JP5003986B2 - ポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル並びにポリエステルの製造方法 - Google Patents
ポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル並びにポリエステルの製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル、並びにポリエステルの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、ゲルマニウム、アンチモン化合物を触媒主成分として用いない新規のポリエステル重合触媒、およびこれを用いて製造されたポリエステル、並びにポリエステルの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性、及び化学的特性に優れており、それぞれのポリエステルの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。
【0003】
代表的なポリエステルである芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールを主構成成分とするポリエステルは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)の場合には、テレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化もしくはエステル交換によってビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートを製造し、これを高温、真空下で触媒を用いて重縮合する重縮合法等により、工業的に製造されている。
【0004】
従来から、このようなポリエステルの重縮合時に用いられるポリエステル重合触媒としては、三酸化アンチモンが広く用いられている。三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、これを主成分、即ち、実用的な重合速度が発揮される程度の添加量にて使用すると、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、ポリエステルに黒ずみや異物が発生するという問題点を有している。このような経緯で、アンチモンを全く含まないか或いはアンチモンを触媒主成分として含まないポリエステルが望まれている。
【0005】
ポリエステル中の上記の異物は以下のような問題を起こす。
(1)フィルム用のポリエステルにおいては、金属アンチモンの析出は、ポリエステル中の異物となり、溶融押し出し時の口金汚れの原因になるだけでなく、フィルムの表面欠点の原因にもなる。また、中空の成形品等の原料とした場合には、透明性の優れた中空成形品を得ることが困難である。
【0006】
(2)繊維用のポリエステル中の異物は、繊維中に強度低下をもたらす異物となり、製糸時の口金汚れの原因となる。ポリエステル繊維の製造においては、主に操業性の観点から、異物の発生のないポリエステル重合触媒が求められる。
【0007】
上記の問題を解決する方法として、触媒として三酸化アンチモンを用いて、かつPETの黒ずみや異物の発生を抑制する試みが行われている。例えば、特許第2666502号においては、重縮合触媒として三酸化アンチモンとビスマスおよびセレンの化合物を用いることで、PET中の黒色異物の生成を抑制している。また、特開平9−291141号においては、重縮合触媒としてナトリウムおよび鉄の酸化物を含有する三酸化アンチモンを用いると、金属アンチモンの析出が抑制されることを述べている。ところが、これらの重縮合触媒では、結局ポリエステル中のアンチモンの含有量を低減するという目的は達成できない。
【0008】
PETボトル等の透明性が要求される用途について、アンチモン触媒の有する問題点を解決する方法として、例えば特開平6−279579号公報では、アンチモン化合物とリン化合物の使用量比を規定することにより透明性を改良される方法が開示されている。しかしながら、この方法で得られたポリエステルからの中空成形品は透明性が十分なものとはいえない。
【0009】
また、特開平10−36495号公報には、三酸化アンチモン、リン酸およびスルホン酸化合物を使用して透明性に優れたポリエステルの連続製造法が開示されている。しかしながら、このような方法で得られたポリエステルは熱安定性が悪く、得られた中空成形品のアセトアルデヒド含量が高くなるという問題を有している。
【0010】
三酸化アンチモン等のアンチモン系触媒に代わる重縮合触媒の検討も行われており、テトラアルコキシチタネートに代表されるチタン化合物やスズ化合物がすでに提案されているが、これらを用いて製造されたポリエステルは溶融成形時に熱劣化を受けやすく、またポリエステルが著しく着色するという問題点を有する。
【0011】
このような、チタン化合物を重縮合触媒として用いたときの問題点を克服する試みとして、例えば、特開昭55−116722号では、テトラアルコキシチタネートをコバルト塩およびカルシウム塩と同時に用いる方法が提案されている。また、特開平8−73581号によると、重縮合触媒としてテトラアルコキシチタネートをコバルト化合物と同時に用い、かつ蛍光増白剤を用いる方法が提案されている。ところが、これらの技術では、テトラアルコキシチタネートを重縮合触媒として用いたときのPETの着色は低減されるものの、PETの熱分解を効果的に抑制することは達成されていない。
【0012】
チタン化合物を触媒として用いて重合したポリエステルの溶融成形時の熱劣化を抑制する他の試みとして、例えば、特開平10−259296号では、チタン化合物を触媒としてポリエステルを重合した後にリン系化合物を添加する方法が開示されている。しかし、重合後のポリマーに添加剤を効果的に混ぜ込むことは技術的に困難であるばかりでなく、コストアップにもつながり実用化されていないのが現状である。
【0013】
アンチモン化合物以外で優れた触媒活性を有しかつ熱安定性に優れたポリエステルを与える触媒としては、ゲルマニウム化合物がすでに実用化されているが、この触媒は非常に高価であるという問題点や、重合中に反応系から外へ留出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し重合の制御が困難になるという課題を有しており、触媒主成分として使用することには問題がある。
【0014】
また、ポリエステルの溶融成形時の熱劣化を抑制する方法として、ポリエステルから触媒を除去する方法も挙げられる。ポリエステルから触媒を除去する方法としては、例えば特開平10−251394号では、酸性物質の存在下にポリエステル樹脂と超臨界流体である抽出剤とを接触させる方法が開示されている。しかし、このような超臨界流体を用いる方法は技術的に困難である上にコストアップにもつながるので好ましくない。
【0015】
以上のような経緯で、アンチモンおよびゲルマニウム以外の金属成分を触媒の主たる金属成分とする重合触媒であり、触媒活性に優れかつ溶融成形時に熱劣化をほとんど起こさない熱安定性に優れたポリエステルを与える重合触媒が望まれている。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アンチモン化合物又はゲルマニウム化合物を触媒主成分として含まず、アルミニウムを主たる金属成分とし、触媒活性に優れ、かつ触媒の失活もしくは除去をすることなしに、溶融成形時の熱劣化が効果的に抑制されて熱安定性に優れたポリエステルを与えるポリエステル重合触媒を提供する。本発明はまた、前記触媒を使用した、フィルム、ボトル等の中空成形品、繊維等の溶融成形を行う際の熱安定性が改善されており、バージンの樹脂を使用してもまた成形時に発生する屑を再利用しても品位に優れた製品が得られるポリエステル、並びに前記ポリエステル重合触媒を使用したポリエステルの製造方法を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ポリエステル重合触媒であって、アルミニウムおよびその化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を第1金属含有成分として含み、かつこのポリエステル重合触媒を用いて重合したポリエチレンテレフタレート(PET)の熱安定性パラメータ(TS)が下記式(1)を満たすことを特徴とする。
【0018】
(1)TS<0.30
ただし、TSは固有粘度([IV]i )が約0.65dl/gのPET1gをガラス試験管に入れ130℃で12時間真空乾燥した後、非流通窒素雰囲気下で300℃にて2時間溶融状態に維持した後の固有粘度([IV]f )から、次式により計算される数値である。
【0019】
非流通窒素雰囲気とは、流通しない窒素雰囲気を意味し、例えば、レジンチップを入れたガラス試験管を真空ラインに接続し、減圧と窒素封入を5回以上繰り返した後に100Torrとなるように窒素を封入して封管した状態である。
【0020】
TS=0.245{[IV]f -1.47 −[IV]i -1.47 }
かかる構成の触媒の使用によりフィルム、ボトル、繊維等の成形品を製造する際等の加熱溶融に対する溶融熱安定性に優れ、着色や異物の発生の少ない成形品を与えるポリエステルが得られる。
【0021】
TSは、0.25以下であることがより好ましく、0.20以下であることが特に好ましい。
【0022】
前記触媒の活性パラメータ(AP)は、さらに下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0023】
(2)AP(min)<2T(min)
ただし、APは所定量の触媒を用いて275℃、0.1Torrの減圧度で固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートを重合するのに要する時間(min)を示し、Tは三酸化アンチモンを触媒として生成ポリエチレンテレフタレート中の酸成分に対してアンチモン原子として0.05mol%となるように添加した場合のAPである。
【0024】
Tの測定においては、純度99%以上の三酸化アンチモン、例えば、市販品のAntimony(III)oxide(ALDRICH CHEMICAL社製、純度99.999%)を使用する。
【0025】
APの測定方法は、具体的には以下の通りである。
1)(BHET製造工程)テレフタル酸とその2倍モル量のエチレングリコールを使用し、エステル化率が95%のビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)及びオリゴマーの混合物(以下、BHET混合物という)を製造する。
2)(触媒添加工程)上記のBHET混合物に所定量の触媒を添加し、窒素雰囲気下常圧にて245℃で10分間撹拌し、次いで50分間を要して275℃まで昇温しつオリゴマーの混合物つ反応系の圧力を徐々に下げて0.1Torrとする。
3)(重縮合工程)275℃、0.1Torrで重縮合反応を行い、ポリエチレンテレフタレートのIVが0.65dl/gに到達するまで重合する。
4)重縮合工程に要した重合時間をAP(min)とする。
これらはバッチ式の反応装置を用いて行う。
【0026】
なお、BHET混合物の製造は、公知の方法で行われる。例えば、テレフタル酸とその2倍モル量のエチレングリコールを撹拌機付きのバッチ式オートクレーブに仕込み、0.25MPaの加圧下に245℃にて水を系外に留去しつつエステル化反応を行うことにより製造される。
【0027】
活性パラメータAPを上記範囲内とすることにより、反応速度が速く、重縮合によりポリエステルを製造する時間が短縮される。APは1.5T以下であることがより好ましく、1.3T以下であることがさらに好ましく、1.0T以下であることが特に好ましい。
【0028】
なお「所定量の触媒」とは、触媒の活性に応じて変量して使用される触媒量を意味し、活性の高い触媒では少量であり、活性の低い触媒ではその量は多くなる。触媒の使用量は、テレフタル酸のモル数に対してアルミニウム化合物として最大0.1モル%である。これ以上多く添加するとポリエステル中の残存量が多く、実用的な触媒ではなくなる。
【0029】
本発明において、TSを測定するために使用するPETレジンチップは、上記1)〜3)の工程を経た後、溶融状態からの急冷によって作製されたものを使用する。これらの測定に用いるレジンチップの形状としては、例えば、長さ約3mm、直径約2mmのシリンダー形状のレジンチップを使用する。
【0030】
上述の触媒は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、もしくはこれらの化合物を含有していないものであることが好ましい。
【0031】
また一方で、本発明においてアルミニウムもしくはその化合物に加えて少量のアルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物から選択される少なくとも1種を第2金属含有成分として共存させることが好ましい態様である。かかる第2金属含有成分を触媒系に共存させることは、ジエチレングリコールの生成を抑制する効果に加えて触媒活性を高め、従って反応速度をより高めた触媒成分が得られ、生産性向上に有効である。
【0032】
アルミニウム化合物にアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を添加して十分な触媒活性を有する触媒とする技術は公知である。かかる公知の触媒を使用すると熱安定性に優れたポリエステルが得られるが、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を併用した公知の触媒は、実用的な触媒活性を得ようとするとそれらの添加量が多く必要であり、アルカリ金属化合物を使用したときはそれに起因する異物量が多くなり、繊維に使用したときには製糸性や糸物性が、またフィルムに使用したときはフィルム物性などが悪化する。またアルカリ土類金属化合物を併用した場合には、実用的な活性を得ようとすると得られたポリエステルの熱安定性が低下し、加熱による着色が大きく、異物の発生量も多くなる。
【0033】
アルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物を添加する場合、その使用量M(モル%)は、ポリエステルを構成する全ポリカルボン酸ユニットのモル数に対して、1×10-6以上0.1モル%未満であることが好ましく、より好ましくは5×10-6〜0.05モル%であり、さらに好ましくは1×10-5〜0.03モル%であり、特に好ましくは、1×10-5〜0.01モル%である。アルカリ金属、アルカリ土類金属の添加量が少量であるため、熱安定性低下、異物の発生、着色等の問題を発生させることなく、反応速度を高めることが可能である。アルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物の使用量Mが0.1モル%以上になると熱安定性の低下、異物発生や着色の増加が製品加工上問題となる場合が発生する。Mが1×10-6未満では、添加してもその効果が明確ではない。
【0034】
また上述の触媒は、リン化合物を共存させたものであることが好適であり、リン化合物の中でも、ホスホン酸系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を共存させたものであることが好ましい。これらの中でも芳香環構造を有する化合物を使用することが好ましい。特に下記一般式(化3)、(化4)にて表されるホスホン酸系化合物から選ばれる少なくとも1種を共存させることが、好ましい。
【0035】
【化3】
Ph−P(=O)(OR1 )(OR2 )
(式(化3)中、R1 ,R2 はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50のアルキル基、アリール基を表す。)
【化4】
Me−P(=O)(OR3 )(OR4 )
(式(化4)中、R3 ,R4 はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50のアルキル基、アリール基を表す。)
前記(化3)、(化4)にて表される化合物はアリール基を少なくとも一つ有する化合物を使用すると重合反応中に留去されにくくなるために添加効果が大きく、好ましい。アリール基を少なくとも一つ有するリン化合物は、フェニルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニルから選択される1種以上であることが好ましく、フェニルホスホン酸ジメチルの使用が特に好ましい。
【0036】
リン化合物は、一般に酸化防止剤としてはよく知られていたが、これらのリン化合物を従来の金属含有ポリエステル重合触媒と組み合わせて使用しても、溶融重合を大きく促進することは知られていない。実際に、ポリエステル重合の代表的な触媒であるアンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物あるいはゲルマニウム化合物を重合触媒としてポリエステルを溶融重合する際に、リン化合物を添加しても、実質的に有用なレベルまで重合が促進されることは認められない。
【0037】
本発明のリン化合物の使用量としては、得られるポリエステルのポリカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.0001〜0.1モル%が好ましく、0.005〜0.05モル%であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明のリン化合物を併用することにより、ポリエステル重合触媒中のアルミニウムとしての添加量が少量でも十分な触媒効果を発揮する触媒が得られる。リン化合物の添加量が0.0001モル%未満の場合には添加効果が発揮されない場合があり、0.1モル%を超えて添加すると逆にポリエステル重合触媒としての触媒活性が低下する場合があり、その低下の傾向は、アルミニウムの使用量等により変化する。
【0039】
アルミニウム化合物の使用量を低減し、さらにコバルト化合物を添加してアルミニウム化合物を触媒とした場合の熱安定性の低下による着色を防止する技術があるが、コバルト化合物を十分な触媒活性を有する程度に添加するとやはり熱安定性が低下する。従って、両者を両立することは困難である。
【0040】
本発明によれば、本発明のリン化合物の使用により、熱安定性の低下、異物発生等の問題を起こさず、しかも第1金属含有成分のアルミニウムとしての添加量が少量でも十分な触媒効果を有するポリエステル重合触媒が得られ、このポリエステル重合触媒を使用することによりポリエステルフィルム、ボトル等の中空成形品、繊維の溶融成形時の熱安定性が改善される。本発明のリン化合物に代えてリン酸やトリメチルリン酸等のリン酸エステルを添加しても添加効果が小さく、実用的ではない。また、本発明のリン化合物を本発明の添加量の範囲で従来のアンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物等の金属含有ポリエステル重合触媒と組み合わせて使用しても、溶融重合を促進する効果は認められない。なお、本発明のリン化合物を単独で本発明の添加量の範囲で使用しても触媒活性は認められない。
【0041】
【発明の実施の形態】
本発明の重縮合触媒を構成するアルミニウムないしアルミニウム化合物としては、金属アルミニウムのほか、公知のアルミニウム化合物は限定なく使用可能である。
【0042】
アルミニウム化合物としては、具体的には、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn−プロポキサイド、アルミニウムiso−プロポキサイド、アルミニウムn−ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso−プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩およびキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムおよびアルミニウムアセチルアセトネートがとくに好ましい。
【0043】
アルミニウム化合物の使用量としては、得られるポリエステルのジカルボン酸や多価カルボン酸などのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.001〜0.05モル%が好ましく、更に好ましくは0.005〜0.02モル%である。このようにアルミニウム成分の添加量が少なくても本発明の重合触媒は十分な触媒活性を示す点に大きな特徴を有する。その結果、熱安定性が優れ、TS<0.30が充足される。
【0044】
本発明においてアルミニウムもしくはその化合物に加えて使用することが好ましい第2金属含有成分を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属としては、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種であることが好ましく、アルカリ金属ないしその化合物の使用がより好ましい。アルカリ金属ないしその化合物を使用する場合、特にLi,Na,Kの使用が好ましい。アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物、水素化物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
【0045】
これらのアルカリ金属、アルカリ土類金属またはそれらの化合物のうち、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いる場合、これらはエチレングリコール等のジオールもしくはアルコール等の有機溶媒に溶解しにくい傾向があるため、水溶液で重合系に添加しなければならず重合工程上問題となる場合が有る。さらに、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いた場合、重合時にポリエステルが加水分解等の副反応を受け易くなるとともに、重合したポリエステルは着色し易くなる傾向があり、耐加水分解性も低下する傾向がある。従って、本発明のアルカリ金属またはそれらの化合物あるいはアルカリ土類金属またはそれらの化合物として好適なものは、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン塩、ハロゲン含有カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸から選ばれる無機酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、キレート化合物、および酸化物である。これらの中でもさらに、取り扱い易さや入手のし易さ等の観点から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、特に酢酸塩の使用が好ましい。
【0046】
本発明のポリエステル重合触媒には、さらに、コバルト化合物をコバルト原子としてポリエステルに対して10ppm未満の量で添加することが好ましい態様である。
【0047】
コバルト化合物はそれ自体ある程度の重合活性を有していることは知られているが、十分な触媒効果を発揮する程度に添加すると熱安定性が低下する。本発明によれば、得られるポリエステルは熱安定性が良好であるが、コバルト化合物を上記のような少量で添加による触媒効果が明確でないような添加量にて添加することにより、得られるポリエステルの着色をさらに効果的に消去できる。なお、本発明におけるコバルト化合物は、着色の消去が目的であり、添加時期は重合のどの段階であってもよく、重合反応終了後であってもかまわない。
【0048】
本発明によるポリエステルの製造は、触媒として本発明のポリエステル重合触媒を使用する点以外は従来公知の工程を備えた方法で行うことができる。例えば、PETの重合方法においては、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化後、重縮合する方法、もしくは、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応を行った後、重縮合する方法のいずれの方法でも行うことができる。また、重合の装置は、回分式であっても、連続式であってもよい。
【0049】
本発明の触媒は、重縮合反応のみならずエステル化反応およびエステル交換反応にも触媒活性を有する。例えば、テレフタル酸ジメチルなどのジカルボン酸のアルキルエステルとエチレングリコールなどのグリコールとのエステル交換反応による重合は、通常チタン化合物や亜鉛化合物などのエステル交換触媒の存在下で行われるが、これらの触媒に代えて、もしくはこれらの触媒に共存させて本発明の触媒を用いることもできる。また、本発明の触媒は、溶融重合のみならず固相重合や溶液重合においても触媒活性を有しており、いずれの方法によってもポリエステルを製造することが可能である。
【0050】
本発明の重縮合触媒は、重合反応の任意の段階で反応系に添加することができる。例えばエステル化反応もしくはエステル交換反応の開始前および反応途中の任意の段階もしくは重縮合反応の開始直前に反応系へ添加することができる。特に、アルミニウムないしその化合物は重縮合反応の開始直前に添加することが好ましい。
【0051】
本発明の重縮合触媒の添加方法は、粉末状ないしはニート状での添加であってもよいし、エチレングリコールなどの溶媒のスラリー状もしくは溶液状での添加であってもよく、特に限定されない。また、アルミニウム金属もしくはその化合物と他の成分、好ましくはリン化合物とを予め混合した混合物として添加してもよいし、これらを別々に添加してもよい。またアルミニウム金属もしくはその化合物と他の成分、好ましくはリン化合物とを同じ添加時期に重合系に添加してもよく、それぞれの成分を別々の添加時期に添加してもよい。
【0052】
本発明の重縮合触媒は、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物などの他の重縮合触媒を、これらの成分の添加が前述のようなポリエステルの特性、加工性、色調等製品に問題を生じない添加量の範囲内において共存させて用いてもよい。
【0053】
ただし、アンチモン化合物は、重合して得られるポリエステルに対してアンチモン原子として50ppm以下の量で添加可能である。より好ましい添加量は、30ppm以下である。アンチモンの添加量を50ppm以上にすると、金属アンチモンの析出が起こり、ポリエステルに黒ずみや異物が発生するため好ましくない。
【0054】
ゲルマニウム化合物は、重合して得られるポリエステルに対してゲルマニウム原子として20ppm以下の量で添加可能である。より好ましい添加量は10ppm以下である。ゲルマニウムの添加量を20ppm以上にすると、コスト的に不利になるため好ましくない。
【0055】
添加可能なアンチモン化合物としては、好適な化合物として三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイドなどが挙げられ、特に三酸化アンチモンの使用が好ましい。また、ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウムなどが挙げられ、特に二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0056】
また、チタン化合物、スズ化合物などの他の重合触媒としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネートなどが挙げられ、特にテトラブチルチタネートの使用が好ましい。またスズ化合物としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、モノブチルヒドロキシスズオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズサルファイド、ジブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸などが挙げられ、特にモノブチルヒドロキシスズオキサイドの使用が好ましい。
【0057】
本発明に言うポリエステルとは、ジカルボン酸を合む多価カルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体から適ばれる一種又は二種以上とグリコールを合む多価アルコールから選ばれる一種又は二種以上とから成るもの、又はヒドロキシカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体から成るもの、又は環状エステルから成るものをいう。
【0058】
ジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジビン酸、ビメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸又はこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0059】
上記のジカルボン酸のなかでも、特に、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸の使用が、得られるポリエステルの物理特性等の点で好ましく、必要に応じて他のジカルボン酸を構成成分とする。
【0060】
これらジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0061】
グリコールとしてはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1,12−ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノ−ル、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加されたグリコール、などに例示される芳香族グリコールが挙げられる。
【0062】
上記のグリコールのなかでも、特に、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールを主成分として使用することが好適である。
【0063】
これらグリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロ−ル、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0064】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、又はこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0065】
環状エステルとしては、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0066】
多価カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などが例示される。
【0067】
本発明で用いられるポリエステルは、主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体もしくはナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であり、主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルが好ましい。
【0068】
主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体であるポリエステルとは、全酸成分に対してテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を合計して70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。主たる酸成分がナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であるポリエステルも同様に、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を合計して70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。
【0069】
主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルとは、全グリコール成分に対してアルキレングリコールを合計して70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。ここで言うアルキレングリコールは、分子鎖中に置換基や脂環構造を含んでいてもよい。
【0070】
本発明で用いられるナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、上述のジカルボン酸類に例示した1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体が好ましい。
【0071】
本発明で用いられるアルキレングリコールとしては、上述のグリコールとして例示したエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1,12−ドデカンジオール等の使用が好適である。これらは同時に2種以上を使用してもよい。
【0072】
また、本発明のポリエステルには公知のリン系化合物を共重合成分として含むことができる。リン系化合物としては二官能性リン系化合物が好ましく、例えば(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシルエチル)フェニルホスフィン酸、9,10−ジヒドロ−10−オキサ−(2,3−カルボキシプロピル)−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイドなどが挙げられる。これらのリン系化合物を共重合成分として含むことで、得られるポリエステルの難燃性等を向上させることが可能である。
【0073】
本発明のポリエステルの構成成分として、ポリエステルを繊維として使用した場合の染色性改善のために、スルホン酸アルカリ金属塩基を有するポリカルボン酸を共重合成分とすることは好ましい態様である。
【0074】
共重合モノマーとして用いる金属スルホネート基含有化合物としては、特に限定されるものではないが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、2−リチウムスルホテレフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、又はそれらの低級アルキルエステル誘導体などが挙げられる。本発明では特に5−ナトリウムスルホイソフタル酸又はそのエステル形成性誘導体の使用が好ましい。
【0075】
金属スルホネート基含有化合物の共重合量はポリエステルを構成する酸成分に対して、0.3〜10.0モル%が好ましく、より好ましくは0.80〜5.0モル%である。共重合量が少なすぎると塩基性染料可染性に劣り、多すぎると繊維とした場合、製糸性に劣るだけでなく、増粘現象により繊維として十分な強度が得られなくなる。また、金属スルホネート基含有化合物を2.0モル%以上共重合すると、得られた改質ポリエステル繊維に常圧可染性を付与することも可能である。また適切な易染化モノマーを選択することで金属スルホネート基含有化合物の使用量を適宜減少させることは可能である。易染化モノマーとしては特に限定はしないが、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールに代表される長鎖グリコール化合物やアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0076】
本発明のポリエステル重合触媒を使用して製造するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、及びこれらの共重合体が好ましい重合体として例示でき、特に好ましい重合体は、ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体である。
【0077】
本発明の方法に従ってポリエステルを重合した後に、このポリエステルから触媒を除去するか、又はリン系化合物などの添加によって触媒を失活させることによって、ポリエステルの熱安定性をさらに高めることができる。
【0078】
本発明のポリエステル中には、有機系、無機系、および有機金属系のトナー、ならびに蛍光増白剤などを含むことができ、これらを一種もしくは二種以上含有することによって、ポリエステルの黄み等の着色をさらに優れたレベルにまで抑えることができる。また他の任意の重合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、その他の添加剤が含有されていてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が使用可能である。
【0079】
【実施例】
以下、本発明の構成と効果を実施例に基づいて説明するが、本発明は、もとよりこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
〔評価方法〕
1)固有粘度(IV)
ポリエステルをフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの6/4(重量比)混合溶媒を使用して溶解し、温度30℃にて測定した。
【0081】
2)安定性パラメータ(TS)
溶融重合したIVが約0.65dl/g(溶融試験前;[IV]i )のPETレジンチップ1gを内径14mmのガラス試験管に入れ130℃で12時間真空乾燥した後、ガラス試験管を真空ラインに接続し、減圧と窒素封入を5回以上繰り返した後に100Torrとなるように窒素を封入して封管した。この試験管を300℃の塩バスに浸漬して2時間溶融状態に維持した後、サンプルを取り出して冷凍粉砕し、真空乾燥後、IV(溶融試験後;IV]f )を測定した。このIV]f から、下記計算式を用いてTSを求めた。式は、既報(上山ら:日本ゴム協会誌嬉63巻第8号497頁1990年)から引用した。
【0082】
TS=0.245{[IV]f -1.47 −[IV]i -1.47 }
3)フィルムの熱安定性
(i)フィルムの製膜
後述する各実施例および比較例において製造した、溶融試験前のPETレジンチップを135℃で6時間真空乾燥した。その後、押出機に供給し、280℃でシート状に溶融押し出しして、表面温度20℃に保った金属ロール上で急冷固化し、厚さ1400μmのキャストフィルムを得た。
【0083】
次に、このキャストフィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。引き続いて、テンターで、120℃で幅方向に4.0倍に延伸し、フィルム幅長を固定した状態で、260℃、0.5秒間赤外線ヒーターで加熱し、さらに200℃で23秒間3%の弛緩処理をし、厚さ100μmの二軸配向PETフィルムを得た。
【0084】
(ii)回収ペレットによるフィルムの製膜
上記(i)に記載の方法で得られたPETフィルムを短冊状に裁断し、真空乾燥後、押出機に投入し、温度設定280℃で溶融樹脂を径5mmのノズルから押し出した後、水で冷却、切断することによって回収ペレットを得た。
【0085】
溶融試験前のPETレジンチップと前述の回収ペレットを50:50の重量比で混合し、135℃で6時間真空乾燥した。その後、押出機に供給し、280℃でシート状に溶融押し出しして、表面温度20℃に保った金属ロール上で急冷固化し、厚さ1400μmのキャストフィルムを得た。
【0086】
次に、このキャストフィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。続いて、テンターで、120℃で幅方向に4.0倍に延伸し、厚さ100μmの二軸配向PETフィルムを得た。
【0087】
(iii)フィルムの熱安定性評価
得られたフィルムの外観を目視で観察し、下記の基準によりランク分けを行った。
◎:着色がない
○:わずかに着色している
△;着色している
×:著しく着色している
〔ポリエステル合成例〕
(実施例1)
高純度テレフタル酸とエチレングリコールから常法に従って製造したビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物に対し、重縮合触媒としてアルミニウムアセチルアセトネートの3g/lのエチレングリコール溶液をポリエステル中の酸成分に対してアルミニウム原子として0.01mol%とフェニルホスホン酸ジメチルの10g/lエチレングリコール溶液を酸成分に対してフェニルホスホン酸ジメチルとして0.03mol%、及び酢酸リチウム二水和物50g/lのエチレングリコール溶液を酸成分に対してリチウム原子として0.03モル%を加えて、窒素雰囲気下常圧にて245℃で10分間撹拌した。次いで50分間を要して275℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて0.1Torrとしてさらに275℃、0.1Torrで重結合反応を行った。ポリエチレンテレフタレートのIVが0.65dl/gに到達するまでに要した重合時間(AP)を表1に示す。また、上記方法でIVが0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートを重合し常法に従ってチップ化した。このPETレジンチップを用いて溶融試験を行い安定性パラメー夕(TS)を求めた。溶融試験後のIVならびにTSの値を表1に示す。
【0088】
また、溶融試験前のPETレジンチップを用いてフィルムの製膜、回収ペレットの作成、ならびに回収ペレットによるフィルムの製膜を行った。フィルムの熱安定性とフィルム異物を評価した結果を表1に示す。
【0089】
本発明の触媒は触媒活性が高く、これを使用して得られたPETは、TS及びフィルム熱安定性にて評価される熱安定性が良好であった。
【0090】
(比較例1〜3)
触媒を変更した事以外は実施例1と同様の操作を行った。用いた触媒組成およびPETのIVが0.65dl/gに到達するまでに要した重合時間、溶融試験後のIVならびにTSの値を表1に示す。ただし、添加量はPET中の酸成分に対する値である。金属化合物の添加量は金属原子としての添加量である。また、溶融試験前のPETレジンチップを用いてフィルムの製膜、回収ペレットの作成、ならびに回収ペレットによるフィルムの製膜を行った。フィルムの熱安定性とフィルム異物を評価した結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
比較例1の触媒は、活性が低く、重合に長時間を要し、しかもTSは0.3を超え、フィルム熱安定性も劣るものであった。比較例2の触媒は、比較例1よりも活性は高く、短時間で重合できたが、TSが大きく、フィルム熱安定性は比較例1よりも悪いものであった。比較例3の触媒は、比較例2よりも活性は高かったが、TSが大きく、フィルム熱安定性も劣るものであった。
【0092】
(参考例1)
触媒として三酸化アンチモンを、その添加量がPET中の酸成分に対してアンチモン原子として0.05モル%となるように使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。三酸化アンチモンとしては、市販のAntimony(III)oxide(ALDRICH CHEMICAL社製、純度99.999%)を使用した。三酸化アンチモンは、濃度が約10g/lとなるようにエチレングリコールに150℃で約1時間撹拌して溶解させた溶液を使用した。
【0093】
上記した実施例および比較例から明らかなように、PETレジンチップの安定性パラメータが本発明の特許請求の範囲にあるものは、フィルムの熱安定性に優れたものになり、フィルム品位に優れるとともに、屑フィルムを再利用したものも品位に優れたものとなる。―方、本発明の特許請求の範囲外のものは、フィルムの熱安定性に劣るため、フィルム品位が劣るとともに、屑フィルムを再利用したフィルムの品位も劣るものしか得られない。
【0094】
本発明のポリエステル重合触媒及びポリエステルの製造方法は、ポリエステル重合体の製造に使用できる。本発明のポリエステルは、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用することができる。
Claims (13)
- アルミニウムのカルボン酸塩、無機酸塩、及びキレート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属含有成分と、ホスホン酸系化合物を含み、前記第1金属含有成分の使用量が、得られるポリエステルのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.001〜0.05モル%であり、前記ホスホン酸系化合物の使用量が、得られるポリエステルのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.0001〜0.1モル%であるポリエステル重合触媒であって、かつこのポリエステル重合触媒を用いて重合したポリエチレンテレフタレート(PET)の熱安定性パラメータ(TS)が下記式(1)を満たすポリエステル重合触媒を用いたポリエステルの製造方法。
(1)TS<0.30
ただし、TSは固有粘度([IV]i)が約0.65dl/gのPET1gをガラス試験管に入れ130℃で12時間真空乾燥した後、非流通窒素雰囲気下で300℃にて2時間溶融状態に維持した後の固有粘度([IV]f)から、次式により計算される数値である。
TS=0.245{[IV]f −1.47−[IV]i −1.47} - さらに、前記ポリエステル重合触媒の活性パラメータ(AP)が下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
(2)AP(min)<2T(min)
ただし、APは所定量の触媒を用いて275℃、0.1Torrの減圧度で固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートを重合するのに要する時間(min)を示し、Tは三酸化アンチモンを触媒として生成ポリエチレンテレフタレート中の酸成分に対してアンチモン原子として0.05mol%となるように添加した場合のAPである。 - 前記ポリエステル重合触媒にアルカリ金属、アルカリ土類金属またはそれらの化合物が添加されていないことを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造方法。
- 前記ポリエステル重合触媒にアルカリ金属、アルカリ土類金属またはそれらの化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属含有成分を共存させることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造方法。
- 前記第2金属含有成分が、アルカリ金属またはその化合物である請求項4に記載のポリエステルの製造方法。
- 前記アルカリ金属が、Li,Na,Kから選択される少なくとも1種である請求項5に記載のポリエステルの製造方法。
- ポリエステル構成全カルボン酸成分に対する前記第2金属含有成分の添加量M(モル%)が、式(3)を満たすものである請求項4〜6のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
(3)M≦0.05 - ポリエステル重合触媒に、さらにコバルト化合物を共存させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
- ホスホン酸系化合物が、下記一般式(化1)、(化2)で表される化合物の少なくとも1種である請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【化1】
Ph−P(=O)(OR1)(OR2)
(式(化1)中、R1,R2はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50のアルキル基、アリール基を表す。)
【化2】
Me−P(=O)(OR3)(OR4)
(式(化2)中、R3,R4はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜50のアルキル基、アリール基を表す。) - ポリエステル重合触媒に、さらにアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物の少なくとも一方を共存させることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
- 前記アンチモン化合物の添加量が、アンチモン原子としてポリエステルに対して50ppm以下の量であることを特徴とする請求項10に記載のポリエステルの製造方法。
- 前記ゲルマニウム化合物の添加量が、ゲルマニウム原子としてポリエステルに対して20ppm以下の量であることを特徴とする請求項10または11のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
- 請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法により製造されたポリエステル。
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