JP5023078B2 - コート層を有するレンズの製造方法 - Google Patents
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Description
背景技術
このフォトクロミック材料の性質をレンズに利用したフォトクロミック眼鏡がある。フォトクロミック眼鏡は、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、光の照射のない屋内では、退色して透明な通常の眼鏡として機能する。
コーティング法により十分なフォトクロミック性を有するコーティング層を形成するためには、例えば、25℃における粘度が25〜1000センチポアズ(cP)といった比較的高粘度のフォトクロミックコーティング液を5μm以上、好ましくは30μm以上の厚さで均一に塗布する必要があるが、上記塗布装置を用いた場合には、少ないコーティング液を用いて上記要求を満足させることができる。
特許文献2のコーティング液塗布装置によると、眼鏡レンズをコーティングするために、眼鏡レンズのコーティング面を上側に向けて配置し、コーティング液を滴下させるコーティング液滴下手段を設けている。また、コーティング液塗布装置にはへら板機構が設けられ、へら板機構はスライド機構により移動可能であり、へら板132を保持するホルダー133を設けている。へら板132は、図15のAに示すように被コーティング面131aの中心Oと外周縁部の任意の点P1を通る前後方向の水平な線Lと所定の角度βで交差することにより、前端が被コーティング面131aの外周縁部で前記任意の点P1より回転方向後方側に距離Δだけ離れた点P2に接触している。また、図15のBに示すように垂直線に対して眼鏡レンズ131の軸方向に所要角度αで傾斜するようにホルダー133に取付けられるように構成されている。すなわち、へら板132は、レンズ131に対して水平線及び垂直線に対して傾斜して配置されている。
眼鏡レンズ131の側面には、眼鏡レンズ131の側面(コバ面)131bに付着しているコーティング溶液の膜厚を平滑化させるための一対のコーティング液除去部材135を備えている。このコーティング液除去部材135は、吸着性に優れた発泡樹脂(スポンジ)によって円柱状に形成され、パンダグラフ機構に取付けた取付板の表面に前後方向に所定の間隔をおいて軸が垂直に取付けられており、伸長するとレンズのコバ面に所定圧で押し付けるように構成されている。
コーティング液は、レンズのコーティング面にコーティング液をスピンコート法によって塗布すると、レンズの回転による遠心力によって、コーティング液がコーティング面全体に広がり、その一部は飛散して落下する。また、レンズのコーティング面の外周縁部では、表面張力により膜厚が厚くなって盛り上がる。この膜厚が厚い場合には、次工程である硬化工程において紫外線の照射によって硬化したとき、皺が発生するおそれがある。このため、各眼鏡レンズのコーティング面の外周縁部におけるコーティング液を平滑化して余分なコーティング液を取り除くためにへら板132が設けられている。
また、へら板132の前端を眼鏡レンズのコーティング面の外周縁部に接触させておくと、眼鏡レンズの回転によりレンズのコーティング面の外周縁にわたってコーティング液が溜まる。そのため、特許文献2のコーティング液塗布装置は、コーティング液の滴下後、図16のCに示すように、レンズ131の側面の上縁部にへら板132を水平方向及び垂直方向へ傾斜させて配設し、レンズ131の側面には、コーティング液除去部材135を配設している。そして、余分なコーティング液をへら板132によって削ぎ落とすことができ、コーティング液を平滑化することができる。また、特許文献2には、レンズ131の側面131bに滴下したコーティング液は、コーティング液除去部材135を、眼鏡レンズ131の側面132aに押し付けることにより、レンズ側面131bに付着しているコーティング液を薄く引き延ばし、均一な膜厚とする内容が開示されている。
特許文献1:特開2005−13873号公報
特許文献2:特開2005−246267号公報
しかしながら、コーティング液としてフォトクロミックコート液を使用する場合には、特許文献2に示されるような機構を採用しても、次のような問題が発生することが明らかとなった。
即ち、第一に、フォトクロミックコーティング液は粘度が高いため、一旦レンズの側面に付着するとスポンジ材料によって側面に付着したコーティング液を吸収して除去したり均一な厚さに引き延ばしたりすることが困難である。このため、レンズの側面にコーティング液が付着したまま作業をすると、UV硬化後のアニール処理では、レンズの側面に不均一に付着したコーティング液により、等方性が失われレンズに光学的な歪が生じることもある。また、レンズは、側面に付着したコーティング液の分だけレンズ径が大きくなり、ハードコート処理や反射防止(AR)膜コート処理等の後工程における専用治具とのサイズが合わなくなる不具合が生じることもある。
第二に、フォトクロミックコーティング液の硬化体は光照射によって発色するため、発色しない透明なコーティング液を塗布した場合とは異なり、レンズ側面にフォトクロミックコーティング液が付着すると先ず製品として外観不良になる。
第三に、フォトクロミックコーティング液を塗布する場合には、レンズ基材とフォトクロミックコート層との密着性を向上させるために、フォトクロミックコーティング液の塗布に先立ってプライマー液を塗布する場合があるが、プライマー層は必ずしもレンズ側面の全面を覆うとは限らない。このため、レンズ側面にフォトクロミックコート液が付着した場合、下地にプライマー層が存在しない部分は剥がれ易い。この部分が起点となってフォトクロミックコート層の剥離が発生し、レンズ表面に形成されたフォトクロミックコート層の一部も剥がれてしまうことがある。
第四に、レンズの種類にもよるが側面の厚さが5mm以下と薄いものがあり、このようなレンズを用いた場合には、フォトクロミックコーティング液が側面を通って裏面に付着しやすい。特許文献2に示されるような機構を採用してもコーティング液がコーティング液除去部材に接触する前に裏面へ回り込むこともあるし、コーティング液除去部材との接触時または接触後に裏面に回りこむこともある。レンズには、製造工程でモールドからの転写時にレンズの両面が所定の光学面に仕上げられるフィニッシュレンズと、裏面が研磨加工によって光学面に削られるセミフィニッシュレンズがある。フィニッシュレンズの場合は、一般にレンズ厚が薄いためこのような問題が特に起こりやすい。コーティング液が裏面に付着、硬化されると、汚染によって不良品となる。
これらの問題を回避するためには、UV硬化後、研磨装置等でレンズの側面や裏面を研磨し付着したコーティング液(硬化物)を除去する必要があり製造工程が煩雑となる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、レンズのコーティング液の塗布作業において、コーティング液がレンズの側面及びレンズの裏面に回り込むことのないコート層を有するレンズの製造方法を提供することを目的とする。
即ち、本発明は、(A)レンズを支持して回転させるスピン装置にレンズ面を上向きにして保持する工程、(B)前記スピン装置に保持されたレンズの上面に光硬化性コーティング液を供給する工程、(C)レンズを回転させながら、レンズの上面に供給された光硬化性コーティング液を可撓性フィルムによって延展する工程、及び(D)前記工程(C)によって得られる“上面に延展された光硬化性コーティング液からなる塗膜を有するレンズ”に光線を照射して当該塗膜を硬化させてコート層を形成する工程を含んでなるコート層を有するレンズの製造方法において、前記光硬化性コーティング液として25℃における粘度が80〜1000センチポアズ(cP)であるものを使用すると共に、(E)へら板の上方をレンズの中心側に傾斜させて、前記スピン装置に保持されたレンズの上縁部に前記へら板の側縁部を当接させる工程を更に含み、該工程(E)を、前記工程(A)の終了後であって前記工程(C)前記工程(C)において光硬化性コーティング液がレンズ周縁部に到達する前に行い、光硬化性コーティング液の延展時に余分な光硬化性コーティング液を前記へら板を介して除去することを特徴とする方法である。
上記方法では、前記へら板の上方をレンズの中心軸方向へ傾斜させて、かつ前記へら板の平板面が、前記へら板の側縁部とレンズの上縁部とが当接する当接部とレンズの中心軸を通る面上に配置されることが好ましい。
さらに、上記方法では、前記工程(E)を、前記工程(A)終了後であって前記工程(C)の開始前に行うのが好ましい。こうすることにより、確実に余分な光硬化性コーティング液をへら板を介して除去することができる。また、干渉模様がきれいな円形に広がっている高品質なコート層を有するレンズを歩留まりよく製造するためには、前記工程(E)を、前記工程(A)の終了後であって前記工程(C)においてレンズの上面に供給された光硬化性コーティング液がレンズ表面の50〜98%の面積まで延展された際に行うことが好ましい。
また、前記光硬化性コーティング液がフォトクロミックコーティング液であることが好ましい。
また、本発明において、光硬化性コーティング液をレンズ表面の特定の範囲に延展した後、へらを所定の位置にセットすることにより、高品質な製品を歩留まりよく製造することができる。
7 フォトクロミックスピン装置
8 フォトクロミック液塗布装置
9 塗膜均一化装置
15 レンズ
48,68 ノズル
66 容器
86 フィルム
111 へら固定用治具
119 へら板
図1に示すコーティング装置1は、眼鏡などのレンズにコーティング被膜を形成するための装置である。コーティング装置1は、主としてレンズの中心位置を決めるセンタリング装置2、レンズの高さや勾配を計測するレンズ高さ計測装置3、プライマコーティング時にレンズを支持して回転させるプライマスピン装置4、レンズの表面にプライマコーティング液を塗布するプライマー液塗布装置5、レンズに塗布されたコーティング液を乾燥させるレンズ乾燥装置6、フォトクロミックコーティング時にレンズを支持して回転させるフォトクロミックスピン装置7(工程(A)におけるスピン装置に該当する)、レンズの表面にフォトクロミックコーティング液を塗布するフォトクロミック液塗布装置8、レンズのコーティング液の膜厚を一定にする塗膜均一化装置9(工程(C)における可撓性フィルムに該当する)、コーティング液を硬化させるUV装置10,11、レンズを移送させる一対のハンドリング装置12,13を備えている。
レンズ15としては、通常レンズとして使用されているガラス又は樹脂製の円盤状基材が好適に使用できるが、軽く割れにくいという観点から樹脂(プラスチック)製レンズを使用するのが好ましい。一般に、プラスチック眼鏡レンズは曲面を有しており、近年の光学設計の進歩によりその凸面は複雑な曲面形状をしているものが多いが、本発明においてはこのような眼鏡レンズを何ら問題なく使用することができる。レンズ外周面(コバ)の厚さが5mm以下と薄い場合、従来の方法を採用した場合にはフォトクロミックコート液の塗布時に該液がレンズ側面(コバ)や裏面に付着するのを防止するのが困難であったが、本発明の方法を採用した場合にはこれら部位への付着を防止することができる。このように、本発明の効果が顕著であるという観点からレンズ15としては、レンズ周縁の側面(コバ)の厚さが5mm以下、特に4mm以下のものを使用するのが好ましい。
また、このようなレンズは、一般的に曲率が0〜16であり、外径が55〜80mmである。
センタリングロッド22は、基台16の側面に設けられている図示しない昇降装置によって上下動することができ、基台16に形成された16aを介して、センタリング装置2とレンズ高さ計測装置3との間を、横方向に移動が可能である。
レンズ高さ計測装置3は、基台16上に配設されている一対の支持ブラケット23が間隔を開けてかつ対向して設けられている。支持ブラケット23の上面21には、2組のセンサーユニット24,25が配設されている。センサーユニット24,25のセンサー24a,25aは、発光部(発光器)と受光部(受光器)とを有し発光部によってレーザ光を照射し、ミラー24b,25bはそのレーザ光を反射してセンサー24a,25aの受光部で受光することができる。
センサー24a,25aとミラー24b,25bとの間に、センタリング装置2からセンタリングロッド22で移送されたレンズ15が配置される。センサーユニット24,25は、レンズ15がセンサー24a,25a及びミラー24b,25b間に配置されると、レーザ光がレンズ15により屈曲されることによって、レーザ光が遮断されてレンズ15の有無とレンズ面の基台16からの基準高さを検知する。
基台16の内部には、プライマスピン装置4の昇降ユニット27が配設されている。昇降ユニット27は、基台16側に固定された基台側支持板28を設け、基台側支持板28にはガイドレール29が垂直方向に設けられ、ガイドレール29には昇降ブロック30が嵌合している。昇降ブロック30は、図示しないロッドレスシリンダによる空圧手段により、ガイドレール29に沿って上下動することができる。
昇降ブロック30には、サーボモータ31が設けられ、サーボモータ31には上方側に回転軸が設けられ、先端部を上方に向けたレンズ支持部であるスピン軸32に接続されている。
スピン軸32の周囲には、台座35が基台16上に配設され台座35の上部には、コーティング液の回収トレイ36が設けられている。スピン軸32は、回収トレイ36と台座35を貫通し、回収トレイ36の底面から上方に突出している。
図に示すように、基台16にはX軸ガイドユニット39がX軸方向に延在している。X軸ガイドユニット39は、サーボモータ40に接続されたX軸ボールネジ41に螺着され、X軸ボールネジ41にはスライドユニット42が螺着されている。サーボモータ40を駆動させると、スライドユニット42がX軸方向に進退移動することができる。
スライドユニット42には、サーボモータ43の回転軸に接続された上下方向に延びるZ軸ボールネジ44が取付けられている。Z軸ボールネジ44には、このネジ部に螺着する昇降ブロック45が取付けられ、サーボモータ43が駆動すると、昇降ブロック45が上下動するように構成されている。昇降ブロック45には、クランク形状の支持部材46が取付けられている。支持部材46の先端部にはディスペンスバルブ47を取付け、ディスペンスバルブ47の下端部には、コーティング液を吐出するノズル48が配設されている。支持部材46には、Y軸方向にノズル48位置を調整するための調整スライダ50が取付けられている。ノズル48の中心位置、及びプライマー側レンズ支持装置4のスピン軸32の中心位置合わせは、スライドユニット42及びスライダ50によって調整ができる。
コーティング装置1の基台16には、ディスペンスバルブ47のノズル48を浸漬するためのノズル待機槽72が設けられ、ノズル待機槽72には溶媒が溜められている。
レンズ乾燥装置6は、本実施の形態では3つの箱からなり、1つのレンズ乾燥ボックスは、各ボックスが2枚の仕切り板51で上下に区画されることによって、各ボックスに収容室52が3室設けられ、全体として9室が形成されている。各収容室52は開口を一方のハンドリング装置12側に向け、各収容室52の底部には、レンズ支持軸53が垂直方向に立設され、レンズ支持軸53の上端部にはレンズ15が支持できるように形成されている。
図7は、フォトクロミックスピン装置7、フォトクロミック液塗布装置8及びコーティング液の塗膜均一化装置9を示している。
フォトクロミックスピン装置7は、基台16のほぼ中央部に設けられ、基台16から上方側に突出する円形台座55を形成している。基台16の内部にはガイドレール56が設けられている。ガイドレール56には、図示しない空圧力で上下(垂直)方向にガイドレール56のレール56aを摺動するレンズ支持部材57が設けられている。レンズ支持部材57にはサーボモータ58が固定され、サーボモータ58には上方に延びるスピン軸59が取付けられ、レンズ支持部としてのスピン軸59は円形台座55に形成された孔55aを貫通している。なお、スピン軸59の中心部には吸着孔が設けられ、吸着孔には図示しない空気吸引手段と接続され、レンズ15を支持できるようにしている。スピン軸59の周囲には、フォトクロコーティング液を回収するトレイ60が配設されている。
Z軸スライドユニット78には、上部にサーボモータ79が取付けられ、軸受け80,81に軸支されたZ軸ボールネジ82には、これに螺着するボールナットを備えた昇降ステージ83が取付けられている。サーボモータ79が回転すると、昇降ステージ83は上下動することができる。昇降ステージ83の上部には、スピン軸59側に延びるアーム84を設け、アーム84の先端部にはフォトクロミックコーティング液の膜厚を均一化するためのPETフィルムなどのプラスティックフィルムからなる可撓性フィルム86を垂下させている。Y軸サーボモータ74を駆動させて、昇降ステージ83を横方向に移動させると、フィルム86はレンズ15の中心上の半径方向の軌道を通る。
摺動ロッド116には、取付板112と把持部118aとの間にバネ120を配設し、固定ロッド117に把持部118aが摺動できるように構成されている。へら板119は、へら板119とレンズ15の当接部である側縁部(エッジ)121の上端側が、レンズ15の中央側に傾斜するように配置し、へら板119の側縁部121がレンズ15の側面15aの上縁部15bに当接するようにしている。詳しくは、へら板119の上方(へら板119の側縁部121の上方)をレンズ15の中心軸C方向へ傾斜させて、かつ、へら板119の平板面119aは、上述したように、平板面119aの板面が、側縁部121とレンズ15の上縁部とが当接する当接部Pとレンズ15の中心軸Cを通る面上に配置されている。
へら板119の先端は、図9に示すように、レンズ15に当接する先端部を面取りするように傾斜面121aを形成し、その先端部をエッジ形状としている。へら板119の材質は、ポリプロピレンやテフロン(登録商標)などの樹脂やステンレスなどの金属が使用できる。中でも、レンズのコーティングを連続して行う場合には、レンズを構成する材質よりも硬い材質よりなるへらを板を使用することが好ましく、例えば、ステンレス製のへら板を使用することが好ましい。
UV装置10は、図示しない昇降手段によりメインブロック88が、上下方向に昇降することができる。メインブロック88には、レンズ15の直上方に配置されるUVランプ89が設けられている。
UVランプ89の下部には、レンズ15を囲みステンレスからなる筒体90が設けられている。筒体90の周囲には、コイル状に巻回する冷却パイプ91が配設され、冷却パイプ91の内部には冷却水が循環することができる。筒体90の上部には、ガス供給口92が設けられ、筒体90内に不活性ガスであるN2を導入することができる。N2は筒体90の下部に設けたガス排出口93から筒体90外へ排出される。筒体90の上部には、UV光を透過させるためのホウケイ酸ガラス製の窓94が設けられている。
基材として、例えば、チオウレタン樹脂製のレンズ基材を用い、図2のフロー図に示すように前処理として、アルカリ水溶液や、超音波洗浄によるレンズ15の洗浄を行う。
次いで、コーティング装置1による作業が行われ、図2に示すセンタリング装置2に、レンズ15をセットする。レンズ15は、外径の大きさに応じた段部d1〜d5のいずれかに適合されることによって、センタリングがされる。レンズ15のセットは、人手によって行うが、機械的にハンドリング装置で行ってもよい。
レンズ15は、レンズ高さ計測装置3によって、レンズ15の高さ、図12のA及び図12のBに示すレンズ15の表面側のセンターcからレンズ15のレンズの側面(コバ)15aまでの高低差h’を検知する。レンズ15の高さを求めるのは、レンズ15を塗布装置5,8のノズル48,68の高さに合わせるためである。レンズ15の高低差h’を検知するのは、レンズ15の勾配を求め、レンズ15のスピン条件を決定するためである。
この式で算出した高差h’や曲率半径Rの大きさから導き出したレンズ15の勾配に応じて、次工程でのレンズ15の回転数、回転時間等が定められる。
次いで、レンズ15のプライマコーティング作業が行われる。
図12のCに示すように、プライマコーティング作業は、ディスペンスバルブ47のノズル48をレンズ15の中心にセットしておき、昇降ブロック30のサーボモータ31を駆動してスピン軸32を回転させながら行なう。そして、レンズ15の中心cからコバbまでの直線ラインに対して、上方に約10mm以下の間隔hを開けて、かつその直線ラインに平行にノズル48をレンズ15の中心の直上方からレンズの上面端縁まで、レンズ15の半径方向へ直線移動させて行う。
このとき使用されるプライマコーティング液としては、密着性の観点から、特にウレタン系プライマー樹脂が好ましく用いられる。このようなウレタン系プライマー樹脂は、WO2004/078476に詳細が記載されている。
コーティング作業が終了した後は、ディスペンスバルブ47のノズル48の乾燥を防止するため、ノズル48の先端をレンズ待機槽72の溶媒中に浸ける。
フォトクロミックコーティング液としては、この種の用途に用いられている各種のフォトクロミックコーティング液、即ちフォトクロミック化合物を含有する光硬化性組成物のうち、25℃における粘度が80〜1000センチポアズであるものが使用される。25℃における粘度が80未満のものを使用した場合にはレンズ側面への付着を防止することができず、1000センチポアズを越えるものを使用した場合には操作性が悪く均一な厚さで延展することが困難となる。レンズ側面への付着防止および操作性の観点から25℃における粘度が100〜500cP、さらには110〜400cP、特には120〜300cPのフォトクロミックコーティング液が好ましく採用でき、最も好ましくは120〜200cPのフォトクロミックコーティング液を採用することができる。
(i)ウレタンオリゴマー中にフォトクロミック化合物を溶解させてなるフォトクロミックコーティング剤(WO98/37115参照)。
(ii)単官能、2官能および多官能ラジカル重合性単量体を組み合わせた重合性単量体組成物にフォトクロミック化合物を溶解させてなるフォトクロミックコーティング剤(米国特許第5914174号公報参照)。
(iii)2種類以上の2官能(メタ)アクリルモノマーのみの組み合わせからなるモノマー組成物にフォトクロミック化合物を溶解させてなるフォトクロミックコーティング剤(WO01/02449参照)。
(iv)N―アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、触媒(好ましくは酸性触媒)及びフォトクロミック化合物等からなるフォトクロミックコーティング剤(WO00/36047参照)。
(v)シラノール基または加水分解によりシラノール基を生成する基を有するラジカル重合性単量体を含有するラジカル重合性単量体、アミン化合物およびフォトクロミック化合物を夫々特定量含有してなるフォトクロミックコーティング剤(WO03/011967号パンフレット)。
(vi)ラジカル重合性単量体成分、シリコン系またはフッ素系界面活性剤およびフォトクロミック化合物を含有してなるフォトクロミックコーティング剤(WO2004/078476参照)。
これらの中でも特に(vi)のフォトクロミックコーティング剤が、前記したウレタン系プライマー樹脂に対する密着性の観点から、好ましく用いられる。
図9及び図13のAに示すように、フォトクロミックコーティング作業では、レンズ15の側面15aの上縁(角)部15bに、へら固定用冶具111の図9におけるへら板119の側縁部121を当接させる(工程(E))。この際、図示しない移動手段によりアーム113をスピン軸59の方向へ前進させ、コーティングするレンズの直径に応じて自動的にへら板119の位置を調整する。へら板119の側縁部121は、上端部が垂線を基準として5〜35度の角度(γ1=5〜35°)でレンズ15の中心側に傾斜させて配置すると特に好ましい結果となった。
本実施の形態では、図13のBに示すように、ノズル68の先端をレンズ15の中心位置(レンズ15の回転軸上で、レンズ15の表面から1mm程度上方の位置)に固定した状態で、レンズ15の表面へコーティング液を吐出する。
塗膜均一化装置9によりレンズ15上に移送されたフィルム86が、レンズ15上で撓んだ状態でレンズ15を回転させると、フィルム86によって一部堰止められたコーティング液がレンズ15上に一時的に溜まる。溜まったコーティング液は、フィルム86の復元力によってほぼ均一の厚さに押し延ばされる。この状態を保ちながら、フィルム86をレンズ15のセンターからレンズ側面(上縁部)までの直線軌道に沿って徐々に移動させる。このとき、フィルム86を移動させる方向は、レンズ基材中心に対してへら板が当接する方向とは逆の方向とすることが好ましい。また、このフィルム86によりコーティング液を延展する間は、例えば50〜150rpmでレンズ15をスピンさせることが好ましい。
この段階では、レンズ15上のフォトクロミックコーティング液量は、目的とするフォトクロミック被膜の膜厚よりも多くなり、レンズ15上の余分なコーティング液を目的とする液量まで取り除く必要がある。コーティング液の適量化は、レンズ15を回転させて、レンズ15上のコーティング液を振り落とす作業を行う。レンズ15の回転数は、装置内温度とレンズ15の勾配に応じた条件で決定され、フィルム86によりコーティング液を延展する間の速度よりも速い速度で、例えば550〜650rpmでレンズ15をスピンさせることが好ましい。
へら固定用冶具111のバネ120は、へら板119を支持する把持部118aをレンズ15側にほぼ一定の力で押圧する役割を果たす。へら板119によりへら板119を伝わって除去されたコーティング液は、へら板119にそのまま付着しているか、若しくはへら板119からトレイ60に滴下して回収される。
このように、本実施形態では、コーティングの際、へら板119の側縁部121をレンズ15の上縁部15bと当接させて、レンズ15の側面15aへコーティング液が付着するのを防ぐことが可能とし、フォトクロミックコーティング液の拭き取りや研磨処理を省略することができる。図5に示すような、プライマコーティング液の裏面洗浄用ノズル85などが必要なくなる。また、特許文献1に用いられているようなレンズの側面に配置されているコーティング溶液除去部材(図14参照)は、必要がなくなる。
このように、へら板119を用いて、余分なフォトクロミックコーティング液を除去すると、上述したように、レンズ15の裏面を研磨しないフィニッシュレンズの場合に、特に効果がある。
以上、前記工程(E)を前記工程(A)の終了後で且つ前記工程(B)の開始前に行う態様について説明したが、工程(E)は、工程(C)においてフォトクロミックコーティング液がレンズ周縁部に到達する前に行えばよい。
より制御を簡略化し、より効果を確実に得ることができるという観点からは、工程(C)の開始時には工程(E)を終了していることが好ましい。このような対応としても、コート層を有するレンズは、製品として何ら問題のないものを得ることができる。
一方、高品質な製品を歩留まりよく製造するためには、前記工程(E)を、前記工程(A)終了後であって、前記工程(C)においてレンズの上面に供給された光硬化性コーティング液が、レンズ表面の、好ましくは50%〜98%、より好ましくは60〜98%、さらに好ましくは70〜98%、特に好ましくは90〜98%の面積まで延展された際に行うことが好ましい。こうすることにより、コーティング時にへら板が与える振動の影響をより少なくでき、光硬化性コーティング液をより高度に均一に延展できるものと考えられる。その結果、コーティング後のレンズには、干渉模様が見られる場合があるが、この干渉模様がきれいに円形に広がっている、高品質な製品を歩留まりよく製造することができる。
なお、本発明の効果は所定の粘度を有するフォトクロミックコーティング液を用いた場合に最も顕著であるが、粘度が所定の条件を満たすものであればフォトクロミック化合物を含有しない光硬化性コーティング液を使用することもできる。
図10に示すように、UV装置10の筒体90でレンズ15を囲み、筒体90内を窒素置換する。UV装置10は、UVランプ89の高さ位置が合わせられると、レンズ15を回転させながらUVランプ89を照射させてコーティング塗膜を硬化させる。
レンズ15の外観不良、レンズの側面に不均一に付着したコーティング液により、等方性が失われレンズに光学的な歪が生じることが防止され、ハードコート処理や反射防止膜コート処理等の後工程における専用治具とのサイズが合わなくなる不具合が生じることが防止され、さらには、レンズの側面にプライマー層が不均一と付されているときに生じるコート膜の剥がれが防止できる。
(実施例1)
図1に示すコーティング装置を用いて次のような手順でアリル樹脂プラスチックレンズ基材15(CR;屈折率=1.50、コバ厚3.8mm)の表面にフォトクロミックコート層を形成した。
即ち、先ず、レンズ15をアセトンで十分に脱脂し、プライマーとして竹林化学工業株式会社製湿気硬化型プライマー『タケシールPFR402TP−4』及び酢酸エチルをそれぞれ50重量部となるように調合し、更にこの混合液に対して東レ・ダウコーニング株式会社製レベリング剤『FZ−2104』を0.03重量部添加し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌し、プライマー組成物を得た。これをCR表面にスピンコートした後に室温で15分間硬化することにより、プライマー層を有するレンズ基材を作成した。
その後、別途調製したフォトクロミックコーティング液(25℃における粘度は130cPで)を収容した容器66のノズル68をレンズ15の直上方に配置し、ノズル68からレンズ15表面にフォトクロコーティング液1gを吐出した(工程(B))。次いで、レンズ基材15を100rpmで回転させながらフィルム86をレンズ15のセンターに当接させこれをレンズ側面(上縁部)までの直線軌道に沿って徐々に移動させることによりフォトクロミックコーティング液を延展した。次いで、600rpmまで回転速度を上昇させ余分なフォトクロミックコーティング液を除去した(工程(C))。このとき、余分なフォトクロミックコーティング液は、へら板に案内され、レンズ15の側面15a側に付着することなく除去された。
このようにして製造したフォトクロミックコート層を有するレンズ基材を目視により観察したところレンズの側面及び裏面にフォトクロミックコーティング液の硬化体は付着していなかった。
フォトクロミックコーティング液として25℃における粘度が40cPのものを使用した他は実施例1と同様にしてプライマー層の形成及びフォトクロミックコート層の形成を行った。得られたフォトクロミックコート層を有するレンズ基材を目視により観察したところレンズの側面にフォトクロミックコーティング液の硬化体が付着していた。
へら板を当接させる時期を変更し、延展終了後にへら板を当接させて回転数を上げて余分なフォトクロミックコーティング液を除去した他は実施例1と同様にしてプライマー層の形成及びフォトクロミックコート層の形成を行った。得られたフォトクロミックコート層を有するレンズ基材を目視により観察したところレンズの側面にフォトクロミックコーティング液の硬化体が付着していた。
実施例1において、ラジカル重合性単量体の配合割合を変えて、25℃における粘度が150cPのフォトクロミックコーティング液を使用した以外は、実施例1と同様にしてプライマー層の形成及びフォトクロミックコート層の形成を行った。得られたフォトクロミックコート層を有するレンズ基材を目視により観察したところ、レンズの側面及び裏面にフォトクロミックコーティング液の硬化体は付着していなかった。
実施例1において、ラジカル重合性単量体の配合割合を変えて、25℃における粘度が195cPのフォトクロミックコーティング液を使用した以外は、実施例1と同様にしてプライマー層の形成及びフォトクロミックコート層の形成を行った。得られたフォトクロミックコート層を有するレンズ基材を目視により観察したところ、レンズの側面及び裏面にフォトクロミックコーティング液の硬化体は付着していなかった。
実施例1において、へら板119の側縁部121が、上端部が垂線を基準として5度の角度(γ1=5°)でレンズ基材15の中心側に傾斜させて配置した以外は、実施例1と同様にしてプライマー層の形成及びフォトクロミックコート層の形成を行った。得られたフォトクロミックコート層を有するレンズ基材を目視により観察したところ、レンズの側面及び裏面にフォトクロミックコーティング液の硬化体は付着していなかった。
実施例1において、外径75mmのアリル樹脂プラスチックレンズ15(CR;屈折率=1.50、曲率5、コバ厚2mm)を使用し、かつ、へら板119の側縁部121が、上端部が垂線(中心軸C方向:図9参照)を基準として5度の角度(γ1=5°)となるようにレンズ15の中心側に傾斜させて配置した以外は、実施例1と同様の操作を行い、フォトクロミックコート層を有する10枚のレンズを得た(フォトクロミックコーティング液も実施例1と同じものを使用した。)。
得られたレンズを目視にて確認したところ、10枚ともレンズの側面及び裏面にフォトクロミックコーティング液の硬化体は付着していなかった。得られたレンズの上面を目視にて確認したところ、10枚中5枚において、楕円状の干渉模様が見られた。ただし、このレンズを含めて、10枚とも製品として何ら問題のないものであった。
実施例5において、先ず、レンズ15を100rpmで回転させながらフィルム86をレンズ15のセンターに当接させ、これをレンズ側面まで直線軌道に沿って徐々に移動させることによりフォトクロミックコーティング液を延展した。次いで、フォトクロミックコーティング液がレンズ15の表面の60%の面積まで延展された際に、へら板119の側縁部121が、上端部が垂線(中心軸C方向:図9参照)を基準として5度の角度(γ1=5°)となるようにレンズ15の中心側に傾斜させて配置した。これらの操作以外は、実施例5と同様の操作を行い、フォトクロミックコート層を有する10枚のレンズ基材を得た。
得られたレンズ基材を目視にて確認したところ、10枚ともレンズの側面及び裏面にフォトクロミックコーティング液の硬化体は付着していなかった。得られたレンズ基材の上面を目視にて確認したところ、10枚中2枚において、楕円状の干渉模様が見られた。ただし、このレンズ基材を含めて、10枚とも製品として何ら問題のないものであった。
実施例6において、フォトクロミックコーティング液がレンズ基材15の表面の95%の面積まで延展された際に、へら板を配置した以外は、実施例6と同様の操作を行い、フォトクロミックコート層を有する10枚のレンズ基材を得た。
得られたレンズ基材を目視にて確認したところ、10枚ともレンズの側面及び裏面にフォトクロミックコーティング液の硬化体は付着していなかった。得られたレンズ基材の上面を目視にて確認したところ、10枚とも円状の干渉模様であり高品質のレンズが得られた。
Claims (6)
- (A)レンズを支持して回転させるスピン装置にレンズ面を上向きにして保持する工程、
(B)前記スピン装置に保持されたレンズの上面に光硬化性コーティング液を供給する工程、
(C)レンズを回転させながら、レンズの上面に供給された光硬化性コーティング液を可撓性フィルムによって延展する工程、及び
(D)前記工程(C)によって得られる“上面に延展された光硬化性コーティング液からなる塗膜を有するレンズ”に光線を照射して当該塗膜を硬化させてコート層を形成する工程
を含んでなるコート層を有するレンズの製造方法において、
前記光硬化性コーティング液として25℃における粘度が80〜1000センチポアズであるものを使用すると共に、(E)へら板の上方をレンズの中心側に傾斜させて、前記スピン装置に保持されたレンズの上縁部に前記へら板の側縁部を当接させる工程を更に含み、該工程(E)を、前記工程(A)の終了後であって前記工程(C)において光硬化性コーティング液がレンズ周縁部に到達する前に行い、光硬化性コーティング液の延展時に余分な光硬化性コーティング液を前記へら板を介して除去することを特徴とする方法。 - 前記へら板の平板面が、前記へら板の側縁部とレンズの上縁部とが当接する当接部とレンズの中心軸を通る面上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記工程(E)を、前記工程(A)の終了後であって前記工程(C)の開始前に行う請求項1または2に記載の方法。
- 前記工程(E)を、前記工程(A)の終了後であって前記工程(C)においてレンズの上面に供給された光硬化性コーティング液がレンズ表面の50%〜98%の面積まで延展された際に行う請求項1または2に記載の方法。
- 前記光硬化性コーティング液がフォトクロミックコーティング液であることを特徴とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
- 前記工程(A)でセットするレンズとしてレンズ面にプライマー層が形成されたレンズを使用することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
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