JP5024296B2 - 鋼の連続鋳造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、浸漬ノズルなどの溶鋼経路の閉塞を防止する連続鋳造方法に関する。さらに詳しくは、溶鋼経路の内面と経路内部を通過する溶鋼との間に通電することにより、溶鋼経路の内面への非金属介在物の付着量を低減し、溶鋼経路の閉塞を防止する鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、タンディッシュから浸漬ノズルに至る溶鋼経路の内面への、アルミナ(Al2O3)などに代表される非金属介在物の付着による溶鋼経路の閉塞防止は重要な課題である。従来、溶鋼経路の閉塞防止を目的として多くの対策が検討されてきた。従来の溶鋼経路の閉塞防止対策には、例えば、溶鋼経路を構成する材料の材質およびそれらの形状の改善、付着物のガス吹き込みによる付着防止、ならびに電気化学的手段の適用などによる閉塞防止についてのアプローチがある。
【0003】
溶鋼経路構成材料面からのアプローチとしては、低級酸化物であるSiO2や、COガス源となるカーボンを含有しない耐火物を経路の内面に配して、耐火物と溶鋼との反応を抑制することにより反応生成物であるAl2O3の生成およびその付着を抑制する技術が知られている。また、Al2O3と反応して融点を降下させるCaO含有耐火物を溶鋼経路の内面に配して、Al2O3を洗い流す方法が知られている。
【0004】
これらの材質面での改善は、その効果が限定的であるか、あるいは、洗い流された粗大な介在物が溶鋼中に巻き込まれて鋳片に取り込まれるという問題を有していた。
【0005】
また、形状改善の面からのアプローチとしては、特開平05−318057号公報、特開平11−123509号公報または特開2001−129645号公報に開示されているように、ノズル内における溶鋼の流動の淀みを防止することにより非金属介在物の付着を抑制する技術が公知である。例えば、特開平05−318057号公報および特開2001−129645号公報には、連続鋳造用浸漬ノズルの内部の流路断面積と吐出孔断面積との比が一定の範囲内である浸漬ノズルが開示されている。また、特開平11−123509号公報には、ノズルの内孔部に一段あるいは複数の段差構造を有する連続鋳造用浸漬ノズルが開示されている。
【0006】
これらの形状の改善は、溶鋼の流量や不活性ガスの吹き込み量が特定の条件を満たす場合にしか効果を発揮しないことが多く、幅広い鋳造条件下において介在物の付着を防止することは困難であった。
【0007】
ノズル内へのガスの吹き込み方法として、特開平04−319055号公報に開示されているように、タンディッシュのストッパー、スライディングノズル、浸漬ノズルなどから、不活性ガスや還元性ガスを吹き込む方法が知られている。
【0008】
これらのガス吹き込み技術は、吹き込み量の増大に伴い、鋳片にピンホールとして取り込まれる気泡の量もまた増大し、それに起因して鋳片の品質悪化を招くという問題を有する。
【0009】
電気化学的な面からの対策としては、特開2001−170742号公報および特開2001−170761号公報に開示されているように、溶融金属と接する冶金容器や流路の内面を酸素イオン伝導体である固体電解質により構成し、溶融金属との間に直流電流を印加することにより介在物の付着を防止する技術が公知である。また、本発明者らが例えば、特開2003−200242号公報および特開2005−66689号公報において提案したように、溶鋼と接触する内面の少なくとも一部をグラファイトが主成分の1つである耐火物により構成し、溶鋼との間に電圧を印加して通電することにより、介在物の付着を防止する連続鋳造方法が知られている。
【0010】
これらの電気化学的な面からの改善技術は、介在物の付着防止に優れた効果を発揮するが、これらの技術のうちで固体電解質を用いる方法は、固体電解質が高価であったり、また、固体電解質が耐熱衝撃性に劣るといった問題を有するため、連続鋳造プロセスに広く適用することが困難であった。
【発明の開示】
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、タンディッシュから浸漬ノズルに至る溶鋼経路の閉塞を防止する連続鋳造方法を提供することにある。本発明は、特に、前記の電気化学的改善により介在物の付着を防止する鋳造方法のうち、一般に広く用いられるアルミナグラファイトなどのカーボン含有耐火物を溶鋼経路に用いた鋳造方法において適用される。本発明の目的は、印加電圧または電流の波形を適正化することにより、優れた介在物の付着防止効果を発揮する鋼の連続鋳造方法を提供することにある。
[0012]
本発明者は、前記の特開2003−200242号公報や特開2005−66689号公報に記載の鋳造方法のように、溶鋼と溶鋼経路を構成する耐火物内壁面との間に通電することにより溶鋼経路の内面への介在物の付着を防止する鋳造方法に関して、さらに研究開発を進めた。その結果、以下の(a)〜(d)に示す知見または仮説を得た。
[0013]
(a)溶鋼経路を構成する耐火物を陰極として通電することにより、耐火物の溶損反応の一過程であるCOガス発生反応を防止することができる。その結果、この通電方法は、COガスが酸素源となって溶鋼中のAlが酸化され、Al2O3が生成する反応を防止できるというメリットを有する。
[0014]
(b)しかしながら、耐火物を陰極にして通電することにより、酸素イオンの溶出が同時に進行し、これが酸素源となって溶鋼中のAlが酸化され、Al2O3が生成するというディメリットがある。
[0015]
(c)上記のメリットとディメリットとが共存する結果、耐火物を単に陰極として通電するだけでは効果に限界がある。例えば、電圧あるいは電流の増大につれ、ディメリットの占める比率が相対的に増大し、かえって介在物の付着が促進されるという現象が生じる。
[0016]
(d)通電時の耐火物の極性(すなわち、耐火物が陰極となるか、または陽極となるか)にかかわらず、電圧あるいは電流を増大させると、界面におけるイオンや電子の移動によって耐火物と溶鋼との濡れ性が良好となる。その結果、介在物が溶鋼中からの排斥力によって耐火物側に押し出される作用が低減し、介在物が耐火物の内壁面に接触する頻度が低下するので、耐火物への介在物の付着が抑制される。
[0017]
本発明者らは、試験および考察を重ねることにより、上記(a)に示されたメリットと(d)に示された効果とを最大限に享受しつつ、(b)に示されたディメリットを抑制する方法を明らかにする過程において、本発明を成すに至った。
[0018]
本発明は、上記の知見および仮説に基づいて成されたものであり、その要旨は、下記の請求項1および請求項4〜6に係る鋼の連続鋳造方法にある。
[0019]
請求項1に係る発明:タンディッシュの上ノズルからスライディングゲートを経て浸漬ノズルに至る溶鋼経路を有し、その全体または一部が一方の電極を構成し、かつ上記溶鋼経路の内面と溶鋼経路の内部を通過する溶鋼との間に電位差を与えて通電する、鋼の連続鋳造方法において、タンディッシュ内の上記一方の電極を構成する耐火物を除く他の部位に対極を設けて、上記溶鋼経路との間に通電回路を構成し、上記溶鋼経路の極性と対極の極性とが1〜100ms(ミリセカンド)の周期で陰/陽繰り返して入れ替わり、その極性の変化に際して、概略0Vの電圧を印可する時間が存在せず、かつ上記溶鋼経路が陰極であり対極が陽極である時間が、対極が陰極であり上記溶鋼経路が陽極である時間よりも長いか、または/および上記溶鋼経路が陰極であり対極が陽極である期間の平均電位差が、対極が陰極であり上記溶鋼経路が陽極である期間の平均電位差よりも大きいことにより、平均電流または平均電圧により定義される上記溶鋼経路の極性が陰極となり、対極が陽極となるように通電することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
[0020]
請求項4に係る発明:実効電流が平均電流の絶対値の3倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
請求項5に係る発明:平均電流密度が3〜200A/m2であることを特徴とする請求項1または4に記載の鋼の連続鋳造方法。
[0021]
請求項6に係る発明:前記一方の電極の極性と対極の極性とがパルス状の急峻な波形で変化して入れ替わることを特徴とする請求項1、4または5のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法。
[0022]
本発明において、「平均電位差」とは、電位差の瞬時値の絶対値を対象期間について時間平均した値を意味する。
[0023]
「溶鋼経路が陰極であり対極が陽極である期間の平均電位差が、対極が陰極であり溶鋼経路が陽極である期間の平均電位差よりも大きい」とは、溶鋼経路が陰極であり対極が陽極である期間についての電位差の瞬時値の絶対値を当該期間について時間平均した値が、対極が陰極であり溶鋼経路が陽極である期間についての電位差の瞬時値の絶対値を当該期間について時間平均した値よりも大きいことを意味する。このことは、例えば電圧波形が正弦波の場合には、「溶鋼経路が陰極であり対極が陽極である時間が、対極が陰極であり上記溶鋼経路が陽極である時間よりも長いこと」と同義である。しかし、電圧波形がパルス波、矩形波などの場合には必ずしも同義とはならないことから、「溶鋼経路が陰極であり対極が陽極である時間が、対極が陰極であり上記溶鋼経路が陽極である時間よりも長いこと」は、独立の要件として規定した。
【0024】
また、「平均電流または平均電圧」とは、電流または電圧の瞬時値を対象期間について時間平均した値を意味し、そして、「平均電流密度」とは、電流密度の瞬時値の絶対値を対象期間について時間平均した値を意味する。
【0025】
本発明の連続鋳造方法は、タンディッシュの上ノズルからスライディングゲートを経て浸漬ノズルに至る溶鋼経路の内面とその内部を通過する溶鋼との間に、極性が周期的に入れ替わり、かつ、溶鋼経路が陰極である時間が陽極である時間よりも長いか、または/および平均電流または平均電圧により定義される溶鋼経路の極性が陰極となるように電流または電圧の波形を制御して通電するので、Al2O3の生成を防止しつつ、通電による濡れ性の変化を有効活用して、介在物の付着を抑制することができる。したがって、本発明の方法は、従来の通電しながら鋳造する連続鋳造方法に比して、さらに一層優れた介在物の付着防止効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1は、本発明の連続鋳造方法を実施するために用いる装置構成の一例を模式的に示す図である。
図2は、本発明で印加する電流および電圧波形の例を示す図であり、同図(a)は電流波形を、同図(b)は電圧波形を示す。
図3は、本発明で印加する別の電流および電圧波形の例を示す図であり、同図(a)は電流波形を、同図(b)は電圧波形を示す。
図4は、本発明の対象外となる印加電流および電圧波形の例を示す図であり、同図(a)は電流波形を、同図(b)は電圧波形を示す。
図5は、本発明の対象外となる別の印加電流および電圧波形の例を示す図であり、同図(a)は電流波形を、同図(b)は電圧波形を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、前記のとおり、タンディッシュの上ノズルから浸漬ノズルに至る溶鋼経路の全体または一部が一方の電極を成し、かつ上記溶鋼経路の内面とその内部を通過する溶鋼との間に電位差を与えて通電する鋼の連続鋳造方法において、上記一方の電極を構成する耐火物を除く他の部位に対極を設けて、上記溶鋼経路との間に通電回路を構成し、上記溶鋼経路の極性と対極の極性とが1〜100msの周期で入れ替わり、その極性の変化に際して、概略0Vの電圧を印加する時間が存在せず、かつ平均電流または平均電圧により定義される上記溶鋼経路の極性が陰極となり、対極が陽極となるように通電する鋼の連続鋳造方法である。
[0028]
図1は、本発明の連続鋳造方法を実施するために用いる装置構成の一例を模式的に示す図である。図示を省略した取鍋からタンディッシュ1に供給された溶鋼2は、上ノズル3を通過してスライディングゲート4によりその流量を制御された後、浸漬ノズル5を介して、ノズル吐出孔6から鋳型7内に注入される。溶鋼2は、鋳型7からの抜熱作用により鋳型との接触部から凝固殻8を形成し、下方に引き抜かれて鋳片9となる。なお、同図中の符号10はモールドパウダーを示す。
[0029]
本発明の方法においては、タンディッシュの上ノズル3からスライディングゲート4を経て浸漬ノズル5に至る溶鋼経路の全体または一部を一方の電極とし、タンディッシュ1内の上ノズル3からスライディングゲート4を除く他の部位に対極を設ける。同図では、浸漬ノズル5に一方の電極11を設置し、タンディッシュ1の上部から絶縁体で構成される電極支持部材15を介して対極12を溶鋼2に浸漬するように設置した例を示した。電源部13から供給された電気は、電圧電流制御部14にて所望の電圧および電流波形に制御され、電気配線16を通して各電極に通電される。
[0030]
以下に、本発明を前記のように規定した理由および好ましい態様について説明する。
[0031]
(1)請求項1に係る発明
請求項1に係る発明は、上記のとおり、タンディッシュの上ノズルから浸漬ノズルに至る溶鋼経路の内面と、溶鋼経路の内部を通過する溶鋼との間に、極性が1〜100msの周期で入れ替わり、その極性の変化に際して、概略0Vの電圧を印加する時間が存在せず、かつ平均電流または平均電圧により定義される溶鋼経路の極性が陰極となるように電流または電圧波形を制御して通電する鋼の連続鋳造方法である。
[0032]
請求項1に係る発明において、溶鋼経路の極性と対極の極性との入れ替わりについて、さらに下記に説明を加える。
[0033]
前述の(a)のメリット、すなわち、「耐火物を陰極にして通電することにより、耐火物の溶損反応の一過程であるCOガス発生反応を防止し、溶鋼中のAlの酸化によるAl2O3の生成を防止できる」というメリットを得るために必要とされる電圧あるいは電流は、比較的小さな値である。また、電圧あるいは電流を小さな値にとどめることは、前述の(b)のディメリットを最小限に抑制するためにも効果的である。
[0034]
一方、前述の(d)に示した効果を得るためには極力高い電圧あるいは電流を印加する必要がある。
[0035]
そこで、高い実効電圧または実効電流を印加しつつ、平均電圧または平均電流を低位に抑制する方法として、極性が周期的に陰/陽繰り返して入れ替わりつつ、平均電圧または平均電流により極性を定義したときに、溶鋼経路の極性が陰極となる通電方法を見出した。すなわち、前記のとおり、溶鋼経路が陰極となる時間が長くなる波形を用いるか、または/および溶鋼経路が陰極となる期間における平均電位差が大きくなる波形を採用することにより、溶鋼経路の極性を陰極とすることが可能となった。
[0036]
ここで、溶鋼経路の極性と対極の極性との入れ替わり周期の適正範囲は、1〜100msである。この周期が1ms未満では、前記(d)にて述べた界面におけるイオンや電子などの移動が十分に生じず、したがって介在物の付着抑制効果が十分に認められない。一方、極性の入れ替わり周期が100msを超えて長くなると、前記(b)にて述べた酸素イオンの溶出に起因して、介在物の付着抑制効果が低減する。なお、上記極性の入れ替わり周期のより好ましい範囲は3〜50msである。
[0037]
(2)請求項4に係る発明および請求項5に係る発明
請求項4に係る発明は、実効電流が平均電流の絶対値の3倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法である。実効電流が平均電流の絶対値の3倍以上であることが好ましい理由は、本発明の効果は、実効電流の値が平均電流の絶対値に比して大きいほど増大するからである。
請求項5に係る発明は、平均電流密度が3〜200A/m2であることを特徴とする前記請求項1または4に記載の鋼の連続鋳造方法である。平均電流密度が3〜200A/m2であることが好ましい理由は下記のとおりである。
[0038]
平均電流密度が3A/m2未満であることは、前述の(a)のメリットであるCOガス発生反応の抑制効果を減じるので、好ましくない。また、平均電流密度が200A/m2を超えて高くなると、前記(b)にて述べた酸素イオンの溶出が原因となって、介在物の付着抑制効果が低下する。平均電流密度のさらに一層好ましい範囲は5A/m2以上100A/m2未満である。
[0039]
(3)請求項6に係る発明
請求項6に係る発明は、一方の電極の極性と対極の極性とがパルス状の急峻な波形で変化して入れ替わることを特徴とする前記請求項1、4または5のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法である。請求項6に係る発明において、タンディッシュの上ノズルから浸漬ノズルに至る溶鋼経路の極性と対極の極性とが、パルス状の急峻な波形により変化して入れ替わることが好ましい理由は、下記のとおりである。
[0040]
溶鋼経路の極性が、陽極から陰極に変化する際には、耐火物中あるいは耐火物表面にある酸化防止剤などから成るスラグ層中において、自由電子や陽イオンあるいは酸素イオンなどの電荷キャリアが移動し始める。このとき、電圧あるいは電流が急峻な波形で変化すると、イオン半径が大きく移動しにくい酸素イオンよりも他の電荷キャリアが優先的に移動するので、酸素イオンの溶鋼側への移動を抑制することができる。溶鋼経路の極性が陰極から陽極に変化するときには、急峻な波形による変化は特に必要ではないが、極性変化の方向によって波形を選択的に変えることは難しいので、両方向で急峻なパルス状の波形による電圧あるいは電流の変化を採用することが現実的である。
[0041]
本発明は、電圧あるいは電流を周期的に変化させる点において、本発明者らが先に特開2005−66689号公報にて提案した方法に類似する。しかし、本発明では、その作用を発現させるために、電圧の波形において概略0Vの電圧印加時間を設ける必要はない。同様に本発明による作用を発現させるために、電極間の電気的解放時間または電極間の電気的短絡時間を設ける必要もない。それらの点において、本発明は、本発明者らが先に特開2005−66689号公報にて提案した方法とは相違する。
[0042]
また、本発明の基本的思想の第1は、実効電流あるいは実効電圧を高めて、界面におけるイオンなどの移動の効果を最大限に活用することである。また、その第2は、平均電流または平均電圧により極性を定義したとき、溶鋼経路の極性を陰極とし、かつ平均電流あるいは平均電圧を、前述(a)のメリットを得て前述(b)のディメリットを抑制するように制御することであり、そして第3は、上記の結果、実効電流を平均電流の3倍以上または5倍以上に高める点である。なお、本明細書の記述において、「実効電流」あるいは「実効電圧」とは、電流あるいは電圧の瞬時値の2乗を1周期について時間平均した値の平方根を意味する。
【0043】
すなわち、本発明は、上記の第1〜第3の基本的思想を同時に実現できる鋳造方法であることにおいて、従来のいかなる技術とも本質的に相違する。
【0044】
本発明の効果は、実効電流が高いほど増すと期待される。しかしながら、実効電流が過大となると通電用ケーブルが太くなりすぎて取り扱いが難しくなる。それ故、現実的な実効電流の上限値は300A程度である。また、実効電流密度が小さすぎると本発明の効果が損なわれるので、少なくとも100A/m2以上、より好ましくは200A/m2以上の実効電流密度であることが求められる。なお、本発明においては、実効電流密度は平均電流密度に比べて高くなる。
【0045】
(実施例)
本発明の鋼の連続鋳造方法の効果を確認するため、以下に示す試験を行い、その結果を評価した。
【0046】
(1)介在物の付着防止効果におよぼす印加電流および電圧波形の影響
図2は、本発明で印加する電流および電圧の例を示す図であり、同図(a)は電流波形を、同図(b)は電圧波形を示す。同図は、周波数が50Hz、すなわち通電周期が20msで、電流の最大値が+50A、かつ最小値が−50Aの正弦波形の交流を、溶鋼経路の極性が陰極となるように、負側に20Aシフトさせて、前記図1に示す連続鋳造装置に通電した例であり、本発明の第1発明で規定する条件を満足する電流および電圧波形である。なお、上記連続鋳造装置の通電回路の電気抵抗は、0.1Ωであった。
【0047】
図2の例では、平均電流は−20Aであり、溶鋼経路の極性が陰極であることを示している。電流波形の負側の電流ピーク値は−70Aであり、正側の電流ピーク値は+30Aである。また、電圧波形の負側の電圧ピーク値は−7Vであり、正側の電圧ピーク値は+3Vである。そして、負側の平均電流は−43Aであり、正側の平均電流は+20Aであった。また、実効電流は上記の定義から41Aとなる。したがって、実効電流は、平均電流の絶対値の約2倍となった。
【0048】
図3は、本発明で印加する別の電流および電圧波形の例を示す図であり、同図(a)は電流波形を、同図(b)は電圧波形を示す。同図は、パルス状の急峻な波形で極性が入れ替わる矩形波形の交流を、前記図1に示す連続鋳造装置に通電した例であり、請求項1に係る発明、請求項4に係る発明および請求項6に係る発明で規定する条件を満足する電流および電圧波形である。
[0049]
同図の例では、電流波形の負側の電流は−100Aであって、その通電期間は2.2msであり、また、正側の電流は+100Aであって、その通電時間は1.8msである。さらに、電圧波形の負側の電圧は−10Vであり、正側の電圧は+10Vである。これらを合わせた通電周期は4msである。平均電流は−10Aであり、また、実効電流は100Aである。その結果、実効電流は、平均電流の絶対値の10倍となった。
[0050]
図4は、本発明の対象外となる比較例の印加電流および電圧波形を示す図であり、同図(a)は電流波形を、同図(b)は電圧波形を示す。同図の例は、溶鋼経路が陰極となる期間を20msとし、電流を流さない休止期間を20msとして、両者を通電周期40msで繰り返す波形の例である。
[0051]
同図の例では、電流波形の負側の電流は−40Aであり、平均電流は−20Aである。実効電流は20Aであり、平均電流の絶対値と同じ値である。
[0052]
図5は、本発明の対象外となる別の比較例の印加電流および電圧波形を示す図であり、同図(a)は電流波形を、同図(b)は電圧波形を示す。同図の例は、溶鋼経路が陰極となるように、−20Aで一定の負の直流電流を連続的に通電したときの電流および電圧のパターンである。
[0053]
(2)連続鋳造試験による効果の確認
前記図1に示した連続鋳造装置を用いたブルームの連続鋳造に、本発明の連続鋳造方法を適用し、本発明の効果を確認した。
[0054]
連続鋳造試験には、鋳型サイズが0.3m×0.4m、タンディッシュの容量が15トン(t)の垂直曲げ型ブルーム連続鋳造装置を使用し、通電回路に前記図3に示す電圧波形を有する交流を印加した場合、前記図5に示す電圧パターンを有する直流を印加した場合、および、全く通電を行わない場合のそれぞれについて、鋳造後の浸漬ノズル5の内面に付着した非金属介在物の厚さを測定し、比較した。
[0055]
図3および図5に示す電圧波形を有する電力を印加した連続鋳造試験を行うに当たっては、タンディッシュ1の上方から、絶縁体で構成された電極支持部材15を介して、直径100mmおよび長さ800mmのアルミナグラファイト製の対極12を、溶鋼2に浸漬するように吊り下げた。対極12を構成するアルミナグラファイトは、グラファイト含有率が33質量%であって、導電性を有する。浸漬ノズル5は、本体がアルミナグラファイト製であり、スラグラインの外周部がジルコニアグラファイト製であって、本体のアルミナグラファイトはグラファイト含有率が28質量%であり、導電性を有する。浸漬ノズル5の通電部位の面積は0.25m2であったので、図3に示す交流を印加する鋳造試験では、平均電流密度は、10A/0.25m2=40A/m2となり、請求項5に係る発明で規定する条件を満足した。
[0056]
ブルームの連続鋳造試験には、鋼成分組成が質量%で、C:0.07〜0.5%、Si:0.02〜0.5%、Mn:0.5〜1.5%、P:0.01〜0.03%、S:0.01〜0.08%、Al:0.02〜0.05%のAlキルドまたはSi−Alキルドの普通鋼の溶鋼を使用した。鋳造速度は、0.6〜0.7m/minとし、鋳造時の溶鋼過熱度(液相線温度から溶鋼温度を差し引いた温度差)は20〜45℃とした。
[0057]
上記の条件にて浸漬ノズル1本当たり約80tの溶鋼を連続鋳造した後、浸漬ノズル5の内面に付着したアルミナ主体の非金属介在物の厚さを下記の方法により測定した。
[0058]
鋳造終了後の浸漬ノズルを鋳造中の鋳型内湯面高さに相当する位置で、浸漬ノズルの中心軸に垂直な方向に切断し、その切断面(横断面)における介在物の付着厚さを円周方向の4箇所で測定し、それらの平均値を求めて非金属介在物の付着厚さとした。これらの介在物は白色のアルミナが主体であり、その内部には地鉄を含有していた。
[0059]
表1に、印加した電流電圧条件および非金属介在物の厚さの測定結果を示した。
[0060]
[表1]
[0061]
同表では、非金属介在物の付着厚さは、浸漬ノズル内に通電しない試験番号3の場合の非金属介在物の付着厚さを基準(10)として、相対厚さにより示した。
[0062]
請求項1に係る発明、請求項4に係る発明、請求項5に係る発明および請求項6に係る発明で規定するいずれの条件をも満足する図3に示した電流および電圧波形を有する交流を印加しながら鋳造を行った本発明例の試験番号1では、非金属介在物の相対付着厚さは5.5に低減した。
[0063]
これに対して、本発明で規定する条件を満たさない図5に示した直流を印加した比較例の試験番号2では、非金属介在物の相対付着厚さは7.5であり、通電しない試験番号3の場合に比べれば付着厚さは低減しているものの、介在物の付着防止効果は、満足できるものではなかった。
産業上の利用可能性
[0064]
本発明の連続鋳造方法によれば、タンディッシュの上ノズルからスライディングゲートを経て浸漬ノズルに至る溶鋼経路の内面とその内部を通過する溶鋼との間に、極性が1〜100msの周期で入れ替わり、かつ平均電流または平均電圧により定義される溶鋼経路の極性が陰極となるように電流または電圧を制御して通電するので、アルミナを主体とする付着物の生成を防止しつつ、通電による耐火物と溶鋼との濡れ性の変化を有効活用して介在物の付着を抑制することができる。
[0065]
したがって、本発明の方法は、従来の通電しながら鋳造する連続鋳造方法に比して、さらに一層優れた介在物の付着防止効果を発揮し、安定操業のもとに高品質の鋳片を製造可能な連続鋳造方法として広範に適用できる。
Claims (4)
- タンディッシュの上ノズルからスライディングゲートを経て浸漬ノズルに至る溶鋼経路を有し、その全体または一部が一方の電極を構成し、上記溶鋼経路の内面と溶鋼経路の内部を通過する溶鋼との間に電位差を与えて通電する鋼の連続鋳造方法において、
タンディッシュ内において、上記一方の電極を構成する耐火物を除く他の部位に対極を設けて、上記溶鋼経路との間に通電回路を構成し、
上記溶鋼経路の極性と対極の極性とが1〜100ms(ミリセカンド)の周期で陰/陽繰り返して入れ替わり、
その極性の変化に際して、概略0Vの電圧を印加する時間が存在せず、
かつ上記溶鋼経路が陰極であり対極が陽極である時間が、対極が陰極であり上記溶鋼経路が陽極である時間よりも長いか、
または/および上記溶鋼経路が陰極であり対極が陽極である期間の平均電位差が、対極が陰極であり上記溶鋼経路が陽極である期間の平均電位差よりも大きいことにより、
平均電流または平均電圧により定義される前記溶鋼経路の極性が陰極となり、対極が陽極となるように通電することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。 - 実効電流が平均電流の絶対値の3倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
- 平均電流密度が3〜200A/m2であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼の連続鋳造方法。
- 前記一方の電極の極性と対極の極性とがパルス状の急峻な波形で変化して入れ替わることを特徴とする請求項1、2または3のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法。
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