第1実施形態
図1は、本発明の一実施形態に係る光学装置を搭載したカメラ11の全体ブロック図である。カメラ11は、カメラボディ13とレンズ鏡筒23を有している。レンズ鏡筒23は、カメラボディ13に対して着脱自在に装着される。なお、カメラ11の説明においては、図1および図2等に示すように、光軸αと略平行な方向であって、レンズ鏡筒23からカメラボディ13に向かう方向をZ軸の負方向、Z軸に直交する方向をX軸方向およびY軸方向として説明を行う。
本発明に係る光学装置を搭載したカメラとしては、図1に示すようなレンズ交換式カメラに限定されず、レンズ鏡筒23とカメラボディ13とが一体のカメラであってもよく、カメラの種類は特に限定されない。また、本発明に係る光学装置は、スチルカメラに限らず、ビデオカメラ、顕微鏡、携帯電話などの光学機器にも適用できる。さらに、本発明に係る光学装置は、太陽電池にも適用できる。
カメラボディ13およびレンズ鏡筒23の内部には、撮影光学系光軸αに沿って、複数の光学部品が配置されている。図1に示すカメラボディ13における後方側(Z軸負方向側)には撮像素子周辺部15が配置されており、撮像素子周辺部15の光軸α方向の前方側(Z軸正方向側)には、シャッタ68が配置してある。シャッタ68の光軸α方向の前方側には、ミラー70が配置してあり、その前方側には、レンズ鏡筒23に内蔵してある絞り部78および光学レンズ群24が配置してある。
カメラボディ13は、ボディCPU50を内蔵している。ボディCPU50は、レンズ接点62を介してレンズCPU80に接続してある。ボディCPU50は、レンズ鏡筒23に対する通信機能と、カメラボディ13の制御機能を有している。レンズ接点62は、ボディCPU50とレンズCPU80を電気的に接続する。ボディCPU50には、カメラボディ13およびレンズ鏡筒23に含まれる電子部品に電力を供給するための電源58が接続してある。
ボディCPU50には、レリーズスイッチ52、ストロボ54、表示部56、EEPROM(メモリ)26、画像処理コントローラ66、AFセンサ60、電圧信号出力回路28などが接続してある。画像処理コントローラ66には、インターフェース回路64を介して、撮像素子周辺部15の撮像素子ユニット16が接続してある。画像処理コントローラ66およびインターフェース回路64は、ボディCPU50からの信号に基づき、撮像素子ユニット16によって撮像された画像の画像処理を制御する。撮像素子ユニット16は、たとえばCCDやCMOS等の固体撮像素子を有する。
表示部56は、主として液晶表示装置などで構成され、出力結果やメニューなどを表示する。レリーズスイッチ52は、撮影のタイミングを操作するスイッチである。レリーズスイッチ52は、ボディCPU50に対して、半押し信号および全押し信号を出力する。ボディCPU50は、レリーズスイッチ52から半押し信号が入力されると、AF制御、AE制御等の撮影準備動作を制御し、レリーズスイッチ52から全押し信号が入力されると、ミラーアップ、シャッタ駆動等の露光動作を制御する。
クイックリターンミラー70は、構図決定の際にファインダーに像を映し出すためのもので、露光中は光路から退避する。クイックリターンミラー70は、不図示のミラー駆動部(例えばDCモータ)により駆動される。
クイックリターンミラー70には、AFセンサ60に光を導くサブミラー70aが連結してある。このサブミラー70aも、露光中は光路から退避する。
シャッタ68は、露光時間を制御する。シャッタ68は、ボディCPU50からの制御に基づき、不図示のシャッタ駆動部(例えばDCモータ)によって駆動される。
AFセンサ60は、オートフォーカス(AF)を行うためのセンサである。このAFセンサ60としては、通常CCDが用いられる。EEPROM26は、ボディCPU50による制御に必要なパラメータ等を記憶しており、必要に応じてボディCPU50に出力する。
図1に示すレンズ鏡筒23には、焦点距離エンコーダ74、距離エンコーダ72、絞り部78、絞り部78を駆動する駆動モータ76、レンズCPU80、レンズ接点62及び光学レンズ群24が具備してある。
レンズCPU80は、ボディCPU50との通信機能と、レンズ鏡筒23に搭載された電子部品の制御機能とを有している。例えば、レンズCPU80は、焦点距離情報、被写体距離情報等を、レンズ接点62を介してボディCPU50に出力する。また、レンズCPU80には、ボディCPU50から、レリーズ情報、AF情報が入力される。レンズCPU80は、これらの情報に基づき、絞り部78の駆動モータ76等を制御することができる。
焦点距離エンコーダ74は、不図示のズームレンズ群の位置情報から、焦点距離を算出し、レンズCPU80に出力する。距離エンコーダ72は、フォーカシングレンズ群の位置情報より被写体距離を算出し、レンズCPU80に出力する。
図1に示すように、カメラボディ13は、電圧信号出力回路28を有する。電圧信号出力回路28は、ボディCPU50からの制御信号に基づき、撮像素子周辺部15におけるフィルタ部18に含まれる複数の電極に、電圧を出力する。
図2は、図1に示すカメラ11に搭載された撮像素子周辺部15の平面図である。撮像素子周辺部15は、ユニット固定基板14と、ケース12と、フィルタ部18と、撮像素子ユニット16とを有する。また、撮像素子周辺部15は、フィルタ部18に取り付けられた配線部38を有する。撮像素子周辺部15の断面図である図3に示すように、矩形平板形状を有するユニット固定基板14のZ軸正方向側の表面には、撮像素子ユニット16とケース12とが設置されている。撮像素子ユニット16は、撮像面16aをZ軸正方向側に向けた状態で配置される。ケース12は、額縁形状を有しており、撮像素子ユニット16の周辺を取り囲むように配置される。ケース12は、例えば合成樹脂またはセラミック等の絶縁性の材料を用いて形成される。
ケース12の内周面には、フィルタ部18を取り付けるための取付部12aが形成されている。フィルタ部18は、矩形平板形状を有しており、フィルタ部18の周辺部が、取付部12aに接触するように設計されている。フィルタ部18は、ケース12に対して、例えば接着剤等によって取り付けられる。撮像素子ユニット16は、フィルタ部18に対向して設けられ、フィルタ部18を透過した光は、撮像素子ユニット16の撮像面16aに入射する。
図3に示すように、撮像素子ユニット16の周囲は、ユニット固定基板14、ケース12、およびフィルタ部18によって封止されている。このようにして、図3に示す撮像素子周辺部15は、撮像素子ユニット16が収納される封止空間に、塵埃等が浸入することを防止している。なお、図3に示す撮像素子周辺部15は、後述のように、フィルタ部18を振動させることなく、当該フィルタ部18に付着した塵埃を除去することができる。そのため、フィルタ部18は、ケース12に対して非可動的に固定されており、フィルタ部18のケース12に対する取り付け構造が単純である。また、撮像素子ユニット16が収納される封止空間は、フィルタ部18、ケース12およびユニット固定基板14によって、確実に封止される。
フィルタ部18は、防塵フィルタ36と、赤外線吸収ガラス板32と、水晶波長板34と第2複屈折板30からなる4枚のフィルタを積層した積層構造を有している。積層方法としては、接着剤による積層、あるいはその他の積層方法でも良い。
図4(A)に示すように、本実施形態に係るフィルタ部18は、略同一の面積を有する4枚のフィルタを積層することによって形成されているが、フィルタ部18の形状としては、これに限定されない。例えば図4(B)に示す変形例に係るフィルタ部18では、一枚のフィルタ(第2複屈折板30)の面積が、他の3枚のフィルタ36,32,34より大きい。また、図4(C)に示す変形例に係るフィルタ部18では、一枚のフィルタ(防塵フィルタ36)が、他の3枚のフィルタ32,34,30と別体となっている。
図3に示す水晶波長板34は、直線偏光を円偏向に変えることができる光学板であり、赤外線吸収ガラス板32は、赤外線を吸収する機能を有する光学板である。また、防塵フィルタ36は、第2複屈折板30に対して、相互に複屈折の方向が90度異なる複屈折板(第1複屈折板)であり、一方が90度方向(短辺方向)の複屈折を有する複屈折板であれば、他方の複屈折板は、0度方向(長辺方向)の複屈折を有する複屈折板である。本実施形態では、防塵フィルタ36が0度方向(長辺方向)の複屈折を有する複屈折板であり、第2複屈折板30が90度方向(短辺方向)の複屈折を有する複屈折板であるが、逆でも良い。
本実施形態では、フィルタ部18における防塵フィルタ36および第2複屈折板30により、基本的には、光学ローパスフィルタ(OLPF)を構成している。なお、一般的には、光学ローパスフィルタは、二つの複屈折板36および30の間に、赤外線吸収ガラス板32および水晶波長板34が積層されて光学ローパスフィルタ(OLPF)を構成している。
防塵フィルタ36および第2複屈折板30は、例えば水晶を特定の角度で切り出した水晶板を用いて作成される。原材料となる水晶は、人工の水晶でもよいし天然水晶でもよい。
図5は、図3に示す撮像素子周辺部15に備えられる防塵フィルタ36の断面図(図5(A))および平面図(図5(B))である。図5(A)に示すように、防塵フィルタ36は、フィルタ基板40と、複数の電極42と、絶縁層44とを有する。フィルタ基板40は、矩形平板状の形状を有しており、Z軸負方向側に設けられた撮像素子ユニット16に向かう光を透過させる光透過領域40c(図2)を有する。防塵フィルタ36におけるフィルタ基板40は、複屈折性を有する複屈折板である。
図5(A)に示すように、フィルタ基板40のZ軸正方向側の表面には、複数の電極42と、絶縁層44が形成されている。電極42および絶縁層44は、光を透過する材料を用いて形成される。例えば、電極42、絶縁層44及びフィルタ基板40は、入射する可視領域の光(例えば、波長が0.38μm以上、0.75μm以下の光)に対して、80%以上100%以下の透過率を有することが好ましい。透過率が80%以上100%以下であれば、静止画、動画等の撮影画像を取得するのに十分な光学特性が得られるからである。更に好ましくは、電極42、絶縁層44及びフィルタ基板40は、入射する可視領域の光に対して、90%以上100%以下の透過率を有することが好ましい。透過率が90%以上100%以下であれば、高精細な静止画の撮影画像を取得するのに十分な光学特性が得られるからである。
また、電極42、絶縁層44及びフィルタ基板40を光が透過することにより撮像素子ユニット16に到達する光の光量が低下する場合には、撮像素子ユニット16で得られる信号を処理(アナログ処理又はデジタル処理)して撮影画像の光量を実質的に増加させてもよい。
電極42は、光透過領域40cを含むフィルタ基板40の全体表面に形成されており、後述のように、防塵フィルタ36の表面に付着する塵埃を除去する電界を発生させる。各電極42は、図5(B)に示すように、隣接する電極42との間に絶縁部44を挟んだ状態で、フィルタ基板40の表面に沿って帯状に形成されている。本実施形態における防塵フィルタ36において、電極42は、フィルタ基板40の短辺40bに略平行な方向に延在するように形成されている。なお、電極42は、図3に示す撮像素子ユニット16の撮像面16aに対して、略平行に備えられている。電極42を撮像面16aに対して略平行に配置することによって、後述のように、電極42による電界が光透過領域40c(図2)を効率的にカバーできる。
複数の電極42は、フィルタ基板40の長辺40aに沿って、例えばピッチが所定の長さd1であって、互いの間隔が長さd2となるように、間隔を空けて配置される(図5(A))。図5(B)に示すように、各電極42の一方の端部(本実施形態ではY軸正方向側の端部)には、配線部38が取り付けられており、電極42は、配線部38を介して、図1に示す電圧信号出力回路28に対して電気的に接続されている。本実施形態に係る配線部38は、FPCであるが、電極42に電圧信号を伝えるものであれば特に限定されない。
また、複数の電極42は、互いに異なる位相を有する交流電圧を印加される複数のグループによって構成される。すなわち、本実施形態における複数の電極42は、第1の電圧信号が入力される第1グループの電極42aと、第2の電圧信号が入力される第2グループの電極42bと、第3の電圧信号が入力される第3グループの電極42cと、第4の電圧信号が入力される第4グループの電極42dによって構成される。
各グループの電極42a,42b,42c,42dは、電極42が延在する方向であるY軸方向とは垂直なX軸方向に沿って、第1グループの電極42a、第2グループの電極42b、第3グループの電極42c、第4グループの電極42dの順番に、所定の間隔を隔てて周期的に配置される。すなわち、1つの第1グループの電極42a1と、これと同位相の電圧信号が印加される他の1つの第1グループの電極42a2との間には、第1グループの電極42aとは異なる位相の電圧信号が印加される1つの第2グループの電極42bと、1つの第3グループの電極42cと、1つの第4グループの電極42dとが、互いに間隔を隔てて備えられる。第2グループの電極42b、第3グループの電極42c、第4グループの電極42dについても、第1グループの電極42a1,42a2と同様である。
本実施形態に係る防塵フィルタ36は、電極42の表面を覆うように、防塵フィルタ36のZ軸負方向側の表面に設けられた絶縁層44を有する(図5(A))。絶縁層44は、フィルタ基板40との間に、電極42を挟むように備えられる。絶縁層44は、電極42と同様に、光を透過する材料によって形成される。
ここで、本実施形態に係る電極42は、絶縁層44と同一の主成分を有し、絶縁層44よりも電気抵抗が低い。すなわち、電極42と絶縁層44の主成分は、いずれもZnO(酸化亜鉛)である。しかしながら、電極42は、Al(アルミニウム)を添加したZnOによって構成されているため、ZnOによって構成されている絶縁層44より電気抵抗が低い。
電極42は、絶縁層44と同一の主成分を有するため、電極42の屈折率および分散(入射する光の波長の変化に伴う屈折率の変化)が、絶縁層44の屈折率および分散と非常に近い。したがって、本実施形態に係る防塵フィルタ36は、電極42と絶縁層44の光学的な特性が似ているため、撮像素子ユニット16によって撮像される像に、電極42の影が写り込むことを防止できる。なぜなら、電極42と絶縁層44の部分で発生する反射率および透過率の差を低減することができるからである。
以下に、図7〜図11を用いて、本実施形態に係る光学装置の製造方法の一例を説明する。図7は、図5に示す防塵フィルタ36の製造工程を表す模式断面図であり、図11は、防塵フィルタ36を含む光学装置の製造工程を表すフローチャートである。
本実施形態に係る光学装置の製造工程では、まず、防塵フィルタ36を製造する(図11におけるステップS001〜ステップS005)。図11に示すステップS001では、フィルタ基板40を用意し、ステップS002では、電極用マスク43をフィルタ基板40の表面に配置する。図7(A)は、ステップS002において、フィルタ基板40の表面に電極用マスク43を配置した状態を表す断面図である。
図5(A)等に示すように、本実施形態に係るフィルタ基板40は、複屈折性を有する複屈折板であるが、防塵フィルタ36におけるフィルタ基板40としてはこれに限定されない。たとえば、防塵フィルタ36を、光学ローパスフィルタとは別の光学部材とする場合には、フィルタ基板40は、ガラス板等の他の透光部材であってもよい。また、フィルタ基板40の形状も、矩形平板形状に限定されず、例えば円形平板形状等の他の形状であってもよい。
また、図8は、フィルタ基板40に配置される電極用マスク43の平面図である。電極用マスク43は、フィルタ基板40と略同一の面積を有しており、電極42の形状および配置に対応する貫通穴43aを有する。電極用マスク43としては、例えばフィルタ基板40に配置される前に貫通穴43aが形成されている金属マスク等であってもよく、フィルタ基板40に配置された後に貫通穴43aを形成するフォトマスク等であってもよい。
図11に示すステップS003では、電極用マスク43が配置されたフィルタ基板40に対して、電極42を薄膜形成する。電極42の形成方法は、特に限定されないが、例えばスパッタリングによって電極42を形成することができる。なお、スパッタリング以外のPVD(Physical Vapor Deposition)手法を用いてもよい。
スパッタリングによってフィルタ基板40に電極42を形成する場合、電極用マスク43が配置されたフィルタ基板40を、スパッタリング装置の成膜部に取り付ける。この際、フィルタ基板40の表面のうち、電極用マスク43が配置された側の面40d(図7(A)参照)が成膜面となるように、フィルタ基板40をセットする。スパッタリング装置における成膜に用いるターゲットとしては、ZnOから成るZnOターゲットと、Alから成るAlターゲットを用いる。
ZnOターゲットとAlターゲットを用いることによって、フィルタ基板40の表面にAlがドープされたZnO膜(以下、AlがドープされたZnO膜をAlドープZnO膜とする)からなる電極42を形成することができる。AlドープZnO膜は、n型電導性を有するため、AlがドープされないZnO膜(以下、AlがドープされないZnO膜を、ZnO膜とする)より電気抵抗率が低くなる。なお、Alターゲットの代わりに、Gaから成るGaターゲットや、Inから成るInターゲット等の好ましい金属元素のターゲットを用いることもでき、この場合も同様の効果が得られる。また、電極42を形成するための成膜時間は、電極42の厚さ(ZX平面における断面積)が、所定の厚さになるまで行われる。電極42の厚さによって、電極42の抵抗値を調整することができるからである。
AlドープZnO膜の成膜時において、ZnOターゲットに対する投入電力量と、Alターゲットに対する投入電力量は、フィルタ基板40の表面に成膜される電極42の電気抵抗率が所定値以下になるように調整される。例えば、ZnOターゲットおよびAlターゲットに対する投入電力量は、電極42の電気抵抗率が1.0×10−3Ω・cm以下となるように調整されることが好ましい。電極42の電気抵抗率を1.0×10−3Ω・cmとすることによって、電極42は、防塵フィルタ36の表面の電界を変化させるための電極の役目を、好適に果たすことができる。
また、成膜時におけるZnOターゲットおよびAlターゲットに対する投入電力量は、電極42(AlドープZnO膜)におけるAl含有量が、1.2atomic%〜5atomic%となるように調整されることが好ましく、3.0atomic%〜4.0atomic%となるように調整されることがさらに好ましい。電極42のAl含有量が下限値を上回ることによって、電極42の電気抵抗が低い値となるため、防塵フィルタ36の表面の電界を変化させる電極の役目を好適に果たすことができる。また、電極42に含まれるAl含有量が上限値を下回ることによって、ZnO膜によって構成される絶縁層44に対する光学特性の差が大きくなりすぎることを防止し、また、電極42の透明度が低下しすぎることを防止できる。
図5(A)に示すように、フィルタ基板40の表面に形成される電極42のピッチd1は、防塵フィルタ36に付着する可能性の高い塵埃37の性質に応じて適切に設計されればよく、例えば200μm〜1000μm(1mm)程度とすることができる。また、隣接する電極間の隙間d2についても、特に限定されないが、例えば200μm〜1000μm(1mm)とすることができる。
ステップS003(図11)におけるスパッタリングでは、図7(B)に示すように、電極用マスク43の表面にもAlドープZnO膜からなる除去層41が形成されるが、除去層41は、電極用マスク43とともに除去される。ステップS003では、成膜後にフィルタ基板40から電極用マスク43を取り外し、表面に電極42が形成されたフィルタ基板40(図7(C))を得る。
図11に示すステップS004では、表面に電極42が形成されたフィルタ基板40に、絶縁層用マスク45(図9)を配置する。絶縁層用マスク45は、フィルタ基板40の表面のうち、電極42が形成されている側の面40eに、絶縁層用マスク45を配置する。
図9に示すように、絶縁層用マスク45は、フィルタ基板40に対して絶縁層を形成する部分に、貫通穴45aを有する。また、絶縁層用マスク45は、配線用マスク部45bを有する。絶縁層用マスク部45bは、電極42の一方の端部であるY軸正方向側の端部を被覆し、電極42のY軸正方向側端部に絶縁層が形成されないようにする。これにより、防塵フィルタ36の組立工程等において、電極42に対して配線部38を取り付けて、電極42と配線部38を容易に導通させることができる。なお、絶縁層用マスク45は、金属マスク等によって構成することができるが、特に限定されない。
ステップS005では、電極42が形成されており、絶縁層用マスク45が取り付けられたフィルタ基板40に、絶縁層44を形成する(図7(D))。絶縁層44の形成方法は特に限定されないが、絶縁層44は、例えば電極42と同様に、スパッタリングによって形成することができる。なお、スパッタリング以外のPVD(Physical Vapor Deposition)手法を用いてもよい。
スパッタリングによって絶縁層44を形成する場合、電極42が形成されており、絶縁層用マスク45が配置されたフィルタ基板40を、スパッタリング装置の成膜部に取り付ける。この際、フィルタ基板40の表面のうち、電極42が形成されており、絶縁層用マスク45が取り付けられている側の面40eが成膜面となるように、フィルタ基板40をセットする。スパッタリング装置における成膜に用いるターゲットとしては、ZnOから成るZnOターゲットを用いる。
ZnOターゲットを用いることによって、フィルタ基板40および電極42の表面に、ZnO膜から成る絶縁層44が形成される(図7(D))。ステップS005において形成されたZnO膜は、その組成がほぼ化学量論組成であるため、AlドープZnO膜より電気抵抗率が高い。したがって、ZnO膜から成る絶縁層44は、電極42によって防塵フィルタ36の表面の電界を変化させる際に、隣接する電極42間を電気的に絶縁する絶縁部として作用する。絶縁層44の電気抵抗率は、1×106Ω・cm以上となることが好ましい。ZnO膜から成る絶縁層44は、電気抵抗率が1×106Ω・cm程度となるため、電極42間を電気的に絶縁する絶縁部として好適に作用する。なお、絶縁層用マスクは、絶縁層44を形成した後に、フィルタ基板40から除去される。
図10は、図11に示す一連の工程によって製造された防塵フィルタ36の平面図である。防塵フィルタ36は、フィルタ基板40と、フィルタ基板40の一方の表面に形成されている電極42および絶縁層44から成る。電極42は、図6に示す配線部38が取り付けられる部分を除き、絶縁層44に覆われている。防塵フィルタ36の断面図である図7(D)に示すように、AlドープZnO膜から成る電極42は、ZnO膜から成る絶縁層44の一部をX軸方向に挟んで、フィルタ基板40のZ軸正方向側表面に設置されている。
電極42と絶縁層44の主成分は、いずれもZnOであり、同一であるため、電極42と絶縁層の屈折率および分散が、非常に近い値となる。すなわち、本実施形態に係る防塵フィルタ36は、電極42と絶縁層44の光学的な特性が類似しているため、撮像素子ユニット16によって撮像される像に、電極42の影が写り込むことを防止できる。また、電極42と絶縁層44は、光学的な特性が近いにもかかわらず、電気抵抗率が異なり、電極42は導電性を有する導電部として好適に作用し、絶縁層44は絶縁性を有する絶縁部として好適に作用することができる。
図11に示すステップS006では、図5(B)に示す配線部38を、防塵フィルタ36に取り付ける。電極42と電圧信号出力回路28(図1)とは、配線部38を介して電気的に接続される。
ステップS007では、電極42に周期的な電圧が出力されるように、電圧信号出力回路28(図1)を調整する。電極42に出力される電圧の振幅は、防塵フィルタ36に付着する可能性の高い塵埃37の性質や、電極42のピッチd1等に応じて適切に設計されればよく、例えば100Vp−p〜2kVp−pとすることができる。
図6は、防塵フィルタ36を用いた除塵動作を説明するための模式図である。電圧信号出力回路28は、信号生成部82と、位相調整部84と、増幅部86とを有する。信号生成部82は、所定の周期を有する交流電圧信号を生成し、位相調整部84に出力する。位相調整部84は、交流電圧信号の位相を調整し、互いに異なる位相の4つの交流電圧信号を生成し、増幅部86に出力する。
増幅部86は、4つの交流電圧信号を、所定の振幅に増幅した後、駆動電圧信号として出力する。増幅部86は、配線部38を介して、防塵フィルタ36に備えられる電極42に、駆動電圧信号を出力する。したがって、電圧信号出力回路28は、互いに位相の異なる第1駆動電圧信号ch1、第2駆動電圧信号ch2、第3駆動電圧信号ch3および第4駆動電圧信号ch4を、防塵フィルタ36に備えられる電極42に出力することができる。
配線部38は、第1駆動電圧信号ch1を第1グループの電極42aに伝える第1配線部38aと、第2駆動電圧信号ch2を第2グループの電極42bに伝える第2配線部38bと、第3駆動電圧信号ch3を第3グループの電極42cに伝える第3配線部38cと、第4駆動電圧信号ch4を第4グループの電極42dに伝える第4配線部38dとを有する。
第1〜第4駆動電圧信号ch1〜ch4は、互いに位相が4分の1周期ずつずれている方形波の信号であるが、電極42に出力される電圧信号はこれに限定されず、正弦波や三角波等の信号であってもよい。第1〜第4駆動電圧信号ch1〜ch4の駆動周波数は、特に限定されないが、例えば1Hz〜500Hzとすることによって、塵埃を効率的に移動させることができる。
電圧信号出力回路28は、防塵フィルタ36の表面に備えられた複数の電極42に電圧を印加することによって、防塵フィルタ36の表面の電界を変化させることができる。本実施形態に係る防塵フィルタ36は、光を透過する電極42が縞状に配置されており、電極42に4相の交流電圧が印加されるため、進行波状の電界を防塵フィルタ36の表面に発生させることができる。
すなわち、防塵フィルタ36の表面には、各グループの電極42a,42b,42c,42dが、X軸方向に沿って周期的に配置されており、各グループの電極42a,42b,42c,42dに対して、それぞれに対応する駆動電圧信号ch1,ch2,ch3,ch4が印加される。これによって防塵フィルタ36の表面には、X軸方向に沿って移動する進行波状の電界が発生し、防塵フィルタ36の表面に存在する塵埃37は、電界から与えられる静電気力によって移動させられ、除去される。例えば、防塵フィルタ36の表面に付着した塵埃37は、例えば矢印39で示すように、進行波状の電界が移動する方向に沿う方向に移動させられ、防塵フィルタ36の表面から除去される。
本実施形態に係る電極42には、4相の駆動電圧信号が印加されるが、本発明に係る電極42に印加される駆動電圧信号は、単相であってもよく、2相であってもよい。単相の場合であっても、防塵フィルタ36の表面の電界を変化させて、防塵フィルタ36の表面に存在する塵埃を移動させることができる。また、2相以上であれば、防塵フィルタ36の表面の電界を移動させて、防塵フィルタ36の表面に存在する塵埃を移動させることができる。
しかし、電極42に印加させる駆動電圧信号は、3相以上であることが好ましい。周期的に配置された3以上のグループによって構成される電極42(本実施形態では第1〜第4グループの電極42a〜42dによって構成される)に、グループ毎に位相の異なる交流電圧信号を印加することによって、防塵フィルタ36の表面に、進行波状の電界を容易に発生させることができる。防塵フィルタ36の表面に進行波状の電界を発生させることによって、塵埃37の移動方向の制御が容易となり、また、比較的小さな電圧によって、塵埃37を大きく移動させることが可能となる。なお、図示の実施例では、4グループの電極を用いた場合を例にして説明したが、電極グループは、2グループでもよいし、3グループでもよいし、5グループ以上であってもよい。
本実施形態に係る光学装置は、電界を変化させることによって、防塵フィルタ36の表面に付着した塵埃を移動させて除去する。電界が塵埃に与えることができる力は、所定の条件下では塵埃の帯電量に比例するため、本実施形態に係る光学装置は、物理的な振動を防塵フィルタに発生させる方式では除去することが困難であった帯電量が大きい塵埃を除去することができる。
また、本実施形態に係る光学装置は、電気的な力によって塵埃を移動させるため、物理的な振動を防塵フィルタに発生させる方式では除去することが困難であった質量の小さい塵埃を除去することができる。また、本実施形態に係る光学装置は、物理的な振動を発生させることなく塵埃を除去することができるため、静粛性に優れている。また、防塵フィルタ36自体が発塵する恐れも少ない。
本実施形態に係る光学装置は、電気的な力によって塵埃を移動させるため、物理的な振動を発生させて塵埃を除去する従来技術とは異なり、防塵フィルタ36を振動可能な状態に取り付ける必要がない。したがって、防塵フィルタ36を含むフィルタ部18を、ケース12に対して非可動的に取り付けることができるため、フィルタ部18とケース12の隙間から、封止空間内に塵埃が浸入することを効果的に防止できる。また、防塵フィルタ36を、弾性部材等を介在させてケース12に取り付ける必要がないため、弾性部材の経年変化等によってゴミ除去性能が変化する恐れもない。
さらに、本実施形態に係る防塵フィルタ36では、電極42は、絶縁層44と同一の主成分を有するため、電極42の屈折率および分散(入射する光の波長の変化に伴う屈折率の変化)が、絶縁層44の屈折率および分散と非常に近い。したがって、防塵フィルタ36は、電極42と絶縁層44の光学的な特性が似ており、電極42と絶縁層44の部分での反射率および透過率の差が小さい。これにより、防塵フィルタ36を含むカメラ11は、撮像素子ユニット16によって撮像される像に電極42の影が写り込むことを防止できる。
第2実施形態
図12は、本発明に係る第2実施形態に係る光学装置に含まれる防塵フィルタ107の平面図である。また、図13は、第2実施形態に係る防塵フィルタ107の製造工程を表す模式断面図であり、図14は、防塵フィルタ107を含む光学装置の製造工程を表すフローチャートである。
第2実施形態に係る光学装置は、防塵フィルタ107に含まれる電極102の製造方法が、第1実施形態に係る防塵フィルタ36に含まれる電極42と異なる。また、第2実施形態に係る防塵フィルタに含まれる絶縁層104の形状および製造方法が、第1実施形態に係る防塵フィルタ36に含まれる絶縁層44と異なる。さらに、第2実施形態に係る防塵フィルタ36は、被覆層106を有する。しかし、これらの相違点を除き、第2実施形態に係る光学装置は、第2実施形態に係る光学装置と同様であり、第1実施形態に係る光学装置と同様の部分については、説明を省略する。
図12に示すように、防塵フィルタ107は、フィルタ基板40と、フィルタ基板40の一方の表面に形成されている電極102および絶縁層104と、電極102および絶縁層104の一部を被覆する被覆層106とを有する。防塵フィルタ107に含まれる電極102は、第1実施形態に係る防塵フィルタ36(図10)に含まれる電極42とほぼ同様の機能を有するが、製造方法が異なる。以下に、図13および図14を用いて、防塵フィルタ107を含む第2実施形態に係る光学装置の製造方法を説明する。
第2実施形態に係る光学装置の製造工程では、第1実施形態と同様に、まず、防塵フィルタ107を製造する(図14におけるステップS101〜ステップS106)。図14に示すステップS101では、フィルタ基板40を用意し、ステップS102では、フィルタ基板40の一方の表面(Z軸正方向側の表面)全体に、絶縁層基部104aを薄膜形成する。図13(A)は、ステップS102において、フィルタ基板40の表面に絶縁層基部104aを形成した状態を表す断面図である。
ステップS102における絶縁層基部104aの形成方法は、特に限定されないが、例えばスパッタリングによって絶縁層基部104aを形成することができる。なお、本実施形態に係るフィルタ基板40は、第1実施形態と同様に、複屈折性を有する複屈折板である。なお、スパッタリング以外のPVD(Physical Vapor Deposition)手法を用いてもよい。
スパッタリングによってフィルタ基板40に絶縁層基部104aを形成する場合、フィルタ基板40をスパッタリング装置の成膜部に取り付ける。この際、フィルタ基板40の表面のうち、最終的に絶縁層104および電極102を配置したい側の表面が成膜面となるように、フィルタ基板40をスパッタリング装置にセットする。スパッタリング装置における成膜に用いるターゲットとしては、ZnOから成るZnOターゲットを用いる。
ZnOターゲットを用いることによって、フィルタ基板40の表面に、ZnO膜から成る絶縁層基部104aが形成される(図13(A))。ステップS102において形成されたZnO膜は、その組成がほぼ化学量論組成であるため、ステップS104で形成されるAlドープZnO膜より電気抵抗率が高い。
なお、本実施形態に係る防塵フィルタ107の製造方法では、フィルタ基板40の表面全体に、略一様にZnO膜からなる絶縁層基部104aを形成しているが、ステップS102におけるZnO膜の形成方法としてはこれに限定されない。すなわち、絶縁層基部104aは、フィルタ基板40の表面のうち、少なくともステップS104において電極102を形成する部分を取り囲むように形成されていればよい。この場合、フィルタ基板40に絶縁層基部104aを形成する際に、フィルタ基板40の表面に適切な形状のマスクを配置して、絶縁層基部104aが形成される範囲を、フィルタ基板40の表面の一部に限定してもよい。
ステップS103では、絶縁層基部104aが表面に形成されたフィルタ基板40に、電極用マスク103を配置する(図13(B))。電極用マスク103は、絶縁層基部104aの表面に配置される。なお、電極用マスク103は、第1実施形態における電極用マスク43(図8)と同様である。
図11に示すステップS104では、イオン注入によって電極102を形成する。ステップS104では、絶縁層基部104aの表面に電極用マスク103が設置されたフィルタ基板40(図13(B))を、イオン注入装置のチャンバーにセットする。この際、電極用マスク103が取り付けられた側の面が注入面側になるように、フィルタ基板40を配置する。これにより、絶縁層基部104aの一部であって、電極用マスク103の貫通穴103aに対応する部分に、イオン注入が行われる。
イオン注入により目的物(絶縁層基部104aの一部)に注入される元素としては、Al、Ga、Inのうちから選択されたいずれか1つの金属元素を用いることが好ましい。イオン注入により、適切な金属元素をZnO膜にドープすることによって、ZnO膜の電気抵抗を低下させることができるからである。なお、本実施形態では、Alをイオン注入する場合を例に、説明を行う。
Al元素をイオン注入することによって、絶縁層基部104aの一部であって、電極用マスク103の貫通穴103aに対応する部分に、AlドープZnO膜(AlがドープされたZnO膜)から成る電極102を形成することができる(図13(C))。また、絶縁層基部104aの一部であって、電極用マスク103によってマスクされている部分は、イオン注入によってAlがドープされないため、ZnO膜から成る絶縁層104となる。
イオン注入の条件は、絶縁層基部104aの膜厚方向に、略均一にAlイオンが注入される条件とすることが好ましい。これによって、絶縁層基部104aの一部であって、電極用マスク103の貫通穴103aに対応する部分にのみAlイオンが注入されて、この部分の電気抵抗が低下し、電極102となる。
また、イオン注入の条件は、電極102の電気抵抗が所定値以下になるように調整される。例えば、Alイオンの注入量は、電極102の電気抵抗率が1.0×10−5Ωm以下となるように調整されることが好ましい。電極102の電気抵抗率を1.0×10−5Ωmとすることによって、電極102は、防塵フィルタ36の表面の電界を変化させるための電極の役目を、好適に果たすことができる。
さらに、イオン注入の条件は、電極102を構成するAlドープZnO膜におけるAl含有量が、1.2atomic%〜5atomic%となるように調整されることが好ましく、3.0atomic%〜4.0atomic%となるように調整されることがさらに好ましい。電極102のAl含有量が下限値を上回ることによって、電極102の電気抵抗が低い値となるため、防塵フィルタ107の表面の電界を変化させる電極の役目を好適に果たすことができる。また、電極102に含まれるAl含有量が上限値を下回ることによって、ZnO膜によって構成される絶縁層104に対する光学特性の差が大きくなりすぎることを防止し、また、電極102の透明度が低下しすぎることを防止できる。なお、電極102のピッチは、第1実施形態における電極42のピッチと同様である。
ステップS104では、イオン注入の後に電極用マスク103を除去し、表面に電極102および絶縁層104が形成されたフィルタ基板40を得る(図13(D))。図13(D)に示すように、AlドープZnO膜から成る電極102は、ZnO膜から成る絶縁層44の一部をX軸方向に挟んで、フィルタ基板40のZ軸正方向側表面に設置されている。なお、イオン注入の後に、表面に電極102および絶縁層104が形成されたフィルタ基板40に対して、適切なアニールが行われても良い。
電極102と絶縁層104の主成分は、いずれもZnOであり、同一であるため、第1実施形態における電極42と絶縁層44の関係と同様に、電極102と絶縁層104の屈折率および分散が、非常に近い値となる。すなわち、本実施形態に係る防塵フィルタ107は、電極102と絶縁層104の光学的な特性が類似しているため、電極102と絶縁層104の部分での反射率および透過率の差を低減することができる。これにより、防塵フィルタ107を含むカメラは、撮像素子ユニットによって撮像される像に、電極102の影が写り込むことを防止できる。また、電極102と絶縁層104は、光学的な特性が近いにもかかわらず、電気抵抗率が異なり、電極102は導電性を有する導電部として好適に作用し、絶縁層44は絶縁性を有する絶縁部として好適に作用することができる。
さらに、電極102および絶縁層104は、フィルタ基板40に備えられた同一の絶縁層基部104aに形成されるため、電極102および絶縁層104が配置され、電極102および絶縁層104によって構成される面が平坦である。したがって、表面層106(図13(E))が形成された後の防塵フィルタ107の表面も平坦であり、光の散乱等の原因となる段差がほとんどなく、電極102の影が撮像される像に写り込むことを効果的に防止できる。
しかも、本実施形態では、絶縁層104と同じZnO膜によって構成される絶縁層基部104aの一部にAlをドープすることによってZnO膜の一部がAlドープZnO膜に変化し、電極102を形成する。したがって、電極102と絶縁層104とは連続性に優れた一つの膜を構成しており、電極102と絶縁層104の境界に存在する欠陥が少ないため、電極102と絶縁層104の境界部分での光の屈折および散乱が抑制される。したがって、本実施形態に係る防塵フィルタ107は、この点からも電極102の影が撮像される像に写り込むことを、効果的に防止できる。
ステップS105では、絶縁層104および電極102が形成されたフィルタ基板40に、表面層用マスクを配置する。表面層用マスクは、配線部38に対する接点が表面層106によって被覆されないようにするために、電極102の一部をマスクするものであり、第1実施形態に係る絶縁層用マスク45(図9)と同一の形状を有する。表面層用マスクは、電極102および絶縁層104が形成されている側の面に配置される。
ステップS106では、表面層用マスクが配置されたフィルタ基板40等に対して、表面層106を形成する(図13(D))。表面層106の形成方法は特に限定されないが、表面層106は、例えば絶縁層基部104a(図13(A))と同様に、ZnOターゲットを用いるスパッタリングによって形成することができる。なお、スパッタリング以外のPVD(Physical Vapor Deposition)手法を用いてもよい。図13(D)に示すように、表面層106は、電極102の表面を被覆するため、電極102の表面を保護し、例えば導電性の塵埃等が付着して、隣接する電極102同士がショートすることを防止する。また、表面層106を絶縁層104と同様にZnO膜で構成することによって、電極102の影が撮像される像に写り込むことを防止できる。
表面層106を形成したのち、表面層用マスクを除去することによって、図12に示す防塵フィルタ107を得る。その後の製造工程であるステップS107およびステップS108(図14)は、第1実施形態に係るステップS006およびステップS007(図11)と同様の製造工程であるため、説明を省略する。また、第2実施形態に係る光学装置は、第1実施形態に係る光学装置と同様の効果を有する。
第3実施形態
図15は、本発明に係る第3実施形態に係る光学装置に含まれる防塵フィルタ117の平面図である。また、図16は、第3実施形態に係る防塵フィルタ117の製造工程を表す模式断面図であり、図17は、防塵フィルタ117を含む光学装置の製造工程を表すフローチャートである。
第3実施形態に係る光学装置は、防塵フィルタ117に含まれる電極112の組成および製造方法が、第1実施形態に係る防塵フィルタ36に含まれる電極42と異なる。しかし、この相違点を除き、第3実施形態に係る光学装置は、第1実施形態に係る光学装置と同様であり、第1実施形態に係る光学装置と同様の部分については、説明を省略する。
図15に示すように、防塵フィルタ117は、フィルタ基板40と、フィルタ基板40の一方の表面に形成されている電極112および絶縁層44を有する。以下に、図16および図17を用いて、防塵フィルタ117を含む第2実施形態に係る光学装置の製造方法を説明する。
図17に示すステップS201では、フィルタ基板40を用意し、ステップS202では、電極用マスク43をフィルタ基板40の表面に配置する(図16(A))。ステップS201およびステップS202については、第1実施形態におけるステップS001およびステップS002(図11)と同様である。
図11に示すステップS203では、電極用マスク43が配置されたフィルタ基板40に対して、電極112を薄膜形成する。電極112の形成方法は、特に限定されないが、例えばスパッタリングによって電極112を形成することができる。なお、スパッタリング以外のPVD(Physical Vapor Deposition)手法を用いてもよい。
スパッタリングによってフィルタ基板40に電極112を形成する場合、第1実施形態と同様に、電極用マスク43が配置されたフィルタ基板40を、スパッタリング装置の成膜部に取り付ける。
第3実施形態では、電極112を薄膜形成する際に用いるターゲットとして、Znから成るZnターゲットを用いる。しかし、ステップS203において電極112を形成する場合には、スパッタリングにおける酸素流量を調整等することによって、フィルタ基板40の表面に、化学量論組成から意図的に酸素を欠損させたZnO膜(以下、意図的に酸素を欠損させたZnO膜を、酸素欠損ZnO膜とする)を成膜し、酸素欠損ZnO膜からなる電極112を形成する(図16(B))。酸素欠損ZnO膜は、酸素欠損によりキャリアがドープされた状態となるため、ZnO膜より電気抵抗が低くなる。
電極112を構成する酸素欠損ZnO膜の成膜時において、スパッタリング装置の酸素流量は、フィルタ基板40の表面に成膜される電極112の電気抵抗率が所定値以下になるように調整される。例えば、スパッタリングにおける酸素流量は、電極112の電気抵抗率が1.0×10−5Ωm以下となるように調整されることが好ましい。電極112の電気抵抗率を1.0×10−5Ωmとすることによって、電極112は、防塵フィルタ117の表面の電界を変化させるための電極の役目を、好適に果たすことができる。
このように、ステップS203では、フィルタ基板40に、酸素欠損ZnO膜から成る電極112を形成する(図16(B))。また、酸素欠損ZnO膜を成膜し、電極112を形成した後に、電極用マスク43を除去することによって、表面に電極112が形成されたフィルタ基板40を得る(図16(C))。なお、ステップS203において形成される電極112のピッチは、第1実施形態における電極42のピッチと同様である。
図17に示すステップS204では、表面に電極112が形成されたフィルタ基板40に絶縁層用マスクを配置する。さらに、ステップS205では、電極112が形成されており、絶縁層用マスクが取り付けられたフィルタ基板40に対して、ZnO膜からなる絶縁層44を形成する(図16(D))。絶縁層44の形成にはZnから成るZnターゲットを用いる。ステップS205において絶縁層44を形成する場合においては、スパッタリングにおける酸素流量を調整することによって、ZnO膜が化学量論組成となるようにZnO膜を成膜し、ZnO膜からなる絶縁層44を形成する。化学量論組成のZnOはキャリアがドープされない状態となるため、電気抵抗が高い絶縁体となる。なお、ステップS205での絶縁層44の形成においては、第1実施形態と同様にZnOターゲットを用いてもよい。この場合におけるステップS205は、第1実施形態に係るステップS004と同様であるため、説明を省略する。
第3実施形態に係る防塵フィルタ117(図15)における電極112と絶縁層44の主成分は、いずれもZnOであり、同一であるため、電極112と絶縁層44の屈折率および分散が、非常に近い値となる。すなわち、本実施形態に係る防塵フィルタ117は、電極112と絶縁層44の光学的な特性が類似しているため、電極112と絶縁層44の部分での反射率および透過率の差が小さい。これにより、防塵フィルタ107を含むカメラは、撮像素子ユニットによって撮像される像に、電極112の影が写り込むことを防止できる。また、電極112と絶縁層44は、光学的な特性が近いにもかかわらず、電気抵抗率が異なり、電極112は導電性を有する導電部として好適に作用し、絶縁層44は絶縁性を有する絶縁部として好適に作用することができる。
ステップS205の後の製造工程であるステップS206およびステップS207(図17)は、第1実施形態に係るステップS006およびステップS007(図11)と同様の製造工程であるため、説明を省略する。また、第3実施形態に係る光学装置は、第1実施形態に係る光学装置と同様の効果を有する。
その他の実施形態
上述の第1〜第3実施形態において、防塵フィルタに含まれる電極、絶縁層および表面層は、スパッタリングによって作製されているが、電極、絶縁層および表面層の形成方法はこれに限定されない。例えば、電極、絶縁層および表面層を、エッチングや、スピンコート法を用いて形成してもよい。また、防塵フィルタは、フィルタ表面に取り付けられた振動素子をさらに有していても良く、電界の変化だけでなく、防塵フィルタの物理的な振動も利用することによって、防塵フィルタ表面に付着した塵埃を除去してもよい。さらに、防塵フィルタの表面は撥水性を有していてもよく、防塵フィルタは、撥水性によって塵埃の付着を防止してもよい。
実施例
以下に、第1〜第3実施形態における防塵フィルタ36,107,117に含まれる電極42,102,112および絶縁層44,104の光学特性を、実施例を挙げて説明する。ただし、実施例に示す光学特性は一例にすぎず、電極42,102,112および絶縁層44,104の光学特性は、実施例に示すものに限定されない。
図18は、第1〜第3実施形態において絶縁層44,104を構成するZnO膜と、電極42,102を構成するAlドープZnO膜と、電極112を構成する酸素欠損ZnO膜について、可視領域の光に対する光学特性を比較したグラフである。図18の縦軸は屈折率を表しており、横軸は入射光の波長を表しており、図18は、ZnO膜、AlドープZnO膜および酸素欠損ZnO膜の分散(入射光の波長の変化に伴う屈折率の変化)を表している。なお、屈折率は、分光光度計による反射率および透過率を測定し、計算により求めた。
図18において、ZnO膜の分散(太実線)と酸素欠損ZnO膜の分散(破線)を比較すると、両者の屈折率の値は、可視領域全体にわたって、極めて近いことがわかる。したがって、第3実施形態に示す防塵フィルタ117(図15)では、ZnO膜から成る絶縁層44の屈折率と、酸素欠損ZnO膜から成る電極112の屈折率とが、可視領域全体にわたって極めて近似する値を有することがわかる。
このことから、第3実施形態に係る防塵フィルタ117は、電極112と絶縁層44の光学的な特性が似ているため、撮像素子ユニット16(図1等参照)によって撮像される像に、電極42の影が写り込むことを防止できることがわかる。なぜなら、図18に示すグラフから、電極42と絶縁層44の部分で発生する可視光領域での屈折率差が小さく、その結果として反射率と透過率の差が小さくなることが、読み取れるからである。
図18において、ZnO膜の分散(太実線)とAlドープZnO膜の分散(一点鎖線)を比較すると、両者の屈折率の値は、可視領域全体にわたって、非常に近いことがわかる。したがって、第1および第2実施形態に示す防塵フィルタ36,107(図10,図12)では、ZnO膜から成る絶縁層44,104の屈折率と、AlドープZnO膜から成る電極42,102の屈折率とが、可視領域全体にわたって極めて近似する値を有することがわかる。
このことから、第1および第2実施形態に係る防塵フィルタ36,107は、電極42,102と絶縁層44,104の光学的な特性が似ているため、撮像素子ユニット16(図1等参照)によって撮像される像に、電極42,102の影が写り込むことを防止できることがわかる。なぜなら、図18に示すグラフから、電極42,102と絶縁層44,104の部分で発生する可視光領域での屈折率差が小さく、その結果として反射率と透過率の差が小さくなることが、読み取れるからである。なお、AlドープZnO膜は、ZnO膜に対する光学特性の類似性の観点からは、酸素欠損ZnO膜に劣るものの、物質の安定性の観点では酸素欠損ZnO膜より優れている。
図19は、実施例に対する比較のために、透明な導電材料であるITO(酸化インジウムスズ)と、ITOに対して比較的光学特性が似ていると考えられる透明な絶縁材料(Ta2O5,Nb2O5,HfO2,Al2O3)について、可視領域の光に対する光学特性を比較したグラフである。図19の縦軸は屈折率を表しており、横軸は入射光の波長を表している。なお、屈折率は、分光光度計による反射率および透過率を測定し、計算により求めた。
図18に示す実施例と比較した場合、図19に示す透明な絶縁材料(Ta2O5,Nb2O5,HfO2,Al2O3)と、導電材料であるITOは、光学特性が大きく異なることがわかる。例えば、図19において、HfO2(一点鎖線)は、ITOに対して、短波長側の一部では屈折率が近いものの、可視領域全体で見れば屈折率が大きく異なる。また、Al2O3(2点鎖線)は、ITOに対して、長波長側の一部では屈折率が近いものの、可視領域全体で見れば屈折率が大きく異なる。
図19からは、例えば電極を、AlドープZnO膜の代わりにITOで構成し、絶縁層を、ZnO膜の代わりにTa2O5、Nb2O5、HfO2またはAl2O3のいずれか一つで構成したとしても、撮像素子ユニットによって撮像される像に、電極の影が写り込むことを、実施例ほどは効果的に防止できないことがわかる。なぜなら、図19に示すグラフから、電極と絶縁層の部分で発生する可視光領域での屈折率差が大きく、その結果、反射率および透過率の差が大きくなるからである。
図18および図19から、ZnO膜によって構成される絶縁層44,104と、絶縁層44,104と主成分が同一である電極42,102,112とを含む防塵フィルタ36,107,117は、撮像素子ユニット16(図1等参照)によって撮像される像に、電極42の影が写り込むことを防止できることがわかる。また、防塵フィルタ36,107,117は、ITOで電極を構成し、ITO膜とは主成分が異なる絶縁物質で絶縁層を構成する場合にくらべて、電極42,102,112の影が写り込む問題を大きく改善できることがわかる。