JP5023785B2 - 繊維強化プラスチック - Google Patents

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本発明は、強化繊維束に樹脂を含浸した繊維強化プラスチックに係り、該繊維強化プラスチックの表面がより平滑化された繊維強化プラスチックに関する。
従来から、強化繊維とマトリクス樹脂(樹脂)からなる繊維強化プラスチック(FRP)は、金属材に比べて軽量であり、かつ、強化繊維を含まないプラスチックに比べて機械的強度及び弾性率が高い。このような特性を有することから、繊維強化プラスチックは、航空機、自動車、鉄道車両、船舶などの多くの分野で利用されている。
このような繊維強化プラスチックは、例えば、RTM(レジントランスファーモールディング)法により製造されている。該製造方法では、平滑な成形面を有した成形型のキャビティ内に、例えば強化繊維束からなる強化繊維織物を配置し、キャビティ内に加熱した樹脂を注入し強化繊維織物に含浸させ、含浸後の加熱した樹脂を冷却し、その後脱型することにより、繊維強化プラスチックを製造している。
しかし、強化繊維の熱膨張係数は樹脂よりも小さいため、冷却時の熱収縮は、繊維強化プラスチックのうち樹脂含有率の高い部分に大きい。特に、図4に示すように、強化繊維束71が強化繊維織物である場合には、織目の格子領域などの強化繊維束71間の空間73は、強化繊維の割合が低く、樹脂60の含有率が高いため熱収縮が他の部分に比べて大きい。この結果として、繊維強化プラスチック70の表面75には、樹脂のひけにより、強化繊維束71の織目又は配列の周期に合わせて規則的な凹み75aが生じることになる。このようなことから、成形型80の繊維強化プラスチック70の表面75aを成形する成形面80aがたとえ平滑であっても、繊維強化プラスチック70の表面75は平滑な表面とはならず、繊維強化プラスチック70の美観を損なうことがあった。このような場合、繊維強化プラスチック70の表面75に塗装を施したとしても、繊維強化プラスチック70の表面の凹凸を平滑にすることは難しい。よって、意匠性を有した繊維強化プラスチック70を得るためには、その凹凸のある表面75を研磨する必要があり、繊維強化プラスチック70の生産性を低下させる要因となっていた。
このような問題を鑑みて、例えば、ゲルコートを用いて繊維強化プラスチックを製造する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。具体的には、該方法では、液状の樹脂組成物(ゲルコート)を、成形型の平滑面に所定の厚さになるよう塗布し硬化させ、樹脂層を形成後、RTM法により繊維強化プラスチックの製造を行う。このようにして、繊維強化プラスチックの表面にゲルコートによる樹脂層を形成することにより、強化繊維束の間において局所的な凹みが抑制され、繊維強化プラスチックの表面は平滑になる。
また、別の方法として、例えば、成形型に強化繊維束からなる強化繊維織物を配置する際に、繊維強化プラスチックの表層に相当する強化繊維織物の表面に、炭酸カルシウム粒子、アルミナ粒子など粉体(いわゆる低収縮化剤)を配置する方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。該方法によれば、強化繊維束間に形成される空間にも前記粉末を配置することができるので、樹脂の樹脂含有率を低減することにより樹脂の収縮を抑え、格子領域の局所的な凹みを抑制することができる。
さらに、別の方法としては、繊維強化プラスチックの表層部に相当する部位に、ガラス繊維、炭素繊維、または有機繊維などの不織布を配置する方法も提案されている。該方法によれば、強化繊維束間に形成される空間にも不織布の一部の繊維が配置されるので、該空間における樹脂の収縮を低減し、繊維強化プラスチックの表面の局所的な凹みを低減することができる。
特開2003−048263号公報 特開2005−336218号公報
しかし、特許文献1に記載のように、ゲルコートにより、繊維強化プラスチックを製造する場合には、ゲルコートの塗布、硬化に通常数十分から数時間を要する。この結果、繊維強化プラスチックの表面を研磨し、表面凹凸を小さくする方法と比較して、成形時間短縮の効果はほとんどないものであり、繊維強化プラスチックの製造コストを含む生産性を改善することはできない。
また、特許文献2に記載のように、粉体を用いて繊維強化プラスチックを製造する方法では、粉体の比重は無機質であるため粉体の比重は3.0以上である。このような粉体は、比重が1.5程度の繊維強化プラスチックよりも大きいため、繊維強化プラスチックの重量が増加してしまい、繊維強化プラスチックが軽量であるという本質的な利点を損なうことになる。
また、前記不織布を用いて繊維強化プラスチックを配置する方法では、強化繊維束間に不織布の強化繊維が入り難く、強化繊維束の並びが複雑(具体的には強化繊維織物の形状が複雑)である場合には、不織布はその形状には沿わない。さらに、有機繊維からなる不織布を用いた場合には、炭素繊維、ガラス繊維に比べて線膨張率が大きく、軟らかいので、樹脂の収縮を充分に抑ええることができない。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、繊維強化プラスチックの生産性及び軽量化の利点を損なうことなく、平滑な表面となる繊維強化プラスチックおよびその製造方法を提供することにある。
前記課題に鑑みて、発明者は、鋭意検討を重ねた結果、表面近傍の強化繊維束間に形成された空間の樹脂の熱収縮を抑制するには、繊維強化プラスチックの厚さ方向(該空間において積層した強化繊維束の面に対して垂直方向)に、強化繊維を配置することが有効であると考えた。そこで、発明者は、成形型の型締め時に、(1)配置した強化繊維が、成形型の表面及び積層された強化繊維束(例えば強化繊維織物)の表面に沿って変形すること(2)強化繊維束間に形成された空間に強化繊維が配置され、この空間内において樹脂の熱収縮に対して変形し難いことの2つの要件を満たすことが重要であり、バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維を用いことにより、前記2つの要件を満たすことができるとの新たな知見を得た。
本発明は、前記新たな知見に基づくものであり、本発明に係る繊維強化プラスチックは、積層した強化繊維束に、樹脂を含浸した繊維強化プラスチックであって、前記繊維強化プラスチックの少なくとも表層部は、バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維に樹脂が含浸されていることを特徴とする。
本発明によれば、繊維強化プラスチックの表層部が、バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維に樹脂が含浸されていることにより、繊維強化プラスチックの表面近傍の強化繊維束間に形成された空間にも、前記強化繊維が配置されることになるので、この空間内の樹脂の熱収縮が低減され、繊維強化プラスチックの表面は平滑となる。
本発明に係る繊維強化プラスチックは、特に、真空バッグ成形法、加圧バッグ成形法、RTM(レジントランスファーモールディング)法、などにより、製造された場合には、強化繊維束間に形成された空間の樹脂が熱収縮し難いので、特に好適である。
すなわち、強化繊維束間に形成された空間に配置された強化繊維は、バネ性を有する形状に屈曲しているので、強化繊維を型内に配置する際(型締め時)に、圧縮変形すると共に、復元力が作用するように前記強化繊維が付勢されることになり、強化繊維は、さらに圧縮変形し難くなる。一方、成形型に接触する強化繊維束近傍に配置された強化繊維は、前記型締め時に、成形型の表面(キャビティを形成する表面)に沿って圧縮変形する。このような変形状態の強化繊維に樹脂が含浸された場合には、繊維強化プラスチックの表層部では、強化繊維束間に形成された空間における樹脂の熱収縮は抑制され、成形型に接触する強化繊維束近傍に配置された強化繊維は、成形型の表面に沿って圧縮変形しているので、平滑な表面を有した繊維強化プラスチックとなりうる。
また、本発明に係る「積層した強化繊維束」とは、繊維を束ねた強化繊維束が積層された強化繊維束をいい、例えば、強化繊維束をランダムに積層したもの、繊維を束ねた強化繊維束を織物状にした強化繊維織物、及び強化繊維織物を積層したものなどを挙げることができ、繊維強化プラスチック内に強化繊維束が均一に分散して配置されていれば特に限定されるものではない。
本発明に係る「バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維」とは、荷重が強化繊維に作用した際に変形し、該荷重が除荷された際に、もとの形状に復元するように付勢可能な形状に屈曲した繊維をいい、波状に屈曲した強化繊維、カール状に屈曲した強化繊維、ループ状に屈曲した強化繊維、コイル状に屈曲した強化繊維などが挙げられ、前記強化繊維は、前記形状に屈曲しているのであれば布状の繊維(不織布繊維)であってもよい。
より好ましくは、本発明に係る繊維強化プラスチックは、前記バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維が、コイル状に屈曲した強化繊維であることがより好ましい。本発明によれば、コイル状に屈曲した強化繊維は、三次元空間の少なくとも異なる三方向において同時に変形可能であるため、強化繊維束間に形成された空間に、前記コイル状に屈曲した強化繊維が配置された場合には、該強化繊維は、強化繊維束が並ぶ面(強化繊維束が強化繊維織物である場合にはその織物が成す面)に対して垂直方向に変形可能となる。この結果、繊維強化プラスチックの表層の厚さ方向にも、強化繊維を配置すること可能となる。このようにして、前記空間における樹脂の熱収縮は低減され、繊維強化プラスチックの表面はより平滑化される。
また、本発明に係る繊維強化プラスチックは、前記強化繊維束が強化繊維織物であり、前記屈曲した強化繊維の曲率半径が、少なくとも15μm以上であることがより好ましい。本発明によれば、一般的な強化繊維織物の強化繊維束間の表面近傍の空間(溝又は格子内の凹み空間)は、強化繊維織物の表面から20〜30μm程度の深さであるので、前記屈曲した強化繊維の曲率半径を、少なくとも15μm以上にすることにより、前記強化繊維を繊維強化プラスチックの表面まで確保することができる。すなわち、前記前記屈曲した強化繊維の曲率半径が、15μmよりも小さい場合には、前記空間に配置された強化繊維を繊維強化プラスチックの表面まで確保し難くなる。また、前記屈曲した強化繊維の曲率半径は、1mm以下であることがより好ましい。すなわち、一般的な強化繊維織物の場合、強化繊維束は2mm間隔に配置されることが一般的であるので、曲率半径が、1mmよりも大きい場合には、前記繊維強化プラスチックの表面近傍の空間内に、強化繊維が配置され難くなる。
なお、前記繊維強化プラスチックを構成する強化繊維束が強化繊維織物である場合には、その織り方としては、平織、綾織、朱子織などの織組織であってもよく、強化繊維を一方向に引き揃えた複数層を隣接する層の繊維軸が30°〜90°程度ずれるように交差積層させた、いわゆる多軸の繊維構造であってもよい。
さらに、本発明に係る繊維強化プラスチックに係る強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、又は高強度ポリエチレン繊維などの繊維を挙げることができ、強化繊維織物などの強化繊維束を構成する強化繊維及びバネ性を有する形状に屈曲した強化繊維は、同じ種類の繊維でなくてもよい。
より好ましくは、本発明に係る繊維強化プラスチックは、前記バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維が、炭素繊維である。本発明によれば、炭素繊維は、他の繊維に比べて弾力性が高い(コイル状にした際にはバネ定数が高く)、型締め時のわずかな変形により復元力が大きくなるので、樹脂の熱収縮により変形し難い。
また、前記炭素繊維としては、石油、石炭ピッチを原料としたピッチ系炭素繊維、ポリアクリルニトリル(PAN)を原料とした有機繊維を焼成し黒鉛化されたPAN系の炭素繊維を挙げることができる。より好ましくは、本発明に係る炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維である。本発明によれば、石炭、石油などのピッチを原料としているため、PAN系の炭素繊維に比べて、紡糸した繊維中の炭素含有量が95%程度と高く、また収率も85%と高く、より高い弾性率を得ることができる。この結果、樹脂の熱収縮に対しても、繊維形状を保持することができる。
また、本発明に係る繊維強化プラスチック係る樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂いずれの樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シアネート樹脂、又はポリイミド樹脂等の樹脂を挙げられることができる。また、熱可塑性樹脂としては、ナイロン系のポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂を挙げることができる。
より好ましくは、本発明に係る繊維強化プラスチックは、前記強化繊維束及び屈曲した強化繊維が炭素繊維である場合には、前記樹脂は、エポキシ樹脂が好ましい。本発明によれば、エポキシ系樹脂と炭素繊維からなる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、他の樹脂と繊維の組み合わせよりも軽量化を図ることができる。さらに、炭素繊維は、他の繊維にくらべて、比強度、比剛性に優れており、エポキシ樹脂とも相性がよいので、高性能な繊維強化プラスチックを得ることができる。
本発明として、前記繊維強化プラスチックの製造方法をも開示する。本発明に係る繊維強化プラスチックの製造方法は、積層した強化繊維束に、樹脂を含浸させた強化繊維プラスチックを製造する方法であって、該製造方法は、成形型内に強化繊維束を配置すると共に、該強化繊維束のうち繊維強化プラスチックの少なくとも表層部を構成する強化繊維束の表面に、バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維を配置する工程と、前記成形型内に加熱した樹脂を流入させることにより、前記強化繊維束及び前記バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維に加熱樹脂を含浸させる工程と、含浸した加熱樹脂を冷却する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
本発明によれば、前記配置工程において、該強化繊維束のうち、樹脂含浸後に繊維強化プラスチックの表層部を構成する強化繊維束の表面に、バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維を配置することにより、成形型に接触する強化繊維束近傍では、型締め時に前記強化繊維は成形型の表面(キャビティを形成する面)に沿って変形する。また、繊維強化プラスチックの表層部に相当する強化繊維織物の繊維束間の空間では、前記強化繊維は圧縮変形すると共に、復元力が作用するように前記強化繊維が付勢されているので、前記空間内の樹脂の熱収縮に対して変形し難い(強化繊維の形状が保持され易い)。この結果、加熱した樹脂を前記強化繊維に含浸させ冷却した場合であっても、強化繊維束間に形成された前記空間における樹脂の熱収縮は抑制され、成形型に接触する強化繊維束近傍に配置された強化繊維は、成形型の表面に沿って圧縮変形するので、平滑な表面を有した繊維強化プラスチックを製造することができる。
また、本発明に係る繊維強化プラスチックの製造方法において、バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維として、コイル状に屈曲した強化繊維を用いることがより好ましく、前記強化繊維束が強化繊維織物であり、前記屈曲した強化繊維の曲率半径が、少なくとも15μm以上の強化繊維を用いることがより好ましい。
さらに、前記バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維として、炭素繊維を用いることが好ましく、該炭素繊維がピッチ系炭素繊維であることがより好ましい。さらに、強化繊維に炭素繊維を用いた場合には、前記樹脂として、エポキシ樹脂を用いることがより好ましい。なお、本発明に係る繊維強化プラスチックの製造方法において、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いた場合には、前記加熱樹脂は未硬化の熱硬化性樹脂であり、前記加熱樹脂を含浸後、冷却工程前に、樹脂の熱硬化が開始する温度以上までさらに前記加熱樹脂を加熱して硬化させることがより好ましい。
本発明によれば、繊繊維強化プラスチックの生産性及び軽量化の利点を損なうことなく、平滑な表面を有し、意匠性に優れた繊維強化プラスチックを得ることができる。
以下、本発明に係る繊維強化プラスチックの一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る繊維強化プラスチックの模式的な断面図であり、図2は、繊維強化プラスチックの表層部に配置されたバネ性を有する形状に屈曲した強化繊維の概略図である。
図1に示すように、本実施形態に係る繊維強化プラスチック10は、炭素繊維からなる強化繊維束21により構成された強化繊維織物20に、樹脂30としてエポキシ樹脂を含浸した繊維強化プラスチックである。強化繊維束21を構成する炭素繊維は、ポリアクリルニトリル(PAN)を焼成したPAN系炭素繊維であり、直径は1〜10μmの範囲にある。強化繊維束21は、前記炭素繊維を3000〜240000本程度の束状にしたものであり、該強化繊維束21を用いて強化繊維織物20は、織り込まれている。図1に示す強化繊維織物20は、強化繊維束を一方向に引き揃えた複数層を隣接する層の繊維軸が90°程度ずれるように交差積層させた、いわゆる多軸の繊維構造の織物であるが、平織、綾織、朱子織などの織組織であってもよい。
さらに、繊維強化プラスチック10の表層部11は、コイル状に屈曲した強化繊維40(バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維)に樹脂30が含浸されている。図2に示すように、コイル状に屈曲した強化繊維40は、強化繊維をらせん状に屈曲させた強化繊維であり、強化繊維に荷重が作用した際に変形し、該荷重が除荷された際に、もとの形状に復元するものである。また強化繊維40は、石油、石炭ピッチを原料としたピッチ系炭素繊維からなる。該ピッチ系炭素繊維は、繊維強化プラスチックの強化繊維として一般的に用いられるPAN系炭素繊維に比べて、弾性率がより高い(変形時の復元力がより大きい)ので、後述する樹脂30の熱収縮に対しても変形し難い。さらに、コイル状に屈曲した強化繊維40の曲率半径は、少なくとも15μm以上である。
前記繊維強化プラスチック10の製造方法を、図3を参照しながら以下に説明する。なお、図3は、図1に示す繊維強化プラスチック10の製造方法を説明するための図であり、(a)は、成形型80内に、強化繊維織物20とバネ性を有する形状に屈曲した強化繊維40を配置する工程を説明するための図であり、(b)は、(a)の成形型80内に配置した強化繊維20,40に加熱した樹脂30を含浸させる工程を説明するための図であり、(c)は、含浸した加熱樹脂30を冷却する工程後、成形型から繊維強化プラスチック10を脱型した図である。
まず、図3(a)に示すように、繊維強化プラスチックを成形するため、上型81及び下型82からなる成形型80を準備する。そして、成形型80の下型82に炭素繊維により構成された強化繊維束21からなる強化繊維織物20と、該強化繊維織物20の表面に(繊維強化プラスチック20の表層部を構成する強化繊維束21の表面に)、コイル状に屈曲した強化繊維40とを配置し、上型81を下型82に押圧して型締めする。
このとき、図3(b)に示すように、表面近傍の強化繊維織物20の強化繊維束21間に形成された空間13に配置された強化繊維40は、バネ性を有する形状に屈曲しているので、型締め時に圧縮変形すると共に、復元力が作用するように付勢され、強化繊維40は後述する樹脂30の熱収縮により、さらに圧縮変形し難くなる。また、コイル状に屈曲した強化繊維40は、三次元空間の少なくとも異なる三方向において同時に変形可能である。このため、強化繊維40は、強化繊維織物20が成す平面に対して垂直方向においても変形可能となり、後述する樹脂の熱収縮に対して繊維強化プラスチックに表層部の厚さ方向においても強化繊維40は変形し難くなる。さらに、強化繊維織物20の強化繊維束間21により形成される凹みの深さ(谷部の深さ)が20〜30μmであるのに対して、コイル状に屈曲した強化繊維40の曲率半径は少なくとも15μm以上であるので、強化繊維40は、強化繊維束21の隙間(谷間)に入り込み、前述した強化繊維束21同士の表面近傍の空間13においても、強化繊維40が確保される。
また、一方、成形型80に接触する強化繊維束21近傍に配置された強化繊維40も、型締め時に、成形型80の表面(キャビティを形成する表面)に沿って空間13内の強化繊維40よりも大きく圧縮変形する。
そして、このような変形状態の強化繊維40及び強化繊維織物20に対して、図3(b)に示すように、上型81の樹脂導入口81aから、加熱した未硬化のエポキシ樹脂(加熱樹脂)を加圧することにより型内に流入させ、強化繊維40及び強化繊維織物20に樹脂30を含浸させる。さらに、樹脂30が含浸された繊維強化プラスチック10を樹脂30の熱硬化温度以上まで加熱し、樹脂30を硬化させる。
その後、図3(c)に示すように、繊維強化プラスチック10に含浸した(硬化した)加熱樹脂を冷却すると共に、繊維強化プラスチック10を成形型80から取り外す。
このように、前記配置工程において、前述したように、強化繊維織物20の表面にコイル状に屈曲した強化繊維40を配置することにより、成形型80に接触する強化繊維束近傍では、強化繊維40は成形型80の表面に沿って変形し、強化繊維織物20の繊維束間の空間では、強化繊維40は変形し難くなるので、加熱した樹脂30を強化繊維40に含浸させ冷却した場合であっても、強化繊維織物20の強化繊維束21間に形成された空間13における樹脂30の熱収縮は抑制される。この結果、平滑な表面15を有した繊維強化プラスチック10を得ることができる。
以下に、本実施形態に係る実施例を説明する。
(実施例)
<強化繊維織物>
直径7μmの直線状の炭素繊維を12000本束ねた、外径2mmの強化繊維束を90°程度ずれるように交差積層させた、1000mm×1000mm×厚さ2.5mmの多軸の繊維構造の強化繊維織物を準備し、その後所定の大きさにカットした。
<コイル状に屈曲した強化繊維>
コイル状に屈曲した強化繊維として、曲率半径40〜70μm、コイル長が0.2〜0.5mm炭素繊維の強化繊維を準備した。
<樹脂>
強化繊維に含浸させる樹脂として、エポキシ樹脂(主材:EPICLON 840(大日本インキ化学工業製)、硬化剤:EPICLON B−570(大日本インキ化学工業製)、促進剤:2E4MZ(四国化学工業製))を準備した。
<成形>
360mm×300mm×厚さ2mmの成形空間が形成された成形型内に、強化繊維織物と、該強化繊維織物の表面に、コイル状に屈曲した強化繊維とを配置した。次に、60℃に加熱した未硬化のエポキシ樹脂を加圧力0.2MPaで成形型内に流入させ、強化繊維織物及びバネ性を有する形状に屈曲した強化繊維に加熱樹脂を含浸させた。さらに、未硬化のエポキシ樹脂を150℃まで加熱して硬化させ、その後冷却し、成形型内から繊維強化プラスチックを取り出した。そして、繊維強化プラスチックの表面を、観察し、JIS B0601に基づいて、ろ波うねり平均値(μm)を測定した。この結果を表1に示す。
Figure 0005023785
(比較例)
実施例と同じようにして、繊維強化プラスチックを製造した。実施例と相違する点は、強化繊維織物の表面に、コイル状に屈曲した強化繊維を配置しなかった点である。そして、実施例1と同じように繊維強化プラスチックの表面を観察し、ろ波うねり平均値(μm)を測定した。
(結果)
実施例の繊維強化プラスチックの表面は、成形型の面と同じ平滑な面が形成されていたのに対して、比較例の繊維強化プラスチックの表面は、強化繊維織物の強化繊維束のピッチに近い規則的な凹凸面が形成されていた。
(評価)
比較例では、表面近傍の強化繊維織物の強化繊維束間の空間は、強化繊維の割合が低く、樹脂の含有率が高いため熱収縮が他の部分に比べて大きく、この結果、樹脂の熱収縮により繊維強化プラスチックの表面に凹凸面が形成されたと考えられる。一方、実施例では、成形型に接触する強化繊維束近傍では、型締め時にコイル状に屈曲した強化繊維は成形型の表面に沿って変形し、強化繊維織物の繊維束間の空間では、コイル状に屈曲した強化繊維は圧縮変形すると共に復元力が作用するので、繊維強化プラスチックの表面に平滑な面が形成されたものと考えられる。
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
たとえば、本実施形態では、成形型内に熱硬化性樹脂を注入して繊維強化プラスチックを製造するRTM(レジントランスファーモールディング)法による製造方法を説明したが、繊維強化プラスチックの表層部にバネ性を有する形状に屈曲した強化繊維を配置することができるのであれば、ハンドレイアップ法、真空バッグ成形法、加圧バッグ成形法、プリプレグを用いたオートクレーブ法、及び、RFI(レジンフィルムインフュージョン)法などの製造方法により製造してもよい。
また、本実施形態では、繊維強化プラスチックの両面の表層部にコイル状に屈曲した強化樹脂を配置したが、一方の面だけに平滑性が要求される部位に合わせて、コイル状に屈曲した強化樹脂を配置してもよい。
本発明に係る繊維強化プラスチックは、機械的強度を確保しつつ、意匠性が要求される構造用部材に特に好適である。具体的には、オートバイフレーム、カウル等の二輪車用途や、ドア、ボンネット、テールゲート、サイドフェンダー、側面パネル、フェンダー等の自動車部品などの用途が挙げられる。
本実施形態に係る繊維強化プラスチックの模式的な断面図。 繊維強化プラスチックの表層部に配置されたバネ性を有する形状に屈曲した強化繊維の概略図。 図1に示す繊維強化プラスチックの製造方法を説明するための図であり、(a)は、成形型内に、強化繊維織物とバネ性を有する形状に屈曲した強化繊維を配置する工程を説明するための図であり、(b)は、(a)の成形型内配置した強化繊維に加熱した樹脂を含浸させる工程を説明するための図であり、(c)は、含浸した加熱樹脂を冷却する工程後、成形型から繊維強化プラスチックを脱型した図。 本実施形態に係る繊維強化プラスチックの断面図。
符号の説明
10:繊維強化プラスチック,11:表層部,15:繊維強化プラスチックの表面,20:強化繊維織物,21:強化繊維束,40:コイル状に屈曲した強化繊維(バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維),30:樹脂(エポキシ樹脂)

Claims (4)

  1. 積層した強化繊維束に、樹脂を含浸した繊維強化プラスチックであって、
    前記繊維強化プラスチックの少なくとも表層部は、バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維に樹脂が含浸されており、
    前記バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維は、コイル状に屈曲した強化繊維であることを特徴とする繊維強化プラスチック。
  2. 前記強化繊維束は強化繊維織物であり、前記バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維の曲率半径が、少なくとも15μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック。
  3. 前記バネ性を有する形状に屈曲した強化繊維は、炭素繊維であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック。
  4. 前記炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維であることを特徴とする請求項に記載の繊維強化プラスチック。
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