JP5003995B2 - 高プロトン伝導性電解質膜及びその製造方法 - Google Patents
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Description
固体高分子電解質膜の製造には、一般に、固体高分子電解質と有機溶媒等との溶液を基材上に流延塗布し、高温で溶媒を除去して膜を得るキャスト法が用いられている。このようなキャスト法により得られる固体高分子電解質膜のプロトン伝導性を向上させる方法としては、
(1) 膜を水中又は飽和水蒸気圧下で加熱する方法(特許文献1)
(2) 溶媒の除去を加湿雰囲気下で行う方法(特許文献2)
(3) 溶媒として、沸点の異なる2種類の溶媒を用いる方法(特許文献3)
などが知られている。
さらに、電解質膜は、一般に含水時に膨潤する。そのため、上述の処理によって相対的に大きなプロトン伝導パスを形成しても、使用中に膨潤・収縮を繰り返すことによって、膜内部に形成された構造が壊れ、プロトン伝導度が低下する場合がある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、膨潤・収縮を繰り返しても相対的に高いプロトン伝導度を維持することが可能な高プロトン伝導性電解質膜及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このような優れた特性を有する電解質膜を簡便な方法により製造することが可能な高プロトン伝導性電解質膜の製造方法を提供することにある。
また、本発明に係る高プロトン伝導性電解質膜は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
また、膜中に架橋構造を導入すると、形成したプロトン伝導パスがより強固に固定される。そのため、膜が膨潤・収縮を繰り返しても、相対的に高いプロトン伝導度を維持することができる。
初めに、本発明の第1の実施の形態に係る高プロトン伝導性電解質膜及びその製造方法について説明する。本実施の形態に係る高プロトン伝導性電解質膜の製造方法は、コンプレックス形成工程と、製膜工程と、除去工程とを備えている。また、本実施の形態に係る高プロトン伝導性電解質膜は、本実施の形態に係る方法により得られたものからなる。
本発明において、固体高分子電解質は、特に限定されるものではなく、炭化フッ素系電解質又は炭化水素系電解質のいずれであっても良い。
ここで、「炭化フッ素系電解質」とは、全フッ素系電解質又は部分フッ素系電解質をいう。
「全フッ素系電解質」とは、ポリマ骨格中にC−F結合を含み、C−H結合を含まないものをいう。本発明において、「全フッ素系電解質」というときは、ポリマ骨格中に、C−F結合以外の構造(例えば、−O−、−S−、−C(=O)−、−N(R)−等。但し、「R」は、アルキル基。)を有するものも含まれる。
「部分フッ素系電解質」とは、ポリマ骨格中にC−F結合とC−H結合の双方を含むものをいう。
「炭化水素系電解質」とは、ポリマ骨格中にC−H結合を含み、C−F結合を含まないものをいう。
本発明に係る電解質膜には、これらのいずれか1種の電解質のみが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
このような固体高分子電解質としては、
(1) ポリアリーレン系重合体(例えば、ポリエーテル系、ポリケトン系、ポリスルホン系、ポリエーテルスルホン系、ポリエーテルエーテルスルホン系、ポリフェニレンオキシド系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリフェニレンスルホキシド系、ポリエーテルケトンケトン系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアミドイミド系)を含み、重合体に含まれる芳香環及び複素環のいずれか1以上にプロトン酸基が結合しているもの、
(2) ポリアゾール系重合体(例えば、ポリベンゾイミダゾール系、ポリベンゾチアゾール系、ポリベンゾオキサゾール系)を含み、重合体に含まれる芳香環及び複素環のいずれか1以上にプロトン酸基が結合しているもの、
が挙げられる。
また、プロトン酸基としては、スルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸が挙げられ、これらの中でもスルホン酸が最も好ましい。
A、B及びCは、2価の単結合又は有機基を示す。具体的には、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2)−、−C(CF2)2−、−(CH2)−、−C(CH2)2−、−O−、−S−、−CH=CH−、−C≡C−などが挙げられる。
nは、10〜10000の整数を示す。
アンモニウム塩としては、具体的には、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラペンチルアンモニウムブロミド、テトラヘプチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミド、トリエチルヘキシルアンモニウムブロミド、トリエチルメチルアンモニウムブロミドなどがある。
イミダゾール誘導体としては、具体的には、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールなどがある。
ピリジン誘導体としては、具体的には、ピリジン、2−エチルピリジン、3−エチルピリジン、4−エチルピリジン、1,2−ジメチルピリジンイオダイドなどがある。
キノリン誘導体としては、具体的には、キノリン、3−メチルキノリン、6−メチルキノリン、7−メチルキノリン、8−メチルキノリンなどがある。
ピリダジン誘導体としては、具体的には、ピリダジン、4−メチルピリダジンなどがある。
ピリミジン誘導体としては、具体的には、ピリミジン、4−メチルピリミジン、4,6−ジメチルピリジミンなどがある。
ピラジン誘導体としては、具体的には、ピラジン、2−メチルピラジン、エチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジンなどがある。
カチオン分子の量は、固体高分子電解質中のプロトン酸基のすべてをアニオン・カチオンコンプレックスに変換できる量以上であればよい。一般に、カチオン分子の量が少なくなるほど、相対的に多量のプロトン酸基が残り、相対的に大きなアニオン・カチオンコンプレックスの会合体を得るのが困難となる。カチオン分子の量は、具体的には、すべてのプロトン酸基をアニオン・カチオンコンプレックスに変換できる量の50%以上が好ましく、さらに好ましくは、80%以上である。
一方、必要以上のカチオン分子の添加は、実益がない。従って、カチオン分子の量は、すべてのプロトン酸基をアニオン・カチオンコンプレックスに変換できる量の150%以下が好ましく、さらに好ましくは、120%以下である。
また、カチオン分子の分子量が大きい場合、酸水溶液で処理する前又はこれと同時に、膜を膨潤させる処理を施すのが好ましい。膜を若干、膨潤させた状態で酸処理を行うと、カチオン分子の除去を容易に行うことができる。このような処理としては、
(1) 酸水溶液による処理を相対的に高温(室温〜100℃)で行う方法、
(2) 酸水溶液にアルコール(例えば、エタノール)を添加する方法、
などがある。
ここで、「第1の架橋剤」とは、2箇所以上のカチオン部を持つ化合物をいう。第1の架橋剤としては、具体的には、次の式(3)で表されるものがある。これらは、それぞれ単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。なお、式(3)は、それぞれの繰り返し単位がランダム又はブロックで連結していることを示す。
但し、本除去工程においては、カチオン分子のみを選択的に除去して、第1の架橋剤を可能な限り除去しないことが重要である。第1の架橋剤の架橋機序は、アニオン・カチオンコンプレックスの形成機序と同様なので、酸浸漬により架橋剤分子自体が膜外へ流出する可能性がある。このような流出を避けるためには、カチオン分子・架橋剤の選択や酸への浸漬条件の最適化が必要である。
カチオン分子及び架橋剤の選択においては、カチオン分子として流出しやすいもの(分子量の小さいもの。例えば、テトラメチルアンモニウムクロリドなど。)、架橋剤としては流出しにくいもの(分子量の大きいもの。例えば、4,4’−ジ[トリメチルアンモニウムクロリド]ビフェニルなど。)等を選択するのがよい。
また、酸への浸漬条件としては、酸溶液(酸濃度、溶媒、温度)や浸漬時間を最適化することで、カチオン分子のみを選択的に除去できる。
第1の架橋剤を含む溶液をキャスト製膜し、カチオン分子のみを選択的に除去すると、固体高分子電解質のプロトン酸基と第1の架橋剤のカチオン部とがカチオン/アニオン相互作用を起こし、高分子鎖間に架橋(イオン架橋)が形成される。
第2の架橋剤としては、具体的には、
(1) イオン架橋を導入可能な架橋剤(すなわち、第1の架橋剤と同種のもの)、
(2) 共有結合架橋(例えば、−SO2NHSO2−、−SO2NHCO−、−CONHCO−など)を導入可能な架橋剤、
などがある。
また、共有結合架橋を導入可能な架橋剤としては、具体的には、(4)〜(7)式で表されるものがある。これらの架橋剤は、それぞれ単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
例えば、第2の架橋剤が、イオン架橋を導入可能な架橋剤である場合、カチオン分子を除去した膜に第2の架橋剤を含浸させるだけでよい。これにより、固体高分子電解質のプロトン酸基と第2の架橋剤のカチオン部とがカチオン/アニオン相互作用を起こし、高分子鎖間にイオン架橋が形成される。
また、例えば、第2の架橋剤がパーフルオロアルキルジスルホニルアミドであり、膜中に含まれるプロトン酸基がスルホン酸基である場合、予め膜を塩化チオニルに浸漬し、スルホン酸基(−SO3H)をスルホニルクロライド基(−SO2Cl)に変換する。次いで、この膜にパーフルオロアルキルジスルホニルアミド/トリエチルアミン溶液を含浸させると、膜中においてスルホニルクロライド基とスルホニルアミド基とが反応し、高分子鎖間に共有結合架橋(−SO2NHSO2−)が形成されるされる。
他の第2の架橋剤を用いる場合も同様であり、必要に応じて膜中のプロトン酸基を第2の架橋剤と反応可能な官能基に変換した後、膜中に第2の架橋剤を導入すれば良い。また、第2の架橋剤による架橋構造の導入は、単独で用いても良く、あるいは、第1の架橋剤による架橋構造の導入と組み合わせても良い。
さらに、このような連続孔10aを有する膜中に架橋構造を導入すると、連続孔10aがより強固に固定される。そのため、膜が膨潤・収縮を繰り返しても、相対的に高いプロトン伝導度を維持することができる。
スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)0.1108gをはかり取り、4mLのDMAcに溶解・攪拌した(溶液A)。この溶液Aにテトラブチルアンモニウムブロミド0.1019gを添加し、さらに攪拌した(溶液B)。φ48.5mmのシャーレに溶液Bを注ぎ、ドラフト内の水平台の上に乗せ、3日間室温下に放置した。概ねDMAcがなくなったところで、シャーレごと真空乾燥(60℃、2時間)した。
次に、余分なDMAcを除去するために、膜をシャーレから剥がし、1N塩酸で洗浄(ゆっくり攪拌しながら一晩。その後、新しい塩酸に替えて2時間攪拌)した。さらに、イオン交換水による洗浄(1時間ゆっくり攪拌×3回)を行い、真空乾燥(140℃、2時間)を行った。
次に、テトラブチルアンモニウムブロミドを除去するために、膜をEtOH/HCl混合溶液(EtOH/HCl=9/1)中で洗浄(40℃、ゆっくり攪拌、24時間)した。さらに、イオン交換水による洗浄(1時間ゆっくり攪拌×3回)を行い、真空乾燥(60℃、一晩)を行った。
(実施例2)
テトラブチルアンモニウムブロミドに代えて、ブチルアミンを用いた以外は、実施例1と同一の手順に従い、電解質膜を作製した。
(実施例3)
テトラブチルアンモニウムブロミドに代えて、ヘキシルアミンを用いた以外は、実施例1と同一の手順に従い、電解質膜を作製した。
実施例1の方法により得た膜を五塩化りん/塩化チオニル(4vol./1vol.)中に室温で一晩浸漬し、膜中のスルホン酸基をスルホニルクロライド基へと変換した。次に、膜をパーフルオロプロパンジスルホニルアミド(0.78mg)/トリエチルアミン(1ml)/THF(100ml)中に50℃で一晩浸漬し、高分子鎖間にスルホンイミド基を介した架橋を形成した膜を得た。次に、1N塩酸中で膜を洗浄(室温、3時間×3回)、さらにイオン交換水による洗浄(室温、1時間×3回)、真空乾燥(60℃、一晩)を行い、架橋導入電解質膜を得た。
(比較例1)
S−PEEKのみからなる電解質膜を試験に供した。
12 高分子鎖
12a アニオン
14 カチオン
Claims (7)
- 固体高分子電解質及びカチオン分子を溶媒に溶解させ、アニオン・カチオンコンプレックスを形成するコンプレックス形成工程と、
前記コンプレックス形成工程で得られた溶液をキャスト製膜し、膜を得る製膜工程と、
アルコールを含む酸水溶液に前記膜を浸漬し、前記膜から前記カチオン分子の80%以上を除去する除去工程と
を備えた高プロトン伝導性電解質膜の製造方法。 - 前記固体高分子電解質は、ポリアリーレン系又はポリアゾール系の重合体を含み、前記重合体に含まれる芳香環及び複素環のいずれか1以上にプロトン酸基が導入されたものである請求項1に記載の高プロトン伝導性電解質膜の製造方法。
- 前記カチオン分子は、アミン化合物、アンモニウム塩、イミダゾール誘導体、ピリジン誘導体、キノリン誘導体、ピリダジン誘導体、ピリミジン誘導体、及び、ピラジン誘導体から選ばれるいずれか1以上である請求項1又は2に記載の高プロトン伝導性電解質膜の製造方法。
- 前記コンプレックス形成工程は、前記固体高分子電解質に含まれるすべてのプロトン酸基をアニオン・カチオンコンプレックスに変換することができる量の50%以上150%以下の前記カチオン分子を前記溶媒に溶解させるものである請求項1から3までのいずれかに記載の高プロトン伝導性電解質膜の製造方法。
- 前記製膜工程の前に、前記コンプレックス形成工程で得られた溶液に、2箇所以上のカチオン部を持つ第1の架橋剤を添加する架橋剤添加工程をさらに備えた請求項1から4までのいずれかのいずれかに記載の高プロトン伝導性電解質膜の製造方法。
- 前記除去工程の後に、前記膜中に第2の架橋剤を含浸させ、前記膜中に架橋構造を導入する架橋導入工程をさらに備えた請求項1から5までのいずれかに記載の高プロトン伝導性電解質膜の製造方法。
- 請求項1から6までのいずれかに記載の方法により得られる高プロトン伝導性電解質膜。
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