JP5018478B2 - 尿毒症改善のための治療剤および処置方法 - Google Patents

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Description

本発明は治療が困難な慢性腎不全患者における尿毒症改善のための治療剤、および処置方法に関する。
尿毒症とは、血液中に蓄積した尿の有害成分によって引き起こされる各種臓器、組織の機能発現異常から生ずる多彩な臨床症状を示す症候群である。原疾患が何であれ、腎臓機能の破綻により、尿を体外に排出できなくなると発症する。尿毒症の臨床症状は、例えば食欲不振、悪心、嘔吐、口臭、口内炎、腸炎などの消化器系異常、無欲、無関心、記銘力低下、うつ状態、傾眠、昏睡などの神経系異常、貧血、赤血球造血障害、高血圧、虚血性心疾患、心膜炎、心筋炎などの循環器系異常、色素沈着、掻痒感、皮下出血などの皮膚異常など様々である。尿毒症は血液中に蓄積される尿毒物質によって引き起こされる。尿毒物質は、例えば、メチルグアニジン、インドール化合物、マロンジアルデヒド、クレアチニン、β-アミノイソ酪酸、トランスケトラーゼ抑制物質、ポリアミン、lipolytic抑制物質、尿素、フェノール類など現時点でも数十種類以上あると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。
しかし、これらの尿毒物質中で、どの物質が尿毒症状発症に本質的に関与しているのかは未だに不明である。さらに、尿毒症が単独物質でのみ生じるのか、これら複数の物質による複合作用なのかも判明していないが、後者の可能性が大きいとされている。これらの事実は薬物による尿毒症治療の困難さを如実に示している。いずれにせよ、適切な手段により、尿毒物質を体外に排出するか血中尿毒物質の濃度を下げない限り、尿毒症患者は死にいたる。現在、尿毒症治療で有効とされる治療法は、腎臓移植、透析療法および活性炭製剤療法である。後2者に共通する治療法の利点は、物理的手段によって未知の物も含め複数の尿毒物質を非特異的に除去または希釈できる点である。しかし、後述の様な欠点も存在する。
活性炭製剤は内服で用いられる。活性炭製剤の作用メカニズムは、消化器内で生成する多種、多様な尿毒物質の吸着、体外排出による。従って、活性炭製剤療法は、内服剤と称するものの、後述の透析療法と同様に物理的な治療手段ともみなしうる。活性炭製剤は治療効果が限定されているほか、服用のしにくさ、便秘を誘発する傾向が強いなどの問題点があり、決して満足できる治療法でない。
透析は、もっとも有効な尿毒症の治療法とされている。実際、透析療法で尿毒物質を体外に排出すれば、たとえ腎機能が廃絶していても、尿毒物質による患者の死は避けられる。ただし、透析療法による合併症が新たな問題となっている。例えば、長期透析による合併症として貧血、腎性骨異栄養症、腎ガン、心外膜炎、アルミニウム骨症、アミロイド症、結晶性関節炎、多発性嚢胞腎などが生ずる。さらに、透析施設に頻回に通う患者の社会生活面でのQOLの低下および高額費用の発生など、医療経済上の問題も生じている。
物理的手法によらずに薬物的に非タンパク性窒素を腸管内に移行させる「体内透析」と称する手法が報告されている(特許文献1)。これは、腎不全モデルラットに15−ケトー16−ハロゲンープロスタグランジンE2類を投与すると、その「エンテロプーリング作用(消化管内に水分を貯留させる作用)」により、血中の血清クレアチニン(Cre)および血液尿素窒素(BUN)が水分と共に腸管へ移行する現象である。しかし、エンテロプーリング作用は消化管内に水分を貯留させる作用である事から、必然的に下痢を伴い、報告者もこの点に言及している。如何に血中の血清Cre値やBUN値を低下させようとも、下痢による体力消耗、脱水の危険性を伴う本治療法を長期に亘って実施する事は、慢性腎不全患者に非常に大きな負担を迫るものであり、とても許容できるものではない。
従って、上記問題点を有さない尿毒症治療方法や尿毒症治療剤の創出が望まれている。
尿毒症は腎不全の進行に伴って発症するが、両者は下記の通り区別して定義されている症候群である。非特許文献3には、「多くのさまざまな、時には混乱した用語が、腎機能とその悪化をあらわすのに使用されている」と述べ、関連する用語を定義して明確に両者を区別している。すなわち、「腎不全とは、腎機能が低下し、異常(高窒素血症と尿濃縮能の低下)が持続する状態であり、特定の疾患というより臓器の機能レベルを意味する」、「尿毒症とは、血中に尿が存在する事である」と区別して定義し、両者概念の違いに注意を喚起している(非特許文献2参照)。他の腎臓学専門書に於いても、尿毒症と腎不全は、どちらも「疾患名ではなく」、それぞれを別個の「症候群」と定義、記載している。
腎不全はまた急性腎不全と慢性腎不全の二つの異なる症候群に分類される。急性腎不全は急激に発症するが、その腎機能障害は多くの場合可逆的である。実際、有効な薬剤や治療方法がすでに存在し、原因を取り除くだけでも患者の腎機能は正常に回復することも多い。一方、慢性腎不全は、その発症時期を明確に認識する事は困難で、数カ月から数年にかけて徐々に発症し、しかも生じた腎障害は不可逆的で(例えば、非特許文献4参照)、様々な医薬、治療法に抵抗性である。従って、慢性腎不全の進行に伴って発症する尿毒症の治療が特に重要である。
腎炎モデル動物あるいは腎不全モデル動物を用いたこれまでの研究の結果、慢性腎不全あるいはその原疾患に対し、種々の予防、治療薬が見いだされている。例えば、糸球体腎炎に対し、ジピリダモール、塩酸ジラゼップ、トラピジル、アスピリンなどの抗血小板薬、ヘパリン、ワーファリンなどの抗凝固薬、慢性腎不全の原疾患が本態性高血圧の場合は、サイアザイド系利尿薬、ループ利尿薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ジルチアゼム、ベラパミルなどのカルシウム拮抗薬の投与など、多種多様な医薬が医療現場で使用されている。しかし、いずれも腎機能の低下などの腎不全状態の進行遅延作用に過ぎず、これらの薬物による尿毒症の改善、消失効果は全く報告されていない。
本願の一般式(I)で表される化合物の中でも、特許文献2において開示されているベラプロストナトリウムは慢性腎不全の原因疾患に有効であることが報告されている。例えば、糸球体腎炎モデル系では、Utsunomiyaらは自然発症する免疫複合体誘発糸球体腎炎マウスNZB/WF1に対し発症前からベラプロストナトリウムを投与すると、発症抑制できる事を尿中アルブミン排泄量の減少効果を指標として示した(非特許文献5)。同じく、Kushiroらは、ラット糸球体腎炎モデルを用い、腎炎誘発物質投与前からベラプロストナトリウムを予防的に投与すると腎炎発症が防止される事を尿中アルブミン排泄量の減少効果で示した(非特許文献6)。Stierらは、自然発症高血圧ラットに於いて高血圧誘発刺激である食塩水の給水および専用食の給餌と同時にベラプロストナトリウムを投与すると糸球体腎炎の発症が予防される事を尿中タンパク排泄量および腎糸球体の組織像から示した(非特許文献7)。また、ベラプロストナトリウム投与によって糖尿病性腎症患者の尿中微量アルブミンを低下させることが報告されている(非特許文献8)。
さらに、一般式(I)で示される化合物以外のプロスタグランジンI誘導体(以下PGI誘導体とも略する)に関する報告がある。例えば、シカプロストに、ストレプトゾトシン誘発糖尿病性腎症ラット(非特許文献9)や片腎摘出と高ナトリウムおよび高タンパク負荷により誘発された腎機能障害を抑制する作用のある事が知られている(非特許文献10)。同様に、Thy-1誘発の腎炎モデルでは、PGI誘導体のイロプロストを腎炎誘発前から予防的に投与すると、尿タンパクが低下する(非特許文献11)。なお、タンパク尿は腎の高分子バリア機能が低下することによって生じる。このため、タンパク尿は腎機能の一側面である糸球体機能を知る良い指標ではあるが、この事自体が直ちに尿毒症の激しさを決定するものではない。また、タンパク尿は糸球体腎炎や糖尿病性腎症などでの初期ステージの良い指標だが、慢性腎不全では、低分子物質に対する濾過機能自体が低下するため、もはやタンパク尿は良い指標とならない。さらに、以上はいずれも腎炎発症前からのPGI誘導体の投与なので予防効果であり、治療効果ではない。また、腎機能への言及はあるが尿毒症改善に関しては言及も示唆も全くない。
腎不全における一般式(I)で表される化合物の効果については、糸球体基底膜の抗体を投与して作製した腎炎を原疾患とするラット腎不全モデルでの報告がある(特許文献3)。本報告で、クレアチニンやBUNが正常値よりも高値をとることで規定される腎不全を認めてから本願一般式(I)の化合物を投与すると、腎不全の進行に伴って上昇する尿中タンパク排泄量、血清Cre値、BUN値という腎不全マーカーの上昇が、対照群に比べて抑制されることが示されている。さらに臨床においても、慢性腎不全患者のクレアチニンクリアランスや血清クレアチニンの逆数の低下で示される保存期腎不全の腎機能低下を、ベラプロストナトリウムの投与によって抑制されたことが報告されている(非特許文献12)。しかしながら、これらの報告に於いては、尿毒症や尿毒症状に関する何らの言及も示唆もなされていない。
腎疾患の中に溶血性尿毒症症候群(HUS)があり、血栓性微小血管症に起因して発症する。HUSでは文字どおり尿毒症を臨床症状として示す。このHUSの1症例に対して、Seriesらは、PGI 誘導体の一つであるイロプロスト(iloprost)投与が、腎不全のマーカーである血清Cre値改善に有効であったと報告した。(非特許文献13)。しかし、HUSは前述の易回復性の急性腎不全に由来する症候群であり、回復が望めず、体恒常性が著しく低下した慢性腎不全患者における尿毒症とは薬物、治療方法に対する抵抗性で全く異なる病態である。従って、同報告に於いても、より重大な症候群である慢性腎不全患者における尿毒症治療への適応可能性については全く記述がない。
他方で、SieglerらはPGIにはHUS進行を抑制する作用がない事を報告している(非特許文献14)。In vitroに於いてさえも、HUS発症に関係があるとされる腎臓の血管内皮細胞でのPGI産生能に関して、低下があるとする報告(非特許文献15)と何の変化もないとする報告がある(非特許文献16)。すなわち、PGI2誘導体のHUSに対する薬理学的効果はきわめて曖昧な状況にあり、前記のSeriesらも、その1症例は極めて希なケースで、HUSとPGIの関係はなお矛盾していると記載し、さらなる検討が必要と率直に結論している。いずれにせよ、体恒常性回復能で優位にあるHUSに於いてさえPGIの関与が曖昧な状態にあって、体恒常性回復能力が著しく劣るか全く無い、慢性腎不全患者における尿毒症へのPGIの有効性などは全く想定されてもいない。
上記のように、一般式(I)の化合物、さらには他のPGI 誘導体まで含めても、慢性腎不全患者における尿毒症状の悪化や改善に関しては全く記載されていない。
一方、近年、人医学に限らず獣医学領域においても慢性腎不全患者の増加が大きな問題となっている。イヌやネコなどの愛玩動物は、より栄養価の高い食餌やより高度の獣医療サービスを享受できるようになった。その結果、ヒトと同様に愛玩動物も長命となり、老化関連疾患や治療が困難な慢性疾患を患う患者が急速に増加している。多種類の愛玩動物で慢性腎不全は見られるが、ネコを例としてヒトの場合と比較すると以下の通りである。
ネコでは特に高率に慢性腎不全を発症する(例えば、非特許文献17参照)。慢性腎不全は15歳以上のネコでは全疾患の30%にも達し、ネコの主要な死因となる(例えば、非特許文献18参照)。さらに、患者ネコが動物病院に持ち込まれた時点では、相当に進行した慢性腎不全状態であり、尿毒症を併発しているケースが非常に多い。
一般的に、ネコ慢性腎不全の診断は、既往歴聴取、臨床所見を加味した上で、臨床腎機能マーカーである血清クレアチニン(Cre)や血液尿素窒素(BUN)値の高値検出でなされる。CreやBUNの異常値は両腎のネフロンの75%が機能喪失の状態にならないと検出されず、この腎機能マーカーの異常値の高低と腎機能の残存比率の関係はヒト同様に相関がある。
ネコの尿毒症状は、吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振、体重減少、活動性低下、多飲多尿、口内潰瘍などとして表現されてくる。食欲不振、口内潰瘍による摂水量不足は脱水症状、便秘も引き起こす。さらに病態が進行すると、貧血、赤血球造血障害、食欲廃絶、抑うつ状態に加え、尿毒素による脳、神経障害が見られる。以上のように、慢性腎不全の病態の進行および随伴して生ずる尿毒症状の多彩さは、ヒトと同じである。
尿毒症が進行したネコでは脱水症状に陥りがちであるため、対症療法として、水分補給、尿毒物質の希釈を目的とした静脈内や皮下への点滴補液も行われている(例えば、非特許文献3参照)。尿毒症ネコでの貧血には、造血作用のあるエリスロポエチンも投与される。貧血によっても食欲が落ちる場合が多いので、場合によっては食欲増進治療も平行して実施される。また、嘔吐、下痢、口内炎などの症状改善には、症状に応じた対症療法薬が用いられることも多い。これらの尿毒症状に対し選択される個別の対症療法もヒト尿毒症患者の場合と同様である。なお、ネコは他の動物と薬物代謝において異なる点があり、例えば、ヒトでは安全に使用可能なアセトアミノフェンがネコでは重篤な副作用(アセトアミノフェン中毒)を誘発する。その他にも、多くの抗生物質、抗炎症剤が要注意薬としてリストアップされている。また尿毒症状を発現しているネコにあっては、体恒常性の維持機能がより低下した状態にあるので、薬剤の用法、用量面については、充分な注意と配慮が必要である。
ヒトと同様に、ネコおよびイヌ尿毒症治療でも活性炭製剤が用いられている。ヒト用の医薬品名はクレメジン(KREMEZIN)、動物薬でのそれはコバルジン(COVALZIN)である。経口的に毎日投与し、消化管内で尿毒症の原因となる物質を吸着させ、便とともに排出させる治療法である。しかし、ヒトと同様に、摂取がしにくく食欲の減退や便秘も誘発される。また、非特異的な物質吸着により有用物質除去の懸念などの難点がある。
透析も、ヒト同様に、ネコ尿毒症治療の極めて有効は治療方法である。しかし、高額の費用を要するので、一般的な治療法となっていない。腎臓移植も根本的な慢性腎不全、尿毒症根本的解決手段としてネコで実施可能であるが、高額の治療法であり、これも殆ど普及していない。
以上の様に、慢性腎不全の病態、随伴する尿毒症の臨床症状、治療法、対症療法など、様々な面で動物の尿毒症とヒトの尿毒症は同列にある。さらに、ヒト同様に治療法の問題を抱えているため、患者動物のクライアント(飼い主)や治療する獣医師から、すぐれた尿毒症の治療方法、治療剤の創出が望まれている。
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本発明が解決しようとする課題は、従前の上記問題点を解決すべく、物理的な尿毒物質の吸着、排出手段以外に、簡単に服用でき、副作用が少なく、医療経済上も高額とならないヒトおよび動物の尿毒症治療剤および処置方法を提供することである。
尿毒症の治療剤、および処置方法の創出が強く望まれていながら、その達成を阻んでいる理由の一つは、適切な尿毒症実験モデルが確立されていない事にもある。本発明者らは一連の調査、研究の結果、ネコでは高率に尿毒症を併発する慢性腎不全患者が動物病院に来院し、経済的、技術的理由などから透析療法を受けられず、多数の患者ネコが死亡している現実に着目した。そこで、患者ネコで鋭意研究を重ねた結果、腎不全マーカーが増大し続ける状態でも、尿毒症状が軽減、消失するという新たな発見により、腎機能の改善と尿毒症の改善が直結しないこと、そして下記一般式(I)で表される化合物を有効成分として含有する薬剤が、その尿毒症の治療に有効であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
1.一般式(I)
Figure 0005018478
[式中、
は、
(A)COOR、ここでRは、
1)水素または薬理学的に受け入れられる陽イオン、
2)炭素数1〜12の直鎖アルキルまたは炭素数3〜14の分岐アルキル
3)―Z−R 、ここでZは原子価結合、またはC2tで表される直鎖もしくは分岐アルキレンであり、tは1〜6の整数を示し、Rは炭素数3〜12のシクロアルキルまたはRの1〜3個で置換された炭素数3〜12の置換シクロアルキルであり、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル、
4)−(CHCHO)CH、ここで、nは1〜5の整数、
5)−Z−Ar、ここでZは前記定義に同じ、Arはフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、α−フリル、β−フリル、α−チエニル、β−チエニルまたは置換フェニル(ここで置換基は少なくとも1個の、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、トリフルオロメチル、炭素数1〜4のアルキル、ニトロ、シアノ、メトキシ、フェニル、フェノキシ、p−アセトアミドベンズアミド、−CH=N−NH−C(=O)−NH、−NH−C(=O)−Ph、−NH−C(=O)−CH及び−NH−C(=O)−NHから成る群より選ばれる少なくとも1種)、
6)−C2tCOOR、ここでC2t、Rは前記定義に同じ、
7)−C2tN(R、ここでC2t、Rは前記定義に同じ、
8)−CH(R)−C−(=O)−R、ここでRは水素またはベンゾイル、Rはフェニル、p−ブロモフェニル、p−クロロフェニル、p−ビフェニル、p−ニトロフェニル、p−ベンズアミドフェニル、2−ナフチル、
9)−C2p−W−R、ここで、Wは−CH=CH−、−CH=CR−または−C≡C−であり、Rは水素、炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐アルキルまたは炭素数7〜30のアラルキルであり、pは1〜5の整数、または、
10)−CH(CHOR 、ここでRは炭素数1〜30のアルキルまたは炭素数1〜30のアシル、
(B)−CHOH 、
(C)−C(=O)N(R
ここでRは水素、炭素数1〜12の直鎖アルキル、炭素数3〜12の分岐アルキル、炭素数3〜12のシクロアルキル、炭素数4〜13のシクロアルキルアルキレン、フェニル、置換フェニル(ここで置換基は上記(A)5)の場合と同義)、炭素数7〜12のアラルキルまたは−SO10を表わし、R10は炭素数1〜10のアルキル、炭素数3〜12のシクロアルキル、フェニル、置換フェニル(ここで置換基は上記(A)5)の場合と同義)、炭素数7〜12のアラルキルを表わし、2つのRは同一でも異なっていてもよいが、一方が−SO10を表わす場合は他のRは−SO10ではないものとする、または、
(D)−CHOTHP(THPはテトラヒドロピラニル基)であり、
Aは、
1)−(CH−、
2)−CH=CH−CH−、
3)−CH−CH=CH−、
4)−CH−O−CH−、
5)−CH=CH−、
6)−O−CH−または
7)−C≡C−であり、 ここで、mは1から3の整数を示し、
Yは、水素、炭素数1〜4のアルキル、塩素、臭素、フッ素、ホルミル、メトキシまたはニトロであり、
Bは、 −X−C(R11)(R12)OR13、ここで、R11は水素または炭素数1〜4のアルキルであり、R13は水素、炭素数1〜14のアシル、炭素数6〜15のアロイル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、1−エトキシエチルまたはt−ブチルであり、
Xは、
1)−CH−CH−、
2)−CH=CH−、または
3)−C≡C−であり、
12は、
1)炭素数1〜12の直鎖アルキル、炭素数3〜14の分岐アルキル、
2)−Z−Ar ここでZは前記定義に同じ、Arはフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、または少なくとも1個の、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、トリフルオロメチル、炭素数1〜4のアルキル、ニトロ、シアノ、メトキシ、フェニル及びフェノキシから成る群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換したフェニル、
3)−C2tOR14、ここでC2tは前記定義に同じ、R14は炭素数1〜6の直鎖アルキル、炭素数3〜6の分岐アルキル、フェニル、少なくとも1個の、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、トリフルオロメチル、炭素数1〜4のアルキル、ニトロ、シアノ、メトキシ、フェニル及びフェノキシから成る群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換されたフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、または、炭素数1〜4の直鎖アルキルの1〜4個で置換されたシクロペンチル若しくはシクロヘキシル、
4)−Z−R、ここでZ、Rは前記定義に同じ、
5)−C2t−CH=C(R15)R16 、ここでC2tは前記定義に同じ、R15及びR16は互いに独立に水素、メチル、エチル、プロピル若しくはブチル、または
6)−C2u−C≡C−R17、ここでuは1〜7の整数であり、C2uは直鎖または分岐アルキレンを表わし、R17は炭素数1〜6の直鎖アルキルを表わし、
Eは、水素または−OR18、ここでR18は炭素数1〜12のアシル、炭素数7〜15のアロイル若しくはR(ここでRは前記定義に同じ)を表わし、
一般式(I)はd体、l体またはdl体を表わす]、
で表わされる化合物を有効成分として含有する慢性腎不全患者における尿毒症治療剤、
2.一般式(I)に於いて
がCOOR、ここでRは、水素または薬理学的に受け入れられる陽イオンであり、
Aが−(CH−、ここでmは1から3の整数であり、
Yが水素、
Bが −X−C(R11)(R12)OR13、ここでR11、およびR13は水素であり、
Xが−CH=CH−、であり、
12が−C2u−C≡C−R17、ここでuは1〜7の整数、C2uは直鎖または分岐アルキレン、R17は炭素数1〜6の直鎖アルキル、
Eは、水素または−OR(ここでRは前記定義に同じ)である、1項記載の慢性腎不全患者における尿毒症治療剤、
3.一般式(I)に於いて
がCOOR、ここでRは、水素またはナトリウムイオンであり、
Aが−(CH−、ここでmは3であり、
Yが水素、
Bが −X−C(R11)(R12)OR13、ここでR11、およびR13は水素であり、
Xが−CH=CH−、であり、
12が−C2u−C≡C−R17、ここでuは3、C2uは分岐アルキレン、R17はメチル、
Eは、−OHである、1項記載の慢性腎不全患者における尿毒症治療剤、
である。
本発明の一般式(I)で表される化合物を含有する慢性腎不全患者における尿毒症治療剤は、慢性腎不全患者に併発した尿毒症を、副作用を伴うことなく改善させ、低下した食欲の回復、活動性の改善、体重の増加等が達成される。しかも、物理的な尿毒物質の吸着、排出手段によるものでないため、簡便に服用でき、医療経済上も高額とならない尿毒症治療剤および処置方法を提供するものである。本発明の効果は、腎不全状態、特に腎機能の低下が進行しているにもかかわらず認められる、臨床症状として把握できる明確な尿毒症状の軽減ないしは消失である。尿毒症判定の好適なモデルであるネコにおけるその顕著な効果は、あたかもヒト尿毒症患者における透析療法によって得られる治療効果に匹敵する。
健常ネコの心拍数におよぼすベラプロストナトリウムの作用。ベラプロストナトリウムは図記載の用量にて経口的に投与。有意差検定はt-検定(対応ある2群)で実施。*p<0.05、**p<0.01(a)図の縦軸を実測心拍数で表示。図の横軸はベラプロストナトリウム投与後の時間を示す。(b)図の縦軸はベラプロストナトリウム投与前の心拍数を100%とし、ベラプロストナトリウム投与後の%変化の増減分を加算して表示。図の横軸はベラプロストナトリウム投与後の時間を示す。 健常ネコの血圧(実測値)におよぼすベラプロストナトリウムの作用。ベラプロストナトリウムは図中記載の用量にて経口投与。(a)収縮期血圧におよぼすベラプロストナトリウムの作用。(b)拡張期血圧におよぼすベラプロストナトリウムの作用。(c)脈圧におよぼすベラプロストナトリウムの作用。 慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-A、ベラプロストナトリウム単独投与)。同図(a)中の白抜きバーはベラプロストナトリウムのみの投与期間。投与終了後は何も投与しておらず、さらにベラプロストナトリウム投与終了後の6ヶ月目にも検査を実施、尿毒症状は全く見られず、腎機能マーカーの正常値幅を維持している事からベラプロストナトリウム投与のみで慢性腎不全自体も治癒した。(a)慢性腎不全ネコ(症例-A)に対するベラプロストナトリウム単独投与による尿毒症状(臨床症状)の改善効果。横軸はベラプロストナトリウム投与後の月数。(b)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである BUN値の推移。(c)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである 血清Cre値の推移。 慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-B、ベラプロストナトリウム単独投与)(a)慢性腎不全ネコ(症例-B)に対するベラプロストナトリウム単独投与による尿毒症状(臨床症状)の改善効果。横軸はベラプロストナトリウム投与後の月数。図(a)中の白抜きバーはベラプロストナトリウムのみの投与期間を示す。(b)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである BUN値の推移。(c)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである 血清Cre値の推移。 慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-C、ベラプロストナトリウム単独投与)。図(a)中の白抜きバーはベラプロストナトリウムのみの投与期間を示す。(a)慢性腎不全ネコ(症例-C)に対するベラプロストナトリウム単独投与による尿毒症状(臨床症状)の改善効果。横軸はベラプロストナトリウム投与後の月数。(b)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである BUN値の推移。(c)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである 血清Cre値の推移。 慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-D、ベラプロストナトリウム単独投与)。図(a)中の白抜きバーはベラプロストナトリウムのみの投与期間を示す。(a)慢性腎不全ネコ(症例-D)に対するベラプロストナトリウム単独投与による尿毒症状(臨床症状)の改善効果。横軸はベラプロストナトリウム投与後の月数。(b)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである BUN値の推移。(c)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである 血清Cre値の推移。 慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-E、併用療法)。図中(a)中の黒塗りバーはベラプロストナトリウムに加えて活性炭製剤、炭酸カルシウム製剤、k/d食を併用。白抜きバーの期間は便秘がひどくなった為、活性炭製剤の投与を中止した。(a)慢性腎不全ネコ(症例-E)に対するベラプロストナトリウム投与による尿毒症状(臨床症状)の改善効果。横軸はベラプロストナトリウム投与後の月数。本例 に 於いては処方食給餌に加え、活性炭製剤、炭酸Ca製剤の投与を途中まで併用し、強度の便秘のため途中(4ヶ月目)から活性炭製剤投与のみを中止した。(b)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである BUN値の推移。(c)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである 血清Cre値の推移。 慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-F、併用療法)。図(a)中のドットバーはインシュリン、活性炭製剤および炭酸カルシウム製剤での併用期間、黒塗りバーはこれらに加えベラプロストナトリウムも併用した期間を示す。ベラプロストナトリウム投与開始前の2ヶ月間では尿毒症状改善は認められなかったが、ベラプロストナトリウム投与開始後は速やかに尿毒症が改善、持続した。この間、腎不全マーカーであるCreはなお上昇し続けた。(a)慢性腎不全ネコ(症例-F)に対するベラプロストナトリウム投与による尿毒症状(臨床症状)の改善効果。横軸はベラプロストナトリウム投与後の月数。(b)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである BUN値の推移。(c)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである 血清Cre値の推移。 慢性腎不全犬へのベラプロストナトリウム投与(症例-H、ベラプロストナトリウム単独投与)。 図中のドットバーは活性炭製剤(コバルジン)単独投与での治療期間、白抜きバーは活性炭製剤投与を中止し、ベラプロストナトリウム単独投与に切り替えてからの治療期間を示す。コバルジン単独投与の2ヶ月間中には尿毒症状の改善は認め難かったが、ベラプロストナトリウム投与開始後は速やかに尿毒症状が軽快、改善し臨床スコアは満点に達した。しかし、この間、腎不全マーカーであるCreはなお上昇し続けた。ベラプロストナトリウム投与期間中に嘔吐、下痢などの有害作用は全く見られなかった。(a)慢性腎不全犬(症例-H)に対するベラプロストナトリウム投与による尿毒症状(臨床症状)の改善効果。横軸は観察期間(月数)を示す。(b)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである BUN値の推移。(c)ベラプロストナトリウム投与による腎機能マーカーである 血清Cre値の推移。
本発明の治療剤の有効成分となる一般式(I)で表される化合物の中でも、
としては、COOH、COONa、COOMeが好ましく、特にCOONaが好ましく、
Aとしては、−(CH2−、−(CH3−、−CH=CH−、−O−CH−が好ましく、特に−(CH3−が好ましく、
Yとしては、特に水素が好ましく、
Bは、 −X−C(R11)(R12)OR13で表され、ここでR11、R13としては特に水素が好ましく、Xとしては、−CH=CH−が好ましく、特にトランス型の−CH=CH−が好ましく、R12としては、ヘキシル、ペンチル、1−メチルプロピル、2−クロロフェニル、プロピルオキシメチル、シクロヘキシル、4−ヘキシン−2−イル、2−メチル−4−ヘキシン−2−イルが好ましく、特に4−ヘキシン−2−イルが好ましく、
Eとしては、特に−OHが好ましい。
一般式(I)で表される化合物の好ましい具体的な化合物としては、16−メチル−18,18,19,19−テトラデヒドロ−5,6,7−トリノル−4,8−インターm−フェニレンPGI(一般名ベラプロスト)、16−メチル−18,18,19,19−テトラデヒドロ−5,6,7−トリノル−4,8−インターm−フェニレンPGIナトリウム塩(Sodium rac - (1R,2R,3aS,8bS)-2,3,3a,8b-tetrahydro-2-hydroxy-1-[(E)-(3S,4RS)-3- hydroxy-4-methyloct-1-en-6-ynyl]-1H-cyclopenta[b][1]benzofuran-5-butanoate:一般名ベラプロストナトリウム)などが挙げられるが、中でも好ましくはベラプロストナトリウムである。ただし、これらはあくまでも具体例を示したに過ぎず、これらに限られるものではない。
本発明において、一般式(I)で表される化合物、特にベラプロストナトリウムは、長期間安定であるほか、経口投与でのバイオアベイラビリティが高い。このため腎疾患患者、特に慢性腎疾患患者では、長期にわたる服用が求められるため、特に好ましく用いることができる。
本発明に用いられる上記一般式(I)で表される化合物自体は公知であり、例えば特公平1−53672号公報、特公平7−5582号公報、特開平3−7275号公報、特公平6−62599号公報等に記載されている公知の方法で製造することができる。
本発明の一般式(I)で表される化合物は、単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明における慢性腎不全とは、機能するネフロンの数が減少して、窒素代謝産物の排泄が不十分になり、生体内部環境の恒常性を維持できなくなった腎の異常機能状態が長期に亘って持続することをいう。具体的には、血液中の血液尿素窒素(BUN)や血清クレアチニン(Cre)値が持続的な上昇を示す状態あるいは症候群ということができる。この定義は背景技術の項で記載した教科書での定義と本質的に同等である。より具体的には、酵素法(大原智子、河合忠 腎と透析 Vol. 39 1995.10)によって測定した血清クレアチニン値が1.4mg/dL以上である場合に、慢性腎不全と判断できる。ただし、一旦上昇したCre値が透析治療などの既存治療によって低下している場合には、より低値であっても慢性腎不全であると判断して差し支えない。
前記慢性腎不全の原疾患として、たとえば、腎結石、尿路閉塞症、糖尿病性腎症、急性糸球体腎炎および慢性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、多発性嚢胞腎、感染による腎症、ループス腎炎、間質性腎炎、急性尿細管間質性腎炎、慢性尿細管間質性腎炎、肝硬変、肝性浮腫、うっ血性心不全があげられる。また、慢性糸球体腎炎である微小糸球体変化性腎炎、巣状/分節状糸球体腎炎、びまん性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、びまん性管内性増殖性腎炎、半月体形成性腎炎、びまん性硬化性糸球体腎炎、IgA腎症を原疾患とする尿毒症にも有効である。
また、本発明に言う尿毒症とは、腎不全の進行に伴い老廃物が血中から除去できないために、吐き気、嘔吐、食欲不振、食欲廃絶、体重減少、活動性低下、下痢、多飲多尿、口内潰瘍、胃腸管障害、尿閉、脳・神経障害、循環器異常、貧血、赤血球造血障害、皮膚症状及び眼症状などから成る群より選ばれる少なくとも1種を呈する症状もしくは症候群をいう。成書の中では「尿毒症とは血液中に尿が存在する状況」と、より単純に定義し、前記諸症状には「尿毒症症候群」と言う別の呼称を与えて定義する場合もあるが、本発明に言う尿毒症にはこの尿毒症症候群で定義される諸症状を含むものとする。尿毒症の具体的症状の例としては、吐き気、嘔吐、食欲不振、体重減少、活動性低下、多飲多尿、口内潰瘍、貧血、赤血球造血障害、食欲廃絶、抑うつ状態に加え、尿毒素による脳、神経障害などが挙げられ、これらの症状の1又は2以上によってとらえることができる。したがって、本発明の治療剤は、前記定義での慢性腎不全患者における尿毒症治療剤を提供するものである。
なお、本発明の治療剤の効果判定に於いて最も注意すべきは、血清Cre値、BUN値の変動に拘泥してはならないことである。これらの値はあくまでも腎不全、特に腎の低分子物質濾過機能のマーカーであり、尿毒症の軽重を反映するものではない。事実、本発明に於いて、一般式(I)の化合物の投与により腎不全マーカー値自体がなお増大し、腎機能が低下し続ける状況でも、尿毒症状自体は消失あるいは改善するからである。この反応は初診時の血清Cre値が2mg/dL以上の個体で、特に明確に認められる。一方、一般式(I)の化合物により尿毒物質が無毒化あるいは除去される事により、メカニズムは不明だが、腎の器質的な再生が生じ腎不全自体からの脱却もある。従って、この視点から血清Cre値やBUN値を治療期間中にモニターする意義はある。
本発明の治療剤が有効な患者は特に限定されず、前記定義において慢性腎不全による尿毒症と判断される対象であれば良いが、好ましくは哺乳類であり、より好ましくはネコ、イヌまたはヒトである。中でも、慢性腎不全による尿毒症を患うネコに対して、本発明の一般式(I)に含まれるベラプロストナトリウムを治療剤として投与した場合、尿毒症状は改善し、長期の投与期間中に下痢、嘔吐などの副作用も全く生じなかったこと、さらに、尿毒症の程度の軽い慢性腎不全ネコでは、尿毒症の臨床症状の改善はもとより、腎不全マーカーである血清Cre値、BUN値も劇的に減少、正常化し、しかもこの正常化状態が長期に亘って持続すると言う慢性腎不全自体からの回復(restitution)効果が見られたことから、本発明の治療剤はネコにおいて顕著な効果を示すといえる。なお、慢性腎不全は不可逆的な症候群で、現行治療薬による効果が慢性腎不全の進行遅延にすぎない現状にあって、本発見は驚くべきことである。実際、本発明での当該症例では、被験物の6カ月投与終了後、さらに長期間経過しても、回復した腎機能は全くの正常値を保ち、一般状態でも健康そのものであった。これらの発見が、いずれも腎不全モデル動物でではなく、自然発症した慢性腎不全患者ネコの尿毒症症例で得られた事の意義は極めて大きい。
本発明の治療剤の有効成分である一般式(I)で表される化合物の投与量としては、通常1回量として0.01μg/kg〜600mg/kgであり、好ましくは0.01μg/kg〜60mg/kgであればよく、より好ましくは0.01μg/kg〜10mg/kg、さらに好ましくは0.03μg/kg〜3mg/kgであり、最も好ましくは0.1μg/kg〜1mg/kgである。そして、本用量を1日1〜4回の投与を7日以上、好ましくは30日以上に亘って慢性投与することがよいが、これに限定されるわけではない。
本発明の医薬品組成物の投与形態としては、各種剤形を使用できるが、具体的には経口投与の場合、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、液剤、シロップ剤、カプセル剤、丸剤、スプレー剤とする事ができる。さらに成型品をフィルムコーティングしたり、糖衣掛けしたり、カプセル充填したりすることもできる。好ましくは、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、液剤、シロップ剤、カプセル剤、が挙げられる。また、殺菌溶液等の形で非経口的に投与しても良く、また他の溶質、例えば液を等張にするに十分な塩化ナトリウムまたはグルコース等を用いることもできる。
本発明の治療および予防薬は上記経口用の製剤の他、各種注射剤、坐剤として用いることができる。また、各薬剤の特性によっては、個別に徐放化、放出遅延化等の放出制御させることも可能である。例えば、本薬剤は既存の方法で徐放化機能を付与することも可能であり体内埋込み型の徐放性ポンプ(例えば、アルザミニポンプ)など非経口的にも幅広い投与法を応用できる。さらに、腎疾患は長期治療が必要な慢性疾患であり、医師あるいは獣医師の指導のもとに腎疾患患者用の処方食に本発明の治療剤を予め添加しておく事もできる。また、既存の尿毒症治療剤の活性炭製剤と連続して、あるいは同時に、あるいは間隔をおいて経口投与する事ができる。連続して使用する場合、本発明の治療剤を先行してある一定期間与える場合は、本発明の治療剤からの活性炭製剤の切り替えはほぼ同時に可能である。一方、活性炭製剤から本発明の治療剤に切り替える場合は、一般式(I)で表される化合物が活性炭に吸着され、薬効に影響をおよぼす可能性があるため、適切な休薬期間を設けることが好ましい。
また尿毒症改善効果を有する本薬を、腎不全改善薬として用いられる各種の前述の薬剤、たとえばアンジオテンシン変換酵素阻害剤やATIIレセプターブロッカーをはじめとして、カルシウムブロッカー、βブロッカーなどの降圧剤と併用し、あるいは合剤を作成し、投与してもよい。
さらに本発明は、慢性腎不全患者における尿毒症状の処置方法についても開示する。ヒトにあっては、本発明の方法で治療できるのは尿毒症を併発している慢性腎不全患者である。透析療法開始前の尿毒症患者に適用できる事は言うまでもなく、すでに透析療法処置を受けている尿毒症患者にも適用できる。また、透析療法による合併症を発症している患者、活性炭製剤による副作用を発症している患者にも適応可能である。さらに、透析合併症に於いて使用される対症療法薬物、例えば貧血や造血障害時のエリスロポエチン、などと共に用いる事ができる。同様に、本発明は活性炭製剤による治療を受けている慢性腎不全による尿毒症患者にも併用して適応できる。ただし、活性炭が非特異的な物質吸着能を有することを理解し、両剤の併用タイミング等を勘案して実施する事が好ましい。また、活性炭製剤による副作用を発症している場合は、活性炭製剤療法を中止し、本発明の方法に切り替える事ができる。ネコ、イヌ以外の愛玩動物の尿毒症も本発明で同様に治療できる。愛玩動物種は特に限定されるものではなく、獣医療の対象として、クライアント(飼い主)により、診断・治療を求められ、かつ獣医師により慢性腎不全による尿毒症と診断される動物が全て対象となるが哺乳類に好ましく用いられる。動物は分類学的に科、属、種に分類されるが、等しく適用可能である。例えばネコではイエネコ(Felis catus)が一般的であるが、他のネコ科ネコ属の動物に好ましく用いられるほか、同じネコ科に属する、例えばヒョウ属、チーター属、ウンピョウ属、オオヤマネコ属の動物に用いても差し支えない。もちろん、ネコ以外の愛玩動物として慢性腎不全による尿毒症を発症しているイヌ科の動物にも好ましく用いられるのは言うまでもない。さらに、ネコ科、イヌ科以外の哺乳動物全般の慢性腎不全による尿毒症に対しても、本発明の方法で治療できるのは言うまでもない。もちろん、愛玩動物であっても、透析療法開始前の尿毒症患者に適用できる事は言うまでもなく、すでに透析療法処置を受けている尿毒症患者にも適用できる。また、透析療法による合併症を発症している患者にも適用できる。さらに、活性炭製剤による副作用を発症している患者にも適応可能であるが、活性炭が非特異的な物質吸着能を有することを理解し、併用する際にはそれぞれの投与ルート、併用タイミング等を勘案して実施する事が好ましい。
以下本発明を実施例に基づき、より具体的に説明するが、下記実施例に限定されるものではない。
実施例1:ベラプロストナトリウム配合錠剤の作製
造粒溶液容量および粘度の顆粒及び錠剤含量均一性に及ぼす影響
投与薬物としてベラプロストナトリウム(Beraprost Sodium(:Sodium rac - (1R, 2R, 3aS,8bS)-2,3,3a,8b-tetrahydro-2-hydroxy-1-[(E)-(3S,4RS)-3-hydroxy-4-methyloct-1-en- 6-ynyl]-1H-cyclopenta[b][1]benzofuran-5-butanoate)(BPS)を用いた。ベラプロストナトリウムおよび基材粉末(乳糖(Pharmatose 200M,OMVジャパン社)77.5部、結晶セルロース(アビセルPH-101、旭化成)20.0部)を高速攪拌造粒機に投入し、1分間混合攪拌した後、あらかじめ調製されたベラプロストナトリウムと、結合剤として、最終的に2部となる量のヒドロキシプロピルセルロース(HPC-M、信越化学工業)含有した造粒用の水溶液を、規定量加え、攪拌造粒した。造粒物は破砕機に掛けたのち、60℃で10時間熱風乾燥後、20号メッシュの整粒機で整粒し、乾燥顆粒を得た。乾燥顆粒重量に対して、0.5%のステアリン酸マグネシウムを添加し、V型混合機で30秒間混合後、ロータリー型連続打錠機にて、6mm、8Rの杵臼を用い80mg/錠の裸錠を得た。得られた裸錠をコーティング装置に入れ、コーティング液(オパドライTM(オバドライOYS-9607、日本カラコン社))を噴霧しながら、80℃でコーティングを行いフィルムコーティング錠剤を得た。コーティング量は3mg/錠、またベラプロストナトリウムの含量は、40μg/錠および150μg/錠とした。
実施例2:ベラプロストナトリウム配合カプセル剤
実施例1に示す方法で得た乾燥顆粒をクオリカプスカプセル(Qualicaps、サイズ5、LOK-CAPS、SHIONOGI)に充填し顆粒カプセル剤を作成した。また溶液カプセル剤の調整は、ベラプロストナトリウムをポリエチレングリコール(和光純薬)に投与量が10、30、70、100μg/28μl/kgとなるように希釈後、クオリカプスカプセルに充填して作成した。マイクロピペットでベラプロストナトリウム配合カプセル剤を作成し、同様に、プラセボとしてポリエチレングリコール28μl/kgだけ充填したカプセル剤を作成した。
実施例3: 健康なネコにおけるベラプロストナトリウム投与量の検討
検討には動物病院で飼育され臨床的および血液検査にて異常がみられない年齢3〜6歳、雄3匹、雌2匹の計5匹の日本ネコを使用した。供試ネコは水を自由に摂取できる個々のケージ内に収容し、食餌は、必要項目測定後に1日2回与えた。予め実験環境に慣らす目的で2週間1日2回の非観血的血圧測定を実施した。
健常ネコに対するベラプロストナトリウム投与による一般臨床症状の観察は以下の様に行った。ラット、およびイヌを使用した実験報告を参考として、ベラプロストナトリウムの過剰投与によって発生が予想される歩行失調、鎮静、横臥、可視粘膜の紅潮、流涙、流涎、嘔吐、下痢、失禁、呼吸状態の変化などの有害事項発現の有無を観察した。観察は、投与前および7連日投与の毎投与後の30分、1、2、3時間時とした。判定は、それぞれ4段階とし、呼吸状態は;異常なし(程度0)、促迫(程度1)、低下(程度2)、呼吸困難(程度3)に分類、歩行失調は:異常なし(程度0)、:軽度(程度1)、:中程度(程度2)、:歩行不可(程度3)に分類した。鎮静(呼びかけ反応)、横臥(呼びかけ反応)は;異常なし(程度0)、:軽度(程度1)、中程度(程度2)、無反応(程度3)に分類した。流涙、流涎、嘔吐、下痢、失禁の評価は;異常なし(程度0)、軽度(程度1)、中程度(程度2)、重度(程度3)に分類して行った。
血圧および心拍数測定は以下の様に行った。日本光電社製Life Scope 9にてオシロメトリック法で非観血的測定を実施した。ネコの右前肢にてベラプロストナトリウム投与前、投与後30分、1、2、3時間時の、収縮期血圧、拡張期血圧および心拍数を各5回測定した。5回測定のうち、最大値と最小値を排除した3回測定値の平均値を当該時点での当該個体の測定値とした。測定は7日間毎回行い、各回投与での反応は殆ど同一パターンであった。実施例では初回ベラプロストナトリウム投与時の成績(図1および図2)のみを代表として示した。
血液および血液化学検査は以下の様に行った。ベラプロストナトリウム投与前と各用量での7日間連続投与(1被験物の7日間連続投与を1シリーズと以下言う)の終了翌日の空腹時に採血し検査を実施した。血液検査項目は、RBC、WBC、PCV、Hb、Plat、血液化学検査項目は、AST、ALT、T.P、BUN、Cre、Na、K、Clを採用した。
投与方法を以下に示す。5匹の健常ネコに対し、ベラプロストナトリウムを10、30、70、100μg/kg(各1週間の連続投与)の4投与シリーズおよびベラプロストナトリウムを含まないプラセボ1シリーズで順次実施した。各投与シリーズでの供試ネコは、試験薬の評価を適正に実施するために同一のネコを使用した。なお、先行シリーズの被験薬の影響を排除する目的で休薬(wash out)期間を各シリーズ終了後から2週間設けた。ベラプロストナトリウム投与シリーズおよびプラセボ投与シリーズには、実施例2で調整された溶液カプセル剤を使用した。投与は空腹時に12時間間隔で、1日2回、7連日、経口的に行った。
統計学的解析は統計ソフトStat View J-4.5(Abacus Concepts)を用いて実施した。同一個体に対しての投与前後でのパラメータ値比較であるので、対応ある2群でのt-testにて有意差検定を行った。いずれも危険率5%未満を有意差ありと判定した。試験結果は以下の様になった。
臨床症状を観察した結果、10μg/kg/BID、30μg/kg/BIDシリーズでは有害事項は一切認められなかった。一方、70μg/kg/BIDでは2/5例に、投与後2日から6日にかけて、程度基準1の下痢、嘔吐、鎮静などの有害事項が散発的に認められた。すなわち、No1ネコで連投6日目に、No.2ネコで連投2日目と5日目に基準1の下痢を観察した。また100μg/kg/BIDシリーズでは、全てのネコで、投与開始の2日目から程度基準2の嘔吐、下痢、鎮静が投与期間中に頻発した。すなわち、No.1ネコでは連投2、3日目に下痢、No.2ネコでは2、3日目に下痢、5日目に下痢と嘔吐を、No.3ネコでは2日目に下痢、嘔吐、3、4、5日目に下痢を、No.4ネコでは2日目に下痢、嘔吐、3日目に下痢、5日目に嘔吐、軟便、6日目に下痢を、No5.ネコでは2日目に下痢、鎮静、3日目に下痢、嘔吐、4日目に下痢を、それぞれ該当日の投与後2時間以内に発現した。その他の有害臨床症状としては、100μg/kg/BIDシリーズでのNo.5ネコに於いて、投与2日目に鎮静を観察した。ただし、これらの有害事項も最終投与の翌日までには消失した。
10μg/kg/BIDシリーズを除き、30μg/kg/BIDから用量依存的なベラプロストナトリウムによる有意(p<0.05)の心拍数増加がベラプロストナトリウム投与後30分から1時間にかけ認められた(図1(a)は実測値、図1(b)は各シリーズの投与開始前を100%とした時の変化率)。最大変動は100μg/kg投与、30分目時点での約25%増であった。但し、いずれの投与量であっても2時間後には投与前値レベルに回復した。この一過性、短時間の心拍数増加パターンは初回のベラプロストナトリウム投与試験時であっても、連日投与後の投与時であっても同一であった。
各用量での投与シリーズにおける初回投与時の血圧への影響を図2に示す。収縮期圧、拡張期圧、脈圧のいずれに於いても有意な変動は認められなかった。血球数、電解質および腎機能、肝機能に関しては何ら有害な変動は認められなかった。
次に、実施例-4以降の腎不全に由来する尿毒症を示す患者に対する試験方法について記載する。慢性腎不全ネコおよびイヌの診断基準、評価項目は以下のとおりである。尿毒症、慢性腎不全の診断は臨床所見(尿毒症所見を含む)に、血液検査、血液生化学検査、尿検査の成績を加えて総合的に判断した。尿毒症の臨床所見としては、多飲多尿、脱水、食欲不振、体重減少、貧血、嘔吐症状、脱水状態の有無および程度の観察を、慢性腎不全の有無は、一般的に採用されている血清Cre値によって判断し、慢性腎不全の進行程度を把握する参考データとしてBUN値についてもモニターした。
血液検査ではRBC, WBC, PCV, Hg, PLT測定を、血液生化学検査に於いてはTP, Tcho, AST, ALT, ALP, Tbil, BUN, クレアチニン, カルシウム、無機リン、グルコース、ナトリウムイオン、カリウムイオン、クロルイオンの測定を、尿検査ではタンパク量、pH、潜血、ケトン体、ビリルビン、グルコース測定を行った。採血は血液生化学マーカー値の日内変動および食事の影響を除外するために、全て午前中の給餌前(空腹時)に実施した。
本実施例におけるネコおよびイヌでの慢性腎不全のより具体的な診断基準として血液検査に於いては血清Cre値が1.4mg/dLであることとした。血清Cre値はクレアチニンディミナーゼ・アミドヒドラーゼ法で、また、慢性腎不全の進行程度を把握する参考データであるBUN値はウレアーゼ・GLDH法により測定した。
本Pilot臨床試験に於いては試験開始前に慢性腎不全ネコの飼い主(クライアント)に対してベラプロストナトリウムがすでにヒトの慢性動脈閉塞症を対象疾患として認可、発売済みの医薬品である事に加え、安全性に関するインフォームドコンセントを行いクライアントの了解を得て実施した。また、患者およびクライアントの利益を第一に考え、腎不全の進行している個体に対しては従来の治療法も適宜併用した。例えば、併用薬としては合性活性炭であるコバルジン、クレメジン、ネフガードなど、カルシウム製剤としては炭酸カルシウム、処方食としてはk/dあるいは低タンパク食、および輸液である。但し、合理的な理由があり、且つ飼い主の了解が得られた場合は、腎不全の進行している個体であっても、ベラプロストナトリウム単独の投与とした。一方、ベラプロストナトリウム作用に影響を及ぼす事が考えられる薬物、血管拡張剤(例えばエナラプリルなど)、利尿剤(例えばフロセミドなど)、腎血流に影響する薬物(例えばドパミンなど)およびステロイド(例えばプレドニゾロンなど)は併用しなかった。
ベラプロストナトリウム投与は150μg/錠の錠剤(実施例1)の1日2回の経口投与で行った(300μg/head/day)。6カ月間の連日投与を基本とし、試験期間経過後も飼い主が希望すれば継続投与とした。本発明の実施例では6カ月未満および6カ月超の投与例も含まれている。
尿毒症状の改善度判定は以下の様に行った。尿毒症に係わる臨床症状の中からは、見逃しが少なく、試験期間前後を通じて普遍的に観察が可能な活動度と食欲を選択した。活動度を;消失(スコア0)、減退(スコア1)、正常(スコア2)とし、食欲を;廃絶(スコア0)、不振(スコア1)、やや不振(スコア2)、正常(スコア3)として総合ポイント(満点は5ポイント)で評価した。すなわち、ポイントが高ければ高い程、臨床症状が好転した事を意味する。
実施例4:慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-A、ベラプロストナトリウム単独投与、図3)
症例-Aは5歳齢の雄ネコであり、総合的判定の結果、慢性腎不全と診断した。飼い主(クライアント)の了解を得て、ベラプロストナトリウム投与のみの治療を開始した。その結果、ベラプロストナトリウム投与1ヶ月目でスコアは4に、2ヶ月目で満点の5ポイントに達しベラプロストナトリウム投与期間である6ヶ月間継続した。一方、BUNおよびCreは共にベラプロストナトリウム投与開始と同時に減少し、BUNは開始2ヶ月目で最低値に、血清Cre値は5ヶ月目で最低値に達した。投与期間の6ヶ月終了時点では臨床的にも生化学マーカー的にも正常ネコと変わらなくなった。驚いた事に、ベラプロストナトリウム投与を終了してから、さらに6ヶ月を経た12ヶ月後にフォローアップを行った結果、臨床状態が極めて良好であるばかりでなく、BUN, 血清Cre値も正常値に低下したままであった。すなわち、本症例では尿毒症ばかりでなく腎不全状態そのものが完治していた。ベラプロストナトリウムがその投与中に、一旦低下した腎機能を回復させ腎不全からの「脱却」あるいは「回復」させる事自体が新規な発見であるが、ベラプロストナトリウム投与終了後も長期間その状態を維持する、いわゆる「腎不全自体が完治、持続する効果」は本症例によって本発明者らが全く新規に見いだしたものである。なお、ベラプロストナトリウム投与中は下痢、嘔吐などの有害作用は1回も見られなかった。
実施例5:慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-B、ベラプロストナトリウム単独投与、図4)
ベラプロストナトリウムの投与対象患者は体重4.0kg、4歳齢、雄の日本ネコで、初診時所見はネコ下部尿路症候群(FUS)による尿閉であった。利尿剤、抗生物質の処置を行うも一時的な小康が得られるのみの状態で臨床スコアは3ポイント前後でほぼ1年を経過し、総合的な検査の結果、慢性腎不全と診断した。ベラプロストナトリウムの投与を開始した結果、1カ月後の臨床症状総合スコアは投与前の3ポイントから満点の5ポイントと改善が認められた。本症例では、ベラプロストナトリウム投与開始1ないし2ヶ月目では臨床症状の若干の改善がある一方で、BUN値、血清Cre値は上昇する傾向があった。しかし、驚いた事に、ベラプロストナトリウム投与開始4ヶ月からはBUN値、血清Cre値は一気に減少に転じ正常値に達し、臨床スコアも満点の5ポイントとなった。この症例では、見かけ上、臨床症状の改善と腎機能マーカー値の低下に相関がうかがえた。尿毒症状の改善に伴い、体重も増加した。飼い主(クライアント)の強い希望もあり、ベラプロストナトリウムの連日投与は開始後すでに1年半以上に及んでいるが、ベラプロストナトリウム投与による有害事象は一切認められずCre, BUNは正常値に維持されている。すなわち、ベラプロストナトリウムは長期に亘り安全に投与可能である事が判明した。さらに、ベラプロストナトリウムには優れた尿毒症の改善効果があるばかりでなく、従来の慢性腎不全改善の概念、すなわち腎機能の悪化、進展を抑制もしくは停止とは一線を画している。すなわち、一旦低下した腎機能を回復させると言う全く新規なベラプロストナトリウムの慢性腎不全からの「脱却」あるいは「回復効果」を本例でも見いだした。また、本例でもベラプロストナトリウム投与期間中に下痢、嘔吐などの有害作用は全く見られなかった。
実施例6:慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-C、ベラプロストナトリウム単独投与、図5)
本症例は16歳齢の雌ネコで慢性腎不全と診断された。進行した尿毒症を併発しており、従来なら他剤併用の対象であったが、飼い主(クライアント)への十分な説明と了解のもとベラプロストナトリウム単独投与を行った。ベラプロストナトリウム投与開始2週間目で臨床スコアは2ポイントから4ポイントへと大幅に改善、6週間目の時点で再び2ポイントに低下したものの、その後は4ポイント、ついで2ヶ月半以降は満点の5ポイントに達した。この間、血清Cre値は変化が無いか、若干の上昇でBUN値は一方的に上昇し続けた。本実施例で、ベラプロストナトリウムには腎不全が数値的に改善しない状況でも、尿毒症を改善する効果があることが明らかとなった。本例でもベラプロストナトリウム投与期間中に下痢、嘔吐などの有害作用は全く見られなかった。
実施例7:慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-D、ベラプロストナトリウム単独投与、図6)
ベラプロストナトリウムの投与対象患者は体重4.5kg、17歳齢の雄のシャムネコで、総合的な検査の結果,慢性腎不全と診断した。進行症例ではあるが、総合的判断から併用薬、輸液などの従来法による治療を一切行わずにベラプロストナトリウム単独投与を行った。ベラプロストナトリウム投与前の1カ月間は食欲、元気ともに不安定で2ポイントであったが、ベラプロストナトリウムの投与を開始した結果、1カ月後の臨床症状総合スコアは投与前の2ポイントから5ポイントへと劇的な改善が認められ、体重も増加した。本例でもベラプロストナトリウム投与期間中に下痢、嘔吐などの有害作用は全く見られなかった。一方、腎機能を反映するBUN値はベラプロストナトリウム投与後も上昇し続けた。血清Cre値も高値を維持した。本症例に於いても、ベラプロストナトリウム自体の尿毒症改善効果は、腎機能マーカー改善がなくても明らかに認められた。本例でもベラプロストナトリウム投与期間中に下痢、嘔吐などの有害作用は全く見られなかった。
実施例8:慢性腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-E、併用療法、図7)
ベラプロストナトリウムの投与対象患者は体重3.5kgで14歳齢の雄の日本ネコである。約10年前から下部尿路症候群(FUS)による尿閉、膀胱炎を繰り返してきた。数カ月前より食欲減退、削痩が顕著となり、重度の尿毒症を併発した腎不全と診断。数カ月前からクレメジン200mg/BID,利尿剤、輸液、炭酸Ca製剤、処方食(k/d食)処置を行うも、嘔吐、食欲の低下、活動消失で見られる尿毒症は一向に改善せず、さらに活性炭製剤による便秘も誘発され、消化器機能異常治療剤であるプリンペランシロップ(藤沢薬品、一般製剤名metoclopramide)の投与で対応するも臨床スコアが0になった。そこで、飼い主の了解を得て、コバルジン200 mg/BID、カルシウム製剤200 mg/BID、処方食および輸液の従来療法に加え、ベラプロストナトリウムの投与を開始した。ベラプロストナトリウム投与開始1カ月後の臨床症状総合スコアは投与前の0ポイントから4ポイントと大幅な改善が認められ、その後、一時的なスコア低下があったものの、約3ヶ月間は満点の5ポイントを示し、尿毒症状は大幅に改善された。しかし、この間の腎機能評価では、血清Cre値は高値を維持し、BUN値に至ってはなお上昇し続け、尿毒症状の劇的改善とは裏腹の関係が見られた。脱水も完全に解消された結果、この間、輸液は必要ではなくなった。加療開始後、約3カ月目の時点で再びコバルジンの副作用である便秘がひどくなり、併用療法からコバルジン投与のみを4カ月目時点で中止した。この時点から臨床症状は2ヶ月程3ポイントと低値が続いたが、べラプロストナトリウムを含む併用療法により、7ヶ月目時点から8ヶ月目にかけ再び満点の5ポイントに回復し尿毒症状は著しく改善した。驚いた事に、この尿毒症改善の時点でもCreは高値のままであり、BUN値に至ってはさらに大幅に増加した。コバルジン投与の中止後は便秘も完全に解消した。一方、ベラプロストナトリウム投与を継続しても嘔吐、下痢などの消化管に対する有害事象は、その後一切認められなかった。以上より、併用療法を加えた腎不全の進行症例に於いても、ベラプロストナトリウムには優れた尿毒症状の改善効果が、腎不全を表す腎機能マーカーであるCre, BUNがなお悪化し続けているにも係わらず、明瞭に追認された。本例でもベラプロストナトリウム投与期間中に下痢、嘔吐などの有害作用は全く見られなかった。
実施例9:腎不全ネコへのベラプロストナトリウム投与(症例-F、糖尿病性腎症、図8)
患者は11歳齢の雄ネコで、既往歴および血液生化学的検査数値から糖尿病性腎症に由来する慢性腎不全と診断、尿毒症状を示していた。まず、2ヶ月間、抗糖尿病治療としてインシュリン(プロタミン亜鉛インシュリン、2単位/BID)を、慢性腎不全、尿毒症対策として炭酸Ca製剤および活性炭製剤を投与した。その結果、糖尿病については空腹時血糖が100mg/dL,尿糖は±に安定したが、腎不全状態に関しては相変わらずBUN値が高く、尿毒症状についても臨床スコアは2ないし3ポイントと低いままで改善されなかった。そこで、インシュリン療法、他剤併用療法に加えてベラプロストナトリウムの連日投与を開始した。ベラプロストナトリウム投与開始後、早くも1ヶ月目には臨床症状は満点の5ポイントに劇的に改善、尿毒症状も消失し、その後10ヶ月間この状態が持続している。一方、腎不全マーカーであるBUN値はベラプロストナトリウム投与を開始しても高値を維持し、血清Cre値に至っては一方的に全期間を通じて上昇し続けている。本症例から、ベラプロストナトリウムは糖尿病を原疾患とする慢性腎不全患者における尿毒症の治療に於いても安全かつ有効に使用できる事が判明した。また、本患者にあっても、腎不全自体が好転しなくてもベラプロストナトリウムには尿毒症状を改善する効果がある事がさらに追加実証された。本例に於いても、ベラプロストナトリウム投与期間中に下痢、嘔吐は一切見られなかった。
実施例10:低ベラプロストナトリウム含量錠剤による尿毒症状の改善(症例―G、ベラプロストナトリウム錠剤単独投与)
本実施例での慢性腎不全ネコは手術時の輸血Donorとして管理、飼育していたネコである。総合的な診断から慢性腎不全と診断された。本ネコは適切な時期のワクチン接種により、感染既往歴もなく、各種血液検査で健康状態が定期的にフォローされて来た。しかし、総合的判断により慢性腎不全に移行したと診断し、ベラプロストナトリウム投与を開始した。事前にこれまでの実施臨床例情報により、150μg/head/BIDのベラプロストナトリウム投与での有効性(抗尿毒症効果)を確認できていたので、さらに低用量の40μg/head/BID(実施例1)を本症例(症例-G)に投与し、検査間隔も2週間で行った。ベラプロストナトリウム投与前のBUN値は52.2mg/dL、血清Cre値は2.56mg/dLであった。40μg/head/BID のベラプロストナトリウム投与開始後、BUN値はほぼ一定値で推移し、Creは28日目に2.79mg/dL、56日目に3.02mg/dLまで増加し続けた。一方、体重増加はベラプロストナトリウム投与開始後の早期から見られ、ベラプロストナトリウム投与開始前が3.2kgであったのに対し、14日目で3.83kg、56日目で3.95kgに増加した。尿毒症状回復も早くから見られ、ベラプロストナトリウム投与開始間のスコアが3ポイントであったのに対し、早くも14日目に満点の5ポイントに達し、その後56日目まで満点を維持している。すなわち、本実施例からも、血清Cre値がなお悪化し続ける状況に於いて、慢性腎不全に伴う尿毒症状自体の改善効果は、より低用量のベラプロストナトリウム投与でも得られる事が確認された。本例でもベラプロストナトリウム投与期間中に下痢、嘔吐などの有害作用は全く見られなかった。
実施例11:ベラプロストナトリウム投与による体重増加
ベラプロストナトリウム投与は明白な食欲、飲水欲の改善を促し、慢性腎不全ネコの体重を増加させた。表2にその例を示す。同表からも明らかな様に、全ての個体で体重増加が認められた。ベラプロストナトリウム投与による活動度の改善、食欲増加などの目視観察の結果に加え、体重回復という客観的数値で示される尿毒症状の軽減、消失は患者ネコにはもとより、飼い主に対しても大きな満足感を与えた。
Figure 0005018478
実施例12:腎不全犬へのベラプロストナトリウム投与(症例-H、図9)
ベラプロストナトリウムの投与対象患者は体重6.4kgの14歳齢の雌犬(雑種)である。食欲低下、活動度が著しく低下したとの主訴で来院。既往歴、臨床観察、臨床検査結果より慢性腎不全と診断した。初診時の臨床スコアは2ポイントと低く、コバルジン200 mg/BIDによる治療を開始した。その結果、臨床スコアは2週間で3ポイントへと若干改善したが、その後の2ヶ月間は3ポイントと低値が持続し、これ以上の改善は見られなかった。そこで、クライアントの了解を得てコバルジン治療を中止し、ベラプロストナトリウム単独投与に切り替えた。ベラプロストナトリウムは、投与量が150μg/カプセルとなる様に、ポリエチレングリコール(和光)で希釈し、マイクロピペットでカプセル(size 5 シオノギクオリカプス)に分包し、1日2回、空腹時に経口投与した。その結果、図9に示すように、投与開始1ヶ月目で臨床スコアは4ポイントに増加し、2ヶ月目には満点の5ポイントに達した。一方、腎不全マーカーであるBUNはほとんど不変で推移し、血清Cre値に至ってベラプロストナトリウム投与開始後は臨床症状改善が著しいにもかかわらずむしろ増加した。この臨床症状の改善と腎不全マーカー値の改善が必ずしも連動していない現象は腎不全ネコと同様である。なお、上記の一連の治療中に処方食の給餌および輸液は一切行っていない。本例でも、ベラプロストナトリウム投与期間中に嘔吐、下痢などの有害作用は全く見られなかった。以上より、ネコ以外にイヌ慢性腎不全に於いても、ベラプロストナトリウムの尿毒症状改善効果が、腎不全を表す腎機能マーカーである血清Cre, BUN値がなお悪化し続けているにも係わらず、明瞭に示される事をはじめて見出した。

Claims (3)

  1. 一般式(I)
    Figure 0005018478
    [式中、
    は、
    (A)COOR、ここでRは、
    1)水素または薬理学的に受け入れられる陽イオン、
    2)炭素数1〜12の直鎖アルキルまたは炭素数3〜14の分岐アルキル
    3)―Z−R 、ここでZは原子価結合、またはC2tで表される直鎖もしくは分岐アルキレンであり、tは1〜6の整数を示し、Rは炭素数3〜12のシクロアルキルまたはRの1〜3個で置換された炭素数3〜12の置換シクロアルキルであり、Rは水素または炭素数1〜5のアルキル、
    4)−(CHCHO)CH、ここで、nは1〜5の整数、
    5)−Z−Ar、ここでZは前記定義に同じ、Arはフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、α−フリル、β−フリル、α−チエニル、β−チエニルまたは置換フェニル(ここで置換基は少なくとも1個の、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、トリフルオロメチル、炭素数1〜4のアルキル、ニトロ、シアノ、メトキシ、フェニル、フェノキシ、p−アセトアミドベンズアミド、−CH=N−NH−C(=O)−NH、−NH−C(=O)−Ph、−NH−C(=O)−CH及び−NH−C(=O)−NHから成る群より選ばれる少なくとも1種)、
    6)−C2tCOOR、ここでC2t、Rは前記定義に同じ、
    7)−C2tN(R、ここでC2t、Rは前記定義に同じ、
    8)−CH(R)−C−(=O)−R、ここでRは水素またはベンゾイル、Rはフェニル、p−ブロモフェニル、p−クロロフェニル、p−ビフェニル、p−ニトロフェニル、p−ベンズアミドフェニル、2−ナフチル、
    9)−C2p−W−R、ここで、Wは−CH=CH−、−CH=CR−または−C≡C−であり、Rは水素、炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐アルキルまたは炭素数7〜30のアラルキルであり、pは1〜5の整数、または、
    10)−CH(CHOR 、ここでRは炭素数1〜30のアルキルまたは炭素数1〜30のアシル、
    (B)−CHOH 、
    (C)−C(=O)N(R
    ここでRは水素、炭素数1〜12の直鎖アルキル、炭素数3〜12の分岐アルキル、炭素数3〜12のシクロアルキル、炭素数4〜13のシクロアルキルアルキレン、フェニル、置換フェニル(ここで置換基は上記(A)5)の場合と同義)、炭素数7〜12のアラルキルまたは−SO10を表わし、R10は炭素数1〜10のアルキル、炭素数3〜12のシクロアルキル、フェニル、置換フェニル(ここで置換基は上記(A)5)の場合と同義)、炭素数7〜12のアラルキルを表わし、2つのRは同一でも異なっていてもよいが、一方が−SO10を表わす場合は他のRは−SO10ではないものとする、または、
    (D)−CHOTHP(THPはテトラヒドロピラニル基)であり、
    Aは、
    1)−(CH−、
    2)−CH=CH−CH−、
    3)−CH−CH=CH−、
    4)−CH−O−CH−、
    5)−CH=CH−、
    6)−O−CH−または
    7)−C≡C−であり、 ここで、mは1から3の整数を示し、
    Yは、水素、炭素数1〜4のアルキル、塩素、臭素、フッ素、ホルミル、メトキシまたはニトロであり、
    Bは、 −X−C(R11)(R12)OR13、ここで、R11は水素または炭素数1〜4のアルキルであり、R13は水素、炭素数1〜14のアシル、炭素数6〜15のアロイル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、1−エトキシエチルまたはt−ブチルであり、
    Xは、
    1)−CH−CH−、
    2)−CH=CH−、または
    3)−C≡C−であり、
    12は、
    1)炭素数1〜12の直鎖アルキル、炭素数3〜14の分岐アルキル、
    2)−Z−Ar ここでZは前記定義に同じ、Arはフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、または少なくとも1個の、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、トリフルオロメチル、炭素数1〜4のアルキル、ニトロ、シアノ、メトキシ、フェニル及びフェノキシから成る群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換したフェニル、
    3)−C2tOR14、ここでC2tは前記定義に同じ、R14は炭素数1〜6の直鎖アルキル、炭素数3〜6の分岐アルキル、フェニル、少なくとも1個の、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、トリフルオロメチル、炭素数1〜4のアルキル、ニトロ、シアノ、メトキシ、フェニル及びフェノキシから成る群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換されたフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、または、炭素数1〜4の直鎖アルキルの1〜4個で置換されたシクロペンチル若しくはシクロヘキシル、
    4)−Z−R、ここでZ、Rは前記定義に同じ、
    5)−C2t−CH=C(R15)R16 、ここでC2tは前記定義に同じ、R15及びR16は互いに独立に水素、メチル、エチル、プロピル若しくはブチル、または
    6)−C2u−C≡C−R17、ここでuは1〜7の整数であり、C2uは直鎖または分岐アルキレンを表わし、R17は炭素数1〜6の直鎖アルキルを表わし、
    Eは、水素または−OR18、ここでR18は炭素数1〜12のアシル、炭素数7〜15のアロイル若しくはR(ここでRは前記定義に同じ)を表わし、
    一般式(I)はd体、l体またはdl体を表わす]、
    で表わされる化合物を有効成分として含有する慢性腎不全患者における尿毒症治療剤。
  2. 一般式(I)に於いて
    がCOOR、ここでRは、水素または薬理学的に受け入れられる陽イオンであり、
    Aが−(CH−、ここでmは1から3の整数であり、
    Yが水素、
    Bが −X−C(R11)(R12)OR13、ここでR11、およびR13は水素であり、
    Xが−CH=CH−、であり、
    12が−C2u−C≡C−R17、ここでuは1〜7の整数、C2uは直鎖または分岐アルキレン、R17は炭素数1〜6の直鎖アルキル、
    Eは、水素または−OR(ここでRは前記定義に同じ)である、請求項1記載の慢性腎不全患者における尿毒症治療剤。
  3. 一般式(I)に於いて
    がCOOR、ここでRは、水素またはナトリウムイオンであり、
    Aが−(CH−、ここでmは3であり、
    Yが水素、
    Bが −X−C(R11)(R12)OR13、ここでR11、およびR13は水素であり、
    Xが−CH=CH−、であり、
    12が−C2u−C≡C−R17、ここでuは3、C2uは分岐アルキレン、
    17はメチル、
    Eは、−OHである、請求項1記載の慢性腎不全患者における尿毒症治療剤。
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