JP5023417B2 - クラッチの制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はクラッチの制御方法に係り、特に車両の動力伝達系に設けられた湿式摩擦クラッチを断接制御する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは、エンジンと変速機との間に、ロックアップ可能な流体継手(トルクコンバータを含む)と湿式摩擦クラッチとを直列に設け、変速時に湿式摩擦クラッチを自動的に断接する車両の動力伝達装置を新たに開発した。この場合、車両停止中にギヤイン操作されると、この後クラッチが自動接続され、クリープが発生する。この点通常のAT車と同様である。一方、車両発進後の走行中は流体継手がロックアップされ、変速機の変速の度毎にクラッチが自動断接される。
この点通常のMT車と同様である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、走行中変速時のクラッチ接制御に関し、開発当初においては、シフトアップ用とシフトダウン用とのクラッチ接続モードが予め設定され、現にシフトアップがなされたか、シフトダウンがなされたかでこれらモードを使い分けていた。
【0004】
しかし、単にシフトアップ/ダウンのみでクラッチ接続方法を変えるだけでは不十分であることが判明した。例えば、3速から2速にシフトダウンするとき、通常なら2速への変速後シフトダウンモードに従ってクラッチを接続してやれば十分である。しかし、3速からニュートラルに入れてしばらく惰行し、十分車速が落ちてから2速に入れてクラッチを接続するようなときは、むしろシフトアップモードに従ってクラッチを接続する方がフィーリングが良い場合もある。
【0005】
このように、シフトアップ/ダウン判定のみでクラッチ接続モードを使い分けていたのでは、あらゆる状況でのフィーリング対応に限界があり、状況によってはクラッチ接続ショックや接時間遅れなどが発生する場合がある。
【0006】
そこで、以上の問題に鑑みて本発明は創案され、その目的は変速時のクラッチ接制御に関し、如何なる状況下でも好適なクラッチ接フィーリングを得ることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電子コントロールユニットにより変速機の変速開始と同期してクラッチを断し、変速機の変速完了と同期してクラッチを接するクラッチの制御方法において、クラッチ接制御に関しクラッチの入力側回転数と出力側回転数との回転差に応じて適用される複数のクラッチ接続モードが予め設定されており、前記複数のクラッチ接続モードにはクラッチ接続モードごとにクラッチ接続の一発接制御と緩接制御とが設定されており、変速におけるギヤインが完了した時点のクラッチの入力側回転数と出力側回転数との回転差を求め、前記変速におけるギヤインが完了した時点の回転差に基づいて上記クラッチ接続モードを選択し、選択したクラッチ接続モードに基づいてクラッチがトルク点付近まで大きく接されるクラッチの一発接制御を実行し、選択したクラッチ接続モードごとに定められた所定の終了条件となるまで、選択したクラッチ接続モードに基づいてクラッチの緩接制御を行うクラッチの制御方法であって、上記回転差が上記クラッチの入力側回転数から出力側回転数を減じて得られる回転差であり、上記複数のクラッチ接続モードが、上記回転差が正の第一所定値以上のとき適用される、シフトアップに適したクラッチ接続の一発接制御と緩接制御とを行うよう設定された第一のクラッチ接続モードと、上記回転差が負の第二所定値以下のとき適用される、シフトダウンに適したクラッチ接続の一発接制御と緩接制御とを行うよう設定された第二のクラッチ接続モードとを含むものである。
【0008】
これによれば、シフトアップ/ダウンではなく、クラッチの入出力側回転数の大小に応じてクラッチ接続モードを選択するため、実際の状況に即したクラッチ接続が行える。
【0009】
ここで、上記クラッチが、エンジンと変速機との間であってロックアップ可能な流体継手の下流側に直列に設けられ、上記クラッチの入力側回転数が、流体継手のロックアップ時のエンジン回転数であり、上記クラッチの出力側回転数が変速機のインプットシャフト回転数であるのが好ましい。
【0011】
また、上記複数のクラッチ接続モードが、上記回転差が上記正の第一所定値より小さく上記負の第二所定値より大きいとき適用される第三のクラッチ接続モードを更に含むのが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基いて説明する。
【0013】
図1は本実施形態における車両の動力伝達装置を示す。図示するように、エンジンEと変速機T/Mとの間にクラッチ機構1が設けられ、クラッチ機構1は動力伝達方向上流側に設けられた流体継手(フルードカップリング)2と、その下流側に直列に設けられた湿式摩擦クラッチとしての湿式多板クラッチ3とからなっている。なおここでいう流体継手とはトルクコンバータを含む広い概念であり、現に本実施形態においてもトルクコンバータを用いている。本装置が適用される車両はトラック等の比較的大型の車両である。エンジンEはディーゼルエンジンである。
【0014】
流体継手2は、エンジンの出力軸(クランク軸)に接続されたポンプ4と、ポンプ4に対向されクラッチ3の入力側に接続されたタービン5と、タービン5とポンプ4との間に介設されたステータ6とを有する。そして流体継手2と並列してロックアップクラッチ7が設けられ、これはポンプ4とタービン5との断接を行って流体継手2をロックアップ可能とする。湿式多板クラッチ3は、その入力側が入力軸3aを介してタービン5に接続され、出力側が変速機T/Mのインプットシャフト8に接続され、流体継手2と変速機T/Mとの間を断接する。
【0015】
変速機T/Mは、インプットシャフト8と、これと同軸に配置されたアウトプットシャフト9と、これらに平行に配置されたカウンタシャフト10とを有する。インプットシャフト8には、入力主ギヤ11が設けられている。アウトプットシャフト9には、1速主ギヤM1と、2速主ギヤM2と、3速主ギヤM3と、4速主ギヤM4と、リバース主ギヤMRとが夫々軸支されていると共に、6速主ギヤM6が固設されている。カウンタシャフト10には、入力主ギヤ11に噛合する入力副ギヤ12と、1速主ギヤM1に噛合する1速副ギヤC1と、2速主ギヤM2に噛合する2速副ギヤC2と、3速主ギヤM3に噛合する3速副ギヤC3と、4速主ギヤM4に噛合する4速副ギヤC4と、リバース主ギヤMRにアイドルギヤIRを介して噛合するリバース副ギヤCRとが固設されていると共に、6速主ギヤM6に噛合する6速副ギヤC6が軸支されている。
【0016】
この変速機T/Mによれば、アウトプットシャフト9に固定されたハブH/R1にスプライン噛合されたスリーブS/R1を、リバース主ギヤMRのドグDRにスプライン噛合すると、アウトプットシャフト9がリバース回転し、上記スリーブS/R1を1速主ギヤM1のドグD1にスプライン噛合すると、アウトプットシャフト9が1速相当で回転する。そして、アウトプットシャフト9に固定されたハブH/23にスプライン噛合されたスリーブS/23を、2速主ギヤM2のドグD2にスプライン噛合すると、アウトプットシャフト9が2速相当で回転し、上記スリーブS/23を3速主ギヤM3のドグD3にスプライン噛合すると、アウトプットシャフト9が3速相当で回転する。
【0017】
そして、アウトプットシャフト9に固定されたハブH/45にスプライン噛合されたスリーブS/45を、4速主ギヤM4のドグD4にスプライン噛合すると、アウトプットシャフト9が4速相当で回転し、上記スリーブS/45を入力主ギヤ11のドグD5にスプライン噛合すると、アウトプットシャフト9が5速相当(直結)で回転する。そして、カウンタシャフト10に固定されたハブH6にスプライン噛合されたスリーブS6を、6速副ギヤC6のドグD6にスプライン噛合すると、アウトプットシャフト9が6速相当で回転する。上記各スリーブは、図示しないシフトフォークおよびシフトロッドを介して、運転室内のシフトレバーによってマニュアル操作される。つまり変速機T/Mはマニュアル式である。
【0018】
湿式多板クラッチ3は通常の構成である。即ち、図示省略するが、オイルが満たされたクラッチケーシング内で、入力側と出力側とにそれぞれ複数枚ずつ互い違いにクラッチプレートがスプライン噛合され、これらクラッチプレート同士をクラッチピストンにより押し付け合い、或いは解放して、クラッチの接続・分断を行うものである。図2を参照して、クラッチピストン27はクラッチスプリング28により常に断側に付勢されると共に、これを上回る油圧がクラッチピストン27に付加されたときクラッチ3が締結される。クラッチ締結力ないしクラッチのトルク容量は与えられる油圧に応じて増大される。
【0019】
次に、湿式多板クラッチ3に作動油圧を供給するための油圧供給装置について説明する。図2に示すように、オイルタンク13のオイルがろ過器14を介して油圧ポンプOPにより吸引吐出されると共に、その吐出圧がリリーフバルブ15により調整され、一定のライン圧PLが作られる。このライン圧PLのオイルを圧力(減圧)制御してクラッチ3に送り込むわけだが、このためクラッチコントロールバルブCCVとクラッチソレノイドバルブCSVという二つのバルブを用いている。即ち、メインの油圧ラインに接続されたクラッチコントロールバルブCCVを、クラッチソレノイドバルブCSVから送られてくるパイロット油圧Ppに応じて開閉させるという、パイロット操作型油圧制御方式を採用している。そしてパイロット油圧Ppの大きさが、電子コントロールユニット(以下ECUという)16から出力されるディーティパルスに応じて変化される。
【0020】
即ち、クラッチソレノイドバルブCSVは電磁ソレノイドを有した電磁弁であり、無段階で開閉可能であると共に、常にライン圧PLが供給されている。そしてECU16から出力されたディーティパルスを受け取り、そのデューティ(デューティ比)Dに応じた量だけ弁体を開放側に移動させる。これによりクラッチソレノイドバルブCSVはデューティDに応じたパイロット油圧Ppを出力することになる。
【0021】
クラッチコントロールバルブCCVは、パイロット油圧Ppに基づき無段階で制御されるスプール弁であり、これ自体は電子制御されない。即ちパイロット油圧Ppの大きさに応じて内蔵スプールを開放側にストロークさせ、これによりライン圧PLを適宜調整しクラッチ圧Pcとしてクラッチ3に送り込む。こうして、結果的に、クラッチ3に供給される油圧がECU16によりデューティ制御されることとなる。
【0022】
なお、クラッチソレノイドバルブCSVとクラッチコントロールバルブCCVとを結ぶ経路の途中にアキュムレータ17が設けられる。
【0023】
図3に油圧供給装置の特性線図を示す。横軸は、ECU16から出力されるディーティパルスのデューティDであり、より詳しくは基本の制御周期(本実施形態では20msec)におけるソレノイドON時間の割合を示すONデューティである。本実施形態では、デューティDが0(%)のときクラッチが完接されるようにしてある。これは電気系統の故障等でクラッチソレノイドバルブCSVに何等通電されなくなったようなとき(所謂OFFスタックの状態)にも、クラッチを接続状態として、なんとか車両の走行を維持できるようにするためである。
【0024】
図示するように、デューティDが大ほど断、小ほど接である。デューティDの値が小さくなるにつれ、クラッチコントロールバルブCCVから出力されるパイロット油圧Ppの値が比例的に増加し、これに伴ってクラッチに供給される油圧即ちクラッチ圧Pcと、クラッチ3のトルク容量Tcとが比例的に増加する傾向を示す。なおクラッチコントロールバルブCCVのバルブ開度Vは図示上は3ポジションであるが、実際上は全開、全閉以外の中間開度(図示上のバルブ開度0mm)でスプール弁が微小ストロークし、クラッチ圧Pcを連続的に変更できるものである。
【0025】
本実施形態にはロックアップクラッチ7の制御系も存在するが、ここでは本発明に直接関係ないため説明を省略する。その油圧制御系の構成は湿式多板クラッチ3の油圧制御系と大略同様である。
【0026】
次に、動力伝達装置を電子制御するための電子制御装置を図4を用いて説明する。前述のECU16にはクラッチソレノイドバルブCSVの他、本装置を電子制御するために様々なスイッチやセンサが接続されている。これにはエンジン回転数を検出するためのエンジン回転センサ18、クラッチ3の入力側の回転数即ちタービン5の回転数を検出するためのタービン回転センサ19、変速機T/Mの回転数、代表的には入力副ギヤ12の回転数を検出するための変速機回転センサ20、及び車速を検出するための車速センサ21が含まれる。これらのセンサは図1にも示される。特にECU16は変速機回転センサ20の出力と、入力主ギヤ11及び入力副ギヤ12のギヤ比とから、インプットシャフト8の回転数を計算し、これをクラッチ3の出力側回転数とする。即ちクラッチ出力側回転数を検出するための手段が変速機回転センサ20となる。
【0027】
また、ECU16には、パーキングブレーキが作動中か否かを検出するためのパーキングブレーキスイッチ22、フットブレーキが作動中か否かを検出するためのフットブレーキスイッチ23、及び変速機のギヤポジションを検出するためのギヤポジションセンサ24も接続される。
【0028】
そしてECU16にはノブスイッチ25も接続されている。即ち、本実施形態ではドライバーによる変速操作の開始時期を検出するため、或いはクラッチ断を開始するタイミングを決定するため、運転室のシフトレバーにおいて、レバーに対しシフトノブが僅かにシフト方向に揺動可能に取り付けられており、これらレバーとシフトノブとの間にノブスイッチ25が設けられている。そしてドライバーによる変速操作時、レバーの動作に先立ってシフトノブが揺動すると、ノブスイッチ25がONとなり、これを合図にクラッチ断を開始するようになっている。具体的構成は特開平11−236931号公報に示されたものと同様である。
【0029】
また、本実施形態の動力伝達装置には、同公報に示されたような坂道発進補助装置(HSA;Hill Start Aid)が設けられており、その装置の手動ON/OFFを行うため運転室にHSAスイッチ26が設けられ、HSAスイッチ26がECU16に接続されている。
【0030】
次に、本実施形態に係る動力伝達装置の作動及び制御方法を説明する。
【0031】
この動力伝達装置では、エンジンEの動力を流体継手2、湿式多板クラッチ3、変速機T/Mという順で伝達する。ロックアップクラッチ7は原則として発進後走行中は常にON(接)され、停車時及び発進時にOFF(断)される。従って発進時はAT車のように流体継手2のクリープを利用でき、摩擦クラッチを電子的に発進制御するものに比べ制御が簡単になると共に、走行中は流体継手2がロックアップされるのでスリップによるロスを防止できる。湿式多板クラッチ3は変速の度毎に断接され、変速開始と同期して断され、変速完了と同期して接される。これは通常のMT車と同様である。
【0032】
ここでロックアップクラッチ7の断接制御について詳しく述べると、ロックアップクラッチ7は比較的低車速である所定速度(本実施形態では約10km/h)以上で接とされる。正確には、ロックアップクラッチ接は、各ギヤ段においてインプットシャフト回転数が所定回転数(本実施形態では一律900rpm)以上に達すると接とされる。発進段(例えば多用される発進段である2速)で発進し、インプットシャフト回転数がその所定回転数(900rpm)に達すると、ロックアップクラッチが接とされ、このときの車速が低車速(約10km/h)である。
【0033】
まず、車両発進時の作動を説明する。車両がギヤニュートラルで停止中、ドライバーが発進しようとしてシフトレバーを発進段に操作しようとしたとする。するとシフトレバーにおいて、レバーの動作に先立ってシフトノブが揺動することによりノブスイッチ25がONされ、これを合図にクラッチ3が分断される。そして引き続きシフトレバーが操作されることによって変速機T/Mが発進段にギヤインされ、これがギヤポジションセンサ24によって検出されるとクラッチ3が接続される。この接続によってタービン5が駆動輪側から止められるので、タービン5に対しポンプ4が滑動し、クリープ力が発生するようになる。従って後はブレーキを離したりアクセルを踏み込んだりすれば車両が動き出すのである。
【0034】
次に、車両走行中の変速時の作動を説明する。車両が所定ギヤ段で走行中、ドライバーが変速しようとしてシフトレバーを次の変速段に操作しようとしたとする。するとレバーの動作に先立ってシフトノブが揺動し、ノブスイッチ25がONされ、これを合図にクラッチ3が分断される。そして引き続きシフトレバーが操作されることによって変速機T/Mが次の変速段にギヤインされ、これがギヤポジションセンサ24によって検出されるとクラッチ3が接続される。これによって変速が完了する。この変速中ロックアップクラッチ7はONのままで、エンジン動力がそのままクラッチ3に伝達される。
【0035】
この走行中のクラッチ制御方法を図5及び図6を用いて詳述する。図5は代表的なシフトアップの例、図6は代表的なシフトダウンの例である。まずシフトアップの例について説明する。
【0036】
図5に示すように、ノブスイッチON(t1)によりクラッチが完断され、シフトレバー操作により次の変速段にギヤインされるとクラッチ接続が開始される(t2)。ギヤインと同時に前のギヤ段と現在のギヤ段との比較がなされ、シフトアップ/ダウンの判定が行われる。ここではシフトアップである。
【0037】
また、これとは別に、ギヤインと同時にクラッチ接続モードの選択が行われる。これについては後述する。
【0038】
クラッチ接続は、最初に一発接制御が実行される。即ち、クラッチ3がトルク点付近まで大きく接されるような開始デューティ(一発接デューティ)DstがECU16から一定時間(本実施形態では0.1sec)出力される。本実施形態の開始デューティDstは常温時で10(%)、低温時で60(%)である。クラッチ3には接続初期においてクラッチピストン27の無効ストローク(遊び)が存在するが、一発接制御によって、その無効ストローク分が急接され、接続時間が短縮できる。ここで、図3を参照すると常温時の開始デューティDst=10(%)はクラッチ完接相当の値であるが、その出力時間は僅か(本実施形態では0.1sec)であり、逆にこのような過剰なデューティを短時間出力することによってクラッチピストン27をより速く移動させ、接続時間をさらに短縮できる。なおクラッチのトルク点は学習値であり、デューティの値をもってECU16に記憶される。例えば、図3に示すように、トルク容量Tcm=約200(Nm)を示すデューティD=50(%)がトルク点学習値である。クラッチ等のバラツキにより破線の如くトルク容量線図がずれると、これに応じてトルク点学習値も変化する。
【0039】
この後、開始デューティDstの出力をし終えたら、クラッチ緩接制御に移行する(t3)。クラッチ緩接制御では、クラッチ3が緩接されるような緩接デューティDkを所定時間毎にECU16から出力する。ここでいう所定時間は本実施形態では制御周期Δt=20msecと等しい。但し、複数回分の制御周期nΔtと等しくしても良い。以下この所定時間を緩接周期という。
【0040】
緩接制御では、緩接周期毎の各回の緩接デューティの値が、クラッチの入出力側の回転差に基づいて決定される。クラッチ入力側回転数としてはエンジン回転センサ18で検出されるエンジン回転数の値を用いる。これは走行中はロックアップクラッチ接であり、クラッチ入力側回転数=エンジン回転数とみなせるからである。但しタービン回転数を用いても良い。クラッチ出力側回転数としては、上述のように変速機回転センサ20の出力とギヤ比とから計算されたインプットシャフト回転数の値を用いる。
【0041】
ここではシフトアップの例であり、図5(d)に示すようにエンジン回転数Neの方がインプットシャフト回転数Niより高い。ECU16側では、時刻t2で行ったシフトアップ判定に基づき、エンジン回転数Neからインプットシャフト回転数Niを減じて回転差ΔNを計算する(ΔN=Ne−Ni)。
【0042】
詳しくは後述するが、図9に示すように、変速機の各ギヤ段毎に、回転差ΔNに対するステップデューティDsの値がマップ形式で設定されている。これらステップデューティ算出マップはECU16に記憶される。
【0043】
具体的なクラッチ緩接制御の内容は以下の通りである。まず、時刻t3の緩接周期で、初期値としての緩接デューティDk3を出力する。そしてこのときの回転差ΔN3を計算し、現在のギヤ段とΔN3の値とから図9のマップに従ってステップデューティDs3を決定する。そして次の制御回である時刻t4の緩接周期では、前回の緩接デューティDk3からステップデューティDs3を減じた値を今回の緩接デューティDk4とし、これをECU16から出力する。以下、同様に、時刻tn(n=4,5,6...)の緩接周期で回転差ΔNnを計算し、マップに従ってステップデューティDsnを決定し、次の制御回である時刻tn+1の緩接周期では、前回の緩接デューティDknからステップデューティDsnを減じて今回の緩接デューティDkn+1とし、これをECU16から出力する。このような制御を繰り返すことで少しずつクラッチが接続され、回転差ΔNが徐々に少なくなっていく。
【0044】
なお、ステップデューティDsの計算周期と制御周期Δtとは必ずしも等しくなくてよい。このときはステップデューティDsが計算される毎に緩接デューティDkを更新し、この更新周期が緩接周期となる。
【0045】
こうして、所定の緩接終了条件が整ったら緩接制御を終了し、クラッチ急接制御に移行する。本実施形態の緩接終了条件は、回転差ΔNが少ない値である150rpm以下になるか、ECU16から出力されるデューティがクラッチが十分接続されたときの値である緩接終了デューティDeに達することである。クラッチ急接制御では、急接デューティ=0を所定時間=0.3sec出力する。そしてこの後クラッチ完接制御を行ってクラッチ接制御を終了する。クラッチ完接制御も同様に完接デューティ=0を所定時間=1sec出力するものである。
【0046】
次に、図6により一般的なシフトダウンの例を説明する。シフトダウンのときもシフトアップのときと大略同様である。異なるのは、シフトダウンのときは図6(d)に示すようにインプットシャフト回転数Niの方がエンジン回転数Neより高くなるので、回転差ΔNの計算も逆となり、回転差ΔNがインプットシャフト回転数Niからエンジン回転数Neを減じて計算される(ΔN=Ni−Ne)点である。また、ステップデューティDsの値が図10に示す別のマップから算出される点である。
【0047】
その他のクラッチ接制御の内容は前記同様である。緩接制御においては、時刻t3の緩接周期で初期値としての緩接デューティDk3を出力すると共に、回転差ΔN3を計算し、現ギヤ段とΔN3の値とから図8のマップに従ってステップデューティDs3を決定する。そして次の制御回である時刻t4の緩接周期では、前回の緩接デューティDk3からステップデューティDs3を減じた値を今回の緩接デューティDk4とし、これをECU16から出力する。以下このような手順を繰り返してクラッチを徐々に接続していく。この後のクラッチ急接制御、クラッチ完接制御も前記同様に行われる。
【0048】
上記クラッチ緩接制御では、常に実際の接続状況即ちクラッチ入出力回転差を見ながらクラッチを接続していくため、トルク点学習値のバラツキ、クラッチ特性のバラツキ、油温等のバラツキといった個体差及び/又は使用状況の違いに対応でき、常に接続ショック及び接続時間の両立を図れ、また上記バラツキに起因するフィーリングのバラツキを解消でき、フィーリングの安定を図ることができるという利点がある。
【0049】
次に、本発明に関わる特徴点であるクラッチ接続モードの選択について詳細に説明する。これは図5及び図6の時刻t2でなされるものである。
【0050】
図7を参照して、クラッチ接続モードとしては以下の四つのモードが予めECU16内に設定されている。
(1)ガレージシフトモード(モードG)
(2)エンジンプラスモード(モードE)
(3)インシャフトプラスモード(モードI)
(4)シンクロモード(モードS)
そしてECU16は、図5及び図6の時刻t2における車速Vと、クラッチの入出力側の回転差ΔN(=エンジン回転数Ne−インプットシャフト回転数Ni;図5及び図6のΔN2)とに基づき、いずれかのモードを選択する。この選択条件は以下の通りである。
【0051】
(1)車速Vが微低速V1(本実施形態では3km/h)未満のときガレージシフ
トモードを選択する。
【0052】
(2)車速Vが微低速V1以上のとき
▲1▼ 回転差ΔNが正の所定値+N(本実施形態では+150rpm)以上のと
きはエンジンプラスモードを選択する。
【0053】
▲2▼ 回転差ΔNが負の所定値−N(本実施形態では−150rpm)以下のと
きはインシャフトプラスモードを選択する。
【0054】
▲2▼ 回転差ΔNが正の所定値+Nより小さく負の所定値−Nより大きい
ときはシンクロモードを選択する。
【0055】
実際上はECU16で負の値を扱うことが困難なため、(2)▲1▼、▲2▼、▲3▼の条件は以下のように置き換えられる。即ち、
(a) エンジン回転数≧インプットシャフト回転数+150rpm
(b) エンジン回転数<インプットシャフト回転数+150rpm
(c) インプットシャフト回転数≧エンジン回転数+150rpm
(d) インプットシャフト回転数<エンジン回転数+150rpm
という条件において、
(a)成立時はエンジンプラスモードを選択する。
【0056】
(c)成立時はインシャフトプラスモードを選択する。
【0057】
(b)&(d)成立時はシンクロモードを選択する。
【0058】
ガレージシフトモード(モードG)は、所謂ガレージシフト(AT車で停車中発進前にギヤインしクリープを発生させる行為)に適したクラッチ接続を行うモードである。即ち図8に示すように、ガレージシフトに適した開始デューティDst(G)、緩接デューティ初期値Dk0(G)、ステップデューティDs(G)、終了デューティDe(G)の値が予め定められている。車速V1(3km/h)未満のときはこのモードが選択され、以降このモードの各デューティを用いてクラッチ接続制御が行われる。従って、ガレージシフトに際して好適なクラッチ接続を行うことができ、接続ショックと接続時間との両立を図れ、良好なフィーリングが得られる。ここでステップデューティDs(G)はギヤ段と回転差ΔNとをパラメータとするマップの形式で与えられる。マップ上の各格子点の値がガレージシフトに適した値とされている。
【0059】
エンジンプラスモード(モードE)は、主にシフトアップに適したクラッチ接続を行うモードである。即ち図9に示すように、シフトアップに適した開始デューティDst(E)、緩接デューティ初期値Dk0(E)、ステップデューティDs(E)、終了デューティDe(E)の値が予め定められている。前記同様、ステップデューティDs(G)はギヤ段と回転差ΔNとをパラメータとするマップの形式で与えられる。
【0060】
図5(d)に示したように、一般的に、シフトアップのときはエンジン回転数がインプットシャフト回転数より高くなり、回転差ΔNが正の値となる。一方、車速V1(3km/h)以上で回転差ΔNが正の所定値+N(+150rpm)以上のときはエンジンプラスモードが選択され、以降このモードの各デューティを用いてクラッチ接続制御が行われる。従ってシフトアップ後のクラッチ接続に際して好適なクラッチ接続が行え、接続ショックと接続時間との両立を図れ、良好なフィーリングが得られる。
【0061】
インシャフトプラスモード(モードI)は、主にシフトダウンに適したクラッチ接続を行うモードである。即ち図10に示すように、シフトダウンに適した開始デューティDst(I)、緩接デューティ初期値Dk0(I)、ステップデューティDs(I)、終了デューティDe(I)の値が予め定められている。前記同様、ステップデューティDs(I)はギヤ段と回転差ΔNとをパラメータとするマップの形式で与えられる。
【0062】
図6(d)に示したように、一般的に、シフトダウンのときはシフトアップとは逆にインプットシャフト回転数がエンジン回転数より高くなり、回転差ΔNが負の値となる。一方、車速V1(3km/h)以上で回転差ΔNが負の所定値−N(−150rpm)以下のときはインシャフトプラスモードが選択され、以降このモードの各デューティを用いてクラッチ接続が行われる。従ってシフトダウン後のクラッチ接続に際して好適なクラッチ接続が行え、接続ショックと接続時間との両立を図れ、良好なフィーリングが得られる。
【0063】
シンクロモード(モードS)は、クラッチの入出力側の回転差が小さい場合、言い換えればその入出力側の回転数が互いに接近しているような場合に適したクラッチ接続を行うモードである。即ち図11に示すように、かかる場合に適した開始デューティDst(S)、緩接デューティ初期値Dk0(S)、ステップデューティDs(S)、終了デューティDe(S)の値が予め定められている。前記同様、ステップデューティDs(S)はギヤ段と回転差ΔNとをパラメータとするマップの形式で与えられる。
【0064】
このようにクラッチの入出力側の回転数が互いに接近している場合、シンクロモードが選択され、以降このモードの各デューティを用いてクラッチ接続が行われるため、かかる場合に好適なクラッチ接続が行え、接続ショックと接続時間との両立を図れ、良好なフィーリングが得られる。
【0065】
さて、本実施形態によれば、走行中変速完了後のクラッチ接に際し、実際にシフトアップが行われたかシフトダウンが行われたかに拘わらず、変速完了時のクラッチ入出力側の回転数の大小に応じて最適なクラッチ接続モードが選択される。具体的には、回転差ΔNに応じてエンジンプラスモード、インシャフトプラスモード、シンクロモードのいずれかが選択され、この選択されたモードに従ってクラッチ接続が行われる。
【0066】
これにより、如何なる状況下でも好適なクラッチ接フィーリングを得ることが可能になる。即ち、通常のシフトアップ又はシフトダウンではエンジンプラスモード又はインシャフトプラスモードが選択され、好適なクラッチ接フィーリングが得られる。
【0067】
一方、ドライバーが通常と異なる変速操作を行ったとき、例えば3速で走行中ギヤを一旦ニュートラルに入れてしばらく惰行し、十分車速が落ちてから2速に入れるようなシフトダウンを行った場合、2速へのギヤイン時は既にインプットシャフト回転数が通常のシフトダウンの場合より低くなっている。
【0068】
このような場合、エンジンプラスモードの選択条件が整っていれば当該モードが選択され、これによってあたかもシフトアップがなされたかのようなクラッチ接続が実行される。また、シンクロモードの選択条件が整っていれば当該モードが選択され、これによってかかる場合に適したクラッチ接続が実行される。このように、現実に行われた変速操作がシフトアップか、シフトダウンかに拘わらず、実際の状況に即したクラッチ接続が行えるため、好適な接フィーリングが得られる。
【0069】
なお、本発明の実施形態は上述のものに限られない。上記実施形態では走行中変速時のクラッチ接続モードとしてエンジンプラスモード、インシャフトプラスモード、シンクロモードという三つのモードを設定したが、モードの数や種類は適宜変更可能である。また本発明は上記のような動力伝達装置以外にも適用できる。クラッチや変速機の形式は特に問わない。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、変速時のクラッチ接制御に関し、如何なる状況下でも好適なクラッチ接フィーリングを得られるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達装置を示すスケルトン図である。
【図2】本発明の実施形態に係る油圧供給装置を示す油圧回路図である。
【図3】本発明の実施形態に係る油圧供給装置の特性線図である。
【図4】本発明の実施形態に係る電子制御装置を示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係るクラッチ接続制御の内容を示すタイムチャートで、一般的なシフトアップの例である。
【図6】本発明の実施形態に係るクラッチ接続制御の内容を示すタイムチャートで、一般的なシフトダウンの例である。
【図7】クラッチ接続モードの選択条件を示す図である。
【図8】ガレージシフトモードの内容を示す図である。
【図9】エンジンプラスモードの内容を示す図である。
【図10】インシャフトプラスモードの内容を示す図である。
【図11】シンクロモードの内容を示す図である。
【符号の説明】
2 流体継手
3 湿式多板クラッチ
7 ロックアップクラッチ
16 電子コントロールユニット(ECU)
E エンジン
T/M 変速機
CSV クラッチソレノイドバルブ
CCV クラッチコントロールバルブ
D デューティ
Dst 開始デューティ
Dk 緩接デューティ
Ds ステップデューティ
Ne エンジン回転数
Ni インプットシャフト回転数
ΔN 回転差
+N 正の所定値
−N 負の所定値
Claims (3)
- 電子コントロールユニットにより変速機の変速開始と同期してクラッチを断し、変速機の変速完了と同期してクラッチを接するクラッチの制御方法において、
クラッチ接制御に関しクラッチの入力側回転数と出力側回転数との回転差に応じて適用される複数のクラッチ接続モードが予め設定されており、前記複数のクラッチ接続モードにはクラッチ接続モードごとにクラッチ接続の一発接制御と緩接制御とが設定されており、
変速におけるギヤインが完了した時点のクラッチの入力側回転数と出力側回転数との回転差を求め、前記変速におけるギヤインが完了した時点の回転差に基づいて上記クラッチ接続モードを選択し、選択したクラッチ接続モードに基づいてクラッチがトルク点付近まで大きく接されるクラッチの一発接制御を実行し、選択したクラッチ接続モードごとに定められた所定の終了条件となるまで、選択したクラッチ接続モードに基づいてクラッチの緩接制御を行うクラッチの制御方法であって、
上記回転差が上記クラッチの入力側回転数から出力側回転数を減じて得られる回転差であり、
上記複数のクラッチ接続モードが、上記回転差が正の第一所定値以上のとき適用される、シフトアップに適したクラッチ接続の一発接制御と緩接制御とを行うよう設定された第一のクラッチ接続モードと、上記回転差が負の第二所定値以下のとき適用される、シフトダウンに適したクラッチ接続の一発接制御と緩接制御とを行うよう設定された第二のクラッチ接続モードとを含むことを特徴とするクラッチの制御方法。 - 上記クラッチが、エンジンと変速機との間であってロックアップ可能な流体継手の下流側に直列に設けられ、上記クラッチの入力側回転数が、流体継手のロックアップ時のエンジン回転数であり、上記クラッチの出力側回転数が変速機のインプットシャフト回転数である請求項1記載のクラッチの制御方法。
- 上記複数のクラッチ接続モードが、上記回転差が上記正の第一所定値より小さく上記負の第二所定値より大きいとき適用される第三のクラッチ接続モードを更に含む請求項1記載のクラッチの制御方法。
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