本発明は、磁性金属帯の微小表面欠陥の品質検査方法及び装置に関するものである。
磁性金属、特に、薄鋼板の製造プロセスにおいては、製造ライン内に設置されているロールに付着した異物、あるいはその異物がロールに噛み混んだことによってロール自体に生じた凹凸が鋼板に転写されて生じたロール性の疵が発生する場合がある。
通常このロール性欠陥は、視認可能であるため製造ラインでの発見が容易である。しかしながら、このロール性欠陥の中には凹凸が鋼板の表面粗さ(Ra=0.5〜2μm)と同じ程度であるため、そのままの状態で観察しても視認できず、製造ラインで発見することが困難であるものがある。そして、塗装され、表面が塗料に埋められ滑らかになると凹凸が明瞭に見えるようになり、外観上大きな問題となる。このような欠陥を、以下では微小凹凸表面欠陥と呼称し、この微小凹凸表面欠陥を出荷しないようにすることは、品質管理上重要となってきている。
この微小凹凸表面欠陥は。ロールに生じた凹凸が鋼板に転写されて生じ、一旦発生するとロールを交換したりプロセスを改善したりするまで連続的に発生するため、早期に発見し対策を講じることは歩留向上の点からも極めて重要である。
このような微小凹凸表面欠陥を見つけるために、製鉄プロセスの各検査ラインにおいては全てのコイルについて、操業中に鋼板の走行を一度停止し検査員が砥石がけを行った後に目視検査をしている。砥石がけを行うと、凹部に比べて凸部がより砥石にあたり反射率が高くなるので、凹凸部の差が明確になり目視で確認可能となる。これが、いわゆる砥石がけ検査と呼称している検査である。
図4に、この微小凹凸表面欠陥の断面の模式図を示す。この、微小凹凸表面欠陥の大きさは、面積としては数mm2〜1000mm2程度であるが、凹凸量は数10μm以下、小さいものでは10μm以下であり、最も小さいものにあっては1μm前後、と表面粗さと同じオーダーの非常に小さいものもある。そして、曲率半径が大きく(R≧10mm)なだらかな輪郭を持つという特徴を持つ欠陥である。
実際の砥石がけ検査では、今まで述べてきたような、砥石がけにより目視で確認可能となる微小凹凸表面欠陥だけでなく、走間(鋼板を走らせながら)の目視検査では視認出来ないような面積の小さい欠陥も、鋼板の走行を停止させた状態であわせて検査している。これらの走間の目視検査では視認出来ないような面積の小さい欠陥(φ3mm以下程度)を微小面積表面欠陥と呼び、このような微小面積表面欠陥と上述の微小凹凸表面欠陥をあわせて、微小表面欠陥と呼称することとする。
微小面積表面欠陥の例としては、CAL、CGLの調質圧延で粗さを付与するダル地が部分的に詰まってしまいうまく粗さが付与できず、一部だけ平坦な断面形状を持つ「ダルハゲ」(ダルハゲ状欠陥と呼ぶことがある)、CALなどのアニール炉内のロールに異物が付着しこれが鋼板に転写されてできる針状の断面形状を持つ「炉内押し」「砂噛み」など(針状欠陥と呼ぶことがある)がある。図13に、微小面積表面欠陥の断面の模式図を示す。図13(a)および(b)は、それぞれダルハゲ状欠陥および針状欠陥を表している。また、以下の表1に、微小表面欠陥についての分類を示す。
微小表面欠陥の検査にこれまで用いられてきた砥石がけ検査は、ラインを停止して行わなければならず、かつかなりの時間を要するので作業能率を低下させるという問題があった。
この問題を解決するために、微小凹凸表面欠陥を自動検査する装置が開発されている。微小凹凸表面欠陥検査装置の例としては、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4に開示された技術がある。なお、以下の[発明の開示]において、下記の特許文献5、非特許文献1から6を引用するので、ここにあわせて記載しておく。
特開昭58−86408号公報
特開平5−256630号公報
特開平6−58743号公報
特開2000−298102号公報
特開平8−160006号公報
日本鉄鋼協会 品質管理部会 NDI部門(技能伝承技術検討会)編 2001年2月28日 鉄鋼製品の漏洩磁束探傷法
CAMP-ISIJ Vol.10(1997)-289 薄鋼板高精度介在物検査装置の開発
日本鉄鋼協会 生産技術部門 第131回制御技術部会 千葉2CGLガウジ欠陥装置の開発 2004年6月
CAMP-ISIJ Vol.7(1994)-1270 オンライン微小非金属介在物検査装置の開発
川崎製鉄技報 31 1999 4.211-215 薄鋼板製造における内部品質のオンライン計測および検査技術
鉄鋼連盟 鋼技術政策委員会 圧延精整システム冷延調査WG 1995年7月 砥石検査レベルの疵検出シーズ技術に関する探索調査結果報告書
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、鏡面を対象とした検査技術であり、表面粗さの大きい対象に適用しようとすると、疵の凹凸による収束光・発散光が、表面粗さによる拡散光に紛れてしまうため、疵を検出することができないという問題がある。
また、特許文献2に開示されている技術は、鋼板を対象にしたものであるが、やはりステンレス鋼板等のように鏡面性の高い対象でなければ有効でない。また、照明光と垂直の向きの凹凸欠陥に対しては有効であるが、平行の向きの凹凸欠陥は十分な検出能が得られないという問題がある。
さらに、特許文献3に開示されている技術は、研磨する前の表面の粗いウエハを対象としているが、全体光量により疵の有無を判定しているため、疵による明確な信号は検出できない。よって、検出精度が低いという問題がある。
そのため、特許文献4に開示された技術が開発された。図12にこの技術の実施の形態を表す図を示す。図12で、検出ヘッド3中には、光源4が設けられ、鋼板1の表面に、可視域の波長の平行光を入射角θが90度近くの大きな角度で照射している。鋼板1の表面で反射された光は、半透明のスクリーン6上に像を結ぶ。その像をスクリーン6の背面から2次元カメラ7で撮像し、信号処理装置8で画像処理を行うことにより凹凸性疵を検出する。光源からの光の波長をλ、鋼板1への照射光の入射角をθとすると、cosθ/λを所定値以下にすることにより、入射角を鋼板表面からの反射光は鏡面反射光となるが、凹凸性疵があると、その部分が黒くスクリーン6に写るので、疵の存在を検出することができる。
特許文献4に記載の技術は、装置の検出能は非常に高いものではあるが、その一方で、入射角として90度近くの大きな角度を必要とするため装置の実操業ラインへの配置が困難になる。光学系の調整が困難になるという問題があった。
対象を微小凹凸表面欠陥と限定せず広く欠陥検出法についてみてみると、磁束を被検体に印加する検出方法については、特許文献5に開示されている、漏洩磁束探傷方法を用いて内部介在物を検出する技術がある。そして、この漏洩磁束探傷方法によっても表面形態変化に起因して発生する漏洩磁束信号(形状が変化することに起因した磁束の流れの変化や乱れによる信号)により、表面欠陥を検出することが可能であることが記載されている。
しかし、この漏洩磁束探傷の信号強度は、表面欠陥の形状変化量(凹凸量)に対応するため、自動検査の対象とできる表面欠陥の形状変化量(凹凸量)には下限があり、その下限は100μm程度であると当業者間で考えられている(非特許文献1)。つまり、形状変化量が100μm程度以下の表面欠陥を確実に検出することは困難であり、100μm程度以下の形状変化に起因して発生する信号は、他の目的(例えば、内部介在物の検出)の探傷における雑音源という程度の信号にしかならないという認識である。
一方、単純には比較できないが、内部介在物の検出の場合にも、同様に、検出信号は欠陥サイズに対応するので、検査対象の鋼板板厚方向の欠陥サイズにも下限が存在し、その下限は10μm程度であることが当業者間では考えられている(非特許文献2から5)。
更に付け加えれば、漏洩磁束探傷では、板厚が厚くなると厚み方向の探傷範囲が広がることから鋼板に起因する地合ノイズが大きくなる、鋼板の磁化に必要な磁化力が大きくなる、鋼板の表面の平坦度が悪くなりセンサと鋼板の倣いが困難になる等の理由により、板厚が厚いほど探傷が困難になる傾向がある。先の非特許文献に示した介在物計では、缶用用途向けの薄い鋼板を対象としていることを考慮すれば、本願の対象とする鋼板板厚の上限値2.3mmでは、内部介在物を検出するとしても、その検出可能な欠陥サイズの下限値は10μm(鋼板板厚方向の大きさ)に比べてはるかに大きくなることが考えられる。
また、非特許文献6には、鉄鋼連盟の鉄鋼技術政策委員会 圧延精整システム冷延調査WGが1994年9月〜1995年7月に行った砥石検査レベルの疵検出に関する探索調査の結果(砥石検査レベルの疵検出シーズ技術に関する探索調査結果報告書)が開示されているが、本発明の対象となるような微小凹凸表面欠陥の自動検出に関して、過去に取り組んだ例は、光を用いた検出方法が主であり、漏洩磁束探傷方法により取り組んだ例はみあたらない。
以上から、漏洩磁束探傷によって本発明が検出対象とする、鋼板表面を砥石掛けして、やっと目視で確認できる程度の微小凹凸表面欠陥を漏洩磁束探傷で検出しようとすることは、漏洩磁束探傷の技術者にとっては全くの想定外というものであった。
以上のように、微小凹凸表面欠陥を確実に検出できる技術が確立されていなかった。さらに、、ダルハゲ状欠陥、針状欠陥などの微小面積表面欠陥までも検査しようとすることは、引用文献4の技術では受光角が大きいためスクリーンに投射される欠陥の大きさが著しく小さくなり検出が困難となる問題や、漏洩磁束探傷などの磁気探傷法では感度が不十分という問題などもあった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面粗さの粗い被検査対象物において通常視認が困難で砥石がけ検査により検出しているような微小表面欠陥を自動検出することができる磁性金属帯の微小表面欠陥の品質検査方法及び装置を提供することを目的とする。
磁性金属帯のロール性微小表面欠陥を検査する磁性金属帯の表面検査方法であって、
前記磁性金属帯の被検体に磁束を印加し、前記被検体のロール性微小表面欠陥が発生する際に生じる内部歪に起因して発生する信号を前記被検体のロール性微小表面欠陥の凹凸形状に起因する信号に合わせた信号である、磁束印加された前記被検体からの漏洩磁束を測定することによって、直径3mm以上の円の面積を有する、凹凸方向の欠陥の大きさ0.5μm以上6μm以下の微小凹凸表面欠陥を検出するとともに、
前記被検体の表面から反射される光を受光することで、直径3mm以下の円の面積を有する、凹凸方向の欠陥の大きさ0.5μm以下ないしは6μm以上の微小面積表面欠陥を検出し、これら両者の検出結果に基いて、前記ロール性微小表面欠陥が前記微小凹凸表面欠陥か前記微小面積表面欠陥の何れかであるかを判定することを特徴とする磁性金属帯の表面検査方法である。
磁性金属帯のロール性微小表面欠陥を検査する磁性金属帯の表面検査装置であって、
前記磁性金属帯の被検体に磁束を印加し、前記被検体のロール性微小表面欠陥が発生する際に生じる内部歪に起因して発生する信号を前記被検体のロール性微小表面欠陥の凹凸形状に起因する信号に合わせた信号である、磁束印加された前記被検体からの漏洩磁束を測定することによって、直径3mm以上の円の面積を有する、凹凸方向の欠陥の大きさ0.5μm以上6μm以下の微小凹凸表面欠陥を検出する微小表面欠陥検出装置と、
前記被検体の表面から反射される光を受光することで、直径3mm以下の円の面積を有する、凹凸方向の欠陥の大きさ0.5μm以下ないしは6μm以上の微小面積表面欠陥を検出する微小面積表面欠陥検出装置と、
これら両欠陥検出装置の検出結果に基いて、前記ロール性微小表面欠陥が前記微小凹凸表面欠陥か前記微小面積表面欠陥の何れかであるかを判定する欠陥判定装置とを備えたことを特徴とする磁性金属帯の表面検査装置である。
また本発明の請求項3に係る発明は、請求項1に記載の磁性金属帯の表面検査方法において、欠陥発生原因となるロールより下流工程、かつ、アニール作用のある工程より上流工程で、前記欠陥部に存在する歪みに起因する物理量を測定することにより、前記欠陥の検出を行うことを特徴とする磁性金属帯の表面検査方法である。
さらに本発明の請求項4に係る発明は、請求項2に記載の磁性金属帯の表面検査装置において、欠陥発生原因となるロールより下流工程、かつ、調質圧延より後の工程で、
前記欠陥部に存在する歪みに起因する物理量を測定することにより、前記欠陥の検出を行うことを特徴とする磁性金属帯の表面検査装置である。
本発明は、表面粗さの粗い被検査対象物において通常視認困難で、砥石がけ検査により検出しているような自動検出が困難な微小表面欠陥を確実に検出できるようになった。
本発明者らは、まず、本発明の検査対象のひとつである、ロールによって生じる微小凹凸欠陥(ロール性微小凹凸欠陥)の検出の検討を行った。具体的には、まず、これらの複数枚の欠陥に対してX線回折測定を行い、その物理性状を解析した。その結果、これらのロール性微小凹凸欠陥は、その発生過程において、ロールより疵が転写された際に生じたと考えられる歪みが存在することを確かめた。
そこで、発明者らは、形状起因の信号のみでは十分に検出できないが、歪をあわせ検出することで、本発明の対象とするロール性微小凹凸欠陥を検出できる可能性に着目し、この欠陥発生時に生じた歪みを磁気的な手法により計測できないか、実験で確かめることとした。
そして、まず簡易な漏洩磁束探傷装置を組み、ロール性微小凹凸性欠陥を複数枚探傷を行い信号が検出されることを確かめた。その後、そのサンプルの歪みが十分除去されるように850℃で10分間のアニール(焼鈍)を施し、再度漏洩磁束探傷を行った。その結果、アニール前に検出された信号が、アニール後には大幅に信号レベルが低下することを確かめた。図2は、アニール前後での漏洩磁束探傷結果、及び形状計測結果の1例を示したものである。
図2で示した欠陥は、凹凸量5μmと微小凹凸性欠陥としては最小レベルよりはやや大きい欠陥のデータを示した。図2(a)、(b)はアニール前の状態で、図2(c)、(d)は、アニール後の状態である。また図2(a)、(c)は長手方向(通板方向)に対する形状分布であり、(b)、(d)は長手方向(通板方向)に対する漏洩磁束探傷装置での検出信号の値を示している。また、欠陥部においては、アニールの前後でX線回折測定により計測した歪量が0.00217から0.00067と大幅に減少した結果が得られた。図(b)、(d)の結果からも、アニールの前後で、欠陥部において、漏洩磁束信号も0.85Vから0.41Vと半減している。この欠陥は最小レベルよりやや大きめの欠陥であるため、漏洩磁束信号レベルが約1/2となってもまだぎりぎり検出可能なレベルではあるが、歪を除去することで大きく信号が低下することが確認できる。
また、図3は、歪みと漏洩磁束の関係を示す図である。凹凸がほぼ同程度の複数のロール性微小凹凸欠陥のX線回折測定を行い、歪みを計測し、漏洩磁束探傷結果に対してプロットしたものである。図3より歪みと漏洩磁束信号に強い相関があることがわかる。このことからも、歪みを漏洩磁束により検出していることが見てとれる。
以上のことから、発明者らは、単に粗さと同じオーダーの凹凸であるロール性微小凹凸欠陥の凹凸形状に起因する信号のみでは、欠陥を検出することは出来ないが、ロール性微小凹凸性欠陥が発生する際に生じる内部歪みの信号を凹凸に起因する信号にあわせて検出することで、磁束を用いた検出手法(ここでいう磁束を用いた検出手法とは、例えば直流漏洩磁束探傷、交流漏洩磁束探傷、渦流探傷、残留磁束測定、磁紛探傷等である。) により検出できることを発見したのである
この発見に基づき、当該微小凹凸表面欠陥の特性にあわせて各種条件を最適化し本発明に至ったのである。
ここで、漏洩磁束探傷での歪の検出原理について以下に説明する。歪により漏洩磁束信号が生じるのは、歪により被検対象物の結晶の格子間隔が変化し、それによりスピン間の相互作用に変化が生じて、その結果、磁気特性が変わることが原因と考えられる。これに対して、通常の漏洩磁束探傷では、信号レベルを向上させるため及び測定対象の磁気的特性(透磁率)のムラによるノイズの影響を除くため、飽和磁気レベルで計測することが一般的である。
しかし、通常の漏洩磁束探傷と同じように、被検体を非常に強く磁化し磁気飽和させるとスピンが同一方向にそろってしまい、歪による信号が出づらくなることが予想されるので、磁気飽和よりも低い磁化レベル(回転磁化領域)の方が歪からの信号がより強く得られ、その磁化レベルが好ましいと考えられる。このことは、鋼板に外部から力を加えて鋼板全体に歪を生じさせた状態でのB-Hカーブの測定データと、歪を加えない状態でのB-Hカーブの測定データを比べると、磁気飽和領域よりも小さい磁化レベルの領域(回転磁化領域)において大きな差が生じることに対応すると考えられる。
以上のことから、ロール性微小凹凸欠陥の計測では、歪からの信号も計測しておりその歪に起因した信号を感度良く計測するには飽和磁化よりも小さい磁化レベルの計測が有利となると考えられる。なお、ここで言っている被検体に印加する磁場の強度とは、被検体を磁化する磁化器から発生している磁場の総和ではなく、被検体の被検対象領域に直接かかっている磁場、すなわち被検体の被検対象領域でB-Hカーブを描かせたときのHに相当する量である。
また、通常、これらの漏洩磁束探傷装置は、最終ラインでの製品検査に用いられており、欠陥発生時から探傷までの間にさまざまな工程が存在する。これらの工程の中には、例えば、欠陥発生時に生じた歪みが熱により除去される、通板時の張力等の他のストレスにより歪が開放される等の現象が生じ、歪みが開放された状態となる工程があり、そのような工程では歪に起因した信号が検出できない懸念があり、検出を行う場所も検討が必要である。
図8は、冷延鋼板の製造工程例の模式図である。冷延鋼板の主な製造工程は、冷間圧延後、焼鈍(アニール)、さらに調圧を行うものである。通常、本発明の検出対象である、ロール性微小凹凸欠陥は、冷間圧延の圧延ロール、冷間圧延後のアニール工程の焼鈍炉内のロール、アニール後の調圧ロールによって生じる。
冷延鋼板の製造工程においては、通常、圧延時に生じる硬化の影響を除くため焼鈍工程等の熱工程が加えられる。この熱工程では、再結晶温度まで昇温することがある。この熱工程によって熱が加えられると、上記実験と同じように欠陥信号が弱くなってしまうことが懸念される。そのため、図8に示した「位置A」のように欠陥発生原因となるロールの直後ないしは、「位置B」のように欠陥発生原因となるロールより後かつ、歪みが開放されるレベルの熱工程(アニール作用のある工程)より前に計測する必要がある。
また、一旦熱工程によってひずみが除去された後でも、調質圧延(調圧)によって再度ひずみが付与される。ここで、欠陥部は、凹凸の影響で正常部と比較して異なる大きさのひずみが付与されることから、熱工程後であっても図8に示した「位置C」のように調圧後であれば欠陥を検出することが可能となる。
上記の発生原因となる全てのロールによって生じる欠陥を検出するには、調圧後に計測することが望ましく、さらには、欠陥発生時のフィードバック、位置トラッキングが容易であることと、製造ラインを通板する際のテンション等で歪みの状態が変化することが考えられることから、図8に示した「位置C」調質圧延直後に計測するのが最も良い。
なお、CGL(溶融亜鉛鍍金鋼板ライン)、EGL(電気亜鉛鍍金鋼板ライン)等のラインで作られる亜鉛鍍金鋼板や錫鍍金鋼板などの表面処理鋼板においても、工程にメッキ処理等の表面処理工程が加わることを除いて、調圧までの基本的な工程は同様であり、設置個所についても同様である。
特に、鍍金工程、及びそれ以降の工程において表面の鍍金層にのみ凹凸が転写され、下地の金属には影響を与えないような欠陥が生じることがあるが、これらの欠陥を検出する場合は、調圧により、下地金属に歪みを発生させてから検出する方がより良いため、特に調圧後に計測する手法が望ましい。
また、再圧延等により大きな圧下率の圧延を施すと欠陥自体が消滅することから、ロール性欠陥を検知する観点からすると、欠陥発生後で大きな圧下率の圧延前に計測することも重要となることは言うまでもない。なお、大きな圧下率の圧延により欠陥自体は消滅するが、欠陥の再発生防止の観点から、このように大きな圧下率の圧延をする場合でも欠陥を検知することは重要である。
以上のように、本発明者らは、上述した実験、考察により、形状起因の信号のみでは十分に検出できないが、歪をあわせ検出することで、微小凹凸表面欠陥を漏洩磁束探傷法で検知できることを見出し、当該微小凹凸表面欠陥の特性にあわせて各種条件を最適化し自動検出するに至った。。しかしこの手法を用いても、先に述べた微小面積表面欠陥を探傷してみると微小面積表面欠陥のうちダルハゲ状欠陥と呼ばれるタイプの欠陥は検出できないことが判明した。
そして次に、このダルハゲ状欠陥について調査を行った。ダルハゲ状欠陥は先に述べたようにロールから粗さを鋼板に付与する際に、ロールに付着した異物の影響等で、粗さが上手く付与できなかったことによって生じる欠陥で、前述した図13の断面図のように、鋼板の表面の一部だけがダル地が付与されず周辺部と粗さが違う特徴を持つ欠陥となっている。図14に、実際のダルハゲを粗さ計で計測した断面の一例を示す。この調査により、ダルハゲ状欠陥は、周辺部と粗さが違うだけで凹凸としては小さいことがわかった。また、粗さが転写されなかっただけのため、周辺部とのひずみの差もほとんど見られないとの知見に至った。
このため、漏洩磁束式の欠陥計では凹凸に起因する信号も歪に起因する信号も弱く、漏洩磁束信号は原理的に出力され難いことがわかった。しかし、ダルハゲ状欠陥の部分の、表面の粗さは、健全部の粗さに対して著しく小さくなっている(健全部に比べて鏡面状態)ので、光の反射率が大きく異なる(正反射の時に大きく、拡散反射の時に小さい)特性があることを発見した。このことより、微小面積欠陥については、微小凹凸表面欠陥を検出する漏洩磁束探傷で検出を行うのでなく、光学式の表面欠陥計を用いることが好ましいとの知見に至った。。
たとえば、光学式表面欠陥計としては、鋼板に対して幅方向(進行方向の直行方向)に線状の光を照射できる線状光源と、線状光が鋼板で反射した反射光を受光するラインセンサカメラなどの撮像装置と、その撮像装置で受光した反射光の強度信号に基づいて、欠陥判定を行う信号処理とから構成されるようなものでよい。
また、微小面積欠陥の鋼板面上における大きさがφ3mm以下であるので、少なくとも、撮像装置の検出のための、空間分解能を3mm以下とする必要がある。具体的には、検出すべき欠陥の大きさに対して、1/2以下の大きさの空間分解能に設定するのが望ましい。また、光源の投光角度、撮像装置の受光角度は、ダルハゲと健全部とのコントラストが最も強調されるように、欠陥検出の感度にあわせて適宜設定すればよい。光源と撮像装置が正反射光を受光する配置にすれば、ダルハゲは健全部に比べて明るく見え、拡散反射光を受光する配置にすれば、ダルハゲは暗く見えるようになる。なお、撮像装置の受光角度(鋼板面の法線方向に対する角度)は、大きくすると空間分解能が悪くなるので、あまり大きくしないのがよく、30度程度がよく、好ましくは15度以下、さらに好ましくは10度以下である。
また、先に述べた針状欠陥にも検討を行ったところ、この針状欠陥は面積がφ3mm以下程度で数μm〜数十μmの急峻な凹部で断面が針状の形状を持つ欠陥であるが、これらは針状の凹部の反射率が健全部の反射率に比べて異なる特性があることを発見した。よって、針状欠陥も、ダルハゲ状欠陥と同様に、光学式表面欠陥計により検出可能であるとの結論を得た。なお、、針状欠陥は、欠陥発生時に強く押し付けられることから欠陥部と周辺部にひずみの差が発生することから、漏洩磁束式の欠陥計でも検出可能であるので、針状欠陥は光学式表面欠陥計、漏洩磁束式欠陥計の少なくともどちら一方を用いればよい。
以上のことをまとめると、次のようになる。すなわち、漏洩磁束式の欠陥計と光学式の欠陥計を組み合わせることで全ての微小表面欠陥を検出可能になる。また、漏洩磁束式の欠陥計で検出し光学式の欠陥計で検出しない欠陥を微小凹凸表面欠陥、漏洩磁束式の欠陥計で検出しないが光学式の欠陥計で検出する欠陥をダルハゲ状欠陥、漏洩磁束式の欠陥計で検出し光学式の欠陥計でも検出する欠陥を針状欠陥と認識し表示することで、欠陥の分類が可能になり、欠陥の発生原因の特定が容易になる。
なお、上記でダルハゲ状欠陥という呼称で代表させた欠陥は、周辺部と粗さが異なるが凹凸の変化はなく、周辺部とひずみの差が小さい欠陥であれば必ずしもダルハゲと呼ばれる欠陥でなくとも、また発生原因が異なる欠陥であっても同様である。また、針状欠陥という呼称で代表させた欠陥も、面積は小さいが急峻な凹部を持つ欠陥で、周辺部と異なるひずみを持つ欠陥であれば、炉内押し、砂噛みと呼ばれていなくても、また発生原因が異なっていても同様である。
図1は、本発明の実施例に係る装置構成例を示す図である。図1で、1は鋼板、2は微小表面欠陥、3は直流電源、4は磁化器、5は磁気センサ、6は増幅器、7はフィルタ回路、8は漏洩磁束式欠陥判定器、9は微小表面欠陥検出装置、10は光源、11はカメラ、12は光学式欠陥判定器、13は微小面積表面欠陥検出装置、14は欠陥判定装置をそれぞれ表す。
鋼板1には、厚さ方向に数μmと粗さと同レベルのロール性微小凹凸欠陥やダルハゲ状表面欠陥、針状欠陥などの微小表面欠陥2が存在している。鋼板1には微小表面欠陥検出装置(漏洩磁束式微小表面欠陥検出装置)9及び微小面積表面欠陥検出装置(光学式微小表面欠陥検出装置)13が設けられている。微小表面欠陥検出装置(漏洩磁束式微小表面欠陥検出装置)9は、微小凹凸欠陥計や針状欠陥を検出するためのもので、以下の構成からなる。磁化器4と磁気センサ5が鋼板1の同じ側に配置されている。磁化器4には磁化電源3 からの直流電流が供給されて磁化されている。
磁化器4により両磁極間に発生された磁束は、鋼板1を通る。微小表面欠陥2が微小凹凸欠陥である場合、それが鋼板1に存在すると、微小表面欠陥2が発生する際に生じた歪みが欠陥2の周囲(近傍)にあり、それにより磁束が妨げられ、その変化を磁気センサ5により検出することが出来る。磁気センサ5の出力信号は増幅器6で信号増幅を行われ、その後、フィルタ回路7でノイズが除かれ、漏洩磁束式欠陥判定器8により一定の値以上の信号が合った個所を欠陥として判定する。
次に微小面積表面欠陥検出装置(光学式微小表面欠陥検出装置)13は、ダルハゲ状表面欠陥や針状欠陥を検出するためのもので、以下の構成からなる。光源10とカメラ11が鋼板1の同じ側に配置されている。光源10とカメラ11は鋼板に対していずれも入射角10度で正反射配置されている。光源10から鋼板に照射された光は、鋼板1の表面で反射されカメラ11に受光される。ここで、微小表面欠陥2が鋼板1に存在し、ダルハゲと呼ばれるタイプの欠陥であったり、針状の欠陥であった場合は、周辺部と反射率が異なるためカメラで撮影された画像は欠陥部と健全部でコントラストを持つ。このカメラの信号は、光学式欠陥判定器12に送られ、ある一定以上ないし以下、または、ある一定以上および以下の値を持つ時に欠陥と判定する。
漏洩磁束式欠陥判定器8および光学式欠陥判定器12で欠陥と判定された出力は、欠陥判定装置14に送られる。欠陥判定装置14では、鋼板の同じ位置からの信号を比較し、漏洩磁束式欠陥判定器8でのみ欠陥と判定された場合はロール性微小凹凸表面欠陥と、光学式欠陥判定器でのみ欠陥と判定された場合はダルハゲと、漏洩磁束式欠陥判定器と光学式欠陥判定器の双方で欠陥と判定された場合には針状欠陥と、それぞれ判定して結果表示装置(図示せず)に出力する。
微小面積表面欠陥検出装置(光学式微小表面欠陥検出装置)13では、本実施例のように光源とカメラが正反射となる配置を取れば、ダルハゲ状欠陥は健全部に対して反射率が高いため明るく、針状欠陥は健全部より反射率が小さいため暗くなる。
図14は、ダルハゲ状欠陥のサンプルを3次元形状計測装置で計測後に、本装置で探傷した例を示す図である。同様に、図15は、針状欠陥のサンプルを3次元形状計測装置で計測後に、本装置で探傷した例を示す図である。図14、図15とも、それぞれ(a)は欠陥断面形状、(b)は漏洩磁束信号、(c)は正反射画像を示す図である。
まず形状計測の結果から、ダルハゲ状欠陥と針状欠陥のそれぞれの形状が、図13で示したものと同様となっていることがわかる。次に、ダルハゲ状欠陥は漏洩磁束探傷では明確な信号指示はないが、正反射画像では欠陥が明確に確認できる。針金状欠陥では漏洩磁束探傷で信号指示が見られ、正反射画像でも欠陥が確認できることがわかる。
光源とカメラが拡散反射となる配置を取れば、ダルハゲ状欠陥は健全部に対して反射率が高いため暗く、針状欠陥は欠陥の形状により明暗の画像が異なり、欠陥の形状によっては検出困難になるものもある。このため、光源とカメラを正反射に配置した場合の方が、針状欠陥の検出には有利である。
ただし、前述したように針状欠陥は漏洩磁束探傷で検出できるため、欠陥の分類を必要としなければ拡散反射でダルハゲのみ検知する方式でもかまわない。また、正反射、拡散反射の2系統のカメラを設けてそれぞれの出力から欠陥を判定する方式でもかまわない。さらに、光源10はレーザ光源、白色光源、ストロボ光源などのいずれを用いてもよく、カメラもエリアセンサカメラ、ラインセンサカメラなどを用いてもかまわない。
本実施例では、直流信号を用いて漏洩磁束探傷を行う例を示したが、交流信号を用いてもかまわない。その場合は、同期検波回路が必要となる。また、磁化器と磁気センサを鋼板に対して同じ側に配置しているが、直流信号を用いる場合は、鋼板を挟んで対抗して配置してもかまわないし、交流信号を用いる場合でも、励磁周波数が板厚に対して十分小さい場合は、同様に鋼板を挟んで対向して配置してもかまわない。
なお、漏洩磁束式欠陥判定器9では、欠陥からの信号強度を元に欠陥の判定を行っているが、信号強度がある値以上の点の長さ、幅、面積と組み合わせて判定してもかまわないし、それらの2つ以上のものと組み合わせて判定してもかまわない。また、交流信号を用いる場合は交流信号の位相を用いて判定してもかまわない。
本発明者らは成分を変えたいくつかの鋼種について、まずB-Hカーブの測定を行った、結果を図7に示す。C%の異なる3つの鋼におけるB-Hカーブを示しており、Aは極低炭鋼(C%-0.0-0.002)、Bは低炭鋼(C%-0.03-0.06)、およびCはホーロー鋼(C% 約0.0009)を表しているが、鋼種の違いによりB-Hカーブに違いは見られなかった。また、その後それらの鋼種についてロール性微小凹凸表面欠陥の探傷を行った。以下に、その結果の代表例(極低炭の例)を示す。
図5は、強磁化条件と弱磁化条件の比較を示す図であり、強い磁化条件(48000A/m)と弱い磁化条件(8000A/m)におけるロール性微小凹凸表面欠陥の探傷例である。信号レベルが低下していることがわかる。磁場の値を変えながら同様の測定を繰り返し、磁場に対して信号レベル、ノイズレベル、S/Nをプロットしたものが図6である。
図6からわかるように、4000A/m以上、25000A/m未満で、S/Nが5以上と高くなり検出に適していると言うことがわかる。この磁場は、図7でみられるように鋼を対象とした場合に磁束密度が、飽和磁化状態での磁束密度の95%から75%に相当している。
また、図6で25000A/m以上の特に40000A/mを越えた磁場で信号レベルが増加している(ただし、その一方でノイズレベルも増加しているためS/Nはさほど増加していない)。これは、欠陥の凹凸からの信号成分が増加しているためと考えられる。欠陥の凹凸からの信号は、従来用いて来た飽和磁化レベルでの計測が望ましい。
ここで磁場が25000A/m以上となる磁束密度は、図7から飽和磁化状態の95%以上に相当する。特に、40000A/m以上は99%に相当する。
ロール性微小凹凸表面欠陥においても、小さい場合で数μmと極微小となることはあるが凹凸は存在することから、このように凹凸起因の信号も得ることができる。そこで、25000A/m未満の磁場強度による探傷で歪からの信号を検知し、25000A/m以上の磁場強度による探傷で凹凸からの信号を検知するという2条件の探傷を組み合わせることで、欠陥の検出能を向上させることができる。また、凹凸からの信号成分と歪からの信号成分を比較することで、凹凸量と歪量の比較が可能となり、例えば凹凸量が小さく歪が大きい場合は圧下率の高いロールで発生した欠陥であると推定するなど欠陥の発生原因となるロールの位置の特定が可能となる。
なお、本実施例では、磁束密度の値は、あらかじめ測定したB-Hカーブを元に、磁場の強度から求めている。なお、磁場の強度に関しては、被検体の対象位置の近傍の空間の値を測定して用いても構わない。また、本実施例では直流の漏洩磁束を用いて計測を行ったが、歪に起因する信号を検知すれば、交流の漏洩磁束法、渦流探傷法、磁紛探傷法、でもかまわない。
また、本実施例では、磁気センサとしてホール素子を使用したが、磁気を感知するものであればコイル、磁気抵抗素子、SQUIDなどを用いてもかまわない。また、磁気センサは単数で用いても複数で用いてもかまわない。複数の磁気センサを用いる場合は、非検体の走行方向と垂直かつ非検体に平行に並べて使用することで同時に広い面積の検査が可能となる。その場合、磁気センサと磁気センサのピッチは、ピッチが大きすぎると欠陥が磁気センサの間を通過する際に見逃しが生じ、逆に、ピッチが小さすぎると効率が悪くなる問題が生じる。磁気センサのピッチは、0.5mm〜3mmの間であれば検出可能であるが、0.8mm〜2mmの間が検出感度と効率の点から最も適している。
さらに、本実施例では、リフトオフを1mmとしている。これは以下のような知見によるものである。ロール性微小欠陥の中でも特に小さな欠陥には、漏洩磁束信号レベルが非常に小さいものがある。これらの欠陥を検出するためには、上述したような工夫に加えてさらにセンサと非検体の距離であるリフトオフを最適化する必要がある。
通常、鉄鋼ラインにおける砥石がけ検査で問題となるような微小凹凸表面欠陥は、前述したように粗さ数μm(Ra=0.5〜2μm程度)のなかに粗さと同程度(欠陥の凹凸量(鋼板厚み方向の形状変化量)が0.5μm以上6μm以下)の凹凸で曲率半径Rが10mm以上の欠陥である。これらは、鋼板面上でφ4mm〜30mm程度、面積にして10mm2〜1000mm2程度の大きさの欠陥であることが多い。通常、漏洩磁束探傷方法では、リフトオフは小さければ小さいほど感度が高くなり有利である。しかし、これらの凹凸量は数μmと小さいが、面積が大きい欠陥を検出するためには、リフトオフが小さすぎると欠陥のごく一部の部分からの信号のみを検知することとなり、欠陥検出の上ではセンサを複数並べる必要が生じるなど効率が悪くなる問題が生じる。
図9は、リフトオフとS/Nの関係例1を示す図である。図10は、リフトオフとS/Nの関係例2を示す図である。それぞれ、リフトオフとS/Nの関係を調べたグラフであり、図9では、本発明において主に検出対象とする凹凸が数μm程度の比較的小さくて、面積が大きい、サンプルa:長さ15mm幅4mmとサンプルb:長さ10mm幅4mmをリフトオフを変えて測定し、図10では、凹凸が数10μm程度の比較的大きくて、面積が小さい、サンプルc:長さ1mm幅2mm、とサンプルd:長さ1mm、幅2mmを測定したものである。上記の実施例では、センサとして感磁部の面積がφ0.2mm以下程度のホール素子を利用している。
図10に示す面積の小さい欠陥の場合は、従来から知られているように、リフトオフが小さい方がS/Nが高い傾向が確認されたが、これに対して、図9のように面積が大きい欠陥の場合(上記欠陥a,bの実効的な欠陥径で考えると、φ4mm以上程度)では、リフトオフが1mm前後でS/Nが最も高くなる傾向が確認された。また、リフトオフ0.5〜1.5mmでS/N=2以上なので適用可能であるが、図9の中央の一点鎖線で示したS/N=3の線は、自動検出可能なレベルを示したものであり、これからリフトオフ0.8mm〜1.2mmの範囲が自動検出可能となる好適な範囲である。なお、特にリフトオフ1mmでS/Nが良く、0.9mm〜1.1mmが最も好適な範囲であることが分る。
以下に、この現象について、図11を用いて、考察する。図11は、面積が小(上記欠陥のc、dに対応)と面積大(上記欠陥のa、bに対応)の欠陥を測定する様子を模式的に示す図である。
通常、漏洩磁束探傷では、被検体に近いほど欠陥からの漏洩磁束密度が高くなるので、リフトオフが小さいほど欠陥信号が強く検出され、リフトオフが大きいほど欠陥信号が低く検出されることが知られている。
ここで、さらに考察を進めると、センサが検出する検出領域はリフトオフが大きくなるに従い、大きくなる。
通常、検出が困難となるような欠陥は、凹凸が小さいとともに面積も小さい欠陥である。このような欠陥は、センサの検出領域に比べ、元々小さいので、リフトオフが大きくなると、センサ検出領域内に占める欠陥面積は小さくなっていく(図11(a)参照)。このとき、検出領域に含まれる信号は平均化されて検出されることになるので、欠陥信号は、周辺の正常部からの信号(地肌ノイズ信号)とで平均化されて、信号強度はより下がることになる。一方で、正常部からの信号はほとんど同じレベルであるので、欠陥信号ほどの信号強度は下がらない。
このように、面積が小さい欠陥の場合は、この欠陥信号の低下する程度が被検体に起因するノイズの低下の程度に比べて強いため、リフトオフが遠ざかるほどS/Nが減少していっていると考えられる。よって、従来検出しようとしていた面積が小さい欠陥では、リフトオフは小さい方が検出に有利であった。
一方、今回測定対象としている凹凸量は微小であるが面積の大きい欠陥(φ4mm相当以上)である。この欠陥を検出する場合においても、リフトオフが大きくなると、欠陥信号と被検体に起因するノイズ信号はともに小さくなるが、欠陥のサイズが大きいため、リフトオフを大きくしても、センサの検出領域に対して欠陥が大きい状態になっている間までは(図11(b)参照)、センサの検出領域内における欠陥の占める面積は変化しないために、正常部からの信号と平均化されないので、欠陥信号の低下はほとんど無い。
一方、ノイズ信号は、リフトオフをある程度大きくするまでは、ランダムノイズ成分が、加算平均の効果により、低下していくと考えられる。したがって、欠陥サイズとランダムノイズの加算平均との関係によって、あるリフトオフまでは、実質的にS/Nが増加していく。さらに、リフトオフを大きくすると、小さい欠陥と同様に、欠陥信号の低下が大きくなるので、S/Nは低下していくことになると考えられる。
このように、ある程度リフトオフを大きくしても、センサに影響を与えることのできる被検体の範囲よりも欠陥が大きくなるまでは、被検体に起因するノイズが低下するのに加え、欠陥信号の低下の程度がほとんどないためS/Nが増加していくことになり、最適範囲をもつことになったと考えられる。
本発明の実施例に係る装置構成例を示す図である。
アニール前後での漏洩磁束探傷結果、及び形状計測結果の1例を示した図である。
歪みと漏洩磁束との関係を示す図である。
微小凹凸表面欠陥の断面形状を示す模式図である。
強磁化条件と弱磁化条件の比較を示す図である。
磁場の強さと信号レベル、S/Nの関係を示す図である。
C%の異なる3つの鋼におけるB-Hカーブを示す図である。
冷延鋼板の製造工程例の模式図である。
リフトオフとS/Nの関係例1を示す図である。
リフトオフとS/Nの関係例2を示す図である。
小または大欠陥測定の様子を模式的に示す図である。
特許文献4に開示された技術の実施の形態を表す図である。
微小面積表面欠陥の断面形状を示す模式図である。
ダルハゲ状欠陥のサンプルを3次元形状計測装置で計測後に探傷した例を示す図である。
針状欠陥のサンプルを3次元形状計測装置で計測後に探傷した例を示す図である。
符号の説明
1 鋼板
2 微小表面欠陥
3 直流電源
4 磁化器
5 磁気センサ
6 増幅器
7 フィルタ回路
8 漏洩磁束式欠陥判定器
9 微小表面欠陥検出装置
10 光源
11 カメラ
12 光学式欠陥判定器
13 微小面積表面欠陥検出装置
14 欠陥判定装置