(CHP供給物トレイレベルにおいて)。或いは、又はそれに加えて、再循環されたオーバーヘッドは、必要な際に希釈する方法として、ライン(294)を通ってクメンヒドロペルオキシド供給原料(210)に導かれる。こうしてクメンヒドロペルオキシド供給原料のアセトンでの希釈は、蒸留塔に再循環されるアセトン量を変えることによって、すなわち蒸留塔の上方及び/又は下方部分において塔還流速度を設定するか、又はCHP供給原料に直接加えることによって、制御される。提供される供給原料の組成及び推定生成物の組成を以下の表3に示す。
【0043】
【表3】
Figure 0005041354
【0044】
実施例3 図3のプロセス構成では、反応性蒸留塔(300)においてクメンヒドロペルオキシドからフェノール及びアセトンを生成する。約80重量%CHPを含有するクメンヒドロペルオキシド含有供給原料ライン(310)は、供給原料を、触媒床(330)の上の部位における入口(320)に導入し、そこで塔のオーバーヘッドから誘導されるアセトンの希釈部分と混合され、希3重量%クメンヒドロペルオキシド混合物を生成し、その混合物は、約50乃至90℃の温度、0.0069MPa(0乃至10psig)の圧力、0.3乃至5時間−1のLHCVを含む、クメンヒドロペルオキシド分解条件下で触媒床(330)を通過し、フェノール及びアセトンを含有する生成物をもたらす。触媒床は実施例1に記載されるように固体触媒の、構造化されず、充填した床である。生成したフェノール及びその他の重質化合物は上記触媒床を通って下に流れ、反応性蒸留塔から下部出口(340)により取り出され、プラント(示されていない)の蒸留区分で回収するために送られる。アセトンを含有するオーバーヘッドは塔を上方に流れ、上部出口(350)を通り、凝縮器(360)のような熱交換器に導かれ、そこからオーバーヘッド受け器(370)に導かれる。アセトン含有オーバーヘッドは受け器からライン(380)を通って取り出され、又はライン(390)を通って蒸留塔の上部に、又はライン(392)を通って蒸留塔の下部(CHP供給原料トレイのレベル)に還流として再循環される。或いは、又はそれに加えて、再循環されるオーバーヘッドはライン(396)を介して触媒床(340)に直接導くこともできる。アセトン含有オーバーヘッドのこの段階間注入を用いて触媒床の下部の濃度レベルを制御し、重質化合物の生成を最小にすることができる。こうしてクメンヒドロペルオキシド供給原料のアセトンによる希釈は蒸留塔に再循環されるアセトン量を変えることによって、すなわち蒸留塔の上方部分及び/又は下方部分における塔を通す還流速度を設定することによって、又は触媒床に直接添加することによって制御される。提供される供給原料の組成及び推定生成物組成を表4に示す。
【0045】
【表4】
Figure 0005041354

【図面の簡単な説明】
【図1】 還流アセトンが蒸留塔の頭頂部に導入される、本発明の実施態様の流れ図である。
【図2】 アセトンは蒸留塔の頭頂部に、直接触媒床の上に導入され、及び/又はクメンヒドロペルオキシド供給原料中に再循環される本発明の実施態様の流れ図である。
【図3】 アセトンが蒸留塔の頭頂部に、直接触媒床上に、及び/又は触媒床中に導入される、本発明の実施態様の流れ図である。

Claims (16)

  1. i)上方部分において蒸留塔及び下方部分において触媒床を含む反応性蒸留塔に、触媒床の上方の部分において、クメンヒドロペルオキシド供給原料を導入する段階;
    ii)前記クメンヒドロペルオキシド供給原料をアセトンで希釈する段階;
    iii)希釈されたクメンヒドロペルオキシドを、クメンヒドロペルオキシドの発熱分解を達成するのに十分な条件下で触媒床の上の方部分において、触媒床の下流方向に注入し、フェノールを含有する重質留分とアセトンを含有する気化した軽質留分を含む生成物にする段階;
    iv)重質留分を触媒床の下流方向に通過させて、ボトムとして前記塔から取り出す段階;
    v)気化した軽質留分を触媒床及び反応性蒸留塔の少なくとも一部を通って上方に流す段階;
    vi)軽質留分を凝縮し、次のクメンヒドロペルオキシド供給原料との混合のために、前記アセトンの希釈部分の少なくとも一部とする段階;
    vii)任意に軽質留分の一部をオーバーヘッドとして前記塔から取り出す段階;並びに、
    viii)段階i)乃至vii)を繰り返す段階
    を含む、クメンヒドロペルオキシドからフェノールとアセトンを製造する方法。
  2. 段階v)及びvi)を用いてクメンヒドロペルオキシドのアセトンによる希釈を制御する、請求項1記載の方法。
  3. アセトンの、前記塔を通す還流速度を設定してクメンヒドロペルオキシド供給原料の希釈を制御する、請求項2記載の方法。
  4. アセトンが、1)蒸留塔の上方部分、2)触媒床の上流の蒸留塔の下方部分、及び3)前記蒸留塔に導入される前のクメンヒドロペルオキシド供給原料の少なくとも一つに添加される、請求項1記載の方法。
  5. アセトンが蒸留塔の上方部分に添加される、請求項1記載の方法。
  6. アセトンが蒸留塔の下方部分に添加される、請求項1記載の方法。
  7. アセトンが、前記蒸留塔に導入される前のクメンヒドロペルオキシド供給原料に添加される、請求項1記載の方法。
  8. アセトンが触媒床に1カ所以上において直接添加される、請求項1記載の方法。
  9. 触媒床が固体酸不均一触媒を含む、請求項1記載の方法。
  10. クメンヒドロペルオキシドの発熱分解を達成するのに十分な条件が、温度40乃至120℃、及び大気圧から2.758Mpa(400psig)までの圧力を含む、請求項1記載の方法。
  11. a)上方部分における蒸留塔及び下方部分における触媒床を含む反応性蒸留塔;
    b)フェノールを含む高沸点のボトム生成物を取り出すための、前記触媒床の下流の下部出口;
    c)触媒床の上流の部位にクメンヒドロペルオキシド供給原料を導入するための、触媒床の上の部分であり且つ蒸留塔の底部又は底部近くに位置する入口;
    d)触媒床を通過して上昇するアセトンを含有する低沸点オーバーヘッド生成物を取り出すための上部出口;
    e)オーバーヘッド生成物を冷却するための熱交換器;
    f)熱交換器から冷却したオーバーヘッド生成物を受け取るためのオーバーヘッド生成物受け器であって、前記オーバーヘッド生成物を回収し及び/又は蒸留塔に戻す出口を有する受け器;及び
    g)前記受け器から還流するオーバーヘッド生成物を導入するための、蒸留塔の上方部分にあるオーバーヘッド生成物入口
    を含む、クメンヒドロペルオキシドからフェノールを製造する装置。
  12. h)クメンヒドロペルオキシドを導入するための入口又はその近くにおいて蒸留塔に前記受け器からオーバーヘッド生成物を導入するための、蒸留塔の下方部分におけるオーバーヘッド生成物入口;
    i)クメンヒドロペルオキシドを導入するための前記入口の上流のクメンヒドロペルオキシド供給原料にオーバーヘッド生成物を再循環するオーバーヘッド生成物ライン;及び j)触媒床の一カ所以上の部分にオーバーヘッド生成物を再循環するオーバーヘッド生成物ライン
    から成る群から選択される要素をさらに含む、請求項11記載の装置。
  13. 前記受け器から蒸留塔にクメンヒドロペルオキシド導入口又はその近くにおいてオーバーヘッド生成物を導入するための、蒸留塔の下方部分におけるオーバーヘッド生成物入口をさらに含む、請求項11記載の装置。
  14. クメンヒドロペルオキシドのための前記入口の上流のクメンヒドロペルオキシド供給原料にオーバーヘッド生成物を再循環するオーバーヘッド生成物ラインをさらに含む、請求項11記載の装置。
  15. 触媒床の一カ所以上の部分にオーバーヘッド生成物を再循環するオーバーヘッド生成物ラインをさらに含む、請求項11記載の装置。
  16. 触媒床の下に位置するストリッピング部をさらに含む、請求項11記載の装置。
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