JP5040003B2 - 植物系繊維材料の糖化分離方法 - Google Patents

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Description

本発明は、植物系繊維材料を糖化分離して糖を生成させる方法に関する。
バイオマスである植物繊維、例えば、サトウキビの絞りかす(バガス)や木材片等を分解してセルロースやヘミセルロースからグルコースやキシロースを主とする糖を生成し、得られた糖を食料又は燃料として有効利用することが提案され、実用化されつつある。特に、植物繊維を分解することにより得られた糖を発酵させ、燃料となるエタノール等のアルコールを生成させる技術が注目されている。
従来、セルロースやヘミセルロースを分解してグルコース等の糖を生成する種々の方法が提案されており、一般的な方法としては、希硫酸や濃硫酸等の硫酸、塩酸を用いてセルロースを加水分解する方法(特許文献1)が挙げられる。
特開平8−299000号公報
しかしながら、特許文献1に開示されているような、硫酸等の酸を用いてセルロースを分解する方法は、酸と糖の分離が困難であるという問題がある。これは、分解生成物の主成分であるグルコースと酸が共に水溶性であるためである。中和やイオン交換などによる酸除去は、手間とコストがかかるだけでなく、完全に酸を除去することが難しく、エタノール発酵工程にも酸が残留してしまうことが多い。その結果、エタノール発酵工程において、酵母の活性に最適なpHに調整しても、塩の濃度が高くなることで酵母の活性が低下し、発酵効率の低下を招いていた。
特に濃硫酸を用いる場合には、酵母を失活させない程度まで硫酸を除去するのが非常に困難であり、多大なエネルギーを要する。これに対して、希硫酸を用いる場合には、比較的容易に硫酸を除去することができるが、高温条件下でセルロースを分解させなければならず、エネルギーを要する。
さらに、硫酸や塩酸等の酸は、分離、回収して再利用することが非常に困難である。そのため、これら酸をグルコース生成の触媒として用いることは、バイオエタノールのコストを引き上げる原因の一つとなっている。
本発明者らは、セルロースの糖化について鋭意検討した結果、擬融解状態のクラスター酸が、セルロースの加水分解に対して優れた触媒活性を有すると共に、生成した糖との分離が容易であることを見出し、既に特許出願を行っている(特願2007−115407)。本方法によれば、従来の濃硫酸法や希硫酸法と異なり、加水分解触媒を回収、再利用することが可能であると共に、セルロースの加水分解から糖水溶液の回収、加水分解触媒の回収までのプロセスのエネルギー効率を向上させることができる。
また、上記特許出願においては、植物系繊維材料の加水分解により生成した糖と、クラスター酸触媒の分離方法についても提案している。具体的には、加水分解後、生成した糖と、クラスター酸触媒と、残渣を含む反応混合物に、有機溶媒を添加することで、クラスター酸を溶解する一方、糖は固体分として、残渣と共に該クラスター酸有機溶媒と分離させる方法が記載されている。
本発明者らは、さらに上記クラスター酸触媒を用いたセルロースの糖化について研究を進め、生成する糖とクラスター酸触媒の分離性を高め、高純度の糖水溶液を得ることに成功した。すなわち、本発明は、上記研究の経緯を経て成し遂げられたものであり、上記セルロースの加水分解触媒であるクラスター酸の回収率を高め、純度の高い糖水溶液を提供することを目的とするものである。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、クラスター酸触媒を用いて、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程と、少なくとも、前記加水分解工程において生成した糖、及び前記クラスター酸触媒を含む混合物と、糖に対しては貧溶媒であり前記クラスター酸触媒に対しては良溶媒である第一の有機溶媒を混合する過程を経て、クラスター酸触媒を含む有機溶媒溶液分と、糖及びクラスター酸触媒の残留分を含む固体分とに分離する固液分離工程と、前記固液分離工程において得られた前記固体分を水と混合して得られた水溶液を、陰イオン交換体に接触させることにより、前記水溶液中に存在するクラスター酸触媒の残留分を前記陰イオン交換体に吸着させ、前記水溶液中からクラスター酸触媒を除去するクラスター酸触媒除去工程を有し、前記クラスター酸触媒除去工程前後において、前記水溶液のpHをそれぞれ測定し、当該一組のpHの値から、前記クラスター酸触媒除去工程におけるクラスター酸触媒除去率を算出することを特徴とする。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記陰イオン交換体を用いて前記水溶液中からクラスター酸触媒を除去することができることから、前記陰イオン交換体から前記クラスター酸触媒をさらに回収することによって、クラスター酸触媒の再利用率を高めることができる。また、本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、糖中へのクラスター酸触媒の残留量を極力減らすことができるので、純度の高い糖を得ることができる。また、本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記水溶液のpH測定結果から、前記クラスター酸触媒除去率を把握できるため、仮に当該除去率が低下した場合であっても再度クラスター酸触媒除去工程を行うことによって、クラスター酸触媒の回収率を高めることができると共に、前記除去率の値の推移から、前記陰イオン交換体の洗浄の時期を判断することができる。また、本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記水溶液中の糖の純度の観点から、前記水溶液を後の発酵工程において用いることができるか否かについて判断することができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記クラスター酸触媒除去工程終了後に、水分含有の第二の有機溶媒を用いることにより、前記クラスター酸触媒を吸着した後の前記陰イオン交換体から当該クラスター酸触媒を分離するクラスター酸触媒分離工程を有することが好ましい。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、水分含有の前記第二の有機溶媒によって前記陰イオン交換体から前記クラスター酸触媒を溶出させることにより、簡便にクラスター酸触媒を分離することができ、当該クラスター酸触媒の再利用率をさらに高めることができる。また本発明の糖化分離方法は、陰イオン交換体の吸着力を一定以上に維持することができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記クラスター酸触媒分離工程において得られたクラスター酸触媒を、前記加水分解工程において再利用することが好ましい。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、加水分解工程ごとに新たに加えるクラスター酸触媒の量を低減することができ、糖化分離工程全体のコストの低下を達成することができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法の一形態としては、前記植物系繊維材料としてソフトバイオマスを用い、前記固液分離工程後、前記クラスター酸触媒除去工程前に、前記固液分離工程において得られた前記固体分を水と混合して得られた水溶液を、陽イオン交換体に接触させることにより、前記水溶液中に存在するカチオンを前記陽イオン交換体に吸着させ、前記水溶液中からカチオンを除去するカチオン除去工程を有するという構成をとることができる。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、ソフトバイオマスが、前記クラスター酸触媒除去率を正しく算出する際に障害となる、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属等を他のバイオマス原料よりも多く含むため、前記カチオン除去工程において、予め前記水溶液中から、カリウムイオン、カルシウムイオン等のカチオンを除去することによって、後の工程において、前記クラスター酸触媒除去率を正しく算出することができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記カチオン除去工程前後において、前記水溶液のpHをそれぞれ測定し、当該一組のpHの値から、前記カチオン除去工程におけるカチオン除去率を算出することが好ましい。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、pH測定という簡便な手法により、カチオン除去率を算出することができる。また、本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記水溶液のpH測定結果から、前記水溶液を後のクラスター酸触媒除去工程において用いることができるか否かを判断できるため、カチオン除去率が低い前記水溶液に対して、再度カチオン除去工程を行うことで、後の工程において、クラスター酸触媒除去率を正しく算出することができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記加水分解工程を、常圧〜1MPaの条件下、140℃以下で行うことが好ましい。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、比較的穏やかな反応条件で行うことが可能であり、エネルギー効率に優れた糖化分離を達成することができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記クラスター酸触媒がヘテロポリ酸であることが好ましい。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、酸化力及び酸強度が強いヘテロポリ酸を用いることにより、前記加水分解工程における、セルロースの確実な加水分解を達成することができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記固液分離工程において、前記第一の有機溶媒に対する前記糖の溶解度が1g/100ml以下であることが好ましい。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記固液分離工程において、前記第一の有機溶媒に対する前記糖の溶解度と前記クラスター酸触媒の溶解度との間に十分な差を設けることによって、糖からクラスター酸触媒を可能な限り分離し、高純度の糖を含んだ前記固体分を得ることができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記固液分離工程において、前記第一の有機溶媒としてエーテル類及びアルコール類から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記固液分離工程において、前記糖に対しては貧溶媒であり、前記クラスター酸触媒に対しては良溶媒であるエーテル類及びアルコール類の少なくともいずれか一方を前記第一の有機溶媒として用いることによって、糖からクラスター酸触媒を可能な限り分離し、高純度の糖を含んだ前記固体分を得ることができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記クラスター酸触媒分離工程において、前記第二の有機溶媒としてアルコール類を用いることが好ましい。
このような構成の植物系繊維材料の糖化分離方法は、前記クラスター酸触媒と親和性の高いアルコール類を用いることによって、容易に前記陰イオン交換体から前記クラスター酸触媒を分離することができる。
本発明によれば、前記陰イオン交換体を用いて前記水溶液中からクラスター酸触媒を除去することができることから、クラスター酸触媒の再利用率を高めることができる。また、本発明によれば、糖中へのクラスター酸触媒の残留量を極力減らすことができるので、純度の高い糖を得ることができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法は、クラスター酸触媒を用いて、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程と、少なくとも、前記加水分解工程において生成した糖、及び前記クラスター酸触媒を含む混合物と、糖に対しては貧溶媒であり前記クラスター酸触媒に対しては良溶媒である第一の有機溶媒を混合する過程を経て、クラスター酸触媒を含む有機溶媒溶液分と、糖及びクラスター酸触媒の残留分を含む固体分とに分離する固液分離工程と、前記固液分離工程において得られた前記固体分を水と混合して得られた水溶液を、陰イオン交換体に接触させることにより、前記水溶液中に存在するクラスター酸触媒の残留分を前記陰イオン交換体に吸着させ、前記水溶液中からクラスター酸触媒を除去するクラスター酸触媒除去工程を有することを特徴とする。
本発明者らは、上記特許出願(特願2007−115407)において、グルコースを主とする糖とクラスター酸は共に水溶性であるが、糖が難溶又は不溶である有機溶媒に対してクラスター酸が溶解性を示すことを見出し、この溶解特性の違いを利用することによって、クラスター酸と糖が分離可能であることを報告している。すなわち、植物系繊維材料を、クラスター酸触媒を用いて加水分解した後、生成物である糖、クラスター酸触媒、及び未反応セルロース等の残渣を含む加水分解混合物(以下、単に加水分解混合物ということがある)に、上記特定の有機溶媒を添加すると、クラスター酸触媒が当該有機溶媒に溶解する。一方、糖は当該有機溶媒に溶解しないため、加水分解混合物中に固体状態で存在する糖は当該有機溶媒に溶解せず、ろ過等の固液分離方法によりクラスター酸有機溶剤溶液と分離することができる。
本発明者らはさらに鋭意検討したところ、加水分解工程において生成した糖は、析出し、結晶成長する過程において、或いは、他の析出した糖と凝集する際に、クラスター酸触媒が糖に混入してしまうことが見出された。
そして、植物系繊維材料の加水分解によって生成した糖と、当該加水分解の触媒として用いたクラスター酸とを分離する際に、糖が水に溶解した糖水溶液中には、クラスター酸触媒が混入しており、混入した当該クラスター酸触媒を、陰イオン交換体を用いることによって糖水溶液中から除去することで、糖の高純度化と共に、クラスター酸触媒の回収率の向上が可能であることを見出した。
まず、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程について説明する。
尚、ここでは、主としてセルロースからグルコースを生成させる工程を中心に説明しているが、植物系繊維材料にはセルロース以外にヘミセルロースも含まれ、また、生成物もグルコース以外にキシロース等のその他の単糖もあり、これらの場合も本発明の範囲に含まれる。
植物系繊維材料としては、セルロースやヘミセルロースを含むものであれば特に限定されず、例えば、広葉樹、竹、針葉樹、ケナフ、家具の廃材、稲わら、麦わら、籾殻、バガス、サトウキビの絞りかす等のセルロース系バイオマスが挙げられる。また、上記バイオマスから分離されたセルロースやヘミセルロース或いは人工的に合成されたセルロースやヘミセルロースそのものでもよい。
これら繊維材料は、反応系における分散性の観点から、通常、粉末状にしたものを用いる。粉末状にする方法としては、一般的な方法に準じればよい。クラスター酸触媒との混合性、反応機会向上の観点から、数μm〜200μm程度の直径を有する粉末状とすることが好ましい。
また、繊維材料は必要に応じて、予め蒸解処理を施すことによって、含有されるリグニンを溶解しておいてもよい。リグニンを溶解除去しておくことによって、加水分解工程におけるクラスター酸触媒とセルロースとの接触機会の向上が可能であると同時に、加水分解反応混合物に含まれる残渣量を低減することができ、残渣中に生成した糖やクラスター酸が混入することによる、糖収率低下やクラスター酸回収率低下の抑制が可能である。蒸解処理を施す場合には、植物系繊維材料の粉砕度を比較的小さくする(粉砕が荒い)ことができるため、繊維材料を粉末状にするための手間、コスト、エネルギーを削減できるという効果もある。
蒸解処理としては、例えば、NaOH、KOH、Ca(OH)、NaSO、NaHCO、NaHSO、Mg(HSO、Ca(HSO等のアルカリや塩およびその水溶液、それにさらにSO溶液を混合したもの、NH等のガスと、植物系繊維材料チップ(数cm〜数mm)を接触させる方法が挙げられる。具体的な条件として、反応温度は120〜160℃、反応時間は数十分から1時間程度でよい。
本発明において、植物系繊維材料の加水分解の触媒として用いられるクラスター酸とは、複数のオキソ酸が縮合したもの、すなわち、いわゆるポリ酸である。ポリ酸の多くは、中心元素が複数の酸素原子と結合しているため最高酸化数まで酸化された状態であることが多く、酸化触媒として優れた特性を示し、また、強酸であることが知られている。例えば、ヘテロポリ酸であるリンタングステン酸の酸強度(pKa=−13.16)は、硫酸の酸強度(pKa=−11.93)より強い。すなわち、例えば、50℃のような温和な条件でも、セルロースやヘミセルロースを、グルコース、キシロースなどの単糖までに分解することができる。
本発明において用いるクラスター酸としては、イソポリ酸でも、ヘテロポリ酸でもよいが、酸化力及び酸強度が強いことからヘテロポリ酸が好ましい。ヘテロポリ酸としては特に限定されず、HwAxByOz(A:ヘテロ原子、B:ポリ酸の骨格となるポリ原子、A:ヘテロ原子、w:水素原子の組成比、x:ヘテロ原子の組成比、y:ポリ原子の組成比、z:酸素原子の組成比)の一般式で表されるものが挙げられる。ポリ原子Bとしては、ポリ酸を形成することができるW、Mo、V、Nb等の原子が挙げられる。ヘテロ原子Aとしては、ヘテロポリ酸を形成することができるP、Si、Ge、As、B等の原子が挙げられる。ヘテロポリ酸一分子内に含有されるポリ原子及びヘテロ原子は1種であっても2種以上であってもよい。
酸強度の強さと、酸化力のバランスから、タングステン酸塩であるリンタングステン酸 H[PW1240]、珪タングステン酸 H[SiW1240]が好ましい。次いで、モリブデン酸塩であるリンモリブデン酸 H[PMo1240]等を好適に用いることができる。
ここで、ケギン型[Xn+1240:X=P、Si、Ge、As等、M=Mo、W等]のヘテロポリ酸(リンタングステン酸)の構造を図1に示す。八面体MO単位からなる多面体の中心に四面体XOが存在し、この構造の周囲に結晶水を多くもつ。尚、クラスター酸の構造は特に限定されず、上記ケギン型の他、例えば、ドーソン型等でもよい。
尚、ここでは結晶状態のクラスター酸触媒、及び、数分子のクラスター酸触媒で構成されるクラスター状態のクラスター酸触媒と水和又は配位する水を、一般的に使用される「結晶水」という用語で代用する。この結晶水にはクラスター酸触媒を構成するアニオンと水素結合したアニオン水、カチオンに配位した配位水、カチオン及びアニオンと配位しない格子水の他、OH基の形で含まれているものも含まれる。
また、クラスター状態のクラスター酸触媒とは、数分子(1〜数分子程度)のクラスター酸から構成される集合体であり、結晶とは異なる。固体状態、擬融解状態、溶媒中に溶解(コロイド状)した状態でもクラスター状態とすることができる。
上記したようなクラスター酸触媒は、常温では固体状であるが、加熱し、温度が上がると擬融解状態となる。ここで、擬融解状態とは、見かけ上、融解しているようであるが、完全に融解した液体状態ではなく、クラスター酸が液中に分散しているコロイド(ゾル)に近い状態であり、流動性を示している状態である。クラスター酸が擬融解状態であるかどうかは、目視により確認することもでき、或いは、均一系の場合、DTG(示差走査熱量計)等でも確認することができる。
クラスター酸は、上記したように、その酸強度の強さから低温でもセルロースの加水分解反応に対する高い触媒活性を示す。また、クラスター酸の大きさは、径が2nm程度であるため、原料である植物系繊維材料との混合性にも優れ、効率よくセルロースの加水分解を促進することができる。従って、温和な条件でのセルロースの加水分解が可能であり、エネルギー効率が高く、環境負荷が小さい。さらに、硫酸等の酸を用いる従来のセルロースの加水分解法と異なり、クラスター酸を触媒として用いる本発明の方法は、糖と触媒の分離効率が高く、容易に分離可能である。
しかも、クラスター酸は温度によっては固形状態となるため、生成物である糖類との分離が可能である。従って、分離したクラスター酸を回収し、再利用することも可能である。また、擬融解状態のクラスター酸触媒は、反応溶媒としても機能するため、従来の方法と比較して、反応溶媒としての溶剤量を大幅に減少させることができる。これは、クラスター酸と生成物である糖との分離、クラスター酸の回収の高効率化が可能であることを意味している。すなわち、クラスター酸をセルロースの加水分解触媒として利用する本発明は、低コストが可能であり、且つ、環境負荷も小さい。
クラスター酸触媒と植物系繊維材料は、加熱する前に、予め、混合攪拌しておくことが好ましい。クラスター酸触媒が擬融解状態となる前にある程度混合しておくことによってクラスター酸と植物系繊維材料との接触性を高めることができる。
上記したように、加水分解工程において、クラスター酸触媒は擬融解状態となり、反応溶媒としても機能するため、本発明においては、植物系繊維材料の形態(大きさ、繊維の状態等)、クラスター酸触媒と植物系繊維材料の混合比及び体積比等にもよるが、加水分解工程において、反応溶媒としての水や有機溶剤等を用いなくてもよい。
加水分解工程においては、セルロースが加水分解されるための水が必要である。具体的には、n個のグルコースが重合したセルロースをn個のグルコースに分解するためには、(n−1)個の水分子が必要である。従って、反応系内には、少なくとも、植物系繊維材料に含まれるセルロース全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分を添加する。好ましくは、植物系繊維材料として仕込まれたセルロース全量がグルコースに加水分解されるのに必要最低限の水分を添加する。過度の水分を添加すると、生成した糖及びクラスター酸が余剰の水分に溶解し、糖分離工程が煩雑となるからである。
一方、クラスター酸触媒を擬融解状態で使用する場合には、反応系内に、クラスター酸触媒が反応温度において擬融解状態となるのに必要な結晶水分量の水分と、仕込まれたセルロース全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分の合計量が存在しない場合、クラスター酸触媒の結晶水がセルロースの加水分解に使用され、クラスター酸触媒の結晶水が減少し、クラスター酸が凝固状態となってしまう。すなわち、クラスター酸触媒と植物系繊維材料との接触性が低下するばかりか、植物系繊維材料とクラスター酸触媒の混合物の粘度が増加し、当該混合物を充分に混合できなくなってしまう。
従って、加水分解工程において、反応温度におけるクラスター酸触媒の触媒作用や反応溶媒としての機能を確保するため、つまり、クラスター酸触媒が擬融解状態を保持できるようにするためには、反応系内の水分量を下記のようにすることが好ましい。すなわち、(a)反応系内に存在するクラスター酸触媒の全てが加水分解工程における反応温度において擬融解状態になるために必要な結晶水と、(b)反応系内に存在するセルロースの全量がグルコースに加水分解されるのに必要な水分と、の合計量以上とすることが好ましい。特に好ましくは、上記(a)と(b)の合計量を添加する。過度の水分を添加することによって、生成した糖及びクラスター酸が余剰の水分に溶解し、糖とクラスター酸の分離工程が煩雑となるからである。
尚、加水分解工程において、反応系内の水分が減少し、クラスター酸触媒の結晶水量も減少することによって、クラスター酸触媒が固形状となり植物系繊維材料との接触性や反応系の混合性が低下する場合には、クラスター酸触媒が擬融解状態となるように加水分解温度を上げることによって、上記問題の発生を回避することもできる。
加水分解工程における温度条件は、いくつかの要素(例えば、反応選択率、エネルギー効率、セルロースの反応率、等)を考慮して適宜決定すればよいが、エネルギー効率、セルロースの反応率、グルコース収率のバランスから、通常、140℃以下、とすることが好ましく、特に120℃以下とすることが好ましい。植物系繊維材料の形態によっては、100℃以下のような低温でも可能であり、その場合には、特に高エネルギー効率でグルコースを生成させることができる。
また、加水分解工程における圧力は、特に限定されないが、クラスター酸触媒のセルロースの加水分解反応に対する触媒活性が高いことから、常圧(大気圧)〜10MPaのような温和な圧力条件下でも効率よくセルロースの加水分解を進行させることができる。
また、植物系繊維材料とクラスター酸触媒との比率は、用いる植物系繊維材料の性状(例えば、サイズ等)や種類、加水分解工程における攪拌方法や混合方法等によって異なる。そのため、実施条件に応じて、適宜決定すればよいが、クラスター酸触媒:植物系繊維材料(重量比)=2:1〜6:1の範囲内であることが好ましく、通常は、2:1〜4:1程度でよい。
加水分解工程におけるクラスター酸触媒と植物系繊維材料を含む混合物は粘度が高いため、その攪拌方法は、例えば、加熱ボールミル等が有利であるが、一般的な攪拌器でもよい。
加水分解工程の時間は特に限定されず、用いる植物系繊維材料の形状、植物系繊維材料とクラスター酸触媒の比率、クラスター酸触媒の触媒能、反応温度、反応圧力等によって、適宜設定すればよい。
加水分解終了後、反応系の温度を下げると、加水分解工程において生成した糖は、残渣(未反応セルロース)やクラスター酸触媒を含む加水分解混合物中、糖を溶解する水が存在する場合には糖水溶液として、溶解する水がない場合には析出して固体状態で含有される。生成した糖のうち一部は糖水溶液、残りは固体状態で上記混合物中に含有されることもある。尚、クラスター酸触媒もまた、水溶性を有するため、加水分解工程後の混合物の含水量によってはクラスター酸触媒も水に溶解している。
次に、加水分解工程で生成した糖(主にグルコース)と、クラスター酸触媒とを分離する分離工程について説明する。分離工程には、(1)糖及びクラスター酸触媒を含む混合物と、第一の有機溶媒を混合する過程を経て、固体分と有機溶媒溶液分とに分離する固液分離工程、(2)固液分離工程において得られた前記固体分を水と混合して得られた水溶液を、陰イオン交換体に接触させることにより、前記水溶液中からクラスター酸触媒を除去するクラスター酸触媒除去工程、の少なくとも2工程がある。以下、各分離工程について順に説明していく。
固液分離工程(1)は、少なくとも、前記加水分解工程において生成した糖、及び前記クラスター酸触媒を含む混合物と、糖に対しては貧溶媒であり前記クラスター酸触媒に対しては良溶媒である第一の有機溶媒を混合する過程を経て、クラスター酸触媒を含む有機溶媒溶液分と、糖及びクラスター酸触媒の残留分を含む固体分とに分離する工程である。
固体化した糖にクラスター酸触媒が混入すると、得られる糖の純度が低下すると共に、クラスター酸触媒の回収率が低下する。
そこで、糖及びクラスター酸触媒を含む混合物に、糖に対しては貧溶媒であり前記クラスター酸触媒に対しては良溶媒である第一の有機溶媒を加えることによって、加水分解時に加えたクラスター酸触媒の大部分が溶解した有機溶媒溶液分と、糖及びクラスター酸触媒の残留分を含む固体分とに分離することができる。
固液分離工程において、クラスター酸触媒を溶解する上記第一の有機溶媒としては、糖に対しては貧溶媒であり前記クラスター酸触媒に対しては良溶媒であるものであれば特に限定されないが、糖を効率よく析出させるためには、当該有機溶媒に対する糖の溶解度が1g/100ml以下であることが好ましく、特に、0.06g/100ml以下であることが好ましい。このとき、糖のみを効率よく固体分として析出させるためには、当該有機溶媒に対するクラスター酸の溶解度が50g/100ml以上、特に100g/100ml以上であることが好ましく、500g/100ml以上であることが最も好ましい。
このように、固液分離工程において、第一の有機溶媒に対する糖の溶解度とクラスター酸触媒の溶解度との間に十分な差を設けることによって、糖からクラスター酸触媒を可能な限り分離し、高純度の糖を含んだ固体分を得ることができる。
上記第一の有機溶媒としては、具体的には、例えば、エタノール、メタノール、n−プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。アルコール類及びエーテル類は好適に用いることができ、中でもエタノール及びジエチルエーテルが好適である。ジエチルエーテルは、グルコース等の糖が不溶であり、且つ、クラスター酸の溶解性が高いため、糖とクラスター酸触媒を分離する溶媒として最適なものの一つである。一方、エタノールもグルコース等の糖が難溶であり、且つ、クラスター酸触媒の溶解性が高いため最適な溶媒の一つである。ジエチルエーテルはエタノールと比較して、後のクラスター酸触媒の減圧乾固の際において有利であり、エタノールは、ジエチルエーテルよりも入手しやすく、また、クラスター酸触媒の溶解性が非常に高いという利点を有している。
このように、固液分離工程において、糖に対しては貧溶媒であり、クラスター酸触媒に対しては良溶媒であるものを第一の有機溶媒として用いることによって、糖からクラスター酸触媒を可能な限り分離し、高純度の糖を含んだ固体分を得ることができる。
上記第一の有機溶媒の使用量は、その有機溶媒の糖及びクラスター酸触媒に対する溶解特性などによって異なるため、クラスター酸を効率よく回収できるように、適宜適切な量を決定すればよい。
固液分離工程における温度は、上記第一の有機溶媒の沸点等にもよるが、通常は、室温〜60℃の範囲であることが好ましい。また、固液分離工程において、水溶液は充分に攪拌混合されることが好ましい。具体的な攪拌方法は特に限定されず、一般的な方法でよい。クラスター酸の回収効率の観点から、攪拌方法としては、ボールミル等固体分の粉砕が可能な攪拌方法が好適である。
固液分離工程においては、糖及びクラスター酸触媒の残留分を含む固体分と、クラスター酸触媒を含む有機溶媒溶液分とに分離する。具体的な分離方法は特に限定されず、一般的な固液分離方法、例えば、ろ過、デカンテーション等を採用することができる。
図3は、本発明の固液分離工程の典型例を示した図である。
まず初めに、加水分解工程において生成した糖、及びクラスター酸触媒を含む混合物に、第一の有機溶媒を加えて攪拌する。第一の有機溶媒の量は、混合物が全体に湿潤する量であればよく、温度は室温〜50℃、攪拌時間は10〜30分であるのが好ましい。
次に、ろ過によって固体分(ろ過物1)と有機溶媒溶液分(ろ液1)にろ別する。この時のろ液1は、加水分解時に加えたクラスター酸触媒の大部分が溶解していると考えられるので、減圧乾固し溶媒を除くことによって、クラスター酸触媒を再生することができる。
続いて、1回目のろ過で得られたろ過物1に、再度第一の有機溶媒を加えて攪拌する。この時の溶媒量、攪拌温度及び攪拌時間は、1回目と同様であるのが好ましい。2回目のろ過によって得られた有機溶媒溶液分(ろ液2)は、他の混合物と合わせて、次回以降のクラスター酸触媒の分離に用いる。ただし、1回目のろ過で得られたろ液1と混合して、クラスター酸触媒を再生してもよい。
さらに、2回目のろ過で得られたろ過物2に、再度第一の有機溶媒を加えて攪拌する。ろ過を繰り返すほど、クラスター酸触媒濃度が下がってくるので、新しい有機溶媒を使用するのが好ましい。この時の溶媒量、攪拌温度及び攪拌時間は、1回目と同様であるのが好ましい。3回目のろ過で得られた固体分(ろ過物3)は、後のクラスター酸触媒除去工程に用いる。なお、3回目のろ過によって得られた有機溶媒溶液分(ろ液3)は、2回目のろ過によって得られたろ液2同様に、他の混合物と合わせて再度クラスター酸触媒の分離に用いてもよいし、1回目のろ過で得られたろ液1と混合して、クラスター酸触媒を再生してもよい。
クラスター酸触媒除去工程(2)は、前記固液分離工程において得られた前記固体分を水と混合して得られた水溶液を、陰イオン交換体に接触させることにより、前記水溶液中に存在するクラスター酸触媒の残留分を前記陰イオン交換体に吸着させ、前記水溶液中からクラスター酸触媒を除去する工程である。
ここで用いられる陰イオン交換体としては、代表的なものとして、ハイドロタルサイト、メソポーラスリン酸チタニウム等の無機陰イオン交換体、アミノ基を有するイオン交換樹脂(アクリル樹脂型、スチレン樹脂型)などの弱塩基性有機陰イオン交換体、アンモニウム基を有するイオン交換樹脂(アクリル樹脂型、スチレン樹脂型)などの強塩基性有機陰イオン交換体を用いることができる。
クラスター酸触媒除去工程前後において、水溶液のpHをそれぞれ測定し、当該一組のpHの値から、クラスター酸触媒除去工程におけるクラスター酸触媒除去率を算出することが好ましい。これは、水溶液のpH測定結果から、クラスター酸触媒除去率を把握できるため、クラスター酸触媒の回収率を高めることができると共に、前記除去率の値の推移から、陰イオン交換体の洗浄の時期を判断することができるからである。また、水溶液中の糖の純度の観点から、当該水溶液を後の発酵工程において用いることができるか否かについても判断できるという利点もある。
図4は、クラスター酸触媒の一種であるヘテロポリ酸の、水溶液中における濃度(横軸)と、水溶液のpH(縦軸)との関係を示したグラフの一例である。このようなグラフを用いることによって、pH測定という簡便な手法により、クラスター酸触媒除去率を算出することができる。
例えば、クラスター酸触媒除去工程前の水溶液のpHが3.50であり、クラスター酸触媒除去工程後の水溶液のpHが4.25であったとする。すると、クラスター酸触媒除去工程前の水溶液中の濃度は、図4より931ppmであり、クラスター酸触媒除去工程後の水溶液中の濃度は、図4より9.3ppmであることから、クラスター酸触媒除去率は99%であると算出することができる。
本発明の植物系繊維材料の糖化分離方法の一形態としては、植物系繊維材料としてソフトバイオマスを用い、固液分離工程後、クラスター酸触媒除去工程前に、固液分離工程において得られた固体分を水と混合して得られた水溶液を、陽イオン交換体に接触させることにより、水溶液中に存在するカチオンを陽イオン交換体に吸着させ、水溶液中からカチオンを除去するカチオン除去工程を有するという構成をとることができる。
ここでいうソフトバイオマスとは、稲わら、籾殻、麦わら、キャッサバパルプ、バガスパルプ、トウモロコシや麦の葉・茎・鞘、草、野菜の残りかす、残飯の有機部分などを指し、一般に木質バイオマスといわれているハードバイオマス以外のバイオマスをいう。
ソフトバイオマスは、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属等を他のバイオマス原料よりも多く含み(0.2〜0.5重量%程度)、ソフトバイオマスを含んだ水溶液のpHの値は、ハードバイオマスを含む水溶液のpHの値よりも高く測定されるため、クラスター酸触媒除去率を正確に算出することができない。したがって、これらカチオンを、クラスター酸触媒除去工程を行う前に除去する必要がある。
ここで用いられる陽イオン交換体としては、代表的なものとして、ゼオライト、リン酸ジルコニウム、メソポーラスリン酸チタニウム、粘土鉱物等の無機陽イオン交換体、カルボキシル基を有するイオン交換樹脂(アクリル樹脂型、スチレン樹脂型)などの弱酸性有機陽イオン交換体、スルホン酸基を有するイオン交換樹脂(アクリル樹脂型、スチレン樹脂型)などの強酸性有機陽イオン交換体を用いることができる。
このように、カチオン除去工程において、予め水溶液中から、カリウムイオン、カルシウムイオン等のカチオンを除去することによって、後の工程において、クラスター酸触媒除去率を正しく算出することができる。
カチオン除去工程前後において、水溶液のpHをそれぞれ測定し、当該一組のpHの値から、カチオン除去工程におけるカチオン除去率を算出することが好ましい。
中性〜酸性の範囲においては、カチオンの活量はほぼ1であることから、カチオン除去工程前後において、水溶液のpHをそれぞれ測定し、pHの定義であるpH=−log10[H]を用いることによって、カチオン除去率を求めることができる。
このように、pH測定という簡便な手法により、カチオン除去率を算出することができる。また、水溶液のpH測定結果から、当該水溶液を後のクラスター酸触媒除去工程において用いることができるか否かを判断できるため、カチオン除去率が低い水溶液に対して、再度カチオン除去工程を行うことで、後の工程において、クラスター酸触媒除去率を正しく算出することができる。なお、前記カチオン除去率が所定値未満、例えば70%未満である場合に、前記水溶液に対して再度カチオン除去工程を行うことが特に好ましく、前記除去率が50%未満である場合に、再度前記除去工程を行うことが最も好ましい。
図5は、本発明のクラスター酸触媒除去工程の典型例を示したものであり、ハードバイオマスを材料とした場合を示す図である。
まず初めに、前記固液分離工程において得られた固体分に、蒸留水を加えて攪拌する。蒸留水の量は、固体分0.5kgに対し、100〜300mLであるのが好ましく、温度は室温、攪拌時間は20〜30分であるのが好ましい。
次に、ろ過によって残渣と水溶液にろ別する。この時の水溶液には、糖と、クラスター酸触媒の一部が含まれている。なお、ハードバイオマスを材料として用いているので、上述したようなカチオンの影響は無視できるものとする。
続いて、ろ過で得られた水溶液のpH測定を行う。この時のpHの値をaとする。
その後、pH測定後の水溶液を、陰イオン交換体に接触させることにより、水溶液中のクラスター酸触媒の残留分を陰イオン交換体に吸着させ、水溶液中からクラスター酸触媒を除去する。さらに、陰イオン交換処理後の水溶液のpH測定を行い、この時のpHの値をbとする。
得られたpHの値a及びbから、図4に示したような図を用いてクラスター酸触媒除去率を求める。この時、当該除去率が99.99%未満であった場合には、再度陰イオン交換処理を行い、陰イオン交換処理後の水溶液のpHの値bを改めて求める。
水溶液のクラスター酸触媒除去率が99.99%以上であった場合には、糖水溶液中の水分を蒸発させて糖を得、後の発酵工程に用いる。
図6は、本発明のクラスター酸触媒除去工程の第二の典型例を示したものであり、ソフトバイオマスを材料とした場合を示す図である。
ろ過を行い、水溶液を得るところまでは上述した典型例と同様である。
続いて、ろ過で得られた水溶液のpH測定を行う。この時のpHの値をaとする。
その後、pH測定後の水溶液を、陽イオン交換体に接触させることにより、前記水溶液中のカチオンを陽イオン交換体に吸着させ、水溶液中からカチオンを除去する。さらに、陽イオン交換処理後の水溶液のpH測定を行い、この時のpHの値をbとする。
得られたpHの値a及びbからカチオン除去率を求める。この時、当該除去率が70%未満であった場合には、再度陽イオン交換処理を行い、陽イオン交換処理後の水溶液のpHの値bを改めて求める。
水溶液のカチオン除去率が70%以上であった場合には、水溶液を、さらに陰イオン交換体に接触させることにより、前記水溶液中のクラスター酸触媒を陰イオン交換体に吸着させ、水溶液中からクラスター酸触媒を除去する。さらに、陰イオン交換処理後の水溶液のpH測定を行い、この時のpHの値をcとする。
得られたpHの値b及びcから、図4に示したような図を用いてクラスター酸触媒除去率を求める。この時、当該除去率が99.99%未満であった場合には、再度陰イオン交換処理を行い、陰イオン交換処理後の水溶液のpHの値cを改めて求める。
水溶液のクラスター酸触媒除去率が99.99%以上であった場合には、糖水溶液中の水分を蒸発させて糖を得、後の発酵工程に用いる。
クラスター酸触媒除去工程終了後に、水分含有の第二の有機溶媒を用いることにより、当該クラスター酸触媒を吸着した後の陰イオン交換体から当該クラスター酸触媒を分離するクラスター酸触媒分離工程を有することが好ましい。クラスター酸は、陰イオン交換体以上に有機溶媒との親和性が高いため、陰イオン交換体上ではHOが解離したOHとクラスター酸のアニオンがイオン交換し、Hとクラスター酸アニオン、すなわちクラスター酸として有機溶媒へ溶解する。このように、水分含有の第二の有機溶媒によって陰イオン交換体から当該クラスター酸触媒を溶出させることにより、簡便にクラスター酸触媒を分離することができ、クラスター酸触媒の再利用率をさらに高めることができ、また、陰イオン交換体の吸着力も一定以上に維持することができる。
上記第二の有機溶媒として、具体的には、例えば、エタノール、メタノール、n−プロパノール等のアルコール類が挙げられる。アルコール類は好適に用いることができ、中でもエタノールが好適である。エタノールは、クラスター酸触媒の溶解性が非常に高いため最適な溶媒の一つである。
このように、クラスター酸触媒分離工程において、クラスター酸触媒と親和性の高いアルコール類を用いることによって、容易に陰イオン交換体から前記クラスター酸触媒を分離することができる。
図7は、本発明のクラスター酸触媒分離工程の典型例を示したものである。
まず初めに、クラスター酸触媒を吸着した後の陰イオン交換体に、上述した第二の有機溶媒を加えて攪拌する。第二の有機溶媒の量は、固体分0.5kgに対し、100〜300mLであるのが好ましく、温度は20〜30℃、攪拌時間は20〜30分であるのが好ましい。
次に、ろ過、デカンテーション等によって、溶液中から陰イオン交換体を除く。残ったクラスター酸触媒溶液を、減圧乾固することによってクラスター酸触媒を得ることができる。このとき、上述した固液分離工程(図3)にて得られたクラスター酸触媒溶液を合わせて乾固してもよい。減圧乾固の条件は、用いた溶媒の沸点にもよるが、アルコール類を用いた場合には、温度は45〜50℃、200〜300mmHgの減圧度で十分に溶媒を除くことができる。
クラスター酸触媒分離工程において得られたクラスター酸触媒を、加水分解工程において再利用することが好ましい。これは、加水分解工程ごとに新たに加えるクラスター酸触媒の量を低減することができ、糖化分離工程全体のコストの低下を達成することができるからである。
図8は、クラスター酸触媒の再利用を行う際の、クラスター酸触媒の循環の典型例を示した図である。
本発明の糖化分離方法は、大別すると、加水分解工程(すなわち、糖化工程)、及び分離工程の2段階に分かれる。この内、分離工程において得られるクラスター酸触媒を回収することによって、加水分解工程において再利用することができる。
分離工程は、固液分離工程、クラスター酸触媒除去工程の少なくとも2段階に分かれており、場合によってはこれらにクラスター酸触媒分離工程を加えた3段階に分かれている。この内、固液分離工程及びクラスター酸触媒分離工程からクラスター酸触媒を回収することができる。なお上述したように、クラスター酸触媒除去工程においては、クラスター酸触媒は陰イオン交換体に吸着されたままの状態であり、そのままでは加水分解工程に用いることができない。
本発明によれば、陰イオン交換体を用いて水溶液中からクラスター酸触媒を除去することができることから、陰イオン交換体からクラスター酸触媒をさらに回収することによって、クラスター酸触媒の再利用率を高めることができる。また、本発明によれば、糖中へのクラスター酸触媒の残留量を極力減らすことができるので、純度の高い糖を得ることができる。
1.植物系繊維材料の糖化分離
以下に示す実施例及び比較例の方法で、植物系繊維材料の糖化分離を行い、クラスター酸触媒の糖水溶液中における含有率を比較する。
なお、クラスター酸は、ICP(Inductively Coupled Plasma)により同定、定量を行った。
[実施例]
密閉容器内に、予め蒸留水を入れ、予定の反応温度(70℃)まで昇温し、容器内を飽和蒸気圧状態とし、容器内面に水蒸気を付着させた。
次に、図2に示すように、上記にて得られたクラスター化促進処理ヘテロポリ酸(予め結晶水量を測定済み)1kg、ヘテロポリ酸の結晶水量を100%にするために必要な水分とセルロースが加水分解してグルコースになるのに必要な水分(55.6g)との合計量からの不足分(上記70℃での飽和蒸気圧分の水分は除く)の蒸留水(35g)を容器に投入し、加熱攪拌し、容器内温度が70℃になってから、さらに5分間攪拌を続けた。
続いて、容器内に植物系繊維材料として杉粉砕品0.5kgを投入し、70℃で2時間攪拌を続けた。その後、加熱を停止し、容器の密閉を開放し余分な水蒸気を排出させながら、室温まで冷却した。
固液分離工程においては、図3に示すように、混合物に500mlの2回洗浄に使用したエタノールを添加して30分間攪拌した後、ろ過し、ろ液1及びろ過物1を得た。ろ液1(ヘテロポリ酸エタノール溶液)は回収した。回収したろ液1は減圧乾固することによって、ヘテロポリ酸を得た。一方、ろ過物1には、さらに、500mlの1回洗浄に使用したエタノールを添加し、30分間攪拌した後、ろ過し、ろ液2及びろ過物2を得た。ろ過物2に、500mlの新品のエタノールを添加し、30分間攪拌した後、ろ過し、ろ液3及びろ過物3を得た。
その後、得られたろ過物3に対して、図5に示すクラスター酸触媒除去工程に従って、糖からヘテロポリ酸を除去した。まず、得られた固体分500gに蒸留水を300mL添加した後、ろ過し、残渣と水溶液とにろ別した。次に、水溶液のpHを測定したところ、3.50であった。その後、水溶液を陰イオン交換体の一種であるダイヤイオンWA30(スチレン樹脂系ジメチルアミン型(三菱化学製))に接触させることにより、イオン交換を行った。さらに、イオン交換後のpHを測定したところ、4.25であった。ここで、図4を用いてクラスター酸触媒除去率を算出したところ、99%であることが分かった。また、イオン交換後の糖水溶液中のヘテロポリ酸の量は、ICPにより、加水分解に用いた量の0.003%であることが分かり、したがって、残りの99.997%のヘテロポリ酸を糖と分離し、回収できたことが分かった。
[比較例]
植物系繊維材料として杉の粉砕物を用い、実施例同様に固液分離工程まで行った。得られた固体分(ろ過物3)500gに蒸留水を300mL添加した後、ろ過し、残渣と水溶液とにろ別した。当該水溶液中のヘテロポリ酸の量は、ICPにより、加水分解に用いた量の0.03%であることが分かり、したがって、残りの99.97%のヘテロポリ酸を糖と分離し、回収できたことが分かった。
2.実施例の効果
本実施例より、陰イオン交換体を用いて、糖を含む水溶液中から、クラスター酸触媒の一種であるヘテロポリ酸を除去することにより、ヘテロポリ酸の回収率を99.97%から99.997%以上へ向上させることができることが分かった。
クラスター酸触媒の一種である、ヘテロポリ酸(リンタングステン酸)のケギン構造を示す図である。 本発明の加水分解工程の一例を示した図である。 本発明の固液分離工程の典型例を示した図である。 クラスター酸触媒の一種であるヘテロポリ酸の、水溶液中における濃度(横軸)と、水溶液のpH(縦軸)との関係を示したグラフの一例である。 本発明のクラスター酸触媒除去工程の典型例を示したものであり、ハードバイオマスを材料とした場合を示す図である。 本発明のクラスター酸触媒除去工程の第二の典型例を示したものであり、ソフトバイオマスを材料とした場合を示す図である。 本発明のクラスター酸触媒分離工程の典型例を示したものである。 クラスター酸触媒の再利用を行う際の、クラスター酸触媒の循環を示した図である。

Claims (10)

  1. クラスター酸触媒を用いて、植物系繊維材料に含まれるセルロースを加水分解し、グルコースを主とする糖を生成させる加水分解工程と、
    少なくとも、前記加水分解工程において生成した糖、及び前記クラスター酸触媒を含む混合物と、糖に対しては貧溶媒であり前記クラスター酸触媒に対しては良溶媒である第一の有機溶媒を混合する過程を経て、クラスター酸触媒を含む有機溶媒溶液分と、糖及びクラスター酸触媒の残留分を含む固体分とに分離する固液分離工程と、
    前記固液分離工程において得られた前記固体分を水と混合して得られた水溶液を、陰イオン交換体に接触させることにより、前記水溶液中に存在するクラスター酸触媒の残留分を前記陰イオン交換体に吸着させ、前記水溶液中からクラスター酸触媒を除去するクラスター酸触媒除去工程を有し、
    前記クラスター酸触媒除去工程前後において、前記水溶液のpHをそれぞれ測定し、当該一組のpHの値から、前記クラスター酸触媒除去工程におけるクラスター酸触媒除去率を算出することを特徴とする、植物系繊維材料の糖化分離方法。
  2. 前記クラスター酸触媒除去工程終了後に、水分含有の第二の有機溶媒を用いることにより、前記クラスター酸触媒を吸着した後の前記陰イオン交換体から当該クラスター酸触媒を分離するクラスター酸触媒分離工程を有する、請求項1に記載の糖化分離方法。
  3. 前記クラスター酸触媒分離工程において得られたクラスター酸触媒を、前記加水分解工程において再利用する、請求項2に記載の糖化分離方法。
  4. 前記植物系繊維材料としてソフトバイオマスを用い、
    前記固液分離工程後、前記クラスター酸触媒除去工程前に、前記固液分離工程において得られた前記固体分を水と混合して得られた水溶液を、陽イオン交換体に接触させることにより、前記水溶液中に存在するカチオンを前記陽イオン交換体に吸着させ、前記水溶液中からカチオンを除去するカチオン除去工程を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の糖化分離方法。
  5. 前記カチオン除去工程前後において、前記水溶液のpHをそれぞれ測定し、当該一組のpHの値から、前記カチオン除去工程におけるカチオン除去率を算出する、請求項4に記載の糖化分離方法。
  6. 前記加水分解工程を、常圧〜1MPaの条件下、140℃以下で行う、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の糖化分離方法。
  7. 前記クラスター酸触媒がヘテロポリ酸である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の糖化分離方法。
  8. 前記固液分離工程において、前記第一の有機溶媒に対する前記糖の溶解度が1g/100ml以下である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の糖化分離方法。
  9. 前記固液分離工程において、前記第一の有機溶媒としてエーテル類及びアルコール類から選ばれる少なくとも一種を用いる、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の糖化分離方法。
  10. 前記クラスター酸触媒分離工程において、前記第二の有機溶媒としてアルコール類を用いる、請求項2乃至9のいずれか一項に記載の糖化分離方法。
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