以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
「基本構成」
図1,2は遊星ローラ機構12の基本構成を示す図であり、図1はリングローラ22の中心軸方向(軸線方向)から見た図を示し、図2は図1のA−A断面図を示す。遊星ローラ機構12は、リングローラ22と、リングローラ22の内側(径方向内側)に配置されたサンローラ21と、リングローラ22の周方向に沿って互いに間隔をおいて並べられ、各々がサンローラ21とリングローラ22との間にこれらと接触して挟持(挟圧保持)された複数のピニオンローラ(遊星ローラ)23と、各ピニオンローラ23を回転自在に支持するキャリア24と、リングローラ22を支持するための支持部材18と、を有する。複数のピニオンローラ23は、リングローラ22の周方向に関して互いに等間隔で(あるいはほぼ等間隔で)配置されている。図1,2は、遊星ローラ機構12がシングルピニオン型遊星ローラ機構である例を示している。サンローラ21、リングローラ22、及びキャリア24の中心軸(軸線)は互いに一致している。そして、ピニオンローラ23が自転するときの回転中心軸(軸線)はリングローラ22の中心軸と平行である。
遊星ローラ機構12等のトラクションドライブ機構においては、ローラ同士の油膜を介した接触部に押圧力(法線方向の力)が作用することで生じる油膜のせん断力(接線方向のトラクション力)によってトルク伝達を行うことが可能であるが、トルク伝達を行う際には、各接触部において過大滑り(グロススリップ)が生じないように、トルク伝達に必要な押圧力(法線力)を各接触部に作用させる必要がある。遊星ローラ機構12において、サンローラ21の外周面(転動面)と各ピニオンローラ23の外周面(転動面)との接触部27、及び各ピニオンローラ23の外周面とリングローラ22の内周面(転動面)との接触部28に押圧力(法線力)を作用させるためには、例えば焼き嵌めや締まり嵌め等によってサンローラ21及び各ピニオンローラ23をリングローラ22の内側に嵌め込み、遊星ローラ機構12に締め代を生じさせる。この締め代によってリングローラ22が径方向外側へ弾性変形することで径方向内側(ピニオンローラ23側)への弾性力(復元力)が生じ、リングローラ22は、この弾性力によって各ピニオンローラ23をサンローラ21側へ押圧することで、接触部27,28に法線力を作用させることができる。また、接触部27,28に押圧力(法線力)を付加する既知の押圧力付加機構を設けることもできる。このように、接触部27,28に法線方向の力を作用させることで、接触部27,28に接線方向のトラクション力を発生させることができ、サンローラ21と各ピニオンローラ23との間、及び各ピニオンローラ23とリングローラ22との間でトルク伝達を行うことができる。
遊星ローラ機構12については、変速機構として用いることが可能である。例えば支持部材18をケーシング(回転の固定された固定部材)として用いてリングローラ22の回転を拘束することで、サンローラ21とキャリア24との間で動力を変速して伝達することができる。その場合に、サンローラ21からキャリア24へ動力を伝達するときは、遊星ローラ機構12は、サンローラ21からキャリア24へ動力を減速して伝達する減速機構として機能する。一方、キャリア24からサンローラ21へ動力を伝達するときは、遊星ローラ機構12は、キャリア24からサンローラ21へ動力を増速して伝達する増速機構として機能する。また、キャリア24をケーシングに固定してその回転を拘束することで、サンローラ21とリングローラ22との間で動力を変速して伝達することもできる。また、サンローラ21をケーシングに固定してその回転を拘束することで、キャリア24とリングローラ22との間で動力を変速して伝達することもできる。キャリア24またはサンローラ21の回転を拘束する場合は、支持部材18は回転する。このように、遊星ローラ機構12は、キャリア24とサンローラ21とリングローラ22のうち、いずれか1つの回転を拘束することで残りの2つの間でトルク伝達を行うことが可能である。
接触部27,28に押圧力を作用させる際には、リングローラ22は、各ピニオンローラ23からの反力を受けることで径方向外側へ弾性変形する。リングローラ22の径方向外側への変形量は、周方向位置に応じて異なり、ピニオンローラ23との接触部28の周方向位置で最大となり、ピニオンローラ23との接触部28から離れるほど小さくなる。リングローラ22とキャリア24との間に相対回転が発生する(リングローラ22に対してピニオンローラ23が相対的に公転する)と、接触部28の周方向位置が周期的に変化するため、リングローラ22の径方向外側への変形量が最大となる周方向位置が周期的に変化することで、リングローラ22には径方向への変形が繰り返し発生する。このリングローラ22の繰り返し変形が支持部材18に振動となって伝達されると、振動・騒音の原因となる。
そこで、リングローラ22から支持部材18に伝達される振動を吸収する緩衝部材26を介して、リングローラ22を支持部材18に支持する。以下、リングローラ22を支持部材18に支持する緩衝部材26の構成について、図3〜5を用いて説明する。
緩衝部材26は、リングローラ22の周方向に沿って設けられ、複数の弾性変形部材25がリングローラ22の周方向に沿って互いに間隔をおいて並べられている。図3〜5に示す例では、緩衝部材26は、リングローラ22の一方の側面22aにボルト51により取り付けられたリング側取付板41と、支持部材18の取付面18aにボルト52により取り付けられた支持側取付板42と、リング側取付板41と支持側取付板42とを連結する連結板43とを含み、リング側取付板41及び連結板43により弾性変形部材25が構成される。図1,4では、緩衝部材26の構成を周方向に関して一部のみ示しているが、実際は、緩衝部材26がリングローラ22の全周に渡って設けられている。リング側取付板41及び連結板43は、図4に示すように、切り欠き44によってリングローラ22の周方向に関してそれぞれ複数(多数)に分割されている。つまり、複数のリング側取付板41及び連結板43(弾性変形部材25)は、周方向に関して間隔をおいて(等間隔で)配置されている。複数に分割されたリング側取付板41は、リングローラ22の側面22aにおける周方向位置のそれぞれ異なる箇所にボルト51により取り付けられており、複数のリング側取付板41(弾性変形部材25)によるリングローラ22の支持箇所は、周方向に関して互いに等間隔である。支持部材18はリングローラ22よりも径方向外側(リングローラ22の外周側)に配置されており、支持側取付板42は各リング側取付板41よりも径方向外側に配置されている。図3に示すように、リングローラ22の側面22a及び支持部材18の取付面18aは、いずれもリングローラ22の軸線方向(図3の左右方向)と垂直(あるいはほぼ垂直)な平面であり、互いに軸線方向に関してずれた状態で互いに平行に配置されている。そのため、各リング側取付板41及び支持側取付板42は、いずれも軸線方向と垂直に配置され、支持側取付板42は、各リング側取付板41に対して軸線方向にずれた状態で平行に配置されている。各連結板43は、図3に示すように軸線方向に沿って(あるいはほぼ沿って)延びており、図5に示すように周方向長さaが径方向長さ(板厚)bよりも十分長い。各連結板43の軸線方向の一端部は各リング側取付板41の外周部とそれぞれ連結されており、各連結板43の軸線方向の他端部は支持側取付板42の内周部と連結されている。図3に示す例では、各連結板43の軸線方向長さ(支持側取付板42に対する各リング側取付板41の軸線方向へのずれ量)は、リングローラ22及びピニオンローラ23の軸線方向長さとほぼ等しい。緩衝部材26(リング側取付板41、支持側取付板42、及び連結板43)については、例えば鋼等の薄板を折り曲げることで構成することが可能である。
図3に示すように、ピニオンローラ23により押圧されていない(径方向外側への弾性変形量が小さい)リングローラ22の周方向位置に取り付けられた連結板43は、軸線方向と平行(あるいはほぼ平行)であり、この連結板43と連結されたリング側取付板41及び支持側取付板42と垂直(あるいはほぼ垂直)である。一方、図6に示すように、ピニオンローラ23により押圧されることで径方向外側へ弾性変形するリングローラ22の周方向位置に取り付けられた連結板43は、リング側取付板41と連結された一端部が径方向外側へ変位することで軸線方向に対し傾斜し、このリング側取付板41に対する角度及び支持側取付板42に対する角度がともに90°より小さくなるように弾性変形する。それとともに、この連結板43は、リング側取付板41と連結された一端部から支持側取付板42と連結された他端部にかけて伸びるように弾性変形することで、この連結板43の角度変化に伴って作用する引張力を吸収する。この弾性変形によって、支持部材18に対するリングローラ22(ピニオンローラ23により押圧される箇所)の径方向外側への相対変位が許容される。そして、ピニオンローラ23により押圧されなくなることで径方向内側へ復元するリングローラ22の周方向位置に取り付けられた連結板43は、その一端部が径方向内側へ変位することで軸線方向と平行(あるいはほぼ平行)な状態(図3に示す状態)に復元し、リング側取付板41に対する角度及び支持側取付板42に対する角度がともに90°(あるいはほぼ90°)に復元する。それとともに、この連結板43に作用していた引張力が除去され、その一端部から他端部にかけての伸びが原形に復元する。これによって、支持部材18に対するリングローラ22の径方向内側への相対変位が許容される。なお、各連結板43においては、周方向長さaが径方向長さ(板厚)bよりも十分長く、周方向の剛性が径方向及び軸線方向の剛性よりも十分高いため、支持部材18に対するリングローラ22の周方向(回転方向)への相対移動は拘束される。
前述の特許文献1においては、リングローラのピニオンローラ転送面の軸方向両側に薄肉部を設けることで、リングローラを径方向に変形しやすくしているが、リングローラが径方向に繰り返し変形するのに応じて、薄肉部より軸方向外側の部分及びハウジングに軸方向内側への引張力が繰り返し作用する。この繰り返し作用する引張力により、ハウジングから振動・騒音が発生する。これに対して緩衝部材26は、リングローラ22の径方向への弾性変形に応じて、リング側取付板41及び支持側取付板42に対する連結板43の角度を変化させるよう弾性変形することで、リングローラ22の径方向への振動を吸収する。さらに、連結板43の一端部と他端部との距離を変化させるよう連結板43が弾性変形することで、リング側取付板41及び支持側取付板42に対する連結板43の角度変化に応じて連結板43に作用する引張力を吸収する。この緩衝部材26の弾性変形によって、支持部材18に対するリングローラ22の径方向への相対変位を許容することで、リングローラ22の径方向への繰り返し変形に起因してリングローラ22から支持部材18へ伝達される振動を吸収する。その際には、リングローラ22の側面22aへの各リング側取付板41の取り付け位置を支持部材18の取付面18aへの支持側取付板42の取り付け位置に対して軸線方向にずらすことで、各連結板43の軸線方向長さを十分に確保することができる。そのため、リングローラ22の径方向への振動を吸収するために必要な、リング側取付板41及び支持側取付板42に対する連結板43の角度変化量を十分に確保することができる。さらに、連結板43に作用する引張力を吸収するために必要な、連結板43の一端部から他端部にかけての伸び量を十分に確保することができる。したがって、リングローラ22の径方向への繰り返し変形に起因してリングローラ22から支持部材18へ伝達される振動を十分に低減することができ、支持部材18から発生する振動・騒音を十分に低減することができる。
「実施形態」
次に、本発明の実施形態に係る遊星ローラ機構12の構成について説明する。以下の実施形態の説明では、図1〜6に示した基本構成と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については基本構成と同様である。
本実施形態でも、リングローラ22から支持部材18に伝達される振動を吸収する緩衝部材26を介して、リングローラ22を支持部材18に支持する。ここでの緩衝部材26においても、複数の弾性変形部材25がリングローラ22の周方向に沿って互いに間隔をおいて並べられ、リングローラ22を周方向位置のそれぞれ異なる複数箇所で支持部材18に支持する。複数の弾性変形部材25は、リングローラ22の周方向に関して互いに等間隔で(あるいはほぼ等間隔で)配置され、複数の弾性変形部材25によるリングローラ22の支持箇所は、周方向に関して互いに等間隔(あるいはほぼ等間隔)である。支持部材18は、リングローラ22よりも径方向外側(リングローラ22の外周側)に配置され、各弾性変形部材25は、リングローラ22の径方向に関して弾性を有し(弾性変形可能であり)、径方向内側に関する端部がボルト51によりリングローラ22に取り付けられ、径方向外側に関する端部がボルト52により支持部材18に取り付けられている。各弾性変形部材25については、リング側取付板41及び連結板43により構成することが可能である。
図3に示すように、ピニオンローラ23により押圧されていない(径方向外側への弾性変形量が小さい)リングローラ22の周方向位置に取り付けられた弾性変形部材25については、径方向に関する弾性変形量が小さい。一方、図6に示すように、ピニオンローラ23により押圧されることで径方向外側へ弾性変形するリングローラ22の周方向位置に取り付けられた弾性変形部材25は、支持部材18に対するリングローラ22(ピニオンローラ23により押圧される箇所)の径方向外側への相対変位を許容するよう径方向に弾性変形する。そして、ピニオンローラ23により押圧されなくなることで径方向内側へ復元するリングローラ22の周方向位置に取り付けられた弾性変形部材25は、支持部材18に対するリングローラ22の径方向内側への相対変位を許容するよう径方向に復元する。このように、弾性変形部材25は、支持部材18に対するリングローラ22の径方向への相対変位を許容するよう弾性変形することで、リングローラ22の径方向への繰り返し変形に起因してリングローラ22から支持部材18へ伝達される振動を吸収する。ただし、弾性変形部材25は、支持部材18に対するリングローラ22の周方向(回転方向)への相対移動については拘束する。
さらに、本実施形態に係る遊星ローラ機構12は、基本構成と比較して、周方向に沿って並べられたピニオンローラ23の個数Pと、周方向に沿って並べられた弾性変形部材25の個数Fとの関係に特徴がある。より具体的には、ピニオンローラ23の個数P、及び弾性変形部材25の個数(緩衝部材26によるリングローラ22の支持箇所の数)Fに関して、以下の(1)式及び(2)式を満たす2以上の整数kの値が存在する。この条件を満たす遊星ローラ機構12の構成例を図7に示す。図7は、P=3、且つF=6(k=2)の例を示している。ただし、ピニオンローラ23の個数P及び弾性変形部材25の個数Fは、図7に示すP=3且つF=6の例に限られるものではない。なお、以下の説明において、F個の弾性変形部材25を区別する必要があるときは、以降25−1,25−2,〜,25−Fの符号を用いて説明する。
F=k×P (1)
P≧2 (2)
あるいは、本実施形態に係る遊星ローラ機構12は、ピニオンローラ23の個数P、及び弾性変形部材25の個数(緩衝部材26によるリングローラ22の支持箇所の数)Fに関して、以下の(3)式及び(4)式が任意の1以上の整数kに対して成立する。この条件を満たす遊星ローラ機構12の構成例を図8,9に示す。図8は、PとFとの間に2以上の公約数が存在する場合であり、P=6、且つF=4(PとFの最大公約数が2)の例を示している。また、図9は、PとFとの間に2以上の公約数が存在しない場合であり、P=5、且つF=4の例を示している。ただし、ピニオンローラ23の個数P及び弾性変形部材25の個数Fは、図8に示すP=6且つF=4の例や、図9に示すP=5且つF=4の例に限られるものではない。
P≠F/k (3)
P≠k×F (4)
リングローラ22の径方向への変形により各弾性変形部材25に作用する径方向の変形力の大きさは、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係に応じて変化し、リングローラ22とキャリア24との相対回転に伴って変化する。そのため、各ピニオンローラ23が弾性変形部材25を径方向に変形させる仕事(各弾性変形部材25の弾性変形による弾性エネルギー)も、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係に応じて変化する。より具体的には、各弾性変形部材25に作用する変形力の大きさは、周方向に関してピニオンローラ23の位置と弾性変形部材25の位置が一致しているとき、つまりピニオンローラ23がリングローラ22の支持箇所の直下に位置しているときに最も大きくなり、周方向に関するピニオンローラ23の位置と弾性変形部材25の位置(リングローラ22の支持箇所)との相対距離が増大するほど小さくなる。そのため、各弾性変形部材25に対して行われる変形仕事(各弾性変形部材25の弾性エネルギー)も、周方向に関してピニオンローラ23の位置と弾性変形部材25の位置が一致しているときに最も大きくなり、周方向に関するピニオンローラ23の位置と弾性変形部材25の位置との相対距離が増大するほど小さくなる。遊星ローラ機構12における伝達トルクの一部は、リングローラ22(弾性変形部材25)を径方向に変形させるのに用いられることで損失トルクとなり、弾性変形部材25に作用する変形力の増大に対して損失トルクも増大する。そのため、リングローラ22とキャリア24との相対回転により、各弾性変形部材25に作用する変形力の大きさの総和(各変形力の方向を考慮しないスカラー和)が変動して、各弾性変形部材25に対して行われる変形仕事(各弾性変形部材25の弾性エネルギー)の総和が変動すると、遊星ローラ機構12における損失トルクが変動して伝達トルクが変動する。さらに、リングローラ22とキャリア24との相対回転により、各弾性変形部材25に作用する変形力の合成力(各変形力の方向を考慮した合成ベクトル)が変動すると、リングローラ22に作用する径方向の力が不釣り合いとなり且つその方向が変動する。この不釣り合い力は、リングローラ22全体が径方向に振動(揺動)する原因となる。
ここで、比較例として、ピニオンローラ23の個数P及び弾性変形部材25の個数Fに関して、以下の(5)式を満たす1以上の整数kの値が存在する場合を考える。この条件を満たす遊星ローラ機構12の構成例を図10に示す。図10は、P=4、且つF=4(k=1)の例を示している。
F=P/k (5)
図10に示す比較例では、各弾性変形部材25−1〜25−4に作用する変形力F1〜F4の大きさは、リングローラ22に対するキャリア24の回転角θが変化するのに応じて図11に示すように変動する。図11では、各変形力F1〜F4の振幅をa、平均値をbとし、キャリア24の回転角θに対する各変形力F1〜F4の変動を余弦関数(a・cos(P・θ)+b)で表している(以下の説明でも同様)。そして、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係が図10に示す状態であるときのキャリア24の回転角θを0radとしている。図11に示すように、各弾性変形部材25−1〜25−4の変形力F1〜F4の大きさは、キャリア24の回転角θの変化に対して互いに同位相で変動する。そのため、各弾性変形部材25−1〜25−4の変形力F1〜F4の大きさの総和(スカラー和)は、キャリア24の回転角θの変化に応じて変動し、各弾性変形部材25−1〜25−4に対して行われる変形仕事(各弾性変形部材25−1〜25−4の弾性エネルギー)の総和も、キャリア24の回転角θの変化に応じて変動する。その結果、遊星ローラ機構12における伝達トルクが、キャリア24の回転角θの変化に応じて変動する。
さらに、図10の左右方向をx方向、図10の上下方向をy方向とする直交座標系を定義すると、図10に示す比較例では、弾性変形部材25−2,25−4にx方向の変形力F2,F4が作用し、弾性変形部材25−1,25−3にy方向の変形力F1,F3が作用する。キャリア24の回転角θが変化しても、弾性変形部材25−2,25−4の変形力F2,F4の方向は常に互いに反対方向であり、弾性変形部材25−2,25−4の変形力F2,F4の大きさは常に等しい。同様に、キャリア24の回転角θが変化しても、弾性変形部材25−1,25−3の変形力F1,F3の方向は常に互いに反対方向であり、弾性変形部材25−1,25−3の変形力F1,F3の大きさは常に等しい。そのため、各弾性変形部材25−1〜25−4の変形力F1〜F4の合成力(合成ベクトル)は、キャリア24の回転角θが変化しても常に0で釣り合う。
このように、図10に示す比較例では、キャリア24の回転角θの変化に対して、各弾性変形部材25−1〜25−4の変形力F1〜F4のベクトル和は変動しないものの、各弾性変形部材25−1〜25−4の変形力F1〜F4のスカラー和が変動するため、遊星ローラ機構12における伝達トルクが変動する。なお、図10に示すP=4且つF=4以外の場合であっても、上記の(5)式を満たす1以上の整数kの値が存在する場合は、キャリア24の回転角θの変化に対して、各弾性変形部材25−1〜25−Fの変形力のベクトル和は変動しないものの、各弾性変形部材25−1〜25−Fの変形力のスカラー和が変動する。
これに対して図7に示す本実施形態の構成例では、各弾性変形部材25−1〜25−6に作用する変形力F1〜F6の大きさは、リングローラ22に対するキャリア24の回転角θが変化するのに応じて図12に示すように変動する。図12では、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係が図7に示す状態であるときのキャリア24の回転角θを0radとしている。図12に示すように、キャリア24の回転角θの変化に対して、各弾性変形部材25−1,25−3,25−5の変形力F1,F3,F5の大きさが互いに同位相で変動し、各弾性変形部材25−2,25−4,25−6の変形力F2,F4,F6の大きさが互いに同位相で変動する。さらに、キャリア24の回転角θの変化に対して、各弾性変形部材25−1,25−3,25−5の変形力F1,F3,F5の大きさと、各弾性変形部材25−2,25−4,25−6の変形力F2,F4,F6の大きさとが互いに逆位相で変動する。そのため、各弾性変形部材25−1〜25−6に作用する変形力F1〜F6の大きさの総和(スカラー和)は、キャリア24の回転角θが変化しても変動せず、各弾性変形部材25−1〜25−6に対して行われる変形仕事(各弾性変形部材25−1〜25−6の弾性エネルギー)の総和も、キャリア24の回転角θが変化しても変動しない。
さらに、図7に示す本実施形態の構成例では、リングローラ1周をピニオンローラ23の個数Pで等分(図7に示す例では3等分)したときの各領域は、キャリア24の回転角θが変化しても、弾性変形部材25の配置に関して常に回転対称性があり、変形力の大きさや方向に関しても常に回転対称性がある。弾性変形部材25−1,25−3,25−5の変形力F1,F3,F5の合成力(合成ベクトル)は、キャリア24の回転角θが変化しても常に0で釣り合い、弾性変形部材25−2,25−4,25−6の変形力F2,F4,F6の合成力(合成ベクトル)は、キャリア24の回転角θが変化しても常に0で釣り合う。そのため、各弾性変形部材25−1〜25−6の変形力F1〜F6の合成力(合成ベクトル)は、キャリア24の回転角θが変化しても常に0で釣り合う。
このように、図7に示す本実施形態の構成例では、リングローラ22に対するキャリア24の回転角θ(周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係)が変化しても、各弾性変形部材25−1〜25−6に作用する変形力F1〜F6のスカラー和の変動を抑制することができ、各弾性変形部材25−1〜25−6に対して行われる変形仕事の総和の変動を抑制することができる。したがって、変形力F1〜F6のスカラー和(変形仕事の総和)が変動することによる遊星ローラ機構12での伝達トルク変動を抑制することができる。さらに、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係が変化しても、各弾性変形部材25−1〜25−6に作用する変形力F1〜F6のベクトル和の変動を抑制することができる。したがって、変形力F1〜F6の合力が変動することによるリングローラ22全体の径方向の振動を抑制することができる。なお、図7に示すP=3且つF=6以外の場合であっても、上記の(1)式及び(2)式を満たす2以上の整数kの値が存在する場合は、キャリア24の回転角θの変化に対して、各弾性変形部材25−1〜25−Fに作用する変形力のスカラー和及びベクトル和の両方が変動しない。
また、図8に示す本実施形態の構成例では、各弾性変形部材25−1〜25−4に作用する変形力F1〜F4の大きさは、リングローラ22に対するキャリア24の回転角θが変化するのに応じて図13に示すように変動する。図13では、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係が図8に示す状態であるときのキャリア24の回転角θを0radとしている。図13に示すように、キャリア24の回転角θの変化に対して、各弾性変形部材25−1,25−3の変形力F1,F3の大きさが互いに同位相で変動し、各弾性変形部材25−2,25−4の変形力F2,F4の大きさが互いに同位相で変動する。さらに、キャリア24の回転角θの変化に対して、各弾性変形部材25−1,25−3の変形力F1,F3の大きさと、各弾性変形部材25−2,25−4の変形力F2,F4の大きさとが互いに逆位相で変動する。そのため、各弾性変形部材25−1〜25−4に作用する変形力F1〜F4の大きさの総和(スカラー和)は、キャリア24の回転角θが変化しても変動せず、各弾性変形部材25−1〜25−4に対して行われる変形仕事(各弾性変形部材25−1〜25−4の弾性エネルギー)の総和も、キャリア24の回転角θが変化しても変動しない。
さらに、図8に示す本実施形態の構成例では、リングローラ1周をPとFの最大公約数で等分(図8に示す例では2等分)したときの各領域は、キャリア24の回転角θが変化しても、弾性変形部材25の配置に関して常に回転対称性があり、変形力の大きさや方向に関しても常に回転対称性がある。キャリア24の回転角θが変化しても、弾性変形部材25−2,25−4の変形力F2,F4の方向は常に互いに反対方向であり、弾性変形部材25−2,25−4の変形力F2,F4の大きさは常に等しい。同様に、キャリア24の回転角θが変化しても、弾性変形部材25−1,25−3の変形力F1,F3の方向は常に互いに反対方向であり、弾性変形部材25−1,25−3の変形力F1,F3の大きさは常に等しい。そのため、各弾性変形部材25−1〜25−4の変形力F1〜F4の合成力(合成ベクトル)は、キャリア24の回転角θが変化しても常に0で釣り合う。
このように、図8に示す本実施形態の構成例でも、キャリア24の回転角θが変化しても、各弾性変形部材25−1〜25−4に作用する変形力F1〜F4のスカラー和の変動を抑制することができ、各弾性変形部材25−1〜25−4に対して行われる変形仕事の総和の変動を抑制することができる。したがって、変形力F1〜F4のスカラー和(変形仕事の総和)が変動することによる遊星ローラ機構12での伝達トルク変動を抑制することができる。さらに、キャリア24の回転角θが変化しても、各弾性変形部材25−1〜25−4に作用する変形力F1〜F4のベクトル和の変動を抑制することができる。したがって、変形力F1〜F4の合力が変動することによるリングローラ22全体の径方向の振動を抑制することができる。なお、図8に示すP=6且つF=4以外の場合であっても、上記の(3)式及び(4)式が任意の1以上の整数kに対して成立し、且つPとFとの間に2以上の公約数が存在する場合は、キャリア24の回転角θの変化に対して、各弾性変形部材25−1〜25−Fに作用する変形力のスカラー和及びベクトル和の両方が変動しない。
また、図9に示す本実施形態の構成例では、各弾性変形部材25−1〜25−4に作用する変形力F1〜F4の大きさは、リングローラ22に対するキャリア24の回転角θが変化するのに応じて図14に示すように変動する。図14では、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係が図9に示す状態であるときのキャリア24の回転角θを0radとしている。図14に示すように、キャリア24の回転角θの変化に対して、弾性変形部材25−1,25−3の変形力F1,F3の大きさが互いに逆位相で変動し、弾性変形部材25−2,25−4の変形力F2,F4の大きさが互いに逆位相で変動する。そのため、キャリア24の回転角θが変化しても変動せず、各弾性変形部材25−1〜25−4に対して行われる変形仕事(各弾性変形部材25−1〜25−4の弾性エネルギー)の総和も、キャリア24の回転角θが変化しても変動しない。
このように、図9に示す本実施形態の構成例でも、キャリア24の回転角θが変化しても、各弾性変形部材25−1〜25−4に作用する変形力F1〜F4のスカラー和の変動を抑制することができ、各弾性変形部材25−1〜25−4に対して行われる変形仕事の総和の変動を抑制することができる。したがって、変形力F1〜F4のスカラー和(変形仕事の総和)が変動することによる遊星ローラ機構12での伝達トルク変動を抑制することができる。なお、図9に示すP=5且つF=4以外の場合であっても、上記の(3)式及び(4)式が任意の1以上の整数kに対して成立する場合は、キャリア24の回転角θの変化に対して、各弾性変形部材25−1〜25−Fに作用する変形力のスカラー和が変動しない。
ただし、図9に示す本実施形態の構成例では、弾性変形部材25−2,25−4に作用するx方向(図9の左右方向)の変形力F2,F4、及び弾性変形部材25−1,25−3に作用するy方向(図9の左右方向)の変形力F1,F3は、キャリア24の回転角θが変化するのに応じて図15に示すように変動する。図15に示すように、キャリア24の回転角θの変化に対して、弾性変形部材25−2,25−4の変形力F2,F4の合成力が変動し、弾性変形部材25−1,25−3の変形力F1,F3の合成力が変動する。その結果、各弾性変形部材25−1〜25−4の変形力F1〜F4の合成力(合成ベクトル)は、キャリア24の回転角θの変化に応じて変動する。そこで、各弾性変形部材25の変形力の合力が変動することによるリングローラ22全体の径方向の振動を抑制するためには、上記の(3)式及び(4)式が任意の1以上の整数kに対して成立するだけでなく、PとFとの間に2以上の公約数が存在することが好ましい。
なお、遊星ローラ機構12における伝達トルクが大きい場合には、各弾性変形部材25に作用する周方向(回転方向)の力(トルク)が大きくなるため、弾性変形部材25の個数(緩衝部材26によるリングローラ22の支持箇所の数)Fはピニオンローラ23の個数Pより多い方が好ましい。また、一般的に接触点が3点以上で部品の姿勢が安定的になるため、ピニオンローラ23の個数Pは3個以上であることが好ましい。ただし、ピニオンローラ23の個数Pが増加すると、ピニオンローラ23とリングローラ22との接触部28の数も増加するため、ピニオンローラ23の加工誤差の影響によっては、各ピニオンローラ23とリングローラ22との接触にばらつきが生じやすくなる。さらに、ピニオンローラ23の加工コストが増す要因となる。これらの点を考慮すると、ピニオンローラ23の個数Pを3個以上で且つ最小限にすることが好ましい。例えばピニオンローラ23の個数Pが3個である場合は、上記の(1)式及び(2)式を満たす2以上の整数kの値が存在する条件を満たすFの値としては、6,9,または12等が挙げられ、上記の(3)式及び(4)式が任意の1以上の整数kに対して成立する条件を満たすFの値としては、4,5,7,8,10,または11等が挙げられる。また、ピニオンローラ23の個数Pが4個である場合は、上記の(1)式及び(2)式を満たす2以上の整数kの値が存在する条件を満たすFの値としては、8,12,または16等が挙げられ、上記の(3)式及び(4)式が任意の1以上の整数kに対して成立し且つPとFとの間に2以上の公約数が存在する条件を満たすFの値としては、6,10,14,または18等が挙げられる。
本実施形態では、例えば図16に示すように、緩衝部材26の各連結板43は、リング側取付板41と連結された一端部から支持側取付板42と連結された他端部にかけて湾曲した(曲がった)形状の部分43aを有することもできる。この構成例では、径方向外側へ弾性変形するリングローラ22の周方向位置に取り付けられた連結板43は、リング側取付板41及び支持側取付板42に対する角度が小さくなるように弾性変形するとともに、図17に示すように、湾曲した形状の部分43aの曲率が小さくなるように曲げ変形しながら一端部から他端部にかけて伸びることで、この連結板43の角度変化に伴って作用する引張力を吸収する。そして、径方向内側へ復元するリングローラ22の周方向位置に取り付けられた連結板43は、引張力が除去されることで、一端部から他端部にかけての伸び(湾曲した形状の部分43aの曲げ変形)が原形(図16に示す状態)に復元する。
また、本実施形態では、例えば図18に示すように、緩衝部材26の各連結板43は、リング側取付板41と連結された一端部から支持側取付板42と連結された他端部にかけて折れ曲がった形状の部分43bを有することもできる。この構成例でも、径方向外側へ弾性変形するリングローラ22の周方向位置に取り付けられた連結板43は、図19に示すように、折れ曲がった形状の部分43bの折れ曲がり角度が小さくなるように曲げ変形しながら一端部から他端部にかけて伸びることで、この連結板43の角度変化に伴って作用する引張力を吸収する。そして、径方向内側へ復元するリングローラ22の周方向位置に取り付けられた連結板43は、引張力が除去されることで、折れ曲がった形状の部分43bの曲げ変形が原形(図18に示す状態)に復元する。
図16,18に示す構成例によれば、緩衝部材26の連結板43は、リングローラ22の径方向への弾性変形に応じて、湾曲した形状の部分43a(あるいは折れ曲がった形状の部分43b)が曲げ変形しながら一端部と他端部との距離を変化させるよう弾性変形することで、より小さい引張力で弾性変形することができる。したがって、支持部材18に対するリングローラ22の径方向への変形がより容易になるため、緩衝部材26に作用する応力をより小さくすることができ、振動の起振力も小さくすることができる。
本実施形態に係る遊星ローラ機構12の他の構成例を図20に示す。図20に示す構成例では、遊星ローラ機構12は、リングローラ(第1リングローラ)22と、リングローラ22の内側(径方向内側)に配置されたサンローラ21と、リングローラ22の周方向に沿って並べられ、各々がサンローラ21とリングローラ22との間にこれらと接触して挟持(挟圧保持)された複数のピニオンローラ(第1遊星ローラ)23と、リングローラ22とその軸線方向に間隔をおいて配置されたリングローラ(第2リングローラ)62と、リングローラ62の内側(径方向内側)にその周方向に沿って並べられ、各々がリングローラ62と接触する複数のピニオンローラ(第2遊星ローラ)63と、各ピニオンローラ23,63を回転自在に支持するキャリア24と、リングローラ22を支持するための支持部材18と、を有する。サンローラ21、リングローラ22,62、及びキャリア24の中心軸(軸線)は互いに一致している。そして、ピニオンローラ23,63が自転するときの回転中心軸(軸線)は、互いに一致しており、リングローラ22,62の中心軸と平行である。キャリア24が回転することで、ピニオンローラ23とピニオンローラ63は互いに同じ速度で公転する。さらに、ピニオンローラ23とピニオンローラ63が結合されて一体化されていることで、ピニオンローラ23とピニオンローラ63は互いに同じ速度で自転する。ピニオンローラ63の外径はピニオンローラ23の外径と異なり、リングローラ62の内径はリングローラ22の内径と異なる。図20に示す例では、ピニオンローラ63の外径はピニオンローラ23の外径よりも小さく、リングローラ62の内径はリングローラ22の内径よりも小さい。例えば焼き嵌めや締まり嵌め等によって、サンローラ21及び各ピニオンローラ23をリングローラ22の内側に嵌め込むとともに、各ピニオンローラ63をリングローラ62の内側に嵌め込むことで、サンローラ21の外周面と各ピニオンローラ23の外周面との接触部27、各ピニオンローラ23の外周面とリングローラ22の内周面との接触部28、及び各ピニオンローラ63の外周面とリングローラ62の内周面との接触部68に押圧力(法線力)を作用させることができ、接触部27,28,68にトラクション力を発生させることができる。これによって、サンローラ21と各ピニオンローラ23との間、各ピニオンローラ23とリングローラ22との間、及び各ピニオンローラ63とリングローラ62との間でトルク伝達を行うことができる。また、接触部27,28,68に押圧力(法線力)を付加する既知の押圧力付加機構を設けることもできる。
図20に示す構成例では、支持部材18をケーシング(回転の固定された固定部材)として用いてリングローラ22の回転を拘束することで、サンローラ21とリングローラ62との間で動力を変速して伝達することができる。その場合に、サンローラ21からリングローラ62へ動力を伝達するときは、遊星ローラ機構12は、サンローラ21からリングローラ62へ動力を減速して伝達する減速機構として機能する。一方、リングローラ62からサンローラ21へ動力を伝達するときは、遊星ローラ機構12は、リングローラ62からサンローラ21へ動力を増速して伝達する増速機構として機能する。図20に示す構成例では、ピニオンローラ63の外径をピニオンローラ23の外径と異ならせる(リングローラ62の内径をリングローラ22の内径と異ならせる)ことで、図1〜6に示す基本構成と比較して、サンローラ21からリングローラ62にかけての減速比(あるいはリングローラ62からサンローラ21にかけての増速比)を十分大きくすることができる。ピニオンローラ63の外径とピニオンローラ23の外径との差の絶対値(リングローラ62の内径とリングローラ22の内径との差の絶対値)が小さいほど、サンローラ21からリングローラ62にかけての減速比(あるいはリングローラ62からサンローラ21にかけての増速比)が大きくなる。
図20に示す構成例でも、リングローラ22から支持部材18(ケーシング)に伝達される振動を吸収する緩衝部材26を介して、リングローラ22を支持部材18に支持している。その際には、上記の(1)式及び(2)式を満たす2以上の整数kの値が存在するように、周方向に沿って並べられたピニオンローラ23の個数P、及び周方向に沿って並べられた弾性変形部材25の個数(緩衝部材26によるリングローラ22の支持箇所の数)Fを設定することで、リングローラ22に対するキャリア24の回転角(周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係)が変化しても、各弾性変形部材25に作用する変形力のスカラー和及びベクトル和の両方が変動しない。したがって、変形力のスカラー和が変動することによる遊星ローラ機構12での伝達トルク変動を抑制することができ、さらに、変形力の合力が変動することによるリングローラ22全体の径方向の振動を抑制することができる。あるいは、上記の(3)式及び(4)式が任意の1以上の整数kに対して成立するように、ピニオンローラ23の個数P、及び弾性変形部材25の個数(緩衝部材26によるリングローラ22の支持箇所の数)Fを設定することで、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係が変化しても、各弾性変形部材25に作用する変形力のスカラー和が変動しない。したがって、変形力のスカラー和が変動することによる遊星ローラ機構12での伝達トルク変動を抑制することができる。さらに、PとFとの間に2以上の公約数が存在することで、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係が変化しても、各弾性変形部材25に作用する変形力のベクトル和が変動しない。したがって、変形力の合力が変動することによるリングローラ22全体の径方向の振動を抑制することができる。
なお、基本構成では、各ピニオンローラ23とリングローラ22との接触部28に必要な押圧力が、サンローラ21と各ピニオンローラ23との接触部27に必要な押圧力と等しい。これに対して図20に示す構成例では、ピニオンローラ63の外径をピニオンローラ23の外径と異ならせることで大きい減速比(あるいは増速比)を得ているため、接触部28に必要な押圧力が、接触部27に必要な押圧力よりも大きくなる。したがって、図20に示す構成例では、基本構成と比較して、各ピニオンローラ23に押圧されることによるリングローラ22の径方向外側への変形量が大きくなるため、リングローラ22から支持部材18に伝達される振動も大きくなりやすい。そのため、図20に示す構成例において、リングローラ22の径方向への繰り返し変形に起因してリングローラ22から支持部材18へ伝達される振動を弾性変形部材25の弾性変形により吸収することは特に有効である。
また、図21に示す構成例では、図20に示す構成例と比較して、リングローラ62の内側(径方向内側)に配置され、各ピニオンローラ63と接触するサンローラ61が設けられている。各ピニオンローラ63は、サンローラ61とリングローラ62との間にこれらと接触して挟持(挟圧保持)される。サンローラ61の外径はサンローラ21の外径と異なり、図21に示す例では、サンローラ61の外径はサンローラ21の外径よりも大きい。図21に示す構成例によれば、各ピニオンローラ63に作用する径方向内側への力をサンローラ61によって受けることができ、サンローラ61に作用する各ピニオンローラ63からの力は全体で釣り合う。その結果、各ピニオンローラ23,63を回転自在に支持するピニオンシャフトに作用する径方向の力を低減することができる。
以上の実施形態では、複数のピニオンローラ23及び複数の弾性変形部材25がそれぞれリングローラ22の周方向に関して互いに等間隔で配置されている場合について説明した。ただし、本実施形態では、複数のピニオンローラ23は、必ずしもリングローラ22の周方向に関して互いに等間隔で配置されていなくても構わない。同様に、複数の弾性変形部材25は、必ずしもリングローラ22の周方向に関して互いに等間隔で配置されていなくても構わない。これらの場合でも、周方向に関する各ピニオンローラ23と各弾性変形部材25との相対位置関係が変化しても、各弾性変形部材25に作用する変形力のスカラー和の変動やベクトル和の変動を抑制することができる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。