以下、本発明のしごき加工用装置の実施の形態の例について説明する。
図1は、本発明のしごき加工用装置の実施の形態の一例を示す、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるA−A’線での断面図である。
図1に示すしごき加工用装置1は、被加工物Wの外周が内周と接触する内筒2と、この内筒2が嵌め込まれた外筒3とからなるしごき加工用ダイス4と、しごき加工用ダイス4の内筒2内を軸方向(図中の白抜き矢印方向)に移動することで、被加工物Wにしごきを与えて被加工物Wを所定の厚みにするしごき加工用パンチ5とを備えて成るものであり、内筒2が嵌め込まれた外筒3をボルト9で固定した、内筒2の内径より小さい径の載置部6aを備えてなる支持体6でもって被加工物Wが支持されている。
しごき加工用パンチ5は、円筒状または円柱状であって被加工物Wに直接しごきを与える部位(以下、しごき部と称す。)であるしごき部7と、これを保持する、しごき部7よりも細い円柱状の保持部8とを備えている。
このしごき加工用装置1を用いるしごき加工は、円筒状の被加工物Wを載置部6aに配置した状態でしごき加工用パンチ5が軸方向に移動することで、しごき加工用ダイス4の内筒2との間で被加工物Wを所定の厚みにするものであり、例えば、精密パイプや電子管の一種である電子レンジ用のマグネトロンのアノード,エアシリンダに用いられるピストンロッド,自動車やバイクのイグニッションコイルケース,電子写真装置の感光ドラム等の円筒状の被加工物Wの肉厚を所望の厚みに薄くすることができる。
しごき加工用ダイスは、しごき加工の回数を重ねても亀裂が容易に入らないことが要求されており、本発明のしごき加工用装置に用いるしごき加工用ダイス4は、このような要求に応えられるようにしたものである。具体的には、しごき加工用ダイス4は、内筒2が窒化珪素質焼結体からなり、外筒3がJIS G 4404−2006に規定されたSKD60番台の合金工具鋼からなることが重要である。内筒2を窒化珪素質焼結体にすることで、窒化
珪素質焼結体自体は強度および剛性が高いために、しごき加工により内筒2に高い引張応力が掛かっても容易に亀裂が入らなくなるとともに、外筒3を径方向に押し広げにくくなるために、外筒3にも亀裂が入りにくくなる。
また、外筒3はJIS G 4404−2006に規定されたSKD60番台の合金工具鋼からなるので、合金工具鋼の成分である炭素の比率を高くしたり、熱処理を施したりすることで引張強度を高くすることができる。引張強度を高くした、例えば引張強度が800MPa以上の合金工具鋼を用いると、しごき加工により内筒2から外筒3に高い引張応力が掛かっても外筒3には容易に亀裂が入るようなことがなくなり、しごき加工用ダイス4の寿命は延びる。
上述した通り、窒化珪素質焼結体およびSKD60番台の合金工具鋼は、それぞれ内筒2および外筒3として必要とされる機械的特性を備えているので、これらを組み合わせることで高い相乗効果が得られ、しごき加工を重ねても、しごき加工用ダイス4には容易に亀裂が入らず、信頼性を向上させることができる。
ところで、内筒2は、高温における熱伝導率および強度が高いと、冷間だけではなく、熱間でしごき加工をすることが可能となり、延性の低い金属、例えば、高張力鋼板からなる被加工物Wにしごき加工を行なって所定の厚みにすることができる。
このような観点から、内筒2は、組成式Si6−ZAlZOZN8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロンを主相とし、Al,Si,RE(REは周期表第3族元素)の構成比率がそれぞれAl2O3,SiO2,RE2O3換算でAl2O3が5〜50質量%,SiO2が5〜20質量%,残部が主としてRE2O3であるRE−Al−Si−O−Nからなる粒界相を、主相と粒界相とからなる焼結体に対して4〜20体積%の範囲で含み、かつFeの珪化物粒子をFe換算で焼結体に対して0.02〜3質量%含む窒化珪素質焼結体から形成することが好適である。
組成式Si6−ZAlZOZN8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロンの主相はβ−Si3N4内にAl,O,N成分が固溶した結晶から構成される主相であり、固溶量zの値は窒化珪素質焼結体の熱伝導率や強度に影響を与える。固溶量zが小さい場合は、焼結性が低下するため、緻密化を促進しようとして焼成温度を上げざるを得ず、この結果、異常な粒成長が発生し、高温における強度が低下するおそれがある。一方、固溶量zが大きいと、β−Si3N4の結晶対称性が損なわれて、結晶の熱伝導性が低下するため、窒化珪素質焼結体の高温における熱伝導率が低下する。その結果、内筒2の放熱特性が低くなるため、熱間でしごき加工を継続すると、外筒3との熱膨張係数の差によって生じる残留熱応力が増加し、内筒2は増加した残留熱応力により破壊することとなる。このような観点から、固溶量zは0.1〜1とすることにより、高温における熱伝導率および強度がともに高い窒化珪素質焼結体を得ることができる。特に、固溶量zは0.35〜0.70であることがより好適である。
ここで、固溶量zは、次のようにして算出することができる。すなわち、窒化珪素質焼結体を粒度200メッシュ以下に粉砕し、得られた粉末に対して粉末X線回折法における回折角の角度補正用サンプルとして高純度α−窒化珪素粉末(宇部興産製E−10グレード、Al含有量は20ppm以下)を60質量%添加して乳鉢にて均一混合し、粉末X線回折法により解析範囲2θを33〜37°とし、走査ステップ幅を0.002°として、Cu−Kα線(λ=1.54056Å)にてプロファイル強度を測定する。角度の補正は、角度補正用サンプルより得られるピークの最大値を用いて補正する。
すなわち、2θ=34.565°付近に現れるα(102)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θと34.565°との差(Δ2θ1)、および2θ=35.333°付近に現れるα(210)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θと35.333°との差(Δ2θ2)をそれぞれ求め、その差の平均(Δ2θ1+Δ2θ2)/2を補正Δ2θとする。次に、2θ=36.055°付近に現れるβ(210)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θを補正Δ2θによって補正した角度を内筒2のβ(210)のピーク位置(2θβ)とする。そして、ピーク位置(2θβ),λ=1.54056Å,(hkl)=(210)を以下の数式に代入して格子定数a(Å)を算出する。
sin2θβ=λ2(h2+hk+k2)/(3a2)+λ2l2/(4c2)
この数式で、算出した格子定数a(Å)と、K. H. Jack,J. Mater. Sci.,11(1976)1135−1158,Fig. 13に記載された格子定数a(Å)−固溶量zのグラフとから、固溶量zを求めることができる。
そして、粒界相はRE−Al−Si−O−Nからなり、Al,Si,REの構成比率がAl2O3,SiO2,RE2O3換算でAl2O3が5〜50質量%,SiO2が5〜20質量%,残部が主としてRE2O3であり、主相と粒界相とからなる焼結体に対して4〜20体積%の範囲で含むことが好適である。なお、本発明では、Al2O3,SiO2,RE2O3およびNの総和を100質量%として粒界相の構成比率を表現する。
ここで一般的に、RE−Al−Si−Oを含む酸化物は、窒化珪素やサイアロンの緻密化を促進するものである。Al2O3,SiO2,RE2O3等の粉末原料は温度上昇に伴って反応し、1400℃以上で窒化珪素やサイアロンと濡れの良い液相を生成した後、窒化珪素やサイアロンを溶解することで、RE−Al−Si−O−Nからなる粒界相を形成する。
この粒界相におけるAlの構成比率は、窒化珪素質焼結体の熱伝導率や強度に影響を与える。Alの構成比率が低過ぎたり高過ぎたりすると、RE2O3−Al2O3−SiO2系の最低液層生成組成(以下、低融点組成という。)から外れる可能性が高くなる。このため、焼成温度を高くしなければならず、焼成温度を高くすると、β−Si3N4内にAl,O,N成分が固溶した結晶は粗大化し、高温における強度が低下する。併せて、Alの構成比率が高過ぎる場合には、固溶量zが1より大きくなりやすく、窒化珪素質焼結体の高温における熱伝導率も低下して、粒界相は浸食されやすくなる。
また、粒界相のSiの構成比率も、窒化珪素質焼結体の熱伝導率や強度に影響を与える。Siの構成比率が低いと、低融点組成から外れる可能性が高くなり、Alの場合と同様に、高温における強度が低下する。一方、Siの構成比率が高いと、低融点組成に近づくが、そのために粒界相を構成する原子同士の高温における結合力が弱くなるため、高温におけるフォノンの伝搬の低下により、高温における熱伝導率および強度がともに低下する。
このような観点から、Al,Si,RE(REは周期表第3族元素)の構成比率はそれぞれAl2O3,SiO2,RE2O3換算でAl2O3が5〜50質量%,SiO2が5〜20質量%,残部が主としてRE2O3であることが好適であり、この構成比率は焼結性の向上だけではなく、高温においても粒界相の原子間結合力を保持できるので、高温における熱伝導率および強度の改善に効果的である。
また、粒界相の焼結体に対する体積比率は、窒化珪素質焼結体の耐食性や強度に影響を与える。粒界相の体積比率が高過ぎると粒界相に被加工物Wの金属粉が固着しやすく、低過ぎると強度が低下する。粒界相の焼結体に対する体積比率は、4〜20体積%であることが好適であり、この範囲にすることで金属粉の固着が少なく、しかも強度の高い窒化珪素質焼結体を得ることができる。
このようなAl2O3,SiO2,RE2O3の構成比率および粒界相の体積比率は次のようにして求めることができる。先ず、ICP(Inductivity Coupled Plasma)分光分析法により焼結体中のREおよびAlの各比率(質量%)を測定し、この比率(質量%)をそれぞれRE2O3およびAl2O3にした場合の比率(質量%)に換算する。次に、酸素分析法によりLECO社製酸素分析装置(TC−136型)を用いて焼結体中のすべての酸素の比率を測定し、RE2O3およびAl2O3の酸素の比率を差し引き、残りの酸素の比率をSiO2の比率(質量%)に換算する。焼結体中の残部をSi3N4とみなし、各比率(質量%)をそれぞれの理論密度(Y2O3:5.02g/cm3,Er2O3:8.64g/cm3,Yb2O3:9.18g/cm3,Lu2O3:9.42g/cm3,Al2O3:3.98g/cm3,SiO2:2.65g/cm3,Si3N4:3.18g/cm3)で除して、粒界相の体積比率を算出する。
次に、エネルギー分散型X線分光分析法(EDS)を用いて粒界相に含まれる窒素(N)の比率(質量%)を算出し、Al2O3,SiO2,RE2O3および窒素(N)の各比率(質量%)の総和を100%として粒界相の構成比率を算出する。但し、本発明で用いられる窒化珪素質焼結体の粒界相に含まれる窒素の構成比率は微量であり、通常は0.1質量%以下であるので、以降ではRE2O3に含んで表記する。
なお、粒界相中のREは周期表第3族元素、例えばEr,Yb,Lu等であっても構わないが、REがYであることが好ましい。これは、Yが周期表第3族元素の中でも軽元素であるためフォノンの伝搬が良く、粒界相の熱伝導率の向上に効果的であるからである。また、熱間で被加工物Wをしごき加工するときに用いられる温度400℃における4点曲げ強度および熱伝導率は、それぞれJIS R 1604−1995およびJIS R 1611−1997に準拠して測定すればよい。
また、焼結体中のFeの珪化物粒子は、焼結体の破壊靱性,耐熱衝撃性,熱伝導率,強度に影響を与えるため、Feの珪化物粒子をFe換算で焼結体に対して0.02〜3質量%含む窒化珪素質焼結体を構成することが好適である。
Feの珪化物は、熱膨張係数が大きく、β−サイアロン粒子や粒界相に対して残留応力を発生させていると思われ、焼結体の破壊靱性を向上させる効果があり、耐熱衝撃性の向上にも有効である。また、高温における破壊の形態である粒界滑りが発生する際に、β−サイアロン粒子の滑りを妨げる楔のような働きをしており、高温における強度を向上させる効果があり、耐熱衝撃性の向上にも有効である。また、Feの珪化物は、焼成時の液相成分の一つとして作用し、焼結性の向上に効果的である。Feの珪化物粒子がFe換算で焼結体に対して0.02質量%より少ないと、焼結体の破壊靱性および高温における強度を十分高くすることができない。また、Feの珪化物は熱伝導率が低いため、Feの珪化物粒子をFe換算で焼結体に対して3質量%を超えると、焼結体の熱伝導率が低下する。なお、Feの珪化物は粉末X線回折法やX線マイクロアナライザー(EPMA)による元素分析によってその形態を確認することができる。また、ICP分光分析法により定量化することができる。
なお、Feの珪化物は、β−サイアロンの粒子間またはRE−Al−Si−O−Nからなる粒界相中に粒径が50μm以下、望ましくは粒径が2〜30μmの粒子として点在して、FeSi2,FeSi,Fe3Si,Fe5Si3の形態で存在することが好ましく、特にFeSi2(JCPDS#35−0822)であることが好ましい。それは、被加工物Wを載置部6aに配置するときに、被加工物Wはこのような窒化珪素質焼結体からなる内筒2の内周面と擦れるが、このとき、Feの珪化物は擦れることにより酸化するので体積膨張して摩耗粉となりやすいが、上記珪化物中においてFeSi2がFeの比率が最も低いため、発生する摩耗粉を最も抑えられるからである。
また、内筒2の内周面の表面性状により、内筒2の内周面に凝着する被加工物Wの金属粉の量が異なる。被加工物Wを載置部6aに配置するときに、内筒2の内周面の表面粗さが大きいと、内周面の凹凸によって被加工物Wが内周面と擦れやすくなるために、金属粉の発生量が多くなって、内筒2の内周面に凝着する金属粉の量は増加する。一方、内筒2の内周面の表面粗さが小さいと、内周面の凹凸によって被加工物Wが内周面と擦れにくくなるために、金属粉の発生量は少なくなって、内筒2の内周面に凝着する金属粉の量は減少する。
このような観点から、内筒2の内周面の算術平均高さRaは0.05μm以下であることが好適である。算術平均高さRaについては、JIS B 0601−2001に準拠して触針式の表面粗さ計を用い、例えば測定長さ,カットオフ値,触針先端半径,触針の走査速度をそれぞれ45mm,0.8mm,2μm,0.5mm/秒として求めることができる。
一方、外筒3を形成するSKD60番台の合金工具鋼としては、例えば、SKD61,SKD61(改),SKD62等が挙げられ、この中でも特に、SKD62を用いることが好適である。SKD62は、その引張強度を熱処理により1500MPa以上にすることができるため、外筒3に亀裂が入るようなことがなくなり、しごき加工用ダイス4の寿命をさらに延ばすことができるからである。
このしごき加工用ダイス4は、外筒3の肉厚が25〜40mmである場合には、外筒3を支持体6にボルト9で固定し、ボルト9として六角穴付きボルト(M12)を8〜12本円周方向に配置するとともに、各ボルト9の締め付けトルクを70N・m以上にすることが好適である。締め付けトルクをこの範囲にすると、しごき加工を重ねても載置部6aが不安定にならず、安定したしごき加工を重ねることができるからである。
支持体6については、合金工具鋼で形成されることが好ましく、特に安価であるという点からSKD11を用いることが好適である。
また、しごき加工用ダイス4の内筒2内を軸方向に移動することで、内筒2との間で被加工物Wにしごきを与えて被加工物Wを所定の厚みにするしごき加工用パンチ5は、被加工物Wを精度よく加工するために、剛性および耐摩耗性がともに高いことが求められる。このような観点から、被加工物Wにしごきを与える部位であるしごき部7は窒化珪素質焼結体からなることが好適である。
特に、しごき部7は、内筒2と同様に、組成式Si6−ZAlZOZN8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロンを主相とし、Al,Si,RE(REは周期表第3族元素)の構成比率がそれぞれAl2O3,SiO2,RE2O3換算でAl2O3が5〜50質量%,SiO2が5〜20質量%,残部が主としてRE2O3であるRE−Al−Si−O−Nからなる粒界相を、主相と粒界相とからなる焼結体に対して4〜20体積%の範囲で含み、かつFeの珪化物粒子をFe換算で焼結体に対して0.02〜3質量%含む窒化珪素質焼結体から形成することが好適である。
また、延性の低い金属、例えば、高張力鋼板からなる被加工物Wにしごき加工を与えて所定の厚みにする場合には、しごき部7は摺動特性に優れていることも要求される。
このような観点から、しごき部7は、外周面に摺動特性に優れるDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)膜が被着されていることが好適であり、DLC膜を直接しごき部7に被覆しても剥離のおそれがある場合には、より高い密着力が得られるように、しごき部7側よりTi層,Si層の順で積層した中間層を介してDLC膜を被着してもよい。
このような本発明のしごき加工用装置に用いるしごき加工用ダイス4を得るための製造方法を説明する。
先ず、JIS G 4404−2006に規定されたSKD60番台の合金工具鋼からなる外筒3を1000〜1050℃で加熱して、急冷した後、再び150〜200℃で加熱する。
このような熱処理を施すことで、合金工具鋼SKD61は引張強度を800MPa以上に、合金工具鋼SKD62は引張強度を1500MPa以上にすることができる。
なお、合金工具鋼の引張強度については、JIS Z 2201−1998に準拠して測定することができる。
窒化珪素質焼結体からなる内筒2については、以下に示すような方法で作製する。
すなわち、窒化珪素質粉末のβ化率が40%以下であって、組成式Si6−ZAlZOZN8−Zにおける固溶量zが0.5以下である窒化珪素質粉末と、添加物成分としてAl2O3,SiO2,RE2O3,Fe2O3の各粉末とを、バレルミル,回転ミル,振動ミル,ビーズミル等を用いて湿式混合し、粉砕してスラリーとする。
ここで、添加成分であるAl2O3,SiO2,RE2O3の各粉末の合計は、窒化珪素質粉末とこれら添加成分の粉末の合計との総和を100体積%としたときに、4〜20体積%になるようにすればよい。
窒化珪素には、その結晶構造の違いにより、α型およびβ型という2種類の窒化珪素が存在する。α型は低温で、β型は高温で安定であり、1400℃以上でα型からβ型への相転移が不可逆的に起こる。
ここで、β化率とは、X線回折法で得られたα(102)回折線とα(210)回折線との各ピーク強度の和をIα、β(101)回折線とβ(210)回折線との各ピーク強度の和をIβとしたときに、次の式によって算出される値である。
β化率={Iβ/(Iα+Iβ)}×100 (%)
窒化珪素質粉末のβ化率は、窒化珪素質焼結体の強度および破壊靱性値に影響する。β化率が40%以下の窒化珪素質粉末を用いるのは、強度および破壊靱性値をともに高くすることができるからである。β化率が40%を超える窒化珪素質粉末は、焼成工程で粒成長の核となって、粗大で、しかもアスペクト比の小さい結晶となりやすく、強度および破壊靱性値とも低下する。特に、β化率が10%以下の窒化珪素質粉末を用いるのが好ましく、これにより、固溶量zを0.1以上にすることができる。
また、固溶量zは、窒化珪素質焼結体の熱伝導率に影響し、固溶量zが0.5以下の粉末を用いるのは、焼結後にアスペクト比5以上の針状結晶組織が得られ、窒化珪素質焼結体の強度および熱伝導率をともに高くすることができるからである。固溶量zが0.5を超える場合は、窒化珪素質粉末が焼成工程で粒成長の核となり、焼結後の主相となるβ−サイアロンの固溶量zが1を超えやすく、熱伝導率が低下するおそれがある。
窒化珪素質粉末の粉砕で用いるメディアは、窒化珪素質,ジルコニア質,アルミナ質等の各種焼結体からなるメディアを用いることができるが、不純物が混入しにくい材質、あるいは同じ材料組成の窒化珪素質焼結体からなるメディアが好適である。
なお、窒化珪素質粉末の粉砕は、粒度分布曲線の累積体積の総和を100%としたときの累積体積が90%となる粒径(D90)が3μm以下となるまで粉砕することが、焼結性の向上および結晶組織の針状化の点から好ましい。粉砕によって得られる粒度分布は、メディアの外径,メディアの量,スラリーの粘度,粉砕時間等で調整することができる。スラリーの粘度を下げるには分散剤を添加することが好ましく、短時間で粉砕するには、予め累積体積50%となる粒径(D50)が1μm以下の粉末を用いることが好ましい。
次に、得られたスラリーを粒度200メッシュより細かいメッシュを通した後に乾燥させて顆粒を得る。また、スラリーの段階でパラフィンワックスやポリビニルアルコール(PVA),ポリエチレングリコール(PEG)等の有機バインダを粉末100質量%に対して1〜10質量%を混合することが、成形性のために好ましい。乾燥は、スプレードライヤーで乾燥させてもよく、他の方法であっても何ら問題ない。
次に、得られた顆粒を、冷間等方圧加圧法(CIP)を用いて相対密度が45〜60%の所望形状の成形体とする。成形圧力は50〜300MPaの範囲であれば、成形体の密度の向上や顆粒の潰れ性の観点より好適である。得られた成形体は、窒素雰囲気中、あるいは真空雰囲気中などで脱脂した方がよい。脱脂温度は添加した有機バインダの種類によって異なるが、900℃以下がよく、特に500〜800℃とすることが好適である。
次に、一般的な窒化珪素質成形体の焼成に用いる黒鉛抵抗発熱体を使用した焼成炉内に成形体を配置し、焼成する。焼成炉内には成形体の含有成分の揮発を抑制するためにAl2O3,SiO2,RE2O3等の成分を含んだ共材を配置してもよい。
また、成形体の配置方法として、成形体を窒化珪素質粉末中または炭化珪素質粉末中に埋設する方法を用いれば、電気炉において大気中で焼成することも可能である。このような方法を用いると、成形体をそれら粉末中に埋設したことにより大気中の酸素ガスは遮断され、実質的に焼成雰囲気は窒素雰囲気となる。温度については、室温から300〜1000℃までは真空雰囲気中にて昇温し、その後、窒素ガスを導入して、窒素分圧を50〜300kPaに維持する。このとき成形体の開気孔率は40〜55%程度であるため、成形体中には窒素ガスが十分充填される。1000〜1400℃付近では添加物成分であるAl2O3やRE2O3が固相反応を経て、液相成分を形成し、約1400℃以上の温度域で、β−サイアロンを析出し、緻密化が開始する。β−サイアロンはβ−Si3N4のSi4+位置にAl3+,N3−,O2−が置換固溶したものであり、Si3N4−AlN−Al2O3−SiO2系の多くの状態図(例えば、K. H. Jack,J. Mater. Sci.,11(1976)1135−1158,Fig. 11)にあるように、β−サイアロン相の安定領域はSi3N4−Al2O3−SiO2系に対してN3−が価数の安定には不足しており、外部からN3−の供給が必要となる。本発明者が鋭意検討した結果、成形体中に充填された窒素ガスがN3−となることを突き止めるとともに、窒素分圧を低く抑えることによってβ−サイアロンの固溶量zを低くすることが可能であることを見出した。
すなわち、開気孔率が40〜55%から5%に達するまでの段階はできるだけ窒素分圧を低く設定する必要があり、50〜300kPaとすることが重要である。窒素分圧が300kPaを超えると、β−Si3N4に対しAl3+,N3−,O2−の置換固溶が進み、固溶量zが1を超えやすくなり、熱伝導率が低下する。窒素分圧が50kPaより小さくなると、β−サイアロンの平衡窒素分圧より小さくなり、β−サイアロンの分解反応が進行して、シリコンが溶融するため、正常な窒化珪素質焼結体にならない。また、温度が1800℃を超えるとAl3+,N3−,O2−の置換固溶が進行し、固溶量zが1を超えやすくなり、熱伝導率が低下する。焼結が進行し、開気孔率が5%未満となった場合は、窒化珪素質焼結体中への窒素ガスの供給量が少なくなるため、300kPaを超える窒素分圧であっても構わないし、1800℃以上の温度で焼成しても構わない。最終的には相対密度96%以上まで緻密化を進行させることで、高温における強度および熱伝導とも高い窒化珪素質焼結体からなる内筒2を得ることができる。
なお、窒化珪素質焼結体において微細な結晶組織を得るには、焼成温度を1700℃以上1800℃未満にすればよい。また、真空雰囲気中にて昇温後、窒素分圧は150kPa以下とした方が経済的観点からも望ましい。より緻密化を促進するには、開気孔率が5%以下となった段階で200MPa以下のガス圧焼結処理または熱間等方加圧(HIP)処理を施しても構わない。この場合、開気孔率1%以下で、相対密度が97%以上、さらには99%以上まで焼結を促進させた後に、ガス圧焼結処理または熱間等方加圧(HIP)処理を施すことが好適である。
また、添加したFe2O3粉末は焼成で主相であるβ−サイアロンと反応して、酸素成分を脱離し、Feの珪化物粒子を生成する。
そして、上述した製造方法で得られた外筒3に内筒2を焼き嵌め、あるいは圧入等の各種嵌合方法で嵌め込むことにより、しごき加工用ダイス4を得ることができる。
あるいは、外筒3を内筒2に挿入し、ろう付けにより固定して、しごき加工用ダイス4を得ることもできる。
内筒2の内周面の表面粗さを小さくする場合には、外筒3に内筒2に嵌め込んだ後に、内筒2の内周面を研磨すればよい。
また、しごき加工用パンチ5については、内筒2を作製した方法と同様の方法により、しごき部7を作製し、しごき部7は保持部8に対して、ねじ止め等の方法で固定すればよい。
前述したように、本発明のしごき加工用装置1は、ともに寿命の長いしごき加工用ダイス4およびしごき加工用パンチ5を備えているので、装置としての寿命を延ばすことができる。
このようなしごき加工用装置1は、被加工物Wを所定の厚みにするだけではなく、被加工物Wが溶接されることで円筒状になっている場合に、余分に付着した溶接部分を除去することも可能であるなど、様々な用途に用いることができる。
以下、本発明の実施例について詳細を説明する。
(実施例1)
被加工物Wの外周が内周に接触する内筒2と、内筒2が焼き嵌めにより嵌め込まれた外筒3とからなるしごき加工用ダイス4を準備し、被加工物Wとして3000系アルミニウム−マンガン(Al−Mn)系合金からなる円筒体を支持体6の載置部6a上に配置した。内筒2および外筒3の各材質は表1に示す通りとし、内筒2の内径および外径をそれぞれ80mmおよび130mmとし、外筒3の内径および外径をそれぞれ130mmおよび190mmとした。
なお、窒化珪素質焼結体を用いて形成した内筒2は、いずれも組成式Si5.92Al0.08O0.08N7.92で表されるβ−サイアロンを主相とし、Al,Si,Yの構成比率がそれぞれAl2O3,SiO2,Y2O3換算でAl2O3が2質量%,SiO2が15質量%,残部が主としてY2O3であるY−Al−Si−O−Nからなる粒界相を、主相と粒界相とからなる焼結体に対して10体積%の範囲で含み、かつFeの珪化物粒子をFe換算で焼結体に対して0.8質量%含む窒化珪素質焼結体から形成されたものである。
そして、被加工物Wを載置部6aに配置した状態で、しごき部7が窒化珪素質焼結体からなるしごき加工用パンチ5を用いて、被加工物Wにしごき加工を行なった。
しごき加工の回数は、しごき加工用パンチ5が被加工物Wにしごきを与える1往復を1回とし、しごき加工用ダイス4に亀裂が観察された部材および回数をそれぞれ亀裂発生部材および亀裂発生回数として表1に示した。なお、表1中で、「>100万」は、しごき加工の回数が100万回経過後にも亀裂が確認されなかったことを示す。
表1に示す結果から分かるように、内筒2が窒化珪素質焼結体ではない試料No.5および外筒3がSKD60番台の合金工具鋼ではない試料No.4は、いずれもしごき回数が45万回以下で亀裂が観察された。これに対し、内筒2が窒化珪素質焼結体からなり、外筒3がSKD60番台の合金工具鋼からなる試料No.1〜3は、しごき回数が最も少ないものでも85万回で初めて亀裂が観察されており、いずれも寿命が長いと言える。
特に、外筒3がSKD62からなる試料No.3は、しごき回数が100万回経過後にも亀裂が観察されず、極めて寿命が長いと言える。
(実施例2)
被加工物Wの外周が内周に接触する内筒2と、内筒2が焼き嵌めにより嵌め込まれた外筒3とからなるしごき加工用ダイス4を準備し、被加工物Wとしてマグネシウム合金(AZ31)からなる円筒体を支持体6の載置部6a上に配置した。内筒2の材質は表2に示す通りとし、外筒3はいずれもSKD62で形成した。また、内筒2の内径および外径をそれぞれ80mmおよび130mmとし、外筒3の内径および外径をそれぞれ130mmおよび190mmとした。
内筒2については、以下に示す方法で作製したものを用いた。
先ず、窒化珪素質粉末(平均粒径D50=3μm,Al含有量は200ppm,酸素含有量は0.9質量%),Y2O3粉末(平均粒径D50=0.9μm),Er2O3粉末(平均粒径D50=0.9μmおよび平均粒径D50=1.5μm),Yb2O3粉末(平均粒径D50=2.3μm),Lu2O3粉末(平均粒径D50=0.6μm),Al2O3粉末(平均粒径D50=0.5μm),SiO2粉末(平均粒径D50=1.9μm)を所定量調合し、振動ミルを用いて72時間粉砕混合し、D90=1.5μmの混合粉末からなるスラリーを作製した。次に、混合粉末に対してポリビニルアルコール(PVA)を5質量%添加し、粒度400メッシュを通して異物を除去し、脱鉄器にて脱鉄した後、乾燥し、顆粒を得た。そして、この顆粒を冷間等方圧加圧法(CIP)により成形体とし、切削工程にて円筒状に加工した。そして、600℃の窒素雰囲気中でポリビニルアルコール(PVA)を除去後、黒鉛抵抗発熱体を使用した焼成炉内に配置し、窒素分圧を110kPaに維持した状態で、1750℃,15時間で焼成し、焼結体を得た。アルキメデス法にてこの焼結体の気孔率を測定した結果、気孔率はすべて2%以下となっていた。さらに、300kPaの窒素中にて1800℃,5時間で再度焼成して、相対密度が97%以上の窒化珪素質焼結体からなる内筒2を得た。
組成については、組成式Si6−ZAlZOZN8−Zで表されるβ−サイアロンを主相とし、RE−Al−Si−O−Nからなる粒界相を含む窒化珪素質焼結体で構成した。
この実施例2では、固溶量z、Al,Si,RE(REは周期表第3族元素)をAl2O3,SiO2,RE2O3換算したときの構成比率およびRE−Al−Si−O−Nからなる粒界相の焼結体に対する比率を表2に示す通りとした。
ここで、内筒2の窒化珪素質焼結体の組成式Si6−ZAlZOZN8−Zの固溶量zは、次のようにして算出した。すなわち、原料粉末を粒度200メッシュ以下に粉砕し、得られた粉末に対して粉末X線回折法における回折角の角度補正用サンプルとして高純度α−窒化珪素粉末(宇部興産製E−10グレード、Al含有量は20ppm以下)を60質量%添加して乳鉢にて均一混合し、粉末X線回折法により解析範囲2θを33〜37°とし、走査ステップ幅を0.002°として、Cu−Kα線(λ=1.54056Å)にてプロファイル強度を測定した。角度の補正は、角度補正用サンプルより得られるピークの最大値を用いて補正した。すなわち、2θ=34.565°付近に現れるα(102)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θと34.565°との差(Δ2θ1)、および2θ=35.333°付近に現れるα(210)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θと35.333°との差(Δ2θ2)をそれぞれ求め、その差の平均(Δ2θ1+Δ2θ2)/2を補正Δ2θとした。次に、2θ=36.055°付近に現れるβ(210)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θを補正Δ2θによって補正した角度を内筒2のβ(210)のピーク位置(2θβ)とした。そして、ピーク位置(2θβ),λ=1.54056Å,(hkl)=(210)を以下の数式に代入して格子定数a(Å)を算出した。
sin2θβ=λ2(h2+hk+k2)/(3a2)+λ2l2/(4c2)
この数式で、算出した格子定数a(Å)と、K. H. Jack,J. Mater. Sci.,11(1976)1135−1158,Fig. 13に記載された格子定数a(Å)−固溶量zのグラフとから、固溶量zを求め、この値を表2に示した。
また、RE2O3,Al2O3,SiO2の構成比率、粒界相の比率は次のようにして求めた。すなわち、ICP分光分析法により内筒2の窒化珪素質焼結体中のREおよびAlの各比率(質量%)を測定し、この比率(質量%)をそれぞれRE2O3およびAl2O3にした場合の比率(質量%)に換算した。次に、酸素分析法によりLECO社製酸素分析装置(TC−136型)を用いて内筒2の窒化珪素質焼結体中のすべての酸素の比率を測定し、RE2O3およびAl2O3の酸素の比率を差し引き、残りの酸素の比率をSiO2の比率(質量%)に換算した。内筒2中の残部をSi3N4とみなし、各比率(質量%)をそれぞれの理論密度(Y2O3:5.02g/cm3,Er2O3:8.64g/cm3,Yb2O3:9.18g/cm3,Lu2O3:9.42g/cm3,Al2O3:3.98g/cm3,SiO2:2.65g/cm3,Si3N4:3.18g/cm3)で除して、粒界相の体積比率を算出し、この値を表2に示した。
次に、エネルギー分散型X線分光分析法(EDS)を用いて粒界相に含まれる窒素(N)の比率(質量%)を算出し、Al2O3,SiO2および窒素(N)を含むRE2O3の各比率(質量%)の総和を100%として粒界相の構成比率を算出し、この値を表2に示した。
また、Feの珪化物は粉末X線回折法によってその形態を確認し、ICP分光分析法により定量化し、Fe換算した値を表2に示した。
そして、被加工物Wを支持体6の載置部6a上に配置した後、しごき加工用ダイス4を外部の加熱装置(不図示)により400℃に加熱保持した状態で、被加工物Wにしごき加工を行なった。
しごき加工の回数は、しごき加工用パンチ5が被加工物Wにしごきを与える1往復を1回とし、しごき加工用ダイス4に亀裂が観察された部材および回数をそれぞれ亀裂発生部材および亀裂発生回数として表2に示した。なお、表2中で、「>100万」は、しごき加工の回数が100万回経過後にも亀裂が確認されなかったことを示す。
また、400℃における4点曲げ強度および熱伝導率は、それぞれJIS R 1604−1995およびJIS R 1611−1997に準拠して別途測定し、その測定値を表2に示した。
表2に示す結果から分かるように、固容量zが0.1未満であり、Al2O3の含有量が5質量%未満であるNo.6,26,34,43およびSiO2の含有量が5質量%未満であるNo.13,31,39,48は、焼結性が低下して緻密化せず、強度が低くなった。また、Al2O3の含有量が50質量%を超えるNo.12,30,38,47は、Al2O3が多いため低融点組成から大きくはずれ、β−サイアロン結晶が粗大となり、熱伝導率が低くなった。また、SiO2の含有量が20質量%を超えるNo.16,33,42,51は、低融点組成に近づくが、そのために粒界相を構成する原子間の高温における結合力が弱くなるため、高温におけるフォノンの伝搬の低下による熱伝導率および強度が低下した。
また、No.25はFeの珪化物の含有量がFe換算で3質量%を超えているため焼結体の熱伝導率が低く(熱伝導率の高いFeの含有量が増えて熱伝導率が低くなるというのは変な感じがするので)、一方、No.20はFeの珪化物の含有量がFe換算で0.02質量%未満であったため焼結体の強度が低くなった。また、組成式Si6−ZAlZOZN8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロンを主相とし、Al,Si,RE(REは周期表第3族元素)の構成比率がそれぞれAl2O3,SiO2,RE2O3換算でAl2O3が5〜50質量%,SiO2が5〜20質量%,残部が主としてRE2O3であるRE−Al−Si−O−Nからなる粒界相が、主相と粒界相とからなる焼結体に対して20体積%を超えるNo.19は、粒界相に金属粉が多く固着して、粒界相の原子間結合力が低下したために、しごき加工の回数が51万回で亀裂が観察された。他方、粒界相が焼結体に対して5体積%未満であるNo.52は焼結体の強度が低くなった。
これらいずれの試料も、しごき加工の回数が50万回経過後も亀裂は観察されず、ある程度の寿命は認められるものの、400℃に加熱保持した状態で用いるしごき加工用ダイス4としては必ずしも十分とは言えなかった。
これに対し、組成式Si6−ZAlZOZN8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロンを主相とし、Al,Si,RE(REは周期表第3族元素)の構成比率がそれぞれAl2O3,SiO2,RE2O3換算でAl2O3が5〜50質量%,SiO2が5〜20質量%,残部が主としてRE2O3であるRE−Al−Si−O−Nからなる粒界相を、主相と粒界相とからなる焼結体に対して4〜20体積%の範囲で含み、かつFeの珪化物粒子をFe換算で焼結体に対して0.02〜3質量%含んでいる試料No.7〜11,14,15,17,18,21〜24,27〜29,32,35〜37,40,41,44〜46,49,50は、400℃における熱伝導率が10W/(m・K)以上であり、かつ400℃における4点曲げ強度が475MPa以上であって、しごき加工の回数が100万回経過後にも亀裂が観察されず、極めて寿命が長いと言える。
(実施例3)
被加工物Wの外周が内周に接触する内筒2と、内筒2が焼き嵌めにより嵌め込まれた外筒3とからなるしごき加工用ダイス4を準備し、被加工物Wとしてマグネシウム合金(AZ61)からなる円筒体を支持体6の載置部6aに配置した。内筒2および外筒3の材質は、それぞれ窒化珪素質焼結体および合金工具鋼(SKD62)とし、内筒2の内径および外径をそれぞれ80mmおよび130mmとし、外筒3の内径および外径をそれぞれ130mmおよび190mmとした。
なお、窒化珪素質焼結体を用いて形成した内筒2は、いずれも組成式Si5.92Al0.08O0.08N7.92で表されるβ−サイアロンを主相とし、Al,Si,RE(REは周期表第3族元素)の構成比率がそれぞれAl2O3,SiO2,RE2O3換算でAl2O3が2質量%,SiO2が15質量%,残部が主としてRE2O3であるRE−Al−Si−O−Nからなる粒界相を、主相と粒界相とからなる焼結体に対して10体積%の範囲で含み、かつFeの珪化物粒子をFe換算で焼結体に対して0.8質量%含む窒化珪素質焼結体で形成されたものである。
そして、被加工物Wを載置部6a上に配置して、しごき加工用ダイス4を外部の加熱装置(不図示)により400℃に加熱保持した状態で、表3に示す材質のしごき部7を備えたしごき加工用パンチ5を用いて、被加工物Wにしごき加工を行なった。
そして、しごき部7の40〜400℃における熱膨張係数を別途JIS R 1618−2002に準拠して測定し、この測定値を表3に示した。
しごき加工の回数は、しごき加工用パンチ5が被加工物Wにしごきを与える1往復を1回とし、しごき部7に亀裂が観察された回数を亀裂発生回数として表3に示した。なお、表3中で、「>100万」は、しごき加工の回数が100万回経過後にも亀裂が確認されなかったことを示す。
表3に示す結果から分かるように、酸化ジルコニウム質焼結体でしごき部7を形成した試料No.54は、しごき加工の回数が50万回経過後も亀裂は観察されず、ある程度の寿命は認められるものの、熱膨張係数が大きかったために、しごき加工を重ねると残留熱応力の増加が著しく、60万回経過後にしごき部7に亀裂が観察された。一方、窒化珪素質焼結体でしごき部7を形成した試料No.53は、熱膨張係数が小さかったために、しごき回数を重ねても残留熱応力が急激に増加せず、しごき加工の回数が100万回経過後にもしごき部7に亀裂が観察されず、好適であると言える。