しかし、特許文献1で開示されたX線管の放熱構造では以下のような問題点がある。先ず、X線管の陽極の接合された熱伝導部材は絶縁油中に表面がさらされているために、熱伝導部材を通しての熱伝導中にその表面から絶縁油に熱が伝達され、その熱が容器内全域の絶縁油に拡散されてしまい、X線管の陽極で発生した熱を効率よく容器の放熱面に伝達することは困難である。また、実際に、X線管の陽極端部と容器の放熱面との間に熱伝導部材を連結する場合、熱伝導部材のX線管陽極端接合側端部と容器放熱面接合側端部の両方に連結用部材などを追加する必要があり、その連結構造が複雑化する。また、X線管の容器への固定では、X線管の外囲器の部分での固定と陽極端の部分での熱伝導部材による固定という異なる2方向からX線管を固定することになるため、X線管、熱伝導部材を含めた連結部材、容器の放熱面などの構成部品に対し、機械的に高い寸法精度が要求される。これらのことは、上記部材の熱膨張を考慮した場合には、一層困難なことであり、しかも冷却構造の高コスト化を招くことになる。
また、特許文献2及び特許文献3で開示された外科用X線TV装置での放熱構造においても、X線管装置のハウジング内のX線管などの熱源からの熱は先ずハウジング内の絶縁油に伝達され、その後放熱部に伝達されることになるため、その熱は放熱の初期の段階でハウジング内全域の絶縁油に拡散されることになってしまい、熱源で発生した熱を効率よくハウジングの放熱面(ヒートパイプ取付面)や放熱パイプの絶縁油の入口に伝達するのは困難である。
以上に鑑み、本発明では、容器の内部で発生する発熱を効率良く外部へ放出できる内部構造を有する一体形X線発生装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の一体形X線発生装置は、容器内にX線管、高電圧発生回路、絶縁油などを収容し、容器の外壁面の一部に放熱効率を向上させる放熱機構を設けた一体形X線発生装置において、容器内に1個以上の放熱用開口と複数個の絶縁材料から成る壁面を有する筐体(以下、遮蔽ケースという)を備え、該遮蔽ケースはその放熱用開口が容器の放熱機構を設けた壁面(以下、冷却壁面という)に対向するように配設され、前記遮蔽ケース内に容器内の主な発熱部と一部の絶縁油が内包されるものである(請求項1)。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記遮蔽ケースの壁面は熱伝達率の低い断熱材料で作られている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記遮蔽ケースの少なくとも1個の壁面に1個以上の通油孔が設けられている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記遮蔽ケースの外形が大略直方体であり、その外形面の少なくとも一面が放熱用開口となっている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記遮蔽ケースの外形は複数個の平面と1個以上の曲面とから成り、該曲面は遮蔽ケース内に内包される主な発熱部の外形の一部と類似に形成されており、前記平面のうちの少なくとも一面が放熱用開口となっている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記遮蔽ケースは2個又は3個の放熱用開口を有し、この2個の放熱用開口は前記遮蔽ケースの外形面の隣接した2面又は3個に設けられている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記容器の冷却壁面が熱伝導性の良い金属材料で作られている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記主な発熱部がX線管の陽極である(請求項2)。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記主な発熱部は2個以上であり、それぞれの主な発熱部を内包する前記遮蔽ケースを備えている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記主な発熱部の一つが高電圧発生回路の高電圧変圧器である。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記遮蔽ケースは前記放熱用開口のうちの少なくとも1個の放熱用開口に対向する前記容器の冷却壁面が前記容器の上方の壁面に配設されている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記放熱機構は放熱フィンと冷却ファンとから構成され、前記放熱フィンが前記容器の冷却壁面の外側面に設置され、前記放熱フィンに対向して前記冷却ファンが配設されている(請求項3)。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記放熱機構が前記容器を設置するための装置設置用金具であり、該装置設置用金具は熱容量が大きく、かつ熱伝導性の比較的良い金属材料から成り、該装置設置用金具の一部又は全部に直接的に又は他の熱伝導性の良い部材を介して、前記容器の少なくとも1個の冷却壁面が結合されている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記放熱機構がX線装置の支持アームであり、該支持アームの先端部が熱伝導性の良い材料で形成され、該先端部に直接的に又は熱伝導性の良い部材を介して、前記容器の少なくとも1個の冷却壁面が結合されている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記容器内に収容される高電圧発生回路などに供給する入力電圧を生成する入力電源部(以下、X線管入力電源部という)を備えている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記X線管入力電源部を収容する筐体(以下、入力電源部ケースという)を備え、該入力電源部ケースは前記放熱機構の冷却ファンを間に挟んで前記容器と連結されており、前記容器の壁面と前記入力電源部ケースの壁面にて前記冷却ファンの風洞を形成している。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記容器の壁面に1個以上の通気孔を設け、該通気孔に防塵用のフィルタを装着したものである(請求項4)。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記容器は、これに収容された絶縁油の油面の少なくとも一部に接する空気層を内包し、前記容器の壁面の前記空気層とは接するが、前記油面とは接しない位置に前記通気孔が設けられている。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記フィルタは高い通気性、耐油性、耐水性を有する。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記容器の外部にX線放射方向を変化させる支持機構を有する。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記支持機構として前記容器を水平方向および垂直方向に回転させてX線放射方向を変化させる回転支持機構を有する。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記回転支持機構は垂直方向の回転角度を制限するリミッタ機構を有する。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記筐体内に収納された発熱部と前記容器の内壁面との間に、熱伝達率の高い電気的絶縁物質(以下、熱伝導部材という)を介在させたことを特徴とする。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記熱伝導部材の形状が、円錐状であることを特徴とする。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記熱伝導部材の断面形状が、2つの台形の下底辺を突合せた形状であることを特徴とする。
また、本発明の一体形X線発生装置では、前記熱伝導部材が、導電物質を介して積層した多層構造を有することを特徴とする。
本発明の一体形X線発生装置は、容器内に1個以上の放熱用開口を有する遮蔽ケースを備え、この遮蔽ケースはその放熱用開口が容器の放熱機構を設けた冷却壁面に対向するように配設され、遮蔽ケース内に容器内の主な発熱部と一部の絶縁油を内包するので、遮蔽ケース内の主な発熱部で発生した熱はその周囲の絶縁油に伝達され、更に絶縁油の対流により発熱部周辺から放熱用開口を経て冷却壁面へと向かい、絶縁油から冷却壁面に伝達された後、容器の放熱機構から容器の外部へと熱放散される。このとき、遮蔽ケース内の絶縁油の量が少ないため、その絶縁油の温度は遮蔽ケース外の絶縁油の温度よりも大幅に高くなり、遮蔽ケース内の絶縁油と接触する容器の冷却壁面及び放熱機構の温度も容器の他の壁面の温度より大幅に高くなり、放熱機構と外気との温度差を大きくとることができ、放熱機構の放熱効率を大幅に高めることができる。また、絶縁油の温度が上昇するのは、遮蔽ケース内に限定されるので、遮蔽ケース外の絶縁油の温度は低温に保持される。この構成では、特許文献1の従来例のようにX線管の陽極で発生した熱が連結部材を伝導中に周囲の絶縁油に奪われて熱拡散し、放熱効率が低下するということはなくなり、また、上記従来例のようにX線管の陽極と容器の内壁面との間に連結部材を挿入して直接連結するというような複雑で高精度を要するような構造をとっていないため、構造が簡略化され、安価な方式で、放熱効率の高い一体形X線発生装置を実現することができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、遮蔽ケースの壁面が断熱材料で作られているので、遮蔽ケース内の発熱部で発生した熱は、絶縁油に伝達された後、遮蔽ケースの壁面から外側へ殆んど漏れることなく、絶縁油の対流によって発熱部から冷却壁面に向けて移動し、冷却壁面から放熱機構を経由して容器の外部へ効率良く熱放散される。このため、遮蔽ケース内の絶縁油が高温になっても、遮蔽ケースの外側の絶縁油の温度は低温に保持される。
また、本発明の一体形X線発生装置では、遮蔽ケースの壁面に通油孔を設けているので、遮蔽ケースの内外の絶縁油がこの通油孔を通して流通し、これとともに、遮蔽ケース内の高温の絶縁油と遮蔽ケース外の低温の絶縁油との間で熱交換が行われるため、遮蔽ケース内の絶縁油の過熱を防止することができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、遮蔽ケースの外形が大略直方体であり、その外形面の少なくとも一面が放熱用開口となっているので、その平面状の放熱用開口を容器の冷却壁面に対向するように、遮蔽ケースを容器の内壁に容易に取り付けることができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、遮蔽ケースの外形の一部が内包される主な発熱部の外形の一部と類似な曲面で形成されているので、遮蔽ケース内に設置された主な発熱部の周辺における絶縁油の流れがスムーズとなり、絶縁油の対流が良好に行われるため、主な発熱部で発生した熱の伝達効率が向上し、装置全体としての放熱効率も向上させることができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、遮蔽ケースが隣接する2個又は3個の放熱用開口を有しているので、1個の放熱用開口の場合に比べて、放熱用開口の面積が大略2倍又は3倍となり、これに伴ない、容器の冷却壁面の面積や放熱機構の冷却能力も大略2倍又は3倍とすることができ、遮蔽ケース内の主な発熱部の放熱効率を大幅に向上することができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、容器の冷却壁面が熱伝導性の良い金属材料で作られており、この冷却壁面に放熱機構が設置されているので、この冷却壁面に対向して配置された遮蔽ケースに内包された発熱部で発生した熱を対流によって熱伝達する絶縁油から熱を冷却壁面が受け取り、効率良く放熱機構に熱伝達することができ、装置としての熱放散効率の向上に寄与することができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、遮蔽ケースに内包される主な発熱部がX線管の陽極であるので、X線管の陽極で発生した熱は遮蔽ケース内の絶縁油による熱伝達のみによって処理され、容器の冷却壁面及び放熱機構を経由して効率良く容器外に放熱される。その結果、遮蔽ケース外の絶縁油の温度は殆んど上昇することなく保持され、また、遮蔽ケース内の絶縁油の温度も極端に上昇することはないので、装置は安定した動作を長時間維持することができる。また、X線管の支持に関しては特許文献1の如く陽極を高精度で支持する必要がないので、陽極支持のための部品や作業が不要となり、装置の製造コストを低減することができる(請求項2)。
また、本発明の一体形X線発生装置では、容器内の主な発熱部は2個以上であり、それぞれの主な発熱部を内包する遮蔽ケースを備えているので、それぞれの主な発熱部で発生した熱はそれぞれの遮蔽ケース内の絶縁油による熱伝達のみによって処理され、容器の冷却壁面及び放熱機構を経由して効率良く容器外に放熱される。その結果、遮蔽ケース外の絶縁油の温度は殆んど上昇することなく保持される。
また、本発明の一体形X線発生装置では、主な発熱部の一つが高電圧発生回路の高電圧変圧器であるので、高電圧発生回路を主な発熱部である高電圧変圧器と低温に保持する必要がある高電圧整流回路とに分離して、前者を遮蔽ケース内に収容し、後者を遮蔽ケース外の絶縁油中に配設することになり、前者は遮蔽ケースを用いて効率的に放熱が行われ、後者は低温に保持されて高温による障害を受けることなく、機能を十分に発揮することができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、遮蔽ケースは1個の放熱用開口を有し、その放熱用開口に対向する容器の冷却壁面が容器の上方の壁面に配設されているので、遮蔽ケース内で主な発熱部で加熱された絶縁油は温度上昇により上方向きの対流を起こし易くなるため、遮蔽ケースの上方に配置された容器の冷却壁面に向けて移動し、冷却壁面へ効率良く熱伝達することができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、放熱機構として放熱フィンと冷却ファンとの組合せを用い、放熱フィンを容器の冷却壁面の外側面に設置しているので、容器内の遮蔽ケースに内包される発熱部で発生した熱は容器の冷却壁面に伝達された後、放熱フィンに伝達され、冷却ファンの送風により大気中に放熱される。放熱フィンと冷却ファンの組合せは冷却能力が大きいので、装置全体としての放熱効率は向上し、容器内の絶縁油の温度上昇を低減することができる(請求項3)。
また、本発明の一体形X線発生装置では、容器を設置するための装置設置用金具を放熱機構とし、容器の冷却壁面が装置設置用金具に熱伝導性を良くした状態で結合されるようにしているので、容器内の遮蔽ケースに内包される発熱部で発生した熱は容器の冷却壁面に伝達された後、熱容量の大きい装置設置用金具に伝達されて放熱される。この場合、放熱フィンや冷却ファンなどを使用することなく、容器を設置するための装置設置用金具のみで放熱することができるので、装置の製造コストを低減することができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、X線装置の支持アームを放熱機構とし、支持アームの先端部の先端部に容器の冷却壁面を熱伝達性を良くした状態で結合しているので、容器内の遮蔽ケースに内包される発熱部で発生した熱は容器の冷却壁面に伝達された後、熱伝導性の良い支持アームの先端部を経由して、支持アーム本体に伝達されて放熱される。この場合も、放熱フィンや冷却ファンなどを使用することなく、支持アームの先端部に結合するだけで放熱できるので、装置の製造コストを低減することができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、X線管入力電源部を備えているので、装置に50/60Hzの商用電源を供給するのみで、X線管を動作するための高電圧やフィラメント加熱電圧などを発生し、X線管に供給することができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、入力電源部ケースを備え、この入力電源部ケースにて冷却ファンの風洞を形成しているので、冷却ファンの風洞を別個に設ける必要がなく装置の製造コストの低減に寄与する。また、入力電源部ケースが放熱機構をカバーすることになるので、装置の外観も良くなり、強度も向上する。
また、本発明の一体形X線発生装置では、容器の壁面に防塵用のフィルタを装着した通気孔を設けているので、この通気孔を通して容器の内外で空気の流通を行うことにより、容器内に収容された絶縁油の膨張、収縮による体積の変化に対応できるので、ベローズなどの緩衝部材を省くことが可能となり、装置の構造が単純化され、装置のコスト低減が可能となる。また、通気孔に防塵用フィルタを装着しているので、絶縁油に塵埃が混入するのが防止されるので、絶縁油の劣化が防止される(請求項4)。
また、本発明の一体形X線発生装置では、容器が絶縁油の油面と接する空気層を内包し、通気孔が空気層とは接し、油面とは接触しない位置に設けられているので、この通気孔を通して容器の内外の空気の流通が可能となるので、容器内に収容された絶縁油の膨張、収縮による体積の変化に対応できるので、ベローズなどの緩衝部材を省くことが可能となり、装置の構造が単純化され、装置のコスト低減が可能となる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、フィルタが高い通気性、耐油性、耐水性を有するので、通気孔を通しての容器の内外の空気の流通は維持され、フィルタへの少量の水や絶縁油の接触によってフィルタが劣化することはないので、通気孔の換気の機能は長時間維持可能である。
また、本発明の一体形X線発生装置では、容器の外部にX線放射方向を変化させる支持機構を有するので、これを容器に取り付けることにより、X線放射方向が角度変更可能となり、X線放射方向の自由度を高めることができる。これにより、例えば、食品などの品質検査におけるX線異物検査装置では、異物の混入位置を3次元で判別できる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、支持機構として容器を水平方向および垂直方向に回転させてX線放射方向を変化させる回転支持機構を有するので、水平方向の回転と垂直方向の回転の組合せで、X線放射方向をほぼ全ての方向に変化させることができる。
また、本発明の一体形X線発生装置では、回転支持機構が垂直方向の回転角度を制限するリミッタ機構を有するので、X線放射方向として、または装置の機構として垂直方向の回転角度を制限する場合には、このリミッタ機構を用いて有効に回転角度を制限することができる。容器の壁面に通気孔を有する装置と回転支持機構との組合せでは、特に回転角度を絶縁油の油面が通気孔に接触しない範囲に制限する場合などに有効である。
また、本発明の一体形X線発生装置では、遮蔽ケース内に収納された発熱部と容器の内壁面との間に、熱伝導部材を介在させているので、X線管の陽極等の発熱部から発生した熱が直接放熱機構へ伝達され、より効率的に放熱できる(請求項5)。
また、本発明の一体形X線発生装置では、熱伝導部材の形状を円錐状とする、あるいはその断面形状を2つの台形の下底辺を突合せた形状とする、あるいは導電物質を介して積層した多層構造とすることにより、発熱部がX線管の陽極である場合に、陽極と容器の冷却壁面との間の距離が小さい場合に生じうる絶縁破壊の問題や、熱伝導部材のエッジ部への電界集中の問題を解消することができる。これにより、X線管の陽極と容器の冷却壁面との距離を小さくすることができ、装置を更に小型化できる。
以下、本発明の実施例を添付図面にもとづいて説明する。
先ず、図1〜図4を用いて、本発明に係わる一体形X線発生装置の第1の実施例の構造について説明する。図1は、本発明に係わる一体形X線発生装置の第1の実施例の構成図、図2は本実施例に用いられる遮蔽ケースの第1の例、図3は遮蔽ケースの第2の例、図4は本実施例におけるX線管と遮蔽ケースとの位置関係を示す図である。
図1において、本実施例の一体形X線発生装置10は、大略直方体状の形状をした容器12と、容器12内に収容されるX線管14と、高電圧発生回路16と、フィラメント用変圧器18と、これらを絶縁する絶縁油20と、主な発熱部であるX線管14の陽極30の部分を他の部分とは分離して、一部の絶縁油40とともに収容する遮蔽ケース22と、容器12の壁面の一部を冷却するための放熱フィン26と、放熱フィン26を送風冷却するための冷却ファン28などで構成される。これらの構成要素の中で、放熱フィン26と冷却ファン28は容器12の壁面の外側に設置されている。また、本実施例では、容器12内の主な発熱部がX線管14の陽極30であるとして、発熱部で発生した熱の放熱処理方法を扱っているが、これは容器12内での発熱量の最も大きいのがX線管14の陽極30であるためであり、他の主な発熱部としては高電圧発生回路16の高電圧変圧器やフィラメント用変圧器18などがある。これらの主な発熱部についてもX線管14の陽極30と同様に扱うことができる。
容器12は形状が大略直方体状の筐体で、溶接などで油密に加工されている。容器12の上面は通常蓋となっており、油密に封じられている。容器12の壁面12aの材料としてはアルミニウムや銅や鉄鋼などが用いられる。本実施例ではアルミニウムが用いられている。容器12の壁面12aの一部には放熱機構としての放熱フィン26が設置される冷却壁面24が設けられる。図示では、冷却壁面24は容器12の上方の壁面12aに設けられている。装置としての放熱効率を良くするために、冷却壁面24はアルミニウムや銅などの熱伝導性の良い金属材料で作られている。冷却壁面24の熱伝導性を良くすることにより、容器12内の主な発熱部からの熱を放熱フィン26に効率良く伝達することができる。本実施例では容器12の壁面12a全体がアルミニウムで作られているので、冷却壁面24もアルミニウムであり問題はないが、容器12の壁面12aが鉄鋼などから成る場合は、冷却壁面24のみ熱伝導性の良い金属材料にする必要がある。
X線管14は、電子線を発生する陰極(図示せず)と、電子線が衝突してX線を発生するターゲットを備えた陽極30と、陰極と陽極30とを対向させて絶縁支持し、真空気密に内包する外囲器32などを有し、外囲器32にはターゲットで発生したX線を外部に放射するためのX線放射窓34が取り付けられている。また、X線管14の陰極は、加熱されて熱電子を放出するフィラメントと、フィラメントから放出された熱電子を細いビーム状の電子線に集束する集束電極を有する。X線管14の陽極30はタングステンなどの高原子番号で高融点の金属材料から成るターゲットを銅などの高熱伝達率の金属材料に埋め込んだもので、全体としては棒状体で、陽極端がX線管14の外部に露出している。ターゲットの表面は陰極の集束電極と対向して配置されている。外囲器32は大略円筒状をしており、大部分がガラスやセラミックなどの耐熱性絶縁材料から成り、陽極30のターゲットに近接する位置にX線放射窓34が取り付けられている。X線放射窓34は中央部にベリリウムなどのX線透過性の良い金属材料から成る窓を有する金属ブロックで、X線管14を支持するために用いられる場合もある(本実施でも、X線管14は、X線放射窓34を容器12の壁面12aに結合することにより支持されている)。
高電圧発生回路16は、高電圧変圧器と高電圧整流回路とから成り、高電圧変圧器で昇圧された交流の高電圧が高電圧整流回路で整流され、この整流された高電圧がX線管14の陰極と陽極30との間に供給される。高電圧発生回路16としては通常中性点接地方式が採用され、X線管14の陰極には負電位の高電圧、陽極30には正電位の高電圧がそれぞれ印加される。フィラメント用変圧器18はX線管14の陰極のフィラメントを加熱するためのフィラメント加熱電圧を発生する絶縁変圧器で、10V前後の交流電圧を発生する。フィラメント加熱電圧は高電圧発生回路16からの負電位の高電圧とともにX線管14の陰極に供給される。
絶縁油20は、X線管14や高電圧発生回路16やフィラメント用変圧器18などを絶縁するとともに、X線管14などで発生する熱を対流によって熱伝達して、放熱する役割も分担する。本実施例では、特に遮蔽ケース22を容器12内の主な発熱部であるX線管14の陽極30を内包するようにその周囲に配置し、絶縁油20を遮蔽ケース22の外側の量の多い絶縁油20と、遮蔽ケース22内の量の少ない絶縁油40とに分離し、前者の絶縁油20については低い温度に保持し、主としてX線管14その他の絶縁を分担させ、後者の絶縁油40については適当な温度上昇を許容し、主として発熱部で発生した熱の効率的な熱伝達を分担させることにしている。また、本実施例では、絶縁油20は容器12に密閉される構造をとっており、図示されていないが容器12には絶縁油20の膨張、収縮を緩衝するベローズなどの緩衝部材が取り付けられている。特に断わらない限り以下の実施例でも同様である。
図2は、本実施例に用いられる遮蔽ケースの第1の例の外観図を示したものである。図2において、遮蔽ケース22は大略直方体状の筐体で、5個の平面状の壁面35を有し、上方は放熱のための開口(以下、放熱用開口という)36となっている。また、1個の側壁面35にほぼ正方形の開口38が設けられている。前者の放熱用開口36は絶縁油40の熱を容器12の冷却壁面24に放熱するためのもので、後者の開口(以下、陽極挿入口という)38はX線管14の陽極30を挿入するためのものである。陽極挿入口38には、X線管14の陽極30とともに外囲器32の部分も挿入されるため、その大きさは外囲器32の外径より少し大きめに作られている。図示の例では陽極挿入口38はほぼ正方形の形状をしているが、円形又は八角形などその他の形状のものであってもよく、その大きさはX線管14の外囲器32を挿入した場合に、両者の間に若干の隙間が生ずるものであればよい。また、遮蔽ケース22の下方壁面35に高電圧発生回路16から正電位の高電圧をX線管14の陽極30に供給するリード線を導入するための小孔(図示せず)も設けられている。
また、遮蔽ケース22の2個の対向する側壁35にはそれぞれ複数個(図示では3個ずつ)の小径の通油孔42が設けられている。この通油孔42は遮蔽ケース22の内外の絶縁油40、20の流通を許容するもので、この通油孔42を通して遮蔽ケース22内の高温になった絶縁油40が外部に漏れ、外部の低温の絶縁油20が流入することによって、遮蔽ケース22内の絶縁油40が過熱するのを防止するためのものである。通油孔42の個数は特に限定されるものではなく、1個以上あればよい。また、遮蔽ケース22の陽極挿入口38におけるX線管14の外囲器32との間の隙間も同様な役割を果たしている。
遮蔽ケース22の壁面35は、フッ素樹脂やフェノール樹脂やエポキシ樹脂などの耐油性、耐熱性及び断熱性を有する絶縁材料で作られている。遮蔽ケース22内にはX線管14の陽極30と高温の絶縁油40が収容されるため、その壁面35には耐油性、耐熱性、絶縁性が必要とされるのは当然であるが、壁面35を通して遮蔽ケース22内の絶縁油40の熱を外部に逃がさないようにするため、断熱性も必要となり、壁面35は熱伝達率の低い断熱材料で作られている。
また、図2の遮蔽ケース22では、ケース形状を大略直方体状としているが、これに限定されず、他の形状にしてもよい。図3には遮蔽ケースの第2の例の外観図を示す。この遮蔽ケース44は大略三角柱状の形状をした筐体で、4個の平面状の壁面35と1個の曲面(図示の場合は円柱面の一部をなす曲面)状の壁面37とから成り、上方が放熱用開口36となっている。側壁面35の一方に円形の陽極挿入口46が設けられている。2個の平面状の側壁面35と下方の曲面状の壁面37とはほぼ連続的に接続されている。この遮蔽ケース44では、外形の一部がX線管14の外囲器32の外形と類似の形状をしており、直方体のものと比べて角部が少ないため、内部に収容される絶縁油40の流れが直方体状のもの22よりスムーズとなりこの絶縁油40の流れの良さはX線管14の陽極30で発生した熱を効率的に伝達するのにも有利に働く。
図1において、遮蔽ケース22は容器12の壁面12aに固定される。そのとき、その放熱用開口36が容器12の上側の壁面12aの冷却壁面24に向かい合うように設置される。本実施例では、X線管14はその陽極30が遮蔽ケース22に挿入された状態で、その外囲器32のX線放射窓34が容器12の壁面12aに固定されることによって容器12に支持される。図4に、本実施例におけるX線管14と遮蔽ケース22との位置関係を示す。
図4において、X線管14のX線放射窓34は容器12の側方の壁面12aにOリングなどを介して油密に固定され、X線はX線放射窓34から図示の左方向に放射される。遮蔽ケース22は放熱用開口36が容器12の冷却壁面24をほぼ覆うように容器12の壁面12aに固定される。X線管14の外囲器32が遮蔽ケース22の陽極挿入口38に嵌合することになるが、円形の外囲器32がほぼ正方形の陽極挿入口38に挿入されているため、両者の間にはいくらかの隙間が
あり、この隙間を通して遮蔽ケース22の内外間で若干の量の絶縁油の流通が行われる。容器12の冷却壁面24の外側の面には放熱フィン26が取り付けられている。放熱フィン26は連結平板フィンで、基板に垂直に長方形の平板を複数個平行に配列したものである。放熱フィン26の材料としてはアルミニウムなどの熱伝導性の良い軽い金属材料が用いられる。放熱フィン26としては、連結平板フィンに限定されず、容器12の外壁面に設置できる放熱フィンであれば使用可能である。この放熱フィン26は同様に容器12の外壁面に放熱フィン26と対向して設置される冷却ファン28(図1参照)によって強制空冷される。
次に、図1及び図4を用いて、本実施例の一体形X線発生装置の動作について説明する。X線発生装置10の容器12内部における発熱部としては、X線管14、高電圧発生回路16、フィラメント用変圧器18などがあるが、その中で支配的なものはX線管14からの熱であり、その大部分はX線管14の陽極30から放出される。X線管14の使用により、X線管14の陽極30で発生した熱は遮蔽ケース22内の絶縁油40に伝達され、その後絶縁油40は遮蔽ケース22内で局所的な対流を繰り返す。遮蔽ケース22内の絶縁油40は熱容量が小さく、かつ遮蔽ケース22の壁面35の素材が断熱性の高い樹脂であるため、他の領域の絶縁油20よりも高温となる。X線管14の使用時間の経過とともに遮蔽ケース22内の絶縁油40の温度が上昇して行くが、遮蔽ケース22内の絶縁油40の温度分布としては、X線管14の陽極30の周辺のものが最も高温で、遮蔽ケース22の断熱壁面35の周辺のものは陽極30の周辺のものより低温であり、遮蔽ケース22の放熱用開口36に対向する容器12の冷却壁面24の周辺のものは更に低温で、最も低温となる。これは、遮蔽ケース22の壁面35が断熱材から成るため、この部分では絶縁油40の放熱が行われないのに対し、容器12の冷却壁面24には放熱機構である放熱フィン26が設置されているため、この部分では、絶縁油40の放熱が行われることに起因する。この結果、遮蔽ケース22内では、X線管14の陽極30の周辺で加熱された絶縁油40が容器12の冷却壁面24の周辺に向かい、そこで冷却された後に、陽極40の周辺に戻るような絶縁油40の対流路ができる。ここで、遮蔽ケース22内の絶縁油40の温度は容器12内の他の領域の絶縁油20の温度より格段に高くなるため、容器12の冷却壁面24の温度が容器12の他の壁面の温度よりも格段に上昇することになり、その結果、容器12の冷却壁面24に取り付けられた放熱フィン26の温度も高温となり、周囲外気との温度差を非常に大きくすることができる。放熱フィン26からの放熱量は、その放熱フィン26と周囲外気との温度差及び放熱フィン26の放熱面積に大略比例するので、遮蔽ケース22を用いない場合と比べて大幅に放熱効率を向上することができる。
以上説明した如く、本発明によれば、従来例のように、X線管の陽極で発生した熱が連結部材を伝導中に周囲の絶縁油に奪われて熱拡散し、放熱効率が低下するということはなくなる。また、従来例ではX線管の陽極と容器の内壁面を連結部材を挿入して直接連結するために構造が複雑化して高精度を要していたが、本実施例ではそのような直接的な連結を行わないため構造の簡略化を行うことができ、安価な方式で放熱効率の高い一体形X線発生装置を実現することができる。
次に、図5及び図6を用いて、本発明に係わる一体形X線発生装置の第2の実施例について説明する。図5は、本実施例の一体形X線発生装置の構成図、図6は本発明で用いられる遮蔽ケースの第3の例の外観図である。本実施例にはこの第3の例の遮蔽ケースが用いられている。図5において、本実施例の一体形X線発生装置50は、第1の実施例と同様に、容器12、X線管14、高電圧発生回路16、フィラメント用変圧器18、絶縁油20、遮蔽ケース52、放熱フィン26、冷却ファン28などで構成されるが、遮蔽ケース52の構造並びに、放熱フィン26及び冷却ファン28の個数などの点で第1の実施例とは異なる。
本実施例の一体形X線発生装置50では、遮蔽ケース52は図6に示す如く全体としては第1の例の遮蔽ケース22とほぼ同じ形状をしているが、上方と側方とに隣接する2箇所の放熱用開口36、54を有するため、放熱用開口面積が第1の実施例の遮蔽ケース22に比べて約2倍の大きさになっている。また、左側方の放熱用開口54に対向する右側方壁面35にはほぼ正方形の陽極挿入口38が設けられている。以下、上方の放熱用開口36を第1の放熱用開口(第1の例の遮蔽ケース22のものと同じもの)、左側方の放熱用開口54を第2の放熱用開口と呼ぶことにする。また、遮蔽ケース52の対向する2つの側方壁面35には複数個(図示の例では6個)の通油孔42が設けられている。
図5において、本実施例では、遮蔽ケース52は容器12の左上隅に取り付けられており、遮蔽ケース52の上方の第1の放熱用開口36が容器12の上方壁面に設けた冷却壁面(以下、第1の冷却壁面という)24に、左側方の第2の放熱用開口54が容器12の左側方に新しく設けた第2の冷却壁面56に対向するように固定されている。容器12の第1の冷却壁面24及び第2の冷却壁面56の外側にはそれぞれ放熱フィン26が取り付けられている。それぞれの放熱フィン26には、これと対向する位置に冷却ファン28が2個ずつ設置されている。
本実施例の一体形X線発生装置50では、X線管14の使用によりX線管14の陽極30で発生した熱は、先ず陽極30の周辺の絶縁油40に伝達され、陽極30の周辺の絶縁油40の温度が上昇し高温になる。高温となった絶縁油40は対流により遮蔽ケース52内を移動し、第1及び第2の放熱用開口36、54に到達したときに、第1及び第2の冷却壁面24、56に熱を伝達させて放熱する。絶縁油40から放熱された熱は第1及び第2の冷却壁面36、56から放熱フィン26に伝達され、冷却ファン28からの送風により大気中に放散される。放熱して低温になった絶縁油40は対流によりX線管14の陽極30の周辺部へと戻って行き、再度高温の絶縁油40となる。X線管14の使用中は遮蔽ケース52内の絶縁油40による陽極30からの受熱及び第1及び第2の冷却壁面24、56への放熱が繰り返される。本実施例では、冷却壁面の放熱面積、放熱フィン、冷却ファンなどを第1の実施例のほぼ2倍にしたことにより、絶縁油40を冷却する能力が第1の実施例のほぼ2倍となっている。このため、本実施例の放熱効率は第1の実施例に比べ大幅に向上し、より大きなX線出力を有するX線管の冷却に対処することができる。
次に、図7及び図8を用いて、本発明に係る一体形X線発生装置の第3の実施例について説明する。図7は、本実施例の一体形X線発生装置の構成図、図8は本発明で用いられる遮蔽ケースの第4の例の外観図である。本実施例にはこの第4の例の遮蔽ケースが用いられている。図8において、本実施例の一体形X線発生装置60は、第1及び第2の実施例と同様に、容器12、X線管14、高電圧発生回路16、フィラメント用変圧器18、絶縁油20、遮蔽ケース62、放熱フィン26、冷却ファン28などで構成されるが、遮蔽ケース62の構造、放熱フィン26及び冷却ファン28の個数などの点で他の実施例と異なる。
本実施例の一体形X線発生装置60では、遮蔽ケース62は図8に示す如く全体としては第1及び第3の例の遮蔽ケース22、52とほぼ同じ形状をしているが、上方と2つの側方(左側と後側)とに隣接する3箇所の放熱用開口36、54、64を有するため、放熱用開口面積が第1の実施例の一体形X線発生装置10の遮蔽ケース22に比べて約3倍の大きさになっている。また、左側方の放熱用開口54に対向する右側方壁面35にはほぼ正方形の陽極挿入口38が設けられている。以下、上方の放熱用開口36を第1の放熱用開口、左側方の放熱用開口54を第2の放熱用開口、もう一つの後側方の放熱用開口64を第3の放熱用開口と呼ぶことにする。また、遮蔽ケース62の陽極挿入口38のない前側方壁面35には複数個(図示では3個)の通油孔42が設けられている。
図7において、本実施例では、遮蔽ケース62は容器12の左上隅に取り付けられており、遮蔽ケース62の上方の第1の放熱用開口36が容器12の上方の冷却壁面(第1の冷却壁面)24に、左側方の第2の放熱用開口54が容器12の左側方の冷却壁面(第2の冷却壁面)56に、後側方の第3の放熱用開口64が容器12の後側方の冷却壁面(以下、第3の冷却壁面という)66に対向するように固定されている。容器12の第1の冷却壁面24、第2の冷却壁面56及び第3の冷却壁面66の外側には、それぞれ放熱フィン26が取り付けられている。また、それぞれの放熱フィン26には、これと対向する位置に冷却ファン28が2個ずつ設置されている。図9は、本実施例の一体形X線発生装置60の外形図を示したもので、図7を左側から見た図である。図9から、本実施例での容器12の外側への放熱フィン26及び冷却ファン28の取り付け状況が理解される。図9において、X線は容器12の左方向へ放射される。
本実施例の一体形X線発生装置60においても、第1及び第2の実施例と同様に、X線管14の陽極30で発生した熱は遮蔽ケース62の絶縁油40の対流によって、第1〜第3の冷却壁面24、56、66を介して、放熱フィン26に伝達され、放熱フィン26から大気中に放熱されることになるが、本実施例では容器12の冷却壁面の放熱面積、放熱フィン、冷却ファンなどを第1の実施例のほぼ3倍にしたことにより、遮蔽ケース内の絶縁油40を冷却する能力が第1の実施例のほぼ3倍、または第2の実施例のほぼ1.5倍となっている。この結果、本実施例の放熱効率は第2の実施例に比べても更に向上しているので、更に大きなX線出力を有するX線管の冷却に対処することができる。
次に、図10を用いて、本発明に係わる一体形X線発生装置の第4の実施例について説明する。図10は、本実施例の一体形X線発生装置の構成図である。これまで説明して来た第1〜第3の実施例では、発熱部がX線管のみであったが、本実施例は2つの発熱部を有する場合、すなわちX線管以外にもう一つの発熱部がある場合である。本実施例におけるもう一つの発熱部は高電圧発生回路であり、特に高電圧発生回路の中の高電圧変圧器が発熱部となっている。
図10において、本実施例の一体形X線発生装置68は、容器12、X線管14、高電圧発生回路16、フィラメント用変圧器18、絶縁油20、2個の遮蔽ケース22、70、2個の放熱フィン26、4個の冷却ファン28などで構成される。これらの構成要素のうち、X線管14、フィラメント用変圧器18、絶縁油20、遮蔽ケース22、放熱フィン26、冷却ファン28などは第1の実施例のものとほぼ同じものが用いられているが、容器12の構造、高電圧発生回路16の構成、遮蔽ケース、放熱フィン、及び冷却ファンの個数などの点で他の実施例と異なる。高電圧発生回路16は高電圧変圧器72と高電圧整流回路74とから構成されるが、高電圧変圧器72は発熱部であるために、これのみ遮蔽ケース70に収納される。一方、高電圧整流回路74はダイオードやキャパシタなどから構成されるため、比較的熱に弱いので、高電圧変圧器72とは分離して温度の低い絶縁油20中に設置される。高電圧変圧器72を収納する遮蔽ケース(以下、第2の遮蔽ケースという)70はX線管14の陽極30を収納する遮蔽ケース(以下、第1の遮蔽ケースという)22とほぼ同じ形状をしており、左側方に放熱用開口(以下、第4の放熱用開口という)76を有し、上方の壁面35に高電圧整流回路74と電気的接続をするリード線75を引き出すための穴を有し、前後側方の2つの壁面35に複数個の通油孔42を有する。
容器12の上方の壁面及び左側方の壁面の適当な位置に放熱壁面24、78が設けられる。上方の壁面の放熱壁面24は第1の実施例と同じもの(第1の放熱壁面)であり、左側方の放熱壁面(以下、第4の放熱壁面という)78は高電圧変圧器72に発生した熱を放熱するためのものである。第1の遮蔽ケース22はその第1の放熱用開口36が第1の放熱壁面24に対向するように、また第4の遮蔽ケース70はその第4の放熱用開口76が第4の放熱壁面78に対向するように、それぞれ容器12の壁面に固定される。容器12の第1の放熱壁面24及び第4の放熱壁面78の外側には放熱フィン26が取り付けられる。また、容器12の外側の放熱フィン26と対向する位置に冷却ファン28が2個ずつ設置される。
上記の如く構成した本実施例では、X線管14の陽極30で発生した熱は第1の遮蔽ケース22内の絶縁油40の対流、及び第1の冷却壁面24を経由して、放熱フィン26から大気中へ、高電圧発生回路16の高電圧変圧器72で発生した熱は第2の遮蔽ケース70内の絶縁油77の対流、及び第4の冷却壁面78を経由して放熱フィン26から大気中へ、それぞれ効率良く熱放散される。また、本実施例では、高電圧発生回路16を発熱部の高電圧変圧器72と低温に保持すべき高電圧整流回路74とに二分割し、高電圧変圧器72を遮蔽ケース70に収容しているので、高電圧整流回路74は温度上昇の小さい絶縁油20中で低温に保持され、その構成要素であるダイオードなどの半導体素子やキャパシタなどの受動素子はその信頼性が損なわれることはない。
本実施例では、一体形X線発生装置の容器内に主な発熱部が2つある場合であるが、この発明はこれに限定されず、主な発熱部が3つ以上ある場合にも適用することができる。放熱処理を必要とする主な発熱部が3つ以上ある場合には、容器内に遮蔽ケースを主な発熱部の数だけ設置し、それぞれの遮蔽ケース内に対応する発熱部を収容するとともに、それぞれの遮蔽ケースを容器の内壁面(冷却壁面)に対向して取り付けて、その冷却壁面の外側を放熱フィンと冷却ファンから成る放熱機構にて冷却すればよい。
次に、図11を用いて、本発明に係わる一体形X線発生装置の第5の実施例について説明する。図11は、本実施例の一体形X線発生装置の外形図である。本実施例では、一体形X線発生装置の容器の冷却壁面の冷却を放熱フィンではなく、装置を固定する装置設置板で行うものである。図11において、一体形X線発生装置80は装置設置板84の上に横置きで設置されている。この一体形X線発生装置80は第1〜第4の実施例のものとは放熱フィン26と冷却ファン28が削除されている点で異なる。本実施例では、代表例として装置の容器内の構成が第1の実施例に類似の構成のものを取り上げている。一体形X線発生装置80の容器12内の発熱部(X線管の陽極)81及びそれと絶縁油40を内包する遮蔽ケース22は容器12の下部に配設されている。従って、容器12の第1の冷却壁面24は容器12の下側壁面にあり、この第1の冷却壁面24が熱容量の大きい装置設置板84の上面に密着するように、容器12が装置設置板84の上に設置されている。容器12は上側に蓋82が位置するように設置される。装置設置板82はアルミニウム、銅、鉄鋼など熱伝達率の比較的高い金属材料から成り、全体の熱容量も大きく作られている。
本実施例では、容器12の第1の冷却壁面24が熱容量の大きい装置設置板82に密着して設置されているため、容器12内の遮蔽ケース22に内包される発熱部81で発生した熱は、先ず発熱部81の周辺の絶縁油40に伝達され、ここで加熱された絶縁油40は遮蔽ケース22内を対流し、遮蔽ケース22の放熱用開口36に到達した時に、容器12の第1の冷却壁面24に熱を伝達し、この第1の冷却壁面24から装置設置板84に熱伝導により伝達され、装置設置板84にて熱放散される。このようにして、本実施例では装置設置板84が放熱機構としての役割を果たしている。
次に、図12を用いて、本発明に係わる一体形X線発生装置の第6の実施例について説明する。図12は、本実施例の一体形X線発生装置の外形図である。本実施例の一体形X線発生装置85は、第5の実施例と類似の構成であるが、容器12内に発熱部が2つあること、容器12が装置設置板84に縦置きで設置される点で、第5の実施例とは異なる。図12において、容器12内には2つの発熱部81、86が内包されている。一方の発熱部81は例えばX線管14の陽極30であり、他方の発熱部86は例えば高電圧発生回路16の高電圧変圧器72である。これらの発熱部81、86はそれぞれ遮蔽ケース22、70に少容積の一部の絶縁油40、77とともに内包されている。一方の遮蔽ケース22は第5の実施例と同様に容器12の底側壁面に、他方の遮蔽ケース70は容器12の蓋側壁面に、それぞれの放熱用開口36、76が容器12の冷却壁面24、78に対向するように、取り付け固定されている。容器12全体はその蓋82が横を向くような、縦位置の状態で装置設置板84の上に設置される。容器12を縦位置に設置するために、L字形状の支持部材88が容器12の蓋側壁面及び底側壁面に当てがわれている。この支持部材88はアルミニウム、銅、鉄鋼などの熱伝導性の比較的良い金属材料から成り、垂直部分は容器12の冷却壁面24、78に密着し、水平部分は装置設置板84に密着するように結合されている。
本実施例では、2つの発熱部を内包する遮蔽ケース22、70が固定されている容器12の冷却壁面24、78が支持部材88の垂直部分に密着して結合され、かつ支持部材88の水平部分が装置設置板84に密着して結合されているので、容器12内の遮蔽ケース22、70に内包される2つの発熱部81、86で発生した熱は遮蔽ケース22、70内の絶縁油40、77の対流により放熱用開口36、76から容器12の冷却壁面24、78に伝達され、更に冷却壁面24、78から支持部材88を経由して装置設置板84へと熱伝導により伝達され、装置設置板84にて熱放散される。このようにして、本実施例では、支持部材88と装置設置板84との組合せが放熱機構としての役割を果たしている。
第5の実施例では容器を横置きで装置設置板に設置する場合、第6の実施例では支持部材を介して容器を縦置きで装置設置板に設置する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、容器の冷却壁面に装置を設置するための、熱容量が大きく、熱伝導性の比較的良い装置設置部材が、直接的にまたは固定用の支持部材などを介して間接的に結合されるものであれば適用され、同様な効果が得られる。このような構成の一体形X線発生装置では、装置設置部材及びその付属部材が放熱機構として機能することになり、大きな放熱効果が得られる。その結果、放熱フィンや冷却ファンなどの特別な放熱機構を設ける必要がないので、装置の製造コストを低減することができる。また、第5の実施例では、容器内の発熱部が1個の場合、第6の実施例では発熱部が2個の場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、容器内の発熱部が3個以上の場合にも適用され、同様の効果が得られる。
次に、図13を用いて本発明に係わる一体形X線発生装置の第7の実施例について説明する。図13は、本実施例の一体形X線発生装置の構成図である。本実施例では、一体形X線発生装置の容器の冷却壁面の冷却を、装置を支持する支持アーム(X線装置に含まれる)にて行うものである。図13において、一体形X線発生装置90がX線装置の支持アーム92の先端部94に支持されている。この一体形X線発生装置90は第1〜第4の実施例とは放熱フィン26と冷却ファン28が削除されている点で異なる。本実施例では、代表例として装置の容器内の構成が第2の実施例に類似の構成のものを取り上げている。従って、一体形X線発生装置90の容器12内では、発熱源であるX線管14の陽極30を収容する遮蔽ケース52が図示の左上の部分に取り付けられ、遮蔽ケース52の第1の放熱用開口36と容器12の第1の冷却壁面24が上方左側に、遮蔽ケース52の第2の放熱用開口54と容器12の第2の冷却壁面56が側方左側に、それぞれ配設されている。一体形X線発生装置90を支持する支持アーム92の先端部94には、一体形X線発生装置90を固定支持するための直交面を有する切り欠き部95が設けられる。この切り欠き部95の直交面には、一体形X線発生装置90の上方左側の第1の冷却壁面24と密着する第1の伝熱面96と、側方左側の第2の冷却壁面56と密着する第2の伝熱面98が設けられる。これらの伝熱面96、98の部分を含めて、支持アーム92の先端部94については、アルミニウムなど熱伝導性の良い金属材料を用いられる。支持アーム92と一体形X線発生装置90とは、伝熱面96、98と冷却壁面24、56が密着するように結合される。このように、一体形X線発生装置90と支持アーム92とを結合することにより、X線管14の陽極30で発生した熱は遮蔽ケース52内で効率良く容器12の冷却壁面24、56に熱伝達され、その後支持アーム92の伝熱面96、98を経由して容器12の外部に効率良く熱放散される。
本実施例では、X線装置の支持アーム92を放熱機構として利用し、容器12内の発熱部で発生した熱を支持アーム92の伝熱面96、98を経由して、支持アーム92本体へと効率良く放熱できるので、放熱フィンや冷却ファンなどを使用せずに済み、装置の製造コストを低減することができる。また、本実施例は、重量の軽い小型の一体形X線発生装置などに適している。
次に、図14及び図15を用いて、本発明に係わる一体形X線発生装置の第8の実施例について説明する。図14は本実施例の一体形X線発生装置の構成図、図15は一体形X線発生装置におけるX線管入力電源部の構成を説明するための図である。一体形X線発生装置には、X線管、高電圧発生回路、フィラメント用変圧器などが含まれるため、これらの構成要素に入力電圧を供給する入力電源部(以下、X線管入力電源部という)が必要となる。また、一体形X線発生装置を一つの構成要素とするX線装置も、一体形X線発生装置を含めたX線装置全体に入力電圧を供給し、かつX線装置のそれぞれの機能を制御する制御装置を備えている。X線管入力電源部は、X線装置の制御装置に含まれる場合と、独立に設けて一体形X線発生装置に含まれる場合がある。本実施例は後者の場合である。これまでに説明して来た本発明の他の実施例においても、X線管入力電源部を一体形X線発生装置に含めることができる。
先ず、図14を用いて、本実施例の一体形X線発生装置の構成について説明する。図14において、本実施例の一体形X線発生装置100は、第1の実施例の一体形X線発生装置10に対し、X線管入力電源部(以下、入力電源部と略称する)102や入力電源部ケース104などが付加されたものである。容器12と容器12内の構成要素(X線管14、高電圧発生回路16、フィラメント用変圧器18、絶縁油20、遮蔽ケース22など)と放熱フィン26と冷却ファン28は第1の実施例のものと同じである。容器12の上部に入力電源部102を内包する入力電源部ケース104が設置されている。入力電源部102から容器12内の高電圧発生回路16及びフィラメント用変圧器18に入力電圧を供給するための低電圧のリード線106が配線されている。入力電源部ケース104は鉄鋼板などから成る筐体で、その縦、横寸法は容器12の縦、横寸法とほぼ同じで、容器12と連結した状態では、外形がほぼ直方体状になるように作られている。入力電源部ケース104は容器12の上に設置された放熱フィン26及び冷却ファン28の上に載置された状態で容器12と直接かつ強固に連結されており、入力電源部ケース104と容器12との間の空間が、冷却ファン28の風洞108を形成する。
次に、図15を用いて、入力電源部102について説明する。この入力電源部102は上記の如
くX線管14などに入力電圧を供給するもので、高電圧発生回路16、フィラメント用変圧器
18などの入力電圧を生成し、供給する。図15において、入力電源部102は高電圧発生回路16の入力電圧を生成する第1の入力電圧生成部110と、フィラメント用変圧器18の入力電圧を生成する第2の入力電圧生成部112を備えている。第1の入力電圧生成部110は50/60Hzの商用電源114と整流回路116とインバータ118とインバータ118を制御する制御回路120などから成る。また、第2の入力電圧生成部112は50/60Hzの商用電源114と電圧調整器122などから成る。
第1の入力電圧生成部110では、商用電源114からの交流電圧を整流回路116で整流した後、インバータ回路118にて高周波(例えば20kHz程度)のパルス電圧に変換され、このパルス電圧が高電圧発生回路16に入力電圧として供給される。ここで、インバータ回路118は制御回路によってパルス幅変調制御(以下、PWM制御と略称する)されている。PWM制御では、高電圧発生回路16の高電圧変圧器72の2次側電圧を上昇するときにはインバータ回路118の出力電圧のパルス幅を大きくして、高電圧変圧器72の1次側コイルに流れる平均電流を増大させて、1次側電圧を上昇させ、反対に高電圧変圧器72の2次側電圧を降下させるときにはインバータ回路118の出力電圧のパルス幅を小さくして、高電圧変圧器72の1次側コイルに流れる平均電流を減少させて、1次側電圧を降下させるように制御する。また、第2の入力電圧生成部112では、商用電源114からの交流電圧を電圧調整期122で電圧値をフィラメント加熱電圧として必要な値に調整し、フィラメント用変圧器18の1次側に入力電圧として入力される。
本実施例では、X線管入力電源部102を一体形X線発生装置100に含めているので、一体形X線発生装置100に50/60Hzの商用電源を供給するのみで、X線装置の制御装置を経ずに、X線管14を動作させるための高電圧やフィラメント加熱電圧などを発生し、X線管に供給することが可能となる。また、本実施例では、X線管入力電源部102を収容する入力電源部ケース104を設け、この入力電源部ケース104と容器12とで冷却ファン28の風洞108を形成しているので、入力電源部ケース104の一部が風洞108の一部に共用されることになり、装置の製造コストの低減に寄与する。また、容器12と入力電源部ケース104を連結することにより、ほぼ直方体状の外形を形成することになるので、外観も良くなり、強度も強固なものとなる。
次に、図16を用いて、本発明に係わる一体形X線発生装置の第9の実施例について説明する。図16は本実施例の一体形X線発生装置の構成図で、図16(a)はX線放射方向が下方向になるように設置した場合のもの、図16(b)はX線放射方向が正面方向になるように設置した場合のものである。第1の実施例から第8の実施例では容器内を絶縁油で満たし密閉する構造を採用していたのに対し、本実施例では、容器の上部に空気層を残し、絶縁油を密閉しない構造を採用し、装置の低コスト化を図っている。
図16(a)において、本実施例の一体形X線発生装置130は、通気孔136を設けた容器132と、通気孔136に装着したフィルタ138と、容器132に収容されるX線管14と、高電圧発生回路16と、これらを絶縁する絶縁油20と、主な発熱部であるX線管14の陽極30の周囲を他の部分と分離する遮蔽ケース22と、遮蔽ケース22に接する容器132の冷却壁面24を冷却するための放熱フィン26と冷却ファン28などから構成される。容器132内の上部には空気層134が内包され、この部分の空気は通気孔136を通して、容器132の外と流通している。遮蔽ケース22内には、外側の絶縁油20とは分離された一部の絶縁油40が内包されている。この絶縁油40は、X線管14の外囲器32と遮蔽ケース22の陽極挿入口38との間の隙間を通して、外側の絶縁油20と流通されている。
通気孔136は容器132の壁面132aの上部に設けられる。通気孔136は通常1個設けられるが、2個以上設けてもよい。この通気孔136は容器132内の空気層134と外気との間で空気の流通する穴であるため、直径の小さい、例えば5mmから10mm程度の穴でよい。フィルタ138はこの通気孔136を覆うように容器132の壁面132aの外側に取り付けられている。フィルタ138の取り付け位置は容器132の壁面132aの内側でもよい。フィルタ138は防塵用として外気の塵や埃などが容器132内に侵入するのを防ぐために設けられている。容器132内の絶縁油20に塵や埃などの物質が混入すると、絶縁油20の絶縁耐力が低下し、X線管14や高電圧発生回路16などの周辺で放電が多発し、一体形X線発生装置130の動作に支障をきたし、使用に耐えなくなる可能性がある。
フィルタ138としては、合成繊維から成る布やプラスチックの不織布などから成るものが多く用いられる。フィルタ138の材料の適性としては通気性、耐油性、耐水性などが必要である。しかし、絶縁油に直接浸漬して使用するものではないため、高度の耐油性は必要としない。上記の布材は2層に組合せて使用される場合がある。そのときは、より耐油性のある布材が容器132内側に面するように貼り合わせて使用される。このフィルタ138としては、市販のフィルタも使用可能である。現在市販されているフィルタでは、通気性、耐油性、または耐水性などの性能に限界がある。市販されているフィルタを通気孔136に装着して、フィルタ面側に絶縁油20を満たして耐油性の実験をしたところでは、約160時間経過した時点で劣化が生じている。そこで、本実施例では、一体形X線発生装置130の搬送時や振動時など一時的にフィルタ138に絶縁油20が触れることはフィルタ138の性能を損わないが、長時間触れることは問題があるとして、後述のように通気孔136を設ける位置を制限している。
また、フィルタ138は容器132の壁面132aに接着などによって固定される。市販のフィルタ138では、耐油性及び耐水性の高い加工を施した面に接着加工部分を持っているものが多い。このため、通気孔136に装着したフィルタ138は、図16の例では、容器132の壁面132aの外側面に装着されている。これに対し、耐油性及び耐水性の高い加工を施した面とは逆の面に接着加工した部分を持っているフィルタを装着する場合には、フィルタ138は容器132の壁面132aの内側面に装着される。
通気孔136は、X線曝射時でも、絶縁油20の油面140が到達しない位置に設けられている。X線曝射時には、X線管14の長時間の使用により絶縁油20、40の温度が上昇し、絶縁油20、40の体積が膨張し、絶縁油20の油面140が上昇するので、そのときでも絶縁油20が接触しない位置に設けられている。
また、一体形X線発生装置130は、図16(a)ではX線放射方向が矢印142に示す如く下方向を向くように設置されているのに対し、図16(b)ではX線放射方向が正面方向を向くように設置されている。本実施例では、両方の設置位置での使用が可能となるようにしているので、両方の設置位置において、通気孔136が絶縁油20の油面140に接触しないように、図16(a)において、通気孔136は容器132の上部壁面132aの手前側に設けられている。その結果、容器132を垂直方向に90度回転した図16(b)の位置、すなわちX線放射方向が正面方向の位置では、通気孔136は容器132の奥側壁面132aの上部にあり、絶縁油20の油面140に接触することはない。
本実施例の一体形X線発生装置130では、容器132に絶縁油20を密閉する構造をとらずに、容器132の壁面132aに通気孔136を設けて、容器132内の絶縁油20の油面140の上側に空気層134を内包したことにより、絶縁油20の膨張、収縮による体積の変化に対し、ベローズなどの緩衝部材を用いずに対応できるので、ベローズなどの部材を省くことが可能となり、装置の構造が単純化され、装置のコスト低減が可能となる。
次に、図17を用いて、本発明に係わる一体形X線発生装置の第10の実施例について説明する。図17は本実施例の一体形X線発生装置の構成図である。本実施例はX線放射方向が可変であることに特徴がある。図17において、本実施例の一体形X線発生装置148は、通気孔136を設けた容器132と、通気孔136に装着したフィルタ138と、容器132に収容されるX線管14と、高電圧発生回路16と、これらを絶縁する絶縁油20と、主な発熱部であるX線管14の陽極30の周囲を他の部分と分離する遮蔽ケース22と容器132の冷却壁面24を冷却するための放熱フィン26及び冷却ファン28と、容器132を支持する回転支持機構150などから構成される。
本実施例は、第9の実施例である一体形X線発生装置130の外部に、X線放射方向を変化させる回転支持機構150を設けたものである。図17おいて、回転支持機構150は、容器132の側方の対向する壁面132bを支持してX線発生装置130の垂直方向の回転を可能にする垂直方向回転支持枠152と、この垂直方向回転支持枠152を支持し、X線発生装置130の水平方向の回転を可能にする水平方向回転支持枠154を備えている。垂直方向回転支持枠152は「コ」の字状の第1の支持枠156と容器132の側方の、対向する壁面132bに同軸に取り付けられた2個の回転軸158などから成り、回転軸158は第1の支持枠156の両端部に設けられた2個の穴160に回転可能に嵌合されている。また、水平方向回転支持枠154は「コ」の字状の第2の支持枠162と、垂直方向支持枠152を回転可能に支持する回転支持部164などから成る。第2の支持枠162は2個の垂直な支持板162aと1個の水平な支持板162bの結合体で、水平な支持板162bのほぼ中央部に回転支持部164が取り付けられている。回転支持部164は回転軸164aとその支持筒164bを備え、両者は回転可能に嵌合されており、一方は水平な支持板162bに結合され、他方は垂直方向回転支持枠152の第1の支持枠156に結合されている。
水平方向回転支持枠154の回転支持部164による水平方向の回転支持では、容器132の壁面132aに取り付けたフィルタ138の位置は回転支持部164を中心軸にして水平に回転するのみであり、絶縁油20の油面140との相対的な位置関係は変わらないので、360度回転可能であり、回転角度の制限は不要である。これに対して、垂直方向回転支持枠152による垂直方向の回転支持では、回転軸158を中心軸とする容器132の垂直方向の回転により、上記のフィルタ138と絶縁油20の油面140との相対的な位置は回転角度とともに変化し、回転角度によってはフィルタ138に絶縁油20が接触することになるため、両者が接触しない範囲に回転角度を制限する必要がある。図示の例では、通気孔136とフィルタ138が容器132の奥側の壁面132aの上部に位置しているので、X線放射方向が正面方向から下方向まで回転する約90度の範囲では、フィルタ138などは容器132の上側に位置し、絶縁油20の油面140がフィルタ138などに接触する恐れはなく使用可能である。本実施例では、第1の支持枠156の一方の先端部156aにリミッタ機構166が取り付けられている。リミッタ機構166は容器132の壁面132bに取り付けられたピン168と、容器132の垂直方向回転時のピン168の動きをガイドするガイド溝170を有する回転ガイド板172などから成り、ガイド溝170によってピン168の移動範囲、すなわち容器132の垂直方向の回転角度範囲を制限する。
上記の如く、本実施例の回転支持機構150では、リミッタ機構166を取り付けることにより、回転角度を水平方向で360度であるが、垂直方向で約90度に制限することにより、容器132内の絶縁油20の油面140が、容器132の壁面132aに取り付けられたフィルタ138や通気孔136に接触することがないので、絶縁油20がフィルタ138を損傷させたり、通気孔136から容器132の外部に漏れたりすることはない。特に、被検体が人体や食品などの場合、絶縁油20が容器132の外部に漏れて被検体に付着すると、装置の信頼性が損われる。また、垂直方向の回転角度を制限しないで、回転角度を大きくすると、X線管14や高電圧発生回路16が絶縁油20の油面140から空気中に露出する場合や、絶縁油20が容器132の通気孔136から外部に漏れて絶縁油20の量が減少することによってX線管14や高電圧発生回路16が空気中に露出する場合などが起る恐れがあり、そのような場合には、装置の絶縁耐力が低下し、X線管14や高電圧発生回路16の周辺で放電が多発し、装置の動作に支障をきたし、使用に耐えなくなる可能性がある。
装置の回転支持機構として、図示の例では、2個の回転支持枠を組合せたものを示したが、これらのうち水平方向回転支持枠を水平方向に回転する回転支持板とし、この回転支持板によって垂直方向回転支持枠を支持する回転支持機構にしても図示の例と同様な機能を達成することができる。このように、装置の回転支持機構としては、図示のものに限定されず、回転支持枠や回転板などを組合せて用いて、水平方向と垂直方向に回転可能な2つの回転機構を組合せたものであれば、他の構成のものであってもよい。また、リミッタ機構については、図示の例では、ピン168を容器132側に、ガイド溝170を第1の支持枠156側に取り付けているが、これとは逆に、ガイド溝170を容器132側に、ピン168を第1の支持枠156側に取り付けてもよい。また、リミッタ機構はこれらに限定されず、容器132の垂直方向の回転角度を制限するものであれば、他の構成であってもよい。また、第1の支持枠156や第2の支持枠162には容器132(またはX線放射方向)の回転角度を示す回転目盛板や回転止め機構などを設けてもよい。
本実施例の一体形発生装置では、回転支持機構によりX線放射方向及び垂直方向に自由に回転することができる。この回転支持機構は一体形X線発生装置の容器に後からでも装着可能であり、第1の実施例のような絶縁油を密閉した構造のものとの組合せでは、回転角度に殆んど制限なく、例えば水平方向に360度、垂直方向に180度回転可能である。これに対し、第9の実施例のような絶縁油を密閉しない構造のものとの組合せでは、回転角度で一部の制限が必要になるが、実用的には支障なく、例えば水平方向に360度、垂直方向に90度回転可能である。このように装置のX線放射方向が角度可変になったことにより、装置の汎用性が高まり、例えば食品などの品質検査におけるX線異物検査装置では、異物混入位置が3次元で判別できる。また、垂直方向の回転角度を制限する場合においても、回転支持機構にリミッタ機構を設けることにより、回転角度の制限範囲を確実に限定し、装置の機能を確保することができる。
次に、図18を用いて、本発明に係わる一体形X線発生装置の第11の実施例について説明する。図18は本実施例の一体形X線発生装置の構成図である。本実施例は遮蔽ケースに収納された発熱部と、それが対向する容器の冷却壁面(内面)との間に、高熱伝達率の電気的絶縁物質(熱伝導部材)を介在させていることに特徴がある。図18において、本実施例の一体形X線発生装置180は、大略直方体状の形状をした容器171と、容器171に収容されるX線管14と、高電圧発生回路16と、これらを絶縁する絶縁油174と、主な発熱部であるX線管14の陽極30の部分を他の部分とは分離して、一部の絶縁油175とともに収容する高温油遮蔽ケース176と、容器171の壁面の一部を冷却するための放熱フィン26と、温度変化による絶縁油174、175の体積膨張・収縮を相殺するためのベローズ173と、高温油遮蔽ケース176内で、陽極30と容器171との間に設けた熱伝導部材181とを備えている。これらの構成要素の中で、放熱フィン26は容器171の外側に設置されている。
本実施例において、陽極30と容器171との間に熱伝導部材181を設けた以外は、前述した第1の実施例と同様であり、説明を省略する。また本実施例では、容器171内の主な発熱部がX線管14の陽極30であるとして、発熱部で発生した熱の放熱処理方法を扱っているが、これは容器171内での発熱量の最も大きいのが陽極30であるためであり、他の主な発熱部としては高電圧発生回路16の高電圧変圧器やフィラメント用変圧器18などがある。これらの主な発熱部についてもX線管14の陽極30と同様に扱うことができることは第1の実施例と同様である。
熱伝導部材181は、大略円筒形状をもっており、その両端を有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182bで挟んだ構造を有しており、これら電気的絶縁物質182a、182bを介して、熱伝導部材181とX線管14の陽極30との接合および容器171壁面との接合が図られている。有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182bを介在することなく、熱伝導部材181を直接陽極30および容器171壁面にめじ止めや接着により接合することも考えられるが、その場合、熱伝達率は向上するが、X線放射方向の精度を保つために、容器171の機械的寸法の精度や平面度を高くする必要があるため実現が難しい。有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182bは、熱伝導部材181より熱伝達率は劣るものの、弾力性のあるクッションのような性質を有するために圧縮されて挟み込まれる形態となる。これにより、X線放射方向の精度を保ち、且つX線管14の陽極30の発熱が直接容器171を介し放熱フィン26へ伝達できる構造となっている。
熱伝導部材181の材質は、セラミックスなどの電気的絶縁物質であればよい。セラミックスの中でも、高い熱伝達率(170〜180W/m・K)を持つ窒化アルミ(AlN)などが特に望ましい。
有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182bとしては、耐熱性が高い電気絶縁性のゴム材料、例えばシリコーンゴムなどを用いることができ、特に熱伝導性の良好なものが好ましい。具体的には、株式会社ジェルテックのシート状熱伝導ゲルCOHシリーズに代表される物質が用いられる。この熱伝導ゲルは、熱伝達率が上述したセラミックスに比べ1.0W/m・K〜と低いものの、絶縁油より高く、本用途には十分な性能を持っており、このような弾力性(クッション性)・電気的絶縁性・高熱伝達率の物質が望ましい。
次に、図18を用いて、本実施例の一体形X線発生装置の動作について説明する。X線発生装置180の容器171内部における発熱部としては、X線管14、高電圧発生回路16、フィラメント用変圧器18などがあるが、その中で支配的なものはX線管14からの熱であり、その大部分はX線管14の陽極30から放出される。X線管14の使用により、X線管14の陽極30で発生した熱は高温油遮蔽ケース176内の有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a及び絶縁油175に伝達される。有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182aに伝達された熱の殆どは、熱伝導部材181に伝達され、わずかな熱が絶縁油175に伝達される。熱伝導部材181に伝達された熱の殆どは、有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182bに伝達され、わずかな熱が絶縁油175に伝達される。更に、有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182bに伝達された殆どの熱は容器171壁面に伝達され、わずかな熱が絶縁油175に伝達される。熱が伝達された絶縁油175は高温油遮蔽ケース176内で局所的な対流を繰り返す。高温油遮蔽ケース176内の絶縁油175は熱容量が小さく、且つ高温油遮蔽ケース176の壁面素材が断熱性の高い樹脂であるため、他の領域の絶縁油174よりも高温となる。X線管14の使用時間の経過とともに高温油遮蔽ケース176内の絶縁油175が上昇してゆくが、高温油遮蔽ケース176内の絶縁油175の温度分布としては、X線管14の陽極30周辺が最も高温で、高温油遮蔽ケース176の断熱壁面周辺は陽極30周辺よりも低温であり、高温油遮蔽ケース176の放熱用開口に対向する容器171の冷却壁面の周辺のものは更に低温で、最も低温となる。これは、高温油遮蔽ケース176壁面が断熱材からなるため、この部分では絶縁油175の放熱が行われないのに対し、容器171の冷却壁面には放熱機構である放熱フィン26が設置されているため、この部分では、絶縁油175の放熱が行われることに起因する。この結果、高温油遮蔽ケース176内では、X線管14の陽極30の周辺で加熱された絶縁油175が容器171の冷却壁面の周辺に向かい、そこで冷却された後に、陽極30の周辺に戻るような絶縁油175の対流路ができる。ここで、高温油遮蔽ケース176内の絶縁油175の温度は、容器171内のほかの領域の絶縁油174の温度より格段に高くなるため、容器171の冷却壁面の温度が容器171の他の壁面の温度よりも高くなる。また更に、X線管14の陽極30で発せられた熱の経路は、有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、熱伝導部材181、有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182bを介して容器171の冷却壁面に伝達される経路の方が絶縁油175を介する経路より支配的であるため、容器171の冷却壁面の温度は容器171の他の壁面の温度よりも格段に高くなる。この結果、容器171の冷却壁面に取り付けられた放熱フィン26の温度も高温となり、周囲外気との温度差を非常に大きくすることができる。放熱フィン26からの放熱量は、その放熱フィン26と周囲外気との温度差及び放熱フィン26の放熱面積に大略比例するので、直接有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182b、熱伝導部材181を用いない場合と比べて放熱効率を向上することができる。
以上説明した如く、本実施例によれば、X線管の陽極で発生した熱により高温油遮蔽ケース内に高温油を閉じ込めるだけでなく、熱伝導部材によって直接冷却壁面の温度を更に高温にできるため、大型化することなく放熱効率の高い一体形X線発生装置を実現することができる。
次に第11の実施例の変更例として、熱伝導部材の形状あるいは構造を異ならせた一体形X線発生装置を説明する。その他の構成は、第11の実施例と同様であるので説明を省略する。図19は、第12の実施例を示す一体形X線発生装置の構成図である。本実施例は、高温油遮蔽ケース176内で、X線管14の陽極30と容器171の冷却壁面との間に設けられる熱伝導部材として、熱伝導ゲル185を用いる点が第11の実施例とは異なる。
本実施例の一体形X線発生装置180では、X線管14の陽極30と容器171の冷却壁面とを熱伝導ゲル185で接合し、熱伝導ゲル185を介して陽極121から冷却壁面に熱を伝達するようにしている。
熱伝導ゲル185は、ゲル状で、熱伝達率が高く電気的絶縁性が高い物質が望ましく、例えばシリコングリス等の熱伝導ゲルを用いることができる。また絶縁油中で形状を保つ程度の硬度、具体的には40以上の硬度、好適には45以上の硬度を有することが好ましい。このような材料として、具体的には、株式会社ジェルテックのペースト状熱伝導ゲルDPシリーズに代表される物質が挙げられる。この熱伝導ゲルは、熱伝達率が1.6W/m・K〜程度であり、高熱伝達率とはいえないものの、絶縁油よりは高く、本発明の目的を達成するには十分な性能を持っている。またペースト状ではあるが硬度は45〜60の範囲であって「たれ」がおきにくい。さらに耐油性も高く、絶縁油との化学反応で不純物が発生しないことは本発明者らの実験で確認されている。
図20は、第11の変更例である第13の実施例を示す一体形X線発生装置の構成図である。本実施例は、熱伝導部材の形状が第11の実施例とは異なる。第11の実施例における熱伝導部材181が円筒形状であるのに対し、本実施例の熱伝導部材183は円筒の曲面に傾斜を持たせ、略中央部分の径が最大となるような形状を有している。すなわち、熱伝導部材183の断面は2つの台形の下底辺を突合せた形状で、突合せた台形の下底辺に相当する部分が、X線管14の陽極30と容器171内壁面との距離の中点より容器171内壁面に近い形状を持っている。熱伝導部材183の両端に有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182bを設けることは第11の実施例と同じであり、これら電気的絶縁物質の材料も第11の実施例と同様である。
X線管14の陽極30、熱伝導部材183、容器171の冷却壁面の関係を簡略に示す図21を用いて、作用を説明する。なお図では、有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182bは省略している。
X線管14の陽極30に高電圧が印加されると、容器171冷却壁面との間に電界が生じる。ここで、X線管14の陽極30と容器171の冷却壁面との距離dが極端に小さいと、絶縁破壊が生じてしまう。本実施例では、熱伝導部材183の陽極側の側面にαの角度を持たせることにより、陰極側すなわち容器171冷却壁面の電界が緩和され、側面が冷却壁面に垂直である場合(α=0の場合)より放電し難い形状にできる。また、熱伝導部材183の陰極側の側面にβの角度をもたせることにより、陰極側すなわち容器171冷却壁面と熱伝導部材183とが接合されたエッジ部への電界集中が緩和され、側面が冷却壁面に垂直である場合(β=90°の場合)より放電し難い形状にできる。つまり、第11の実施例における熱伝導部材181のような円筒状を用いた装置構成と比較して、距離dを小さくとることができる。これより、本実施例では、熱伝導部材183の加工に手間がかかるものの、X線管14の陽極30と容器171の冷却壁面との距離を、第11の実施例より小さくとれるため装置を更に小型化できる。
図22は、第11の変更例である第14の実施例を示す一体形X線発生装置の構成図である。本実施例は、熱伝導部材の構造が第11の実施例とは異なる。第11の実施例における熱伝導部材181が単層であるのに対し、本実施例では、熱伝導部材が高熱伝達率の電気的絶縁物質を導電性物質を介して積層した多層構造である点が異なる。熱伝導部材183の両端に有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182bを設けることは第11の実施例と同じであり、これら電気的絶縁物質の材料も第11の実施例と同様である。
図23に、本実施例の熱伝導部材の一例を示す。図示する例では、3つの高熱伝達率の電気的絶縁物質188a、188b、188cと2つの導電物質189a、189bを交互に積層し接合している。導電物質189a、189bの材料は、電極として作用し絶縁油によって腐食しない物質、例えば銅板などが望ましい。図23では、3層構造のものを示したが、積層する数は3に限定されない。
この熱伝導部材を用いた場合には、ひとつの高熱伝達率の電気的絶縁物質188a(または188b、188c)に印加される電圧は、第11の実施例の電気的絶縁物質に印加される電圧の1/3になる。このように印加電圧を分割することにより、スペーサ内で電位が安定し、仮に陰極側すなわち容器171の冷却壁面からなだれ現象による絶縁破壊が発生したとしても途中の安定した電位で吸収され、全体的にスペーサ効率を上げることができる。つまり、第11の実施例における単層の電気的絶縁物質181を用いた装置構成と比較して、距離dを小さくとることができる。これより、本実施例では、高熱伝達率の電気的絶縁物質の加工に手間がかかるものの、X線管14の陽極30と容器171の冷却壁面との距離を、第11の実施例より小さくとれるため装置を更に小型化できる。
以上、遮蔽ケース内に収納される発熱部と、それが対向する容器の冷却壁面(内面)との間に、熱伝導部材を介在させた実施例を説明したが、これら4つの実施例で採用した構成は、それぞれ組み合わせることも可能である。例えば、第11、第13、第14の実施例において、有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182bの片側は省略し、省略した部分の結合はねじ止めや他の熱伝導の高い接着方法を用いてもよい。また第11、第13、第14の実施例の有弾力性・高熱伝達率の電気的絶縁物質182a、182bの双方、または片方に、実施例12の熱伝導ゲル185を使用してもよい。さらに第14の実施例の高熱伝達率の電気的絶縁物質188a、188b、188cの個々の形状は円筒形状ではなく、第13の実施例の熱伝導部材183のように角度をつけ、更に電圧の絶縁破壊率を下げる工夫をしてもよい。
また第11〜第14の実施例では、第1の実施例の構造を基礎として、発熱部と容器の冷却壁面との間に熱伝導部材を配置した場合を説明したが、第11〜第14の実施例の熱伝導部材を設ける構成は、第2〜第10の実施例の構造においても同様に採用することができる。